(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182695
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】複素透磁率測定装置とその測定方法および応用。
(51)【国際特許分類】
G01R 33/16 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
G01R33/16
【請求項の数】17
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-24203(P2013-24203)
(22)【出願日】2013年2月12日
(65)【公開番号】特開2014-153241(P2014-153241A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】507212333
【氏名又は名称】田島 健一
(72)【発明者】
【氏名】田島 健一
【審査官】
菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭64−39571(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0189291(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/16
G01N 27/72−27/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気を用いた透磁率測定において、基準部材あるいは被測定部材と磁気的に接触させる磁気プローブヨークと、磁気プローブヨークに巻き回した励磁コイルと、前記磁気プローブヨークの磁束を検出する手段と、ディジタル発振器と、前記ディジタル発振器からサンプリング周波数、ゲイン変換を通して励磁コイルを励磁するDA変換器と、励磁コイルの電圧と電流を検出する手段と、基準部材に磁気的に接触させた時、前記磁気プローブヨークの磁束を同定する手段と、被測定部材を磁気的に接触させた時、前記磁気プローブヨークの磁束が前記の同定した時の磁束となるよう制御する手段を有することを特徴とする透磁率測定装置。
【請求項2】
磁気を用いた透磁率測定において、基準部材あるいは被測定部材と磁気的に接触させる磁気プローブヨークと、磁気プローブヨークに巻き回した励磁コイルと、前記磁気プローブヨークの磁束を検出する手段と、ディジタル発振器と、前記ディジタル発振器からサンプリング周波数、ゲイン変換を通して励磁コイルを励磁するDA変換器と、励磁コイルの電圧と電流を検出する手段と、ある特定周波数計測時の被測定部材に磁気的に接触させた時、前記磁気プローブヨークの磁束を同定する手段と、前記の同定時と異なる周波数において被測定部材を磁気的に接触させた時、前記磁気プローブヨークの磁束が前記の同定した時の磁束となるよう制御する手段を有することを特徴とする透磁率測定装置。
【請求項3】
請求項1あるいは請求項2記載の透磁率測定装置において、前記ディジタル発振器は複数の周波数を順次あるいは同時に発生させ、かつソフトウェアから振幅及び位相およびサンプリング周波数を可変できることを特徴とする透磁率測定装置。
【請求項4】
請求項1あるいは請求項2記載の透磁率測定装置において、前記磁気プローブヨークの磁束を検出する手段として前記磁気プローブヨークに巻き回したサーチコイルと、積分回路を持つことを特徴とする透磁率測定装置。
【請求項5】
請求項1あるいは請求項2記載の透磁率測定装置において、前記磁気プローブヨークの磁束を同定する手段として適応フィルタ7を用いることを特徴とする透磁率測定装置。
【請求項6】
請求項1あるいは請求項2記載の透磁率測定装置において、前記磁気プローブヨークの磁束を前記の同定時の磁束となるよう制御する手段として適応フィルタを用いたインバースコントロールを行うことを特徴とする透磁率測定装置。
【請求項7】
