(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トルクコンバータのクラッチ部からトランスミッションに連結される出力回転部材に至る動力伝達経路を構成する部材のいずれかに連結され、回転変動を減衰するダイナミックダンパ装置であって、
前記動力伝達経路のいずれかの部材に連結されて連結された部材と共に回転するダンパプレートと、
前記ダンパプレートと所定範囲の捩じり角度領域で相対回転自在に配置されたイナーシャ部材と、
前記ダンパプレートと前記イナーシャ部材とを回転方向に弾性的に連結するダンパ機構と、
前記イナーシャ部材と前記ダンパプレートとの軸方向間に設けられた摩擦部材と、前記摩擦部材が摺接する摺接部と、を有し、前記ダンパプレートと前記イナーシャ部材との低捩じり角度領域では低ヒステリシストルクを発生するとともに、前記低捩じり角度領域より大きい高捩じり角度領域では前記低ヒステリシストルクより大きい高ヒステリシストルクを発生するヒステリシストルク発生機構と、
を備えたダイナミックダンパ装置。
前記ダンパ機構は、前記ダンパプレートと前記イナーシャ部材との低捩じり角度領域では低剛性捩じり特性を有するとともに、前記低捩じり角度領域より大きい高捩じり角度領域では前記低剛性捩じり特性より高剛性の高剛性捩じり特性を有する、請求項1から4のいずれかに記載のダイナミックダンパ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のロックアップ装置では、出力部材が第1出力プレートと第2出力プレートとによって構成されている。そして、この第1及び第2出力プレートの間にイナーシャ部材を構成する環状のプレート部材が配置され、環状のプレート部材の外周部にイナーシャ部材本体が固定されている。第1及び第2出力プレートと環状のプレート部材とは相対回転自在であり、この相対回転の角度範囲は複数のストップピンによって規制されている。
【0009】
このような特許文献1の装置では、急加減速時等において第1及び第2出力プレートに対してイナーシャ部材が大きく振れる場合があり、このような場合にはイナーシャ部材を構成する環状のプレート部材がストップピンに衝突する。プレート部材とストップピンとが激しく衝突すると衝突時に異音が発生する。また衝突が繰り返されると、プレート部材及びストップピンの摩耗が大きくなる。
【0010】
本発明の課題は、ダイナミックダンパ装置において、イナーシャ部材が大きく触れた場合の異音の発生を抑えることにある。また、イナーシャ部材及びこのイナーシャ部材が衝突する部材の摩耗を抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面に係るダイナミックダンパ装置は、トルクコンバータのクラッチ部からトランスミッションに連結される出力回転部材に至る動力伝達経路を構成する部材のいずれかに連結され、回転変動を減衰する装置である。このダイナミックダンパ装置は、ダンパプレートと、イナーシャ部材と、ダンパ機構と、ヒステリシストルク発生機構と、を備えている。ダンパプレートは動力伝達経路のいずれかの部材に連結されて連結された部材と共に回転する。イナーシャ部材はダンパプレートと所定範囲の捩じり角度領域で相対回転自在に配置されている。ダンパ機構はダンパプレートとイナーシャ部材とを回転方向に弾性的に連結する。ヒステリシストルク発生機構は、ダンパプレートとイナーシャ部材との低捩じり角度領域では低ヒステリシストルクを発生するとともに、低捩じり角度領域より大きい高捩じり角度領域では低ヒステリシストルクより大きい高ヒステリシストルクを発生する。
【0012】
この装置では、クラッチ部がオン(動力伝達状態)の場合は、フロントカバーからの動力はクラッチ部から出力回転部材を介してタービンに伝達される。このとき、動力伝達経路を構成する部材のいずれかにダイナミックダンパ装置が連結されており、このダイナミックダンパ装置によって回転速度変動を抑えることができる。
【0013】
ダイナミックダンパの作動時において、イナーシャ部材のダンパプレートに対する捩じり角度が小さい低捩じり角度領域では、比較的小さい低ヒステリシストルクが発生する。そして、イナーシャ部材のダンパプレートに対する捩じり角度が大きくなると、より大きい高ヒステリシストルクが発生する。
【0014】
ここでは、イナーシャ部材のダンパプレートに対する捩じり角度が小さい場合のヒステリシストルクは小さいので、イナーシャ部材が小さい抵抗でスムーズに振れることになり、回転速度変動を効果的に抑えることができる。
