特許第6182659号(P6182659)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6182659
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】署名認証方法および署名認証システム
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20170807BHJP
【FI】
   G06T7/00 570
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-212264(P2016-212264)
(22)【出願日】2016年10月28日
【審査請求日】2016年11月17日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年5月30日、週刊 金融財政事情 平成28年5月30日号 第10−16頁、株式会社きんざい発行 平成28年7月11日、NODE:1 平成28年6月号 第24−27頁、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ発行 平成28年9月8日、9日、東京国際フォーラム、FIT2016 金融国際情報技術展にて展示した。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102728
【氏名又は名称】株式会社エヌ・ティ・ティ・データ
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍋谷 昴一
(72)【発明者】
【氏名】奈良 進也
【審査官】 佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−095666(JP,A)
【文献】 特開2014−130554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
署名認証システムにおける署名認証サーバが実行する、筆記速度に関する署名認証方法において、
前記署名認証サーバの判定部により、前記署名認証サーバの署名データベースに登録されたテンプレート署名と、前記署名認証サーバの入力部から入力された認証対象署名情報とに関して、2つの署名(S1, S2)の各サンプリング点(s=1,...,S)を時系列的に対応付けてゆき、前記2つの署名のxy座標から、署名間の距離
【数1】
を算出するステップと、
前記署名認証サーバの判定部により、前記署名間の距離の累積値が最小となるように、前記2つの署名を対応付けるインデックス(i(s),j(s))について
【数2】
となるsを決定するステップと、
前記署名認証サーバの特徴量算出部により、前記テンプレート署名の座標位置(x1(i(s))、y1(i(s))における筆記速度と、前記認証対象署名情報の座標位置(x2(j(s))、y2(j(s)))における筆記速度とを、特徴量として算出するステップと
前記署名認証サーバの判定部により、前記テンプレート署名の座標位置(x1(i(s))、y1(i(s))における筆記速度v1(s)と前記認証対象署名情報の座標位置(x2(j(s))、y2(j(s)))における筆記速度v2(s)との差分の累積値
【数3】
を算出するステップと、
前記署名認証サーバの判定部により、前記差分の累積値が閾値以下である場合に、前記テンプレート署名と前記認証対象署名情報が同一の人物により入力されたものであると判定するステップと
を備えることを特徴とする署名認証方法。
【請求項2】
前記特徴量算出部は、
前記テンプレート署名の座標位置(x1(i(s))、y1(i(s))における筆記速度を、
【数4】
により算出し、
前記認証対象署名情報の座標位置(x2(j(s))、y2(j(s)))における筆記速度を、
【数5】
により算出することを特徴とする請求項1に記載の署名認証方法。
【請求項3】
前記特徴量算出部は、
前記署名間の距離の累積値を最小とする(i(s), j(s))の組み合わせの一部において、前記テンプレート署名の座標位置(x1(i(s))、y1(i(s))と前記認証対象署名情報の座標位置(x2(j(s))、y2(j(s)))とが1対多の関係で対応付けられる場合に、
前記1対多の関係で対応付けられる組み合わせのうち、時間的に最後に対応付けられる組み合わせ以外の組み合わせの、1の関係で対応付けられる座標位置の筆記速度を、前記1の関係で対応付けられる座標位置の直前の座標位置における筆記速度が維持されるものとして、評価することを特徴とする請求項に記載の署名認証方法。