請求項1記載の透磁率測定装置を用いた被測定部材の透磁率を測定する方法であって、前記磁気プローブヨークを前記基準部材に磁気的に接触させる工程と、前記励磁コイルを一定の交流電圧かつある特定周波数で励磁する工程と、前記磁気プローブヨークの磁束を同定する工程と、前記被測定部材を前記磁気プローブヨークに磁気的に接触させ前記磁気プローブヨークの磁束を測定する工程と、測定した前記磁気プローブヨークの磁束が、前記の同定した磁束となるよう励磁コイルを制御する工程を含む測定方法。
【請求項8】
請求項2記載の透磁率測定装置を用いた被測定部材の透磁率を測定する方法であって、前記磁気プローブヨークを、前記被測定部材に磁気的に接触させる工程と、前記励磁コイルを一定の交流電圧かつある特定周波数で励磁する工程と、前記磁気プローブヨークの磁束を同定する工程と、前記被測定部材を前記磁気プローブヨークに、前記の同定時と異なる周波数において磁気的に接触させ前記磁気プローブヨークの磁束を測定する工程と、測定した前記磁気プローブヨークの磁束が前記の同定した磁束となるよう励磁コイルを制御する工程を含む測定方法。
【請求項9】
請求項7あるいは請求項8記載の透磁率測定方法において、前記ディジタル発振器の出力を前記方法で同定した適応フィルタ7を通したものを信号源とし、前記被測定部材を前記磁気プローブヨークに磁気的に接触させ、前記磁気プローブヨークの磁束が前記適応フィルタ7の出力と漸近するよう、前記励磁コイルを駆動する前記適応フィルタ13及びフィルタ13aを含む系をインバースコントロールすることを特徴とする透磁率測定方法。
【請求項10】
請求項7あるいは請求項8記載の透磁率測定方法において、前記励磁コイル電圧と電流、及び前記磁気プローブヨークの磁束の計測値をフェーザ(複素数)に変換して後の計測に用いる方法。
【請求項11】
請求項10記載の透磁率測定方法において、前記適応フィルタ13及びフィルタ13aを用いてインバースコントロールが収束した後、前記励磁コイルの電流とターン数から起磁力を計算し、前記磁気プローブヨークの磁束の計測値で除し磁気抵抗を求め、それから透磁率を求めることを特徴とする透磁率測定方法。
【請求項12】
請求項11記載の透磁率測定方法で透磁率を求め、あらかじめ求められている透磁率と応力の関係から応力を推定する方法。
【請求項13】
請求項8記載の透磁率測定方法において、前記磁気プローブヨークを前記被測定部材に磁気的に接触させ、特定の周波数での前記磁気プローブヨークの磁束を同定し、別の周波数でも前記磁気プローブヨークの磁束が前記の同定した磁束と同じフェーザになるようインバースコントロールを行い収束後、前記励磁コイルの電流とターン数から起磁力を計算し、変化させた周波数での等価表皮深さ差分に対応する起磁力の差分から磁気抵抗の差分および透磁率を求める方法。
【請求項14】
請求項13記載の透磁率測定方法で、特定の周波数で前記磁気プローブヨークの磁束を同定した前記適応フィルタ7を用いて、サンプリング周波数を変更し別の周波数でも同定した時と同じ伝達関数が得られるようにインバースコントロールを行う方法。
【請求項15】
請求項13記載の透磁率測定方法で、特定の周波数で前記磁気プローブヨークの磁束を同定した前記適応フィルタ7の係数から同定時周波数での伝達関数を求め、サンプリング周波数を変更した別の周波数でも、その伝達関数と等価なブロックでインバースコントロールを行う方法。
【請求項16】
請求項13記載の透磁率測定方法において、周波数を変えてインバースコントロールを行い起磁力の差分から磁気抵抗の差分を求める時、前記励磁コイル電圧と電流から求めた電力、周波数から求めた表皮深さ等から拡張カルマンフィルタを用いて磁気抵抗に関係するパラメータ推定を行う方法。
【請求項17】
