(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルムの表面に、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化珪素、窒化珪素、酸窒化珪素などの金属酸化物薄膜を形成したガスバリアフィルムは、水蒸気や酸素などの遮断を必要とする物品の包装や、食品、工業用品および医薬品などの変質を防止するための包装用途に広く用いられている。
【0003】
さらに近年では、液晶ディスプレイ、太陽電池、有機EL、有機TFT、電子ペーパーなどでも、水蒸気や酸素などのガスを原因とする劣化を防ぐためにガスバリアフィルムが用いられている。従来、ガスバリアの目的ではガラス基板が用いられていたが、ガスバリアフィルムはガラス基板より軽量でありフレキシブルであるという利点を有する。しかしその一方で、ガスバリアフィルムには、ガラス基板に比べてガスバリア性が劣るという問題がある。
【0004】
樹脂フィルムの中でも液晶ポリマーフィルムは、優れたガスバリア性を示すことが知られている。これは、液晶ポリマー分子が剛直な棒状構造を有することから、平面方向に配向した液晶ポリマー分子間をガスが透過し難いことによると考えられる。しかし、高度なガスバリア性が求められる場合には、たとえ樹脂フィルム自体のガスバリア性が比較的優れていても、Al
2O
3、SiO
2、SiNなどガスバリア性に優れた無機材料からなる薄膜層を設ける。ところが液晶ポリマーフィルムには、表面平滑化が難しく、極薄の無機バリア層を均一に形成できないという問題があった。
【0005】
より詳しくは、液晶ポリマーは一般的な溶剤に不溶であるため、平滑化が可能なキャスト法では成膜できない。そこで、液晶ポリマーフィルムは主に溶融押出法により製造されるが、溶融押出法では溶融樹脂がダイに接触しながら押し出されるので、得られるフィルムの表面粗さRaは一般的には200nm程度であり、最高でも50nm程度までしか改善できない。このような液晶ポリマーフィルム上には極薄の無機バリア層を均一に形成することはできず、局所的なガス透過が生じて十分なガスバリア性が発揮されない。
【0006】
また、比較的厚い無機バリア層を形成する場合であっても、基材フィルムの表面平滑性が低いと、おそらくガスが局所的に集中するためと考えられるが、十分なガスバリア性が認められないという問題もある。
【0007】
そこで特許文献1,2の発明では、液晶ポリマーフィルムを熱プレスにより平滑化し、その上にガスバリア性を有する無機バリア層を蒸着している。このように熱プレスで平滑化するためには、高平滑で且つ液晶ポリマーフィルムよりも耐熱性が高い特殊な離型フィルムが必要となる。また、熱プレス時のシワやウネリの防止のためには、離型フィルムの曲げ強度が大きいことが要求される。これらの条件を満たす離型フィルムとしては、厚さが75μm程度以上の厚膜ポリイミドフィルムが最有力である。しかし、一般的なポリイミドフィルムにはブロッキング防止の為にフィラーが添加されているため、表面粗さRaとしては50nm程度が限度であり、かかるフィルムを用いて熱プレスした場合、液晶ポリマーフィルムの表面粗さは当然にこれよりも粗くならざるを得ない。よって、フィラーを含まない平滑ポリイミドフィルムを逐一製造する必要があるが、経済的に現実的ではない。たとえそのようなポリイミドフィルムが入手可能であっても、厚膜のポリイミドフィルムを離型フィルムとして使い捨てするのは、やはり経済的に現実的ではない。
【0008】
その他、離型フィルムの代わりに超鏡面の金属エンドレスベルト等で熱プレスを行って液晶ポリマーフィルムを平滑化することも考えられる。しかし、そのような超鏡面エンドレスベルトを製造するのにもコストがかかるし、その表面に誤ってキズが生じると、それ以降、キズが液晶ポリマーフィルム表面に転写され続けて不良品の山を作ってしまう。また、そのような場合にはキズの修正のためコストがかかる。よって、この方法も経済的な面から現実的ではない。
【0009】
また、液晶ポリマーフィルムの表面を物理的または化学的に研磨して平滑化するという方法も考えられるが、平滑性にムラが生じざるを得ないという問題もある。また、単位面積当たりの処理コストが高く、この方法も経済的な面で現実的ではない。
【0010】
