特許第6183010号(P6183010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183010
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】炭化珪素単結晶基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20170814BHJP
【FI】
   C30B29/36 A
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-139771(P2013-139771)
(22)【出願日】2013年7月3日
(65)【公開番号】特開2015-13761(P2015-13761A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】堀 勉
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 智博
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 信
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−067523(JP,A)
【文献】 特開2001−294499(JP,A)
【文献】 特開2007−230846(JP,A)
【文献】 特開2012−046377(JP,A)
【文献】 特開2005−179155(JP,A)
【文献】 特開2011−219296(JP,A)
【文献】 特開2005−239465(JP,A)
【文献】 特開2002−284599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面を有しかつ炭化珪素からなる種結晶と、炭化珪素原料とを準備する工程と、
前記炭化珪素原料において、前記炭化珪素原料の表面と平行な面内における前記炭化珪素原料のあらゆる2点間、及び前記炭化珪素原料の表面と垂直な面内における前記炭化珪素原料のあらゆる2点間の温度勾配を30℃/cm以下に維持しつつ前記炭化珪素原料を昇華させることにより、前記主面上に炭化珪素単結晶を成長させる工程とを備え、
前記種結晶の前記主面は、{0001}面または{0001}面から10°以下オフした面であり、かつ前記主面における螺旋転位密度が20/cm2以上である、炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項2】
前記主面における螺旋転位密度は100000/cm2以下である、請求項1に記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項3】
前記炭化珪素単結晶を成長させる工程において、前記炭化珪素原料の表面と、前記炭化珪素原料の前記表面と対向する前記炭化珪素単結晶の成長表面との間における温度勾配は、5℃/cm以上である、請求項1または2に記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項4】
前記種結晶の前記主面の最大寸法は80mm以上であり、かつ前記炭化珪素単結晶を前記主面と平行な面でスライスした切断面の最大寸法は100mm以上であり、前記炭化珪素単結晶の前記切断面の最大寸法は、前記種結晶の前記主面の最大寸法よりも大きい、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化珪素単結晶基板の製造方法。
【請求項5】
主面を備え、
前記主面の最大寸法は100mm以上であり、
前記主面内の任意の1cm離れた2点間における{0001}面方位差は35秒以下であり、
炭化珪素のポリタイプが4Hである、炭化珪素単結晶基板。
【請求項6】
前記主面における螺旋転位密度は、20/cm2以上100000/cm2以下である、請求項5に記載の炭化珪素単結晶基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素単結晶基板およびその製造方法に関し、より特定的には、結晶品質を向上可能な炭化珪素単結晶基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などの半導体装置の高耐圧化、低損失化、高温環境下での使用などを可能とするため、半導体装置を構成する材料として炭化珪素の採用が進められつつある。炭化珪素は、従来から半導体装置を構成する材料として広く使用されている珪素に比べてバンドギャップが大きいワイドバンドギャップ半導体である。そのため、半導体装置を構成する材料として炭化珪素を採用することにより、半導体装置の高耐圧化、オン抵抗の低減などを達成することができる。また、炭化珪素を材料として採用した半導体装置は、珪素を材料として採用した半導体装置に比べて、高温環境下で使用された場合の特性の低下が小さいという利点も有している。
【0003】
たとえば、特開2001−294499号公報(特許文献1)は、炭化珪素単結晶の製造方法の一例を開示している。当該公報には、昇華再結晶法により炭化珪素単結晶を成長させる場合において、成長結晶内部の温度勾配が成長中常に15℃以下となるように坩堝の設計および成長条件の選択が行われることにより、ウエハ面内の任意の2点間における(0001)面方位のずれが40秒/cm以下であるような炭化珪素単結晶ウエハを製造することができることが記載されている。
【0004】
