特許第6182937号(P6182937)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182937
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】電力増幅器及び通信装置
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/02 20060101AFI20170814BHJP
   H03F 3/24 20060101ALI20170814BHJP
   H03F 3/68 20060101ALI20170814BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   H03F1/02
   H03F3/24
   H03F3/68 Z
   H04B1/04 A
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-76418(P2013-76418)
(22)【出願日】2013年4月1日
(65)【公開番号】特開2014-204170(P2014-204170A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】514315159
【氏名又は名称】株式会社ソシオネクスト
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】川野 陽一
【審査官】 白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第07135919(US,B2)
【文献】 米国特許第07944296(US,B1)
【文献】 特開平01−204477(JP,A)
【文献】 特開2002−100935(JP,A)
【文献】 米国特許第07728661(US,B2)
【文献】 特開2003−046340(JP,A)
【文献】 実開平03−120102(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/02
H03F 3/24
H03F 3/68
H04B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方が信号を増幅するとき、他方が信号を増幅しないように制御され、何れか一方が、信号を増幅して共通の出力端子から出力する第1増幅回路及び第2増幅回路と、
前記第1増幅回路と、前記出力端子の間に接続され、前記第1増幅回路の出力インピーダンスを変換する第1インピーダンス変換回路と、
前記第2増幅回路と、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線との間に接続され、前記第2増幅回路の出力インピーダンスを変換する第2インピーダンス変換回路と、
前記第1増幅回路が前記信号を増幅するとき、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線を基準電位に接続することにより、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線と前記基準電位の間に、前記第2インピーダンス変換回路を迂回する経路を形成する接続回路とを有することを特徴とする電力増幅器。
【請求項2】
前記接続回路は、一方の端子が、前記基準電位に接続され、他方の端子が、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線に接続されたトランジスタを含み、
前記トランジスタは、前記第1増幅回路が前記信号を増幅するとき、導通状態となることにより、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線を、前記基準電位に接続することを特徴とする請求項1に記載の電力増幅器。
【請求項3】
前記接続回路は、前記トランジスタと並列に接続されたインダクタンス素子を、さらに含み、
前記トランジスタは、前記第2増幅回路が前記信号を増幅するとき、非導通状態となり、前記一方の端子及び前記他方の端子の間の寄生容量が、前記インダクタンス素子とともに共振回路を構成することを特徴とする請求項2に記載の電力増幅器。
【請求項4】
前記第2増幅回路は、前記第2インピーダンス変換回路を介して、前記トランジスタの制御端子と接続され、
前記トランジスタは、前記第2増幅回路が前記信号を増幅するとき、前記制御端子にバイアス電圧が印加されることにより、前記第2増幅回路から前記制御端子を介して入力された前記信号を、さらに増幅することを特徴とする請求項2に記載の電力増幅器。
【請求項5】
前記第2増幅回路が前記信号を増幅する場合に前記トランジスタが非導通状態であるとき、前記第2インピーダンス変換回路を、前記トランジスタを迂回して、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線に接続する補助接続回路を、さらに有することを特徴とする請求項4に記載の電力増幅器。
【請求項6】
一端が前記トランジスタの前記他方の端子に接続された給電用インダクタンス素子と、
一端が電源に接続され、他端が前記給電用インダクタンス素子の他端に接続されて、前記トランジスタの前記制御端子に前記バイアス電圧が印加されたときに導通状態となる給電用トランジスタとを、さらに有し、
前記トランジスタは、非導通状態である場合に前記給電用トランジスタが非導通状態であるとき、前記一方の端子及び前記他方の端子の間の寄生容量が、前記給電用インダクタンス素子とともに共振回路を構成することを特徴とする請求項5に記載の電力増幅器。
【請求項7】
電力増幅器と、
信号を周波数変換して、前記電力増幅器に出力する信号処理部と、
前記電力増幅器により増幅された前記信号を送信するためのアンテナとを有し、
前記電力増幅器は、
一方が信号を増幅するとき、他方が信号を増幅しないように制御され、何れか一方が、信号を増幅して共通の出力端子から出力する第1増幅回路及び第2増幅回路と、
前記第1増幅回路と、前記出力端子の間に接続され、前記第1増幅回路の出力インピーダンスを変換する第1インピーダンス変換回路と、
前記第2増幅回路と、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線との間に接続され、前記第2増幅回路の出力インピーダンスを変換する第2インピーダンス変換回路と、
前記第1増幅回路が前記信号を増幅するとき、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線を基準電位に接続することにより、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線と前記基準電位の間に、前記第2インピーダンス変換回路を迂回する経路を形成する接続回路とを有することを特徴とする通信装置。
