特許第6182615号(P6182615)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6182615溶接性に優れた高マンガン耐摩耗鋼の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182615
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】溶接性に優れた高マンガン耐摩耗鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/02 20060101AFI20170807BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20170807BHJP
   C22C 38/04 20060101ALI20170807BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   C21D8/02 D
   C22C38/00 302A
   C22C38/04
   C22C38/14
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-551042(P2015-551042)
(86)(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公表番号】特表2016-508184(P2016-508184A)
(43)【公表日】2016年3月17日
(86)【国際出願番号】KR2012011745
(87)【国際公開番号】WO2014104441
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2015年6月24日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0155559
(32)【優先日】2012年12月27日
(33)【優先権主張国】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,スーン‐ギ
(72)【発明者】
【氏名】ソ,イン‐シク
(72)【発明者】
【氏名】パク,イン‐ギュ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ホン‐ジュ
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−154295(JP,A)
【文献】 特開2001−140039(JP,A)
【文献】 特開昭51−096721(JP,A)
【文献】 特開2003−138345(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/092122(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面積分率で60%以上のマルテンサイト、5〜40%の残留オーステナイトを含む耐摩耗鋼を製造する方法であって、
重量%で、Mn:5〜15%、C:16≦33.5C+Mn≦30、Si:0.05〜1.0%を含み、残りはFe及び不可避な不純物からなる鋼スラブを900〜1100℃の温度範囲で0.8t(t:スラブの厚さ、mm)分以下の時間加熱する段階と、
前記加熱したスラブを熱間圧延して鋼板を製造する段階と、
前記鋼板をマルテンサイト変態開始温度(Ms)以上で0.1〜20℃/sの冷却速度で冷却する段階と、
を含むことを特徴とする溶接性に優れた高マンガン耐摩耗鋼の製造方法。
【請求項2】
前記加熱する段階では、鋼スラブの偏析帯を非均質化処理することを特徴とする請求項に記載の溶接性に優れた高マンガン耐摩耗鋼の製造方法。
【請求項3】
前記鋼スラブは、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下、Ti:0.1%以下及びB:0.02%からなる群より選択された1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項に記載の溶接性に優れた高マンガン耐摩耗鋼の製造方法。
【請求項4】
前記圧延段階は750℃以上で仕上げ圧延することを特徴とする請求項1に記載の溶接性に優れた高マンガン耐摩耗鋼の製造方法。
