【実施例】
【0062】
図5の表に、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径(a)、パッケージ2の底壁部の厚み(b)、ATカット水晶片4aの厚み(BK厚み)、接着剤厚み、接着剤粘度、を種々に組み合わせて、製造した合計6個の第1〜第6の水晶発振器に対する評価試験の結果を示す。
【0063】
この評価試験に際しては、各水晶発振器それぞれに対して、周囲温度を常温である25℃に対して高温と低温との間を周期的に変化させ、それにより、周波数温度特性で周波数ジャンプが発生した水晶発振器を「NG」、周波数ジャンプが発生しなかった水晶発振器を「OK」と評価した。
【0064】
また、下塗り接着剤は、水晶片のX軸方向一方側端部に対して内側塗布とし、かつ、下塗り接着剤への水晶片の押し込み量は、25μm±5μmとした。
【0065】
第1の水晶発振器では、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径(a)は300(μm)、底壁部厚み(b)は350(μm)、ATカット水晶片4aの厚み(BK厚み)は64.23(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の厚みは30(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前粘度は350±50(dPa・s)であり、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前の塗布径(a)と、底壁部厚み(b)との比(a/b)は0.857である。
【0066】
下塗り接着剤10a1,10b1は硬化前の粘度が350±50(dPa・s)であり、種類としてはシリコン系接着剤を用いた。
【0067】
第1の水晶発振器の周波数温度特性では周波数ジャンプが発生せず、評価は「OK」であった。
【0068】
第2の水晶発振器では、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径(a)は400(μm)、底壁部厚み(b)は225(μm)、ATカット水晶片4aの厚み(BK厚み)は64.23(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の厚みは30(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前粘度は350±50(dPa・s)であり、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前の塗布径(a)と、底壁部厚み(b)との比(a/b)は1.778である。
【0069】
下塗り接着剤10a1,10b1は硬化前の粘度が350±50(dPa・s)であり、種類としてはシリコン系接着剤を用いた。
【0070】
第2の水晶発振器の周波数温度特性では周波数ジャンプが発生し、評価は「NG」であった。
【0071】
第3の水晶発振器では、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径(a)は300(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の厚みは10(μm)以下、底壁部厚み(b)は225(μm)、ATカット水晶片4aの厚み(BK厚み)は64.23(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前粘度はやや低い。下塗り接着剤の硬化前の塗布径a(μm)と、底壁部厚み(μm)bとの比(a/b)は1.333である。
【0072】
下塗り接着剤10a1,10b1は硬化前の粘度がやや低い。種類としてはシリコン系接着剤を用いた。
【0073】
第3の水晶発振器の周波数温度特性では周波数ジャンプが発生し、評価は「NG」であった。
【0074】
第4の水晶発振器では、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径(a)は300(μm)、底壁部厚み(b)は225(μm)、ATカット水晶片4aの厚み(BK厚み)は64.23(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の厚み(a)は10(μm)以下、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前粘度は低い。下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前の塗布径(aと、底壁部厚み(b)との比(a/b)は1.333である。
【0075】
下塗り接着剤10a1,10b1は硬化前の粘度が低く、種類としてはシリコン系接着剤を用いた。
第4の水晶発振器の周波数温度特性では周波数ジャンプが発生し、評価は「NG」であった。
【0076】
第5の水晶発振器では、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径(a)は300(μm)、底壁部厚み(b)は350(μm)、ATカット水晶片4aの厚み(BK厚み)は64.23(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の厚みは30(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前粘度は350±50(dPa・s)であり、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前の塗布径(a)と、底壁部厚み(b)との比(a/b)は0.857である。
【0077】
下塗り接着剤10a1,10b1は硬化前の粘度が350±50(dPa・s)であり、種類としてはシリコン系接着剤を用いた。
【0078】
第5の水晶発振器の周波数温度特性では周波数ジャンプが発生せず、評価は「OK」であった。
【0079】
第6の水晶発振器では、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径(a)は400(μm)、底壁部厚み(b)は350(μm)、ATカット水晶片4aの厚み(BK厚み)は64.23(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の厚みは30(μm)、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前粘度は350±50(dPa・s)であり、下塗り接着剤10a1,10b1の硬化前の塗布径(a)と、底壁部厚み(b)との比(a/b)は1.143である。
