特許第6182465号(P6182465)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6182465-ペプチドの回収方法 図000015
  • 特許6182465-ペプチドの回収方法 図000016
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182465
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】ペプチドの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/14 20060101AFI20170807BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20170807BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20170807BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   C07K1/14
   G01N33/48 B
   G01N33/68
   G01N1/28 J
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-14517(P2014-14517)
(22)【出願日】2014年1月29日
(65)【公開番号】特開2015-140320(P2015-140320A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年3月17日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人科学技術振興機構による独創的シーズ展開事業の委託開発「ペプチドマーカーを用いた早期がん検査法」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願。
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】岩井 敦史
(72)【発明者】
【氏名】津國 早苗
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】加畑 博幸
【審査官】 伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−233753(JP,A)
【文献】 特開昭56−032421(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/068489(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
G01N 1/28
G01N 33/48
G01N 33/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドとアルブミンとの複合体を含む血液試料と、Zn2+、Ca2+、Li+、Ba2+、Mg2+、Mn2+およびこれらの金属イオンの何れかを生じる金属化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含む試薬とを混合し、加熱処理することによりアルブミン自己会合体を形成させ、前記ペプチドを前記アルブミンから遊離させる工程と、
遊離した前記ペプチドを回収する工程と、
を含む、ペプチドの回収方法。
【請求項2】
前記加熱処理が、血液試料中の前記ペプチドが熱によって完全には変性しない条件で行われる請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記加熱処理が、マイクロ波照射によって行われる請求項またはに記載の方法。
【請求項4】
混合後または加熱処理後に形成された沈殿物を混合液から除去して、遊離した前記ペプチドを回収する工程をさらに含む請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記血液試料が、血液、血漿または血清である請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記ペプチドが、前記生体によって生成されたペプチドまたはその断片である、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ペプチドとアルブミンとの複合体を含む血液試料と、Zn2+、Ca2+、Li+、Ba2+、Mg2+、Mn2+、およびこれらの金属イオンの何れかを生じる金属化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含む試薬とを混合し、加熱処理することによりアルブミン自己会合体を形成させ、前記ペプチドを前記アルブミンから遊離させる工程と、
遊離した前記ペプチドを検出する工程と、
を含む、ペプチドの検出方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載の方法に用いるための試薬であって、
Zn2+、Ca2+、Li+、Ba2+、Mg2+、Mn2+、およびこれらの金属イオンの何れかを生じる金属化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含む試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液などの液体試料からペプチドを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中には様々なペプチドが含まれているが、その中には、特定の病態にある生体において健常時とは異なる血中濃度を示すペプチドも存在する。そのようなペプチドは、臨床検査の分野において疾患のマーカーとして有用である。
