特許第6183152号(P6183152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183152
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】温度補償型水晶発振器
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20170814BHJP
   H03H 9/10 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   H03B5/32 H
   H03H9/10
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-223961(P2013-223961)
(22)【出願日】2013年10月29日
(65)【公開番号】特開2015-88811(P2015-88811A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149734
【氏名又は名称】株式会社大真空
(74)【代理人】
【識別番号】100086737
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 秀憲
【審査官】 角張 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−015754(JP,A)
【文献】 特開平08−097668(JP,A)
【文献】 特開2002−271164(JP,A)
【文献】 特開2011−135128(JP,A)
【文献】 特開2001−077651(JP,A)
【文献】 特開2008−305841(JP,A)
【文献】 特開2013−187735(JP,A)
【文献】 特開2005−197957(JP,A)
【文献】 特開2001−274653(JP,A)
【文献】 特開2010−219719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/54
23/00−23/04
23/06−23/26
H03B5/30−5/42
H03H3/007−3/06
9/00−9/135
9/15−9/24
9/30−9/40
9/46−9/62
9/66
9/70
9/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッケージ内の水晶振動子支持部に導電性の接着剤によりATカット水晶片の表裏面に励振電極を形成した水晶振動子が片持ち状態で接着された温度補償型水晶発振器において、
前記接着剤の塗布径をa、前記パッケージの底壁部の厚みをbとして、0.857≦a/b≦1.143の関係式を満足するように、前記塗布径と、前記底壁部の厚みとが規定されており、
前記接着剤の硬化前の粘度が、300〜400dPa・sであり、
前記パッケージは、底壁部と、この底壁部の周縁上部周囲の側壁部とを備え、これらにより上部が開口し、内部に収納部を備えたものとなし、
前記開口は蓋部により閉じられていると共に、前記収納部内の前記側壁部の内側に段部が設けられ、当該段部が水晶振動子支持部とされ、
当該段部に接着剤により前記水晶振動子が片持ち状態で接着されると共に、前記収納部の底面である前記底壁部の上面に水晶振動子の動作制御用の回路素子が接合されており、
前記回路素子は、水晶振動子の周波数温度特性を補償する、
ことを特徴とする温度補償型水晶発振器。
【請求項2】
前記接着剤の塗布径は、300〜350μmの範囲である、請求項1に記載の温度補償型水晶発振器。
【請求項3】
前記底壁部の厚みは、225〜350μmの範囲である、請求項1または2に記載の温度補償型水晶発振器。
【請求項4】
前記接着剤は、前記水晶振動子支持部上に塗布された状態で、前記水晶振動子が所定の押し込み量で前記接着剤内に押し込まれている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の温度補償型水晶発振器。
【請求項5】
前記押し込み量は、20〜30μmである、請求項に記載の温度補償型水晶発振器。
【請求項6】
前記接着剤は、ATカット水晶片のX軸方向一方側端部の両角部からZ軸方向内側に塗布されている、請求項1〜のいずれか一項に記載の温度補償型水晶発振器。
【請求項7】
前記接着剤は、前記水晶振動子支持部上に塗布された下塗り接着剤である請求項1〜6のいずれか一項に記載の温度補償型水晶発振器。
【請求項8】
前記接着剤は、厚みが20〜30μmの範囲である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の温度補償型水晶発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周囲温度の変化による発振周波数(以下、単に周波数)の変動を抑制して温度補償を行う温度補償型水晶発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
