(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ダイナミックスピーカは、第1の周波数帯域の音を集音するダイナミックスピーカと前記第1の周波数帯域より低域の第2の周波数帯域の音を集音するダイナミックスピーカである、
請求項1に記載のドラム。
前記ダイナミックスピーカは、前記ドラムヘッドへの打撃の直後に生じるアタック音を集音するダイナミックスピーカと前記アタック音が減衰した後の前記ドラムヘッドの振動によって生じるボディ音を集音するダイナミックスピーカである、
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のドラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術のように、ドラムの内部にマイクが設置される構成の場合、ドラムの内部の音場形成を阻害し、音質が低下してしまう。すなわち、ダイナミックマイクなど、通常のマイクは集音可能な周波数帯域を広域化するために、フロントキャビティやバックキャビティを備えるように構成され、構成が複雑であるとともに大型である。従って、ドラムの内部の音場形成を阻害してしまう。
【0005】
一方、ドラムの外部にマイクを配置する構成や特許文献2に開示された構成においては、演奏者の演奏動作を阻害する場合や、演奏者所望の位置にドラムを配置することを阻害する場合があった。
本発明は、前記課題にかんがみてなされたもので、ドラム内部の音場形成を阻害せず、演奏者の動作やドラムの配置位置の選択を阻害しない技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、筒状のシェルと、シェルの一方の開口端に取り付けられるドラムヘッドと、ドラムヘッドおよびシェルの内側に設置された演奏音を集音するダイナミックスピーカと、を備えるドラムを構成する。
【0007】
すなわち、ダイナミックスピーカは、音を出力するためのダイヤフラムを備えるが、当該ダイヤフラムに対して音が入射した場合、ダイヤフラムは当該入射した音に応じて振動し、ダイナミックスピーカからは当該入射した音に対応した信号が出力される。従って、簡易な構成の集音装置として利用することができる。そこで、ドラムの内部にマイクではなくダイナミックスピーカが設置される構成とし、当該ダイナミックスピーカの出力が演奏音出力として取得される構成とする。この構成によれば、小型の集音装置によってドラムの内部の音を集音することができるため、ドラムの内部の音場が阻害される程度を一般的なマイクよりも抑制した状態でドラムの音を集音することができる。また、ドラムの外部に集音装置を配置する必要がないため、演奏者の演奏動作を阻害することはなく、演奏者所望の位置にドラムを配置することを阻害することもない。
【0008】
ここで、シェルは筒状の部材であり、少なくとも一方の開口端にドラムヘッドを所定の張力で保持することができればよい。ドラムヘッドをシェルに対して取り付けるための構成としては種々の構成を採用可能であり、例えば、シェルの外周に取り付けられるラグおよび当該ラグに取り付けられるフープによってドラムヘッドの保持部材を構成し、ラグにフープを取り付け、フープにドラムヘッドを取り付ける構成等を採用可能である。なお、筒の形状は円筒であっても良いし、他の形状(例えば、開口部が多角形の筒)であってもよい。
【0009】
ドラムヘッドはシェルの一方の開口端に取り付けられる振動膜である。従って、当該ドラムヘッドがスティック等で打撃されることにより、ドラムの演奏音が生成されれば良い。むろん、ドラムヘッドが取り付けられるシェルの開口端と逆側の開口端に対して他のヘッド(レゾナンスヘッド)を取り付ける構成であっても良いし、他のヘッドを取り付けない構成であっても良い。
【0010】
同一周波数帯域の音を集音するマイクとダイナミックスピーカとを比較した場合、ダイナミックスピーカの方が小型であり、これにより、ダイナミックスピーカはマイクよりもドラムの内部で少ない空間を占める。具体的には、ダイナミックスピーカは、ダイヤフラムとコイルと永久磁石と筐体とを備える構成等を想定可能である。すなわち、ダイヤフラムとコイルとが接合されており、コイルが永久磁石の磁場内に配置されることにより、ダイヤフラムの振動に伴うコイルの振動によって電磁誘導が行われ、ダイヤフラムの振動に応じた信号がコイルに発生する構成であれば良い。筐体はダイヤフラムを振動可能に支持し、永久磁石を支持する構造体であれば良い。むろん、ダイナミックスピーカは、マイクと比較して小型である限りにおいて、他の構成を含んでいても良く、バックキャビティやフロントキャビティ等を備える構成であっても良い。
