特許第6183170号(P6183170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183170
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】エンジンの除熱量制御システム
(51)【国際特許分類】
   F01P 5/12 20060101AFI20170814BHJP
   F01P 3/20 20060101ALI20170814BHJP
   F01P 7/16 20060101ALI20170814BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20170814BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20170814BHJP
   F01N 3/025 20060101ALI20170814BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   F01P5/12 G
   F01P3/20 L
   F01P3/20 F
   F01P7/16 504B
   F01N3/20 D
   F01N3/24 E
   F01N3/025 101
   F02D45/00 310R
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-236900(P2013-236900)
(22)【出願日】2013年11月15日
(65)【公開番号】特開2015-96708(P2015-96708A)
(43)【公開日】2015年5月21日
【審査請求日】2016年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】大橋 伸匡
【審査官】 佐藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−207495(JP,A)
【文献】 特開2013−113204(JP,A)
【文献】 特開2013−124563(JP,A)
【文献】 特開2002−161748(JP,A)
【文献】 特開2004−116310(JP,A)
【文献】 特開2010−281213(JP,A)
【文献】 特開2011−001933(JP,A)
【文献】 特開2012−077630(JP,A)
【文献】 特開2012−082723(JP,A)
【文献】 特開2012−082724(JP,A)
【文献】 特開2011−169237(JP,A)
【文献】 特開2003−097273(JP,A)
【文献】 特開2005−016345(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0070427(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 5/12
F01P 3/20
F01P 7/16
F01N 3/18−24
F01N 3/025
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気系にSCRとDPFを備えた後処理装置を接続し、排気ガスを後処理装置に適した温度に上昇させるに際し、エンジンを冷却すべく第1ラジエターと第1ポンプを備えたエンジン冷却水回路とEGRクーラを冷却すべく第2ラジエターと第2ポンプとを備えたEGR冷却水回路とを、別系統で形成し、前記後処理装置に至る排気系に排気ガス温度センサを設けると共に前記後処理装置にSCR入口温度センサを設け、前記排気ガス温度センサとSCR入口温度センサの温度が、それぞれ閾値未満のとき前記第1ポンプと第2ポンプを停止、或いは独立に作動させて、それぞれの除熱量を制御して、燃費の悪化を最小限に抑えた上で、排気ガス温度を上昇させることを特徴とするエンジンの除熱量制御システム。
【請求項2】
前記排気ガス温度センサとSCR入口温度センサの温度が、それぞれ閾値以上になったとき第1ポンプと第2ポンプを駆動する請求項1記載のエンジンの除熱量制御システム。
【請求項3】
