(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182662
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】熱電対列示差走査熱量計センサ
(51)【国際特許分類】
G01N 25/20 20060101AFI20170807BHJP
G01K 7/02 20060101ALI20170807BHJP
G01K 17/00 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
G01N25/20 C
G01K7/02 A
G01K17/00 A
【請求項の数】28
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-504356(P2016-504356)
(86)(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公表番号】特表2016-514832(P2016-514832A)
(43)【公表日】2016年5月23日
(86)【国際出願番号】US2014031288
(87)【国際公開番号】WO2014153438
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2015年11月17日
(31)【優先権主張番号】61/804,384
(32)【優先日】2013年3月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509131764
【氏名又は名称】ウオーターズ・テクノロジーズ・コーポレイシヨン
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダンリー,ロバート・エル
【審査官】
大森 伸一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−020570(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0052032(US,A1)
【文献】
特開平05−322813(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3163711(JP,U)
【文献】
米国特許第05288147(US,A)
【文献】
特開2001−249093(JP,A)
【文献】
特開2005−134397(JP,A)
【文献】
特開2002−181751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00−25/72
G01K 1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量計用のセンサであって、
試料側ホールおよび基準側ホールを備えるセラミック基板と、
第1の組の熱電対素子を規定する第1のパターンを有する、第1の極性の熱電対合金の第1の薄板と、
第2の組の熱電対素子を規定する第2のパターンを有する、第2の極性の熱電対合金の第2の薄板であって、第2のパターンは、第1のパターンと相補的である、第2の薄板と、
を備え、
第1の薄板中の熱電対素子と、第2の薄板中の熱電対素子は、
第1の極性の複数の熱電対素子および第2の極性の複数の熱電対素子を備え、第1の極性の熱電対素子のセグメントが第2の極性の熱電対素子のセグメントに拡散接合されて複数の拡散接合された試料熱電対接合を形成し、試料側ホールの上に位置決めされている試料側熱電対列と、
第1の極性の複数の熱電対素子および第2の極性の複数の熱電対素子を備え、第1の極性の熱電対素子のセグメントが第2の極性の熱電対素子のセグメントに拡散接合されて複数の拡散接合された基準熱電対接合を形成し、基準側ホールの上に位置決めされている基準側熱電対列とを形成し、
示差走査熱量計用のセンサは、試料側熱電対列の上に位置決めされ、中心が置かれている試料プラットフォームと、基準側熱電対列の上に位置決めされ、中心が置かれている基準プラットフォームとをさらに備え、
第1の極性の熱電対素子の外側円弧セグメントがセラミック基板に拡散接合され、
試料熱電対列は、試料プラットフォームに拡散接合された第2の極性の熱電対素子の内側円弧セグメントを備え、基準熱電対列は、基準プラットフォームに拡散接合された第2の極性の熱電対素子の内側円弧セグメントを備え、
第2の極性は、第1の極性の反対である、
示差走査熱量計用のセンサ。
【請求項2】
第1の極性は、正極であり、第2の極性は、負極である、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
第1の極性の複数の熱電対素子は、Pd、PtおよびAuを含有する合金であり、第2の極性の複数の熱電対素子は、AuおよびPdを含有する合金である、請求項1に記載のセンサ。
【請求項4】
第1の極性は、負極であり、第2の極性は、正極である、請求項1に記載のセンサ。
【請求項5】
第2の極性の複数の熱電対素子は、Pd、PtおよびAuを含有する合金であり、第1の極性の複数の熱電対素子は、AuおよびPdを含有する合金である、請求項1に記載のセンサ。
【請求項6】
試料熱電対列と基準熱電対列との間に第2の極性の熱電対素子を備える、請求項1に記載のセンサ。
【請求項7】
セラミック基板は、試料側ホールを取り囲む隆起平面と、基準側ホールを取り囲む隆起平面とを備える、請求項1に記載のセンサ。
【請求項8】
試料側ホールを取り囲む隆起平面と基準側ホールを取り囲む隆起平面とは、同一平面上にある、請求項7に記載のセンサ。
【請求項9】
試料側ホールは、円形であり、円周を有し、第1の極性の熱電対素子の外側円弧セグメントの内側エッジは、試料側ホールの円周と位置合わせされる、請求項1に記載のセンサ。
【請求項10】
試料熱電対列内の第2の極性の熱電対素子のうち1つは、基準熱電対列内の第2の極性の熱電対素子のうち1つと接続されている、請求項1に記載のセンサ。
【請求項11】
第1の極性の複数の熱電対素子の各々および第2の極性の複数の熱電対素子の各々は、テーパーセクションの内側端部から延在する内側円弧セグメントと、テーパーセクションの外側端部から延在する外側円弧セグメントとを備える、請求項1に記載のセンサ。
【請求項12】
内側円弧セグメントおよび外側円弧セグメントは、同心であり、同じ角度を見込んでいる、請求項11に記載のセンサ。
【請求項13】
示差走査熱量計であって、
熱電対列センサを備える測定室を有し、
熱電対列センサは、
