【文献】
川原洸太朗 他,イオン注入ざれた4H−SiC中の深い準位の深さ方向分布および注入ドーズ量依存性,第56回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,日本,応用物理学会,2009年 3月,VOL.1,440頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一方の表面を構成する第1導電型領域と、前記一方の表面とは反対側の他方の表面の一部を構成し、前記第1導電型領域と接触する第2導電型領域とを含む炭化珪素層を形成する工程と、
前記第1導電型領域の全体に1×1013cm−3以上1×1015cm−3以下の濃度でZ1/2センターを導入する工程と、
前記第1導電型領域において前記一方の表面側の領域に電気的に接続される第1電極を形成する工程と、
前記第2導電型領域と電気的に接続される第2電極を形成する工程とを備え、
前記第1導電型領域を通過して前記第1電極および前記第2電極の間を移動する主なキャリアが第1導電型のキャリアのみである、炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本願発明の実施形態の説明]
まず、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0012】
(1) 本実施形態に係る炭化珪素半導体装置(SiC半導体装置1)は、一方の表面(11B)を構成する第1導電型領域(ドリフト領域12)と、上記一方の表面とは反対側の他方の表面(11A)の一部を構成し、第1導電型領域と接触する第2導電型領域(ボディ領域13)とを含む炭化珪素層(SiC層11)と、第1導電型領域において上記一方の表面側の領域に電気的に接続される第1電極(ドレイン電極50)と、第2導電型領域と電気的に接続される第2電極(ソース電極40)とを備えている。上記炭化珪素半導体装置では、第1導電型領域を通過して第1電極および第2電極の間を移動する主なキャリアが第1導電型のキャリア(電子)のみである。また、第1導電型領域には、1×10
13cm
−3以上1×10
15cm
−3以下の濃度でZ
1/2センターが導入されている。
【0013】
本発明者は、炭化珪素半導体装置において電気特性を維持しつつオン抵抗の増大を抑制するための方策について鋭意検討を行った。その結果、以下のような知見を得て、本発明に想到した。
【0014】
n型のドリフト領域とp型のボディ領域とが接触して構成されるボディダイオードが内蔵された炭化珪素半導体装置では、動作時にボディ領域からドリフト領域へ正孔が注入されるとともに電極からドリフト領域へ電子が注入される。そして、注入された電子および正孔がドリフト領域内において再結合する。このとき、上記再結合により放出されるエネルギーがSiCの転位(基底面転位)に与えられ、当該転位を起点としてSiC結晶中に積層欠陥が伸長する。その結果、SiC半導体装置のオン抵抗が増大する。
【0015】
上記SiC半導体装置1では、ドリフト領域12に1×10
13cm
−3以上の濃度でZ
1/2センターが導入されている。そのため、ボディ領域13からドリフト領域12に注入される正孔Hを、ドリフト領域12のドレイン電極50側の領域にまで到達する前にZ
1/2センターにおいてドリフト領域12内に存在する電子と再結合させることができる。これにより、ボディ領域13からドリフト領域12に注入される正孔Hが、ドレイン電極50からドリフト領域12に注入される電子Eと再結合することを抑制することができる。その結果、上記再結合に起因した積層欠陥の発生を抑制することができる。また、上記SiC半導体装置1では、ドリフト領域12におけるZ
1/2センターの濃度が1×10
15cm
−3以下となっている。そのため、ドリフト領域12を通過する電子に対してZ
1/2センターが与える影響を小さくなり、その結果Z
1/2センターの導入による電気特性の低下を抑制することができる。したがって、上記SiC半導体装置1によれば、電気特性を維持しつつオン抵抗の増大を抑制することができる。
【0016】
ここで、「第1導電型領域を通過して第1電極および第2電極の間を移動する主なキャリアが第1導電型のキャリアのみである」とは、第1導電型領域を通じた第1電極および第2電極の間の電気伝導に実質的に寄与するキャリアが第1導電型のキャリアのみであることを意味する。また、「Z
1/2センター」とは、SiCを構成する炭素(C)原子の空孔などに起因した深い準位であり、後述する本実施形態の具体例において詳細に説明される。