【請求項5】
前記冷却後、950℃以下の温度で再加熱し冷却する段階をさらに含むことを特徴とする請求項に記載の溶接性に優れた高マンガン耐摩耗鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高硬度が求められる建設重機、ダンプトラック、鉱山用機械装置、コンベヤーなどに適用される鋼に関するもので、より詳細には、溶接性に優れた高マンガン耐摩耗鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、建設、輸送、鉱山、鉄道などの産業分野などにおいて耐摩耗特性が必要な装置又は部品には、耐摩耗鋼が用いられている。耐摩耗鋼は、オーステナイト系加工硬化鋼とマルテンサイト系高硬度鋼に大別される。
オーステナイト系加工硬化鋼の代表的な例には、ヘッドフィールド(Hadfield)鋼があり、約12重量%のマンガン(Mn)及び約1.2重量%の炭素(C)を含み、その微細組織としてはオーステナイトを有し、鉱山産業分野、鉄道分野、軍需分野などの様々な分野で用いられている。しかし、初期降伏強度が400MPa前後と極めて低いため、高硬度が求められる一般的な耐摩耗鋼又は構造鋼として適用するには制限がある。
【0003】
これに比べて、マルテンサイト系高硬度鋼は、高い降伏強度及び引張強度を有しており、構造材及び輸送/建設機械などに広く用いられている。通常、高硬度鋼は、十分な硬度及び強度を得るためのマルテンサイト組織を得るために、高合金の添加及び焼き入れ(Quenching)工程が不可欠である。代表的なマルテンサイト系耐摩耗鋼は、SSAB社のハルドックス(HARDOX:登録商標)シリーズであり、優れた硬度及び強度を有する。このような耐摩耗鋼は、最近の産業分野の拡大及び産業機械の大型化の傾向により、厚物化への要求が急増している。
しかし、上述した含鉄副産物をミドレックス(Midrex)、ロータリーキルン(Rotary Kiln)などの方式を用いて還元すると、適切な目標還元率を達成するのに長時間がかかる。また、還元炉から排出された600℃以上の還元鉄がエネルギー損失なく直ちに電気炉に投入するためには、還元炉が電気炉の周辺に位置しなければならない。しかし、レイアウト(Layout)上、電気炉のすぐ側面に配置することが容易でない上、当該方法は設備が巨大な規模になり、電気炉より設備投資額がさらに発生する可能性がある。
【0004】
最近は、粉鉱石に炭素を内蔵して一定温度以上にすることで還元雰囲気を作り出し、鉱石と炭素が反応することで、還元が行われるようにする直接還元方式を用いる場合もある。
一方、耐摩耗鋼は、その使用環境に応じて、アブレシブ摩耗(Abrasive wear)に対する抵抗性が大きいことが求められる場合が多く、アブレシブ摩耗に対する抵抗性を確保するためには、硬度が極めて重要である。硬度を確保するためには、多量の合金元素を添加して材料の硬化能を向上させるか、加速冷却を通じて硬質相を確保する。薄物材の場合、合金元素の添加及び加速冷却を通じて材料の厚さの中心部まで高硬度の組織を得ることができるが、厚物材の場合は、材料の中心部まで硬質相が得られる程度の十分な冷却速度を得ることが困難であるため、合金元素を増加させて硬化能を確保して、比較的低い冷却速度でも高い硬度値を得るのが基本的な方法である。
【0005】
しかし、厚物材の場合、厚さの中心部まで硬度を確保するために多量の合金元素を添加すると、溶接時に溶接熱影響部などに容易に亀裂が発生する。特に、厚物材は、溶接時に発生する亀裂を抑制するために材料を高温で予熱しなければならないため、溶接性が劣位となり、結局、溶接費用が増加して使用に制限が生じる。これは溶接性に優れた耐摩耗鋼の厚物化への大きな障害として認識されている。また、硬化能を増加させるために添加されるCr、Ni、Mo等は高価な元素であるため、多くの製造費用がかかるという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面は、耐摩耗鋼の厚物化のために、製造費用を増加させる高価な合金元素の添加を低減させ、厚さの中心部まで高硬度を確保するとともに溶接部の特性に優れた耐摩耗鋼を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、重量%で、Mn:5〜15%、C:16≦33.5C+Mn≦30、Si:0.05〜1.0%、を含み、残りはFe及び不可避な不純物からなり、面積分率で40〜50%の偏析帯領域を含み、微細組織は、面積分率で60%以上のマルテンサイト、5〜40%の残留オーステナイトを含み、前記偏析領域に残留オーステナイトが形成されたことを特徴とする溶接性に優れた高マンガン耐摩耗鋼を提供する。
