特許第6182809号(P6182809)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182809
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】腫瘍検出用照明装置及び検査用照明装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20170814BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   A61B10/00 E
   G01N21/64 F
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-511455(P2013-511455)
(86)(22)【出願日】2013年1月30日
(86)【国際出願番号】JP2013051962
(87)【国際公開番号】WO2013115209
(87)【国際公開日】20130808
【審査請求日】2016年1月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-17206(P2012-17206)
(32)【優先日】2012年1月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】596099446
【氏名又は名称】シーシーエス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(72)【発明者】
【氏名】市川 晶
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 満
(72)【発明者】
【氏名】井上 佳大
【審査官】 宮川 哲伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−106766(JP,A)
【文献】 特開2008−017899(JP,A)
【文献】 特開2007−303990(JP,A)
【文献】 特開2004−089236(JP,A)
【文献】 特開2010−233843(JP,A)
【文献】 特表2003−510121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍に集積させた蛍光物質に対する励起光を射出する腫瘍検出用照明装置であって、前記蛍光物質の励起波長と略合致し、ピーク波長が401nm〜420nmの範囲の光を射出する発光ダイオードと、該発光ダイオードの光射出側で前記蛍光物質との間に設けられ、前記蛍光物質の蛍光である赤色光を遮断する遮断部とを備えることを特徴とする腫瘍検出用照明装置。
【請求項2】
照明状態を切り替える切り替え手段を備える請求項1記載の腫瘍検出用照明装置。
【請求項3】
発光ダイオードが複数であり、それぞれの発光ダイオードから射出された光を集光する集光部をさらに備えてなる請求項1記載の腫瘍検出用照明装置。
【請求項4】
集光部が、発光ダイオードと対をなして設けられ、発光ダイオードから射出される光を集光するレンズと、レンズを支持するレンズホルダとを備える請求項記載の腫瘍検出用照明装置。
【請求項5】
レンズホルダが、発光ダイオードから射出される光を絞るアパーチャを一体に備える請求項記載の腫瘍検出用照明装置。
【請求項6】
レンズの中心軸がアパーチャの中心軸から離間している請求項記載の腫瘍検出用照明装置。
【請求項7】
遮断部が、外側に露出しないレンズの表面に形成される請求項記載の腫瘍検出用照明装置。
【請求項8】
検査対象物にある蛍光物質に対する励起光を射出する検査用照明装置であって、前記蛍光物質の励起波長と略合致し、ピーク波長が401nm〜420nmの範囲の光を射出する発光ダイオードと、該発光ダイオードの光射出側で前記蛍光物質との間に設けられ、前記蛍光物質の蛍光である赤色光を遮断する遮断部とを備えることを特徴とする検査用照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光物質集積性をもつ腫瘍を外科的に切除する手術を行なうときに、その腫瘍の境界を視認できるようにする腫瘍検出用照明装置又は検査対象物に設けられた蛍光物質を励起させる検査用照明装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年における、例えば脳の腫瘍摘出手術においては、腫瘍集積性のある蛍光物質を患者に投与し、蛍光物質が腫瘍に集積した後に、該蛍光物質を励起させる、例えば青〜紫の範囲の励起光を、開頭した術野に照射し、そのことによって蛍光物質から発される所定の色(例えば赤色)の蛍光を標識として、腫瘍と正常組織とを区別することが行われている。例えば、蛍光物質として、5−アミノレブリン酸(5−ALA)を用いた場合は、紫の光が励起光となり、腫瘍部位が赤色の蛍光を発する。
