(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術においては、高温部と低温部の温度差が大きい使用条件において使用に耐える充分な耐久性を有する熱電変換モジュールを構成することはできなかった。例えば、熱電素子による発電を行う場合、高温部が300℃以上になり、低温部が常温(25℃程度)となるような環境下で熱電変換モジュールを使用することが想定される。このような環境下においては、熱電変換モジュールの高温部と低温部で大きな温度差が生じることになり、熱電素子と電極との間においても大きな温度差が生じることになる。熱電素子と電極とでは一般に構成元素が全く異なるため、大きな温度差が生じている使用環境下においては熱電素子と電極との熱膨張の程度が大きく異なり両者の間に大きな熱応力が生じる。このため、金属微粒子を使用して接合層を形成したとしても、熱応力の緩和を想定していない従来の技術においては接合層の破損等が発生してしまう。
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、温度差が大きい使用条件で使用可能な熱電変換モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明においては、一対の基板の対向する面に電極を形成し、当該電極間に熱電素子を配置することによって熱電変換モジュールとする構成において、電極と熱電素子とが接合層によって接合されるように構成し、当該接合層の厚さを30μm以上とする。さらに、接合層は100nmより小さい金属粒子を含むペーストを焼結することによって形成される構成とする。
【0007】
すなわち、接合層が30μm以上の厚さとなっているため、当該接合層を挟む電極と熱電素子との間の接合層に熱電変換モジュールの使用に伴って熱応力が作用したとしても、当該熱応力を緩和することが可能であり、この結果、熱電変換モジュールの破損を防止することができる。
【0008】
さらに、接合層は100nmより小さい金属粒子を含むペーストを焼結することによって形成されるため、焼結前に100nmより小さい粒径で存在する金属粒子は、焼結後により大きな結晶粒となって互いに強く結合して接合層を構成する。この結果、接合層の強度が強くなる。また、接合層の電機伝導率は大きくなり、熱電変換モジュールにおける熱電変換効率が低下することを防止することができる。
【0009】
ここで、一対の基板は熱電素子を挟んだ状態で熱電素子を保持することができればよく、一方の基板が高温部、一方の基板が低温部となる。また、基板の少なくとも一面は平面状(または曲面状)に形成され、一対の基板における面が平行となる状態で当該面間に熱電素子が配置されることで熱電変換モジュールが構成される。なお、熱電変換効率を高めるためには、高温部から熱電素子に熱が効率的に伝達され、熱電素子から低温部に熱が効率的に伝達される状態が好ましいため、熱伝導率の高い部材によって基板を構成したり、低温部における放熱効率を高めるために冷却器(ファンやフィン等)を設ける構成としてもよい。
【0010】
電極は基板の対向する面に形成され、当該電極に熱電素子が接合されることによって熱電変換モジュールにおいて熱電変換を行うことができるように熱電素子を電気的に接続することができればよい。例えば、複数のn型熱電素子と複数のp型熱電素子とを基板間に挟むとともにこれらの熱電素子を複数の電極で接続する構成において、1個のn型熱電素子と1個のp型熱電素子とが一方の基板上の1個の電極によって電気的に接続されている場合、当該n型熱電素子と当該p型熱電素子とは他方の基板上で異なる電極に接続されているように構成する。すなわち、電気的にはn型熱電素子とp型熱電素子とが順番に直列接続されており、n型熱電素子とp型熱電素子との間が電極で接続されるように構成される。さらに、n型熱電素子とp型熱電素子との間に配置される各電極は、一対の基板に対して交互に接合された状態として構成される。むろん、ここでは、熱電変換が適正に行われるようにするための付随的な構成、例えば、基板と電極との電気的な絶縁を確保するための部材(絶縁部材等)を電極等に取り付ける構成等を採用してもよい。
【0011】
熱電素子は、熱電変換を行うことが可能な熱電材料を規定の大きさ、および形状とすることによって形成され、一対の基板間に配置することができるように構成されていればよい。むろん、熱電素子は複数個であってもよいし、n型熱電素子とp型熱電素子とによって構成されてもよい。
【0012】
接合層は、電極と熱電素子とを接合するために形成され、各種の手法によって形成可能であるが、厚さは少なくとも30μm以上である。すなわち、熱電素子と電極との間に作用する熱ストレスを緩和することができるように接合層の厚さが調整されていればよい。また、接合層は100nmより小さい金属粒子を含むペーストを焼結することによって形成されるが、当該焼結により、少なくとも接合層の一部が形成されればよい。
【0013】
すなわち、ペーストは金属粒子が流動性のある溶媒に含まれた状態であって、ペースト自体に流動性のある状態であるが、焼結後には溶媒が揮発して金属粒子が残り流動性のない状態となる。これと同時に金属粒子同士が結合することによって電気的抵抗が低い状態となることで電極側と熱電素子側とが電気的に接合された状態となればよい。従って、熱電素子と電極とを接合する前においては、熱電素子と電極との間にペーストが存在し、互いの位置を自由に変えられる状態で熱電素子と電極との位置を規定の位置に調整し、位置を調整した後に焼結を行うことで当該位置に熱電素子と電極とが固定されるようにペーストが利用されればよい。従って、接合層の厚さ方向の少なくとも一部がペーストの焼結によって形成されればよい。むろん、30μm以上の接合層の全てがペーストの焼結によって形成されてもよい。
【0014】
また、ペーストは100nmより小さい金属粒子を含んでいればよく、焼結によって粒子が互いに結合し、焼結後に熱電素子と電極とが電気的に接続されるように金属粒子の大きさや元素の種類を選択すればよい。また、ペーストを構成する溶媒は有機溶媒であることが好ましい。すなわち、金属粒子が有機溶媒中に分散したペーストであれば、焼結によって有機溶媒を揮発させることが可能であり、焼結後に溶媒成分によって電気伝導率が高くなることを防止することが可能である。なお、金属粒子の大きさは、例えば、10nmより大きく、100nmより小さい大きさであってもよい。すなわち、10nm以下の金属粒子は酸化しやすいため、10nmより大きく、100nmより小さい金属粒子を利用すれば、接合層に含まれる酸素の量を抑制しながら接合層を形成することができる。
