(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の遮水層では、その非通気性に起因して、アルカリ水だけでなくセメント系基材から発生する水蒸気の通過も阻んでしまう。すなわち、セメント系基材からの水分(液体)が、遮水層との間の境界(界面)などで水蒸気(気体)になるが、当該水蒸気の遮水層の通過も阻害されてしまう。すると、上記の境界に滞留する水蒸気の圧力(気圧)によって遮水層に膨れや剥がれが生じる恐れがある。
【0007】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、可塑剤を含有する仕上げ材をセメント系基材の上に設ける際に、臭気の発生を抑制するだけでなく、膨れや剥がれも防ぐことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
可塑剤を含有する仕上げ材をセメント系基材の上に設ける床施工方法であって、
前記セメント系基材の上に三次元架橋構造型の水系エマルション樹脂層を設け、前記水系エマルション樹脂層の上に前記仕上げ材を設け
、
前記セメント系基材の上面に前記水系エマルション樹脂層を設け、前記水系エマルション樹脂層の上面には、接着剤層を介して前記仕上げ材が固定されており、
前記接着剤層の透湿度は、前記水系エマルション樹脂層の透湿度よりも高く、
前記接着剤層は、水にアクリル系樹脂を分散したエマルションからなることを特徴とする。
【0009】
上記請求項1に示す発明によれば、水系エマルション樹脂層は三次元架橋構造型樹脂であることから、同樹脂層は強固であり、これにより高い遮水性を有する。よって、セメント系基材から生じるアルカリ水の上方への移動を有効に規制し、結果、その上方の仕上げ材の中の可塑剤とアルカリ水との接触を有効に防ぐ。また、同強固性に基づいて、水系エマルション樹脂層は、仕上げ材からの可塑剤の侵入(溶解)も防ぐ。すなわち、仕上げ材の可塑剤の下方への移動も、同水系エマルション樹脂層で有効に規制され、このことも、仕上げ材の可塑剤と、セメント系基材からのアルカリ水との接触防止に有効に寄与する。そして、これらの結果、アルカリ水と可塑剤との反応起因の臭気を有効に抑制可能となる。
【0010】
一方、水系エマルション樹脂層は、後述の理由に基づいて、高い透湿性(水蒸気を通過させる性質)を有している。よって、セメント系基材からの水蒸気は、水系エマルション樹脂層を速やかに通過して上方の仕上げ材へと抜ける。そして、これにより、セメント系基材とその上の水系エマルション樹脂層との間の境界(界面)に、セメント系基材からの水蒸気が溜まることは有効に防止されて、その結果、水系エマルション樹脂層の膨れや剥がれは有効に防止される。なお、上記の水蒸気は、基本的に気相の水分子であり、当該気相の水分子はアルカリ成分を含有し得ない。よって、水蒸気が仕上げ材を通過する際に、仕上げ材中の可塑剤と反応することは無く、結果、当該通過に伴って、臭気の原因となるアルコールが生じることも無い。
【0011】
ちなみに、三次元架橋構造型ではない水系エマルション樹脂の場合には、少なくとも仕上げ材の可塑剤の下方への移動を規制できずに、可塑剤と、セメント系基材からのアルカリ水との接触を許容してしまう恐れがある。すなわち、この三次元架橋構造型ではない水系エマルション樹脂は、直線構造の樹脂(以下、直線構造樹脂とも言う)が不規則に集まった非結晶構造をしており、直線構造樹脂同士は、水素結合などの弱い力で結合されている。そのため、可塑剤は当該直線構造樹脂同士の間の間隔を広げて比較的容易に溶け込むことができて、これにより、可塑剤の下方への移動を規制することができず、結果、同可塑剤は、セメント系基材からのアルカリ水に接触して反応してしまい得る。これに対して、上述の三次元架橋構造型の水系エマルション樹脂の場合には、上述のように、その構造は強固であるため、可塑剤によって構造が変化することはほぼ無く、その結果、可塑剤を溶解せずに、その下方への移動を有効に規制できるのである。