セラミック基板と、
第1の組の熱電対素子を規定する第1のパターンを有する、第1の極性の熱電対合金の第1の薄板と、
第2の組の熱電対素子を規定する第2のパターンを有する、第2の極性の熱電対合金の第2の薄板であって、第2のパターンは、第1のパターンと相補的である、第2の薄板と、
を備え、
第1の薄板中の熱電対素子と、第2の薄板中の熱電対素子は、
第1の極性の複数の熱電対素子および第2の極性の複数の熱電対素子を備え、第1の極性の熱電対素子のセグメントが第2の極性の熱電対素子のセグメントに拡散接合されて、熱電対接合を形成する、試料側熱電対列と、
第1の極性の複数の熱電対素子および第2の極性の複数の熱電対素子を備え、第1の極性の熱電対素子のセグメントが第2の極性の熱電対素子のセグメントに拡散接合されて、熱電対接合を形成する、基準側熱電対列とを形成し、
熱電対列センサは、試料側熱電対列の上に位置決めされ、中心が置かれている試料プラットフォームと、基準側熱電対列の上に位置決めされ、中心が置かれている基準プラットフォームとをさらに備え、
第1の極性の熱電対素子の外側円弧セグメントがセラミック基板に拡散接合され、
試料熱電対列は、試料プラットフォームに拡散接合された第2の極性の熱電対素子の内側円弧セグメントを備え、基準熱電対列は、基準プラットフォームに拡散接合された第2の極性の熱電対素子の内側円弧セグメントを備え、
第2の極性は、第1の極性の反対である、
示差走査熱量計。
【請求項14】
加熱および冷却手段をさらに備える、請求項13に記載の示差走査熱量計。
【請求項15】
センサであって、
ホールを備え、ホールの円周でホールを取り囲む隆起平面を備えるセラミック基板と、
第1の組の熱電対素子を規定する第1のパターンを有する、正極熱電対合金の第1の薄板と、
第2の組の熱電対素子を規定する第2のパターンを有する、負極熱電対合金の第2の薄板であって、第2のパターンは、第1のパターンと相補的である、第2の薄板と、
を備え、
第1の薄板中の熱電対素子と、第2の薄板中の熱電対素子は、
ホールの上に位置決めされ、隆起平面に支持され、複数の正極熱電対素子および複数の負極熱電対素子を備え、正極熱電対素子のセグメントが負極熱電対素子のセグメントに拡散接合されて、複数の拡散接合された熱電対接合を形成する、熱電対列を形成し、
センサは、熱電対列の上に中心が置かれているプラットフォームをさらに備え、
正極熱電対素子および負極熱電対素子は、セラミック基板に拡散接合された外側円弧セグメントを備え、
正極熱電対素子および負極熱電対素子は、プラットフォームに拡散接合された内側円弧セグメントを備える、
センサ。
【請求項16】
複数の熱電対接合は、Pt、PdおよびAuのうち少なくとも2つを含有する熱電対素子から形成されている、請求項15に記載のセンサ。
【請求項17】
外側円弧セグメントは、内側エッジを有し、外側円弧セグメントの内側エッジは、セラミック基板内のホールの円周と位置合わせされている、請求項15に記載のセンサ。
【請求項18】
外側円弧セグメントは、センサのベース領域を形成する拡散接合された熱電対接合を備える、請求項15に記載のセンサ。
【請求項19】
内側円弧セグメントは、センサの測定領域を形成する拡散接合された熱電対接合を備える、請求項15に記載のセンサ。
【請求項20】
各熱電対素子は、Z字形をなし、Zの2つの端部は、同じ角度を見込み、テーパーセグメントによって接続された同心円弧セグメントである、請求項15に記載のセンサ。
【請求項21】
熱流束示差走査熱量計用のツイン型熱電対列センサであって、
試料位置および基準位置を有するセラミック基板と、
第1の組の熱電対素子を規定する第1のパターンを有する、第1の極性の熱電対合金の第1の薄板と、
第2の組の熱電対素子を規定する第2のパターンを有する、第2の極性の熱電対合金の第2の薄板であって、第2のパターンは、第1のパターンと相補的である、第2の薄板と、
を備え、
第1の薄板中の熱電対素子と、第2の薄板中の熱電対素子は、
試料位置に中心が置かれ、熱電対接合を形成するために互いに拡散接合された第1の極性の複数の熱電対素子および第2の極性の複数の熱電対素子を有する試料側熱電対列と、
基準位置に中心が置かれ、熱電対接合を形成するために互いに拡散接合された第1の極性の複数の熱電対素子および第2の極性の複数の熱電対素子を有する基準側熱電対列とを形成し、
熱流束示差走査熱量計用のツイン型熱電対列センサは、試料側熱電対列に中心が置かれている試料プラットフォームおよび基準側熱電対列に中心が置かれている基準プラットフォームをさらに備え、
熱電対素子の外側円弧セグメントは、セラミック基板に拡散接合され、
試料熱電対列内の熱電対素子の内側円弧セグメントは、試料プラットフォームに拡散接合され、
基準熱電対列内の熱電対素子の内側円弧セグメントは、基準プラットフォームに拡散接合されている、
熱流束示差走査熱量計用のツイン型熱電対列センサ。
【請求項22】
セラミック基板は、試料熱電対列および基準熱電対列を支持する円板である、請求項21に記載のツイン型熱電対列センサ。
【請求項23】
試料熱電対列および基準熱電対列の外周および内周が円形である、請求項22に記載のツイン型熱電対列センサ。
【請求項24】
外側円弧セグメントおよび内側円弧セグメントは、同心であり、同じ角度を見込んでいる、請求項21に記載のツイン型熱電対列センサ。
【請求項25】
各熱電対素子は、外側円弧セグメントがテーパーセクションによって内側円弧セグメントに接続されているZ字形をなしている、請求項21に記載のツイン型熱電対列センサ。
【請求項26】
第2の極性の熱電対素子の内側円弧セグメントは、第1の極性の熱電対素子の内側円弧セグメントに重なり、拡散接合されて、測定領域熱電対接合を形成する、請求項21に記載のツイン型熱電対列センサ。
【請求項27】
第2の極性の熱電対素子の外側円弧セグメントは、第1の極性の熱電対素子の外側円弧セグメントに重なり、拡散接合されて、ベース領域熱電対接合を形成する、請求項21に記載のツイン型熱電対列センサ。
【請求項28】
試料側熱電対列の外周および基準側熱電対列の外周は、直径の等しい2つの隣接する円形を形成する、請求項21に記載のツイン型熱電対列センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、概して、熱流束示差走査熱量計用のセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
