特許第6182836号(P6182836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6182836信号処理装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182836
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】信号処理装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G01S 3/801 20060101AFI20170814BHJP
   G01S 7/526 20060101ALN20170814BHJP
【FI】
   G01S3/801
   !G01S7/526 J
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-180148(P2012-180148)
(22)【出願日】2012年8月15日
(65)【公開番号】特開2014-38028(P2014-38028A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083840
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100116964
【弁理士】
【氏名又は名称】山形 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100135921
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 昭一
【審査官】 安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−309522(JP,A)
【文献】 特開平11−211824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72− 1/82,
G01S 3/80− 3/86,
G01S 5/18− 5/30,
G01S 7/52− 7/64,
G01S 15/00−15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受波器アレイを構成する複数の受波器で音波を受信することで生成された受波信号を処理して、各方位における受波強度を示す信号を生成する信号処理装置において、
前記受波信号を複数の周波数ビンに分割し、各周波数ビンについての複数の異なる方位についての整相出力を得る整相処理部と、
前記整相出力に対し、第1の積分時間による第1の積分処理を行う第1の積分部と、
前記整相出力に対し、前記第1の積分時間よりも長い第2の積分時間による第2の積分処理を行う第2の積分部とを有する時間積分部と、
各方位及びそれに近接する方位における、前記第2の積分処理の結果に基づいて、鮮鋭化成分を求める鮮鋭化成分生成部と、各方位における前記第1の積分処理の結果に対し、当該方位における前記鮮鋭化成分に所定の係数を掛けたものを加算又は減算する合成部とを有し、方位に対する前記第2の積分処理の結果の変化がより急峻となるように、鮮鋭化を施す鮮鋭化部と、
前記鮮鋭化の結果を周波数方向に累加することで、前記各方位における受波強度に対応する信号を得る周波数累加部と
を備えることを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
受波器アレイを構成する複数の受波器で音波を受信することで生成された受波信号を処理して、各方位における受波強度を示す信号を生成する信号処理装置において、
前記受波信号を複数の周波数ビンに分割し、各周波数ビンについての複数の異なる方位についての整相出力を得る整相処理部と、
前記整相出力を時間積分して時間積分出力を生成する時間積分部と、
前記時間積分出力を受け、方位に対する前記時間積分出力の変化がより急峻となるように、鮮鋭化を施す鮮鋭化部と、
前記鮮鋭化の結果を周波数方向に累加することで、前記各方位における受波強度に対応する信号を得る周波数累加部と、
前記周波数方向の累加の結果に対してレベル変換を行うレベル変換部と、
前記レベル変換の結果に対して対数変換を行い、さらに前記対数変換の結果を正規化する正規化部と、
