特許第6182428号(P6182428)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182428
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】遊星歯車減速装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/28 20060101AFI20170807BHJP
   B23F 15/00 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   F16H1/28
   B23F15/00
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-228836(P2013-228836)
(22)【出願日】2013年11月1日
(65)【公開番号】特開2014-114952(P2014-114952A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2016年1月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-249749(P2012-249749)
(32)【優先日】2012年11月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089015
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 剛博
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】志津 慶剛
(72)【発明者】
【氏名】平沼 一則
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第00559626(EP,A1)
【文献】 特開2007−292248(JP,A)
【文献】 特開2009−222152(JP,A)
【文献】 特開昭61−031740(JP,A)
【文献】 特開2005−240924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28
B23F 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星歯車を有する遊星歯車減速機構と、該遊星歯車減速機構により減速された回転が伝達されるキャリヤと、を備える遊星歯車減速装置であって、
記キャリヤと一体化される軸部材を有し、
該軸部材は大径部と小径部とを有し、
該大径部と小径部には同一モジュールのスプラインが形成され、
前記大径部のスプラインの歯数が、前記小径部のスプラインの歯数よりも多く、
前記大径部のスプラインおよび小径部のスプラインの各々には、各々のスプラインに同軸で係合するスプラインを有する別部材が連結される
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項2】
遊星歯車減速機構を備える遊星歯車減速装置であって、
前記遊星歯車減速装置のキャリヤと一体化される軸部材を有し、
該軸部材は大径部と小径部とを有し、
該大径部と小径部には同一モジュールのスプラインが形成され、
前記大径部のスプラインの歯数が、前記小径部のスプラインの歯数よりも多く、
前記軸部材は、前記キャリヤと別部材とされ、該キャリヤにボルトによって固定される
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記大径部のスプラインにはブレーキの摩擦板が配置され、
該大径部の外径は前記キャリヤの最外径より小さくされている
ことを特徴とする遊星歯車減速装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の遊星歯車減速装置の製造方法であって、
前記軸部材をチャッキングする工程と、
同一のチャッキング状態で前記大径部と小径部とに同一工具で同一モジュールのスプラインを形成するスプライン形成工程と、を含み、
前記スプライン形成工程においては、前記小径部のスプラインよりも歯数の多いスプラインを前記大径部に形成する