温度補償型水晶発振器(TCXO:Temperature Compensated Crystal Oscillator)は、周囲温度の変化による周波数の変動を少なくして温度補償を行うようにしたものである。
【0003】
従来のこの種の温度補償型水晶発振器は、通信機器や情報機器等の様々な電子機器に用いられている(特許文献1参照)。
【0004】
それら電子機器の中には、GPS(全地球測位システム)で使用される電波信号(GPS信号)を取得できる機能を搭載した携帯電話端末などの通信機器があり、この種の通信機器では、ppbレベルの周波数変動(周波数偏差:Δf/f0)の許容範囲が非常に狭い。
【0005】
図12を参照して、従来の温度補償型水晶発振器の概略構成を説明すると、この温度補償型水晶発振器100は、パッケージ101と、このパッケージ101の内部に収納された水晶振動子102及び制御素子(IC)103とを有する。
【0006】
パッケージ101は、底壁部101aと、この底壁部101aの周縁に立設された側壁部101bと、上部開口を閉塞しパッケージ内部を気密封止する蓋部101cとを備え、これらにより内部に水晶振動子102や、この水晶振動子102の動作を制御する制御素子(集積回路素子)103を収納する収納部104を備えた構成となっている。
【0007】
水晶振動子102は、側壁部101bから内側に張り出した段部101dに接着剤105で片持ち支持され、また、制御素子103は、底壁部101aの内面上に接合されている。かかる温度補償型水晶発振器100は、図示略の通信機器内部の基板に実装端子106で実装される。
【0008】
こうした構造を有する従来の温度補償型水晶発振器100においては、制御素子103により水晶振動子102の発振動作が制御され、また、周囲温度の変化に対する周波数の変動を抑制する温度補償が制御されるようになっている。
【0009】
この温度補償方式には、各種あるが、例えば、周囲温度の変化に対応して容量が変化する電圧可変容量素子を設け、この電圧可変容量素子の周囲温度の変化に基づく容量変化に対応して温度補償を行うものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011−109227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記従来の温度補償型水晶発振器において、水晶振動子としてATカットの水晶片を用いて、GPS信号の取得機能付きの通信機器等に搭載すると、ppmレベルでの周波数変動に対しては温度補償制御が行われるはずが、周囲温度が0℃以下に下降すると、GPS信号を取得できず、通信ができなくなる現象が発生することがあった。このような現象の発生は、前記通信機器における通信上の信頼性を損なうという課題があった。
【0012】
本発明は、上記に鑑みて創作されたものであり、その目的とするところは、GPS信号の取得機能付きの通信機器等に搭載した場合に、周囲温度が0℃以下に下降しても、GPS信号の取得を可能とした温度補償型水晶発振器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、周囲温度が0℃以下に下降するとGPS信号を取得できない理由について、以下のように検討した。まず、温度補償型水晶発振器では、一般に、それが搭載される電子機器の使用が想定される温度領域において、ppmレベルの周波数変動について温度補償されている。そのため、この温度補償により、周囲温度が0℃以下に下降しても、GPS信号の取得ができるとされている。
【0014】
しかし、温度補償型水晶発振器について、水晶振動子をATカット水晶片の表裏面に励振電極を形成したものとし、かかる水晶振動子を低温と高温との間での温度変化サイクル試験を行ったところ、0℃以下の低温領域で、且つ、温度が下降するときにのみ、短時間ではあるが一時的にppbレベルで周波数が極端に大きく低下する現象が見られた。なお、この現象を本明細書では説明の都合で周波数ジャンプと称する。
【0015】
そこで、本発明者は、周波数ジャンプがGPS信号の取得ができなくなる原因ではないかと、以下のようにさらに検討した。
【0016】
まず、水晶片はその周波数温度特性に昇温、降温時の周波数差、いわゆるヒステリシス特性を有しており、低温→高温→低温と温度変化させた場合より、低温領域でのヒステリシス特性が悪い。一方、水晶片は接着剤により水晶振動子支持部に接着されているので、水晶片には接着剤からの応力が作用している。この応力は温度の下降に伴う接着剤の収縮に伴い増大し、これにより水晶振動子の周波数が低下する。
【0017】
