特許第6182989号(P6182989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許61829891,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182989
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/25 20060101AFI20170814BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20170814BHJP
   C07C 17/383 20060101ALI20170814BHJP
   B01J 27/135 20060101ALI20170814BHJP
   B01J 27/132 20060101ALI20170814BHJP
   B01J 23/26 20060101ALI20170814BHJP
   B01J 27/122 20060101ALI20170814BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170814BHJP
【FI】
   C07C17/25
   C07C21/18
   C07C17/383
   B01J27/135 Z
   B01J27/132 Z
   B01J23/26 Z
   B01J27/122 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-124002(P2013-124002)
(22)【出願日】2013年6月12日
(65)【公開番号】特開2014-28794(P2014-28794A)
(43)【公開日】2014年2月13日
【審査請求日】2016年3月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-144913(P2012-144913)
(32)【優先日】2012年6月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152593
【弁理士】
【氏名又は名称】楊井 清志
(72)【発明者】
【氏名】吉川 悟
(72)【発明者】
【氏名】佐久 冬彦
(72)【発明者】
【氏名】高田 直門
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−019243(JP,A)
【文献】 特開平11−140002(JP,A)
【文献】 特表2001−509803(JP,A)
【文献】 特開2009−263365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/25
C07C 21/18
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを気相中、
触媒として金属化合物を金属酸化物もしくは活性炭に担持した金属化合物担持触媒、
または、
金属酸化物の存在下、
脱フッ化水素反応させて1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを製造する方法において、
反応系内の圧力を0.001kPa〜0kPa(絶対圧)、反応温度を250〜600℃の範囲、及び前記脱フッ化水素反応における接触時間を0.01〜5秒で反応を行い、
かつ、
前記金属化合物が、アルミニウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、コバルト、ニオブ、アンチモン、及びタンタルからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記金属酸化物が、アルミナ、チタニア、及びマグネシアからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、
前記製造方法。
【請求項2】
金属化合物が、金属ハロゲン化物、又は金属オキシハロゲン化物であることを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
金属酸化物が、フッ化水素、塩化水素、又は塩素化フッ素化炭化水素で修飾処理されたものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの脱フッ化水素反応により生成した、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、有機不純物、及びフッ化水素とを含む反応混合物からフッ化水素を分離除去し、フッ化水素を除去した後の混合物を蒸留する工程を含む、請求項1乃至の何れかに記載の製造方法。
【請求項5】
フッ化水素の分離を、硫酸に接触させることにより行うことを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
蒸留することで、
前記混合物からトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、
未反応の1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンが含有するシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、
を得、
続いて、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを分離した後、未反応の1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンが含有するシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンに塩基を反応させ、続いて蒸留操作を行うことにより、実質的に1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを含まないシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得る工程を更に含む、請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
