(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、スラッジやバイオマス等を燃料として使用する発電用ボイラ、また汚泥や廃液を処理する焼却炉として、川砂等の不活性無機物を熱媒体となるベッド材として火炉に充填し、炉床から燃焼ガスを吹き込んで流動層を形成し、この砂(ベッド材)を所望温度に保持しつつ、燃料や処理対象物をこの層に投入し燃焼する流動層ボイラが知られている。この流動層ボイラは、発電用ボイラや焼却炉としては最も効率よく燃料や処理対象物を燃焼できる形式であり、広く利用されている。
【0003】
ところで、近年、この流動層ボイラでは、廃タイヤやRDF(ごみ固型化燃料)等の廃棄物由来の燃料も使用され、これら燃料が例えば石炭やバイオマスなどと共に燃焼に供されている。
ところが、例えば廃タイヤには、燃焼処理によって燃焼が可能なゴム成分のみならず、燃焼されない鋼鉄等からなる金属ワイヤなども含まれているため、これら不燃成分がベッド材に付着し、ベッド材の粒径が初期投入時に比べて増大してしまう。このようにベッド材の粒径が増大し、ベッド材が肥大化してしまうと、ベッド材は流動化しにくくなる。すると、熱媒体であるベッド材が火炉の上方まで飛散(流動)しにくくなるため、火炉の下側では相対的に温度が高く、火炉の上側では相対的に温度が低くなり、燃焼が不安定なって運転の継続が困難になってしまうおそれがある。
【0004】
そこで、このようなベッド材の肥大化に対処するため、肥大化したベッド材(流動媒体)を抜き出して炉外でベッド材に付着した物質(肥大化成分)を除去し、ベッド材を再生した後、再度焼却炉にベッド材を循環させるようにした、流動床式焼却炉が提案されている(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ベッド材を再生してこれを再度焼却炉に循環させるのでは、炉外に設ける再生装置が必要になり、また、ベッド材を再生装置と焼却炉(ボイラ)との間で循環させるための機構も必要になるため、装置コストや運転コストが増大してしまう。
また、単純にベッド材を頻繁に入れ替えることも考えられるが、その場合にもベッド材を入れ替えるためのコストが大きな負担となる。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ベッド材の肥大化を防止し、これによって安定した燃焼運転を可能にした、流動層ボイラとその運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の流動層ボイラは、ベッド材が充填された火炉の下方から燃焼ガスを供給することによって流動層を形成し、該流動層に燃料を供給して燃焼処理する流動層ボイラであって、前記火炉の底部の温度を調整する温度調整部と、前記温度調整部で調整する前記火炉の底部の温度を設定する制御部と、を有し、前記制御部は、予め求められた、前記燃料の燃焼後成分に由来する化合物の液相化開始温度より低い温度となるように、前記温度調整部で調整する前記火炉の底部の温度を設定することを特徴とする。
【0009】
また、前記流動層ボイラにおいて、前記液相化開始温度は、前記燃料の燃焼後成分を化学分析し、得られた分析結果に基づいて求められた前記燃焼後成分に由来する化合物の化学平衡計算を行うことにより、求められた温度であることが好ましい。
【0010】
本発明の流動層ボイラの運転方法は、ベッド材が充填された火炉の下方から燃焼ガスを供給することによって流動層を形成し、該流動層に燃料を供給して燃焼処理する流動層ボイラの運転方法であって、予め前記燃料の燃焼後成分に由来する化合物の液相化開始温度を求める工程と、前記火炉の底部の温度が前記液相化開始温度より低い温度となるように制御して前記流動層ボイラの運転を行う運転工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、前記流動層ボイラの運転方法において、前記液相化開始温度を求める工程は、前記燃料の燃焼後成分を化学分析する処理と、得られた分析結果に基づいて求められた前記燃焼後成分に由来する化合物の化学平衡計算を行うことにより、液相化開始温度を求める処理と、を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の流動層ボイラによれば、燃料の燃焼後成分に由来する化合物の液相化開始温度より低い温度となるように、制御部によって温度調整部で調整する前記火炉の底部の温度を設定するので、前記化合物が液相化することによってこれがベッド材に付着し、ベッド材が肥大化するのを防止することができる。したがって、ベッド材の肥大化に起因して燃焼が不安定になるのを防止し、燃焼運転を安定して行うことができる。
