【実施例】
【0186】
(実施例1)
実験的方法
A.多能性幹細胞の細胞培養
フィーダーフリーに適合させる前に、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)を、フィーダー細胞(マイトマイシンCで処理したマウス胚線維芽細胞(MEF)細胞(Millipore))上で維持し、従来の培地で培養した。本出願において使用される場合、「従来の培地」とは、DMEM/F12(Mediatech)、10ng/mLのbFGF(Invitrogen)、20%v/vのノックアウト血清代替物(Invitrogen)、1%v/vの非必須アミノ酸(Mediatech)、2mMのL−グルタミン(Mediatech)および100μMのβ−メルカプトエタノール(Invitrogen)を含有する基本ヒト胚性幹細胞(hESC)培地を指す。従来の培地は、表1の最初の項にも記載されている。hiPSCを5〜7日ごとに、先の細いガラスピペットを使用してコロニーを小さな片に機械的に切り、こすり取ることによって継代し(凝集塊継代)、採取し、新しく播種した、マイトマイシンC処理したMEF細胞上に1:3〜1:6に希釈継代し、hESC培地を毎日添加した。細胞培養物を、加湿インキュベーターセットにおいて37℃、5%CO
2で維持した。フィーダー細胞を伴う従来の培地中で、凝集塊継代を用いて細胞を培養するステップは、本明細書では、「従来の培養」と称される。
【0187】
単細胞に解離させるために、hiPSCをリン酸塩緩衝食塩水(PBS)(Mediatech)で1回洗浄し、アキュターゼ(Millipore)またはTrypL(Invitrogen)を用いて37℃で3〜5分処理し、その後ピペッティングして単細胞へと破壊した。次いで、上記の通り単細胞懸濁物を従来の培地と等体積で混合し、300gで5分間遠心沈澱させ、SMC4培地またはSMC4+フィブロネクチン培地に再懸濁させた。ほとんどの場合、単細胞に解離させた細胞を、0.4μMのPD0325901、1μMのCHIR99021、5μMのチアゾビビンおよび2μMのSB431542(全てBiovision)を含めた種々の低分子および添加物を補充した従来のhESC培地で構成されるSMC4培地中で維持した。低分子は、DMSO中5〜25μMのストック濃度で、−20℃で維持してから培地に添加した。全ての作業培地を4℃で最大4週間維持した。Rock阻害剤に関して、細胞を未分化の状態で維持するためには、Y27632と比較して、チアゾビビンと一緒に培養することが好ましかった。
【0188】
適切な培地中に再懸濁させた後、細胞を、予めMatrigel(商標)(1:25希釈;BD Biosciences)でコーティングしたフィーダーフリー組織培養プレート(BD Falcon)に移して37℃で1〜2時間置いた。この様式では、細胞は常套的に新鮮な培地を1日おきに受け、集密度が66〜75%に到達したら継代した。上記66〜75%の集密度は通常、継代してから4〜5日後に起こった。各継代細胞を単細胞に再解離させ、Matrigel(商標)(BD Biosciences)でコーティングした新しい組織培養プレートに1:5〜1:10の希釈継代で移した。定義済みの、成長因子を含まない培養のために、細胞懸濁物を予め1%ゼラチン(Gelatin)(Mediatech)でコーティングした組織培養プレートに加えた。SMC4培地がbFGFを含めた全てのサイトカインおよび成長因子を実質的に含まないこと以外は上記の通りに細胞を維持し、継代した。
【0189】
凍結させるために、細胞を単細胞に解離させ、10%v/vのDMSO(Mediatech)を補充したSMC4+フィブロネクチン培地に再懸濁させ、クライオバイアル(Nalgene)に入れた。蓋をしたら、クライオバイアルをMr.Frosty(Nalgene)の中に入れ、−80℃で一晩保持した。次の日に、クライオバイアルを長期間保管するために液体窒素に移した。解凍するために、凍結したクライオバイアルを37℃のウォーターバスに、氷の大部分が融解するまでおよそ1〜2分入れた。次いで、解凍した細胞溶液を新鮮な従来のhESC培地と穏やかに混合し、300gで5分間遠心沈澱させた。細胞溶液をSMC4+フィブロネクチン培地に再懸濁させ、Matrigel(商標)(BD Biosciences)でコーティングした組織培養プレートに移した。他の細胞培養インキュベーションの全てと同様に、細胞を加湿インキュベーターセット中、37℃、5%CO
2で維持した。
B.再プログラミングの誘導
再プログラミングプロセスを開始するために、再プログラミング因子の異所性発現(ヒトOct4、Sox2、Klf4、c−Myc、Lin28、およびNanogの多様な組合せで)をレンチウイルスの形質導入または他の方法、例えば、タンパク質のみの処理を用いて実現した。ほとんどの場合、出発細胞は、10%集密度(すなわち、6ウェルプレートのウェル当たり細胞1×10
5個)で、ゼラチン(Mediatech)でコーティングした表面上にプレーティングした。ウイルス感染の方法については、新しく採取したレンチウイルスを出発細胞に1:2希釈で加え、4μg/mLのポリブレン(Millipore)を補充し、32℃、650gで1.5時間スピン感染させた。培養物を37℃、5%CO
2に移してさらに7時間置いた。インキュベーションが達成されたら、細胞をPBSで3回洗浄し、新鮮な培地を供給した。細胞、例えば、IMR90線維芽細胞をフィーダーフリー培養系において感染させることは難しく、このプロセスを、最初の感染の48時間後にもう1回繰り返した。再プログラミングの誘導の非遺伝学的方法、例えば、細胞に直接タンパク質を適用することの使用について、8μg/mLの再プログラミング因子からなるタンパク質混合物、またはカクテルを細胞溶液に添加し、24時間維持してから培地を換えた。このステップをさらに2〜4回繰り返した。出発細胞は全て、それら自体のそれぞれの体細胞用培地で、最初にタンパク質を添加した後4日目まで培養し、その時点で培地を、一部は体細胞用培地に、そして一部は従来のhESC培地に切り換えた。集密になったら(通常4〜6日)、細胞をトリプシン処理し、等量の培地と混合し、300gで5分間遠心沈澱させ、1:1の体細胞/従来のhESC培地に再懸濁させ、より大きな培養プレートへと1:4〜1:6で拡大した。例えば、6ウェルプレートの2つのウェル中の細胞を通常10cmディッシュ上に拡大する。拡大した次の日に、培地を従来のhESC培地に完全に切り換える。拡大した細胞が集密に達したら(通常8〜12日)、細胞を、富化(独特の集団富化を参照されたい)するために処理する。全ての場合において、培地を常套的に1日おきに交換した。
【0190】
C.独特の集団富化
出発細胞を、Oct4および/またはKlf4および/またはSox2および/またはMycを含有する個々のレンチウイルス構築物またはポリシストロニックベクターを含めた種々の戦略を用いて再プログラミングされるように誘導し、およそ8〜12日間(上記を参照されたい)培養した後、細胞を単細胞に解離させ(多能性幹細胞の細胞培養を参照されたい)、種々の多能性の表面マーカー、体細胞のマーカーおよび/または不完全な再プログラミングのマーカーで染色した。簡単に述べると、解離細胞を、ハンクス平衡塩類溶液(Invitrogen)、4%ウシ胎仔血清(Invitrogen)および10mMのHepes(Invitrogen)を含有する染色溶液に再懸濁させ、氷上で保持した。製造者推奨の希釈に従って、結合体化させた一次抗体を細胞溶液に添加し、溶液を氷上で15分間インキュベートした。細胞溶液を洗浄し、染色緩衝液に再懸濁させ、氷上で維持した。この時点で、蛍光活性化細胞選別(Fluorescent Activated Cell Sorting)(BD Biosciences、以下を参照されたい)および磁気細胞選別(Magnetic Cell Sorting)(Miltenyi Biotec、以下を参照されたい)を含めた種々の富化/枯渇戦略をとった。