「実質的に1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを含まないシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン」の、該プロペンにおける1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン/シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンのモル比が1/100以下である、請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法としては、従来、1,3,3,3−テトラフルオロ−1−ヨウ化プロパンをアルコール性水酸化カリウムにより脱ヨウ化水素する方法(非特許文献1)、または1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)をジブチルエーテル中で水酸化カリウムにより脱フッ化水素する方法(非特許文献2)等、多数知られている。上記、非特許文献1や非特許文献2のような水酸化カリウムにより脱ハロゲン化水素する方法は、反応率および選択率に優れた方法ではあるが、溶媒を用いなければならないこと、水酸化カリウムが化学量論量以上必要であること、また反応の結果、生成するカリウム塩が多大となること等から工業的に適用するには困難な点が多かった。
【0003】
一方で、気相中、脱フッ化水素等での検討もなされており、例えば一般的なフルオロアルカン化合物における、気相中での脱フッ化水素反応の例として、特許文献1に1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンをガス状態にして活性炭又は酸化クロム触媒と接触させることで、対応するプロペンを製造する方法、そして特許文献2ではフルオロエタンを活性炭と接触させて熱分解する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献3では、気相中、触媒存在下、ジルコニウム化合物を金属酸化物又は活性炭に担持したジルコニウム化合物担持触媒を用いて1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを脱フッ化水素反応させて、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−67281号公報
【特許文献2】米国特許2480560号明細書
【特許文献3】特開2008−019243号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R.N.Haszeldine et al.,J.Chem.Soc.1953,1199−1206; CA 48 5787f
【非特許文献2】I.L.Knunyants et al.,Izvest.Akad.Nauk S.S.S.R.,Otdel.Khim.Nauk.1960,1412−18;CA 55,349f
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
気相中でのフルオロアルカン化合物の脱フッ化水素反応は、反応条件が過酷である割には、転化率が必ずしも高くないことが多い。例えば、特許文献1で開示されている1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンを、ガス状態にして活性炭または酸化クロム触媒によって行う方法は、選択率はほぼ定量的である一方、転化率が4%〜50%程度であった。
【0008】
一方、特許文献2に記載の方法は、750〜900℃程度の、かなりの高温にて熱分解を行っているが、この方法でも転化率も40%程度である。
【0009】
特許文献3に記載の方法は、用いる金属により高い転化率もあり、一見有用な方法であるが、転化率が10%〜60%程度と、転化率が低いものも多かった。また、当該文献の反応は、出発原料の1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンが反応系内に残存する為、目的物の1,3,3,3−テトラフルオロプロペンとの分離が容易でない(沸点が近い為)ことも想定される。精製を行うことを考慮すると、目的物中の1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの更なる低減が必要である。
【0010】
また、従来法では、著しい吸熱反応であり触媒床入り口で急激に温度が低下する。即ち、触媒床入り口付近の触媒の負荷が大きいので、温度分布の少ない効率的な反応形態が望まれる。
【0011】
上述のような脱ハロゲン化水素反応において、転化率を向上させるには反応条件をさらに過酷なものにしなければならず、また、高温での反応であることからも、生成物のタール化、炭化、反応器の耐久性等、工業的に製造することは相当な困難を強いられることが予想される。
【0012】
本発明の課題は、目的物である1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを、高い転化率で、工業的規模かつ効率的に得る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを触媒存在下、脱フッ化水素反応させて1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを製造する方法において、反応系内の圧力を0.001kPa〜90kPa(絶対圧。以下、本明細書にて同じ。)とし、反応温度を250〜600℃の範囲で反応を行うことで、種々の金属触媒であっても高い転化率かつ高い選択率でもって当該反応が進行するとの知見を見出した。
【0014】
また、本発明者らは、この特定の反応条件下において、本発明の方法にかかる反応の接触時間が短時間であっても効率的に反応が進行することも見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