そのため、本発明者は、水晶片の周波数温度特性のヒステリシスによる周波数減少と、接着剤の収縮による応力増大とにより、0℃以下の低温領域から温度が下降すると、周波数ジャンプが発生すると考え、まず、接着剤による応力を小さくするため、接着剤の塗布径を小さくした。
【0018】
しかし、それだけでは、周波数ジャンプの発生は抑制できなかった。そこで、パッケージの底壁部の厚みも接着剤の応力に直接ないし間接に関係していると考え、底壁部の厚みを種々に変更して実験したところ、前記接着剤の塗布径(a)と、前記底壁部の厚み(b)とを以下の関係にすると、前記周波数ジャンプの発生を抑制できた温度補償型水晶発振器が得られるようになった。
【0019】
すなわち、本発明による温度補償型水晶発振器は、パッケージ内の水晶振動子支持部に導電性の接着剤によりATカット水晶片の表裏面に励振電極を形成した水晶振動子を片持ち状態で接着した温度補償型水晶発振器において、前記接着剤の塗布径をa、前記パッケージの底壁部の厚みをbとして、0.857≦a/b≦1.143の関係を満足するように、前記塗布径と、前記底壁部の厚みとが規定されており、前記接着剤の硬化前の粘度が、300〜400dPa・sであり、前記パッケージは、底壁部と、この底壁部の周縁上部周囲の側壁部とを備え、これらにより上部が開口し、内部に収納部を備えたものとなし、前記開口は蓋部により閉じられていると共に、前記収納部内の前記側壁部の内側に段部が設けられ、当該段部が水晶振動子支持部とされ、当該段部に接着剤により前記水晶振動子が片持ち状態で接着されると共に、前記収納部の底面である前記底壁部の上面に水晶振動子の動作制御用の回路素子が接合されており、
前記回路素子は、水晶振動子の周波数温度特性を補償する、ことを特徴とする。
【0021】
本発明の温度補償型水晶発振器によると、周囲温度が0℃以下の低温側に下降しても、該水晶発振器内の水晶振動子の周波数ジャンプの発生が抑制されるので、当該水晶発振器をGPS信号の取得機能付きの電子機器に搭載すると、電子機器の周囲温度が0℃以下の低温側に下降しても、GPS信号を取得して通信等ができるようになった。
【0022】
なお、前記接着剤の塗布径は、好ましくは、300〜350μmの範囲である。
【0023】
さらに、前記底壁部の厚みは、好ましくは、225〜350μmの範囲である。
【0025】
さらに、前記水晶振動子の接着剤への押し込み量は、好ましくは、20〜30μmである。
【0026】
さらに、前記接着剤は、好ましくは、水晶片のX軸方向一方側端部の両角部からZ軸方向内側に塗布される。
【0027】
さらに、前記接着剤は、好ましくは、前記水晶振動子支持部に下塗りされる接着剤である。
【0028】
さらに、前記接着剤の厚みは、好ましくは、20〜30μmの範囲である。
【0030】
なお、本発明の温度補償型水晶発振器は、水晶振動子の逆周波数温度特性の制御信号により、水晶振動子の周波数温度特性をキャンセルできるものであれば特にその温度補償の構成には限定されず、例えば、アナログタイプや、LSI(集積回路素子)タイプのいずれをも含む。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、周囲温度が0℃以下に下降しても、水晶振動子の周波数温度特性における周波数ジャンプの発生が抑制されるので、通信機器等に搭載された場合に、GPS信号の取得を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施形態に係る温度補償型の水晶発振器の断面図である。
図2図1の平面図である。
図3】(a)は図1の要部の拡大図、(b)は図2の要部の拡大図である。
図4】水晶片の周波数温度特性図である。
図5】構造上のパラメータを変更してなる温度補償型の第1〜第6の水晶発振器に対する周波数温度特性の評価試験結果を示す表である。
図6】(a)は時間軸上における周囲温度の変化を示す図、(b)は前記(a)による第1の水晶発振器の周波数温度特性図である。
図7】(a)は時間軸上における周囲温度の変化を示す図、(b)は前記(a)による第2の水晶発振器の周波数温度特性図である。
図8】(a)は時間軸上における周囲温度の変化を示す図、(b)は前記(a)による第3の水晶発振器の周波数温度特性図である。
図9】(a)は時間軸上における周囲温度の変化を示す図、(b)は前記(a)による第4の水晶発振器の周波数温度特性図である。
図10】(a)は時間軸上における周囲温度の変化を示す図、(b)は前記(a)による第5の水晶発振器の周波数温度特性図である。
図11】(a)は時間軸上における周囲温度の変化を示す図、(b)は前記(a)による第6の水晶発振器の周波数温度特性図である。