【0003】
血液中にはアルブミンやグロブリンなどのタンパク質(以下、血中タンパク質ともいう)が含まれており、ペプチドは血中タンパク質と結合していることが多い。そのため、ペプチドの検出においては、血中タンパク質から遊離させることが好ましい。ペプチドを遊離させる技術として、特許文献1の技術が挙げられる。特許文献1に記載の方法は、ペプチド/アルブミン複合体を含む溶液を加熱処理することによって、ペプチド非結合性のアルブミン自己会合体を形成させ、ペプチドをアルブミンから遊離させる方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/0277407号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、液体試料からペプチドを高回収率で回収する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ペプチドと血中タンパク質との複合体を含む液体試料と、特定の金属イオンまたは該金属イオンを生じる金属化合物を含む試薬とを混合することによって高回収率でペプチドを回収できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
かくして、本発明は、
ペプチドと血中タンパク質との複合体を含む液体試料と、Zn2+、Ca2+、Li+、Ba2+、Mg2+、Mn2+およびこれらの金属イオンの何れかを生じる金属化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含む試薬とを混合することにより前記ペプチドを前記血中タンパク質から遊離させる工程と、
遊離した前記ペプチドを回収する工程と、
を含む、ペプチドの回収方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のペプチドの回収方法によれば、ペプチドと血中タンパク質との複合体を含む液体試料から前記ペプチドを従来法よりも高回収率で回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】SDS-PAGEゲルのバンド強度のグラフである。
図1B】SDS-PAGEゲルのバンド強度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のペプチドの回収方法(以下、単に「回収方法」ともいう)の遊離工程は、ペプチドと血中タンパク質との複合体を含む液体試料と、Zn2+、Ca2+、Li+、Ba2+、Mg2+、Mn2+およびこれらの金属イオンの何れかを生じる金属化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含む試薬(以下、「試薬」ともいう)とを混合することにより前記ペプチドを前記血中タンパク質から遊離させる工程である。
【0011】
本発明の好ましい実施形態において、液体試料は生体試料である。生体試料としては、例えば、生体から採取した血液などの体液が挙げられる。また、血液から取得した血漿および血清も生体試料に含まれる。液体試料は希釈して用いることもでき、希釈率は当業者が適宜設定することができる。
【0012】
本明細書において、「血中タンパク質」とは、アルブミン、グロブリンなど、血液中に存在するタンパク質である。この血中タンパク質は、血液中で後述のペプチドと結合して複合体を形成しており、本実施形態の遊離工程によってペプチドを遊離する。また、ペプチドを遊離した血中タンパク質は遊離工程における処理中に凝集して沈殿する。
【0013】
本発明の実施形態において、回収されるペプチドは特に限定されず、天然起源のペプチドであってもよいし、合成ペプチドであってもよい。ペプチドの長さとしては、本発明の方法によって回収されるものであれば特に限定されない。液体試料中のポリペプチドのうち比較的サイズの大きいもの(たとえば、血中タンパク質など)は、本発明の遊離工程における処理により凝集して沈殿するが、比較的サイズの小さいもの(たとえば、オリゴペプチドなど)は、液中に遊離される。この遊離したポリペプチドが本発明の方法によって回収され得る「ペプチド」である。液体試料中の全てのポリペプチドが完全に沈殿するか完全に遊離するかのいずれかであるという訳ではなく、ポリペプチドによっては沈殿した凝集体にも含まれ、且つ遊離した成分の中にも含まれるものもある。このようなポリペプチドも、遊離した成分(たとえば、上清)に含まれ、回収が可能となるため、本発明の「ペプチド」に含まれる。なお、本発明の方法によれば、アミノ酸が130残基程度のペプチドであれば試料中に遊離するため、130残基未満のペプチドが回収に好適であるが、これに限定されない。なお、液体試料中にもともと存在するポリペプチドだけでなく、本発明の方法により処理する過程で断片化したポリペプチドも、遊離した成分に含まれるものであれば本発明における「ペプチド」に含まれる。
本発明の実施形態において、ペプチドの等電点は特に限定されず、ペプチドは塩基性ペプチド、酸性ペプチドおよび中性ペプチドのいずれであってもよい。
【0014】
本発明の実施形態において、ペプチドは、生体内で生成された分子に由来するものであってもよいし、生体外から進入した分子に由来するものであってもよい。生体内で生成された分子に由来するものとしては、生体内で生成されたペプチドや、生体内で生成されたポリペプチドの断片などが例示される。
