特許第6183127号(P6183127)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6183127複列円すいころ軸受ユニット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183127
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】複列円すいころ軸受ユニット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/38 20060101AFI20170814BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20170814BHJP
   F16C 35/063 20060101ALI20170814BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   F16C19/38
   F16C33/64
   F16C35/063
   B60B35/02 L
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-209026(P2013-209026)
(22)【出願日】2013年10月4日
(65)【公開番号】特開2015-72057(P2015-72057A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年9月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 信行
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−002537(JP,A)
【文献】 特開2008−256144(JP,A)
【文献】 特開2000−130433(JP,A)
【文献】 特開2008−074155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/38
B60B 35/02
F16C 33/64
F16C 35/063
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径側軌道輪部材と、内径側軌道輪部材と、複数個の円すいころとを備え、
このうちの外径側軌道輪部材は、内周面に複列の外輪軌道を有するもので、これら両外輪軌道のうち、軸方向片側に位置する第一外輪軌道と、軸方向他側に位置する第二外輪軌道とは、それぞれ軸方向に関して互いに離れる方向に向かう程直径が大きくなる方向に傾斜した部分円すい凹面状であり、
前記内径側軌道輪部材は、外周面に複列の内輪軌道を有するもので、これら両内輪軌道のうち、軸方向片側に位置する第一内輪軌道と、軸方向他側に位置する第二内輪軌道とは、それぞれ軸方向に関して互いに離れる方向に向かう程直径が大きくなる方向に傾斜した部分円すい凸面状であり、
更に、前記内径側軌道輪部材は、外周面に前記第一内輪軌道を形成した円環状の第一内輪と、外周面に前記第二内輪軌道を形成した円環状の第二内輪と、軸部材とから成り、これら第一、第二両内輪は、この軸部材に圧入により外嵌され、更にこの軸部材の軸方向片端部に設けられた円筒部を径方向外方に塑性変形させて成るかしめ部により前記第一内輪の大径側端面を抑え付ける事で、前記軸部材に対し結合固定されており、
前記各円すいころは、前記第一外輪軌道と前記第一内輪軌道との間と、前記第二外輪軌道と前記第二内輪軌道との間とに、それぞれ複数個ずつ転動自在に設けられている、
複列円すいころ軸受ユニットの製造方法であって、
前記軸部材に前記第一内輪を圧入により外嵌する前の状態での前記第一内輪軌道の傾斜角度θ1と、
前記軸部材に前記第二内輪を圧入により外嵌する前の状態での前記第二内輪軌道の傾斜角度θ2と、
前記軸部材に前記第一内輪を圧入により外嵌する事に伴って生じる前記第一内輪軌道の傾斜角度減少量δθaと、
前記軸部材に前記第二内輪を圧入により外嵌する事に伴って生じる前記第二内輪軌道の傾斜角度減少量δθbと、
前記かしめ部を形成する事に伴って生じる前記第一内輪軌道の傾斜角度増大量δθkとを調整する事により、
前記かしめ部を形成した後の状態での前記第一内輪軌道の傾斜角度φ1と前記第二内輪軌道の傾斜角度Θ2とを、それぞれの適正範囲内に収める事を特徴とする複列円すいころ軸受ユニットの製造方法。
【請求項2】
前記傾斜角度φ1と前記傾斜角度Θ2との適正範囲を同一にする、請求項1に記載した複列円すいころ軸受ユニットの製造方法。
【請求項3】
前記傾斜角度θ1と前記傾斜角度θ2とを実質的に等しくする、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した複列円すいころ軸受ユニットの製造方法。
【請求項4】
前記軸部材に対する前記第一内輪の圧入代△X1を調整する事に基づいて、前記傾斜角度減少量δθaを調整し、
前記軸部材に対する前記第二内輪の圧入代△X2を調整する事に基づいて、前記傾斜角度減少量δθbを調整する、
請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した複列円すいころ軸受ユニットの製造方法。
【請求項5】
前記第一、第二両内輪の自由状態での内径寸法を実質的に等しくし、且つ、前記軸部材の外周面のうち、この第一内輪を外嵌する部分と前記第二内輪を外嵌する部分との間に段部を設けて、これら両部分の自由状態での外径寸法を互いに異ならせると共に、これら両部分の自由状態での外径寸法を調整する事に基づいて、前記両圧入代△X1、△X2を調整する、請求項4に記載した複列円すいころ軸受ユニットの製造方法。
【請求項6】
前記第一、第二両内輪の小径側端面同士の間に間座を挟持すると共に、この間座の内径側に重畳する位置に前記段部を設ける、請求項5に記載した複列円すいころ軸受ユニットの製造方法。