前記正規化の結果の全方位にわたる平均値を求め、該平均値に基づいて、前記レベル変換におけるパラメータを調整するパラメータ調整部とを備え、
前記パラメータの調整により、前記正規化の結果におけるコントラストを改善する
ことを特徴とする信号処理装置。
【請求項3】
受波器アレイを構成する複数の受波器で音波を受信することで生成された受波信号を処理して、各方位における受波強度を示す信号を生成する信号処理装置において、
前記受波信号を複数の周波数ビンに分割し、各周波数ビンについての複数の異なる方位についての整相出力を得る整相処理部と、
前記整相出力を時間積分して時間積分出力を生成する時間積分部と、
前記時間積分出力を受け、方位に対する前記時間積分出力の変化がより急峻となるように、鮮鋭化を施す鮮鋭化部と、
前記鮮鋭化の結果に対してレベル変換を行うレベル変換部と、
前記レベル変換の結果を周波数方向に累加することで、前記各方位における受波強度に対応する信号を得る周波数累加部と、
前記周波数方向の累加の結果に対して対数変換を行い、さらに前記対数変換の結果を正規化する正規化部と、
前記正規化の結果の全方位にわたる平均値を求め、該平均値に基づいて、前記レベル変換におけるパラメータを調整するパラメータ調整部とを備え、
前記パラメータの調整により、前記正規化の結果におけるコントラストを改善する
ことを特徴とする信号処理装置。
【請求項4】
前記鮮鋭化部が、
各方位及びそれに近接する方位における、前記時間積分出力に基づいて、鮮鋭化成分を求める鮮鋭化成分生成部と、
各方位における前記時間積分出力と、当該方位における前記鮮鋭化成分を合成する合成部とを有する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記鮮鋭化部が、ラプラシアン処理によって前記鮮鋭化を行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記鮮鋭化部が、アンシャープマスク処理によって前記鮮鋭化を行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の信号処理装置。
【請求項7】
受波器アレイを構成する複数の受波器で音波を受信することで生成された受波信号を処理して、各方位における受波強度を示す信号を生成する信号処理方法において、
前記受波信号を複数の周波数ビンに分割し、各周波数ビンについての複数の異なる方位についての整相出力を得、
前記整相出力に対し、第1の積分時間による第1の積分処理を行い、
前記整相出力に対し、前記第1の積分時間よりも長い第2の積分時間による第2の積分処理を行い、
各方位及びそれに近接する方位における、前記第2の積分処理の結果に基づいて、鮮鋭化成分を求め、
各方位における前記第1の積分処理の結果に対し、当該方位における前記鮮鋭化成分に所定の係数を掛けたものを加算又は減算し、
方位に対する前記第2の積分処理の結果の変化がより急峻となるように、鮮鋭化を施し、
前記鮮鋭化の結果を周波数方向に累加することで、前記各方位における受波強度に対応する信号を得る
ことを特徴とする信号処理方法。
【請求項8】
受波器アレイを構成する複数の受波器で音波を受信することで生成された受波信号を処理して、各方位における受波強度を示す信号を生成する信号処理方法において、
前記受波信号を複数の周波数ビンに分割し、各周波数ビンについての複数の異なる方位についての整相出力を時間積分して時間積分出力を生成し、
前記時間積分出力に基づき、方位に対する前記時間積分出力の変化がより急峻となるように、鮮鋭化を施し、
前記鮮鋭化の結果を周波数方向に累加することで、前記各方位における受波強度に対応する信号を得、
前記周波数方向の累加の結果に対してレベル変換を行い、
前記レベル変換の結果に対して対数変換を行い、さらに前記対数変換の結果を正規化し、
前記正規化の結果の全方位にわたる平均値を求め、該平均値に基づいて、前記レベル変換におけるパラメータを調整し、
前記パラメータの調整により、前記正規化の結果におけるコントラストを改善する
ことを特徴とする信号処理方法。
【請求項9】
受波器アレイを構成する複数の受波器で音波を受信することで生成された受波信号を処理して、各方位における受波強度を示す信号を生成する信号処理方法において、
前記受波信号を複数の周波数ビンに分割し、各周波数ビンについての複数の異なる方位についての整相出力を時間積分して時間積分出力を生成し、