【請求項4】
コンピュータに、請求項1、2または3に記載の各ステップを実行させるためのコンピュータ実行可能プログラム。
【請求項5】
端末から入力された認証対象署名情報を、署名認証サーバにおいて認証する署名認証システムにおいて、前記署名認証サーバは、
前記端末から入力された前記認証対象署名情報を取得する入力部と、
テンプレート署名を登録した署名データベースと、
前記署名認証サーバの署名データベースに登録されたテンプレート署名と、前記署名認証サーバの入力部から入力された認証対象署名情報とに関して、2つの署名(S1, S2)の各サンプリング点(s=1,...,S)を時系列的に対応付けてゆき、前記2つの署名のxy座標から、署名間の距離
【数6】
を算出し、
前記署名間の距離の累積値が最小となるように、前記2つの署名を対応付けるインデックス(i(s),j(s))について
【数7】
となるsを決定する判定部と、
前記テンプレート署名の座標位置(x1(i(s))、y1(i(s))における筆記速度と、前記認証対象署名情報の座標位置(x2(j(s))、y2(j(s)))における筆記速度とを、特徴量として算出する特徴量算出部とを備え、
前記判定部は、
前記テンプレート署名の座標位置(x1(i(s))、y1(i(s))における筆記速度v1(s)と前記認証対象署名情報の座標位置(x2(j(s))、y2(j(s)))における筆記速度v2(s)との差分の累積値
【数8】
を算出し、
前記差分の累積値が閾値以下である場合に、前記テンプレート署名と前記認証対象署名情報が同一の人物により入力されたものであると判定することを特徴とする署名認証システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、署名認証方法および署名認証システムに関し、より詳細には、予め登録された署名情報からテンプレート署名を作成しておき、認証のために入力された署名情報とテンプレート署名とを比較して認証結果を出力する、署名認証方法および署名認証システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、情報端末からのアクセスに対して、情報端末を操作する個人を識別するための方法として、(1)暗証番号などの個人しか知り得ない情報、クレジットカード番号などの個人を特定できる情報を予め登録しておき、アクセスの際に入力された情報と照合する方法、(2)署名、声紋などの個人を識別できる程度の有意差を有する情報を数値化して予め登録しておき、入力された署名、声紋と照合する方法、(3)指紋、網膜などの個人の生体的特徴を数値化して予め登録しておき、入力された指紋、網膜と照合する方法、などが知られている。
【0003】
このうち署名を利用した認証技術においては、予め登録された署名情報の筆跡を、署名全体の重心位置からのベクトル情報を特徴量として数値化し、入力された署名情報の特徴量と照合する方法(例えば、特許文献1参照)、予め登録された署名情報の中から、特定の文字の特徴点を抽出して正規化した特徴量を、入力された署名情報の特徴量と照合する方法(例えば、特許文献2参照)などが知られている。
【0004】
一方、このような認識技術に対する評価指標として、非特許文献1には、以下のような評価指標が定められている。
【0005】
登録失敗率(FTE:Failure to Enroll)・登録時に一定回数記入した署名が、登録条件を満たさず登録失敗となる確率。
【0006】
本人拒否率(FRR:False Rejection Rate)・登録された本人署名と、入力された本人署名とを不一致と判定する確率。
【0007】
他人受入率(FAR:False Acceptance Rate)・登録された本人署名と、入力された他人の署名とを一致と判定する確率。
【0008】
クローン一致率(CMR:Clone Match Rate)・他人が悪意をもって真似をし、入力した署名を誤って一致と判定する確率。
【0009】
この評価指標によれば、登録失敗率(FTE)、本人拒否率(FRR)、他人受入率(FAR)およびクローン一致率(CMR)の全てが低い認証技術が求められている。しかしながら、署名認証システムを構成する際に、FTEが低くなるように設定すると、FARおよびCMRも高くなったり、FRRが低くなるように設定すると、FARおよびCMRが高くなるというトレードオフの関係にある。従って、これら相反する評価指標の各々を満たす署名認証技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許4603675号公報