【0008】
また本発明は、面積分率で60%以上のマルテンサイト、5〜40%の残留オーステナイトを含む耐摩耗鋼を製造する方法であって、重量%で、Mn:5〜15%、C:16≦33.5C+Mn≦30、Si:0.05〜1.0%を含み、残りはFe及び不可避な不純物からなる鋼スラブを900〜1100℃の温度範囲で0.8t(t:スラブの厚さ、mm)分以下の時間加熱する段階と、加熱したスラブを熱間圧延して鋼板を製造する段階と、鋼板をマルテンサイト変態開始温度(Ms)以上で0.1〜20℃/sの冷却速度で冷却する段階と、含む溶接性に優れた高マンガン耐摩耗鋼の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、耐摩耗性と溶接性に優れた厚物の耐摩耗鋼を提供することができる。本発明は、マンガンと炭素の含量を制御することにより、マルテンサイトを容易に形成しながら、偏析帯を通じて残留オーステナイトを適切に形成することで、耐摩耗性及び溶接性をともに向上させることができるという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明で限定するマンガンと炭素の含量範囲を示すグラフである。
図2】発明鋼1の微細組織を観察した写真である。
図3】比較鋼2のY形溶接割れ(Y−groove)試験の結果を観察した写真である。
図4】発明鋼1のY形溶接割れ(Y−groove)試験の結果を観察した写真である。
図5】実施例2において、発明鋼1と比較鋼5の厚さ方向に応じたブリネル硬度の変化の観察結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の発明者らは、従来の耐摩耗鋼の問題を解決すべく鋭意研究した結果、鋳造時、不可避に発生する偏析、主にマンガン及び炭素の偏析によって微細組織内に偏析帯と副偏析帯が形成され、これにより、両帯域間で相違する相変態が引き起こされて微細組織の不均一が生じることが分かった。従来の鋼の内部の偏析は、微細組織の不均一及びこれによる物性の不均一を発生させる最大の原因と認識されていたため、均質化処理などを介して合金元素の拡散を助長して偏析を減少させる等を試みてきた。
しかし、本発明者らは、逆にこのような偏析を容易に活用する方策を研究し、さらに、マンガンと炭素の含量を精密に制御して、偏析部に基地組織とは異なる組織を形成させることで、従来の問題が解決できることが分かった。即ち、主な合金元素であるマンガンと炭素の含量を精密に制御して副偏析帯には主組織であるマルテンサイトを形成させ、偏析帯には合金元素の濃縮により常温までオーステナイトを残留させて軟質相であるオーステナイトを形成させることにより、従来の耐摩耗鋼の限界であった材料の極厚物化が可能で、溶接クラックが発生しない経済的な高マンガン耐摩耗鋼が製造できることを見出して本発明に至った。
【0012】
通常、高マンガン鋼とは、マンガンの含量が2.6重量%以上の鋼のことであり、当該高マンガン鋼の微細組織的特徴を利用して多様な物性組合せを構成することができ、従来の高炭素高合金マルテンサイト系耐摩耗鋼が有する技術的問題を解決することができるという長所がある。
本発明は、成分系を制御してマルテンサイトを主組織にし、偏析帯に合金成分の濃縮による残留オーステナイトを含ませることで、耐摩耗性、溶接性等の性能を向上させた厚物のマンガン耐摩耗鋼に関する。高マンガン鋼においてマンガンの含量が2.6重量%以上では、連続冷却変態曲線(Continuous Cooling Transformation Diagram)上において、ベイナイトまたはフェライトの生成曲線が後方に急激に移動するため、熱間圧延または溶体化処理後、既存の高炭素耐摩耗鋼に比べて低い冷却速度でもマルテンサイトが安定的に生成される。また、マンガン含量が高いと、一般的な高炭素マルテンサイト鋼に比べて相対的に低い炭素含量でも高い硬度を得ることができるという長所がある。
【0013】
