特許第6182901号(P6182901)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6182901-カーボン硫黄複合体の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182901
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】カーボン硫黄複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/20 20170101AFI20170814BHJP
   C01B 32/70 20170101ALI20170814BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170814BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20170814BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C01B32/20
   C01B32/70
   H01M4/36 A
   H01M4/38 Z
   H01M4/86 B
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-38520(P2013-38520)
(22)【出願日】2013年2月28日
(65)【公開番号】特開2013-212975(P2013-212975A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2016年1月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-53046(P2012-53046)
(32)【優先日】2012年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】玉木 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】久保田 泰生
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−232085(JP,A)
【文献】 L.Ji et al,Graphene Oxide as a Sulfur Immobikizer in High Performance Lithium/Sulfur Cells,J.Am.Chem.Soc.,2011年10月21日,133,pp.18522-18525
【文献】 D.C.Marcano et al,Improved Synthesis of Graphene Oxide,ACSNANO,2010年,vol.4,No.8,pp4806-4814
【文献】 F.Zhang et al,Preparation and performance of a sulfur/graphene composite for rechargeable lithium-sulfur battery,Journal of Physics:Conference Series,2012年 1月31日,Vol339,012003
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状態で酸化グラファイト粉末と硫黄とを混合する工程と、混合した酸化グラファイト粉末と単体硫黄とを120℃以上で加熱する工程とを含むことを特徴とするカーボン硫黄複合体の製造方法。
【請求項2】
X線光電子分光測定のスペクトル強度から求めた前記酸化グラファイト粉末の酸素原子に対する炭素原子の割合が0.4以上0.6以下である、請求項1に記載のカーボン硫黄複合体の製造方法。
【請求項3】
前記混合を遊星ボールミルまたは二軸混練機により行う、請求項1または2に記載のカーボン硫黄複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン材料硫黄複合体の製造方法、カーボン硫黄複合体、更にそれらを用いた二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明により得られるカーボン硫黄複合体の用途は特に制限されないが、説明の便宜の点から、以下では、主に二次電池、特にリチウムイオン電池の電極に関連する先行技術に関して説明する。
【0003】
