特許第6183067号(P6183067)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 沖電気工業株式会社の特許一覧

特許6183067データ解析装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体
<>
  • 特許6183067-データ解析装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体 図000040
  • 特許6183067-データ解析装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体 図000041
  • 特許6183067-データ解析装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体 図000042
  • 特許6183067-データ解析装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体 図000043
  • 特許6183067-データ解析装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体 図000044
  • 特許6183067-データ解析装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体 図000045
  • 特許6183067-データ解析装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体 図000046
  • 特許6183067-データ解析装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体 図000047
  • 特許6183067-データ解析装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体 図000048
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183067
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】データ解析装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/10 20060101AFI20170814BHJP
   G01R 23/16 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   G06F17/10 Z
   G01R23/16 D
   G01R23/16 Z
【請求項の数】20
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-178142(P2013-178142)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-46116(P2015-46116A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083840
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100116964
【弁理士】
【氏名又は名称】山形 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100135921
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 昭一
【審査官】 小林 哲雄
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−504614(JP,A)
【文献】 特表2008−529743(JP,A)
【文献】 特開平08−043193(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0288103(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0082976(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/10
G01R 23/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測値を表す時系列データ中の、各々相連続するサンプル値で構成される複数個のデータブロックをフーリエ変換して、各データブロックについて複数の周波数成分を計算するフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換部で計算された各データブロックについての周波数成分のうちの2つの周波数からなる周波数ペアの各々のバイコヒーレンスを計算するバイコヒーレンス計算部と、
前記周波数ペアの各々についての前記バイコヒーレンスに基づいて、前記時系列データについての検定量を計算する検定量計算部と、
前記検定量計算部で計算された前記検定量が予め定められた閾値よりも大きいか否かを判断する比較部とを有し、
前記比較部による判断結果が、解析の結果として出力され、
前記検定量計算部は、前記検定量の平均値及び分散が、各データブロックを構成するサンプル値の数、前記時系列データを構成するデータブロックの数、及び
前記データブロックのオーバーラップ率によらずに一定に保たれるようにするための調整量を用いて、前記検定量の計算を行
ータ解析装置。
【請求項2】
観測値を表す時系列データ中の、各々相連続するサンプル値で構成される複数個のデータブロックをフーリエ変換して、各データブロックについて複数の周波数成分を計算するフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換部で計算された各データブロックについての周波数成分のうちの2つの周波数からなる周波数ペアの各々のバイコヒーレンスを計算するバイコヒーレンス計算部と、
前記周波数ペアの各々についての前記バイコヒーレンスに基づいて、前記時系列データについての検定量を計算する検定量計算部と、
前記検定量計算部で計算された前記検定量が予め定められた閾値よりも大きいか否かを判断する比較部とを有し、
前記比較部による判断結果が、解析の結果として出力され、
前記検定量計算部は、前記検定量をzγで表すとき、