熱流束示差走査熱量計(DSC)は、概して、局所的な温度差に基づく測定方法を使用する。熱流束DSCは、試料測定システムと基準測定システムとの間の熱流量の差を測定するツイン型機器である。より典型的には、熱流束DSCは、試料システムと基準システムとの間の単一の温度差を測定する。
【0003】
測定された熱流量は、
【数1】
であると考えられ、式中、ΔTは、試料システムと基準システムとの間で測定された温度差であり、R(T)は、熱抵抗の次元、すなわち、パワーあたりの温度を有する温度依存性比例因子である。たとえば、単位は、測定℃/ワットでもよい。
【0004】
温度差は、使い勝手が良ければどんな技術によっても、たとえば、熱電対を使用することによって測定されることがある。温度差は、一方の熱電対接合が試料システムに取り付けられ、もう一方の熱電対接合が基準システムに取り付けられ、2つの接合が示差ペアとして接続されている単一の示差熱電対によって測定されることがある。示差ペアにおいて、2つの熱電対の正極リード線は、電気接続され、温度差は、熱電対ペアの負極リード線の間で測定される。代替的に、2つの熱電対の負極リード線が電気接続されることが可能であり、温度差は、熱電対ペアの正極リード線の間で測定される。
【0005】
DSCセンサに対する有用な性能指数は、センサの電気出力とセンサの熱抵抗との積である。これは、センサの感度の指標、すなわち、単位パワー当たりの電気出力の割合、たとえば、マイクロボルト/ワットである。示差熱電対の場合、これは、熱電対のゼーベック係数とセンサ熱抵抗との積である。
【0006】
センサの感度を高める1つの方法は、温度差を測定するために、直列になったいくつかの熱電対である熱電対列を使用することである。熱電対列において、同数の熱電対接合が試料システムと基準システムとに設置される。これらの接合は、試料システムおよび基準システムで、互い違いの接合を有する直列接続がされている。たとえば、試料接合の正極リード線は、基準接合の正極リード線に接続し、試料接合の負極リード線は、もう一方の基準接合の負極リード線に接続する。
【0007】
接合は、全ての接合が接続されるまでこのように直列に接続され、1本の空いているリード配線が基準接合に接続され、1本の空いているリード配線が試料接合に接続されている。空いている試料リード配線および基準リード配線は、どちらも正極または負極のいずれかである。試料システムと基準システムとの間の示差温度は、これらの配線間の電圧から決定される。熱電対列センサの場合、センサの感度は、試料側または基準側の熱電対結合の数と、熱電対ペアのゼーベック係数と、センサの熱抵抗との積である。このようにして、より高出力のセンサが温度差を測定するために熱電対列を使用することによって作られる可能性がある。
【0008】
従来技術は、熱電対列DSCセンサを構築するある程度の数の異なった方法を含む。これらの方法は、薄膜技術を使用する電気絶縁性基板への熱電対列の堆積と、シルクスクリーン印刷のような薄膜技術を使用する電気絶縁性基板への熱電対列の塗布と、金属熱電対合金相互に、およびセラミックコンポーネントに金属熱電対合金をロウ付けすることと、熱抵抗を有するセンサ構造体に保護された電気絶縁性熱電対をつなぐこととを含む。Kehl他に対する米国特許第5,033,866号明細書およびSchaefer他に対する米国特許第5,288,147号明細書は、薄膜技術を使用して製造された熱電対列DSCセンサを開示する。Tanaka他に対する米国特許出願公開第2008/0080591号明細書は、金属熱電対合金を互いに、および、セラミックコンポーネントにロウ付けすることにより製造された熱電対列DSCセンサを開示する。Nishimura他に対する米国特許出願公開第2011/0188534号明細書は、保護された電気絶縁性熱電対が熱抵抗を備えるセンサ構造体につながれる熱電対列DSCセンサを開示する。
【0009】
しかしながら、これらの構築方法の各々は、いくらかの不利点がある。たとえば、薄膜方法によって構築された熱電対列センサにおいて、熱電対材料は、材料の蒸着によって堆積した薄膜の形をしている。このことは、概して、材料の選択を純金属に限定し、合金の使用を排除する。このことは、熱電対材料の選択肢を概して低いゼーベック係数を有する熱電対に制限する。その結果、薄膜技術を使用して構築されたセンサは、低感度を有する傾向がある。堆積した膜が非常に薄いことを考慮すると、熱電対列の電気インピーダンスは、かなり高い。この高インピーダンスは、結果として、示差温度信号を増幅する電子回路に高電気雑音を生じる。
【0010】
薄膜熱電対列DSCセンサも、不利点を有する。薄膜材料は、粉末熱電対合金、セラミック、ガラスフリット、バインダ、および有機溶剤の混合物である。薄膜材料は、多くの場合、スクリーン印刷によって、液体の形で基板に塗布され、乾燥および焼成され、基板上に固体コーティングを形成する。固体金属熱電対合金との比較によると、薄膜材料の熱電特性は、粉末金属とバインダとの合成混合物が不均質であるのでかなり変化することがあり、既定の熱電対タイプの標準を満たさないことがある。薄膜材料は、さらに、固体合金より非常に高い電気抵抗率を有し、薄膜デバイスのように、高インピーダンスおよび付随する増幅雑音を被る。
【0011】
熱電対合金とセラミックコンポーネントとをロウ付けすることにより構築されるDSCセンサは、これらの問題点の多くを回避するが、その代わり、ロウ付けの使用から生じる固有の問題点がある。熱電対合金の幅広い選択が使用されることがあり、固体金属熱電対合金が使用されるので低センサインピーダンスが達成される可能性がある。ロウ付けは、ロウ付け合金がつながれている材料より低い温度で溶解し、密着を形成するために基材の表面を湿らせ、凝固させて、これらをつなぐ液相接合プロセスである。多くの場合、液体ロウ付け合金は、他の合金を形成する基材を溶解させる。ロウ付け合金およびロウ付け合金が形成することがある何らかの中間合金の存在は、付加的な熱電材料を熱電対列に導入し、熱電対列の出力を熱電対タイプに対する標準とは異なるようにする可能性がある。このようにして、熱電対列の出力は、熱電対標準と一致しなくなり、測定誤差をもたらす可能性がある。
【0012】
さらに、特有の合金、または、合金の組み合わせをつなぐロウ付け合金の重要な特性は、基材を湿らす能力である。良好な湿潤は、信頼性の高いロウ付け接合を形成するために不可欠である。基材を湿らせるロウ付け合金は、ロウ付け合金が溶解するとき、基材の表面に沿って流れる傾向が十分にあり、ロウ付け合金の閉じ込めを困難にする。熱電対合金の表面を覆うロウ付け合金は、付加的な熱電素子を熱電対列に導入することがあり、熱電対列の出力を熱電対対応に対する標準から変更し、おそらく測定誤差をもたらす。熱電対接合にロウ付けされるセンサのセラミック部品は、熱電対接合を互いに電気的に絶縁する。熱電対接合をセラミックコンポーネントにつなぐロウ付け合金がセラミックの表面を流れる場合、このロウ付け合金は、接合同士を短絡する隣接する接合との接続部を形成することがあり、センサを動作不能にする。