【0191】
フローサイトメトリー選別をFACS Aria(BD、Biosciences)で実施した。使用した一次抗体は、明記されている通りSSEA4(BD Biosciences)、Tra−181(Biosciences)、Tra−161(BD Biosciences)、CD30(BD Biosciences)、およびCD50(BD Biosciences)を含んだ。次いで、選別された細胞を遠心沈澱させ、SMC4+フィブロネクチン培地に再懸濁させ、Matrigel(商標)でコーティングした組織培養プレートに移した。マイクロウェル、すなわち、96ウェルプレートに選別して入れた場合、プレートを300gで2分間遠心沈澱した。SMC4+フィブロネクチン培地を3〜4日間、1日おきに交換した。3〜4日後、一般には、培養の残りの時間はSMC4+フィブロネクチン培地をSMC4培地と交換した。コロニー形成は、一般には、選別の7〜9日後に認められた。フローサイトメトリー分析をGuava EasyCyte 8HT(Millipore)で実施した。
【0192】
MACSミクロビーズ(Miltenyi Biotec)分離をプロトコールに従って実施した。簡単に述べると、細胞を単細胞へと解離させ(多能性幹細胞の細胞培養を参照されたい)、明記されている通りSSEA4(BD Biosciences)、Tra−1−81(BD Biosciences)、Tra−160(BD Biosciences)、CD30(BD Biosciences)、およびCD50(BD Biosciences)を含めた、適切なFITCと結合体化した一次抗体を用いて染色した。次いで、細胞を抗−FITCミクロビーズ(Anti−FITC Microbeads)(Miltenyi Biotec)で磁気的に標識した。次いで、標識した細胞懸濁物をLS MACS Column(Miltenyi Biotec)にローディングした。陽性選択された画分または陰性選択された画分のいずれかから採取した細胞を、300gで5分間遠心沈澱し、SMC4+フィブロネクチン培地に再懸濁させ、Matrigel(商標)(BD Biosciences)でコーティングした組織培養プレートに移した。翌日、新鮮な培地を培養物に加え、その後、1日おきに交換した。3〜4日後、一般には、培養の残りの時間はSMC4+フィブロネクチン培地をSMC4培地と交換した。一般には選別の5〜7日後にコロニーが現れた。
【0193】
D.アルカリホスファターゼ染色
細胞を4%v/vのパラホルムアルデヒド(Alfa Aesar)中に30秒間固定し、PBSで3回洗浄し、アルカリホスファターゼ染色キット(Alkaline Phosphatase Staining Kit)(Sigma−Aldrich)で染色した。簡単に述べると、亜硝酸ナトリウム溶液(Sodium Nitrite Solution)1mLをFRV−アルカリ性溶液(FRV−Alkaline Solution)1mLに加え、混合し、25℃で2分間インキュベートした。次いで、この溶液を45mLのH
2Oと混合し、その後、ナフトールAS−BIアルカリ性溶液(Naphthol AS−BI Alkaline Solution)1mLを加えた。アルカリ性色素混合物を固定した細胞に加え、25℃で15分間インキュベートした後、PBS洗浄した。次いで、細胞をアルカリホスファターゼの存在についてスコア化した。
【0194】
E.免疫蛍光検査による染色
細胞を、4%v/vのパラホルムアルデヒド(Alfa Aesar)を使用して15分間固定し、0.2%v/vのTween(PBST)(Fisher Scientific)を含有するPBSで3回洗浄し、PBS中0.15%v/vのトリトンX−100(TritonX−100)(Sigma−Aldrich)を用いて25℃で1時間透過性を上げた。透過性を上げた後、細胞を、PBST(Fisher Scientific)中1%v/vのBSA(Invitrogen)(PBSTB)を用いて25℃で30分間ブロッキングした。PBSTBを穏やかに除去した後、細胞を、PBSTB中の一次抗体と一緒に4℃で一晩インキュベートした。この試験において使用した一次抗体は、Nanog(Abcam)、Tra−1−60(BD Biosciences)、Tra−181(BD Biosciences)、SSEA4(BD Biosciences)、β−III チューブリン(β−III Tubulin)(R&D Systems)、α−平滑筋アクチン(α−Smooth Muscle Actin)(Sigma)およびSox17(R&D Systems)を含んだ。一晩インキュベートした後、細胞をPBSTで3回洗浄し、PBSTB中に1:200希釈した二次抗体(Alexa 488または555;Invitrogen)を用いて25℃で1時間染色した。細胞をPBST中で3回洗浄し、Hoechst色素(Invitrogen)で染色した。染色された細胞の画像を蛍光顕微鏡検査およびCCDカメラを使用して捕捉した。
【0195】
F.分化の誘導および奇形腫の形成
フィーダーフリーiPSCを、単層として、および胚様体としての両方で分化させた。単層分化については、細胞は通常、分化の際にそれらの増殖を減少させるので、iPSCを集密近くまで到達させた後に分化培地に切り換えた。簡単に述べると、集密になったら、SMC4培地を、DMEM/F12(Mediatech)、20% ウシ胎仔血清(Invitrogen)、1% 非必須アミノ酸(Mediatech)、2mMのL−グルタミン(Mediatech)および100μMのβ−メルカプトエタノールを含有する分化培地に切り換えた。培地を切り換えたら、iPSCを14日間分化させた。培地を2〜3日ごとに替えた。胚葉体(「EB」)の形成および分化については、hiPSCを、アキュターゼ(Millipore)を用いて単細胞に解離し、分化培地に再懸濁させて、最終濃度を1mL当たり細胞75,000個にし、5uMのチアゾビビン(Thiazovivan)を加えた。細胞を、V底96ウェルの非組織培養プレート(Nunc)にウェル当たり100μLで播種し、950gで5分間遠心分離した。翌日、密集した「球様凝集塊」を超低結合6ウェルプレート(Corning)にP1000を用いておよそウェル当たりEB30〜40個で移した。7日後に、移したEBをMatrigelでコーティングした6ウェルプレートに1:1で移した。3週間培養した後、細胞を固定し、染色した。
【0196】
奇形腫移植および分析を、Applied Stem Cells(Menlo Park、CA)によって行った。簡単に述べると、単細胞に解離させた100〜200万個のhiPSCを、SMC4培地100μL(uL)を補充した培地およびMatrigel100uL中に混合し、Beige SCIDマウスの腎被膜および睾丸に導入した。発生した奇形腫を回収し、切片作製し、種々の分化細胞型および構造について分析した。
【0197】
G.RT−qPCRおよびqPCR分析
RNAを、PicoPure RNA Isolationキット(MDS Analytical Technologies)を使用して単離し、0.5μgのRNAを用いて、iScript cDNA Synthesis Kit(Bio−Rad)を使用して第一鎖cDNAを生成した。相対的な遺伝子発現レベルを、TaqMan Fast Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems)および下で表3に列挙されているFAMで標識したTaqManプローブを使用して決定した。