図12】従来の温度補償型の水晶発振器の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係る温度補償型水晶発振器(以下、単に水晶発振器という)を説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる水晶発振器の断面図、図2は、図1の水晶発振器の接合材及び蓋部を省略した平面図、図3(a)は図1の要部の拡大図、図3(b)は図2の要部の拡大図である。また、図4は、水晶片の周波数温度特性図である。ただし、図1図2のA−A線から見た断面図である。
【0034】
まず、図1図3を参照して、発振器1は、パッケージ2と、このパッケージ2内の収納部3に収納された水晶振動子4及び制御素子5とを含む。
【0035】
パッケージ2は、絶縁性のセラミック基板の2層からなる底壁部6と、この底壁部6の周縁上に形成された絶縁性のセラミック基板の2層からなる側壁部7とを具備している。なお、底壁部6は、絶縁性のセラミック基板の2層に形成されたものに限定されるものではなく、単層の絶縁性のセラミック基板或いは3層以上の絶縁性のセラミック基板で形成されたものでもよい。
【0036】
また、側壁部7は、絶縁性のセラミック基板の2層に形成されたものに限定されるものではなく、3層以上の絶縁性のセラミック基板で形成されたものでもよい。
【0037】
さらにまた、絶縁性のセラミック基板の形成方法は、特に限定されず、公知の手法により形成されるとよい。
【0038】
これら底壁部6及び側壁部7における前記絶縁性のセラミック基板の各層の所定位置には、図示省略の配線導体が印刷処理により形成されたうえで、焼成されて一体成形されている。
【0039】
パッケージ2は、底壁部6と側壁部7とにより上部が開口し、内部に収納部3が形成され、側壁部7の上面には、金属製のリング8が取り付けられている。金属製のリング8の上面には、封止材を介して蓋部9がシーム溶接され、これによりパッケージ2は、全体が直方体形状をなし、収納部3は、その内部が気密封止された構造となっている。なお、前記封止材として銀ロウ材等のロウ材を用いたレーザー封止、電子ビーム封止による封止等でも適用できる。
【0040】
水晶振動子4は、周知の周波数温度特性を有するATカット水晶片4aと、このATカット水晶片4aの表裏両面に形成された平面視矩形形状の一対の励振電極4b1,4b2と、各励振電極4b1,4b2からATカット水晶片のX軸方向の一方側端部に共に引き出された引出電極4c1,4c2と、この引出電極4c1,4c2の引き出し端部に形成され、接着剤10a,10bに電気的且つ機械的に接続された接続電極4d1,4d2とからなる。ただし、図1図3(a)では図解の都合で前記電極の図示は略している。
【0041】
ATカット水晶片4aは、その結晶軸においてX軸方向を長辺、Z軸方向を短辺とする平面視矩形形状をなし、Y軸方向に所定の厚みを有したものとなっている。ATカット水晶片4aの周波数温度特性を図4に示す。図4に示すように、ATカット水晶片4aは、常温25℃で周波数f0での周波数偏差(Δf/f0)=0から、常温から周囲温度が下降すると、周波数偏差(Δf/f0)が増大すると共に、0℃から−10℃付近で周波数偏差が極大となる3次の周波数温度特性を有する。
【0042】
水晶振動子4は、パッケージ2の側壁部7から内側に張り出された、水晶振動子支持部としての段部7a上に接着剤10a,10bによりそのX軸方向の一方側端部が機械的に接着されることで、当該段部7aに水平姿勢の状態で安定して振動可能なように片持ち支持されている。
【0043】
なお、段部7aの上面には図示省略の金属膜からなる電極が形成されている。この電極は、段部7aの上面にタングステンメタライズが施され、その上部にニッケルメッキが施され、さらにその上部に金メッキが施された層構成を有する。この電極は、側壁部7及び底壁部6の内部に形成された図示省略の配線導体を介して、制御素子5に電気的に接続され、また、底壁部6の裏面に形成された図示省略の外部端子と電気的に接続されている。これら電極と外部端子との電気的接続は、パッケージ2の外周の角部の上下方向に導体(いわゆるキャスタレーション)を形成することによって行ってもよい。
【0044】
水晶振動子4のX軸方向一方側の端部は、段部7a上の図示省略の前記電極に搭載され、接着剤10a,10bにより、そのX軸方向一方側端部の接続電極4d1,4d2は、接着剤10a,10bに電気的に接続されている。
【0045】
接着剤10a,10bは、導電性を有し、段部7aに下塗りされる下塗り接着剤10a1,10b1と、その下塗り接着剤10a1,10b1上に水晶振動子4を接着した後で上塗りされる上塗り接着剤10a2,10b2とを含む。ただし、図2では図解の都合で上塗り接着剤10a2,10b2の図示を略している。
【0046】
水晶振動子4は、そのX軸方向の一方側端部が、接着剤10a,10bに接着されて段部7aに支持されると共に、接着剤10a,10b及び図示略の前記配線導体を介して、その接続電極4d1,4d2が制御素子5に接続されている。
【0047】
