【実施例】
【0055】
全ての実施例において使用された紙は、特に言及がない限り、ハーネミューレファインアート社(ドイツ)の綿由来セルロース紙FP 2992であった。
【0056】
[実施例1:SiQAC溶液を用いて行う細菌培養物の紙ベース精製およびPCR産物解析]
プロトコール:
1.所与の細菌(肺炎桿菌(K. pneumoniae)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、および結核菌(M. Tuberculosis)*)のオーバーナイト(O/N)培養物を調製し、50μlを採取する。[* MTB培養物は2週間インキュベートされたものである(O.D. 1.1)]
2.オーバーナイトで乾燥させる3組のカードを調製する。
i. 未処理紙
ii. 15μlの水中に希釈された5μlのSiQAC(3-TPAC)溶液で官能化されたもの
iii. 15μlのTRIS-Cl[pH 7.5]中に希釈された5μlのSiQAC(3-TPAC)溶液で官能化されたもの
3.処理済みおよび未処理の紙の各組に20μlの培養物を加え、室温で10分間乾燥させる[各培養物について異なる紙上でx4の反復]
4.滅菌生検穿孔器を使用して紙穿孔ディスクを取り除く(1.5mm)。
5.穿孔ディスクをPCR混合物(20μl最終体積)に加える。
6.各試験について16Sユニバーサルを35サイクル行う:K. pneumoniaeおよびS. aureus、GD’s MTB/RIF。
7.K. pneumoniaeおよびS. aureusについてPCR産物の標準的なパイロシーケンス決定法を使用する。
【0057】
結果:
1.K. pneumoniaeについての標準的パッド(第1組)からのPCRは、パイロにおいて平均18 bpの高品質配列読み取りを生じた。
2.K. pneumoniaeについて、15μlの水に加えられた5μlのSiQAC(3-TPAC)溶液で強化されたパッド(第2組)からのPCRは、パイロにおいて平均24 bpの中品質配列読み取りを生じた。
3.K. pneumoniaeについて、15μlのTRIS-Cl[pH 7.5]に加えられた5μlのSiQAC(3-TPAC)溶液で強化されたパッド(第3組)からのPCRは、パイロにおいて平均28 bpの高品質配列読み取りを生じた。
4.S. aureusについての未処理パッド(第1組)からのPCRは、パイロにおいて平均16 bpの高品質配列読み取りを生じた。
5.S.aureusについて、15μlの水に加えられた5μlのSiQAC(3-TPAC)溶液で強化されたパッド(第2組)からのPCRは、パイロにおいて平均20 bpの中品質配列読み取りを生じた。
6.S. aureusについて、15μlのTRIS-Cl[pH 7.5]に加えられた5μlのSiQAC(3-TPAC)溶液で強化されたパッド(第3組)からのPCRは、パイロにおいて平均25 bpの高品質配列読み取りを生じた。
7.GD’s MTB/RIF:MTB同定は、15μlのTRIS-Cl[pH 7.5]で希釈された5μlのSiQAC(3-TPAC)溶液で強化されたパッドを介して処理された試料におけるRIF同定を含め、上記3組の試料において正しかった。
【0058】
結論:
SiQAC(3-TPAC)溶液で強化された紙は細菌細胞を溶解することに成功し、抽出された核酸からのPCRを実現させた。このことは、パイロシーケンス決定を通じて得られた生の配列長、および、結核菌(これは壊して開けることが難しい細胞であり、この同じレベルの細胞破壊を達成するために従来はNALC-NaOHを用いたきつい処理を要していた)からのMTB-RIFのエンドポイント検出によって確認された。未処理紙は同じ結果を生じなかった。SiQACを緩衝するためにはTRIS-Cl[pH 7.5]が必要とされる。
【0059】
[実施例2:SiQAC溶液で処理された血液からのプラスモディウム種の検出]
図4は、感染患者から得られた血液試料中の異なるプラスモディウム種に由来する核酸の検出結果を示す。
【0060】
[実施例3:紙官能化および使用方法]
3つの代替的な紙官能化方法が提供される:
【0061】
処理A
20μlのSiQAC(3-TPAC)溶液を用いて紙を官能化し、24時間乾燥させ、続いて20μlの5mM TRIS-Cl[pH 9.0]、0.2mM MgCl2中で洗浄し、それから乾燥させて、
i. 試料を適用し、20分間乾燥させ、ディスクを取り除き、PCRのために20μlのミリQ水を加えるか、または、
ii. 試料を適用し、20分間乾燥させ、ディスクを取り除き、20μlのミリQ水中で穏やかなピペット操作を使用してすすぎ、20μlをPCRに使う。
【0062】
処理B
20μlのSiQAC(3-TPAC)溶液を用いて紙を官能化し、30分間乾燥させ、5mM TRIS-Cl[pH 9.0]、0.2mM MgCl2中で洗浄し、それから乾燥させて、