【0017】
(2) 上記炭化珪素半導体装置(SiC半導体装置1)において、第1導電型領域(ドリフト領域12)では、第1導電型(n型)の不純物の濃度がZ
1/2センターの濃度よりも大きくなっていてもよい。
【0018】
これにより、ドリフト領域12を通過する電子に対してZ
1/2センターが与える影響をより小さくすることができる。その結果、Z
1/2センターの導入による電気特性の低下をより確実に抑制することができる。
【0019】
(3) 上記炭化珪素半導体装置(SiC半導体装置1)において、第2導電型領域(ボディ領域13)から第1導電型領域(ドリフト領域12)に注入される第2導電型のキャリア(正孔H)の寿命は1μs以下であってもよい。
【0020】
これにより、ボディ領域13からドリフト領域12に注入された正孔Hが、電極からドリフト領域12に注入された電子Eと再結合することをより確実に抑制することができる。その結果、結晶中における積層欠陥の発生をより確実に抑制することができる。なお、「第2導電型のキャリアの寿命」は、後述する本実施形態の具体例において説明する方法により測定することができる。
【0021】
(4) 上記炭化珪素半導体装置(SiC半導体装置1)は、第2導電型領域(ボディ領域13)上に形成されるゲート絶縁膜(20)と、ゲート絶縁膜上に形成されるゲート電極(30)とをさらに備えていてもよい。また、上記炭化珪素半導体装置では、ゲート電極に電圧を印加して第2導電型領域における反転層の形成の有無を制御することにより第1導電型(n型)のキャリアの移動が制御されてもよい。
【0022】
上記構成を有するMOSFETでは、電気特性を維持しつつオン抵抗の増大を抑制することが可能な上記SiC半導体装置1を好適に用いることができる。
【0023】
(5) 本実施形態に係る炭化珪素(SiC)半導体装置の製造方法は、一方の表面(11B)を構成する第1導電型領域(ドリフト領域12)と、上記一方の表面とは反対側の他方の表面(11A)の一部を構成し、第1導電型領域と接触する第2導電型領域(ボディ領域13)とを含む炭化珪素層(SiC層11)を形成する工程と、第1導電型領域に1×10
13cm
−3以上1×10
15cm
−3以下の濃度でZ
1/2センターを導入する工程と、第1導電型領域において上記一方の表面側の領域に電気的に接続される第1電極(ドレイン電極50)を形成する工程と、第2導電型領域と電気的に接続される第2電極(ソース電極40)を形成する工程とを備えている。第1導電型領域を通過して第1電極および第2電極の間を移動する主なキャリアは、第1導電型(n型)のキャリアのみである。
【0024】
上記炭化珪素半導体装置の製造方法では、ドリフト領域12に1×10
13cm
−3以上の濃度でZ
1/2センターが導入される。そのため、ボディ領域13からドリフト領域12に注入される正孔Hを、ドリフト領域12の電極側の領域にまで到達する前にZ
1/2センターにおいてドリフト領域12内に存在する電子と再結合させることができる。これにより、ボディ領域13からドリフト領域12に注入される正孔Hが、電極からドリフト領域12に注入される電子Eと再結合することを抑制することができる。その結果、上記再結合に起因した積層欠陥の発生を抑制することができる。また、上記炭化珪素半導体装置の製造方法では、ドリフト領域12に1×10
15cm
−3以下の濃度でZ
1/2センターが導入される。これにより、ドリフト領域12を通過する電子に対してZ
1/2センターが与える影響が小さくなり、その結果Z
1/2センターの導入による電気特性の低下を抑制することができる。したがって、上記炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、電気特性を維持しつつオン抵抗の増大を抑制することができる。
【0025】
(6) 上記炭化珪素(SiC)半導体装置の製造方法は、炭化珪素層(SiC層11)を加熱する工程をさらに備えていてもよい。また、Z
1/2センターを導入する工程は、炭化珪素層を加熱する工程の後に実施されてもよい。
【0026】
これにより、SiC層11内に所望のキャリアを発生させることができる。また、ドリフト領域12にZ
1/2センターを導入するタイミングは、たとえばSiC層11の加熱後など適宜選択することが可能である。
【0027】
(7) 上記炭化珪素(SiC)半導体装置の製造方法において、Z
