(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、電子回路基板材料には、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂をガラスクロスなどの不織布で補強したものが用いられてきたが、かかる材料からではリジッド基板とせざるを得ない。一方、近年、フレキシブル基板が求められるようになってきており、その材料としてはポリイミドが主に用いられる。しかしポリイミドは吸湿性を示し、高湿下で寸法精度や電気特性に衰えが見られるという問題がある。
【0003】
また、最近では、環境問題から電子回路基板には鉛フリー半田が用いられるようになってきている。ところが、鉛フリー半田のリフローには260℃程度という高温が必要であるため、一般的な樹脂を基板材料として用いることはできない。
【0004】
そこで、電子回路基板材料として液晶ポリマーに注目が集まってきている。液晶ポリマーは溶融状態または溶液状態で液晶性を示す高分子の総称であり、高い耐溶剤性、寸法安定性、電気絶縁性、誘電特性の他、優れた耐熱性を有する。
【0005】
しかしながら液晶ポリマーには、フィルム成形が難しいという問題がある。即ち、液晶ポリマーは剛直な分子構造を有するため成形方向に配向して異方性を示したり、成形方向で裂ける傾向がある。そこで、液晶ポリマーを成形してフィルムを得るには、様々な工夫がされている。
【0006】
例えば特許文献1の技術では、Tダイ成膜で得られた縦方向に配向した液晶ポリマーシートをフッ素系の耐熱フィルム上に積層して支え、横延伸することにより異方性を抑制している。また、特許文献2の技術では、Tダイではなく円筒状のダイから液晶ポリマーを押し出し、ただちに内部空気圧により円筒を横方向に膨らませてフィルムを得ている。これらの方法は、溶融押出法に分類される。
【0007】
また、特許文献3には、N−メチル−ピロリドンやパラクロロフェノールのような非プロトン性極性溶媒に可溶な構造を持つ液晶ポリマー−ポリイミド樹脂アロイを溶解し、支持体上に流延した後に溶媒を除去し、次いで加熱処理し、支持体を剥離してフィルムを製造する流延法が記載されている。
【0008】
特許文献4〜11には、粉砕した液晶ポリマーとフィラーとをドライブレンドした混合粉体を打錠機で成形したペレットや、溶融混練して成形したペレットなどを射出成形や金型成形する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、成形が難しい液晶ポリマーをフィルム成形する方法として様々なものが知られている。しかし、高フィラー含量で薄く且つ長尺の液晶ポリマーフィルムを効率良く製造できる技術はなかった。
【0011】
詳しくは、溶融押出法は樹脂の成形方法として最も一般的であり、液晶ポリマーを原料とする場合であっても、比較的薄く長尺のフィルムを製造できる。しかし、たとえ先行技術文献に高フィラー含量が可能であるかのような記載があっても、実際には、フィラー含有量が25vol%を超えると押し出された溶融樹脂混合物が切れてしまったり、切れなくても低充実度で低強度の実用に耐えないフィルムしか得られないという問題がある。
【0012】
流延法によればこのような問題は無く、フィラーを高含量で配合できるものの、液晶ポリマーは優れた耐溶剤性を示すとおり、一般的な溶媒には不溶であり、液晶ポリマーの成形に流延法を適用することはできない。特許文献2ではポリイミドを加えてアロイ化した上で流延法により成形しているが、それでは液晶ポリマー由来の特性が減ぜられてしまう。
【0013】
また、射出成形法や金型成形法でも、フィラーを高含量で配合することはできる。しかしこれら方法は、比較的小さく複雑な形状の成形に適しており、局所的に薄くすることは可能であっても、均一に薄いフィルムや長尺のフィルムを製造するには不向きである。
【0014】
そこで本発明は、高含量でフィラーを含む長尺の液晶ポリマーフィルムを効率良く製造できる方法と、当該方法で得られる液晶ポリマーフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、加熱ロールを使って液晶ポリマーとフィラーからなる混合粉体を2枚のフィルム状耐熱性基材間で加熱圧縮成形すれば、フィラー含量を高めても成形時における千切れなどがなく、薄い長尺の液晶ポリマーフィルムを非常に効率良く製造できることを見出して、本発明を完成した。
【0016】
本発明に係る、フィラーを含む液晶ポリマーフィルムを製造するための方法は、液晶ポリマーとフィラーとの混合粉体を得る工程;2枚のフィルム状耐熱性基材の間に上記混合粉体の層を有する積層体を形成する工程;および、上記積層体を一対の加熱ロール間で加熱圧縮成形する工程を含むことを特徴とする。なお、本発明の「液晶ポリマーフィルム」は、実質的に液晶ポリマーとフィラーからなるフィルムをいうものとする。また、片面のみにフィルム状耐熱性基材が積層された液晶ポリマーフィルムを「片面フィルム状耐熱性基材積層液晶ポリマーフィルム」のように、両面にフィルム状耐熱性基材が積層された液晶ポリマーフィルムを「両面フィルム状耐熱性基材積層液晶ポリマーフィルム」のようにいうものとする。
