【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を具体的かつより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。実施例中の放電容量は、下記の方法によって測定した。
【0046】
(放電容量測定方法)
直径16.1mm厚さ0.2mmに切り出したリチウム箔を負極とし、直径17mmに切り出したセルガード#2400(セルガード社製)セパレータとして、下記実施例で作製した電極を直径15.9mmに打ち抜いて正極とし、電解液としてLiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)を1M含有するポリエチレングリコールジメチルエーテル(Mn=500、アルドリッチ社)の溶媒を電解液として、2042型コイン電池を作製し、電気化学評価を行った。レート0.5C(840mA/g)、上限電圧3.0V、下限電圧1.5Vで充放電測定を3回行い、三回目の放電時の硫黄重量あたりの放電容量を、実施例における放電容量とした。
【0047】
(酸化グラフェンの元素比の測定)
各サンプルのXPSスペクトルはQuantera SXM (PHI 社製))を使用して、測定する。励起X 線は、monochromatic Al K
α1,2線(1486.6 eV)であり、X 線径は200μm、光電子脱出角度は45°である。酸化グラフェンの酸素原子の炭素原子に対する比はXPSスペクトル強度から求める。
【0048】
(充填率)
カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡による電子エネルギー損失分光法にて断面観察し、カーボン部分を検出し硫黄部分と区別した。続いて、測定例1記載のカーボン材料の空隙に相当する部分において、硫黄部分の面積比率を測定した。この測定を30箇所測定し、その平均値を空隙中の硫黄充填率とした。
【0049】
(硫黄の含有量)
カーボン硫黄複合体を元素分析により測定した。CHN元素分析はvarioMicrocube(Elementar社)により行いC元素、H元素、N元素の比を分析した。また、varioEL-III(Elementar社)のCHN-O(Oモード)によりO元素に比を分析した。さらにカーボン硫黄複合体をフラスコ燃焼法-イオンクロマトグラフィーにより、S元素含有比を分析した。以上の3つの分析により、C,H,N,O,Sの5元素の含有比を決定した。
【0050】
(硫黄の酸化度)
硫黄の酸化度はX線光電子分光測定により測定したときの硫黄に由来するピークのピークシフトから求められる。硫黄を含有する試料を測定すると164eV付近に炭素に由来するピークが検出される。炭素が酸素に結合している場合は、高エネルギー側の168eV付近にシフトすることが知られている。硫黄に基づくピークをピーク分割し、硫黄-酸素結合によりピークシフトしている成分のピーク面積を割り出し、(硫黄-酸素結合に基づくピーク面積)]/(硫黄に基づくピーク面積)を硫黄の酸化度として定義する。
【0051】
(規則構造の観察)
複合体を樹脂包埋し、研磨およびイオンエッチングすることにより薄膜化処理してから、透過電子顕微鏡により200万倍以上の高解像度で観察する。
【0052】
[合成例1]
酸化グラフェンの作製方法:2000メッシュの天然黒鉛粉末(上海一帆石墨有限会社)を原料として、氷浴中の10gの天然黒鉛粉末に、220mlの98%濃硫酸、5gの硝酸ナトリウム、30gの過マンガン酸カリウムを入れ、1時間機械攪拌し、混合液の温度は20℃以下で保持した。上述混合液を氷浴から取り出し、35℃水浴中で4時間攪拌反応し、その後イオン交換水500mlを入れて得られた懸濁液を90℃で更に15分反応を行った。最後に600mlのイオン交換水と50mlの過酸化水素を入れ、5分間の反応を行い、酸化グラフェン分散液を得た。熱いうちにこれを濾過し、希塩酸溶液で金属イオンを洗浄し、イオン交換水で酸を洗浄し、pHが7になるまで洗浄を繰り返し、酸化グラフェンゲルを作製した。酸化グラフェンゲルを凍結乾燥することで、酸化グラフェン粉末を得た。作製した酸化グラフェンゲルの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.53であった。
【0053】
[合成例2]
硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムの量の黒鉛に対する比を合成例1の85%とした以外は、合成例1と同様に、酸化グラフェンゲルを作製した。作製した酸化グラフェンゲルの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.47であった。
【0054】
[合成例3]
硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムの量の黒鉛に対する比を合成例1の70%とした以外は、合成例1と同様に、酸化グラフェンゲルを作製した。作製した酸化グラフェンゲルの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.45であった。
【0055】
[合成例4]
硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムの量の黒鉛に対する比を合成例1の55%とした以外は、合成例1と同様に、酸化グラフェンゲルを作製した。作製した酸化グラフェンゲルの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.44であった。
【0056】
[実施例1]
市販の硫黄粉末(Alfa Aeser,325mesh)4重量部と[合成例1]で作製した酸化グラフェン粉末1.7重量部を乳鉢で混合した後に、155℃で2時間加熱した。加熱した粉末を再び乳鉢で粉砕した後に、遊星ボールミルで300rpmで2時間混合し、カーボン硫黄複合体を作製した。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量は81%、充填率は78%であった。硫黄の酸化度は0.18であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところ1000nm
2以上の連続領域にわたって硫黄と酸素が区別できない領域が存在した。透過電子顕微鏡写真を
図1に示す。
【0057】
カーボン硫黄複合体を80重量部、導電助剤としてアセチレンブラックを8重量部、バインダーとしてポリ弗化ビニリデン10重量部、溶剤としてN-メチルピロリドンを、200重量部加えて、プラネタリーミキサーで混合して電極ペーストを得た。電極ペーストをアルミニウム箔(厚さ18μm)にアプリケータ(80μm)を用いて塗布し、80℃30分間乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、985mAh/gであった。
【0058】
[実施例2]
市販の硫黄粉末(Alfa Aeser,325mesh)4重量部と[合成例2]で作製した酸化グラフェン粉末1.7重量部を乳鉢で混合した後に、155℃で2時間加熱した。加熱した粉末を再び乳鉢で粉砕した後に、遊星ボールミルで300rpmで2時間混合し、カーボン硫黄複合体を作製した。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量は80%、充填率は78%であった。硫黄の酸化度は0.17であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところ1000nm
2以上の連続領域にわたって硫黄と酸素が区別できない領域が存在した。
該カーボン硫黄複合体を用いて、実施例1と同様にして電極を作製し、電極の放電容量を測定したところ、1023mAh/gであった。
【0059】
[実施例3]
市販の硫黄粉末(Alfa Aeser,325mesh)4重量部と[合成例3]で作製した酸化グラフェン粉末1.7重量部を乳鉢で混合した後に、155℃で2時間加熱した。加熱した粉末を再び乳鉢で粉砕した後に、遊星ボールミルで300rpmで2時間混合し、カーボン硫黄複合体を作製した。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量は80%、充填率は76%であった。硫黄の酸化度は0.15であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところ1000nm
2以上の連続領域にわたって硫黄と酸素が区別できない領域が存在した。
該カーボン硫黄複合体を用いて、実施例1と同様にして電極を作製し、電極の放電容量を測定したところ、976mAh/gであった。
【0060】
[実施例4]
市販の硫黄粉末(Alfa Aeser,325mesh)4重量部と[合成例4]で作製した酸化グラフェン粉末1.7重量部を乳鉢で混合した後に、155℃で2時間加熱した。加熱した粉末を再び乳鉢で粉砕した後に、遊星ボールミルで300rpmで2時間混合し、カーボン硫黄複合体を作製した。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量は79%、充填率は73%であった。硫黄の酸化度は0.13であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところ1000nm
2以上の連続領域にわたって硫黄と酸素が区別できない領域が存在した。
該カーボン硫黄複合体を用いて、実施例1と同様にして電極を作製し、電極の放電容量を測定したところ、954mAh/gであった。
