(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
背景
カンプトセシン(CPT、1、
図1)は、顕著な抗癌効果を有する天然のアルカロイドである
1−3。その抗癌活性は、不可逆な薬剤−酵素−DNAの三重複合体を安定化し、トポイソメラーゼ(Topo I)によって誘導される1本鎖DNA切断の再連結を防止することによるDNA Top Iの触媒サイクルの干渉能によるものである
4,5。過去数十年にわたる合成医療化学への集中的な取り組みにより、現在、卵巣癌、肺小細胞癌、及び結腸癌の治療に臨床的に使用される、トポテカン(2)及びイリノテカン(3)等の、強力な1−誘導体が得られた。また、ギマテカン(gimatecan)(4)、CKD−602(5)、及びBNP−1350(6)等の、数種の誘導体は、前臨床開発または臨床開発の様々な段階である
6−8。臨床使用される1−誘導体は有望な抗癌剤ではあるものの、その治療への使用は、毒性の問題および水溶性の低さによる、デリバリーの問題、さらには血清アルブミンへの開環カルボキシレート(opened carboxylate)の優先的な結合による、活性のあるラクトン形態の不安定性によって、かなり妨げられている
9,10。
【0003】
プロドラッグ(共役体(conjugate)及びポリマー結合カンプトセシン)、新規な製剤(リポソームまたは微粒子担体)、及び合成親油性カンプトセシンの開発などの、様々なアプローチが、1−ファミリーの抗癌有効性を高めるために、調査された
11−13。これらのストラテジーのほとんどは、血漿コンパートメントでの活性のある閉環ラクトン形態を維持することを目的とする。遊離20−ヒドロキシル基は分子内水素結合の形成によりラクトンの開環を優先する
14が、その一方でこの基のアシル化は閉環したラクトン部分を安定化する必要がある
15。さらに、導入されたエステル部分における立体的な嵩高さが、カルボキシルエステラーゼ等の様々な酵素によるエステル結合の加水分解を妨げて、これにより毒性を減少するので望ましい。事実、我々自身の結果
16,17、さらには20(S)−アシルエステル
18,19、20(S)−O−カルボネート結合トリペプチド共役体
20、および20(S)−結合複合糖質
21を用いた他の結果も、強力な活性に関するエステル化1−誘導体の重要性を支持している。また、20−ヒドロキシル基のエステル化は、未修飾の1に比して血漿安定性促進し、インビボでの抗腫瘍活性を増大する。
【0004】
アミジンが重要なファーマコフォア(pharmacophore)であることはよく知られており
22−25、生物活性のある化学物質や薬剤分子設計において広く使用されている。また、生物活性のある機能性断片にスルホニル基を導入することによって、化合物の生物活性が有意に変化する
26,27;このため、スルホニルアミジンは生物活性のある分子の最適化のための有用な構造モチーフでありうる。この基はまた非常に嵩高いため、大きな酵素が1の20(S)−O−アシルエステルを容易に加水分解をするのを立体的に防止する可能性があり、これはまた毒性を減少させるはずである。これに対して、3の加水分解から形成される化合物である、SN−38、は、非常に毒性がたかい
28。これらの考察から、我々は、1の20−位置にスルホニルアミジン基を導入することによって、有効性を向上し、毒性を減少し、さらに新規な1−関連抗癌剤候補の物理化学的特性を最適化できると仮定した。したがって、本研究では、我々は、Cu触媒によるワンポット反応(Cu-catalyzed one pot reaction)を介してC−20位置で1に機能的断片スルホニルアミジンを導入し
29、抗癌剤となりうるものとして1の新規な誘導体群を合成した。
【発明を実施するための形態】
【0036】
発明の詳細な説明
我々は、本明細書において、Cu触媒によるワンポット反応(Cu-catalyzed one pot reaction)を介して1のC−20位置にスルホニルアミジン基を導入し、抗癌剤となりうるものとして9a〜9lを得たことを記載する。
【0037】
カンプトセシン(1)の新規な20種の20−スルホニルアミジン誘導体(9a〜9l)を、Cu触媒による3成分反応(Cu-catalyzed three-component reaction)を介して合成した。これらは、A−549、DU−145、KB、及び多剤耐性(MDR)KBvin腫瘍細胞系に対してイリノテカン(3)に比して同等またはより優れた細胞毒性を示した。化合物9aは、1及び3に比してMDR細胞に対してより良好な細胞毒性を示した。機構的には、9aは、トポイソメラーゼ(Topo)Iを選択的に阻害して、ATM/Chk関連DNA損傷応答経路(ATM/Chk related DNA damage-response pathway)を活性化することによって顕著なDNAの損傷を誘導した。異種移植モデルでは、9aは、100mg/kgの3に匹敵する、5及び10mg/kgで明白な悪影響なしに有意な活性を示した。特に、300mg/kg(i.p.)での9aは、1(LD