【0198】
表3:ABIプライマーおよびプローブ
【0199】
【表3-1】
【0200】
【表3-2】
H.遺伝子発現解析
全RNAを、Pico Pure RNA Isolation Kit(Molecular Devices,Sunnyvale,CA)を使用して細胞から単離した。簡単に述べると、ビオチン化したaRNAを、MessageAmp II aRNA Amplification Kit(Applied Biosystems/Ambion、Austin、TX)用の標準のプロトコールを使用して、任意選択のSecond Round Amplificationを利用して調製し、次いで、MessageAmp II Biotin Enhanced Kit(Applied Biosystems/Ambion、Austin、TX)を使用し、標準のプロトコールを用いてビオチン標識したaRNAへと転写した。ビオチン標識したaRNAをAffymetrixの推奨に従って精製し、断片化した。20μgの断片化したaRNAを使用して、Human Genome U133 Plus2.0チップ(Affymetrix Inc. Santa Clara、CA)と、45℃で16時間にわたってハイブリダイズさせた。アレイを洗浄し、Affymetrix Fluidics Station 450で染色し、Affymetrix GeneChip Scanner 3000 7Gを使用してスキャンした。画像データを、Affymetrix Expression Consoleソフトウェアを使用し、初期状態の解析設定を用いて解析した。アレイを、対数尺度ロバストマルチアレイ解析(log scale robust multi−array analysis)(RMA)によって正規化し、Spotfire for Genomics 3.1(Tibco Spotfire、Palo Alto、CA)で可視化した。
【0201】
I.核型分析およびコピー数変動分析
20のG−バンド染色した中期細胞に対する細胞遺伝学的分析を、Madison、WIに所在するCell Line Geneticsが実施した。
【0202】
高分解能比較ゲノムハイブリダイゼーション(NimbleGen12x135k)およびその後のコピー数変動分析をWiCell(Madison、WI)によって行った。
【0203】
(実施例2)
フィーダーフリー培養環境および酵素による単細胞への解離および多能性幹細胞の継代を可能にするための細胞培養条件および方法
本実施例は、多能性細胞集団の培養および解離に関する。そのような細胞集団としては、これらに限定されないが、胚性幹細胞(ESC)および人工多能性細胞、例えば、体細胞核移植(SCNT)によって、または多能性因子を導入することによって生成されるもの−人工多能性幹細胞(iPSC)が挙げられる。多能性幹細胞の培養条件には、伝統的に、放射線照射またはマイトマイシンC処理によって有糸分裂が不活性にされているが、幹細胞の培養を支持するために必要な成長因子および栄養分を提供するフィーダー細胞の使用が含まれていた。フィーダー細胞を使用せずに幹細胞集団を培養するステップは、幹細胞の均一な集団が必要である研究および工業的な適用にとって、または拡大した工業的活動が幹細胞生成物のための異種を含まない定義済みの培養条件を必要とする、研究および工業的な適用にとって有利になる。本実施例では、特定の細胞シグナル伝達経路のいくつかの低分子修飾因子を試験して、個々の低分子または低分子の組合せ(「カクテル」)をフィーダーフリー系における多能性細胞の培養を増強するために使用することができるかどうかを確立した。
【0204】
多能性細胞集団を、フィーダーは使用しないが、その代わりに、より明確な細胞外マトリックス、例えば、Matrigel(商標)を従来のhESC細胞培養培地(例えば、表1の最初の項に記載の従来の/基本培地処方物)において使用して培養したところ、細胞の生存能力および多能性は支持されなかった(
図1)。しかし、Rockキナーゼの低分子阻害剤を使用することにより、これらの条件下で細胞の生存能力が改善された。さらに、MAPキナーゼ、TGFβおよびWnt/β−カテニン経路の低分子阻害剤を使用することにより、フィーダーの不在下で細胞の多能性が維持されたが、細胞の生存能力の変化を認めることができた。Rockキナーゼ阻害剤と、MEK阻害剤、TGFβ阻害剤およびGSK3阻害剤の組合せにより、フィーダーフリー環境において培養したときに多能性幹細胞の生存能力と多能性の両方が維持された。
【0205】
多能性細胞、例えば、ESCまたはiPSCは、一般には、凝集塊として成長する。伝統的に、これらの細胞は、当技術分野の研究者によって認識される形態を有するコロニーを手動で選び取ることによって拡大し、継代されてきた。そのような手順は、本文書の実施例1に記載されている(凝集塊継代として記載されている)。次いで、選び取ったコロニーを機械的に壊し、解離細胞を再プレーティングする。多能性細胞集団の急速な拡大には、酵素による単細胞の継代の使用が有効となる。トリプシンおよびアキュターゼなどの酵素が、継代の間に細胞を単細胞に解離させるために一般に使用される。
【0206】
特定の実証では、iPSC細胞は、フィーダーフリー環境において単細胞として酵素により継代し、播種したときに、
図3Bにおける7AADの組込みにより認めることができるように、生存能力の有意な降下を示した。表1に列挙されているものなどの培地組成物を含む本発明の培養プラットフォームを使用することによって多能性細胞集団をフィーダーフリー培養で培養し、単細胞継代のために酵素により解離させ、細胞の生存能力および多能性の維持がはるかに改善された。より詳細には、従来の/基本hESC培地処方物とMAPキナーゼ経路、TGFβ経路、Wnt/β−カテニン経路およびRho/Rock経路などの細胞シグナル伝達経路の修飾因子の組合せを使用することによって、単細胞への解離およびフィーダーフリー培養を必要とする適用の間、多能性幹細胞の生存能力および多能性が維持された。
【0207】
図2に示されている通り、フィーダー細胞培養において、凝集塊継代を用いて生成したiPSCを、アキュターゼなどの酵素を用いて単細胞に解離し、フィーダーフリー系において、例えば、Matrigel(商標)上に、表1に記載のSMC4培地組成物またはSMC4+フィブロネクチン培地組成物を使用して単細胞としてプレーティングした。細胞の生存能力は、解離細胞を、これらの培地に記載の低分子の組合せを含有する培地に置いた場合にのみ維持された。従来の培地を使用することにより、多能性細胞を酵素により単細胞に解離し、フィーダーフリー環境にプレーティングしたときに大量の細胞が損失した。細胞をフィーダーフリー培養および単細胞継代に適合させたら、それらを、SMC4培地を用いてこのように連続的に維持した。フィーダーフリーの、単細胞継代条件に適合させたhiPSC細胞の完全な特徴付けが
図3に示されている。これらの細胞の多能性状態は、複数回の継代の後に維持された:多能性マーカーを、免疫蛍光検査および遺伝子発現によって同定した。さらに、細胞の約99.8%がフローサイトメトリーによって測定されるSSEA4およびTra1−81陽性染色を維持した。これらの細胞の遺伝子発現プロファイルは、フィーダー上で培養したヒトESCと同様であった。hiPSCの導入遺伝子サイレンシングが維持され、核型は通常であり、かつフィーダー細胞培養で成長させた同じクローンと同一であった。さらに、このように継代し維持したhiPSCは、in vitroにおける分化と奇形腫の形成の両方によって実証された通り、3種の胚葉に分化した(