【0017】
上記本発明方法によれば、フィラーを高含量で含む液晶ポリマーフィルムを効率良く製造することができる。具体的には、溶融押出法とは異なり、上記液晶ポリマー−フィラー混合粉体においてフィラーの含有量を25vol%以上にしても、成形時に千切れなどは起らない。
【0018】
上記本発明方法において、液晶ポリマーとフィラーからなる混合粉体を得るに際しては、溶融した液晶ポリマーとフィラーとを混練した後に粉砕することが好ましい。例えば、液晶ポリマーのみを粉砕して得られた粉体にフィラーを混合する場合、液晶ポリマー粉体は繊維状になり、互いに絡まる傾向があるため、混合粉体は流動性に比較的劣るものとなる。一方、上記のとおりにして得られる混合粉体は流動性が高く、フィルム状耐熱性基材上に均一厚さの層を形成し易いという利点がある。
【0019】
上記本発明方法では、さらに、加熱圧縮成形された積層体から少なくとも一方のフィルム状耐熱性基材を剥離する工程を行ってもよい。例えば、フィルム状耐熱性基材が何の機能を有さず、液晶ポリマーフィルムのみが重要である場合、両面のフィルム状耐熱性基材を剥離すればよい。また、フィルム状耐熱性基材が何らかの機能を有しており、片面を残せばその機能を十分に発揮できる場合には、片面のみのフィルム状耐熱性基材を剥離すればよい。この場合、液晶ポリマーフィルムの成形とこれに機能性基材層を積層するという工程を単一の工程で行うことができるという、本発明特有の効果が得られる。
【0020】
本発明に係る、両面に金属箔が積層された両面金属箔積層液晶ポリマーフィルムを製造するための方法は、液晶ポリマーとフィラーとの混合粉体を得る工程;2枚の金属箔の間に上記混合粉体の層を有する積層体を形成する工程;および、上記積層体を一対の加熱ロール間で加熱圧縮成形する工程を含むことを特徴とする。この方法によれば、例えば両面銅張積層板を製造するにあたって、液晶ポリマーフィルムを成形し、これの両面に別途準備した銅箔を貼り合せたり、一旦成形した液晶ポリマーフィルムの両面にめっき処理やその他の物理的蒸着法を用いて銅層を形成することにより両面銅張積層板とするといった従来の一般的な製造方法とは全く異なり、液晶ポリマーフィルムの成形とこれに銅層を積層するという工程を単一の工程で行うことができるという、本発明特有の効果が得られる。
【0021】
本発明に係る、片面に金属箔が積層された片面金属箔積層液晶ポリマーフィルムを製造するための方法は、液晶ポリマーとフィラーとの混合粉体を得る工程;少なくとも1枚が金属箔である2枚のフィルム状耐熱性基材の間に上記混合粉体の層を有する積層体を形成する工程;上記積層体を一対の加熱ロール間で加熱圧縮成形する工程;および、加熱圧縮成形された積層体から、少なくとも1枚の金属箔を残し、他方のフィルム状耐熱性基材を剥離する工程を含むことを特徴とする。この方法によれば、例えば片面銅張積層板を製造するにあたって、液晶ポリマーフィルムを成形し、これの片面に別途準備した銅箔を貼り合せたり、一旦成形した液晶ポリマーフィルムの片面にめっき処理やその他の物理的蒸着法を用いて銅層を形成することにより片面銅張積層板とするといった従来の一般的な製造方法とは全く異なり、液晶ポリマーフィルムの成形とこれに銅層を積層するという工程を単一の工程で行うことができるという、本発明特有の効果が得られる。
【0022】
本発明に係る液晶ポリマーフィルムは、液晶ポリマーとフィラーからなる液晶ポリマーフィルムであって、全体に対するフィラーの割合が25vol%以上であり、且つ、厚さが500μm以下であることを特徴とする。このように、高フィラー含量で薄い液晶ポリマーフィルムは、従来、存在しなかった。
【0023】
上記本発明フィルムに含まれるフィラーとしては、その面部分の平均アスペクト比が1以上、4以下であり、且つ、厚さに対する面部分の長径の平均比が10以上のものが好適である。かかる板状フィラーが配合された液晶ポリマーフィルムは、液晶ポリマー分子の配向が緩和され、等方性が高まっており、また、線膨張係数が低減されており、その長手方向と巾方向の線膨張係数の比が0.6以上になり得る。
【0024】
また、上記板状フィラーの厚さに対する面部分の長径の平均比としては、50以上がより好ましい。かかる板状フィラーが配合された液晶ポリマーフィルムは、特に線膨張係数が低減されており、その長手方向と巾方向の線膨張係数が共に16±3ppm/℃となっており、例えば金属層で被覆されていたり金属層と積層されている場合にその線膨張係数との差が小さく、線膨張係数の差に起因する反りや、金属箔積層液晶ポリマーフィルムから回路等形成のため金属箔の一部もしくは全部を除去した場合における金属箔除去前後での液晶ポリマーフィルム部分の寸法変化率などが低減されている。
【0025】