【0003】
なお、上記の腫瘍摘出手術等では、外部の白色照明を使用して術野の明暗を切り替えて行うことが一般的である。具体的には、腫瘍位置確認時には、白色照明を消灯させたり、又は白色照明の向きを術野とは異なる方向に向けて暗い状態を作り、手術におけるメス入れ時には、外部の白色照明により術野に白色光を照射して明るい状態を作っている。
【0004】
特に、蛍光が弱いタイプの腫瘍の場合は、この外部の白色光との混色により、腫瘍と正常組織との区別がつかないことが顕著に現れる。このようなタイプの腫瘍の見落としを防止するためにも、医療現場では、腫瘍位置確認時に白色光のような不要な光をできる限り術野に入れないようにする為、術野の明暗を切り替え時の外部照明の取扱をシビアに行っている。また、医師によっては、白色照明を使用せず、暗い状態のまま腫瘍位置確認およびメス入れを行う場合もある。
【0005】
そして、このような励起光を射出する光源部として、例えば、特許文献1の段落番号0025等に、ハロゲンランプやメタルハライドランプ、あるいは発光ダイオードなどの一般白色光源に、前記励起光の波長成分を透過させる光学フィルタを装着したものが記載されている。これは、光学フィルタなしで、白色光を腫瘍に照射すると、白色光には蛍光の波長が含まれるために、腫瘍から出た蛍光と、照射した白色光との区別がつかなくなり、結果、腫瘍とその周辺の正常細胞とを区別できなくなるからである。
【0006】
その一方で、本特許文献1の段落番号0036には、前記光源部として波長が励起光と一致し、且つ、波長領域が狭い特性を持つ発光ダイオードを適用できる旨が記載されている。しかしてこの記載を見る限り、光源部に光学フィルタの必要性は記載されていない。考えてみれば、このような単色型(単一ピーク波長型)の発光ダイオードは、その射出光そのものが励起光と波長が一致する単色光なのだから、これに加えて励起光波長を透過させる光学フィルタ、言い換えれば蛍光と同一波長の光をカットする光学フィルタを装着する必要性は全くなく、光学フィルタを装着しないのは、当業者として至極当然の設計事項であると言える。
【0007】
ところが、実際には、励起光と波長が略合致する前述のような単一ピーク波長型の発光ダイオードの射出光を術野に照射すると、腫瘍が赤色に蛍光発光するだけでなく、その周囲の正常な組織の部分も赤色に発光して見える場合があることを、本願発明者は見出した。そして、その原因として、励起光波長成分のみの光を射出すると公称されている発光ダイオードであっても、実際には、発光ダイオードを構成するチップに含まれる不測の微量成分か、あるいはチップが搭載されている反射板等での不測の蛍光等によって、わずかではあるが蛍光と同色に見える赤色光が発光されることを突き止めた。
【0008】
この赤色光は極めて弱く、他の用途ではまず問題にならないものであるが、例えば脳腫瘍等の摘出手術や検査においては、このわずかな赤色光が例えば脳の正常組織を赤色に照らしてしまい、腫瘍から発される赤色の蛍光との誤認識を引き起こす場合があって、ミスの許されない医療現場においては大きな問題となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−89533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、本願発明者が初めて見出した上記課題点に鑑みなされたものであって、蛍光物質を集積した腫瘍の視認性を低下させない腫瘍検出用照明装置を提供することをその主たる所期課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明に係る腫瘍検出用照明装置は、腫瘍に集積させた蛍光物質に対する励起光を射出するものであって、前記蛍光物質の励起波長と略合致する光を射出する発光ダイオードと、該発光ダイオードの光射出側に設けられて、前記蛍光物質の励起波長の少なくとも一部と同一の波長を遮断する遮断部とを備えることを特徴とする。
【0012】
このようなものであれば、発光ダイオードが蛍光物質の蛍光と同色に見える波長の光(例えば赤色光)を発していても、遮断部がその赤色光を遮断するので、術野を照明した場合に、腫瘍の蛍光物質を励起して蛍光発光させるとともに、腫瘍の周囲の正常細胞を赤色に照明することはない。それゆえ、腫瘍の視認性が向上し、確実に正常細胞と区別することが可能になる。なお、本発明にあって、赤色光とは、波長が例えば、600nm〜770nmのものを指し、より適した波長は、620nm〜650nmである。