【0011】
また、ダイナミックスピーカをドラムヘッドおよびシェルの内側に設置するための構成としては、種々の構成を採用可能であり、シェルの内壁やラグに対して保持部材を取り付けるとともに、当該保持部材に対してダイナミックスピーカを取り付けることで、シェルの内壁に囲まれた空間(ドラムの内部)にダイナミックスピーカを設置する構成等を採用可能である。むろん、ドラムの内部におけるダイナミックスピーカの設置位置は任意であり、種々の位置とすることができる。また、保持部材の形状や材質も任意であり、弾性のある材料で保持部材の少なくとも一部を構成することにより、保持部材を介してダイナミックスピーカに対して振動が伝達されないように構成しても良い。
【0012】
ダイナミックスピーカによって集音された演奏音は、ダイナミックスピーカの出力として取り出されれば良く、例えば、ダイナミックスピーカが備えるコイルに接続された配線によって演奏音出力を取得する構成とすることができる。当該配線は、シェルまたは他の部位を通ってドラムの外部に延びることにより、演奏音出力がドラムの外部で利用されるように構成されることが好ましい。むろん、小型の無線トランスミッタ等を利用すれば、配線を利用することなく演奏音出力を外部で利用することが可能である。
【0013】
ダイナミックスピーカは、ドラムの内部に1個以上設置されれば良いが、複数個設置されても良い。この場合、集音する音の周波数帯域が異なる複数のダイナミックスピーカが設置されることが好ましい。すなわち、小型のダイナミックスピーカは一般的なマイクと比較して集音する音の周波数帯域が狭く、狭い周波数帯域に感度のピークが存在し、ピークの周波数と異なる周波数において感度が低い傾向にある。
【0014】
一方、ドラムの音として認識される音の周波数は異なる複数の周波数帯域に分布している。例えば、スティック等によるドラムヘッドへの打撃の直後に生じるアタック音は比較的高周波数の帯域、アタック音が減衰した後に継続するドラムヘッドの振動によって生じるボディ音(ドラムヘッドに作用する張力に応じて決定する特定の音高の音)は比較的低周波数の帯域の音である。また、スネアドラムのスネアサイドに取り付けられるスネアワイア(スナッピーとも呼ばれる)に起因するスネアワイア音は、一般的にはアタック音よりも高い周波数帯域の音である。
【0015】
そして、ドラムの内部においては、ドラムヘッドへの打撃によって、ドラムの内壁(ドラムヘッド内壁やシェル内壁)で粒子速度が0、音圧が最大となるような内部定在波が励起される。このような内部定在波は、アタック音、ボディ音、スネアワイア音のようなドラムの演奏音としての音の周波数帯域と異なる周波数帯域であることも多い。
【0016】
従って、集音する音の周波数帯域が異なる複数のダイナミックスピーカをドラムヘッドおよびシェルの内側に設置する構成であれば、アタック音、ボディ音、スネアワイア音のような演奏音を互いに分離しながら別個のダイナミックスピーカによって集音することができる。そして、この場合において、不要な内部定在波が集音されないように構成することができる。むろん、各ダイナミックスピーカの周波数帯域は異なっていれば良く、一部が重複する状態であっても良い。
【0017】
より具体的には、第1の周波数帯域の音を集音するダイナミックスピーカと前記第1の周波数帯域より低域の第2の周波数帯域の音を集音するダイナミックスピーカによって複数のダイナミックスピーカを構成する例を想定可能である。この構成によれば、集音する音の周波数帯域が相対的に高い第1の周波数帯域であるダイナミックスピーカによってアタック音とスネアワイア音とのいずれかまたは双方を集音することができる。また、集音する音の周波数帯域が相対的に低い第2の周波数帯域であるダイナミックスピーカによってボディ音を集音することができる。さらに、高音と低音の中間の周波数帯域(これらのダイナミックスピーカで集音する周波数帯域の中間の周波数帯域)に存在する不要な内部定在波は集音しないように構成することができる。