本発明の流動層ボイラの運転方法によれば、予め燃料の燃焼後成分に由来する化合物の液相化開始温度を求めた後、火炉の底部の温度が前記液相化開始温度より低い温度となるように制御して流動層ボイラの運転を行うので、前記化合物が液相化することによってこれがベッド材に付着し、ベッド材が肥大化するのを防止することができる。したがって、ベッド材の肥大化に起因して燃焼が不安定になるのを防止し、燃焼運転を安定して行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の流動層ボイラとその運転方法を詳しく説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
図1は、本発明に係る流動層ボイラの一実施形態を示す概略構成図であり、
図1中符号1は流動層ボイラである。この流動層ボイラ1は、火炉2、サイクロン3、伝熱部4を備えて構成されたもので、火炉2内に充填されたベッド材Xを、サイクロン3を経て再度火炉2内に循環させる、循環流動層ボイラである。
【0015】
火炉2は、内部に供給された燃料Yを燃焼処理することによってガス化及び灰化するものであり、高さ方向に長い直方体形状または円筒形状に形成されている。ここで、燃料Yとしては、本実施形態では廃タイヤが石炭と共に用いられ、供給される。この火炉2の内部には、川砂等の不活性無機物からなるベッド材Xが充填されている。
【0016】
そして、火炉2の下部には、該火炉2の床部を形成する複数の散気管21、所定の傾斜面が形成されたホッパ22が設けられている。なお、散気管21の直下には第1のクーラ(図示せず)が配置され、ホッパ22の下方には第2のクーラ(図示せず)が配置されている。また、第2のクーラの下方には、金属物を磁力によって除去する磁選機(図示せず)が配置されていてもよい。
【0017】
散気管21は、火炉2の下端部(底端部)に多数が並列配置されたことによって火炉2の床部を形成するもので、隣り合う散気管21、21間に適宜な隙間が形成されるように配置されている。これら散気管21は、その上部に、鉛直方向上方に向く複数のノズル(あるいは複数の孔)を有した管状の部材であり、火炉2の外部に配置された第1の燃焼空気供給装置5に接続されている。これによって散気管21は、前記ノズル(孔)から火炉2内に向けて、一次空気(燃焼ガス)を噴射するようになっている。
【0018】
ホッパ22は、前記散気管21の下方にて火炉2の床面(底面)を覆うように配置されたもので、その下端部に排出口(図示せず)を有している。なお、
図1ではホッパ22を一つしか示していないが、例えば
図1における紙面と垂直方向に、複数のホッパ22を連設してもよい。
【0019】
散気管21の直下に配置された前記第1のクーラ(図示せず)は、例えば前記第1の燃焼空気供給装置5に接続されて配管中に空気を流通させる、空冷式のものである。
また、ホッパ22の排出口の下方に配置された前記第2のクーラ(図示せず)も、図示しない空気供給装置に接続された、空冷式のものである。
また、前記磁選機は、第2のクーラで冷却された排出物中から金属物を磁力によって分別回収するものである。このような磁選機としては、例えば、永久磁石をベルトに配置したベルトコンベア式のものが挙げられる。
【0020】
サイクロン3は、火炉2内部における燃焼処理の結果生成された排ガス中に含有される灰化物及びベッド材Xを捕集するためのもので、火炉2の上部に接続されている。
このサイクロン3の下方には循環部6が設けられている。この循環部6は、サイクロン3によって捕集された灰化物及びベッド材Xを流動化するもので、灰戻し管7を介して火炉2の底部に接続している。また、循環部6の下部には空気分散管8が配置されており、この空気分散管8を介して流動化空気が図示しない空気供給装置から循環部6の内部に供給されるように構成されている。このような構成によって循環部6は、サイクロン3によって捕集された灰化物及びベッド材Xを、空気供給装置によって供給された流動化空気によって流動化させ、灰戻し管7を介して火炉2の底部に返送し循環させるようになっている。
【0021】
伝熱部4は、サイクロン3の上部から排気される排ガスを排ガスライン9に供給するための流路となるもので、その内部に、例えば、発電用蒸気タービン(図示せず)の駆動に利用される過熱器及び節炭器等が配置されている。なお、排ガスライン9の途中部位には、図示しない空気予熱器や集塵機等が配置されている。
【0022】