【0013】
保護された、電気的に絶縁された熱電対は、セラミック電気絶縁体によって取り囲まれ、金属保護管の中に封入された1つ以上の熱電対を有する。熱電対列DSCセンサで使用されたとき、保護された熱電対は、センサ熱抵抗に熱的に接続されるべきである。米国特許出願公開第2011/0188534に開示されたDSCのような一部のDSCにおいて、熱電対保護管は、センサ熱抵抗にロウ付けされることがある。熱電対と保護管との間のセラミック電気絶縁体は、熱抵抗と熱電対との間で熱絶縁体としての役割を果たす。セラミック電気絶縁体は、熱抵抗間に温度差を生み出す試料熱流に対する熱電対の応答の感度および速度を低下させる。熱電対アセンブリは、DSCセンサアセンブリの熱容量を増加させる有意な熱容量を有することがあり、DSCセンサアセンブリの応答性および試料熱流における急速変化に応答する能力を低下させる。熱電対熱容量をできる限り低く保つために、非常に小径の保護管が用いられ、このことは、次に、熱電対配線が非常に微細であることを要求する。この理由のため、熱電対は、比較的高い電気インピーダンスを有する。このことは、センサが最終的に高インピーダンスを有するので、増幅器段において高雑音を生み出す傾向がある。
【0014】
ほとんどの熱流束DSCは、単一の示差温度測定および上記の簡易測定方法を用いる。簡易測定方法が多くの重要な実験条件下で試料熱流量を正確に測定しないことは周知である。特に、物理的変質が試料内で起こるとき、試料加熱速度と基準加熱速度とが同じではない。その結果、測定された熱流量は、実際の試料熱流量とは著しく異なることがある。簡易測定方法は、DSCが完全に対称である、すなわち、試料測定システムと基準システムとが同一である、という仮定に基づいている。周知のように、完全な対称性が達成されることは稀であり、結果として得られる熱流量測定値は、概して、試料測定システムと基準測定システムとの間の非対称性の結果として生じるアーティファクトを含むことになる。一例は、器具が試料または基準なしで動かされるときの、DSC零ラインである。熱流量は、零に極めて接近するであろうが、めったに零になることはない。空の器具に対する零熱流量からの偏差は、器具が仮定されたとおりに対称ではない、という証拠である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第5,033,866号明細書
【特許文献2】米国特許第5,288,147号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2008/0080591号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2011/0188534号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
一態様において、実施形態は、示差走査熱量計すなわちDSC用のセンサである。DSCは、試料側ホールおよび基準側ホールを含んでいるセラミック基板と、第1の極性の熱電対素子および第2の極性の熱電対素子を含んでいる試料側熱電対列と、第1の極性の熱電対素子および第2の極性の熱電対素子を含んでいる基準側熱電対列とを有する。試料熱電対列内の第1の極性の熱電対素子のセグメントは、第2の極性の熱電対素子のセグメントに拡散接合されて、拡散接合された試料熱電対接合を形成する。基準熱電対列内の第1の極性の熱電対素子のセグメントは、第2の極性の熱電対素子のセグメントに拡散接合されて、拡散接合された基準熱電対接合を形成する。試料側熱電対列は、試料側ホールの上に位置決めされ、試料プラットフォームは、試料側熱電対列の上に位置決めされ、中心が置かれている。基準側熱電対列は、基準側ホールの上に位置決めされ、基準プラットフォームは、基準側熱電対列の上に位置決めされ、中心が置かれている。第1の極性の熱電対素子の外側円弧セグメントは、セラミック基板に拡散接合されている。試料熱電対列は、試料プラットフォームに拡散接合された第2の極性の熱電対素子の内側円弧セグメントを有し、基準熱電対列は、基準プラットフォームに拡散接合された第2の極性の熱電対素子の内側円弧セグメントを有する。
【0017】
別の態様において、実施形態は、熱電対列センサを含んでいる測定室を有する示差走査熱量計である。熱電対列センサは、セラミック基板上の試料側熱電対列および基準側熱電対列を含む。試料側熱電対列は、第1の極性の熱電対素子および第2の極性の熱電対素子を有する。試料側熱電対列内の第1の極性の熱電対素子のセグメントは、第2の極性の熱電対素子のセグメントに拡散接合されて、熱電対接合を形成する。基準側熱電対列は、同様に、第1の極性の熱電対素子および第2の極性の熱電対素子を有する。基準熱電対列内の第1の極性の熱電対素子のセグメントは、第2の極性の熱電対素子のセグメントに拡散接合されて、熱電対接合を形成する。試料プラットフォームは、試料側熱電対列の上に位置決めされ、中心が置かれ、基準プラットフォームは、基準側熱電対列の上に位置決めされ、中心が置かれている。両方の熱電対列からの第1の極性の熱電対素子の外側円弧セグメントは、セラミック基板に拡散接合されている。試料熱電対列は、試料プラットフォームに拡散接合された第2の極性の熱電対素子の内側円弧セグメントを有し、基準熱電対列は、基準プラットフォームに拡散接合された第2の極性の熱電対素子の内側円弧セグメントを有する。
【0018】
別の態様において、実施形態は、ホールを取り囲む隆起平面を含んでいるセラミック基板を有するセンサである。熱電対列は、ホールの上に位置決めされ、隆起平面に支持されている。熱電対列は、正極熱電対素子および負極熱電対素子を有する。正極熱電対素子のセグメントは、負極熱電対素子のセグメントに拡散接合されて、拡散接合された熱電対接合を形成する。プラットフォームは、熱電対列の上に中心が置かれる。正極熱電対素子および負極熱電対素子の外側円弧セグメントは、セラミック基板に拡散接合されている。正極熱電対素子および負極熱電対素子の内側円弧セグメントは、プラットフォームに拡散接合されている。
【0019】