【0013】
また、腫瘍検出用照明装置が、照明状態を切り替える切り替え手段を備えることが望ましい。ここで、照明状態を切り替えは、例えば腫瘍位置確認状態とメス入れ状態との切り替えに伴って行われるものであり、(1)前記発光ダイオードの点灯と消灯とを切り替える、(2)前記発光ダイオードの他に、白色光源等の他の光源を有する場合に、発光ダイオードの点灯と白色光源等の他の光源の点灯とを切り替える、(3)腫瘍検出用照明装置とは異なる外部照明と連動して、前記発光ダイオードの点灯と外部照明の点灯とを切り替える、等が含まれる。前記切り替え手段としては、例えば腫瘍検出用照明装置に押しボタン等のスイッチを設けておき、当該スイッチが操作された場合に切り替えるように構成されたものであっても良いが、洗浄や消毒等を考慮すると、腫瘍検出用照明装置の内部に振動センサを設けておき、外部から振動を与えることで、切り替えるように構成することが望ましい。
【0014】
必要十分な光量を確保して腫瘍に励起光を射出するためには、発光ダイオードが複数であり、それぞれの発光ダイオードから射出された光を集光する集光部をさらに備えてなるものが望ましい。このように複数の発光ダイオードを有するものであれば、照明領域を広くすることができ、腫瘍の視認性を向上させることができる。また、腫瘍検出用照明装置を操作して照明領域を変更する操作の負担を軽減することができる。特に、腫瘍が術野の底面に存在する場合や側面に存在する場合に有効であり、照射角度を大きく取ることが難しい術野深部の側面を照明する場合により一層有効となる。さらに、複数の発光ダイオードを有しているので、無影効果を得ることができる。これにより、術野に対して同じ位置関係で照明した場合、少数灯の光よりも細部に光が到達し、蛍光の視認性が向上し、より最適な手術が可能となる。集光部の具体的な構成としては、集光部が、発光ダイオードと対をなして設けられ発光ダイオードから射出される光を集光するレンズと、レンズを支持するレンズホルダとを備えるものが挙げられる。
【0015】
腫瘍に照射される光にフレアが発生することを抑制するためには、レンズホルダが、発光ダイオードから射出される光を絞るアパーチャを一体に備えるものが望ましい。
【0016】
複数の発光ダイオードから射出される光を所定の領域に集光させるための具体的態様としては、レンズの中心軸がアパーチャの中心軸から離間しているものを挙げることができる。
【0017】
外側を洗浄したり消毒する際に遮断部が損傷してその性能が低下することを抑制するためには、遮断部が、外側に露出しないレンズの表面に形成されるものが望ましい。
【0018】
このように構成において、腫瘍に集積した蛍光物質を十分に励起するためには、励起光は、ピーク波長が401nm以上の範囲に設定されているものが望ましい。特に、励起光は、ピーク波長が401nm〜420nmの範囲に設定されたものが好ましく、ピーク波長が401nm〜409nmの範囲に設定されたものがより好ましい。すなわち、励起光は、401nm未満の波長であれば、有害な紫外放射成分が増加するので、例えば脳の正常組織にかえってダメージを与えてしまうので適さない。これに対して、409nmを超える波長であれば、蛍光物質を励起する能力が低下し、腫瘍の識別が困難になる。それゆえ、紫の光は、上述した401nm〜409nmの範囲の波長のものが適しているものである。
【0019】
また本発明に係る検査用照明装置は、検査対象物にある蛍光物質に対する励起光を射出する検査用照明装置であって、前記蛍光物質の励起波長と略合致する光を射出する発光ダイオードと、該発光ダイオードの光射出側に設けられ、前記蛍光物質の励起波長の少なくとも一部と同一の波長を遮断する遮断部とを備えることを特徴とする。
これならば、発光ダイオードが蛍光物質の蛍光と同色に見える波長の光を発していても、遮断部がその光を遮断するので、検査対象物にある蛍光物質の視認性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
このような構成の本発明によれば、腫瘍摘出のための手術の際に、腫瘍の視認性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る腫瘍検出用照明装置の斜視図である。
図2】同実施形態に係る平面図である。
図3】同実施形態に係る正面図である。
図4】同実施形態に係る側面図である。
図5】同実施形態に係るA−A線に沿った断面図である。
図6】同実施形態に係る要部を拡大して示す断面図である。
図7】変形実施形態に係る検査用照明装置の検査対象を示す模式図である。
【符号の説明】
【0022】
1・・・腫瘍検出用照明装置
5・・・レンズ
7・・・発光ダイオード
8・・・フィルタ