【0018】
さらに、ドラムヘッドへの打撃の直後に生じるアタック音を集音するダイナミックスピーカとアタック音が減衰した後のドラムヘッドの振動によって生じるボディ音を集音するダイナミックスピーカとによって複数のダイナミックスピーカを構成する例を想定可能である。すなわち、ドラムにおけるアタック音の主成分が含まれる周波数帯域とボディ音の主成分が含まれる周波数帯域を予め特定すれば、各周波数帯域の音を集音可能なダイナミックスピーカをドラムヘッドおよびシェルの内側に設置することで、アタック音とボディ音とを個別に集音し、かつ、アタック音の周波数帯域とボディ音の周波数帯域との間の周波数帯域の音である内部定在波を集音しないように構成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)ドラムの構成:
(2)集音特性:
(3)他の実施形態:
【0021】
(1)ドラムの構成:
図1Aは本発明の一実施形態にかかるドラム1を示す断面図であり、シェル10およびドラムヘッド20a、20bで切断した状態を示している。シェル10は内径がほぼ一定の円筒状の部材である。シェル10の外壁には複数の位置にラグ10cが取り付けられる。本実施形態において、ラグ10cは、円周方向に沿って複数の位置(例えば6カ所)に取り付けられるとともに、高さ方向(シェル10の開口面に垂直な方向)に沿って2カ所の位置に取り付けられる。ラグ10cにはシェル10の高さ方向に平行に延びるチューニングピン10bが取り付けられる。
【0022】
チューニングピン10bには、フープ10aが取り付けられる。フープ10aは円筒形の部材であり、当該フープ10aの内径はシェル10の外径より大きく、フープ10aの外径はシェル10の直径の延長線上に配置された2個のチューニングピン10bの距離より小さい。従って、フープ10aを、シェル10の外周とチューニングピン10bとの間に配置することができる。さらに、チューニングピン10bに対してフープ10aを取り付けた状態でチューニングピン10bを調整することにより、フープ10aの高さ方向の位置を調整することができる。
【0023】
ドラムヘッド20a,20bは、薄い円形の部材であり、縁をフープ10aに取り付けることができる。従って、ドラムヘッド20a,20bをフープ10aに取り付けた状態でチューニングピン10bによってフープ10aの高さ方向の位置を調整することにより、ドラムヘッド20a,20bに作用している張力を調整しつつドラムヘッド20a,20bをシェル10の開口端に取り付けることができる。なお、本実施形態においては、
図1Aにおいて上方に示すドラムヘッド20aがスティック等によって打撃される面(バターヘッド)であり、
図1Aにおいて下方に示すドラムヘッド20bがスティック等によって打撃されない面(レゾナンスヘッド)である。
【0024】
ドラムヘッド20a,20bおよびシェル10の内側には、第1のダイナミックスピーカ30aと第2のダイナミックスピーカ30bとが設置される。本実施形態においては、シェル10の内壁の2カ所に板状の保持部材31a,31bが取り付けられ、保持部材31aの一方の面(ドラムヘッド20a側の面)に第1のダイナミックスピーカ30aが取り付けられる。また、保持部材31bの一方の面(ドラムヘッド20a側の面)に第2のダイナミックスピーカ30bが取り付けられる。本実施形態においては、演奏のためにドラムヘッド20aに対して打撃が加えられた場合におけるドラムヘッド20aの最大可動範囲と干渉せず、当該最大可動範囲に最も近い位置に第1のダイナミックスピーカ30aおよび第2のダイナミックスピーカ30bが配置される。すなわち、第1のダイナミックスピーカ30aおよび第2のダイナミックスピーカ30bは、ドラムヘッド20aの動作と干渉しない範囲において、できるだけドラムヘッド20aに近くなるように配置されている。
【0025】
図1Bは、第1のダイナミックスピーカ30aの構造を示す断面図である。第1のダイナミックスピーカ30aは、