図3Iおよび3J)。
【0208】
(実施例3)
多能性および細胞の生存能力を維持しながら多能性細胞からの単細胞選別を可能にするための方法および培養条件
実施例2に記載の通り、ESCまたはiPSCの幹細胞培養物は、常套的にフィーダー細胞上で培養し、細胞コロニーを手動で選択することによって継代し、その後それを機械的に解離させた後に再プレーティングする。熟練した研究者は、多能性、非分化特性を有する幹細胞コロニーを、コロニー形態に基づいて認識し、これを、多能性細胞を選択する方法として用いることができる。したがって、多能性集団または所望の特性を有する集団を、一部の細胞があまり望ましくない特性を有する、例えば、培養物または死細胞の凝集塊中の分化の徴候を示す細胞の細胞集団から選び取り、手動で富化することができる。このプロセスは、労力を要し、所望の細胞集団を選び取ることは熟練した研究者に依存する。したがって、細胞を所望の特性に基づいて個別に選択する場合に細胞富化または選別技術を用いることは、この分野に大きな利益を与えることになる。現在利用可能な技法、例えば、磁気活性化細胞選別(MACS)または蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いたそのような富化ステップには、多能性細胞集団を単細胞様式へと酵素により継代した後に、富化し、また培養物に播種することが必要になる。さらに、フィーダーにより支持した培養物を使用することは、これらの技法にはあまり望ましくないことになり、フィーダーフリー培養系を用いることが必要である。
【0209】
特定の実施形態では、表1に記載の本発明の培地組成物ならびに実施例1および2に記載の方法を用いて、多能性または細胞の生存能力を喪失することなく、多能性細胞集団を単細胞に解離させ、磁気活性化細胞選別(Magnetic Activated Cell Sorting)(MACS)または蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いて富化し、フィーダーフリー培養物上に播種した。
【0210】
特定の例では、
図4に示されている通り、SMC4培地(表1)で維持した、単細胞に解離させた多能性細胞の集団を選択し、FACSにより、細胞表面マーカーに対して陽性の細胞SSEA4
+/Tra181
+に基づいて選別した。これらの表面抗原は、多能性に対するマーカーとして一般に使用されている。次いで、選別された二重の陽性集団をフィーダーフリー培養(Matrigel(商標)ECMコーティング)に移し、SMC4培地(表1)またはSMC4+フィブロネクチン培地のいずれかで2〜4日間成長させた後、SMC4培地(表1)に再度切り換えた。選別してから24時間以内に細胞分裂が認められ、細胞は選別の5日後までにほぼ集密になった。選別された細胞を、さらに5回の継代にわたって単細胞培養し、SSEA4
+/Tra181
+細胞についての二重染色フローサイトメトリーによって判断したところ、未分化状態のマーカーを発現するだけでなく、実質的に純粋な多能性細胞の集団も示したことが示された(
図4Bおよび4C)。
【0211】
培養している間に多能性幹細胞を富化し、選別する例では、多能性細胞と分化細胞の両方を含有する培養物を、Tra181に対して陽性の細胞について富化し、次いで、Tra181
+細胞の継代を継続して、純粋な多能性幹細胞の集団を維持した(
図17C)。
【0212】
多能性細胞の単細胞選別の効率を調査した。
図4DおよびEにおいて認めることができるように、FACS機器によって測定された種々の数の選別後事象を、SMC4培地またはSMC4+フィブロネクチン培地のいずれかを用いてフィーダーフリー培養系にプレーティングし、アルカリホスファターゼ陽性細胞の数をスコア化した。アルカリホスファターゼは、多能性のコロニー形成の初期の指標である。播種した細胞の数当たりのアルカリ陽性コロニーの数によって示される、定量化した選別後播種効率はこの系ではおよそ8〜10%であることが分かった(
図4E)。多能性細胞集団の維持における単細胞選別の潜在性のさらなる実証では、iPSC培養物を単細胞に解離させ、蛍光を結合体化した、多能性マーカーであるSSEA4およびTra181に特異的な抗体で標識し、FACSに適用し、これらのマーカーに基づいて選択した。選択されたSSEA4
+/Tra181
+細胞を、FACS機器から直接96ウェルプレートに、ウェル当たり1〜9事象でプレーティングした。ウェル当たりわずか1事象により、クローンアルカリホスファターゼ陽性コロニーが生じた(
図4Fおよび4G)。したがって、そのような単細胞選別系を、特定の細胞表面マーカーに関連する好ましい特性に基づいて多能性細胞のクローン選択を行うために用いた。
【0213】
(実施例4)
フィーダーフリー培養系において細胞を多能性の状態に効率的に再プログラミングさせる方法および条件
工業的適用および/または臨床的適用のためのiPSCの使用には、完全に定義済みの培養条件、詳細には、異種を含まない条件において細胞を生成し、選択し、維持することが必要である。したがって、フィーダーフリー培養条件において細胞を再プログラミングさせることが非常に望ましい。しかし、線維芽細胞およびケラチノサイトは皮膚生検材料または毛包を介して入手するので、これらが再プログラミングに最も一般的に使用される細胞型であるが、これらの細胞型の再プログラミングの効率は非常に低く、これらの細胞をフィーダーフリー培養において再プログラミングさせるための効率的な方法はまだ実証されていない。
【0214】
実施例2に記載の通り、細胞シグナル伝達経路−詳細には、MAPキナーゼ経路、TGFβ経路、Wnt/β−カテニン経路およびRho/Rock経路の阻害剤が存在する従来のhESC幹細胞用培地を使用することにより、フィーダー細胞の不在下で多能性培養物を成長させ、維持すること、およびこれらの培養物を、酵素による単細胞継代を用いて拡大することが可能になった。本実施例では、フィーダー細胞を欠く培養系においてiPSC細胞を生成した。詳細には、ヒト線維芽細胞を、多能性因子であるOct4、KLF4、Sox2およびC−mycを発現しているウイルスに感染させた。再プログラミングプロトコールを、フィーダー細胞ではなくMatrigel(商標)にプレーティングした細胞を用いて実施例1に記載の通り行った。
【0215】
従来のhESC幹細胞用培地またはSMC4培地(表1)に列挙されている特定の経路修飾因子を補充した従来のhESC培地のいずれかを用いて、フィーダーフリー細胞の再プログラミングの比較を行った。
図5に認めることができるように、Oct4、Klf4、Sox2およびMycを発現している個々のレンチウイルスを用いて再プログラミングを誘導した20日後に、SMC4培地を補充したフィーダーフリー培養物では多くのiPSC様コロニーが認められたが、従来のhESC培地単独で維持した培養物に認められたコロニーはわずかであった、または全く認められなかった。SMC4培地中で生成したコロニーのその後の特徴付けにより、それらの多くが真のiPSCコロニーであることが示された。これらの細胞は、免疫蛍光検査、フローサイトメトリーおよび遺伝子発現プロファイリングを用いた、多能性マーカーであるOct4、Nanog、Sox2、KLF4、SSEA4およびTRA 1−81の発現により、多能性であることが決定された(
図13C〜E)。さらに、細胞は、分化培地で培養したときに、3種の胚葉全てに有効に分化することが示された。したがって、フィーダーフリー培養系におけるiPSCの効率的な生成が本発明によって実証された。他の再プログラミングの方法と比較したこの手法の効率は、実施例8および表4に記載されている。