なお、ATカット水晶片4aの表面側の接続電極4d1は、ATカット水晶片4aの裏面側にまで延設されており、そのため、ATカット水晶片4aの両面の接続電極4d1,4d2は、下塗り接着剤10a1,10b1で接着されるので、上塗り接着剤10a2,10b2は省略してもよい。
【0048】
下塗り接着剤10a1,10b1は、図3(a)(b)に示すように所定の塗布径(a)で段部7a上に塗布されていると共に、その塗布位置(P1,P2)は、ATカット水晶片4aのX軸方向の一方側端部の両角部4a1,4a2から、所定距離(d1,d1)分、離隔したZ軸方向内側に位置している。下塗り接着剤10a1,10b1を前記Z軸方向内側の位置に塗布すると、ヒステリシス特性の良化の作用効果を有して好ましい。
【0049】
水晶振動子4のX軸方向の一方側端部は、段部7a上に塗布された下塗り接着剤10a1,10b1が硬化する前に、Y軸方向に所定の押し込み量(d2,d2)で押し込まれて当該下塗り接着剤10a1,10b1に接着されている。水晶振動子4のX軸方向の一方側端部を下塗り接着剤10a1,10b1が硬化する前に、Y軸方向に所定の押し込み量(d2,d2)で押し込むと、基板実装時に接着部にかかる応力の緩和の作用効果を有して好ましい。
【0050】
なお、接着剤10a,10bは、物性が類似している限り、その種類には限定されない。接着剤10a,10bとしては、例えば、金や銀等の導電性フィラーを含有するシリコーン系、ウレタン系、あるいは、変成エポキシ系等のペースト状の接着剤を用いることができる。
【0051】
接着剤10a,10bは、ディスペンサー等の塗布機械やその他により塗布される。接着剤10a,10bは、所定温度以上に加熱すると、熱硬化する。熱硬化は、例えば加熱炉内で行われるものであり、加熱炉外で接着剤10a,10bが塗布された後、加熱炉内に収納されて熱硬化される。
【0052】
制御素子5は、その下面に複数のパッド(図示省略)を有し、それらパッドはパッケージ2の収納部3の底面(底壁部6の表面)6a上の図示省略の内部端子パッドに、金等の金属バンプ5aを用いて超音波熱圧着によるフリップチップボンディングされる。この図示省略の内部端子パッドは、前記した図示略の前記配線導体に接続されている。
【0053】
制御素子5はまた、PROM等の記憶素子、補償信号発生回路、可変容量ダイオード、発振回路等を有するワンチップLSIにより構成され、水晶振動子4の図4に示す周波数温度特性を補償する。ただし、本発明の制御素子5は、こうしたワンチップLSIタイプに限定されるものではなく、サーミスタ、コンデンサ、抵抗、トランジスタ、可変容量ダイオード等の素子及び発振回路を用いて水晶の周波数温度特性を補償するアナログタイプの制御素子も含むものである。こうしたいずれのタイプのものも周知であり、水晶振動子4との配線の図示を略する。
【0054】
本実施形態の水晶発振器1においては、図3(a)(b)に示すように、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径をa(μm)、パッケージ2の底壁部6の厚みをb(μm)として、0.857≦a/b≦1.143の関係を満足するように、前記塗布径と、前記底壁部6の厚みとを規定することで、周囲温度が0℃から−20℃に下降しても、周波数ジャンプの発生が抑制されるようにしている。
【0055】
この場合、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径とパッケージ2の底壁部6の厚みは、前記関係を充足すれば、特にその大きさに制限されない。
【0056】
ただし、下塗り接着剤の塗布径は300〜350μmの範囲が好ましい。300μm未満であると、水晶振動子4を機械的に段部7aに接着固定する強度が不足して好ましくなく、350μm超であると、水晶振動子4に作用する応力が許容限界を超えて大きくなって周波数ジャンプ発生の抑制確率が高くなって好ましくない。
【0057】
パッケージ2の底壁部6の厚みは、225〜350μmの範囲が好ましい。225μm未満であると、パッケージ強度の低下により好ましくなく、350μm超であると、水晶発振器の全高が高くなることにより好ましくない。
【0058】
下塗り接着剤10a1,10b1の塗布厚みは、20〜30μmの範囲が好ましい。下塗り接着剤10a1,10b1の塗布厚みが20μm未満であると、基板実装時に接着部にかかる応力が増大することにより好ましくなく、30μm超であると、ブランクと接着剤との接触面積が小さくなることで接着強度が低下することにより好ましくない。
【0059】
下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前の粘度は、300〜400dPa・sの範囲が好ましい。下塗り接着剤10a1,10b1の粘度が300μm未満であると、基板実装時に接着部にかかる応力が増大することにより好ましくなく、400μm超であると、接着剤自身のブランクにかかる応力が増大することにより好ましくない。
