(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182617
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】交互キルティング
(51)【国際特許分類】
A41D 31/02 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
A41D31/02 G
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-555145(P2015-555145)
(86)(22)【出願日】2013年3月21日
(65)【公表番号】特表2016-509138(P2016-509138A)
(43)【公表日】2016年3月24日
(86)【国際出願番号】US2013033229
(87)【国際公開番号】WO2014143071
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2015年7月27日
(31)【優先権主張番号】13/793,453
(32)【優先日】2013年3月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503204222
【氏名又は名称】ザ ノース フェイス アパレル コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】The North Face Apparel Corp.
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ル キン マン
【審査官】
田中 尋
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−117093(JP,A)
【文献】
米国特許第05713079(US,A)
【文献】
特開2011−202295(JP,A)
【文献】
実開昭56−098822(JP,U)
【文献】
米国特許第02831198(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2組の層のセットに配置される互いに平行な複数個の層であって、前記少なくとも2組の層のセットのそれぞれは、対向する2個の層で画定されており、それぞれの層は互いに異なる層であり、前記少なくとも2組の層のセットのそれぞれは、互いにキルティングで縫い合わされた少なくとも2個の層と、複数個のステッチと、を含み、前記複数個のステッチは、第1方向に延びる複数個の平行なステッチ線の第1セットと、前記第1方向と垂直な第2方向に延びる複数個の平行なステッチ線の第2セットと、を形成しており、複数個の平行なステッチ線の前記第1セットは、複数個の平行なステッチ線の前記第2セットに交差し、またがっている、前記複数個の層と、
前記少なくとも2組の層のセットのそれぞれに含まれる前記対向する2個の層の間の空間を占める断熱材と、
を含み、
前記少なくとも2組の層のセットは、前記第1方向及び前記第2方向の双方において互いにオフセットされ、
前記少なくとも2組の層のセットのうちの1個のセットに含まれる隣り合う平行なステッチは、前記少なくとも2組の層のセットのうちの他のセットに含まれる隣り合う平行なステッチよりも長い距離の間隔を空けている、装具。
【請求項2】
前記少なくとも2組の層のセットのうちの1個のセットに含まれる前記複数個のステッチのそれぞれは、前記少なくとも2組の層のセットのうちの他のセットに含まれる前記複数個のステッチの間の領域と位置合わせされる、請求項1に記載の装具。
【請求項3】
前記少なくとも2組の層のセットのうちの1個のセットに含まれる前記複数個のステッチのそれぞれは、前記少なくとも2組の層のセットのうちの他のセットに含まれる前記複数個のステッチの間の中間の領域と位置合わせされる、請求項2に記載の装具。
【請求項4】
前記少なくとも2組の層のセットは、空隙部分によって分離される、請求項1から3のいずれか一項に記載の装具。
【請求項5】
前記少なくとも2組の層のセットのうちの1個のセットの厚さは、前記少なくとも2組の層のセットのうちの他のセットの厚さと異なる、請求項1から4のいずれか一項に記載の装具。
【請求項6】
前記少なくとも2組の層のセットのうちの1個のセットに含まれる前記対向する2個の層の間の前記空間を占める前記断熱材は、前記少なくとも2組の層のセットのうちの他のセットに含まれる前記対向する2個の層の間の前記空間を占める前記断熱材とは異なる、請求項1から5のいずれか一項に記載の装具。
【請求項7】
前記断熱材は、ダウン、ポリフィル、及び、ファイバーボールのうちの1つである、請求項1から6のいずれか一項に記載の装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、縫い合わせのキルティング方法に関し、この方法は、低温、屋内もしくは屋外の環境において体温を保つために使用可能な様々な衣服又はカバーを作製するために使用される。
