特許第6182921号(P6182921)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182921
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】MOS型半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20170814BHJP
【FI】
   H01L29/78 652E
   H01L29/78 653B
   H01L29/78 653A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-58527(P2013-58527)
(22)【出願日】2013年3月21日
(65)【公開番号】特開2014-183292(P2014-183292A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2015年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161562
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 朗
(72)【発明者】
【氏名】井上 正範
【審査官】 早川 朋一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−080571(JP,A)
【文献】 特開平10−209432(JP,A)
【文献】 特開2007−088010(JP,A)
【文献】 特開2012−253276(JP,A)
【文献】 特開平05−206407(JP,A)
【文献】 特開2009−218304(JP,A)
【文献】 米国特許第6303410(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 21/336
H01L 29/739
H01L 21/331
H01L 29/06−29/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型ドレイン領域と
該第1導電型ドレイン領域上に配置される第1導電型ドリフト領域と、
該第1導電型ドリフト領域の表面層に選択的に配置される第2導電型ウェル領域と、
該第2導電型ウェル領域の表面層に選択的に配置される第1導電型ソース領域と、
該第1導電型ソース領域と前記第1導電型ドリフト領域の表面層とに挟まれる前記第2導電型ウェル領域の表面に配置される絶縁膜と、
該絶縁膜の上面に配置されるゲート電極と、
該ゲート電極と前記絶縁膜を挟んで隣り合う前記第2導電型ウェル領域の表面層にチャネル形成領域と、を有し、
チャネル形成領域内の表面には段差を備え
該段差は前記チャネル形成領域の周辺長方向に沿って全長に亘って形成され、前記第1導電型ドリフト領域の主面に平行で該主面に直交する方向の高さが低い低部と、前記第1導電型ドリフト領域の前記主面に平行で前記主面に直交する方向の高さが前記低部より高い高部と、を備えることを特徴とするMOS型半導体装置。
【請求項2】
前記段差の前記低部側表面に前記第1導電型ソース領域を有することを特徴とする請求項1記載のMOS型半導体装置。
【請求項3】
前記段差の前記高部側表面に前記第1導電型ソース領域を有することを特徴とする請求項1記載のMOS型半導体装置。
【請求項4】
前記MOS型半導体装置がMOSFETであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のMOS型半導体装置。
【請求項5】
前記段差の高さは0.1μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のMOS型半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MOSFET(絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)などのMOS型半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