上記本発明フィルムとしては、長尺のものが好ましい。長尺の液晶ポリマーフィルムを必要に応じて切り出して製品化すれば、個々に成形するよりも製造効率が格段に向上する。また、従来方法では高フィラー含量で薄膜かつ長尺の液晶ポリマーフィルムを製造することは困難であったが、上記本発明方法によればかかるフィルムの製造が可能になる。
【0026】
本発明に係る両面金属箔積層液晶ポリマーフィルムおよび片面金属箔積層液晶ポリマーフィルムは、それぞれ、上記本発明に係る液晶ポリマーフィルムの両面および片面に金属箔が積層されていることを特徴とする。これら積層液晶ポリマーフィルムは、電子回路基板として利用することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明方法によれば、フィラーを高含量で、具体的には25vol%以上含む薄い長尺の液晶ポリマーフィルムを製造することができる。また、本発明方法によれば、液晶ポリマーフィルムの成形とこれに機能性層などを積層するという工程を単一の工程で同時に行えるため、製造効率が非常に高い。また、本発明方法で製造される液晶ポリマーフィルムは、薄いものでありながらも、高含量のフィラーに基づく特性、例えば、高弾性率、高熱伝導率、高透磁率などを有し得る。また、高含量のフィラーにより、異方性や高線膨張係数といった液晶ポリマーの欠点を抑制することができる。さらに、本発明に係る当該液晶ポリマーフィルムは長尺で製造され得ることから、例えば射出成形法や金型成形法などのように個々に成形する必要がなく、いったん長尺で製造した後に効率良くさらなる成形を行うことができる。また、発明に係る当該液晶ポリマーフィルムは薄膜であることから、近年、携帯電話や携帯端末などより一層の小型化が志向されている電子機器用の電子部材の材料として非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係る、フィラーを含む液晶ポリマーフィルムを製造するための方法は、液晶ポリマーとフィラーとの混合粉体を得る工程;2枚のフィルム状耐熱性基材の間に上記混合粉体の層を有する積層体を形成する工程;および、上記積層体を一対の加熱ロール間で加熱圧縮成形する工程を含むことを特徴とする。以下、本発明方法を実施の順番に従って説明する。
【0030】
(1) 混合粉体を得る工程
本発明方法では、液晶ポリマーとフィラーからなる混合粉体を調製する。
【0031】
液晶ポリマーには、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーと、溶液状態で液晶性を示すレオトロピック液晶ポリマーとがある。本発明方法では何れの液晶ポリマーを用いてもよいが、耐熱性や難燃性により優れることから、サーモトロピック液晶ポリマーを好適に用いる。
【0032】
サーモトロピック液晶ポリマーのうちサーモトロピック液晶ポリエステル(以下、単に「液晶ポリエステル」という)とは、例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールや芳香族ヒドロキシカルボン酸などのモノマーを主体として合成される芳香族ポリエステルであって、溶融時に液晶性を示すものである。その代表的なものとしては、パラヒドロキシ安息香酸(PHB)と、テレフタル酸と、4,4’−ビフェノールから合成されるI型[下式(1)]、PHBと2,6−ヒドロキシナフトエ酸から合成されるII型[下式(2)]、PHBと、テレフタル酸と、エチレングリコールから合成されるIII型[下式(3)]が挙げられる。上記のうちI型液晶ポリエステルとII型液晶ポリエステルが耐熱性により一層優れることから、本発明方法で製造された液晶ポリマーフィルムを電子回路基板に利用する場合などには、鉛フリー半田リフローなどのため、I型液晶ポリエステルおよび/またはII型液晶ポリエステルを用いることが好ましい。
【0034】
通常の液晶ポリマーは、一般的な溶媒に対して不溶性または難溶性を示す。なお、本発明において不溶とは、1gの物質(液晶ポリマー)を溶解するのに要する25℃の溶媒が10,000mL以上であることをいい、難溶とは、同溶媒が1,000mL以上、10,000mL未満であることをいう。また、液晶ポリマーを溶解するための溶媒としては、ペンタフルオロフェノール、テトラフルオロフェノール、3,5−ビストリフルオロメチルフェノールなどの含フッ素フェノール溶媒が知られているが、かかる溶媒は特殊で非常に高価であり、到底工業的に用い得るものではないため、一般的な溶媒とはいえない。また、N−メチル−ピロリドンやパラクロロフェノールのような非プロトン性極性溶媒に可溶な構造を持ち、非プロトン性極性溶媒に溶解する液晶ポリマーもあるが、ポリイミドなど他の樹脂とのアロイなどであり、液晶ポリマー由来の特性が減ぜられてしまったものである。本発明では、溶媒に対して不溶性または難溶性を示す液晶ポリマーを用いる。
【0035】