【背景技術】
【0002】
キルティング衣服及びカバーの最も重要な特徴の1つは、それらの断熱能力である。低温から守るために、キルティング衣料は断熱材を含む。断熱材は大量である必要があるか、又はそれが天然の保温特性を有する場合(例えばダウン)、高価である。結果として、キルティング衣料の断熱効果を最適化することは、それをより暖かく、より快適な着心地にするだけでなく、必要な断熱材の量を減らし、従ってキルティング衣服又はキルティングカバーの製造コストを削減する。
【0003】
現在、当技術分野において、断熱衣類を製造するために使用される2つの最も一般的な構造は、従来のキルティング技法及びバッフル(baffle)技法である。既存の技法によって作製される衣料の断熱特性を、使用する断熱材の量を増やすことなく改良する必要がある。
【0004】
従来のキルティング方法は、断熱材、例えばダウンを含ませるために、衣服又はカバーの外層(外皮)を通してキルティング線を縫うことを必要とする。通常、ダウンは衣服全体に不均一に分散される。ダウンはキルティング部分の中間でより量が多く、より厚く、キルティングステッチで量が少ない。結果として、従来のキルティングによって作製された衣類の断熱性は中間部分で過剰かつ無駄であり、ステッチの周りで不十分である。ステッチには望ましくない低温部分(cold spot)が形成される。
【0005】
バッフル技法はこの問題に対処するために開発されたが、低温部分の一部を覆うだけで、全てを覆うわけではない。この技法は、ステッチの高さに挿入される2次元接合面上で衣服又はカバーの一部を互いに貼り合わせる。バッフル技法が導入するこの2次元接合面は、ステッチ、すなわち貼り合わせ部分の間の冷気の流れを遮断することを目的としている。しかし、バッフル技法で製造された衣料品は、側方から冷気が侵入することを必然的に許すため、依然として非効率的な断熱を提供している。例えば、バッフルにより作製されたジャケットの胸側及び背中側区画は、ジャケットの側方部分で互いに縫い合わせられ、結果として、側方の縫い目が、相当の、かつ不快な低温部分を作り出す。
【0006】
従って、最少量の断熱材を使用し、かつ低温部分のない保温性衣服及びカバーを製造するために使用可能な交互キルティング技法の必要性がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明の一態様は、低温環境において体温を維持し得る装具を作製するために使用される、縫い合わせの交互キルティング方法に関する。装具の一態様は、少なくとも2組の層のセットに配置される互いに平行な複数個の層であって、少なくとも2組の層のセットのそれぞれは、互いにキルティングで縫い合わされた少なくとも2個の層を含む前記複数個の層と、少なくとも2組の層のセットのそれぞれに含まれる少なくとも2個の層の間の空間を占める断熱材と、を含んでいてもよい。少なくとも2組の層のセットは、互いにオフセットされていてもよい。
【0008】
少なくとも2組の層のセットのそれぞれは、複数個のステッチを含んでいてもよい。さらに、複数個のステッチは、少なくとも2組の層のセットのそれぞれに含まれる少なくとも2個の層を互いにキルティングで縫い合わせるように機能していてもよい。さらに、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットに含まれる複数個のステッチのそれぞれは、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットに含まれる複数個のステッチの間の領域と位置合わせされていてもよい。少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットに含まれる複数個のステッチのそれぞれは、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットに含まれる複数個のステッチの間の中間の領域と位置合わせされてもよい。少なくとも2組の層のセットは、空隙部分によって分離されていてもよい。
【0009】
一態様は、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットに含まれる複数のステッチは、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットに含まれる複数のステッチよりも互いに間隔を空けていてもよい。
【0010】
他の一態様は、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットの厚さは、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットの厚さと異なっていてもよい。
【0011】