さらに、一般的な液晶ポリマー分子は主鎖以外に官能基を有さないため、無機バリア層との密着性に劣るという問題がある。かかる密着性の問題は、液晶ポリマーフィルム表面を熱プレスや研磨により平滑化できても解決されない。また、液晶ポリマーフィルムはディスプレイなどにおいてガスバリアフィルムとして用いられることもあり、その場合には表面に電極層が形成されることがあるが、液晶ポリマーフィルムと電極層との密着性も問題となる。
【0011】
液晶ポリマーフィルムの密着性を改善する方法としては、プラズマ処理、紫外線処理、コロナ処理などの表面処理を事前に施すことが考えられる。しかし、これら表面処理により密着性は改善しても、上述した表面粗さは勿論悪化せざるを得ない。
【0012】
無機材料との密着性の改善のために、特許文献3の発明では、液晶ポリエステルに、当該液晶ポリエステルと反応性を有する官能基を有する共重合体を混合している。しかし、他の樹脂を混合すれば液晶ポリマーの特性は当然に劣化する。また、特許文献4には、水蒸気バリア性に優れるものであり、特定繰り返し単位を有する液晶ポリエステルが開示されている。しかし、無機バリア層との密着性の問題に関しては全く記載が無く、勿論その解決手段の記載も無い。さらに、これら技術においても、表面粗さの問題は全く解決されない。
【0013】
特許文献5,6にもガスバリアフィルムが開示されており、基材材料として液晶ポリマーも例示されている。しかし、液晶ポリマーは単なる例示に過ぎずポリエチレンナフタレートのみが重要視されており、表面粗度の高い液晶ポリマーフィルムの上にいかに無機バリア層や電極層を形成すべきかといった課題や検討は記載も示唆もされていない。
【0014】
特許文献7には、熱可塑性液晶ポリマー層の片側に、順次、下引き樹脂層と金属または無機質酸化物層を設けたガスバリア性構造物が開示されている。この下引き樹脂層は金属または無機酸化物との密着性の向上と層表面の平滑性を確保するために設けられるとされている。しかし、下引き樹脂層の材料として例示されているのは一般的な有機樹脂のみであり、実施例で用いられているのもポリエステル樹脂のみである。このような有機樹脂と金属酸化物との親和性は低いため、層間の密着性が改善されることはあり得ない。もちろん、特許文献7の実施例でも、層間密着性の向上を示す実験データは開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述したように、液晶ポリマーフィルムの表面平滑性を改善するための技術や、無機層との密着性を改善するための技術はそれぞれ検討されていた。しかし、より一層優れたガスバリアフィルムのためには、相反するこれら特性の両方を有する液晶ポリマーフィルムが好ましいといえる。
【0017】
そこで本発明は、表面が平滑化されていることから極薄の無機バリア層をも均一に形成することができ且つ層間密着性に優れる液晶ポリマーフィルム、当該表面平滑化液晶ポリマーフィルム上に無機バリア層が形成されたものであり、極めて高いガスバリア性を示すガスバリアフィルム、および当該表面平滑化液晶ポリマーフィルムまたは当該ガスバリアフィルムの上に電極層を有し、層間密着性に優れるガスバリア性ディスプレイ部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、有機−無機ハイブリッドポリマーを液晶ポリマーフィルムにコーティングすれば、表面を容易に平滑化できる上に、形成された有機−無機ハイブリッドポリマー層は液晶ポリマーフィルムと無機層の両方に密着性を示すことを見出して、本発明を完成した。
【0019】
本発明に係る表面平滑化液晶ポリマーフィルムは、液晶ポリマー層と有機−無機ハイブリッドポリマー層を有し、液晶ポリマー層の少なくとも片面に有機−無機ハイブリッドポリマー層が積層されており、且つ、有機−無機ハイブリッドポリマー層の表面粗さRaが10nm以下であることを特徴とする。
【0020】
上記表面平滑化液晶ポリマーフィルムの有機−無機ハイブリッドポリマーとしては、ポリシロキサン構造を基本骨格とし且つ当該ポリシロキサン構造中のケイ素原子と有機基が共有結合しているものが好ましく、有機−無機ハイブリッドポリマーが有する有機基としては、置換基を有していてもよいC
1-6アルキル基、C
2-6アルケニル基または置換基を有していてもよいC
6-12アリール基であり、当該置換基が、ビニル基、グリシドキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、アミノ基、メルカプト基およびイソシアネート基から選択される1以上のものが好ましい。上記表面平滑化液晶ポリマーフィルムの有機−無機ハイブリッドポリマーとしては、さらに、RSiO
