(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに傾斜する一対の面を各々有する第1及び第2のプリズムを含んで構成され、複数の波長成分を含む光が前記第1及び第2のプリズムの各面を通過することにより該光を拡幅するビーム拡大光学系と、
前記ビーム拡大光学系により拡幅された前記光を、前記複数の波長成分毎に異なる回折角で出射する分光素子と
を備え、
前記ビーム拡大光学系から出射される前記光の出射角の温度変化による変動方向が、前記分光素子から出射される各波長成分の回折角の前記温度変化による変動を抑制する方向であり、
前記第1のプリズムから出射される前記光の出射角の温度変化による変動方向と、前記第2のプリズムから出射される前記光の出射角の温度変化による変動方向とが互いに同方向であることを特徴とする、分光デバイス。
前記ビーム拡大光学系から出射される前記光の出射角の温度変化による変動量は、前記分光素子から出射される各波長成分の回折角の前記温度変化による変動量がほぼゼロとなるように設定されていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の分光デバイス。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば波長選択スイッチなどの光学装置において、複数の波長成分を含む光を各波長成分毎に分光するための光学系が用いられている。このような光学系は、例えば回折格子などの分光手段を有する分光素子を備える。複数の波長成分を含む光がこの分光素子を通過する際、各波長毎に異なる回折角でもって出射される。
【0006】
しかしながら、このような光学系には次の問題点がある。通常、分光素子の構成材料は温度変化により膨張或いは収縮する。このため、温度変化による回折格子の線膨張を回避することは困難であり、これにより回折格子の格子ピッチが変化すると、各波長成分の回折角も変化してしまう。このような現象が例えば波長選択スイッチにおいて生じると、或る波長成分の光偏向素子における到達位置が、回折格子による各波長成分の分光方向にずれてしまう。その結果、波長帯域の端に相当する波長成分が光偏向素子の偏向領域から逸れてしまうので、使用可能な波長帯域が狭くなってしまう。
【0007】
なお、特許文献2に記載された波長分散デバイスのように、通常の分光光学系に加えて温度補償用のプリズムを更に設けると、部品点数が増加してしまい、光学系の小型化を妨げる一因となる。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、部品点数の増加を抑えつつ温度変化による影響を低減することが可能な分光デバイス及び波長選択スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明による分光デバイスは、互いに傾斜する一対の面を各々有する第1及び第2のプリズムを含んで構成され、複数の波長成分を含む光が第1及び第2のプリズムの各面を通過することにより該光を拡幅するビーム拡大光学系と、ビーム拡大光学系により拡幅された光を、複数の波長成分毎に異なる回折角で出射する分光素子とを備え、ビーム拡大光学系から出射される光の出射角の温度変化による変動方向が、分光素子から出射される各波長成分の回折角の温度変化による変動を抑制する方向であることを特徴とする。
【0010】
また、分光デバイスは、第1のプリズムから出射される光の出射角の温度変化による変動方向と、第2のプリズムから出射される光の出射角の温度変化による変動方向とが互いに同方向であることを特徴としてもよい。
【0011】
また、分光デバイスは、第1のプリズムにおける光の屈折角の正負符号と、第2のプリズムにおける光の屈折角の正負符号とが互いに異なり、温度変化に対する第1及び第2のプリズムの屈折率変化の符号が互いに異なることを特徴としてもよい。
【0012】
また、分光デバイスは、ビーム拡大光学系が、互いに傾斜する一対の面を各々有する3個以上のプリズムを含んで構成されており、第1及び第2のプリズムは、3個以上のプリズムのうち分光素子寄りの2個のプリズムであることを特徴としてもよい。
【0013】
また、分光デバイスは、ビーム拡大光学系が、N個(Nは4以上の偶数)のプリズムを含んで構成されており、第1及び第2のプリズムを除く他のプリズムは、第1及び第2のプリズムのうち一方のプリズムと同じ材質から成り、一方のプリズムと等しい頂角を有することを特徴としてもよい。
【0014】
また、分光デバイスは、第1のプリズムにおける光の屈折角の正負符号と、第2のプリズムにおける光の屈折角の正負符号とが互いに同じであり、温度変化に対する第1及び第2のプリズムの屈折率変化の符号が互いに同じであることを特徴としてもよい。
【0015】