50 56.2mg/kg、i.p.)および3(LD
50 177.5mg/kg、i.p.)に対して、明白な毒性を示さなかった。そのままの9aは、1と同様、無細胞アッセイでTopoI活性を阻害したことから、9aは、新規なTopoI阻害剤であることが確認された。20−スルホニルアミジン1−誘導体9aは臨床試験の抗癌剤候補(anticancer clinical trial candidate)として開発する利点がある。
【0038】
実施形態I
化学 スキーム1に示されるように、1の20−ヒドロキシル基を、N、N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)及び4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)の組み合わせを用いたカルボジイミド法の単純な改変によってエステル化してN−Boc−アミノ酸誘導体(7)を適当な収率で提供した。7のN−Boc基を、CH
2Cl
2におけるトリフルオロ酢酸(TFA)(1:1)で除去して、カギとなる中間体TFA塩8を形成した。次に、我々は、非常に効率のよいCu触媒による3成分カップリング反応(Cu-catalyzed three-component coupling reaction)
29を適用し、8をp−トルエンスルホニルアジド及び広範なアルキンと反応させて、35〜58%の収率で所望の化合物9a〜lを得た。目的分子の構造を
1H−NMR、
13C−NMR、IR、及びHR−MSによるデータから明らかにした。
【0040】
新規な化合物の抗増殖活性および構造−活性の関係 12種の新規な1−誘導体9a〜lについて、3連実験でスルホローダミンB比色分析(sulforhodamine B colorimetric assay)
30を用いることによって、4種のヒト腫瘍細胞系、KB(鼻咽頭)、A−549(肺)、DU−145(前立腺)、およびKBvin(MDR KBサブライン(subline))に対するインビトロでの抗増殖活性を評価した。化合物1および3をコントロールとして使用した。スクリーニング結果を表1に示す。
【0042】
12種の新規な化合物(9a〜l)はすべて、IC
50値が0.026〜11μMであり、4種の試験した腫瘍細胞系に対して顕著なインビトロ細胞毒性を示すことから、20−スルホニルアミジン側鎖におけるR
1およびR
2基の双方が新規な1−誘導体の細胞毒性に影響を与える可能性があることが示された。上記新規な化合物9a〜l(KBvinに対する9aを除く)は1より効力が小さかった;しかしながら、これらの誘導体はすべて、3に比して同等のまたはより優れた細胞毒性を示した。これらの新規に合成した誘導体のうち、9aが4種の試験した腫瘍細胞系に対して最も強力な化合物であった。興味深いことに、9aはまた、1及び3(それぞれ、IC
50 0.12μMおよび>20μM)に比してKBvinに対してより高い細胞毒性(IC
50 0.026μM)を示した。また、これらの結果から、A−549細胞系はこれらの化合物に対して他の3種の細胞系より感受性が高いことが示され、このことは他の1−誘導体の臨床的挙動
19と一致する。
【0043】
また、構造−活性の関係(Structure-activity relationship)(SAR)の相関を、1のこれらの新規な20−スルホニルアミジン誘導体について同定した。スルホニルアミジンにおいて、R
2基をフェニルに固定し、R
1基を変化させると、水素(9b)及びメチル(9d)が9f(イソプロピル)、9h(イソブチル)、及び9j(sec−ブチル)のより大きなアルキル基に比して良好な結果であった。同様の結果がp−メトキシフェニルR
2基を有する相当する誘導体で認められた。例えば、A−549細胞系に対して、細胞毒性効果の順序は、9a(H)>9c(メチル)>9g(イソブチル)
>9e(イソプロピル)
>9i(sec−ブチル)であった。したがって、小さい脂肪族鎖が細胞毒性効果がより大きいという点では最良のR
1置換基であると考えられる。R
1基が一定に維持し、R
2基をフェニルからp−メトキシフェニルに変更すると、細胞毒性は改善されることが多かった(例えば、KBvinに対する9bと9aとを、9fと9eとを、9hと9gとを、または9jと9iとを比較)。加えて、ヒドロキシメチルR
2基を有する化合物9lは、p−メトキシフェニルR