また、本実施形態に係る流動層ボイラ1には、前記ホッパ22の排出口から排出され、さらに前記磁選機で金属物が除去された排出物を再び火炉2内部に供給する循環機構10が設けられている。この循環機構10は、例えばファンを備えて形成されたもので、前記排出物を空気圧送によって火炉2に供給するように構成されている。なお、この循環機構10としては、排出物を空気圧送するものに限られることなく、ベルトコンベア等を用いることもできる。
【0023】
また、前記火炉2の内部には、流動層ボイラ1の起動時に火炉2内部において着火を行うための、起動用バーナ(図示せず)が配置されている。
また、前記火炉2の途中部位、すなわち前記灰戻し管7との接続部より少し上方には、二次空気(燃焼ガス)を火炉2内に供給するための第2の燃焼空気供給装置11が接続されている。二次空気(燃焼ガス)は、火炉2内部における燃焼処理において発生する未燃分の燃料の燃焼を助勢するために、供給される。本実施形態では、この第2の燃焼空気供給装置11と前記第1の燃焼空気供給装置5とにより、火炉2の底部、すなわち散気管21による床部とその上部側近傍での温度を調整するための温度調整部が構成されている。
【0024】
ここで、本実施形態では、第1の燃焼空気供給装置5による一次空気の供給量と第2の燃焼空気供給装置11による二次空気の供給量との合計(和)が、一定になるように調整されている。また、これら第1の燃焼空気供給装置5および第2の燃焼空気供給装置11は制御部12に接続されており、これによって第1の燃焼空気供給装置5による一次空気の供給量と第2の燃焼空気供給装置11による二次空気の供給量とは、それぞれ制御部12によって制御されている。
【0025】
この制御部12は、前記温度調整部で調整する火炉2の底部の温度を、値(温度)が入力されることで設定された温度に制御するように構成されている。前述したように第1の燃焼空気供給装置5は、火炉2の底部に直接一次空気を供給するように構成されている。一方、第2の燃焼空気供給装置11は、火炉2の底部よりやや上方に二次空気を供給するように構成されている。なお、これら一次空気や二次空気は、火炉2内における燃焼雰囲気の温度に比べ、格段に低い温度となっている。すなわち、これら一次空気や二次空気は、通常は温度調整をしていない大気や、予備加熱されて例えば100〜200℃程度に調整された空気が用いられるため、例えば900℃以上となる火炉2内の温度に比べて格段に低い温度となっている。
【0026】
したがって、本実施形態では、火炉2の底部を設定された温度以下に調整する能力が、第2の燃焼空気供給装置11より火炉2の底部に直接供給される第1の燃焼空気供給装置5の方が高くなっている。よって、制御部12では、前記したように一定になるように調整される一次空気と二次空気の供給量(合計量)において、第1の燃焼空気供給装置5によって供給する一次空気量を増減することにより、温度調整部で調整する火炉2の底部の温度を、予め決められた温度(入力された温度)に制御する。
【0027】
ここで、制御部12は、予め求められ、入力された、前記燃料Yの燃焼後成分に由来する化合物の液相化開始温度より低い温度となるように、温度調整部で調整する火炉2の底部の温度を設定し、制御する。前記液相化開始温度の求め方として、具体的には、前記燃料Yの燃焼後成分を化学分析し、得られた分析結果に基づいて求められた前記燃焼後成分に由来する化合物の化学平衡計算を行うことにより、液相化開始温度を求める。なお、以下に説明する液相化開始温度の求め方は、本発明の流動層ボイラの運転方法の一実施形態となる。
【0028】
前記燃料Yの燃焼後成分を化学分析する処理としては、まず、
図1に示した流動層ボイラ1によって経験的に求められた運転条件で試験運転し、ベッド材Xを肥大化させる。あるいは、実験室において流動層ボイラ1を模した実験機を用い、経験的に求められた条件で前記燃料Yを燃焼させてベッド材Xを肥大化させる。そして、ベッド材Xに付着した成分、すなわち燃料Yの燃焼後成分である肥大化成分を化学分析する。
【0029】
この肥大化成分の化学分析法としては、特に限定されることなく従来公知の種々の分析法が可能であるが、例えば燃料Yの燃焼後成分(肥大化成分)が付着したベッド材Xの表面にX線を照射して蛍光X線を発生させ、この蛍光X線の波長から前記燃焼後成分(肥大化成分)を同定する、蛍光X線分析法が好適に用いられる。このようにして化学分析を行うと、前記燃焼後成分(肥大化成分)が複数同定され、また、これら同定された燃焼後成分のそれぞれの成分比率が求められる。
【0030】