また、接着剤層の透湿度は、水系エマルション樹脂層の透湿度よりも高くなっている。よって、水系エマルション樹脂層を上方に通過した水蒸気は、同樹脂層と接着剤層との間の境界(界面)に滞留することなく速やかに接着剤層を通過して上方の仕上げ材へと抜けていく。よって、水系エマルション樹脂層と接着剤層との間の水蒸気の滞留起因の接着剤層の膨れや剥がれを防ぐことができる。
【0012】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の床施工方法であって、
前記水系エマルション樹脂層は、主材としてエポキシ樹脂を有することを特徴とする。
【0013】
上記請求項2に示す発明によれば、水系エマルション樹脂層は、主材としてエポキシ樹脂を有しているので、同樹脂層は、高い遮水性と高い透湿性との両者を確実に奏することができる。
【0016】
請求項3に示す発明は、セメント系基材の上に、可塑剤を含有する仕上げ材が設けられた床構造であって、
前記セメント系基材の上に設けられる三次元架橋構造型の水系エマルション樹脂層と、
前記水系エマルション樹脂層の上に設けられる前記仕上げ材と、を有
し、
前記セメント系基材の上面に前記水系エマルション樹脂層が設けられ、前記水系エマルション樹脂層の上面には、接着剤層を介して前記仕上げ材が固定されており、
前記接着剤層の透湿度は、前記水系エマルション樹脂層の透湿度よりも高く、
前記接着剤層は、水にアクリル系樹脂を分散したエマルションからなることを特徴とする。
【0017】
上記
請求項3に示す発明によれば、上述の請求項1と同様の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、可塑剤を含有する仕上げ材をセメント系基材の上に設ける際に、臭気の発生を抑制するだけでなく、膨れや剥がれも防止可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
===本実施形態===
図1は、本実施形態の床施工方法で施工された床構造10の概略縦断面図である。
この床構造10は、床部10aの本体をなすセメント系基材11の一例としてのコンクリートスラブ11と、コンクリートスラブ11の上面に所定厚さで一体に設けられた三次元架橋構造型の水系エマルション樹脂層21と、水系エマルション樹脂層21の上面にピールアップ接着剤31で接着された仕上げ材41の一例としてのタイルカーペット41と、を有している。そして、かかる床構造10は、次の施工手順で形成される。
【0021】
先ず、不図示の型枠等で区画された所定の空間内にコンクリートを打設することにより、コンクリートスラブ11を形成する。
【0022】
そして、このコンクリートスラブ11の上面に、三次元架橋構造型の水系エマルション樹脂に係る水系エマルションを塗布する。なお、ここで言う水系エマルションとは、上記水系エマルション樹脂が乾燥硬化する前の状態のものである。例えば、水性エマルションは、水の中に、主材としてエポキシ樹脂が分散しているものを基本材料とし、場合によっては、更にアミン化合物、溶剤、及び添加剤を含んでいても良く、この例では、これらも含んでいる。そして、この塗布した水系エマルションが乾燥硬化することにより、コンクリートスラブ11の上面に上記の三次元架橋構造型の水系エマルション樹脂層21が形成される。
【0023】
そうしたら、この水系エマルション樹脂層21の上面に、ピールアップ接着剤31を塗布し、同接着剤31でタイルカーペット41を上記樹脂層21の上面に接着する。そして、以上をもって、
図1の床構造10が形成される。
【0024】
ここで、かかる床構造10によれば、タイルカーペット41に含有される可塑剤起因で生じ得る施工後の臭気を抑制可能であるとともに、同じく施工後に床構造10に起こり得る膨れや剥がれの問題も有効に防ぐことができる。詳しくは次の通りである。
【0025】