2基を有する9kに比して、匹敵する(DU−145、KB)またはより高い(A−549、KBvin)細胞毒性を示した。化合物9kは、ベンジルR
1基を有するが、通常、より小さい(9a、9c)アルキルR
1基およびより大きな(9e、9g、9i)アルキルR
1基を有する化合物の中間の効果を示した。これらの知見から、1−誘導体の細胞毒性プロフィールはC−20での置換基の大きさおよび電子密度に影響を受ける可能性があることが示された。これらのインビトロでの結果に基づいて、化合物9aをインビボでの評価用に選択した。
【0044】
9aに関する作用研究のメカニズム
無細胞系での9aによるTopoI活性の阻害 エステル化20−ヒドロキシ基を有する1−誘導体は、カルボキシルエステラーゼによる消化によって活性化されると予想される。そのままの9aがTopoIを阻害するかどうかを決定するために、精製組換ヒトTopoIを用いる無細胞TopoI活性アッセイを使用した。このアッセイでは、超らせんプラスミドDNAを、組換TopoIによって緩和(relax)、切断(nick)した。これにより、ベヒクルコントロールまたはTopoI活性に関して阻害効果を示さない試験化合物を用いて、緩和、切断したDNA(relaxed and nicked DNA)を見出した。細胞内でのカルボキシルエステラーゼによるのと同様この無細胞系で活性化されえないので、1のプロドラッグであることが知られている、化合物3は、同様の結果を示した。これに対して、3の生物活性のある代謝産物である、SN−38は、TopoI活性を阻害した。特に、我々は、そのままの9aが1と同様にこの無細胞アッセイにおいてTopoI活性を阻害することを発見した。我々は、TopoIに対する9aの阻害効果が用量に依存することを確認した。ゆえに、我々は、9aが新規なTopoI阻害剤であることを確認した。
【0045】
ヒト腫瘍細胞における9aによるアポトーシスの誘導 A−549ヒト肺腺癌上皮細胞が予備の細胞毒性プロフィールにおいて他の試験した癌細胞系より9aに対して高い感受性を示したので、A−549細胞を我々の機構研究に使用した。最初に、我々は、細胞の形態変化を調べた。9aに接触後、A−549細胞は、細胞収縮や膜ブレブ形成(membrane blebbing)等の、アポトーシスに関する形態学的な特徴を示した。さらに、アポトーシスの誘導がFITC−アネキシンV(FITC-annexin V)及びヨウ化プロピジウム(propidium iodide)による二重染色によってさらに確認され、これから、9a処置によってアポトーシス細胞の割合(%)が増加する(アネキシンV(annexin V)陽性細胞集団:ベヒクル 対 9a、24時間、1.1% 対 3.7%、P<0.01;48時間、2.0% 対 34.1%、P<0.001)ことが示された。ウェスタンブロット分析によって、アポトーシスによる産物(executors of apoptosis)である、カスパーゼ−8、−9、及び−3等の、切断カスパーゼが9aに応答して形成したことが示された。また、アポトーシスの特徴(hallmark)である、PARPが9aによって活性化された。これらのデータから、9aがアポトーシスの誘導によりA−549細胞の成長を阻害することが示された。
【0046】
9aによるDNA損傷応答経路の活性化 1の主要な効果として、共有結合性TopoI−DNA複合体(covalent Topo I-DNA complex)に結合し、安定化する、ゆえに、S相で細胞サイクル遅延の誘導、DNA結合の防止および最終的にはアポトーシスを引き起こすことがある
31。9aがA−549細胞において1と同じ経路を活性化するか否かを、作用のメカニズムを示すために調べた。第一に、我々は、フローサイトメトリー分析を用いて細胞サイクル分布への9aの効果を決定した。我々が予想したように、9aで24時間処理することによって、S相及びサブ−G1
1相での細胞集団が増加した。TopoIによるDNA切断アッセイ(Topo I-mediated DNA cleavage assay)を行い、9aが細胞におけるTopoI活性の阻害効果を示すか否かを調べた。結果から、1の効果と同様、9aが超らせんDNAの弛緩を阻害することが示された。しかしながら、9a及び1は双方とも、キネオプラストDNA(kineoplast DNA)(kDNA)をデカテネートし(decatenate)なかったが、既知のTopoII阻害剤である、エトポシドはkDNAのデカテネーション(decatenation)を効果的に遮断した。1−TopoII−DNA共有結合性複合体が26Sプロテアソーム経路を介してTopoIの転写依存性分解を促進することは知られているため