別の態様において、実施形態は、熱流束示差走査熱量計用のツイン型熱電対列センサである。これは、試料位置に中心が置かれた試料側熱電対列および基準位置に中心が置かれた基準側熱電対列を含んでいるセラミック基板を有する。試料側熱電対列は、熱電対接合を形成するために互いに拡散接合された第1の極性の熱電対素子および第2の極性の熱電対素子を有し、基準側熱電対列は、熱電対接合を形成するために互いに拡散接合された第1の極性の熱電対素子および第2の極性の熱電対素子を有する。試料プラットフォームは、試料側熱電対列に中心が置かれ、基準プラットフォームは、基準側熱電対列に中心が置かれている。試料熱電対列および基準熱電対列の両方からの熱電対素子の外側円弧セグメントは、セラミック基板に拡散接合されている。試料熱電対列内の熱電対素子の内側円弧セグメントは、試料プラットフォームに拡散接合され、基準熱電対列内の熱電対素子の内側円弧セグメントは、基準プラットフォームに拡散接合されている。
【0020】
実施形態のその他のシステム、方法、特徴および利点は、以下の図面および詳細な説明を検討すると、当業者に明らかであろう、または明らかになるであろう。全てのこのようなさらなるシステム、方法、特徴および利点は、詳細な説明および概要の範囲に含まれること、実施形態の範囲にあること、および請求項によって保護されることが意図されている。
【0021】
実施形態は、添付図面および詳細な説明を参照してより十分に理解され得る。図面中のコンポーネントは、必ずしも正しい縮尺ではなく、むしろ実施形態の原理を示すことに重点が置かれている。さらに、図面中、類似した参照符号は、様々な図を通じて対応する部品を指定する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】拡散接合された熱電対列DSCセンサの例示的実施形態の電気回路図である。
【
図2】拡散接合された熱電対列DSCセンサの実施形態の斜視図である。
【
図3】正極熱電対素子および負極熱電対素子を表す熱電対列の一部の斜視図である。
【
図4】製造中の熱電対列DSCセンサの様々な層を表す分解図である。
【
図5】拡散接合後の熱電対列センサの平面図である。
【
図6】熱電対合金板が切り取られた後の
図5の熱電対列センサの平面図である。
【
図7】負極板および正極板を通る付加的な切れ目が入れられた
図5および
図6の熱電対列センサの平面図である。
【
図8】センサを製造するために使用されることがある拡散接合装置の例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、金属合金熱電対およびセラミックコンポーネントを備える例示的な熱電対列DSCセンサの概略図である。本実施形態において、熱電対合金の間の熱電対接合は、熱電対合金とセラミック部品との間の構造的および熱伝導性接合と同様に、拡散接合によって行われる。拡散接合は、接合されるべき表面が加圧下で密着させられ、つながれる材料のため適切な保護雰囲気内で加熱される固体接合プロセスである。熱および圧力は、材料が互いに混ざり合い、材料を一体としてつなぐように十分な期間にわたって維持される。
【0024】
本実施形態の高出力熱電対ペアは、多くの利点を提供する。結果として得られるセンサのソースインピーダンスを、低く保つことができ、中間合金の形成を、回避でき、不要なロウ付け合金フローを、同様に回避でき、結果として得られる熱電対の出力は、熱電対タイプに対する標準に適合する。本実施形態における熱電対列DSCセンサは、2つの示差温度測定を含むように構成されている。このセンサは、米国特許第6,431,747号および第7,470,057号に開示された測定方法を使用し、これらの米国特許は、両方ともに全体として本明細書に参照によって組み込まれる。
【0025】
図1は、熱電対の接続と信号が測定される方法とを明らかにする例示的なツイン型熱電対列DSCセンサの概略図である。試料熱電対列1sは、試料測定領域Sと試料ベース領域S
0との間の温度差を測定する。試料容器内の試料は、センサの試料測定領域に設置される。試料測定領域および試料ベース領域の各々は、同数の熱電対接合がこれらにつながれている。
【0026】
基準熱電対列1rは、基準測定領域Rと基準ベース領域R
0との間の温度差を測定する。基準試料は、基準容器内で使用される場合、センサの基準測定領域に設置される。ほとんどの場合、基準容器は、基準試料を含んでいない。基準測定領域および基準ベース領域の各々は、試料測定領域および試料ベース領域内の熱電対接合の数と同数の熱電対接合がこれらにつながれている。各熱電対接合は、正極熱電対素子と負極熱電対素子との間の接続である。試料熱電対列において、各熱電対接合は、試料測定領域または試料ベース領域のいずれかに物理的につながれている。基準熱電対列において、各熱電対接合は、基準測定領域または基準ベース領域のいずれかに物理的につながれている。
【0027】
試料熱電対列において、負極配線4sは、第1の熱電対接合6を形成するために試料ベース領域S
0内で正極熱電対素子5につなぐ。正極熱電対素子5は、熱電対接合8を形成するために試料測定領域S内で負極熱電対素子7につなぐ。負極熱電対素子7は、次に、試料ベース領域S
0内で第2の熱電対接合を形成するために別の正極熱電対素子につなぐ。このパターンは、一連の熱電対接合が試料ベース領域と試料測定領域とにおいて交互に形成されるように継続する。このようにして、N個の熱電対接合が試料ベース領域内に作り出される。
【0028】
試料測定領域内の最後の熱電対接合番号Nは、試料測定領域内の接合Nに接続された正極素子と基準測定領域R内に第1の接合11を形成する正極素子10に接続する負極素子9との接合によって作り出される。
【0029】
基準熱電対列において、正極熱電対素子10は、第1の基準ベース領域接合13を形成するために基準ベース領域R
0内で負極熱電対素子12に接続する。負極熱電対素子12は、次に、基準測定領域R内で第2の熱電対接合を形成するために別の正極熱電対素子をつなぐ。このパターンは、基準測定領域および基準ベース領域内に交互に形成された一連の熱電対接合を続ける。このように、N個の熱電対接合が基準測定領域内に作り出される。
【0030】
基準ベース領域内の最後の熱電対接合番号Nは、基準測定領域内の接合Nに接続された正極素子と負極配線4rとの接合によって作り出される。このようにして、熱電対接合のN個のペアの各々の中の2個の接続された熱電対列は、試料測定領域と試料ベース領域との間、および、基準測定領域と基準ベース領域との間に作り出される。
【0031】
正極熱電対素子15および負極熱電対素子16を備える熱電対14は、負極熱電対素子9につながれ、これによって、試料測定領域と基準測定領域との間で2つの熱電対列をつなぐ。示差温度測定値ΔTは、各熱電対列を終端するベース領域S
0内の負極熱電対配線4sとベース領域R