15・・・アパーチャ
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0024】
本実施形態に係る腫瘍検出用照明装置(以下、照明装置ともいう。)1は、図1図6に示すように、装置本体2と、装置本体2に取り外し可能に取り付けられる電源ケーブル3とを備えている。装置本体2は、筐体4と、筐体4内に内蔵される4個のレンズ5と、レンズ5を支持するレンズホルダ6と、4個の発光ダイオード(以下、LEDと称する)7と、それぞれのレンズ5に取り付けられるフィルタ8とを備えている。照明装置1は、腫瘍に集積する特性を有する蛍光物質(ここでは、例えば、赤色の蛍光を発する5−アミノレブリン酸(5−ALA))を用いて、例えば人の頭部の腫瘍を開頭手術により切除する際に、術野の照明に使用されるものである。この照明装置1は、洗浄及び消毒を繰り返して使用されるため、防水及び防薬液構造になっている。
【0025】
筐体4は、基台部9と、基台部9に一体に形成される把持部10と、その基台部9に固定されて、レンズ5、レンズホルダ6、発光ダイオード(以下、LEDとも言う。)7、ケーブル接続部11等を内蔵する空間を形成するカバー部12とを備えている。把持部10は、手術室において別に用意されるクランプ等で挟まれることにより、所望の場所に照明装置1を配置するために使用される。カバー部12は、把持部10と背向する平面に、レンズ5の位置に対応して、レンズ5の直径より小内径の射出開口13を備え、長手方向の側面には、電源ケーブル3をケーブル接続部11に接続するための開口(図示しない)を備えている。
【0026】
それぞれのレンズ5は、カバー部12の内側にカバー部12によって位置決めされるレンズホルダ6に保持される。この実施形態におけるレンズ5は、円柱の上下にそれぞれ半球状の平凸レンズを一体にした形状のいわゆるドラムレンズである。レンズ5は、円柱形状の胴部14を備えているので、レンズホルダ6への位置決め固定を容易にしている。この実施形態にあっては、レンズ5に赤色光を遮断する遮断部であるフィルタ8が、レンズ5の一方の凸レンズ状端部の表面に形成してある。
【0027】
フィルタ8は、それぞれのレンズ5に対して設けられるアパーチャ15と対向するレンズ5の面に、例えば蒸着により形成される。すなわち、フィルタ8は、レンズ5の胴部14で分離された、カバー部12から露出しない球面部分に形成されるもので、LED7の発光する光から、蛍光物質の励起波長の少なくとも一部と同一の波長を遮断するものである。具体的にフィルタ8は、腫瘍以外の正常細胞に照射したときにその照射部位が蛍光と人間にはほぼ同じ色に見える光、すなわち、ここでは赤色光のみを遮断する特性を有するものである。なお、フィルタ8は、レンズ5の大きさに比較して薄い透明の薄膜であり、図示が困難であるので図6においては断面の図示を割愛し、代わりにハッチングによりその形成領域を図示する。
【0028】
レンズホルダ6は、4個のレンズ5をそれぞれ個別に支持して固定する構造を有する。具体的には、レンズホルダ6は、それぞれのレンズ5の下側を支持するレンズ座部16と、それぞれのレンズ5の円筒形状の胴部14を支持する支持壁部17と、LED7が配置される発光ダイオード部(以下、LED部と称する)18からの光を通過させるアパーチャ15とを備えている。レンズホルダ6に支持されたレンズ5とカバー部12との間には、防水及び防薬液のために、O−リング19が嵌め込まれている。
【0029】
レンズ座部16は、環状形状のもので、レンズ5と接触する座面はレンズ5の曲率と略同じ曲率で形成してある。さらに、レンズ座部16は、その幅が連続的に変化するもので、図6に示すように、レンズ5の中心を通る断面においては、対向する一方の幅が狭く他方の幅がそれに比べて広くなっている。
【0030】
支持壁部17は、レンズ5の胴部14から射出される光を反射しないように、黒色樹脂や黒塗装等の反射軽減処理が施してあり、フレアの発生を抑制してある。
【0031】
アパーチャ15は、レンズ座部16の下側にレンズホルダ6と一体に設けてある。すなわち、アパーチャ15は、レンズ座部16に連続する円板部15aに設けてある。円板部15aは、レンズ座部16側すなわち基端側の厚みが大きく、アパーチャ15を形成している端部すなわち先端側の厚みが基端側の厚みより小さくなる断面形状をしている。このように、レンズホルダ6と一体に設けた円板部15aによりアパーチャ15を形成することにより、レンズ座部16に支持されたレンズ5とアパーチャ15との距離は、製品毎にばらつくことはない。
【0032】