ことを特徴とする遊星歯車減速装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星歯車減速装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には遊星歯車減速装置が開示されている。この遊星歯車減速装置は、太陽歯車、該太陽歯車の周りで公転しキャリヤに支持された遊星歯車、および該遊星歯車が内接噛合する内歯歯車を備える遊星歯車減速機構を有し、キャリヤと一体化される軸部材を有する。軸部材は、大径部と小径部とを有する。そして、大径部および小径部には、ブレーキ機構および出力フランジを連結するためのスプラインが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2006−527119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示される軸部材のように、径の異なる部分にスプラインを形成する場合、従来は、異なる工具で別々に加工が施されていた。このため、従来は軸部材の加工に相応の時間をかける必要があった。
【0005】
そこで、本発明は、前記問題点を解決するべくなされたもので、加工時間を短縮可能な軸部材を有する遊星歯車減速装置およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、遊星歯車を有する遊星歯車減速機構と、該遊星歯車減速機構により減速された回転が伝達されるキャリヤと、を備える遊星歯車減速装置であって、前記キャリヤと一体化される軸部材を有し、該軸部材は大径部と小径部とを有し、該大径部と小径部には同一モジュールのスプラインが形成され、前記大径部のスプラインの歯数が、前記小径部のスプラインの歯数よりも多く、前記大径部のスプラインおよび小径部のスプラインの各々には、各々のスプラインに同軸で係合するスプラインを有する別部材が連結されることにより、上記課題を解決したものである。
本発明は、また、遊星歯車減速機構を備える遊星歯車減速装置であって、前記遊星歯車減速装置のキャリヤと一体化される軸部材を有し、該軸部材は大径部と小径部とを有し、該大径部と小径部には同一モジュールのスプラインが形成され、前記大径部のスプラインの歯数が、前記小径部のスプラインの歯数よりも多く、前記軸部材は、前記キャリヤと別部材とされ、該キャリヤにボルトによって固定されることにより、同様に上記課題を解決したものである。
【0007】
即ち、本発明では、軸部材の大径部と小径部には同一モジュールのスプラインを形成している。このため、軸部材の大径部と小径部のそれぞれを同一の工具を用いて加工することができるので、工具を交換する必要がなく、加工時間が短縮される。
【0008】
なお、本発明は、前記遊星歯車減速装置の製造方法であって、前記軸部材をチャッキングする工程と、同一のチャッキング状態で前記大径部と小径部とに同一工具で同一モジュールのスプラインを形成するスプライン形成工程と、を含み、前記スプライン形成工程においては、前記小径部のスプラインよりも歯数の多いスプラインを前記大径部に形成することを特徴とする遊星歯車減速装置の製造方法と捉えることもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軸部材の加工時間が短縮可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態の一例に係る単純遊星減速装置の構成を示す断面図
図2】上記単純遊星減速装置が組み込まれた建設機械の旋回装置の駆動ユニットを示す断面図
図3】上記単純遊星減速装置の出力部材を示す図
図4】上記駆動ユニットが組み込まれたショベルカーの全体概略透視図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明の実施形態の一例に係る(1段目の)単純遊星減速装置の構成を示す断面図、図2は該単純遊星減速装置が組み込まれたショベルカー(建設機械)の旋回装置の駆動ユニットを示す断面図、図3は該単純遊星減速装置の出力部材を示す図である。また、図4は、該駆動ユニットが組み込まれたショベルカーの全体概略透視図である。
【0013】
まず、図4を参照して、駆動ユニット10が組み込まれたショベルカー100の全体概略構成から説明する。
【0014】
このショベルカー100は、下部走行体(クローラ)102の上部に運転席104を含む上部旋回体106が旋回可能に載置されている。上部旋回体106からは、ブーム108、アーム110、及びアタッチメント112が片持ち状態で据え付けられている。下部走行体(クローラ)102には、旋回内歯歯車114が固定されており、この旋回内歯歯車114に上部旋回体106側に取り付けた駆動ユニット10の後述する最終出力軸116(図4では符号略)の旋回ピニオン118が噛合することにより、上部旋回体106が旋回できるような構成とされている。
【0015】
次に、図1図2を参照して、駆動ユニット10を説明する。
【0016】
駆動ユニット10は、モータ(駆動源)12、1段目〜3段目の単純遊星減速装置(遊星歯車減速装置)14〜16を備える。以降「1段目の単純遊星減速装置14」を単に減速装置14とのみ称することがある。なお、減速装置14の出力部材44の近傍の構成については、後に詳述する。