3/2(Rは置換基を有していてもよいC
1-6アルキル基、C
2-6アルケニル基または置換基を有していてもよいC
6-12アリール基であり、当該置換基が、ビニル基、グリシドキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、アミノ基、メルカプト基およびイソシアネート基から選択される1以上である)で表されるシルセスキオキサンが好ましい。かかる有機−無機ハイブリッドポリマーを用いた表面平滑化液晶ポリマーフィルムの表面平滑性や層間密着性は、本発明者の実験的知見により確認されている。
【0021】
RSiO
3/2の化学式を有する有機−無機ハイブリッドポリマーとしては、Rがメルカプト基を有するC
1-6アルキル基であるものが特に好適である。かかる有機−無機ハイブリッドポリマーを用いた表面平滑化液晶ポリマーフィルムは、表面平滑性と層間密着性に優れる。
【0022】
本発明に係る表面平滑化液晶ポリマーフィルムとしては、さらに、有機−無機ハイブリッドポリマーが架橋されているものが好ましい。有機−無機ハイブリッドポリマーを架橋すれば、フィルムのガスバリア性はより一層高まる。特にメルカプト基を有するC
1-6アルキル基を置換基として有する有機−無機ハイブリッドポリマーを、当該メルカプト基を介して架橋した場合には、この部分が柔軟であるため、熱履歴を受けてもカールし難いという特性を有する。
【0023】
本発明に係る表面平滑化液晶ポリマーフィルムの有機−無機ハイブリッドポリマー層の厚さとしては、0.5μm以上、5μm以下が好ましい。当該厚さが0.5μm以上であれば、液晶ポリマー層の表面粗さを十分に平滑化することができる。一方、当該厚さが厚過ぎると、本発明に係る表面平滑化液晶ポリマーフィルム全体に対する液晶ポリマー層の割合が低下することになり、液晶ポリマー由来の機械的特性などが損なわれるおそれがあり得るので、当該厚さとしては5μm以下が好ましい。
【0024】
本発明に係るガスバリアフィルムは、上記本発明に係る表面平滑化液晶ポリマーフィルムの有機−無機ハイブリッドポリマー層の上に、無機バリア層を有することを特徴とする。
【0025】
上記ガスバリア層の無機バリア層としては、SiO
2、SiN、Al
2O
3、Al、MgOおよびSiONからなる群より選択される1以上の無機材料からなるものが好ましく、また、当該無機バリア層の厚さとしては、0.05μm以上、1.00μm以下が好ましい。かかるガスバリア層により、本発明に係るガスバリアフィルムのガスバリア性は、より一層優れたものとなる。
【0026】
本発明に係るガスバリア性ディスプレイ部材は、上記本発明に係る表面平滑化液晶ポリマーフィルムの有機−無機ハイブリッドポリマー層の上、または上記本発明に係るガスバリアフィルムの無機バリア層の上に、電極層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るフィルムは、液晶ポリマーフィルムを含むことからもガスバリア性を示す。その上、有機−無機ハイブリッドポリマー層により表面が平滑化されていることから、極薄の無機バリア層を均一形成することも可能であり、また、均一の無機バリア層が形成されたガスバリアフィルムは、高いガスバリア性を示す。さらに、上記の有機−無機ハイブリッドポリマー層は、液晶ポリマーフィルム層にも無機層にも優れた密着性を示す。よって、本発明に係る表面平滑化液晶ポリマーフィルムは、極めて優れたガスバリアフィルムの材料として、産業上非常に優れている。また、本発明に係るガスバリアフィルムは、従来のガスバリアフィルムよりも優れたガスバリア性を示すことから、液晶ディスプレイ、太陽電池、有機EL、有機TFT、電子ペーパーなどに有用である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る表面平滑化液晶ポリマーフィルムは、液晶ポリマー層と有機−無機ハイブリッドポリマー層を有し、液晶ポリマー層の少なくとも片面に有機−無機ハイブリッドポリマー層が積層されており、且つ、有機−無機ハイブリッドポリマー層の表面粗さRaが10nm以下であることを特徴とする。
【0029】
液晶ポリマーには、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーと、溶液状態で液晶性を示すレオトロピック液晶ポリマーとがある。本発明では何れの液晶ポリマーも用い得るが、耐熱性や難燃性がより優れることから、サーモトロピック液晶ポリマーを好適に用いる。