先ず、水系エマルション樹脂層21は三次元架橋構造型樹脂であることから、同樹脂層21は強固であり、これにより高い遮水性(遮液性)を有する。よって、コンクリートスラブ11から生じるアルカリ水(液体)の上方への移動を有効に規制し、結果、その上方のタイルカーペット41の中の可塑剤とアルカリ水との接触を有効に防ぐ。また、同強固性に基づいて、水系エマルション樹脂層21は、タイルカーペット41からの可塑剤の侵入(溶解)も防ぐ。すなわち、可塑剤の下方への移動も、同水系エマルション樹脂層21で有効に規制されて、このことも、タイルカーペット41の可塑剤と、コンクリートスラブ11からのアルカリ水との接触防止に有効に寄与する。そして、これらの結果、アルカリ水と可塑剤との反応起因の臭気を有効に抑制可能となる。
【0026】
一方、水系エマルション樹脂層21は、後述の理由に基づいて、高い透湿性(水蒸気を通過させる性質)も有している。よって、コンクリートスラブ11からの水蒸気は、水系エマルション樹脂層21を速やかに通過して上方のタイルカーペット41へと抜ける。そして、これにより、コンクリートスラブ11とその上の水系エマルション樹脂層21との間の境界BL1に、コンクリートスラブ11からの水蒸気が溜まることは有効に防止されて、その結果、水系エマルション樹脂層21の膨れや剥がれは有効に防止される。ちなみに、上記の水蒸気は、基本的に気相の水分子であり、当該気相の水分子はアルカリ成分を含有し得ない。よって、水蒸気がタイルカーペット41を通過する際に、タイルカーペット41中の可塑剤と反応することは無く、結果、当該通過に伴って、臭気の原因となるアルコールが生じることも無い。
【0027】
なお、水系エマルション樹脂層21が高い透湿性を有している理由は、次のように考えられる。この水系エマルション樹脂は、その乾燥硬化前においては、水の中に樹脂が分散したエマルション状態にある。そして、このエマルション状態にするために、乳化剤などの水との親和性のある基を持つ成分が水に混合されたり、樹脂自体に親水性に寄与する官能基が導入されたりしている。一方、これら親水性の基は、乾燥硬化後の状態たる上記水系エマルション樹脂層21にも残存している。そして、これら親水性の基は、水蒸気たる気相の水分子を吸着する吸着作用と、状況に応じて、吸着した気相の水分子を離す脱着作用と、を奏する。よって、水系エマルション樹脂層21内に存在する複数の親水性の基が、上記の吸着作用と脱着作用とを繰り返すことにより、同樹脂層21内を気相の水分子が拡散することができて、その結果、水蒸気は同樹脂層21を通り抜け可能なものと考えられる。なお、この水系エマルション樹脂層21が高い透湿性を有することについては、本願発明者は実験で確認しており、これについては後述する。
【0028】
ここで、この透湿性は、例えば透湿度(g/(m
2×日))によって定量化可能である。なお、透湿度(g/(m
2×日))とは、対象部材の単位面積(1m
2)の平面から1日当たりに抜ける水蒸気の重量(g)のことである。そして、この水系エマルション樹脂層21の透湿度は、例えば40(g/(m
2×日))以上であり、望ましくは、50(g/(m
2×日))以上であり、更に望ましくは、75(g/(m
2×日))以上であり、この例では、88.9(g/(m
2×日))である。そして、このような範囲に設定されていれば、上記の膨れや剥がれの防止効果を確実に奏することができる。
【0029】
ところで、上述では、水系エマルション樹脂層21に使用される三次元架橋構造型の水系エマルション樹脂として、エポキシ樹脂を主材としたものを例示したが、何等これに限らない。すなわち、三次元架橋構造型の水系エマルション樹脂であれば、高い遮水性及び高い透湿性を奏することができるので、何等上記に限らない。例えば、三次元架橋構造型の樹脂としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、及びポリウレタンを例示できるが、これら樹脂のうちで、水系エマルションとして使用可能な樹脂であれば、当該樹脂を水系エマルション樹脂の主材として用いても良い。
【0030】