【請求項8】
前記信号処理部は、前記第1増幅回路及び前記第2増幅回路の何れを動作させるかを指示する指示信号を出力し、
前記電力増幅器は、前記指示信号に従って、前記第1増幅回路及び前記第2増幅回路の動作を制御する制御回路を有することを特徴とする請求項7に記載の通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、電力増幅器及び通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機やスマートフォンなどの携帯型通信装置が普及している。携帯型通信装置の重要な性能として、バッテリーの持続時間が挙げられる。バッテリーの持続時間に影響するパラメータの1つは、アンテナから送信される信号の電力を増幅する電力増幅器の増幅効率である。
【0003】
電力増幅器は、出力パワーが大きいほど、高い増幅効率を示し、出力パワーが最大(例えば24(dBm)))となる範囲で、増幅効率が最も高くなる。しかし、携帯型通信装置の実際の使用状況からすると、最大出力パワーにおける使用頻度は低く、最大出力パワーの半分程度、またはそれ以下の範囲において使用頻度が最も高くなるため、高い増幅効率が得られない。なお、出力パワーは、例えば、基地局との距離、通信の種類(データ及び音声など)、及び、通信方式(GSM(Global System for Mobile Communications、登録商標)など)に応じて決定される。
【0004】
高効率化を実現するため、マルチモードパワーアンプなどと呼ばれる電力増幅器が用いられる。マルチモードパワーアンプでは、サイズが互いに異なる複数の増幅素子を使い分けることにより、異なる出力パワーにおいて、それぞれ最も高い増幅効率が得られる。増幅素子は、サイズが大きいほど、増幅効率が最も高くなるときの出力パワーが大きい。したがって、例えば、サイズが大きい順に、出力パワーが大、中、及び小のレベル(例えば24(dBm)、14(dBm)、及び4(dBm))である場合に増幅効率が最も高くなる3種類の増幅素子を、出力パワーに応じて使い分けることにより、高い増幅効率が得られる。
【0005】
マルチモードパワーアンプに関し、例えば特許文献1には、RF(Radio Frequency)信号を増幅する高パワーの増幅器及び低パワーの増幅器が、それぞれ、トランスを介して負荷抵抗に接続された構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7,728,661号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、高出力パワーの増幅器及び低出力パワーの増幅器を使い分ける場合、各増幅器は、出力側において互いに接続されるため、使用されていない増幅器による使用中の増幅器への影響が問題となる。
【0008】
例えば、特許文献1のFIG.6A及びFIG.6Dの構成では、高出力パワーの増幅器(符号320a,320b)及び低出力パワーの増幅器(符号310a,310b)が、トランス(符号330,340)をそれぞれ介し、出力側において互いに接続されている。また、高出力パワーの増幅回路の使用時の等価回路は、同文献のFIG.6Bに記載されている。ここで、使用されていない低出力パワーの増幅器側の回路の等価インピーダンスL’は、該増幅器がローインピーダンス状態であるため、主にトランス(符号330)のインダクタンス及び寄生抵抗を含む。この寄生抵抗は、電力損失の要因となるため、増幅効率を低下させる。
【0009】
なお、このような損失は、低出力パワーの増幅器の使用時にも同様に生ずるが、高出力パワーの増幅器の使用時、低出力パワーの増幅器の使用時より大きな電流が流れるため、より大きな損失が生ずる。
【0010】
そこで本件は上記の課題に鑑みてなされたものであり、増幅効率を改善した電力増幅器及び通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書に記載の電力増幅器は、一方が信号を増幅するとき、他方が信号を増幅しないように制御され、何れか一方が、信号を増幅して共通の出力端子から出力する第1増幅回路及び第2増幅回路と、第1増幅回路と、出力端子の間に接続され、第1増幅回路の出力インピーダンスを変換する第1インピーダンス変換回路と、第2増幅回路と、第1インピーダンス変換回路及び出力端子を結ぶ配線との間に接続され、第2増幅回路の出力インピーダンスを変換する第2インピーダンス変換回路と、第1増幅回路が信号を増幅するとき、第1インピーダンス変換回路及び出力端子を結ぶ配線を基準電位に接続することにより、第1インピーダンス変換回路及び出力端子を結ぶ配線と基準電位の間に、第2インピーダンス変換回路を迂回する経路を形成する接続回路とを有する。
【0012】
本明細書に記載の通信装置は、電力増幅器と、信号を周波数変換して、前記電力増幅器に出力する信号処理部と、前記電力増幅器により増幅された前記信号を送信するためのアンテナとを有し、前記電力増幅器は、一方が信号を増幅するとき、他方が信号を増幅しないように制御され、何れか一方が、信号を増幅して共通の出力端子から出力する第1増幅回路及び第2増幅回路と、前記第1増幅回路と、前記出力端子の間に接続され、前記第1増幅回路の出力インピーダンスを変換する第1インピーダンス変換回路と、前記第2増幅回路と、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線との間に接続され、前記第2増幅回路の出力インピーダンスを変換する第2インピーダンス変換回路と、前記第1増幅回路が前記信号を増幅するとき、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線を基準電位に接続することにより、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線と前記基準電位の間に、前記第2インピーダンス変換回路を迂回する経路を形成する接続回路とを有する。
【発明の効果】
【0013】
本明細書に記載の電力増幅器及び通信装置は、増幅効率を改善できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】比較例に係る電力増幅器の出力パワーに対する増幅効率の変化及び使用頻度分布を示すグラフである。
図2】マルチモードパワーアンプの一例の概略的な構成図である。
図3】マルチモードパワーアンプの出力パワーに対する増幅効率の変化及び使用頻度分布を示すグラフである。
図4】第1実施例に係る電力増幅器の回路構成を示す回路図である。
図5】第1実施例に係る電力増幅器の高パワーモードにおける等価回路を示す回路図である。
図6】第1実施例に係る電力増幅器の低パワーモードにおける等価回路を示す回路図である。