i. 試料を適用し、20分間乾燥させ、ディスクを取り除き、PCRのために20μlのミリQ水を加えるか、または、
ii. 試料を適用し、20分間乾燥させ、ディスクを取り除き、20μlのミリQ水中で穏やかなピペット操作を使用してすすぎ、20μlをPCRに使う。
【0063】
処理C
20μlのSiQAC(3-TPAC)を用いて紙を官能化し、30分間乾燥させて、
i. 試料を適用し、20分間乾燥させ、ディスクを取り除き、20μlのミリQ水中で穏やかなピペット操作を使用してすすぎ、20μlをPCRに使うか、または、
ii. 試料を適用し、20分間乾燥させ、ディスクを取り除き、PCRのために20μlの5mM TRIS-Cl[pH 9.0]、0.2mM MgCl2を加えるか、または、
iii. 試料を適用し、20分間乾燥させ、ディスクを取り除き、20μlの5mM TRIS-Cl[pH 9.0]、0.2mM MgCl2中で穏やかなピペット操作を使用してすすぎ、20μlをPCRに使う。
【0064】
生の痰の臨床試料からの結核菌DNAの抽出について様々な異なる紙処理方法を比較し、NALC-NaOHを用いた標準的セフィエドGeneXpert(ジーンエキスパート)(登録商標)MTB処理を使用して結果を得た。結果を
図5に示す。(MTB=マイコバクテリウムrpoB遺伝子検出;RIFsまたはRIFr=リファンピシン突然変異検出;FAILED=検出なし)。上記3つの処理方法は、異なる程度において核酸をPCR用の溶液中に放出させ、複数コピーおよび単一コピーrpoB遺伝子の検出を実現しリファンピシン突然変異を検出させた。全ての処理は、GeneXpert(登録商標)ゴールドスタンダードシステムに匹敵するデータを産生した。処理Cはゴールドスタンダードと比べて「より良い」結果を生じ、パイロシーケンス決定によりさらに確認されたように、高度な細胞破壊およびPCR分析のための高品質DNAの安定性を提供した。パイロシーケンス決定は、V2リボソームDNA由来の増幅物の30bp配列中に観察される配列多様性を明示し、長い黄色と青のリードは配列中の突然変異の不在を示し、良好な増幅産物の存在を確証させた。
【0065】
図6は、記述された7種類の異なる改変を使用して処理された5つの臨床的痰試料(4x RIFsおよび1x RIFr)からの累積的な正確性データを示している(すなわち35試験)。MTB(明るい青色)およびrpoB突然変異についての融解温度の測定(RIF状態(RIFs、RIFr)および測定されたデータポイントに渡る標準偏差を表す付随エラーバーを表示している)は、処理が融解ピーク決定の精度(±0.5℃以内である)に影響しないことを示している。標準的な方法は測定の精度に影響し得る。
【0066】
図7は、上述の処理を使用して痰から抽出した異なる濃度のMTBの複数回反復試験を示しており、y軸はピーク融解温度を表しx軸はピーク高を表している。
【0067】
これらの例を考慮して、
図8に、SiQAC化合物による紙官能化および試料分析のための最適化されたプロセスを示す。
【0068】
[実施例4:SiQACを使用して痰試料から抽出された結核菌のパイロシーケンス決定]
SiQAC(3-TPAC)官能化複合カードを使用して、3つの痰試料を処理した。1.5mmのディスクを、ホットスタートを伴わない(すなわちサイクリングのみの)標準的16SリボソームDNA増幅に添加し、得られた増幅物を、パイロシーケンス決定法を用いて分析した。結果は、良好な抽出および増幅を示唆する>25ヌクレオチドのリード長を提供してコア配列領域の良好な増幅を示した。
サーチモード:フルサーチ
平均アイデンティティスコア:100%
サーチエンジン:PyroMark Q96 ID
参照データベース:HULPII
参照配列:M. microti ATCC19422
試料1 > CGGCTGCTGGCACGTAGTTGGCCGGTCCTTCTT
試料2 > CGGCTGCTGGCACGTAGTTGGCCGGTCCTTCTT
試料3 > CGGCTGCTGGCACGTAGTTGGCCGGTCC
【0069】
[実施例5:全乳からの微生物DNAの単離]
全乳は多くの阻害因子を有し、PCRには難しい試料タイプである。好適な方法(
図8に示されている)を使用して複合紙を官能化した。官能化紙の単一1.5mmディスクおよび乾燥乳試料を、ユニバーサル16SリボソームDNA増幅のためのプライマーを用いた標準的PCR混合物に加えた。増幅したDNAを標準的なゲル上で流した。
図9はその結果を示す。(第1レーン:分子量マーカー;第2レーン:5μlの大腸菌参照gDNA+1μlの100% Si-QAC(3-TPAC)溶液;第3レーン:5μlの大腸菌参照gDNA+1μlの10% Si-QAC(3-TPAC)溶液;第4レーン:5μlの大腸菌参照gDNA+1μlの1% Si-QAC(3-TPAC)溶液;第5レーン:10% Si-QAC(3-TPAC)溶液で官能化された1.5mmディスク+20μlの全乳;第6レーン:1% Si-QAC(3-TPAC)溶液で官能化された1.5mmディスク+20μlの全乳;第7レーン:官能化された1.5mmディスク+20μlの全乳;第8レーン:1μlの全乳)。