また、分光デバイスは、ビーム拡大光学系が、互いに傾斜する一対の面を各々有し第1及び第2のプリズムを含む3個以上のプリズムを含んで構成されており、ビーム拡大光学系に入射する光の光軸と、ビーム拡大光学系から出射される光の光軸とが互いに平行であることを特徴としてもよい。
【0016】
また、分光デバイスは、温度変化に対する第1及び第2のプリズムの屈折率変化が負であることを特徴としてもよい。
【0017】
また、分光デバイスは、分光素子が回折格子を有しており、回折格子への光の入射角をθ
in、各波長成分の回折角をθ
out、回折格子の周期をΛ
g、回折格子のビーム倍率をM
g、回折格子の角分散をD
g、各波長成分の真空での波長をλ、回折格子の温度をT、第1及び第2のプリズムの周囲の媒質の屈折率をn
0としたとき、以下の数式により表される回折角θ
outの温度依存性(dθ
out/dT)がゼロであることを特徴としてもよい。
【0018】
また、分光デバイスは、上記数式において、第1及び第2のプリズムの周囲の媒質の屈折率n
0の変化が更に加味されていることを特徴としてもよい。
【0019】
また、分光デバイスは、ビーム拡大光学系から出射される光の出射角の温度変化による変動量が、分光素子から出射される各波長成分の回折角の温度変化による変動量がほぼゼロとなるように設定されていることを特徴としてもよい。
【0020】
また、本発明による波長選択スイッチは、複数の波長成分を含む光を入力する入力部と、上記いずれかの分光デバイスと、分光デバイスから出射される複数の波長成分を集光する集光要素と、集光要素により集光された複数の波長成分を、波長成分毎に独立に偏向する光偏向素子と、光偏向素子によって偏向された複数の波長成分を波長成分毎に出力する出力部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明による分光デバイス及び波長選択スイッチによれば、部品点数の増加を抑えつつ温度変化による影響を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら本発明による分光デバイス及び波長選択スイッチの実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
図1は、本実施形態に係る分光デバイス10を備える波長選択スイッチ1Aの構成を示す斜視図である。なお、理解の容易のため、
図1にはXYZ直交座標系が示されている。
【0025】
波長選択スイッチ1Aは、複数の光ポート11と、コリメータアレイ12と、集光要素13と、分光デバイス20と、光偏向素子30と、これらを収容する筐体14とを備えている。筐体14は、XY平面に沿った底面14aを有しており、複数の光ポート11、コリメータアレイ12、集光要素13、及び分光デバイス20は、筐体14の底面14a上に配置されている。また、光偏向素子30は、底面14aを囲う筐体14の側壁14bに取り付けられている。
【0026】
複数の光ポート11は、筐体14の底面14aと交差する方向(例えばZ軸方向)に並んで配置されている。複数の光ポート11のうち一つの光ポート11は、本実施形態における入力部である。この入力部としての光ポート11は、波長選択スイッチ1Aの外部から、複数の波長成分を含む光Pを入力する。また、複数の光ポート11のうち他の光ポート11は、本実施形態における出力部である。これら出力部としての光ポート11は、後述する分光デバイス20によって分光されたのちに光偏向素子30により偏向された複数の波長成分を、各波長成分毎に波長選択スイッチ1Aの外部へ出力する。なお、複数の光ポート11は、例えば光ファイバといった光導波部材によって好適に構成される。
【0027】
コリメータアレイ12は、複数の光ポート11と光学的に結合されている。コリメータアレイ12は、入力部としての光ポート11から入力された光Pを平行化(コリメート)して、分光デバイス20に提供する。また、コリメータアレイ12は、光偏向素子30から到達した分光後の各波長成分を、各々に対応する光ポート11に向けて集光する。
【0028】
分光デバイス20は、入力部としての光ポート11から入力された複数の波長成分を含む光Pを、各波長成分毎に異なる光路へ分光するための分光構造を有する。具体的には、本実施形態の分光デバイス20は、ビーム拡大光学系(ビームエキスパンダ)21と、分光素子29とを備えている。ビーム拡大光学系21Aは、複数の波長成分を含む光Pを入力部としての光ポート11からコリメータアレイ12を介して受け、複数の光ポート11の並び方向と交差する方向、すなわちXY平面に沿った方向にその光Pを拡幅する。また、ビーム拡大光学系21Aは、分光デバイス20によって分光されたのちに光偏向素子30により偏向された複数の波長成分のXY平面内の幅を縮小し、コリメータアレイ12を介して出力部としての光ポート11に提供する。
【0029】