図1Bに示すように、筐体30a1と、ダイヤフラム30a2と、永久磁石30a3と、コイル30a4とを備えている。筐体30a1は、ダイヤフラム30a2と永久磁石30a3とを支持する部材である。本実施形態において筐体30a1は、異なる外径の2個の円柱を接合したような外形を有しており、内部は異なる内径(Rb,Rs)の空間が形成されて中空となっており、一方の端部(
図1Bに示す上方の端部)で開口している。
【0026】
ダイヤフラム30a2は薄膜状の振動板であり、筐体30a1の中空部において大きい内径Rbを有する部位の内壁に張られている。永久磁石30a3は、異なる外径の2個の円柱を接合したような外径であり、筐体30a1の開口部と逆側の内壁に取り付けられている。コイル30a4の内径は永久磁石30a3の外径よりも大きく、コイル30a4の外径は筐体30a1の中空部における小さい内径Rsよりも小さい。従って、筐体30a1の中空部における小さい内径Rsを構成する内壁と永久磁石30a3の外壁との間にコイル30a4を配置させることができる。そして、コイル30a4は、ダイヤフラム30a2の一方の面(
図1Bに示す下側の面)から永久磁石30a3側に延びるように取り付けられ、永久磁石30a3に接触しない状態で保持される。
【0027】
また、コイル30a4には、
図1Aに示す配線32aが接続されている(
図1Bにおいては図示せず)。従って、第1のダイナミックスピーカ30aの周囲において発音された音によってダイヤフラム30a2が振動すると、当該ダイヤフラム30a2の振動に応じた信号が配線32aに出力される。配線32aは、シェル10の内壁および外壁を貫通するコネクタ33aに接続されており、当該コネクタ33aに対してアンプ等を接続することにより、配線32aに出力された信号を演奏音出力として取り出すことができる。なお、本実施形態において、第1のダイナミックスピーカ30aのダイヤフラム30a2は、ドラムヘッド20aの方向に向けられている。従って、第1のダイナミックスピーカ30aにおいては、ドラムヘッド20aによって励起された音を効果的に集音することができる。
【0028】
図1Cは、第2のダイナミックスピーカ30bの構造を示す断面図である。第2のダイナミックスピーカ30bは、
図1Cに示すように、筐体30b1と、ダイヤフラム30b2と、永久磁石30b3と、コイル30b4とを備えている。筐体30b1は、ダイヤフラム30b2と永久磁石30b3とを支持する部材である。本実施形態において筐体30b1は、中空の円錐台のような外形を有しており、円錐台の底面Sb(大きい方の平面:
図1Cでは上側の面)は開口されており、底面Sbに平行な円錐台の上面Ss(小さい方の平面:
図1Cでは下側の面)は中央部が円形に開口している。
【0029】
ダイヤフラム30b2は薄膜状の振動板であり、円錐台の外径を有する。円錐台の底面Sdb(大きい方の平面:
図1Cでは上側の面)は開口されており、円錐台の上面Sds(小さい方の平面:
図1Cでは下側の面)は円錐台の内側に向けて球面状に突出している。また、ダイヤフラム30b2は、筐体30b1の円錐台の底面Sb側の開口部に張られている。
【0030】
永久磁石30b3は、細い円柱Cの周囲により大きな径の円筒Chが配置されるとともに一方の端部で円柱Cと円筒Chが連結しているような形状である。従って、永久磁石30b3は中央の細い円柱Cの周囲に穴を有する形状である。本実施形態において、永久磁石30b3は、筐体30b1を円錐台と見なした場合の円錐台の上面Ssに対して取り付けられている。コイル30b4は、永久磁石30b3の中央の細い円柱Cの周囲の穴に挿入可能な外径および内径であり、当該穴にコイル30b4を配置することができる。そして、コイル30b4は、ダイヤフラム30b2の円錐台の上面Sdsから永久磁石30b3側に延びるように取り付けられ、永久磁石30b3に接触しない状態で保持される。
【0031】
また、コイル30b4には、
図1Aに示す配線32bが接続されている(
図1Cにおいては図示せず)。従って、第2のダイナミックスピーカ30bの周囲において発音された音によってダイヤフラム30b2が振動すると、当該ダイヤフラム30b2の振動に応じた信号が配線32bに出力される。配線32bは、シェル10の内壁および外壁を貫通するコネクタ33bに接続されており、当該コネクタ33bに対してアンプ等を接続することにより、配線32bに出力された信号を演奏音出力として取り出すことができる。なお、本実施形態において、第2のダイナミックスピーカ30bのダイヤフラム30b2は、ドラムヘッド20aの方向に向けられている。従って、第2のダイナミックスピーカ30bにおいては、ドラムヘッド20aによって励起された音を効果的に集音することができる。