前記時間積分出力に基づき、方位に対する前記時間積分出力の変化がより急峻となるように、鮮鋭化を施し、
前記鮮鋭化の結果に対してレベル変換を行い、
前記レベル変換の結果を周波数方向に累加することで、前記各方位における受波強度に対応する信号を得、
前記周波数方向の累加の結果に対して対数変換を行い、さらに前記対数変換の結果を正規化し、
前記正規化の結果の全方位にわたる平均値を求め、該平均値に基づいて、前記レベル変換におけるパラメータを調整し、
前記パラメータの調整により、前記正規化の結果におけるコントラストを改善する
ことを特徴とする信号処理方法。
【請求項10】
前記鮮鋭化が、
各方位及びそれに近接する方位における、前記時間積分出力に基づいて、鮮鋭化成分を求める処理と、
各方位における前記時間積分出力と、当該方位における前記鮮鋭化成分を合成する処理とで行われる
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の信号処理方法。
【請求項11】
前記鮮鋭化がラプラシアン処理によって行われることを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の信号処理方法。
【請求項12】
前記鮮鋭化がアンシャープマスク処理によって行われることを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の信号処理方法。
【請求項13】
請求項7乃至12のいずれかの信号処理方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項14】
請求項13のプログラムを記録した、コンピュータで読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソーナーシステムにおける信号処理装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体に関する。本発明は、特に、ソーナーシステムにおいて整相出力の周波数−方位スペクトルを周波数方向に累加して画面に方位−レベル出力の表示をする際、周波数累加の前段で鮮鋭化処理を行い、従来方法と比べて微弱な信号をより検出し易くした信号処理に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術における方位−レベル表示のための処理では、整相処理によって得られる整相出力(周波数及び方位の関数としての受波信号のレベル)に対して、時間積分処理及び周波数方向の累加を行うことによって、方位毎のレベルを示す表示(方位−レベル表示)のための処理出力を得ていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Robert E. Zarnich、“A Fresh Look at ‘Broadband’ Passive Sonar Processing”, Adaptive Sensor Array Processing Workshop (ASAP‘ 99), MIT: LL, March, pp. 99−104 (1999)
【非特許文献2】Shefeng Yan and Yuanliang Ma, “High−resolution broadband beamforming and detection methods with real data”, Acoust. Sci. & Tech, 25, 1, pp. 73−76 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来技術では、周波数方向の累加によって、微弱な信号が周波数の異なる強い信号に埋もれてしまう場合がある。図1(a)及び(b)は、従来技術による処理の結果の概念図である。図1(a)は、整相出力を示し、図1(b)は、周波数方向の累加後の出力を示している。図1(a)では、整相出力(方位一周波数スペクトル)において、信号A、B及びCの3つが存在していることが示されている。信号Aはレベルが高いため、背景雑音が大きくても、周波数方向の累加の処理後に、図1(b)に示すように、信号の存在を認識することができる。また、信号Bはレベルが大きくないが、周囲にレベルの大きな信号が存在していないため、周波数方向の累加の処理後においても存在を認識することができる。一方、信号Cは整相処理後の方位−周波数スペクトルでは認識できるが、周波数方向の累加によって信号Aに埋もれてしまい、周波数方向の累加の処理後には、信号Cの存在を認識することができない。