【0015】
また、焼結の例として、金属粒子が粗大化し、前記熱電素子の結晶粒が粗大化しない温度で焼結を行う構成を採用してもよい。すなわち、焼結後に接合層の強度を確保するためには、ペースト内の金属粒子同士が焼結によって互いに結合し、熱応力によって結合が破壊されない状態となる必要がある。そこで、金属粒子が粗大化する温度以上で焼結を行えば、焼結の過程で金属粒子同士が結合して粗大化することになり、焼結後には熱応力によって当該結合が破壊されない状態とすることができ、高い強度の接合層を形成することができる。
【0016】
さらに、高性能の熱電素子において当該性能を維持するためには、熱電素子内の結晶の状態を変化させないことが好ましい。すなわち、熱電素子の性能を高くするためには、性能指数Z=α
2/(ρ×κ)を大きくする必要があり(αはゼーベック係数)、電気抵抗率ρが小さく、熱伝導率κが小さいことが好ましい。多結晶の物質においては、結晶粒が微細であって結晶軸の向きが乱雑であるほど電気抵抗率ρが大きくなるため、電気抵抗率ρを小さくするためには結晶粒が大きい方が好ましい。しかし、結晶粒が大きくなって結晶の配向の程度が均一化されると、熱伝導率κは大きくなる。従って、性能指数Zを高める上で電気抵抗率ρと熱伝導率κとはトレードオフの関係にあるが、BiTe系等の熱電材料においては、一般に、結晶軸の配向性が強く、特定の方向に結晶軸が揃った材料は当該電気抵抗率ρが小さくなる。そこで、適度に微細化された多結晶の材料において結晶軸が特定の方向に配向した状態とすることで、電気抵抗率ρが小さく、熱伝導率κも小さい熱電材料を製造し、熱電材料を高性能化している。そして、高性能化された熱電材料を切り出すことによって高性能な熱電素子を製造している。
【0017】
このため、高性能な熱電素子内の結晶粒が粗大化するような温度で焼結を行って接合層を形成すると、熱電素子の性能が低下してしまう。そこで、熱電素子の結晶粒が粗大化する温度よりも低い温度で焼結を行うこととすれば、焼結によって熱電素子の性能が低下することを防止することができる。
【0018】
さらに、ペーストを焼結することによって形成された焼結層と、当該焼結層に隣接するメッキ層とを含むように接合層を構成するとともに、当該メッキ層をペーストに含まれる金属粒子と同一の金属によるメッキによって形成してもよい。すなわち、焼結前にペーストに含まれる金属粒子と同一の金属によるメッキ層を電極と熱電素子との少なくとも一方に形成しておき、当該メッキ層とペーストとが接触する状態で焼結を行えば、焼結の際に金属粒子とメッキ層とが容易に結合するため、接合層の強度を高強度にすることができる。なお、メッキ層は、焼結層に隣接するように形成されていればよく、当該焼結層から見て厚さ方向の一方側に形成されてもよいし、両側に形成されてもよい。すなわち、メッキ層による高強度化が、焼結層の両側にて必要であれば両側にメッキ層を形成すればよいし、一方側にのみ必要であれば一方側のみにメッキ層を形成すればよい。
【0019】
なお、メッキ層と焼結層とでは、平均粒径が異なることが多い。例えば、100nmより小さい金属粒子を含むペーストを焼結することにより、平均結晶粒径が1μmより大きく10μm以下の第1層が形成され、メッキによって平均結晶粒径が10μmより大きい第2層形成されるような構成を想定可能である。従って、本発明により、第1層と第2層とを含む接合層が形成されると捉えることもできる。むろん、第1層および第2層は複数層形成されていてもよい。
【0020】
また、ペーストを焼結することによって接合層の少なくとも一部を形成する場合、焼結前にペーストと接する部位(例えば、熱電素子、電極、熱電素子上のメッキ層、電極上のメッキ層等)が酸化することにより、酸素濃度が局部的に高くなっていることが多い。従って、焼結前にペーストを挟む2カ所の部位は酸素濃度が高い。また、ペーストによる焼結を複数回繰り返すと、同様に酸素濃度が高い部位が2カ所ずつ増加する。従って、本発明により、厚さ方向に沿った酸素濃度の変化が所定の基準を越える位置を界面とする高酸素濃度層を複数層含むような接合層が形成されると捉えることもできる。
【0021】
なお、所定の基準は、層内の任意の位置における酸素濃度が他の位置における酸素濃度と比較して多くなっているか否かを判断することができればよく、例えば、焼結前に空気等の周囲の気体に触れていた部分と触れていない部分とにおける焼結後の酸素濃度の差を統計的に特定し、両者を区別することができるように距離当たりの酸素濃度の変化に対して所定の基準を設定する構成等を採用可能である。酸素濃度は、各種の指標によって評価可能であり、面積あるいは体積当たりの酸素の濃度で評価してもよいし、特定の観測方法で観測される酸素の量や観測頻度で評価してもよい。むろん、酸素の濃度は絶対量で評価されてもよいし相対量で評価されてもよい。
【0022】
さらに、接合層に隣接させて種々の機能を有する層を形成してもよい。例えば、接合層と熱電素子との間、接合層と電極との間、の少なくとも一方に、材料の拡散を防止する拡散防止層を形成してもよい。すなわち、接合層と熱電素子との界面において接合層内の材料が熱電素子側に拡散し、あるいは、熱電素子内の材料が接合層側に拡散することが発生し得る。また、接合層と電極との界面において接合層内の材料が電極側に拡散し、あるいは、電極内の材料が接合層側に拡散することが発生し得る。
【0023】
そこで、このような拡散を防止するために、拡散が発生しにくい材料による層を形成すれば拡散防止層として機能する。このような拡散防止層として機能する材料は、接合層と熱電素子と電極との組成によって選択可能であるが、例えば、Ag,Cu等の金属やBiTe系の熱電材料においては、Niによって層を形成すれば拡散防止層として機能する。
【0024】
さらに、焼結は各種の環境下で行うことが可能であり、例えば、電極および熱電素子から接合層に向けて圧力が加えられた状況で焼結が行われる構成を採用してもよい。すなわち、接合層が圧縮されるように加圧した環境で焼結を行う。この構成によれば、加圧しない状況と比較して焼結層における空隙の含有率を低下させることができ、焼結層の電気抵抗を低下させることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)熱電変換モジュールの製造方法:
(2)実施例:
(3)他の実施形態:
【0027】
(1))熱電変換モジュールの製造方法:
図1は、熱電変換モジュールの製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。本実施形態における熱電変換モジュールの製造方法は、熱電材料のバルクが製造された後に実行される。すなわち、
図1に示す熱電変換モジュールの製造方法を実行する以前に、予めn型熱電材料およびp型熱電材料のバルクを製造する。本実施形態にかかるn型熱電材料およびp型熱電材料はBi
2Te
3系の熱電材料であり、Bi,Sbからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、Te,Seからなる群から選択される少なくとも1種の元素とによって(Bi,Sb)
2(Te,Se)
3の組成となるように秤量された原料に対して各種の加工法を適用することでn型熱電材料およびp型熱電材料が製造される。なお、(Bi,Sb)と(Te,Se)との組成比が2:3から僅かにずれたとしても、Bi
2Te
3と同様の結晶構造(空間群R3−mの菱面体結晶構造(−は通常、3の上方に表記される))である限り、Bi
2Te
3系の熱電材料である。
【0028】
Bi
2Te
3系のn型熱電材料およびp型熱電材料は、例えば、押出処理(ホットプレス法等)や塑性変形を伴う押出処理(せん断付与押出法,ECAP法,ホットフォージ法等)、圧延処理、一方向凝固法,単結晶法等によって特定の結晶軸が特定の配向方位に配向するように加工することで製造することができる。本実施形態において予め用意される熱電材料のバルクは、n型熱電材料とp型熱電材料とであるとともに、高温部の温度域で相対的に性能指数が高い高温材と低温部の温度域で相対的に性能指数が高い低温材とによって構成される。
【0029】
図2および
図3は、
図1に示す製造方法における主な工程における加工対象を模式的に示す図であり、
図2においては
図1に示す製造を実行する前に製造済みのバルクをBnh,Bnl,Bph,Bplとして示している。ここで、バルクBnhはn型熱電材料の高温材、バルクBnlはn型熱電材料の低温材、バルクBphはp型熱電材料の高温材、バルクBplはp型熱電材料の低温材である。すなわち、バルクBnhの熱電材料は高温域(300℃付近の温度域)でバルクBnlの熱電材料よりも性能指数が高く、低温域(50℃付近の温度域)でバルクBnlの熱電材料よりも性能指数が低い。同様に、バルクBphの熱電材料は高温域(300℃付近の温度域)でバルクBplの熱電材料よりも性能指数が高く、低温域(50℃付近の温度域)でバルクBplの熱電材料よりも性能指数が低い。
【0030】
図1に示す製造方法においては、このようなBi
2Te
3系の熱電材料のバルクBnh,Bnl,Bph,Bplを切断して薄板状のウエハを製造する(ステップS100)。本実施形態においては、後述する工程により2枚のウエハの間に接合層を形成することで直方体の熱電素子を製造するため、各ウエハの厚さは熱電素子の大きさに合わせて予め決められた厚さとなるように設定される。
図2においては、n型熱電材料のバルクBnhから製造されたウエハをWnh、n型熱電材料のバルクBnlから製造されたウエハをWnl、p型熱電材料のバルクBphから製造されたウエハをWph、p型熱電材料のバルクBplから製造されたウエハをWplとして示している。
【0031】
なお、本実施形態においては熱電材料間に接合層が形成され、熱電素子と電極との間にも接合層が形成されるため、前者を材料間接合層、後者を素子電極間接合層と呼ぶ。また、他の類似した層においても各層を必要に応じて材料間と素子電極間とで区別する。例えば、熱電材料間のA層を材料間A層と呼び、熱電素子と電極との間のA層を素子電極間A層と呼ぶ。
【0032】
ウエハが製造されると、次に、ウエハ表面に拡散防止層が形成される(ステップS105)。当該ステップS105において形成される拡散防止層は、熱電材料間に存在し得るとともに、熱電素子と電極との間にも存在し得る。従って、当該拡散防止層は、材料間拡散防止層と素子電極間拡散防止層との双方になり得る。なお、当該拡散防止層が形成された後のウエハに対してさらに後述するペーストに含まれる金属粒子と同一の金属による金属メッキ層を形成する処理を行ってもよい。
図2においては、ステップS105によって拡散防止層が形成されることが実線の矩形で示されており、金属メッキ層を形成してもよいことが破線の矩形で示されている。
【0033】
メッキが行われると、高温材と低温材との間に100nmより小さい金属粒子が含まれたペーストが塗布され、高温材と低温材とを張り合わせるようにして焼結が行われる(ステップS110)。本実施形態においては、焼結対象をリフロー炉内に搬入してリフロー炉内が所定の雰囲気(真空、アルゴン、窒素、空気等)とされた後、所定の焼結温度で所定時間加熱することによって焼結を行う。ここでは、
図3に示すように、n型熱電材料の高温材のウエハWnhと低温材のウエハWnlとの間にペーストP
Mが挟まれるような状態で焼結が行われ、p型熱電材料の高温材のウエハWphと低温材のウエハWplとの間にペーストP
Mが挟まれるような状態で焼結が行われる。
【0034】
なお、焼結温度は、ペーストに含まれる100nmより小さな金属粒子が粗大化し、熱電材料の結晶粒が粗大化しない温度である。すなわち、本実施形態におけるペーストには100nmより小さい金属粒子が含まれており、このような微小な金属粒子を加熱すると、当該金属の融点よりもはるかに低い温度で結晶同士が結合して金属粒子が粗大化する。また、有機溶媒は揮発する。このような焼結によって金属粒子の粗大化が発生すると、ペーストであった部分に流動性はなくなり、強固に固化する。そして、当該固化した部分は、当該金属の融点に達するまで溶融せず、熱電変換モジュールの高温部として想定される300℃程度に再加熱された場合であっても固体として安定した状態を維持する。
【0035】
従って、焼結前にペーストであった部分は、焼結後に熱電材料間を強固に接合する材料間接合層となり、熱電変換モジュールが使用される温度域に加熱されたとしても熱電材料間を強固に接合する層として機能する。なお、焼結温度が高くなるほどペースト内の金属粒子が粗大化しやすくなるが、過度に高い温度にすると熱電材料内の結晶粒が粗大化して性能指数が低下する。従って、焼結温度は、熱電材料内の結晶粒が粗大化する温度よりも低い温度に設定される。