気相反応を減圧下で実施すると、常圧反応と比較して接触時間が短くなるだけでなく、熱伝導が悪くなることが予想される中、本発明者らは、特定の条件で反応を行うことで、短い接触時間でも常圧下での反応と比べて効率的に反応が進行する知見を得、また、高い転化率で反応が進行することで、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンと沸点が近い1,3,3,3−テトラフルオロプロペンとそれとの分離の負荷が著しく軽減されるようになった。
【0016】
更に、減圧により接触時間が大幅に短縮されることで、工業的なスケールでの製造において、短時間で製造することもできる。本発明の方法は工業的にも非常に優位性のあるものである。
【0017】
すなわち本発明は、以下の[発明1]−[発明8]に記載する発明を提供する。
【0018】
[発明1]
1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを気相中、触媒存在下、脱フッ化水素反応させて1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを製造する方法において、反応系内の圧力を0.001kPa〜90kPa(絶対圧)とし、反応温度を250〜600℃の範囲で反応を行うことを特徴とする、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法。
【0019】
[発明2]
触媒が、金属化合物を金属酸化物もしくは活性炭に担持した金属化合物担持触媒、又は金属酸化物である、発明1に記載の製造方法。
【0020】
[発明3]
金属化合物が、アルミニウム、チタン、クロム、マンガン、ニッケル、銅、コバルト、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、スズ、アンチモン、及びタンタルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明2に記載の製造方法。
【0021】
[発明4]
金属酸化物が、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びマグネシアからなる群より選ばれる少なくとも一種である、発明2又は3に記載の製造方法。
【0022】
[発明5]
金属化合物が、金属ハロゲン化物、又は金属オキシハロゲン化物であることを特徴とする、発明2乃至4の何れかに記載の製造方法。
【0023】
[発明6]
金属酸化物が、フッ化水素、塩化水素、又は塩素化フッ素化炭化水素で修飾処理されたものであることを特徴とする、発明2乃至5の何れかに記載の製造方法。
【0024】
[発明7]
1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの脱フッ化水素反応により生成した、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、有機不純物、及びフッ化水素とを含む反応混合物からフッ化水素を分離除去し、フッ化水素を除去した後の混合物を蒸留する工程を含む、発明1乃至6の何れかに記載の製造方法。
【0025】
[発明8]
フッ化水素の分離を、硫酸に接触させることにより行うことを特徴とする、発明7に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法は、工業的に入手可能な1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを原料とし、好適な反応条件下で反応を行うことにより、高い転化率で1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを製造できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明における1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0028】
なお、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンは、それ自身、立体異性体が存在し、シス体(Z体)、トランス体(E体)、及びトランス/シス体の混合物(EZ体)があるが、シス体を1234Z、トランス体を1234E、EZの混合物やEZを区別しない場合は1234と呼ぶことがある。
【0029】
本発明で用いる触媒は、金属化合物を金属酸化物もしくは活性炭に担持した金属化合物担持触媒、又は金属酸化物である。
【0030】
金属としては周期表の4〜15族に属する高原子価金属を担体に担持した触媒であり、例えばアルミニウム、チタン、クロム、マンガン、ニッケル、銅、コバルト、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、スズ、アンチモン、及びタンタルからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0031】
金属化合物担持触媒の調製に用いられる金属化合物は、金属化合物のフッ化物、塩化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物、及びオキシフッ化塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属ハロゲン化物もしくは金属オキシハロゲン化物である。
【0032】
担体として有用な金属酸化物としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシアからなる群より選ばれる少なくとも一種である。また、もう一つの担体として有用な活性炭は、各種のものが市販されているのでそれらのうちから選んで使用すればよい。例えば、瀝青炭から製造された活性炭(例えば、カルゴン粒状活性炭CAL(東洋カルゴン(株)製)、椰子殻炭(例えば、日本エンバイロケミカルズ(株)製)などを挙げることができるが、当然これらの種類、製造業者に限られることはない。
【0033】
本発明にかかる金属化合物担持触媒を調製する方法は限定されない。担体として用いられる金属酸化物、活性炭、またはそれらを所定の反応温度以上の温度で予めフッ化水素、塩化水素、塩素化フッ素化炭化水素などによりハロゲンで修飾処理し、修飾後の化合物に、硝酸塩、塩化物、オキシハロゲン化物等の金属の可溶性化合物を溶解した溶液を含浸させるか、スプレーすることで調製できる。