【0005】
このように、従来技術による処理においては、微弱な信号(図1(a)における信号C)が、周波数方向の累加後に他のレベルの高い信号(図1(a)における信号A)または背景雑音に埋もれてしまい、方位−レベル表示において認識できないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明では、方位−レベル表示において周波数累加後でも微弱な信号を認識できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様の信号処理装置は、
受波器アレイを構成する複数の受波器で音波を受信することで生成された受波信号を処理して、各方位における受波強度を示す信号を生成する信号処理装置において、
前記受波信号を複数の周波数ビンに分割し、各周波数ビンについての複数の異なる方位についての整相出力を得る整相処理部と、
前記整相出力に対し、第1の積分時間による第1の積分処理を行う第1の積分部と、
前記整相出力に対し、前記第1の積分時間よりも長い第2の積分時間による第2の積分処理を行う第2の積分部とを有する時間積分部と、
各方位及びそれに近接する方位における、前記第2の積分処理の結果に基づいて、鮮鋭化成分を求める鮮鋭化成分生成部と、各方位における前記第1の積分処理の結果に対し、当該方位における前記鮮鋭化成分に所定の係数を掛けたものを加算又は減算する合成部とを有し、方位に対する前記第2の積分処理の結果の変化がより急峻となるように、鮮鋭化を施す鮮鋭化部と、
前記鮮鋭化の結果を周波数方向に累加することで、前記各方位における受波強度に対応する信号を得る周波数累加部と
を備えることを特徴とする。
本発明の第2の態様の信号処理装置は、
受波器アレイを構成する複数の受波器で音波を受信することで生成された受波信号を処理して、各方位における受波強度を示す信号を生成する信号処理装置において、
前記受波信号を複数の周波数ビンに分割し、各周波数ビンについての複数の異なる方位についての整相出力を得る整相処理部と、
前記整相出力を時間積分して時間積分出力を生成する時間積分部と、
前記時間積分出力を受け、方位に対する前記時間積分出力の変化がより急峻となるように、鮮鋭化を施す鮮鋭化部と、
前記鮮鋭化の結果を周波数方向に累加することで、前記各方位における受波強度に対応する信号を得る周波数累加部と、
前記周波数方向の累加の結果に対してレベル変換を行うレベル変換部と、
前記レベル変換の結果に対して対数変換を行い、さらに前記対数変換の結果を正規化する正規化部と、
前記正規化の結果の全方位にわたる平均値を求め、該平均値に基づいて、前記レベル変換におけるパラメータを調整するパラメータ調整部とを備え、
前記パラメータの調整により、前記正規化の結果におけるコントラストを改善する
ことを特徴とする。
本発明の第3の態様の信号処理装置は、
受波器アレイを構成する複数の受波器で音波を受信することで生成された受波信号を処理して、各方位における受波強度を示す信号を生成する信号処理装置において、
前記受波信号を複数の周波数ビンに分割し、各周波数ビンについての複数の異なる方位についての整相出力を得る整相処理部と、
前記整相出力を時間積分して時間積分出力を生成する時間積分部と、
前記時間積分出力を受け、方位に対する前記時間積分出力の変化がより急峻となるように、鮮鋭化を施す鮮鋭化部と、
前記鮮鋭化の結果に対してレベル変換を行うレベル変換部と、
前記レベル変換の結果を周波数方向に累加することで、前記各方位における受波強度に対応する信号を得る周波数累加部と、
前記周波数方向の累加の結果に対して対数変換を行い、さらに前記対数変換の結果を正規化する正規化部と、
前記正規化の結果の全方位にわたる平均値を求め、該平均値に基づいて、前記レベル変換におけるパラメータを調整するパラメータ調整部とを備え、
前記パラメータの調整により、前記正規化の結果におけるコントラストを改善する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、方位−レベル表示において周波数累加後でも微弱な信号の認識がし易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)及び(b)は、従来技術における整相出力と、方位−レベル表示のための処理出力との関係を示すグラフである。