本実施形態のビーム拡大光学系21Aは、光軸方向に並んで配置された第1のプリズム22及び第2のプリズム23を含んで構成されている。第1のプリズム22は、Z軸に沿っており且つXY平面内で互いに傾斜する一対の面22a,22bを有する。同様に、第2のプリズム23は、Z軸に沿っており且つXY平面内で互いに傾斜する一対の面23a,23bを有する。複数の波長成分を含む光Pは、面22a、22b、23a、及び23bをこの順で通過することにより拡幅される。逆に、光偏向素子30により偏向された複数の波長成分は、面23b、23a、22b、及び22aをこの順で通過することにより縮小される。
【0030】
分光素子29は、回折格子を有しており、ビーム拡大光学系21Aによって拡幅された光Pを、複数の波長成分毎に異なる回折角で出射する。分光素子29は、例えば一対の透過型回折格子29a,29bによって構成される。一対の透過型回折格子29a,29bは、光Pの光軸に対し、XY平面内でそれぞれ有意な角度をもって交差している。ビーム拡大光学系21Aから出射された光Pは、透過型回折格子29a,29bをこの順で通過する。このとき、回折作用によって強め合った光の出射角は波長によって異なるため、光透過型回折格子29bから出射された各波長成分は、その波長に応じた光路へ出力される。こうして、光Pは、XY平面に沿った方向に分光される。本実施形態のように2つの透過型回折格子29a,29bを光Pが通過することによって、各波長成分の角分散を大きくし、波長分解能を高めることができる。
【0031】
集光要素13は、例えば集光レンズによって好適に構成される。集光要素13は、分光素子29により分光された各波長成分を、光偏向素子30上の異なる位置へ集光する。本実施形態では、集光要素13の前後に反射ミラー15,16が設けられており、分光素子29により分光された各波長成分の光路は、反射ミラー15により曲折して集光要素13に達したのち、反射ミラー16により再び曲折して光偏向素子30に達する。
【0032】
光偏向素子30は、集光要素13により集光された複数の波長成分を、波長成分毎に独立に偏向するための素子である。光偏向素子30としては、例えばMEMSミラーアレイや、複数の画素を有する位相変調素子が好適である。MEMSミラーアレイは、複数の反射面が一列、または、YZ平面内に二次元的に並んで配置された構成を備えており、各反射面の角度が少しずつ異なっているものである。集光要素13によって集光された各波長成分は、光偏向素子30の複数の反射面のうちの各波長成分に対応する反射面において反射する。
【0033】
なお、光偏向素子30において反射した各波長成分は、上述した光Pの経路を逆に辿り、出力部としての各光ポート11に到達する。このとき、各波長成分の光路は光偏向素子30によってその波長毎に異なっているので、各波長成分は、複数の光ポート11のうち当該波長成分に応じた光ポート11に到達する。こうして、光Pに含まれる複数の波長成分は、その波長に応じた光ポート11から選択的に出力される。
【0034】
図2は、本実施形態の分光デバイス20の構成を拡大して示す上面図である。本実施形態では、光Pの光軸に対する第1のプリズム22および第2のプリズム23の向きが互いに異なる。
図2には、ビーム拡大光学系21Aの第1のプリズム22によって光Pの光軸が変化する向きが図中の矢印A1で示されており、第2のプリズム23によって光Pの光軸が変化する向きが図中の矢印A2で示されている。
図2に示されるように、本実施形態では、第1のプリズム22によって光Pの光軸が変化する向きA1と、第2のプリズム23によって光Pの光軸が変化する向きA2とが互いに逆向きとなっている。言い換えれば、Z軸を中心として反時計回りに角度を定義したとき、第1のプリズム22による屈折角θ
1は正となり、第2のプリズム23による屈折角θ
2は負となる。このような構成によって、ビーム拡大光学系21Aに入射するときの光Pの光軸と、ビーム拡大光学系21Aから出射するときの光Pの光軸とを互いに平行か若しくは平行に近づけることができ、全体の光学系を構成し易くすることができる。
【0035】
また、第1のプリズム22および第2のプリズム23の構成材料としては、例えば光Pの各波長に対して好適な屈折率を有するように成分が調整された硝子(石英など)が用いられる。この場合、第1のプリズム22および第2のプリズム23の屈折率の温度依存性は、例えば−10ppm/K〜10ppm/K程度である。
【0036】
第1のプリズム22および第2のプリズム23は、温度変化によって屈折率が変化する。従って、筐体14内部の温度が変化すると、第1のプリズム22から出射される光Pの屈折角θ
1、および第2のプリズム23から出射される光Pの屈折角θ
2が変動することとなる。一方、分光素子29の構成材料も温度変化により膨張或いは収縮する。このため、温度変化によって各波長成分の回折角が変動する。
【0037】
本実施形態では、温度変化に起因する各波長成分の回折角の変動を低減するため、ビーム拡大光学系21Aから出射される光Pの出射角(θ
1+θ