【0030】
サーモトロピック液晶ポリマーのうちサーモトロピック液晶ポリエステル(以下、単に「液晶ポリエステル」という)とは、例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールや芳香族ヒドロキシカルボン酸などのモノマーを主体として合成される芳香族ポリエステルであって、溶融時に液晶性を示すものである。その代表的なものとしては、パラヒドロキシ安息香酸(PHB)と、フタル酸と、4,4’−ビフェノールから合成されるI型[下式(1)]、PHBと2,6−ヒドロキシナフトエ酸から合成されるII型[下式(2)]、PHBと、テレフタル酸と、エチレングリコールから合成されるIII型[下式(3)]が挙げられる。上記のうちI型液晶ポリエステルとII型液晶ポリエステルがガスバリア性や耐熱性により一層優れることから、本発明ではI型液晶ポリエステルおよび/またはII型液晶ポリエステルを用いることが好ましい。
【0032】
上記式(1)において、フタル酸としてはイソフタル酸が好ましい。
【0033】
本発明に係る液晶ポリマーには、フィラーを配合してもよい。しかし、フィラーを配合すると液晶ポリマー層の表面平滑性やガスバリア性が低下するおそれがあるため、フィラーは配合しないことが好ましい。
【0034】
本発明に係る液晶ポリマー層の製造方法は特に制限されず、例えば、溶融押出法やインフレーション法などの従来方法で製造すればよい。なお、これら方法で製造された液晶ポリマー層の異方性が高い場合には、二軸延伸などにより異方性を低減することが可能である。
【0035】
本発明に係る液晶ポリマー層の平面方向の線膨張係数としては10ppm/℃以上、25ppm/℃以下が好ましく、また、平面方向の一方向での線膨張係数と、当該方向に直交する方向の線膨張係数との比が0.4以上、2.5以下であることが好ましい。上記線膨張係数と上記比が上記範囲内にあれば、異方性が比較的小さく、反りなど低減されている。
【0036】
なお、平面方向の線膨張係数を測定する方向は特に制限されないが、液晶ポリマーフィルムを溶融押出した後に押出方向(MD方向)と直交する方向(TD方向)に延伸して異方性を低減した場合には、通常、MD方向の線膨張係数が平面方向で最も小さくなる。しかし延伸倍率を高めた場合には、TD方向の線膨張係数が最小になり、MD方向が最大になることもあり得る。このように、液晶ポリマーフィルムの平面方向ではMD方向またはTD方向で線膨張係数が最大または最小となるので、線膨張係数はMD方向とTD方向で測定することが好ましい。
【0037】
本発明で用いる液晶ポリマー層は、フィルムといえるものであれば特に制限されない。例えば、10μm以上、500μm以下とすることができる。当該厚さが10μm以上であれば、液晶ポリマー層自体が十分な強度を有するといえる。また、当該厚さが500μm以下であれば、液晶ポリマー層は十分なフレキシブル性を示す。当該厚さとしては50μm以上、200μm以下がより好ましい。
【0038】
液晶ポリマーは特殊な溶剤に対してのみ溶解性を示し、一般的な溶媒には不溶であることから、キャスト法によるフィルム成形ができない。よって、液晶ポリマーのフィルム化では上記のとおり溶融押出法やインフレーション法を適用するしかないので、表面平滑性は比較的悪くならざるを得ない。そこで本発明では、液晶ポリマー層の少なくとも片面に有機−無機ハイブリッドポリマー層を積層し、表面の平滑化を図る。
【0039】
本発明において「有機−無機ハイブリッドポリマー」とは、ポリシロキサン構造を基本骨格とし且つ当該ポリシロキサン構造中のケイ素原子と有機基が共有結合しているものをいう。かかる有機基は、有機−無機ハイブリッドポリマーの有機溶媒に対する溶解性と液晶ポリマー層に対する密着性を高める作用効果を有するものである。また、その官能基などによっては、ポリシロキサン構造を架橋するための役割も有する。
【0040】
有機−無機ハイブリッドポリマーが有する有機基は、有機−無機ハイブリッドポリマーの有機溶媒に対する溶解性と液晶ポリマー層に対する密着性を高めるものであれば特に制限されないが、例えば、置換基を有していてもよいC
1-6アルキル基、C
2-6アルケニル基または置換基を有していてもよいC
6-12アリール基であり、当該置換基が、ビニル基、グリシドキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、アミノ基、メルカプト基およびイソシアネート基から選択される1以上であるものを挙げることができる。