【特許文献2】特許5912570号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ISO/IEC TR 19795-3:2007, Information technology - Biometric performance testing and reporting - Part 3: Modality-specific testing
【非特許文献2】「DYNAMIC BIOMETRIC PERSON AUTHENTICATION USING PEN SIGNATURE TRAJECTORIES」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図1に、従来の署名認証システムにおける全体の処理フローを示す。一例として、タブレット端末上のディスプレイに電子ペンによって入力された署名情報を対象とするシステムについて説明する。このシステムでは、ディスプレイ平面上における電子ペンの先端の位置情報と、電子ペンのディスプレイ平面に対する圧力(筆圧)情報とを、署名情報として扱う。署名認証方法は、予め登録された署名情報の中から特徴量を算出し、テンプレート署名を作成して登録しておく登録処理フローと、入力された署名情報の中から特徴量を算出し、テンプレート署名と比較して認証結果を出力する認証処理フローとに大別される。
【0013】
登録処理フローにおいては、タブレット端末に本人の署名を複数回入力させる(S11)。本人の筆跡といえども、ある程度の誤差が必ず生じるので、例えば3回から5回程度、登録用の署名情報(以下、登録用署名情報という)を取得する。同一人であっても、ディスプレイ平面上で署名を記入する位置が異なり、文字の大きさも異なる。そこで、署名全体を画定する署名領域を正規化する(S12)。
【0014】
次に、登録用の署名情報と認証のために入力された署名情報(以下、認証対象署名情報という)との間の対応付けを行うために、登録用署名情報の筆跡を、時系列的にサンプリングする。各々のサンプリング点について、正規化された署名領域における位置情報と筆圧情報とを取得する(S13)。以下に説明するように、登録用署名情報と認証対象署名情報との対応付けを行うためである。さらに、登録用署名情報と認証対象署名情報との比較のために、署名全体の重心位置からのベクトル情報と、筆記速度に関する情報と、筆圧情報とを特徴量として数値化しておく(S14)。
【0015】
このような特徴量の算出を、複数回入力された登録用署名情報について行い、一定の条件の下、特異な特徴量を有する登録用署名情報を除外するなどして(S15)、残った複数の登録用署名情報をテンプレート署名として登録しておく(S16)。
【0016】
認証処理フローにおいては、認証のためにタブレット端末から入力された署名を、認証対象署名情報として取得すると(S21)、署名全体を画定する署名領域を正規化する(S22)。認証対象署名情報の筆跡を、時系列的にサンプリングし、各々のサンプリング点について、正規化された署名領域における位置情報と筆圧情報とを取得する(S23)。さらに、署名全体の重心位置からのベクトル情報と、筆記速度に関する情報と、筆圧情報とを特徴量として数値化しておく(S24)。
【0017】
次に、登録されているテンプレート署名の筆記速度と認証対象署名情報の筆記速度との間で、DP(Dynamic Programming)マッチングを行い、筆記速度の対応付けを行う(S25)。テンプレート署名の1サンプリング点と、対応する認証対象署名情報のサンプリング点との間の筆記速度の差分を、署名全体にわたって累積し、その累積値が最小となるようにDPマッチングを行う。この差分の累積値が所定の閾値以下であるか否かにより、テンプレート署名と認証対象署名情報との間の一致、不一致を判定する(S26)。加えて、テンプレート署名と認証対象署名情報のサンプリング情報から、その他の特徴量を抽出して比較を行い、上記の閾値判定と合わせて、一致、不一致の判定精度を向上させる。
【0018】
ここで、署名認証方法においては、上述したように、FARおよびCMRが低くなることが望ましい。しかしながら、従来の署名認証方法では、筆記速度の特徴量の差分を算出する上で、テンプレート署名の筆記速度と認証対象署名情報の筆記速度に対して、対応付けを行っていることから、後述するように、テンプレート署名の筆記速度と認証対象署名情報の筆記速度の関係によっては、適切に対応付けることができず、速度差が計上される領域と計上されない領域とが並存することになり、結果、速度差を適切に評価することができない問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の目的は、筆跡の位置を対応付けた上で、その位置における筆記速度を特徴量として評価することで、登録された本人署名と、入力された本人署名との認証の精度を向上させた署名認証システムを提供することにある。