2)の温度変化による変動方向が、分光素子29から出射される各波長成分の回折角の温度変化による変動を抑制する方向となるように、ビーム拡大光学系21Aの温度特性が設定されている。
図3は、この概念を概略的に示す図であって、ビーム拡大光学系21A及び分光素子29が示されている。
図3(a)に示されるように、いま、ΔT℃の温度上昇によって、分光素子29における或る波長成分P
1の回折角がΔθ
gだけ変動する場合を考える。この場合、
図3(b)に示されるように、ビーム拡大光学系21Aにおける光Pの出射角の温度変化による変動分Δθの変動方向を、Δθ
gが小さくなる方向に設定すれば、温度変化によらず波長成分P
1の回折角を安定させることができる。より好ましくは、分光素子29から出射される各波長成分の回折角の温度変化による変動量Δθ
gがほぼゼロとなるように、ビーム拡大光学系21Aから出射される光Pの出射角の温度変化による変動量Δθが設定されているとよい。以下、このような第1のプリズム22および第2のプリズム23の温度特性を実現するための構成について、詳細に説明する。
【0038】
まず、プリズムおよび回折格子における出射角の温度依存性の理論式を示す。
図4(a)に示されるように、或るプリズムBの第1面b
1への光Pの入射角をθ
in、第1面b
1における光Pの屈折角をθ’
in、第2面b
2への光Pの入射角をθ’
out、第2面b
2における光Pの出射角をθ
out、第1面b
1と第2面b
2との成す頂角をθ
p、プリズムBを構成する材料の屈折率をn
p、プリズムBの周囲の媒質の屈折率をn
0とする。このとき、スネルの法則から、以下の数式(1)が成り立つ。
【数2】
【0039】
ここで、プリズムBの拡幅倍率(すなわち出射ビーム径/入射ビーム径)をM
pとすると、この倍率M
pは次式(2)によって表される。
【数3】
上式(1)及び(2)に基づき、出射角θ
outの温度依存性(dθ
out/dT)は、入射角θ
inの温度依存性も考慮して、以下の式(3)で表される。なお、TはプリズムBの温度である。
【数4】
【0040】
次に、回折格子について考える。
図4(b)に示されるように、或る回折格子Cへの光Pの入射角をθ
in、波長成分P
1の回折角をθ
out、回折格子Cの周期をΛ
g、回折次数をm
g、ビーム倍率をM
g、角分散(回折角の波長依存性)をD
g、波長成分P
1の真空での波長をλとすると、以下の数式(4)〜(6)が成り立つ。
【数5】
【数6】
【数7】
上式(4)〜(6)に基づき、回折角θ
outの温度依存性(dθ
out/dT)は以下の式(7)で表される。なお、Tは回折格子Cの温度である。
【数8】
【0041】
プリズムBの出射角θ
outの温度依存性dθ
out/dTは、そのまま回折格子Cへの入射角θ
inの温度依存性dθ
in/dTとなる。そのことを考慮の上、第1のプリズム22、第2のプリズム23、透過型回折格子29a及び29bに関して上記数式(3)及び(7)を合成したとき、最終的な回折角(すなわち透過型回折格子29bからの回折角)の温度依存性が小さくなるように、数式(3)の各パラメータを決定する。言い換えれば、ビーム拡大光学系21Aから出射される光Pの出射角の温度変化による変動方向が、分光素子29から出射される各波長成分の回折角の温度変化による変動を抑制する方向となるように、数式(3)の各パラメータを決定する。これにより、分光素子29から出射される各波長成分の回折角の温度変化による影響を低減することができる。好ましくは、分光素子29から出射される各波長成分の出射角の温度変化による変動量がほぼゼロとなるように、換言すれば、上記数式(7)で表される回折角θ
outの温度依存性(dθ
out/dT)がゼロとなるように、数式(3)の各パラメータが決定されているとよい。
【0042】
なお、数式(7)に示されるように、分光素子29に含まれる個々の回折格子においても、出射角の温度依存性が存在する。従って、出射角の変動量は、回折格子の枚数が増えるほど(また、角分散が大きくなるほど)大きくなるので、その変動を抑える(補償する)ための第1のプリズム22および第2のプリズム23にも、大きな温度依存性を有することが望まれる。
【0043】
ここで、ビーム拡大光学系21Aからの出射角の温度変化による変動量(
図3(b)に示されたΔθ)は、
図2に示された第1のプリズム22の屈折角θ
1の変動量Δθ
1と、第2のプリズム23の屈折角θ
2の変動量Δθ
2との和(Δθ
1+Δθ
2)となる。これらの変動量Δθ
1及びΔθ
2の正負符号が互いに異なる(すなわち、Δθ
1及びΔθ
2の変動方向が互いに逆である)場合には、Δθ
1及びΔθ
2が互いに減算されるので、ビーム拡大光学系21A全体として十分な変動量Δθを得るためにはΔθ
1及びΔθ
2を大きな値とする必要がある。一方、Δθ
1及びΔθ
2の正負符号が互いに同じ(すなわち、Δθ
1及びΔθ
2の変動方向が互いに同じ)である場合には、Δθ