【0041】
本発明において「C
1-6アルキル基」は、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等である。好ましくはC
1-4アルキル基である。
【0042】
「C
2-6アルケニル基」は、炭素数が2以上、6以下であり、少なくとも一つの炭素−炭素二重結合を有する直鎖状または分枝鎖状の一価不飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、エテニル基(ビニル基)、1−プロペニル基、2−プロペニル基(アリル基)、イソプロペニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等である。好ましくはC
2-4アルケニル基であり、より好ましくはエテニル基(ビニル基)または2−プロペニル基(アリル基)である。
【0043】
「C
6-12アリール基」とは、炭素数が6以上、12以下の一価芳香族炭化水素基をいう。例えば、フェニル基、ナフチル基、インデニル基、ビフェニル基等であり、好ましくはフェニル基である。
【0044】
上記C
1-6アルキル基、C
2-6アルケニル基およびC
6-12アリール基は、有機−無機ハイブリッドポリマーの有機溶媒に対する溶解性と液晶ポリマー層に対する密着性を高めることができる。さらに、C
2-6アルケニル基と上記置換基は、ポリシロキサン構造を架橋するための役割を有する。特に有機−無機ハイブリッドポリマーがメルカプト基(−SH基)を有する場合は、オレフィン系硬化剤によりUV硬化でき、エポキシ系硬化剤やイソシアネート系硬化剤により熱硬化することができる。特にメルカプト基とオレフィン系硬化剤によるエン−チオール反応は、光硬化剤を用いないか或いは極少量用いるのみでUV硬化反応を進行せしめることができる。また、その結果得られる硬化体の弾性率が低減され、硬化収縮が少なくなり、熱履歴によるカールを抑制できるという利点がある。
【0045】
有機−無機ハイブリッドポリマーとしては、RSiO
3/2(Rは置換基を有していてもよいC
1-6アルキル基、C
2-6アルケニル基または置換基を有していてもよいC
6-12アリール基であり、当該置換基が、ビニル基、グリシドキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、アミノ基、メルカプト基およびイソシアネート基から選択される1以上である)で表されるシルセスキオキサンが好ましい。本発明者の実験的知見によれば、シルセスキオキサン層は、液晶ポリマー層とも無機バリア層とも密着性が非常に高い。
【0046】
シルセスキオキサンとしては、T8体、T10体、T12体などのカゴ型、はしご状構造のラダー型、特定の構造を有さないランダム型がある。本発明では何れも使用できるが、構造制御が必要ないので簡便に合成でき、また、結晶性が低く取り扱い易いことから、ランダム型を主に用いる。また、ランダム型には、原料由来のアルコキシ基が残っており、無機層との密着性が特に高いという利点もある。
【0047】
本発明では、液晶ポリマー層の表面平滑性を高めるために有機−無機ハイブリッドポリマー層を積層するので、有機−無機ハイブリッドポリマーを溶媒に溶解した上でコーティングし、乾燥する。かかるコーティングでは、溶液表面が表面張力により平坦化されるので、得られる有機−無機ハイブリッドポリマー層の表面も平滑である。
【0048】
上記コーティング剤の溶媒は、有機−無機ハイブリッドポリマーを良好に溶解でき且つ容易に留去可能なものであれば特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなどのアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテートなどのエステル系溶媒またはエステルエーテル系溶媒;並びにこれらの2種以上の混合溶媒が挙げられる。
【0049】
上記コーティング剤の濃度は適宜調整すればよいが、コーティング剤の粘度を低く調整することで表面粗さRaを数nm以下まで平滑化することが可能になる。当該粘度としては、例えば100cps以下とすることができ、50cps以下が好ましく、20cps以下がより好ましく、10cps以下が特に好ましい。一方、当該粘度が過剰に低くなると、有機−無機ハイブリッドポリマー層の厚さの制御が難しくなり得るので、当該粘度としては1cps以上が好ましい。
