(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記進角量設定部(32)は、前記交流端への出力電流(IL)の歪を抑制するために利用可能であって、前記パラメータに応じて規定される前記進角量の範囲から、前記電力変換装置における損失を抑制できる前記進角量を設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
前記進角量設定部(32)は、前記交流端への出力電流(IL)、および前記直流端からの入力電流(Idc)、ならびにそれらに関連する指標(Iref)の少なくともひとつを前記パラメータとして、前記進角量を設定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電力変換装置。
前記進角量設定部(32)は、前記直流電圧Vdcおよび/または前記交流電圧の絶対値|Vac|を変更する変更量(ΔV)を設定することにより前記進角量を設定することを特徴とする請求項5に記載の電力変換装置。
前記進角量設定部(32)は、前記コンバータ回路の前記フィードバック制御が開始される時期における前記コンバータ回路のスイッチングのための最小のデューティ比(duty_min)を設定することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の電力変換装置。
前記第2の切替制御部(27)は、前記フィードバック制御のために演算されたデューティ比(duty_cal)と、前記最小のデューティ比(duty_min)とを比較し、大きい方のデューティ比に基づいて前記コンバータ回路をスイッチングすることを特徴とする請求項7に記載の電力変換装置。
前記進角量設定部(32)は、前記インバータ回路と前記交流端との間のリアクトル成分(L)、前記交流電源の周波数(ω)、前記交流端から出力される出力電流の指令値(Iref)、前記直流電源の直流電圧(Vdc)、および前記交流端の交流電圧(Vac)から、前記最小のデューティ比を演算することによって設定することを特徴とする請求項9に記載の電力変換装置。
前記進角量設定部(32)は、前記コンバータ回路のための前記フィードバック制御から前記直結制御への切替時期を基本時期から前記進角量だけ遅角させることを特徴とする請求項1から請求項14のいずれかに記載の電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照しながら、ここに開示される発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において、先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。また、後続の実施形態においては、先行する実施形態で説明した事項に対応する部分に百以上の位だけが異なる参照符号を付することにより対応関係を示し、重複する説明を省略する場合がある。各形態において、構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については他の形態の説明を参照し適用することができる。
【0016】
(第1実施形態)
図1において、発明を実施するための第1実施形態に係る電力変換装置1と、この電力変換装置1を含む電力システム2とが図示されている。電力システム2は、系統3に接続された需要家に設置されている。電力システム2は、例えば、個人の住宅、または事業所において構成されている。系統3は、電力供給会社などの供給者によって提供される電力網、または小規模発電施設によって提供される交流電源である。系統3を供給する小規模発電施設は、個人の住宅、または事業所に設置することができる。系統3は、単相3線方式の電源であり、中性線(N)と、電圧線(U、V)とを有する。
【0017】
電力システム2は、小規模な直流電源4を備える。直流電源4は、住宅などに設置された二次電池によって提供される。
【0018】
電力変換装置1は、系統3に接続された交流端5と、直流電源4に接続された直流端6とを備える。電力変換装置1は、直流端6から供給される直流電力を交流電力に変換し、交流電力を交流端5から系統3に供給する。電力変換装置1は、インバータ回路7と、降圧型のコンバータ回路8とを備える。
【0019】