リチウムイオン電池は、従来のニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池に比べて、高電圧・高エネルギー密度が得られる電池として小型・軽量化が図れることから、携帯電話やラップトップパソコンなど情報関連のモバイル通信電子機器や電動工具類などに広く用いられている。今後更に環境問題を解決する一つの手段として電気自動車・ハイブリッド電気自動車などに搭載する車載用途、および家庭や産業用などの電力貯蔵用途などに利用拡大が進むと見られており、これら用途に向けて電池の更なる高容量化が切望されている。
【0004】
リチウムイオン電池の容量を更に向上させる際の課題は、正極活物質の高容量化である。次世代のリチウムイオン電池に検討されている酸化物正極活物質の容量密度は、170〜200Ah/kg程度であるが、電気自動車の航続距離拡大やバックアップ電力の貯蔵量増大のために、更に高容量の材料の開発が期待されている。
【0005】
単体硫黄を電極として用いた場合の理論容量は1675Ah/kgで、極めて大きな容量を有している。しかしながら、硫黄正極には以下の2つの大きな課題がある。1つめは、硫黄は抵抗率が2×10の15乗Ωmの絶縁体であるため、実用的な充放電レートが確保できないこと、2つめは、充放電過程に生成した多硫化物が電解液中に溶出するため、電池のサイクル特性が著しく低いことである。これらの課題により、硫黄は正極活物質として高いポテンシャルを持っているにも関わらず、未だ実用化されていない。
【0006】
硫黄正極を実用化するためには、上述の2つの課題を量産可能な方法で解決する必要がある。今まで様々な方法が提案されているが、2つの課題を同時に解決できる技術として、種々のカーボン材料と硫黄を複合化する方法が開示されている(特許文献1、非特許文献1−3)。これらは、カーボンの空孔内に硫黄を保持することにより、電子伝導性を向上させつつ、電解液への溶出を抑制しようとするものである。
【0007】
特許文献1および非特許文献1には、メソポーラスカーボンと硫黄とを複合化する技術が開示されている。メソポーラスカーボンは規則性のある5nm未満の空隙を有し、硫黄の充填・保持に適した構造を有しているが、メソポーラスカーボンの製法が複雑であるため低コスト化が難しく、量産には適さないものである。また、非特許文献3には、薄層グラファイトと硫黄を溶解させた溶液とを混合することで薄層グラファイトの空隙間に硫黄を複合化させる技術が開示されている。そして、非特許文献2には、水溶液中で硫黄を合成しながら酸化グラフェンと複合化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−95390号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nat. Mater. 2009, 8, 500-506
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 18522-18525
【非特許文献3】Phys. Chem. Chem. Phys., 2011, 13, 7660-7665
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のとおり、単体硫黄が本来持つ正極活物質としてのポテンシャルを引き出し実用化に繋げるために、各種カーボン材料との複合化が試みられている(特許文献1、非特許文献1−3)。しかしながら、これらによっても、複雑なプロセスが必要なために、工業的な量産が困難であるか、あるいは十分な充放電性能を達成していなかった。
【0011】
非特許文献3には、薄層グラファイトと硫黄を溶解させた溶液とを混合することで薄層グラファイトの空隙間に硫黄を複合化させる技術が開示されている。しかしながら、薄層グラファイトの空隙には、硫黄を十分に充填することが出来ず、充放電サイクルでの硫黄溶出による容量低下が発生する。ここで、本発明者らはグラファイトを酸化グラファイトにすれば、空隙に官能基が存在するので、硫黄を十分に充填することが出来るのではないかと考えた。
【0012】
ここで、非特許文献2には、水溶液中で硫黄を合成しながら酸化グラフェンと複合化する技術が開示されている。酸化グラフェンは溶液に溶けているため酸化グラフェン間には硫黄が入り込みやすいが、水溶液中では酸化グラフェン間と独立して硫黄が合成される場合があり効率が悪い上に、酸化グラフェン溶液を還元してグラフェンにする際に、硫黄とは独立にグラフェン同士で積層してしまうため、硫黄を酸化グラフェン中に十分充填することが出来ない。そのため、十分な充放電特性が得られていない。これでは、グラファイトを酸化グラファイトにする効果が得られないと考えた。 以上のように、カーボン硫黄複合体の製造方法において、硫黄正極の課題である導電性付与、電解液への溶出抑制を量産可能な方法で解決した例はなく、実用化のための技術創出が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、酸化グラファイト粉末と硫黄を混合し更に硫黄の融点以上に加熱することにより、上記した従来技術の欠点を解消し、単体硫黄が本来持つ正極活物質としてのポテンシャルを発現できること、そして規則構造を持たずに、1000nm2以上の連続領域にわたって導電性炭素と単体硫黄が融合しているカーボン硫黄複合体が二次電池に好適に使用できることを見出した。