請求項13記載の透磁率測定方法において、周波数を順次低く変更していった時、磁気抵抗計測値がある一定の値に漸近していったときの等価表皮深さより、前記被測定部材の厚さを求める方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定対象の複素透磁率測定装置とその測定方法に関する。およびその応用として被測定対象に加わる応力および被測定部材の厚さの磁気的な測定に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体等に応力が加わると磁歪効果などにより、磁気特性が変化する。従来の応力測定装置においても、磁気異方性を利用したものが多かった。これらは応力が作用している磁性体を各辺とする磁気ブリッジ回路とみなせる。測定装置出力は主応力差に比例する測定値が得られるが応力の絶対値は計測できなかった。(例えば非特許文献1参照)しかし、決められた材質の応力と透磁率との関係はオフラインで測定できるので、構造物の透磁率を非接触で計測できれば、主応力が推定可能になる。また特許文献1は複素透磁率を製造ラインで測定しているので、リフトオフなどの形状に制限がある。
【非特許文献1】“磁気異方性を利用した鋼管応力測定・評価技術 JFE技報No3”
【特許文献1】特開2011−123081号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の磁歪を利用した応力測定装置では磁性体を各辺とする磁気ブリッジ回路で測定するので主応力差しか測定できなかった。本発明では被測定部材からなる磁気回路の磁気抵抗より複素透磁率を求めることで、主応力を推定する。
【0004】
また従来鋼板などの厚さを求めるには、パルス磁界を鋼板に印加し、磁界を遮断した時の減衰波形の時定数から厚さを計測していた。これには同じ材質の基準となる鋼板との比較で厚さを求めることが必要であった。本発明では周波数を変えていった時の磁気抵抗の漸近値から被測定部材の厚さを求めるので、基準部材は必要ない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は磁気を用いた透磁率測定において、基準部材あるいは,
被測定部材と磁気的に接触させる磁気プローブヨークと
、磁気プローブヨークに巻き回した励磁コイルと、前記磁気プローブヨークの磁束を検出する手段と、ディジタル発振器と、前記ディジタル発振器からサンプリング周波数、ゲイン変換を通して励磁コイルを励磁するDA変換器と、励磁コイルの電圧と電流を検出する手段と、基準部
材に磁気的に接触させた時、前記磁気プローブヨークの磁束を同定する手段と、
被測定部材を磁気的に接触させた時、前記磁気プローブヨークの磁束が前記の同定した時の磁束となるよう制御する手段を有することを特徴とする透磁率測定装置。
【0006】
また本発明は磁気を用いた透磁率測定において、基準部材あるいは被測定部材と磁気的に接触させる磁気プローブヨークと、磁気プローブヨークに巻き回した励磁コイルと、前記磁気プローブヨークの磁束を検出する手段と、ディジタル発振器と、前記ディジタル発振器からサンプリング周波数、ゲイン変換を通して励磁コイルを励磁するDA変換器と、励磁コイルの電圧と電流を検出する手段と、ある特定周波数計測時の被測定部材に磁気的に接触させた時、前記磁気プローブヨークの磁束を同定する手段と、前記の同定時と異なる周波数において被測定部材を磁気的に接触させた時、前記磁気プローブヨークの磁束が前記の同定した時の磁束となるよう制御する手段を有することを特徴とする透磁率測定装置。
【0007】
また本発明は上記透磁率測定装置において、前記ディジタル発振器は複数の周波数を順次あるいは同時に発生させ、かつソフトウェアから振幅及び位相およびサンプリング周波数を可変できることを特徴とする透磁率測定装置。
【0008】
また本発明は上記透磁率測定装置において、前記磁気プローブヨークの磁束を検出する手段として前記磁気プローブヨークに巻き回したサーチコイルと、積分回路を持つことを特徴とする透磁率測定装置。
【0009】
また本発明は上記透磁率測定装置において、前記磁気プローブヨークの磁束を同定する手段として適応フィルタを用いることを特徴とする透磁率測定装置。
【0010】
また本発明は上記透磁率測定装置において、前記磁気プローブヨークの磁束を前記の同定時の磁束値となるよう制御する手段として適応フィルタを用いたインバースコントロールを行うことを特徴とする透磁率測定装置。
【0011】
また本発明は
請求項1記載の透磁率測定装置を用いた被測定部材の透磁率を測定する方法であって、前記磁気プローブヨークを前記基準部