【0034】
例えば、ハロゲンでの修飾処理の具体的な例として、フッ素化方法について述べると、フッ素化方法はどの様な方法でも良いが、例えば、フッ素化アルミナは乾燥用や触媒担体用として市販されているアルミナに加熱しながら気相でフッ化水素を流通させたり、または常温付近でフッ化水素水溶液をスプレーしたりその水溶液に浸漬し、次いで乾燥することで調製することができる。
【0035】
そのほかの担持方法としては、特に限定されず金属ハロゲン化物が担体に付着しておればよい。常温付近で液体である化合物、例えば、五塩化アンチモン、四塩化スズまたは四塩化チタンなどの場合、後に述べるような塩基性物質、酸または熱水による処理や脱水処理の前処理を必要に応じて施した活性炭にそのまま滴下、スプレー、浸漬等の方法で直接付着させることができる。
【0036】
次いで、このようにして得られた金属化合物の付着した触媒担体を加熱および/または減圧して乾燥した後、金属ハロゲン化物の付着した触媒担体を加熱下においてフッ化水素、塩素、塩化水素、塩化フッ化炭化水素等と接触させることで触媒は調製される。
【0037】
なお、本発明では金属化合物担持触媒とは別に、金属酸化物単独でも触媒として用いられ、種類としてはアルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシアからなる群より選ばれる少なくとも一種である。当然、こちらについても金属化合物担持触媒と同様、そのまま用いたり、脱フッ化水素反応前に予めフッ化水素、塩化水素、塩素化フッ素化炭化水素などによりハロゲンで修飾処理させたものを用いることもできる。
【0038】
本発明で用いる触媒のうち、担体としてはアルミナ、フッ素化アルミナ、フッ化アルミ、活性炭などが使用できるが、この中でもジルコニウム化合物担持フッ素化アルミナ、フッ素化アルミナ、クロム化合物担持触媒、及びジルコニアが特に好ましい。
【0039】
金属化合物を担体に担持する量(担持量)は、担体との合計量に占める割合が、通常、0.1〜80wt%、好ましくは1〜40wt%が適当である。担体に担持させる金属化合物の可溶性物質としては、水、塩酸、アンモニア水、エタノール、アセトンなどの溶媒に溶解する該当金属の硝酸塩、リン酸塩、塩化物、酸化物、オキシ塩化物、オキシフッ化物、などが挙げられる。なお、本発明で用いる触媒を、予め300〜400℃の温度で加熱して乾燥させたものを用いることは、本発明において好ましい態様の一つである。
【0040】
本発明では、後述する温度範囲にすると共に、反応系内を減圧条件下で行うことが特徴である。圧力としては通常、0.001kPa〜90kPaで行うが、好ましくは0.001kPa〜50kPaであり、更に好ましくは0.001kPa〜20kPaである。
【0041】
なお、詳しくは後述するが、絶対圧1kPa前後の真空下での条件で反応を行った際、接触時間は0.1秒であるにも関わらず、極めて高い転化率を示すことができたことは、常圧下での反応と同等以上の生産性を表すことから、本発明において特に特筆すべき効果の一つとして挙げられる。
【0042】
なお、反応系内を減圧条件下にする際に用いる減圧装置については、反応器内を所望する圧力に減圧できるものならば、特に限定されないが、減圧装置の例として、動力式のポンプとエジェクター(ベンチュリ効果を利用したアスピレーター)等が挙げられる。
【0043】
なお、減圧前に系内を冷却することが望ましい。自然冷却でも良いが、熱交換器を用い、冷却温度は−10℃〜10℃程度で冷却すると良い。
【0044】
本発明を実施する上で、前述した圧力範囲で、かつ特定の反応温度で行うことが、重要な特徴として挙げられる。反応温度は通常、250〜600℃、好ましくは300〜500℃であり、より好ましくは300℃〜400℃である。反応温度が250℃よりも低い場合、特定の反応圧力であっても反応は遅くなり、実用的ではない。反応温度が600℃を超えると触媒寿命が短くなり、また、反応は速く進行するが分解生成物などが生成し、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの選択率が低下することがある。本発明は、特定の圧力条件下(減圧条件下)で十分反応が進行することから、600℃を超える温度は特に必要ではない。
【0045】
なお、本発明では、反応器内を減圧条件下にすることで反応を行うが、当該反応前に予め上記反応温度の範囲内で反応器内を十分加熱しておくことが好ましい。
【0046】
本発明の方法において、反応領域へ供給する1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンは、窒素、アルゴン、又はヘリウム等の不活性ガスを同時に供給してもよい。
【0047】
本発明にかかる反応の接触時間は、本発明は従来技術と異なり、減圧条件下で行う為、接触時間が大幅に短くても十分反応は進行する。すなわち、上述した減圧条件下で通常0.01〜5秒であり、特に好ましくは0.01〜1秒である。
【0048】
なお、接触時間の算出式は、以下の通りである。
【0049】
[接触時間の算出式]
接触時間(秒)=触媒量(ml)/{導入原料(ガス状態の質量)(ml/秒)}
「ガス状態の質量」として、ガス質量に標準状態の値を用いれば「標準状態換算の接触時間」、実在状態の値を用いれば「実在状態の接触時間」となる。
【0050】
例えば、触媒量=1000ml、温度=300℃、原料供給量=17.9g/minとしたとき、標準状態換算の接触時間は約20秒であるが、温度条件、圧力条件を考慮した実在状態の接触時間を示す。温度を300℃とし、圧力を下記の条件にすることで接触時間は以下の通りとなる。
【0051】
常圧(101kPa)の場合:約10秒
減圧(50kPa)の場合:約5秒
減圧(10kPa)の場合:約1秒
減圧(1kPa)の場合:約0.1秒
従来の方法(常圧法)と本発明の方法とを同じ反応装置で実施した場合、同一の速度で1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを供給した場合、本発明の方が、接触時間が短くなる。本発明の減圧条件下での反応は、気体の単位体積は大きくなる為、一見、設備の規模を大きくする必要があるように思えるが、実際には、減圧法の接触時間が短いため単位時間当たり多くの原料を処理できる。本発明のように、減圧条件下で反応を行うことで、処理量を変更することなく反応率だけを向上できる。