【数27】
(但し、
Qは前記周波数ペアの数、
γは、前記周波数ペアの各々について、前記バイコヒーレンス計算部で計算されたバイコヒーレンス、
biasは、前記検定量の平均を0とするための調整量
σは、前記検定量の分散を補正するための調整量
により前記検定量zγを計算す
ータ解析装置。
【請求項3】
前記調整量bias及びσを、
【数28】
(但し、
Pは、前記時系列データを構成するデータブロックの数、
Nは各データブロックを構成するサンプル値の数、
α及びβはパラメータ)
により計算する調整量計算部をさらに有する
ことを特徴とする請求項に記載のデータ解析装置。
【請求項4】
白色雑音を表す時系列データを、前記観測値を表す時系列データの代わりに用いて、
前記フーリエ変換及び前記バイコヒーレンスの計算を行い、
該計算により求められたバイコヒーレンスに基づいて試験的検定量を計算し、
複数回の試行についての前記試験的検定量の平均zwa及び分散zwvを計算し、
該計算により求められた平均zwa及び分散zwvに基づいて、
【数29】
により、前記パラメータα及びβを生成するパラメータ生成装置と、
前記パラメータ生成装置で生成された前記パラメータα及びβを記憶するパラメータメモリと
をさらに有することを特徴とする請求項に記載のデータ解析装置。
【請求項5】
前記バイコヒーレンス計算部は、
前記各データブロックについての前記周波数ペアの各々のバイスペクトルの、前記複数のデータブロックについての平均を計算し、前記時系列データについてのバイスペクトルとして出力するバイスペクトル計算部と、
前記各データブロックについての前記周波数ペアの各々を構成する周波数の和に等しい周波数の成分のパワースペクトルの、前記複数のデータブロックについての平均を計算して、前記時系列データについてのパワースペクトルとして出力するパワースペクトル計算部と、
前記各データブロックについての前記周波数ペアの各々を構成する周波数の成分の積の絶対値の自乗の、前記複数のデータブロックについての平均を計算し、前記時系列データについての積自乗平均として出力する積自乗平均計算部と、
前記バイスペクトル計算部から出力された前記時系列データについての前記バイスペクトル、前記パワースペクトル計算部から出力された前記時系列データについての前記パワースペクトル、及び前記積自乗平均計算部から出力された前記時系列データについての前記積自乗平均に基づいて、前記バイコヒーレンスを計算する規格化部とを有する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のデータ解析装置。
【請求項6】
前記バイスペクトル計算部は、前記各データブロックについての前記バイスペクトルをB[k,k]で表すとき、
【数22】
(但し、
、kはそれぞれ前記周波数ペアを構成する周波数、
[k]、X[k]、X[k+k]はそれぞれ、i番目のデータブロック(iは1乃至Pのいずれか)の、周波数k、k、k+kの周波数成分)
により、前記各データブロックについての前記バイスペクトルB[k,k]を計算し、
前記時系列データについての前記バイスペクトルをBa[k,k]で表すとき、
【数23】
(但し、Pは前記時系列データを構成するデータブロックの数)
により、前記時系列データについての前記バイスペクトルBa[k,k]を計算する
ことを特徴とする請求項に記載のデータ解析装置。
【請求項7】
前記積自乗平均計算部は、前記時系列データについての積自乗平均をCa[k,k]で表すとき、
【数24】
(但し、
、kはそれぞれ前記周波数ペアを構成する周波数、
[k]、X[k]はそれぞれ、i番目のデータブロック(iは1乃至Pのいずれか)の、周波数k、kの周波数成分、
Pは前記時系列データを構成するデータブロックの数)
により、前記時系列データについての前記積自乗平均Ca[k,k]を計算する
ことを特徴とする請求項5又は6に記載のデータ解析装置。
【請求項8】
前記パワースペクトル計算部は、前記時系列データについてのパワースペクトルをSa[k+k]で表すとき、
【数25】
(但し、
、kはそれぞれ前記周波数ペアを構成する周波数、
[k+k]はi番目のデータブロック(iは1乃至Pのいずれか)の、周波数k+kの周波数成分であり、
[k+k]は、X[k+k]の複素共役であり、
Pはデータブロックの数である。)
により、前記時系列データについての前記パワースペクトルSa[k+k]を計算する
ことを特徴とする請求項5、6又は7に記載のデータ解析装置。
【請求項9】
前記規格化部は、前記バイコヒーレンスをγ[k,k]で表すとき、
【数26】
により、前記バイコヒーレンスγ[k,k]を計算する
ことを特徴とする請求項5乃至8のいずれかに記載のデータ解析装置。
【請求項10】
観測値を表す時系列データ中の、各々相連続するサンプル値で構成される複数個のデータブロックをフーリエ変換して、各データブロックについて複数の周波数成分を計算するフーリエ変換ステップと、
前記フーリエ変換ステップで計算された各データブロックについての周波数成分のうちの2つの周波数からなる周波数ペアの各々のバイコヒーレンスを計算するバイコヒーレンス計算ステップと、
前記周波数ペアの各々についての前記バイコヒーレンスに基づいて、前記時系列データについての検定量を計算する検定量計算ステップと、
前記検定量計算ステップで計算された前記検定量が予め定められた閾値よりも大きいか否かを判断する比較ステップとを有し、
前記比較ステップによる判断結果が、解析の結果として出力され、
前記検定量計算ステップは、前記検定量の平均値及び分散が、各データブロックを構成するサンプル値の数、前記時系列データを構成するデータブロックの数、及び
前記データブロックのオーバーラップ率によらずに一定に保たれるようにするための調整量を用いて、前記検定量の計算を行
ータ解析方法。
【請求項11】
観測値を表す時系列データ中の、各々相連続するサンプル値で構成される複数個のデータブロックをフーリエ変換して、各データブロックについて複数の周波数成分を計算するフーリエ変換ステップと、
前記フーリエ変換ステップで計算された各データブロックについての周波数成分のうちの2つの周波数からなる周波数ペアの各々のバイコヒーレンスを計算するバイコヒーレンス計算ステップと、
前記周波数ペアの各々についての前記バイコヒーレンスに基づいて、前記時系列データについての検定量を計算する検定量計算ステップと、
前記検定量計算ステップで計算された前記検定量が予め定められた閾値よりも大きいか否かを判断する比較ステップとを有し、