【請求項7】
前記第一、第二両内輪の諸元を実質的に等しくする、請求項1〜6のうちの何れか1項に記載した複列円すいころ軸受ユニットの製造方法。
【請求項8】
前記軸部材の外周面のうち前記第一内輪を外嵌する部分と前記第二内輪を外嵌する部分とを互いに連続した単一円筒面とし、且つ、これら第一、第二両内輪の自由状態での内径寸法を互いに異ならせると共に、これら第一、第二両内輪の自由状態での内径寸法を調整する事に基づいて、前記両圧入代△X1、△X2を調整する、請求項4に記載した複列円すいころ軸受ユニットの製造方法。
【請求項9】
前記第一内輪として、内周面と大径側端面との連続部にR面取り部が設けられているものを使用し、
前記第二内輪として、内周面と大径側端面との連続部にR面取り部又はC面取り部が設けられており、且つ、当該R面取り部の曲率半径又はC面取り部の軸方向幅寸法及び径方向幅寸法が、前記第一内輪のR面取り部の曲率半径よりも大きくなっているものを使用し、
前記軸部材として、外周面のうち前記第二内輪を外嵌する部分に対して軸方向他側に隣接する部分に、車輪を支持固定する為の回転側フランジが設けられており、且つ、前記第二内輪のR面取り部又はC面取り部と対向する位置に存在する、前記軸部材の外周面と前記回転側フランジの軸方向片側面との連続部に、これら両面同士を滑らかに連続させる断面円弧形の隅R部が設けられているものを使用する、
請求項8に記載した複列円すいころ軸受ユニットの製造方法。
【請求項10】
外径側軌道輪部材と、内径側軌道輪部材と、複数個の円すいころとを備え、
このうちの外径側軌道輪部材は、内周面に複列の外輪軌道を有するもので、これら両外輪軌道のうち、軸方向片側に位置する第一外輪軌道と、軸方向他側に位置する第二外輪軌道とは、それぞれ軸方向に関して互いに離れる方向に向かう程直径が大きくなる方向に傾斜した部分円すい凹面状であり、
前記内径側軌道輪部材は、外周面に複列の内輪軌道を有するもので、これら両内輪軌道のうち、軸方向片側に位置する第一内輪軌道と、軸方向他側に位置する第二内輪軌道とは、それぞれ軸方向に関して互いに離れる方向に向かう程直径が大きくなる方向に傾斜した部分円すい凸面状であり、
更に、前記内径側軌道輪部材は、外周面に前記第一内輪軌道を形成された円環状の第一内輪と、外周面に前記第二内輪軌道を形成された円環状の第二内輪と、軸部材とから成り、これら第一、第二両内輪は、この軸部材に圧入代を有する状態で外嵌されると共に、この軸部材の軸方向片端部に設けられたかしめ部により前記第一内輪の大径側端面を抑え付けられた状態で、前記軸部材に対し結合固定されており、
前記各円すいころは、前記第一外輪軌道と前記第一内輪軌道との間と、前記第二外輪軌道と前記第二内輪軌道との間とに、それぞれ複数個ずつ転動自在に設けられている、
複列円すいころ軸受ユニットであって、
前記第一、第二両内輪は、自由状態で内径寸法が互いに実質的に等しいものであり、且つ、前記軸部材は、自由状態で、外周面のうち前記第一内輪を外嵌する部分と前記第二内輪を外嵌する部分との間に段部設けられていると共に、これら両部分の外径寸法互いに異なているものである事を特徴とする複列円すいころ軸受ユニット。
【請求項11】
前記第一、第二両内輪の小径側端面同士の間に間座挟持されていると共に、この間座の内径側に重畳する位置に前記段部設けられている、請求項10に記載した複列円すいころ軸受ユニット。
【請求項12】
前記第一、第二両内輪の諸元実質的に等しくなっている、請求項1011のうちの何れか1項に記載した複列円すいころ軸受ユニット。
【請求項13】
外径側軌道輪部材と、内径側軌道輪部材と、複数個の円すいころとを備え、
このうちの外径側軌道輪部材は、内周面に複列の外輪軌道を有するもので、これら両外輪軌道のうち、軸方向片側に位置する第一外輪軌道と、軸方向他側に位置する第二外輪軌道とは、それぞれ軸方向に関して互いに離れる方向に向かう程直径が大きくなる方向に傾斜した部分円すい凹面状であり、
前記内径側軌道輪部材は、外周面に複列の内輪軌道を有するもので、これら両内輪軌道のうち、軸方向片側に位置する第一内輪軌道と、軸方向他側に位置する第二内輪軌道とは、それぞれ軸方向に関して互いに離れる方向に向かう程直径が大きくなる方向に傾斜した部分円すい凸面状であり、
更に、前記内径側軌道輪部材は、外周面に前記第一内輪軌道を形成された円環状の第一内輪と、外周面に前記第二内輪軌道を形成された円環状の第二内輪と、軸部材とから成り、これら第一、第二両内輪は、この軸部材に圧入代を有する状態で外嵌されると共に、この軸部材の軸方向片端部に設けられたかしめ部により前記第一内輪の大径側端面を抑え付けられた状態で、前記軸部材に対し結合固定されており、
前記各円すいころは、前記第一外輪軌道と前記第一内輪軌道との間と、前記第二外輪軌道と前記第二内輪軌道との間とに、それぞれ複数個ずつ転動自在に設けられている、
複列円すいころ軸受ユニットであって、
前記軸部材は、自由状態で、外周面のうち前記第一内輪を外嵌する部分と前記第二内輪を外嵌する部分と互いに連続した単一円筒面になっているものであり、且つ、これら第一、第二両内輪は、自由状態で内径寸法互いに異なているものである事を特徴とする複列円すいころ軸受ユニット。
【請求項14】
前記第一内輪が、内周面と大径側端面との連続部にR面取り部を有するものであり、
前記第二内輪が、内周面と大径側端面との連続部にR面取り部又はC面取り部を有するものであり、
前記第二内輪のR面取り部の曲率半径又はC面取り部の軸方向幅寸法及び径方向幅寸法が、前記第一内輪のR面取り部の曲率半径よりも大きくなっており、
前記軸部材が、外周面のうち前記第二内輪を外嵌する部分に対して軸方向他側に隣接する部分に車輪を支持固定する為の回転側フランジを有すると共に、前記第二内輪のR面取り部又はC面取り部と対向する位置に存在する、前記軸部材の外周面と前記回転側フランジの軸方向片側面との連続部に、これら両面同士を滑らかに連続させる断面円弧形の隅R部を有するものである、
