【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、前記課題の少なくとも何れかを解決するべく、ハロヒドリン基と長鎖炭化水素基をもつ第4級アミン2量体の製造方法として、下記式(I)で表される反応経路を用いることを特徴とする。
【化2】
〔R
1はC2〜15の飽和脂肪族炭化水素基、
R
2はC1〜6の飽和脂肪族炭化水素基、
R
3はC2〜9の飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基を示す。〕
【0014】
即ち、上記式(I)において、第1級アミン(R
1―NH
2)と両末端ハロゲン化炭化水素化合物(X―R
3―X)の反応を、後述する特定の塩基、特定の有機溶媒を用いて行う。次に、上記反応にて得られる第2級アミン2量体と片末端ハロゲン化炭化水素化合物(R
2―X)の反応を、後述する特定の塩基、特定の有機溶媒を用いて行う。そして、上記反応にて得られる第3級アミン2量体にハロメチルオキシランの反応を塩化水素、特定の有機溶媒を用いて行う。
【0015】
飽和脂肪族炭化水素基をR
1にもつ第1級アミン(R
1―NH
2)としては、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、(2―メチルブチル)アミン、3,3―ジメチルブチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、2―エチル―1―ヘキシルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミンが挙げられる。R
1は疎水基としてC15以下が好ましく、より好ましくはC12以下である。C16以上では反応が十分に進行せず、収率が低下するおそれがある。
【0016】
飽和脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基をR
3にもつ両末端ハロゲン化炭化水素化合物(X―R
3―X)としては、1,2―ジクロロエタン、1,2―ジブロモエタン、1,2―ヨードエタン、1,3―ジクロロプロパン、1,3―ジブロモプロパン、1,3―ジヨードプロパン、1,4―ジクロロブタン、1,4―ジブロモブタン、1,4―ジヨードブタン、1,5―ジクロロペンタン、1,5―ジブロモペンタン、1,5―ジヨードペンタン、1,6―ジクロロヘキサン、1,6―ジブロモヘキサン、1,6―ジヨードヘキサン、1,7―ジブロモヘプタン、1,8―ジクロロオクタン、1,8―ジブロモオクタン、1,8―ジヨードオクタン、1,9―ジブロモノナン、1,10―ジクロロデカン、1,10―ジブロモデカン、1,10―ジヨードデカン、1,11―ジブロモウンデカン、1,12―ジブロモドデカン、α,α'―ジブロモ―p―キシレンが挙げられる。R
3はC9以下が好ましく、より好ましくはC6以下である。C10以上では反応が十分に進行せず、収率が低下するおそれがある。
【0017】
飽和脂肪族炭化水素基をR
2にもつ片末端ハロゲン化炭化水素化合物(R
2―X)としては、クロロエタン、ブロモエタン、ヨードエタン、1―クロロプロパン、1―ブロモプロパン、1―ヨードプロパン、1―クロロブタン、1―ブロモブタン、1―ヨードブタン、1―クロロペンタン、1―ブロモペンタン、1―ヨードペンタン、1―クロロヘキサン、1―ブロモヘキサン、1―ヨードヘキサン、1―クロロヘプタン、1―ブロモヘプタン、1―ヨードヘプタン、1―クロロオクタン、1―ブロモオクタン、1―ヨードオクタン、1―クロロノナン、1―ブロモノナン、1―ヨードノナン、1―クロロデカン、1―ブロモデカン、1―ヨードデカン、1―ブロモウンデカン、1―ヨードウンデカン、1―ブロモドデカン、1―ヨードドデカンが挙げられる。R
2はC6以下が好ましく、より好ましくはC3以下である。C7以上では反応が十分に進行せず、収率が低下するおそれがある。
【0018】
上記式(I)に用いる特定の塩基には例えばトリエチルアミン、特定の有機溶媒としてはエタノールが挙げられる。反応温度は40〜80℃が好ましく、40℃未満では反応効率が低下し、収率が低下するおそれがある。反応時間は5時間以上が好ましく、5時間未満では目的とする化合物が十分に得られず、収率が低下するおそれがある。
【0019】
また本発明では前記課題の少なくとも何れかを解決するべく、前記の製造方法で得られる、下記式(II)のハロヒドリン基と長鎖炭化水素基をもつ第4級アンモニウム塩2量体を0.1〜10質量%含有することを特徴とする獣毛繊維の改質剤を提供する。
【化3】
〔R
1はC2〜15の飽和脂肪族炭化水素基、
R
2はC1〜6の飽和脂肪族炭化水素基、
R
3はC2〜9の飽和脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基を示す。〕
【0020】
かかる獣毛繊維の改質剤は、獣毛繊維を常温吸尽染色により濃色に染色するために、獣毛繊維を改質する獣毛繊維改質剤として使用することができる。なお、式(II)において、R
1、R
2、R
3は上記式(I)の説明と同じである。
【0021】
また、本発明では前記課題の少なくとも何れかを解決するべく、カチオン化極細獣毛糸の製造方法として、前記式(II)で表される第4級アンモニウム塩2量体を含むpH10以上の水溶液を用い、平均繊維直径23μm以下の極細獣毛糸の改質を行うことを特徴とするカチオン化極細獣毛糸の製造方法を提供する。