前記比較ステップによる判断結果が、解析の結果として出力され、
前記検定量計算ステップは、前記検定量をzγで表すとき、
【数35】
(但し、
Qは前記周波数ペアの数、
γは、前記周波数ペアの各々について、前記バイコヒーレンス計算ステップで計算されたバイコヒーレンス、
biasは、前記検定量の平均を0とするための調整量
σは、前記検定量の分散を補正するための調整量
により前記検定量zγを計算す
ータ解析方法。
【請求項12】
前記調整量bias及びσを、
【数36】
(但し、
Pは、前記時系列データを構成するデータブロックの数、
Nは各データブロックを構成するサンプル値の数、
α及びβはパラメータ)
により計算する調整量計算ステップをさらに有する
ことを特徴とする請求項11に記載のデータ解析方法。
【請求項13】
白色雑音を表す時系列データを、前記観測値を表す時系列データの代わりに用いて、
前記フーリエ変換及び前記バイコヒーレンスの計算を行い、
該計算により求められたバイコヒーレンスに基づいて試験的検定量を計算し、
複数回の試行についての前記試験的検定量の平均zwa及び分散zwvを計算し、
該計算により求められた平均zwa及び分散zwvに基づいて、
【数37】
により、前記パラメータα及びβを生成するパラメータ生成ステップと、
前記パラメータ生成ステップで生成された前記パラメータα及びβをパラメータメモリに記憶させる記憶ステップと
をさらに有することを特徴とする請求項12に記載のデータ解析方法。
【請求項14】
前記バイコヒーレンス計算ステップは、
前記各データブロックについての前記周波数ペアの各々のバイスペクトルの、前記複数のデータブロックについての平均を計算し、前記時系列データについてのバイスペクトルとして出力するバイスペクトル計算ステップと、
前記各データブロックについての前記周波数ペアの各々を構成する周波数の和に等しい周波数の成分のパワースペクトルの、前記複数のデータブロックについての平均を計算して、前記時系列データについてのパワースペクトルとして出力するパワースペクトル計算ステップと、
前記各データブロックについての前記周波数ペアの各々を構成する周波数の成分の積の絶対値の自乗の、前記複数のデータブロックについての平均を計算し、前記時系列データについての積自乗平均として出力する積自乗平均計算ステップと、
前記バイスペクトル計算ステップから出力された前記時系列データについての前記バイスペクトル、前記パワースペクトル計算ステップから出力された前記時系列データについての前記パワースペクトル、及び前記積自乗平均計算ステップから出力された前記時系列データについての前記積自乗平均に基づいて、前記バイコヒーレンスを計算する規格化ステップとを有する
ことを特徴とする請求項10乃至13のいずれかに記載のデータ解析方法。
【請求項15】
前記バイスペクトル計算ステップは、前記各データブロックについての前記バイスペクトルをB[k,k]で表すとき、
【数30】
(但し、
、kはそれぞれ前記周波数ペアを構成する周波数、
[k]、X[k]、X[k+k]はそれぞれ、i番目のデータブロック(iは1乃至Pのいずれか)の、周波数k、k、k+kの周波数成分)
により、前記各データブロックについての前記バイスペクトルB[k,k]を計算し、
前記時系列データについての前記バイスペクトルをBa[k,k]で表すとき、
【数31】
(但し、Pは前記時系列データを構成するデータブロックの数)
により、前記時系列データについての前記バイスペクトルBa[k,k]を計算する
ことを特徴とする請求項14に記載のデータ解析方法。
【請求項16】
前記積自乗平均計算ステップは、前記時系列データについての積自乗平均をCa[k,k]で表すとき、
【数32】
(但し、
、kはそれぞれ前記周波数ペアを構成する周波数、
[k]、X[k]はそれぞれ、i番目のデータブロック(iは1乃至Pのいずれか)の、周波数k、kの周波数成分、
Pは前記時系列データを構成するデータブロックの数)
により、前記時系列データについての前記積自乗平均Ca[k,k]を計算する
ことを特徴とする請求項14又は15に記載のデータ解析方法。
【請求項17】
前記パワースペクトル計算ステップは、前記時系列データについてのパワースペクトルをSa[k+k]で表すとき、
【数33】
(但し、
、kはそれぞれ前記周波数ペアを構成する周波数、
[k+k]はi番目のデータブロック(iは1乃至Pのいずれか)の、周波数k+kの周波数成分であり、
[k+k]は、X[k+k]の複素共役であり、
Pはデータブロックの数である。)
により、前記時系列データについての前記パワースペクトルSa[k+k]を計算する
ことを特徴とする請求項14、15又は16に記載のデータ解析方法。
【請求項18】
前記規格化ステップは、前記バイコヒーレンスをγ[k,k]で表すとき、
【数34】
により、前記バイコヒーレンスγ[k,k]を計算する
ことを特徴とする請求項14乃至17のいずれかに記載のデータ解析方法。
【請求項19】
請求項10乃至18のいずれかに記載のデータ解析方法の各処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項20】
請求項19に記載のプログラムを記録した、コンピュータで読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ解析装置及び方法、並びにプログラム及び記録媒体に関し、特に時系列データの非ガウス性又は非線形性の検出に関する。
【背景技術】
【0002】
時系列データの非ガウス性とは、時系列データの振幅分布が、平均値を中心として左右対称でないことを意味する。一方時系列データの非線形性とは、時系列データの生成過程に、非線形項が含まれていることを意味する。非線形性のデータは、非ガウス性を有する。
取得したデータ(観測データ)の非ガウス性及び非線形性を確認するためのデータ解析方法として、データの歪度に関係する規格化バイスペクトルを用いることが提案されている(非特許文献1〜3)。
【0003】
従来の方法の問題点は、観測データがガウス性であっても有限のデータを抽出すると、抽出の仕方によってデータが非ガウス性又は非線形性を有するように見え、誤判定が生じる可能性があることである。
【0004】
以下、従来の方法について図1を参照して説明する。図1において、観測の結果得られた時系列データをx(t)と表し、このx(t)の離散化されたものをx[n]と表す。ここで、nは時刻を表すインデックスである。