請求項13に記載した複列円すいころ軸受ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、小型トラック、大型乗用車等、比較的重量が嵩む自動車用の車輪を懸架装置に対し回転自在に支持する為に使用可能な複列円すいころ軸受ユニット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型トラック、大型乗用車等、比較的重量が嵩む自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットとして従来から、例えば図9に示す様な車輪支持用複列円すいころ軸受ユニットが使用されている。この車輪支持用複列円すいころ軸受ユニットは、外径側軌道輪部材である外輪1と、内径側軌道輪部材であるハブ2と、複数個の円すいころ3、3とを備える。
【0003】
このうちの外輪1は、内周面に複列の外輪軌道4、5を、外周面に懸架装置のナックルに結合固定する為の静止側フランジ6を、それぞれ有する。前記両外輪軌道4、5のうち、軸方向内側に位置する第一外輪軌道4と、軸方向外側に位置する第二外輪軌道5とは、それぞれ軸方向に関して互いに離れる方向に向かう程直径が大きくなる方向に傾斜した部分円すい凹面状である。
尚、本明細書に於いて、軸方向に関して「内」とは、自動車への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、図1、9の右側及び図3、8の上側を言う。反対に、車両の幅方向外側となる、図1、9の左側及び図3、8の下側を、軸方向に関して「外」と言う。
【0004】
又、前記ハブ2は、前記外輪1の内径側に、この外輪1と同心に配置されている。このハブ2は、外周面のうち、軸方向内端部及び中間部に複列の内輪軌道7、8を、軸方向外端寄り部分で前記外輪1の内径側から軸方向に突出した部分に、車輪を支持固定する為の回転側フランジ9を、それぞれ有する。前記両内輪軌道7、8のうち、軸方向内側に位置する第一内輪軌道7と、軸方向外側に位置する第二内輪軌道8とは、それぞれ軸方向に関して互いに離れる方向に向かう程直径が大きくなる方向に傾斜した部分円すい凹面状である。
【0005】
更に、前記ハブ2は、外周面に前記第一内輪軌道7を形成した円環状の第一内輪10と、外周面に前記第二内輪軌道8を形成した円環状の第二内輪11と、前記回転側フランジ9を一体に形成した、軸部材であるハブ本体12とから成る。前記第一内輪軌道7(前記第二内輪軌道8)は、前記第一内輪10(前記第輪11)の外周面の小径側端部に設けられた小鍔部と大径側端部に設けられた大鍔部との間部分に設けられている。又、前記第二内輪11は、前記ハブ本体12の外周面の軸方向内端部及び中間部に設けられた円筒状の嵌合面部13の軸方向外半部に、圧入により(締り嵌めで)外嵌されている。又、前記第一内輪10は、この嵌合面部13の軸方向内半部に、圧入により外嵌されている。更に、この第一内輪10の大径側端面は、前記ハブ本体12の軸方向内端部に設けられた円筒部14を径方向外方に塑性変形させて成るかしめ部15により抑え付けられている。この状態で、前記第一、第二両内輪10、11は、前記嵌合面部13の軸方向外端部に存在する段差面16と前記かしめ部15とにより、軸方向両側から挟持されて、前記ハブ本体12に対し結合固定されている。
【0006】
又、前記各円すいころ3、3は、前記第一外輪軌道4と前記第一内輪軌道7との間と、前記第二外輪軌道5と前記第二内輪軌道8との間とに、それぞれ複数個ずつ、保持器17、17により保持された状態で転動自在に設けられている。又、前記外輪1の両端部内周面と、前記第一、第二両内輪10、11の大径側端部外周面との間には、それぞれ組み合せシールリング18、18が組み付けられている。これにより、前記各円すいころ3、3を設置した空間の軸方向両端開口が塞がれている。尚、図示の構造は、駆動輪用である為、前記ハブ本体12の径方向中心部には、駆動軸の先端部を挿入してスプライン係合させる為のスプライン孔19が設けられている。
【0007】
上述の様な車輪支持用複列円すいころ軸受ユニットの場合、前記ハブ2を組み立てる際には、前記かしめ部15を形成する事に伴って、前記第一内輪10が弾性変形する(大径側端部が小径側端部よりも弾性的に大きく拡径する)事に伴い、前記第一内輪軌道7の傾斜角度が変化する。この為、この際の変化を考慮して前記かしめ部15を形成する前の状態での前記第一内輪軌道7の傾斜角度を決定しないと、前記各円すいころ3、3の転動面と前記各軌道4、5、7、8との当接状態が不正規になり、車輪支持用複列円すいころ軸受ユニットの耐久性確保が難しくなる可能性がある。
尚、本明細書及び特許請求の範囲に於いて、第一内輪軌道(7)の傾斜角度とは、この第一内輪軌道(7)の、第一内輪(10)の中心軸に対する傾斜角度を言う。又、第二内輪軌道(8)の傾斜角度とは、この第二内輪軌道(8)の、第二内輪(11)の中心軸に対する傾斜角度を言う。
【0008】
一方、特許文献1には、上述の様な不都合が発生する事を防止すべく、かしめ部の形成に伴う第一内輪軌道の傾斜角度の変化を考慮して、このかしめ部を形成する前の第一内輪軌道の傾斜角度を調整する、複列円すいころ軸受ユニットの製造方法が記載されている。
【0009】