【0060】
水晶振動子4は、20〜30μmの範囲の押し込み量で下塗り接着剤10a1,10b1に押し込まれることが好ましい。下塗り接着剤10a1,10bへの水晶振動子4の押し込み量が20μm未満であると、基板実装時に接着部にかかる応力の増大により好ましくなく、30μm超であると、ブランクの接着強度低下により好ましくない。
【0061】
下塗り接着剤10a1,10b1は、ATカット水晶片4aの短辺長(Z軸方向)を1.252mm±0.005mmとしたとき、ATカット水晶片4aのX軸方向一方側端部の両角部4a1,4a2からZ軸方向に0.12mm程度で離隔した内側に塗布(内側塗布)されることがヒステリシス特性が向上して好ましい。これは、ATカット水晶片4aを前記両角部4a1,4a2で接合するよりも、この接合に起因して当該ATカット水晶片4aに加わる応力を低減することができて好ましいことによる。
【実施例】
【0062】
図5の表に、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径(a)、パッケージ2の底壁部の厚み(b)、ATカット水晶片4aの厚み(BK厚み)、接着剤厚み、接着剤粘度、を種々に組み合わせて、製造した合計6個の第1〜第6の水晶発振器に対する評価試験の結果を示す。
【0063】
この評価試験に際しては、各水晶発振器それぞれに対して、周囲温度を常温である25℃に対して高温と低温との間を周期的に変化させ、それにより、周波数温度特性で周波数ジャンプが発生した水晶発振器を「NG」、周波数ジャンプが発生しなかった水晶発振器を「OK」と評価した。
【0064】
また、下塗り接着剤は、水晶片のX軸方向一方側端部に対して内側塗布とし、かつ、下塗り接着剤への水晶片の押し込み量は、25μm±5μmとした。
【0065】
第1の水晶発振器では、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径(a)は300(μm)、底壁部厚み(b)は350(μm)、ATカット水晶片4aの厚み(BK厚み)は64.23(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の厚みは30(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前粘度は350±50(dPa・s)であり、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前の塗布径(a)と、底壁部厚み(b)との比(a/b)は0.857である。
【0066】
下塗り接着剤10a1,10b1は硬化前の粘度が350±50(dPa・s)であり、種類としてはシリコン系接着剤を用いた。
【0067】
第1の水晶発振器の周波数温度特性では周波数ジャンプが発生せず、評価は「OK」であった。
【0068】
第2の水晶発振器では、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径(a)は400(μm)、底壁部厚み(b)は225(μm)、ATカット水晶片4aの厚み(BK厚み)は64.23(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の厚みは30(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前粘度は350±50(dPa・s)であり、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前の塗布径(a)と、底壁部厚み(b)との比(a/b)は1.778である。
【0069】
下塗り接着剤10a1,10b1は硬化前の粘度が350±50(dPa・s)であり、種類としてはシリコン系接着剤を用いた。
【0070】
第2の水晶発振器の周波数温度特性では周波数ジャンプが発生し、評価は「NG」であった。
【0071】
第3の水晶発振器では、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径(a)は300(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の厚みは10(μm)以下、底壁部厚み(b)は225(μm)、ATカット水晶片4aの厚み(BK厚み)は64.23(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前粘度はやや低い。下塗り接着剤の硬化前の塗布径a(μm)と、底壁部厚み(μm)bとの比(a/b)は1.333である。
【0072】
下塗り接着剤10a1,10b1は硬化前の粘度がやや低い。種類としてはシリコン系接着剤を用いた。
【0073】