1/2センターを導入する工程では、電子線照射、中性子線照射およびイオン注入からなる群より選択される少なくとも一の方法により第1導電型領域(ドリフト領域12)にZ
1/2センターが導入されてもよい。
【0028】
このようにZ
1/2センターの導入においては、種々の方法を選択することが可能である。
【0029】
(8) 上記炭化珪素(SiC)半導体装置の製造方法において、Z
1/2センターを導入する工程では、電子線エネルギーが150keV以上200keV以下であり、かつ電子線フルエンスが5×10
16cm
−2以上4×10
17cm
−2以下である電子線照射により第1導電型領域(ドリフト領域12)内にZ
1/2センターが導入されてもよい。
【0030】
これにより、ドリフト領域12内にZ
1/2センターを容易に導入することができる。
[本願発明の実施形態の詳細]
次に、本発明の実施形態の具体例を図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0031】
(実施形態1)
まず、本発明の一実施形態である実施形態1に係るSiC半導体装置の構造について説明する。
図1を参照して、本実施形態に係るSiC半導体装置1は、プレーナ型のMOSFETであり、SiC基板10と、SiC層11と、ゲート絶縁膜20と、ゲート電極30と、ソース電極40(第2電極)と、ドレイン電極50(第1電極)と、層間絶縁膜60と、ソース配線41と、ドレイン配線51とを主に備えている。SiC層11は、ドリフト領域12(第1導電型領域)と、ボディ領域13(第2導電型領域)と、ソース領域14と、コンタクト領域15とを主に含んでいる。
【0032】
SiC基板10は、たとえば窒素(N)などのn型不純物を含むことにより導電型がn型(第1導電型)となっている。ドリフト領域12は、SiC基板10の一方の表面10A上に形成されている。ドリフト領域12は、SiC層11の一方の表面11Bを構成している。ドリフト領域12は、たとえば窒素(N)などのn型不純物を含むことにより導電型がn型になっている。ドリフト領域12におけるn型不純物濃度はたとえば5×10
15cm
−3程度であり、SiC基板10におけるn型不純物濃度よりも小さくなっている。
【0033】
ボディ領域13は、SiC層11の表面11Aの一部を構成するように当該SiC層11内において互いに分離して形成されている。ボディ領域13は、接触面12Aにおいてドリフト領域12と接触している。すなわち、SiC半導体装置1には、導電型がn型であるドリフト領域12と導電型がp型であるボディ領域13とが接触して構成されるボディダイオードBDが内蔵されている。ボディ領域13は、たとえばアルミニウム(Al)やホウ素(B)などのp型不純物を含むことにより導電型がp型(第2導電型)となっている。
【0034】
ソース領域14は、表面11Aを含むようにボディ領域13内において形成されている。ソース領域14は、たとえばリン(P)などのn型不純物を含むことにより導電型がn型となっている。ソース領域14におけるn型不純物濃度は、ドリフト領域12におけるn型不純物濃度よりも大きくなっている。
【0035】
コンタクト領域15は、表面11Aを含み、かつソース領域14と隣接するようにボディ領域13内において形成されている。コンタクト領域15は、たとえばアルミニウム(Al)などのp型不純物を含むことにより導電型がp型となっている。コンタクト領域15におけるp型不純物濃度は、ボディ領域13におけるp型不純物濃度よりも大きくなっている。
【0036】
ドリフト領域12には、1×10
13cm
−3以上1×10
15cm
−3以下の濃度でZ
1/2センターが導入されている。ドリフト領域12におけるZ
1/2センターの濃度は、好ましくは2.5×10
13cm
−3以上7.5×10
14cm
−3以下であり、より好ましくは5.0×10
13cm
−3以上5.0×10
14cm
−3以下である。また、ドリフト領域12では、n型不純物濃度が上記Z
1/2センターの濃度よりも大きくなっている。
【0037】
ドリフト領域12は、厚み方向においてボディ領域13とSiC基板10とにより挟まれる領域R1と、当該領域R1に隣接し、厚み方向においてゲート絶縁膜20とSiC基板10とにより挟まれる領域R2とを有している。ドリフト領域12では、少なくとも領域R1におけるZ
1/2センターの濃度が1×10
13cm
−3以上であり、好ましくは領域R1,R2のいずれにおいても(ドリフト領域12全体において)Z
1/2センターの濃度が1×10