図7】トランジスタのフィンガ数に対する損失の変化を示すグラフである。
図8】トランジスタのフィンガ数に対するドレイン−ソース間の寄生容量の変化を示すグラフである。
図9】第2実施例に係る電力増幅器の回路構成を示す回路図である。
図10】第2実施例に係る電力増幅器の低パワーモードにおける等価回路を示す回路図である。
図11】第2実施例に係る電力増幅器の高パワーモードにおける等価回路を示す回路図である。
図12】第3実施例に係る電力増幅器の回路構成を示す回路図である。
図13】第3実施例に係る電力増幅器の低パワーモードにおける等価回路を示す回路図である。
図14】第3実施例に係る電力増幅器の高パワーモードにおける等価回路を示す回路図である。
図15】第3実施例に係る電力増幅器の中パワーモードにおける等価回路を示す回路図である。
図16】通信装置における電力増幅器の実装部分の例を示す図である。
図17】実施例に係る通信装置の機構構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、比較例に係る電力増幅器の出力パワーに対する増幅効率の変化及び使用頻度分布を示すグラフである。電力増幅器は、出力パワーが大きいほど、高い増幅効率を示すが、使用頻度分布のピークは、最大出力パワーの半分程度、またはそれ以下の範囲にある(符号N参照)。このため、使用頻度が高い出力パワーの範囲内では、高い増幅効率が得られない。そこで、高効率化を実現するため、サイズが相違する複数の電力増幅器を含むマルチモードアンプが用いられる。
【0016】
図2は、マルチモードパワーアンプの一例の概略的な構成図である。マルチモードパワーアンプは、例えば、共通の出力端子Tに接続された3つの電力増幅器PA1〜PA3を含む。ここで、サイズは、増幅器PA1、増幅器PA2、増幅器PA3の順に大きいと仮定する。
【0017】
図3は、マルチモードパワーアンプの出力パワーに対する増幅効率の変化及び使用頻度分布を示すグラフである。3つの増幅器PA1〜PA3は、最大出力パワーが相違するため、互いに異なる出力パワーにおいて最大増幅効率を示す。増幅器PA1は、高い出力パワーにおいて(符号N1参照)、最大増幅効率を示し、増幅器PA2は、中程度の出力パワーにおいて、最大増幅効率を示す(符号N2参照)。ここで、中程度の出力パワーの範囲は、使用頻度分布がピークとなる範囲Nに一致する。また、増幅器PA3は、低い出力パワーの範囲N3において、最大増幅効率を示す(符号N3参照)。
【0018】
3つの増幅器PA1〜PA3は、所望の出力パワーに応じて、使い分けられる。高い出力パワーの範囲N1では、増幅器PA1が使用され、中程度の出力パワーの範囲N2では、増幅器PA2が使用される。また、低い出力パワーの範囲N3では、増幅器PA3が使用される。
【0019】
使用対象として選択された増幅器は、増幅に必要な動作電圧(例えば内蔵されたトランジスタの閾値電圧を超える電圧)が印加され、入力された信号を増幅して出力端子Tから出力し、それ以外の増幅器は、ローインピーダンス状態に維持される。このように、マルチモードパワーアンプは、所望の出力パワーに応じて、複数の増幅器PA1〜PA3から1つを選択して使用することにより、全体的な増幅効率を高めることができる(点線参照)。
【0020】
以下の実施例に係る電力増幅器は、負荷回路との間のインピーダンス整合特性が向上するように、マルチモードパワーアンプに含まれる各増幅回路の出力インピーダンスを変換するトランスを有する。使用されない増幅回路のトランスは、使用中の増幅回路から負荷回路に流れる電流の一部が流れ込むので、寄生抵抗により電力損失を生ずる要因となる。このため、実施例に係る電力増幅器は、トランスへの電流の流れ込みを抑制するように、当該電流の経路を切り替える手段を備える。
【0021】
(第1実施例)
図4は、第1実施例に係る電力増幅器の回路構成を示す回路図である。電力増幅器は、高パワー増幅回路(第1増幅回路)HPAa,HPAbと、低パワー増幅回路(第2増幅回路)LPAa,LPAbと、高パワー側トランス(第1インピーダンス変換回路)Tと、低パワー側トランス(第2インピーダンス変換回路)Tとを有する。また、電力増幅器は、整合キャパシタCxと、スイッチ回路(接続回路)SWと、出力端子Toutとを含む。
【0022】
高パワー増幅回路HPAa,HPAb及び低パワー増幅回路LPAa,LPAbは、共通の出力端子Toutに接続されている。高パワー増幅回路HPAa,HPAb及び低パワー増幅回路LPAa,LPAbは、一方がRF信号を増幅するとき、他方がRF信号を増幅しないように制御され、何れか一方が、RF信号を増幅して共通の出力端子Toutから出力する。つまり、高パワー増幅回路HPAa,HPAb及び低パワー増幅回路LPAa,LPAbのうち、使用対象として選択された一方のみが、外部から、増幅に必要な動作電圧を与えられて動作する。出力端子Toutから出力されたRF信号は、例えば50(Ω)の負荷回路RLDに入力される。なお、高パワー増幅回路HPAa,HPAb及び低パワー増幅回路LPAa,LPAbの出力は、それぞれ、正相の増幅器及び逆相の増幅器の各出力の差分として得られる。
【0023】
高パワー増幅回路HPAa,HPAbは、内蔵するトランジスタ(増幅素子)のサイズが低パワー増幅回路LPAa,LPAbより大きく、低パワー増幅回路LPAa,LPAbより高い出力パワーを有するRF信号を出力する。このため、図3を参照して述べたように、出力パワーが大きい場合、高パワー増幅回路HPAa,HPAbが使用され、出力パワーが小さい場合、低パワー増幅回路LPAa,LPAbが使用される。なお、本実施例に係る電力増幅器の動作状態として、高パワー増幅回路HPAa,HPAbが使用されるモードを「高パワーモード」と表記し、低パワー増幅回路LPAa,LPAbが使用されるモードを「低パワーモード」と表記する。
【0024】
高パワー側トランスTは、一次側及び二次側が、相互インダクタンスMにより磁気的に結合している。高パワー側トランスTの一次側は、高パワー増幅回路HPAa,HPAb及び電源電圧Vddの給電端子に接続されている。一方、高パワー側トランスTの二次側は、一端が出力端子Toutに接続され、他端が接地されている。
【0025】
高パワー側トランスTは、高パワー増幅回路HPAa,HPAb及び出力端子Toutの間に接続され、高パワー増幅回路HPAa,HPAbの出力インピーダンスを変換する。変換後の出力インピーダンスは、負荷回路RLDに従って、例えば50(Ω)としてもよい。
【0026】
低パワー側トランスTは、一次側及び二次側が、相互インダクタンスMにより磁気的に結合している。低パワー側トランスTの一次側は、低パワー増幅回路LPAa,LPAb及び電源電圧Vddの給電端子に接続されている。一方、低パワー側トランスTの二次側は、一端が、高パワー側トランスT及び出力端子Toutを結ぶ配線Wに、整合キャパシタCxを介して接続され、他端が接地されている。つまり、低パワー側トランスTは、低パワー増幅回路LPAa,LPAbと、配線Wとの間に接続されている。