世の中の省エネルギー化の動きに合わせて、MOSFETはオン抵抗(Ron)低減を目的として、図13(a)から図13(b)へというように、MOS構造を含む表面セルパターン(101、102)の微細化が進んでいる。図13(a)の破線枠で示すセルパターン101の2分の1ピッチサイズの拡大断面図を図2に、図13(b)の破線枠で示すセルパターン102の2分の1ピッチサイズの拡大断面図を図3にそれぞれ示す。セルピッチbはセルピッチaより小さい。従って、セルピッチbのMOS構造のチャネル長Lは、セルピッチaのMOS構造のチャネル長Lより短いので、図13(b)のMOSFETは図13(a)のMOSFETよりオン抵抗を低減することができる。
【0003】
MOSFETの重要な特性であるオン抵抗(Ron)を大まかに分離すると、図12のMOSFETの要部断面図で示すように、Rch(チャネル抵抗)、Rjfet(接合FETに基づく抵抗)、Repi(エピタキシャル成長により形成されたn型ドリフト層2の抵抗)の三つの抵抗成分となる。すなわち、1つは、MOS構造のnチャネル5の抵抗成分であるRchである。次に、隣り合うp型ボディ領域3に挟まれたn型ドリフト層2の表面層の抵抗であるRjfetである。さらに、耐圧に依存するn型ドリフト層2の抵抗のRepiである。また、RjfetとRepiは、擬平面接合(Quasi−Plane−Junction)の形状とも関連して定まる。それぞれのオン抵抗(Ron)成分を低減する方法として従来から知られている方法について説明する。
【0004】
Rch(チャネル抵抗)の低減については、前述のようにセルパターンの微細化によりチャネル長Lを短くする方法およびセルピッチ縮小による系列回路増加などがよく知られている一般的な方法である。
【0005】
Rjfet(接合FETに基づく抵抗)の低減については、接合FET領域(p型ボディ領域3の間)の幅B、その不純物濃度の最適化およびセルピッチ縮小による系列回路増加などの方法が行われる。いずれもセルパターンの微細化が関係する。
【0006】
Repi(n型ドリフト層2の抵抗)の低減としては、以下の方法がある。p型ボディ領域3を稠密に配置して平面に近い擬平面接合とする。この擬平面接合により、p型ボディ領域3による接合面を、本来の平面接合に十分近づけて、接合面を平面に近い波型の形状とする。これにより、pn接合面の形状によって決まる耐圧を平面接合による理論耐圧に近い値まで増加させることができる。従来は、n型ドリフト層2の比抵抗を、理論耐圧が得られる比抵抗値よりも高くしてオン抵抗を犠牲にすることにより、高い耐圧を維持していた。しかしながら、p型ボディ領域3のpn接合を擬平面接合とすることにより、同耐圧での低比抵抗化を可能とし、その結果、n型ドリフト層2の抵抗成分(Repi)の低減を図ることができる。
【0007】
これら三つの抵抗成分の低減には、いずれもセルパターンの微細化が共通の要件である。前述の図13(a)から図13(b)への従来のMOSFETのセルパターンの微細化もこの流れに沿ったものである。
【0008】
このようなMOSFETのセルパターンの微細化とオン抵抗(Ron)の低減およびSOAの改善に関して、次のような文献の存在が知られている。IGBT(Insulated Gate Bipola Transistor)デバイスに関して、チャネル長(L)を長く(Rchを大きく)してSOAを改善する方法の記載がある(特許文献1)。また、同じくIGBTに関するデバイスであるが、nチャネルのプレーナ部分とゲートトレンチの側壁の垂直部分のnチャネルを組み合わせた非直線状のチャネル形状が記載されている(特許文献2)。さらに、前述したオン抵抗(Ron)とSOAのトレードオフが顕在化するという課題に対する解決策として、p型ボディ領域3内の対向するチャネルのゲート閾値電圧(Vth)をそれぞれ変えることで、チャネルコンダクタンスGdを下げることが記載されている(特許文献3)。また、プレーナ型MOSFETのセルパターンを微細化する技術について記載された文献がある(特許文献4)。浅いトレンチに関する技術について記載された文献もある(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−24184号公報
【特許文献2】特開2010−272741号公報
【特許文献3】特表2004−511084号公報
【特許文献4】特開2003−008014号公報