ところが、上述した車輪支持用複列円すいころ軸受ユニットの場合、前記ハブ2を組み立てる際には、前記かしめ部15を形成する事に伴って前記第一内輪軌道7の傾斜角度が変化するだけでなく、前記嵌合面部13に前記第一、第二両内輪10、11を圧入により外嵌する事に伴って、これら第一、第二両内輪10、11が弾性変形する事に伴い、前記第一、第二両内輪軌道7、8の傾斜角度が変化する。従って、前記特許文献1に記載された発明の様に、前記かしめ部15の形成に伴う前記第一内輪軌道7の傾斜角度の変化を考慮するだけでは、複列円すいころ軸受ユニットの耐久性の更なる向上要求に応える事が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許4019548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、耐久性の更なる向上要求に応えられる複列円すいころ軸受ユニットの構造及びその製造方法を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の対象となる複列円すいころ軸受ユニットは、外径側軌道輪部材と、内径側軌道輪部材と、複数個の円すいころとを備える。
このうちの外径側軌道輪部材は、内周面に複列(1対)の外輪軌道を有するもので、これら両外輪軌道のうち、軸方向片側に位置する第一外輪軌道と、軸方向他側に位置する第二外輪軌道とは、それぞれ軸方向に関して互いに離れる方向に向かう程直径が大きくなる方向に傾斜した部分円すい凹面状である。
又、前記内径側軌道輪部材は、外周面に複列(1対)の内輪軌道を有するもので、これら両内輪軌道のうち、軸方向片側に位置する第一内輪軌道と、軸方向他側に位置する第二内輪軌道とは、それぞれ軸方向に関して互いに離れる方向に向かう程直径が大きくなる方向に傾斜した部分円すい凸面状である。
更に、前記内径側軌道輪部材は、外周面に前記第一内輪軌道を形成した円環状の第一内輪と、外周面に前記第二内輪軌道を形成した円環状の第二内輪と、軸部材とから成る。そして、これら第一、第二両内輪は、この軸部材に圧入により(締り嵌めで)外嵌され、更にこの軸部材の軸方向片端部に設けられた円筒部を径方向外方に塑性変形させて成るかしめ部により前記第一内輪の大径側端面を抑え付ける事で、前記軸部材に対し結合固定されている。
又、前記各円すいころは、前記第一外輪軌道と前記第一内輪軌道との間と、前記第二外輪軌道と前記第二内輪軌道との間とに、それぞれ複数個ずつ転動自在に設けられている。
【0013】
特に、本発明の複列円すいころ軸受ユニット及びその製造方法のうち、請求項1に記載した複列円すいころ軸受ユニットの製造方法の場合には、
前記軸部材に前記第一内輪を圧入により外嵌する前の状態(自由状態)での前記第一内輪軌道の傾斜角度θ1と、
前記軸部材に前記第二内輪を圧入により外嵌する前の状態(自由状態)での前記第二内輪軌道の傾斜角度θ2と、
前記軸部材に前記第一内輪を圧入により外嵌する事に伴って生じる前記第一内輪軌道の傾斜角度減少量(絶対値)δθaと、
前記軸部材に前記第二内輪を圧入により外嵌する事に伴って生じる前記第二内輪軌道の傾斜角度減少量(絶対値)δθbと、
前記かしめ部を形成する事に伴って生じる前記第一内輪軌道の傾斜角度増大量(絶対値)δθkとを調整する事により、
前記かしめ部を形成した後の状態での前記第一内輪軌道の傾斜角度φ1と前記第二内輪軌道の傾斜角度Θ2とを、それぞれの適正範囲内に収める。
【0014】
本発明の複列円すいころ軸受ユニットの製造方法を実施する場合には、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記傾斜角度φ1と前記傾斜角度Θ2との適正範囲を同一にする事ができる。
又、本発明の複列円すいころ軸受ユニットの製造方法を実施する場合には、例えば請求項3に記載した発明の様に、前記傾斜角度θ1と前記傾斜角度θ2とを実質的に(製造上不可避な誤差を除いて)等しくする事ができる。
これらの発明を実施する為に、例えば、前記傾斜角度減少量δθaを前記傾斜角度減少量δθbよりも大きくすると共に、これら両傾斜角度減少量δθa、δθb同士の差δθa−δθbと、前記傾斜角度増大量δθkとを、実質的に等しくする。
【0015】
又、本発明の複列円すいころ軸受ユニットの製造方法を実施する場合に、好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記軸部材に対する前記第一内輪の圧入代(締め代)△X1を調整する事に基づいて、前記傾斜角度減少量δθaを調整し、前記軸部材に対する前記第二内輪の圧入代△X2を調整する事に基づいて、前記傾斜角度減少量δθbを調整する。
或いは、前記第一内輪(又は前記第二内輪)の材質や肉厚等を調整する事に基づいて、前記傾斜角度減少量δθa(又はδθb)を調整する事もできる。
【0016】
上述の様な請求項4に記載した発明を実施する場合には、例えば請求項5に記載した発明の様に、前記第一、第二両内輪の自由状態での内径寸法を実質的に等しくし、且つ、前記軸部材の外周面のうち、前記第一内輪を外嵌する部分と前記第二内輪を外嵌する部分との間に段部を設けて、これら両部分の自由状態での外径寸法を互いに異ならせると共に、これら両部分の自由状態での外径寸法を調整する事に基づいて、前記両圧入代△X1、△X2を調整する事ができる。尚、前記段部は、円輪状であっても良いし、部分円すい凸面(テーパ面)状であっても良い。
この場合に、好ましくは、請求項6に記載した発明の様に、前記第一、第二両内輪の小径側端面同士の間に間座を挟持すると共に、この間座の内径側に重畳する位置に前記段部を設ける。
【0017】
又、請求項1〜6に記載した複列円すいころ軸受ユニットの製造方法を実施する場合には、請求項7に記載した発明の様に、前記第一、第二両内輪の諸元(材質、自由状態での形状及び寸法等)を実質的に等しくする事ができる。
【0018】
又、上述の様な請求項4に記載した発明を実施する場合には、例えば請求項8に記載した発明の様に、前記軸部材の外周面のうち前記第一内輪を外嵌する部分と前記第二内輪を外嵌する部分とを互いに連続した単一円筒面とし、且つ、これら第一、第二両内輪の自由状態での内径寸法を互いに異ならせると共に、これら第一、第二両内輪の自由状態での内径寸法を調整する事に基づいて、前記両圧入代△X1、△X2を調整する事ができる。