インバータ回路7は、系統3と直流電源4との間に設けられている。インバータ回路7は、コンバータ回路8と交流端5との間に設けられている。インバータ回路7は、少なくとも直流電力を交流電力に変換可能である。インバータ回路7は、直流端6から供給された直流電力を変調する変調機能と、直流電力を交流電力に変換する直交変換機能とを少なくとも有する。インバータ回路7は、直流電源4から系統3へ電力を逆潮流させるとき、交流電圧の位相と系統3へ出力される電流との位相とを一致させることができる。
【0020】
インバータ回路7は、交流電力を直流電力に変換する交直変換と、直流電力を交流電力に変換する直交変換とが可能な回路である。インバータ回路7は、直流端6から供給される直流電力を交流電力に変換する直交変換機能と、直流電圧Vdcを調整して系統3の交流電圧Vacに一致させる電圧変換機能とを提供する。インバータ回路7は、系統3の交流電圧Vacの位相と、電力変換装置1から系統3へ出力される出力電流の位相とを一致させることができる。
【0021】
インバータ回路7は、フルブリッジ回路と、ノーマルコイルLnと、コンデンサCfとを備える。フルブリッジ回路は、複数のスイッチ素子Q1−Q4をHブリッジに接続した回路である。フルブリッジ回路は、少なくとも4つのスイッチ素子Q1、Q2、Q3、およびQ4を備える。スイッチ素子Q1、Q2、Q3、およびQ4は、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)素子である。スイッチ素子Q1およびQ4は、直流電圧Vdcと同じ極性の電圧を出力するので、正転対のスイッチ素子と呼ばれる。スイッチ素子Q2およびQ3は、直流電圧Vdcと逆極性の電圧を出力するので、反転対のスイッチ素子と呼ばれる。
【0022】
ノーマルコイルLnは、インバータ回路7と交流端6との間に設けられている。ノーマルコイルLnは、フルブリッジ回路の交流端5に接続されている。ノーマルコイルLnは、ブリッジ回路のひとつの交流端5と、系統3との間に直列接続されている。コンデンサCfは、ノーマルコイルLnと交流端5との間に並列接続されている。ノーマルコイルLnは、ノーマルモードコイルとも呼ばれる。
【0023】
コンバータ回路8は、系統3と直流電源4との間に設けられている。コンバータ回路8は、昇圧型のコンバータ回路8である。コンバータ回路8は、少なくとも直流電源4から供給される直流電圧を昇圧しインバータ回路7に供給可能である。
【0024】
コンバータ回路8は、リアクトルLrと、スイッチ素子Qaと、ダイオードD1と、平滑コンデンサCsとを備える。スイッチ素子Qaは、IGBT素子である。リアクトルLrの一端には、直流電圧Vdcが供給される。リアクトルLrの他端は、スイッチ素子QaとダイオードD1との接続点に接続されている。スイッチ素子QaとダイオードD1とは、平滑コンデンサCsの両端間において直列接続されている。ダイオードD1はブリッジ回路のアッパアームを提供し、スイッチ素子Qaはブリッジ回路のロワアームを提供する。平滑コンデンサCsは、インバータ回路7とコンバータ回路8との間に位置している。
【0025】
この構成によると、インバータ回路7とコンバータ回路8とによって、直流電源4から系統3への電力変換が提供可能である。電力変換には、直流電源4の電圧と系統3の電圧との間の変換、および直流から交流への変換とが含まれる。
【0026】
電力変換装置1は、インバータ回路7と交流端5との間にノイズを除去するためのフィルタ回路9を備える。電力変換装置1は、交流端5とフィルタ回路9との間に遮断器10を備える。遮断器10は、系統3と電力変換装置1との接続を遮断する。電力変換装置1は、直流端6とコンバータ回路8との間に、ノイズを除去するためのフィルタ回路11を備える。
【0027】
電力変換装置1は、各部の電圧、電流を検出するための複数のセンサを備える。電力変換装置1は、直流電圧Vdcを検出する電圧センサ12と、交流電圧Vacを検出する電圧センサ13とを備える。電力変換装置1は、直流電源4から供給される電流(入力電流とも呼ばれる)を検出する電流センサ14を備える。電力変換装置1は、ノーマルコイルLnに流れる電流を検出する電流センサ15を備える。電力変換装置1は、平滑コンデンサCsの端子間電圧を検出する電圧センサ16を備える。
【0028】
電力変換装置1は、インバータ回路7とコンバータ回路8とを制御する制御装置17を備える。制御装置17は、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を備えるマイクロコンピュータによって提供される。記憶媒体は、コンピュータによって読み取り可能なプログラムを非一時的に格納している。記憶媒体は、メモリによって提供されうる。プログラムは、制御装置17によって実行されることによって、制御装置17をこの明細書に記載される装置として機能させ、この明細書に記載される制御方法を実行するように制御装置17を機能させる。制御装置17が提供する手段は、所定の機能を達成する機能的ブロック、またはモジュールとも呼ぶことができる。