本発明の一態様では、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットに含まれる少なくとも2個の層の間の空間を占める断熱材は、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットに含まれる少なくとも2個の層の間の空間を占める断熱材とは異なっていてもよい。さらに、断熱材は、ダウン、ポリフィル、及び、ファイバーボールのうちの1つであってもよい。
【0012】
キルティング方法に関する本発明の他の一態様は、互いに平行な複数個の層を置くステップと、複数個の層を少なくとも2組の層のセットに配置するステップであって、少なくとも2組の層のセットのそれぞれは、少なくとも2個の層を含むステップと、少なくとも2個の層のセットのそれぞれに含まれる少なくとも2個の層の間の空間を断熱材で満たすステップと、少なくとも2個の層のセットのそれぞれに含まれる少なくとも2個の層を互いにキルティングで縫い合わせるステップと、少なくとも2組の層のセットを互いにオフセットするステップと、を含んでいてもよい。
【0013】
方法は、少なくとも2組の層のセットのそれぞれに含まれる少なくとも2個の層を互いにキルティングで縫い合わせるために複数個のステッチを使用するステップをさらに含んでいてもよい。少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットに含まれる複数個のステッチのそれぞれを、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットに含まれる複数個のステッチの間の領域と位置合わせするステップをさらに含んでいてもよい。
【0014】
本発明の一態様は、低温環境において体熱を維持し得る様々な衣服又はカバーを作製するために使用される、縫い合わせのキルティング方法に関する。このような衣服の一態様は、少なくとも2組の層のセットに配置される互いに平行な複数個の層であって、少なくとも2組の層のセットのそれぞれは、互いにキルティングで縫い合わされた少なくとも2個の層を含む複数個の層と、少なくとも2つの層のセットのそれぞれに含まれる少なくとも2個の層の間の空間を占める断熱材と、を含んでいてもよい。少なくとも2組の層のセットは、互いにオフセットされていてもよい。少なくとも2組の層のセットは、少なくとも2つの方向、さらに具体的には、水平方向及び側方方向において互いにオフセットされていてもよい。
【0015】
少なくとも2組の層のセットのそれぞれは、複数個のステッチを含み、複数個のステッチは、少なくとも2個の層のセットのそれぞれに含まれる少なくとも2個の層を互いにキルティングで縫い合わせるように機能してもよい。さらに、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットに含まれる複数個のステッチのそれぞれは、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットに含まれる複数個のステッチの間の領域と位置合わせされてもよい。さらに、少なくとも2組の層のセットは、空隙部分によって分離されていてもよい。
【0016】
さらに、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットに含まれる複数個のステッチは、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットに含まれる複数個のステッチよりも互いに間隔を空けて離されていてもよい。一態様では、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットの厚さは、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットの厚さと異なっていてもよい。他の一態様では、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットに含まれる少なくとも2個の層の間の空間を占める断熱材は、少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットに含まれる少なくとも2個の層の間の空間を占める前記断熱材と異なっていてもよい。断熱材は、ダウン、ポリフィル、及び、ファイバーボールのうちの1つであってもよい。
【0017】
本発明は、以下で与えられる詳細な説明から、及び添付図面からより完全に理解されるようになる。図面は、本発明のほんのいくつかの可能な例を開示することを目的とし、従って本発明の範囲を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】隣接する層のセットの接合ステッチが互いにオフセットされている交互キルティングの一例を示す。
【
図1B】層のセットの間の空気の流れを遮断する交互キルティングの一例を示す。
【