また、特開2010−235390号公報(特許文献2)には、転位制御種結晶を用いて、成長面上に炭化珪素単結晶を成長させると、c面ファセット内に高密度の螺旋転位が導入されることが記載されている。これにより、c面ファセット上において異種ポリタイプや異方位結晶の発生が抑制され、欠陥密度の低い均質な炭化珪素単結晶が得られるとされている。
【0005】
さらに、特開平5−262599号公報(特許文献3)には、昇華法によって炭化珪素単結晶を製造する場合において、{0001}面より約60°〜約120°の角度だけずれた面を露出させた種結晶を使用することが記載されている。これにより、多形の混在のない炭化珪素単結晶が成長するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−294499号公報
【特許文献2】特開2010−235390号公報
【特許文献3】特開平5−262599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特開2001−294499号公報に記載のように、単に炭化珪素単結晶の温度勾配を15℃/cm以下とするだけでは、異種ポリタイプが発生する場合があり、炭化珪素単結晶の結晶品質を十分に向上することができない。また、特開2010−235390号公報に記載のように、単にc面ファセット内に螺旋転位を導入するだけでは、面内における面方位差を低減することはできず、炭化珪素単結晶の結晶品質を十分に向上することができない。さらに、特開平5−262599号公報に記載のように、{0001}面より約60°〜約120°の角度だけずれた面を露出させた種結晶を使用する場合、炭化珪素単結晶に積層欠陥が発生することにより、炭化珪素単結晶の結晶品質が劣化する。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、その目的は、結晶品質を向上可能な炭化珪素単結晶基板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る炭化珪素単結晶基板の製造方法は以下の工程を備えている。主面を有しかつ炭化珪素からなる種結晶と、炭化珪素原料とが準備される。炭化珪素原料において、前記炭化珪素原料の表面と平行な面内における前記炭化珪素原料のあらゆる2点間、及び前記炭化珪素原料の表面と垂直な面内における前記炭化珪素原料のあらゆる2点間の温度勾配を30℃/cm以下に維持しつつ炭化珪素原料を昇華させることにより、主面上に炭化珪素単結晶1を成長させる。種結晶の主面は、{0001}面または{0001}面から10°以下オフした面であり、かつ主面における螺旋転位密度が20/cm2以上である。
【0010】
本発明に係る炭化珪素単結晶基板は、主面を有する。主面の最大寸法は100mm以上である。主面内の任意の1cm離れた2点間における{0001}面方位差は35秒以下である。炭化珪素のポリタイプが4Hである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、結晶品質を向上可能な炭化珪素単結晶基板およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板の構造を概略的に説明するための斜視模式図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板の構造を概略的に説明するための断面模式図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板の構造を概略的に説明するための平面模式図である。
図4】本発明の一実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板の製造方法を概略的に説明するためのフロー図である。
図5】本発明の一実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板の製造装置の構造を概略的に説明するための断面模式図である。
図6】本発明の一実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板の製造方法を概略的に説明するための断面模式図である。
図7】炭化珪素単結晶の螺旋成長を概念的に説明するための断面模式図である。
図8】炭化珪素単結晶の螺旋成長を概念的に説明するための斜視模式図である。
図9】炭化珪素原料の温度勾配を測定するための第1のステップを説明するための断面模式図である。
図10】炭化珪素原料の温度勾配を測定するための第2のステップを説明するための断面模式図である。
図11】炭化珪素原料の温度勾配を測定するための第3のステップを説明するための断面模式図である。
図12】炭化珪素原料の温度勾配を測定するための第4のステップを説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。また、本明細書中の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。また、負の指数については、結晶学上、”−”(バー)を数字の上に付けることになっているが、本明細書中では、数字の前に負の符号を付けている。また角度の記載には、全方位角を360度とする系を用いている。
【0014】
はじめに、本発明の実施の形態の概要について説明する。
発明者らは、結晶品質の良好な炭化珪素単結晶の製造方法について鋭意検討の結果、以下の知見を得て本発明を見出した。
【0015】