【0015】
一方で、急な加減速時等において、イナーシャ部材の振れが大きくなると、ヒステリシストルクはより大きな高ヒステリシストルクとなる。このため、イナーシャ部材の捩じりに対する抵抗が大きくなり、イナーシャ部材の振れが停止又は抑えられる。したがって、イナーシャ部材の振れ角の大きい領域では、イナーシャ部材の移動速度が抑えられ、イナーシャ部材が振れを規制するためのストップピン等に衝突するのを防止できる。また、イナーシャ部材がストップピン等に衝突しても、衝突時の異音が抑えられ、摩耗も抑えることができる。
【0016】
本発明の別の側面に係るダイナミックダンパ装置では、低ヒステリシストルク及び高ヒステリシストルクはそれぞれ一定の大きさである。
【0017】
本発明のさらに別の側面に係るダイナミックダンパ装置では、少なくとも高ヒステリシストルクは捩じり角度が増えるにつれて大きくなる。
【0018】
本発明の別の側面に係るダイナミックダンパ装置では、イナーシャ部材は、それぞれが、ダンパプレートの軸方向両側にダンパプレートと相対回転自在に配置された1対のプレート部材を有している。また、ヒステリシストルク発生機構は、1対の摩擦部材と、摺接部と、を有している。1対の摩擦部材は1対のプレート部材の互いに対向する側面に設けられている。摺接部は、ダンパプレートの外周部に径方向外方に突出して設けられ、高捩じり角度領域において1対の摩擦部材に摺接する。
【0019】
本発明の別の側面に係るダイナミックダンパ装置では、ダンパ機構は、ダンパプレートとイナーシャ部材との低捩じり角度領域では低剛性捩じり特性を有するとともに、低捩じり角度領域より大きい高捩じり角度領域では低剛性捩じり特性より高剛性の高剛性捩じり特性を有する。
【0020】
この装置では、ダイナミックダンパの作動時において、イナーシャ部材のダンパプレートに対する捩じり角度が小さい低捩じり角度領域では、低剛性捩じり特性によってダンパ機構が作用する。そして、イナーシャ部材のダンパプレートに対する捩じり角度が大きくなると、高剛性捩じり特性によってダンパ機構が作用する。
【0021】
ここでは、イナーシャ部材のダンパプレートに対する捩じり角度が小さい場合は低剛性捩じり特性でダンパ機構が作用するので、イナーシャ部材が小さい抵抗でスムーズに振れることになり、回転速度変動を効果的に抑えることができる。
【0022】
一方で、急な加減速時等において、イナーシャ部材の振れが大きくなると、ダンパ機構の高剛性捩じり特性によって、イナーシャ部材の振れが停止又は抑えられる。したがって、イナーシャ部材の振れ角の大きい領域では、イナーシャ部材の移動速度が抑えられ、イナーシャ部材が振れを規制するためのストップピン等に衝突するのを防止できる。また、イナーシャ部材がストップピン等に衝突しても、衝突時の異音が抑えられ、摩耗も抑えることができる。
【0023】
本発明の別の側面に係るダイナミックダンパ装置では、ダンパ機構は、複数の第1弾性部材と、複数の第2弾性部材と、有する。第1弾性部材はダンパプレートとイナーシャ部材とを回転方向に弾性的に連結する。第2弾性部材は、ダンパプレートとイナーシャ部材とが相対回転した際に、複数の第1弾性部材より遅れて作動し、ダンパプレートとイナーシャ部材とを回転方向に弾性的に連結する。
【0024】
本発明の一側面に係るトルクコンバータのロックアップ装置は、エンジン側の部材に連結されるフロントカバーとトルクコンバータ本体との間に配置され、フロントカバーからのトルクをトルクコンバータ本体のタービンに直接伝達する。このロックアップ装置は、クラッチ部と、出力回転部材と、複数のロックアップ用弾性部材と、ダイナミックダンパ装置と、を備えている。クラッチ部はフロントカバーからのトルクを出力側に伝達する。出力回転部材は、クラッチ部と相対回転自在であり、タービンに連結されている。複数のロックアップ用弾性部材はクラッチ部と出力回転部材とを回転方向に弾性的に連結する。ダイナミックダンパ装置は、クラッチ部から出力回転部材に至る動力伝達経路を構成する部材のいずれかに連結されており、前述の本発明の各側面に係る装置である。
【0025】
本発明の別の側面に係るダイナミックダンパ装置は、動力伝達経路に設けられた回転変動を減衰する。このダイナミックダンパ装置は、ダンパプレートと、イナーシャ部材と、ダンパ機構と、ヒステリシストルク発生機構と、を備えている。ダンパプレートは動力伝達経路のいずれかの部材に連結されて連結された部材と共に回転する。イナーシャ部材はダンパプレートと所定範囲の捩じり角度領域で相対回転自在に配置されている。ダンパ機構はダンパプレートとイナーシャ部材とを回転方向に弾性的に連結する。ヒステリシストルク発生機構は、ダンパプレートとイナーシャ部材との低捩じり角度領域では低ヒステリシストルクを発生するとともに、低捩じり角度領域より大きい高捩じり角度領域では低ヒステリシストルクより大きい高ヒステリシストルクを発生する。
