【実施例】
【0027】
実施例1
(1)ペプチドと血中タンパク質との複合体を含む液体試料の調製
ペプチドとして、ACTHの1位〜24位のアミノ酸からなるACTH部分ペプチドを、赤色蛍光色素であるテトラメチルローダミン(TMR)で標識したTMR-ACTH部分ペプチド(株式会社バイオロジカ)を用いた。なお、ACTHは塩基性ペプチド(等電点pI=10.64)である。健常者由来の全血(ProMedDx社から購入)をトリス-リン酸混合系緩衝液(Tris・HCl[pH=7.0](最終濃度100 mM)、リン酸ナトリウム(最終濃度0.4 mM)およびNaCl (最終濃度6 mM))にACTH部分ペプチドの最終濃度が5μMとなるように添加し、ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料を調製した。
【0028】
(2)ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料の加熱処理
上記のペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料に、最終濃度が100 mMとなるように各種金属イオンを添加して、ペプチド/血中タンパク質複合体と金属イオンとを含む混合液を得た。なお、各種金属イオンを生じる化合物としては、以下のものを用いた;ZnCl
2(ナカライテスク株式会社製、製品No.36920-24、製品名 塩化亜鉛 特級)、CaCl
2(和光純薬工業株式会社製、製品No.039-00431、製品名 塩化カルシウム二水和物 特級)、LiCl(和光純薬工業株式会社製、製品No.125-01161、製品名 塩化リチウム 特級)、BaCl
2(和光純薬工業株式会社製、製品No.127-00171、製品名 塩化バリウム二水和物 特級)、MgCl
2(和光純薬工業株式会社製、製品No.131-00162、製品名 塩化マグネシウム六水和物 特級)、MnCl
2(和光純薬工業株式会社製、製品No.139-00722、製品名 塩化マンガン(II)四水和物 特級)、SrCl
2(和光純薬工業株式会社製、製品No.195-07361、製品名 塩化ストロンチウム六水和物 原子)、CsCl(和光純薬工業株式会社、製品No.034-08161、製品名 塩化セシウム 平衡密度勾配遠心用)およびCoCl
2(和光純薬工業株式会社、製品No.036-03682、製品名 塩化コバルト・六水和物 特級)。
【0029】
得られた混合液(1.4 mL)を10 mL容のガラス試験管に移し、次にテフロン製の試験管用耐圧密封ホルダー(マイルストーンゼネラル株式会社)にて封じてから、マイクロ波照射装置(MultiSYNTH型、マイルストーンゼネラル株式会社)を用いて、室温(25℃)から100℃まで30秒間で昇温し、その後100℃から160℃まで1分間で昇温することにより加熱処理を行った。加熱処理後の冷却は、前記のマイクロ波照射装置に接続されたエアコンプレッサー(YC-3R型、株式会社八重崎空圧)から圧縮空気を前記の耐圧密封ホルダーに吹き付けることで行った。冷却速度は、毎分20℃とした。対照として、金属イオンを添加していない上記の液体試料(1.4 mL)を同様に封じてから同様の加熱処理に供した。加熱処理後の混合液または液体試料中には、いずれも沈殿物が見られた。
【0030】
(3)ペプチドおよび血中タンパク質の検出
加熱処理後の上清画分をサンプルとして、SDS-PAGEを行った。具体的には、10xローディングバッファー(タカラバイオ株式会社)および60%(w/w)グリセロール溶液の1:1混合物であるサンプルバッファー(還元剤非添加)と上記サンプルとを混合し、ニューページ4-12%ビス-トリスゲルおよびニューページMES SDSランニングバッファー(共にライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて200V(定電圧)で30分間、電気泳動を行った。泳動槽はエクセルシュアロックミニセル(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、電源装置はパワーステーション1000XP(アトー株式会社)を用いた。電気泳動後のゲルについて、TMR-ACTH部分ペプチドを蛍光イメージャー(Pharos FX Molecular Imager型、バイオラッドラボラトリーズ株式会社)を用いて検出した。この蛍光イメージングの結果に基づいて、画像処理ソフトウェアImageJ 1.46r(NIH)を用いてペプチドあるいはタンパク質残渣のデンシトメトリー値を求め、回収率を下記の式1に従って算出した。
回収率=(金属イオン添加時(水熱後)のデンシトメトリー値)/(金属イオン無添加時(水熱後)のデンシトメトリー値)・・・ 式1
【0031】