本発明の実施形態において、ペプチドは、血液中に存在するバイオマーカーであってもよい。
そのようなバイオマーカーであるペプチドとしては、例えばグレリン、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、ブラジキニン、α−エンドルフィン、C-peptide、C3fフラグメント、ITIH4フラグメント、Aβペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されない。すなわち、本発明において、遊離されるペプチドには、これまでに同定されていない新規なアミノ酸配列を有するペプチドも含み得る。
バイオマーカーを検出対象とする場合、本実施形態の方法は、たとえば特定の疾患の存在や疾患の進行度についての情報を取得するために利用することができる。即ち、バイオマーカーたるペプチドを本実施形態の方法によって生体試料から回収し、これを定性的および/または定量的に検出することにより、疾患の存在や疾患の進行度を判定する際の指標となりうる情報を取得することが想定される。
また、本発明の実施形態において、ペプチドは、生体に投与されたポリペプチド、その代謝物、あるいはこれらの断片であってもよい。この場合、本実施形態の方法は、たとえば薬剤感受性についての情報を取得するために利用することができる。即ち、薬剤として生体に投与されたポリペプチドやその代謝物を本実施形態の方法によって生体試料から回収し、これを定性的および/または定量的に検出することにより、当該薬剤の感受性等を判定する際の指標となりうる情報を取得することが想定される。
また、本発明の実施形態において、ペプチドは、検査対象の生体に由来するものではなく、生体外から生体内に侵入したものであってもよい。例として、病原体(細菌、ウイルス等)に由来するペプチドなどが挙げられる。この場合、本実施形態の方法は、たとえば病原体への感染についての情報を取得するために利用することができる。即ち、病原体を構成するタンパク質に由来するペプチドや病原体が生成した毒素(たとえば、ベロ毒素など)に由来するペプチドを本実施形態の方法によって生体試料から回収し、これを定性的および/または定量的に検出することにより、当該病原体への感染を判定する際の指標となりうる情報を取得することが想定される。
【0015】
本発明の実施形態において、「試薬」は、下記の金属イオンを含むものまたは水もしくは水性媒体中で溶解して下記のいずれか1つの金属イオンを生じる金属化合物を含むものであれば特に限定されず、固体であってもよいし、溶液状であってもよい。
本発明の実施形態において、「金属イオン」は、Zn2+、Ca2+、Li+、Ba2+、Mg2+およびMn2+からなる群から選択される。なかでもZn2+、Ca2+、Li+、Ba2+およびMg2+が特に好ましい。上記のとおり、これらの金属イオンは、イオン結合性の化合物などとして固体または溶液状の液中にイオンの状態で試薬中に含まれ得るが、例えば上記金属イオンの塩化物、臭化物、チオシアン化物などとして固体であることが好ましく、なかでもZnCl2およびCaCl2として含まれることが特に好ましい。
試薬が固体である場合、該試薬は、上記に列挙した各々の金属イオンを生じ得る金属化合物であってもよいし、このような金属化合物のうちの少なくとも2種の混合物であってもよく、本発明の実施に差支えのない範囲において上記金属化合物以外の成分を更に含んでいてもよい。
試薬が溶液状である場合、該試薬は、上記に列挙した金属イオンのうちの少なくとも1種を含む溶液であり、本発明の実施に差支えのない範囲において上記に列挙した金属イオン以外の成分を更に含んでいてもよい。溶媒は上記の金属化合物の溶解に適したものであれば特に限定されず、当業者が適宜選択することができる。そのような溶媒としては、例えば水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられる。
【0016】
本発明の実施形態において、液体試料に対する試薬の添加量は、金属イオンの最終濃度が血中の金属イオン濃度よりも高くなるような量であれば特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。そのような添加量は、好ましくは金属イオンの最終濃度が0.01〜300 mM、より好ましくは0.5〜200 mM、さらに好ましくは5〜100 mMとなるように添加される。
【0017】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の回収方法は、液体試料と試薬との混合により得られた混合液を加熱処理する工程を更に含む。混合液の加熱処理における温度と時間は、混合液中のペプチドが熱によって完全には変性しない範囲であればよい。ここで「ペプチドが完全に変性する」とは、ペプチドが検出不可能なほどに変性することを意味する。
【0018】
このような加熱処理温度は当業者が適宜設定することができるが、好ましくは40℃以上200℃以下で行われ、より好ましくは50℃以上180℃以下、さらに好ましくは65℃以上160℃以下で行われる。
加熱処理時間もまた当業者が適宜設定することができるが、好ましくは30秒〜5分、より好ましくは1〜3分で行われる。
加熱処理における昇温速度は特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
【0019】
本発明の実施形態において、加熱処理の方法は、混合液を上記の温度で加熱できる方法であれば特に限定されず、当該技術において公知の方法から選択される。そのような方法としては、例えば外部からの熱伝導による加熱、マイクロ波による加熱などが挙げられる。