【0027】
低パワー側トランスTLは、低パワー増幅回路LPAa,LPAbの出力インピーダンスを変換する。変換後の出力インピーダンスは、負荷回路RLDに従って、例えば50(Ω)としてもよい。なお、トランスTH及びトランスTLの各二次側は、一端が接地されているため、高パワー増幅回路HPAa,HPAb及び低パワー増幅回路LPAa,LPAbの出力は、それぞれ、単相出力となるが、これに限定されず、差動出力としてもよい。
【0028】
整合キャパシタCxは、一端が、高パワー側トランスT及び出力端子Toutを結ぶ配線Wに接続され、他端が、スイッチ回路SW及び低パワー側トランスTに接続されている。整合キャパシタCxは、インピーダンス整合に用いられる。なお、整合キャパシタCxの容量は、例えば、配線Wの配線容量や負荷回路RLDなどパラメータに応じて決定される。
【0029】
スイッチ回路SWは、整合キャパシタCxを介して、高パワー側トランスT及び出力端子Toutを結ぶ配線Wに接続されている。スイッチ回路SWは、高パワーモード、つまり、高パワー増幅回路HPAa,HPAbがRF信号を増幅するとき、高パワー側トランスT及び出力端子Toutを結ぶ配線Wを、基準電位であるグランドに接続する。これにより、スイッチ回路SWは、配線Wとグランドの間に、低パワー側トランスTを迂回する電流経路を形成する。
【0030】
このため、高パワーモードにおいて、高パワー増幅回路HPAa,HPAbから高パワー側トランスTを介して出力端子Toutに流れるRF信号の電流の一部は、低パワー側トランスTではなく、スイッチ回路SWに導かれる。すなわち、スイッチ回路SWは、配線Wからグランドに流れ込む電流の経路を制御する。
【0031】
より具体的には、スイッチ回路SWは、トランジスタTRと、インダクタンス素子Lと、制御電圧Vの入力端子と、調整抵抗Rとを含む。インダクタンス素子Lは、トランジスタTRと並列に接続されている。つまり、インダクタンス素子Lは、一端が、トランジスタTRのソース端子に接続され、他端が、トランジスタTRのドレイン端子に接続されている。
【0032】
トランジスタTRは、ソース端子がグランドに接続され、ドレイン端子が、高パワー側トランスT及び出力端子Toutを結ぶ配線Wに接続されている。また、トランジスタTRのゲート端子は、調整抵抗Rを介して制御電圧Vの入力端子に接続されている。なお、本実施例において、トランジスタTRとして、FET(Field Effect Transistor)を仮定するが、これに限定されず、バイポーラトランジスタであってもよい。
【0033】
制御電圧Vは、外部からトランジスタTRのゲート端子に印加される。このとき、制御電圧Vは、調整抵抗Rにより適切な値に調整される。
【0034】
トランジスタTRは、制御電圧Vに応じて導通状態または非導通状態に切り替えられる。より具体的には、トランジスタTRは、高パワー増幅回路HPAa,HPAbがRF信号を増幅するとき、導通状態となり、低パワー増幅回路LPAa,LPAbがRF信号を増幅するとき、非導通状態となる。つまり、制御電圧Vは、電力増幅器の動作状態(高パワーモードまたは低パワーモード)に応じて決定される。
【0035】
したがって、高パワーモードにおいて、トランジスタTRが導通状態となることにより、高パワー側トランスT及び出力端子Toutを結ぶ配線Wは、整合キャパシタCxと、トランジスタTRのオン抵抗とを介してグランドに接続される。つまり、交流信号の観点で、配線Wはグランドに接続される。
【0036】
図5は、第1実施例に係る電力増幅器の高パワーモードにおける等価回路を示す回路図である。上記の配線Wは、整合キャパシタCxと、トランジスタTRのオン抵抗Ronとを介して接地される。オン抵抗Ronは、トランジスタTRのサイズを大きくすることにより、約0(Ω)となる(Ron<<1)。このため、トランジスタTRのオン抵抗Ronは、低パワー側トランスTの寄生抵抗Rより十分に小さい値となり、配線Wは、実質的に、整合キャパシタCxのみを介して接地されている。
【0037】
したがって、高パワーモードにおいて、出力端子Toutに向かって配線Wを流れるRF信号の電流の一部は、整合キャパシタCxを介してトランジスタTRに流れ、低パワー側トランスTには、ほとんど流れない。よって、低パワー側トランスTの寄生抵抗Rは、等価回路において無視され(点線参照)、寄生抵抗Rより生ずる損失が抑制される。なお、オン抵抗Ronは、インダクタンス素子Lの寄生抵抗より小さいので、インダクタンス素子Lにも同様に電流は流れない。
【0038】
これに対して、上記の特許文献1に開示された構成では、高出力パワーの増幅器が使用される場合、低出力パワー側のトランス(符号340参照)の寄生抵抗(符号L’参照)が無視できないため、当該寄生抵抗による損失が発生する。
【0039】
このように、スイッチ回路SWは、高パワー増幅回路HPAa,HPAbがRF信号を増幅するとき、高パワー側トランスT及び出力端子Toutを結ぶ配線Wを、抵抗値がトランスTの寄生抵抗より低い抵抗Ronを介して接地する。本実施例では、抵抗を可能な限り小さくして損失を極小化するために、スイッチ回路SWにトランジスタTRを設けたが、これに限定されず、トランジスタTRに代え、スイッチとして機能する他の素子を採用してもよい。
【0040】
また、トランジスタTRのサイズは、上述したように、オン抵抗Ronを小さくするために、大きい方が好ましい。しかし、トランジスタTRは、サイズが大きいほど、ドレイン−ソース間の寄生容量Cdsが大きくなる。この場合、低パワーモードにおいて、トランジスタTRが非導通状態となることにより、RF信号の電力が、寄生容量Cdsを介してグランドに漏れる可能性がある。
【0041】
そこで、本実施例では、トランジスタTRと並列に接続されたインダクタンス素子Lのインダクタンスは、インダクタンス素子L及び寄生容量Cdsが並列共振回路を構成するように、適切な値に設定されている。つまり、RF信号のキャリア周波数をFc(Hz)としたとき、該インダクタンス(L)及び寄生容量Cdsに関して、以下の式(1)が成立する。
【0042】
【数1】
【0043】
これにより、低パワーモードにおいて、スイッチ回路SWは、ハイインピーダンス状態となる。したがって、スイッチ回路SWは、オンオフ比(インピーダンスの比)が高められる。
【0044】
図6は、第1実施例に係る電力増幅器の低パワーモードにおける等価回路を示す回路図である。ここで、インピーダンスZは、高パワー増幅回路HPAa,HPAb及び高パワー側トランスTの等価インピーダンスを示す。
【0045】