【0216】
(実施例5)
ナイーブな状態の多能性細胞の生成および維持において使用する細胞培養組成物
最近の研究により、後成的な再プログラミングを通じて、最終分化細胞は、前駆体様の状態(Xie, H.、Ye, M.、Feng, R.、およびGraf, T. 2004年)、異なる分化した細胞の状態(Szabo、Bhatia 2010年)または、元の胚様の状態(Takahashiら、2006年)例えば、iPSCにまで戻って再度コース設定する(recourse)能力を有することが実証された。iPSCの生成はより常套的になってきたが、所与の実験において、非常に低い百分率の体細胞のみがiPSCに再プログラミングされる。この低効率には、体細胞の増殖性の状態、遺伝子の活性化または抑制を導くさらなる変異誘発、遺伝子送達の様式および環境要因を含めたいくつかのパラメータが起因する。iPSCとして同定された全ての細胞がESCに類似した挙動をするとは限らないことも報告されている。例えば、遺伝子発現プロファイリングにより、多くのiPSCが、それらのESC対応物に対して発現プロファイルの有意差を示すことが実証された。さらに、Xist活性の試験およびX染色体の再活性化の分析により、一部のESCはナイーブな状態(すなわち、多能性の基底状態)にあるが、得られたiPSCの全てではないが大部分はプライムされた状態(すなわち、分化するようにプライムされた)にあることが示されている。まとめると、これらの差異が、多能性の低下およびiPSCの特定の細胞型への分化の効率が低いことの一因である可能性があり、これにより再生医療におけるiPSCの価値が下がっている。
【0217】
ナイーブな状態およびプライムされた状態の背後にある機構に関与する重要な細胞経路を標的にすることにより、本発明者らは、従来のiPSCを含めたプライムされた状態で存在する多能性幹細胞を、ナイーブな状態に形質転換する能力を実証した。表1に列挙されている培地組成物を使用して、そのようなプライムされた多能性細胞および従来のiPSCをナイーブな状態にさらに再プログラミングさせることが可能であった。より詳細には、体細胞を再プログラミングさせることまたは細胞シグナル伝達経路、例えば、MAPキナーゼ経路、TGFβ経路、および/またはWnt/β−カテニン経路の修飾因子を含有する培地中でiPSCを培養することにより、生成または培養したiPSCの遺伝子発現のサインが従来のiPSC(従来の培地中で生成し、かつ/または培養し、細胞シグナル伝達経路の修飾因子と接触させていないiPSC)よりもESC様になる。階層クラスタリングにおいて実証されている通り、従来の培地で得られたhiPSCとSMC4培地で得られたhiPSCは互いに同様であり、どちらもそれらの親系統であるIMR90とは異なった(
図6B)。しかし、SMC4培地中で培養したiPSCをフィーダー細胞上に戻してプレーティングしたときに、それらは、従来法で培養したiPSCよりもマウスESCによく似ており、このことはナイーブ状態の別の実証であった(
図6E)。さらに、SMC4培地中で培養したiPSCでは、Xist活性が有意に低下し、X染色体の遺伝子の発現が増強された(
図6Cおよび6D)。最後に、SMC4培地中で培養したiPSCは、3種の胚葉全てに分化しただけでなく、ナイーブな状態にある細胞のみが保有する能力である、胚体外の細胞に関連する遺伝子を再活性化する能力も実証された(
図3H)。したがって、プライムされた状態で存在するiPSCを含めた多能性幹細胞をSMC4培地中で培養することにより、ナイーブ状態が促進され、また、分化の潜在性が増強された。
【0218】
SMC4補充培地および細胞選別プラットフォームを使用して生成したhiPSCクローンの多能性の状態を決定するために(
図7)、hiPSCを、同じ開始線維芽細胞系ならびにOct4、Klf4およびMycを発現している3−因子ポリシストロニックベクターから得たが、凝集塊継代およびフィーダー細胞(FTi99)を含めた従来の培養下で維持した。hESC由来の種々のクローンならびにmRNAのAffymetrix包括的遺伝子発現解析を行った(
図7B)。全ての多能性系が対照線維芽細胞系と異なるプロファイルを有し(FTC1、ピアソンスコア0.886)互いに基本的に同様の発現プロファイルを有する(ピアソンスコア0.969)ことが分かった。ヒートマップサインを作成して、hESC/FTi99(フィーダー細胞および従来の培地で生成し、維持したhESCまたはhiPSC)群とFTi91/FTi93(フィーダーフリーおよびSMC4培地で生成し、維持したhiPSC)群の間で4倍差次的に発現された1,739種のプローブを示した(
図7C)。1,739種の差次的に発現された転写物内の遺伝子の深さ分析では、興味深い傾向が同定された:FTi91/FTi93群では一般にナイーブな状態に関連するいくつかの多能性遺伝子が上方制御されたが、より有意に、この群内で、プライムな状態に関連する多くの分化遺伝子は抑制された(
図7D)。SMC4培地で生成したhiPSCに関する本発明者らの包括的分析により、培養条件が、未分化の状態の決定において、出発細胞系または誘導戦略と比較してより影響力の大きい役割を果たすことが示唆されている。データにより、SMC4培養条件において得られた、またはそれに適合させたクローンは、好ましい品質、例えば、初期の系統マーカーの発現の低下を伴う高度に未分化の状態を伴うナイーブな特性が実証されることも示唆されている(
図7E)。
【0219】
(実施例6)
真正なhiPSCを同定するための抗体カクテルの同定
多能性幹細胞表面マーカーを調査した。SSEA4およびTra181の発現に加えて、CD30およびCD50の発現も同定し、さらなる多能性の表面マーカーを示すとみなした(
図10)。Oct4、Klf4およびSox2を発現しているポリシストロニックなレンチウイルスを用いて再プログラミングされた細胞は、種々の能力の状態を示し、真の多能性のマーカー、例えば、Nanogの発現を担持するわずかな細胞を用いて同定される。現在まで、表面マーカーの発現に基づいて真に多能性のhiPSCを同定する信頼できる方法は存在していない。例えば、
図11において認められるように、SSEA4、Tra181およびCD9について陽性と同定された一部のクローン集団は、Nanogを発現せず、hiPSCであると不正確に同定されたことになる。
【0220】
本発明は、真に多能性細胞のマーカーであるNanogを発現している細胞の集団を同定する細胞表面マーカーの組合せを提供する。詳細には、CD30、SSEA4およびTra181である表面マーカーに対して陽性の細胞により、Nanogを発現している細胞が同定される(
図11)。
【0221】
追加富化の別の例では、再プログラミングを受けている細胞集団を選別して、CD13表面マーカーの発現に対して陽性の細胞を同定し、これらのCD13+細胞を再プログラミング細胞集団から除去した。CD13+集団は体細胞および再プログラミングされていない細胞と相関し、再プログラミング細胞集団からCD13+細胞を枯渇させることにより、SSEA4/Tra181陽性細胞の富化が増強された(
図12)。
図12において実証されている通り、体細胞を、Oct4、Klf4およびSox2を発現しているポリシストロニックベクターを用いて21日間再プログラミングさせたとき、多様な表面マーカーの発現パターンを有する種々の細胞集団が生み出され、細胞の少数のサブセットのみがSSEA4およびTra181陽性細胞を示した(点線の矢印、
図12)。しかし、同じ集団を、CD13発現に基づいて最初に評価したところ(実線の矢印、