この場合には、例えば請求項9に記載した発明の様に、前記第一内輪として、内周面と大径側端面との連続部にR面取り部が設けられているものを使用する。又、前記第二内輪として、内周面と大径側端面との連続部にR面取り部又はC面取り部が設けられており、且つ、当該R面取り部の曲率半径又はC面取り部の軸方向幅寸法及び径方向幅寸法が、前記第一内輪のR面取り部の曲率半径よりも大きくなっているものを使用する。又、前記軸部材として、外周面のうち前記第二内輪を外嵌する部分に対して軸方向他側に隣接する部分に、車輪を支持固定する為の回転側フランジが設けられており、且つ、前記第二内輪のR面取り部又はC面取り部と対向する位置に存在する、前記軸部材の外周面と前記回転側フランジの軸方向片側面との連続部に、これら両面同士を滑らかに連続させる断面円弧形の隅R部が設けられているものを使用する。
【0019】
又、請求項10に記載した複列円すいころ軸受ユニットは、前記第一、第二両内輪の自由状態での内径寸法を実質的に等しくし、且つ、前記軸部材の外周面のうち、この第一内輪を外嵌する部分と前記第二内輪を外嵌する部分との間に段部を設けて、これら両部分の自由状態での外径寸法を互いに異ならせている。尚、前記段部は、円輪状であっても良いし、部分円すい凸面(テーパ面)状であっても良い。
この様な請求項10に記載した複列円すいころ軸受ユニットを実施する場合に、好ましくは、請求項11に記載した発明の様に、前記第一、第二両内輪の小径側端面同士の間に間座を挟持すると共に、この間座の内径側に重畳する位置に前記段部を設ける。
又、これら請求項1011に記載した複列円すいころ軸受ユニットを実施する場合に、好ましくは、請求項12に記載した発明の様に、前記第一、第二両内輪の諸元を実質的に等しくする。
【0020】
又、請求項13に記載した複列円すいころ軸受ユニットは、前記軸部材の外周面のうち前記第一内輪を外嵌する部分と前記第二内輪を外嵌する部分とを互いに連続した単一円筒面とし、且つ、これら第一、第二両内輪の自由状態での内径寸法を互いに異ならせている。
【0021】
この様な請求項13に記載した複列円すいころ軸受ユニットを実施する場合には、例えば請求項14に記載した発明の構成を採用する事ができる。この構成を採用する場合には、前記第一内輪を、内周面と大径側端面との連続部にR面取り部を有するものとする。又、前記第二内輪を、内周面と大径側端面との連続部にR面取り部又はC面取り部を有するものとする。又、前記第二内輪のR面取り部の曲率半径又はC面取り部の軸方向幅寸法及び径方向幅寸法を、前記第一内輪のR面取り部の曲率半径よりも大きくする。又、前記軸部材を、外周面のうち前記第二内輪を外嵌する部分に対して軸方向他側に隣接する部分に、車輪を支持固定する為の回転側フランジを有すると共に、前記第二内輪のR面取り部又はC面取り部と対向する位置に存在する、前記軸部材の外周面と前記回転側フランジの軸方向片側面との連続部に、これら両面同士を滑らかに連続させる断面円弧形の隅R部を有するものとする。
【発明の効果】
【0022】
上述の様に、本発明の複列円すいころ軸受ユニットの製造方法の場合には、かしめ部の形成に伴う第一内輪軌道の傾斜角度増大量δθkだけでなく、軸部材に第一、第二両内輪を圧入により外嵌する事に伴う第一、第二両内輪軌道の傾斜角度減少量δθa、δθbをも考慮して、前記かしめ部を形成した後の状態での前記第一、第二両内輪軌道の傾斜角度φ1、Θ2の調整を行う為、これら両傾斜角度φ1、Θ2を、それぞれの適正範囲の中央値(最も理想的な値)に十分に近づける事ができる。この結果、前記第一、第二両内輪軌道及び第一、第二両外輪軌道と各円すいころの転動面との当接状態を向上させる事ができる。従って、複列円すいころ軸受ユニットの耐久性の更なる向上要求に応えられる。
【0023】
又、請求項5に記載した複列円すいころ軸受ユニットの製造方法を実施する場合、及び、請求項10に記載した複列円すいころ軸受ユニットを対象として本発明の製造方法を実施する場合には、「第一、第二両内輪の自由状態での内径寸法を互いに異ならせると共に、軸部材の外周面のうち、この第一内輪を外嵌する部分と前記第二内輪を外嵌する部分との間に段部を設けて、これら両部分の自由状態での外径寸法を互いに異ならせている複列円すいころ軸受ユニット」を対象として本発明の製造方法を実施する場合と比較して、第一、第二両内輪の自由状態での内径寸法を実質的に等しくする分、これら第一、第二両内輪の品質及び生産性の確保と低コスト化とを図り易くできる。
同様に、請求項7に記載した複列円すいころ軸受ユニットの製造方法を実施する場合、及び、請求項12に記載した複列円すいころ軸受ユニットを対象として本発明の製造方法を実施する場合には、第一、第二両内輪の諸元を実質的に等しくする分、これら第一、第二両内輪の品質及び生産性の確保と低コスト化とを、更に図り易くできる。
【0024】
又、請求項6に記載した複列円すいころ軸受ユニットの製造方法を実施する場合、及び、請求項11に記載した複列円すいころ軸受ユニットを対象として本発明の製造方法を実施する場合には、間座の存在に基づいて、段部に第一内輪又は第二内輪が外嵌された状態になる事を防止できる。この為、圧入代△X1又は△X2にばらつきが生じる等の悪影響が及ぶ事を防止できる。
【0025】
又、請求項8に記載した複列円すいころ軸受ユニットの製造方法を実施する場合、及び、請求項13に記載した複列円すいころ軸受ユニットを対象として本発明の製造方法を実施する場合には、「第一、第二両内輪の自由状態での内径寸法を互いに異ならせると共に、軸部材の外周面のうち、この第一内輪を外嵌する部分と前記第二内輪を外嵌する部分との間に段部を設けて、これら両部分の自由状態での外径寸法を互いに異ならせている複列円すいころ軸受ユニット」を対象として本発明の製造方法を実施する場合と比較して、軸部材の外周面のうち第一内輪を外嵌する部分と第二内輪を外嵌する部分とを互いに連続した単一円筒面としている分、即ち、これら両外嵌する部分同士の間に応力集中源となる段部を設けていない分、前記軸部材の強度を確保する設計を行い易くできる。更には、この軸部材の生産性の確保と低コスト化とを図り易くできる。