【0050】
上記コーティング剤には、硬化剤や光開始剤を配合してもよい。硬化剤は有機−無機ハイブリッドポリマーが有する官能基に応じて選択すればよい。例えば有機−無機ハイブリッドポリマーの有する官能基がメルカプト基である場合には、上記のとおりオレフィン系硬化剤、エポキシ系硬化剤、イソシアネート系硬化剤が使用できる。オレフィン系硬化剤としては、例えば、トリアリルイソシアヌレートを挙げることができる。トリアリルイソシアヌレートは1分子中3個のエテニル基(ビニル基)を有するので主鎖を架橋することができる。また、トリアジン環により、有機−無機ハイブリッドポリマー層の耐熱性を大幅に向上させることができ、無機バリア層との密着性も高まる。
【0051】
また、上記コーティング剤には、表面張力を低減して表面平滑性をより一層高めるためや、液晶ポリマー層との親和性を高めるために、レベリング剤を添加してもよい。
【0052】
本発明に係る有機−無機ハイブリッドポリマー層の厚さは、0.5μm以上、5μm以下が好ましい。当該厚さが0.5μm以上であれば、液晶ポリマー層の表面粗さを十分に平滑化することができる。一方、当該厚さが厚過ぎると、本発明に係る表面平滑化液晶ポリマーフィルム全体に対する液晶ポリマー層の割合が低下することになり、液晶ポリマー由来の機械的特性などが損なわれるおそれがあり得るので、当該厚さとしては5μm以下が好ましい。当該厚さとしては、1μm以上、3μm以下がより好ましい。有機−無機ハイブリッドポリマー層の厚さは、上記コーティング剤の粘度やコーティング量により調整可能である。
【0053】
コーティング剤の乾燥は、使用した溶媒に応じ、平滑化表面が乱されない条件で行う。例えば、50℃以上、150℃以下程度の温度で、30秒間以上、300秒間以下程度で行うことができる。また、乾燥を熱風により行うと平滑化表面が乱されるおそれがあり得るので、乾燥のため熱風を用いる場合には風量は可能な範囲で下げることが好ましく、熱風を必要としないIR乾燥を適用することがより好ましい。
【0054】
上記のとおり、有機−無機ハイブリッドポリマー層はコーティング法で形成されるので、その表面は、低粘度のコーティングにより極めて平滑である。具体的にはRaは10nm以下に低減されている。当該表面粗さRaとしては、8nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。当該表面粗さRaの下限は特に制限されないが、過剰に平滑化しようとすると全体的な製造効率が低下するおそれがあり得るので、好ましくは0.1nm以上とする。なお、表面粗さRaは、JIS B0031に準拠して測定することができる。
【0055】
本発明に係る表面平滑化液晶ポリマーフィルムにおいて、有機−無機ハイブリッドポリマー層により平滑化された平滑化面の上には、さらに無機バリア層を形成してガスバリアフィルムとしてもよい。液晶ポリマー層のみでもガスバリア性を示すが、無機バリア層によりガスバリア性はより一層高まる。また、有機−無機ハイブリッドポリマー層により表面が平滑化されているので、例えば0.1μm程度といった極薄の無機バリア層も均一に形成することができる。さらに、本発明に係る有機−無機ハイブリッドポリマー層は、有機層にも無機層にも親和性を示すため、液晶ポリマー層と有機−無機ハイブリッドポリマー層との間と、有機−無機ハイブリッドポリマー層と無機バリア層との間の密着性は高い。
【0056】
本発明に係るガスバリアフィルムは、上記のとおり極めて高いガスバリア性を示すが、その指標としては、40℃、90%RHの雰囲気下、水蒸気の透過率で1.0×10
-3g/m
2/日以上、1.0×10
-2g/m
2/日以下を挙げることができる。
【0057】
無機バリア層の材料としては、ガスバリア性を有する材料であれば特に制限されないが、例えば、SiO
2、SiN、Al
2O
3、Al、MgO、SiONなどを用いることができる。無機バリア層の形成方法は特に制限されず、蒸着、スパッタ、CVDなどの常法を用いることができる。
【0058】
無機バリア層の厚さは適宜調整すればよいが、例えば、0.05μm以上、1.00μm以下程度とすることができる。当該厚さが0.05μm以上であれば、無機バリア層によるガスバリア性がより確実に発揮される。一方、無機バリア層が厚過ぎるとフィルム全体のフレキシブル性が損なわれるおそれがあり得るので、その厚さとしては1.00μm以下が好適である。
【0059】