図1C】隣接する層のセットの接合ステッチが2つの垂直方向において互いにオフセットされた交互キルティングの一例を示す。
【
図2A】相互比較で使用された交互キルティングの一例及び従来キルティング構造の詳細な記載を示す。
【
図2B】交互キルティングの一例及び従来キルティング構造の間での断熱能力の比較の結果を示す。
【
図3】交互キルティングによって製造された衣服の一例を示す。
【
図4】交互キルティングによって製造された衣服の一例を示し、内層及び外層のセットの接合ステッチが互いに水平方向及び側方方向にオフセットされている。
【
図5】交互キルティングの一例を示す。キルティング部分は幅、厚さ及び使用される断熱材が異なる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は概して、低温、屋内もしくは屋外の環境において体温を保つために使用可能な様々な衣服又はカバーを作製するために使用される縫い合わせのキルティング方法に関する。交互キルティングの好ましい例を以下に詳細に記載するが、本発明による構造は、屋内及び屋外用衣服、ならびに様々なカバー、掛布団、ならびに他の衣類及び装飾品など、幅広い範囲の製品で使用可能である。
【0020】
本発明による交互キルティングの一例が、
図1Aに示されている。交互キルティング方法は、互いに平行な4つの層、すなわち、外皮層102、外側芯地103、内側芯地104及び裏地105を形成することを含み得る。
図1Aに示されるように、外皮層102は、外層、すなわち使用者の体から最も遠い層であるように位置付けてもよく、それは外側芯地103と隣接してもよい。外側芯地103は外皮層102にキルティングで縫い合わせられていてもよい。これら2層の間の空間は断熱材106で占められていてもよい。断熱材106は外側ステッチ107によって保持されていてもよい。断熱材106は、外側ステッチ107の間の中間の領域で豊富でありかつ外側ステッチ107付近で薄くなるように分散させられていてもよい。
【0021】
交互キルティング技法の他の2つの層に目を向けると、裏地105は内層、すなわち、使用者の体に最も近い層であるように位置付けてもよく、それは内側芯地104に隣接してもよい。内側芯地104は裏地105にキルティングされていてもよい。これら2層の間の空間は断熱材106で占められていてもよい。断熱材106は内側ステッチ108によって保持されていてもよい。断熱材106は、内側ステッチ108の間の中間の領域で豊富でありかつ内側ステッチ108付近で薄くなるように分散させられていてもよい。
【0022】
さらに、空隙部分109は、外皮層102及び外側芯地103を含み得る外層のセット110を、内側芯地104及び裏地105を含み得る内層のセット111から分離可能である。空気は元々程度の低い熱伝導体であることを考慮すると、2つの層のセットの間の空隙部分109は、空気をさらなる断熱のために捕捉し得る。
【0023】
外層のセット110及び内層のセット111は、互いにオフセットされてもよい。外層のセット110の外側ステッチ107を、内層のセット111の内側ステッチ108の間の中間の領域と位置合わせしてもよい。それによって今度は、内層のセット111の内側ステッチ108を、外層のセット110の外側ステッチ107の間の中間の領域と位置合わせしてもよい。
【0024】
この特徴が、従来のキルティングに優る大幅な改良を構成する。なぜなら、
図1Bに示されるように、交互キルティング構造は、一方のセットの断熱材106が豊富な領域と冷気を衝突させることによって、他方の層のセットのステッチに侵入する冷気の潜在的経路を遮断するからである。
【0025】
さらに、一例では、
図1Cに示されるように、それぞれの層のセットにおいて、ステッチが互いに垂直な2つの方向、例えば鉛直及び水平方向に形成されるように層が縫い合わされていてもよい。この例では、異なる層のセットのステッチは、鉛直及び水平方向の両方においてオフセットされてもよい。結果として、このパターンは、交互キルティング技法によって製造される衣服又はカバーの潜在的な低温部分の全てを排除し得る。
【0026】
多数の実験を行った後、上記の発明者は、交互キルティング配置が、
図2Bに示されるように、従来のキルティングと比較して全体的な断熱能力を改善することを確定した。比較は
図2Aに提示されるように3種類の異なる断熱材、すなわち、ダウン、プリマロフト、及びサーモボールを使用して行った。交互構造及び従来構造の両方のプリマロフトの厚さは、200gmであるように選択した。サーモボールの厚さは40gmだった。ダウンの厚さは40gmに設定する一方、ダウンの密度は800フィル
パワー、700フィル
パワー、及び600フィル
パワーであるように徐々に変えた。
【0027】