【特許文献5】特開平8−236766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、オン抵抗(Ron)の低減を目的にして、セル構造の微細化が図られたMOSFETは、その安全動作領域(SOA:Safe Operation Area)に関しては、図4図5に○印で示すように、高電圧側で、安全動作領域(以降SOA)が小さくなるという問題が生じることがある。図4図5は、定格電圧が250V、定格電流が図4は13A、図5は42AのMOSFETにおけるSOAを示すVds−Id特性図である。図4図13(a)のMOSFETに、図5図13(b)のMOSFETにそれぞれ対応する。
【0011】
例えば、図4で20Vと250Vを比較するとSOAは1000Wから750Wへダウン、図5で10Vと250Vの比較から1000Wから125Wへそれぞれダウンしている。
【0012】
前述した問題に関してさらに詳述する。このように、SOAが小さくなる原因は、セル構造(セルパターン)の微細化を行った従来のMOSFETの飽和領域での発熱分布をそれぞれ示す図6(MOSFETの定格250V、13A)、図7(MOSFETの定格250V、42A)のように、デバイスチップ内に局所発熱が起こっているためであると考えられる。図6図7は、それぞれ図4図5に対応する樹脂封止タイプ(パッケージ型:TO220)のMOSFETの飽和領域での通電時の発熱状態を示す上面図である。図6図7は、MOSFETチップの発熱状態について、発熱温度が高い領域部分がより黒く見えるようにハッチングを描くとともに封止樹脂を除いて図案化したものである。それぞれのハッチングに対応する温度範囲を図6図7に記入した。図6図7の比較では、図6図7より、高発熱領域が広いことが分かる。なお、図6図7の各上面図には、参考までに半導体装置の各要素名(MOSFETチップ、ゲート端子、ドレイン端子、ソース端子、ソース、ゲート接続ワイヤ、金属フレーム等)について記入されている。
【0013】
MOSFETチップにこのような局所発熱が起きる理由を、図8図9のMOSFETのゲート電圧Vgに対するチャネルコンダクタンスGd(ドレイン−ソース間電流Idの勾配)と温度特性との関係を表す図を参照して説明する。図8図6にかかるMOSFETに、図9図7にかかるMOSFETにそれぞれ対応する。
【0014】
温度(接合温度)に対する、ゲート閾値電圧Vthおよびキャリア移動度の依存性と、各MOSFETデバイスのドレイン−ソース間電流(Id)(以降、単に電流(Id)と略記)のゲート電圧(Vg)への依存性を組み合わせると、順方向伝達特性図(図8図9)が得られる。すなわち、この特性図は所定のゲート電圧Vgにおいて、どれくらいの電流(Id)がMOSFETのチャネルを通して流れるかを、異なる温度(接合温度)をパラメータとして、ゲート電圧(Vg)に対してプロットしたものである。一般的に、チャネルコンダクタンス(Gd)(この曲線の勾配)は温度とともに減少する。図8図9ではともに、異なる温度で形成された複数のプロット線が1つの点を通って交差することを示している。この複数のId−Vg曲線が交差する点をクロスポイントと呼ぶ。
【0015】
クロスポイントより下の電流(Id)およびVgでは、Idは一定のVgに対して温度の上昇とともにより増加する(正の温度係数)。例えば、MOSFETのある箇所、すなわち1つの単位セルあるいは複数に隣り合うセルを考える。ここでセルとは、1つのゲートを含むMOSFETの単位であり、例えば図1はセルの半分を示す。クロスポイントよりも下のIdもしくはVgでは、何らかの原因で、ある特定の箇所に電流が集中すると、その箇所の温度(接合温度)が上昇する。すると、ゲート電圧が一定の場合、Id−Vg特性が正の温度係数を有するために、その箇所の電流が増加するようになる。その結果、より多くの電流が特定の箇所に集中されるようになるため、Idに正帰還が働き、温度の上昇に対してMOSFETの電流動作が不安定になる。
【0016】
一方、クロスポイントよりも上のIdもしくはVgでは、Idは一定のVgに対して温度の上昇とともに減少する(負の温度係数)。これにより、ある箇所で電流が集中し温度が上昇しても、その箇所の電流は減少するので、Idには負帰還が働く。その結果、MOSFETの電流動作は温度の上昇に対して安定になる。
【0017】
クロスポイントより下のIdおよびVgにおける動作の不安定性について説明する。クロスポイントより下で動作する場合、何らかのウェハプロセスの不具合またはパッケージングの不均質性に起因して、デバイスチップの局所領域の温度が高くなると、ゲート閾値電圧(Vth)が下がる。ゲート閾値電圧(Vth)が下がると、ゲート駆動が強くなって、電流(Id)を上昇させる。この上昇する電流(Id)によって、局所領域においてさらに熱が発生し、ゲート閾値電圧(Vth)がさらに下がる。こうして正帰還ループが生じる結果、ホット・スポッティングおよび最終的にはデバイスの熱暴走などによる故障または破壊に至ることになる。