【0014】
すなわち本発明は
(1)酸化グラファイト粉末と硫黄とを混合する工程と、120℃以上で加熱する工程とを含むことを特徴とするカーボン硫黄複合体の製造方法。
(2)(1)記載の製造方法により製造したカーボン硫黄複合体を含有する電気化学素子。
(3)(1)記載の製造方法により製造したカーボン硫黄複合体を含有するリチウムイオン電池。
である。
(4)規則構造を持たずに、1000nm2以上の連続領域にわたって導電性炭素と単体硫黄が融合していることを特徴とするカーボン硫黄複合体。
(5)(4)記載のカーボン硫黄複合体を含有する電気化学素子。
(6)(4)記載のカーボン硫黄複合体を含有するリチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明のカーボン硫黄複合体の製造方法は、硫黄正極の課題である導電性付与、電解液への溶出抑制を量産可能な方法で解決することができ、この製造方法で製造されたカーボン硫黄複合体を電極材料に用いることにより、高い容量を有する電極を得ることが可能である。このため、この製造方法で製造されたカーボン硫黄複合体は、電気化学素子、特に、リチウムイオン電池等の非水電解液二次電池に好適に使用でき、また、キャパシター、燃料電池用の電極にも使用でき、本発明は工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1のカーボン硫黄複合体の電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の製造方法で用いる酸化グラファイトとは、黒鉛が酸化されたものであり、エックス線回折測定で酸化グラファイトに特有のピークである9〜13.0°にピークを持つものである。このような酸化グラファイトは、還元されると構造が崩壊し酸化度によっては1層から数層のグラフェンとなるので、酸化グラフェンとも称されることがある。
【0018】
酸化グラファイトは公知の方法で作製することができる。また市販の酸化グラファイトを購入してもよい。本発明に用いた酸化グラファイト作製方法を以下に例示する。酸化グラファイトの原料となる黒鉛は、人造黒鉛・天然黒鉛のどちらでも良いが、天然黒鉛が好ましく用いられる。原料黒鉛のメッシュ数は20000以下が好ましく、5000以下がさらに好ましい。
【0019】
酸化グラフェンの作製法は改良ハマーズ法が好ましい。その例を下記する。黒鉛(例えば天然黒鉛の粉など)を原料にして、濃硫酸、硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムを入れて、25〜50℃下、0.2〜5時間攪拌反応する。その後脱イオン水を加えて希釈し、懸濁液を得て、これを引き続き80〜100℃で5〜50分間反応する。最後に過酸化水素と脱イオン水を加え1〜30分間反応して、酸化グラファイト分散液を得る。酸化黒鉛分散液を濾過、洗浄し、酸化グラファイトゲルを得る。酸化グラファイトゲルは、凍結乾燥法やスプレードライ法などにより溶媒を除去することで酸化グラファイト粉末が得られる。
【0020】
本発明のカーボン硫黄複合体の製造方法では酸化グラファイト粉末と硫黄を混合する工程が含まれる。ここで硫黄とは単体硫黄のことを指す。本発明の製造方法は酸化グラファイトを用いることを特徴とする。酸化グラファイト粉末は官能基を多く持つためにグラファイトと比較して硫黄と親和性があり、硫黄との複合化に適した材料である。酸化グラファイトそれ自体は導電性が極めて低い材料であるが、硫黄と混合して加熱することで硫黄により還元されて高い導電性を持つようになる。
【0021】
酸化グラファイト粉末と硫黄を混合するにあたって、上述のとおり、酸化グラファイト粉末は粉末状態で混合されることが重要である。また、酸化グラファイト粉末と硫黄を混合する手法に制限は無いが、自動乳鉢・三本ロール・ビーズミル・遊星ボールミル・自公転ミキサー・ホモジェナイザー・プラネタリーミキサー、二軸混練機などを利用した方法が挙げられる。中でも、遊星ボールミルは粉末同士を混合するのに好適である。また、加熱装置が付いた二軸混練機は粉末を加熱しながら混合することができるので、硫黄の融点以上に加熱しながら混合することが可能であり、本発明の製造方法において好適に使用することができる。
【0022】