アパーチャ15の大きさは、後述するLED部18のLED台座21の開口直径より小径であることが望ましい。図6では、出力を確保するためにアパーチャ15の大きさをLED7の直径よりも大径としているが、LED7からの出力が十分な場合は、LED7の直径より小径である方が照射箇所の光のムラを軽減できる点で更に望ましい。その場合、例えば、アパーチャ15の大きさは、LED7のサイズの約1.5倍が望ましい。このような大きさにアパーチャ15の径を設定することにより、使用時に必要な光量を確保するとともにフレアの発生を抑制することができる。
【0033】
アパーチャ15の開口中心軸ACLは、レンズ5の中心軸BCLとずらせてあり、4個のレンズ5を通過した光が所定位置で集光するように構成してある。この場合、レンズ5の中心軸BCLを基準位置とした場合、それぞれのアパーチャ15の開口中心軸ACLはレンズ5の中心軸BCLから互いに離間するようにずれた、言い換えればレンズ5の中心軸BCLから筐体4外側に遠ざかる位置に配置される。
【0034】
LED部18は、基台部9に固定される基板20上に設けられるもので、レンズ5側に開口しているLED台座21と、そのLED台座21に設けられるLED7とを備えている。このLED部18は、レンズホルダ6のアパーチャ15の下側に設けられる凹部22内に配置される。LED台座21は、LED7から射出された光を反射するように形成されている。
【0035】
LED7は、その発光中心をアパーチャ15の開口中心軸ACLと一致させてLED台座21に配置されている。LED7は、その仕様において、単一のピーク波長を有し、そのピーク波長が例えば405nmである、単一ピーク波長光を射出するとされているものである。このLED7のピーク波長は、蛍光物質を励起するための励起光波長と略合致するものである。略合致とは、ピーク波長と励起光の波長とが若干ずれていても良いが、そのずれ量が一定範囲内、すなわち、LED7から射出される、ピーク波長を中心としたその前後の波長域に広がる山状スペクトルの光によって、蛍光物質からの蛍光が視認できる程度に励起できる範囲に収まっているという意味である。例えば前記山状スペクトルの半値幅内に励起光波長が存在するような例を挙げることができる。なお、LED7の材料や構造等については限定されるものではない。
【0036】
以上の構成において、LED7を発光させると、その光は、LED座部16により反射された光を含んで、アパーチャ15により絞られた後にレンズ5を介して筐体4外に射出される。この一方で、レンズ5にはフィルタ8が一体に形成してあるので、LED7から発せられる光に含まれる不測の微量な赤色成分は、フィルタ8により遮断されてレンズ5を通過することはない。従って、レンズ5を通過する光は、アパーチャ15により絞られた後の、LED台座21にて反射した光とLED7から直接射出した光とであり、その波長は、紫色領域である405nmを単一ピークとするものとなる。さらに、レンズ5の中心軸BCLとアパーチャ15の開口中心軸ACLとが偏位していることにより、それぞれのレンズ5を通過した励起光は、カバー部12から所定距離離れた所定領域に集光する。
【0037】
また、本実施形態の照明装置1は、図6に示すように、振動検知手段としての振動センサ23を有している。この振動センサ23は、照明装置1の点灯/消灯を切り替えるためのものである。そして、照明装置1は、振動センサ23が所定値以上の振動を検知した場合に、消灯状態にあるLED7を点灯させる、又は点灯状態にあるLED7を消灯させるように構成されている。このように照明装置1に所定値以上の振動を与えることで、LED7の点灯/消灯を切り替えることができる。
【0038】
これにより、手術中に頻繁に行われるメス入れ及び腫瘍位置確認の切り替え時に行う必要のある照明装置1の点灯/消灯の切り替えを簡単にすることができ、手術者の切り替え作業時のストレスを低減することができる。
【0039】
なお、前記振動センサ23を用いた照明装置1の切り替えは、LED7の点灯/消灯の切り替えに限らず、照明装置1に白色光源を設けておき、LED7の点灯と前記白色光源の点灯とを切り替えるように構成しても良い。また、外部白色照明と連動させて、LED7の点灯時は外部白色照明を消灯させ、LED7の消灯時は外部白色照明を点灯させるように構成しても良い。
【0040】
このように構成した照明装置1によれば、LED7が赤色光を発していても、フィルタ8がその赤色光を遮断するので、術野を照明した場合に、腫瘍の蛍光物質を励起して蛍光発光させるとともに、腫瘍の周囲の正常細胞を赤色に照明することはない。それゆえ、腫瘍の視認性が向上し、確実に正常細胞と区別することが可能になる。
【0041】
また、フィルタ8をレンズ5の表面に形成しているので、フィルタ8を取り付ける作業をなくすことができる。その結果、この種のフィルタを個別の部品にて構成する場合に比べて、組み立て工数を削減することができる。