図2Bに示されるように、ダウンで作製された交互キルティング構造は、ダウンの密度に依存して22.58〜43.32%の向上で変化する、従来構造を上回る断熱能力の大幅な改善をもたらした。同様に、プリマロフト又はサーモボールのどちらかで作製された交互構造もまた、従来構造と比較してはるかにより優れた断熱能力を生じ、それぞれ28.38%及び39.18%の改善をもたらした。提示した実験の結果は、様々な密度の異なる断熱材料を用いても、交互キルティングは、当技術分野で利用可能な他のキルティング技法よりも常に良好に機能することを示す。
【0028】
本発明の一実施形態はまた、断熱材106の分散を実質的に改善し、その結果、ベッドカバー、又は冬物衣料を製造するために一般的に使用される高価な天然の断熱材(例えばダウン)の消費を低減し得る。すなわち、一方の層のセットの、ステッチの間の中間の部分を満たすために当技術分野で使用される余分かつ無駄なダウンを今や減らすことができ、差し引かれたダウンの量を、別のオフセットされた層のセットの断熱に使用することができる。ダウンの低減は、交互キルティングによって作製される衣服又はカバーの全体断熱能力を低下させないであろう。反対に、2つの層のセットは互いにオフセットさせることができるので、ステッチの周りの低温部分を排除することができ、それにより体熱がステッチを通って逃げることが防止される。その結果、断熱材を再分散することによって、交互キルティング技法は、キルティングされる衣服又はカバーに必要な全体材料費を削減し得る。
【0029】
さらに、使用される層の数を増やすことによって、交互キルティング技法は、衣服又はカバーの美観の選択肢を増強し得る。すなわち、従来のキルティング技法は内側裏地層を使用するが、これは主として断熱材を包含するためであり、その視覚的又は触覚的訴求のためではない。本発明の一実施形態では、外皮層102及び裏地105は互換性があってもよく、外側芯地103及び内側芯地104は断熱材106を保持するように機能し得る。従って、4層構造のうち2層の配置を裏表反対に交換することによって、外皮層102及び裏地105は、衣服又はカバーの外層になったり内層になったりし得る。それにより、交互キルティング構造は、最も外側の層として外皮層102又は裏地105のどちらかを露出する使用者の選択に基づき、同一衣服又はカバーの2つの独立した美的外観を提供し得る。
【0030】
さらに、2つの層を直接縫い合わせて1つの層のセットにする代わりに、2次元の接合面を隣接する層の間のステッチに挿入し、それらの間にバッファを提供し、断熱材がバッファ接合面に垂れ下がり冷気の流れを遮断するための空間を作り出すことができることが当技術分野で知られている。結果として、断熱材は3次元バッフル状構造によって含まれ、従って、当技術分野においてこのキルティング技法は一般にバッフル技法と呼ばれている。それにもかかわらず、バッフル技法はバッフル状部分を区画、例えば胸側区画及び背中側区画に取り付ける一方、そのような区画は、互いに直接縫い合わせるだけで側方で接合可能である。上で説明したように、縫い目が低温部分を形成し、バッフル技法によって製造された衣服の断熱能力を阻害する。
【0031】
図3及び4に示される交互キルティング技法の一例は、層のセットを水平及び鉛直(すなわち側方)の両方にオフセットすることによってこの問題を解決する。
【0032】
図3に示されるように、衣服300は2つの層のセット、すなわち、外層のセット及び内層のセットを含み得る。両方の層のセットは、胴領域312及び袖領域313のキルティングによって構成可能であり、それにより2つの層のそれぞれの胸側区画及び背中側区画を形成する。次に、外層のセットの胸側区画及び背中側区画を側方で互いに縫い合わせることができ、外側側方縫い目315を形成する。同様に内層のセットの胸側区画及び背中側区画も側方で互いに縫い合わせることができ、内側側方縫い目314を結果として形成することができる。
【0033】
内層のセット及び外層のセットは、
図4に拡大されて示されるように水平又は側方方向のどちらかの低温部分の形成を回避するために、互いにオフセット可能である。外層のセットの外側水平ステッチ307は、内層のセットの内側水平ステッチ308の間の中間の領域と位置合わせ可能である。それによって今度は、内層のセットの内側水平ステッチ308が外層のセットの外側水平ステッチ307の間の中間の領域と位置合わせ可能である。次に外層のセットの外側側方縫い目315も、内層のセットの内側側方縫い目314に対してオフセット可能である。
【0034】
従って、本発明のこの例では、一方の層のセットの縫い目又はステッチに侵入する冷気の潜在的経路を、別の層のセットによって遮断することができる。それらは、
図4の拡大された部分で示されるように、互いに2つの方向において、すなわち、第1の、水平ステッチに対して垂直な方向316と、第2の、側方縫い目に対して垂直な方向317と、においてオフセット可能であるという事実のためである。結果として、一方の層のセットの各ステッチを、他方の層のセットの、断熱材が豊富な領域と位置合わせ可能であり、衣服の全ての潜在的低温部分を排除することができる。
【0035】