13cm
−3以上である。また、ドリフト領域12では、少なくとも領域R2におけるZ
1/2センターの濃度が1×10
15cm
−3以下であり、好ましくは領域R1,R2のいずれにおいても(ドリフト領域12全体において)Z
1/2センターの濃度が1×10
15cm
−3以下である。
【0038】
ここで、「Z
1/2センター」について詳細に説明する。
図2は、4H−SiCのエネルギーバンド図である。
図2中の「Ev」および「Ec」は価電子帯の上端および伝導帯の下端をそれぞれ示しており、価電子帯の上端Evと伝導帯の下端Ecとの間のエネルギーギャップが4H−SiCのバンドギャップ(約3.3eV)に相当する。
図2中破線により示され、伝導帯の下端Ecから0.65eVだけエネルギーが低い準位がZ
1/2センターに相当する。Z
1/2センターは、SiCを構成する炭素(C)原子の空孔などに起因した深い準位であり、たとえば過度容量分光法(DLTS:Deep Level Transient Spectroscopy)などの方法を用いて測定することができる。
【0039】
図1を参照して、ゲート絶縁膜20は、SiC層11の表面11A上(ボディ領域13上)に接触するように形成されている。ゲート絶縁膜20は、たとえば二酸化珪素(SiO
2)などからなり、一方のソース領域14の上から他方のソース領域14の上にまで延在するように形成されている。
【0040】
ゲート電極30は、ゲート絶縁膜20上に接触するように形成されている。ゲート電極30は、たとえば不純物が添加されたポリシリコンやアルミニウム(Al)などの導電体からなり、一方のソース領域14上から他方のソース領域14上にまで延在するように形成されている。
【0041】
ソース電極40は、SiC層11の表面11A(ソース領域14およびコンタクト領域15上)に接触するように形成されている。ソース電極40は、ソース領域14に対してオーミック接触することができる材料、たとえばNi
xSi
y(ニッケルシリサイド)、Ti
xSi
y(チタンシリサイド)、Al
xSi
y(アルミシリサイド)およびTi
xAl
ySi
z(チタンアルミシリサイド)などからなっている(x,y,z>0)。ソース電極40は、コンタクト領域15を介してボディ領域13と電気的に接続されている。
【0042】
ドレイン電極50は、SiC基板10の表面10Aとは反対側の表面10B上に接触するように形成されている。ドレイン電極50は、たとえばソース電極40と同様の材料からなっている。ドレイン電極50は、ドリフト領域12においてボディ領域13と接触する接触面12A側とは反対側の領域(表面11B側の領域)にSiC基板10を介して電気的に接続されている。
【0043】
層間絶縁膜60は、SiC層11の表面11A上においてゲート絶縁膜20とともにゲート電極30を取り囲むように形成されている。層間絶縁膜60は、たとえばSiO
2などからなり、ゲート電極30をソース電極40に対して絶縁している。
【0044】
ソース配線41は、ソース電極40および層間絶縁膜60を覆うように形成されている。ソース配線41は、たとえばアルミニウム(Al)や金(Au)などの金属からなり、ソース電極40を介してソース領域14と電気的に接続されている。
【0045】
ドレイン配線51は、ドレイン電極50を覆うように形成されている。ドレイン配線51は、ソース配線41と同様にたとえばアルミニウム(Al)や金(Au)などの金属からなり、ドレイン電極50を介してSiC基板10と電気的に接続されている。
【0046】
次に、本実施形態に係るSiC半導体装置1の動作について説明する。
図1を参照して、ゲート電極30に印加された電圧が閾値電圧未満の状態、すなわちオフ状態では、ソース電極40とドレイン電極50との間に電圧が印加されても、ボディ領域13とドリフト領域12との間に形成されるpn接合が逆バイアスとなり、非導通状態となる。一方、ゲート電極30に閾値電圧以上の電圧が印加されると、ボディ領域13のチャネル領域(ゲート電極30下のボディ領域13)に反転層が形成される。そして、ソース電極40から注入された電子が、ソース領域14、ボディ領域13、ドリフト領域12およびSiC基板10を順に通過してドレイン電極50まで移動する。このようにSiC半導体装置1は、ゲート電極30に印加する電圧によりボディ領域13における反転層の形成の有無を制御してソース電極40とドレイン電極50との間の電子の移動を制御することにより動作する。また、SiC半導体装置1は、ドリフト領域12を通過してソース電極40とドレイン電極50との間を移動する主なキャリアが電子のみであるユニポーラデバイス(ユニポーラトランジスタ)である。