1及びΔθ
2が加算されるので、Δθ
1及びΔθ
2が小さな値であってもビーム拡大光学系21A全体として十分な変動量Δθを得ることができる。
【0044】
本実施形態では、前述したように、光Pの光軸に対する第1のプリズム22の向きと第2のプリズム23の向きとが互いに逆であるため、第1のプリズム22における光Pの屈折角θ
1の正負符号と、第2のプリズム23における光Pの屈折角θ
2の正負符号とが互いに異なっている。この場合、温度変化時のΔθ
1及びΔθ
2の変動方向を互いに同じとする為には、温度変化に対する第1のプリズム22の屈折率変化の正負符号と、第2のプリズム23の屈折率変化の正負符号とが互いに異なっているとよい。
【0045】
上記のような温度特性を有するビーム拡大光学系21Aの具体例を以下に示す。第1のプリズム22及び第2のプリズム23として、頂角、屈折率、及び屈折率の温度依存性が全て同じものを用いる場合について考える。なお、透過型回折格子29a及び29bは、双方共に、シリカガラス基板(線膨張率=0.51ppm/K)に周期1.0352μm(966本/mm)で形成されたものとし、中心波長1.55μmにてブラッグ条件(入出射角の絶対値が等しい)で用いられるものとする。また、周囲媒質としては、体積変化の無い容器内に密閉されたガスを想定し、ガスの屈折率の温度依存性は無いものとする(すなわち、dn
0/dT=0)。
【0046】
第1のプリズム22及び第2のプリズム23の温度変化に対する屈折率変化、すなわち屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)の符号が同じである場合、例えば分光素子29から出射される各波長成分の回折角の温度変化による変動量Δθ
gをほぼゼロとするために、例えば屈折率n
pが2.0であり、拡幅倍率M
pが2.00であるとき必要となる屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)は−12ppm/Kとなる。また、例えば屈折率n
pが1.5であり、拡幅倍率M
pが1.86であるとき、必要となる屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)は−10ppm/Kとなる。しかしながら、屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)の絶対値が上記よりも小さい値であれば、第1のプリズム22及び第2のプリズム23を光学ガラスを用いて容易に実現でき、また、フッ素やリン酸の含有割合を抑えて第1のプリズム22及び第2のプリズム23の靱性を高めることができる。
【0047】
そこで、第1のプリズム22及び第2のプリズム23として、屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)の符号が互いに異なる(例えば、第1のプリズム22の符号が正、第2のプリズム23の符号が負である)場合を考える。但し、これらのプリズム22,23の温度依存性(dn
p/dT)の絶対値は互いに等しいものとする。この場合、分光素子29から出射される各波長成分の回折角の温度変化による変動量Δθ
gがほぼゼロとなるために、例えば屈折率n
pが2.0であり、拡幅倍率M
pが2.00であるとき必要となる屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)は3.9ppm/K及び−3.9ppm/Kとなる。また、例えば屈折率n
pが1.5であり、拡幅倍率M
pが1.86であるとき、必要となる屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)は3.1ppm/K及び−3.1ppm/Kとなる。このように、本実施形態においては、屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)の符号が第1のプリズム22と第2のプリズム23とで互いに逆であることにより、必要とされる屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)の絶対値を格段に小さくすることができる。
【0048】
この理由は次の通りである。前述した数式(3)の右辺第2項は、プリズムに起因する角度変化量を表している。そして、この右辺第2項の分子には、sin(θ
p)が含まれる。ここで、本実施形態では
図2に示されたように、第1のプリズム22における屈折角θ
1の正負符号と、第2のプリズム23における屈折角θ
2の正負符号とが互いに異なっている。すなわち、第1のプリズム22と第2のプリズム23とでθ
pの正負が逆となるので、sin(θ
p)の正負も逆となる。前述したように、ビーム拡大光学系21Aからの光Pの出射角(θ
1+θ
2)の温度変化による変動量Δθは、第1のプリズム22および第2のプリズム23の個々の変動量Δθ