【0029】
この実施形態では、電力変換装置1は、直流電源4から系統3への放電、すなわち逆潮流を提供する。直流電源4が入力側とされ、系統3すなわち交流電源が出力側とされる。電力変換装置1は、基本的な動作としては交流電圧Vacが直流電圧Vdcより低い場合は、インバータ回路7をスイッチング制御し直流電力を交流電力に変換する。このときコンバータ回路8のスイッチ素子Qaは継続的にOFF状態に維持される。交流電圧Vacが直流電圧Vdc、すなわち入力電圧より高い場合は、コンバータ回路8をスイッチング制御し、インバータ回路7のスイッチ素子Q1−Q4は、正転対と反転対とが交互にON状態となるように、交流電圧Vacの極性に合わせて相補的にON/OFF制御される。実施形態では、コンバータ回路8はノーマルコイルLnに流れる電流ILを使って比例積分(PI)制御される。コンバータ回路8のフィードバック制御は、出力電流を指令値Irefに追従させる比例積分制御である。インバータ回路7はノーマルコイルLnに流れる電流ILを使ってヒステリシス制御される。インバータ回路7のフィードバック制御は、出力電流を指令値Irefに追従させるヒステリシス制御である。インバータ回路7のフィードバック制御およびコンバータ回路8のフィードバック制御は、ノーマルコイルLnに流れる電流ILに基づいて出力電流の位相を系統(交流電源)3の交流電圧Vacの位相に一致させるように実行される。この構成によると、ノーマルコイルLnに流れる電流ILに基づいてフィードバック制御が実行されるから、交流端6へ出力される出力電流の位相を正確に制御できる。
【0030】
制御装置17は、ヒステリシス制御によってインバータ回路7を制御する。ヒステリシス制御においては、検出された電流ILが指令値Irefに一致するように、スイッチ素子Q1−Q4がスイッチングされる。ヒステリシス制御においては、指令値Irefに基づいて設定された上限値IL+と下限値IL−との間に電流ILを維持するように、スイッチ素子Q1−Q4がスイッチングされる。
【0031】
制御装置17は、比例積分制御(PI制御)によってコンバータ回路8を制御する。比例積分制御においては、電流ILが指令値Irefに一致するように、スイッチ素子Qaがスイッチングされる。比例積分制御においては、電流ILと指令値Irefとの偏差に比例する比例成分と、偏差を積分した積分成分とに応じて、スイッチ素子Qaのスイッチングディーティ比が調節される。
【0032】
この構成によると、インバータ回路7もコンバータ回路8も高調波を低減したい入力電流であるノーマルコイルLnに流れる電流ILで制御するので、制御し易く正弦波に近い電流に制御することができる。
【0033】
制御装置17は、インバータ回路7をデューティ駆動(高速のスイッチング駆動)することにより電圧を調節し、電力変換を提供するインバータスイッチング期間を提供する。制御装置17は、コンバータ回路8をデューティ駆動(高速のスイッチング駆動)することにより電圧を調節し、電力変換を提供するコンバータスイッチング期間を提供する。制御装置17は、インバータスイッチング期間とコンバータスイッチング期間とを交互に実行することにより、直流電源4から系統3への逆潮流を提供する。制御装置17は、インバータ回路7だけが駆動される期間と、コンバータ回路8だけがデューティ駆動される期間とを設けるように、インバータスイッチング期間と、コンバータスイッチング期間とを切換える。インバータ回路7だけによる電力変換と、コンバータ回路8だけによる電力変換とを切換えることにより、スイッチングに伴う損失が抑制される。
【0034】
さらに、電力変換装置1は、基本的な動作に加えて、コンバータ回路8によるフィードバック制御の開始時期を上記基本的な動作の時期から進角側へ補正する機能を備える。
【0035】
制御装置17は、インバータ回路7による電力変換と、コンバータ回路8による電力変換とが併用される併用期間を提供する。併用期間は、インバータスイッチング期間と、コンバータスイッチング期間とを重複させることによって提供される。併用期間は、インバータ回路7による電力変換および/またはコンバータ回路8による電力変換の期間を進角方向および/または遅角方向へ延長することによって提供することができる。この実施形態では、コンバータ回路8による電力変換の期間を進角方向へ延長することによって併用期間が提供される。
【0036】
