【実施例1】
【0026】
図1は本発明にかかるプレーナ型縦型パワーMOSFETの1/2セル構造を示す要部断面図である。このプレーナ型縦型パワーMOSFETの構造について以下説明する。実施例1のプレーナ型縦型パワーMOSFETの定格電圧は30V〜600V(実施例1では250V)で、定格電流は1A〜100A(実施例1では42A)である。ドレイン領域でもあるn型低抵抗領域1は例えば、不純物濃度:7×10
17atm/cm
−3〜6×10
19atm/cm
−3にされる。このn型低抵抗領域1(ドレイン領域)上にエピタキシャル成長法などにより堆積され、電圧支持機能を備えるn型ドリフト層2(例えば、不純物濃度:7.8×10
16atm/cm
−3〜8.5×10
13atm/cm
−3、厚み:3μm〜50μm)を有する。実施例1では、例えば不純物濃度8.8×10
14atm/cm
−3で、厚み25μmである。n型ドリフト層2の表面層にイオン注入によりウェル状に選択的に形成されるp型ボディ領域3a(例えば、不純物濃度:1×10
16atm/cm
−3〜5×10
18atm/cm
−3、厚み:1μm〜10μm)を有する。実施例1では、例えば不純物濃度8×10
16atm/cm
−3で、厚み3.5μmである。該p型ボディ領域3a内の表面層に形成されるn型ソース領域4は例えば、不純物濃度:1×10
19atm/cm
−3〜1×10
22atm/cm
−3、厚み:0.1μm〜2.0μmにされる。実施例1では、例えば不純物濃度1×10
22atm/cm
−3で、厚み0.3μmである。さらに、半導体基板表面に露出するn型ドリフト層2の表面層とn型ソース領域4の表面層とに挟まれた箇所に、p型ボディ領域3aの表面に沿ったチャネル形成領域5aを備える。また、チャネル形成領域5aの表面上には、ゲート絶縁膜9(例えば、厚み:100Å〜1200Å)を介して堆積されるポリシリコンからなるゲート電極6とを備える。実施例1では、ゲート絶縁膜9の厚さは、例えば1000Åである。また、以上の構造により、Vthは0.5V〜6.0Vに調整され、実施例1では、例えば3.5Vである。前記n型低抵抗領域1の裏面側にはドレイン電極8が設けられ、前記n型ソース領域の表面にはソース電極7が設けられる。前記n型ドリフト層2は前記n型低抵抗領域1と同電位であり、ドレイン領域でもある。
【0027】
このプレーナ型MOSFET200aは、ゲート閾値電圧Vth以上のゲート電圧がゲート電極6とソース電極7間に印加されると前記チャネル形成領域5aにnチャネルが形成される。これにより、n型ソース領域4とn型ドリフト層2およびドレイン領域1を結ぶn型の電子の通路が形成される。
【0028】
図1に示す本発明のプレーナ型MOSFET200aの特徴的な構造は、前記チャネル形成領域5aの表面が平坦面ではなく、n型ドリフト層2側の表面がn型ソース領域4側の表面より高い段差を有することである。チャネル形成領域5aの表面にこのような段差を設けることにより、セルピッチを大きくすることなく、チャネル長(L)を長くすることができる。ここでチャネル長とは、チャネル形成領域で、電流が流れる方向の距離である。また、このチャネル形成領域の前記チャネル長の方向に対して、その直角の方向の全長をチャネル周辺長とする。
図14は前記
図1とは逆に、n型ドリフト層2側の表面がn型ソース領域4側の表面より低い段差を有するチャネル形成領域5bである点が異なるプレーナ型MOSFET200bである。このチャネル形成領域5bの段差の高さはいずれも0.1μm〜10.0μm程度とすることが好ましい。段差の高さの下限値を0.1μmとする理由は、SOA改善効果が有意差として確認できるのは後述するGdを10%以上低減させた場合である。一般的なMOSでチャネル長の最少値は1.0μm程度でありGdを10%低減するためにはチャンネル長を10%長くすれば良く、このための段差の最小値が0.1μmである。同じく上限値を10.0μmとする理由は、段差部は全てp型ボディ領域で覆われている必要があり、一般的なMOSのp型ボディ領域の最大厚みが段差の上限値である。より好ましくは、0.1μm以上3.0μm以下である。
【0029】
後述する原理により、チャネル長(L)が長くなるように段差を形成することにより、セルピッチを広げずに高電圧側SOAの低下を抑制することができる。従来のチャネル形成領域のように、段差を設けないで単純に(直線的に)チャネル長(L)を長くすると、セルピッチの増加につながり、セル密度が低下し電流経路(チャネル幅またはチャネルの周辺長(Z))が減ってオン抵抗(Ron)が増加する。
【0030】
前述したように、セルピッチを広げることなくチャネル長(L)を長くする構成を備える本発明にかかるMOSFETによれば、オン抵抗の増加を抑えつつ、SOAを拡大させることができる理由について以下説明する。
【0031】
MOSFETの高電圧域のSOAが縮小することを示すVg−Id特性に関して、ゲート電圧(Vg)を増加させたときの、電流(Id)の増加の仕方(ドレイン−ソース間電流Idの勾配)は、チャネルコンダクタンス(Gd)と等価であると考えられる。すなわち、チャネルコンダクタンス(Gd)を式で表すと次の式(1)のようになる。
【0032】
【数1】
【0033】
Vthが温度の上昇に対して減少するため、Vg−Vthは増加する。μ
nは温度の上昇に対して減少するものの、それよりもVthの減少の方が大きいため、この式(1)は温度に対して負の特性を示す。そのため、温度が上昇するほどチャネルコンダクタンス(Gd)が大きくなり電流(Id)が増加する。
【0034】
これに対して、分母のチャネル長(L)を大きくすれば、チャネルコンダクタンス(Gd)は減少する。これにより、Vth減少によるGdの増加を緩和することができる。
以上より、チャネル長(L)を長くすることがVg−Id特性の温度係数の「負」の領域を広くする(すなわち、Vg−Id特性の温度特性クロスポイントを低電流(Id)側に下げる)ことになり、SOAを拡大させることができる。
【0035】
本発明のMOSFET(
図1)と従来のMOSFET(
図13(b))のVg−Id特性を
図10に、本発明について×と☆印で、従来のMOSFETについて□と○印でそれぞれ比較して示す。本発明のMOSFET(
図1)はチャネル長(L)が長くされているので、
図10の矢印に示すようにVg−Id特性の温度特性の正/負のクロスポイントを低電流(Id)側に下げることができる。この結果、
図11の本発明のMOSFET(
図1)と従来のMOSFET(
図13(b))にかかるSOAを破線と実線とで比較して示すVds−Id特性図のように、本発明のMOSFETがSOA(破線)を従来に比べて拡大できることが分かる。
図11から、前述のSOA拡大の効果はドレインーソース間電圧(Vds)の高電圧側で特に顕著であることも示されている。理想的にはデバイスサイズとフレームの熱抵抗から決まるパワー一定のSOAが得られる。
【0036】
また、本発明にかかるチャネル形成領域表面に形成される段差部では、Si半導体基板の面方位が変わるので、移動度μが低下することにより、チャネルコンダクタンス(Gd)を低く抑える効果も奏することができる。
【0037】
以上説明した本発明の実施例にかかるMOSFETによれば、低オン抵抗特性を維持したまま、高電圧域のSOAを拡大できる。ただし、チャネル抵抗Rchは若干増加するので、特に高耐圧品(500V以上)のデバイスの場合より効果が大きく有効である。また、高電圧域を使用するリニアーレギュレータ用途などにも適している。