また、本発明の実施形態において、加熱処理に用いる装置は、混合液の温度を調節しながら加熱できる装置であれば特に限定されないが、例えば水熱反応器、マイクロ波照射装置などが挙げられる。
【0020】
上記の工程によって、混合液中のペプチドと血中タンパク質との複合体から、血中タンパク質の自己会合体と考えられる沈殿物が形成される。特許文献1においては、アルブミンの自己会合体は、熱変性により高次構造が変化し、ペプチドと結合する能力をほとんど失っていると考えられると報告している。したがって、特定の理論に拘束されることを意図しないが、本発明の回収方法のメカニズムを説明し得る1つの仮説としては、本発明の回収方法において、血中タンパク質の自己会合体と考えられる沈殿物が形成される際に、ペプチドが血中タンパク質から遊離されることが考えられる。
【0021】
上記の沈殿物は、混合液に含まれる溶媒に不溶であり、加熱処理後の混合液中で沈殿する。すなわち、加熱処理後の混合液は、血中タンパク質の自己会合体と考えられる沈殿物とペプチドを含む上清画分とに分離される。
本発明の実施形態においては、上記の上清画分をサンプルとして用い、当該技術において公知の方法で解析することにより、ペプチドが血中タンパク質から遊離してフリーな状態で混合液中に存在していることを確認できる。そのような方法としては、例えば電気泳動法、質量分析法などが挙げられる。
【0022】
本発明のペプチドの回収方法の回収工程において、加熱処理後の混合液から沈殿物を除去する方法は特に限定されない。例えば、薬さじなどで沈殿物を直接取り出してもよいし、市販のセパレータまたは濾紙などを用いて該沈殿物を除去してもよい。このように、本発明の回収方法は、加熱処理後の混合液から沈殿物を除去して、遊離したペプチドを含む上清画分を取得することによりペプチドを回収することができる。
【0023】
上述したように、アルブミンの自己会合体はペプチドと結合することはないと考えられる。したがって、アルブミンを主成分として含む血中タンパク質の自己会合体と考えられる沈殿物がペプチドと結合するとは考えにくい。しかしながら、この沈殿物はスポンジのように吸水性を有するので、該沈殿物にはペプチドを含む上清画分が取り込まれることがある。
したがって、本発明の回収方法においては、除去した沈殿物からペプチドを含む上清を取得する工程をさらに含んでもよい。沈殿物からペプチドを含む上清を取得する方法としては、例えば該沈殿物を限外ろ過チューブに入れて遠心することにより上清を搾り取ってもよいし、該沈殿物をホモジナイザーで撹拌することにより上清を取得してもよい。なお、この沈殿物からペプチドを含む上清を取得する方法においては、加熱処理を行う必要はない。
【0024】
従来の方法として、血中タンパク質を除去するために、アルブミンと特異的に結合するカラムに血液試料を通し、アルブミンをカラムに吸着させて血液中に遊離しているペプチドを得るという手法がある。しかし、Lowenthalらの報告(Clin. Chem., vol.51, 1933-1945(2005))によれば、血清中では98%ものペプチドがアルブミンと結合することを報じている。つまり、アルブミンを吸着除去してペプチドを取得する方法では本実施形態の方法によれば、アルブミンと共にペプチドも除去されてしまうため、極めて微量のペプチドしか取得することができないという問題があった。
しかしながら、本実施形態によるとアルブミン等の血中タンパク質と結合したペプチドが遊離された後に回収されるため、より効率的なペプチド回収が可能となる。
【0025】
また、本発明は、ペプチドの検出方法をも含む。この検出方法によると、上記の遊離工程によって遊離したペプチドは、従来公知の方法によって検出される。ここで、検出とは、定量的検出、定性的検出、半定量的検出(陰性、弱陽性、強陽性などの判定)を含む。この検出方法により得られた結果は、上記のような、疾患の判定、薬剤感受性、感染症の有無等の情報を取得するために用いられ得る。
【0026】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
実施例1
(1)ペプチドと血中タンパク質との複合体を含む液体試料の調製
ペプチドとして、ACTHの1位〜24位のアミノ酸からなるACTH部分ペプチドを、赤色蛍光色素であるテトラメチルローダミン(TMR)で標識したTMR-ACTH部分ペプチド(株式会社バイオロジカ)を用いた。なお、ACTHは塩基性ペプチド(等電点pI=10.64)である。健常者由来の全血(ProMedDx社から購入)をトリス-リン酸混合系緩衝液(Tris・HCl[pH=7.0](最終濃度100 mM)、リン酸ナトリウム(最終濃度0.4 mM)およびNaCl (最終濃度6 mM))にACTH部分ペプチドの最終濃度が5μMとなるように添加し、ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料を調製した。
【0028】
(2)ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料の加熱処理