【0017】
モータ12のモータ軸12Aは、1段目の単純遊星減速装置14の太陽歯車18と連結されている。
【0018】
減速装置14は、ケーシング20の中に、当該太陽歯車18、該太陽歯車18の周りで公転しキャリヤ32に支持された遊星歯車34、および該遊星歯車34が内接噛合する内歯歯車36を有する単純遊星減速機構(遊星歯車減速機構)38を備える。なお、この実施形態では、太陽歯車18、遊星歯車34、および内歯歯車36は、全てヘリカル歯車で構成されているが、必ずしもヘリカル歯車でなくてもよい。
【0019】
本実施形態では、ショベルカー100が水平面上に置かれたときに、減速装置14の単純遊星減速機構38の軸心O1が鉛直方向と一致するように配置される。即ち、減速装置14は、縦置きで使用される。ここで、「縦置きで使用」とは、狭義には単純遊星減速機構38の軸心O1を鉛直方向に向けた状態で使用することを意味するが、本明細書においては、「オイルの上面L1が、単純遊星減速機構38の軸心O1と交差する態様での使用」という、より広い使用態様の概念を包含しているものとする。すなわち、例えば、ショベルカー100が傾いた地面上において単純遊星減速機構38の軸心O1が傾いた態様で使用される場合等を含む。別の言い方をすれば、軸心O1(の方向)が鉛直方向に対してなす角度が45°以内であれば縦置きでの使用であると言える。
【0020】
減速装置14は、内歯歯車36がケーシング20と一体化されている(固定されている)。すなわち、太陽歯車18から動力を入力し、遊星歯車34を内歯歯車36との間で公転させ、この遊星歯車34の公転をキャリヤ32から取り出す構成とされている。
【0021】
太陽歯車18は、歯部18Aと、該歯部18Aに連続し当該太陽歯車18の軸心O1と同軸に負荷側(出力側:下側)に突出された軸部18Bと、を有している。歯部18Aおよび軸部18Bは、共に中空で、歯部18Aの内側に雌スプライン18Cが形成されている。そして、モータ軸12Aには、雄スプライン12Cが形成されている。モータ軸12Aの雄スプライン12Cは、太陽歯車18の雌スプライン18Cと係合し、太陽歯車18と連結される。太陽歯車18は、軸部18Bの外周とキャリヤ32の内周32Aとの間に配置された軸受74によって支持されている。軸受74は、外輪74A、転動体74B、及び内輪74Cを備える。
【0022】
遊星歯車34は、遊星ピン40に2列のローラ軸受42を介して支持されている。遊星ピン40は、キャリヤ32に圧入されることで該キャリヤ32と一体化されている。このため、遊星歯車34の公転は、該ローラ軸受42および遊星ピン40を介してキャリヤ32に伝えられる。なお、キャリヤ32は単純遊星減速機構38の負荷側から反負荷側(モータ12側)にまで延在されており、遊星ピン40は、(単一の)キャリヤ32に両持ち支持されている。
【0023】
キャリヤ32は、減速装置14の出力部材44と一体化されている。キャリヤ32は、出力部材44とは別部材とされ、キャリヤ32に固定されている。出力部材44は、図3に示すように、キャリヤ32と連結される円板状のフランジ部44Aと、該フランジ部44Aの径方向中央から負荷側(下側)に延在された出力軸部44Bとを有する。
【0024】
フランジ部44Aの外周には、出力部材44の回転を制動するブレーキ機構50が付設されている。ブレーキ機構50は、湿式ブレーキであり、図示せぬ油圧ポンプからの圧油が供給される油圧室52、該油圧室52に供給された圧油によって摺動するピストン54、該ピストン54に付勢力を与えるコイルばね56、および摩擦板セット58を備える。摩擦板セット58は、ケーシング20に軸方向に摺動可能かつ回転不能に組み込まれた複数の固定側摩擦板58Aと、出力部材44のフランジ部44Aに軸方向に摺動可能かつ回転不能に組み込まれた複数の回転側摩擦板(摩擦板)58Bを交互に備えている。
【0025】
ブレーキ機構50は、通常時(非運転時)は、コイルばね56の付勢力によって固定側摩擦板58Aおよび回転側摩擦板58Bが強く押圧されることによって出力部材44の回転を制動している。油圧室52に圧油が供給されると、ピストン54が上側に移動して固定側摩擦板58Aおよび回転側摩擦板58Bの圧接を解き、出力部材44を回転可能な状態に解放する。このようなブレーキ機構50は、回転動作がなされていない際に、確実に出力部材44の回転を停止させるのに用いることができる。
【0026】
単純遊星減速装置14のケーシング20は、前記内歯歯車36と一体の第1ケーシング体21、該第1ケーシング体21の上面にリング状に形成された凹部21Aに嵌合する第2ケーシング体22、第1ケーシング体21の下側に連結された第3ケーシング体23、および第3ケーシング体23のさらに下側に配置され、2段目ケーシング26(図2)との連結の橋渡しをするリング状の第4ケーシング体24とで主に構成されている。