時系列データx[n]から図2に示すように、複数個即ちP個のデータブロックDB〜DBを生成する。データブロックの各々DB(iは1乃至Pのいずれか)はN個のサンプル値を含む。
各データブロックDBに対して、フーリエ変換部14でNサンプル離散フーリエ変換を行って、各周波数の成分X[k]を求める。フーリエ変換は、下記の式(1)で表される。
【0005】
【数1】
ここで、kは周波数を表すインデックスである。
【0006】
バイスペクトル計算部22及びパワースペクトル計算部24には、複数個即ちQ個の周波数ペアを構成する周波数についての周波数成分X[k]が供給される。例えば、Qは49であり、49個の周波数ペアの2次元周波数平面上における配置は図3に「○」印で示される通りである。
【0007】
バイスペクトル計算部22では、データブロックDB〜DBの各々について周波数成分X[k]を用いて、バイスペクトルBa[k,k]を計算する。
そのために、まず各データブロック(i番目のデータブロック)DBについてのバイスペクトルB[k,k]を、次式(2)によって計算する。
【数2】
但し、X[k+k]はX[k+k]の複素共役を表す。
【0008】
式(2)で得られるバイスペクトルB[k,k]は、観測データx[n]の周波数間の相関の程度を示す指標である。
【0009】
バイスペクトル計算部22は、式(2)の計算を、P個のデータブロックDB〜DBの各々に対して行い、計算の結果得られたバイスペクトルB[k,k]を平均することによって、P個のデータブロックから成る時系列データDSについてのバイスペクトルBa[k,k]を得る。バイスペクトルBa[k,k]を求めるための計算は、次式(3)で表される。
【0010】
【数3】
【0011】
観測データに白色雑音しか含まれていなければ、観測データの周波数間に相関関係はないので、バイスペクトルは小さな値となる。一方、観測データに非定常成分が含まれていれば、観測データの周波数間に相関関係が現れ、式(3)で示されるバイスペクトルが大きな値を持つ。
【0012】
式(3)で示されたバイスペクトルは、観測データに含まれる各周波数の成分の大きさ(パワー)に依存した値を持つ。そのため、このバイスペクトルそのものでは、周波数間の相関関係の大きさが判断しにくい。そこで通常は、バイスペクトルの大きさが観測データの各周波数の成分の大きさに依存しない、規格化した値が用いられる。
【0013】
規格化のため、パワースペクトル計算部24では、観測データのパワースペクトルSa[k]を、次のように計算する。
【数4】
ここで、
[k]は、X[k]の複素共役である。
式(4)の計算は、周波数k、k、k(=k+k)の各々について行われ、従って、パワースペクトル計算部24からは、Sa[k]、Sa[k]、Sa[k+k]が出力される。
【0014】
規格化部27は、バイスペクトル計算部22で計算されたバイスペクトルBa[k,k]と、パワースペクトル計算部24で計算されたパワースペクトルSa[k]、Sa[k]及びSa[k+k]を用いて、規格化バイスペクトルBn[k,k]を、次式(5)により、計算する。
【数5】
【0015】
分母にパワースペクトルの項があることによって、観測データの各周波数の成分の大きさが規格化される。従って、式(5)の規格化バイスペクトルBn[k,k]は観測データの大きさ(パワー)に依存せず、周波数間の相関に応じた値を示すものとなる。
但し、実際の計算では、式(5)のバイスペクトルBn[k,k]の分散を1にするために、次式(6)のように補正することで得られる、補正された規格化バイスペクトルBnc[k,k]を用いる。
【数6】
【0016】
式(6)で表される規格化バイスペクトルBnc[k,k]は、特定の周波数ペア(k,k)について計算された値であり、Q個の周波数ペアについて上記した処理が繰り返されて、Q個の周波数ペアの各々について式(6)で表される規格化バイスペクトルBnc[k,k]が求められる。
【0017】
検定量計算部29は、上記のようにしてQ個の周波数ペアについて求められた規格化バイスペクトルBnc[k,k]を用いて、観測データの非ガウス性及び非線形性を検出する。
【0018】
観測データが白色雑音であれば、それぞれQ個の周波数ペア(k,k)について求められた規格化バイスペクトルBnc[k,k]は、平均0、分散1の正規分布に従う。この性質を利用して、観測データの非定常性を検出するために、次に示す検定量zを計算する。
【0019】
【数7】
【0020】
式(7)でBnc(但しqは1乃至Qのいずれか)は、Q個の周波数ペア(k,k)の各々についてのBnc[k,k]と同じものを表す。
式(7)の分子はQ個の規格化バイスペクトルの値を加算することを表している。式(7)の分母は、検定量zの分散を規格化するための項である。
観測データに白色雑音のみが含まれており、Qが十分に大きい値であれば、検定量zは平均0、分散1の正規分布に従う。もし、観測データに非ガウス性又は非線形性の成分が含まれていれば、規格化バイスペクトルの値が大きくなり、その結果、検定量zは平均0、分散1の正規分布には従わずに大きな値となる。このことを利用して、観測データの非ガウス性又は非線形性が検出できる。
以上が規格化バイスペクトルを用いて観測データから非ガウス性及又は非線形性を検出するための従来の方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Melvin J. Hinich, “Bispectrum of ship−raddiated noise”, J. Acoust. Soc. Am. 85(4), April 1989
【非特許文献2】Melvin J. Hinich, “Detecting a Transient Signal by Bispectral Analysis”, IEEE Trans. On Acoustics, Speech and Signal Processing, Vol.36, No.7, July 1990
【非特許文献3】Melvin J. Hinich et. al, “On the Principal Domain of the Discrete Bispectrum of a Stationary Signal”, IEEE Trans. On Signal Processing, Vol.43, No.9, September 1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上記した従来の方法は、観測データが非ガウス性又は非線形性を有すれば、観測データがある程度の歪度を有しているということに着目した処理である。しかしながら、観測データにガウス性又は線形性があっても、有限のデータを抽出すると、抽出の仕方によっては非ガウス性又は非線形性を有するように見え、そのため判定に誤りが生じる可能性がある。