このような高マンガン鋼の相変態特性を利用して耐摩耗鋼を製造すると、表層から内部まで硬度のバラツキが小さいという利点が得られる。マルテンサイトを得るためには、水冷などにより鋼材を急冷するが、このとき、鋼材の表層から中心部に向かうほど冷却速度が次第に減少する。従って、鋼材が厚くなるほど、中心部の硬度が著しく低下する。既存の耐摩耗鋼の成分系を利用して製造する場合、冷却速度が遅いと、微細組織にベイナイトやフェライトなどの硬度の低い相が多く形成されるが、本発明のように、マンガンの含量が高い場合には、冷却速度が遅くなっても十分にマルテンサイトが得られるため、厚い鋼材の中心部まで高い硬度を保持することができる。
しかし、このような方法により厚物の鋼材を製造すると、中心部の硬化能を確保するために多量のマンガンを添加しなければならず、結局、高い硬化能による溶接熱影響部でのマルテンサイト変態及びこれによる内部変形が溶接割れを引き起こす。よって、合金元素の増加による耐摩耗鋼材の厚物化は、その限界に達しているといえる。本発明は、このような問題を解決するために、マンガンと炭素の含量を精密に制御して、溶接熱影響部でのマルテンサイト変態による内部変形を緩和させることができる軟質相であるオーステナイトを形成させることにより、上述した問題を解決した。これに対しては、下記実施例を挙げてより具体的に示した。
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明による耐摩耗鋼は、重量%で、Mn:5〜15%、C:16≦33.5C+Mn≦30、Si:0.05〜1.0%、残りはFe及び不可避な不純物を含み、微細組織はマルテンサイトを主組織とし、40%以下の残留オーステナイトを含む。
まず、本発明の組成範囲について詳細に説明する。成分元素の含量は重量%を意味する。
【0015】
マンガン(Mn):5〜15%
マンガン(Mn)は、本発明で添加する最も重要な元素の一つであり、適正範囲内でオーステナイトを安定化させる役割をすることができる。下記炭素含量の範囲内でマルテンサイトを安定化させるためには、マンガンが5%以上含まれることが好ましい。5%未満ではマンガンによるオーステナイトの安定化が十分でないため、偏析部で残留オーステナイトを得ることができない。また、15%を超えて過度に添加されると、残留オーステナイトが安定化しすぎて目標とする残留オーステナイトの分率を超えるようになり、また、マルテンサイトの分率が減少して耐摩耗性の確保に必要な十分な分率の硬質組織を得ることができない。従って、本発明では、マンガンの含量を5〜15%にすることで、熱間圧延または溶体化処理後、冷却段階で安定したオーステナイト組織を容易に確保することができる。
【0016】
炭素(C):16≦33.5C+Mn≦30
炭素は、マンガンとともに鋼材の硬化能を増加させてマルテンサイトの分率及び硬度の確保に重要な元素である。特に、偏析部にマンガンとともに偏析されて残留オーステナイトの安定度及び分率の確保に重要な影響を与えるため、本発明では、その効能が極大化する成分範囲を限定する。
本発明で求める残留オーステナイトの分率を十分に確保するための炭素含量の範囲は、同じ効果を有するマンガンとの組合せによって決まり、そのための炭素含量式である33.5C+Mnが16以上であることが好ましい。16未満ではオーステナイトの安定度が足りず目標とする残留オーステナイトの分率を満たすことができない。また、30を超えると、オーステナイトが過度に安定化して目標とする残留オーステナイトの分率を得ることができないため、33.5C+Mnの値は、16〜30の範囲であることが好ましい。一方、本発明で限定するMnとCの範囲を図1に図式的に示した。
【0017】
シリコン(Si):0.05〜1.0%
シリコンは、脱酸剤としての役割をし、固溶強化によって強度を向上させる元素である。そのためには0.05%以上添加することが好ましく、その含量が高いと、溶接部はもちろんのこと、母材の靭性を低下させるため、その含量の上限は1.0%に限定することが好ましい。
また、本発明における耐摩耗鋼は、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、チタン(Ti)及びボロン(B)のうち1種以上をさらに添加することで、本発明の効果をさらに向上させることができる。
【0018】
Nb:0.1%以下