【0020】
本発明は、このような目的を達成するために、一実施形態は、署名認証システムにおける署名認証サーバが実行する、筆記速度に関する署名認証方法において、前記署名認証サーバの判定部により、前記署名認証サーバの署名データベースに登録されたテンプレート署名と、前記署名認証サーバの入力部から入力された認証対象署名情報とに関して、2つの署名(S1, S2)の各サンプリング点(s=1,...,S)を時系列的に対応付けてゆき、前記2つの署名のxy座標から、署名間の距離
【0021】
【数1】
【0022】
を算出するステップと、前記署名認証サーバの判定部により、前記署名間の距離の累積値が最小となるように、前記2つの署名を対応付けるインデックス(i(s),j(s))について
【0023】
【数2】
【0024】
となるsを決定するステップと、前記署名認証サーバの特徴量算出部により、前記テンプレート署名の座標位置(x1(i(s))、y1(i(s))における筆記速度と、前記認証対象署名情報の座標位置(x2(j(s))、y2(j(s)))における筆記速度とを、特徴量として算出するステップと、前記署名認証サーバの判定部により、前記テンプレート署名の座標位置(x1(i(s))、y1(i(s))における筆記速度v1(s)と前記認証対象署名情報の座標位置(x2(j(s))、y2(j(s)))における筆記速度v2(s)との差分の累積値
【数3】
を算出するステップと、前記署名認証サーバの判定部により、前記差分の累積値が閾値以下である場合に、前記テンプレート署名と前記認証対象署名情報が同一の人物により入力されたものであると判定するステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明の署名認証システムによれば、筆跡の位置を対応付けた上で、その位置における筆記速度を特徴量として評価することで、登録された本人署名と、入力された本人署名との認証の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】従来の署名認証システムにおける全体の処理フローを示す図である。
図2】本発明の署名認証システムを例示する図である。
図3】本発明の署名認証サーバを例示する図である。
図4】テンプレート署名の筆記速度と認証対象署名情報の筆記速度の時間変化を示した図である。
図5】テンプレート署名と認証対象署名情報の筆跡の位置の時間変化を示す図である。
図6】テンプレート署名と認証対象署名情報の対応付け結果と筆記速度の速度差を示す図である。
図7】テンプレート署名と認証対象署名情報の対応付け結果と筆記速度の速度差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0028】
図2に、本発明の一実施形態にかかる署名認証システム10を示す。例えば、銀行業務において、従来の印鑑による認証に代えて、署名認証を用いる場合について説明する。銀行の各支店の店舗100に設置された営業店端末101には、タブレット端末102と電子ペン103とが備え付けられている。一般家庭110において、いわゆる「ネットバンキング」サービスを利用する場合には、ユーザのタブレット端末112と電子ペン113とを使用する。タブレット端末102、112は、営業店端末101またはルーター111と、ネットワーク120とを介して銀行システム130に接続されている。
【0029】
銀行システム130には、営業店端末101との間で通信を行ったり、タブレット端末112に、ネットバンキングサービスのためのウェブ・アプリケーションを提供するためのフロントエンドサーバ131が含まれる。フロントエンドサーバ131に接続された署名認証サーバ132は、タブレット端末102から営業店端末101を介して入力された認証対象署名情報、タブレット端末112からウェブ・アプリケーションを介して入力された認証対象署名情報の認証を行う。署名認証が成功すると、フロントエンドサーバ131とアプリケーションサーバ133(例えば、勘定系のシステム)との間で通信が行われ、例えば、振込などのサービスが提供される。
【0030】
図3に、本発明の一実施形態にかかる署名認証サーバを示す。署名認証サーバ200には、登録用署名情報、認証対象署名情報を、フロントエンドサーバから取り込む入力部201と、それぞれの署名情報の署名領域の正規化、サンプリングを行う前処理部202と、署名全体の重心位置からのベクトル情報と、筆記速度に関する情報と、筆圧情報とを特徴量として算出する特徴量算出部203とを備える。特徴量算出部203は、登録用署名情報から算出したテンプレート署名を、署名データベース211に登録する。