0内の負極熱電対配線4rとの間で測定される。示差温度測定値ΔT
0は、試料熱電対列1sを終端する負極熱電対配線4sと、熱電対14の負極熱電対配線16との間で測定される。
【0032】
正極熱電対素子および負極熱電対素子は、センサの性能を変化させないで入れ替えられることがある。これは、正しい符号が熱電対列電圧および熱電対電圧を示差温度測定値および温度測定値に変換する式の中に含まれることだけを要求する。
図1は、各熱電対列内の5つの接合ペアを示すが、接合ペアの数Nは、1より大きいいずれの数でもよい。選択は、設計者の目標と、物理的な寸法を前提としてセンサの内部に収まり得る接合の数とに依存する。
【0033】
図1に示されるように、熱電対列出力は、正である。試料測定領域の温度が試料ベース領域の温度より高い場合、配線16と配線4sとの間で測定される電圧は、配線4sに関して正であろう。試料測定領域の温度が基準測定領域の温度より高い場合、配線4sと配線4rとの間で想定される電圧は、配線4rに関して正であろう。
【0034】
‘747号特許および‘057号特許の熱流測定方法は、以下の式を使用して、試料熱量計熱流量および基準熱量計熱流量を独立に測定することに基づいている。
【0036】
T
SおよびΔTの上のドットは、時間に関する微分を示し、すなわち、これは、加熱速度を示す。熱電対列センサが、これらの熱流量方程式と共に使用される場合は、電圧から温度への示差温度測定値変換は、熱電対列内の接合の数を考慮しなければならない。
【0038】
式中、V(ΔT)は、試料測定領域温度と基準測定領域温度との間の差によって熱電対列を通して発生された電圧であり、V(ΔT
0)は、試料測定領域温度と試料ベース領域温度との間で試料熱電対列において発生された電圧である。S(T)は、試料測定領域温度または基準測定領域温度で熱電対列において使用された熱電対タイプに対するゼーベック係数である。試料温度および基準温度は、以下の方程式を使用して‘747号特許および‘057号特許に従って測定された温度T
0および示差温度測定値を使用して取得される。
【0040】
全ての計算は、‘747号特許および‘057号特許に記述されたとおりに実行される。
【0041】
図2は、各熱電対列内に12対の熱電対ペアを含んでいる
図1の構成を有する拡散接合熱電対列DSCセンサの斜視図を表す。センサアセンブリは、円板の形をしたセラミック試料プラットフォーム21と、円板の形をしたセラミック基準プラットフォーム22と、セラミック基板23と、第1の極性(たとえば、正極)の金属合金熱電対素子および第2の反対極性(すなわち、第1の極性が正極である場合、負極)の金属合金熱電対素子を備える試料熱電対列1sと、正極金属合金熱電対素子および負極金属合金熱電対素子を備える基準熱電対列1rと、熱電対リード配線4sおよび4rと、熱電対14とを備える。熱電対リード配線4s、4r、15および16は、セラミック基板23内のホール30を通して下へ送られ、熱流測定システムに接続される。
【0042】
図2において、試料プラットフォームの半分は、試料測定領域内の熱電対接合を見せるために切り取られている。たとえば、試料熱電対列1sは、セラミックベース構造体23に拡散接合された正極熱電対合金24sの薄板と、セラミックベース構造体に接合された正極熱電対合金の側の反対側にある正極熱電対合金板の側に拡散接合された負極熱電対合金25sの薄板とで作られる可能性がある。試料プラットフォーム21および基準プラットフォーム22は、それぞれの負極熱電対の表面の中央部に拡散接合されている。
【0043】
前段に記載された構造体と同等である構造体は、正極熱電対合金の代わりに負極熱電対合金を用い、負極熱電対合金の代わりに正極熱電対合金を用いることにより製造されることがある。
【0044】
図3は、3つの正極熱電対素子35および2つの負極熱電対素子31を含む熱電対列のうちの1つの一部を示す。各負極熱電対素子31は、テーパーセクション33nの一方の端部から外側に延在する円弧セグメントである内側セクション32nを有する。外側セクション34nは、テーパーセクションの反対側端部から外側に延在する円弧セグメントである。内側円弧セグメントおよび外側円弧セグメントは、同心であり、これらがテーパーセクションの反対側にある端部から外側に延在し、両方の円弧セグメントが同じ角度を見込むように配置されている。各正極熱電対素子35は、テーパーセクション33pの一方の端部から外側に延在する円弧セグメントである内側セクション32pを有する。外側セクション34pは、テーパーセクションの反対側端部から外側に延在する円弧セグメントである。
【0045】
内側円弧セグメントおよび外側円弧セグメントは、同心であり、これらがテーパーセクションの反対側にある端部から外側に延在し、両方の円弧セグメントが同じ角度を見込むように配置されている。このようにして、正極熱電対素子および負極熱電対素子の各々は、「Z字形」を有し、Zの上端および下端が同じ角度を見込む同心円弧セグメントであり、上端円弧セグメントと下端円弧セグメントとを接続するZの部分は、テーパーセグメントである。
【0046】
正極熱電対素子および負極熱電対素子は、負極熱電対素子の内側円弧セグメント32nが正極熱電対素子の内側円弧セグメント32pと重なり、一致するように配置され、一致する正極熱電対素子および負極熱電対素子が重なり、一体として拡散接合された測定領域熱電対接合36を形成する。正極熱電対素子および負極熱電対素子は、負極熱電対素子のテーパーセクション33nが一致して重なる内側円弧セグメントの一方の端部に隣接し、正極熱電対素子のテーパーセクション33pが重なる内側円弧セグメントのもう一方の端部に隣接するように逆向きに配置されている。
【0047】
正極テーパーセグメントおよび負極テーパーセグメントは、互いに角度に関してオフセットがあり、接触しない。それ故に、正極熱電対素子31および負極熱電対素子35は、内側円弧セグメント32nおよび32pが一致し、一体として拡散接合されている熱電対接合36が形成された測定領域熱電対を備える。外側円弧セグメント34nおよび34pは、互いにオフセットし、それぞれのテーパーセグメントから逆方向へ外側に延在し、重ならない。
【0048】
負極熱電対素子31および正極熱電対素子35を備える隣接する熱電対ペアは、隣接する熱電対ペアの負極素子の外側円弧セグメント34nが第1の熱電対ペアの正極素子の外側円弧セグメント34pと重なり、一致し、および、外側円弧セグメント34pに拡散接合されるように配置されている。これは、2つの隣接する熱電対の間にベース領域熱電対接合を形成する。付加的な熱電対ペアがこの形式で追加され、内径での熱電対接合が試料測定領域または基準測定領域のいずれかにあり、外径での熱電対接合が試料ベース領域または基準ベース領域内にある平らな円形熱電対列を形成する。