【0036】
さらに、ペーストが焼結温度に維持される所定時間は、焼結による金属粒子の粗大化により、材料間接合層が充分に高強度化し、また、材料間接合層における電気伝導率が充分に低下するように設定されていればよく、例えば、所定時間経過後に1μm以上の金属粒子が確認されるような長さとして所定時間を設定する構成等を採用可能である。なお、ペーストとしては、例えば、DOWAエレクトロニクス社製銀ナノペースト、大研化学工業製NAG-10、三ツ星ベルト社製MDot等が挙げられる。
【0037】
以上の焼結の結果、高温材の層とペースト由来の材料間焼結層と低温材の層とが一体となったウエハ状の熱電材料が製造されると、次に、当該焼結後の熱電材料が切断されて熱電素子が製造される(ステップS115)。本実実施形態においては、直方体の熱電素子を製造するため、ウエハの円形の面内で互いに垂直な2方向に切断方向が設定される。この切断により、
図3に示すような直方体のn型熱電素子Pn、p型熱電素子Ppが得られる。なお、n型熱電素子Pn、p型熱電素子Ppのそれぞれにおいて、熱電素子間はNiメッキ層(材料間拡散防止層)、ペースト由来の材料間焼結層、Niメッキ層(材料間拡散防止層)という構造となっており、熱電素子の表面は最表層がNiメッキ層となっている。当該熱電素子の最表層のNiメッキ層は、後の工程により素子電極間拡散防止層となる。
【0038】
次に、基板に電極を形成する(ステップS120)。すなわち、本実施形態においては、熱電素子を支持するとともに熱電素子に熱を伝達し、熱電素子から熱が伝達される部位として薄い矩形板状の基板が使用されるため、当該基板に対して、熱電素子を電気的に直列に接続することができるように予め電極の配置パターンが決められており、当該配置パターンとなるように基板上に電極が形成される。当該電極の形成は、例えば、セラミック基板上にCuによって電極パターンを形成することで実現可能である。
図3においては、基板Pb
1上に直方体の電極Eが横に3個、縦(図の奥行方向)に2個並べて形成されている例を模式的に示しているが、熱電変換モジュールを構成する一対の基板において、一方の基板と他方の基板とで電極パターンが異なっていてもよい。
【0039】
次に、電極表面にNiメッキによって拡散防止層が形成される(ステップS125)。当該ステップS125において形成される拡散防止層は、熱電素子と電極との間に存在する層となるため、素子電極間拡散防止層である。なお、ここでも、当該拡散防止層が形成された後にさらに金属メッキ層を形成する処理を行ってもよい。
図3においては、ステップS125によって電極Eの表面に拡散防止層が形成されることが実線の矩形で示されており、金属メッキ層を形成してもよいことが破線の矩形で示されている。なお、ステップS120,S125はステップS100より前に行われてもよい。
【0040】
電極表面にメッキが行われると、
図3に示すように、電極上の拡散防止層にペーストP
Mが塗布される(ステップS130)。ここで、ペーストは、焼結後に30μm以上の厚さになるように予め量が決められる。すなわち、本実施形態におけるペーストは100nmより小さい金属粒子を含む有機溶媒であり、焼結によって有機溶媒は全て揮発するため、有機溶媒が全て揮発した場合に所望の厚さとなるようにペーストを塗布することで焼結後に形成される層(素子電極間接合層)の厚さを所望の厚さとすることができる。
【0041】
なお、有機溶媒と金属粒子との比率は限定されないが、所望の厚さの素子電極間接合層を形成するためには有機溶媒の量が少ないことが好ましく、例えば、金属粒子の重量比が80%以上であることが好ましい。より具体的には、6.3mgのAgペーストを所定の昇温速度で加熱し、310℃で30分保持することによって0.988mgの有機溶媒が全て揮発するAgペースト(すなわち、Ag粒子が84.3重量%)を利用して30μm以上の厚さの素子電極間接合層を形成可能である。このようなAgペーストとしては、例えば、DOWAエレクトロニクス社製銀ナノペースト、大研化学工業製NAG-10、三ツ星ベルト社製MDot等が挙げられる。
【0042】
次に、ペースト上に熱電素子が実装される(ステップS135)。本実施形態においては、
図3に示すように、一つの電極Eに対してn型熱電素子Pnとp型熱電素子Ppとのそれぞれが1個ずつ実装される例を示している。従って、電極Eが6個であれば、計6個のn型熱電素子Pnと計6個のp型熱電素子Ppとが実装されることになる。
【0043】
次に、熱電素子上に基板が載せられ(ステップS140)、焼結が行われる(ステップS145)。すなわち、電極上に熱電素子が実装された基板に対して対となる基板が選択されて熱電素子上に載せられ、一対の基板に熱電素子が挟まれた状態でリフロー炉内に搬入される。そして、リフロー炉内が所定の雰囲気(真空、アルゴン、窒素、空気等)とされた後、所定の焼結温度で所定時間加熱することによって焼結が行われる。なお、
図3に示すように熱電素子に載せられる基板Pb
2は、実装済の熱電素子をn型熱電素子、p型熱電素子が交互に接続されるように各熱電素子を直列接続するパターンによって電極が形成されている基板である。
【0044】
ここでも焼結温度は、金属粒子が粗大化し、熱電素子の結晶粒が粗大化しない温度である。すなわち、焼結前にペーストであった部分が焼結後に熱電素子と電極との間を強固に接合する素子電極間接合層として機能するように焼結温度が設定される。熱電素子内の結晶粒が粗大化して性能指数が低下しないように、熱電素子内の結晶粒が粗大化する温度よりも低い温度に設定される。また、焼結による金属粒子の粗大化により、素子電極間接合層の高強度化や素子電極間接合層における電気伝導率の低下が充分に実施されるように所定時間が設定される。ここでも、所定時間経過後に1μm以上の金属粒子が確認されるような長さとして所定時間を設定する構成等を採用可能である。
【0045】
図4Aは、以上のようにして製造された熱電変換モジュールにおける電極間の構造を模式的に示す断面図であり、基板上で電極が形成される面に対して垂直な方向に熱電素子等を切断した様子を示している。同