本発明の手法では、酸化グラファイト粉末と硫黄を120℃以上で加熱する工程が含まれる。硫黄の融点は115℃であり、それ以上の温度に加熱することにより、表面張力により複合化が進みやすくなり良好に複合化できる。一方で、160℃以上に加熱すると硫黄がオリゴマー化し、流動性がなくなるため好ましくない。粘度が低いほど複合化効率は高く、液体の硫黄は温度が高いほど粘度が低いので、140℃以上155℃以下で加熱することが好ましい。
【0023】
酸化グラファイト粉末の酸化度は酸化グラファイト作成時の酸化剤の量により制御することが可能である。酸化グラファイトの酸化度には制限は無いが、酸化グラファイトの酸化度が高すぎると、硫黄による還元が十分に進まず、導電性が悪くなる恐れがある。一方で酸化グラファイトの酸化度が低すぎると、官能基が少なく硫黄が充填されにくくなる。そのため酸化グラファイトの酸化度には好ましい範囲があり、酸素原子に対する炭素原子の割合は0.4以上0.6以下であることが好ましく、0.45以上0.50以下であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明により得られたカーボン硫黄複合体は、薄層グラファイト構造間の空隙に硫黄が充填されている構造を持つ。薄層グラファイト構造間の空隙に硫黄を充填することにより、好適に電子伝導することが可能になり、硫黄の溶出を防ぐことも同時に可能になる。
【0025】
本発明のカーボン硫黄複合体における、硫黄の含有量は、例えばリチウムイオン電池用正極材料として用いる場合は、硫黄が少なすぎると重量あたりの電池容量が小さくなり、硫黄が多すぎると導電性が低くなり充放電特性が悪化するので、適度な含有量であることが好ましい。具体的には、硫黄含有量は複合体総重量の5%以上であることが好ましく、50%以上がより好ましく、70%以上が更に好ましい。また95%以下がより好ましく、90%以下が更に好ましい。硫黄の含有量は、原料となる酸化グラファイトと硫黄の使用量比を変えることにより制御できる。
【0026】
本発明における硫黄は一部が酸素と結合していることが好ましい。硫黄原子と炭素原子が酸素を介して密接に融合した状態にすることにより、硫黄の溶出を防ぐことができる上に、導電性炭素から硫黄への電子伝達が向上する。硫黄の酸化度は0.05以上であることが好ましく0.10以上であることが更に好ましい。また、0.30以下であることが好ましく0.20以下であることが更に好ましい。本発明における硫黄の酸化度はX線光電子分光測定により測定することができる。
【0027】
本発明のカーボン硫黄複合体における、空隙中の硫黄の充填率は、例えばリチウムイオン電池用正極材料として用いる場合は、充填率が小さすぎると電池容量が小さくなるので好ましくない。
具体的には、空隙中の硫黄の充填率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、更には90%以上が好ましい。
【0028】
本発明のカーボン硫黄複合体のうち、規則構造を持たずに導電性炭素と単体硫黄が1000nm2以上の連続領域にわたって融合した構造を持つものは、導電性炭素と炭素硫黄が極めて密接に融合することにより、好適に導電することが可能となり、さらに硫黄の溶出を防ぐことが同時に可能である。
【0029】
ここで言う規則構造とは、層構造や海島構造などの構造や周期的な定型構造を持つものを指す。規則構造を持つ状態を例示すると、シリカを鋳型にすることによって周期的な構造を持つメソポーラスカーボンを使用している例が挙げられる。(市販されているものとしてはCMK-3が挙げられる。)非特許文献1においては、このようなメソポーラスカーボン内に硫黄を導入して複合体を作製している。
【0030】
規則構造を持つ状態のもう一つの例としては薄層グラファイトの層間に硫黄を導入している例が挙げられる。非特許文献3においては、薄層グラファイトの層と、硫黄の層が交互に積層された層構造を形成している。上記のような、硫黄と導電性炭素が明確に分離できる構造では、硫黄が溶出しやすく、高い電池性能が得られない
本発明における、規則構造を持たずに導電性炭素と単体硫黄が融合した構造として例示できるものは、具体的には図1の透過電子顕微鏡写真に示されるように、200万倍以上の高解像度の観察においても炭素成分と硫黄成分の判別が付かず、このような構造が少なくとも1000nm2以上の連続領域にわたって存在するものである。
【0031】
本発明のカーボン硫黄複合体は、特に電気化学素子に好適に用いられる。電気化学素子としては例えばリチウムイオン電池用正極として、好適に用いられる。
【0032】
単体硫黄は、リチウムイオン電池の正極活物質として働く。単体硫黄は従来用いられている正極活物質よりも桁違いに高容量を持つが、単体硫黄の絶縁性・充放電過程における硫化物イオンの溶出が問題となり実用化されていない。本発明で得られるカーボン硫黄複合体は、官能基を持つ酸化グラファイトを用いるため硫黄が十分充填される上に、酸化グラファイトが還元された際に微細構造を持ち、かつ導電性の高い薄層グラファイトとなるために、硫黄が微細な空隙に閉じ込められた構造となり、電子電導がしやすくなり、硫黄が溶出しにくくなる利点がある。そのため、本発明のカーボン硫黄複合体は、リチウム硫黄電池用正極として好適に用いられる。