ニオブは、固溶及び析出強化の効果によって強度を増加させ、低温圧延時に結晶粒を微細化させて衝撃靭性を向上させる元素である。但し、その含量が0.1%を超えると、粗大な析出物が生成されて、却って硬度及び衝撃靭性を劣化させるため、0.1%以下に限定することが好ましい。
V:0.1%以下
バナジウムは、鉄鋼に固溶されてフェライト及びベイナイトの相変態速度を遅延させて、マルテンサイトの形成を容易にする効果があり、また、固溶強化効果によって強度を増加させる。しかし、その含量が0.1%を超えると、効果が飽和され、靭性及び溶接性の劣化を引き起こし、鋼材の製造原価を著しく増大させるため、0.1%以下に限定することが好ましい。
【0019】
Ti:0.1%以下
チタンは、焼入れ性の向上に重要な元素であるBの効果を最大化する元素である。即ち、チタンは、TiNを形成してBNの形成を抑制することにより、固溶Bの含量を増加させて焼入れ性を向上させ、析出されたTiNはオーステナイト結晶粒を固定(pinning)して結晶粒の粗大化を抑制する効果がある。しかし、過度に添加すると、チタン析出物の粗大化によって靭性低下などの問題が生じるため、その含量は0.1%以下にすることが好ましい。
B:0.02%以下
ボロンは、少量添加しても材料の焼入れ性を効果的に増加させる元素で、結晶粒界の強化により粒界破壊を抑制する効果があるが、過度に添加すると、粗大な析出物の形成等により靭性及び溶接性を低下させるため、0.02%以下に限定することが好ましい。
【0020】
本発明による耐摩耗鋼において、残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の鉄鋼製造過程では、原料又は周囲の環境から意図しない不純物が不可避に混入されることがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の鉄鋼製造過程の技術者であれば誰でも分かることであるため、本明細書ではその全内容を具体的に言及しない。
本発明の耐摩耗鋼はマルテンサイトを主組織とし、面積分率で60%以上を含むことが好ましい。マルテンサイトの分率が60%未満では、本発明が意図する硬度を確保することができない。
また、残留オーステナイトは、面積分率で5〜40%であることが好ましい。残留オーステナイトの分率が5%未満になると、溶接時に変形(strain)を吸収することができないため、溶接性を確保することができない。一方、残留オーステナイトの分率が40%を超えると、軟質相であるオーステナイトの分率が増加し過ぎて耐摩耗性に必要な硬度を確保することができない。残りは製造過程で不可避に生成される相が含まれることができる。このようなその他の組織には、α’−マルテンサイト(α’−martensite)、イプシロンマルテンサイト(ε−maretensite)または炭化物などがある。
【0021】
本発明の微細組織についてより詳細に説明する。後述するように、本発明は、鋼スラブ内に形成された偏析帯を利用する。即ち、鋼スラブ内に形成された偏析帯を圧延、冷却する過程で維持させ、偏析帯で残留オーステナイトの形成を誘導する。本発明の耐摩耗鋼では、偏析帯が形成された部分を偏析帯領域と表現することもある。
本発明の耐摩耗鋼は主組織としてマルテンサイト組織を含み、偏析帯領域を面積分率で40〜50%含む。残留オーステナイトは、偏析帯領域に形成されていることが好ましい。このときの残留オーステナイトは、偏析帯領域の全体に形成されてもよく、それより小さい範囲に形成されてもよい。従って、残留オーステナイトは、鋼の面積分率で5〜40%であることが好ましい。
【0022】
従って、本発明の耐摩耗鋼は、基地組織がマルテンサイト組織からなり、偏析帯領域に形成された残留オーステナイトを含み、残留オーステナイトが形成されない部分にその他の組織が形成されることができる。このとき、残留オーステナイトは、偏析帯の面積分率で70〜100%であることが好ましく、残りにはその他の組織が形成されることができる。
一方、残留オーステナイト組織が形成された偏析帯領域は、耐摩耗鋼の圧延方向をx軸、幅方向をy軸、厚さ方向をz軸としたとき、圧延方向と厚さ方向の断面、即ち、x−z断面において、圧延方向(x軸方向)に100〜10000μm、厚さ方向(z軸)に5〜30μmのサイズであることが好ましい。偏析帯領域は残留オーステナイトが生成される区域であり、鋼スラブに形成された偏析帯とは区別されるもので、圧延後の鋼において偏析帯であった部分を示す。偏析帯領域は、圧延が進行するにつれて、圧延方向に対する水平方向に長く形成され、相対的に圧延方向に対する垂直方向(鋼板の厚さ方向)には短く形成される。