【発明の効果】
【0026】
以上のような本発明では、ダイナミックダンパ装置において、イナーシャ部材が大きく振れた場合の異音の発生を抑えることができる。また、イナーシャ部材やイナーシャ部材が衝突する部材の摩耗を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明の一実施形態によるロックアップ装置を有するトルクコンバータ1の断面部分図である。
図1の左側にはエンジン(図示せず)が配置され、図の右側にトランスミッション(図示せず)が配置されている。なお、
図1に示すO−Oがトルクコンバータ及びロックアップ装置の回転軸線である。
【0029】
[トルクコンバータ1の全体構成]
トルクコンバータ1は、エンジン側のクランクシャフト(図示せず)からトランスミッションの入力シャフトにトルクを伝達するための装置であり、入力側の部材に固定されるフロントカバー2と、3種の羽根車(インペラ3、タービン4、ステータ5)からなるトルクコンバータ本体6と、ロックアップ装置7と、から構成されている。
【0030】
フロントカバー2は、円板状の部材であり、その外周部にはトランスミッション側に突出する外周筒状部10が形成されている。インペラ3は、フロントカバー2の外周筒状部10に溶接により固定されたインペラシェル12と、その内側に固定された複数のインペラブレード13と、インペラシェル12の内周側に設けられた筒状のインペラハブ14とから構成されている。
【0031】
タービン4は流体室内でインペラ3に対向して配置されている。タービン4は、タービンシェル15と、タービンシェル15に固定された複数のタービンブレード16と、タービンシェル15の内周側に固定されたタービンハブ17と、から構成されている。タービンハブ17は外周側に延びるフランジ17aを有しており、このフランジ17aにタービンシェル15の内周部が複数のリベット18によって固定されている。また、タービンハブ17の内周部には、図示しないトランスミッションの入力シャフトがスプライン係合している。
【0032】
ステータ5は、インペラ3とタービン4の内周部間に配置され、タービン4からインペラ3へと戻る作動油を整流するための機構である。ステータ5は主に、ステータキャリア20と、その外周面に設けられた複数のステータブレード21と、から構成されている。ステータキャリア20は、ワンウエイクラッチ22を介して図示しない固定シャフトに支持されている。なお、ステータキャリア20の軸方向両側には、スラストベアリング24,25が設けられている。
【0033】
[ロックアップ装置7]
図2に、
図1のロックアップ装置7を抽出して示している。ロックアップ装置7は、フロントカバー2とタービン4との間の空間に配置されている。ロックアップ装置7は、ピストン30と、ドライブプレート31と、外周側トーションスプリング32と、フロート部材33と、中間部材34と、内周側トーションスプリング35と、ドリブンプレート36と、ダイナミックダンパ装置37と、を有している。
【0034】
<ピストン30>
ピストン30は、環状に形成され、フロントカバー2のトランスミッション側に配置されている。ピストン30の内周部には、トランスミッション側に延びる筒状部30aが形成されている。筒状部30aは、タービンハブ17の外周面に軸方向移動自在及び相対回転自在に支持されている。また、ピストン30の外周部において、フロントカバー2側の面には、環状の摩擦材38が固定されている。この摩擦材38がフロントカバー2に押し付けられることによって、フロントカバー2からピストン30にトルクが伝達される。
【0035】
なお、タービンハブ17の外周面には、エンジン側の小径部17b及びトランスミッション側の大径部17cからなる段付き部が形成されている。ピストン30は小径部17bに支持されており、大径部17cの側面によってトランスミッション側への軸方向移動が規制されている。また、小径部17bにはシール部材40が装着されており、これによりピストン30の内周面とタービンハブ17との間がシールされている。
【0036】
<ドライブプレート31>