32、TopoI及びTopoIIの発現レベルに関する9aの効果を調べた。ウェスタンブロット分析から、9aは、8時間処理後にTopoIのタンパク質レベルを有意に阻害し、24時間処理後にTopoIIα及びTopoIIβのレベルに若干影響を与えたことが示された。これらの結果から、9aがTopoII活性は妨げずにTopoIを阻害することが示された。化合物9aはTopoIに直接作用し、共有結合性TopoI−DNA複合体を蓄積した後プロテオソームのTopoI分解が起こるが、上記は1と同様の効果であり、9aの細胞毒性に関係する。
【0047】
化合物1は、DNA損傷を誘導し、ATM−Chk2 DNA損傷−応答経路(ATM-Chk2 DNA damage-response pathway)を活性化して癌細胞でアポトーシス経路を開始させることができる
33。我々は、ATMが9aで0.5時間処理した後、1981番目のSer残基でリン酸化されることを見出した。ダウンストリームエフェクター(downstream effector)である、Chk1、Chk2、及びヒストンH2AX(histone H2AX)のリン酸化を検出することによって、ATMキナーゼの活性化を確認した。139番目のSer残基でのH2AXのリン酸化(γH2AX)から、9aがDNA二重鎖を切断することが示された。P53が、細胞サイクルの調節及びアポトーシスの開始(apoptosis triggering)などの、DNA−損傷機能に対して重要な役割を果たす
34。p53のアップレギュレーション及びリン酸化が9aによって大きく促進された。また、PUMAやBAX等のP53ダウンストリームアポトーシスタンパク質は9aによってかなり増加した。さらに、9aが、死レセプターが介する外因性のアポトーシス(death receptor-mediated extrinsic apoptosis)の成分である、FADDをアップレギュレートし、さらにミトコンドリア損傷内容物(mitochondrial damage contents)の漏出を防止することによって生存促進タンパク質(pro-survival protein)であるBcl−xL及びBcl−2をダウンレギュレートした。
【0048】
これらに基づいて、化合部物9a(YQL−9a)が、TopoI活性を直接阻害し、TopoI発現を抑制し、これによりS相での細胞サイクルの遅延、さらにはDNA損傷−応答経路 (DNA damage-response pathway)の活性化を誘導した後、アポトーシス経路を活性化する。我々のデータは親化合物1に対する9aの優位性を支持し、これから9aが優れた抗癌剤候補となりうることが示唆される。したがって、我々はさらに、9aの抗腫瘍活性及びインビボでの毒性評価を調査した。
【0049】
インビボでの9aの抗腫瘍活性 ヒト結腸直腸腺癌細胞系 HCT116を用いた異種移植モデル抗腫瘍アッセイを、表2のレジメに従って行った。31日間の研究では、1日目の平均容積が約200mm
3である確率されたHCT116異種移植を有するマウス(n=8)の4グループを使用した。各処置グループでの腫瘍成長および動物の体重変化を、週に3回測定した(
図2および3)。化合物9aを7日間静脈内(i.v.)に投与した後、最後まで毎日1回(QD)5及び10mg/kgを腹腔内(i.p.)に投与した。5mg/kg及び10mg/kg投与グループでは、それぞれ、8匹のマウスのうちの2匹および8匹のマウスのうちの3匹が、完全退縮(regression)を示した。いずれの投与量でも体重に有意な変化はなかった。また、3を用いた実験コントロールは、毎週1回(QWK)100mg/kgの投与量で抗腫瘍活性を示し(P<0.001)、3匹のマウスが完全退縮を示したことから、我々のインビボでの評価の正確さが支持された。ステューデントのt−検定評価(Student’s t-test evaluation)に基づくと、5mg/kg(P<0.01)及び10mg/kg(P<0.001)での9aは、明らかな兆候や症状ならびにアナフィラキシー反応を示すことなく有意なインビボでの抗腫瘍活性を示した。
【0051】
マウスにおける9aの毒性評価 マウスにおける9aの急性毒性を病理学的に評価した。60匹の8週齢のオスBALB/cマウスを任意に6グループに分け(n=10)、0日に0(ベヒクルのみ)、30、100、200、または300mg/kgの9aを腹腔内(i.p.)に投与した。1グループを正常コントロールとして処置せずにおいた。すべての処置動物は、アナフィラキシー反応、アレルギー反応、または顕著な体重減少を示さず、正常なコントロール動物と同じくらい健康であったことから、1(LD
50=56.2mg/kg、i.p.)及び3(LD
50=177.5mg/kg、i.p.)