【0023】
本発明は、上記の課題の解決のためのものであり、その目的は、観測データの大きさ、歪度の影響が抑制された処理結果を得ることを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の第1の態様のデータ解析装置は、
観測値を表す時系列データ中の、各々相連続するサンプル値で構成される複数個のデータブロックをフーリエ変換して、各データブロックについて複数の周波数成分を計算するフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換部で計算された各データブロックについての周波数成分のうちの2つの周波数からなる周波数ペアの各々のバイコヒーレンスを計算するバイコヒーレンス計算部と、
前記周波数ペアの各々についての前記バイコヒーレンスに基づいて、前記時系列データについての検定量を計算する検定量計算部と、
前記検定量計算部で計算された前記検定量が予め定められた閾値よりも大きいか否かを判断する比較部とを有し、
前記比較部による判断結果が、解析の結果として出力され
前記検定量計算部は、前記検定量の平均値及び分散が、各データブロックを構成するサンプル値の数、前記時系列データを構成するデータブロックの数、及び
前記データブロックのオーバーラップ率によらずに一定に保たれるようにするための調整量を用いて、前記検定量の計算を行うものである。
本発明の第2の態様のデータ解析装置は、
観測値を表す時系列データ中の、各々相連続するサンプル値で構成される複数個のデータブロックをフーリエ変換して、各データブロックについて複数の周波数成分を計算するフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換部で計算された各データブロックについての周波数成分のうちの2つの周波数からなる周波数ペアの各々のバイコヒーレンスを計算するバイコヒーレンス計算部と、
前記周波数ペアの各々についての前記バイコヒーレンスに基づいて、前記時系列データについての検定量を計算する検定量計算部と、
前記検定量計算部で計算された前記検定量が予め定められた閾値よりも大きいか否かを判断する比較部とを有し、
前記比較部による判断結果が、解析の結果として出力され、
前記検定量計算部は、前記検定量をzγで表すとき、
【数27】
(但し、
Qは前記周波数ペアの数、
γは、前記周波数ペアの各々について、前記バイコヒーレンス計算部で計算されたバイコヒーレンス、
biasは、前記検定量の平均を0とするための調整量、
σは、前記検定量の分散を補正するための調整量)
により前記検定量zγを計算するものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、観測データの周波数間の位相的な相関関係を表す指標であるバイコヒーレンスを用い、バイコヒーレンスに基づいた検定量を用いて、観測データの非ガウス性及び非線形性を検出するので、観測データの大きさ、歪度の影響を抑制しつつ、非ガウス性又は非線形性の判定を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】従来のデータ解析方法を実施するための装置の概略を示すブロック図である。
図2】時系列データからのデータブロックの生成方法を示す図である。
図3】データ解析に用いられる周波数ペアの2次元周波数平面上での配置の一例を示す図である。
図4】本発明のデータ解析装置の概略を示すブロック図である。
図5図4のデータ解析装置の検出処理部の構成例を示すブロック図である。
図6図5の検出処理部のコヒーレンス計算部の構成例を示すブロック図である。
図7図5の検出処理部で用いられるパラメータを生成する装置の構成例を示すブロック図である。
図8】(a)及び(b)は、模擬した過渡的信号、及びその模擬信号に白色雑音を付加した波形を示す図である。
図9】(a)及び(b)は、図8(b)に示される信号に対して、従来の方法及び本発明の方法を適用した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図4は、本発明の時系列データ解析装置を示す。以下では、一例として、可聴域の音響信号を受信して、解析を行う場合について説明する。図示の時系列データ解析装置は、入力信号処理部2と、時系列データメモリ4と、検出処理部6とを有する。
【0028】
入力信号処理部2は、A/D変換器3を有し、音響信号を電気信号に変換するマイクロフォン1に接続され、該マイクロフォン1から与えられるアナログ信号x(t)をサンプリングして、ディジタル化して、時系列データ(観測値を表す時系列データ)x[n]を生成する。A/D変換器3のサンプリング周波数は、例えば50kHzであり、A/D変換器3から出力される時系列データはx[n]で表される。nは、時刻を示すインデックスである。
【0029】
時系列データメモリ4は、入力信号処理部2から出力される時系列データx[n]を記憶する。
【0030】
検出処理部6は、図5に示すように、データブロック生成部12と、フーリエ変換部14と、周波数成分メモリ16と、周波数成分選択部18と、バイコヒーレンス計算部20と、検定量計算部32と、比較部34と、パラメータメモリ36と、調整量計算部38とを有する。図1と同じ符号は同様のブロックを示す。データブロック生成部12、周波数成分メモリ16及び周波数成分選択部18は図1には示されていないが、従来の方法でも実際には同様のものが用いられる。
【0031】
データブロック生成部12は、時系列データメモリ4に記憶された時系列データx[n]から、各々複数のサンプル値で構成される、複数個即ちP個のデータブロックDB(i=1〜P)を生成して、フーリエ変換部14に供給する。
データブロックDBは、例えば、図2に示されるように、各々相連続するN個のサンプル値から成り、オーバーラップ率Lが50%である。即ち、各データブロック(第i番目のデータブロック)の後半のN/2個のサンプル値と、次のデータブロック(第i+1番目のデータブロック)の前半のN/2個のサンプル値とは同じものである。
【0032】