なお、上述のようなエポキシ樹脂を主材とした水系エマルションの具体例としては、クイックボンデ(商品名:株式会社エービーシー商会)を構成する三種の構成材料のうちの二種を用いたものを例示できる。すなわち、上記のクイックボンデは、クイックボンデ基剤と、クイックボンデ硬化剤と、クイックボンデ骨材とを有するが、そのうちのクイックボンデ基剤とクイックボンデ硬化剤とを1:4の配合比(重量比)で混合したものを、上記の三次元架橋構造型の水系エマルションとして用いることができる。ちなみに、クイックボンデ基剤は、変性エポキシ樹脂のみで構成され、また、クイックボンデ硬化剤は、25〜35重量%のアミン化合物と、2〜5重量%の溶剤と、60〜70重量%の水と、0.1〜0.3重量%の添加剤と、から構成されている。
【0031】
また、上述では、セメント系基材11としてコンクリートスラブ11を例示したが、何等これに限らない。例えば、コンクリートスラブ11の上面にセルフレベリング材(不図示)を打設した場合には、このセルフレベリング材をセメント系基材11としても良いし、モルタルをセメント系基材11としても良い。
【0032】
また、ピールアップ接着剤31としては、一般的なものを使用可能である。例えば、水にアクリル系樹脂を分散したエマルションを、同接着剤31として使用可能であり、この例では、これを使用している。但し、何等これに限らず、これ以外のピールアップ接着剤を用いても良い。
【0033】
ちなみに、かかるピールアップ接着剤31も上下方向に多少の厚さを有しており、そのため、同接着剤31は、接着剤層31をなしているが、かかる接着剤層31の透湿度(g/(m
2×日))は、望ましくは、水系エマルション樹脂層21の透湿度よりも高く設定されていると良い。そして、このようにされていれば、水系エマルション樹脂層21を上方に通過した水蒸気は、同樹脂層21と接着剤層31との間の境界BL3に滞留することなく速やかに接着剤層31を通過して上方のタイルカーペット41へと抜けていく。よって、水系エマルション樹脂層21と接着剤層31との間の水蒸気の滞留起因の接着剤層31の膨れや剥がれについても有効に防ぐことができる。
【0034】
ところで、上記の三次元架橋構造型の水系エマルション樹脂層21を用いた場合の作用効果、すなわち、臭気発生の抑制効果、及び膨れや剥がれの防止効果を、本願発明者は、実験によっても確認しているので、以下、これについて説明する。また、既述のように、この膨れや剥がれの防止効果については、当該水系エマルション樹脂層21の高い透湿性に由来していると考えられるため、本願発明者は、この水系エマルション樹脂層21が、どの程度の透湿性を有しているのかについても実験で確認しており、これについても最後に説明する。
【0035】
(1)臭気発生の抑制効果確認実験
臭気については、その原因物質が2−エチル−1−ヘキサノールであることから、2−エチル−1−ヘキサノールの発生量で評価した。
試験体については、本実施形態の床構造10を模した試験体と、第1比較例として従来の臭気未対策の床構造を模した試験体との2種類を用意した。
【0036】
図2Aは、本実施形態の試験体の概略縦断面図である。本実施形態の試験体については、次のようにして作成した。先ず、直方体形状の無蓋のスチレン容器3s(長さ8.5cm×幅17.5cm×高さ3.5cm)内に、セメント系基材11を模擬した所定量のモルタル11mを密実に充填し、1日静置後にモルタル11mの上面全面に本実施形態の水系エマルション(前述のクイックボンデ基剤とクイックボンデ硬化剤とを1:4の配合比(重量比)で混合したもの)を塗布して三次元架橋構造型の水系エマルション樹脂層21を形成し、更に1日静置後に水系エマルション樹脂層21の上面全面にピールアップ接着剤31(エコGAセメント:東リ株式会社)でタイルカーペット41(GA400:東リ株式会社)を接着し、これにより、本実施形態の試験体を作成した。なお、モルタル11mの作成については、JISR5201−1997「セメントの物理試験方法 10.強さ試験」に準拠した。
【0037】
一方、第1比較例の試験体(不図示)については、次のようにして作成した。先ず、上記と同仕様のスチレン容器3s内に、上記と同仕様のモルタル11mを密実に充填して1日静置後に、モルタル11mの上面にピールアップ接着剤31でタイルカーペット41を直貼りし、これにより、第1比較例たる臭気未対策の試験体を作成した。