ドライブプレート31は、ピストン30の外周側において、トランスミッション側の側面に固定されている。具体的には、ドライブプレート31は、環状に形成されており、内周部31aがピストン30のトランスミッション側の面にリベット(図示せず)により固定されている。ドライブプレート31の外周部には複数の係合部31bが形成されている。係合部31bは、外周端部がトランスミッション側に折り曲げられ、外周側トーションスプリング32の円周方向の両端に係合している。
【0037】
<外周側トーションスプリング32及びフロート部材33>
複数の外周側トーションスプリング32は、例えば、1組2個で合計6個のスプリングからなり、各組の2個の外周側トーションスプリング32が直列に作用するように、フロート部材33が設けられている。
【0038】
フロート部材33は、断面C字状で環状の部材であり、ピストン30の外周部とドライブプレート31の外周部との軸方向間に配置されている。フロート部材33は、ドライブプレート31と相対回転可能に配置されており、外周部33aが外周側トーションスプリング32の外周部を支持し、側部33bが外周側トーションスプリング32のエンジン側の側部を支持している。
【0039】
また、フロート部材33の軸方向トランスミッション側の先端部33cは、内周側でかつエンジン側に折り曲げられており、この先端部の折り曲げ部33cが1組の外周側トーションスプリング32の間に挿入されている。すなわち、折り曲げ部33cの円周方向の両端面が、対応する外周側トーションスプリング32の端面に当接している。
【0040】
フロート部材33の内周端部33dは、ドライブプレート31のピストン側の側面に当接可能である。また、フロート部材33の内周端面は、ドライブプレート31の一部に形成された支持部31cの外周面に支持されている。すなわち、フロート部材33は、ピストン30及びドライブプレート31によって軸方向の移動が規制され、ドライブプレート31の支持部31cによって径方向に位置決めされている。
【0041】
以上のように、直列に作用するように配置された1組の外周側トーションスプリング32の円周方向両端がドライブプレート31の係合部31bに係合し、1組の外周側トーションスプリング32の中間部にフロート部材33の折り曲げ部33cが挿入されている。
【0042】
<中間部材34>
図3は、
図1の中間部材34及びダイナミックダンパ装置37を抽出して示したものである。
図3に示すように、中間部材34は、第1プレート41と第2プレート42とから構成されており、ドライブプレート31及びドリブンプレート36に対して相対回転自在である。
【0043】
第1及び第2プレート41,42はピストン3とタービンシェル15との間に配置された環状かつ円板状の部材である。第1プレート41と第2プレート42とは軸方向に間隔をあけて配置されている。第1プレート41がエンジン側に配置され、第2プレート42がトランスミッション側に配置されている。
【0044】
第2プレート42の外周部には、
図4に示すように、円周方向に所定の間隔で複数の突出部42aが形成されている。複数の突出部42aは第2プレート42の外周部をさらに径方向外方に突出して形成されたものである。そして、この第2プレート42の突出部42aと第1プレート41の外周部とが、複数のリベット43によって互いに相対回転不能でかつ軸方向に移動不能に連結されている。
【0045】
また、第1プレート41及び第2プレート42には、それぞれ軸方向に貫通する窓部41b,42bが形成されている。窓部41b,42bは、円周方向に延びて形成されており、内周部と外周部には、軸方向に切り起こされた切り起こし部が形成されている。
【0046】
図3に示すように、第1プレート41の外周端部には、外周側トーションスプリング32にまで延びる複数の係止部41cが形成されている。複数の係止部41cは第1プレート41の先端を軸方向エンジン側に折り曲げて形成されたものである。この複数の係止部41cは、円周方向に所定の間隔をあけて配置されており、2つの係止部41cの間に、直列に作用する1組の外周側トーションスプリング32が配置されている。
【0047】
以上のような中間部材34によって、外周側トーションスプリング32と内周側トーションスプリング35とを直列的に作用させることが可能となる。
【0048】
<内周側トーションスプリング35>
複数の内周側トーションスプリング35のそれぞれは、
図3及び