【0033】
リチウムイオン電池は正極と、それに対向した負極、及び該正極と負極の間に配置された電解質を少なくとも含む
(正極)
リチウムイオン電池用正極は、導電助剤、正極活物質、バインダーポリマーからなる。
【0034】
本発明のカーボン硫黄複合体では導電性のカーボン材料を用いるので、カーボン硫黄複合体のほかに導電助剤を添加する必要は必ずしもない。他に導電助剤を添加しても良く、導電助剤を添加する場合、添加する導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック類、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、炭素繊維及び金属繊維等の導電性繊維類、銅、ニッケル、アルミニウム及び銀等の金属粉末類などが挙げられる。
【0035】
本発明のカーボン硫黄複合体では硫黄が正極活物質として働く。放電過程において硫黄は還元され、硫化物イオンとなり、さらに還元されると硫化(II)リチウムとなる。逆に、充電過程においては硫化(II)リチウムの硫黄が酸化されて硫化物イオンとなり、さらに酸化が進んで硫黄となる。この過程においては、充放電がスムーズに進むためには硫黄にリチウムイオン、電子が供給されやすいことが重要である。硫黄はきわめて絶縁性が高いため電子供給が困難であるが、本発明のカーボン硫黄複合体は、微細構造に硫黄が充填されているため、電子電導がしやすいうえに充放電過程での硫黄の溶出がしにくい。そのため良好な放電容量が得られる。
【0036】
パインダーポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴムなどのゴムから選択することができる。
【0037】
溶剤としては特に限定されないが、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、水、n-ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、などが上げられる。
【0038】
電極を作製する手法は特に限定されないが、上記バインダーポリマー、電極活物質、導電助剤、及び溶剤を各種分散・混練機で混練してペーストとし、集電体に塗布・乾燥することで作製する。電流集電体としては、ステンレススチール・アルミニウム、カーボンペーパー、銅などを用いることができ、中でもアルミニウムが好適に用いられる。
【0039】
分散・混練手法としては、自動乳鉢・三本ロール・ビーズミル・遊星ボールミル・自公転ミキサー・湿式ジェットミル・ホモジェナイザー・プラネタリーミキサーなどを利用した手法などが挙げられる。
【0040】
分散・混練して得られたペーストを集電体に塗布する手法としては、バーコータ・ドクターブレードによる塗布、スリットコーター、ダイコーター、ブレードコーターなどが挙げられる。
【0041】
(負極)
負極としてはリチウムイオンを脱挿入可能な材料を含有する合剤を銅箔などの集電体に担持したものを用いることができ、リチウム金属・リチウム合金などを用いることもできる。
【0042】
リチウムイオンを脱挿入可能な材料としては、SiOやSiC、SiOC等を基本構成元素とするケイ素化合物、ポリアセチレンやポリピロール等のリチウムをドープした導電性高分子、リチウムイオンを結晶中に取り込んだ層間化合物や天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボンなどの炭素材料等が用いられている
本発明のカーボン硫黄ナノ粒子複合体を正極材料として用いる場合、正極にリチウム源がないので負極材料にリチウム元素が含まれて居ない場合は予めドープする必要がある。
【0043】
(電解質)
正極・負極の間に配置される電解質は固体電解質でも良く、液体電解質であっても良い。液体電解質を用いる場合は、通常セパレーターフィルムを使用する。
【0044】
セパレーターフィルムとしてはポリオレフィン樹脂・フッ素含有樹脂・アクリル樹脂などが用いられ、不織布・多孔質膜などの形態のものを用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を具体的かつより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。実施例中の放電容量は、下記の方法によって測定した。
【0046】
(放電容量測定方法)