炭化珪素の結晶成長において、ステップフロー成長と螺旋成長との2つの成長モードにより、種結晶の積層構造を成長結晶に伝えている。螺旋成長は、主にファセット部における成長であり螺旋転位を積層構造情報の供給源としている。それゆえ、螺旋転位密度が少ないと、種結晶の結晶構造を成長結晶に十分に引き継ぐことができないので、成長結晶の成長表面のファセット部において異種ポリタイプが発生しやすくなる。つまり、異種ポリタイプの発生を抑制するためには、種結晶の主面にある程度の密度の螺旋転位を有することが必要となる。特に直径が100mm以上であるような大口径の炭化珪素単結晶基板を、異種ポリタイプの発生を抑制しつつ製造するためには、種結晶の主面における螺旋転位密度をある一定密度以上に制御することが必要である。また、直径が100mm以上であるような炭化珪素単結晶基板の面方位差を低減するためには、炭化珪素原料内における温度分布をある一定の温度勾配以下に制御することが必要である。
【0016】
発明者らは鋭意研究の結果、主面における螺旋転位密度が20/cm2以上である種結晶を使用し、かつ炭化珪素原料において、前記炭化珪素原料の表面と平行な面内における前記炭化珪素原料のあらゆる2点間、及び前記炭化珪素原料の表面と垂直な面内における前記炭化珪素原料のあらゆる2点間の温度勾配を30℃/cm以下に維持しつつ炭化珪素原料を昇華させて種結晶の主面に炭化珪素単結晶を成長させることにより、炭化珪素単結晶基板の主面内の1cm離れた任意の2点間における{0001}面方位差が35秒以下であり、異種ポリタイプの混入を抑制可能であり、かつ主面の最大寸法が100mm以上であるような大口径の炭化珪素単結晶基板を製造可能であることを見出した。
【0017】
(1)本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板10の製造方法は以下の工程を備えている。主面2aを有しかつ炭化珪素からなる種結晶2と、炭化珪素原料3とが準備される。炭化珪素原料3において、炭化珪素原料3の表面3aと平行な面内における炭化珪素原料3のあらゆる2点間、及び炭化珪素原料3の表面3aと垂直な面内における炭化珪素原料3のあらゆる2点間の温度勾配を30℃/cm以下に維持しつつ炭化珪素原料3を昇華させることにより、主面2a上に炭化珪素単結晶1を成長させる。種結晶2の主面2aは、{0001}面または{0001}面から10°以下オフした面であり、かつ主面2aにおける螺旋転位密度が20/cm2以上である。
【0018】
本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板10の製造方法によれば、主面10aの1cm離れた任意の2点間における{0001}面方位差が35秒以下であり、異種ポリタイプの混入を抑制可能であり、かつ主面10aの最大寸法が100mm以上である炭化珪素単結晶基板10を製造することができる。
【0019】
(2)本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板10の製造方法において好ましくは、主面2aにおける螺旋転位密度は100000/cm2以下である。これにより、炭化珪素単結晶基板10の主面10aにおける螺旋転位密度を低減することができる。
【0020】
(3)本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板10の製造方法において好ましくは、炭化珪素単結晶1を成長させる工程において、炭化珪素原料3の表面3aと、炭化珪素原料3の表面3aと対向する炭化珪素単結晶1の成長表面1aとの間における温度勾配は、5℃/cm以上である。これにより、炭化珪素単結晶1の成長速度を向上することができる。
【0021】
(4)本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板10の製造方法において好ましくは、種結晶2の主面2aの最大寸法は80mm以上であり、かつ炭化珪素単結晶1を主面2aと平行な面でスライスした切断面の最大寸法は100mm以上であり、炭化珪素単結晶1の切断面の最大寸法は、種結晶2の主面2aの最大寸法よりも大きい。これにより、主面10aの寸法の大きい炭化珪素単結晶基板10を製造することができる。
【0022】
(5)本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板10は、主面10aを有する。主面10
aの最大寸法は100mm以上である。主面10a内の任意の1cm離れた2点間におけ
る{0001}面方位差は35秒以下である。炭化珪素のポリタイプが4Hである。これにより、主面10aの最大寸法が100mm以上であり、かつ結晶品質の優れた炭化珪素単結晶基板10を得ることができる。
【0023】
(6)本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板10において好ましくは、主面10aにおける螺旋転位密度は、20/cm2以上100000/cm2以下である。これにより、主面10aにおける螺旋転位密度が低減された炭化珪素単結晶基板10を得ることができる。
【0024】
次に、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
まず、本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板の構成について図1図3を参照して説明する。
【0025】