図12)、CD13に対して陰性の(すなわち、CD13細胞が枯渇した)集団サブセットは、SSEA4およびTra181を発現している細胞について有意に富化された集団を示した(11.04%、
図12)。反対に、高レベルのCD13を発現した細胞のサブセットは、SSEA4とTra181の両方を発現したわずかな細胞を示した(1.14%、
図12)。
【0222】
(実施例7)
分化細胞からの人工多能性幹細胞の生成における単細胞選別の使用
図8Aにおいて認めることができるように、Oct4、Klf4、Sox2およびmycを発現している個々のレンチウイルスを用いて誘導した再プログラミングプロセスの初期にある線維芽細胞培養物は、形態学的に異なる細胞のコロニーを含有した。これらの細胞の一部は多能性のマーカーに対して陽性に染色されたが、他はただ単に形質転換された成長が速い細胞であった。再プログラミングプロセスのこの段階では、細胞形態単独では、どの細胞コロニーがiPSCを形成するようになるかは明らかにならない。成長がより速く、形質転換されたが多能性ではない細胞がすぐに培養物を引き継ぐ。したがって、再プログラミングプロセスの初期にあるiPSCを選択する富化ステップを有することが有利であることになる。さらに、
図8に示されている通り、一部のコロニーは再プログラミングプロセスの間にいくつかの多能性マーカーを発現し、それは、真のiPSCであったが、一部のコロニーは完全には再プログラミングされておらず、一部の多能性のマーカーのみを発現した。
図8Bのコロニー1は、SSEA4とTra181の両方に対して陽性であったが、コロニー4および5は、どちらかのマーカーに対してのみ陽性であった。したがって、コロニー形態によるのではなく、多能性の細胞表面マーカーまたはいくつかのマーカーを同時に用いて多能性細胞を選択することがより効率的であり、技術的な困難が少ないことになる。
【0223】
本明細書に記載の細胞培養組成物を、同様に本明細書において提供される細胞の富化および/または選別方法体系と組み合わせて用いると、再プログラミングプロセスの間に多能性の表面マーカーを示した個々の細胞を選択することによって、より多数のiPSCをより短期間で得ることが可能であった。より詳細に、
図9AおよびBに概略的に示されている通り、再プログラミングの間に多能性のマーカーに基づいて単細胞を選別し、富化することを用いてiPSCを生成するための2つの経路を、本発明の方法を用いて実行した。
【0224】
経路Aでは、再プログラミングの開始後、種々の能力の状態にある細胞の混成集団を生成した。細胞の混成集団は、分化細胞、部分的に再プログラミングされた細胞、再プログラミングされた細胞、および再プログラミングを受けている細胞を含有した。磁気ビーズ選別またはフローサイトメトリー選別などの方法(方法体系については実施例1を参照されたい)を用いて、細胞集団を多能性マーカー、例えば、SSEA4を発現した細胞について富化した。富化されたら、細胞をSMC4培地(表1)、または、特定の実施形態では、SMC4+フィブロネクチン培地でおよそ3日間、その後、SMC4培地と交換し、およそ6〜10日間の培養期間の後、iPSCコロニーを、マーカー、例えば、SSEA4およびTRA181の生培養物染色に基づいて同定し、クローンを拡大するために選び取ったまたは選別した(
図9)。
【0225】
経路Bの概略図(
図9)の下で、再プログラミングの開始後早期に、細胞の混成集団を選別して、2種以上の多能性のマーカーについて陽性である希少な細胞集団を得た。そのようなマーカーとしては、これらに限らないが、SSEA4およびTRA181が挙げられる。選択された、多能性マーカーの組合せを発現している細胞を、フィーダー細胞を補充した培養系またはフィーダーフリー培養系、詳細には、表1に記載の細胞培養培地組成物を補充した培養系に移した。このように、上記の方法体系と比較してタイムラインおよび技術的障壁を有意に減少させてiPSCコロニーを生成した。
【0226】
この技術の特定の実証では、IMR90線維芽細胞に、Oct4およびSox2およびKlf4およびc−Myc(OSKM)を発現しているレンチウイルスを感染させた。数日間フィーダーフリー培養した後、再プログラミング細胞を、それらの体細胞用培地からSMC4培地(表1)を補充したフィーダーフリー培養に切り換えた。再プログラミングを開始した8日後に、フローサイトメトリー分析により、感染細胞集団が、多能性マーカーであるSSEA4を発現した細胞のそれほど大きくない亜集団を含有することが分かった(
図13A)。実施例1に記載の通り磁気活性化細胞選別を用いて、多能性集団を、SSEA4を発現している細胞について3倍に富化した(
図13A)。細胞を、SSEA4を発現している細胞について富化した後、選別された細胞を、Matrigel(商標)を含有し、従来のhESC培地もしくはSMC4培地、または特定の実施形態では、SMC4+フィブロネクチン培地のいずれかを補充したフィーダーフリー培養に移した。培養物のアルカリホスファターゼ染色により、MEK、GSK3、RockキナーゼおよびTGFβの低分子阻害剤を使用することにより、単細胞選別を用いた多能性細胞の富化が支持されたが、従来の基本培地ではそれが支持されなかったことが示されている(
図13A)。
【0227】
3つの独立した実験を定量化することにより、低分子阻害剤の存在下のみで単細胞選別による多能性細胞の選択が明白に実証された(
図13B)。このように富化された細胞由来のコロニーを、SMC4培地中でさらに培養し、これは真のiPSCであると特徴付けられた:真のiPSCは、免疫蛍光検査およびフローサイトメトリーにおいて多能性マーカーであるSSEA4およびTra181に対して陽性に染色され(
図13CおよびD);ヒトESCと同様の遺伝子発現プロファイルを示し(
図13E);外因性の導入遺伝子の有意なサイレンシングを示し(
図13F)、3種の胚葉全てに分化することができた(
図13G)。同じプロトコールを使用したが、従来の培養条件(フィーダー細胞を含有し、SMC4を欠く従来の培地からなる)を用いた場合には、多能性細胞コロニーはめったに観察されなかった。したがって、細胞の再プログラミングの間に、単細胞選別を用いて、多能性の細胞表面マーカーに基づいて多能性細胞集団を頑強に富化する能力は、細胞シグナル伝達経路阻害剤および表1に列挙されている添加物の使用に依存した。さらに、培養系において添加物としてフィブロネクチンを3日間使用したところ、選別後播種の改善が観察された。この再プログラミングプロセスは、ヒト脂肪由来の幹細胞を含めた他の出発細胞型に対しても同様に完了した。
【0228】
当該技術のさらなる例では、多能性の細胞集団を再プログラミングされていない細胞、部分的に再プログラミングされた細胞および完全に再プログラミングされた細胞の混合物から富化するためにFACSを使用した。前述の実施例と同様に、IMR90線維芽細胞に、Oct4およびSox2およびKlf4/cおよびMyc(OSKM)を発現しているレンチウイルスを感染させた。線維芽細胞を感染させた数日後、細胞培養物をSMC4培地でのフィーダーフリー培養に切り換えた。感染細胞集団は、多能性マーカーであるSSEA4とTra181の両方に対して陽性であるそれほど大きくない細胞集団を含有した(
図14A)。両方の多能性マーカーに対して陽性である細胞を選択し、両方のマーカーに対して陰性であるか、または一方のマーカーのみに対して陽性である細胞から離して選別した。表1に記載の通りに補充した培地を用いた、いくつかの実施形態ではフィブロネクチンを含有する表1に記載の通りに補充した培地を用いた、その後のフィーダーフリー培養物を比較することにより、両方のマーカーに対して陽性である細胞由来の培養物は、その後に多能性iPSCとして特徴付けられたコロニーを形成したが、FACSによって多能性のマーカーに対して陰性であるとゲーティングされた細胞は、アルカリホスファターゼ陽性コロニーを産生しなかったことが示された(