次に、得られた分析結果から求められた(同定された)前記各燃焼後成分(肥大化成分)に由来する全ての化合物を求め、さらに求めた化合物の化学平衡計算を行う。このような燃焼後成分に由来する化合物の求めや化学平衡計算については、例えば市販の化学平衡計算用ソフト(Fact Sage)を用いることで容易に行うことができる。すなわち、この化学平衡計算では、燃焼後成分に由来する全ての化合物が求められるとともに、これら全ての化合物について、どのような環境下でどのような状態、つまり気相、液相、固相のいずれの状態にあるかが求められる。そこで、火炉2内の底部での環境(各ガスの分圧や温度)において、前記化合物が固相から液相に変わる温度、すなわち液相化開始温度を求める。
【0031】
具体的には、予め計算等によって求められた火炉2内の底部におけるガス雰囲気(環境雰囲気)を前記化学平衡計算用ソフトに入力するとともに、火炉2内の底部における温度を例えば20℃きざみで入力していく。そして、
図2に示すように火炉2内の底部における温度(横軸)と前記化合物のスラグ化率(wt%)(縦軸)、つまり液体存在率(wt%)との関係を求める。これにより、液相化開始温度を求めることができる。なお、
図2に示した温度とスラグ化率(液体存在率)との関係は、前記燃焼後成分(肥大化成分)に由来する全ての化合物についてそれぞれ温度とスラグ化率(液体存在率)との関係を求め、これらの関係を累積することで求める。
そして、スラグ化率(液体存在率)が0%を超えたときの温度、
図2では約945℃が、液相化開始温度となる。
【0032】
このようにして液相化開始温度が求められたら、前記制御部12には、求めた液相化開始温度(
図2では945℃)より低い温度、例えば安全率を見込んで液相化開始温度より15℃〜20℃程度低い温度を、火炉2の底部での温度と設定する。すなわち、
図2に示した例では、前記温度制御によって制御する火炉2の底部の温度を、925℃〜930℃とする。
【0033】
なお、火炉2の底部の温度については、例えば4本(複数)の温度センサを火炉2の底部の側壁部内側に配置しておき、これら温度センサでそれぞれ火炉2の底部の温度を検知する。そして、4本(複数)の温度センサで検知された温度のうちの最高温度が、設定された前記温度(925℃〜930℃)を上回らないように、制御部12によって制御する。すなわち、温度調整部による空気供給量を制御する。
【0034】
以上に説明したように、本実施形態の流動層ボイラ1にあっては、燃料Yの燃焼後成分に由来する化合物の液相化開始温度より低い温度となるように、制御部12によって前記温度調整部で調整する前記火炉2の底部の温度を設定するので、前記化合物が液相化することによってこれがベッド材Xに付着し、ベッド材Xが肥大化するのを防止することができる。したがって、ベッド材Xの肥大化に起因して燃焼が不安定になるのを防止し、流動層ボイラ1の燃焼運転を安定して行うことができる。
【0035】
また、液相化開始温度を、燃料Yの燃焼後成分を化学分析し、得られた分析結果に基づいて求められた前記燃焼後成分に由来する化合物の化学平衡計算を行うことにより、求められた温度と規定しているので、ベッド材Xの肥大化を確実に防止することができる。
【0036】
また、本実施形態の流動層ボイラ1の運転方法にあっては、予め燃料Yの燃焼後成分に由来する化合物の液相化開始温度を求めた後、火炉2の底部の温度が前記液相化開始温度より低い温度となるように制御して流動層ボイラの運転を行うので、前記化合物が液相化することによってこれがベッド材Xに付着し、ベッド材Xが肥大化するのを防止することができる。したがって、ベッド材Xの肥大化に起因して燃焼が不安定になるのを防止し、燃焼運転を安定して行うことができる。
【0037】
また、液相化開始温度を、燃料Yの燃焼後成分を化学分析する処理と、得られた分析結果に基づいて求められた前記燃焼後成分に由来する化合物の化学平衡計算を行うことにより、液相化開始温度を求める処理と、によって求めているので、ベッド材Xの肥大化を確実に防止することができる。
【0038】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記実施形態では第1の燃焼空気供給装置5と第2の燃焼空気供給装置11とによって本発明に係る温度調整部を構成したが、第1の燃焼空気供給装置5によって供給する一次空気の量と第2の燃焼空気供給装置11によって供給する二次空気の量の和(合計)を一定としない場合には、第1の燃焼空気供給装置5のみによって温度調整部を構成し、この第1の燃焼空気供給装置5から供給する一次空気の量によって火炉2の底部の温度を調整するようにしてもよい。
【0039】
また、前記実施形態では、燃料Yとして廃タイヤと石炭とを用いたが、燃料Yとしてはこれら以外にも、例えばRDF(ごみ固型化燃料)やバイオマスなどを用いることができる。