【0032】
(2)集音特性:
本実施形態においては、ドラム1の内部に第1のダイナミックスピーカ30aと第2のダイナミックスピーカ30bとが設置されていることにより、ドラム1の内部の音場が阻害される程度を一般的なマイクよりも抑制した状態でドラム1の音を集音することができる。また、ドラム1の外部に集音装置を配置する必要がないため、演奏者の演奏動作を阻害することはなく、演奏者所望の位置にドラム1を配置することを阻害することもない。
【0033】
具体的には、本実施形態において利用される第1のダイナミックスピーカ30aと第2のダイナミックスピーカ30bは、
図1B,1Cに示すように、ダイヤフラムの振動をコイルと永久磁石とを利用した電磁誘導で検出する構成であり、一般的なマイクと比較して非常に簡易な構成である。すなわち、一般的なマイクにおいては、集音可能な音の周波数帯域を広くするため、ダイヤフラムの前方(音が入射してくる方向)にフロントキャビティを設ける構成や、ダイヤフラムの後方にバックキャビティを設ける構成が採用されている。
【0034】
図2Aは、実線によってダイナミックスピーカの感度の周波数特性Sを示し、破線によってバックキャビティがあるマイクの感度の周波数特性M
1を示し、一点鎖線によってバックキャビティおよびフロントキャビティがあるマイクの感度の周波数特性M
2を示した図である。第1のダイナミックスピーカ30aや第2のダイナミックスピーカ30bのようなキャビティを備えないスピーカは、1自由度のバネマス系と考えることができる。従って、感度の周波数特性は、
図2Aの周波数特性Sのように特定の周波数にピークが存在するとともに、ピーク以下の周波数において感度が周波数の増加とともに逓増し、ピーク以上の周波数において感度が周波数の増加とともに逓減すると見なすことができる。
【0035】
一方、バックキャビティがあるマイクは、第1のダイナミックスピーカ30aや第2のダイナミックスピーカ30bよりも大型になるが、
図2Aの周波数特性M
1に示すように、周波数特性Sより高感度かつ広帯域の特性となる。バックキャビティおよびフロントキャビティがあるマイクは、バックキャビティがあるマイクよりも大型になるが、
図2Aの周波数特性M
2に示すように、周波数特性M
1より高感度かつ広帯域の特性となる。
【0036】
このように、ダイナミックスピーカの周波数特性は一般的なマイクよりも狭いが、ドラム1の演奏音として必要とされる音は、ドラム1の演奏中にドラム1の内部で励起される音の全周波数に渡って存在するのではなく、一部の周波数帯域に存在する。従って、本実施形態のように第1のダイナミックスピーカ30aと第2のダイナミックスピーカ30bをドラム1の内部に設置すれば、必要な周波数の音を集音することが可能である。そして、第1のダイナミックスピーカ30aと第2のダイナミックスピーカ30bは、一般的なマイクよりも小型であるため、ドラム1の内部の音場が阻害される程度を一般的なマイクよりも抑制した状態でドラム1の音を集音することができる。また、ドラム1の外部に集音装置を配置する必要がないため、演奏者の演奏動作を阻害することはなく、演奏者所望の位置にドラム1を配置することを阻害することもない。
【0037】
さらに、ドラム1の内部においては、一般的な集音環境(例えば、ドラム1の外部にマイクを配置して集音する環境)と比較して、音圧が極めて高くなる。従って、ダイナミックスピーカよりも感度が高い
図2Aに示す周波数特性M
1,M
2のようなマイクにおいては、音波によってダイヤフラムが振動範囲の上限まで振動し、音波を忠実に集音できない状況になりやすい。しかし、ダイナミックスピーカは一般的にマイクよりも感度が低いため、ダイヤフラムが振動範囲の上限まで振動する状況は発生しにくい。従って、ダイナミックスピーカによってドラム1の内部の音を集音する構成によれば、音波を忠実に集音しやすい。
【0038】