1及びΔθ
2の和となる。屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)の正負が第1のプリズム22と第2のプリズム23とで同じである場合、これらの変動量Δθ
1及びΔθ
2は互いに減算される。従って、分光素子29における各波長成分の回折角の変動量Δθ
gを小さくするためには、屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)の絶対値を大きくする必要が生じる。これに対し、屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)の正負符号が第1のプリズム22と第2のプリズム23とで異なる場合、これらのプリズム22,23の変動量Δθ
1及びΔθ
2は互いに加算される。従って、分光素子29における各波長成分の回折角の変動量Δθ
gを小さくするために必要な、屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)の絶対値を小さくすることができる。
【0049】
なお、これによりプリズム設計の自由度が高まるので、より大きな拡大倍率を得るために、第1のプリズム22及び第2のプリズム23への入射角を30°以上とするための条件の設定が容易となる。
【0050】
以上に説明した、本実施形態の分光デバイス10及び波長選択スイッチ1Aによって得られる効果について説明する。前述したように、本実施形態の分光デバイス10では、ビーム拡大光学系21Aから出射される光Pの出射角(θ
1+θ
2)の温度変化による変動方向が、分光素子29から出射される各波長成分の出射角の温度変化による変動を抑制する方向となっている。これにより、分光素子29における各波長成分の回折角の温度変化による影響を低減することができる。また、光Pを拡幅するために本来必要なビーム拡大光学系21Aの温度依存性を工夫することによって上記の効果が得られるので、例えば特許文献2に記載された構成と比較して、部品点数の増加を抑えることができる。
【0051】
また、本実施形態のように、第1のプリズム22から出射される光Pの出射角の温度変化による変動方向と、第2のプリズム23から出射される光Pの出射角の温度変化による変動方向とは、互いに同方向であることが好ましい。これにより、第1のプリズム22及び第2のプリズム23に要求される屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)の絶対値を小さくすることができるので、第1のプリズム22及び第2のプリズム23を光学ガラスを用いて容易に実現でき、また、フッ素やリン酸の含有割合を抑えて第1のプリズム22及び第2のプリズム23の靱性を高めることができる。
【0052】
また、本実施形態では、第1のプリズム22における光Pの屈折角θ
1の正負符号と、第2のプリズム23における光Pの屈折角θ
2の正負符号とが互いに異なる。このような場合、温度変化に対する第1のプリズム22及び第2のプリズム23の屈折率変化、すなわち屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)の正負符号が互いに異なっていることが好ましい。これにより、第1のプリズム22から出射される光Pの出射角の温度変化による変動方向と、第2のプリズム23から出射される光Pの出射角の温度変化による変動方向とを互いに同方向とすることができる。
【0053】
また、本実施形態では、ビーム拡大光学系21及び分光素子29が筐体14に収容されている。これにより、ビーム拡大光学系21及び分光素子29の周囲温度を安定させて、分光素子29における各波長成分の回折角の温度変化を低減させることができる。また、本実施形態では、ビーム拡大光学系21及び分光素子29が体積一定の筐体14に密閉され、温度変化による周囲ガスの屈折率変化が無いものとしているが、筐体14の体積変化(膨脹/収縮)や温度変化による周囲ガスの屈折率n
0に変化がある場合には、上述した数式(3)及び(7)に従い、第1のプリズム22および第2のプリズム23の屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)を微調整すればよい。上述の議論では、温度変化による周囲ガスの屈折率変化が無いものとして、屈折率n
pの温度依存性を(dn
p/dT)とし、回折格子の線膨張率を(dΛ
g/dT)として説明したが、温度変化による周囲ガスの屈折率変化を加味する場合においても、上記のn
pを(n
p/n
0)に置き換え、Λ
gをn
0Λ
gに置き換えることによって、同様の議論が成り立つ。
【0054】
(第1の変形例)