原料として用いる液晶ポリマーの形態は、粉体やペレットなど特に制限されず、後述する混合粉体の製造条件にあったものを適宜用いればよい。例えば、粉体状の液晶ポリマーとしては、住友化学社製「E6MP」が挙げられる。
【0036】
本発明方法で原料として用いるフィラーは特に制限されず、有機フィラーや無機フィラーの何れも用いることができる。フィラーとしては、例えば、タルク、マイカ、ウォラスナイト、アタパルジャイト、シラスバルーン、モンモリロナイト、活性白土、ゼオライト、セピオライト、ゾノトライトなどから成る鉱物フィラー;銅、金、銀、鉛、鉄、タングステン、ステンレス、アルミニウム、ニッケル、合金(Fe−Ni系、Fe-Si系、Fe−Si−Al系、Fe−Si−Cr系、Fe−Co系、Fe−Si−B−Cr系など)などからなる金属フィラー;シリカなどからなる珪素系フィラー;黒鉛、木炭、炭素繊維、活性炭などからなる炭素系フィラー;フェライト、酸化亜鉛、アルミナ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウムなどからなる金属酸化物フィラー;硫酸バリウム、チタン酸カリウム、炭酸カルシウムなどからなる金属塩フィラー;芳香族ポリアミドやポリイミドなどからなる有機フィラーを挙げることができる。
【0037】
フィラーの種類は、その特性により選択すればよい。即ち、フィラーの特性は液晶ポリマーフィルムに付与され、また、フィラーにより液晶ポリマーのみからなるフィルムの欠点が改善され得ることから、その目的に応じてフィラーを選択する。具体的には、例えば、弾性率、熱伝導率、導電率、電磁波の遮蔽・反射などの改善や、異方性や高い線膨張係数など液晶ポリマー由来の欠点の改善といった目的に応じて、フィラーを選択することができる。かかる目的などに応じて、フィラーは一種のみ選択してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0038】
フィラーの形状も特に制限されず、板状フィラー、粒状フィラー、棒状(針状)フィラー、不定形フィラーなどを用いることができる。
【0039】
板状フィラーは互いに対向した面部と面部間の側部を有する形状のものである。例えば、その面部分の平均アスペクト比が1以上、4以下であり、且つ、厚さに対する面部分の長径の平均比が10以上であるものをいう。また、面部は湾曲していてもかまわない。
【0040】
粒状フィラーとは球状または略球状のものである。例えば、最も長い部分と最も短い部分の平均比が1以上、2以下のものをいう。
【0041】
棒状(針状フィラー)とは、面などの確認の有無に関わらず棒状のものをいう。例えば、長さ部分の平均長さが0.5μm以上、300μm以下程度、断面部の平均長径が0.05μm以上、15μm以下程度であり、一般的には、断面部の長径に対する長さの比が5以上のものをいう。
【0042】
不定形フィラーは、統一された形状が無く、様々な形状を含むものをいう。
【0043】
なお、フィラーの定義における形状は走査型電子顕微鏡(SEM)などによる拡大写真で、その画面中の半数以上のフィラーで確認できるものをいう。また、フィラーの定義における平均アスペクト比や平均長さなどは、同様の拡大写真で観察できる100以上のフィラーの平均値をいうものとする。
【0044】
また、本発明で用いるフィラーの平均粒径としては、体積基準で測定される粒度分布測定から求められるものとして、1μm以上、100μm以下が好ましい。但し、当該平均粒径は、市販のフィラーを用い、そのカタログ値がある場合には、カタログ値を参照すればよいものとする。
【0045】
本発明方法で用いるフィラーとしては、板状フィラーが好適である。液晶ポリマーの分子は剛直な直線構造を有するため、成形により配向し易く、その結果、線膨張係数などで異方性が生じるが、フィラーの中でも板状フィラーを配合すれば、かかる異方性を効果的に低減することができる。特に、厚さに対する面部分の長径の平均比が50以上である板状フィラーを用いれば、線膨張係数を16±3ppm/℃に低減することが可能になる。その結果、フィルム状耐熱性基材として金属箔を用いた場合、その線膨張係数との差が小さくなり、フィルムの反りなどが抑制される。
【0046】
本発明方法では、液晶ポリマーとフィラーとの混合粉体を調製する。なお、本発明方法によれば、全体に対するフィラーの割合を高めても、千切れなどが起らず良好にフィルム成形することができる。具体的には、混合粉体全体に対するフィラーの割合を25vol%以上にすることができる。当該割合は、圧力を負荷することなく液晶ポリマーとフィラーの容積を測定し、その合計に対するフィラーの容積の割合として算出すればよいものとする。なお、本発明において「液晶ポリマーとフィラーとの混合粉体」とは、厳密な意味で液晶ポリマーとフィラーのみからなるものに限定されず、不可避的な不純物や、一般的な検出方法で検出限界以下の不純物などは含んでいてもよいものとする。
【0047】