材に磁気的に接触させる工程と、前記励磁コイルを一定の交流電圧
かつある特定周波数で励磁する工程と、前記磁気プローブヨークの磁束を同定する工程と、前記被測定部材を前記磁気プローブヨークに磁気的に接触させ前記磁気プローブヨークの磁束を測定する工程と、測定した前記磁気プローブヨークの磁束が前記の同定した磁束となるよう励磁コイルを制御する工程を含む測定方法。
【0012】
また本発明は請求項2記載の透磁率測定装置を用いた被測定部材の透磁率を測定する方法であって、前記磁気プローブヨークを、前記被測定部材に磁気的に接触させる工程と、前記励磁コイルを一定の交流電圧かつある特定周波数で励磁する工程と、前記磁気プローブヨークの磁束を同定する工程と、前記被測定部材を前記磁気プローブヨークに、前記の同定時と異なる周波数において磁気的に接触させ前記磁気プローブヨークの磁束を測定する工程と、測定した前記磁気プローブヨークの磁束が前記の同定した磁束となるよう励磁コイルを制御する工程を含む測定方法。
【0013】
また本発明は上記透磁率測定方法において、前記ディジタル発振器の出力を前記方法で同定した適応フィルタ7を通したものを信号源とし、前記被測定部材を前記磁気プローブヨークに磁気的に接触させ、前記磁気プローブヨークの磁束が前記適応フィルタ7の出力と漸近するよう、前記励磁コイルを駆動する前記適応フィルタ13及び13aを含む系をインバースコントロールすることを特徴とする透磁率測定方法。
【0014】
また本発明は上記透磁率測定方法において、前記励磁コイル電圧と電流、及び前記磁気プローブヨークの磁束の計測値をフェーザ(複素数)に変換して後の計測に用いる方法。
【0015】
また本発明は上記透磁率測定方法において、前記適応フィルタを用いてインバースコントロールが収束した後、前記励磁コイルの電流とターン数から起磁力を計算し、前記磁気プローブヨークの磁束の計測値
で除し磁気抵抗を求め、それから透磁率を求めることを特徴とする透磁率測定方法。
【0016】
また本発明は上記透磁率測定方法で透磁率を求め、あらかじめ求められている透磁率と応力の関係から応力を推定する方法。
【0017】
また本発明は上記透磁率測定方法において、前記磁気プローブヨークを前記被測定部材に磁気的に接触させ、特定の周波数での前記磁気プローブヨークの磁束を同定し、別の周波数でも前記磁気プローブヨークの磁束が前記の同定した磁束と同じフェーザになるようインバースコントロールを行い収束後、前記励磁コイルの電流とターン数から起磁力を計算し、変化させた周波数での等価表皮深さ差分に対応する起磁力の差分から磁気抵抗の差分および透磁率を求める方法。
【0018】
また本発明は上記透磁率測定方法において、特定の周波数で前記磁気プローブヨークの磁束を同定した前記適応フィルタ7を用いて、サンプリング周波数を変更し別の周波数でも同定した時と同じ伝達関数が得られるようにインバースコントロールを行う方法。
【0019】
また本発明は上記透磁率測定方法において、特定の周波数で前記磁気プローブヨークの磁束を同定した前記適応フィルタ7の係数から同定時周波数での伝達関数を求め、サンプリング周波数を変更した別の周波数でも、その伝達関数と等価なブロックでインバースコントロールを行う方法。
【0020】
また本発明は上記透磁率測定方法において、周波数を変えてインバースコントロールを行い起磁力の差分から磁気抵抗の差分を求める時、前記励磁コイル電圧と電流から求めた電力、周波数から求めた表皮深さ等から拡張カルマンフィルタを用いて磁気抵抗に関係するパラメータ推定を行う方法。
【0021】
また本発明は上記透磁率測定方法において、周波数を順次低く変更していった時、磁気抵抗計測値がある一定の値に漸近していったときの等価表皮深さより、前記被測定部材の厚さを求める方法。
【発明の効果】
【0022】
従来の応力測定装置は磁気ブリッジで磁気異方性に起因する磁気抵抗のアンバランスを検出するものが多かった。この方法では主応力差しか計測できない。それに対して本発明では磁気抵抗から複素透磁率そのものを推定するので、それから主応力を推定できる。また磁気抵抗の漸近値から被測定部材の厚さを求めることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の第一の実施形態について詳述する。励磁コイルに一定の正弦波交流電流を流した時、磁気回路の起磁力は