【0031】
判定部204は、署名データベース211に登録されているテンプレート署名の筆跡と認証対象署名情報の筆跡との間で対応付けを行い、認証ルールデータベース212に登録されている判定条件に従って、両者の間の一致、不一致を判定する。判定結果は、出力部205を介して、フロントエンドサーバに返される。
【0032】
ここで、上述のように、従来の署名認証方法では、筆記速度の特徴量の差分を計算する上で、テンプレート署名の筆記速度と認証対象署名情報の筆記速度に対して、対応付けを行っている。具体的には、テンプレート署名の筆記速度の系列をv1(t)(t=1、2、・・・T1)、認証署名情報の筆記速度の系列をv2(t)(t=1、2、・・・T2)として、v1(t)およびv2(t)に対してDynamic Time Warping(以下、DTWという)を適用し、対応付けを行った上で、次式で示されるように、その差の絶対値の累積値を特徴量の差分として用いている(非特許文献2)。
【0033】
【数3】
【0034】
しかしながら、筆記速度に対して対応付けを行う場合、対応付ける筆記速度の関係によっては、対応付けが適切に行われないことがある。以下、この点について、図4を用いて、説明する。図4は、テンプレート署名の筆記速度(v1(t))と認証対象署名情報の筆記速度(v2(t))の時間変化を示した図であり、横軸に時間(t)、縦軸に速度(v)を示している。
【0035】
図4(A)に示されるように、テンプレート署名は、署名の前半において筆記速度が速い状態で記載され、署名の後半において筆記速度を減速した状態(即ち、遅くした状態)で記載されている。一方、認証対象署名情報は、署名の前半において筆記速度が遅い状態で記載され、署名の後半において筆記速度を一時的に加速させた状態(即ち、速くした状態)で記載されている。
【0036】
この図4(A)に示す、テンプレート署名と認証対象署名情報に関して、筆記速度(即ち、v1(t)、v2(t))に対して、DTWを適用すると、図4(B)に示すように、署名の前半においてv1(i(s))≒v2(j(s))となる筆記速度の組み合せが存在し、v1(i(s))とv2(j(s))が対応付けられる。したがって、署名の前半のサンプリング点では、速度差がほとんど計上されないことになる。具体的には、図4(B)の点線の矢印で示されるように対応付けが行われると、点線の矢印で示される対応付けに関しては、速度差がないものとして評価される。一方、署名の後半のサンプリング点では、実線の矢印で示されるように対応付けられ、速度差があるものとして評価される。このように、テンプレート署名と認証対象署名情報の筆記速度の関係によっては、速度差が計上される領域と計上されない領域とが並存することになり、速度差を適切に評価することができないという問題がある。
【0037】
そこで、本発明の実施形態に係る署名認証システム10の署名認証方法では、従来のように、筆記速度に対して、直接DTWを適用し、対応付けを行った上で、筆記速度の速度差を評価するのではなく、事前に筆跡の位置に対してDTWを適用し、筆跡の位置の対応付けを行った上で、その対応する位置における筆記速度の速度差を評価する。
【0038】
以下、図5および図6を用いて、本発明の実施形態に係る署名認証システム10の署名認証方法を説明する。図5は、テンプレート署名と認証対象署名情報の筆跡の位置の時間変化を示している。なお、図5では、テンプレート署名の2倍の筆記速度で、認証対象署名を入力したケースを示しており、また、筆跡の位置(即ち、時系列的にサンプリングされたサンプリング点の座標)の時間変化を、x成分およびy成分の時間変化として示している。
【0039】
図5に示すように、署名認証システム10は、判定部204により、テンプレート署名の筆跡の位置と認証対象署名情報の筆跡の位置に関して、対応付けを行う。具体的には、図5の矢印で示されるように、テンプレート署名の時系列的にサンプリングされたサンプリング点と、認証対象署名情報の時系列的にサンプリングされたサンプリング点に対してDTWを適用し、サンプリング点間において対応付けを行う。
【0040】
より詳細には、テンプレート署名と認証対象署名情報に関して、時系列的にサンプリングし、各々のサンプリング点に対して、ディスプレイ平面上の基準点からのx、y座標として、以下のように署名データベース211に格納する。
【0041】