【0018】
図9は、図8よりセルパターンの微細化がよりいっそう進められている従来のMOSFETデバイス(図13(b))の順方向伝達特性図を示している。図8(MOSFETの定格250V、13A)と図9(MOSFETの定格250V、42A)に示すように、デバイスチップのセルパターンの微細化を進めるにつれて、図8より図9の「正」の温度係数の領域(クロスポイントより下の領域)が広くなっていることが分かる。
【0019】
1つのデバイス内でも当然ゲート閾値電圧(Vth)バラツキがあり、最もゲート閾値電圧(Vth)が低いところからドレイン−ソース間電流(Id)(以降、電流(Id))が流れ始める。こうして電流(Id)が局部的に流れることにより、その局部エリアは発熱するが、このときチャネルコンダクタンスの温度係数が正であるとさらに電流が流れやすくなり電流集中によりSOAが小さくなる。逆に温度係数が負であれば温度上昇に伴い電流(Id)が流れにくくなり、電流(Id)はデバイス内で均一化される。その結果、デバイス全体で均一に電流(Id)を流すためデバイスサイズに応じたSOAが広く確保されるのだと考えられる。
【0020】
ところが、前述の図13(a)から図13(b)への微細化のように、単なるセルパターンの微細化のみでは、たとえ、オン抵抗(Ron)が小さくなると、同時にSOAも小さくなる(悪化する)。よって、前述のように、オン抵抗(Ron)とSOAのトレードオフが顕在化することが新たな問題となるのである。
【0021】
本発明は、以上説明した点を考慮してなされたものであり、本発明の目的は、低オン特性を維持したまま、高電圧域の安全動作領域を拡大することのできるMOS型半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、前述の課題を解決するために、第1導電型ドレイン領域と、該第1導電型ドレイン領域上に配置される第1導電型ドリフト領域と、該第1導電型ドリフト領域の表面層に選択的に配置される第2導電型ウェル領域と、該第2導電型ウェル領域の表面層に選択的に配置される第1導電型ソース領域と、該第1導電型ソース領域と前記第1導電型ドリフト領域の表面層とに挟まれる前記第2導電型ウェル領域の表面に配置される絶縁膜と、該絶縁膜の上面に配置されるゲート電極と、該ゲート電極と前記絶縁膜を挟んで隣り合う前記第2導電型ウェル領域の表面層にチャネル形成領域と、を有し、該チャネル形成領域内の表面には段差を備え該段差は前記チャネル形成領域の周辺長方向に沿って全長に亘って形成され、前記第1導電型ドリフト領域の主面に平行で該主面に直交する方向の高さが低い低部と、前記第1導電型ドリフト領域の前記主面に平行で前記主面に直交する方向の高さが前記低部より高い高部と、を備えることを特徴とするMOS型半導体装置とする。前記段差の低部側表面に前記第1導電型ソース領域を有することが好ましい。前記段差の高部側表面に前記第1導電型ソース領域を有することも好ましい。前記MOS型半導体装置がMOSFETであることが好適である。前記段差の高さは0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、低オン特性を維持したまま、高電圧域の安全動作領域を拡大することのできるMOS型半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明にかかるプレーナ形MOSFETの要部断面図である。
図2】従来のMOSFETの要部断面図である。
図3】従来のMOSFETの要部断面図である。
図4】従来のMOSFETの安全動作領域(SOA)を示す図である。
図5】従来のMOSFETの安全動作領域(SOA)を示す図である。
図6】従来のMOSFETの飽和領域での発熱分布を示す上面図である。
図7】従来のMOSFETの飽和領域での発熱分布を示す上面図である。
図8】従来のMOSFETのVg−Id特性の温度依存性を示す特性図である。
図9】従来のMOSFETのVg−Id特性の温度依存性を示す特性図である。
図10】本発明にかかるMOSFETと従来のMOSFETの、各Vg−Id特性の温度依存性を示す特性図である。
図11】本発明にかかるMOSFETと従来のMOSFETのSOA比較図である。
図12】MOSFETのオン抵抗の主要な3つの抵抗成分を示す要部断面図である。