図4Aに示すように、熱電変換モジュールにおいて、電極E,E間には、熱電素子の厚さ方向に沿って、Niメッキ層(素子電極間拡散防止層)L
Ne、ペーストの焼結によって形成された素子電極間接合層Lae、Niメッキ層(素子電極間拡散防止層)L
Ne、高温材Pnh(またはPph)、Niメッキ層(材料間拡散防止層)L
Nm、ペーストの焼結によって形成された材料間接合層Lam、Niメッキ層(材料間拡散防止層)L
Nm、低温材Pnl(またはPpl)、Niメッキ層(素子電極間拡散防止層)L
Ne、ペーストの焼結によって形成された素子電極間接合層Lae、Niメッキ層(素子電極間拡散防止層)L
Neが順に形成されている。
【0046】
本実施形態にかかる熱電変換モジュールは、高温部と低温部との温度差が大きい状態において発電用途等に使用される。このような用途においては、例えば、高温部の温度が300℃程度、低温部の温度が50℃程度とされる。この場合、
図4Aにおける電極Eの一方が300℃程度、電極Eの他方が50℃程度となり、両者の温度差が250℃程度になる。従って、電極E間で大きな温度差が生じ、電極Eと熱電素子(Pnh、Pnl等)との間においても大きな温度差が生じる。
【0047】
すなわち、複数の層の熱膨張率を比較すると、材料の組成が大きく異なる場合には一般的に熱膨張率が大きく異なる。このため、本実施形態にかかる熱電変換モジュールにおいて、熱電素子(Pnh、Pnl等)の熱膨張率と電極Eとの熱膨張率は大きく異なり、上述の大きな温度差によって電極Eと熱電素子(Pnh、Pnl等)との間の層に大きな熱応力が作用する。しかし、本実施形態においては、上述の製造工程により素子電極間接合層Laeの厚さTaが30μm以上の厚さとなるように調整している。このため、素子電極間接合層Laeを挟んでいる電極Eと熱電素子(Pnh、Pnl等)との間に大きな熱応力が生じたとしても、素子電極間接合層Laeによって当該熱応力を緩和することが可能であり、破損(電極Eと熱電素子(Pnh、Pnl等)との機械的接触や電気的接触の破壊)を防止することができる。
【0048】
さらに、素子電極間接合層Laeは、100nmより小さい金属粒子を含むペーストを焼結することによって形成される。当該焼結の過程では有機溶媒に含まれる100nmより小さい金属粒子が粗大化し、1μm以上の金属粒子が観測される状態となる。従って、焼結後の素子電極間接合層Laeは1μm以上の金属粒子を含む層となり、やがて焼結温度で金属粒子の粗大化が生じなくなり、素子電極間接合層Laeが安定化する。また、素子電極間接合層Laeが1μm以上の金属粒子を含む層となることにより、金属粒子間の結合が焼結前よりも強くなる。
【0049】
従って、上述のように高温部と低温部との温度差が250℃程度となるような状態で熱電変換モジュールを使用したとしても、素子電極間接合層Lae内で再度金属粒子の状態が変化することはなく、素子電極間接合層Laeの状態が変化しない状態で熱電変換モジュールを使用することができる。また、電極Eと熱電素子Pn(またはPp)との間に大きな熱応力が生じたとしても素子電極間接合層Laeが破壊されることを防止することができるとともに、当該素子電極間接合層Laeによって熱応力を緩和することが可能になる。さらに、焼結によって金属粒子が粗大化することによって素子電極間接合層Laeにおける実効的な断面積が大きくなり、素子電極間接合層Laeの電気伝導率が大きくなる。この結果、熱電変換モジュールにおける熱電変換効率が低下することを防止することができる。
【0050】
(2)実施例:
次に、上述の製造方法で製造した熱電変換モジュールの実施例を説明する。本実施例においては、Bi
1.9Sb
0.1Te
2.5Se
0.5の組成比の原料に0.3重量%のTeを追加したものをn型熱電材料の高温材の出発原料とし、Bi
1.9Sb
0.1Te
2.7Se
0.3の組成比の原料をn型熱電材料の低温材の出発原料とした。また、Bi
0.2Sb
1.8Te
2.85Se
0.1の組成比の原料をp型熱電材料の高温材の出発原料とし、Bi
0.5Sb
1.5Te
3の組成比の原料をp型熱電材料の低温材の出発原料とした。
【0051】
また、本実施例においては、Bi,Sb,Te,Seを秤量して上述の各出発原料となるように各元素の組成を調整し、各出発原料をアルゴン雰囲気中で700℃に加熱して溶解させ、攪拌した。さらに、攪拌/溶解後の出発原料を冷却して凝固させることにより、n型熱電材料の高温材おび低温材、p型熱電材料の高温材および低温材の合金とした。
【0052】
さらに、得られた各合金を粉砕、もしくは液体急冷処理することで熱電材料の粉末を製造した。粉砕は、ボールミル、スタンプミル等によって実施可能であり、液体急冷処理はロール型液体急冷装置、回転ディスク装置、ガスアトマイズ装置等によって実施可能である。なお、当該液体急冷処理は、例えば、アルゴン雰囲気中において800℃に加熱した合金を急冷することによって実施可能である。
【0053】
さらに、得られた各粉末を金型に充填し、ホットプレス装置、あるいはスパークプラズマ焼結装置にて一軸加圧した状態で焼結し上述のバルクBnh,Bnl,Bph,Bplを製造した。なお、一軸加圧はアルゴン雰囲気中で450℃に加熱された状態で100MPaの圧力を作用させることによって実施される。むろん、バルクは、上述の組成変形を伴う押出処理や圧延処理等によって製造されてもよい。
【0054】
以上のようにして作成された熱電材料の室温での特性は以下の表1の通りであった。
【表1】
なお、表1に示した熱電材料は、n型、p型の双方において、使用温度を25℃から300℃まで変化させると、性能指数が一旦上昇した後に下降し、高温材における下降の程度が低温材における下降の程度より小さいため、高温域で高温材の性能指数が低温材の性能指数より高くなる。例えば、n型の熱電材料の高温材においては、25℃で約1.3程度(単位は10
-3K
−1。以下同様)の性能指数であるが、50℃で1.9、100℃で2.1、200℃で1.9、300℃で1.2のように性能指数が変化する。一方、n型の熱電材料の低温材においては、25℃で約3.3程度の性能指数であるが、50℃で3.7、100℃で3.0、200℃で1.9、300℃で0.35のように性能指数が変化する。p型の熱電材料の高温材においては、25℃で約1.0程度の性能指数であるが、50℃で1.7、100℃で2.0、200℃で1.8、300℃で1.1のように性能指数が変化する。一方、p型の熱電材料の低温材においては、25℃で約3.2程度の性能指数であるが、50℃で3.5、100℃で2.7、200℃で1.7、300℃で0.35のように性能指数が変化する。従って、いずれにおいても50℃では高温材の性能指数<低温材の性能指数、300℃では高温材の性能指数>低温材の性能指数となる。