【0047】
図3は、上記SiC半導体装置においてn型のドリフト領域12とp型のボディ領域13とが接触して構成されるボディダイオードBDの拡大図である。上記SiC半導体装置の動作中にはソース電極40およびドレイン電極50の間を電子が移動するとともに、
図3に示すようにボディ領域13からドリフト領域12へ正孔(ホール)Hが注入され、またドレイン電極50からSiC基板10を介してドリフト領域12に電子Eが注入される。
【0048】
以上のように本実施形態に係るSiC半導体装置1では、ドリフト領域12において1×10
13cm
−3以上の濃度でZ
1/2センターが導入されている。そのため、ボディ領域13からドリフト領域12に注入される正孔Hを、ドリフト領域12のドレイン電極50側の領域にまで到達する前に、Z
1/2センターにおいてドリフト領域12内に存在する電子と再結合させることができる。これにより、ボディ領域13からドリフト領域12に注入される正孔Hが、ドレイン電極50からドリフト領域12に注入される電子Eと再結合することを抑制することができる。その結果、上記再結合に起因した積層欠陥の発生を抑制することができる。また、上記SiC半導体装置1では、ドリフト領域12におけるZ
1/2センターの濃度が1×10
15cm
−3以下となっている。これにより、動作時にドリフト領域12を通過する電子に対してZ
1/2センターが与える影響が小さくなり、その結果Z
1/2センターの導入による電気特性の低下を抑制することができる。したがって、上記SiC半導体装置1によれば、電気特性を維持しつつオン抵抗の増大を抑制することができる。
【0049】
上記SiC半導体装置1において、ドリフト領域12ではn型不純物濃度がZ
1/2センターの濃度よりも大きくなっていてもよい。これにより、動作時にドリフト領域12を通過する電子に対してZ
1/2センターが与える影響をより小さくすることができる。その結果、Z
1/2センターの導入による電気特性の低下をより確実に抑制することができる。
【0050】
上記SiC半導体装置1において、ボディ領域13からドリフト領域12に注入される正孔Hの寿命は1μs以下であってもよい。これにより、ボディ領域13からドリフト領域12に注入された正孔Hが、ドレイン電極50からドリフト領域12に注入された電子Eと再結合することをより確実に抑制することができる。その結果、結晶中における積層欠陥の発生をより確実に抑制することができる。
【0051】
なお、ボディ領域13からドリフト領域12に注入された正孔Hの寿命は、上記非特許文献2のようにマイクロ波光導電減衰(μ−PCD:microwave Photo Conductivity Decay)法により測定することができる。
図4は、上記非特許文献2における4H−SiCからなるエピタキシャル成長層のZ
1/2センター濃度(横軸:cm
−3)と寿命の逆数(1/τ)(縦軸:s
−1)との関係を示すグラフである。
図4から明らかなように、Z
1/2センター濃度が1×10
13cm
−3以上である場合には、キャリアの寿命(τ)が1μs以下になる。このようにキャリアの寿命が短くなることにより、上記本実施形態のようなMOSFETではキャリアの再結合に起因した積層欠陥の発生が抑制され、その結果オン抵抗の増大を抑制することができる。
【0052】
次に、本実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法について説明する。
図5を参照して、上記SiC半導体装置の製造方法では、まず、工程(S10)として、炭化珪素基板準備工程が実施される。この工程(S10)では、
図6を参照して、たとえば4H−SiCからなるインゴット(図示しない)を切断することによりSiC基板10が準備される。
【0053】
次に、工程(S20)として、エピタキシャル成長層形成工程が実施される。この工程(S20)では、
図6を参照して、SiC基板10の表面10A上にエピタキシャル成長によりSiC層11が形成される。SiC層11の厚みは、たとえば10μm以上100μm以下である。
【0054】
次に、工程(S30)として、イオン注入工程が実施される。この工程(S30)では、