【0080】
下塗り接着剤10a1,10b1は硬化前の粘度が350±50(dPa・s)であり、種類としてはシリコン系接着剤を用いた。
【0081】
第6の水晶発振器の周波数温度特性では周波数ジャンプが発生せず、評価は「OK」であった。
【0082】
以上の評価試験を検討した。
【0083】
第1〜第6の水晶発振器では、下塗り接着剤の塗布径と、底壁部厚みとの比率が、
1.143以下ものは、いずれも評価は「OK」であるのに対して、比率が、1.3より大きいものは、いずれも評価は「NG」であった。
【0084】
この評価試験では、第1〜第6の水晶発振器の水晶片厚みは、いずれも、64.23μmと同数値とし、第1〜第6の水晶発振器の下塗り接着剤の厚みは、30μm,30μm,10μm以下,10μm以下,30μm,30μmとした。厚みが10μm以下となる第3、第4の水晶発振器では、下塗り接着剤の粘度が、いずれも低いため、厚みを他の水晶発振器と同程度に確保できなかった。
【0085】
また、試験結果では、下塗り接着剤は物性が類似している限りでは、その種類の影響は無いことが分かるが、厚みを有するので、粘度設定が周波数ジャンプの発生を抑制するうえで重要であることが分かる。粘度が低いものでは、接着剤を塗布した場合に接着剤が拡がりやすく、厚みを確保出来ないので、周波数温度特性における0℃以下に降下するときのヒステリシスが大きいために、周波数ジャンプが発生しやすい評価結果となった。
【0086】
以上から、周波数ジャンプの発生を抑制するには、下塗り接着剤の塗布径と、底壁部の厚みとの比率が1.3以下の関係を満足するとよいが、さらに、良好に周波数ジャンプの発生を抑制するには、下塗り接着剤の粘度、内側塗布、水晶片の押し込み量を所定の数値の範囲内に規定することが好ましい。さらに、底壁部の厚みが厚い方が、水晶片への応力の低減に好ましいことも分かる。
【0087】
なお、上記表における第1〜第6の水晶発振器の評価試験は、具体的には、それぞれ
図6(a)〜
図11(a)で示すように周囲温度の変化サイクルの下で行ったものである。
図6(a)〜
図11(a)において、横軸は時間(s:秒)、縦軸は温度(℃)を示す。
【0088】
図6(b)〜
図11(b)は、横軸が時間(s:秒)、右縦軸がppmレベルの周波数変化量(Δf)であり、左縦軸がppbレベルの1秒当たりの周波数変化量(Δf/s)である。ラインL1は、ppmレベルでの周波数変化量(Δf)を示す線であり、ラインL2は、1秒当たりにppbレベルで周波数変化がどの程度変化するかを示すスロープ線である。また、J1〜J6は周波数ジャンプを示す。
【0089】
第1の水晶発振器では、
図6(a)に示す周囲温度の変化サイクルに対して、
図6(b)のラインL2に示すように、周囲温度0〜−20℃の範囲で且つ周囲温度が下降する途中であっても、周波数ジャンプの発生はなく、周波数温度特性の評価結果は「OK」であり、GPS信号を取得することができた。
【0090】
第2の水晶発振器では、
図7(a)に示す周囲温度の変化サイクルに対して、
図7(b)のラインL2に示すように、周囲温度0〜−20℃の範囲で且つ周囲温度が下降する途中で周波数ジャンプJ1,J2が発生し、周波数温度特性の評価結果は
図5の表に示すように「NG」であり、GPS信号を取得することができなかった。
【0091】
第3の水晶発振器では、
図8(a)に示す周囲温度の変化サイクルに対して、
図8(b)のラインL2に示すように、周囲温度0〜−20℃の範囲で且つ周囲温度が下降する途中で周波数ジャンプJ3,J4が発生し、周波数温度特性の評価結果は
図5の表に示すように「NG」であり、GPS信号を取得することができなかった。
【0092】
第4の水晶発振器では、
図9(a)に示す周囲温度の変化サイクルに対して、
図9(b)のラインL2に示すように、周囲温度0〜−20℃の範囲で且つ周囲温度が下降する途中で周波数ジャンプJ5,J6が発生し、周波数温度特性の評価結果は
図5の表に示すように「NG」であり、GPS信号を取得することができなかった。
【0093】
第5の水晶発振器では、
図10(a)に示す周囲温度の変化サイクルに対して、
図10(b)のラインL2に示すように、周囲温度0〜−20℃の範囲で且つ周囲温度が下降する途中であっても、周波数ジャンプの発生はなく、周波数温度特性の評価結果は
図5の表に示すように「OK」であり、GPS信号を取得することができた。
【0094】
第6の水晶発振器では、
図11(a)に示す周囲温度の変化サイクルに対して、
図11(b)のラインL2に示すように、周囲温度0〜−20℃の範囲で且つ周囲温度が下降する途中であっても、周波数ジャンプの発生はなく、周波数温度特性の評価結果は
図5の表に示すように「OK」であり、GPS信号を取得することができた。
【0095】
以上を総合すると、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径をa、前記パッケージの底壁部の厚みをbとして、a/b<1.3の関係を満足するように、下塗り接着剤10a1,10b1の塗布径(a)と、底壁部厚み(b)とが規定されていると、当該水晶発振器を、GPS信号の取得機能付きの電子機器に搭載すると、周囲温度が0℃以下の低温側に下降しても、周波数ジャンプの発生が抑制されて、電子機器においては、GPS信号の取得ができるようになった。
【0096】
なお、実施形態の水晶発振器は、水晶振動子の周波数温度特性を補正する制御信号により、水晶振動子の周波数温度特性をキャンセルするものであり、記憶素子を有するワンチップLSI及び可変容量ダイオード等を用いて水晶の周波数温度特性を補償するLSIタイプであるが、アナログタイプも含む。アナログタイプは、サーミスタ、コンデンサ、抵抗、トランジスタ及び可変容量ダイオード等の素子を用いて水晶の周波数温度特性を補償するものである。
【0097】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形態で実施できる。したがって、前述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、本発明の範囲は特許請求の範囲に示すものであって、明細書本文には何ら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は全て本発明の範囲内のものである。