テンプレート署名の署名データ:(xi(t),yi(t))、t=1,...,T1
認証対象署名情報の署名データ:(xj(t),yj(t))、t=1,...,T2
さらに、テンプレート署名および認証対象署名情報を対応付けるインデックスを(i(s)、j(s))、s=1,...,Sとして、テンプレート署名の点i(s)と認証対象署名情報の点j(s)との間の距離をd(i(s)、j(s))とする。ここで、対応付けを行う上で、時間順序を守ることと、全ての点を対応付けることとを制約条件として、以下のように定式化する。
【0042】
i(1)=j(1)=1
i(s)≦i(s+1)≦i(s)+1
j(s)≦j(s+1)≦j(s)+1
i(S)=Ti, j(S)=Tj
そして、時系列的にテンプレート署名と認証対象署名情報のサンプリング点を対応付けてゆき、各サンプリング点における2つの署名間の距離
【0043】
【数4】
【0044】
の累積値が最小となるように(i(s), j(s))を決定する。すなわち、
【0045】
【数5】
【0046】
となるsを、DPマッチングを適用することにより決定する。
【0047】
前述のように、認証対象署名がテンプレート署名の2倍の筆記速度で入力されていることから、図5に示すように、認証対象署名情報のサンプリング点の一部は、概して、テンプレート署名の複数のサンプリング点に対応付けられることになる。具体的には、認証対象署名情報のサンプリング点(x2、y2)=(3、10)とテンプレート署名のサンプリング点(x1、y1)=(2、13)、(x1、y1)=(3、10)、また、認証対象署名情報のサンプリング点(x2、y2)=(5、2)とテンプレート署名のサンプリング点(x1、y1)=(4、3)、(x1、y1)=(5、2)、(x1、y1)=(6、7)に示されるように、1対多の関係で、サンプリング点が対応付けられることになる。次に、これらの対応付けに従って、筆記速度の速度差を評価する。
【0048】
図6は、テンプレート署名と認証対象署名情報の対応付け結果と筆記速度の速度差を示す図である。図6では、インデックスsに対応した、テンプレート署名および認証対象署名情報の座標、筆記速度、筆記速度の速度差を図表として示している。なお、ここで、インデックスとは、テンプレート署名の筆跡の位置と認証対象署名情報の筆跡の位置に関して、対応付けを行った結果として生成された配列(即ち、テンプレート署名の筆跡の位置と認証対象署名情報の筆跡の位置との組み合せ)を一意に識別するための添え字として示されるものである。
【0049】
図6において、座標は、上述のように、テンプレート署名の筆跡の位置と認証対象署名情報の筆跡の位置に関して、DTWを適用し、対応付けした結果を(x、y)座標で示すものである。また、筆記速度は、特徴量算出部203により算出され、テンプレート署名と認証対象署名情報の各々に関して、インデックス間の移動距離として次式で示される。
【0050】
【数6】
【0051】
さらに、筆記速度の速度差は、そのインデックスにおける、テンプレート署名の筆記速度と認証対象署名情報の筆記速度の差分の絶対値(即ち、|v1(s)−v2(s)|)として示される。加えて、本発明の実施形態に係る署名認証システム10では、署名の認証において、この筆記速度の速度差に関する累積値を算出し、その累積値を特徴量の差分として用いる。なお、筆記速度に関する特徴量の差分は、次式で示すことができる。
【0052】
【数7】
【0053】
そして、筆記速度に関する特徴量の差分が、所定の閾値以下である場合に、署名認証システム10の判定部204は、テンプレート署名と認証対象署名情報が同一の人物により入力されたものであると判定する。
【0054】
このように、筆記速度の速度差に関する累積値を特徴量の差分として抽出する上で、テンプレート署名の筆跡の位置と認証対象署名情報の筆跡の位置に関して対応付けを行い、その対応付け結果に基づいて、速度差を求めることで、上述のように、速度差が計上される領域と計上されない領域とが並存するという問題は解消される。即ち、筆記速度の速度差を適切に評価することができ、延いては、認証の精度を向上させることができる。
【0055】
また、上述の署名認証方法では、図6に示されるように、テンプレート署名のサンプリング点との関係で、1対多の関係で対応付けられる、認証対象署名情報のサンプリング点に関して、所定のインデックスにおいては、その筆記速度として「0」を計上している。具体的には、テンプレート署名のサンプリング点(x1、y1)=(2、13)、(x1、y1)=(3、10)と対応付けられる、認証対象署名情報のサンプリング点(x2、y2)=(3、10)に関して、インデックス「2」においては、その筆記速度として「0」を計上している。