図1を参照して、本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板10は、たとえばポリタイプ4Hの六方晶炭化珪素からなり、第1の主面10aと、第1の主面10aと反対側の第2の主面10bとを有している。炭化珪素単結晶基板10の直径の最大寸法D1は、たとえば100mm以上であり、好ましくは150mm以上である。炭化珪素単結晶基板10の第1の主面10aは、たとえば平均的に{0001}面または{0001}面から10°以下オフした面である。具体的には、第1の主面は、たとえば(0001)面または(0001)面から10°以下程度オフした面であってもよいし、(000−1)面または(000−1)面から10°以下程度オフした面であってもよい。
【0026】
図2を参照して、炭化珪素単結晶基板10の第1の主面10aにおける{0001}面方位差について説明する。特開2001−294499号公報の図1に記載のように、炭化珪素単結晶基板10の第1の主面10a付近を詳細に観察すると、炭化珪素単結晶基板10は、微小に面方位の異なる多数のドメインから構成されていることが分かる。つまり、炭化珪素単結晶基板10の第1の主面10aが平均的に見て{0001}面である場合においても、第1の主面10aの面内における各位置の{0001}面方位は、第1の主面10aの法線方向nから微小にずれている。
【0027】
図2に示すように、第1の主面10aの任意の位置a1における{0001}面方位c1は、第1の主面10aの法線方向nから角度θ1だけ、ある一方方向にずれている。また第1の主面10aの任意の位置a1から距離Lだけ離れた第1の主面10aにおける位置a2における{0001}面方位c2は、第1の主面10aの法線方向nから角度θ2だけ、ある一方方向にずれている。距離Lは、たとえば1mmである。本実施の形態において、{0001}面方位差とは、上記角度θ1と上記角度θ2との差の絶対値である。炭化珪素単結晶基板10の第1の主面10a内における任意の1cm離れた2点間における{0001}面方位差35秒以下であり、より特定的には、第1の主面10a内における任意の1cm離れた2点間における(0001)面方位差35秒以下である。好ましくは、第1の主面10a内における任意の1cm離れた2点間における{0001}面方位差は30秒以下であり、さらに好ましくは{0001}面方位差は25秒以下である。また好ましくは、炭化珪素単結晶基板10の第1の主面10aにおける螺旋転位密度は20/cm2以上100000/cm2以下である。炭化珪素単結晶基板10の第1の主面10aにおける螺旋転位密度は、たとえばウェハを520℃に加熱した溶融水酸化カリウムに5分間浸漬することでエッチングを行い、発生したエッチピットの数を数えることによって測定することができる。
【0028】
図3を参照して面方位差の測定方法について説明する。第1の主面10a内における任意の位置における面方位差は、たとえばX線回折またはX線トポグラフィーなどにより測定可能である。X線源として、たとえばCu−Kα1を使用し(0004)ピークが測定される。波長は1.5405オングストローム(単色化)である。たとえば、第1の主面10a内の位置a1における{0001}面方位をX線により測定する。X線のスポット径d1、d2は、たとえば1mm以上7mm以下程度であり、たとえば3mmである。たとえば第1の主面10aの位置a1における{0001}面方位を測定する場合、X線のスポットS1の中心が位置a1に位置するように調整される。同様に、第1の主面10a内の位置a1から1mm離れた第1の主面10a内の任意の位置a2における{0001}面方位を測定する場合、X線のスポットS2の中心が位置a2に位置するように調整される。つまり、第1の主面10a内の任意の1cm離れた2点とは、X線の第1のスポットS1の中心と第2のスポットS2の中心との距離が1cm離れていることを意味する。以上のようにして、炭化珪素単結晶基板10の第1の主面10a内における任意の1cm離れた2点の各々における面方位を測定し、当該2点間における{0001}面方位差が計算される。
【0029】
図4を参照して、本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板の製造方法について説明する。
【0030】
まず、炭化珪素単結晶の製造装置100が準備される。図5を参照して、本実施の形態に係る炭化珪素単結晶の製造装置100は、坩堝と加熱部(図示せず)とを有している。坩堝は、たとえばグラファイトからなり、種結晶保持部4と原料収容部5とを有している。種結晶保持部4は単結晶炭化珪素からなる種結晶2を保持可能に構成されている。原料収容部5は多結晶炭化珪素からなる炭化珪素原料3を配置可能に構成されている。坩堝の外径はたとえば160mm程度であり、内径はたとえば120mm程度である。加熱部は、たとえば誘導加熱式ヒータや抵抗加熱式ヒータなどであり、坩堝の外周を囲うように配置されていている。加熱部は坩堝を炭化珪素の昇華温度まで昇温可能に構成されている。
【0031】
次に、種結晶および原料準備工程(S10:図4)が実施される。具体的には、図5を参照して、たとえばポリタイプ4Hの六方晶炭化珪素からなる種結晶2が種結晶保持部4に固定される。種結晶2は、第1の主面2aと、第1の主面2aと反対側の第2の主面2bとを有する。種結晶2の第2の主面2bは、種結晶保持部4と接し、種結晶保持部4により保持されている。炭化珪素原料3は、原料収容部5に収容されている。炭化珪素原料3は、たとえば多結晶炭化珪素からなる。種結晶2の第1の主面2aが、炭化珪素原料3の表面3aに対向するように、炭化珪素原料3が原料収容部5に配置される。以上のように、第1の主面10aを有し、かつ炭化珪素からなる種結晶2と、炭化珪素原料3とが準備される。炭化珪素原料3の表面3aから裏面3bまでの距離H1はたとえば20mmであり、炭化珪素原料3の表面3aから種結晶2の第1の主面2aまでの距離H2が100mm程度となるように、種結晶2と炭化珪素原料3とが坩堝に配置される。