【0038】
なお、どちらの試験体に対しても、気密養生部材としてのアルミテープ4tを、スチレン容器3sとタイルカーペット41との両者に跨がせながらスチレン容器3sの四辺の全周に亘って巻き付けて貼り付け、これにより、試験体の上面をなすタイルカーペット41の上面41a以外からは2−エチル−1−ヘキサノールが漏出しないようにした。
【0039】
そして、このようにして各試験体が作成されたら、その作成直後に、各試験体を、それぞれ、10リットルの窒素ガスが充填されたポリエステル製ガスサンプリング用バッグ5b内に入れて同バッグ5bを気密状態に密封し、そして、反応速度を速めるべく40℃で静置した。そして、3週間の静置後に、試験体毎に各バッグ5b内に溜まった2−エチル−1−ヘキサノールの濃度(μg/m
3)を測定した。
【0040】
図2Bは、その実験結果たる濃度の測定値のグラフである。なお、この濃度の測定値は、トルエン換算で示している。同
図2Bを参照してわかるように、第1比較例たる臭気未対策の試験体と比べて、本実施形態の試験体では、2−エチル−1−ヘキサノールの濃度が大幅に低減されている。よって、本実施形態の床構造10が、2−エチル−1−ヘキサノールの発生を有効に抑制可能であることが、実験でも確認された。
【0041】
なお、上記の濃度の測定実験は、謂わば3週間という一定期間に単位体積当たりに発生する2−エチル−1−ヘキサノールの総量(μg/m
3)を測定するものであったが、本願発明者は、それ以外に、放散速度(μg/(m
2×h))、すなわち単位時間当たりに単位面積の発生面41aから発生する2−エチル−1−ヘキサノールの発生量(μg/(m
2×h))の経時変化についても実験で確認しているので、以下、これについて説明する。
【0042】
この実験では、3種類の試験体を準備した。なお、3種のうちの2種は、それぞれ、上述の実験と同様に、本実施形態の床構造10を模した試験体、及び、従来の臭気未対策の床構造を模した第1比較例の試験体である。一方、残りの1種は、特許文献1の床構造を模擬した試験体であり、以下では、これを第2比較例の試験体と言う。
【0043】
図3Aに、本実施形態の試験体の概略縦断面図を示すが、同
図3Aは、第2比較例の試験体の概略縦断面図も兼ねている。
図3Aに示すように、第2比較例の試験体は、具体的には、本実施形態の試験体の水系エマルション樹脂層21に代えて、臭気対策として無溶剤エポキシ樹脂層25(アーキフロア−EH無溶剤(商品名:エスケー化研株式会社))を形成したものである。そして、この第2比較例の試験体は、膨れや剥がれの恐れはあるものの、良好な臭気抑制効果を奏するものであり、よって、この第2比較例の試験体については、臭気の抑制レベルの目安にする目的で準備した。
また、この実験では、上述のスチレン容器3sに代えて、上端部が開口した直径90mmのプラスチック製シャーレ3ssを用いているが、これ以外の点については、上述の試験体の作成手順と同じである。
【0044】
なお、各試験体から発生する2−エチル−1−ヘキサノールの放散速度(μg/(m
2×h))の測定については、次のようにして行った。先ず、試験体を
図3Aの適宜な恒温槽71内に入れ、これにより、湿度100%RH、室温23℃の環境下で保管する。そして、放散速度の測定の時だけ、上記の恒温槽71から試験体を取り出して、同試験体を、
図3Bのミニチャンバー装置75内に設置する。そして、放散速度の測定が終わったら、再度上記の恒温槽71内に試験体を即座に戻して、上記環境下での保管を継続する。
【0045】