【0055】
さらに、得られたバルクBnh,Bnl,Bph,Bplをマルチワイヤーソーにて切断してウエハを製造し(ステップS100)、各ウエハの表面にNiメッキによって10μmの拡散防止層を形成した(ステップS105)。なお、ステップS100においては、高温材の高さと低温材の高さの双方を0.5mmとした。さらに、高温材と低温材との間にAgペースト(例えば、大研化学工業製NAG-10)を塗布し、張り合わせた状態の高温材と低温材をリフロー炉内に導入し、大気中で加熱し、350℃に60分間維持することでウエハを焼結した(ステップS110)。この結果、焼結によって38μmの材料間接合層が形成された。この後、焼結後のウエハをカッティングソーにて切断して熱電素子Pn,Ppを製造した(ステップS115)。ここでは、熱電素子Pn,Ppの高さに垂直な方向の断面が0.6mm×0.6mmになるように切断した。従って、熱電素子Pn,Ppの大きさは、ほぼ1mm×0.6mm×0.6mmである。また、ここではこれらの熱電素子Pn,Ppを100個ずつ製造した。
【0056】
さらに、2個のセラミックス製の基板(アルミナ製基板、0.5mm×10mm×11mm)の間にn型熱電素子Pnとp型熱電素子Ppとの組が100個配置して、これらのn型熱電素子Pnとp型熱電素子Ppとがn型、p型の順に電気的に直列に接続できるように予め決められたパターンの電極を各基板に形成し(ステップS120)、各基板上の各電極表面にNiメッキによって10μmの拡散防止層を形成した(ステップS125)。さらに、電極上の拡散防止層にAgペースト(例えば、大研化学工業製NAG-10)を塗布し(ステップS130)、ステップS115にて製造された熱電素子をAgペースト上に実装し(ステップS135)、熱電素子上に基板を載せて(ステップS140)、リフロー炉内で焼結を行った(ステップS145)。焼結は、リフロー炉内の雰囲気を大気として加熱し、300℃に60分間維持することで行った。この結果、焼結によって46μmの素子電極間接合層が形成された。さらに、焼結後にリフロー炉から基板を取り出し、配線用の電極に配線を行うことで熱電変換モジュールを製造した。このようにして製造した熱電変換モジュールのサンプルを基準サンプルとし、以下においては、各種のサンプルについての特性を比較する。なお、以下の実施例の各サンプルにおいて、各実施例の説明において言及されたパラメータ(金属種や厚さ等)以外のパラメータは基準サンプルと同一である。
【0057】
表2は、ステップS105,ステップS125において電極と熱電素子との間に素子電極間拡散防止層を形成することによる効果を示している。
【表2】
【0058】
表2は、左列に示す各元素によってステップS105,ステップS125の素子電極間拡散防止層を形成して上述の製造方法によって作成されたサンプルにおける発電電力低下率の時間依存性を示している。なお、表2の2段目のサンプルは基準サンプルであり、他のサンプルは基準サンプルの製造工程においてステップS105,ステップS125で形成する素子電極間拡散防止層を他のものに変更したサンプルである。また、「なし」はステップS105,ステップS125を省略したサンプルである。表2においては、製造直後における発電電力と製造後3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月経過した後の発電電力とを比較して時間経過による発電電力の低下率を計算して示している。このように、素子電極間拡散防止層がない場合には、電極と素子電極間接合層の間あるいは素子電極間接合層と熱電素子の間で元素が拡散してしまうため、発電電力が時間の経過とともに低下する。また、製造後の経過時間が長期になると素子電極間接合層が破損して熱電変換モジュールが使用できなくなった。一方、いずれの素子電極間拡散防止層を形成した場合であっても、時間の経過に伴う発電電力の低下は抑制される。また、素子電極間接合層の破損も防止することができる。
【0059】
なお、表2に示す発電電力は、上述のようにして作成された熱電変換モジュールを利用して測定された。すなわち、測定に際しては、熱電変換モジュールの低温部に温度調整用のペルチエ素子を接触させて低温部の基板を50℃に保持し、高温部にヒーターを接触させて高温部の基板を300℃に保持した。そして、この状態において、熱電変換モジュールの電極から延びるリードに外部付加抵抗装置を接続し、外部付加抵抗を変化させつつ電圧および電流を測定することで発電電力を測定した。
【0060】
ステップS145における焼結温度は、ステップS130にて塗布されるペースト内の金属粒子が粗大化し、熱電素子Pn,Ppの結晶粒が粗大化しない温度である。表3は、100nmより小さい金属粒子を含むペーストと100nm以上の金属粒子を含むペーストを、ステップS125で素子電極間拡散防止層を形成した電極に塗布し、さらにステップS145において所定の昇温速度でリフロー炉内の温度を上昇させ、所定の焼結温度で60分間焼結させた場合における素子電極間接合層の接合性を複数の焼結温度について示している。
【表3】
【0061】
ここで、表3のAg、100nmより小、300℃に示すサンプルが基準サンプルであり、表3の他のサンプルは金属種、焼結温度、ペースト内の粒子の大きさを変更したサンプルである。表3は、熱電素子Pn,Ppのそれぞれに使用された高温材および低温材の電気抵抗率から計算される電気抵抗値と実際に製造された熱電変換モジュールにおいて実測された電気抵抗値との比較を示しており、計算値に対する実測値の増加分が10%未満であるものを丸、増加分が10%以上20%未満であるものを△として示している。また、×は電極と熱電素子とが接合しなかったサンプルである。
【0062】