フーリエ変換部14は、P個のデータブロックDB〜DBの各々のN個のサンプル値(観測データ)x[0]〜x[N−1]に対して離散フーリエ変換を行い、変換の結果として得られる周波数成分X[k]〜X[k]を出力する。kは周波数を表すインデックスである。各データブロック(i番目のデータブロック)DB(iは、1乃至Pのいずれか)についてのフーリエ変換の結果(周波数kの成分)をX[k]で表す。
【0033】
フーリエ変換の結果得られる周波数成分X[k]は、下記の式(1)で表される。式(1)は従来の方法に関して先に記載した式(1)と同じであるが、再度記載する。以下他の数式についても同様である。
【0034】
【数8】
【0035】
ここで、kはM個の周波数の値f、f、…fのいずれかを表すインデックスである。f〜fを一般化してf(mは1〜M)で表す。
周波数fは、以下の値を有する。
m=1のとき、f=0 (8A)
2≦m<Mのとき、f=f(m−1)+ΔF (8B)
但し、ΔF=1562.5Hzであり、これは50kHz(サンプリング周波数)をN=32(各データブロック中のサンプル値の数)で割った値に等しい。
Mは例えば21である。
【0036】
フーリエ変換部14で算出された、複数のデータブロックDB(i=1〜P)の各々についての周波数成分X[k](k=f〜f)は、周波数成分メモリ16に記憶される。
【0037】
周波数成分選択部18は、周波数成分メモリ16に記憶された複数のデータブロックDB(i=1〜P)の各々についての周波数成分X[k](i=1〜P、k=f〜f)のうち、バイコヒーレンスの計算に用いられるものを逐次読み出して、バイコヒーレンス計算部20に供給する。
【0038】
バイコヒーレンス計算部20におけるバイコヒーレンスの計算は、複数個即ちQ個の周波数ペアについて順に行われる。Qは例えば49であり、49個の周波数ペアの2次元周波数平面上における配置は例えば図3に「○」印で示される如くである。
【0039】
周波数ペア(k,k)についてバイコヒーレンスを計算する際、複数個即ちP個のデータブロックの各々DBについての、周波数k、kの周波数成分X[k]、X[k]のみならず、kとkの和に等しい周波数kの周波数成分X[k]も用いられる。そこで周波数成分選択部18は、各データブロックDBについての周波数k、k、kの周波数成分X[k]、X[k]、X[k]をバイコヒーレンス計算部20に供給する。
上記のように、
=k+k
の関係があるので、以下では、「k」を、「k+k」と表記する。
一方、任意の周波数についての説明、或いはk、k、kのすべてに当てはまる説明の際は、符号「k」を用いる。
【0040】
バイコヒーレンス計算部20は、各周波数ペア(k,k)について周波数成分選択部18から供給された周波数成分X[k]、X[k]、X[k+k]を用いて、当該周波数ペア(k,k)のバイコヒーレンスγ[k,k]を計算する。以下に詳しく述べるように、P個のデータブロックから成る時系列データDSについて、Q個のバイコヒーレンスの値が求められる。検定量計算部32では、Q個のバイコヒーレンスの値に基づいて時系列データDSについての検定量zγを求める。比較部34では、求められた検定量zγを予め定められた閾値zthと比較する。
【0041】
バイコヒーレンス計算部20は、例えば図6に示すように、バイスペクトル計算部22、パワースペクトル計算部24、積自乗平均計算部26、及び規格化部28を有する。
【0042】
バイスペクトル計算部22、パワースペクトル計算部24、及び積自乗平均計算部26は、周波数成分選択部18から供給された周波数成分を受けて、それぞれバイスペクトル、パワースペクトル、及び積自乗平均を計算する。
【0043】
周波数ペア(k,k)のバイコヒーレンスを計算する際は、バイスペクトル計算部22には、周波数成分X[k]、X[k]、X[k+k](i=1〜P)が供給され、パワースペクトル計算部24には、周波数成分X[k+k](i=1〜P)が供給され、積自乗平均計算部26には、周波数成分X[k]、X[k](i=1〜P)が供給される。
【0044】
バイスペクトル計算部22は、P個のデータブロックの各々についての、周波数ペア(k,k)のバイスペクトルを計算し、さらに該バイスペクトルの、P個のデータブロックについての平均を求め、該平均を、P個のデータブロックから成る時系列データDSについてのバイスペクトルとして出力する。即ち、まず各データブロック(i番目のデータブロック)DBについてのバイスペクトルB[k,k]を、次式(2)によって計算する。
【数9】
ここで、
[k]はi番目のデータブロックの周波数kの周波数成分であり、
[k]はi番目のデータブロックの周波数kの周波数成分であり、
[k+k]はX[k+k]の複素共役を表し、
[k+k]はi番目のデータブロックの周波数k+kの周波数成分である。
【0045】
式(2)で得られるバイスペクトルB[k,k]は、観測データx[n]の周波数間の相関の程度を示す指標である。
【0046】
バイスペクトル計算部22は、式(2)の計算をP個のデータブロックDB(i=1〜P)の各々に対して行い、計算の結果得られたP個のバイスペクトルB[k,k]の値を平均することによって、P個のデータブロックから成る時系列データDSについてのバイスペクトルBa[k,k]を得る。バイスペクトルBa[k,k]を求めるための計算式は、次式(3)で表される。
【数10】
【0047】
式(2)と式(3)を組合せて書き直すと、次の式(9)となる。
【数11】
【0048】
パワースペクトル計算部24は、P個のデータブロックの各々についての、各周波数ペア(k,k)を構成する2つの周波数k、kの和に等しい周波数(k+k)の周波数成分X[k+k]のパワースペクトルを計算し、さらに該パワースペクトルの、P個のデータブロックについての平均を求めることによって、P個のデータブロックから成る時系列データDSについてのパワースペクトルSa[k+k]を得る。即ち、時系列データDSについてのパワースペクトルSa[k+k]を求めるための計算は、次の式(10)で表される。
【数12】
ここで、
[k+k]はi番目のデータブロックの、周波数k+kの周波数成分であり、
[k+k]は、X[k+k]の複素共役である。
【0049】
積自乗平均計算部26は、P個のデータブロックの各々についての、各周波数ペア(k,k)を構成する2つの周波数k、kの周波数成分X[k]、X[k]の積の絶対値の自乗を求め、該自乗の、P個のデータブロックについての平均を求め、該平均をP個のデータブロックから成る時系列データDSについての積自乗平均Ca[k,k]として出力する。積自乗平均Ca[k,k]を求めるための計算は、次の式(11)で表される。
【数13】
ここで、
[k]はi番目のデータブロックの周波数kの周波数成分であり、