低パワー増幅回路LPAa,LPAbからのRF信号は、低パワー側トランスT及び整合キャパシタCxを介して、出力端子Toutから出力される。このとき、スイッチ回路SWは、上述したようにハイインピーダンス状態であるため、RF信号の電流が流れ込まず、電力損失が防止される。
【0046】
このように、トランジスタTRは、低パワー増幅回路LPAa,LPAbがRF信号を増幅するとき、非導通状態となり、ドレイン端子及びソース端子の間の寄生容量Cdsが、インダクタンス素子Lとともに共振回路を構成する。これにより、低パワーモードにおける増幅効率を向上することができる。
【0047】
図7は、トランジスタTRのフィンガ数に対する損失の変化を示すグラフである。また、図8は、トランジスタTRのフィンガ数に対するドレイン−ソース間の寄生容量Cdsの変化を示すグラフである。図7及び図8のグラフは、トランジスタTRのプロセスとして、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)を仮定して行われたシミュレーション結果である。なお、フィンガ数とは、トランジスタTRに含まれる素子数であり、ここでは、トランジスタTRのサイズに相当するパラメータとして示されている。
【0048】
オン抵抗Ron及び寄生容量Cdsは、互いにトレードオフの関係にある。トランジスタTRのフィンガ数が増加するほど、オン抵抗Ronは小さくなるため、損失は0(dB)に近づくが、寄生容量Cdsは線形的に増加する。仮に、フィンガ数を50とした場合、損失は0.05(dB)より小さくなり(符号P1参照)、寄生容量Cdsは約3.5(pF)となる(符号P2参照)。ここで、RF信号のキャリア周波数Fc=2(GHz)とすると、上記の式(1)に基づいて、共振回路を構成するためのインダクタンス素子Lのインダクタンスは、約1.8(nH)となり、現実的な値であることがわかる。このように、本実施例に係る電力増幅器は、例えばCMOSプロセスのトランジスタTRを仮定して、容易に実現される。
【0049】
(第2実施例)
第1実施例において、トランジスタTRは、高パワーモードにおいて、配線Wをグランドに接続する手段として用いられるが、これに加え、RF信号を増幅する手段として用いられてもよい。本実施例において、RF信号は、高パワーモードでは、高パワー増幅回路HPAa,HPAbにより増幅され、低パワーモードでは、低パワー増幅回路LPAa,LPAb及びトランジスタTR(TR)により増幅される。
【0050】
図9は、第2実施例に係る電力増幅器の回路構成を示す回路図である。なお、図9において、図4と共通する構成については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0051】
電力増幅器は、高パワー増幅回路HPAa,HPAbと、低パワー増幅回路LPAa,LPAbと、高パワー側トランスTと、低パワー側トランスTとを有する。また、電力増幅器は、給電用トランジスタTRと、給電用インダクタンス素子Lと、整合キャパシタCxと、スイッチ回路(接続回路)SWと、給電制御電圧Vの入力端子と、出力端子Toutとを含む。
【0052】
本実施例において、スイッチ回路SWは、第1実施例とは異なり、低パワーモードにおいてRF信号の増幅手段として機能する。低パワー側トランスTの二次側は、スイッチ回路SW及び整合キャパシタCxを介して、配線Wに接続されている。スイッチ回路SWは、トランジスタTRと、キャパシタCと、調整抵抗Rと、制御電圧Vの入力端子とを含む。
【0053】
トランジスタTRは、ドレイン端子が、整合キャパシタCxを介して配線Wに接続され、ソース端子が、接地されている。トランジスタTRのゲート端子は、キャパシタC及び低パワー側トランスTの二次側を介して、低パワー増幅回路LPAa,LPAbに接続され、RF信号が入力される。このとき、キャパシタCは、RF信号の直流成分を除去するフィルタとして機能する。
【0054】
また、トランジスタTRのゲート端子は、調整抵抗Rを介して制御電圧Vの入力端子と接続され、外部から制御電圧Vが印加される。このとき、制御電圧Vは、調整抵抗Rにより適切な値に調整される。
【0055】
低パワーモードにおいて、制御電圧Vは、トランジスタTRを例えばB級増幅器として動作させるためのバイアス電圧、つまり、トランジスタTRの閾値電圧または該閾値電圧に近い値となる。本実施例では、トランジスタTRによる増幅動作の級として、増幅効率の観点からB級が選択されるが、これに限定されず、A級またはC級であってもよい。
【0056】
また、低パワーモードにおいて、トランジスタTRは、増幅器として動作するために、給電用トランジスタTR及び給電用インダクタンス素子Lを介し、ドレイン端子に電源電圧Vddが印加される。給電用トランジスタTRは、外部からゲート端子に印加される給電制御電圧Vに応じて、導通状態または非導通状態に制御される。なお、本実施例において、給電用トランジスタTRは、給電制御電圧Vを電源電圧Vdd以下にするために、p型チャネルのFETとするが、これに限定されず、n型チャネルのFETであってもよい。
【0057】
給電用トランジスタTRは、ソース端子が、電源、つまり電源電圧Vddの給電端子に接続され、ドレイン端子が給電用インダクタンス素子Lの一端に接続されている。また、給電用インダクタンス素子Lの他端は、トランジスタTRのドレイン端子に接続されている。給電用インダクタンス素子Lは、トランジスタTRへの給電及びインピーダンス整合の手段として機能する。
【0058】
低パワーモードにおいて、給電用トランジスタTRは、電源電圧VddをトランジスタTRに供給するために導通状態となる。このとき、トランジスタTRは、増幅器として動作するように、制御電圧Vとして、ゲート端子に所定のバイアス電圧が印加される。
【0059】
図10は、第2実施例に係る電力増幅器の低パワーモードにおける等価回路を示す回路図である。低パワー増幅回路LPAa,LPAbにより増幅されたRF信号は、低パワー側トランスT及びキャパシタCを介してトランジスタTRのゲート端子に入力される。トランジスタTRは、ゲート端子にバイアス電圧が印加されることにより、入力されたRF信号を、さらに増幅する。
【0060】
このように、本実施例では、低パワーモードにおいて、RF信号を、低パワー増幅回路LPAa,LPAbだけでなく、トランジスタTRによっても増幅する。したがって、低パワー増幅回路LPAa,LPAbの増幅素子のサイズを第1実施例の場合より小さくすることが可能となる。
【0061】
一方、高パワーモードにおいて、給電用トランジスタTRは、トランジスタTRへの給電が停止されるように非導通状態となる。このとき、トランジスタTRのゲート端子には、制御電圧Vとして、トランジスタTRを導通状態とするためのハイレベル電圧(例えば電源電圧Vdd)が印加される。
【0062】