上記のペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料に、最終濃度が100 mMとなるように各種金属イオンを添加して、ペプチド/血中タンパク質複合体と金属イオンとを含む混合液を得た。なお、各種金属イオンを生じる化合物としては、以下のものを用いた;ZnCl2(ナカライテスク株式会社製、製品No.36920-24、製品名 塩化亜鉛 特級)、CaCl2(和光純薬工業株式会社製、製品No.039-00431、製品名 塩化カルシウム二水和物 特級)、LiCl(和光純薬工業株式会社製、製品No.125-01161、製品名 塩化リチウム 特級)、BaCl2(和光純薬工業株式会社製、製品No.127-00171、製品名 塩化バリウム二水和物 特級)、MgCl2(和光純薬工業株式会社製、製品No.131-00162、製品名 塩化マグネシウム六水和物 特級)、MnCl2(和光純薬工業株式会社製、製品No.139-00722、製品名 塩化マンガン(II)四水和物 特級)、SrCl2(和光純薬工業株式会社製、製品No.195-07361、製品名 塩化ストロンチウム六水和物 原子)、CsCl(和光純薬工業株式会社、製品No.034-08161、製品名 塩化セシウム 平衡密度勾配遠心用)およびCoCl2(和光純薬工業株式会社、製品No.036-03682、製品名 塩化コバルト・六水和物 特級)。
【0029】
得られた混合液(1.4 mL)を10 mL容のガラス試験管に移し、次にテフロン製の試験管用耐圧密封ホルダー(マイルストーンゼネラル株式会社)にて封じてから、マイクロ波照射装置(MultiSYNTH型、マイルストーンゼネラル株式会社)を用いて、室温(25℃)から100℃まで30秒間で昇温し、その後100℃から160℃まで1分間で昇温することにより加熱処理を行った。加熱処理後の冷却は、前記のマイクロ波照射装置に接続されたエアコンプレッサー(YC-3R型、株式会社八重崎空圧)から圧縮空気を前記の耐圧密封ホルダーに吹き付けることで行った。冷却速度は、毎分20℃とした。対照として、金属イオンを添加していない上記の液体試料(1.4 mL)を同様に封じてから同様の加熱処理に供した。加熱処理後の混合液または液体試料中には、いずれも沈殿物が見られた。
【0030】
(3)ペプチドおよび血中タンパク質の検出
加熱処理後の上清画分をサンプルとして、SDS-PAGEを行った。具体的には、10xローディングバッファー(タカラバイオ株式会社)および60%(w/w)グリセロール溶液の1:1混合物であるサンプルバッファー(還元剤非添加)と上記サンプルとを混合し、ニューページ4-12%ビス-トリスゲルおよびニューページMES SDSランニングバッファー(共にライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて200V(定電圧)で30分間、電気泳動を行った。泳動槽はエクセルシュアロックミニセル(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、電源装置はパワーステーション1000XP(アトー株式会社)を用いた。電気泳動後のゲルについて、TMR-ACTH部分ペプチドを蛍光イメージャー(Pharos FX Molecular Imager型、バイオラッドラボラトリーズ株式会社)を用いて検出した。この蛍光イメージングの結果に基づいて、画像処理ソフトウェアImageJ 1.46r(NIH)を用いてペプチドあるいはタンパク質残渣のデンシトメトリー値を求め、回収率を下記の式1に従って算出した。
回収率=(金属イオン添加時(水熱後)のデンシトメトリー値)/(金属イオン無添加時(水熱後)のデンシトメトリー値)・・・ 式1
【0031】
なお、本実施例以降の実施例における「回収率」については、水熱反応を行い、金属イオンを添加せずにペプチドを回収する従来技術よりも本発明が顕著な効果を奏することを示すため、上記式1の通り、本実施例の処理(水熱反応および金属イオン添加)後の測定試料を用いた場合のデンシトメトリー値と、対照の測定試料(従来技術である、金属イオン無添加で水熱処理を行った測定試料)を用いた場合のデンシトメトリー値との比を用いた。したがって、「回収率」は、対照の測定試料を1としたときの相対値として表される。
【0032】
なお、蛍光イメージングにおいて検出される金属イオン添加時のペプチドのバンドは金属イオン無添加時のペプチドのバンドよりも濃くなることが予想されるため、金属イオン添加時のペプチドバンド領域におけるデンシトメトリー値は、金属イオン無添加時のバンド領域におけるデンシトメトリー値よりも大きくなることが予想される。したがって、式1によって回収率は、良好な回収率をもってペプチドを回収できた場合に大きくなると考えられる。
結果を下記の表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
その結果、Zn2+、Ca2+、Li+、Ba2+、Mg2+およびMn2+を添加した場合には、金属イオンを添加しない場合と比較して、ペプチドの回収率が増大した。一方、Sr2+、Cs+およびCo2+を添加しても回収率の増大はみられなかった。
この結果から、Zn2+、Ca2+、Li+、Ba2+、Mg2+およびMn2+を金属イオンとして添加した場合、金属イオンを添加しない場合と比較して、より多量のペプチドを回収できることが示された。
【0035】
実施例2
本発明者らは、本発明の回収方法において、等電点(pI)の異なるペプチドを用いても、ペプチド回収率の向上がみられるか否かを調べるために、TMR-ACTH部分ペプチドに加えて、TMR蛍光標識HSA237-249部位フラグメント(等電点pI=12.01、配列AWAVARLSQRFPK、13アミノ酸残基長)およびTMR蛍光標識BNP (等電点pI=10.95)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてペプチドの回収率を評価した。なお、本実施例では金属イオンとしてZn2+を用いた。結果を下記の表2〜4に示す。なお、表2〜4において、回収率は、各種ペプチドのみをサンプルとして用いて、SDS-PAGEにより得られたバンド領域についてのデンシトメトリーの結果を1とした場合の回収率である。