[k]はi番目のデータブロックの周波数kの周波数成分である。
【0050】
規格化部28は、バイスペクトル計算部22で計算されたバイスペクトルBa[k,k]と、パワースペクトル計算部24で計算されたパワースペクトルSa[k+k]と、積自乗平均計算部26で計算された積自乗平均Ca[k,k]に基づいて、バイコヒーレンスγ[k,k]を計算する。その計算は次の式(12)で表される。
【数14】
この計算は、バイスペクトルBa[k,k]を、積自乗平均Ca[k,k]とパワースペクトルSa[k+k]の積の平方根で割ることで規格化することを意味する。
規格化部28で算出されたバイコヒーレンスγ[k,k]は、バイコヒーレンス計算部20の出力となる。
式(12)で求められるバイコヒーレンスγ[k,k]は、周波数ペアごとに計算され、周波数ペアを構成する2つの周波数k及びkの成分間の位相的な相関関係を表す複素数であり、その振幅が0〜1の間になるように規格化されており、周波数kとkの関数である。式(5)または(6)で求められる規格化バイスペクトルは、振幅の大きさが観測データの歪度に依存している。歪度は、観測データの抽出の仕方によって大きさが変化する場合があるので、結果的に検定量の大きさに影響を及ぼす。
一方、式(12)で求められるバイコヒーレンスは、周波数k及びkの成分間の位相的な相関関係のみを抽出し、観測データの抽出の仕方によって大きさが変化する可能性のある歪度の影響を抑制している。
【0051】
検定量計算部32は、Q個の周波数ペア(k,k)の各々についてバイコヒーレンス計算部20で計算される、P個のデータブロックから成る時系列データDSについてのバイコヒーレンスγ[k,k]を、Q個の周波数ペアのすべてについて積算することで、検定量zγを計算する。この計算は、算出される検定量zγの平均値及び分散が、各データブロックを構成するサンプル値の数N、時系列データDSを構成するデータブロックの数P、及びデータブロックのオーバーラップ率Lによらずに一定に保たれるようにするための調整量(下記のbias、σ)を用いて行われるものであり、次の式(13)で表される。
【数15】
【0052】
式(13)で、γ(但しqは1乃至Qのいずれか)は、Q個の周波数ペア(k,k)の各々についてのγ[k,k]と同じものを表す。
式(13)の分子のbias項は分子の平均値を0とする。従って、zγの平均値を0とするための調整項、分母のσは検定量zγの分散を補正するための調整項であり、調整量計算部38で、それぞれ以下の式(14)、式(15)によって求められる。
【0053】
【数16】
【0054】
式(14)、式(15)で、α及びβは定数であり、パラメータメモリ36に記憶されている。
例えば、オーバーラップ率Lを50%として、P=32個のデータブロックのN=32サンプル離散フーリエ変換を計算する場合には、α=2、β=6と設定すれば、観測データがガウス性を有し、且つ線形性を有する場合に、検定量zγは、平均0、分散1の正規分布に従う。
これによって検定量zγに対してある閾値を設定し、検定量zγが閾値よりも大きくなったときに、観測データが非ガウス性を有する、又は観測データが非線形性を有すると判断することが可能となる。
【0055】
比較部34は、検定量計算部32で計算された検定量zγが予め定められた閾値zthよりも大きいか否かを判定し、判定結果DJを出力する。即ち閾値zthよりも大きければ、非ガウス性又は非線形性があるとの判断結果を出力し、閾値zth以下であれば、非ガウス性も非線形性もないとの判断結果を出力する。判定結果DJは、データ解析装置による解析の結果として出力され、例えば図4に示される表示部8に解析の結果が表示される。
【0056】
上記のように、式(13)の分子のbias項は分子の平均値を0とするための調整項、分母のσは検定量zγの分散を補正するための調整項であり、この2つの調整項は、N(時間方向のサンプル数)及びP(データブロック数)を変えた場合でも、ガウス性及び線形性の信号に対する検定量zγの大きさを一定に保つためのものであり、上記の式(14)、式(15)によって求められる。
即ち、パラメータα及びβは、P、N、Lに応じて定める必要がある。
【0057】
式(14)、式(15)中のα、βは、以下のようにして定められる。即ち、パラメータα、βは、疑似的な白色雑音を用いることによって、実験的に求め、パラメータメモリ36に記憶させておく。
【0058】
具体的には、疑似白色雑音に対して式(12)でバイコヒーレンスγw[k,k]を計算し、これを用いて式(13)と同様の計算式で計算した検定量(試験的検定量)zwの平均値zwaと分散zwvからパラメータα、βを求める。
【0059】
パラメータα、βの決定には、図7に示すパラメータ生成装置を用いる。このパラメータ生成装置のうち、図4図5と同じ符号は、同じ機能を有するものであり、図4図5の装置と共用することができる。
【0060】
(a) まず、白色雑音生成部42により、疑似的な白色雑音を表す時系列データ(観測データと同じ符号x[n]で表す)を生成する。白色雑音の生成は、例えばソフトウェアにより行うことができる。生成された白色雑音を表す時系列データx[n]を、図4に関連して説明した観測データ(観測値を表す時系列データ)の代わりに、時系列データメモリ4に記憶する。
【0061】
(b) データブロック生成部12により、時系列データメモリ4に記憶されている時系列データx[n]を、各々Nサンプル値から成るP個のデータブロックを、オーバーラップ率Lで読み出し、フーリエ変換部14に供給する。
フーリエ変換部14、及びバイコヒーレンス計算部20は、時系列データメモリ4から読み出された白色雑音を表すデータx[n]に対して、図4を参照して説明した観測データに対する処理と同様の処理を行い、バイコヒーレンス計算部20からは、計算されたバイコヒーレンスが出力される。出力されるバイコヒーレンスを、観測データに対する処理の場合と異なる記号γw[k,k]で表す。
【0062】
(c) 検定量計算部32は、バイコヒーレンスγw[k,k]に基づいて検定量(試験的検定量)zwを計算する。この計算は次の式(16)で表される。
【数17】
式(16)でγwの添え字qは、それぞれ異なる周波数ペア(k,k)に対応するものであり、Q個の周波数ペアを用いる場合、qは1からQまでの値を取る。例えば、図3に示されるのと同じ配置の周波数ペアを用いる場合、Qは例えば49である。
【0063】