【0026】
又、請求項9に記載した複列円すいころ軸受ユニットの製造方法を実施する場合、及び、請求項14に記載した複列円すいころ軸受ユニットを対象として本発明の製造方法を実施する場合には、第二内輪のR面取り部の曲率半径又はC面取り部の軸方向幅寸法及び径方向幅寸法を、第一内輪のR面取り部の曲率半径よりも大きくする分、軸部材の隅R部の曲率半径を大きくできる。従って、その分、回転側フランジの付け根部分の強度の向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施の形態の第1例を、一部の部品を省略した状態で示す断面図。
図2図1のa部拡大図。
図3】ハブの組立方法を工程順に示す図。
図4】ハブの組み立てに伴って生じる、第一内輪軌道の傾斜角度の変化(A)と、第二内輪軌道の傾斜角度の変化(B)とを示す線図。
図5】第一、第二両内輪の圧入代と、第一、第二両内輪軌道の傾斜角度減少量との関係を示す線図。
図6】第一、第二両内輪の圧入代と、第一、第二両内輪軌道の傾斜角度減少量と、第一内輪軌道の傾斜角度増大量との関係を示す線図。
図7】第一、第二両内輪の圧入代と、圧入後の第一、第二両内輪軌道の傾斜角度と、第一内輪軌道の傾斜角度増大量との関係を示す線図。
図8】本発明の実施の形態の第2例を示す、第一、第二両内輪とハブ本体とを、互いに組み合わせる前の状態で示す断面図。
図9】従来から知られている車輪支持用複列円すいころ軸受ユニットの1例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[実施の形態の第1例]
発明の実施の形態の第1例に就いて、図1〜7を参照しつつ説明する。尚、本例の特徴は、主として、ハブ2aを組み立てた状態での第一、第二両内輪軌道7、8の傾斜角度を適正範囲に収める為に、各部分の寸法等を調整する点にある。対象となる車輪支持用複列円すいころ軸受ユニットの基本構造に就いては、一部を除き、前述の図9に示した従来構造の場合と同様である為、重複する図示並びに説明は極力省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分、並びに、前述した従来構造と異なる部分を中心に説明する。
【0029】
図1は、本例の車輪支持用複列円すいころ軸受ユニットを、一部の部品{外輪1、複数個の円すいころ3、3、1対の保持器17、17、1対の組み合せシールリング18、18等(図9参照)}の図示を省略した状態で示している。本例の場合には、図9に示した従来構造の場合と異なり、第一、第二両内輪7、8の小径側端面同士の間に、予圧調整に用いる円環状の間座20を挟持している。
【0030】
図3は、この様な間座20を含んで構成される、前記ハブ2aの組立方法を工程順に示している。尚、この図2でも、図1と同様、前記一部の部品(1、3、17、18等)の図示は省略している。前記ハブ2aを組み立てる際には、先ず、(A)に示す様な前記第二内輪11を、(B)に示す様に、ハブ本体12aの嵌合面部13aの軸方向外端部に、軸方向内側から圧入により外嵌する。次いで、(C)に示す様に、この嵌合面部13aのうち、前記第二内輪11の軸方向内側に隣接する部分である軸方向中間部(後述する段部21の周囲)に、前記間座20を隙間嵌めで外嵌する。次いで、(D)に示す様な前記第一内輪10を、(E)に示す様に、前記嵌合面部13aのうち、前記間座20の軸方向内側に隣接する部分である軸方向内端寄り部分に、軸方向内側から圧入により外嵌する。そして、最後に、(F)に示す様に、前記ハブ本体12aの軸方向内端部に設けられた円筒部14のうち、前記第一内輪10よりも軸方向内側に突出した部分を外径側に塑性変形させる事でかしめ部15を形成すると共に、このかしめ部15により前記第一内輪10の大径側端面(軸方向内端面)を抑え付ける。
【0031】
上述の様な本例の車輪支持用複列円すいころ軸受ユニットに関しては、次の前提事項1、2が成立する。
<前提事項1>
前記嵌合面部13aに前記第一、第二両内輪10、11を圧入により外嵌すると、これに伴って、これら第一、第二両内輪10、11が拡径方向に弾性変形する(小径側の肉が大径側の肉よりも薄い為、小径側が大径側よりも比較的大きく拡径する態様で弾性変形する)事に伴い、前記第一、第二両内輪軌道7、8の傾斜角度が減少する。
即ち、前記嵌合面部13aに前記第一内輪10を圧入により外嵌する前の状態(自由状態)での前記第一内輪軌道7の傾斜角度θ1図3の(D)}と、同じく外嵌した後の傾斜角度Θ1図3の(E)}との関係は、θ1>Θ1となる。図4の(B)に、この関係を示す。
又、前記嵌合面部13aに前記第二内輪11を圧入により外嵌する前の状態(自由状態)での前記第二内輪軌道8の傾斜角度θ2図3の(A)}と、同じく外嵌した後の傾斜角度Θ2図3の(B)}との関係は、θ2>Θ2となる。図4の(A)に、この関係を示す。
尚、前記嵌合面部13aに前記第一内輪10(又は前記第二内輪11)を圧入により外嵌する事に伴って生じる前記第一内輪軌道7(又は前記第二内輪軌道8)の傾斜角度減少量(絶対値)δθa=θ1−Θ1(又はδθb=θ2−Θ2)と、前記嵌合面部13aに対する前記第一内輪10(又は前記第二内輪11)の圧入代△X1(又は△X2)との関係は、図5に示す様に、ほぼ直線(比例関係)になる。この関係は、実験や弾性FEM解析によって具体的に求める事ができる。
【0032】
<前提事項2>
前記かしめ部15を形成すると、これに伴って、前記第一内輪10のうちの大径側端部が拡径方向に弾性変形する事に伴い、前記第一内輪軌道7の傾斜角度が増大する。