【0042】
さらに、LED部18から射出された光を絞るアパーチャ15を、レンズ座部16に連続する板部15aにより形成することにより、レンズ5とアパーチャ15との間の距離が製品毎にばらつくことなく、歩留まり向上させることができる。
【0043】
その上、位置調整をすることなくレンズ5をレンズホルダ6に取り付けることができる。従って、レンズ5の中心軸BCLをアパーチャ15の開口中心軸ACLに対して設定通りの位置に配置することができ、それぞれのLED7から射出された光を、フレアの発生を抑制して集光させることができる。
【0044】
加えて、レンズ5のカバー部12内側の面にフィルタ8を形成して、レンズ5とカバー部12との間にO−リング19を配置しているので、照明装置1を洗浄及び消毒する際に、洗浄液や消毒液に接触してフィルタ8が劣化することを防止することができる。
【0045】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0046】
上記実施形態におけるそれぞれのLED7が発光する光の実質的ピーク波長は、4個のLED7の全てが405nmのものを説明したが、本発明はこれに限定されることなく、例えば、404nm、405nm、406nm、407nmといったように、401nm〜409nmの範囲で波長の異なる光を射出するLED7を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
上記実施形態においてフィルタ8は、レンズ5の表面に蒸着にて形成するものを説明したが、フィルタ8は、LED7からの光が、照射対象に至るまでの光路上つまり光射出側に設けられるものであればいずれにあってもよいが、洗浄液や消毒液等と接触して劣化することを確実に防げる位置が望ましい。従って、上記実施形態同様に、レンズの表面に形成する場合であれば、筐体4内に位置する表面に形成する。またフィルタ8の取付方法も、この実施形態のように、レンズ5自体に形成するもの以外に例えば、別部品によりLED7とレンズ5との間の空間に配置される透光板に形成されるものであってもよい。具体的には、フィルタ8は、アパーチャ15に嵌め込まれる透光板表面に、蒸着により形成されるものであってよい。
【0048】
上記実施形態においては、レンズ5を用いたが、これに限定されるものではなく、ボールレンズ、両凸レンズ、平凸レンズ、半球レンズ、凸メニスカスレンズ等を用いるものであってよい。
【0049】
さらに、フレアの発生の抑制は、黒色樹脂や黒塗装等の反射軽減処理に限らず、例えば、真空蒸着やスパッタリング等の無反射コーティングを施してもよい。
【0050】
脳腫瘍のみならず、他部位の腫瘍にも本発明を適用して同様の作用効果を得ることができる。
【0051】
その上、前記実施形態の腫瘍検出用照明装置と、手術者が着用する眼鏡又は顕微鏡とを併用しても良い。この場合、前記眼鏡又は前記顕微鏡に、前記腫瘍検出用照明装置から照射される光と略同じ色(例えば波長405nmの光)をカットする光学フィルタを設ける。これにより、術野から生じる蛍光と術野以外を照明する光との差を明確にすることができ、前記蛍光を見易くすることができる。
【0052】
また、本発明に係る検査用照明装置として、検査対象物にある蛍光物質に対する励起光を射出するものであっても良い。具体的に検査用照明装置は、図7に示すように、例えば検査対象物Wに設けられた接着剤W1、W2に含まれる蛍光物質の励起波長と略合致する光を射出する発光ダイオードと、該発光ダイオードの光射出側に設けられ、前記蛍光物質の励起波長の少なくとも一部と同一の波長を遮断する遮断部とを備える。図7において接着剤W1は、正しい位置に塗布された接着剤であり、接着剤W2は、異常位置に塗布された接着剤である。この検査用照明装置を用いることで、接着剤W1、W2の視認性を向上させることができ、接着剤W1、W2が塗布された位置が正しいか否かを確実に判断することができる。つまり、異常位置にある接着剤W1を確実に把握することができる。なお、検査対象物Wにある蛍光物質としては、前記接着材に含まれる蛍光物質に限られない。
【0053】
その他、本発明は上記の各実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、前述した種々の構成の一部又は全部を適宜組み合わせて構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により、蛍光物質が集積した腫瘍の視認性が向上する腫瘍検出用照明装置を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7