【0027】
第1ケーシング体21は、内周に内歯歯車36の内歯36Aが形成されると共に、円周方向の複数ヶ所に前記ブレーキ機構50のコイルばね56を収容するばね孔56Aを備える。第2ケーシング体22は、前記凹部21Aに嵌合するリング形状とされ、該コイルばね56を収容するばね孔56Aの開口部を閉塞している。第3ケーシング体23の内周の一部は、前記ブレーキ機構50のピストン54のシリンダ面54Aを構成している。第3ケーシング体23は、該1段目の単純遊星減速装置14の負荷側面にまで連続しており、該負荷側面の中央に、円筒状の筒体部23Aを備えている。前記出力部材44の出力軸部44Bは、この筒体部23Aからケーシング外(2段目の単純遊星減速装置15側)に突出している。出力部材44の出力軸部44Bの外周には軸受59が配置される。そして、その軸方向外側にブッシュ60が圧入され、該ブッシュ60と筒体部23Aとの間にはオイルシール62が2個並んで配置されている。なお、単純遊星減速装置14のモータ12側の側面は、(減速装置14のカバーを兼用する)モータケーシング64のカバー体66によって閉塞されている。なお、符号68は空気抜き孔、70A〜70EはOリングである。
【0028】
なお、ケーシング20内には、オイルが太陽歯車18の軸方向ほぼ中央の位置に相当するオイルレベルL1まで封入されている。このオイルレベルL1は、太陽歯車18の歯部18Aの下端位置L2より高く、太陽歯車18の上端位置L3よりは低い位置に相当している。すなわち、前述した軸受74は、その全体がオイルに完全に浸っており、太陽歯車18、遊星歯車34、及び内歯歯車36は、その軸方向半分程度(オイルレベルL1まで)がオイルに浸っている。
【0029】
1段目の単純遊星減速装置14の後段には、公知の2段目の単純遊星減速装置15および3段目の単純遊星減速装置16が連結されている(図2参照)。
【0030】
この駆動ユニット10は、以上のような構成を有し、モータ12のモータ軸12Aの回転を、1段目〜3段目の単純遊星減速装置14〜16によって順次減速し、3段目の単純遊星減速装置16の(最終)出力軸116から減速回転を取り出している。3段目の単純遊星減速装置16の(最終)出力軸116には、前記図4の旋回ピニオン118が設けられている。旋回ピニオン118は、前記図4の(下部走行体102に固定された)旋回内歯歯車114と噛合している。
【0031】
(上部旋回体106側に取り付けた)駆動ユニット10の旋回ピニオン118を回転させると、該旋回ピニオン118が旋回内歯歯車114と噛合しながら該旋回内歯歯車114に沿って公転するため、ショベルカー100は、下部走行体102に対して上部旋回体106を旋回させることができる。
【0032】
ここで、減速装置14の出力部材44の近傍の構成について、図1図3を用いて、詳細に説明する。
【0033】
上述したように、出力部材44は、キャリヤ32とは別部材とされ、キャリヤ32に固定されている。そして、出力部材44は、図3に示すように、フランジ部(大径部)44Aと、出力軸部(小径部)44Bと、を有する。そして、フランジ部44Aと出力軸部44Bには同一モジュールのスプライン44AA、44BAが(軸方向に沿って)形成されている。フランジ部44Aは出力軸部44Bと比べて径が大きいため、(同一モジュールであるが故に)フランジ部44Aには出力軸部44Bよりもスプライン44AAを構成する歯数を多く形成でき且つフランジ部44Aでは出力軸部44Bよりも少ない力で出力部材44の回転を制動することができる。なお、フランジ部44Aの外径(スプライン44AAの先端までの長さ)D1はキャリヤ32の最外径D2よりも小さくされている。
【0034】
フランジ部44Aには、図3に示す如く、キャリヤ32との連結のためのボルト孔44ABおよびノックピン孔44ACとが設けられている。ノックピン孔44ACに対応してキャリヤ32に凹部が設けられ、キャリヤ32と出力部材44とが一体化される際にはそこにノックピン76が嵌入される。ノックピン76は、ボルト77による連結を行う際の仮止め機能を果たすと共に、キャリヤ32と出力部材44の連結に対して剪断応力を付与する。なお、符号44ADは、オイルを流動させるための貫通孔である。また、出力部材44の軸方向両端の凹部44AE、44BEは、スプライン44AA、44BAを形成する際に出力部材44を加工装置にチャッキングするために設けられたものである。
【0035】