図5(a)は、上記実施形態の第1変形例に係るビーム拡大光学系21Bの構成を示す上面図である。本変形例のビーム拡大光学系21Bでは、光Pの光軸に対する第1のプリズム22及び第2のプリズム23の向きが、上記実施形態のビーム拡大光学系21Aとは異なっている。すなわち、Z軸を中心として反時計回りに角度を定義したとき、本変形例では第1のプリズム22による屈折角θ
1は負となり、第2のプリズム23による屈折角θ
2は正となっている。このような構成によって、上記実施形態と同様に、ビーム拡大光学系21Bに入射するときの光Pの光軸と、ビーム拡大光学系21Bから出射するときの光Pの光軸とを互いに平行か若しくは平行に近づけることができ、全体の光学系を構成し易くすることができる。
【0055】
但し、分光素子29の一対の透過型回折格子29a,29bによって分光された複数の波長成分がビーム拡大光学系21Bの近傍を通っている場合、第1のプリズム22および第2のプリズム23の向きによっては、
図5(b)に示されるように、該複数の波長成分の光路に第1のプリズム22が被ってしまう。従って、このような状態を避ける為、ビーム拡大光学系21Bと複数の波長成分の光路との隙間を大きくする必要が生じ、装置全体の小型化を妨げる一因となる。このようなことから、光Pの光軸に対する第1のプリズム22および第2のプリズム23の向きは、近傍を通過する光路との位置関係を考慮して決定されることが望ましい。
【0056】
(第2の変形例)
図6は、上記実施形態の第2変形例に係るビーム拡大光学系21Cの構成を示す上面図である。本変形例のビーム拡大光学系21Cは、上記実施形態における2つのプリズム(第1のプリズム22及び第2のプリズム23)に加え、光Pの光軸方向に並んで配置されたプリズム24及び25を更に含んで構成されている。
【0057】
プリズム24は、Z軸に沿っており且つXY平面内で互いに傾斜する一対の面24a,24bを有する。同様に、プリズム25は、Z軸に沿っており且つXY平面内で互いに傾斜する一対の面25a,25bを有する。複数の波長成分を含む光Pは、面24a、24b、25a、及び25bをこの順で通過し、更に22a、22b、23a、及び23bをこの順で通過することにより拡幅される。逆に、光偏向素子30により偏向された複数の波長成分は、面23b、23a、22b、及び22aをこの順で通過し、更に面25b、25a、24b、及び24aをこの順で通過することにより縮小される。
【0058】
本変形例のように、ビーム拡大光学系は、互いに傾斜する一対の面を各々有する3個以上のプリズム(本変形例では4個)を含んで構成されてもよい。このように、ビーム拡大光学系を構成するプリズムの個数を増やすことによって、波長分解能を更に高めることができる。また、この場合、本変形例のように、分光素子29の温度変化による回折角の変動を抑えるための第1のプリズム22及び第2のプリズム23は、3個以上のプリズムのうち分光素子29寄りの2個のプリズムであることが好ましい。数式(3)より、プリズム入射角の変化、即ち前段のプリズム出射角の変化が、当該プリズムの出射角に与える影響は、プリズム拡大率で除した値となるので、上流のプリズムになるほど、出射角の変化が与える影響は小さくなる。従って、このように、分光素子29に近い2個のプリズムを第1及び第2のプリズムとすることにより、分光素子29の回折角の変動を効果的に抑えることができる。
【0059】
また、本変形例のように、ビーム拡大光学系がN個(Nは4以上の偶数)のプリズムを含んで構成されている場合、第1のプリズム22及び第2のプリズム23を除く他のプリズム24,25は、第1のプリズム22及び第2のプリズム23のうち一方と同じ材質から成り、該一方のプリズムと等しい頂角θ
pを有することが好ましい。これにより、プリズム24,25として使用されるプリズムと、第1のプリズム22又は第2のプリズム23の何れかとして使用されるプリズムとを共通化することができ、ビーム拡大光学系を構成する部品の種類を削減することができる。
【0060】
なお、一実施例では、プリズム23、24及び25が同じ材質を有するプリズムであり、プリズム22のみ材質が異なるプリズムである。周囲ガスの屈折率が一定である場合、硝材の屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)は、それぞれ−2.7ppm/K及び2.6ppm/Kである。また、ビーム拡大光学系21C全体での拡大倍率は例えば15倍である。なお、本変形例では、屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)の正負符号がプリズム22のみ正となっている。分光素子29の回折角の変動をより効果的に抑える為には、プリズム24の屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)も正であることが好ましいが、プリズム22,23による光Pの拡幅によってその影響が小さくなるので、プリズム24及び25の温度依存性(dn
p/dT)は双方共に負であっても問題ない。
【0061】
(第3の変形例)