制御装置17は、インバータスイッチング期間およびコンバータスイッチング期間の開始タイミングおよび停止タイミングを設定する手段を提供する。開始タイミングおよび停止タイミングの基本時期は、直流電圧Vdcと交流電圧Vac(交流電圧の絶対値|Vac|)との交点に基づいて設定することができる。すなわち、Vdc>|Vac|をインバータスイッチング期間に対応付け、Vdc<|Vac|をコンバータスイッチング期間に対応付けることができる。なお、Vdc=|Vac|のときは、いずれか一方の期間に対応付けることができる。
【0037】
制御装置17は、開始タイミングおよび/または停止タイミングを、上記基本時期から変更する手段を提供する。基本時期からの変更により、上記併用期間が提供される。制御装置17は、併用期間におけるコンバータ回路8のためのスイッチングデューティ比の基底値を設定する手段を提供する。言い換えると、この手段は、コンバータ回路8のスイッチング駆動のための最小のデューティ比を設定する手段を提供する。
【0038】
さらに、制御装置17は、上記基本時期からの変更量を、逆潮流される電力の歪みを抑制するように、適応的に調節する手段を提供する。ここでは、歪みが望ましい水準に抑制されるように、出力電流の大きさに応じて変更量が調節される。ひとつの実施形態では、コンバータ回路8のデューティ駆動の開始タイミングを、上記基本時期から進角させることにより、基本時期からの変更手段が提供される。さらに、出力電流に応じて適応的に変更量を調節することにより調節手段が提供される。制御装置17は、逆潮流される電力の歪みを抑制するように、出力電流の大きさに応じて、上記開始タイミングの基本時期からの進角量を適応的に調節する。
【0039】
制御装置17は、ノーマルコイルLnに流れる電流ILに応じて、電流の指令値Irefを作成する電流指令値作成部20を備える。電流指令値作成部20において、出力したい電力から出力電圧を割り、電流の指令値Irefを演算する。電流センサ15によって検出される電流ILは、系統3へ出力される交流電流であり、出力電流でもある。制御装置17は、指令値Irefの位相を同期させる位相同期部21を備える。位相同期部21は、位相が調節された指令値Irefを出力する。出力電流と出力電圧は力率を1に近づける必要があるため、位相同期部21において交流電圧Vacのゼロクロスタイミングと周期を求め、交流電圧Vacとの位相を合わせた電流の指令値Irefとする。制御装置17は、インバータ回路7の制御に適するように指令値Irefを補正する第1の補正部22を備える。制御装置17は、コンバータ回路8の制御に適するように指令値Irefを補正する第2の補正部23を備える。補正部22、23においては、平滑コンデンサCs等による電流遅れをカバーするよう指令値Irefを補正する。
【0040】
制御装置17は、インバータ回路7のスイッチ素子Q1−Q4を制御するための駆動信号を発生するためのインバータ制御部24を備える。インバータ制御部24は、系統3の交流電圧に応じた電圧を出力するようにインバータ回路7をフィードバック制御するための駆動信号と、直交変換回路として機能するようにインバータ回路7を直交変換制御するための駆動信号とを出力する。直交変換制御は、交流電圧の極性に応じてインバータ回路7を制御するから、極性制御とも呼ばれる。この実施形態では、フィードバック制御として、ヒステリシス制御が利用されている。
【0041】
インバータ制御部24は、ヒステリシス制御のために、指令値Irefから、ヒステリシス制御指令値としての上限値IL+と下限値IL−とを作成する。この上限値IL+と下限値IL−の間を電流ILが流れるようにヒステリシス制御が実行される。交流電圧Vacの絶対値|Vac|が直流電圧Vdcよりも小さい場合、ノーマルコイルLnの電流ILが上限値IL+を超えた場合はスイッチ素子Q1、Q4がON状態とされ、スイッチ素子Q2、Q3がOFF状態とされる。電流ILが下限値IL−を下回った場合はスイッチ素子Q1、Q4がOFF状態とされ、スイッチ素子Q2、Q3がON状態とされる。
【0042】
インバータ制御部24は、極性制御のために、駆動信号を出力する。交流電圧Vacの絶対値|Vac|が直流電圧Vdcよりも大きい場合、交流電圧Vacが正の場合はスイッチ素子Q1、Q4がON状態とされ、スイッチ素子Q2、Q3がOFF状態とされる。交流電圧Vacが負の場合はスイッチ素子Q1、Q4がOFF状態とされ、スイッチ素子Q2、Q3がON状態とされる。
【0043】