【0032】
種結晶2の第1の主面2aの最大寸法は、たとえば80mm以上であり、好ましくは100mm以上である。種結晶2の第1の主面2aはたとえば{0001}面または{0001}面から10°以下程度のオフした面である。好ましくは、種結晶2の第1の主面2aは、(0001)面から10°以下程度オフした面であり、より好ましくは(0001)面から4°以下程度オフした面である。種結晶2の第1の主面2aにおける螺旋転位密度は20/cm2以上であり、好ましくは500/cm2以上であり、より好ましくは1000/cm2以上である。また好ましくは、種結晶2の第1の主面2aにおける螺旋転位密度は100000/cm2以下である。
【0033】
次に、炭化珪素単結晶成長工程(S20:図4)が実施される。具体的には、図6を参照して、炭化珪素原料3および種結晶2を含む坩堝が、たとえばヘリウムガスおよび窒素ガスを含む雰囲気ガス中において、常温から炭化珪素結晶が昇華する温度(たとえば2300℃)まで加熱される。種結晶2は、炭化珪素原料3よりも低い温度になるように加熱される。つまり、炭化珪素原料3から種結晶2に向かう方向に沿って温度が低くなるように坩堝が加熱される。次に、坩堝内の圧力をたとえば1kPaにまで低減する。これにより、坩堝内の炭化珪素原料3が昇華して種結晶2の第1の主面2a上に再結晶することにより、種結晶2の第1の主面2a上に炭化珪素単結晶1が成長し始める。炭化珪素単結晶1の成長は、たとえば100時間程度実施される。以上により、種結晶2の第1の主面2aに炭化珪素単結晶1が成長する。
【0034】
炭化珪素単結晶が成長する工程において、種結晶2の第1の主面2aと平行な方向に沿った炭化珪素単結晶1の最大寸法D1が、種結晶2の第1の主面2aの最大寸法D2よりも大きくなるように、炭化珪素単結晶1が成長してもよい。種結晶2の第1の主面2aと平行な方向に沿った炭化珪素単結晶1の最大寸法D1は100mm以上であり、種結晶2の第1の主面2aの最大寸法D2は80mm以上であってもよい。また、上記炭化珪素単結晶1の結晶成長により成長した炭化珪素単結晶1を切断して種結晶2とし、当該種結晶2を用いて、再度、当該種結晶2の第1の主面2a上に炭化珪素単結晶1を成長させてもよい。これにより、炭化珪素単結晶1の成長方向と垂直な方向の寸法D1を、結晶成長毎に増大させることが可能となる。
【0035】
種結晶2の第1の主面2a上に炭化珪素単結晶1を成長させる工程において、炭化珪素原料3が配置されている原料領域R1の温度分布が小さく維持しながら炭化珪素原料3が加熱される。具体的には、炭化珪素原料3内における任意の2点間における温度勾配を30℃/cm以下に維持しつつ炭化珪素原料3を昇華させる。より具体的には、炭化珪素原料3の表面3aと平行な面内における炭化珪素原料3の任意の2点間における温度勾配が30℃/cm以下であり、かつ炭化珪素原料3の表面3aと垂直な面内における炭化珪素原料3の任意の2点間における温度勾配が30℃/cm以下となるように炭化珪素原料3の温度を調整しながら、種結晶2の第1の主面2aに炭化珪素単結晶1を成長させる。炭化珪素原料3内の温度勾配は、たとえば坩堝を覆う断熱材の厚みの調整や、加熱部の配置を変更することにより行うことができる。好ましくは、炭化珪素単結晶を成長させる工程における、炭化珪素原料3内の任意の2点間における温度勾配は25℃/cm以下であり、より好ましくは20℃以下であり、さらに好ましくは15℃以下である。
【0036】
好ましくは、炭化珪素単結晶1を成長させる工程において、原料領域R1における種結晶2の第1の主面2aに垂直な方向の温度勾配は30℃/cm以下であり、かつ炭化珪素原料3の表面3aと、当該表面3aに対向する炭化珪素単結晶1の成長表面1aとの間に挟まれた成長領域R2における種結晶2の第1の主面2aに垂直な方向の温度勾配は5℃/cm以上となるように、種結晶2および炭化珪素原料3が加熱される。成長領域R2における種結晶2の第1の主面2aに垂直な方向の温度勾配は、たとえば10℃/cm程度である。
【0037】
図7および図8を参照して、炭化珪素単結晶1の成長メカニズムについて説明する。図7に示すように、炭化珪素単結晶1の成長表面1aは、ファセット部R3と非ファセット部R4とからなる。炭化珪素単結晶1の成長の順番としては、最初に、種結晶2の第1の主面2aの結晶構造を反映したファセット部R3が形成され、その後、非ファセット部R4が形成される。ファセット部R3の結晶構造が非ファセット部R4に引き継がれるように炭化珪素単結晶1は成長する。図8に示すように、ファセット部R3では、成長表面1aに露出した螺旋転位の転位線eを中心として、螺旋階段上にステップ1a1、1a2、1a3が形成される。ファセット部R3では、螺旋転位をステップの供給源として螺旋成長により炭化珪素単結晶が成長する。非ファセット部R4ではステップフロー成長により炭化珪素単結晶が成長する。以上のように、種結晶2の第1の主面2a上に、炭化珪素単結晶1が成長する。
【0038】
次に、スライス工程(S30:図4)が実施される。具体的には、炭化珪素単結晶1が坩堝から取り出された後に、たとえばワイヤーソーにより炭化珪素単結晶1がスライスされる。炭化珪素単結晶1は、たとえば種結晶2の第1の主面2aの法線に交差する面でスライスされる。以上により、図1図3に示す炭化珪素単結晶基板10が得られる。