図2】本発明の実施の形態1の信号処理装置を示すブロック図である。
図3】(a)〜(c)は、ラプラシアンを用いた鮮鋭化処理において生成される信号の例を示す図である。
図4】従来例により生成される表示出力の一例を示す図である。
図5】実施の形態1により生成される表示出力の一例を示す図である。
図6】本発明の実施の形態2の信号処理装置を示すブロック図である。
図7】実施の形態2により生成される表示出力の一例を示す図である。
図8】本発明の実施の形態3の信号処理装置を示すブロック図である。
図9】(a)及び(b)は、実施の形態3によるレベル調整による、平均値の変化を示す図である。
図10】実施の形態3により生成される表示出力の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図2は、本発明の実施の形態1の信号処理装置を示す。図示の信号処理装置は、整相処理部20と、時間積分部30と、鮮鋭化部40と、周波数累加部50と、対数変換部60とを備える。
【0011】
整相処理部20は、受波器アレイ10からの受波レベルを表す信号(受波信号)を受ける。
受波器アレイ10は、例えば直線状又は円弧状に配列され、それぞれ音波を受信することで受波信号を生成する複数の受波器で構成される。整相処理部20は、受波器アレイ10からの受波信号に対して整相処理を行う。
【0012】
整相処理は、受波信号の位相もしくは遅延時間を調整して、方位毎の受波ビームを形成する処理である。整相処理においては、例えば、受波信号を、高速フーリエ変換(FFT)などによって周波数領域の信号に変換し、周波数ビン毎に、各受波器からの信号に対して位相調整を行う。
【0013】
各時刻tにおいて、整相処理の結果として得られる信号(整相出力)Rk,f(t)、受波器アレイ10を中心とする各方位k(k=1〜K)(Kは方位の総数)における、周波数ビンf(f=1〜F)毎の各時刻における受波強度(レベル)を表すものである。
【0014】
時間積分部30は、整相処理部20からの整相出力Rk,f(t)を時間積分する。時間積分部30による時間積分は、整相出力のバラツキを抑え、雑音成分を抑制する役割を持つ。即ち、目標とする信号成分は一般に比較的安定したレベルを有するのに対して雑音成分のレベルは時間によって変動するので、時間積分することで雑音成分を抑制し、信号成分を抽出することができる。
時間積分は、各方位における、各周波数ビンについて行われ、その結果(積分出力)も各方位の周波数ビン毎に得られる。積分時間をTとする場合、積分出力は、例えば、現在の時刻tを基準として、時間T前から現在までの整相出力の平均を求めることで得られる。即ち、積分出力Xk,f(t)は、下記の式(1)で表される。
【0015】
【数1】
【0016】
但し、時刻tは、整相出力Rk,f(t)が1回得られる毎に1ずつ増加する値で表されている。なお以下では、各時刻(t)における値であることを強調する必要がない限り、時刻(t)を省略して単にXk,fで表す。他の値についても同様である。
なお,積分出力の求め方としては、式(1)で表された平均の代わりに、総和でもよいし、加重平均を用いてもよい。
【0017】
鮮鋭化部40は、時間積分部30の出力(積分出力)Xk,fに対して鮮鋭化処理を行う。鮮鋭化処理も、各周波数ビンについて行われる。鮮鋭化処理は、方位kに対する積分出力Xk,fの変化がより急峻となるように行われるものであり、例えば、各方位について、当該方位についての積分出力と、当該方位に近接する1又は2以上の方位についての積分出力を用いて行われる。鮮鋭化処理の結果Yk,fは、各方位kの受波強度を表す。
【0018】
周波数累加部50は、鮮鋭化部40の出力Yk,fに対して周波数方向の累加を行う。即ち、各方位について、それぞれの周波数ビンについての鮮鋭化処理の結果Yk,fの総和Zを求める。この演算は下記の式(2)で表される。
【0019】
【数2】
【0020】
このような処理により得られる、周波数累加の結果Zは、各方位の全周波数帯域における、受波強度に対応するものであるが、時間積分し、かつ鮮鋭化を行った後に出力を累加することで得られた値を有する。
【0021】