なお、本実施例以降の実施例における「回収率」については、水熱反応を行い、金属イオンを添加せずにペプチドを回収する従来技術よりも本発明が顕著な効果を奏することを示すため、上記式1の通り、本実施例の処理(水熱反応および金属イオン添加)後の測定試料を用いた場合のデンシトメトリー値と、対照の測定試料(従来技術である、金属イオン無添加で水熱処理を行った測定試料)を用いた場合のデンシトメトリー値との比を用いた。したがって、「回収率」は、対照の測定試料を1としたときの相対値として表される。
【0032】
なお、蛍光イメージングにおいて検出される金属イオン添加時のペプチドのバンドは金属イオン無添加時のペプチドのバンドよりも濃くなることが予想されるため、金属イオン添加時のペプチドバンド領域におけるデンシトメトリー値は、金属イオン無添加時のバンド領域におけるデンシトメトリー値よりも大きくなることが予想される。したがって、式1によって回収率は、良好な回収率をもってペプチドを回収できた場合に大きくなると考えられる。
結果を下記の表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
その結果、Zn
2+、Ca
2+、Li
+、Ba
2+、Mg
2+およびMn
2+を添加した場合には、金属イオンを添加しない場合と比較して、ペプチドの回収率が増大した。一方、Sr
2+、Cs
+およびCo
2+を添加しても回収率の増大はみられなかった。
この結果から、Zn
2+、Ca
2+、Li
+、Ba
2+、Mg
2+およびMn
2+を金属イオンとして添加した場合、金属イオンを添加しない場合と比較して、より多量のペプチドを回収できることが示された。
【0035】
実施例2
本発明者らは、本発明の回収方法において、等電点(pI)の異なるペプチドを用いても、ペプチド回収率の向上がみられるか否かを調べるために、TMR-ACTH部分ペプチドに加えて、TMR蛍光標識HSA237-249部位フラグメント(等電点pI=12.01、配列AWAVARLSQRFPK、13アミノ酸残基長)およびTMR蛍光標識BNP (等電点pI=10.95)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてペプチドの回収率を評価した。なお、本実施例では金属イオンとしてZn
2+を用いた。結果を下記の表2〜4に示す。なお、表2〜4において、回収率は、各種ペプチドのみをサンプルとして用いて、SDS-PAGEにより得られたバンド領域についてのデンシトメトリーの結果を1とした場合の回収率である。
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
【0039】
その結果、Zn
2+イオンを用いた場合のHSA237-249部位フラグメントの回収率はZn
2+を用いない場合よりも3.59倍、Zn
2+イオンを用いた場合のBNPの回収率はZn
2+を用いない場合よりも1.78倍、およびZn
2+イオンを用いた場合のACTH部分ペプチドの回収率はZn
2+を用いない場合よりも3.80倍優れたペプチドの回収率が得られた。
この結果から、本発明の回収方法によれば、様々な等電点のペプチドを良好な回収率をもってペプチドを回収できることが示された。
【0040】
実施例3
ペプチドとしてTMR-ACTH部分ペプチドを用いたこと、マイクロ波照射加熱を一段階で各温度に昇温して各温度で20秒間保つようにしたこと以外は実施例2と同様にして、加熱温度を変化させた場合にも金属イオン添加によるペプチド回収率の向上がみられるか否かを検証した。加熱なしのサンプルは室温に放置した。結果を下記の表5に示す。
【0041】
【表5】
【0042】
その結果、Zn
2+添加せずに加熱処理も行わなかった場合と比較して、Zn
2+添加後加熱処理を行わなかった場合には1.63倍、加熱処理工程において65℃、120℃および160℃の温度に昇温した場合にはそれぞれ1.52倍、2.63倍および2.08倍も優れたペプチドの回収率が増大した。
この結果から、広範な温度範囲で優れた回収率をもってペプチドを回収できることが示された。
【0043】
また、Zn
2+添加後加熱処理を行わなかった場合にも、優れた回収率をもってペプチドを回収できている。このとき、液体試料にZn
2+を添加し混合すると直ちに血中タンパク質の自己会合体様の沈殿物が形成されていた。このことは、金属イオンを添加するだけでペプチドを回収することも可能であることを示唆している。
【0044】
実施例4〜9
本発明者らは、金属イオンや液体試料の濃度の違いがペプチド回収率に与える影響を評価するために、以下の実施例4〜9に記載する実験を行った。
【0045】
実施例4
(1)ペプチドと血中タンパク質との複合体を含む液体試料の調製
全血を、前記のトリス-リン酸混合系緩衝液で3倍希釈し、得られた希釈液に上記のTMR-ACTH部分ペプチドを2 μMの最終濃度で添加し、ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料を調製した。