【0039】
次に、本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板およびその製造方法の作用効果について説明する。
【0040】
本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板10の製造方法によれば、炭化珪素原料3において、炭化珪素原料3の表面3aと平行な面内における炭化珪素原料3のあらゆる2点間、及び炭化珪素原料3の表面3aと垂直な面内における炭化珪素原料3のあらゆる2点間の温度勾配を30℃/cm以下に維持しつつ炭化珪素原料3を昇華させることにより、主面2a上に炭化珪素単結晶1を成長させる。主面2aにおける螺旋転位密度が20/cm2以上である。これにより、主面10aの1cm離れた任意の2点間における{0001}面方位差が35秒以下であり、異種ポリタイプの混入を抑制可能であり、かつ主面10aの最大寸法が100mm以上である炭化珪素単結晶基板10を製造することができる。また、種結晶2の主面2aを{0001}面または{0001}面から10°以下オフした面とすることにより、炭化珪素単結晶1に積層欠陥が混入することを抑制することができる。
【0041】
また本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板10の製造方法によれば、主面2aにおける螺旋転位密度は100000/cm2以下である。これにより、炭化珪素単結晶基板10の主面10aにおける螺旋転位密度を低減することができる。
【0042】
さらに本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板10の製造方法によれば、炭化珪素単結晶1を成長させる工程において、炭化珪素原料3の表面3aと、炭化珪素原料3の表面3aと対向する炭化珪素単結晶1の成長表面1aとの間における温度勾配は、5℃/cm以上である。これにより、炭化珪素単結晶1の成長速度を向上することができる。
【0043】
さらに本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板10の製造方法によれば、種結晶2の主面2aの最大寸法は80mm以上であり、かつ炭化珪素単結晶1を主面2aと平行な面でスライスした切断面の最大寸法は100mm以上であり、炭化珪素単結晶1の切断面の最大寸法は、種結晶2の主面2aの最大寸法よりも大きい。これにより、主面10aの寸法の大きい炭化珪素単結晶基板10を製造することができる。
【0044】
本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板10によれば、主面10aの最大寸法は100mm以上である。主面10a内の任意の1cm離れた2点間における{0001}面方位差は35秒以下である。これにより、主面10aの最大寸法が100mm以上であり、かつ結晶品質の優れた炭化珪素単結晶基板10を得ることができる。
【0045】
また本実施の形態に係る炭化珪素単結晶基板10によれば、主面10aにおける螺旋転位密度は、20/cm2以上100000/cm2以下である。これにより、主面10aにおける螺旋転位密度が低減された炭化珪素単結晶基板10を得ることができる。
【実施例】
【0046】
まず、第1の主面10aにおける螺旋転位密度が5/cm2、15/cm2、20/cm2、500/cm2および1000/cm2である種結晶2を準備した。種結晶2の第1の主面2aのオフ角を0°とした。上記各々の種結晶2を用いて、昇華法により種結晶2の第1の主面2aに炭化珪素単結晶1を成長させた。炭化珪素単結晶1の成長は、上記実施の形態で説明した方法により行われた。具体的には、坩堝に種結晶2と炭化珪素原料3を配置し、坩堝を常温から2300°まで昇温した。坩堝の温度が2300°の温度に到達後、坩堝の圧力を約1kPaまで減圧することにより、炭化珪素原料3が昇華し、種結晶2の第1の主面2aに炭化珪素単結晶1を成長させた。100時間程度で炭化珪素単結晶1の成長が完了した。
【0047】
第1回目の炭化珪素単結晶の成長に用いた種結晶2の第1の主面2aの寸法D2を25.4mm(1インチ)とした。100時間成長させた炭化珪素単結晶1の成長方向と垂直な方向における寸法D1は、種結晶2の第1の主面2aの寸法D2よりも約10mm大きくなった。次に、成長した炭化珪素単結晶1をスライスして、次の炭化珪素単結晶1の結晶成長に用いる種結晶2とした。当該種結晶2を用いて、第2回目の炭化珪素単結晶1の結晶成長を実施した。以上のように、炭化珪素単結晶1の結晶成長によって寸法が増大した炭化珪素単結晶1を、次の機会の炭化珪素単結晶1の結晶成長の種結晶2として使用することにより、炭化珪素単結晶1の寸法D1を10mmずつ増大させ、炭化珪素単結晶1の寸法D1が100mmになるまで炭化珪素単結晶1の結晶成長を繰り返した。
【0048】
各螺旋転位密度を有する種結晶2の第1の主面2a上に炭化珪素単結晶1を成長させる際における炭化珪素原料2内の温度勾配を15℃/cm以下、25℃/cm以下、35℃/cm以下および45℃/cm以下とした。炭化珪素原料3の温度勾配の測定を以下のように行った。まず図9図12に示すように、原料収容部5の形状の異なる4つの坩堝を用いて、種結晶2の第1の主面2aに炭化珪素単結晶1を成長させた。炭化珪素単結晶1の成長中において炭化珪素原料3の温度を放射温度計6で測定した。図9に示すように、原料収容部5の中央付近に窪みを有し、当該窪みの底部が炭化珪素原料3の表面3a近くに位置する坩堝を準備した。当該坩堝を用いて炭化珪素原料3の表面3aの中央付近における炭化珪素原料3の温度を測定した。