図4に示すように、大コイルスプリング35aと、大コイルスプリング35aの内部に挿入され大コイルスプリング35aのスプリング長と同じ長さの小コイルスプリング35bと、の組合せからなる。各内周側トーションスプリング35は、中間部材34の両プレート41,42の窓部41b,42b内に配置されている。そして、各内周側トーションスプリング35は窓部41b,42bによって円周方向両端及び半径方向両側が支持されている。さらに、各内周側トーションスプリング35は窓部41b,42bの切り起こし部によって軸方向への飛び出しが規制されている。
【0049】
<ドリブンプレート36>
ドリブンプレート36は、環状かつ円板状の部材であり、内周部がタービンシェル15とともにリベット18によってタービンハブ17のフランジ17aに固定されている。このドリブンプレート36は、第1プレート41と第2プレート42との間に、両プレート41,42に対して相対回転可能に配置されている。そして、ドリブンプレート36の外周部には、第1及び第2プレート41,42の窓部41b,42bに対応して、窓孔36aが形成されている。窓孔36aは軸方向に貫通する孔であり、この窓孔36aに内周側トーションスプリング35が配置されている。
【0050】
また、ドリブンプレート36の外周部には、径方向外方に突出する複数のストッパ用突起部36b(
図4参照)が形成されている。ストッパ用突起部36bは、軸方向において、第2プレート42の突出部42a及びこの突出部42aに固定された第1プレート41の一部と同じ位置に配置されている。また、ストッパ用突起部36bは2つの突出部42aの円周方向間に配置されている。したがって、第1及び第2プレート41,42とドリブンプレート36との相対回転が大きくなった場合は、ストッパ用突起部36bと突出部42aとが当接し、両者の相対回転は規制される。
【0051】
[ダイナミックダンパ装置37]
ダイナミックダンパ装置37は、
図3及び
図4に示すように、中間部材34の第2プレート42の外周延長部であるダンパプレート部45と、1対のイナーシャリング46と、1対の蓋部材47と、ダンパ機構48と、ストップピン49と、ヒステリシストルク発生機構50と、を有している。なお、
図4はダイナミックダンパ装置34をタービン4側から視た部分図である。
【0052】
<ダンパプレート部45>
ダンパプレート部45は、前述のように、中間部材34を構成する第2プレート42の外周部をさらに径方向外方に延長して形成された部分である。
図4に示すように、ダンパプレート部45は、2つの突出部42aの円周方向間に配置されており、突出部42aよりさらに外方に延びている。このダンパプレート部45にはスプリング収納部45a(第1開口)が形成されている。スプリング収納部45aは、円周方向に延びて形成されており、軸方向に貫通している。
【0053】
なお、ダンパプレート部45は、第2プレート42の外周部をいったんタービン4側に折り曲げて形成されたインロー部45bを有している。このインロー部45bは筒状に形成されている。
【0054】
<イナーシャリング46>
1対のイナーシャリング46は、板金部材をプレス加工して形成されたものであり、ダンパプレート部45の軸方向両側に配置されている。2つのイナーシャリング46は同様の構成である。イナーシャリング46は、
図5に示すように、円周方向に所定の間隔で複数のスプリング収納部46a(第2開口)を有している。このスプリング収納部46aはダンパプレート部45のスプリング収納部45aに対応する位置に形成されている。また、イナーシャリング46は複数の貫通孔46bを有している。複数の貫通孔46bは、ストップピン49が装着される孔であり、複数のダンパプレート部45の円周方向間に形成されている。さらに、イナーシャリング46の内周縁には、組み付け時に第2プレート42の各突出部42aとの干渉を避けるために、外周側に凹む切欠き46cが形成されている。
【0055】
1対の蓋部材47は1対のイナーシャリング46の軸方向外側に配置されている。具体的には、一方の蓋部材47はフロントカバー2側に配置されたイナーシャリング46のさらにフロントカバー2側に配置され、他方の蓋部材47はタービン4側に配置されたイナーシャリング46のさらにタービン4側に配置されている。
【0056】
<蓋部材47>
蓋部材47は、
図4に示すように、環状に形成され、外径はイナーシャシリング46の外径と同寸法であり、内径は第2プレート42の突出部42aの外径よりも大きい寸法である。そして、蓋部材47には、イナーシャリング46の貫通孔46bに対応する位置に貫通孔47bが形成されている。
【0057】
<ダンパ機構48>
ダンパ機構48は、