制御装置17は、コンバータ回路8のスイッチ素子Qaを制御するための駆動信号を発生するためのコンバータ制御部25を備える。コンバータ制御部25は、系統3の交流電圧に応じた電圧を出力するようにコンバータ回路8をフィードバック制御するための駆動信号と、直流電源4からの入力電圧をそのまま出力するようにコンバータ回路8を直結制御するための駆動信号とを出力する。この実施形態では、フィードバック制御として、比例積分制御(PI制御)が利用されている。コンバータ制御部25は、指令値IrefとノーマルコイルLnに流れる入力電流ILとの差分をとりPI制御演算を実行し、スイッチ素子Qaの駆動信号のデューティ比dutyを算出する。
【0044】
制御装置17は、インバータ回路7の制御手法を切換える第1の切替制御部26を備える。第1の切替制御部26は、フィードバック制御と極性制御とを切換える。
【0045】
図2は、切換制御部26における処理を示すブロック図である。決定部26aでは、直流電圧Vdcと交流電圧Vacの絶対値|Vac|とに基づいて、フィードバック制御または極性制御のいずれが一方がインバータ回路7の制御手法として決定される。ここでは、Vdc=|Vac|を境界として、2つの制御が切替えられる。制御部26bでは、制御手法に応じた駆動信号が設定される。図示される決定特性にはヒステリシスを設けてもよい。
【0046】
ヒステリシス制御が選択されるCase1の場合(|Vac|<Vdc)、電流ILと、指令値Irefとに基づいて、電流ILが指令値Irefに追従するようにフィードバック制御が実行される。ここでは、インバータ制御部24によって与えられるヒステリシス制御が利用される。ヒステリシス制御においては、指令値Irefに基づいて設定された電流上限値IL+と、指令値Irefに基づいて設定された電流下限値IL−との間に検出された電流ILが維持される。ここでは、IL+<ILになると、反転対のスイッチ素子Q2、Q3がON状態に駆動され、IL<IL−になると、正転対のスイッチ素子Q1、Q4がON状態に駆動される。
【0047】
極性制御が選択されるCase2の場合(|Vac|>Vdc)、交流電圧Vacの極性に対応して、正転対のスイッチ素子Q1、Q4と、反転対のスイッチ素子Q2、Q3とが相補的にON状態に駆動される。交流電圧Vacが正であるときに正転対のスイッチ素子Q1、Q4がON状態に駆動される。交流電圧Vacが負であるときに反転対のスイッチ素子Q2、Q3がON状態に駆動される。
【0048】
図1に戻り、制御装置17は、コンバータ回路8の制御手法を切換える第2の切替制御部27を備える。第2の切替制御部27は、フィードバック制御と直結制御とを切換える。切替制御部27は、直流電圧Vdcが交流電圧Vacの絶対値|Vac|より小さい場合にスイッチ素子Qaを上記PI制御演算により設定されたデューティ比dutyでスイッチングできるようにPWM(パルス幅変調)演算によりスイッチング制御を行う。一方で、直流電圧Vdcが系統3の交流電圧Vacの絶対値|Vac|より大きい場合には、スイッチ素子Qaを継続的にOFF状態に制御する。
【0049】
図3は、切換制御部27における処理を示すブロック図である。閾値設定部27aでは、コンバータ回路8のフィードバック制御を開始するための閾値であるコンバータ開始電圧Vcon_stが設定される。閾値の基本値は、直流電圧Vdcである。コンバータ開始電圧Vcon_stは、直流電圧Vdcと、後述の変更量ΔVとに基づいて、Vcon_st=Vdc−ΔVによって設定される。コンバータ回路8のフィードバック制御を終了するための閾値は、直流電圧Vdcである。コンバータ開始電圧Vcon_stは、コンバータ回路8が直結制御されている期間のみ有効とされる。
【0050】
デューティ設定部27bでは、併用期間におけるコンバータ回路8のスイッチング制御のためのデューティ比dutyが設定される。併用期間におけるデューティ比dutyは、コンバータ回路8のフィードバック制御のために演算される計算値duty_calと、最小のデューティ比duty_minとに基づいて設定される。最小のデューティ比duty_minは、コンバータ回路8をフィードバック制御するために利用可能な最小のデューティ比である。最小のデューティ比duty_minは、コンバータ回路8のフィードバック制御が安定的に迅速に開始されるように設定される。例えば、最小のデューティ比duty_minは、コンバータ回路8のフィードバック制御が開始されるときに必要な電圧変換を実現し、かつその電圧変換が安定的に開始されるように設定される。ここでは、計算値duty_calと、最小のデューティ比duty_minとのうちの大きい方がデューティ比dutyとして設定される。