図13】従来のMOSFETの、セルピッチの異なる要部断面図である。
図14】本発明にかかるプレーナ形MOSFETの要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のMOS型半導体装置にかかる実施例について、図面を参照して詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれ相対的に不純物濃度が高いまたは低いことを意味する。なお、以下の実施例の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、実施例で説明される添付図面は、見易くまたは理解し易くするために正確なスケール、寸法比で描かれていない。本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する実施例の記載に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
図1は本発明にかかるプレーナ型縦型パワーMOSFETの1/2セル構造を示す要部断面図である。このプレーナ型縦型パワーMOSFETの構造について以下説明する。実施例1のプレーナ型縦型パワーMOSFETの定格電圧は30V〜600V(実施例1では250V)で、定格電流は1A〜100A(実施例1では42A)である。ドレイン領域でもあるn型低抵抗領域1は例えば、不純物濃度:7×1017atm/cm−3〜6×1019atm/cm−3にされる。このn型低抵抗領域1(ドレイン領域)上にエピタキシャル成長法などにより堆積され、電圧支持機能を備えるn型ドリフト層2(例えば、不純物濃度:7.8×1016atm/cm−3〜8.5×1013atm/cm−3、厚み:3μm〜50μm)を有する。実施例1では、例えば不純物濃度8.8×1014atm/cm−3で、厚み25μmである。n型ドリフト層2の表面層にイオン注入によりウェル状に選択的に形成されるp型ボディ領域3a(例えば、不純物濃度:1×1016atm/cm−3〜5×1018atm/cm−3、厚み:1μm〜10μm)を有する。実施例1では、例えば不純物濃度8×1016atm/cm−3で、厚み3.5μmである。該p型ボディ領域3a内の表面層に形成されるn型ソース領域4は例えば、不純物濃度:1×1019atm/cm−3〜1×1022atm/cm−3、厚み:0.1μm〜2.0μmにされる。実施例1では、例えば不純物濃度1×1022atm/cm−3で、厚み0.3μmである。さらに、半導体基板表面に露出するn型ドリフト層2の表面層とn型ソース領域4の表面層とに挟まれた箇所に、p型ボディ領域3aの表面に沿ったチャネル形成領域5aを備える。また、チャネル形成領域5aの表面上には、ゲート絶縁膜9(例えば、厚み:100Å〜1200Å)を介して堆積されるポリシリコンからなるゲート電極6とを備える。実施例1では、ゲート絶縁膜9の厚さは、例えば1000Åである。また、以上の構造により、Vthは0.5V〜6.0Vに調整され、実施例1では、例えば3.5Vである。前記n型低抵抗領域1の裏面側にはドレイン電極8が設けられ、前記n型ソース領域の表面にはソース電極7が設けられる。前記n型ドリフト層2は前記n型低抵抗領域1と同電位であり、ドレイン領域でもある。
【0027】
このプレーナ型MOSFET200aは、ゲート閾値電圧Vth以上のゲート電圧がゲート電極6とソース電極7間に印加されると前記チャネル形成領域5aにnチャネルが形成される。これにより、n型ソース領域4とn型ドリフト層2およびドレイン領域1を結ぶn型の電子の通路が形成される。
【0028】
図1に示す本発明のプレーナ型MOSFET200aの特徴的な構造は、前記チャネル形成領域5aの表面が平坦面ではなく、n型ドリフト層2側の表面がn型ソース領域4側の表面より高い段差を有することである。チャネル形成領域5aの表面にこのような段差を設けることにより、セルピッチを大きくすることなく、チャネル長(L)を長くすることができる。ここでチャネル長とは、チャネル形成領域で、電流が流れる方向の距離である。また、このチャネル形成領域の前記チャネル長の方向に対して、その直角の方向の全長をチャネル周辺長とする。図14は前記図1とは逆に、n型ドリフト層2側の表面がn型ソース領域4側の表面より低い段差を有するチャネル形成領域5bである点が異なるプレーナ型MOSFET200bである。このチャネル形成領域5bの段差の高さはいずれも0.1μm〜10.0μm程度とすることが好ましい。段差の高さの下限値を0.1μmとする理由は、SOA改善効果が有意差として確認できるのは後述するGdを10%以上低減させた場合である。一般的なMOSでチャネル長の最少値は1.0μm程度でありGdを10%低減するためにはチャンネル長を10%長くすれば良く、このための段差の最小値が0.1μmである。同じく上限値を10.0μmとする理由は、段差部は全てp型ボディ領域で覆われている必要があり、一般的なMOSのp型ボディ領域の最大厚みが段差の上限値である。より好ましくは、0.1μm以上3.0μm以下である。