【0052】
本発明で用いる反応器は、耐熱性とフッ化水素、塩化水素などに対する耐食性を有する材質、また、減圧条件下で用いることができる反応器であれば良い。例えば、ステンレス鋼、ハステロイ、モネル、白金などが好ましい。また、これらの金属でライニングされた材料で作ることもできる。
【0053】
本工程の反応により処理されて反応器より流出する1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む生成物は、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、及びその他の有機不純物を含む反応混合物として得られる。該反応混合物には、フッ化水素等の酸性ガスも含まれる。
【0054】
得られる反応混合物には、フッ化水素が含まれる為、フッ化水素を該反応混合物から取り除くことが必要である。本発明では、フッ化水素を取り除く操作(フッ化水素の除去方法)については、たとえば硫酸、3級アミン等、フッ化水素を吸収できるものとの接触、または水洗もしくはアルカリ性水溶液等により、フッ化水素を取り除くことが可能である。例えば、水を用いる場合、水の中に上記の反応混合物を吹き込むことでもフッ化水素を十分取り除くことができる。
【0055】
また、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム等とフッ化水素の錯体を形成させて分離することができ、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム等のカルシウム塩又はこれらの水溶液と反応させることにより、フッ化カルシウム(CaF2)として固定化処理を行い、該混合物からフッ化水素を取り除くことができる。
【0056】
硫酸の量は、該反応混合物に含まれるフッ化水素の量に依存する為、当業者が適宜調整することができる。例えば、溶解度の温度に対するグラフを用いて、100%硫酸中のフッ化水素の溶解度から、必要とされる硫酸の最小量を決めることができる(例えば30℃では、約34gのフッ化水素が100gの100%硫酸に溶解する)。
【0057】
硫酸の純度は特に限定されないが、好ましくは50%以上の純度であり、約98%〜100%の純度を有するものがさらに好ましい。通常は市販されている工業用硫酸(98%)が使用できる。
【0058】
フッ化水素を分離する場合、硫酸へのフッ化水素の吸収が可能であれば、如何なる装置形態、操作方法を採用してもよく、硫酸を槽に張り込み、そこへ反応混合物をガス状態で吹き込む方法、充填物を充填した硫酸洗浄塔へ吹き込み、ガスと硫酸を向流接触させる方法等が採用されるが、硫酸へのフッ化水素の吸収が可能であれば、これらに方法に限らず、別の方法を用いることができる。
【0059】
例えば、硫酸で処理する際、取り除いたフッ化水素は分離し、回収して再び再利用することも可能である。すなわち、このフッ化水素を別の反応の出発原料として使用し、硫酸についてはフッ化水素を抽出する工程で再利用することもできる。
【0060】
一方、トリブチルアミン(BuN)の場合は、トリブチルアミンとフッ化水素との塩(BuN・HF)を塩基性水溶液で洗浄してフッ化水素吸収にリサイクルすることができる。
【0061】
例えば、フッ化水素については、本発明でシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと同時に生成したトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンに変換させる際の反応試剤として用いることもできる。
【0062】
次に、フッ化水素を分離した後の反応混合物を蒸留することで、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンのシス体及びトランス体をそれぞれ分離することができる。蒸留については、バッチ式で行うことも連続式で行うこともでき、操作圧力は常圧(大気圧)または加圧、いずれの圧力下においても、可能であるが、蒸留における凝縮温度を上げることができる圧力条件を選定することが好ましい。使用する蒸留塔は、壁面が蒸留物に対して不活性であればよく、壁面がガラス製またはステンレス製でもよく、鋼等の基材に四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂またはガラスを内部にライニングしている蒸留塔でもよい。蒸留塔は、棚段式あるいは、ラシヒリング、レッシングリング、ディクソンリング、ポールリング、インターロックサドルまたはスルザーパッキン等の充填物を充填した充填塔であってもよい。
【0063】
なお、上述したように、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンのシス体及びトランス体をそれぞれ分離することが可能であるが、後述の実施例に示すように、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン中に、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンが含有することがある。これは、従来技術でよく知られているように、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンとが共沸様組成を示すことに由来するが、後述する方法を採用することで、トランス体はもちろんのこと、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンをも従来より高い純度で得ることが可能である。
【0064】
例えば、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンが含まれるシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを、塩基と反応させ、続いて更に蒸留操作を行うことにより、結果として実質的に1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを含まないシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得ることが可能である。