【0051】
決定部27cでは、直流電圧Vdcと、後述の変更量ΔVと、交流電圧Vacの絶対値|Vac|とに基づいて、フィードバック制御または直結制御のいずれが一方がコンバータ回路8の制御手法として決定される。ここでは、|Vac|がコンバータ開始電圧Vcon_stを上回るとコンバータ回路8のフィードバック制御が開始される。その後、|Vac|が直流電圧Vdcを下回るとコンバータ回路8のフィードバック制御が終了される。このように、決定部27cは、コンバータ回路8のフィードバック制御の開始時期だけを進角させる決定特性を提供する。制御部27dでは、制御手法に応じた駆動信号が設定される。
【0052】
直結制御が選択されるCase1の場合、すなわち|Vac|が下降する過程において、|Vac|がVdcを下回った後は、スイッチ素子Qaは継続的にOFF状態に制御される。これにより、ダイオードD1を経由して、コンバータ回路8は直結状態になる。
【0053】
フィードバック制御が選択されるCase2の場合、すなわち|Vac|が上昇する過程において、|Vac|がVdcを上回った後は、スイッチ素子Qaは、ディーティ設定部27bによって設定されたデューティ比によってスイッチング制御される。これにより、コンバータ回路8は、直流電圧Vdcを交流電圧Vacに変換し、さらに出力電流を指令値Irefに一致させるように制御される。
【0054】
図1に戻り、制御装置17は、インバータ回路7のスイッチ素子Q1−Q4の駆動信号にデッドタイムを与えるデッドタイム生成部28を備える。制御装置17は、コンバータ回路8のスイッチ素子Qaの駆動信号にデッドタイムを与えるデッドタイム生成部29を備える。
【0055】
制御装置17は、インバータ回路7のスイッチ素子Q1−Q4を駆動するためのゲート駆動部30を備える。制御装置17は、コンバータ回路8のスイッチ素子Qaを駆動するためのゲート駆動部31を備える。
【0056】
制御装置17は、変更量設定部32を備える。変更量設定部32は、コンバータ回路8によるフィードバック制御の開始時期を基本時期から進角させる機能を備える。よって、変更量設定部32は、進角量を設定する進角量設定部とも呼ばれる。さらに、変更量設定部32は、その進角量を電力変換装置1の作動状態に応じて適応的に可変的に調節する機能を有する。変更量設定部32は、フィードバック制御の開始時期を設定するための閾値を変更する。閾値は、基本値から、変更量設定部32によって設定された変更量だけ変更される。
【0057】
この実施形態では、変更量設定部32は、電力変換装置1の作動状態を示すパラメータに基づいて変更量を演算することによって設定する。変更量設定部32は、パラメータのひとつとして、電力変換装置1に流れる電流の値を採用する。変更量設定部32は、電力変換装置1に流れる電流に応じて変更量を設定する。変更量設定部32は、直流電源4から系統3へ供給される電流に応じて変更量を設定する。言い換えると、変更量設定部32は、直流電源4から電力変換装置1に供給される電流、または電力変換装置1から系統3へ供給される電流に基づいて変更量を設定する。具体的には、入力電流Idc、出力電流、ノーマルコイルLnに流れる電流IL、および指令値Irefのひとつまたは複数を利用することができる。
【0058】
図4は、変更量設定部32における処理を示すブロック図である。インバータ回路7とコンバータ回路8との制御切替時には、共振により電流歪みが発生してしまう。このため、コンバータ回路8のスイッチング開始を早めることで切替時の歪みを低減する。この開始タイミングは、容量成分と誘導成分により決まる。これにより高調波を抑制し、歪を低減できる。しかし、開始タイミングの進角量が容量成分と誘導成分により決まると、電力変換装置1が対応しようとするすべての出力電流、入力電圧の変化範囲にわたって歪の少ない正弦波を作成するためには進角量を大きくする必要がある。進角量は、コンバータ回路8のスイッチング駆動の開始タイミングを設定する閾値の変更量ΔVに相当する。よって、変更量ΔVを大きくする必要がある。しかし、これでは、必要以上にコンバータ回路8をスイッチング駆動することがある。例えば、低出力時には必要以上のスイッチングを行うことになる。この結果、効率が低下してしまう。
【0059】
歪は入力電圧の変動や出力電流の変動により変わる。このため、これらの値により進角量を一定周期(例えば制御周期)ごとに随時変更することで更なる損失低減、歪抑制効果を見込める。そこで、変更量設定部32は、出力電流、入力電圧を検出し、コンバータ回路8のスイッチング駆動を開始する閾値に相当する電圧値の変更量ΔVを設定する。変更量設定部32は、変更量ΔVを切替制御部27に出力する。切換制御部27では、入力電圧である直流電圧Vdcから変更量ΔVを分引いた電圧をコンバータ開始電圧Vcon_stとする。