対数変換部60は、周波数累加部50の出力(各方位についての累加結果)Zを対数に変換する。例えば、10を底とする対数への変換が行われる。この対数変換は下記の式(3)により表される。
【0022】
【数3】
【0023】
対数変換部60の出力Lも、各方位の全周波数帯域における受波強度に対応する。
対数変換部104の出力が、本実施の形態の鮮鋭化処理システムの出力となる。
【0024】
従来技術による処理と比べ、時間積分部30の出力に対して鮮鋭化部40による鮮鋭化処理を適用することが本発明の特徴である。
鮮鋭化部40は、鮮鋭化成分生成部41と、合成部42とを有する。
【0025】
鮮鋭化成分生成部41は、鮮鋭化成分を、例えばラプラシアンを用いて求める。
図3(a)〜(c)は、実施の形態1でのラプラシアンを用いた鮮鋭化処理の方法を示している。
【0026】
この処理は、ある方位kにおける、ある周波数の時間積分出力Xk,fに対して適用される。ここで、kは方位番号を表す整数である。
【0027】
図3(a)では、方位kを横軸とし、ある周波数の時間積分出力Xk,fを縦軸とする曲線において、ピークが1つある場合を例に示す。時間積分出力Xk,fに対するラプラシアン処理の結果∇k,fは、下記の式(4)で表される。
【0028】
【数4】
【0029】
この処理によって、方位−レベル表示出力(各方位におけるレベルを表す値)Xk,fに対する、方位方向の2階微分値が得られる。この処理を図3(a)に示される値Xk,fに対して適用すると、図3(b)に示される処理結果が得られる。図3(b)の処理結果は、方位に対するレベルの変化を表す曲線(図3(a))のピークの位置で極小値、傾斜が変化しない区間で0となる。このラプラシアン処理結果∇k,fに係数αを掛けて、時間積分処理の結果Xk,fから減算することで鮮鋭化出力Yk,fを求める。即ち、鮮鋭化出力Yk,fは下の式(5)で表される。
【0030】
【数5】
【0031】
ここで、αは鮮鋭化の程度を調整するパラメータであり、αが大きいほど鮮鋭化の程度が強く、α=0のとき、
k,f=Xk,f
となり、鮮鋭化が一切行われないのと同じで、従来技術による処理結果と同じ結果となる。
【0032】
図3(a)に示される時間積分処理の結果に対して、式(5)で表される鮮鋭化処理を行った場合に得られる処理結果が図3(c)に示されている。
時間積分出力Xk,f図3(a))にピークがある場合、ラプラシアン処理による鮮鋭化成分∇k,f図3(b))は通常、上記のピークと同じ方位においてより鋭く下に(ピークとは逆の向きに)凸となる。従って、鮮鋭化成分に係数αを掛けたものを減算することで得られる鮮鋭化処理の結果Yk,f図3(c))は、時間積分出力Xk,f図3(a))よりも、ピークがより鋭く強調されものとなる。
【0033】
図4及び図5は、シミュレーションの結果を示す。即ち、疑似信号に疑似雑音を重畳した疑似的なアレイの受波器出力に対して整相処理を行い、その整相出力に対する処理の結果を用いたBTR(Bearing Time Recording)を示す。BTR表示では、縦軸が時間、横軸が方位、濃淡がレベルの強さ(濃いほどレベルが高いことを示す)を表す。なお、疑似信号として、方位番号144に信号S1、方位番号150に信号S2を生成した。
【0034】
図4は、比較のための従来技術による処理の結果を示し、図5が、実施の形態1の処理の結果を示す。従来処理による結果では、方位番号144の信号S1は確認できるが、方位番号150の信号S2は確認しにくい。一方、実施の形態1による結果では、方位番号144の信号S1のみならず、方位番号150の信号S2をも確認することができ、信号が検出し易くなっていることがわかる。
【0035】
実施の形態2.
図6は、本発明の実施の形態2の信号処理装置を示す。
実施の形態1との違いは、図2の時間積分部30の代わりに、時間積分部35を設けたこと、及び図2の鮮鋭化部40の代わりに鮮鋭化部45を設けたことである。時間積分部35は、第1の積分部36と第2の積分部37とを有する。
【0036】
第1の積分部36及び第2の積分部37は、図2の時間積分部30と同じく、整相出力のバラツキを抑え、雑音を除去することを目的とする。第1の積分部36の積分時間T1は、図2の時間積分部30の積分時間と同程度である。第2の積分部37の積分時間T2は、第1の積分部36の積分時間T1よりも長い。
【0037】