35と比較して毒性が有意に低いことが示された。実験期間終了時に、すべての動物を安楽死させて、肝臓、肺、腎臓、及び脾臓の組織をShackelford et al.
36に記載のガイドドライに従って病理組織学的に評価し、症候性病変について分類した。病理組織学的評価としては、1)肝臓におけるグリコーゲン沈着、炎症性細胞浸潤、及び病巣壊死、2)腎臓における尿細管の再生、炎症性細胞浸潤、及び慢性の進行性腎症、ならびに3)肺における炎症性細胞浸潤及び腺腫があった。9aで処置したマウス及び未処置のマウスの組織双方の組織で数個の顕微鏡的病変が観察されたものの、すべての病変は自然発生した病変であり、9a投与に関連するものではないと考えられた。ゆえに、9a処置動物は、肝臓、脾臓、腎臓及び肺パラメータによる悪影響はなかった。したがって、これらの動物は、300mg/kgの9aによる処置に明らかに耐えられ、許与できる安全プロフィールの兆候であった。
【0052】
我々は、正常組織に対する毒物学的な改善が1の20−位置のスルホニルアミジン側鎖の導入に関連すると推測する。驚くべきことに、この修飾はTopoIに対する阻害効果を損なわず、閉環ラクトン部分を安定化させ、1の生物活性の改善に寄与するラクトンの開環を防止する可能性がある。代謝及び薬物動態の評価、さらには1のC−7位置へのスルホニルアミジン側鎖の導入を含む研究が、現在、この推測に対処するために進行中である。
【0053】
要約すると、新規な一連の20(S)−スルホニルアミジン1−誘導体を設計、合成したが、この際、鍵となる工程がCu触媒によるワンポット反応(Cu-catalyzed one pot reaction)であった。12種の誘導体はすべて3に匹敵するまたは3より優れた細胞毒性を示した。特に、化合物9aは、多剤耐性KBvin細胞に対して、1と同等に強力であり、3よりかなり強力であった。新規な誘導体のIC
50値は0.026〜11μMであったことから、20−スルホニルアミジン側鎖におけるR
1およびR
2基が新規な1−誘導体の細胞毒性に非常に影響を及ぼすことが示され、これにより重要なSAR情報が得られた。また、5mg/kg及び10mg/kg量の9aは、確立されたヒトHCT116結腸直腸腺癌を有するマウスで顕著な抗腫瘍活性を示し、この際、すべての試験した投与量で有意な体重変化はなかった。加えて、5mg/kg及び10mg/kgの投与量グループで、それぞれ、8匹のマウスのうち2匹および8匹のマウスのうち3匹が完全退縮(regression)を示した。マウスの肝臓、脾臓、肺および腎臓における急性毒性の病理組織学的評価では、300mg/kgの9a処置の悪影響はなかった。これらのポジティブな結果により、臨床試験の抗癌剤候補(anticancer clinical trial candidate)となる可能性があるものとして9a−関連化合物を開発する根拠が明確にある。
【0054】
実験セクション
一般的な化学情報 N−Boc−アミノ酸及びTFAはGL Biochem (Shanghai) Companyから購入した。DIPC及びDMAPはSigma Chemical Company (China)から購入した。他の試薬及び溶媒は市販の供給元から購入しそのまま使用した。出発物質1を、中国の薬草C. acuminataから単離し、精製した後使用した(98%超純度)。シリカゲル60 GF254(Qingdao Haiyang Chemical Co.、Ltd.)を用いたシリカゲルプレートで、分析用薄層クロマトグラフィー(TLC)及び分取薄層クロマトグラフィー(PTLC)を行った。融点は、コッフラー融点装置(Kofler melting point apparatus)でとり、修正しなかった。IRスペクトルをNIC−5DX分光光度計で得た。MS分析をZAB-HS装置およびBruker Daltonics APEXII49e装置で行った。NMRスペクトルを、TMSを参考として用い、400MHzでBruker AM-400NMRスペクトロメータで記録した(Bruker Company, USA)。すべての試験化合物の純度を、C−18結合相カラム(C-18 bounded-phase column)(Eclipse Plus C18、5μM粒径、4.6mm×250mm)を備えたHPLC(Agilent Technologies 1100 series)によって測定した。MeOH及び水を移動相として用いて勾配溶離を行い、254nmでモニターした。すべての試験化合物は95%を超える純度を有していた。
【0055】