図4に示すように、複数のスプリング収納部45aのそれぞれに収納された大小のコイルスプリング48a,48bから構成されている。大コイルスプリング48aはスプリング収納部45aの円周方向長さとほぼ同じ長さを有している。したがって、大コイルスプリング48aの両端部はダンパプレート部45及びイナーシャリング46のスプリング収納部45a,46aの円周方向端部に当接している。また、小コイルスプリング48bは、大コイルスプリング48aの内周部に配置され、大コイルスプリング48aの長さにより短く設定されている。このため、小コイルスプリング48bは大コイルスプリング48aの作動より遅れて作動する。
【0058】
<ストップピン49>
ストップピン49はイナーシャリング46及び蓋部材47の貫通孔46b,47bに装着されている。すなわち、ストップピン49は複数のダンパプレート部45の円周方向間に配置されている。ストップピン49は、
図6に示すように、軸方向の中央部に大径胴部49aを有し、その両側に小径胴部49bを有している。大径胴部49aは、イナーシャリング46の貫通孔46bより大径である。また、大径胴部49aの厚みは、ダンパプレート部45の厚みより若干厚く形成されている。
【0059】
小径胴部49bはイナーシャリング46の貫通孔46b及び蓋部材47の貫通孔47bを挿通している。そして、小径胴部49bの頭部をかしめることによって、ダンパプレート部45の軸方向両側にイナーシャリング46及び蓋部材47が固定されている。
【0060】
以上のような構成により、ダンパプレート部45とイナーシャリング46及び蓋部材47とは、隣接するダンパプレート部45の間でストップピン49が移動し得る範囲で相対回転が可能である。そして、ストップピン49の大径胴部49aがダンパプレート部45の円周方向端面に当接することによって、両者の相対回転が規制される。
【0061】
また、イナーシャリング46及び蓋部材47がストップピン49によって固定された状態で、イナーシャリング46の内周面がダンパプレート部45のインロー部45bの外周面に当接し、これによりイナーシャリング46,蓋部材47及び大小コイルスプリング48a,48bが径方向に位置決めされている。
【0062】
<ヒステリシストルク発生機構50>
ダンパプレート部45とイナーシャリング46とが相対回転する際には、各摺動部に機械的摩擦が発生する。各摺動部の機械的摩擦はダンパプレート部45がイナーシャリング46に対して回転する際の抵抗となり、この抵抗が比較的小さい低ヒステリシストルクとなる。
【0063】
また、ヒステリシストルク発生機構50は、以上のような各摺動部に加えて、
図4及び
図7に示すように、1対の摩擦プレート51を有している。この1対の摩擦プレート50とダンパプレート部45(摺接部)とがヒステリシストルク発生機構50の一部を構成している。なお、
図7は
図4の矢視P図である。
【0064】
1対の摩擦プレート51は、
図7に示すように、1対のイナーシャリング46の互いに対向する側面(ダンパプレート部45側の面)に固定されている。1対の摩擦プレート51の軸方向間の隙間は、ダンパプレート部45の厚みよりも若干狭くなっている。したがって、イナーシャリング46に対してダンパプレート部45が大きく捩れたときには、ダンパプレート部45は1対の摩擦プレート51の間に入り込む。そして、ダンパプレート部45が1対の摩擦プレート51の間で摺接する際には、比較的大きな抵抗、すなわち高ヒステリシストルクが発生する。
【0065】
なお、1対の摩擦プレート51において、円周方向のダンパプレート部45側の端部には、ダンパプレート部45が1対の摩擦プレート51の間に進入しやすいように、面取り部51aが形成されている。
【0066】
また、この実施形態では、ダンパプレート部45が1対の摩擦プレート51間に進入するタイミングと、ダンパ機構48の小コイルスプリング48bが作動を開始するタイミングと、を一致させている。
【0067】
[動作]
まず、トルクコンバータ本体の動作について簡単に説明する。フロントカバー2及びインペラ3が回転している状態では、インペラ3からタービン4へ作動油が流れ、作動油を介してインペラ3からタービン4へトルクが伝達される。タービン4に伝達されたトルクはタービンハブ17を介してトランスミッションの入力シャフト(図示せず)に伝達される。
【0068】