液晶ポリマー−フィラー混合粉体を得る方法としては特に制限されず、一般的な方法を適宜選択または組合わせればよい。例えば、液晶ポリマーを溶融した上でフィラーと溶融混合した後に粉砕する方法、液晶ポリマーが粉体である場合にはドライブレンド、フィラーが粉砕されない程度に条件を調整して粉砕混合する方法、エタノールなどの有機溶媒に分散して混合した後に乾燥して得られた混合体を粉砕する方法などが挙げられる。本発明方法では、液晶ポリマーを溶融した上でフィラーと溶融混合した後、粉砕することが好ましい。かかる条件で得られた混合粉体は、流動性が高く、フィルム状耐熱性基材上に均一目付量の層を形成し易い。具体的には、圧縮度が20%以下、安息角が45°以下という流動性に優れた粉体が得られる。圧縮度が20%以下であれば、局所的な散布量の増大を十分に抑制することが可能になる。また、安息角が45°以下であれば、成形機内でのブリッジや目詰まりを十分に抑制できる。
【0048】
液晶ポリマーを溶融し、フィラーと混合する方法としては、二軸押出機、単軸押出機、ニーダ、ミキサなどを用いて、200℃以上、350℃以下程度の温度で溶融混合・混練する方法を挙げることができる。また、溶融混合・混練して得られた組成物を粉砕する手段としては、冷凍粉砕機、ボールミル、遊星ボールミルなどのメディア粉砕機;ジェットミルや相対流粉砕機などの気流式粉砕機;カッターミル、ブレードミル、ピンミル、ハンマーミルなどの衝撃式粉砕機を挙げることができる。
【0049】
また、液晶ポリマー粉体とフィラーを混合して混合粉体を得る場合、液晶ポリマー粉体とフィラーを所定量配合し、ジェットミル、相対流粉砕機などの気流式粉砕機;カッターミル、ブレードミル、ピンミル、ハンマーミルなどの衝撃式粉砕機;Vブレンダ、リボンブレンダなどの混合機を用いて混合することができる。液晶ポリマー粉体とフィラーを所定量配合し、エタノールなどの有機溶媒に分散させて混合した後に乾燥して得られた混合体を、上記粉砕機、混合機や解砕機を用いて粉砕することで混合することもできる。
【0050】
液晶ポリマー−フィラー混合粉体の粒径は適宜調整すればよいが、加熱ロール間での加熱圧縮成形を有効に行うために、できるだけ小さくすることが好ましい。例えば、1000μm以下とする。当該粒径としては、800μm以下が好ましく、700μm以下がより好ましい。当該粒径の調整方法は特に制限されず、例えば、原料である液晶ポリマー粉体やフィラーとして微細なものを用いたり、粉砕条件を調整したり、フィルターなどで粗大な粒子を除去したりすればよい。
【0051】
(2) 積層体を得る工程
次に、2枚のフィルム状耐熱性基材の間に、上記の液晶ポリマー−フィラー混合粉体の層を有する積層体を形成する。
【0052】
フィルム状耐熱性基材は、液晶ポリマー−フィラー混合粉体をフィルム状に加熱圧縮成形する際に、加熱ロールと液晶ポリマーとの粘着を防止したり、混合粉体層に圧力が均一にかかるようにするためのものである。よって、耐熱性に優れ、好ましくは熱分解温度や熱変形温度が400℃以上であるものを用いる。また、液晶ポリマーフィルムに積層する機能性基材であってもよい。
【0053】
フィルム状耐熱性基材は2枚1組で用いるが、両者は互いに同一であってもよいし、或いは異なったものを組合わせて用いてもよい。
【0054】
フィルム状耐熱性基材としては、例えば、ポリイミドフィルムなどの熱硬化性樹脂フィルム;銅箔、アルミ箔、ステンレス箔などの金属箔を用いることができる。フィルム状耐熱性基材として金属箔を用いて加熱圧縮成形後にこれを剥離しなければ両面金属箔積層液晶ポリマーフィルムとすることができ、或いは少なくとも片面に金属箔を用いて加熱圧縮成形後に当該金属箔を残して他方を剥離することにより片面金属箔積層液晶ポリマーとすることができる。また、液晶ポリマーとの密着性が低いフィルム状耐熱性基材を利用すれば、加熱圧縮成形後であっても剥離が容易である。
【0055】
フィルム状耐熱性基材の厚さは、目的物である液晶ポリマーフィルムの厚さ、液晶ポリマーフィルムから剥離するか否か、加熱ロール間の距離、加熱圧縮成形時の圧力などにより適宜調整すればよく、特に制限されないが、例えば、5μm以上、1mm以下とすることができる。
【0056】
液晶ポリマー−フィラー混合粉体の層の形成方法は特に制限されないが、例えば、1枚のフィルム状耐熱性基材を水平に保ち、当該フィルム状耐熱性基材の巾方向に混合粉体を線状に落下・散布できる装置を用いて散布すればよい。
【0057】
フィルム状耐熱性基材上に液晶ポリマー−フィラー混合粉体の層を形成するための装置としては、例えば、矩形のトラフを有した電磁フィーダ、ゴムスプリングフィーダなどの振動フィーダ、ローラ表面に混合粉体を定量付着させた後に散布するローラ式粉体散布機、前記ローラとブラシを組み合わせたローラ式粉体散布機、混合粉体と気体を噴射するノズルを一列に配置したパウダースプレー、回転ブラシと網を有し、網に回転ブラシをこすり合わせて混合粉体を線状に散布する粉体散布機などが挙げられる。
【0058】