ミニチャンバー装置75は、28℃の適宜な恒温槽内に配置されている。また、ミニチャンバー装置75は、閉空間SPと、同閉空間SP内に窒素ガスを供給する供給口と、同閉空間SP内から窒素ガスを排出する排出口と、を有する。そして、同閉空間SP内への試験体の設置後には、同試験体が安定するように、上記の供給口及び排出口を用いて、窒素ガスを0.3(リッター/min)の風量で1時間程度流しておき、その後に、排出口にサンプラーを取り付けて、上記風量で30分間流しながらサンプラーで2−エチル−1−ヘキサノールを捕集する。そして、捕集した2−エチル−1−ヘキサノールを、ガスクロマトグラフ質量分析により分析し、これにより、放散速度を求める。なお、捕集後には、直ちに試験体を上記の恒温槽71に戻すのは言うまでもない。また、シャーレ3ssの直径が90mmであることから、2−エチル−1−ヘキサノールの発生面41aは直径90mmの円形面41aであり、よって、放散速度(μg/(m
2×h))は、当該円形面41aの面積で単位面積当たりに換算後の値である。
【0046】
図4は、その実験結果たる拡散速度の測定値のグラフである。
図4を参照してわかるように、第1比較例たる臭気未対策の試験体と比べて、本実施形態の試験体では、2−エチル−1−ヘキサノールの放散速度が大幅に低減されている。また、第2比較例たる特許文献1の試験体との対比においては、本実施形態の試験体の放散速度は、概ね同等なレベルまで低くなっており、また、この低い状態が、局所的な発生のピークなど無く80日の長期に亘って維持されている。よって、本実施形態の床構造10が、2−エチル−1−ヘキサノールの発生を長期に亘って安定して抑制可能であることが実験で確認された。
【0047】
(2)膨れや剥がれの防止効果確認実験
膨れや剥がれは、現象的には接着強度の低下、つまり剥離強度の低下と同じである。そのため、ここでは、その防止効果を主に剥離強度で評価した。なお、かかる剥離強度の測定については、引っ張り試験と、引き倒し試験との両者で行った。
試験体については、本実施形態の床構造10を模した試験体と、第2比較例たる前述の特許文献1の床構造を模した試験体との2種類を用意した。
【0048】
図5に、試験体の概略側面図を示す。各試験体については、次のようにして作成した。先ず、二つのコンクリート平板11w,11wを準備し、前処理として、各コンクリート平板11wを105℃で恒量まで乾燥後、2日間水中浸漬した。そして、十分含水した各コンクリート平板11wの上面をぬぐって、これにより各コンクリート平板11wを表面乾燥飽水状態にした。そして、本実施形態の試験体となるべきコンクリート平板11wの上面には、本実施形態の水系エマルション(前述のクイックボンデ基剤とクイックボンデ硬化剤とを1:4の配合比(重量比)で混合したもの)を0.2kg/m
2の目付量で塗布して、これにより上面に水系エマルション樹脂層21を形成し、一方、第2比較例の試験体となるべきコンクリート平板11wの上面には、無溶剤エポキシ樹脂(アーキフロア−EH無溶剤(商品名:エスケー化研株式会社))を1.4kg/m
2の目付量で塗布して、これにより上面に無溶剤エポキシ樹脂層25を形成した。そして、各コンクリート平板11wを水中に半浸漬状態で1週間静置し、これにより、本実施形態及び第2比較例の各試験体を形成した。
そして、各試験体に対して、それぞれ引っ張り試験及び引き倒し試験の両者を行った。
【0049】
前者の引っ張り試験は、建研式接着力試験機を用いて行った。
図6Aは、同引っ張り試験の概略側面図であり、
図6Bは同概略平面図である。この試験では、先ず、各試験体の上面たる樹脂層21の上面に、接着面が40mm四方の平面の引っ張り用治具50を接着剤で固定する。また、引っ張り用治具50の接着面の四辺に沿って切り込みを樹脂層21(25)のみに入れる。そして、樹脂層21(25)の上面の法線方向に引っ張り用治具50を引っ張り、試験体のうちで引っ張り治具50が固定された上記40mm四方の部分が、引っ張り用治具50とともにコンクリート平板11wから剥離した時の最大荷重(N)を計測し、その最大荷重を40mm四方の面積で除算した値を剥離強度(N/mm
2)とした。
また、その剥離面を観察し、剥離形態を、コンクリート平板11wたるコンクリート11cの内部で剥離した内部剥離と、コンクリート平板11w(コンクリート11c)と樹脂層21(25)との界面(境界)で剥離した界面剥離との二種に分類し、そして、剥離面の全面に占める後者の界面剥離の部分の面積の割合を求め、これを界面剥離率(%)とした。