【0056】
これは、筆記速度を、上述のように、数式(6)で評価した結果に基づくものであり、このように、筆記速度を「0」と計上することで(即ち、1対多の関係で対応付けられた、テンプレート署名の最後のサンプリング点まで、認証相性署名情報の筆記速度が停止しているものとして仮定することで)テンプレート署名を入力したときのリズムと認証対象署名を入力したときのリズムとのズレをより顕著にさせた上で、評価することができる。
【0057】
その他において、筆記速度を数式(6)として評価することを前提に、テンプレート署名のサンプリング点と認証対象署名情報のサンプリング点が1対多の関係で関連付けられる場合に、1対多の関係で対応付けられる、サンプリング点の組み合わせのうち、時間的に最後に対応付けられる組み合わせ以外の組み合わせの、1の関係で対応付けられる座標位置の筆記速度を、1の関係で対応付けられる座標位置の直前の座標位置における筆記速度が維持されるものとして、評価することもできる。
【0058】
以下、この点に関して、図7を用いて、例示する。図7は、図6と同様に、テンプレート署名と認証対象署名情報の対応付け結果と筆記速度の速度差を示す図であり、図7に示されるように、テンプレート署名のサンプリング点との関係で、1対多の関係で対応付けられる、認証対象署名情報のサンプリング点に関しては、時間的に最後に対応付けられる組み合わせ以外の組み合わせにおいて、その筆記速度として、1の関係で対応付けられる座標位置の直前の座標位置における筆記速度を維持するように計上している。
【0059】
具体的には、テンプレート署名のサンプリング点(x、y)=(4、3)、(x、y)=(5、2)、(x、y)=(6、7)と対応付けられる、認証対象署名情報のサンプリング点(x、y)=(5、2)に関して、インデックス「4」および「5」においては、1の関係で対応付けられる座標位置(x、y)=(5、2)の直前の座標位置(x、y)=(3、10)における筆記速度を維持するものとして、その筆記速度として「8.25」を計上している。
【0060】
このように、1対多の関係で対応付けられる、サンプリング点の組み合わせのうち、時間的に最後に対応付けられる、組み合わせ以外の組み合わせの、1の関係で対応付けられる座標位置の筆記速度を、1の関係で対応付けられる座標位置の直前の座標位置における筆記速度が維持されるものとして評価することもできる。
【0061】
なお、図7に示す筆記速度の評価に関して、そのアルゴリズムとして、対応付けを行う事前に、テンプレート署名と認証対象署名情報の各々に関して、座標位置における筆記速度を予め算出しておき、対応付けを行った後に、上述のように1対多の関係で対応付けられるサンプリング点においては筆記速度が維持されるものとして評価することを前提に、対応する座標位置に筆記速度を関連付けて、評価することもできる。
【0062】
また、本実施形態では、テンプレート署名と認証対象署名情報の筆跡の位置を対応付けた後に、筆記速度を特徴量として、その差分の累積値を算出することにより署名を認証することに関して説明したが、その他の特徴量(例えば、筆圧等)による評価結果と併せて、署名を認証することもできる。
【符号の説明】
【0063】
10 署名認証システム
100 店舗
101 営業店端末
102,112 タブレット端末
103,113 電子ペン
110 一般家庭
111 ルーター
120 ネットワーク
130 銀行システム
131 フロントエンドサーバ
132,200 署名認証サーバ
133 アプリケーションサーバ
211 署名データベース
212 認証ルールデータベース
【要約】
【課題】筆跡の位置を対応付けた上で筆記速度の速度差を評価することで、登録された本人署名と、入力された本人署名との認証の精度を向上させた署名認証システムを提供する。
【解決手段】端末から入力された認証対象署名情報を、署名認証サーバにおいて認証する署名認証システムにおいて、署名認証サーバは、認証対象署名情報を取得する入力部と、テンプレート署名を登録した署名データベースと、テンプレート署名と認証対象署名情報とに関して、署名間の距離を算出し、署名間の距離の累積値を最小とする(i(s), j(s))を決定する判定部と、テンプレート署名の座標位置(x1(i(s))、y1(i(s))における筆記速度と、認証対象署名情報の座標位置(x2(j(s))、y2(j(s)))における筆記速度とを、特徴量として算出する特徴量算出部とを備える。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7