液晶ポリマー−フィラー混合粉体の層は、目的物である液晶ポリマーフィルムの厚さを均一にするために、均一にする必要がある。そのため、上記装置の運転条件を調整したり、また、ブレードなどを設けて当該層の目付量を均一にすることが好ましい。
【0059】
液晶ポリマー−フィラー混合粉体の層の目付量は、目的物である液晶ポリマーフィルムの厚さや、フィルム状耐熱性基材を剥離するか否かなどにより適宜決定すればよい。
【0060】
一方のフィルム状耐熱性基材上に液晶ポリマー−フィラー混合粉体の層を形成した後は、当該層を乱さないよう他方のフィルム状耐熱性基材を当該層の上に重ね、2枚のフィルム状耐熱性基材の間に、上記の液晶ポリマー−フィラー混合粉体の層を有する積層体を形成する。
【0061】
(3) 加熱圧縮成形工程
次に、フィルム状耐熱性基材と液晶ポリマー−フィラー混合粉体層の積層体を一対の加熱ロール間で加熱圧縮成形する。
【0062】
加熱圧縮成形のためのロールの種類は特に制限されず、適宜選択すればよい。例えばその加熱方式は、油や水などの熱媒を用いた熱媒加熱方式や、誘導加熱方式などとすることができる。また、その表面は、硬化クロム処理、窒化処理、セラミックコーティングなどの硬化処理を施すことが好ましい。
【0063】
加熱圧縮成形の条件は、上記混合粉体を十分にフィルムとするよう設定すればよい。例えばロールの温度は、加圧もするため液晶ポリマーの融点超とする必要はないが、例えば、250℃以上、350℃以下とすることができる。また、圧力は、積層体に負荷される線圧で50N/cm以上、300N/cm以下とすることができる。
【0064】
一般的に液晶ポリマーフィルムの表面は、保護の為に保護フィルムを別途積層する場合が多い。しかし、表面保護のためのフィルム状耐熱性基材を用いて本工程を行うことにより、保護フィルムの貼り付けとフィルム成形を一度に行うことができ、保護フィルム付きの液晶ポリマーフィルムを効率良く製造できる。
【0065】
本工程を経た後では、液晶ポリマーフィルムの両面にフィルム状耐熱性基材が積層された状態にある。フィルム状耐熱性基材が何らかの機能を有するような場合には、フィルム状耐熱性基材は剥離せずこのまま残し、機能性フィルムとして用いればよい。また、機能性層が片面のみに存在すればよい場合や、液晶ポリマーフィルムのみが得られればよい場合には、次工程で一方または両方のフィルム状耐熱性基材を剥離すればよい。
【0066】
(4) フィルム状耐熱性基材の剥離工程
任意ではあるが、加熱圧縮成形された積層体から少なくとも一方のフィルム状耐熱性基材を剥離してもよい。例えば両面に金属箔が積層された両面金属箔積層液晶ポリマーフィルムを得たい場合には、両方のフィルム状耐熱性基材として金属箔を用いればよいし、片面に金属箔が積層された片面金属箔積層液晶ポリマーフィルムを得たい場合には、少なくとも一方のフィルム状耐熱性基材として金属箔を用い、他方のフィルム状耐熱性基材を剥離すればよい。また、フィラーを含む液晶ポリマーからなる液晶ポリマーフィルムを得たい場合には、両方のフィルム状耐熱性基材を剥離すればよい。
【0067】
フィルム状耐熱性基材を剥離するための装置は特に制限されず、例えば、一般的な保護フィルムの剥離装置などを用いることができる。
【0068】
本発明方法によれば、フィルム状耐熱性基材間に設けた液晶ポリマー混合粉体層を加熱圧縮成形するため、液晶ポリマーに高含量でフィラーを配合したり、薄い液晶ポリマーフィルムの製造が目的の場合であっても、成形時のフィルムの千切れや、得られるフィルムの充実度の低下を抑制することができる。
【0069】
例えば、フィラーを高配合、具体的には25vol%以上配合することで、液晶ポリマーの欠点である高線膨張係数や異方性を低減したり、また、弾性率などの機械的特性や寸法安定性を向上させることが可能になる。さらに、液晶ポリマーが有しない熱伝導性、導電性、誘電特性(高誘電率)、電磁波反射/吸収性などの特性を付与することができ、回路基板、アンテナ基板、部品内蔵基板、多層基板中での熱拡散層や電磁波反射/遮蔽層などに応用することが可能になる。
【0070】
また、本発明方法によれば、フィラーを高含量で含む液晶ポリマーフィルムの薄膜化が可能である。例えば、厚さが500μm以下の高フィラー含量液晶ポリマーフィルムの製造が可能であり、さらに、300μm以下のフィルムの製造が可能である。かかる薄膜高フィラー含量液晶ポリマーフィルムは、例えば、より一層の小型化が志向されている電子機器の電子回路基板材料として有用である。但し、過剰に薄いフィルムは生産性や強度が低下する可能性があり得るので、当該厚さとしては10μm以上が好ましい。
【0071】
特に、その面部分の平均アスペクト比が1以上、4以下であり、且つ、厚さに対する面部分の長径の平均比が10以上の板状フィラーを25vol%以上配合することにより、液晶ポリマーフィルムの欠点である高線膨張係数や異方性を抑制できる。さらに、かかる厚さに対する面部分の長径の平均比が50以上の板状フィラーを用いれば、その長手方向と巾方向の線膨張係数を共に16±3ppm/℃とすることができ、例えば金属層で被覆されていたり金属層と積層されている場合にその線膨張係数との差が小さく、線膨張係数の差に起因する反りなどを顕著に抑制できる。