以上のように、100nmより小さいAg粒子を含むペーストを利用すれば、焼結温度が250℃〜350℃の範囲において、充分に電気抵抗値が小さくなる素子電極間接合層を有する熱電変換モジュールを製造することができる。また、100nmより小さいAl粒子を含むペーストを利用すれば、焼結温度が200℃〜350℃の範囲において、充分に電気抵抗値が小さくなる素子電極間接合層を有する熱電変換モジュールを製造することができる。100nmより小さいCu粒子を含むペーストを利用すれば、焼結温度が350℃において、充分に電気抵抗値が小さくなる素子電極間接合層を有する熱電変換モジュールを製造することができる。100nmより小さいTi粒子を含むペーストを利用すれば、焼結温度が250℃〜350℃の範囲において、充分に電気抵抗値が小さくなる素子電極間接合層を有する熱電変換モジュールを製造することができる。100nmより小さいCr粒子を含むペーストを利用すれば、焼結温度が300℃〜350℃の範囲において、充分に電気抵抗値が小さくなる素子電極間接合層を有する熱電変換モジュールを製造することができる。なお、電気抵抗値の計算値からの増加率が10%以上20%未満であることを許容すれば、表3内の△のサンプルのように100nm以上の金属粒子を含むペーストを利用して素子電極間接合層を形成することが可能である。
【0063】
表4は、ステップS145の焼結によって形成される電極と熱電素子との間の素子電極間接合層が30μm以上であることによる効果を示す表である。
【表4】
【0064】
表4は、熱電素子と電極との間に塗布するAgペーストの量を変更して焼結させて熱電変換モジュールを製造した場合の例であり、熱電素子と電極との間に形成された素子電極間接合層の厚さ毎に、素子電極間接合層が破壊されるまでのサイクル数を示している。なお、ここでは、熱電変換モジュールにおける高温部の基板が300℃、低温部の基板が50℃となった状態を5分間保持し、その後、熱電変換モジュール全体を25℃に冷却して5分間保持する工程を1サイクルとしている。表4に示すように、素子電極間接合層の厚さが厚くなるほど素子電極間接合層が破壊されるまでに要するサイクル数が増加しており、素子電極間接合層の厚さが30μm以上である場合には、20000サイクル数以上のサイクルで破壊される。従って、素子電極間接合層の厚さが30μm以上であれば充分に使用に耐えるサイクル数になるまで素子電極間接合層は破壊されず、30μm以上の素子電極間接合層が熱応力の緩和に寄与していることが分かる。
【0065】
(3)他の実施形態:
本発明は、上述の実施形態以外にも種々の実施形態を採用することが可能である。また、種々の要素を発明特定事項とすることができる。素子電極間接合層は、上述の実施形態のように100nmよりも小さい金属粒子を含むペーストの焼結によって形成される素子電極間焼結層のみによって構成されてもよいが、他の手法によって形成された層を含んでもよく、例えば、素子電極間接合層の一部を金属メッキによって形成する構成を採用可能である。
【0066】
この場合、メッキ層は、ペーストに含まれる100nmよりも小さい金属粒子と同一の金属によるメッキ層であることが好ましい。すなわち、焼結前にペーストに含まれる金属粒子と同一の金属によるメッキ層を電極と熱電素子との少なくとも一方に形成しておき、当該メッキ層とペーストとが接触する状態で焼結を行えば、焼結の際に金属粒子とメッキ層とが容易に結合するため、素子電極間接合層の強度を高強度にすることができる。
【0067】
さらに、電極および熱電素子から素子電極間接合層に向けて圧力が加えられた状況で焼結が行われてもよい。この構成によれば、加圧しない状況と比較して素子電極間焼結層における空隙の含有率を低下させることができ、素子電極間焼結層の電気抵抗を低下させることが可能である。
【0068】
表5は、各種の実施例および比較例の特性を示す表である。
【表5】
【0069】
表5の1段目〜5段目に示す例は、Niによって素子電極間拡散防止層が形成された熱電素子と電極との間にAgペーストを塗布して熱電変換モジュールを製造した場合の例であり、電極と熱電素子の間に左列に示す各圧力を作用させて焼結を行った。圧力0MPaが上述の基準サンプルであり、基準サンプルの製造工程において電極と熱電素子の間に作用させる圧力を変更して他のサンプルを製造した。各サンプルにおいて、焼結前のAgペーストの厚さは共通であるが、焼結後の素子電極間接合層の厚さは圧力が大きくなるほど薄くなっている。すなわち、同量のAgペーストが塗布された状態で焼結が行われた場合、圧力が大きいほど素子電極間接合層におけるAgの密度が大きくなる。
【0070】
表5においては、各サンプルにおける素子電極間接合層の空隙率と抵抗比とを示している。ここで、空隙率は、素子電極間接合層を超音波探傷装置で測定して得られた空孔の面積比率である。また、抵抗比は、熱電素子Pn,Ppのそれぞれに使用された高温材および低温材の電気抵抗率から計算される電気抵抗値と実際に製造された熱電変換モジュールにおいて実測された電気抵抗値との比である。
【0071】
表5に示すように、圧力が大きくなるほど空隙率が少なくなり、抵抗比が小さくなる。従って、圧力を作用させて焼結を行うことにより、より電気抵抗値が小さい素子電極間接合層を製造することが可能である。
【0072】
表5の6段目に示す例は、熱電素子と電極とのそれぞれに素子電極間拡散防止層が形成された後に、当該素子電極間拡散防止層に対してAgメッキを施した場合の例である。すなわち、素子電極間拡散防止層上のAgメッキ層にAgペーストを塗布した状態で熱電素子を実装し、基板を載せて焼結を行い、素子電極間接合層がメッキ層、焼結層、メッキ層によって構成される例である。なお、この例において、メッキ層の厚さは20μmである。そして、表5の6段目に示すように焼結前のAgペーストの厚さが10μm、焼結後の素子電極間接合層の厚さが48μmであることから、Agペースト由来の素子電極間焼結層は約8μmであることが分かる。なお、この例においても、電極と熱電素子の間に圧力(5MPa)を作用させている。この例においても、空隙率が8%と小さく、抵抗比が1.01と小さいため、極めて電気抵抗値が小さい素子電極間接合層が製造されたことになる。また、この例において上述の表4と同様の試験を行ったところ、破壊までのサイクル数は20842サイクルであり、素子電極間接合層がメッキ層、焼結層、メッキ層によって構成される例においても高強度に接合されていることが確認できた。
【0073】