図14A、B)。より詳細には、基本培地処方物への添加物としてのシグナル伝達分子MEK、GSK、RockおよびTGFβの阻害剤により、再プログラミングプロセスの初期にある多能性細胞の選別選択および富化におけるFACSの使用が容易になった。さらに、培養系においてフィブロネクチンを添加物として3日間使用したところ、選別後播種の改善が観察された。
【0229】
次に、SMC4培地および培養系の利点を用いて、フィーダーフリーおよびクローニングにより得られるhiPSCを生成するためのハイスループットな方法を開発した。スキームは、再プログラミングされるように誘導された細胞をSMC4培地で処理し、多能性マーカーの組合せによって示される、忠実に再プログラミングされた希少な個々の細胞を選択するように工夫した。さらに、本発明者らは、再プログラミングプロセスとマルチプレックスプラットフォームを組み合わせて、最上位のクローンを二重マーカーフローサイトメトリー、qRTPCRおよび免疫蛍光検査の選択アッセイに基づいて有効に選択した(
図15)。
【0230】
最適化されたマルチプレックスプロトコールでは、3−因子(OKS)ポリシストロニックウイルスを用いて再プログラミングを開始し、SSEA4
+/Tra181
+集団の最初のバルクのFACS選別を感染の20日後に完了し、その後、30日目に、96ウェル−プレートにSSEA4
+/Tra181
+細胞をFACS再選別して入れた(
図15およびB)。この戦略により、複数のクローンを得ることが可能になり、多能性マーカーを発現し、外因性の遺伝子活性の減弱およびOct4プロモーターの脱メチル化を示したクローンであるFTC1クローン1および2が生成された(
図15A〜C)。FTC1クローン1および2も、in vitroおよびin vivoで3つの体細胞系統に分化することにより、多能性であることが示された(
図15D、E)。選択されたクローンを、染色体の完全性についても評価し、それらの親系統および通常の核型からのコピー数の変動が、FF培養液で20回連続して単細胞継代した後でさえも最小であり、これは他の再プログラミング戦略に対する顕著な改善であることが実証された(
図17)。
【0231】
プラットフォームの再現性を決定するために、さらなる線維芽細胞系であるFTC5およびFTC7を、Oct4、Klf4およびSox2を発現しているポリシストロニックベクターを用いて再プログラミングされるように誘導し、
図15に記載のハイスループットプラットフォームに適用した。
図18に記載の通り、FTC5およびFTC7線維芽細胞系に由来するコロニーは、それらの未分化の状態を維持し、それらの多能性およびゲノム安定性を保持することが示された。したがって、3種の多能性因子、SMC4培地およびマルチプレックス特徴付けプラットフォームを組み合わせることにより、フィーダーフリー再プログラミングのカイネティクスが有意に増強され、その一方で、クローンで得られ、ゲノム的に安定なhiPSCをハイスループットな様式で同定し、選択し拡大することが可能になる。
【0232】
(実施例8)
複数のiPSCクローンを迅速に生成するための方法および培養組成物
ヒトiPSCを、多能性遺伝子、例えば、Oct4、Sox2、Klf4、c−myc、Lin28およびNanogを異所性発現させることによって生成することは、非効率的かつ技術的に困難なプロセスである。レンチウイルスまたはレトロウイルスによる多能性因子導入遺伝子の宿主細胞のゲノムへの組込みを、フィーダー細胞支持体を含む培養系と組み合わせてもたらす戦略が、iPSCを生成するための伝統的に最も効率的な方法であった。ヒトiPSCを生成するためのウイルスおよびフィーダー細胞方法体系を用いた歴史的研究についての文献レビューにより、0.001%〜0.01%の効率で感染細胞がiPS細胞になることが示されており、潜在的な多能性細胞は感染後21〜30日の期間で認められ、これらは、感染後30日間〜45日間の間に手動の「凝集塊」継代によって、クローンで得られる(表4)。
【0233】
多能性遺伝子を導入するための他の方法としては、エピソームベクター系および改変されたタンパク質の形質導入が挙げられる。そのような方法は、iPSC技術の最終の臨床的適用に向かう重要な発展であると考えられる。しかし、これらの方法体系は、ウイルス系を用いた再プログラミングよりもさらに効率が低い。さらに、フィーダー細胞フリー系を従来の幹細胞用培地処方物と組み合わせて使用する場合でも、再プログラミングプロセスの効率は低下する、または一部の条件では不可能であり、これにより工業的および治療的な使用のためのiPSCの開発が妨げられている。体細胞の再プログラミングは、確率論的なプロセスとして特徴付けられており、大多数の細胞が時間の経過とともに最終的に再プログラミングされる。しかし、単一の再プログラミングにおいて複数のiPSCクローンを作製するための頑強な、技術的に容易な、効率的な、かつスケーラブルな方法はまだ記載されていない。
【0234】
本発明は、クローンiPSCコロニーを、現行の方法よりも比較的短い時間で、かつより低い技術的障壁で得るための細胞培養条件および方法体系を提供する。詳細には、
図13Bに認めることができるように、特定のシグナル伝達経路の低分子阻害剤をSMC4培地において添加物として使用することにより、フィーダーフリー培養の環境において、SMC4培地を使用しない場合をはるかに超える効率でiPSCコロニーを生成することが可能になった。MEK、GSK、RockおよびTGFβシグナル伝達経路の阻害剤を使用して、フィーダーフリー環境における効率的な再プログラミングを可能にした。
【0235】
図13および表4から認めることができるように、3つの独立した再プログラミング実験では、再プログラミングプロセスにおいて、フィーダーフリー環境で従来のhESC培地を使用した場合にはコロニーは認められなかった、または1つのコロニーが認められたが、低分子培養添加物(すなわち、SMC4培地)により、フィーダーフリー再プログラミング事象が0.035%の効率まで増強され、感染の14〜21日後にコロニーがもたらされ、28〜35日までにクローンのiPSCが得られた。したがって、低分子阻害剤を使用することにより、再プログラミングまでの時間、再プログラミングされた細胞のパーセントに関して再プログラミングの効率が上昇した。この手法を用いて生成したコロニーは、免疫蛍光検査および遺伝子発現プロファイリングなどの標準の手順を用いて、多能性であると特徴付けられた。
【0236】
この技術のさらなる実証では、分化細胞を、個々の多能性遺伝子Oct4、Klf4、Sox2、およびMycを発現しているウイルスに感染させ、SMC4培地およびフィーダーフリー培養環境(表1)で8〜12日間培養した。この時点で、および、実施例6ならびに
図13および14に記載の通り、細胞を、FACSまたはMACS単細胞選別を用いて富化して、多能性マーカー、例えば、SSEA4およびTra181についての陽性染色によって定義される、小さな多能性細胞の集団を得た。この手法を用いて、iPSCを作製するためのタイムラインを著しく縮小し、再プログラミングされた細胞のパーセントの点で0.22%の効率が実証され、コロニーは、選別のすぐ後、数日のうちに現れた(10〜16日)。この再プログラミングの効率により、感染の21〜28日後までにクローンのiPSCを得ることが可能になった。
【0237】