トルクコンバータ1の速度比があがり、入力シャフトが一定の回転速度になると、フロントカバー2とピストン30との間の作動油がドレンされ、ピストン30のタービン4側に作動油が供給される。すると、ピストン30がフロントカバー2側に移動させられる。この結果、ピストン30に固定された摩擦部材38がフロントカバー2に押圧され、ロックアップクラッチがオンになる。
【0069】
以上のようなクラッチオン状態では、トルクは、フロントカバー2→ピストン30→ドライブプレート31→外周側トーションスプリング32→中間部材34→内周側トーションスプリング35→ドリブンプレート36の経路で伝達され、タービンハブ17に出力される。
【0070】
ロックアップ装置7においては、トルクを伝達すると共にフロントカバー2から入力されるトルク変動を吸収・減衰する。具体的には、ロックアップ装置7において捩り振動が発生すると、外周側トーションスプリング32と内周側トーションスプリング35とがドライブプレート31とドリブンプレート36との間で直列に圧縮される。さらに、外周側トーションスプリング32においても、1組の外周側トーションスプリング32が直列に圧縮される。このため、捩り角度を広くすることができる。
【0071】
[ダイナミックダンパ装置37の動作]
中間部材34に伝達されたトルクは、内周側トーションスプリング35を介してドリブンプレート36に伝達され、さらにタービンハブ17を介してトランスミッション側の部材に伝達される。このとき、中間部材34にはダイナミックダンパ装置37が設けられているので、エンジンの回転速度変動を効果的に抑制することができる。すなわち、ダンパプレート部45の回転とイナーシャリング46及び蓋部材47の回転とは、ダンパ機構48の作用によって位相にズレが生じる。具体的には、所定のエンジン回転数においてイナーシャリング46及び蓋部材47はダンパプレート部45の回転速度変動を打ち消す位相で変動する。この位相のズレによって、トランスミッションの回転速度変動を吸収することができる。
【0072】
また、本実施形態では、ダイナミックダンパ装置37を中間部材34に固定し、ダイナミックダンパ装置37とタービンハブ17との間に振動を抑えるための内周側トーションスプリング35を配置している。この内周側トーションスプリング35の作用によって、
図8に示すように、より効果的に回転速度変動を抑えることができる。
図8において、特性C1は、従来のロックアップ装置における回転速度変動を示している。特性C2はダイナミックダンパ装置をタービンハブに装着し、ダイナミックダンパ装置の出力側にトーションスプリングがない場合の変動を示している。また、特性C3は本実施形態のように、ダイナミックダンパ装置37を中間部材34に装着し、ダイナミックダンパ装置37の出力側に内周側トーションスプリング35を設けた場合の変動を示している。
【0073】
図8の特性C2と特性C3とを比較して明らかなように、ダイナミックダンパ装置37の出力側に内周側トーションスプリング35を設けた場合は、回転速度変動のピークが低くなり、かつエンジン回転数の常用域においても回転速度変動が抑えることができる。
【0074】
ここで、ダンパ機構48は2段の捩じり特性を有している。具体的には、ダンパプレート部45とイナーシャリング46及び蓋部材47との間に相対回転が生じると、
図9に示すように、低捩じり角度領域θlでは、まず大コイルスプリング48aのみが圧縮され、低剛性の捩じり特性(1段目の捩じり特性)によってダンパ機構48が作動する。この場合は、イナーシャリング46及び蓋部材47はダンパプレート部45に対して、機械的摩擦のみによる比較的小さい低ヒステリシストルクHlで相対回転し、効果的に回転速度変動を抑えることができる。
【0075】
そして、より大きい回転変動が生じてダンパプレート部45とイナーシャリング46及び蓋部材47との間に、さらに大きな相対回転が生じると(高捩じり角度領域θh)、大コイルスプリング48aに加えて小コイルスプリング48bも圧縮されることになる。このため、1段目の捩じり特性に比較して高い剛性の捩じり特性(2段目の捩じり特性)でダンパ機構48が作動する。
【0076】
しかも、この高捩じり角度領域θhでは、ダンパプレート部45が1対の摩擦プレート51の間に侵入し、低ヒステリシストルクHlに比較して大きい高ヒステリシストルクHhが発生することになる。
【0077】
このように大きい回転変動が生じた場合は、1段目の捩じり特性を経て2段目の捩じり特性でダンパ機構48が作動するとともに、高ヒステリシストルクHhが発生する。この場合は、1段目の捩じり特性で作動している場合に比較して、ダンパプレート部45に対してイナーシャリング46及び蓋部材47が回転しにくくなり、両者の相対回転速度が低下する。このため、ダンパプレート部45の円周方向端面がストップピン49に衝突しても、従来の1段の捩じり特性のみを有するダイナミックダンパ装置に比較して衝撃が抑えられる。