直径16.1mm厚さ0.2mmに切り出したリチウム箔を負極とし、直径17mmに切り出したセルガード#2400(セルガード社製)セパレータとして、下記実施例で作製した電極を直径15.9mmに打ち抜いて正極とし、電解液としてLiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)を1M含有するポリエチレングリコールジメチルエーテル(Mn=500、アルドリッチ社)の溶媒を電解液として、2042型コイン電池を作製し、電気化学評価を行った。レート0.5C(840mA/g)、上限電圧3.0V、下限電圧1.5Vで充放電測定を3回行い、三回目の放電時の硫黄重量あたりの放電容量を、実施例における放電容量とした。
【0047】
(酸化グラフェンの元素比の測定)
各サンプルのXPSスペクトルはQuantera SXM (PHI 社製))を使用して、測定する。励起X 線は、monochromatic Al Kα1,2線(1486.6 eV)であり、X 線径は200μm、光電子脱出角度は45°である。酸化グラフェンの酸素原子の炭素原子に対する比はXPSスペクトル強度から求める。
【0048】
(充填率)
カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡による電子エネルギー損失分光法にて断面観察し、カーボン部分を検出し硫黄部分と区別した。続いて、測定例1記載のカーボン材料の空隙に相当する部分において、硫黄部分の面積比率を測定した。この測定を30箇所測定し、その平均値を空隙中の硫黄充填率とした。
【0049】
(硫黄の含有量)
カーボン硫黄複合体を元素分析により測定した。CHN元素分析はvarioMicrocube(Elementar社)により行いC元素、H元素、N元素の比を分析した。また、varioEL-III(Elementar社)のCHN-O(Oモード)によりO元素に比を分析した。さらにカーボン硫黄複合体をフラスコ燃焼法-イオンクロマトグラフィーにより、S元素含有比を分析した。以上の3つの分析により、C,H,N,O,Sの5元素の含有比を決定した。
【0050】
(硫黄の酸化度)
硫黄の酸化度はX線光電子分光測定により測定したときの硫黄に由来するピークのピークシフトから求められる。硫黄を含有する試料を測定すると164eV付近に炭素に由来するピークが検出される。炭素が酸素に結合している場合は、高エネルギー側の168eV付近にシフトすることが知られている。硫黄に基づくピークをピーク分割し、硫黄-酸素結合によりピークシフトしている成分のピーク面積を割り出し、(硫黄-酸素結合に基づくピーク面積)]/(硫黄に基づくピーク面積)を硫黄の酸化度として定義する。
【0051】
(規則構造の観察)
複合体を樹脂包埋し、研磨およびイオンエッチングすることにより薄膜化処理してから、透過電子顕微鏡により200万倍以上の高解像度で観察する。
【0052】
[合成例1]
酸化グラフェンの作製方法:2000メッシュの天然黒鉛粉末(上海一帆石墨有限会社)を原料として、氷浴中の10gの天然黒鉛粉末に、220mlの98%濃硫酸、5gの硝酸ナトリウム、30gの過マンガン酸カリウムを入れ、1時間機械攪拌し、混合液の温度は20℃以下で保持した。上述混合液を氷浴から取り出し、35℃水浴中で4時間攪拌反応し、その後イオン交換水500mlを入れて得られた懸濁液を90℃で更に15分反応を行った。最後に600mlのイオン交換水と50mlの過酸化水素を入れ、5分間の反応を行い、酸化グラフェン分散液を得た。熱いうちにこれを濾過し、希塩酸溶液で金属イオンを洗浄し、イオン交換水で酸を洗浄し、pHが7になるまで洗浄を繰り返し、酸化グラフェンゲルを作製した。酸化グラフェンゲルを凍結乾燥することで、酸化グラフェン粉末を得た。作製した酸化グラフェンゲルの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.53であった。
【0053】
[合成例2]
硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムの量の黒鉛に対する比を合成例1の85%とした以外は、合成例1と同様に、酸化グラフェンゲルを作製した。作製した酸化グラフェンゲルの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.47であった。
【0054】
[合成例3]
硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムの量の黒鉛に対する比を合成例1の70%とした以外は、合成例1と同様に、酸化グラフェンゲルを作製した。作製した酸化グラフェンゲルの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.45であった。
【0055】