無機バリア層の形成方法としては、物理気相蒸着法(PVD法:Physical Vapor Deposition)や化学気相蒸着法(CVD法:Chemical Vapor Deposition)といった常法を用いることができる。なお、0.2μmを超える厚さの無機バリア層を形成する場合には、CVD法により形成することが好ましい。一般的に、無機バリア層の厚さを厚くすると応力が高くなるが、CVD法により形成した場合には当該応力が過剰に高くならないことによる。
【0060】
本発明に係る表面平滑化液晶ポリマーフィルムの少なくとも片面の有機−無機ハイブリッドポリマー層の上に無機バリア層が形成されたガスバリアフィルムは、液晶ポリマー層と、均一形成された無機バリア層により、極めて高いガスバリア性を示す。近年、液晶ディスプレイ、太陽電池、有機EL、有機TFT、電子ペーパーなどには高いガスバリア性を示すフィルムが求められるが、本発明に係るガスバリアフィルムは、かかる要求にも十分に応えるものである。
【0061】
上述の通り、本発明に係る表面平滑化液晶ポリマーフィルムは、無機層に対する高い層間密着性を示し且つ均一で平滑な有機−無機ハイブリッドポリマー層を有する。よって、当該有機−無機ハイブリッドポリマー層上に均一な電極を形成し、層間密着性に優れたガスバリア性ディスプレイ部材とすることもできる。
【0062】
また、本発明に係るガスバリアフィルムは、非常に優れたガスバリア性を示すと共に、その表面に存在する無機バリア層は、同じく無機材料からなる電極に対して当然に高い層間密着性を示す。よって、当該無機バリア層上に電極を形成し、層間密着性とガスバリア性に優れたガスバリア性ディスプレイ部材とすることもできる。
【0063】
電極層の材料は特に制限されず適宜選択すればよいが、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛、二酸化チタン、銀ナノワイヤーなどを挙げることができる。また、電極層は、スパッタ法など常法により形成することが可能である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0065】
実施例1
シルセスキオキサン構造ではないポリシロキサン構造を有する有機−無機ハイブリッド樹脂と多官能アクリレート系硬化剤を含むワニス(荒川化学工業社製,製品名「ビームセット907D」,粘度:3cps)を、II型液晶ポリマーフィルム(プライマテック社製,製品名「BIAC BC50」,厚さ:50μm)上に、バーコーターを用い、ウェット状態にて厚さ約5μmでコートした。コートしたフィルムを90℃で60秒間乾燥させた後、300mJ/cm
2のUVでワニスを硬化させることにより、本発明に係る平滑化フィルムを得た。
【0066】
実施例2
ワニスのコート厚さを約15μmに変更した以外は上記実施例1と同様にして、本発明に係る平滑化フィルムを得た。
【0067】
実施例3
有機基としてHS−C
3H
6−基を有するシルセスキオキサン(荒川化学工業社製,製品名「コンポセランSQ107」)35質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)15質量部、溶媒としてエチレングリコールジメチルエーテル50質量部、および光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(BASF社製,製品名「イルガキュア184」)0.08質量部を混合してワニスを調製した。ワニスの粘度は2cpsであった。当該ワニスを、II型液晶ポリマーフィルム(プライマテック社製,製品名「BIAC BC50」,厚さ:50μm)上に、バーコーターを用い、ウェット状態にて厚さ約5μmでコートした。コートしたフィルムを90℃で60秒間乾燥させた後、300mJ/cm
2のUVでワニスを硬化させることにより、本発明に係る平滑化フィルムを得た。
【0068】
実施例4
ワニスのコート厚さを約15μmに変更した以外は上記実施例3と同様にして、本発明に係る平滑化フィルムを得た。
【0069】
実施例5
I型液晶ポリマーフィルム(プライマテック社製,製品名「BIAC BA50」,厚さ:50μm)を用いた以外は上記実施例3と同様にして、本発明に係る平滑化フィルムを得た。
【0070】
比較例1