鮮鋭化部45は、実施の形態1における鮮鋭化部40と同様であるが、第2の積分部37の出力と、第1の積分部36の出力とを用いて鮮鋭化処理を行うものであり、鮮鋭化成分生成部46と、合成部47とを有する。
鮮鋭化成分生成部46は、実施の形態1における鮮鋭化成分生成部41と同じであるが、第2の積分部37の出力に対して鮮鋭化を行う。
合成部47は、第1の積分部36の出力と鮮鋭化成分生成部46の出力を合成する。この合成は、鮮鋭化成分生成部46の出力に所定の係数αを掛けたものを第1の積分部36の出力から減算することで行われる。
【0038】
第1の積分部36の出力をXT1,k,fと表し、第2の積分部37の出力をXT2,k,fと表す。
鮮鋭化成分生成部46の出力は下式(6)で表される。
【0039】
【数6】
【0040】
合成部47では、第1の積分部36の出力から、式(6)に示される、鮮鋭化成分∇T2,k,fに係数αを掛けたものを減算することで鮮鋭化部45の出力Yk,fを得る。即ち、鮮鋭化部45の出力Yk,fは、次の式(7)で表される。
【0041】
【数7】
【0042】
T1=T2の場合は、式(5)で表される実施の形態1と同じ結果となる。
【0043】
ラプラシアンを用いた鮮鋭化処理では、微分処理を行うため、雑音の影響によって時間積分出力のバラツキが大きい場合、バラツキの影響を強く受ける可能性がある。そこで、第2の積分部37では、第1の積分部36よりも長い積分時間を設定し、雑音の影響によるバラツキをさらに抑制した時間積分出力を得て、それに対してラプラシアン処理を行うこととしている。
【0044】
図7は、実施の形態2を適用した場合の結果を示している。ここで、第2の積分部37における積分時間T2を、第1の積分部36における積分時間T1の10倍に設定した場合を示す。図5と比べても、信号周辺の雑音成分が抑制されていることに加え、信号がより鮮鋭になっており、全体的に信号の見えやすさが実施の形態1よりも向上していることが確認できる。
【0045】
実施の形態3.
図8は、本発明の実施の形態3の信号処理装置を示す。
実施の形態2との違いは、周波数累加部50の後段に、レベル変換部70を設け、さらに対数変換部60の代わりに、対数変換部65を設け、対数変換部65の出力を受ける正規化部80、及び正規化部80の出力を受けるパラメータ調整部90を設けたことである。
【0046】
実施の形態2では、第1及び第2の積分部36、37の出力によっては、周波数累加部50の出力に、
(1)負の値が含まれる場合や、
(2)極めて小さい数値が含まれる場合がある。
例えば、周波数累加部50の出力に負の値が含まれる場合、対数変換部104での変換処理でエラーが生じ、出力が得られない。また、周波数累加部50の出力に極めて小さい値が含まれている場合、対数変換は可能であるが、対数変換の結果得られる出力の大きさの分布が偏り、その結果として、処理結果のコントラストが悪くなることがある。
【0047】
そこで、実施の形態3では、周波数累加部50の出力Zに対してレベル変換部70でレベル変換を行う。この処理では、周波数累加部50の出力Zに対して、次式(8)で表される処理を行い、レベル変換出力Tを得る。
【0048】
【数8】
【0049】
式(8)で、max(Z)及びmin(Z)は周波数累加の出力Zにおける最大値及び最小値(各時点で、出力Z(k=1〜K)が実際の取った値のうちの最大値及び最小値)、a及びbはレベル変換処理のパラメータであり、a>0、b≧0の値が設定される。T
b≦T≦a+b
を満たす。即ち、式(8)で表されるレベル変換によって、周波数累加の出力Zは、bからa+bの間の値(T)に変換される。
このレベル変換処理によって、対数変換前に負の値を取ることはなくなる。
【0050】
対数変換部65は、レベル変換出力Tの対数を求める。例えば、10を底とする対数への変換が行われる。この対数変換は下記の式(9)により表される。
【0051】
【数9】
【0052】
正規化部80は、対数変換部65の出力の正規化を行って画面表示出力Uを求める。正規化は下記の式(10)で表される。
【0053】
【数10】
max(S)は、対数Sの最大値、min(S)は、対数Sの最小値である。
【0054】
式(10)で得られる画面表示出力Uは、
0≦U≦1
を満たす。この画面表示出力Uが方位−レベル表示に用いられる。
【0055】