【0049】
次に、図10に示すように、原料収容部5の中央付近に窪みを有し、当該窪みの底部が炭化珪素原料3の表面3aの法線方向における中央付近に位置する坩堝を準備した。当該坩堝を用いて炭化珪素原料3の表面3aの中央付近であって、かつ表面3aの法線方向における中央付近における炭化珪素原料3の温度を測定した。次に、図11に示すように、原料収容部5に窪みを有しない坩堝を準備した。当該坩堝を用いて炭化珪素原料3の裏面3bの中央付近における炭化珪素原料3の温度を測定した。次に、図12に示すように、原料収容部5の外周側に窪みを有し、当該窪みの底部が炭化珪素原料3の表面3a付近に位置する坩堝を準備した。当該坩堝を用いて炭化珪素原料3の表面3aの外周付近における炭化珪素原料3の温度を測定した。
【0050】
図9図10および図11に示す坩堝を使用して測定した炭化珪素原料3の温度を比較することにより、表面3aの法線方向に沿った炭化珪素原料3の温度勾配を測定した。また図9および図12に示す坩堝を使用した測定した炭化珪素原料3の温度を比較することにより、炭化珪素原料3の表面3aの面内方向における炭化珪素原料3の温度勾配を測定した。坩堝の加熱条件を調整することにより、炭化珪素原料3の表面の面内方向および法線方向の各々において、炭化珪素原料3の温度勾配が所望の値以下となる加熱条件を決定した。
【0051】
次に、上記各螺旋転位密度および上記各炭化珪素原料の温度勾配において成長した炭化珪素単結晶1をスライスし、炭化珪素単結晶基板10を切り出した。炭化珪素単結晶基板10の主面10aにおいて1cm離れた任意の2点における面方位を測定し、当該2点間の面方位差を計算した。面方位の測定は、上記実施の形態で説明した方法によりおこなわれた。具体的には、面方位の測定は、X線回折法により行われた。X線源として、たとえばCu−Kα1を使用し(0004)ピークを測定した。波長は1.5405オングストローム(単色化)であった。
【0052】
表1を参照して、種結晶2の第1の主面2aのオフ角が0°の場合における炭化珪素単結晶基板10の主面10aの面方位差について説明する。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すように、種結晶2の第1の主面2aの螺旋転位密度が20/cm2以上であり、かつ炭化珪素原料3の温度勾配が30℃/cm以下である場合において、炭化珪素単結晶基板10の主面10a内において1cm離れた2点間における面方位差が32秒以下となった。一方、種結晶2の第1の主面2aの螺旋転位密度が20/cm2未満である場合、もしくは炭化珪素原料3の温度勾配が30℃/cmより大きい場合において、炭化珪素単結晶基板10の主面10a内において1cm離れた2点間における面方位差が38秒以上となった。
【0055】
次に、種結晶2の第1の主面2aのオフ角が4°であり、かつ第1の主面10aにおける螺旋転位密度が5/cm2、15/cm2、20/cm2、500/cm2および1000/cm2である種結晶2を準備した。また、種結晶2の第1の主面2aのオフ角が10°であり、かつ第1の主面10aにおける螺旋転位密度が5/cm2、15/cm2、20/cm2、500/cm2および1000/cm2である種結晶2を準備した。さらに、種結晶2の第1の主面2aのオフ角が15°であり、かつ第1の主面10aにおける螺旋転位密度が5/cm2、15/cm2、20/cm2、500/cm2および1000/cm2である種結晶2を準備した。
【0056】
上記各々の種結晶2を用いて、オフ角が0°の場合と同様の方法で、昇華法により種結晶2の第1の主面2aに炭化珪素単結晶1を成長させた。上記各々の種結晶2の第1の主面2a上に炭化珪素単結晶1を成長させる際における炭化珪素原料2内の温度勾配を15℃/cm以下、25℃/cm以下、35℃/cm以下および45℃/cm以下とした。上記各オフ角、上記各螺旋転位密度および上記各炭化珪素原料の温度勾配において成長した炭化珪素単結晶1をスライスし、炭化珪素単結晶基板10を切り出した。炭化珪素単結晶基板10の主面10aにおいて1cm離れた任意の2点における面方位を測定し、当該2点間の面方位差を計算した。
【0057】
表2を参照して、種結晶2の第1の主面2aのオフ角が4°の場合における、炭化珪素単結晶基板10の主面10aの面方位差について説明する。
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示すように、種結晶2の第1の主面2aの螺旋転位密度が20/cm2以上であり、かつ炭化珪素原料3の温度勾配が30℃/cm以下である場合において、炭化珪素単結晶基板10の主面10a内において1cm離れた2点間における面方位差が19秒以下となった。一方、種結晶2の第1の主面2aの螺旋転位密度が20/cm2未満である場合、もしくは炭化珪素原料3の温度勾配が30℃/cmより大きい場合において、炭化珪素単結晶基板10の主面10a内において1cm離れた2点間における面方位差が38秒以上となった。
【0060】
表3を参照して、種結晶2の第1の主面2aのオフ角が10°の場合における、炭化珪素単結晶基板10の主面10aの面方位差について説明する。
【0061】
【表3】
【0062】