上述したように、フランジ部44Aの外周にはブレーキ機構(ブレーキ)50が配置されている。そのブレーキ機構(ブレーキ)50の摩擦板セット58のうち、回転側摩擦板(摩擦板)58Bにはフランジ部44Aのスプライン44AAに係合するスプラインが形成されている。このため、フランジ部44Aに回転側摩擦板58Bを組み込む(配置する)ことができる。なお、ブレーキ機構(ブレーキ)50の摩擦板セット58のうち、固定側摩擦板58Aにも雄スプラインを形成しておく。そして、ケーシング20の内面にその雄スプラインに係合する軸方向に沿う雌スプラインを形成しておく。そして互いに嵌合させることでケーシング20に固定側摩擦板58Aを組み込むことができる。
【0036】
また、出力軸部44Bのスプライン44BAには、やはりスプライン44BAに係合するスプラインが設けられた2段目の太陽歯車82を組み込むことができる。そして、その2段目の太陽歯車82が2段目の遊星歯車84と噛合う構成とされている。
【0037】
なお、この実施形態では、出力部材44がキャリヤ32と別体であることを利用して、該出力部材44によって前述の軸受74の外輪74Aの軸方向の位置規制を行っている。つまり、軸受74は、組み立てる際に出力部材44とキャリヤ32との間に挟まれることで軸方向の位置規制がなされている。同時に、出力部材44とキャリヤ32とが直接接触する部分はインロー部として機能し、出力部材44の軸心とキャリヤ32の軸心とを一致させている。
【0038】
次に、この単純遊星減速装置14の製造方法について、説明する。
【0039】
まず、太陽歯車18、遊星歯車34、内歯歯車36、キャリヤ32、出力部材44、ケーシング20などの構成部材を加工・形成する。具体的に説明すると、キャリヤ32はその形状が複雑であることから、例えば鋳物加工で形成する。そして、出力部材44については、元になる円柱状部材に凹部44AE、44BEを形成し、凹部44AE、44BEで当該円柱状部材を加工装置にチャッキングする。そして、スプライン44AA、44BAのない状態のフランジ部44A、出力軸部44Bを備える中間部材を切削などにより加工形成する。そして、当該加工装置の加工工具をホブに変え(前述した加工装置とは別のホブ軸を備える加工装置に取付け直してもよい)、凹部44AE、44BEを利用して当該中間部材をホブと共に一定回転させて創生歯切り加工を行う。このとき、本実施形態では、スプライン44AA、44BAが同一モジュールであることからスプライン44AA、44BAの形成を、同一のホブで行う。即ち、中間部材に対して同一のチャッキング状態でフランジ部44Aと出力軸部44Bとに同一工具で同一モジュールのスプラインを形成する。このため、工具の交換やチャッキングの変更が必要なく出力部材44の加工を効率的に行うことが可能となる。他の構成部材についても適切な加工・形成を行う。
【0040】
次に、形成した上記構成部材の組み立てを行う。
【0041】
まずは、太陽歯車18に軸受74を組み付ける。そして、その状態の太陽歯車18と遊星歯車34とをキャリヤ32に組み込む。
【0042】
次に、軸受59を第3ケーシング体23の筒体部23Aに配置させる。そして、出力部材44の出力軸部44Bを第3ケーシング体23に取り付ける。
【0043】
次に、出力部材44のフランジ部44Aの外側と第3ケーシング体23の内側との間に摩擦板セット58を組み込む。
【0044】
次に、太陽歯車18および遊星歯車34が組み込まれたキャリヤ32と出力部材44とをボルト77で固定して一体化する。
【0045】
次に、ピストン54を第3ケーシング体23のシリンダ面54Aに沿って組み込む。そして、内歯歯車36と遊星歯車34とが噛合うように、第1ケーシング体21を第3ケーシング体23に組み合せる。そして、ボルト78で第1ケーシング体21、第3ケーシング体23、第4ケーシング体24を固定する。
【0046】
次に、コイルばね56をばね孔56Aに配置させる。そして、第2ケーシング体22を凹部21Aに配置させてボルト79で第2ケーシング体22を固定する。
【0047】
なお、駆動ユニット10を組み立てる際には、駆動ユニット10の下から、即ち、3段目の単純遊星減速装置16、2段目の単純遊星減速装置15、1段目の単純遊星減速装置14と組み立て、最後にモータ12を組み込むこととなる(そのあとにオイルが駆動ユニット10に導入される)。
【0048】
次に、この単純遊星減速装置14の作用を、特に出力部材44に関係する作用に着目して説明する。
【0049】