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
【0039】
その結果、Zn2+イオンを用いた場合のHSA237-249部位フラグメントの回収率はZn2+を用いない場合よりも3.59倍、Zn2+イオンを用いた場合のBNPの回収率はZn2+を用いない場合よりも1.78倍、およびZn2+イオンを用いた場合のACTH部分ペプチドの回収率はZn2+を用いない場合よりも3.80倍優れたペプチドの回収率が得られた。
この結果から、本発明の回収方法によれば、様々な等電点のペプチドを良好な回収率をもってペプチドを回収できることが示された。
【0040】
実施例3
ペプチドとしてTMR-ACTH部分ペプチドを用いたこと、マイクロ波照射加熱を一段階で各温度に昇温して各温度で20秒間保つようにしたこと以外は実施例2と同様にして、加熱温度を変化させた場合にも金属イオン添加によるペプチド回収率の向上がみられるか否かを検証した。加熱なしのサンプルは室温に放置した。結果を下記の表5に示す。
【0041】
【表5】
【0042】
その結果、Zn2+添加せずに加熱処理も行わなかった場合と比較して、Zn2+添加後加熱処理を行わなかった場合には1.63倍、加熱処理工程において65℃、120℃および160℃の温度に昇温した場合にはそれぞれ1.52倍、2.63倍および2.08倍も優れたペプチドの回収率が増大した。
この結果から、広範な温度範囲で優れた回収率をもってペプチドを回収できることが示された。
【0043】
また、Zn2+添加後加熱処理を行わなかった場合にも、優れた回収率をもってペプチドを回収できている。このとき、液体試料にZn2+を添加し混合すると直ちに血中タンパク質の自己会合体様の沈殿物が形成されていた。このことは、金属イオンを添加するだけでペプチドを回収することも可能であることを示唆している。
【0044】
実施例4〜9
本発明者らは、金属イオンや液体試料の濃度の違いがペプチド回収率に与える影響を評価するために、以下の実施例4〜9に記載する実験を行った。
【0045】
実施例4
(1)ペプチドと血中タンパク質との複合体を含む液体試料の調製
全血を、前記のトリス-リン酸混合系緩衝液で3倍希釈し、得られた希釈液に上記のTMR-ACTH部分ペプチドを2 μMの最終濃度で添加し、ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料を調製した。
【0046】
(2)ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料の加熱処理
上記のペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料に、ZnCl2(ナカライテスク株式会社製、製品No.36920-24、製品名 塩化亜鉛 特級)をZn2+の最終濃度が100 mMとなるように添加して、ペプチド/血中タンパク質複合体とZn2+とを含む混合液を得た。
得られた混合液(1.4 mL)を10 mL容のガラス試験管に移し、次にテフロン製の試験管用耐圧密封ホルダー(マイルストーンゼネラル株式会社)にて封じてから、マイクロ波照射装置(MultiSYNTH型、マイルストーンゼネラル株式会社)を用いて、室温(25℃)から100℃まで30秒間で昇温し、その後100℃から160℃まで1分間で昇温することにより加熱処理を行った。加熱処理後の冷却は、前記のマイクロ波照射装置に接続されたエアコンプレッサー(YC-3R型、株式会社八重崎空圧)から圧縮空気を前記の耐圧密封ホルダーに対して吹き付けることで行った。冷却速度は、毎分20℃とした。対照として、Zn2+を添加していない上記の液体試料(1.4ml)を同様に封じてから同様の加熱処理に付し、この液体試料を用いて得られた回収率を1とした。加熱処理後の混合液または液体試料中には、いずれも沈殿物が見られた。
【0047】
(3)ペプチドおよび血中タンパク質の検出
加熱処理後の上清画分をサンプルとして、SDS-PAGEを行った。具体的には、10×ローディングバッファー(タカラバイオ株式会社)と60%(w/w)グリセロール水溶液を1:1で混合したサンプルバッファー(還元剤非添加)と上記サンプルとを混合し、ニューページ4-12%ビス-トリスゲルおよびニューページMES SDSランニングバッファー(共にライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて200V(定電圧)で30分間、電気泳動を行った。泳動槽はエクセルシュアロックミニセル(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、電源装置はパワーステーション1000XP(アトー株式会社)を用いた。電気泳動後のゲルについて、TMR-ACTH部分ペプチドを蛍光イメージャー(Pharos FX Molecular Imager型、バイオラッドラボラトリーズ株式会社)を用いて検出した。この蛍光イメージングの結果に基づいて、回収率を上記の式1に従って算出した。
結果を下記の表6に示す。なお、表6の記載から明らかなように、Zn2+最終濃度100 mMの回収率は、Zn2+添加なし(最終濃度0 mM)の回収率を1とした場合の数値に換算して表示している。
【0048】
【表6】
【0049】
その結果、Zn2+の最終濃度を100 mMとした場合には、Zn2+の最終濃度を0 mMとした場合と比較して、1.97倍も優れた回収率をもってペプチドを回収することができた。