[合成例4]
硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムの量の黒鉛に対する比を合成例1の55%とした以外は、合成例1と同様に、酸化グラフェンゲルを作製した。作製した酸化グラフェンゲルの酸素原子の炭素原子に対する元素組成比は0.44であった。
【0056】
[実施例1]
市販の硫黄粉末(Alfa Aeser,325mesh)4重量部と[合成例1]で作製した酸化グラフェン粉末1.7重量部を乳鉢で混合した後に、155℃で2時間加熱した。加熱した粉末を再び乳鉢で粉砕した後に、遊星ボールミルで300rpmで2時間混合し、カーボン硫黄複合体を作製した。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量は81%、充填率は78%であった。硫黄の酸化度は0.18であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところ1000nm2以上の連続領域にわたって硫黄と酸素が区別できない領域が存在した。透過電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0057】
カーボン硫黄複合体を80重量部、導電助剤としてアセチレンブラックを8重量部、バインダーとしてポリ弗化ビニリデン10重量部、溶剤としてN-メチルピロリドンを、200重量部加えて、プラネタリーミキサーで混合して電極ペーストを得た。電極ペーストをアルミニウム箔(厚さ18μm)にアプリケータ(80μm)を用いて塗布し、80℃30分間乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、985mAh/gであった。
【0058】
[実施例2]
市販の硫黄粉末(Alfa Aeser,325mesh)4重量部と[合成例2]で作製した酸化グラフェン粉末1.7重量部を乳鉢で混合した後に、155℃で2時間加熱した。加熱した粉末を再び乳鉢で粉砕した後に、遊星ボールミルで300rpmで2時間混合し、カーボン硫黄複合体を作製した。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量は80%、充填率は78%であった。硫黄の酸化度は0.17であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところ1000nm2以上の連続領域にわたって硫黄と酸素が区別できない領域が存在した。
該カーボン硫黄複合体を用いて、実施例1と同様にして電極を作製し、電極の放電容量を測定したところ、1023mAh/gであった。
【0059】
[実施例3]
市販の硫黄粉末(Alfa Aeser,325mesh)4重量部と[合成例3]で作製した酸化グラフェン粉末1.7重量部を乳鉢で混合した後に、155℃で2時間加熱した。加熱した粉末を再び乳鉢で粉砕した後に、遊星ボールミルで300rpmで2時間混合し、カーボン硫黄複合体を作製した。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量は80%、充填率は76%であった。硫黄の酸化度は0.15であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところ1000nm2以上の連続領域にわたって硫黄と酸素が区別できない領域が存在した。
該カーボン硫黄複合体を用いて、実施例1と同様にして電極を作製し、電極の放電容量を測定したところ、976mAh/gであった。
【0060】
[実施例4]
市販の硫黄粉末(Alfa Aeser,325mesh)4重量部と[合成例4]で作製した酸化グラフェン粉末1.7重量部を乳鉢で混合した後に、155℃で2時間加熱した。加熱した粉末を再び乳鉢で粉砕した後に、遊星ボールミルで300rpmで2時間混合し、カーボン硫黄複合体を作製した。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量は79%、充填率は73%であった。硫黄の酸化度は0.13であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところ1000nm2以上の連続領域にわたって硫黄と酸素が区別できない領域が存在した。
該カーボン硫黄複合体を用いて、実施例1と同様にして電極を作製し、電極の放電容量を測定したところ、954mAh/gであった。
【0061】
[実施例5]