再プログラミングの効率の改善のさらなる実証では、3種(Oct4、Klf4、およびSox2)または4種(Oct4、Klf4、Sox2、およびmyc)の多能性因子を同じプロモーターエレメントから発現させるポリシストロニックベクター系を、最適化されたSMC4培地と、フィーダーフリー培養と、SSEA4およびTRA181を使用した単細胞選別系とを組み合わせて用い、その結果、0.756%の再プログラミング効率がもたらされ、コロニーは感染の6〜8日後に最初に認められた。この方法は、感染のちょうど4日後にiPSCコロニーが存在していたほど効率的であった。これらの技法により、iPSCを生成する伝統的な方法に対して有意な改善が示される。
【0238】
表4:種々の戦略における再プログラミングのカイネティクス。
N.I.、同定されず;*iPSC様コロニーの形態学的出現;**播種した細胞当たりのSSEA4+/Tra181+の数として算出した;***iPSCコロニーを拡大し、クローン系として維持するために必要な時間(Tra181/SSEA4染色に基づく)。灰色の枠は、文献検索からのデータを示す。個々の因子ウイルス;感染は、それぞれが重要な転写因子のうちの1つを発現している個々のウイルスを組み合わせることによって行い、3はOct4/Klf4/Sox2の組合せを表し、4はOct4/Klf4/Sox2/cMycの組合せを表す。
【0239】
【表4-1】
【0240】
【表4-2】
(実施例9)
単細胞選別および富化を用いて多能性細胞集団を分化細胞集団から枯渇させる方法
薬物スクリーニングおよび幹細胞生物学の一部の臨床的適用には、ESCまたはiPSCなどの多能性細胞から特定の系統に分化した均一の細胞集団を生成することが必要である。分化細胞集団に多能性細胞が混入することにより、誤ったスクリーニング結果がもたらされる可能性がある、または、in vivoにおいて腫瘍/奇形腫の形成がもたらされる可能性さえある。細胞集団を分化細胞について富化するか、または多能性細胞を細胞集団から枯渇させるかのいずれかの方法は、本明細書の実施例3および6に記載の選別技術を含んでよい。細胞培養培地において低分子添加物を使用することにより、特に、本発明によって提供されるように、単細胞選別プロセスの間に多能性細胞が分化または部分的に分化することが妨げられ、これにより、完全に分化した細胞の集団から多能性細胞を陰性選択することが可能になる。逆に、細胞選別によって分化細胞を細胞集団から陽性選択することは、多能性細胞が多能性の表面マーカーに対して完全に陽性のままである培養条件下ではより有効であり得る。
図20において認めることができるように、完全に分化した線維芽細胞と多能性細胞の混成集団は、表1に記載の培養環境において細胞を前培養した場合には、FACSを用いて有効に分離された。選別手順の間に低分子培養添加物も使用することができ、それにより単細胞懸濁物が安定化される。
図20から、多能性マーカーに対して陰性であるとして選択された細胞は、その後の培養およびアルカリホスファターゼについての染色において完全に多能性細胞を含まないことが確かめられたことが理解され得る。
【0241】
(実施例10)
多能性幹細胞のフィーダーフリー培養におけるサイトカインおよび成長因子を含まない培養
実施例2において考察されている通り、従来のヒト多能性培養系は、フィーダー細胞、および、ヒト多能性幹細胞を未分化の状態に維持するための外因性の刺激として機能するbFGFなどのサイトカインを含む。しかし、フィーダー細胞および組換えサイトカインを産生するためのプロセスは、異種汚染物質の供給源として機能する。さらに、フィーダー細胞から分泌される重要な因子(複数可)およびサイトカインによって刺激される正確な細胞経路はまだ同定されていない。したがって、ヒト多能性幹細胞の従来の培養は、不明確な系を表し、臨床グレードの製造への移行を妨げる可能性がある。
【0242】
この問題に取り組むために、本発明は、実施例2において考察されているフィーダーフリーおよび単細胞継代系を、bFGFおよび他のサイトカインおよび成長因子をSMC4培地処方物から除去することによってさらに改変したさらなる実施形態を包含する。さらに、本発明の一実施形態では、Matrigel(商標)は動物由来の細胞外マトリックスを表し、完全には特徴付けられていないので、Matrigel(商標)をゼラチンで置き換えた。本発明のこれらの実施形態により、iPSCを含めた多能性幹細胞の内因性自己再生および維持を可能にする、完全に定義済みかつサイトカインを含まない培養系が提供された。
【0243】
図21Aおよび21Bにおいて実証されている通り、Oct4、Klf4、およびSox2を含有するポリシストロニックベクター系を用いて生成し、フィーダーフリー環境において維持したiPSCなどのヒト多能性幹細胞は、さらなるサイトカインまたは成長因子、例えばbFGFを欠くSMC4培地を有する、ゼラチンでコーティングした培養表面で容易に単細胞継代された。この完全に定義済みの系において数回の継代後、iPSCは、Tra181およびSSEA4の共発現によって実証された通り、それらの多能性の状態を維持した(
図21C)。さらに、本発明者らは、この完全に定義済みかつサイトカインを含まない系におけるiPSCの生成を実証した。したがって、一実施形態では、本発明は、SMC4培地とゼラチンの組合せを含む、成長因子およびサイトカインが存在しない完全に定義済みの培養系を提供する。
【0244】
(実施例11)
多能性幹細胞の生成および維持におけるゲノム安定性
複数の試験により、多能性幹細胞の再プログラミングプロセスおよびその後の培養により、ゲノムの異常の傾向がより高くなり得ることが示唆されている。さらに、フィーダーフリー培養により、核型異常細胞のクローン成長を生じることが示されている。
図17A、17Bおよび18Cにおいて実証されている通り、本発明は、再プログラミングさせてゲノム安定性を有する細胞を得る方法、ならびに再プログラミングされたゲノム安定性を有する細胞を維持する方法を提供する。本発明の方法では、細胞を本発明者らのOct4、Klf4およびSox2を含有する3因子ポリシストロニック構築物を使用して再プログラミングさせ、SMC4培地中で培養した場合に、再プログラミングプロセスの間、ならびに長期フィーダーフリー培養の間の両方でゲノム安定性が維持された。
図17Aにおいて認められるように、高分解能比較ゲノムハイブリダイゼーションにより、長期フィーダーフリー培養において、SMC4培地を使用してhiPSCを生成し、維持した場合に、最小のコピー数の変動が検出されたことが実証された。さらに、
図17Bおよび18Cにおいて実証されている通り、常套的な長期フィーダーフリー培養および単細胞培養の間、ゲノム安定性が維持された。
【0245】
(実施例12)
細胞表面マーカーを使用した、培養している間の多能性細胞の細胞集団の維持
多くの場合、幹細胞培養物の多能性を維持するために、分化細胞を多能性細胞培養物から除去することが有用である。現在まで、このプロセスには、分化細胞を細胞培養物から手動で選び取ること、または未分化細胞を実質的に分化した集団から採取することが必要である。どちらのプロセスも重労働であり、技術訓練を必要とし、常に培養物中の細胞の真の多能性の状態を示すとは限らない形態に基づいた細胞の選択に依拠する(
図8)。
【0246】
改善されたプロセスにおいて、本発明は、常套的な培養の間に未分化細胞を効率的かつ正確に選択する能力を提供する。
図19Aにおいて実証されている通り、SMC4培地およびFF培養液において維持したhiPSCの集団は、未分化の多能性細胞の細胞培養物を維持するために容易に富化または選別された。別の例では、
図19Bに記載の通り、通常は廃棄されることになる、大部分が分化細胞の集団を細胞培養物から除去して、Tra181の発現によって表されるように、大部分が未分化の多能性細胞を得ることができる。