【0029】
後述する原理により、チャネル長(L)が長くなるように段差を形成することにより、セルピッチを広げずに高電圧側SOAの低下を抑制することができる。従来のチャネル形成領域のように、段差を設けないで単純に(直線的に)チャネル長(L)を長くすると、セルピッチの増加につながり、セル密度が低下し電流経路(チャネル幅またはチャネルの周辺長(Z))が減ってオン抵抗(Ron)が増加する。
【0030】
前述したように、セルピッチを広げることなくチャネル長(L)を長くする構成を備える本発明にかかるMOSFETによれば、オン抵抗の増加を抑えつつ、SOAを拡大させることができる理由について以下説明する。
【0031】
MOSFETの高電圧域のSOAが縮小することを示すVg−Id特性に関して、ゲート電圧(Vg)を増加させたときの、電流(Id)の増加の仕方(ドレイン−ソース間電流Idの勾配)は、チャネルコンダクタンス(Gd)と等価であると考えられる。すなわち、チャネルコンダクタンス(Gd)を式で表すと次の式(1)のようになる。
【0032】
【数1】
【0033】
Vthが温度の上昇に対して減少するため、Vg−Vthは増加する。μは温度の上昇に対して減少するものの、それよりもVthの減少の方が大きいため、この式(1)は温度に対して負の特性を示す。そのため、温度が上昇するほどチャネルコンダクタンス(Gd)が大きくなり電流(Id)が増加する。
【0034】
これに対して、分母のチャネル長(L)を大きくすれば、チャネルコンダクタンス(Gd)は減少する。これにより、Vth減少によるGdの増加を緩和することができる。
以上より、チャネル長(L)を長くすることがVg−Id特性の温度係数の「負」の領域を広くする(すなわち、Vg−Id特性の温度特性クロスポイントを低電流(Id)側に下げる)ことになり、SOAを拡大させることができる。
【0035】
本発明のMOSFET(図1)と従来のMOSFET(図13(b))のVg−Id特性を図10に、本発明について×と☆印で、従来のMOSFETについて□と○印でそれぞれ比較して示す。本発明のMOSFET(図1)はチャネル長(L)が長くされているので、図10の矢印に示すようにVg−Id特性の温度特性の正/負のクロスポイントを低電流(Id)側に下げることができる。この結果、図11の本発明のMOSFET(図1)と従来のMOSFET(図13(b))にかかるSOAを破線と実線とで比較して示すVds−Id特性図のように、本発明のMOSFETがSOA(破線)を従来に比べて拡大できることが分かる。図11から、前述のSOA拡大の効果はドレインーソース間電圧(Vds)の高電圧側で特に顕著であることも示されている。理想的にはデバイスサイズとフレームの熱抵抗から決まるパワー一定のSOAが得られる。
【0036】
また、本発明にかかるチャネル形成領域表面に形成される段差部では、Si半導体基板の面方位が変わるので、移動度μが低下することにより、チャネルコンダクタンス(Gd)を低く抑える効果も奏することができる。
【0037】
以上説明した本発明の実施例にかかるMOSFETによれば、低オン抵抗特性を維持したまま、高電圧域のSOAを拡大できる。ただし、チャネル抵抗Rchは若干増加するので、特に高耐圧品(500V以上)のデバイスの場合より効果が大きく有効である。また、高電圧域を使用するリニアーレギュレータ用途などにも適している。
【符号の説明】
【0038】
1: n型低抵抗領域、ドレイン領域
2: n型ドリフト層
3、3a: p型ボディ領域
4: n型ソース領域
5: nチャネル
5a、5b:チャネル形成領域
6: ゲート電極
7: ソース電極
8: ドレイン電極
9: ゲート絶縁膜
101、102:セルパターン
200a、200b:プレーナ型MOSFET
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14