F = N ×Ie となる。
ここで F:磁気回路 起磁力
N:励磁コイル巻き数
Ie:励磁コイル電流
この磁気回路の磁気抵抗は
Rm = F/Φ (1)
F = Rmg×Φ
となる。
ここで Rmg :磁気回路の磁気抵抗
Φ :磁束
これから磁気回路の磁気抵抗が変った時、磁束Φを一定に保とうとすれば、起磁力すなわち励磁コイルの電流を制御する必要がある。これは電気回路にたとえると回路電流を一定にする定電流回路に相当する。上記の関係より磁気抵抗がわかり、磁気回路の磁路がある程度特定できるならば、下記の関係から透磁率が推定できる。
Rmg =l/(μ× A) (2)
ここで
Rmg: 磁気抵抗
l: 推定磁路長
μ : 磁路透磁率
A : 磁路断面積
【0024】
第一の実施形態として、磁気ヨーク型プローブに基準部材を磁気的に接触させ、励磁コイルとサーチコイルを同じ磁気ヨーク型プローブに巻きまわし、励磁コイルに一定の電圧をかけると磁気回路に磁束流が流れる。この時磁気回路の磁束Φをサーチコイルで測定する。サーチコイルに発生する電圧vを積分することにより磁気回路の磁束Φが以下の関係でわかる。
Φ =−(1/N)∫vdt=vΦ
ここで Nはサーチコイル巻き数。vΦは磁気回路の磁束Φに対応する積分回路の出力を表す。このvΦをP1(Z)(適応フィルタ7)によって同定し係数を固定する。この時の磁気プローブヨークに流れる磁束をΦ1とし、この時のステートをステート1とする。同時に励磁コイルの電圧、電流をフェーザに変換する。またこの時の励磁コイルの起磁力を計算しF1とする。
【0025】
次に磁気プローブヨークに磁気的に接触させる部材を基準部材から被測定部材に換えると、被測定部材の磁気抵抗に応じて磁路磁束Φが変化しサーチコイル積分電圧vΦも変化する。この時の磁気プローブヨークに流れる磁束をΦ2とし、この時のステートをステート2とする。適応フィルタ7によって同定された磁束になるよう適応フィルタ13(P2C(Z))および13aによって駆動する励磁コイルをインバースコントロールする。適応フィルタはその出力と参照入力との差を最小にするよう、係数を更新していく。適応フィルタをインバースコントロール(逆制御)に使う場合、制御目標と制御対象出力が一致するように適応フィルタの係数が変化していく。適応フィルタ7によって同定された磁束はΦ1なので、インバースコントロールすることにより励磁コイル電流を制御して、Φ2=Φ1になる。インバースコントロールが収束した時、励磁コイル起磁力のフェーザをF2とする。
【0026】
次に、上記のステート1での磁束は以下の式で表される。
Φ1 = F1/(Rcor+Rref)
ここで
Φ1:基準部材接触時の磁気プローブヨーク磁束
Rcor:磁気プローブヨーク部の磁気抵抗
Rref:基準部材の磁気抵抗
ステート2での磁束は以下の式で表される。
Φ2 =F2/(Rcor+Rtst)
ここで
Φ2:被測定部材接触時の磁気プローブヨーク磁束
Rtst:被測定部材の磁気抵抗
インバースコントロールが収束するとΦ1=Φ2となる。これより以下の式が成り立つ。
F1/(Rcor+Rref)=F2/(Rcor+Rtst)
これから
Rtst=(Rcor+Rref)×F2/F1−Rcor
磁気プローブヨーク、基準部材の透磁率はあらかじめわかっているので磁路の形状が推定できればRcor、Rrefの磁気抵抗は計算できる。これからRtstを求めることが出来る。これから被測定部材の透磁率μが求められる。
【0027】
起磁力を計算する場合、励磁コイルの電流は位相および振幅情報を有するので、ベクトル形式で演算する必要がある。この為に、AD変換器で収集した励磁コイルの電圧、電流およびサーチコイル積分電圧vΦをフェーザ(複素数)に変換する。フェーザ表示は正弦波を扱う電気回路によく用いられて振幅、位相を表し周波数が括りだされた式になる。フェーザに変換する方法として直交検波、ヒルベルト変換等の方法がある。ベクトル形式で演算するので前記の被測定部材の磁気抵抗(Rtst)は必然的に複素数になる。これから導かれる透磁率も複素透磁率になる。