鍵となる中間体7および8の合成 適当なN−Boc−アミノ酸(3.13mmol)を200mLの無水CH
2Cl
2に室温で溶解した。この溶液に、DIPC(0.5mL、3.13mmol)、DMAP(3.13mmol)、及び1(3.13mmol)を0℃で加えた
16。この反応混合物を室温まで加温し、16時間放置した。次に、この溶液を0.1N HClで洗浄し、乾燥し、減圧下で蒸発させて、白色固体を得、これをMeOHで再結晶化して、N−Boc−アミノ酸1エステル誘導体(7)を56〜87%の収率で得た。次に、この中間体(7、1mmol)をCH
2Cl
2(10mL)及びTFA(10mL)の混合液に溶解し、室温で1時間撹拌した。溶媒を除去し、残った固体をCH
2Cl
2及びジエチルエーテルで再結晶化して、対応するTFA塩(8)を57〜82%の収率で得た。
【0056】
化合物9a〜91の一般的な合成方法 トリエチルアミン(1.2mmol)を、CH
2Cl
2(35mL)におけるTFA塩8(0.5mmol)の懸濁液にゆっくり加え、この混合物を透明な溶液を得られるまで10分間撹拌した。N
2雰囲気下で、アルキン(0.5mmol)、p−トルエンスルホニルアジド(0.6mmol)、及びCuI(0.05mmol)を添加した。この反応混合物を室温で2〜6時間撹拌した。TLCによってモニターして、反応が終了した後、反応混合物をCH
2Cl
2(4mL)及びNH
4Cl水溶液(6mL)を加えることによって希釈した。この混合物をさらに30分間撹拌し、2層を分離した。水層をCH
2Cl
2(3mL×3)で抽出した。有機層をあわせたものをMgSO
4で乾燥し、濾過し、真空中で濃縮した。未精製残渣を、CHCl
3−MeOH(10:1〜20:1)を溶離液として用いてSiゲルでのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製して、9a〜91を得た。
【0069】
細胞系および細胞毒性アッセイ 本操作で使用したヒト腫瘍細胞系は、A−549(肺癌)、MDA−MB−231(トリプルネガティブ乳癌(triple-negative breast cancer))、DU−145(ホルモン非感受性(hormoneーinsensitive)前立腺癌)、KB(鼻咽頭の表皮癌から最初に単離)、KBvin(ビンクリスチン耐性KBサブライン)およびHCT116(結腸直腸腺癌)であった。KBvin以外の、これらの細胞系を、Lineberger Comprehensive Cancer Center (UNC-CH)からまたはATCC(Manassas, VA)から得た。なお、KBvinは、Professor Y.-C. Cheng (Yale University)からの惜しみない贈り物であった。すべての細胞系を、2mM L−グルタミン及び25mM HEPES(HyClone)を含み、10%加熱不活性化胎児ウシ血清(HyClone)、100μg/mL ストレプトマイシン、100IU/mL ペニシリン、及び0.25μg/mL アンホテリシンB(Cellgro)を添加したRPMI−1640培地中で空気中で5%CO
2を含む加湿雰囲気中で、維持、アッセイした。化合物のストック溶液をDMSO中で10mMで調製し、細胞成長に影響のない濃度である、0.01%(v/v)以下の最終DMSO濃度となるように培地で希釈した。4〜6×10
3細胞/ウェルを、37℃で96ウェルプレート中で様々な濃度の試験化合物と共に72時間培養した。化合物の抗増殖活性を、開発した方法に従ってスルホローダミンBアッセイによって測定し、NCI
30で確認し、72時間連続処置した後のベヒクルコントロールと比べて50%細胞数が減少した、IC
50(μM)値として表す。各アッセイを重複サンプルで3連で行った。
【0070】
形態学的観察 培養細胞の形態学的な変化を位相差顕微鏡下で観察し、デジタルカメラ(Nikon, Japan)で撮影した。
【0071】
アポトーシス評価 アポトーシスをアネキシンV−FITC/ヨウ化プロピジウム二重染色キット(Annexin V-FITC/propidium iodide double staining kit)(BD Biosciences)によって検出した。A−549細胞を9aで24時間または48時間処置した。細胞をトリプシン処理によって集め、氷冷したPBSで洗浄した。暗所で室温で15分間、細胞をアネキシンVおよびヨウ化プロピジウムで標識した。標識細胞をFACSCaliburフローサイトメーター(flow cytometer)(Becton Dickinson)で分析した。
【0072】