【0065】
なお、ここで言う「実質的に1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを含まないシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン」とは、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン/シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンのモル比が、塩基と反応させる前よりも、塩基と反応させた後の方が小さいシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンのことをいい、通常、1/100以下であり、1/500以下が好ましく、1/1000とするのがさらに好ましい。
【0066】
用いる塩基は、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ土類金属の水酸化物である。ここでアルカリ金属とは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、又はセシウムであり、アルカリ土類金属とは、マグネシウム、カルシウム、又はストロンチウムのことを言う。
【0067】
アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ土類金属の水酸化物の、具体的な化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウムなどが挙げられる。これらのうち、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムが好ましく、さらに安価で工業的に大量に入手できることから、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0068】
なお、用いる塩基は、1種類又は2種類以上を併用して使用することもできる。
【0069】
用いる塩基の量は、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン及び1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを含む反応混合物に対し、1モル換算で、少なくとも1モルを必要とし、通常1〜10モルの範囲を適宜選択できるが、好ましくは1〜4モルであり、更に好ましくは1〜2モルである。また、10モルより多く塩基を使用することも可能であるが、特に大量使用するメリットもない。
【0070】
なお、式[1]の化合物1モルに対して、1モルより少ない塩基を用いた場合、反応の変換率が低下することがある。
【0071】
上記で明記した塩基については、常温・常圧において固体である為、応じて、少なくとも1種類以上の溶媒に別途加えて溶液として反応させることも可能であり、当業者が適宜選択することができる。用いる溶媒としては反応に関与しないものであれば特に制限はなく、例えばn−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等のアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチルニトリル等のニトリル類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート等のグリコール類、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、そして水などが例示できる。また、これらの溶媒は1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0072】
例えば、実施例に示すように、塩基として水酸化カリウム、溶媒として水を用いることは、本発明において特に好ましい態様の一つである。
【0073】
また、溶媒の他に、添加剤として相間移動触媒を用いることもできる。相間移動触媒を用いる場合、塩基として、特にアルカリ金属の水酸化物を用いた場合に、反応が促進することからも、好ましく用いられる。
【0074】
相間移動触媒としては、クラウンエーテル、クリプテート、又はオニウム塩を用いることができる。クラウンエーテルは金属カチオンを包摂して反応性を高めることができ、Kカチオンと18−クラウン−6、Naカチオンと15−クラウン−5、Liカチオンと12−クラウン−4の組み合わせ等が挙げられる。また、クラウンエーテルのジベンゾまたはジシクロヘキサノ誘導体等も有用である。
【0075】
クリプタンドは多環式大環状キレート化剤で、例えばKカチオン、Naカチオン、Rbカチオン、Csカチオン、Liカチオンと錯体(クリプテート)を形成し、反応を活性化することができ、4,7,13,18−テトラオキサ−1,10−ジアザビシクロ[8.5.5]イコサン(クリプタンド211)、4,7,13,16,21,24−ヘキサオキサ−1,10−ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン(クリプタンド222)等が挙げられる。
【0076】
オニウム塩は、4級アンモニウム塩あるいは4級ホスホニウム塩があり、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラn−ブチルアンモニウムクロリド、テトラn−ブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド、テトラn−ブチルホスホニウムクロリド、テトラn−ブチルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムクロリドが挙げられる。
【0077】
なお、反応後に得られた気体を、冷却したコンデンサーに流通させた後、該気体を捕集容器で捕集させて液化させシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得ることが可能である。