図7を参照して、まず、たとえばアルミニウム(Al)イオンがSiC層11内に注入されることにより、当該SiC層11内にボディ領域13(第2導電型領域)が形成される。次に、たとえばリン(P)イオンがボディ領域13内に注入されることにより、当該ボディ領域13内にソース領域14が形成される。次に、たとえばアルミニウム(Al)イオンがボディ領域13内に注入されることにより、当該ボディ領域13内においてソース領域14に隣接するようにコンタクト領域15が形成される。そして、SiC層11においてボディ領域13、ソース領域14およびコンタクト領域15のいずれも形成されない領域がドリフト領域12(第1導電型領域)となる。このようにして、表面11Bを構成するドリフト領域12と、表面11Aの一部を構成し、ドリフト領域12と接触するボディ領域13とを含むSiC層11が形成される。
【0055】
次に、工程(S40)として、活性化アニール工程が実施される。この工程(S40)では、
図7を参照して、SiC層11が形成されたSiC基板10が加熱されることにより、当該SiC層11内に導入された不純物が活性化する。これにより、SiC層11内の不純物領域において所望のキャリアが発生する。
【0056】
次に、工程(S50)として、電子線照射工程が実施される。この工程(S50)では、
図8を参照して、表面11A側からSiC層11に対して電子線EBが照射される。これにより、ドリフト領域12内に1×10
13cm
−3以上1×10
15cm
−3以下の濃度でZ
1/2センターが形成される。
【0057】
電子線EBのエネルギーは、SiC層11の厚みにより適宜選択することが可能であり、たとえば100keV以上250keV以下であり、150keV以上200keV以下であることが好ましい。また、電子線EBのフルエンスは、導入すべきZ
1/2センターの濃度により適宜選択することが可能であり、たとえば1×10
16cm
−2以上8×10
17cm
−2以下であり、5×10
16cm
−2以上4×10
17cm
−2以下であることが好ましい。
【0058】
また、Z
1/2センターは電子線照射により形成される場合に限定されず、たとえば中性子線照射やイオン注入などの方法により形成することも可能である。また、電子線照射、中性子線照射およびイオン注入の方法を適宜組合わせることによりZ
1/2センターが形成されてもよい。
【0059】
次に、工程(S60)として、ゲート絶縁膜形成工程が実施される。この工程(S60)では、
図9を参照して、たとえば酸素(O
2)を含む雰囲気中においてSiC層11が形成されたSiC基板10を加熱することにより、表面11A上に二酸化珪素(SiO
2)からなるゲート絶縁膜20が形成される。
【0060】
次に、工程(S70)として、ゲート電極形成工程が実施される。この工程(S70)では、
図9を参照して、たとえばLPCVD(Low Pressure Chemical Vapor Deposition)法により、ゲート絶縁膜20上に接触し、ポリシリコンからなるゲート電極30が形成される。
【0061】
次に、工程(S80)として、層間絶縁膜形成工程が実施される。この工程(S80)では、
図10を参照して、たとえばCVD法によりゲート絶縁膜20とともにゲート電極30を取り囲むようにSiO
2からなる層間絶縁膜60が形成される。
【0062】
次に、工程(S90)として、オーミック電極形成工程が実施される。この工程(S90)では、
図11を参照して、まず、ソース電極40を形成すべき領域においてゲート絶縁膜20および層間絶縁膜60がエッチングにより除去される。これにより、ソース領域14およびコンタクト領域15が露出した領域が形成される。そして、当該領域において、たとえばニッケル(Ni)からなる膜が形成される。一方、SiC基板10の表面10B上において、たとえばNiからなる膜が形成される。その後、SiC基板10が加熱されることにより上記Niからなる膜の少なくとも一部がシリサイド化する。これにより、SiC層11の表面11AおよびSiC基板10の表面10B上においてソース電極40およびドレイン電極50がそれぞれ形成される。
【0063】
次に、工程(S100)として、配線形成工程が実施される。この工程(S100)では、
図1を参照して、たとえば蒸着法によりアルミニウム(Al)や金(Au)などの導電体からなるソース配線41が、ソース電極40および層間絶縁膜60を覆うように形成される。また、上記ソース配線41と同様にアルミニウム(Al)や金(Au)などからなるドレイン配線51がドレイン電極50を覆うように形成される。上記工程(S10)〜(S100)が実施されることによりSiC半導体装置1が製造され、本実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法が完了する。