第3の水晶発振器の周波数温度特性では周波数ジャンプが発生し、評価は「NG」であった。
【0074】
第4の水晶発振器では、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径(a)は300(μm)、底壁部厚み(b)は225(μm)、ATカット水晶片4aの厚み(BK厚み)は64.23(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の厚み(a)は10(μm)以下、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前粘度は低い。下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前の塗布径(aと、底壁部厚み(b)との比(a/b)は1.333である。
【0075】
下塗り接着剤10a1,10b1は硬化前の粘度が低く、種類としてはシリコン系接着剤を用いた。
第4の水晶発振器の周波数温度特性では周波数ジャンプが発生し、評価は「NG」であった。
【0076】
第5の水晶発振器では、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径(a)は300(μm)、底壁部厚み(b)は350(μm)、ATカット水晶片4aの厚み(BK厚み)は64.23(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の厚みは30(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前粘度は350±50(dPa・s)であり、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前の塗布径(a)と、底壁部厚み(b)との比(a/b)は0.857である。
【0077】
下塗り接着剤10a1,10b1は硬化前の粘度が350±50(dPa・s)であり、種類としてはシリコン系接着剤を用いた。
【0078】
第5の水晶発振器の周波数温度特性では周波数ジャンプが発生せず、評価は「OK」であった。
【0079】
第6の水晶発振器では、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径(a)は400(μm)、底壁部厚み(b)は350(μm)、ATカット水晶片4aの厚み(BK厚み)は64.23(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の厚みは30(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前粘度は350±50(dPa・s)であり、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前の塗布径(a)と、底壁部厚み(b)との比(a/b)は1.143である。
【0080】
下塗り接着剤10a1,10b1は硬化前の粘度が350±50(dPa・s)であり、種類としてはシリコン系接着剤を用いた。
【0081】
第6の水晶発振器の周波数温度特性では周波数ジャンプが発生せず、評価は「OK」であった。
【0082】
以上の評価試験を検討した。
【0083】
第1〜第6の水晶発振器では、下塗り接着剤の塗布径と、底壁部厚みとの比率が、1.143以下ものは、いずれも評価は「OK」であるのに対して、比率が、1.3より大きいものは、いずれも評価は「NG」であった。
【0084】
この評価試験では、第1〜第6の水晶発振器の水晶片厚みは、いずれも、64.23μmと同数値とし、第1〜第6の水晶発振器の下塗り接着剤の厚みは、30μm,30μm,10μm以下,10μm以下,30μm,30μmとした。厚みが10μm以下となる第3、第4の水晶発振器では、下塗り接着剤の粘度が、いずれも低いため、厚みを他の水晶発振器と同程度に確保できなかった。
【0085】
また、試験結果では、下塗り接着剤は物性が類似している限りでは、その種類の影響は無いことが分かるが、厚みを有するので、粘度設定が周波数ジャンプの発生を抑制するうえで重要であることが分かる。粘度が低いものでは、接着剤を塗布した場合に接着剤が拡がりやすく、厚みを確保出来ないので、周波数温度特性における0℃以下に降下するときのヒステリシスが大きいために、周波数ジャンプが発生しやすい評価結果となった。
【0086】
以上から、周波数ジャンプの発生を抑制するには、下塗り接着剤の塗布径と、底壁部の厚みとの比率が1.3以下の関係を満足するとよいが、さらに、良好に周波数ジャンプの発生を抑制するには、下塗り接着剤の粘度、内側塗布、水晶片の押し込み量を所定の数値の範囲内に規定することが好ましい。さらに、底壁部の厚みが厚い方が、水晶片への応力の低減に好ましいことも分かる。
【0087】