【0078】
蒸留操作における蒸留塔の材質には制限はなく、ガラス製のもの、ステンレス製のもの、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの等を、用いることができる。蒸留塔には、充填剤を詰めることもできる。蒸留は、第2工程と同様、常圧又は加圧条件下で行うのが好ましい。この蒸留に要求される蒸留搭の段数に制限はないが、5〜100段が好ましく、さらに好ましくは10〜50段である。
【0079】
このような工程を経ることで、高純度のトランス−、もしくはシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得ることができる。
【0080】
[実施例]
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されない。ここで、組成分析値の「%」とは、反応混合物を直接ガスクロマトグラフィー(特に記述のない場合、検出器はFID)によって測定して得られた組成の「面積%」を表す。
【0081】
[調製例1]
塩化ジルコニル50gをイオン交換水450gに溶解した。ついで、あらかじめ気相においてフッ素化したγ―アルミナ(住化アルケム製KHS46)500gを先に調製した溶液に浸漬した。2日後、ブフナー漏斗にあけて液切りをした後に、表面が乾くまで風乾し、ロータリーエバポレーターに移して減圧乾燥を行った。調製した触媒を、熱媒を通ずることができるYUS270製(ステンレス鋼)ジャケット付き反応管(内径27.2mm*長さ700mm)に触媒を350ml充填した。窒素を200ml/minで流しながら熱媒を昇温していき、300℃で水が出なくなるまで乾燥した。ついで、HFを1〜2g/minで反応管に導入し、発熱がある場合には窒素量を増やして触媒が350℃を超えないように調整した。発熱がなくなったところで350℃まで昇温して発熱がないことを確認できたら触媒調製を終了とした。
【0082】
[調製例2]
あらかじめ気相においてフッ素化したγ―アルミナ(住化アルケム製KHS46)を、熱媒を通ずることができるYUS270製(ステンレス鋼)ジャケット付き反応管(内径27.2mm*長さ700mm)に350ml充填した。窒素を200ml/minで流しながら熱媒を昇温していき、300℃で水が出なくなるまで乾燥した。ついで、HFを1〜2g/minで反応管に導入し、発熱がある場合には窒素量を増やして触媒が350℃を超えないように調整した。発熱がなくなったところで350℃まで昇温して発熱がないことを確認できたら触媒調製を終了とした。
【0083】
[調製例3]
日本化学産業製の40%塩化クロム水溶液300gに水300gを加えて20%塩化クロム水溶液にした。1リットルのビーカーに白鷺活性炭G2X(日本エンバイロケミカル製)500mlを入れた。先に調製した20%塩化クロム溶液を入れて気泡が出なくなるまでゆっくり攪拌し、24時間静定した。ブフナー漏斗にあけて液切りをした後に、表面が乾くまで風乾し、ロータリーエバポレーターに移して減圧乾燥を行った。調製した触媒を、熱媒を通ずることができるYUS270製(ステンレス鋼)ジャケット付き反応管(内径27.2mm*長さ700mm)に触媒を350ml充填した。窒素を200ml/minで流しながら熱媒を昇温していき、300℃で水が出なくなるまで乾燥した。ついで、HFを1〜2g/minで反応管に導入し、発熱がある場合には窒素量を増やして触媒が350℃を超えないように調整した。発熱がなくなったところで350℃まで昇温して発熱がないことを確認できたら触媒調製を終了とした。
【0084】
[調製例4]
日本化学産業製の40%塩化クロム水溶液300gに水300gを加えて20%塩化クロム水溶液にした。ついで、あらかじめ気相においてフッ素化したγ―アルミナ(住化アルケム製KHS46)500gを先に調製した溶液に浸漬した。2日後、ブフナー漏斗にあけて液切りをした後に、表面が乾くまで風乾し、ロータリーエバポレーターに移して減圧乾燥を行った。調製した触媒を、熱媒を通ずることができるYUS270製(ステンレス鋼)ジャケット付き反応管(内径27.2mm*長さ700mm)に触媒を350ml充填した。窒素を200ml/minで流しながら熱媒を昇温していき、300℃で水が出なくなるまで乾燥した。ついで、HFを1〜2g/minで反応管に導入し、発熱がある場合には窒素量を増やして触媒が350℃を超えないように調整した。発熱がなくなったところで350℃まで昇温して発熱がないことを確認できたら触媒調製を終了とした。
【0085】
[調製例5]
日本化学産業製の40%塩化クロム水溶液150gに水150gを加えて20%塩化クロム水溶液にした。和光純薬製の塩化銅(無水)60gを240gの水に溶解した。この2つの溶液を混合してクロム銅水溶液とした。ついで、あらかじめ気相においてフッ素化したγ―アルミナ(住化アルケム製KHS46)500gを先に調製した溶液に浸漬した。2日後、ブフナー漏斗にあけて液切りをした後に、表面が乾くまで風乾し、ロータリーエバポレーターに移して減圧乾燥を行った。調製した触媒を、熱媒を通ずることができるYUS270製(ステンレス鋼)ジャケット付き反応管(内径27.2mm*長さ700mm)に触媒を350ml充填した。窒素を200ml/minで流しながら熱媒を昇温していき、300℃で水が出なくなるまで乾燥した。ついで、HFを1〜2g/minで反応管に導入し、発熱がある場合には窒素量を増やして触媒が350℃を超えないように調整した。発熱がなくなったところで350℃まで昇温して発熱がないことを確認できたら触媒調製を終了とした。
【0086】
[比較例1]
調製例1で調製した、触媒が充填された反応管を200℃に加熱し温度が安定したところでHFC245faを6.6g/minで反応管に導入し、窒素の供給を止めた。接触時間を計算すると8.4秒であった。2時間後、温度分布が安定していることを確認したらサンプリングし、水洗して酸分を除去した後にガスクロマトグラフィーで分析を行った。
【0087】
[比較例2]
調製例1で調製した、触媒が充填された反応管を345℃にしてHFC245faを6.1g/minで反応を行った他は、比較例1と同様に反応を行った。接触時間を計算すると9.1秒であった。