【0061】
[実施例5]
市販の硫黄粉末(Alfa Aeser,325mesh)4重量部と[合成例2]で作製した酸化グラフェン粉末1.7重量部を乳鉢で混合した後に、130℃で2時間加熱した。加熱した粉末を再び乳鉢で粉砕した後に、遊星ボールミルで300rpmで2時間混合し、カーボン硫黄複合体を作製した。該カーボン硫黄複合体の元素分析を行ったところ、炭素と硫黄の比はほぼ1:4であった。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量は77%、充填率は71%であった。硫黄の酸化度は0.17であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところ1000nm
2以上の連続領域にわたって硫黄と酸素が区別できない領域が存在した。該カーボン硫黄複合体を実施例1と同様に電極にして、電極の放電容量を測定したところ、943mAh/gであった。
【0062】
[比較例1]
市販の硫黄粉末(Alfa Aeser,325mesh)4重量部とアセチレンブラック(電気化学社)1重量部を遊星ボールミルで300rpmで2時間混合し、カーボン硫黄混合体を作製した。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量80%あった。硫黄の酸化度は0.02であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところ、アセチレンブラックと硫黄の構造が明確に区別することが可能であった。該カーボン硫黄混合体を実施例1と同様に電極にして、電極の放電容量を測定したところ、660mAh/gであった。
【0063】
[比較例2]
5.8重量部の硫化ナトリウムと、7.2重量部の硫黄粉末を、250重量部のイオン交換水中で混合し、多硫化ナトリウム水溶液を得た。合成例2で作製した酸化グラフェン粉末1.8重量部に1800重量部のイオン交換水を加え、超音波分散することで酸化グラフェン分散水溶液を作製した。該多硫化ナトリウム水溶液と、酸化グラフェン水溶液を混合し、さらに臭化セチルトリメチルアンモニウムを5重量パーセント濃度で加えてよく攪拌した後、2モル/リットル濃度のギ酸を1000重量部加えて2時間攪拌した。その後溶液を濾過して、カーボン硫黄複合体を得た。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量は87%、充填率は56%であった。硫黄の酸化度は0.03であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところグラフェン層と硫黄層が存在し明確に区別することができた。該カーボン硫黄複合体を実施例1と同様に電極にして、電極の放電容量を測定したところ、643mAh/gであった。
【0064】
[比較例3]
[合成例1] で得られた酸化グラフェン粉末を石英チューブに入れ、予め1050℃に加熱してあるアルゴン雰囲気下の電気炉に、その石英チューブごと導入し、酸化グラフェン粉末を急加熱して熱還元することで、グラフェン粉末を得た。
【0065】
該グラフェン粉末と1重量部と、市販の硫黄粉末(Alfa Aeser,325mesh)4重量部を乳鉢で混合した後に、155℃で2時間加熱した。加熱した粉末を再び乳鉢で粉砕した後に、遊星ボールミルで300rpm2時間混合し、カーボン硫黄複合体を作製した。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量は80%、充填率は46%であった。硫黄の酸化度は0.03であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところ、加熱により規則的に広がったグラフェン層内に硫黄層が存在し明確に区別することができた。該カーボン硫黄複合体を実施例1と同様に電極にして、電極の放電容量を測定したところ、754mAh/gであった。
【0066】
[比較例4]
市販の硫黄粉末(Alfa Aeser,325mesh)4重量部と[合成例1]で作製した酸化グラフェン粉末1.7重量部を乳鉢で混合した後に、80℃で2時間加熱した。加熱した粉末を再び乳鉢で粉砕した後に、遊星ボールミルで300rpm2時間混合し、カーボン硫黄複合体を作製した。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量は81%、充填率は41%であった。硫黄の酸化度は0.10であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところ、酸化グラフェンと硫黄とが分離した構造が観察された。該カーボン硫黄複合体を用いて、実施例1と同様にして電極を作製し、電極の放電容量を測定したところ、826mAh/gであった。