前記エンジン冷却水回路には、インタークーラが接続され、排気ガス温度センサとSCR入口温度センサの温度が、それぞれ閾値未満のときインタークーラへの冷却水供給を停止し、前記排気ガス温度センサとSCR入口温度センサの温度が、それぞれ閾値以上になったとき、前記インタークーラに冷却水を流すようにした請求項1または2記載のエンジンの除熱量制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気系にDPFやSCR等からなる後処理装置を接続したエンジンの除熱量制御システムに係り、特に、エンジンの除熱量を制御して排気ガス温度を上昇させるエンジンの除熱量制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排気系には、PM(粒状物質)除去用のDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)や、NOx除去用のSCR(選択還元触媒)などからなる後処理装置が接続されている。
【0003】
この後処理装置では、SCRの上流側で尿素水を加水分解するためには、排気ガス温度が170℃以上必要であり、またDPFで堆積したPMを燃焼させるには、排気ガス温度が250〜500℃程度が必要である。
【0004】
ディーゼルエンジンにおける排気ガス温度を上昇させる手段として、以下の2つに大別されると考えられる。
【0005】
(1)筒内ガス熱容量を小さくして排気ガス温度を上昇させる。
【0006】
(2)投入エネルギ量を増加させて排気エネルギを増加させ、排気ガス温度を上昇させる。
【0007】
(1)については、従来から吸気バルブ絞りや吸気バルブの開弁時期の制御により排気ガス温度を上昇させることが行われており、(2)についても、アフター噴射やポスト噴射、或いは排気管燃料噴射によって排気ガス温度の昇温が試みられてきた。
【0008】
しかし、両手段とも燃費悪化が避けられない問題がある。
【0009】
特に、(2)については、余分に投入したエネルギは主に排気エネルギの増加に費やされているだけであり、機関の軸出力にはほとんどが転換されていない。したがって投入エネルギの増加による排気ガス昇温は燃費の大幅な悪化を伴うのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平09−287528号公報
【特許文献2】特開平10−252578号公報
【特許文献3】特開2011−214566号公報
【特許文献4】特開2012−041904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように従来は、排気ガス昇温のために、アフター噴射やポスト噴射、或いは排気管噴射によって、投入エネルギを増加させる手段が行われている。これらの投入エネルギは、排気エネルギを増加することを目的としているため、機関の軸出力にはほとんどが転換されていない。したがって投入エネルギの増加による排気ガス昇温は燃費の大幅な悪化を伴う。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、燃費を悪化させることなく排気ガス温度を上昇させることができるエンジンの除熱量制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、エンジンの排気系にSCRとDPFを備えた後処理装置を接続し、排気ガスを後処理装置に適した温度に上昇させるに際し、エンジンを冷却すべく第1ラジエターと第1ポンプを備えたエンジン冷却水回路とEGRクーラを冷却すべく第2ラジエターと第2ポンプとを備えたEGR冷却水回路とを、別系統で形成し、前記後処理装置に至る排気系に排気ガス温度センサを設けると共に前記後処理装置にSCR入口温度センサを設け、前記排気ガス温度センサとSCR入口温度センサの温度が、それぞれ閾値未満のとき前記第1ポンプと第2ポンプを停止、或いは独立に作動させて、それぞれの除熱量を制御して、燃費の悪化を最小限に抑えた上で、排気ガス温度を上昇させることを特徴とするエンジンの除熱量制御システムである。
【0014】
前記排気ガス温度センサとSCR入口温度センサの温度が、それぞれ閾値以上になったとき第1ポンプと第2ポンプを駆動するのが好ましい。
【0015】
前記エンジン冷却水回路には、インタークーラが接続され、排気ガス温度センサとSCR入口温度センサの温度が、それぞれ閾値未満のときインタークーラへの冷却水供給を停止し、前記排気ガス温度センサとSCR入口温度センサの温度が、それぞれ閾値以上になったとき、前記インタークーラに冷却水を流すようにするのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、後処理装置に流すに適した排気ガスの温度に上昇させる際に、エンジンの除熱量を制御することで、燃費の悪化を招くことなく排気ガスの温度を上昇させることができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のエンジンの除熱量制御システムにおけるエンジンの冷却水回路を示す図である。