【0078】
[特徴]
(1)急な加減速時等において、ダンパプレート部45に対するイナーシャリング46の振れが大きくなると、比較的大きな高ヒステリシストルクが発生するとともに、ダンパ機構48の2段目の高剛性捩じり特性によって振動が減衰される。このため、イナーシャリング46の振れが停止し、又は振れの速度が抑えられる。したがって、イナーシャリング46の振れ角の大きい領域では、イナーシャリング46がストップピン49に衝突するのを防止できる。また、イナーシャリング46がストップピン49に衝突しても、衝突時の異音が抑えられる。さらにイナーシャリング46及びストップピン49の摩耗が抑えられる。
【0079】
(2)イナーシャリング46の振れが比較的小さい場合は、ダイナミックダンパ装置におけるヒステリシストルクは小さく、またダンパ機構48は1段目の低剛性捩じり特性で作動する。このため、イナーシャリング46がスムーズに作動し、回転速度変動を効果的に抑えることができる。
【0080】
(3)1対のイナーシャリング46をダンパプレート部45の両側に配置してダイナミックダンパ装置37を構成しているので、1対のイナーシャリング46をプレート部材で形成することができる。したがって、イナーシャリングを鋳造品や鍛造品で形成する場合に比較して製造コストを抑えることができる。
【0081】
(4)ダンパプレート部45及びイナーシャリング46の内部にダンパ機構48を収容しているので、特に、軸方向におけるダイナミックダンパ装置の占有スペースをコンパクトにすることができる。
【0082】
(5)イナーシャリング46を軸方向に分割しているので、ダンパプレート部45の差し込み、及びダンパ機構48の組付が容易になる。
【0083】
(6)中間部材34にダイナミックダンパ装置37を装着し、ダイナミックダンパ装置37の出力側に内周側トーションスプリング35を設けているので、より効果的に回転速度変動を抑えることができる。
【0084】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0085】
(a)前記実施形態では、ヒステリシストルクが低ヒステリシストルクから高ヒステリシストルクに移行するタイミングと、ダンパ機構の捩じり特性が移行するタイミングと、を一致させたが、必ずしも一致させる必要はない。
【0086】
(b)ダイナミックダンパ装置のダンパ機構を2段特性としたが、1段特性の場合にも本発明を適用し、低捩じり角度領域では低ヒステリシストルクを発生させ、高捩じり角度領域では高ヒステリシストルクを発生させるようにしてもよい。
【0087】
(c)ヒステリシストルク発生機構の別の実施形態を
図10に示している。この実施形態では、前記実施形態と同様に、1対の摩擦プレート61が1対のイナーシャリング46の互いに対向する側面に設けられている。そして、1対の摩擦プレート61は、互いに対向する面が傾斜面61aとなっている。より具体的には、1対の摩擦プレート61の対向する面は、ダンパプレート部45から離れるにしたがって間隔が狭くなるように傾斜している。
【0088】
このような実施形態では、イナーシャリング46の振れが大きくなるにしたがってヒステリシストルクが大きくなる。したがって、イナーシャリング46の振れ角の大きい領域では、イナーシャリング46の振れる速度をより抑えることができ、イナーシャリング46がストップピン49に衝突しても、衝突時の異音をより抑えることができる。
【0089】
(d)前記実施形態では、ダンパプレート部45を中間部材34の第2プレート42の外周部に形成したが、ダンパプレートを第2プレートと別に設けてもよい。
【0090】
(e)前記実施形態では、外周側トーションスプリングと内周側トーションスプリングとを連結する中間部材にダイナミックダンパ装置を固定したが、ダイナミックダンパ装置の配置はこれに限定されない。
【0091】
例えば、2つの外周側トーションスプリングを直列的に作用させるためのフロート部材にダイナミックダンパ装置を固定してもよい。また、同様に、2つの内周側トーションスプリングを直列的に作用させるための部材にダイナミックダンパ装置を固定してもよい。いずれにしても、ダイナミックダンパ装置の出力側にダンパ機構としてのトーションスプリングを配置することによって、副次共振を抑えることができる。