【0050】
そして、かかる試験を、本実施形態及び第2比較例の各試験体について、それぞれ3箇所の部分で行い、それぞれ、3箇所での上記剥離強度の平均値及び上記界面剥離率の平均値を求めた。
【0051】
一方、
図7Aは、引き倒し試験の概略側面図であり、
図7Bは同概略平面図である。この試験では、先ず、各試験体の上面たる樹脂層21(25)の上面に、断面L字形状のアングル部材60の一方の平板部60aを接着剤で固定し、これにより、他方の平板部60bを、樹脂層21(25)の上面の法線方向に沿って立設した状態にする。なお、樹脂層21(25)の上面に接着される上記平板部60aの接着面の形状は、20mm×20mmの正方形である。次に、樹脂層21(25)に接着された平板部60aの四辺に沿って、切り込みを、樹脂層21(25)のみに入れる。そうしたら、
図7Aに示すように、アングル部材60の上記他方の平板部60bのうちで樹脂層21(25)から80mmだけ離れた部位に、樹脂層21(25)の上面の法線方向に沿って引き倒し荷重を付与する。そして、この引き倒しに伴って、平板部60aがコンクリート平板11wから剥離する過程での引き倒し荷重(N)を計測し、この引き倒し荷重の最大値を20mm四方の平板部60aの面積で除算した値を剥離強度(N/mm
2)とした。
【0052】
また、上記の引っ張り試験の場合と同様に剥離面を観察し、剥離形態を、コンクリート平板11wのコンクリート11cの内部で剥離した内部剥離と、コンクリート平板11w(コンクリート11c)と樹脂層21(25)との界面(境界)で剥離した界面剥離との二種に分類し、そして、剥離面の全面に占める後者の界面剥離の部分の面積の割合を求め、これを界面剥離率(%)とした。
【0053】
そして、かかる試験を、本実施形態及び第2比較例の各試験体について、それぞれ5箇所の部分で行い、それぞれ、5箇所での上記剥離強度の平均値及び上記界面剥離率の平均値を求めた。
【0054】
図8の表1及び表2に、それぞれ、引っ張り試験結果及び引き倒し試験結果を示す。これらの試験結果を見ると、引っ張り試験及び引き倒し試験のどちらについても、本実施形態の試験体は、第2比較例たる特許文献1の試験体よりも格段に高い剥離強度を有していることがわかる。また、第2比較例の界面剥離率を見ると100%であることから、その剥離形態は、界面剥離が支配的であるのに対して、本実施形態の界面剥離率を見ると、15〜50%と低いことから、その剥離形態は、内部剥離たるコンクリート11cの内部での剥離が支配的である。そのため、水系エマルション樹脂層21は、コンクリート11cに高い強度で接着しているものと考えられて、このことは、膨れや剥がれを有効に防止できることの証左であると思われる。よって、本実施形態の水系エマルション樹脂層21が、膨れや剥がれを有効に防止可能であることが、実験で確認された。
【0055】
ちなみに、上述のように本実施形態と第2比較例との間で、剥離強度の相違や剥離形態の相違が生じた主な理由としては、本実施形態の水系エマルション樹脂層21と第2比較例の無溶剤エポキシ樹脂層25とでは、互いの透湿性が大きく相違していることが挙げられる。詳しくは、次の通りである。先ず、第2比較例の無溶剤エポキシ樹脂層25はほぼ非通気性であることから、透湿性は格段に低くなっている。よって、当該無溶剤エポキシ樹脂層25とコンクリート11cとの間の界面(境界)には、コンクリート11cからの水蒸気が溜まり易く、結果、界面剥離して低い剥離強度になったものと推察される。これに対し、本実施形態の水系エマルション樹脂層21は、既述のように高い透湿性を有している。よって、コンクリート11cからの水蒸気は、コンクリート11cとその上の水系エマルション樹脂層21との間の界面には溜まらずに、速やかに同水系エマルション樹脂層21を通り抜けていき、その結果として、界面剥離は起こり難く、高い剥離強度を奏し得たものと考えられる。
【0056】
なお、既述のように透湿性が剥離強度たる接着強度に大きく影響していると推察されることから、本願発明者は、本実施形態の水系エマルション樹脂層21の透湿性と、第2比較例の無溶剤エポキシ樹脂層25の透湿性とについても実験で確認しているので、以下、これについて説明する。