即ち、前記かしめ部15を形成する前の状態での前記第一内輪軌道7の傾斜角度Θ1図3の(E)}と、同じく形成した後の傾斜角度φ1図3の(F)}との関係は、Θ1<φ1となる。図4の(B)に、この関係を示す。
尚、この前提事項2に関して、前記かしめ部15を形成する事に伴って生じる前記第一内輪軌道7の傾斜角度増大量(絶対値)δθk(=φ1−Θ1)は、やはり実験や弾塑性FEM解析によって具体的に求める事ができる。
【0033】
本例の場合には、以上に述べた様な前提事項1、2を考慮して、図1及び図3の(F)に示す様にハブ2aを組み立てた状態、即ち、前記かしめ部15を形成した状態での、前記第一内輪軌道7の傾斜角度φ1と、前記第二内輪軌道8の傾斜角度Θ2とを、互いに同一の適正範囲内に収める(高精度でφ1=Θ2とする)様にしている。この点に就いて、以下、具体的に説明する。
【0034】
先ず、上述した前提事項1より、次の(1)式及び(2)式が成立する。尚、前記嵌合面部13aに対する前記第一内輪10(又は前記第二内輪11)の圧入代が△X1(又は△X2)である場合の前記第一内輪軌道7(又は前記第二内輪軌道8)の傾斜角度減少量δθa(又はδθb)を、δθa(△X1){又はδθb(△X2)}と表記する。
Θ1 = θ1−δθa(△X1) −−−−−(1)
Θ2 = θ2−δθb(△X2) −−−−−(2)
次に、上述した前提事項2より、次の(3)式が成立する。
φ1 = Θ1+δθk = θ1−δθa(△X1)+δθk −−−−−(3)
尚、前記かしめ部15の形成に伴って、前記第二内輪軌道8の傾斜角度Θ2は変化しない。
【0035】
又、前記ハブ2aを組み立てた状態での、前記第一内輪軌道7の傾斜角度φ1と、前記第二内輪軌道8の傾斜角度Θ2とを、互いに同一の適正範囲内に収める(高精度でφ1=Θ2とする)為には、前記(2)式=前記(3)式とすれば良いので、次の(4)式の関係を満たす様にすれば良い。
−θ1+δθa(△X1)+θ2−δθb(△X2) = δθk −−−−−(4)
特に、θ1=θ2とする場合には、次の(5)式の関係を満たす様にすれば良い。
δθa(△X1)−δθb(△X2) = δθk −−−−−(5)
【0036】
但し、前記両圧入代△X1、△X2には、それぞれ上限値及び下限値を設定する必要がある。
即ち、これら両圧入代△X1、△X2を大きくし過ぎると、前記圧入に伴って前記第一、第二両内輪10、11に作用するフープ応力(円周方向応力)が過大になる。この結果、これら第一、第二両内輪10、11に割れが生じ易くなったり、前記第一、第二両内輪軌道7、8の寿命低下を招き易くなる。従って、この様な不都合が発生しない様にする為に、前記両圧入代△X1、△X2には、それぞれ上限値△Mを設定する必要がある。
一方、前記両圧入代△X1、△X2を小さくし過ぎると、前記嵌合面部13aと前記第一、第二両内輪10、11との嵌合部にクリープが生じ易くなる。従って、この様な不都合が発生しない様にする為に、前記両圧入代△X1、△X2には、それぞれ下限値△mを設定する必要がある。
つまり、前記両圧入代△X1、△X2は、次の(6)式の範囲内に収める必要がある。
△m≦(△X1、△X2)≦△M −−−−−(6)
【0037】
以上の説明をまとめると、図6〜7に示す様に、前記(6)式の範囲内で、前記(5)式(θ1=θ2とする場合)又は前記(4)式(θ1≠θ2とする場合)の関係を満足する様な設計を行えば、上述の様な不都合を生じる事なく、前記ハブ2aを組み立てた状態での、前記第一内輪軌道7の傾斜角度φ1と、前記第二内輪軌道8の傾斜角度Θ2とを、互いに同一の適正範囲内に収める(高精度でφ1=Θ2とする)事ができる。
【0038】
そこで、本例の場合には、この様な設計を行う為に、前記第一、第二両内輪10、11として、諸元(材質、自由状態での形状及び寸法等)が実質的に等しいものを使用している。つまり、前記嵌合面部13aに前記第一、第二両内輪10、11を圧入により外嵌する前の状態(自由状態)での、これら第一、第二両内輪10、11の内径寸法d1、d2を実質的に等しく(d1=d2と)し、且つ、前記第一、第二両内輪軌道7、8の傾斜角度θ1、θ2を実質的に等しく(θ1=θ2と)している。
【0039】
又、前記(5)式の関係を満足させる為に、前記嵌合面部13aのうち、前記第一内輪10を外嵌する部分と前記第二内輪11を外嵌する部分との間の位置である、前記間座20の内径側に重畳する位置に、部分円すい凸面(テーパ面)状の段部21を設けている。これにより、前記嵌合面部13aのうち、前記第一内輪10を外嵌する軸方向内側部分を、自由状態での外径寸法がD1である大径部22とし、前記第二内輪11を外嵌する軸方向外側部分を、自由状態での外径寸法がD2(<D1)である小径部23としている。そして、この様な径差(D2<D1)を設ける事に基づいて、前記第一内輪10の圧入代△X1=D1−d1を、前記第二内輪10の圧入代△X2=D2−d2よりも、前記(6)式の範囲内で大きく(△X1>△X2と)している。これにより、前記傾斜角度減少量δθa(△X1)を前記傾斜角度減少量δθb(△X2)よりも大きく{δθa(△X1)>δθb(△X2)と}すると共に、これら両傾斜角度減少量δθa(△X1)、δθb(△X2)同士の差δθa(△X1)−δθb(△X2)と、前記傾斜角度増大量δθkとを、実質的に等しくする事で、前記(5)式の関係を満足させる様にしている。
【0040】
上述の様に、本例の複列円すいころ軸受ユニット及びその製造方法の場合には、前記かしめ部15の形成に伴う前記第一内輪軌道7の傾斜角度増大量δθkだけでなく、前記嵌合面部13aに前記第一、第二両内輪10、11を圧入により外嵌する事に伴う前記第一、第二両内輪軌道7、8の傾斜角度減少量δθa(△X1)、δθb(△X2)をも考慮して、前記かしめ部15を形成した後の状態での前記第一内輪軌道7の傾斜角度φ1と前記第二内輪軌道8の傾斜角度Θ2との調整を行う。この為、これら両傾斜角度φ1、Θ2を、互いに同一の適正範囲の中央値(最も理想的な値)に十分に近づける(高精度でφ1=Θ2とする)事ができる。この結果、前記第一、第二両内輪軌道7、8及び第一、第二両外輪軌道4、5と各円すいころ3、3の転動面(図9参照)との当接状態を向上させる事ができる。従って、車輪支持用複列円すいころ軸受ユニットの耐久性の更なる向上要求に応えられる。