本実施形態においては、出力部材44がキャリヤ32と別部材とされている。このため、出力部材44はキャリヤ32の形状寸法に制限を受けることがなくなる。即ち、出力部材44とキャリヤ32が一体の場合には、スプライン44AA、44BAを形成するための工具(ホブなど)がキャリヤ32と干渉しないようにフランジ部44Aの径寸法を設計する必要がある。しかし、両者を別部材としたため、そのような制約なくフランジ部44Aの径寸法を設計でき、設計自由度を向上させることが可能となる(例えば、フランジ部と出力軸部との軸方向距離が極端に短ければその径の違いを大きくせず、フランジ部と出力軸部との軸方向距離が比較的に長ければその径の違いを大きくしてもよいし逆に小さくしてもよい)。同時に、キャリヤ32と出力部材44とにそれぞれ最適な加工手段を選択することができる。このため、キャリヤ32と出力部材44のそれぞれに対して、機能的・製造的な面から最適化を促進することが可能となる。なお、本実施形態では、特にキャリヤ32と出力部材44の材料・材質を特定していなかったが、最適化という観点で別の材料・材質をそれぞれ用いてもよい。
【0050】
また、本実施形態においては、キャリヤ32とは別部材とされた出力部材44のフランジ部44Aのスプライン44AAには回転側摩擦板58Bが配置され、フランジ部44Aの外径D1はキャリヤ32の最外径D2より小さくされている。即ち、本実施形態では、特許文献1で示すような構成(キャリヤが出力軸部まで一体的に形成されている構成なので、キャリヤの外径との関係でフランジ部の外径がキャリヤの最外径よりも大きくされている構成)に比べて、キャリヤ32の外径に影響されずに回転側摩擦板58Bを含む摩擦板セット58の外径を小さくすることができる。ここで、減速装置における発熱量は、減速装置に導入されるオイルの撹拌領域が広いと増加する傾向がある。このため、特許文献1で示すような構成に比べて、摩擦板セット58の外径を小さくしてオイルの撹拌領域を小さくできるので、発熱量を抑制することが可能となる。
【0051】
また、本実施形態においては、フランジ部44Aと出力軸部44Bには同一モジュールのスプライン44AA、44BAを形成している。このため、出力部材44のフランジ部44Aと出力軸部44Bのそれぞれを同一の工具を用いて、且つ同じ加工工程で加工することができる。即ち、工具を交換する必要がなく、出力部材44の加工時間が短縮可能となる。なお、フランジ部44Aは出力軸部44Bに比べて径が大きいので、出力軸部44Bから伝達される動力をフランジ部44Aのブレーキ機構50で確実に制動することができる。
【0052】
本発明について上記実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。即ち本発明の要旨を逸脱しない範囲においての改良並びに設計の変更が可能なことは言うまでも無い。
【0053】
例えば、上記実施形態においてはキャリヤ32と出力部材44とは別体(別部材)とされていたが、本発明はこれに限定されず、一部材とされていてもよい。なお、本発明としては、軸部材が出力を取り出すための出力部材である必要はなく、途中で動力伝達するのに用いられる部材であってもよい。
【0054】
また、上記実施形態においては、フランジ部44Aのスプライン44AAにはブレーキ機構50の回転側摩擦板58Bが配置され、フランジ部44Aの外径D1はキャリヤ32の最外径D2より小さくされていたが、本発明はこれに限定されない。逆に、フランジ部の外径をキャリヤの最外径より大きくしてもよい。その際には、1枚当たりのブレーキトルクを増加させることができ、摩擦板セットの枚数を減らすことが可能となる。そして、フランジ部のスプラインにはブレーキ機構の回転側摩擦板ではなく、出力部材の回転トルクを抑制・制御するような機構(たとえば、クラッチ機構やプーリ機構など)が配置されていてもよい。つまり、大径部、小径部のスプラインがどのような部材との連結に使用されるかは限定されない。
【0055】
また、上記実施形態においては、同一のチャッキング状態で出力部材(軸部材)44の加工を行っているが、本発明はこれに限定されず、チャッキング状態を変更して加工を行ってもよい。
【0056】
また、上記実施形態においては、遊星歯車減速装置が単純遊星歯車を有する単純遊星減速装置であったが、本発明はこれに限定されず、遊星歯車を有する減速機構を備える装置に広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の遊星歯車減速装置及びその製造方法は、遊星歯車を有する減速機構を備える装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
10…駆動ユニット
12…モータ
12A…モータ軸
14〜16…単純遊星減速装置
18、82…太陽歯車
20…ケーシング
21〜24…第1〜第4ケーシング体
32…キャリヤ
34、84…遊星歯車
36…内歯歯車
38…単純遊星減速機構
40…遊星ピン
44…出力部材
44A…フランジ部
44B…出力軸部
44AA、44BA…スプライン
50…ブレーキ機構
62…オイルシール
L1…オイルレベル
D1…フランジ部の外径
D2…キャリヤの最外径
図1
図2
図3
図4