【0028】
透磁率μと応力とは相関があるので、あらかじめ求められている関係から応力を求める事が出来る。
【0029】
第二の実施形態として、同一部材で周波数を変えながら測定することも可能である。磁気コアを
被測定部材に装着し、ある特定の周波数で磁束Φを計測する積分回路出力を適応フィルタ7(P1(z))によって同定し係数を固定する。次に前記ディジタル発振器で発生する周波数を変化させる。例えば最初の周波数より下げる。このとき適応フィルタ7(P1(z))を用いるが、周波数が異なるので特性も変化する。しかし適応フィルタの周波数応答はサンプリング周波数の関数として表現される。すなわち適応フィルタの伝達関数をH(z)にz=exp(j2πfn/fs)を代入すると周波数応答が得られる。ここで
fn:前記ディジタル発振器で発生する周波数
fs:サンプリング周波数
ここでfnの低下に応じてfsも低下させれば最初の特定の周波数で同定した磁束Φと相対的に同じになる。これはフェーザが同じになることを意味する。ディジタル発振器はソフトウェアから振幅及び位相およびサンプリング周波数を可変できる。サンプリング周波数が下がるとDA変換器の出力が大きく歪むことがあるので、サンプリング変換でサンプリング周波数を上げる。励磁コイルのインピーダンスは加える周波数によって変化するが、適応フィルタ7(P1(z))を信号源としたインバースコントロールによって周波数は異なるが同じフェーザになるよう制御できる。これは周波数に比例した電圧が励磁コイルに加わることを意味する。これは周波数に関係なく、同じ電流がながれ同じ起磁力が発生することになる。磁気回路の磁束Φは磁気抵抗が同じと仮定したとき、励磁コイル電圧と周波数とは以下のような関係にある。
Φ=kVe/fn
Veは励磁コイルに加える電圧でkは比例定数である。参考として変圧器の磁気回路の磁束Φは下記のような式で表現され、上式と内容は同じである。
Φ=E1/(4.44×f×N)
ここでE1は加える電圧、fは周波数、Nは一次巻き線巻き数。
【0030】
この後インバースコントロールが収束した時の励磁コイル電流からフェーザを求め起磁力を計算する。磁路磁束Φと起磁力から磁気抵抗は(1)式で計算できる。周波数を変えたときの励磁コイル電流のフェーザ差分は表皮深さ変化分の磁路変化に対応する。これから変化分の金属部位に対する属性が推察可能になる。これは差分値なので磁気コアのリフトオフによる磁気抵抗をキャンセルできる。
【0031】
以上は同じ適応フィルタ7(P1(z))を使ったものだが、同定時の振幅位相特性と同じになるよう、サンプリング周波数を変えたときのフィルタを新たに構成してそれを用いても良い。
【0032】
以上に述べたように、同じ被測定部材で、周波数を変えながら計測を行っても、被測定部材において磁路の特性が変化しないならば、時系列の波形は変ってもそれをフェーザに変換した値は周波数が除外されているので、同じ値になる。フェーザになおした値が変化するのは、表皮深さが変った為に磁路断面積変化あるいは損失の変化に起因する磁気抵抗の変化に起因する。表皮深さによる磁路断面積変化は磁気プローブヨークの形状あるいは被測定部材の材質にも関係する。あるいは電力損失は渦電流とも関係しこれは周波数の2乗に比例する。すなわち直接観測できないパラメータが存在する。このパラメータ等を推定する為に、拡張カルマンフィルタを用いる。その状態空間モデルに励磁コイル電圧と電流から求めた電力、周波数から求めた等価表皮深さを考慮する。周波数を変えて何回も測定することにより、推定値の分散が小さくなり、最尤推定ができる。
【0033】
以上のようにして、周波数を順次低く設定していった時の磁気抵抗の変化を調べると、周波数が等価表皮深さより深くなったとき、磁気抵抗はそれ以上減少しない。このことから磁気抵抗計測値がある一定の値に漸近していったときの等価表皮深さより、前記被測定部材の厚さを求めることが出来る。
【実施例1】
【0034】
図1は磁気プローブヨーク1の形状を示す。励磁コイル2とサーチコイル3が巻かれている。励磁コイルに適当な電圧を加え、基準部材あるいは被測定部材に接触させる。