さらに、本発明の一実施形態では、交互キルティング構造は2つの層のセットを構成し得、2つの層のセットでは、
図5(a)に示されるように、一方の層のセットのステッチを、他方の層のセットのステッチよりも互いに間隔を空けて離すことができる。従って、一方の層のセットのキルティング部分の幅518は、他方の層のセットのキルティング部分の幅519と異なってもよい。
【0036】
別の実施形態では、キルティング部分の幅の差に加えて、一方の層のセットの厚さ520は、
図5(b)に示されるように、他方の層のセットの厚さ521と異なってもよい。
【0037】
図5(a)及び5(b)に示される両方の例において、2つの層のセットのキルティング部分の幅が異なり得るとしても、両方の層のセットを通って真直ぐに流れる冷気のどのような経路も遮断するために、一方の層のセットのステッチを、他方の層のセットのステッチとオフセットされるように位置付けることができる。そのような方法では、両方の実施形態が、低温部分の形成を防止し得る。
【0038】
本発明のさらに別の例では、
図5(c)に示されるように、一方の層のセットを断熱材522で充填可能であり、断熱材522は他方の層のセットの断熱材523と異なるものであってもよい。2つの断熱材のいずれか1つの材料の非限定的な例は、ダウン、ポリフィル、ファイバーボール(fiber ball)断熱材、又は効果的な体熱維持に適していると考えられる他のいずれかの材料を含む。
【0039】
これらのバリエーションは、外側及び内側層のセットの間の互換性特徴とセットみ合わされると、交互キルティングが提供する美観の選択肢の多様性を向上し得る。キルティング部分の幅を変えることにより、交互キルティングによって製造される同一衣服の2種類の異なる外観及び視覚的訴求がもたらされ得る。さらに、層のセットの厚さを変えることは、外側として2つの側のどちらを使用者が選択するかに依存して、使用者に同一衣服又は同一カバーの2種類の異なる触感を提供し得る。最後に、交互キルティング技法の層のセットの厚さ及び断熱材の事実上無数のセットみ合わせにより、最終物品の断熱能力及び製造
費用に関して幅広い調整が可能になる。
【0040】
様々な実施形態を記載してきたが、他の実施形態も妥当である。交互キルティングの様々な例の前述の記載は、限定することを目的とするものではなく、例の任意の数の修正形態、セットみ合わせ形態、及び代替形態を採用してもよい。
【0041】
本明細書に記載される例は単に例であり、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく多数の他の実施形態を実行してもよい。さらに、本発明のいくつかの特徴は、特定の例又は構成との関連においてのみ上で記載され得るが、これらの特徴は、本発明の範囲内にある限り、様々な実施形態又は構成の間で交換され、追加され、及びそれらから除去されてもよい。
以下の項目は、2015年7月27日付の翻訳文提出書の特許請求の範囲に記載の要素である。
(項目1)
少なくとも2組の層のセットに配置される互いに平行な複数個の層であって、前記少なくとも2組の層のセットのそれぞれは、互いにキルティングで縫い合わされた少なくとも2個の層を含む前記複数個の層と、
前記少なくとも2組の層のセットのそれぞれに含まれる前記少なくとも2個の層の間の空間を占める断熱材と、
を含み、
前記少なくとも2組の層のセットは、互いにオフセットされる、装具。
(項目2)
前記少なくとも2組の層のセットのそれぞれは、複数個のステッチを含み、
前記複数個のステッチは、前記少なくとも2組の層のセットのそれぞれに含まれる前記少なくとも2個の層を互いにキルティングで縫い合わせるように機能し、
前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットに含まれる前記複数個のステッチのそれぞれは、前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットに含まれる前記複数個のステッチの間の領域と位置合わせされる、項目1に記載の装具。
(項目3)
前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットに含まれる前記複数個のステッチのそれぞれは、前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットに含まれる前記複数個のステッチの間の中間の領域と位置合わせされる、項目1に記載の装具。
(項目4)
前記少なくとも2組の層のセットは、空隙部分によって分離される、項目1に記載の装具。
(項目5)
前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットに含まれる前記複数のステッチは、前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットに含まれる前記複数のステッチよりも互いに間隔を空けている、項目2に記載の装具。