【0023】
一方、マルテンサイトの平均パケットサイズが20μm以下であることが好ましい。パケットサイズが20μm以下の場合、マルテンサイト組織が微細化して衝撃靭性がより向上することができる。パケットサイズは小さければ小さいほど有利であり、その下限を特に限定しない。但し、現在、技術の限界によりパケットサイズが最小3μm以上である。パケットサイズは、熱間圧延及び冷却工程を適用する場合には、仕上げ圧延温度が低いほど小さくなり、熱圧鋼板を再加熱及び冷却工程を適用して製造する場合には、再加熱温度が低いほど小さくなる。本発明の成分範囲でパケットサイズを20μm以下にするためには、仕上げ圧延温度は900℃以下、再加熱温度は950℃以下を維持することが好ましい。
本発明による成分範囲の鋼材を用い、熱間圧延及び冷却又は再加熱及び冷却の製造法を適用すると、高い硬化能により冷却速度の低い厚物材の中心部でもマルテンサイトを確保することができ、高い硬化能によるマルテンサイトの変態時の残留応力による溶接部及び溶接熱影響部の割れは、残留オーステナイトの存在により変形吸収が可能で、中心部でもブリネル硬度が360以上の溶接割れのない極厚物の耐摩耗鋼を製造することができる。中心部とは、板の厚さ方向の約1/2部分までを意味する。
【0024】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
本発明は、組成を満たす鋼スラブを900〜1100℃の温度まで0.8t(t:スラブ厚)分以下の時間加熱する段階と、加熱したスラブを熱間圧延する段階と、熱間圧延したスラブをマルテンサイト変態開始温度(Ms)以上で0.1〜20℃/sの冷却速度で冷却する段階と、を含む。
上記組成を満たす鋼スラブを900〜1100℃の温度範囲で加熱する。鋼スラブは、製造過程(鋳造過程等)で合金元素の偏析帯が発生し、温度が1100℃を超えると、過度な熱量により偏析帯に偏析された合金元素の均質化が行われる。このように偏析帯が少なくなると、残留オーステナイトを確保する空間が足りなくなるため、本発明の目的を達成することが困難である。従って、加熱温度を1100℃以下にすることが好ましい。一方、鋼スラブを900℃未満で加熱すると、鋼スラブの十分なオーステナイト化が進行しないため、その後、相変態を通じた本発明の耐摩耗鋼を確保することが困難である。
【0025】
一方、本発明では、鋼スラブの加熱時間を0.8t(t:スラブの厚さ、mm)分以下にすることが好ましい。加熱時間が0.8t分を超えると、過度な熱量の供給によりスラブ内の偏析が均質化するという問題がある。但し、その下限は特に限定しない。
即ち、本発明では、鋼スラブの加熱温度及び加熱時間を制御することにより、鋼スラブに形成された偏析帯が消滅せずに維持されるようにする。
加熱した鋼スラブを熱間圧延して鋼板を製造する。熱間圧延の方法は特に限定されず、当該技術分野における通常の方法で行う。
【0026】
熱間圧延時の仕上げ圧延は、750℃以上で行うことが好ましい。本発明の技術具現上、仕上げ圧延の温度は特に限定されないが、仕上げ圧延温度が750℃未満と低すぎると、適正押下による圧延が行われないため、圧延形状が劣位となる恐れがある。従って、仕上げ圧延は、750℃以上の温度で行うことが好ましい。
圧延後の鋼板内には偏析帯が維持されており、このとき、偏析帯のサイズは、上述したように、圧延方向(x軸方向)に100〜10000μm、厚さ方向(z軸)に5〜30μmであることが好ましい。
熱間圧延した鋼板をマルテンサイト変態開始温度(Ms)以上の温度で0.1〜20℃/sの冷却速度で冷却する。冷却は、相変態が完了するまで行うことが好ましい。冷却により、本発明の耐摩耗鋼の微細組織の主相をマルテンサイト組織にすることができる。冷却速度が0.1℃/s未満では自動焼戻しが発生し、十分なマルテンサイト組織が形成されない。特に中心部で十分なマルテンサイト組織を形成することが困難であり、本発明で求める硬度を確保することが困難である。一方、冷却速度が20℃/sを超えると、偏析帯で残留オーステナイトの相変態を利用することが困難となり、その結果、オーステナイトの分率が足りず溶接性の低下を防ぐことができないという問題がある。
【0027】