この結果から、ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として全血を希釈して用いた場合であっても、良好な回収率をもって血中タンパク質からペプチドを回収できることが示された。
【0050】
実施例5
全血の希釈率を5倍としたこと以外は実施例4と同様にして蛍光イメージングの結果を得、これに基づいて、上記の式1に従って回収率を算出した。
結果を下記の表7に示す。なお、表7の記載から明らかなように、Zn2+最終濃度100 mMの回収率は、Zn2+添加なし(最終濃度0 mM)の回収率を1とした場合の数値に換算して表示している。
【0051】
【表7】
【0052】
その結果、Zn2+の最終濃度を100 mMとした場合には、Zn2+の最終濃度を0 mMとした場合と比較して、2.17倍も優れた回収率をもってペプチドを回収することができた。
この結果から、ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として用いた全血を希釈した場合であっても、良好な回収率をもって血中タンパク質からペプチドを回収できることが示された。
また、実施例1、2、4および5の結果から、ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として様々な希釈率の全血を用いて、良好な回収率をもって血中タンパク質からペプチドを回収できることがわかる。
【0053】
実施例6
ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として希釈していない血清を用いたこと、Zn2+を最終濃度5 mMもしくは100 mMで加えたかまたは加えなかったこと以外は実施例4と同様にして蛍光イメージングの結果を得、これに基づいて、上記の式1に従って回収率を算出した。
結果を下記の表8に示す。なお、表8の記載から明らかなように、Zn2+最終濃度5 mMまたは100 mMの回収率は、Zn2+添加なし(最終濃度0 mM)の回収率を1とした場合の数値に換算して表示している。
【0054】
【表8】
【0055】
その結果、Zn2+の最終濃度を5 mMおよび100 mMとした場合には、Zn2+の最終濃度を0 mMと場合と比較して、それぞれ3.02倍および6.85倍も優れた回収率をもってペプチドを回収することができた。
この結果から、ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として血清を用いた場合であっても、良好な回収率をもって血中タンパク質からペプチドを回収できることが明らかとなった。
【0056】
実施例7
ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として用いた血清を10倍に希釈したこと、Zn2+を最終濃度100 mMで加えたかまたは加えなかったこと以外は実施例6と同様にして蛍光イメージングの結果を得、これに基づいて、上記の式1に従って回収率を算出した。
結果を下記の表9に示す。なお、表9の記載から明らかなように、Zn2+最終濃度100 mMの回収率は、Zn2+最終濃度0 mMの回収率を1とした場合の数値に換算して表示している。
【0057】
【表9】
【0058】
その結果、Zn2+の最終濃度を100 mMとした場合には、Zn2+の最終濃度を0 mMと場合と比較して、1.35倍も優れた回収率をもってペプチドを回収することができた。
この結果から、ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として用いた血清を希釈した場合であっても、良好な回収率をもって血中タンパク質からペプチドを回収できることが示された。
【0059】
実施例8
ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として希釈していない血清を用いたこと、金属イオンとしてCa2+を最終濃度1000 mMで加えたかまたは加えなかったこと以外は実施例4と同様にして蛍光イメージングの結果を得、これに基づいて、上記の式1に従って回収率を算出した。
結果を下記の表10に示す。なお、表10の記載から明らかなように、Ca2+最終濃度1000 mMの回収率は、Ca2+最終濃度0 mMの回収率を1とした場合の数値に換算して表示している。
【0060】
【表10】
【0061】
その結果、Ca2+の最終濃度を1000 mMとした場合には、Ca2+の最終濃度を0 mMと場合と比較して、1.45倍も優れた回収率をもってペプチドを回収できることができた。
この結果から、金属イオンとしてCa2+を用いた場合であっても、良好な回収率をもって血中タンパク質からペプチドを回収できることが示された。
【0062】
実施例9
ペプチド/血中タンパク質複合体を含む液体試料として用いた血清を10倍に希釈したこと以外は実施例8と同様にして蛍光イメージングの結果を得、これに基づいて、上記の式1に従って回収率を算出した。
結果を下記の表11に示す。なお、表11の記載から明らかなように、Ca2+最終濃度1000 mMの回収率は、Ca2+最終濃度0 mMの回収率を1とした場合の数値に換算して表示している。
【0063】
【表11】
【0064】
その結果、Ca2+の最終濃度を1000 mMとした場合には、Ca2+の最終濃度を0 mMと場合と比較して、1.39倍も優れた回収率をもってペプチドを回収することができた。
この結果から、金属イオンとしてCa2+を用いた場合に液体試料として用いた血清を希釈したときであっても、良好な回収率をもって血中タンパク質からペプチドを回収できることが示された。