【0041】
又、本例の場合には、前記第一、第二両内輪10、11として、諸元(材質、形状、寸法等)が実質的に等しいものを使用する。この為、前記第一、第二両内輪軌道7、8に仕上げの研削加工を施す装置を共通化できる等に基づいて、品質及び生産性の確保と低コスト化とを図り易い。又、前記両内輪10、11の小径側端面同士の間に前記間座20を挟持すると共に、この間座20の内径側に重畳する位置に、前記嵌合面部13aの段部21を設けている。この為、この段部21に前記第一内輪10又は前記第二内輪11が外嵌された状態になる事を防止して、前記圧入代△X1又は△X2にばらつきが生じる等の悪影響が及ぶ事を防止できる。
【0042】
[実施の形態の第2例]
発明の実施の形態の第2例に就いて、図8を参照しつつ説明する。本例の場合には、ハブ本体12bを構成する回転側フランジ9の付け根部分の強度を向上させる為に、この回転側フランジ9の内側面の径方向内端部(段差面16)と嵌合面部13との連続部に存在する隅R部24aの曲率半径を、上述した第1例の場合(ハブ本体12aの隅R部24の曲率半径)よりも大きくしている。これに伴い、前記隅R部24aと対向する位置に配置される、第二内輪11aの内周面と大径側端面との連続部に存在するR面取り部26aの曲率半径も、上述した第1例の場合(第二内輪11のR面取り部26の曲率半径)よりも大きくしている。これにより、前記R面取り部26aが前記隅R部24aと干渉して、前記第二内輪11aの大径側端面が前記段差面16に当接しなくなる事を防止している。従って、本例の場合、前記第二内輪11aのR面取り部26aの曲率半径は、第一内輪10の内周面と大径側端面との連続部に存在するR面取り部25の曲率半径よりも大きくなっている。つまり、少なくともこの点で、前記第一、第二両内輪10、11aの諸元は異なっている。
【0043】
又、本例の場合には、前記(5)式の関係を満足させる為に、前記嵌合面部13のうち前記第一内輪10を外嵌する部分と前記第二内輪11aを外嵌する部分とを互いに連続した単一円筒面(自由状態での外径寸法D)とし、且つ、前記第一内輪10の自由状態での内径寸法d1を、前記第二内輪11aの自由状態での内径寸法d2よりも小さく(d1<d2と)する事に基づいて、前記第一内輪10の圧入代△X1=D−d1を、前記第二内輪11aの圧入代△X2=D−d2よりも、前記(6)式の範囲内で大きく(△X1>△X2と)している。これにより、第一内輪軌道7の傾斜角度減少量δθa(△X1)を第二内輪軌道8の傾斜角度減少量δθb(△X2)よりも大きく{δθa(△X1)>δθb(△X2)と}すると共に、これら両傾斜角度減少量δθa(△X1)、δθb(△X2)同士の差δθa(△X1)−δθb(△X2)と、傾斜角度増大量δθkとを、実質的に等しくする事で、前記(5)式の関係を満足させる様にしている。
【0044】
上述の様な本例の複列円すいころ軸受ユニット及びその製造方法の場合には、前記嵌合面部13を単一円筒面としており、この嵌合面部13の軸方向中間部に応力集中源となる段部を設けていない為、上述した第1例の場合に比べて、前記ハブ本体12bの強度を確保する設計を行い易い。更には、このハブ本体12bの生産性の確保と低コスト化とを図り易い。
その他の構成及び作用は、上述した第1例の場合と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
尚、図示は省略するが、上述した実施の形態の第2例の場合、前記第二内輪11aのR面取り部26aを、C面取り部に変更する事もできる。この場合に、このC面取り部の軸方向幅寸法及び径方向幅寸法を、前記第一内輪10のR面取り部25の曲率半径(実施の形態の第1例の第二内輪11のR面取り部26の曲率半径)よりも大きくすれば、上述した実施の形態の第2例の場合と同様、その分、前記回転側フランジ9の付け根部分に存在する隅R部24aの曲率半径を大きくでき、この付け根部分の強度を向上させる事ができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、従動輪用の車輪支持用複列円すいころ軸受ユニットに適用する事もできる。
又、本発明は、車輪支持用以外の複列円すいころ軸受ユニットに適用する事もできる。
又、本発明は、使用状態で外径側軌道輪部材が回転し、内径側軌道輪部材が回転しない複列円すいころ軸受ユニットに適用する事もできる。
又、本発明を実施する場合には、第一、第二両内輪の小径側端面同士の間に、必ずしも間座を挟持する必要はない。
又、本発明を実施する場合には、軸部材に第一、第二両内輪を圧入により外嵌する前の状態(自由状態)での第一、第二両内輪軌道の傾斜角度θ1、θ2を互いに異ならせる事もできるし、かしめ部を形成した後の状態での、前記第一内輪軌道の傾斜角度φ1の適正範囲と前記第二内輪軌道の傾斜角度Θ2の適正範囲とを互いに異ならせる事もできる。
【符号の説明】
【0046】
1 外輪
2、2a ハブ
3 円すいころ
4 第一外輪軌道
5 第二外輪軌道
6 静止側フランジ
7 第一内輪軌道
8 第二内輪軌道
9 回転側フランジ
10 第一内輪
11、11a 第二内輪
12、12a、12b ハブ本体
13、13a 嵌合面部
14 円筒部
15 かしめ部
16 段差面
17 保持器
18 組み合せシールリング
19 スプライン孔
20 間座
21 段部
22 大径部
23 小径部
24、24a 隅R部
25 R面取り部
26、26a R面取り部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9