【0088】
[比較例3]
調製例1で調製した、触媒が充填された反応管を200℃にして真空ポンプで反応管内を1kPaにし、HFC−245faを6.1g/minで反応を行った他は、比較例1と同様に反応を行った。実在状態での接触時間は約0.1秒であった。
【実施例1】
【0089】
調製例1で調製した、触媒が充填された反応管を345℃にして真空ポンプで反応管内を1kPaにし、HFC245faを6.9g/minで反応を行った他は、比較例1と同様に反応を行った。実在状態での接触時間は約0.1秒であった。
【実施例2】
【0090】
調製例1で調製した、触媒が充填された反応管を345℃にして真空ポンプで反応管内を0.6kPaにし、HFC245faを2.4g/minで反応を行った他は、比較例1と同様に反応を行った。実在状態での接触時間は約0.1秒であった。
【0091】
[比較例4]
調製例2で調製した、触媒が充填された反応管を300℃に加熱し温度が安定したところでHFC245faを6.1g/minで反応管に導入し、窒素の供給を止めた。接触時間を計算すると9.1秒であった。2時間後、温度分布が安定していることを確認したらサンプリングし、水洗して酸分を除去した後にガスクロマトグラフィーで分析を行った。
【実施例3】
【0092】
調製例2で調製した、触媒が充填された反応管を真空ポンプで反応管内を0.6kPaにし、HFC−245faを6.1g/minで反応を行った他は、比較例4と同様に反応を行った。実在状態での接触時間は約0.1秒であった。
【0093】
[比較例5]
調製例3で調製した、触媒が充填された反応管を300℃に加熱し温度が安定したところでHFC245faを6.1g/minで反応管に導入し、窒素の供給を止めた。接触時間を計算すると9.1秒であった。2時間後、温度分布が安定していることを確認したらサンプリングし、水洗して酸分を除去した後にガスクロマトグラフィーで分析を行った。
【実施例4】
【0094】
調製例3で調製した、触媒が充填された反応管を真空ポンプで反応管内を0.6kPaにし、HFC−245faを6.1g/minで反応を行った他は、比較例5と同様に反応を行った。実在状態での接触時間は約0.1秒であった。
【0095】
[比較例6]
調製例4で調製した、触媒が充填された反応管を300℃に加熱し温度が安定したところでHFC245faを6.1g/minで反応管に導入し、窒素の供給を止めた。接触時間を計算すると9.1秒であった。2時間後、温度分布が安定していることを確認したらサンプリングし、水洗して酸分を除去した後にガスクロマトグラフィーで分析を行った。
【実施例5】
【0096】
調製例4で調製した、触媒が充填された反応管を真空ポンプで反応管内を0.6kPaにし、HFC−245faを6.1g/minで反応を行った他は、比較例5と同様に反応を行った。実在状態での接触時間は約0.1秒であった。
【0097】
[比較例7]
調製例5で調製した、触媒が充填された反応管を280℃に加熱し温度が安定したところでHFC245faを6.1g/minで反応管に導入し、窒素の供給を止めた。接触時間を計算すると9.1秒であった。2時間後、温度分布が安定していることを確認したらサンプリングし、水洗して酸分を除去した後にガスクロマトグラフィーで分析を行った。
【実施例6】
【0098】
調製例5で調製した、触媒が充填された反応管を真空ポンプで反応管内を0.6kPaにし、HFC−245faを6.1g/minで反応を行った他は、比較例5と同様に反応を行った。実在状態での接触時間は約0.1秒であった。
【0099】
以上の結果を表1に示す。
【表1】
【実施例7】
【0100】
実施例6において、ガスクロマトグラフィーで分析を行った後、反応器から排出する生成ガスを水中に吹き込んで酸性ガスを除去し、モレキュラーシーブス3A(商品名)を充填した乾燥塔を経由して、ドライアイス−アセトン−トラップで捕集した。12時間反応を継続し、3871gの反応生成物を回収した。捕集した有機物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、組成はトランス−1234ze 64.3%、シス−1234ze 13.9%、HFC−245fa 21.5%であった。
【0101】
次に反応生成物を蒸留し、初留分としてトランス−1234zeを分留後(分留後のトランス−1234zeの純度は99.9%)、シス−1234zeを濃縮した留分を579g得た。シス−1234ze含有留分を分析したところ、組成はHFC−245fa 18.42%、シス−1234ze 81.5%であった。
【0102】
続いて、SUS316製1LオートクレーブにSUS316製の二重管式凝縮器を取り付け、凝縮器ジャケットに−5℃のエチレングリコール水溶液を循環させた。テトラn−ブチルアンモンニウムブロミド4.0g、48wt%水酸化カリウム水溶液 38.68g(水酸化カリウムとして0.33mol)を仕込んだ。オートクレーブを真空ポンプで減圧し、オートクレーブを氷水で冷却した後に、シス−1234ze含有有機物(HFC−245fa 18.42%、シス−1234ze 81.5%)500g(4.25mol)を導入した。攪拌機で攪拌し、オートクレーブを40〜45℃の温水槽につけて昇温して19時間加熱した。反応終了後、凝縮器の冷却を停止し、ドライアイスアセトンで冷却したガラストラップに465gの反応生成物を回収した。HFC−245fa転化率は99.99%であり、組成はトランス−1234ze 13.1%、シス−1234ze 86.3%であった。反応生成物を蒸留で精製し、純度99.9%のシス−1234zeが386g得られた。
【0103】
このように、仮にシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンにHFC−245faが含まれていたとしても、塩基と反応させ、続いて蒸留操作を行うことにより、HFC−245faが取り除かれ、高純度のシス−、またはトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明で対象とする1,3,3,3−テトラフルオロプロペンは、医農薬、機能性材料の中間原料あるいは冷媒、作動流体、溶融マグネシウム/マグネシウム合金製造防燃保護ガスなどとして利用できる。