なお、所望の厚さの素子電極間接合層を形成するためには、Ag粒子の重量比が80%以上であるAgペーストを使用することが好ましい。表5の7段目に示す例は、Ag粒子の重量比が62%であるAgペーストを利用して熱電変換モジュールを製造した場合の例である。この例においては、Ag粒子の重量比が小さくペーストの流動性が高いため、焼結前のAgペーストの厚さを任意の厚さにすることが困難である。また、焼結前に32μmの厚さであったAgペーストを焼結して素子電極間接合層を形成すると12μmとなった。この場合、空隙率は18%で良好な数値であるが抵抗比は1.12と大きくなってしまう。また、この例において上述の表4と同様の試験を行ったところ、破壊までのサイクル数は3492サイクルであり、充分な強度が確保できないことが確認できた。
【0074】
なお、上述のように素子電極間接合層がメッキ層と焼結層とからなる構成において、メッキ層と焼結層とでは、平均粒径が異なることが多い。すなわち、100nmより小さい金属粒子を含むペーストを焼結することにより、平均結晶粒径が1μmより大きく10μm以下の第1層が形成され、メッキによって平均結晶粒径が10μmより大きい第2層が形成される。従って、このような平均結晶粒径の第1層と第2層とを含む素子電極間接合層を備える熱電変換モジュールを製造することによって発明を実現してもよい。ここで、第1層は焼結層であるが、第2層はメッキ以外の製法で形成されてもよい。
【0075】
表6は、第1層と第2層における焼結前後のAg粒子の平均結晶粒径を比較した表である。
【表6】
【0076】
ここで、第1層の焼結後、第2層の焼結前および焼結後における結晶粒径は、例えば、ある断面における結晶粒の面積と同じ面積の円の半径にて定義可能である。そして、平均結晶粒径は、素子電極間接合層の厚さ方向と垂直な方向の断面を、例えば、TSL社製のEBSD(Electron Back Scatter Diffraction)装置で測定し、断面内の複数の位置および複数の断面について結晶粒径を平均化した値である。また、第1層の焼結前の平均結晶粒径はペースト内に拡散しているAg粒子の平均的な大きさである。表6に示すように、Agペースト由来の第1層においては平均結晶粒径が6μm(1μmより大きく10μm以下)であり、第2層においては平均結晶粒径が15μmである。従って、平均結晶粒径が1μmより大きく10μm以下の第1層と、平均結晶粒径が10μmより大きい第2層とを含む層を構成すれば、電気抵抗値が小さく強度が高い素子電極間接合層とすることが可能である。
【0077】
さらに、ペーストを焼結することによって素子電極間接合層の少なくとも一部を形成する場合、焼結前にペーストと接する部位が酸化することにより、酸素濃度が局部的に高くなっていることが多い。従って、焼結前にペーストを挟む2カ所の部位は酸素濃度が高い。また、ペーストによる焼結を複数回繰り返すと、同様に酸素濃度が高い部位が2カ所ずつ増加する。従って、本発明により、厚さ方向に沿った酸素濃度の変化が所定の基準を越える高酸素濃度層を複数層含むような素子電極間接合層が形成されると捉えることもできる。
【0078】
図4B,4Cは、素子電極間接合層内の酸素濃度を示す図であり、素子電極間接合層の厚さ方向に測定位置を変化させながら測定した酸素濃度を示している。なお、
図4B,4Cにおいては、測定位置を横軸、オージェ電子分光法で酸素濃度を評価した結果を縦軸に示しており、ここでは測定された酸素濃度のピークを100に規格化して示している。また、
図4Bにおいては、Niメッキ層L
Ne、Agペーストの焼結によって形成された素子電極間接合層Laeの位置を破線の矢印で示し、
図4Cにおいては、Niメッキ層L
Ne、第1層L
1、第2層L
2、素子電極間接合層Laeの位置を破線の矢印で示している。
図4B,4Cの双方において、グラフの左側に熱電素子が存在し、グラフの右側に電極が存在する状態を示している。
【0079】
図4Bに示すように、酸素濃度はNiメッキ層L
Neと素子電極間接合層Laeとの界面で増加し、他の領域では低下する。この結果、素子電極間接合層の厚さ方向に沿った酸素濃度の変化が所定の基準(閾値)を越える位置が存在することとなり、これらの位置を界面とする層を高酸素濃度層と定義することができる。
図4Bにおいては、界面の位置を一点鎖線で示しており、界面に挟まれた領域を高酸素濃度層Loとして示している。このように、素子電極間接合層Lae内には、Agペースト内に含有していた酸素に起因して高酸素濃度層Loが形成され、本実施例のように焼結を1回行った場合、当該高酸素濃度層Loは2カ所において形成される。従って、本実施例のような素子電極間接合層Laeが、高酸素濃度層Loを複数層含む層であるとして発明を捉えることも可能である。
【0080】
同様に、
図4Cに示すような素子電極間接合層Laeにおいては、
図4Cに示すように酸素濃度が第1層L
1と第2層L
2との界面で増加し、他の領域では低下する。この結果、素子電極間接合層の厚さ方向に沿った酸素濃度の変化が所定の基準(閾値)を越える位置が存在することとなり、これらの位置を界面とする層を高酸素濃度層と定義することができる。
図4Cにおいても、界面の位置を一点鎖線で示しており、界面に挟まれた領域を高酸素濃度層Loとして示している。このように、素子電極間接合層Lae内には、第2層L
2の基になったAgメッキおよびAgペースト内に含有していた酸素に起因して高酸素濃度層Loが形成され、本実施例のように焼結を1回行った場合、当該高酸素濃度層Loは2カ所において形成される。従って、本実施例のような素子電極間接合層Laeが、高酸素濃度層Loを複数層含む層であるとして発明を捉えることも可能である。
【0081】
さらに、素子電極間接合層は、100nmより小さい金属粒子を含むペーストを焼結することによって形成されればよく、一回の焼結によって素子電極間接合層が形成されてもよいし、複数回の焼結によって素子電極間接合層が形成されてもよい。例えば、金属粒子を含むペーストを塗布して焼結する工程を複数回繰り返すことによって所望の厚さの素子電極間接合層を製造してもよい。
【0082】
さらに、上述の実施形態において使用された熱電素子は高温材と低温材を材料間接合層で接合した熱電素子であったが、当該材料間接合層を備えない熱電素子を基板間に挟む熱電変換モジュール(
図5は、熱電素子Pnを基板間に挟む熱電変換モジュールの断面図である)において、電極と熱電素子との間の素子電極間接合層を100nmより小さい金属粒子を含むペーストを焼結することによって形成して30μm以上の厚さとしてもよい。