【0072】
以上の観点から、本発明に係る液晶ポリマーフィルムは、より具体的には、例えば、高放熱用途、金属代替用途、電磁波反射/シールド用途、高精度部品(低寸法変化)等に有用であり、具体的にはパソコン、液晶プロジェクター、モバイル機器、携帯電話等の放熱部品、シールド部材、あるいは筺体、その他情報通信分野において電磁波などの遮蔽性/反射性を必要とする設置アンテナなどの部品、自動車部品、機械機構部品、屋外設置用機器あるいは建材部材で高寸法精度、電磁波反射/シールド性、気体・液体等のバリアー性、熱および電気伝導性を必要とする用途、特に軽量化等で金属代替が熱望されている自動車部品用途、電気・電子部品用途、熱機器部品用途に有用である。
【0073】
また、本発明方法によれば、液晶ポリマーフィルムの成形とこれに機能性層を積層するという工程を単一の工程で行うことができる。例えば両面銅張積層板を製造するにあたって、液晶ポリマーフィルムを成形し、これの両面に別途準備した銅箔を貼り合せたり、一旦成形した液晶ポリマーフィルムの両面にめっき処理やその他の物理的蒸着法を用いて銅層を形成することにより両面銅張積層板とするといった従来の一般的な製造方法とは全く異なり、液晶ポリマーフィルムの成形とこれに銅層を積層するという工程を単一の工程で行うことができる。
【0074】
また、本発明方法は、長尺の液晶ポリマーフィルムの製造に適用することができる。具体的には、長尺のフィルム状耐熱性基材を用い、そのうち一方を水平方向に送りつつその上に液晶ポリマー−フィラー混合粉体層を連続的に形成した後、他方のフィルム状耐熱性基材を被覆する。かかる積層体を連続的に加熱ロール間に通した後、必要に応じて少なくとも一方のフィルム状耐熱性基材を剥離し、ロール状に巻き取ることにより、長尺の液晶ポリマーフィルムを製造することができる。かかる長尺フィルムを製品に応じた大きさに切断したり加工すれば、最終目的物をバッチ式で製造することに比べ、生産性は格段に向上する。
【0075】
なお本発明において「長尺」とは、5m以上をいう。また、製造されるフィルムが長いほど生産性は高まるので、当該長さとしては10m以上が好ましく、25m以上がより好ましく、50m以上がさらに好ましい。一方、上限は特に制限されないが、過剰に長いとロール状に巻き取るのが困難となり得るので、1000m以下が好ましく、500m以下がより好ましい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0077】
製造例1
II型のサーモトロピック液晶ポリマーペレット(ポリプラスチックス社製「C930RX」)と表1に示すフィラーとを、表1に示す割合で2軸押出機(テクノベル社製「2軸押出機KZW15TW−45MG−NH」)に供給して溶融混合混練し、ストランド状に押し出した。押し出したストランドを5mm程度の長さに適宜切断して、液晶ポリマーとフィラーとの混合組成物を得た。
【0078】
得られた混合組成物をピンミルタイプの衝撃式粉砕機(奈良機械製作所社製「サンプルミルSAM T」)で粉砕した。粉砕機出口に設置する金属製メッシュ(φ700μm穴あき金属板)を用いて、700μm以下の粒径の液晶ポリマー−フィラー混合粉体を得た。
【0079】
図1に模式的に示すロールプレス機を用い、上記液晶ポリマー−フィラー混合粉体を連続的にフィルム成形した。当該ロールプレス機は、巻出し部、積層体形成部、加熱圧縮成形部(熱ロール部)、巻取り部を有する。巻出し部には巻出し軸が2軸有り、フィルム状耐熱性基材一組2枚を供給することができる。積層体形成部には粉体散布機が設置されており、粉体をフィルム状耐熱性基材へ均一目付量で散布できるようになっている。圧縮成形部にはφ350mmの誘導加熱ロール一対(2本)が上下に配置されている。巻取り部には、フィルム状耐熱性基材を必要に応じて剥離する機構と巻取り軸3軸があり、フィルム状耐熱性基材を剥離するしないにかかわらず積層体を巻取ることができる。
【0080】
ロールプレス機の巻出し部から、フィルム状耐熱性基材として超耐熱・超耐寒性ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製「カプトン100H」,厚さ25μm)を1組2枚供給し、そのうち下1枚を積層体形成部へ水平に搬送した。積層体形成部において、粉体散布機を用いてフィルム状耐熱性基材の上に上記液晶ポリマー−フィラー混合粉体を、目的とするフィルム厚さに対応する目付量となるよう均一に散布した。次いで、1組2枚のフィルム状耐熱性基材のうち上1枚を、散布した液晶ポリマー−フィラー混合粉体の上に重ね合わせた。得られた積層体を圧縮成形部に供給し、表1に示す温度と圧力で、フィラーを含む液晶ポリマーフィルムと基材との複合体に圧縮成形した。次いで、フィルム状基材剥離部において、両方のフィルム状耐熱性基材を剥離した。