図11は、第2実施例に係る電力増幅器の高パワーモードにおける等価回路を示す回路図である。トランジスタTRは、第1実施例のトランジスタTRと同様に、導通状態となることにより、高パワー側トランスT及び出力端子Toutを結ぶ配線Wを、自己のオン抵抗Ronを介して接地する。つまり、交流信号の観点で、配線Wはグランドに接続される。オン抵抗Ronは、トランジスタTRを適切なサイズとすることにより、約0(Ω)となる。したがって、高パワーモードの等価回路は、第1実施例の場合(図5参照)と同様の構成であり、また、上述した作用効果も同様に得られる。
【0063】
(第3実施例)
第1実施例及び第2実施例に係る電力増幅器は、高パワーモード及び低パワーモードの2つの動作状態を有するが、高パワーモード及び低パワーモードの中間程度の出力レベルを有する中パワーモードを、さらに有してもよい。これにより、図3に示された出力パワーの範囲N1〜N3を、より多く設けることができるので、電力増幅器の全体的な増幅効率が向上する。
【0064】
図12は、第3実施例に係る電力増幅器の回路構成を示す回路図である。なお、図12において、図9と共通する構成については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0065】
電力増幅器は、高パワー増幅回路HPAa,HPAbと、低パワー増幅回路LPAa,LPAbと、高パワー側トランスTと、低パワー側トランスTとを有する。また、電力増幅器は、給電用トランジスタTRと、給電用インダクタンス素子Lと、整合キャパシタCxと、スイッチ回路SWと、補助スイッチ回路(補助接続回路)SWと、給電制御電圧Vの入力端子と、出力端子Toutとを含む。スイッチ回路SWは、トランジスタTRと、キャパシタCと、調整抵抗Rと、制御電圧Vの入力端子とを含む。
【0066】
本実施例において、高パワーモードは、第1実施例及び第2実施例の高パワーモードと同様に、高パワー増幅回路HPAa,HPAbのみがRF信号を増幅する動作状態である。高パワーモードでは、トランジスタTRbは導通状態に制御され、給電用トランジスタTRPは非導通状態に制御される。
【0067】
中パワーモードは、第2実施例の低パワーモードと同様に、低パワー増幅回路LPAa,LPAbと、スイッチ回路SWのトランジスタTRとがRF信号を増幅する動作状態である。中パワーモードでは、トランジスタTRは、RF信号を増幅するために、ゲート端子にバイアス電圧が与えられ、給電用トランジスタTRは、導通状態に制御される。
【0068】
低パワーモードは、第1実施例の低パワーモードと同様に、低パワー増幅回路LPAa,LPAbのみがRF信号を増幅する動作状態である。低パワーモードでは、トランジスタTR及び給電用トランジスタTRは、非導通状態に制御される。
【0069】
本実施例に係る電力増幅器は、図9に示された回路構成に加えて、補助スイッチ回路SWを有することにより、低パワーモードを実現する。低パワーモードでは、低パワー増幅回路LPAa,LPAbのみがRF信号を増幅するため、トランジスタTRは、制御電圧Vに従って非導通状態に制御され、給電用トランジスタTRも、給電制御電圧Vに従って非導通状態に制御される。
【0070】
補助スイッチ回路SWは、低パワー増幅回路LPAa,LPAbがRF信号を増幅する場合にトランジスタTRが非導通状態(上記の低パワーモード)であるとき、低パワー側トランスTの二次側を、トランジスタTRを迂回して、上記の配線Wに接続する。つまり、補助スイッチ回路SWは、低パワーモードにおいて、低パワー増幅回路LPAa,LPAbを、トランジスタTRを介さない経路で出力端子Toutに接続する。このため、低パワーモードにおいて、低パワー増幅回路LPAa,LPAbにより増幅されたRF信号は、補助スイッチ回路SWを介して負荷回路RLDに出力される。
【0071】
より具体的には、補助スイッチ回路SWは、切替用トランジスタTRと、第1キャパシタCk1と、第2キャパシタCk2と、調整抵抗Rと、切替制御電圧Vの入力端子とを含む。切替用トランジスタTRは、ソース端子及びドレイン端子のうち、一方が、第1キャパシタCk1を介して、低パワー側トランスTに接続され、他方が、第2キャパシタCk2を介して、整合キャパシタCxに接続されている。
【0072】
第1キャパシタCk1及び第2キャパシタCk2は、RF信号の直流成分を除去するフィルタとして機能する。なお、切替用トランジスタTRは、損失を抑制するため、例えば低パワー増幅回路LPAa,LPAbと同程度のサイズを有すると好ましい。
【0073】
切替用トランジスタTRのゲート端子は、調整抵抗Rを介して、切替制御電圧Vの入力端子に接続されている。切替制御電圧Vは、外部から切替用トランジスタTRのゲート端子に印加される。このとき、切替制御電圧Vは、調整抵抗Rにより適切な値に調整される。
【0074】
切替用トランジスタTRは、切替制御電圧Vに応じて導通状態または非導通状態に切り替えられる。切替用トランジスタTRは、低パワーモードの場合、導通状態となり、他のパワーモードの場合、非導通状態となる。つまり、切替制御電圧Vは、電力増幅器の動作状態(低パワーモード、または、その他のパワーモード)に応じて決定される。
【0075】
図13は、第3実施例に係る電力増幅器の低パワーモードにおける等価回路を示す回路図である。低パワー増幅回路LPAa,LPAbは、切替用トランジスタTRが導通状態であるので、低パワー側トランスT、第1キャパシタCk1、第2キャパシタCk2、及び整合キャパシタCxを介して、負荷回路RLDに接続されている。なお、整合キャパシタCx及び負荷回路RLDの間には、高パワー増幅回路HPAa,HPAb及び高パワー側トランスTの等価インピーダンスZが接続される。
【0076】
低パワーモードにおいて、トランジスタTR及び給電用トランジスタTRは、非導通状態である。このため、トランジスタTRは、ドレイン端子及びソース端子の間の寄生容量Cdsが、給電用インダクタンス素子Lとともに共振回路RNを構成する。
【0077】
詳細を述べると、低パワーモードにおいて、給電用インダクタンス素子Lは、非導通状態の給電用トランジスタTRを介して、電源電圧Vddを供給する電源に接続される。電源は、ノイズ除去用の大容量のデカップリングコンデンサが設けられているため、交流信号の観点では、給電用インダクタンス素子Lの一端は、低インピーダンスを介して接地されているとみなされる。
【0078】
一方、給電用インダクタンス素子Lの一端は、トランジスタTRの寄生容量Cdsを介して接地されている。このため、寄生容量Cds及び給電用インダクタンス素子Lは、共振回路RNを構成し、ハイインピーダンス状態となる。したがって、第1実施例の低パワーモードの場合(図6参照)と同様に、RF信号の電流は、トランジスタTRの寄生容量Cdsに流れ込まず、電力損失が防止される。
【0079】
図14は、第3実施例に係る電力増幅器の高パワーモードにおける等価回路を示す回路図である。高パワーモードにおいて、トランジスタTRは、導通状態であり、給電用トランジスタTR及び切替用トランジスタTRは、非導通状態である。