ウレタンアクリレート系樹脂(荒川化学工業社製,製品名「ビームセット575CB」)50質量部とメチルイソブチルケトン50質量部を混合してワニスを調製した。ワニス粘度は3cpsであった。当該ワニスを、II型液晶ポリマーフィルム(プライマテック社製,製品名「BIAC BC50」,厚さ:50μm)上に、バーコーターを用い、ウェット状態にて厚さ約5μmでコートした。コートしたフィルムを90℃で60秒間乾燥させた後、300mJ/cm
2のUVでワニスを硬化させることにより、有機−無機ハイブリッドポリマー層を有さない平滑化フィルムを得た。
【0071】
試験例1:コーティング層厚さの測定
ダイヤルシックネスゲージ(テクロック社製,製品名「SM−112」)を用い、各フィルムの全体厚を測定した。測定された全体厚から、液晶ポリマーフィルムの厚さを引いてコーティング層の厚さを算出した。結果を表1に示す。
【0072】
試験例2:密着性試験
(1) 液晶ポリマーフィルム−コーティング層間の密着性
カッターを用い、各フィルムに2mm間隔で碁盤目状の切り込みを入れ、その上にアクリル粘着テープ(日東電工社製,「No.31」)を貼り付け、JIS K5600に準拠した碁盤目試験を行った。
剥離が目視で確認できない、即ち剥離したアクリル粘着テープ上に目視で何も確認できない場合を「○」、剥離が目視で確認できる、即ち剥離したアクリル粘着テープ上に目視でコーティング層が確認できる場合を「×」と評価した。結果を表1に示す。
【0073】
(2) コーティング層−無機層間の密着性
各フィルムのコーティング層上に、0.05μm厚のSiO
2スパッタ層を成膜し、剥離したアクリル粘着テープ上のSiO
2スパッタ層の有無を確認した以外は上記(1)と同様にして、コーティング層−無機層間の密着性を評価した。結果を表1に示す。
【0074】
試験例3:平滑性試験
走査型共焦点レーザ顕微鏡(オリンパス社製,製品名「OLS3000」)を用い、各フィルムのコーティング層表面につき、JIS B0031の付属書に示されている算術平均粗さRa(nm)を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
試験例4:コーティング層の耐熱性評価
50μm厚のアルミフォイル上に、コーティング層を下にして各フィルムを置き、液晶ポリマーフィルム側に温度可変のコテを約10秒間当てた。その後、アルミフォイル上にコーティング樹脂が熱により移行しているか目視で確認し、移行を始める温度を耐熱性とした。結果を表1に示す。
【0076】
試験例5:熱によるカール発生の有無
各フィルムを100mm角にカットし、オーブンに入れて150℃で60分間加熱した。次いで、常温まで放冷した。フィルムを平面に置き、平面部からフィルムの各辺までの最大値を測定し、その平均値(mm)を算出した。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示す結果のとおり、無機成分を含まない有機樹脂のみからなるコーティング層は、平滑性には優れるものの耐熱性に劣り、また、無機層との密着性が低い。それに対して有機−無機ハイブリッド樹脂からなる本発明フィルムは、耐熱性のみならず層間密着性にも優れるものである。また、実施例3〜5は有機基としてHS−C
3H
6−基を有するシルセスキオキサンを使用したコーティング層を有するフィルムであるが、実施例1,2および比較例1のグループを比較すると、おそらくHS−C
3H
6−基を介する架橋による柔軟性によりカールが抑制されていた。
【0079】
試験例6:水蒸気バリア試験
上記実施例3のフィルムの有機−無機ハイブリッド樹脂コーティング層の上に、SiO
2またはSiONを0.05μmの厚さでスパッタコートした。各フィルムについて、透過試験器(Technolox社製,製品名「DELTAPARM」)を用い、40℃で90%RHの雰囲気下、差圧法でガスバリア特性を測定した。また、比較のために、II型液晶ポリマーフィルム(プライマテック社製,製品名「BIAC BC50」,厚さ:50μm)でも同様の測定を行った。結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
表2に示す結果のとおり、液晶ポリマーフィルムのガスバリア性は他の一般的なフィルムに比べて格段に優れているといわれているが、本発明フィルムにさらに無機層を成膜した場合には、ガスバリア特性はより一層向上した。また、上記試験例2のとおり、本発明フィルムを用いた場合には、液晶ポリマーフィルム−コーティング層間およびコーティング層−無機層間の密着性が高い。よって本発明フィルムは、ガスバリアフィルムとして非常に有用である。