【0057】
(3)水系エマルション樹脂層21及び無用剤エポキシ樹脂層25の透湿性
透湿性試験は、次の手順で行った。
先ず、本実施形態の水系エマルション樹脂層21の試験体と、第2比較例の無溶剤エポキシ樹脂層25の試験体との2種類を用意した。また、この試験方法での透湿性の上限値を把握すべく、樹脂層を設けない試験体も第3比較例として用意し、結果、全3種類の試験体を用意した。なお、各試験体については、次のようにして作成した。
図9は、試験体の概略縦断面図である。
先ず、アクリル容器3aに100gの水を入れ、アクリル容器3aの上端部の開口を略同口径のフレキシブル板11fで蓋をした。そして、アクリル容器3aの上端部とフレキシブル板11fとの両者の間の部分、及びフレキシブル板11fの側面の部分からの水蒸気の漏出を防ぐべく、これらの部分をエポキシ系接着剤4mで覆ってシールした。そして、これを、本実施形態の試験体用、第2比較例の試験体用、及び第3比較例の試験体用のそれぞれについて作成した。
【0058】
そうしたら、本実施形態の試験体となるべきフレキシブル板11fの上面に、水系エマルション(前述のクイックボンデ基剤とクイックボンデ硬化剤とを1:4の配合比(重量比)で混合したもの)を1.0gの塗布量で塗布して、これにより上面に水系エマルション樹脂層21を形成し、一方、第2比較例の試験体となるべきフレキシブル板11fの上面には、無溶剤エポキシ樹脂(アーキフロア−EH無溶剤(商品名:エスケー化研株式会社))を5.4gの塗布量で塗布して、これにより上面に無溶剤エポキシ樹脂層25を形成した。なお、アクリル容器3aの上端部の開口径が約直径70mmのため、この開口径に対応する全ての領域を覆うように、フレキシブル板11fの上面に直径70mmの円形形状で、水系エマルション又は無溶剤エポキシ樹脂を塗布した。また、第3比較例たる樹脂層未設置の試験体となるべきフレキシブル板11fの上面には、何も塗布しないようにした。
【0059】
そして、室温(23℃)で1日静置し、これにより、これら樹脂を硬化させ、これにより、本実施形態、第2比較例、及び第3比較例の各試験体を作成した。なお、この透湿性試験では、本実施形態、第2比較例、及び第3比較例のそれぞれについて、試験体を三つずつ作成した。
【0060】
そうしたら、各試験体を40℃の恒温槽内に収容して経時的に重量測定した。そして、この重量の測定結果に基づいて、恒温槽に収容した時点からの経過日数と、収容した時点からの各経過日での試験体の重量の減少量(g)とをグラフ上にプロットし、これにより、
図10Aのグラフを得た。なお、同グラフの横軸は経過日数であり、縦軸は、試験体の重量の減少量(g)たる水量の減少量(g)である。そして、最小二乗法によってグラフの傾きを求め、得られた傾きの値を各樹脂層21(25)の面積で除算することにより透湿度(g/(m
2×日))を求めた。
【0061】
図10Bの棒グラフに、得られた透湿度(g/(m
2×日))の結果を示す。これを見ると、本実施形態の水系エマルション樹脂層21は、第2比較例の無溶剤エポキシ樹脂層25よりも、大幅に透湿度が高くなっている。また、第3比較例たる樹脂層無しの試験体との対比においても、本願実施形態の水系エマルション樹脂層21は、無視できない大きさの透湿度を有している。よって、これらのことから、本実施形態の水系エマルション樹脂層21は水蒸気を通し易く、その結果、界面での水蒸気の滞留の低減を通して、剥離強度が高くなっているものと推察することができる。
【0062】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0063】
上述の実施形態では、セメント系基材11の上に設ける仕上げ材41の一例として、タイルカーペット41を例示したが、何等これに限らない。すなわち、仕上げ材41が可塑剤を含有していれば、本発明を有効に適用可能であり、よって、例えば、仕上げ材41が塩化ビニルシートでも良い。