【0065】
実施例10
トリス−リン酸混合系緩衝液、ヒト血清由来γ-グロブリン(和光純薬工業株式会社 製品No.071-02293)、ヒト血清由来アルブミン(和光純薬工業株式会社 製品No. 019-10503)、およびTMR-ACTH部分ペプチド(株式会社バイオロジカ)を用い、液体試料を調製した。TMR-ACTH部分ペプチドが最終濃度2 μM、γ-グロブリンが最終濃度0 mg/mL または4 mg/mL(平均分子量160 kDa換算で0μMまたは25 μM)、ヒト血清由来アルブミンが最終濃度0μMまたは120μMとなるように調製した。この液体試料と、ZnCl2が最終濃度で0 mMまたは100 mMとなるようZnCl2含有試薬を混合した。
液体試料を室温(25℃)下で1.5分間静置し、または実施例1と同様に160℃までの加熱を行った。表12に示されるとおり、γ-グロブリン、アルブミン、Zn2+の何れも含まない液体試料を室温で静置したものを対照試料1とし、γ-グロブリン、アルブミン、Zn2+の何れも含まない液体試料を160℃まで加熱したものを対照試料2とし、γ-グロブリン、アルブミンを含み、Zn2+を含まない液体試料を室温で静置したものを対照試料3とした。また、γ-グロブリン、アルブミン、Zn2+の何れをも含む液体試料を室温で静置したものを測定試料1とし、γ-グロブリン、アルブミン、Zn2+の何れをも含む液体試料を160℃まで加熱したものを測定試料2とした。
【0066】
【表12】
【0067】
液体試料中の遊離状態のTMR-ACTH部分ペプチドおよび複合体状態のTMR-ACTH部分ペプチドの量を、日立ハイテクノロジーズ社製のF-7000型蛍光光度計を用いた蛍光偏光分光法によって決定した。具体的には、対照試料または測定試料から600 μLを分取して蛍光セル(光路長10 mm)へ移し、波長550 nmの励起光(バンドパスフィルター5 nm)を照射した。得られたTMR-ACTH部分ペプチド由来の蛍光(バンドパスフィルター5 nm、光電子増幅管印加電圧400 V)をモニターし、波長580 nmにおける蛍光の強度を記録した。この強度を元に、下記の式2に従って、γ-グロブリンあるいはアルブミンに結合して複合体形成に参加することなく遊離の状態を維持できているACTH部分ペプチドの割合(遊離量)を算出した。なお、TMR-ACTH部分ペプチドについて、その遊離状態と複合体状態の違いは、TMR由来の蛍光強度の大小で容易に判別可能である。具体的には、複合体状態にあるTMR-ACTH部分ペプチドのTMR基はより強い蛍光を発しやすく(TMRの周辺環境がタンパク成分であり疎水的)、遊離状態にある同ペプチドのTMR基はより消失を受けやすい(TMRの周辺環境がバルク水であり親水的)という現象に基づく。
遊離量=[(測定試料の蛍光強度値)−(対照試料3の蛍光強度値)]/[(対照試料1の蛍光強度値) − (対照試料3の蛍光強度値)]・・・ 式2
【0068】
結果を下記の表13に示す。表12において各液体試料における「ペプチドの遊離量」は、γ-グロブリンおよびアルブミンを含まない液体試料を用いた場合の遊離量を1とした場合の、各液体試料における相対量である。
【0069】
【表13】
【0070】
表13より、Zn2+が不在で室温(25℃)に静置された液体試料の場合、ペプチドはアルブミンおよびγ-グロブリンとの複合体形成によって遊離されなかった。一方で、100 mMのZn2+を添加し、室温に静置した場合は、7割のペプチドを回収でき、100 mMのZn2+を添加し160℃まで加熱した場合は、4割強のペプチドを回収することができた。
以上より、金属イオンとしてZn2+を用いた場合に、良好な回収率をもってアルブミンおよびγ-グロブリンからもペプチドを回収できることが示された。
【0071】
実施例11
回収対象となるペプチドとして、129残基の卵白由来塩酸リゾチーム(Wako 120-02674 Lot LAQ6504;約15 kDa)を用いた。このリゾチームをPBSに溶解し、ここにZnCl2溶液とを添加し、測定試料3を得た。測定試料1におけるリゾチームの濃度は10 mg/mL、ZnCl2の濃度は0.1 Mであった。測定試料3とトリス-リン酸混合系緩衝液(Tris・HCl[pH=7.0](最終濃度100 mM)、リン酸ナトリウム(最終濃度0.4 mM)およびNaCl (最終濃度6 mM))とを等量ずつ混合した溶液(水熱なし)を用いて、SDS-PAGEを行った。ゲルのバンド強度のグラフを図1Aに示す。また、1.4 mLの測定試料1を10 mL容バイアルに入れ、実施例1と同様の水熱反応を行った。水熱反応後の測定試料1、上記トリス−リン酸混合系緩衝液、リン酸ナトリウムおよびNaClを等量混合した溶液を用いてSDS-PAGEを行った。ゲルのバンド強度のグラフ化を図1Bに示す。
【0072】
図1Aにおいては、15 kDaの位置に大きなピークが見られた。これは、サンプル中に溶解しているリゾチームのサイズと一致する。図1Bにおいては、15 kDaの位置にピークを確認することができるが、リゾチームのPBS溶液のピーク(図1A)と比較してその大きさは大幅に低減している。その代わりに、3.5〜10 kDaおよび3.5 kDa未満の位置にピークが検出された。これは、リゾチームが断片化されたものと考えられる。なお、260 kDaあたりのピークは、リゾチームの断片が凝集したものによると考えられる。
以上より、図1Bの結果から、本発明のペプチド回収方法を用いれば、リゾチームそのものを回収することもできるし、また、リゾチームの断片を回収することもできることが示された。
図1A
図1B