図2】本発明のエンジンの吸排気系とエンジン冷却水回路とEGR冷却水回路とからなるエンジン除熱量制御のシステム構成を示した図である。
図3】従来制御と本発明の除熱量制御における排気ガス温度と、それらの燃費を説明する図である。
図4図4(a)は、キースイッチONからSCRでNOx除去(尿素水噴射)するまでの排気ガス温度の経時変化を示し、実線aは本発明の制御、点線bは従来の制御なしの排気ガス温度の経時変化を示し、図4(b)は、従来の制御なしのときのエンジンの各機器のエネルギ量(仕事量)、図4(c)は、本発明の制御でのエンジンの各機器のエネルギ量(仕事量)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0019】
先ず図1により、冷却水回路を説明する。
【0020】
図1において、エンジン10には、エンジン冷却水回路11が設けられる。このエンジン冷却水回路11は、第1ポンプ12からの冷却水が、オイルクーラ13、シリンダブロック14、シリンダヘッド15を通り、サーモスタット弁TVを介して第1ラジエター17に流れ、そこで大気で冷却された後、第1ポンプに戻るようにされ、また、シリンダブロック14からの冷却水の一部が分岐路11aにてタービン16Tとコンプレッサ16Cからなるターボチャージャ16の軸受け部16Bに流れ、シリンダヘッド15の出口側に戻るようにされる。また図2で説明するがエンジン冷却水回路11の冷却水はインタークーラ26にも供給されるようになっている。
【0021】
EGRクーラ27を冷却するEGR冷却水回路18は、第2ポンプ19からの冷却水が循環路20にてEGRクーラ27に流れてEGRクーラ27内のEGRガスを冷却した後、第2ラジエター21に流れ、そこで大気で冷却された後、第2ポンプ19に戻るようにされる。
【0022】
第1ポンプ12と第2ポンプ19は、それぞれ電磁クラッチ22、23を介してエンジン10のクランク軸とプーリ&ベルト(図示せず)で駆動されるようになっている。
【0023】
電磁クラッチ22、23はECU(エンジンコントロールユニット)24にて断接される。ECU24は、ターボチャージャ16のタービン16Tの排気通路に設けた排気ガス温度センサ25等の検出値に基づいて電磁クラッチ22、23を断接して、第1ポンプ12と第2ポンプ19をON・OFF制御するようになっている。
【0024】
図2は、エンジン10の吸排気系と、エンジン冷却水回路11と、EGR冷却水回路18とからなるエンジン除熱量制御のシステム構成図を示したものである。
【0025】
先ず、吸気は、ターボチャージャ16のコンプレッサ16Cで圧縮されインタークーラ26で冷却され、吸気マニホールド28からエンジン10内の各気筒に吸気され、各気筒からの排気ガスが排気マニホールド29からターボチャージャ16のタービン16Tに流れ、排気系に接続した後処理装置30に流れて、排気ガス中のNOxが除去されると共にPMが捕集されて大気に排出される。
【0026】
後処理装置30は、詳細は図示していないが、未燃HCを酸化して排気ガス温度を上昇させるDOC(酸化触媒)、PMを捕集するDPF、NOxを、尿素の加水分解で発生したアンモニアで脱硝するSCR、アンモニアスリップを防止するRDOC(後段酸化触媒)が順次配置されて構成される。
【0027】
排気マニホールド29と吸気マニホールド28とにはEGR(排気再循環)管31が接続され、そのEGR管31にEGRクーラ27が接続されると共にEGRバルブ32が接続される。
【0028】
エンジン冷却水回路11は、第1ラジエター17で冷却した冷却水を、第1ポンプ12にて、図1で説明したエンジン10のオイルクーラ13、シリンダブロック14、シリンダヘッド15に流す他に、インタークーラバルブ33を介してインタークーラ26に流せるようになっている。
【0029】
また、EGR冷却水回路18は、エンジン冷却水回路11と別系統で形成され、第2ラジエター21で冷却した冷却水を、第2ポンプ19でEGRクーラ27に流せるようになっている。
【0030】
第1ポンプ12と第2ポンプ19とは、それぞれ電磁クラッチ22、23の接により、エンジン10のクランク軸からの回転がプーリ&ベルトで伝達されて駆動され、電磁クラッチ22、23の断で、第1ポンプ12と第2ポンプ19がそれぞれ停止できるようになっている。
【0031】
この電磁クラッチ22、23の断接はECU24にて制御される。ECU24は、排気マニホールド29に設けた排気ガス温度センサ25の検出値と、後処理装置30に設けたSCR入口温度センサ35の検出値を基に、設定した閾値未満のときには、電磁クラッチ22、23を断として、第1ポンプ12と第2ポンプ19を停止とし、閾値以上のときには電磁クラッチ22、23を接として第1ポンプ12と第2ポンプ19を駆動するようになっている。また、ECU24は、運転状況に応じてEGRバルブ32のON/OFF制御をし、またインタークーラバルブ33のON/OFF制御するようになっている。