(d) 上記(a)〜(c)の処理を複数回繰り返し、複数回、即ちR回の試行で得られた検定量zw(rは1〜Rのいずれか)の平均及び分散を平均分散計算部44に供給する。平均分散計算部44は、複数回の試行で得られた検定量zwの平均zwa、分散zwvを計算する。この計算は、次の式(17)、(18)で表される。
【0064】
【数18】
【0065】
平均分散計算部44は、このようにして求めた平均値zwa、分散zwvをパラメータ計算部46に供給する。パラメータ計算部46では、平均値zwa、分散zwvに基づいてパラメータα、βを計算する。この計算は下記の式(19)、(20)で表される。
【数19】
【0066】
ここで、N、Pはそれぞれ白色雑音を表す時系列データを読み出して検出処理部6に供給する際のデータブロック数及びサンプル数である。
【0067】
(e) 手順(a)〜(d)までの計算を、データブロック数P、サンプル数N及びオーバーラップ率Lの異なる値について行って、それぞれα、βの値を求め、パラメータメモリ36に記憶する。例えば、P、N、Lに対応付けて、例えばルックアップテーブルの形式で記憶する。
【0068】
観測データに対する解析を行う際には、その時のP、N、Lに対応するα、βを読み出して、式(14)、式(15)の計算に用いる。
【0069】
なお、上記のように、それぞれの設定条件(P、N、L)に対して、α及びβをテーブル形式で記憶しておく代わりに、設定条件P、N、Lごとにbias、σを計算してメモリに記憶させておくこととしても良い。その場合には、図5調整量計算部38は不要となる。
【0070】
以上のように、本発明では、従来の方法と同様に、観測データからNサンプル×Pデータブロックのデータを抽出し、P個のNサンプル離散フーリエ変換を計算する。その後、P個のデータブロックの各々のフーリエ変換の出力を用いて、パワースペクトル、バイスペクトルを計算するところまでは、従来の方法と同じである。
【0071】
バイコヒーレンスγ[k,k](式(12))と、従来の規格化バイスペクトルBn[k,k](式(6))との違いは、式中の分母にある。従来の規格化バイスペクトルBn[k,k]の分母が
【数20】
であるのに対し、バイコヒーレンスγ[k,k]の分母は
【数21】
であり、両者の違いは、Sa[k]Sa[k]と、Ca[k,k]の部分にある。この違いによって、バイコヒーレンスγ[k,k]は、式の上では信号X[k]X[k]と信号X[k+k]間のコヒーレンスを求めているが、結果的には観測データの周波数k及びkの成分間の位相的な相関関係を評価していることになる。
【0072】
なお、バイスペクトル自体も、周波数間の位相関係を表すが、バイスペクトルは、これとともに、観測データの振幅にも依存する。これに対して、本発明で用いるバイコヒーレンスは、式(12)に示すように規格化を行うことで、振幅の大きさを0〜1の間になるようにして、2つの周波数成分間の位相に関する情報のみを抽出するようにしたものである。
【0073】
観測データが非ガウス性及び非線形性を有していれば、周波数kとkの信号間に位相的なつながりがあるので、バイコヒーレンスは高い値を有することとなる。以上から、バイコヒーレンスによって観測データが非ガウス性を有し、かつ非線形性を有するか否かを確認することが可能となる。
【0074】
本発明の方法の効果を確認するため、模擬的に生成した過渡的信号を用いて実験を行った。過渡的な信号は、非ガウス性及び非線形性を有している。図8(a)及び(b)に、模擬した過渡的信号Str、及び該過渡的信号Strに白色雑音Nwtを付加した波形を示す。図8(a)は生成した過渡的信号であり、過渡的信号はある起点からの経過時間5、10、15、20秒の時刻に現れている。図8(b)は、生成した過渡的信号Strに白色雑音Nwtを付加した波形であり、この波形に対して従来の方法及び本発明の方法を適用した。
【0075】
図9(a)及び(b)は、生成した信号(図8(b)に示す信号)に対して、従来の方法及び本発明の方法を適用した結果を示す図である。図9(a)は、従来の方法を適用した結果を示し、図9(b)は、本発明の方法を適用した結果を示す。なお、計算パラメータは以下のように設定した。
・1データブロックあたりのサンプル数N=32
・データブロック数P=32
・オーバーラップ率L=50%
・周波数ペア数Q=49
・検定量zγの計算に用いられる調整量bias=0.0625
・検定量zγの計算に用いられる調整量σ=0.1875
なお、サンプリング周波数は50kHzであり、
周波数ペアの2次元平面上の配置は、図3に示す如くであり、図3に示される周波数f(m=1〜14)はそれぞれ以下の値を有する。
m=1のとき、f=0
1<m<14のとき、f=f(m−1)+ΔF
但し、ΔF=1562.5Hzである。
【0076】
図9(a)及び(b)の2つの処理の結果を比べると、白色雑音のみを観測しているときのレベルは同等である。一方、過渡的信号を観測しているときの応答レベルを見ると、本発明の方法は、従来の方法の概ね2倍以上の大きさである。したがって、本発明の方法は、従来の方法よりも出力SNRが高く、観測データの非ガウス性及び非線形性の検出能力が高いことが確認できる。
【0077】
以上本発明を、データ解析装置として説明したが、データ解析装置で実施されるデータ解析方法もまた本発明の一部を成す。さらに、データ解析装置における各部の処理、又はデータ解析方法における各処理をコンピュータに実行させるためのプログラム、及びそのようなプログラムを記録したコンピュータで読み取り可能な記録媒体もまた本発明の一部を成す。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上観測データが可聴域の音響信号である場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、超音波信号の解析、機械振動の解析、脳波の解析にも適用できる。
【符号の説明】
【0079】
2 入力信号処理部、 4 時系列データメモリ、 6 検出処理部、 12 データブロック生成部、 14 フーリエ変換部、 16 周波数成分メモリ、 18 周波数成分選択部、 20 バイコヒーレンス計算部、 22 バイスペクトル計算部、 24 パワースペクトル計算部、 26 積自乗平均計算部、 28 規格化部、 32 検定量計算部、 34 比較部、 36 パラメータメモリ、 38 調整量計算部、 42 白色雑音生成部、 44 平均分散計算部、 46 パラメータ計算部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9