(項目6)
前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットの厚さは、前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットの厚さと異なる、項目1に記載の装具。
(項目7)
前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットに含まれる前記少なくとも2個の層の間の前記空間を占める前記断熱材は、前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットに含まれる前記少なくとも2個の層の間の前記空間を占める前記断熱材とは異なる、項目1に記載の装具。
(項目8)
前記断熱材は、ダウン、ポリフィル、及び、ファイバーボールのうちの1つである、項目1に記載の装具。
(項目9)
互いに平行な複数個の層を置くステップと、
前記複数個の層を少なくとも2組の層のセットに配置するステップであって、前記少なくとも2組の層のセットのそれぞれは、少なくとも2個の層を含むステップと、
前記少なくとも2個の層のセットのそれぞれに含まれる前記少なくとも2個の層の間の空間を断熱材で満たすステップと、
前記少なくとも2個の層のセットのそれぞれに含まれる前記少なくとも2個の層を互いにキルティングで縫い合わせるステップと、
前記少なくとも2組の層のセットを互いにオフセットするステップと、
を含むキルティングの方法。
(項目10)
前記少なくとも2組の層のセットのそれぞれに含まれる前記少なくとも2個の層を互いにキルティングで縫い合わせるために複数個のステッチを使用するステップをさらに含む、項目9に記載のキルティングの方法。
(項目11)
前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットに含まれる前記複数個のステッチのそれぞれを、前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットに含まれる前記複数個のステッチの間の領域と位置合わせするステップをさらに含む、項目10に記載のキルティングの方法。
(項目12)
少なくとも2組の層のセットに配置される互いに平行な複数個の層であって、前記少なくとも2組の層のセットのそれぞれは、互いにキルティングで縫い合わされた少なくとも2個の層を含む前記複数個の層と、
前記少なくとも2つの層のセットのそれぞれに含まれる前記少なくとも2個の層の間の空間を占める断熱材と、
を含み、
前記少なくとも2組の層のセットは、互いにオフセットされる、衣服。
(項目13)
前記少なくとも2組の層のセットは、少なくとも2つの方向において互いにオフセットされる、項目12に記載の衣服。
(項目14)
前記少なくとも2組の層のセットは、水平方向及び側方方向において互いにオフセットされる、項目13に記載の衣服。
(項目15)
前記少なくとも2組の層のセットのそれぞれは、複数個のステッチを含み、
前記複数個のステッチは、前記少なくとも2個の層のセットのそれぞれに含まれる前記少なくとも2個の層を互いにキルティングで縫い合わせるように機能し、
前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットに含まれる前記複数個のステッチのそれぞれは、前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットに含まれる前記複数個のステッチの間の領域と位置合わせされる、項目12に記載の衣服。
(項目16)
前記少なくとも2組の層のセットは、空隙部分によって分離される、項目12に記載の衣服。
(項目17)
前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットに含まれる前記複数個のステッチは、前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットに含まれる前記複数個のステッチよりも互いに間隔を空けて離される、項目15に記載の衣服。
(項目18)
前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットの厚さは、前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットの厚さと異なる、項目12に記載の衣服。
(項目19)
前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれのセットに含まれる前記少なくとも2個の層の間の前記空間を占める前記断熱材は、前記少なくとも2組の層のセットのうちのそれぞれ別のセットに含まれる前記少なくとも2個の層の間の前記空間を占める前記断熱材と異なる、項目12に記載の衣服。
(項目20)
前記断熱材は、ダウン、ポリフィル、及びファイバーボールのうちの1つである、項目12に記載の衣服。