【0046】
(2)ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料の加熱処理
上記のペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料に、ZnCl
2(ナカライテスク株式会社製、製品No.36920-24、製品名 塩化亜鉛 特級)をZn
2+の最終濃度が100 mMとなるように添加して、ペプチド/血中タンパク質複合体とZn
2+とを含む混合液を得た。
得られた混合液(1.4 mL)を10 mL容のガラス試験管に移し、次にテフロン製の試験管用耐圧密封ホルダー(マイルストーンゼネラル株式会社)にて封じてから、マイクロ波照射装置(MultiSYNTH型、マイルストーンゼネラル株式会社)を用いて、室温(25℃)から100℃まで30秒間で昇温し、その後100℃から160℃まで1分間で昇温することにより加熱処理を行った。加熱処理後の冷却は、前記のマイクロ波照射装置に接続されたエアコンプレッサー(YC-3R型、株式会社八重崎空圧)から圧縮空気を前記の耐圧密封ホルダーに対して吹き付けることで行った。冷却速度は、毎分20℃とした。対照として、Zn
2+を添加していない上記の液体試料(1.4ml)を同様に封じてから同様の加熱処理に付し、この液体試料を用いて得られた回収率を1とした。加熱処理後の混合液または液体試料中には、いずれも沈殿物が見られた。
【0047】
(3)ペプチドおよび血中タンパク質の検出
加熱処理後の上清画分をサンプルとして、SDS-PAGEを行った。具体的には、10×ローディングバッファー(タカラバイオ株式会社)と60%(w/w)グリセロール水溶液を1:1で混合したサンプルバッファー(還元剤非添加)と上記サンプルとを混合し、ニューページ4-12%ビス-トリスゲルおよびニューページMES SDSランニングバッファー(共にライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて200V(定電圧)で30分間、電気泳動を行った。泳動槽はエクセルシュアロックミニセル(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、電源装置はパワーステーション1000XP(アトー株式会社)を用いた。電気泳動後のゲルについて、TMR-ACTH部分ペプチドを蛍光イメージャー(Pharos FX Molecular Imager型、バイオラッドラボラトリーズ株式会社)を用いて検出した。この蛍光イメージングの結果に基づいて、回収率を上記の式1に従って算出した。
結果を下記の表6に示す。なお、表6の記載から明らかなように、Zn
2+最終濃度100 mMの回収率は、Zn
2+添加なし(最終濃度0 mM)の回収率を1とした場合の数値に換算して表示している。
【0048】
【表6】
【0049】
その結果、Zn
2+の最終濃度を100 mMとした場合には、Zn
2+の最終濃度を0 mMとした場合と比較して、1.97倍も優れた回収率をもってペプチドを回収することができた。
この結果から、ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として全血を希釈して用いた場合であっても、良好な回収率をもって血中タンパク質からペプチドを回収できることが示された。
【0050】
実施例5
全血の希釈率を5倍としたこと以外は実施例4と同様にして蛍光イメージングの結果を得、これに基づいて、上記の式1に従って回収率を算出した。
結果を下記の表7に示す。なお、表7の記載から明らかなように、Zn
2+最終濃度100 mMの回収率は、Zn
2+添加なし(最終濃度0 mM)の回収率を1とした場合の数値に換算して表示している。
【0051】
【表7】
【0052】
その結果、Zn
2+の最終濃度を100 mMとした場合には、Zn
2+の最終濃度を0 mMとした場合と比較して、2.17倍も優れた回収率をもってペプチドを回収することができた。
この結果から、ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として用いた全血を希釈した場合であっても、良好な回収率をもって血中タンパク質からペプチドを回収できることが示された。
また、実施例1、2、4および5の結果から、ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として様々な希釈率の全血を用いて、良好な回収率をもって血中タンパク質からペプチドを回収できることがわかる。
【0053】
実施例6
ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として希釈していない血清を用いたこと、Zn