表3に示すように、種結晶2の第1の主面2aの螺旋転位密度が20/cm2以上であり、かつ炭化珪素原料3の温度勾配が30℃/cm以下である場合において、炭化珪素単結晶基板10の主面10a内において1cm離れた2点間における面方位差が27秒以下となった。一方、種結晶2の第1の主面2aの螺旋転位密度が20/cm2未満である場合、もしくは炭化珪素原料3の温度勾配が30℃/cmより大きい場合において、炭化珪素単結晶基板10の主面10a内において1cm離れた2点間における面方位差が38秒以上となった。
【0063】
表4を参照して、種結晶2の第1の主面2aのオフ角が15°の場合における、炭化珪素単結晶基板10の主面10aの面方位差について説明する。
【0064】
【表4】
【0065】
表4に示すように、種結晶2の第1の主面2aの螺旋転位密度が20/cm2以上であり、かつ炭化珪素原料3の温度勾配が30℃/cm以下である場合において、炭化珪素単結晶基板10の主面10a内において1cm離れた2点間における面方位差が35秒以下となった。一方、種結晶2の第1の主面2aの螺旋転位密度が20/cm2未満である場合、もしくは炭化珪素原料3の温度勾配が30℃/cmより大きい場合において、炭化珪素単結晶基板10の主面10a内において1cm離れた2点間における面方位差が38秒以上となった。なお、種結晶2の第1の主面2aのオフ角が15°の場合にのみ、上記すべての螺旋転位密度および温度勾配の組み合わせ条件で製造した炭化珪素単結晶基板10に積層欠陥の混入が確認された。言い換えれば、種結晶2の第1の主面2aのオフ角が10°以下の場合には、炭化珪素単結晶基板10に積層欠陥が混入することを抑制することができた。
【0066】
次に、上記各オフ角(0°、4°、10°および15°)、上記各螺旋転位密度(5/cm2、15/cm2、20/cm2、500/cm2および1000/cm2)および上記各温度勾配(15℃/cm以下、25℃/cm以下、35℃/cm以下および45℃/cm以下)の条件下で製造された炭化珪素単結晶基板10に異種ポリタイプの混入が観察されるかどうかを確認した。異種ポリタイプが混入しているかどうかは、ウェハを目視で観察して、色の異なる領域の有無を確認することにより行われた。
【0067】
表5〜表8を参照して、炭化珪素単結晶基板10の異種ポリタイプの混入について説明する。表5、表6、表7および表8は、それぞれ種結晶2の第1の主面2aのオフ角が0°、4°、10°および15°の場合の結果である。また表5〜表8において、記号「○」は、炭化珪素単結晶1の寸法を25.4mmから100mmまで増大させる間の工程において、炭化珪素単結晶基板10に異種ポリタイプの混入が観察されなかったことを意味し、記号「×」は、炭化珪素単結晶1の寸法を25.4mmから100mmまで増大させる間の工程において、炭化珪素単結晶基板10に異種ポリタイプの混入が観察されたことを意味する。言い換えれば、記号「○」の条件においては、主面の最大寸法が100mm以上であり、かつ異種ポリタイプの混入がない炭化珪素単結晶基板が得られることを意味し、記号「×」の条件においては、主面の最大寸法が100mm以上であり、かつ異種ポリタイプの混入がない炭化珪素単結晶基板が得られなかったことを意味する。
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
【表7】
【0071】
【表8】
【0072】
表5〜表8に示すように、種結晶2の第1の主面2aのオフ角が0°、4°、10°および15°のすべての場合において、炭化珪素原料3の温度勾配に関係なく、種結晶2の第1の主面2aにおける螺旋転位密度が20/cm2以上の条件において、異種ポリタイプの混入なく、主面10aの最大寸法が100mm以上の炭化珪素単結晶基板10を得ることができた。一方、種結晶2の第1の主面2aのオフ角が0°、4°、10°および15°のすべての場合において、炭化珪素原料3の温度勾配に関係なく、種結晶2の第1の主面2aにおける螺旋転位密度が20/cm2未満の条件において、炭化珪素単結晶基板10に異種ポリタイプの混入が観察された。つまり、螺旋転位密度が20/cm2未満の条件において、異種ポリタイプの混入がなく、かつ主面10aの最大寸法が100mm以上である炭化珪素単結晶基板10を得ることはできなかった。
【0073】
以上より、種結晶2の第1の主面2aの螺旋転位密度が20/cm2以上であり、かつ炭化珪素原料3の温度勾配が30℃/cm以下である場合において、当該螺旋転位密度条件および当該温度勾配条件により製造された炭化珪素単結晶基板10の主面10a内において1cm離れた2点間における面方位差が35秒以下となることが確認された。また種結晶2の第1の主面2aのオフ角が10°以下であれば、炭化珪素単結晶基板10において積層欠陥の混入は観察されなかった。さらに、種結晶2の第1の主面2aの螺旋転位密度が20/cm2以上の場合において、異種ポリタイプの混入が抑制され、かつ主面10aの最大寸法が100mm以上である炭化珪素単結晶基板10を得ることができた。
【0074】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
1 炭化珪素単結晶、1a 成長表面、2 種結晶、2a 主面(第1の主面)、2b 第2の主面、3 炭化珪素原料、3a 表面、3b 裏面、4 種結晶保持部、5 原料収容部、6 放射温度計、10 炭化珪素単結晶基板、100 製造装置、D1,D2 寸法、R1 原料領域、R2 成長領域、R3 ファセット部、R4 非ファセット部、S1 第1のスポット、S2 第2のスポット、a1,a2 位置、c1,c2 面方位、d1,d2 スポット径、e 転位線、n 法線方向。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12