パラメータ調整部90では、画面表示出力Uの平均的レベル及びコントラストを調整するための処理を行う。
パラメータ調整部90は、平均値計算部91と、パラメータ決定部92とを有する。
平均値計算部91は、画面表示出力Uの、全方位についての平均値Uavgを求める。平均値Uavgは下式(11)で表される。
【0056】
【数11】
【0057】
パラメータ決定部92は、上記の式(11)で求めた平均値Uavgに応じて、式(8)のパラメータbを次式(12)で表されるように変化させる。
【0058】
【数12】
【0059】
ここで、Mはコントラスト調整用パラメータであり、画面表示出力Uの平均値Uavgはこの値Mに近づくように変化する。μはパラメータbを更新する量である。
【0060】
図9(a)及び(b)は、上記の処理による効果を示す。画面表示出力Uの平均値Uavgが設定値M以上である場合に、式(8)におけるパラメータbが大きくされ、この結果、レベル変換出力Tの取る範囲が大きい方へ変化する。このため、対数変換の出力Sのレベルの分布が変化し、その結果として画面表示出力Uのコントラストが変化する。この処理を逐次的に繰り返すことによって、画面表示出力Uの平均値Uavgが設定値Mに近づき、処理結果のコントラストが改善される。
【0061】
図10は、実施の形態3を適用した場合の結果を示している。
図10は、Mを、画面表示出力Uの最大値max(U)=1の1/5に設定したときの結果である。図5及び図7と比べ、信号S2がより鮮明になっており、本実施の形態の効果が確認できる。
【0062】
なお、実施の形態3を実施の形態2の変形例として説明したが、実施の形態1に対して同様の変形を加えても良い。
【0063】
変形例1.
実施の形態3では、周波数累加の出力に対してレベル変換を行っているが、鮮鋭化処理の出力(周波数累加の前の出力)に対してレベル変換を行っても良いし、単に鮮鋭化処理の出力の負値を0以上の値へ置き換えても良い。鮮鋭化処理の出力に負の値が含まれる場合、周波数累加の処理によって、目標が存在している方位のレベルが小さくなる可能性があるが、レベル変換をすることでそのような事態を避け得るからである。
【0064】
変形例2.
これまでの説明では、鮮鋭化処理にラプラシアン処理を適用してきたが、鮮鋭化処理には他の方法を適用しても良い。例えば、アンシャープマスク処理を適用しても良い。以下、実施の形態1において、ラプラシアン処理の代わりに、アンシャープマスク処理を行う場合について説明する。
【0065】
アンシャープマスク処理により生成される鮮鋭化成分は下記の式(13)で表される。
【0066】
【数13】
【0067】
鮮鋭化成分生成部41では、上記の式(13)で表される鮮鋭化成分を計算し、合成部42では、鮮鋭化成分生成部41で生成された鮮鋭化成分と、時間積分出力Xk,fとを合成して、鮮鋭化出力を求める。この合成においては、鮮鋭化成分に係数αを掛けたものを、時間積分出力Xk,fに加算する。
その結果、次式(14)で表される鮮鋭化出力Yk,fが得られる。
【0068】
【数14】
【0069】
なお、式(14)における各方位k及びそれに隣接する方位(k−1)、(k+1)における値を平均する部分、すなわち、
【数15】
の部分は、重み付きの平均に置き換えてもよい。さらに、k番目の方位の処理に使用するデータは、該方位(k番目の方位)に直に隣接する1つずつ(k−1番目とk+1番目)である必要はなく、用途に応じて増やすことも可能である。
【0070】
以上、本発明を装置として説明したが上記装置で実施される方法も本発明の一部を成す。また、上記の装置の一部又は全部はソフトウェアにより、即ちプログラムされたコンピュータで実現することができ、コンピュータに上記の処理の実行させるためのプログラム、並びに該プログラムを記録したコンピュータで読み取り可能な記録媒体も本発明の一部を成す。
【符号の説明】
【0071】
10 受波器アレイ、 20 整相処理部、 30、35 時間積分部、 36 第1の積分部、 37 第2の積分部、 40、45 鮮鋭化部、 41、46 鮮鋭化成分生成部、 42、47 合成部、 50 周波数累加部、 60、65 対数変換部、 70 レベル変換部、 80 正規化部、 90 パラメータ調整部、 91 平均値計算部、 92 パラメータ決定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10