【0049】
図4は、試料プラットフォーム21および基準プラットフォーム22と、セラミックベース23と、正極熱電対素子板24および負極熱電対素子板25とが一体として拡散接合され、熱電対列を形成する方法を表す、拡散接合されたセンサの分解図である。
図2および
図3に表されたように、正極熱電対素子31および負極熱電対素子35は、反対極性の重なり合う熱電対素子と、セラミックベース、セラミック試料プラットフォームおよびセラミック基準プラットフォームとに拡散接合された薄板熱電対合金の個別の「Z字形」部品である。多数の小型の個別の熱電対素子を位置合わせさせ、位置合わせを維持する難しさを回避するために、正極熱電対素子および負極熱電対素子は、これらが拡散接合のため全て一体としてつながれている板に形成される。拡散接合後、熱電対板は、個別の熱電対を分離するために切り取られる。
【0050】
正極熱電対合金板24は、等しい直径の2つの交差する円によって境界を付けられる。2つの円の中心距離は、試料プラットフォームと基準プラットフォームとの間、および、2つの熱電対列の間の中心距離に等しい。境界を付ける2つの円と同心である2つのパターンは、板に切り込まれる。切り出されたパターンの各々は、内側円弧セグメント32pと、テーパーセクション33pと、外側円弧セグメント34pの内側円形エッジおよび2つの直線エッジとを形成する。外側円弧セグメント34pの外側円形エッジは、切り込まれない。このように、各切り出しによって形成された12個の正極熱電対素子35は、これらの外側円形エッジに沿って板につながれる。このようにして、試料熱電対列および基準熱電対列の24個の正極熱電対素子の全ては、正極熱電対合金板24の一部分である。
【0051】
同様に、負極熱電対合金板25は、等しい直径の2つの交差する円によって境界を付けられる。2つの円の中心距離は、試料プラットフォームと基準プラットフォームとの間、および、2つの熱電対列の間の中心距離に等しい。境界を付ける2つの円と同心である2つのパターンは、板に切り込まれる。切り出しの各々は、内側円弧セグメント32nと、テーパーセクション33nと、外側円弧セグメント34nの内側円形エッジおよび2つの直線エッジとを形成する。外側円弧セグメント34pの外側円形エッジは、切り込まれない。このように、各切り出しによって形成された12個の負極熱電対素子31は、これらの外側円形エッジに沿って板につながれる。このようにして、試料熱電対列および基準熱電対列の24個の負極熱電対素子の全ては、負極熱電対合金板25の一部分である。
【0052】
セラミックベース23は、試料プラットフォームおよび試料熱電対列と同心であり、セラミックベース23を通る円形試料側ホール38を有する。セラミックベース23は、基準プラットフォームおよび基準熱電対列と同心であり、セラミックベース23を通る円形基準側ホール39を有する。ホールの直径は、図に表されるように、正極熱電対素子外側円弧セグメント34pの内側エッジの直径、および、負極熱電対素子外側円弧セグメント34nの内側エッジの直径に等しい。試料側ホールの直径および基準側ホールの直径は、それぞれ、2つの熱電対列の試料ベース領域の内径および基準ベース領域の内径を画定する。
【0053】
隆起平面40は、試料側ホール38を取り囲む。これの外径は、正極外側円弧セグメント34pおよび負極外側円弧セグメント34nの外側エッジの直径と同じである。隆起平面41は、基準側ホール39を取り囲む。これの直径は、正極外側円弧セグメント34pおよび負極外側円弧セグメント34nの外側エッジの直径と同じである。隆起平面40および41は、同一平面上にある。
【0054】
アセンブリを拡散接合するために、正極熱電対合金板24は、外側円弧セグメント34pの内側エッジが試料側ホール38の円周および基準側ホール39の円周と位置合わせされた状態で隆起プラットフォーム40および41に位置決めされる。負極熱電対合金板25は、外側円弧セグメント34nの内側エッジが試料側ホール38および基準側ホール39の直径、ならびに、正極外側円弧セグメント34pの内側エッジと位置合わせされた状態に表された方向で正極熱電対合金板24の上端に上に置かれる。このことは、内側円弧セグメント32pおよび32nが重なって、それぞれ、試料測定領域熱電対および基準測定領域熱電対を形成するように、内側円弧セグメント32pおよび32nを位置決めする。このことは、外側円弧セグメント34pおよび34nが重なって、試料ベース領域熱電対および基準ベース領域熱電対を形成するように、外側円弧セグメント34pおよび34nをさらに位置決めする。
【0055】
試料セラミックプラットフォーム21および基準セラミックプラットフォーム22は、負極熱電対合金板25の上面に位置している。各プラットフォームのエッジは、内側円弧セグメント32pおよび32nの外側エッジと同じ直径を有する。プラットフォームのエッジは、内側円弧セグメント32pおよび32nの外側エッジと同心状に位置する。
【0056】
アセンブリ全体は、拡散接合装置内に設置される。例示的な装置は、
図8を参照して後述される。圧力が接合面に印加される。装置は、その後、必要な保護雰囲気下で接合温度まで加熱され、拡散接合が(a)セラミック基板の隆起平面と正極熱電対合金板の外側円弧セグメントとの間、(b)外側円弧セグメントがベース領域熱電対を同時形成し、内側円弧セグメントが測定領域熱電対を同時形成する正極熱電対合金板と負極熱電対合金板との間、ならびに(c)負極熱電対板の内側円弧セグメントと試料セラミックプラットフォームおよび基準セラミックプラットフォームとの間に形成される十分な時間にわたって接合温度に維持される。たとえば、Platinelまたはその他のタイプの熱電対は、空気中、窒素中、またはヘリウムのような不活性雰囲気中、0.5から10時間の間、3から5MPaの加圧下で、1100℃から1400℃までの範囲の温度でセラミック構造体に拡散接合されることがある。
【0057】
図5は、拡散接合後のDSCセンサアセンブリを表す。熱電対接合の全ては、正極熱電対合金と負極熱電対合金との間の拡散接合によって形成されている。熱電対列は、試料ベース領域および基準ベース領域内のセラミックベース構造体に拡散接合され、試料プラットフォームおよび基準プラットフォームは、試料測定領域および基準測定領域内の熱電対列に拡散接合されている。熱電対合金板は、使用可能なセンサを作り出すために切り取られ、切断されるべきであり、なぜならば、そうしなければ、ベース領域内の接合は、外側円弧セグメントの外側エッジを越える余分な金属によって短絡されてしまうからである。