なお、上記表における第1〜第6の水晶発振器の評価試験は、具体的には、それぞれ図6(a)〜図11(a)で示すように周囲温度の変化サイクルの下で行ったものである。図6(a)〜図11(a)において、横軸は時間(s:秒)、縦軸は温度(℃)を示す。
【0088】
図6(b)〜図11(b)は、横軸が時間(s:秒)、右縦軸がppmレベルの周波数変化量(Δf)であり、左縦軸がppbレベルの1秒当たりの周波数変化量(Δf/s)である。ラインL1は、ppmレベルでの周波数変化量(Δf)を示す線であり、ラインL2は、1秒当たりにppbレベルで周波数変化がどの程度変化するかを示すスロープ線である。また、J1〜J6は周波数ジャンプを示す。
【0089】
第1の水晶発振器では、図6(a)に示す周囲温度の変化サイクルに対して、図6(b)のラインL2に示すように、周囲温度0〜−20℃の範囲で且つ周囲温度が下降する途中であっても、周波数ジャンプの発生はなく、周波数温度特性の評価結果は「OK」であり、GPS信号を取得することができた。
【0090】
第2の水晶発振器では、図7(a)に示す周囲温度の変化サイクルに対して、図7(b)のラインL2に示すように、周囲温度0〜−20℃の範囲で且つ周囲温度が下降する途中で周波数ジャンプJ1,J2が発生し、周波数温度特性の評価結果は図5の表に示すように「NG」であり、GPS信号を取得することができなかった。
【0091】
第3の水晶発振器では、図8(a)に示す周囲温度の変化サイクルに対して、図8(b)のラインL2に示すように、周囲温度0〜−20℃の範囲で且つ周囲温度が下降する途中で周波数ジャンプJ3,J4が発生し、周波数温度特性の評価結果は図5の表に示すように「NG」であり、GPS信号を取得することができなかった。
【0092】
第4の水晶発振器では、図9(a)に示す周囲温度の変化サイクルに対して、図9(b)のラインL2に示すように、周囲温度0〜−20℃の範囲で且つ周囲温度が下降する途中で周波数ジャンプJ5,J6が発生し、周波数温度特性の評価結果は図5の表に示すように「NG」であり、GPS信号を取得することができなかった。
【0093】
第5の水晶発振器では、図10(a)に示す周囲温度の変化サイクルに対して、図10(b)のラインL2に示すように、周囲温度0〜−20℃の範囲で且つ周囲温度が下降する途中であっても、周波数ジャンプの発生はなく、周波数温度特性の評価結果は図5の表に示すように「OK」であり、GPS信号を取得することができた。
【0094】
第6の水晶発振器では、図11(a)に示す周囲温度の変化サイクルに対して、図11(b)のラインL2に示すように、周囲温度0〜−20℃の範囲で且つ周囲温度が下降する途中であっても、周波数ジャンプの発生はなく、周波数温度特性の評価結果は図5の表に示すように「OK」であり、GPS信号を取得することができた。
【0095】
以上を総合すると、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径をa、前記パッケージの底壁部の厚みをbとして、a/b<1.3の関係を満足するように、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径(a)と、底壁部厚み(b)とが規定されていると、当該水晶発振器を、GPS信号の取得機能付きの電子機器に搭載すると、周囲温度が0℃以下の低温側に下降しても、周波数ジャンプの発生が抑制されて、電子機器においては、GPS信号の取得ができるようになった。
【0096】
なお、実施形態の水晶発振器は、水晶振動子の周波数温度特性を補正する制御信号により、水晶振動子の周波数温度特性をキャンセルするものであり、記憶素子を有するワンチップLSI及び可変容量ダイオード等を用いて水晶の周波数温度特性を補償するLSIタイプであるが、アナログタイプも含む。アナログタイプは、サーミスタ、コンデンサ、抵抗、トランジスタ及び可変容量ダイオード等の素子を用いて水晶の周波数温度特性を補償するものである。
【0097】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形態で実施できる。したがって、前述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、本発明の範囲は特許請求の範囲に示すものであって、明細書本文には何ら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0098】
1 水晶発振器
2 パッケージ
3 収納部
4 水晶振動子
4a ATカット水晶片
4b1,4b2 励振電極
4c1,4c2 引出電極
4d1,4d2 接続電極
5 制御素子
6 底壁部
7 側壁部
7a 段部(水晶振動子支持部)
8 封止材
9 蓋部
10a1,10b1 下塗り接着剤
図1
図2
図3
図4
図5
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