即ち、第4級アンモニウム塩2量体を特定の緩衝液に溶解した後、極細獣毛糸を加えて所定温度に昇温後、所定時間、反応を行う。
【0022】
前記ハロヒドリン基と長鎖炭化水素基をもつ第4級アンモニウム塩2量体において、R
1、R
2、R
3の炭素数は、炭素数(R
1)>炭素数(R
2)および炭素数(R
1)>炭素数(R
3)の関係が好ましい。炭素数(R
1)<炭素数(R
2)または炭素数(R
1)<炭素数(R
3)となるR
1、R
2、R
3をもつハロヒドリン基と長鎖炭化水素基をもつ第4級アンモニウム塩2量体は、化学反応によって獣毛糸が大きく損傷するおそれがある。
また、ハロヒドリン基と長鎖炭化水素基をもつ第4級アンモニウム塩2量体の使用量は0.1g/L以上であり、好ましくは1g/L以上である。0.1g/Lより小さい場合、ハロヒドリン基と長鎖炭化水素基をもつ第4級アンモニウム塩2量体が獣毛と十分に反応せず、染色によって濃色物が得られないおそれがある。
【0023】
前記、特定の緩衝液としては、例えば水酸化ナトリウムと炭酸水素ナトリウムを混合させた水溶液が挙げられる。
また、pHは10〜13が好ましく、より好ましくは10〜12である。水溶液のpHが13をこえると、化学反応によって獣毛が大きく損傷し、引張り強さが低下するおそれがある。
また、水溶液のpHが10より小さいと、反応が十分に進まず、染色糸の表面染色濃度が低下するおそれがある。
【0024】
前記、平均繊維直径22.5μm以下の獣毛として、品種は羊毛、カシミヤ、モヘア、アルパカ毛、アンゴラ(アンゴラヤギの毛、アンゴラウサギの毛を含む)、キャメル毛、ビキューナが挙げられる。また、それらを混合して使用することも可能である。獣毛糸としては、スライバー、紡績糸が挙げられるが、製織または編成した布帛を用いることも可能である。
獣毛の平均繊維直径は15.5〜22.5μmが好ましい。直径が15.5μmより小さいと、化学反応によって獣毛が損傷し、引張り強さが低下するおそれがある。
紡績糸の上撚数は、SまたはT方向に100〜1000回/mが好ましい。100/回より小さいと改質糸の引張り強さが低下するおそれがある。
【0025】
反応は温度勾配をかけて60〜100℃まで昇温後、10〜60分間、保持させるのが好ましく、より好ましくは80〜100℃まで昇温後、20〜50分間、保持させるのが好ましい。60℃より低い温度または反応時間が10分より短いと、ハロヒドリン基と長鎖炭化水素基をもつ第4級アンモニウム塩2量体が獣毛と十分に反応せず、染色により濃色物が得られないおそれがある。
【0026】
また、本発明では前記課題の少なくとも何れかを解決するべく、前記の製造方法で得られる改質獣毛糸であって、番手開差率が±5%以内、且つ引張強さ保持率が70%以上の改質獣毛糸を提供する。
【0027】
上記の番手変動率は、JIS L 1095に基づき、以下の式(IV)により算出することができる。
【数1】
【0028】
上記の引張強さ保持率は、例えば、以下の式(V)より算出することができる。
【数2】
【0029】
また、原糸の引張り強さ、改質獣毛糸の引張り強さは、JIS L 1095に基づいて求めることができる。
【0030】
また、本発明では前記課題の少なくとも何れかを解決するべく、紅花染めカチオン化極細獣毛糸の製造方法として、前記のカチオン化極細獣毛糸を用い、カルタミンを吸尽後、タンニン酸を吸尽させることを特徴とする。
カチオン化極細獣毛糸に対して、カルタミンを吸尽後にタンニン酸を吸尽させることにより、タンニン酸の吸尽後にカルタミンを吸尽させた場合に比べ、その後の紅花の吸尽量を向上させることができ、更に染色堅牢度も高めることができる。
【0031】
前記において、カルタミンは紅花花弁中に含まれる赤色の色素であり、乱花や紅餅などの紅花花弁の加工品から抽出することで得られる。
カルタミン水溶液の濃度は、1〜100mg/Lが好ましく、より好ましくは20〜80mg/Lである。1mg/Lより小さい場合、カルタミンが獣毛へ十分に染着されないおそれがある。
カルタミン水溶液のpHは、5〜7が好ましく、より好ましくは5〜6である。pHが7を超えると獣毛への染着が大きく低下するおそれがある。
カルタミン水溶液の温度は、5〜50℃が好ましく、より好ましくは25〜40℃である。50℃を超えると、カルタミンが分解して退色してしまうおそれがある。
【0032】
前記において、タンニン酸溶液の濃度は1〜50g/Lが好ましく、より好ましくは5〜20g/Lである。1g/Lより小さいと、ドライクリーニングに対する染色堅ろう度に十分な効果が得られないおそれがある。
【0033】
また本発明では前記課題の少なくとも何れかを解決するべく、前記の製造方法で得られる、測色計による520nmの分光反射率から求めた表面染色濃度(K/S)が5以上、かつドライクリーニングに対する染色堅ろう度試験(JIS L 0860 A-1法)によって、綿への汚染3〜4級以上を特徴とする染色物を提供する。
【0034】
上記において、測色計による520nmの分光反射率から求めた表面染色濃度(K/S)は、Kubelka-Munkの下記式(VI)で求めることができる。
【数3】
〔Kは吸収係数、Sは散乱係数、Rは分光反射率を示す。〕
【0035】
前記、ドライクリーニングに対する染色堅ろう度試験(JIS L 0860 A-1法)において綿への汚染は、例えば、視感法により汚染用グレースケールと比較し等級の判定を行うことができる。