【0058】
2枚の板は、1回の動作で切り取られる。試料熱電対列の外側エッジ42および基準熱電対列の外側エッジ43のそれぞれと、正極板および負極板の円周44との間の材料は、除去される。しかしながら、
図6を参照して後述されるように、2つの熱電対列の間の正極熱電対合金と負極熱電対合金との間のブリッジは、そのまま残され、試料測定領域熱電対列と基準測定領域熱電対列とを連結する。
【0059】
図6は、熱電対合金板が試料熱電対列と基準熱電対列との間にブリッジ45を残したままで切り取られた後のセンサを表す。切り込みは、負極熱電対配線が取り付けられる各熱電対列の終端を作り出すためにブリッジに隣接するベース領域内の各熱電対列にも行われる必要がある。
図6は、リード熱電対配線がセラミック基板内の4個のホール30を通過し、熱電対列を温度測定システムに接続するホールをさらに表す。
【0060】
図7は、終端48を形成する試料ベース領域内の負極板および正極板を通る切り込み46が作られ、終端49を形成する基準ベース領域内の負極板および正極板を通る切り込み47が作られた後のセンサを表す。
図2に表されるように、負極熱電対配線4sは、試料ベース領域熱電対列の負極終端48に取り付けられ、負極熱電対配線4rは、基準ベース領域熱電対列の負極終端49に取り付けられ、熱電対14は、試料熱電対列と基準熱電対列との間のブリッジ45に取り付けられている。
【0061】
図8は、センサを製造するために使用されることがある拡散接合装置の例の概略図である。拡散接合装置80は、加熱素子82を使用して電気的に加熱される炉81を有する。上層86および下層87は、下アンビル83と上アンビル84との間に位置決めされている。支持ロッド89は、この支持ロッドがガイドの内部で上下に摺動できるようにガイド85によって所定の位置に保持されている。支持ロッド89は、2つの層86および87が一体として接合されるときに、これらの2つの層86および87に圧力を加えるために使用され得る重り88を保持する。図は、一体として接合される2つの層を示しているが、多数の層が一体として接合されてもよいことが分かる。
【0062】
例示的実施形態において、DSCセンサは、酸化ベリリウム(BeO)セラミック基板に正極合金55 Pd 31 Ot 14 Au配線と負極合金65 Au 35 Pd配線とを有するPlatinel熱電対を使用して製造される。Platinelが選ばれるのは、これが広範囲の温度にわたって高出力を有し、酸化および腐食に耐性を示し、熱電気的安定性があり、−180℃から1300℃まで確実に動作するからである。BeOが選ばれるのは、これが非常に高い熱伝導率を有し、正極Platinel合金および負極Platinel合金の両方と強い拡散接合を形成し、平らな研磨面があれば利用できるからである。AlNおよびサファイアのような高い熱伝導率を有するその他のセラミックは、使用されている熱電対合金に接合できる限り、使用されることがある。
【0063】
上述のとおり12個の接合ペアを含んでいる熱電対列DSCセンサの推定性能は、単一のタイプE示差熱電対に基づく’057号特許に記載されたDSCセンサの推定性能と比較できる。以下の表は、20℃における2つのセンサの熱抵抗、熱容量、時定数および感度を比較する。この表において、Rは、℃/ワット単位の熱抵抗であり、Cは、ジュール/℃単位の熱容量であり、τは、センサの秒単位の(熱抵抗と熱容量の積である)時定数である。Sは、マイクロボルト/ワット単位の感度であり、上述のとおりゼーベック係数と、熱抵抗と、センサ当たりの熱電対接合ペアの数との積である。概して、熱抵抗を増加させると、感度が高くなるが、時定数が長くなり、応答の速度が低下する。熱容量を増加させると、時定数が長くなり、応答の速度が低下するが、感度に影響を与えない。
【0065】
例示的実施形態の熱電対列センサは、’057号特許のセンサの74%である時定数を有し、分析中の試料に起こる熱的事象へのより速い応答を示す。上記表で明らかにされた例において、熱電対列の感度は、’057号特許のセンサの5.5倍より高く、試料に起こる弱い熱的事象に対してより高い感度を示す。
【0066】
望ましい性能目標に依存して、熱電対列センサの幾何学的配置および構成は、熱抵抗、熱容量、時定数および感度を変更するために変形されることがある。たとえば、熱抵抗は、セラミックベース構造体と試料プラットフォームまたは基準プラットフォームとの間の熱電対列を通る熱流に対する抵抗によって基本的に決定される。熱抵抗は、熱電対素子のテーパーセグメント33pおよび33nの長さおよび断面積と、熱電対合金の熱伝導率とに主に依存する。テーパーセグメントの長さを増加させることは、熱抵抗を増加させるが、断面積を増加させることは、熱抵抗を減少させる。
【0067】
熱容量は、構成の材料の比熱容量と、これらの材料の密度および体積に依存するこれらの材料の質量とによって決定される。概して、センサの熱容量は、主に、試料プラットフォームまたは基準プラットフォームの熱容量に正極熱電対素子および負極熱電対素子の熱容量の一部の割合を加えたものである。試料プラットフォームおよび基準プラットフォームの厚さを増加させることは、センサ熱容量を増加させ、センサの時定数を増加させる。熱電対の断面積を増加させることは、熱電対素子のテーパーセクションの長さを増加させるのと同様に、センサ時定数を増加させる傾向がある。センサの感度は、各熱電対列内の熱電対接合のペアの数に比例する。
【0068】
熱電対列DSCセンサは、センサ、試料容器、基準容器、および試料を加熱し、冷却し、均一温度環境を提供する測定室の内部に設置されることがある。従来構成のDSC筐体と、加熱および冷却システムとは、本発明で用いるため適する。たとえば、参照によって全体として本明細書に組み込まれる米国特許第6,523,998号は、適当な測定室と加熱および冷却手段とを記載する。参照によって全体として本明細書に組み込まれる米国仮特許出願第61/696,488号明細書に開示された準断熱DSC構造体および熱流量測定方法が使用されることもある。
【0069】
様々な実施形態が記載されているが、説明は、限定するものではなく、例示となることが意図され、当業者ならば、本明細書における実施形態の範囲にあるさらに多くの実施形態および実装が考えられることは明らかである。その結果、実施形態は、請求項と請求項の均等物を考慮することなく限定されるべきではない。さらに、様々な変形および変更が請求項の範囲で行われることがある。