細胞サイクルの分析 A−549細胞を氷冷した70%EtOHで固定化した後、ヨウ化プロピジウムで染色した。サンプルについて、細胞サイクル測定のためにフローサイトメーターで分析した。各細胞サイクル相の集団を、倍数性(サブ−G1として<2N;G1として2N;Sとして2N〜4N;G2/Mとして4N)に基づいて算出し、ステューデントのt−検定(Student’s t-test)によって統計学的に評価し(P <0.01)。
【0073】
ウェスタンブロット分析 細胞をプロテイナーゼ阻害剤及びをホスファターゼ阻害剤を含むPBS中で集め、超音波処理した。全細胞溶解物をSDS−PAGEによって分離し、イモビロンP膜(Immobilon P membrane)(EMD Millipore)に移した。この膜を1次抗体とインキュベートした後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)−共役2次抗体(EMD Millipore)で標識した。化学発光基質キット(Chemilluminence substrate kit)(EMD Millipore)を膜結合HRPの検出に使用し、Luminsence image analyzer, LAS4000 (Fuji Photo Film Co., Japan)によって可視化した。
【0074】
抗体 カスパーゼ−3、カスパーゼ−8、カスパーゼ−9、PARP、phospho−ATM(Ser1981)、ATM、phospho−ATR(Ser428)、phospho−Chk1(Ser345)、phospho−Chk2(Thr68)、Chk2、phospho−H2AX(Ser139)、及びphospho−p53(Ser15)に対する抗体を、Cell Signaling Technologyから購入した。ATM、ATR、Chk1、及びPUMAに対する抗体を、Santa Cruz Biotechnologyから購入した。TopoI、TopoIIα、TopoIIβ、p53、FADD、BAX、Bcl−xL、及びBcl−2に対する抗体を、BD Biosciencesから購入した。β−アクチンに対する抗体を、EMD Milliporeから購入した。
【0075】
無細胞系でのトポイソメラーゼI活性アッセイ 1単位の組換えヒトトポイソメラーゼI酵素(TopoGEN)を、最終容積が20μLとなるような量の反応バッファー(10mM Tris−HCl、pH7.9、1mM EDTA、150mM NaCl、0.1%BSA、0.1mM スペルミジン、5% グリセロール)中でベヒクル、9a、1、3、またはSN−38と共に37℃で20分間予めインキュベートした後、250ngの超らせんプラスミドDNAと共に20分間インキュベートした。この超らせんの、緩和した、または切断したDNA(supercoiled, relaxed, or nicked DNA)を、1×TAE(トリス−アセテート−EDTA(Tris-Acetate-EDTA))バッファーにおける1%アガロースゲルによって分離した。エチジウムブロマイド染色アガロースゲルを、Gel Doc XR(Bio-Rad)を用いて撮影した。
【0076】
トポイソメラーゼI活性アッセイ TopoI活性試験を、製造社の指示に従ってアッセイキット(TopoGEN)を用いて行った。9aで処置したA−549細胞の核抽出物を、超らせんDNA(TopoIについて)または鎖状に連結したkDNA(catenated kDNA) (TopoIIについて)と共に37℃で30分間インキュベートした。反応混合物を1×TAEバッファーにおける1%アガロースゲルによって分離した。このゲルをエチジウムブロマイドで染色し、Gel Doc XR(Bio-Rad)を用いて写真に撮った。
【0077】
異種移植モデル抗腫瘍アッセイ 5〜6週齢のメスnu/nuマウス(National Laboratory Animal Center, Taiwan)の脇腹に、2×10
6個のヒト結腸直腸腺癌HCT116細胞を皮下接種した。移植した腫瘍の容積が200mm
3の平均容積に達したら、マウスを任意に4グループ(n=8)に分けた。処置レジメを表2に示す。ベヒクルコントロールおよび5または10mg/kgの化合物9aを、7日間、1日に1回(QD)i.v.投与した後、最後まで1日に1回i.p.投与した。実験コントロールグループでは、100mg/kgの化合物3を週に1回(QWK)i.v.投与した。移植片の長さ(L)及び幅(W)を最後まで3〜4毎に測定し、腫瘍容積をLW