【0081】
【表1】
【0082】
その結果、フィラーを混合粉体合計に対して25vol%以上配合し、厚さ25〜500μmの長尺薄膜フィルムを、千切れの発生無く良好に製造することができた。
【0083】
製造例2
上記製造例1において、フィルム状耐熱性基材であるポリイミドフィルムの代わりに銅箔(古河電気工業社製「FWJ−WS−12」,厚さ12μm)を用いたことと、両方のフィルム状耐熱性基材(銅箔)を剥離しなかったこと以外は同様にして、両面銅箔積層液晶ポリマーフィルムを製造した。製造例1と同様に、千切れ等は全く認められなかった。
【0084】
製造例3
上記製造例1において、1組2枚のフィルム状耐熱性基材として片方を銅箔(古河電気工業社製「FWJ−WS−12」,厚さ12μm)、他方をポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製「カプトン100H」,厚さ25μm)を用いたことと、加熱圧縮成形後にポリイミドフィルムのみを剥離したこと以外は同様にして、片面銅箔積層液晶ポリマーフィルムを製造した。製造例2と同様に、千切れ等は全く認められなかった。
【0085】
試験例1
上記製造例3で製造した片面銅箔積層液晶ポリマーフィルムにつき、以下のとおりの条件で特性などを評価した。
【0086】
(1) 充実度の測定
得られた各液晶ポリマーフィルムの中央部から10cm×10cmの試験片を切り出し、ノギスを用いて辺間距離を3か所測定し、2mmφ平型測定子のデジタルシクネスゲージを用いて厚さを中央部・4隅の5か所測定し、それぞれの平均値から体積を算出した。重量は電子天秤を用いて測定した。試験片の重量と体積からフィルム密度を算出した。また、液晶ポリマーとフィラーの密度とフィラーの含有量から充実密度を計算した。充実度は、(フィルム密度/充実密度)×100(%)として算出した。
【0087】
(2) 線膨張係数の測定
熱機械分析装置(TMA:Thermal Mechanical Analysis,セイコー電子社製)を用い、得られた各液晶ポリマーフィルムの温度を40℃/分で230℃まで昇温させてひずみを除去した後に、30℃まで10℃/分で降温しながらサンプルの長さを計測し、50〜100℃の変位から線膨張係数を算出した。MD(長さ方向)とTD(巾方向)の線膨張係数の測定では、フィルム中央部から20mm×4mmの試験片を切り出し、チャック間距離10mmでTMAのプローブに設置し、5gの荷重を印加して測定した。
【0088】
(3) 弾性率の測定
得られた各液晶ポリマーフィルムの中央部から打抜き型を用いてJIS K7127記載の試験片タイプ5の形状に打ち抜き、引張試験機(AND社製)を用い、JIS K7161に準拠して測定した。
【0089】
(4) 透磁率の測定
総厚2mm±0.3mmになるように10cm×10cmに切り出した各液晶ポリマーフィルムを、温度280℃、圧力1MPaで30分間熱プレスして積層した。当該積層体から、YAGレーザ加工機を用いて外径7mm、内径3mmのリング状試験片を切り出して、16454A磁性材料測定電極を用いた透磁率の測定システムで透磁率を測定した。周波数13.56MHzでの測定値を代表値とした。
【0090】
(5) 熱伝導率の測定
総厚2mm±0.3mmになるように10cm×10cmに切り出した各液晶ポリマーフィルムを、温度280℃、圧力1MPaで30分間熱プレスして積層した。当該積層体から25mm×25mmの試験片を切り出し、試験片を上部・下部ヒータ間にはさみ、温度差をつけ一次元の熱流になるように加熱した。この際の熱流束を測定して、試料の厚さから熱伝導率を求めた。
【0091】
上記試験例1(1)〜(5)の測定結果を表2に示す。なお、製造例1で製造した液晶ポリマーフィルム(製造例番号1〜26)に相当する条件で製造した片面銅箔積層液晶ポリマーフィルムの製造例番号を27〜52とする。また、表2中、「MD(Y)」は長さ方向の線膨張係数を表し、「TD(X)」は巾方向の線膨張係数を表す。
【0092】
【表2】
【0093】
表2に示す結果のとおり、何れのフィラーを配合した場合も本発明方法により高い充実度の液晶ポリマーフィルムが得られたが、粒状フィラーと棒状フィラーを用いた場合には線膨張係数のMD/TD比が0.6未満であり、異方性が高かった。一方、板状フィラーを配合した液晶ポリマーフィルムでは、MD/TD比が0.6以上と異方性が低減されていた。
【0094】
また、特に厚さに対する面部分の長径の平均比が50以上である板状フィラーを25vol%以上配合した液晶ポリマーフィルムでは、MDとTDにおける両方の線膨張係数が16±3ppm/℃と、銅の線膨張係数と差が小さいことから、例えば片面銅箔積層液晶ポリマーフィルムを鉛フリー半田リフローなどの熱履歴に付した場合の反りや、銅箔積層液晶ポリマーフィルムから回路形成などのため銅箔の一部または全部を除去した場合における除去前後での液晶ポリマーフィルム部分の寸法変化率などが顕著に抑制されると考えられる。