【0080】
トランジスタTRは、第1実施例のトランジスタTRと同様に、導通状態となることにより、高パワー側トランスT及び出力端子Toutを結ぶ配線Wを、自己のオン抵抗Ronを介して接地する。オン抵抗Ronは、トランジスタTRを適切なサイズとすることにより、約0(Ω)となる。したがって、等価回路は、第1実施例の場合(図5参照)と同様の構成であり、また、上述した作用効果も同様に得られる。
【0081】
図15は、第3実施例に係る電力増幅器の中パワーモードにおける等価回路を示す回路図である。中パワーモードにおいて、切替用トランジスタTRは、非導通状態であり、給電用トランジスタTRは、導通状態である。また、トランジスタTRは、ゲート端子にバイアス電圧が印加される。
【0082】
低パワー増幅回路LPAa,LPAbにより増幅されたRF信号は、低パワー側トランスT及びキャパシタCを介してトランジスタTRのゲート端子に入力される。トランジスタTRは、ゲート端子にバイアス電圧が印加されることにより、入力されたRF信号を、さらに増幅する。したがって、等価回路は、第2実施例の場合(図10参照)と同様の構成であり、また、上述した作用効果も同様に得られる。
【0083】
上述した電力増幅器は、例えば通信装置に設けられる。図16には、通信装置における電力増幅器の実装部分の例が示されている。
【0084】
電力増幅器は、例えば、スマートフォンなどの携帯型通信装置のフロントエンド部分Fに設けられる。フロントエンド部分Fは、アンテナ側の送受信回路部分を指す。
【0085】
図17は、実施例に係る通信装置の機構構成を示す構成図である。図17は、上記のフロントエンド部分Fの構成例を示す。通信装置は、増幅部1と、RF信号処理回路(信号処理部)2と、ベースバンド信号処理回路3と、アンテナ4と、デュプレクサ5とを有する。
【0086】
ベースバンド信号処理回路3は、データ信号の帯域処理を行う。ベースバンド信号処理回路3は、データ信号を変調して、RF信号処理回路2に出力する。変調方式としては、例えば直交周波数分割多重方式(OFDM:Orthogonal Frequency Divisional Multiplexing)が挙げられるが、これに限定されない。
【0087】
RF信号処理回路2は、発振器及び乗算器(ミキサ)を備え、変調されたデータ信号をアップコンバートしてRF信号に変換する。つまり、RF信号処理回路2は、データ信号の周波数を、ベースバンド周波数からキャリア周波数(無線周波数)に変換する。
【0088】
また、RF信号処理回路2は、電力増幅器の動作モードを指示するため、増幅部1にモード指示信号(指示信号)Smdを出力する。モード指示信号Smdは、高パワー増幅回路HPAa,HPAb及び低パワー増幅回路LPAa,LPAbの何れを動作させるかを指示する信号である。RF信号処理回路2は、例えば、基地局との通信結果に基づいて、適切な動作モードを選択する。
【0089】
増幅部1は、上述した電力増幅器10と、制御回路11とを有し、RF信号を増幅してデュプレクサ5に出力する。増幅されたRF信号は、アンテナ4により送信される。
【0090】
制御回路11は、電力増幅器10に動作電圧Vpw、制御電圧V、給電制御電圧V、及び切替制御電圧Vを与える。なお、本実施例では、電力増幅器10として、上述した第3実施例に係る電力増幅器を仮定しているが、他の実施例に係る電力増幅器であってもよい。
【0091】
制御回路11は、RF信号処理回路2からのモード指示信号Smdに従って、電力増幅器10に与える動作電圧Vpwを制御する。動作電圧Vpwは、高パワー増幅回路HPAa,HPAb及び低パワー増幅回路LPAa,LPAbに個別に与えられる。これにより、電力増幅器10は、最適な動作モードに制御される。
【0092】
高パワーモードの場合、高パワー増幅回路HPAa,HPAbには、増幅動作に必要な動作電圧Vpwが与えられ、低パワー増幅回路LPAa,LPAbには、増幅動作を停止させる動作電圧Vpwが与えられる。また、中パワーモード及び低パワーモードの場合、逆に、低パワー増幅回路LPAa,LPAbには、増幅動作に必要な動作電圧Vpwが与えられ、高パワー増幅回路HPAa,HPAbには、増幅動作を停止させる動作電圧Vpwが与えられる。
【0093】
また、制御回路11は、RF信号処理回路2からのモード指示信号Smdに従って、電力増幅器10に与える制御電圧V、給電制御電圧V、及び切替制御電圧Vを制御する。高パワーモードの場合、制御回路11は、トランジスタTRが導通状態となるように制御電圧Vを与え、給電用トランジスタTRが非導通状態となるように給電制御電圧Vを与える。また、制御回路11は、切替用トランジスタTRが非導通状態となるように切替制御電圧Vを与える。
【0094】
中パワーモードの場合、制御回路11は、トランジスタTRがRF信号を増幅するように制御電圧V(上記のバイアス電圧)を与え、給電用トランジスタTRが導通状態となるように給電制御電圧Vを与える。また、制御回路11は、切替用トランジスタTRが非導通状態となるように切替制御電圧Vを与える。
【0095】
低パワーモードの場合、制御回路11は、トランジスタTRが非導通状態となるように制御電圧Vを与え、給電用トランジスタTRが非導通状態となるように給電制御電圧Vを与える。また、制御回路11は、切替用トランジスタTRが導通状態となるように切替制御電圧Vを与える。
【0096】
なお、電力増幅器10として、第1実施例に係る電力増幅器を用いる場合、制御電圧Vは、高パワーモード及び低パワーモードにおいて、上記の高パワーモード及び低パワーモードにおける制御電圧Vと同様に制御される。また、第2実施例に係る電力増幅器を用いる場合、制御電圧V及び給電制御電圧Vは、高パワーモード及び低パワーモードにおいて、上記の高パワーモード及び中パワーモードとそれぞれ同様に制御される。
【0097】
デュプレクサ5は、アンテナ4を介して送受信されるRF信号をフィルタリングする。すなわち、デュプレクサ5は、増幅部1から入力されるRF信号を、送信周波数を通過帯域とするフィルタによりフィルタリングしてアンテナ4に出力する。また、デュプレクサ5は、アンテナ4から入力されたRF信号を、受信周波数を通過帯域とするフィルタによりフィルタリングしてRF信号処理回路2に出力する。
【0098】
実施例に係る通信装置は、上述した電力増幅器を有するので、既に述べた作用効果を同様に奏する。
【0099】
これまで述べたように、実施例に係る電力増幅器は、高パワー増幅回路HPAa,HPAbと、低パワー増幅回路LPAa,LPAbと、高パワー側トランスTと、低パワー側トランスTと、スイッチ回路SW、SWとを有する。高パワー増幅回路HPAa,HPAb及び低パワー増幅回路LPAa,LPAbは、一方がRF信号を増幅するとき、他方がRF信号を増幅しないように制御され、何れか一方が、RF信号を増幅して共通の出力端子Toutから出力する。