2/2として算出した。結果をステューデントのt−検定 (Student’s t-test)によって統計学的に評価した。この研究は、National Taiwan University (Taipei, Taiwan)のInstitutional Animal Care and Use Committee (IACUC)から承認され、機関のガイドラインに従って行った。
【0078】
インビボ毒性の病理学的評価 60匹の8週齢のオスBALB/cマウス(National Laboratory Animal Center, Taipei, Taiwan)を用いて、単回投与毒性を評価した。マウスを任意に6グループ(n=10)に分けて、0日に0(ベヒクルのみ)、30、100、200、または300mg/kgの9aを1回i.p.注射により投与した。1グループを正常コントロールとして処置しなかった。体重を15日間3日毎に測定した。実験期間の終了時に、すべての動物をCO
2によって安楽死させ、肝臓、肺、腎臓及び脾臓の組織を秤量した(データは示さず)。組織を10%ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。3〜5μmの厚さの切片を病理組織学的評価用に調製した。ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色したパラフィン切片について、Shackelford et al.
36に記載されるガイドラインに従って病理組織学的に評価し、徴候的病変を採点した。病変の程度を、以下のように重篤度によって1〜5に分類した;[有意性なし(Nothing significant)、1=最少(minimal)(<1%)、2=若干(slight)(1〜25%)、3=少し(moderate)(26〜50%)、4=中程度(moderately severe)(51〜75%)、5=重篤/高い(severe/high)(76〜100%)]。統計学的に有意な結果(P<0.05)が示された。本研究は、China Medical University (Taichung, Taiwan)のInstitutional Animal Care and Use Committee (IACUC)によって承認され、機関のガイドラインに従って行った。
【0079】
略称
ATM、変異型毛細血管拡張性運動失調症(ataxia telangiectasia mutated);ATR、Rad3関連毛細血管拡張性運動失調症(ataxia telangiectasia and Rad3-related);Chk、チェックポイントキナーゼ(checkpoint kinase);CPT、カンプトセシン;DIPC、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド;DMAP、4−ジメチルアミノピリジン;FADD、Fas結合デスドメインタンパク質(Fas-associated protein with death domain);PUMA、アポトーシスp53上方調節モジュレーター(p53 upregulated modulator of apoptosis);TFA、トリフルオロ酢酸;Topo、トポイソメラーゼ。
【0080】
実施形態II
化合物10a〜10tを合成し、実施形態Iに記載されるのと同様の方法を用いて同定し、これらを表3に示す。
【0082】
トリエチルアミン(1.2mmol)を、CH
2Cl
2(35mL)における様々なTFA塩8(0.5mmol)の懸濁液にゆっくり添加し、この混合物を10分間撹拌すると、透明な溶液が得られた。N
2雰囲気下で、アルキン(0.5mmol)、スルホニルアジド(0.6mmol)、及びCuI(0.05mmol)を室温でこの反応混合物に添加した。TLCによってモニターして、反応が終了した後、反応混合物をCH
2Cl
2(4mL)及びNH
4Cl水溶液(6mL)を加えることによって希釈した。この混合物をさらに30分間撹拌し、2層を分離した。水層をCH
2Cl
2(3mL×3)で抽出した。有機層をあわせたものをMgSO
4で乾燥し、濾過し、真空中で濃縮した。未精製残渣を、適当な溶出溶媒系を用いたフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製した。
【0084】
ヒト腫瘍細胞系に対する化合物10a〜tのインビトロでの細胞毒性を表4に示す。
【0106】
実施形態III
より多くの誘導体を合成し、実施形態Iに記載されるのと同様の方法を用いることによって同定し、これらを表5に示す。
【0107】
表5のいくつかの化合物の4種のヒト腫瘍細胞系に対するインビトロでの細胞毒性を表6に示す。