2+を最終濃度5 mMもしくは100 mMで加えたかまたは加えなかったこと以外は実施例4と同様にして蛍光イメージングの結果を得、これに基づいて、上記の式1に従って回収率を算出した。
結果を下記の表8に示す。なお、表8の記載から明らかなように、Zn
2+最終濃度5 mMまたは100 mMの回収率は、Zn
2+添加なし(最終濃度0 mM)の回収率を1とした場合の数値に換算して表示している。
【0054】
【表8】
【0055】
その結果、Zn
2+の最終濃度を5 mMおよび100 mMとした場合には、Zn
2+の最終濃度を0 mMと場合と比較して、それぞれ3.02倍および6.85倍も優れた回収率をもってペプチドを回収することができた。
この結果から、ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として血清を用いた場合であっても、良好な回収率をもって血中タンパク質からペプチドを回収できることが明らかとなった。
【0056】
実施例7
ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として用いた血清を10倍に希釈したこと、Zn
2+を最終濃度100 mMで加えたかまたは加えなかったこと以外は実施例6と同様にして蛍光イメージングの結果を得、これに基づいて、上記の式1に従って回収率を算出した。
結果を下記の表9に示す。なお、表9の記載から明らかなように、Zn
2+最終濃度100 mMの回収率は、Zn
2+最終濃度0 mMの回収率を1とした場合の数値に換算して表示している。
【0057】
【表9】
【0058】
その結果、Zn
2+の最終濃度を100 mMとした場合には、Zn
2+の最終濃度を0 mMと場合と比較して、1.35倍も優れた回収率をもってペプチドを回収することができた。
この結果から、ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として用いた血清を希釈した場合であっても、良好な回収率をもって血中タンパク質からペプチドを回収できることが示された。
【0059】
実施例8
ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として希釈していない血清を用いたこと、金属イオンとしてCa
2+を最終濃度1000 mMで加えたかまたは加えなかったこと以外は実施例4と同様にして蛍光イメージングの結果を得、これに基づいて、上記の式1に従って回収率を算出した。
結果を下記の表10に示す。なお、表10の記載から明らかなように、Ca
2+最終濃度1000 mMの回収率は、Ca
2+最終濃度0 mMの回収率を1とした場合の数値に換算して表示している。
【0060】
【表10】
【0061】
その結果、Ca
2+の最終濃度を1000 mMとした場合には、Ca
2+の最終濃度を0 mMと場合と比較して、1.45倍も優れた回収率をもってペプチドを回収できることができた。
この結果から、金属イオンとしてCa
2+を用いた場合であっても、良好な回収率をもって血中タンパク質からペプチドを回収できることが示された。
【0062】
実施例9
ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として用いた血清を10倍に希釈したこと以外は実施例8と同様にして蛍光イメージングの結果を得、これに基づいて、上記の式1に従って回収率を算出した。
結果を下記の表11に示す。なお、表11の記載から明らかなように、Ca
2+最終濃度1000 mMの回収率は、Ca
2+最終濃度0 mMの回収率を1とした場合の数値に換算して表示している。
【0063】
【表11】
【0064】
その結果、Ca
2+の最終濃度を1000 mMとした場合には、Ca
2+の最終濃度を0 mMと場合と比較して、1.39倍も優れた回収率をもってペプチドを回収することができた。
この結果から、金属イオンとしてCa
2+を用いた場合に液体試料として用いた血清を希釈したときであっても、良好な回収率をもって血中タンパク質からペプチドを回収できることが示された。
【0065】
実施例10
トリス−リン酸混合系緩衝液、ヒト血清由来γ-グロブリン(和光純薬工業株式会社 製品No.071-02293)、ヒト血清由来アルブミン(和光純薬工業株式会社 製品No. 019-10503)、およびTMR-ACTH部分ペプチド(株式会社バイオロジカ)を用い、液体試料を調製した。TMR-ACTH部分ペプチドが最終濃度2 μM、γ-グロブリンが最終濃度0 mg/mL または4 mg/mL(平均分子量160 kDa換算で0μMまたは25 μM)、ヒト血清由来アルブミンが最終濃度0μMまたは120μMとなるように調製した。この液体試料と、ZnCl
2が最終濃度で0 mMまたは100 mMとなるようZnCl
2含有試薬を混合した。