【0064】
以上のように、本実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法では、工程(50)において電子線照射によりドリフト領域12内に1×10
13cm
−3以上1×10
15cm
−3以下の濃度でZ
1/2センターを導入することで、上記SiC半導体装置1を製造することができる。したがって、上記SiC半導体装置の製造方法によれば、電気特性が維持され、かつオン抵抗の増大が抑制されたSiC半導体装置を製造することができる。
【0065】
(実施形態2)
次に、本発明の他の実施形態である実施形態2について説明する。本実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法は、基本的には上記実施形態1のSiC半導体装置の製造方法と同様に実施され、かつ同様の効果を奏する。しかし、本実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法は、ドリフト領域内にZ
1/2センターを導入するタイミングにおいて上記実施形態1の場合とは異なっている。
【0066】
図12を参照して、本実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法では、まず、工程(S110)〜(S150)が上記実施形態1の工程(S10)〜(S40)および(S60)と同様の手順により実施される。これにより、
図13に示すようにSiC基板10上に不純物領域を含むSiC層11が形成され、当該SiC層11の表面11A上にゲート絶縁膜20が形成される。
【0067】
次に、工程(S160)として、電子線照射工程が実施される。この工程(S160)では、
図13を参照して、上記実施形態1の工程(S50)と同様の手順により、ゲート絶縁膜20が形成されたSiC層11に対して表面11A側から電子線EBが照射される。これにより、ドリフト領域12内において上記濃度でZ
1/2センターが導入される。
【0068】
次に、工程(S170)〜(S200)が上記実施形態1の(S70)〜(S100)と同様の手順により実施される。これにより、上記実施形態1と同様に電気特性が維持され、かつオン抵抗の増大が抑制されたSiC半導体装置1(
図1参照)を製造することができる。
【0069】
(実施形態3)
次に、本発明のさらに他の実施形態である実施形態3について説明する。本実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法は、基本的には上記実施形態1のSiC半導体装置の製造方法と同様に実施され、かつ同様の効果を奏する。しかし、本実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法は、ドリフト領域内にZ
1/2センターを導入するタイミングにおいて上記実施形態1の場合とは異なっている。
【0070】
図14を参照して、本実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法では、まず、工程(S210)〜(S260)が上記実施形態1の工程(S10)〜(S40)、(S60)および(S70)と同様の手順により実施される。これにより、
図15に示すようにSiC基板10上に不純物領域を含むSiC層11が形成され、当該SiC層11の表面11A上にゲート絶縁膜20が形成され、当該ゲート絶縁膜20上にゲート電極30が形成される。
【0071】
次に、工程(S270)として、電子線照射工程が実施される。この工程(S270)では、
図15を参照して、上記実施形態1の工程(S50)と同様の手順により、ゲート絶縁膜20およびゲート電極30が形成されたSiC層11に対して表面11A側から電子線EBが照射される。これにより、ドリフト領域12内に上記濃度でZ
1/2センターが導入される。
【0072】
次に、工程(S280)〜(S300)が上記実施形態1の(S80)〜(S100)と同様の手順により実施される。これにより、上記実施形態1と同様に電気特性が維持され、かつオン抵抗の増大が抑制されたSiC半導体装置1(
図1参照)を製造することができる。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。