さらに、ドラム1の演奏音として必要とされる音は、大きく2個の周波数帯域に分けることができる。例えば、スティック等によるドラムヘッド20aへの打撃の直後に生じるアタック音は比較的高周波数の帯域、ドラムヘッド20aの振動によって生じるボディ音(ドラムヘッドに作用する張力に応じて決定する特定の音高の音、アタック音が減衰した後にも比較的長期にわたって維持される音)は比較的低周波数の帯域の音である。なお、ボディ音はドラムヘッド20aの張力に応じて発生する特定の音高の音であり、アタック音は当該特定の音高の音より高い周波数帯域の音であるため、両者は周波数によって明確に区別可能である。
【0039】
図2Bはバスドラムの一般的な周波数特性、
図2Cはタムタムの一般的な周波数特性を示す図である。これらの図においては、周波数に対する相対音圧レベル(dB)を示しており、
図2Bに示すバスドラムにおいては、80Hz付近にボディ音に対応する相対音圧レベルのピークP
1が存在し、それ以上の周波数において片対数グラフにおいてほぼ一定の傾きで相対音圧レベルが逓減した後、700Hzを超える帯域では相対音圧レベルが逓減することなくほぼ一定に維持され、8000Hz付近から再び周波数の増加とともに相対音圧レベルが逓減する。すなわち、
図2Bに示すバスドラムにおいては、80Hz付近にボディ音の周波数帯域が存在し、1000Hz〜7000Hz付近にアタック音の周波数帯域が存在することがわかる。
【0040】
図2Cに示すタムタムにおいては、105Hz付近にボディ音に対応する相対音圧レベルのピークP
2が存在し、それ以上の周波数において片対数グラフにおいてほぼ一定の傾きで相対音圧レベルが逓減した後、1000Hzを超える帯域では相対音圧レベルが逓減することなくほぼ一定に維持され、9000Hz付近から再び周波数の増加とともに相対音圧レベルが逓減する。すなわち、
図2Cに示すタムタムにおいては、105Hz付近にボディ音の周波数帯域が存在し、1100Hz〜8000Hz付近にアタック音の周波数帯域が存在することがわかる。
【0041】
図2Bおよび
図2Cに示した周波数特性は、特定のバスドラムや特定のタムタムにおける周波数特性であるが、一般的に、ボディ音の相対音圧レベルのピークは50〜600Hz程度の帯域、アタック音の相対音圧レベルのピークは600〜10000Hz程度の帯域に存在する。
【0042】
そこで、本実施形態においては、第1のダイナミックスピーカ30aのダイヤフラム30a2の口径が第2のダイナミックスピーカ30bのダイヤフラム30b2の口径よりも小さくなるように構成し、第1のダイナミックスピーカ30aで集音する音の周波数帯域が第1の周波数帯域である場合に、第2のダイナミックスピーカ30bで集音する音の周波数帯域が第1の周波数帯域より低域の第2の周波数帯域となるように構成されている。なお、具体的には、例えば、第1のダイナミックスピーカ30aにおける相対音圧レベルのピークが600〜10000Hzに含まれ、第2のダイナミックスピーカ30bにおける相対音圧レベルのピークが50〜600Hzに含まれるように構成される。すなわち、第1のダイナミックスピーカ30aによってアタック音を集音し、第2のダイナミックスピーカ30bによってボディ音を集音するように構成されている。このように、本実施形態においては、集音する音の周波数帯域が異なる複数のダイナミックスピーカをドラムヘッドおよびシェルの内側に設置しているため、アタック音とボディ音とを互いに分離しながら集音することができる。
【0043】
さらに、ドラム1の内部においては、ドラムヘッド20aへの打撃によって、ドラム1の内壁で粒子速度が0、音圧が最大となるような内部定在波が励起される。このような内部定在波は、低次の内部定在波(波長が長い内部定在波)であるほど音に悪影響を与えるが、当該内部定在波は、通常の大きさのドラム1において、アタック音、ボディ音のようなドラムの演奏音としての音の周波数帯域と異なる周波数帯域(例えば、500Hz付近)であることが多い。本実施形態においては、一般的なマイクと比較して集音する音の周波数帯域が狭い第1のダイナミックスピーカ30aと第2のダイナミックスピーカ30bとを利用している。従って、アタック音の周波数帯域とボディ音の周波数帯域との間に存在する不要な内部定在波が集音されない。
【0044】
(3)他の実施形態:
以上の実施形態は本発明を実施するための一例であり、ドラムの内部にダイナミックスピーカを設置する限りにおいて、他にも種々の実施形態を採用可能である。例えば、ドラムの内部に設置するダイナミックスピーカの数は2個に限定されない。すなわち、ダイナミックスピーカの周波数特性は、特定の周波数で感度のピークが存在しピーク以外の周波数では感度が逓減する特性であるが、ピーク以外の周波数において感度が0になるわけではない。
【0045】
そこで、ドラムの内部に1個のダイナミックスピーカを設置する構成とし、ドラムの特定の音の成分を特に正確に集音するように構成しても良い。例えば、
図1Aに示す構成において、第2のダイナミックスピーカ30b、保持部材31b、配線32b、コネクタ33bを省略し、アタック音が特に正確に集音されるように構成しても良い。また、
図1Aに示す構成において、第1のダイナミックスピーカ30a、保持部材31a、配線32a、コネクタ33aを省略し、ボディ音が特に正確に集音されるように構成しても良い。これらの構成においては、
図1Aに示す構成と比較して、音場の形成を阻害する度合いがより抑制されるため、着目している音(ボディ音またはアタック音)についてはより原音に近い音として集音することができる。むろん、ドラム1の内部に設置されるべきダイナミックスピーカの口径は
図1Aに示すダイナミックスピーカと同一でなくても良く、第1のダイナミックスピーカ30aの口径と第2のダイナミックスピーカ30bの口径の間の口径であっても良く、種々の構成を採用可能である。
【0046】
さらに、ドラムの内部に3個以上のダイナミックスピーカを設置する構成であっても良い。
図3は、
図1Aに示すドラム1と同様の構造のドラムにおいてスネアサイド側(ドラムヘッド20b側)にスネアワイアを取り付けるスネアドラムの一般的な周波数特性を示している。
図3においては、周波数に対する相対音圧レベル(dB)を示しており、105Hz付近にボディ音に対応する相対音圧レベルのピークP
3が存在し、それ以上の周波数において片対数グラフにおいてほぼ一定の傾きで相対音圧レベルが逓減した後、9000Hz付近から周波数の増加とともに相対音圧レベルがさらに大きい傾きで逓減する。ただし、
図2Cに示すタムタムの周波数特性と比較すると、高周波数帯域においてタムタムでは1個(または0個)のピークが現れるのに対し、スネアドラムでは2個のピークP
4,P
5(2000Hz付近および8000Hz付近)が現れている。
【0047】
一般に、スネアワイアに起因するスネアワイア音は、アタック音よりも高い周波数帯域の音である。従って、
図3に示すスネアドラムの周波数帯域においては、105Hz付近にボディ音の周波数帯域が存在し、2000Hz付近にアタック音の周波数帯域が存在し、8000Hz付近にスネアワイア音の周波数帯域が存在することがわかる。さらに、一般的には、ボディ音の相対音圧レベルのピークは50〜600Hz程度の帯域、アタック音の相対音圧レベルのピークは600〜10000Hz程度の帯域、スネアワイア音の相対音圧レベルのピークは5000Hz〜10000Hz程度の帯域に存在する。
【0048】
そこで、スネアドラムにおいて、第1のダイナミックスピーカ30aと第2のダイナミックスピーカ30bに加えて第3のダイナミックスピーカ30cを備えるように構成しても良い。この場合、第1のダイナミックスピーカ30aのダイヤフラム30a2の口径が第2のダイナミックスピーカ30bのダイヤフラム30b2の口径よりも小さく、第3のダイナミックスピーカ30cのダイヤフラムの口径が第1のダイナミックスピーカ30aのダイヤフラム30a2の口径よりも小さくなるように構成する。
【0049】
すなわち、第3のダイナミックスピーカ30cで集音する音の周波数帯域が最も高くなるように(相対音圧レベルのピークが5000Hz〜10000Hzに含まれるように)構成する。また、第1のダイナミックスピーカ30aで集音する音の周波数帯域が第3のダイナミックスピーカ30cの次に高くなるように(相対音圧レベルのピークが600〜5000Hzに含まれるように)構成する。そして、第2のダイナミックスピーカ30bで集音する音の周波数帯域が最も低くなるように(相対音圧レベルのピークが50〜600Hzに含まれるように)構成する。この結果、スネアワイア音とアタック音とボディ音とを互いに分離しながら集音することができる。