液体試料を室温(25℃)下で1.5分間静置し、または実施例1と同様に160℃までの加熱を行った。表12に示されるとおり、γ-グロブリン、アルブミン、Zn
2+の何れも含まない液体試料を室温で静置したものを対照試料1とし、γ-グロブリン、アルブミン、Zn
2+の何れも含まない液体試料を160℃まで加熱したものを対照試料2とし、γ-グロブリン、アルブミンを含み、Zn
2+を含まない液体試料を室温で静置したものを対照試料3とした。また、γ-グロブリン、アルブミン、Zn
2+の何れをも含む液体試料を室温で静置したものを測定試料1とし、γ-グロブリン、アルブミン、Zn
2+の何れをも含む液体試料を160℃まで加熱したものを測定試料2とした。
【0066】
【表12】
【0067】
液体試料中の遊離状態のTMR-ACTH部分ペプチドおよび複合体状態のTMR-ACTH部分ペプチドの量を、日立ハイテクノロジーズ社製のF-7000型蛍光光度計を用いた蛍光偏光分光法によって決定した。具体的には、対照試料または測定試料から600 μLを分取して蛍光セル(光路長10 mm)へ移し、波長550 nmの励起光(バンドパスフィルター5 nm)を照射した。得られたTMR-ACTH部分ペプチド由来の蛍光(バンドパスフィルター5 nm、光電子増幅管印加電圧400 V)をモニターし、波長580 nmにおける蛍光の強度を記録した。この強度を元に、下記の式2に従って、γ-グロブリンあるいはアルブミンに結合して複合体形成に参加することなく遊離の状態を維持できているACTH部分ペプチドの割合(遊離量)を算出した。なお、TMR-ACTH部分ペプチドについて、その遊離状態と複合体状態の違いは、TMR由来の蛍光強度の大小で容易に判別可能である。具体的には、複合体状態にあるTMR-ACTH部分ペプチドのTMR基はより強い蛍光を発しやすく(TMRの周辺環境がタンパク成分であり疎水的)、遊離状態にある同ペプチドのTMR基はより消失を受けやすい(TMRの周辺環境がバルク水であり親水的)という現象に基づく。
遊離量=[(測定試料の蛍光強度値)−(対照試料3の蛍光強度値)]/[(対照試料1の蛍光強度値) − (対照試料3の蛍光強度値)]・・・ 式2
【0068】
結果を下記の表13に示す。表12において各液体試料における「ペプチドの遊離量」は、γ-グロブリンおよびアルブミンを含まない液体試料を用いた場合の遊離量を1とした場合の、各液体試料における相対量である。
【0069】
【表13】
【0070】
表13より、Zn
2+が不在で室温(25℃)に静置された液体試料の場合、ペプチドはアルブミンおよびγ-グロブリンとの複合体形成によって遊離されなかった。一方で、100 mMのZn
2+を添加し、室温に静置した場合は、7割のペプチドを回収でき、100 mMのZn
2+を添加し160℃まで加熱した場合は、4割強のペプチドを回収することができた。
以上より、金属イオンとしてZn
2+を用いた場合に、良好な回収率をもってアルブミンおよびγ-グロブリンからもペプチドを回収できることが示された。
【0071】
実施例11
回収対象となるペプチドとして、129残基の卵白由来塩酸リゾチーム(Wako 120-02674 Lot LAQ6504;約15 kDa)を用いた。このリゾチームをPBSに溶解し、ここにZnCl
2溶液とを添加し、測定試料3を得た。測定試料1におけるリゾチームの濃度は10 mg/mL、ZnCl
2の濃度は0.1 Mであった。測定試料3とトリス-リン酸混合系緩衝液(Tris・HCl[pH=7.0](最終濃度100 mM)、リン酸ナトリウム(最終濃度0.4 mM)およびNaCl (最終濃度6 mM))とを等量ずつ混合した溶液(水熱なし)を用いて、SDS-PAGEを行った。ゲルのバンド強度のグラフを
図1Aに示す。また、1.4 mLの測定試料1を10 mL容バイアルに入れ、実施例1と同様の水熱反応を行った。水熱反応後の測定試料1、上記トリス−リン酸混合系緩衝液、リン酸ナトリウムおよびNaClを等量混合した溶液を用いてSDS-PAGEを行った。ゲルのバンド強度のグラフ化を
図1Bに示す。
【0072】
図1Aにおいては、15 kDaの位置に大きなピークが見られた。これは、サンプル中に溶解しているリゾチームのサイズと一致する。
図1Bにおいては、15 kDaの位置にピークを確認することができるが、リゾチームのPBS溶液のピーク(
図1A)と比較してその大きさは大幅に低減している。その代わりに、3.5〜10 kDaおよび3.5 kDa未満の位置にピークが検出された。これは、リゾチームが断片化されたものと考えられる。なお、260 kDaあたりのピークは、リゾチームの断片が凝集したものによると考えられる。
以上より、
図1Bの結果から、本発明のペプチド回収方法を用いれば、リゾチームそのものを回収することもできるし、また、リゾチームの断片を回収することもできることが示された。