市販の硫黄粉末(Alfa Aeser,325mesh)4重量部と[合成例2]で作製した酸化グラフェン粉末1.7重量部を乳鉢で混合した後に、130℃で2時間加熱した。加熱した粉末を再び乳鉢で粉砕した後に、遊星ボールミルで300rpmで2時間混合し、カーボン硫黄複合体を作製した。該カーボン硫黄複合体の元素分析を行ったところ、炭素と硫黄の比はほぼ1:4であった。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量は77%、充填率は71%であった。硫黄の酸化度は0.17であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところ1000nm2以上の連続領域にわたって硫黄と酸素が区別できない領域が存在した。該カーボン硫黄複合体を実施例1と同様に電極にして、電極の放電容量を測定したところ、943mAh/gであった。
【0062】
[比較例1]
市販の硫黄粉末(Alfa Aeser,325mesh)4重量部とアセチレンブラック(電気化学社)1重量部を遊星ボールミルで300rpmで2時間混合し、カーボン硫黄混合体を作製した。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量80%あった。硫黄の酸化度は0.02であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところ、アセチレンブラックと硫黄の構造が明確に区別することが可能であった。該カーボン硫黄混合体を実施例1と同様に電極にして、電極の放電容量を測定したところ、660mAh/gであった。
【0063】
[比較例2]
5.8重量部の硫化ナトリウムと、7.2重量部の硫黄粉末を、250重量部のイオン交換水中で混合し、多硫化ナトリウム水溶液を得た。合成例2で作製した酸化グラフェン粉末1.8重量部に1800重量部のイオン交換水を加え、超音波分散することで酸化グラフェン分散水溶液を作製した。該多硫化ナトリウム水溶液と、酸化グラフェン水溶液を混合し、さらに臭化セチルトリメチルアンモニウムを5重量パーセント濃度で加えてよく攪拌した後、2モル/リットル濃度のギ酸を1000重量部加えて2時間攪拌した。その後溶液を濾過して、カーボン硫黄複合体を得た。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量は87%、充填率は56%であった。硫黄の酸化度は0.03であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところグラフェン層と硫黄層が存在し明確に区別することができた。該カーボン硫黄複合体を実施例1と同様に電極にして、電極の放電容量を測定したところ、643mAh/gであった。
【0064】
[比較例3]
[合成例1] で得られた酸化グラフェン粉末を石英チューブに入れ、予め1050℃に加熱してあるアルゴン雰囲気下の電気炉に、その石英チューブごと導入し、酸化グラフェン粉末を急加熱して熱還元することで、グラフェン粉末を得た。
【0065】
該グラフェン粉末と1重量部と、市販の硫黄粉末(Alfa Aeser,325mesh)4重量部を乳鉢で混合した後に、155℃で2時間加熱した。加熱した粉末を再び乳鉢で粉砕した後に、遊星ボールミルで300rpm2時間混合し、カーボン硫黄複合体を作製した。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量は80%、充填率は46%であった。硫黄の酸化度は0.03であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところ、加熱により規則的に広がったグラフェン層内に硫黄層が存在し明確に区別することができた。該カーボン硫黄複合体を実施例1と同様に電極にして、電極の放電容量を測定したところ、754mAh/gであった。
【0066】
[比較例4]
市販の硫黄粉末(Alfa Aeser,325mesh)4重量部と[合成例1]で作製した酸化グラフェン粉末1.7重量部を乳鉢で混合した後に、80℃で2時間加熱した。加熱した粉末を再び乳鉢で粉砕した後に、遊星ボールミルで300rpm2時間混合し、カーボン硫黄複合体を作製した。該カーボン硫黄複合体の硫黄含有量は81%、充填率は41%であった。硫黄の酸化度は0.10であった。該カーボン硫黄複合体を透過電子顕微鏡により観察したところ、酸化グラフェンと硫黄とが分離した構造が観察された。該カーボン硫黄複合体を用いて、実施例1と同様にして電極を作製し、電極の放電容量を測定したところ、826mAh/gであった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のカーボン硫黄複合体の製造方法で製造されたカーボン硫黄複合体は、特に用途は限定されないが、例えばリチウムイオン電池の電極材料として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 炭素・硫黄複合体
2 包埋樹脂
図1