図7は、上記実施形態の第3変形例に係るビーム拡大光学系21Dの構成を示す上面図である。本変形例のビーム拡大光学系21Dと上記実施形態との相違点は、光Pの光軸に対する第1のプリズムの向きである。上記実施形態では、
図2に示されたように、光Pの光軸に対する第1のプリズム22および第2のプリズム23の向きが互いに異なっており、Z軸を中心として反時計回りに角度を定義したとき、第1のプリズム22による屈折角θ
1は正となり、第2のプリズム23による屈折角θ
2は負となっている。これに対し、本変形例では、
図7に示されるように、光Pの光軸に対する第1のプリズム26および第2のプリズム23の向きが同じとなっており、第1のプリズム26による屈折角θ
1、及び第2のプリズム23による屈折角θ
2は互いに同符号(本変形例では負)となっている。
【0062】
このような場合であっても、温度変化に対する第1のプリズム26及び第2のプリズム23の屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)の正負符号が互いに同じであれば、屈折角θ
1の温度変化による変動方向(すなわちΔθ
1の正負符号)と、屈折角θ
2の温度変化による変動方向(すなわちΔθ
2の正負符号)とを互いに同じとすることができる。従って、第1実施形態と同様の効果を好適に奏することができる。なお、一実施例では、第1のプリズム26及び第2のプリズム23は同じ材質を有するプリズムである。
【0063】
(第4の変形例)
図8は、上記実施形態の第4変形例に係るビーム拡大光学系21Eの構成を示す上面図である。本変形例では、第3の変形例と同様に、ビーム拡大光学系21Eが第1のプリズム26及び第2のプリズム23を含んで構成されている。第1のプリズム26の材質及び頂角θ
pは第3変形例と同じであるが、本実施例では、第1のプリズム26の大きさが第2のプリズム23と全く同一となっている。
【0064】
また、本変形例のビーム拡大光学系21Eは、第1のプリズム26及び第2のプリズム23に加えて、光Pの光軸方向に並んで配置されたプリズム27及び28を更に含んで構成されている。プリズム27及び28の材質及び頂角θ
pは第1のプリズム26および第2のプリズム23と同じである。また、プリズム27及び28の大きさは、第1のプリズム26および第2のプリズム23と全く同一となっている。これにより、プリズム23,26〜28として使用されるプリズムを全て共通化することができ、ビーム拡大光学系を構成する部品の種類を削減することができる。光Pは、プリズム27、28、26、及び23をこの順で通過することにより拡幅される。逆に、光偏向素子30により偏向された複数の波長成分は、プリズム23、26、28、及び27をこの順で通過することにより縮小される。
【0065】
本変形例のように、ビーム拡大光学系は、互いに傾斜する一対の面を各々有する3個以上のプリズム(本変形例では4個)を含んで構成されてもよい。このように、ビーム拡大光学系を構成するプリズムの個数を増やすことによって、波長分解能を更に高めることができる。また、第3変形例および本変形例のように、光Pの光軸に対する第1のプリズム26および第2のプリズム23の向きが同じとなっており、且つ、第1のプリズム26による屈折角θ
1、及び第2のプリズム23による屈折角θ
2が互いに同符号である場合には、ビーム拡大光学系から出射される光Pの出射角の温度変化による変動量が加算されるため、Δθを大きくすることができる。従って、分光素子29の回折角の変動をより効果的に抑えることができる。
【0066】
また、本変形例のように、光Pの光軸に対する第1のプリズム26および第2のプリズム23の向きが同じとなっており、且つ、ビーム拡大光学系が3個以上のプリズム(本変形例では4個)を含んで構成されている場合には、
図8に示されるように、第1のプリズム26および第2のプリズム23を除く他のプリズム27,28の向きを、第1のプリズム26および第2のプリズム23の向きとは異ならせるとよい。これにより、ビーム拡大光学系21Eに入射する光Pの光軸と、ビーム拡大光学系21Eから出射される光Pの光軸とを互いに平行か若しくは平行に近づけることができ、全体の光学系を構成し易くすることができる。
【0067】
なお、一実施例では、プリズム23、26〜28は同じ材質を有するプリズムである。周囲ガスの屈折率が一定である場合、硝材の屈折率n
pの温度依存性(dn
p/dT)は−3.7ppm/Kである。
【0068】
本発明による分光デバイス及び波長選択スイッチは、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態および各変形例では分光素子として2枚の透過型回折格子を例示したが、分光素子は1枚以上の透過型回折格子によって好適に構成され得る。そのような構成としては、例えばリットマン−メトカルフ型や、ダブルパスモノクロメータが挙げられる。