【0100】
高パワー側トランスTは、高パワー増幅回路HPAa,HPAbと、出力端子Toutの間に接続され、高パワー増幅回路HPAa,HPAbの出力インピーダンスを変換する。低パワー側トランスTは、低パワー増幅回路LPAa,LPAbと、高パワー側トランスT及び出力端子Toutを結ぶ配線Wとの間に接続され、低パワー増幅回路LPAa,LPAbの出力インピーダンスを変換する。
【0101】
スイッチ回路SW、SWは、高パワー増幅回路HPAa,HPAbがRF信号を増幅するとき、高パワー増幅回路HPAa,HPAb及び出力端子Toutを結ぶ配線Wを、基準電位であるグランドに接続する。これにより、スイッチ回路SW、SWは、高パワー側トランスT及び出力端子Toutを結ぶ配線とグランドの間に、低パワー側トランスTを迂回する電流経路を形成する。
【0102】
したがって、高パワー増幅回路HPAa,HPAbから高パワー側トランスTを介して出力端子Toutに流れるRF信号の電流の一部は、低パワー側トランスTではなく、スイッチ回路SW、SWに導かれる。このため、低パワー側トランスTにより生ずる電力損失が抑制されて、電力増幅器の増幅効率が改善される。
【0103】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【0104】
なお、以上の説明に関して更に以下の付記を開示する。
(付記1) 一方が信号を増幅するとき、他方が信号を増幅しないように制御され、何れか一方が、信号を増幅して共通の出力端子から出力する第1増幅回路及び第2増幅回路と、
前記第1増幅回路と、前記出力端子の間に接続され、前記第1増幅回路の出力インピーダンスを変換する第1インピーダンス変換回路と、
前記第2増幅回路と、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線との間に接続され、前記第2増幅回路の出力インピーダンスを変換する第2インピーダンス変換回路と、
前記第1増幅回路が前記信号を増幅するとき、前記第1増幅回路及び前記出力端子を結ぶ配線を基準電位に接続することにより、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線と前記基準電位の間に、前記第2インピーダンス変換回路を迂回する経路を形成する接続回路とを有することを特徴とする電力増幅器。
(付記2) 前記接続回路は、一方の端子が、前記基準電位に接続され、他方の端子が、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線に接続されたトランジスタを含み、
前記トランジスタは、前記第1増幅回路が前記信号を増幅するとき、導通状態となることにより、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線を、前記基準電位に接続することを特徴とする付記1に記載の電力増幅器。
(付記3) 前記接続回路は、前記トランジスタと並列に接続されたインダクタンス素子を、さらに含み、
前記トランジスタは、前記第2増幅回路が前記信号を増幅するとき、非導通状態となり、前記一方の端子及び前記他方の端子の間の寄生容量が、前記インダクタンス素子とともに共振回路を構成することを特徴とする付記2に記載の電力増幅器。
(付記4) 前記第2増幅回路は、前記インピーダンス変換回路を介して、前記トランジスタの制御端子と接続され、
前記トランジスタは、前記第2増幅回路が前記信号を増幅するとき、前記制御端子にバイアス電圧が印加されることにより、前記第2増幅回路から前記制御端子を介して入力された前記信号を、さらに増幅することを特徴とする付記2に記載の電力増幅器。
(付記5) 前記第2増幅回路が前記信号を増幅する場合に前記トランジスタが非導通状態であるとき、前記インピーダンス変換回路を、前記トランジスタを迂回して、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線に接続する補助接続回路を、さらに有することを特徴とする付記4に記載の電力増幅器。
(付記6) 一端が前記トランジスタの前記他方の端子に接続された給電用インダクタンス素子と、
一端が電源に接続され、他端が前記給電用インダクタンス素子の他端に接続されて、前記トランジスタの前記制御端子に前記バイアス電圧が印加されたときに導通状態となる給電用トランジスタとを、さらに有し、
前記トランジスタは、非導通状態である場合に前記給電用トランジスタが非導通状態であるとき、前記一方の端子及び前記他方の端子の間の寄生容量が、前記給電用インダクタンス素子とともに共振回路を構成することを特徴とする付記5に記載の電力増幅器。
(付記7) 前記第1増幅回路は、増幅素子のサイズが前記第2増幅回路より大きく、前記第2増幅回路より高い出力パワーを有する信号を出力することを特徴とする付記1乃至6の何れかに記載の電力増幅器。
(付記8) 前記接続回路と、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線との間に接続されたキャパシタを、さらに含むことを特徴とする付記1乃至6の何れかに記載の電力増幅器。
(付記9) 前記第2インピーダンス変換回路は、トランスを含み、
前記トランスの一次側は、前記第2増幅回路と接続され、
前記トランスの二次側は、一端が、前記第1インピーダンス変換回路及び前記出力端子を結ぶ配線に接続され、他端が、前記基準電位に接続されていることを特徴とする付記1乃至6の何れかに記載の電力増幅器。
(付記10) 付記1乃至9の何れかに記載の電力増幅器と、
信号を周波数変換して、前記電力増幅器に出力する信号処理部と、
前記電力増幅器により増幅された前記信号を送信するためのアンテナとを有することを特徴とする通信装置。
(付記11)
前記信号処理部は、前記第1増幅回路及び第2増幅回路の何れを動作させるかを指示する指示信号を出力し、
前記電力増幅器は、前記指示信号に従って、前記第1増幅回路及び前記第2増幅回路の動作を制御する制御回路を有することを特徴とする付記10に記載の通信装置。
【符号の説明】
【0105】
10 電力増幅器
2 RF信号処理回路(信号処理回路)
HPAa,HPAb 高パワー増幅回路(第1増幅回路)
LPAa,LPAb 低パワー増幅回路(第2増幅回路)
高パワー側トランス(第1インピーダンス変換回路)
低パワー側トランス(第2インピーダンス変換回路)
W 配線
Tout 出力端子
SW、SW スイッチ回路(接続回路)
SW 補助スイッチ回路(補助接続回路)
TR,TR トランジスタ
インダクタンス素子
TR 給電用トランジスタ
給電用インダクタンス素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17