図2はこの状態でディジタル発振器から励磁コイルを介して磁気プローブ磁束までの伝達関数を適応フィルタ7で同定する手順を示す。
図3は被測定部材を磁気プローブヨーク1に接触させ、適応フィルタ7で同定した時の磁気プローブ磁束になるよう、適応フィルタ13および13aでインバースコントロールをした時の構成図である。
【0035】
図2に示すように、ディジタル発振器から励磁コイルを介して磁気プローブ磁束までの伝達関数までの伝達関数を同定する装置として、ディジタル発振器4と、発振器のディジタル信号はサンプリング周波数及びゲイン変更部5を介してアナログ信号に変換するDA変換器6と、DA変換器出力で駆動される励磁コイル2と、励磁コイル電流検出抵抗10と、AD変換器9と、サーチコイル3と、サーチコイル出力を積分する磁束積分8と、伝達関数を同定する適応フィルタ7と、フェーザ変換部を備えCPUで制御される。
【0036】
適応フィルタ7は基準部材接触時のディジタル発振器4からサーチコイル出力を積分する磁束積分8までの伝達関数を同定する。適応が完了した後、適応フィルタ7の係数は固定し後の被測定部材の磁気抵抗計測時に使用する。
【0037】
被測定部材の磁気抵抗計測時は
図3に示すように、ディジタル発振器4と、サンプリング周波数及びゲイン変更部5と、DA変換器6と、DA変換器出力で駆動される励磁コイル2と、励磁コイル電流検出抵抗10と、サーチコイル3と、サーチコイル出力を積分する磁束積分8と、AD変換器9と、同定された伝達関数を持つ適応フィルタ7と、フェーザ変換部とCPUを備えている。これらは
図2と同じである。更に適応フィルタ13と、適応フィルタ13の係数をコピーしたフィルタ13aと、ディレイ14を備えている。適応フィルタ13とフィルタ13aはともに同定された適応フィルタ7の出力に磁気プローブ磁束が一致するよう、インバースコントロールを行う。
【0038】
図3の適応フィルタ7は基準部材接触時のディジタル発振器から励磁コイルを介して磁気プローブ磁束までの伝達関数を保持している。従って、適応フィルタ7の出力は基準部材接触時の計測出力を再現している。この状態で被測定部材を接触させ適応アルゴリズムで適応フィルタ7の出力となるようインバースコントロールする。この結果、基準部材接触時の磁気プローブヨーク磁束が再現され、基準部材と被測定部材の磁気抵抗の変化分に対応する励磁コイル電流になる。励磁コイル電流とサーチコイル出力を積分する磁束積分8を計測し、フェーザに変換することで、起磁力と磁束が求められる。これから磁気抵抗を求め、仮定した磁路寸法を用いて透磁率を求め、それより応力を推定する。なお、本発明は上記した実施形態に記載の具体的構成に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した範囲内で種々の変形が可能である。例えばインバースコントロールについても、他の構成として良い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】基準部材/被測定部材15接触時のコア部形状。
【
図2】基準部材あるいは被測定部材接触時の磁気プローブヨーク1の磁束をサーチコイル3で同定する際のディジタル発振器から励磁コイルおよびサーチコイル出力間の詳細構成を示すブロック図である。
【
図3】被測定部材装着時に変化した磁気プローブヨーク1の磁束を前記同定時の磁束に制御するインバースコントロール詳細構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0040】
1 磁気プローブヨーク
2 励磁コイル
3 サーチコイル
4 ディジタル発振器
5 サンプリング周波数、ゲイン変換
6 励磁コイル駆動DA変換器
7 ディジタル発振器からサーチ積分出力までの同定伝達関数。P1(Z)
8 磁束積分
9 AD変換器
10 電流検出用抵抗
11 計測信号フェーザ変換
12 CPU
13 インバースコントロール適応フィルタ
13a インバースコントロールに使うフィルタ
14 ディレイ
15 基準部材/被測定部材