【0032】
なお、排気ガス温度センサ25は、図1では、タービン16Tの下流に設けた例を、図2では排気マニホールド29に設けた例を示しているが、後処理装置30に至る排気系であれば、いずれの位置に設けてもよい。
【0033】
次に、本発明のエンジンの除熱量制御システムを説明する。
【0034】
本発明においては、エンジン10のヒートバランスに着目し、冷却水に放熱しているエネルギを、排気エンタルピの増加に寄与させるようにしたものである。
【0035】
すなわち、DPF再生時に排気ガス温度を300℃以上に上昇させる場合には、従来は排気管噴射やアフター噴射を行う必要があるが、本発明では、ECU24が電磁クラッチ23を断として、第2ポンプ19を停止することで、EGRクーラ27での除熱量に相当するエンタルピが排気ガスに加わり、排気ガスの温度を上昇させることが可能となり、またインタークーラバルブ33をOFFとすることで、インタークーラ26での除熱量に相当するエンタルピを、排気ガスに加えることが可能となる。
【0036】
この従来制御と本発明の除熱量制御を図3により説明する。
【0037】
図3に示すようにヒートバランス解析を実施した結果によれば、DPF再生で排気ガス温度を上昇させる場合、排気管噴射では、ベースに対して、排気ガス温度が+66℃上昇し、燃費は8.1%悪化し、アフター噴射では、排気ガス温度が+69℃上昇し、燃費は11.2%悪化するが、本発明の除熱量制御を行うことで、排気ガス温度を+100℃昇温し、燃費の悪化を3.5%程度まで抑えることが可能となる。
【0038】
図4(a)は、キースイッチONからSCRでNOx除去(尿素水噴射)するまでの排気ガス温度の経時変化を示し、実線aは本発明の制御、点線bは従来の制御なしの排気ガス温度の経時変化を示し、図4(b)は、排気ガス温度の経時変化における、従来の制御なしのときのエンジンの各機器のエネルギ量(仕事量)を積算して示し、図4(c)は、同様に本発明の制御でのエンジンの各機器のエネルギ量(仕事量)を積算して示したものである。
【0039】
上述したように、SCRは尿素水が加水分解できる温度(170℃)未満では、尿素水噴射を行ってもアンモニアが発生せずNOxを除去できないため、キースイッチオンから排気ガス温度をいち早く立ち上げる必要がある。
【0040】
図4(b)に示した従来制御では、気筒で燃焼されて発生したエネルギは、エンジン軸仕事、インタークーラ除熱量、EGRクーラ除熱量、エンジン除熱量、機械損失で消費され、排気ガスに加わる排気損失(排気エネルギ=触媒昇温熱量)は、燃料噴射量が一定であれば変化がなく、排気ガス温度は、図4(a)に点線bで示したような昇温特性となる。
【0041】
これに対して、本発明では、SCR入口温度センサ35にて排気ガス温度を検出し、閾値である170℃未満のときには、ECU24が、図1図2に示した電磁クラッチ23、22を断として第2ポンプ19と第1ポンプ12を停止し、またインタークーラバルブ33、22を閉とすることで、インタークーラ26への冷却水供給を停止する制御を行う。
【0042】
これにより、排気ガス温度が170℃に達するまでは、排気損失(排気エネルギ=触媒昇温熱量)に、EGRクーラ除熱量とインタークーラ除熱量、さらにはエンジン冷却量のエンタルピが加わるため、図4(a)に実線aで示したような昇温特性となり、従来の点線bと違っていち早く排気ガス温度を立ち上げることができると共に、その間の燃費も向上できる。
【0043】
また排気ガス温度が170℃以上となったときには、電磁クラッチ23、22を接として第2ポンプ19と第1ポンプ12を駆動し、またインタークーラバルブ33を開として、EGRクーラ27とインタークーラ26への冷却水供給を行い、従来と同様にインタークーラ除熱量、EGRクーラ除熱量のためのエネルギ消費に切り替える。
【0044】
このように本発明は、EGRクーラ27のEGR冷却水回路18をエンジン冷却水回路11と別系統とし、冷却水への放熱量を制御し、EGRクーラ27の除熱とエンジン熱損失を低下させて排ガスエネルギを高めることで、燃費悪化を招くことなく排気ガス温度を上昇させることができる。
【符号の説明】
【0045】
10 エンジン
11 エンジン冷却水回路
12 第1ポンプ
17 第1ラジエター
18 EGR冷却水回路
19 第2ポンプ
25 排気ガス温度センサ
30 後処理装置
35 SCR入口温度センサ
図1
図2
図3
図4