冷却過程により、本発明の耐摩耗鋼の微細組織はマルテンサイトを主相にし、残留オーステナイトを面積分率で5〜40%含む。残留オーステナイトは、偏析帯領域に形成されたもので、偏析帯から由来したものである。
本発明では、再加熱を行い、冷却する段階をさらに含んでもよい。再加熱及び冷却によりマルテンサイトのパケットサイズを20μm以下にすることができ、このとき、再加熱温度は950℃以下であることが好ましい。
【0028】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。下記実施例は、本発明の理解を助けるためのものであり、本発明を限定するものではない。
(実施例1)
下記表1の組成を満たすインゴットを真空誘導溶解炉で製造し、80mm厚さのスラブを得た。このスラブを1050℃で50分加熱し、粗圧延及び仕上げ圧延を施して30mm厚さの板材を製造した。その後、加速冷却または空冷し、試験用途に応じて、一部の仕上げ圧延温度を調整した。
【0029】
【表1】
【0030】
このようにして得られた板材の微細組織、ブリネル硬度、耐摩耗性、溶接性などを評価するために、試験に適した形態の試片を製造した。微細組織は光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、耐摩耗性はASTM G65に記載された方法で実験し、重量減量を測定して比較した。溶接性の評価のために、同じ溶接材料を用いてY形溶接割れ試験を行い、予熱はしなかった。Y形溶接割れの発生の有無を顕微鏡で観察した。
本実施例で用いた試片の製造方法は、発明鋼の場合は、高い合金元素の添加により十分な硬化能が得られるため、別途の冷却設備を適用せずに空冷を施し、比較鋼の場合は、熱間圧延後すぐに急速冷却してマルテンサイトを得た。しかし、発明鋼の場合、必要に応じて、熱間圧延後に加速冷却してもよく、別途の熱処理設備を用いて再加熱した後に加速冷却または空冷によりマルテンサイトを得てもよい。本発明は、熱間圧延後に何れの冷却方法を適用してもよい。
【0031】
下記表2において、組織及びブリネル硬度は鋼板の中心部で測定した。これは、鋼板の中心部の組織と硬度が満たされれば、鋼板の厚さ全体で満たされることになるためである。
【表2】
表2において、Mはマルテンサイト、Aは残留オーステナイト、Rはその他の相を示す。
【0032】
図2は発明鋼1の微細組織を観察した写真である。図2を基にすると、本発明のマルテンサイト組織に残留オーステナイトが含まれていることが分かる。
表2に示したとおり、発明鋼1〜7は、鋼材の成分が本発明の成分範囲を満たすため、硬化能が増加して中心部で360以上の値のブリネル硬度が得られることが分かる。また、本発明の成分範囲を満たすことにより、目標とするオーステナイトの分率が得られて、高い硬化能にもかかわらず、溶接割れが発生しないことが分かる。このうち、ニオブを添加した場合(発明鋼6)にはさらに硬度が上昇し、特に、ニオブ、バナジウム、チタン、ボロンを全て添加した発明鋼7は、硬度及び耐摩耗性に優れることが分かる。
空冷によって製造された発明鋼の場合、中心部でも全てブリネル硬度360以上を満たしており、発明鋼より厚い厚物材の中心部でも同じ結果が得られることが期待できる。
また、Y型溶接割れ試験の結果を見ると、比較鋼1及び2は、高い硬化能及びこれによって溶接によるマルテンサイト変態により溶接割れが発生することが分かる。比較鋼5は、合金元素を添加して中心部の硬度を確保したが、硬化能の増加による溶接割れの発生は避けられないことが分かる。図3は比較鋼2のY溶接割れ試験の結果を示したものであり、図4は発明鋼1のY溶接割れ試験の結果を示したものである。図3及び4から、本発明による発明例は優れた溶接性を有することが分かる。
【0033】
(実施例2)
実施例1の表1における発明鋼1と比較鋼5の組成を有する厚さ70mmの鋼板をそれぞれ製造した。
このように、鋼板の厚さによるブリネル硬度の分布を測定し、その結果を図5に示した。図5の結果から、本発明による耐摩耗鋼は厚さ方向に硬度分布が一定であるが、比較鋼では中心部で硬度が著しく低下することが分かる。従って、本発明の耐摩耗鋼は、中心部に行くにつれて硬度が低下せず耐摩耗鋼の全体的な寿命が減少しない技術的効果があることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5