【0070】
示されているデータは、1% Si-QAC(3-TPAC)を用いた官能化が、未処理紙と比べて増幅を増強させることを実証している(第6および第7レーン)
【0071】
ディスクは、乳酸菌用の強化培地(トリプトン5g/l、ブドウ糖1g/l、酵母抽出物2.5g/l、およびスキムミルク粉末1g/l)プラス4%寒天(R.C. MARSHALL (1993) Standard Methods for the Microbiological examination of dairy products, 16th Ed. (American Public Health Association))に播種することによって残余細菌についてチェックした。オーバーナイト培養は、Si-QAC(3-TPAC)で処理したディスク上には細菌増殖を示さなかったが、未処理ディスクの培養プレートには集密的な増殖を示し、官能化紙が液体を15分間以内で除菌したことが確認された。
【0072】
[実施例6:官能化カードを用いて血清由来HIVウイルスから抽出されたRNAからのrt-pcr]
要約
官能化カードは、陽性診断された匿名患者由来の血漿試料を用いたHIV K103増幅物のRT-ネステッドPCRに有効であった。別の患者(やはり陽性診断されていた)由来の全血試料を用いた平行アッセイでは、PCRにおいても(1%アガロースゲルにおいて断片が検出されなかった)パイロにおいても結果が得られなかった。
【0073】
アッセイ説明
標準化されたプロトコールに従って、精製溶液(PF溶液、3-TPACを含有する)を使用して2つのカードを官能化させた。
1.カードを開けて、緩衝液(5 mM Tris HCl(pH 9.0)、0.2 mM MgCl2)中に希釈された1/100 PF溶液を20μl適用する
2.15分間乾燥させる
3.20μlの試料*を適用する
4.15分間乾燥させる
5.単一のディスクを打ち抜きRTに加える
*試料は、HIV陽性末梢血由来の血漿(1)およびHIV陽性末梢血(2)であった
【0074】
RT混合物としては、アプライドバイオシステムズ社のスーパースクリプトVILO cDNA合成キットを、使用説明書に記載されたとおりに使用し、30μlの最終体積に調節した。
その後PCRを以下のようにして調製した:
H2O ― 5.8μl
10x PCR緩衝液 ― 5μl
MgCl2[50mM] ― 2μl
dNTPs ・10mM・ ― 1.2μl
1849+ ・10μM・ ― 1μl
3500- ・10μM・ ― 1μl
Ultratools Taqポリメラーゼ[1u/μl] ― 1μl
スーパースクリプトVILO cDNA合成キットからのcDNA ― 30μl
【0075】
使用したプライマーは以下のとおりであった:
1849+ 5’-GATGACAGCATGTCAGGGAG
3500- 5’-CTATTAAGTATTTTGATGGGTCATAA
【0076】
PCRプログラム:
94℃ 2分、続いて以下のものを45サイクル
94℃ 30秒
50℃ 30秒
72℃ 1分30秒;続いて
72℃ 5分
10℃ ∞
【0077】
このPCRの産物は1702 bp長でありHIV1のgag-pro-pol領域を含む。この増幅物を、2次PCRのための鋳型として使用した。
【0078】
2次PCRは以下のようにして調製した:
H2O ― 20μl
10x PCR緩衝液 ― 4μl
MgCl2[50mM] ― 1.6μl
dNTPs ・10mM・ ― 0.8μl
K103F ・10μM・ ― 3.2μl
BioK103F ・10μM・ ― 3.2μl
Biotools Taqポリメラーゼ[1u/μl] ― 0.5μl
ネステッドPCRからのPCR産物 ― 5μl
【0079】
使用したプライマーは以下のとおりであった:
K193F 5’-GGAATACCACATCCYGCAGG
BioK103R 5’-[ビオチン]AATATTGCTGGTGATCCTTTCC
【0080】
PCRプログラム:
95℃ 5分、続いて以下のものを30サイクル
95℃ 30秒
55℃ 30秒
72℃ 30秒;続いて
72℃ 5分
10℃ ∞
【0081】
2次PCRからのPCR産物は203bpであり、
図10に示す濃縮アプローチに従ったパイロシーケンス決定反応に使用した。
【0082】
結果
血漿試料のみがパイロシーケンス決定機において良好なシグナルを提供し、記述したプロトコールに従うと血液試料は全く結果を生じなかった。使用した配列決定用プライマーはK103F(5’-GGAATACCACATCCYGCAGG)であり、得られた配列は、NCBIのBLASTツールを使用してHIV全ゲノムに対してマッチングさせた。この配列はHIVにうまくマッチした―
図11参照。