【0060】
変更量設定部32は、変更量ΔVを演算し、設定する。変更量ΔVは、出力電流の歪、すなわち高調波成分が目標値を下回るように、しかも損失を抑制するように設定される。例えば、変更量ΔVは、関数ΔV=(ω
2L
2)
1/2×Iref_rms+αに基づいて演算することができる。Iref_rmsは、指令値Irefの実効値である。αは定数である。αは回路中の容量成分と誘導成分による調整値である。αは0.0〜5.0(V)とすることができる。
【0061】
このように、進角量設定部32は、予め用意された関数によってパラメータに応じた変更量(進角量)ΔVを設定する。進角量設定部32は、インバータ回路7と交流端6との間のリアクトル成分L、系統(交流電源)3の周波数ω、交流端6から出力される出力電流の指令値Iref、直流電源4の直流電圧Vdc、および交流端6の交流電圧Vacから、変更量(進角量)ΔVを演算することによって設定する。
【0062】
また、変更量設定部32は、入力電圧Vdc、出力電圧Vac、および変更量ΔVに基づいて、最小のデューティ比duty_minを演算する。最小のデューティ比duty_minは、関数duty_min=1−Vac/(Vdc+ΔV)+βに基づいて演算することができる。βは定数である。上式のβは回路中の容量成分と誘導成分による調整値である。βは、0.0〜0.1程度の値とすることができる。このように、進角量設定部32は、予め用意された関数によってパラメータに応じた最小のデューティ比duty_minを設定する。進角量設定部32は、コンバータ回路8のフィードバック制御が開始される時期におけるコンバータ回路8のスイッチングのための最小のデューティ比duty_minを設定する。進角量設定部32は、インバータ回路7と交流端6との間のリアクトル成分L、系統(交流電源)3の周波数ω、交流端6から出力される出力電流の指令値Iref、直流電源4の直流電圧Vdc、および交流端6の交流電圧Vacから、最小のデューティ比duty_minを演算することによって設定する。この構成によると、進角量だけ進角された時期から適切なスイッチングが可能となる。
【0063】
最小のデューティ比duty_minは、切換制御部27において、コンバータ制御部25によって演算された計算値duty_calと比較され、大きいほうが駆動に用いられるデューティ比dutyとして選択される。このように、第2の切替制御部27は、フィードバック制御のために演算されたデューティ比duty_calと、最小のデューティ比duty_minとを比較し、大きい方のデューティ比に基づいてコンバータ回路8をスイッチングする。
【0064】
図5において、複数の実線は、横軸の変更量ΔV(V)に対する出力電流の歪率(%)を示し、一点鎖線は、横軸の変更量ΔV(V)に対する電力変換装置1における損失(W)を示す。図中において、複数の実線は、指令値Irefが異なる場合、すなわち出力電流の大きさが異なる場合を示している。図示されるように、変更量ΔVが大きくなるほど、歪率が小さくなる。しかし、変更量ΔVが大きくなるほど、損失が増加する。さらに、指令値Irefが大きいほど、歪率が大きくなる。よって、変更量ΔVは、歪率を抑制しながら、損失を抑制するように、適度な値に設定されることが望ましい。
【0065】
この実施形態では、進角量設定部32は、交流端5への出力電流の歪を抑制するために利用可能であって、パラメータに応じて規定される進角量の範囲から、電力変換装置1における損失を抑制できる進角量を設定する。この構成によると、出力電流の歪が小さくなると、装置の損失が増加する場合であっても、歪の抑制と損失の抑制との両立が図られる。
【0066】
例えば、出力電流が指令値Iref5によって実現されている時には、歪率を目標値TGD未満に抑制するために、変更量ΔV5を上回る範囲の変更量を利用可能である。しかし、ΔV5を上回る変更量を与えると、損失が増加する。よって、歪率の目標値TGDを達成するという観点から利用可能な変更量ΔVの範囲の中でも小さい値を用いることが望ましい。
【0067】
さらに、指令値Irefが増加すると、すなわち出力電流が増加すると、目標値TGDを実現するために利用可能な変更量ΔVの範囲は、高い領域へ移動する。よって、変更量ΔVは、電力変換装置1の運転状態を示すパラメータであって、歪と損失とに影響を与える特定のパラメータに応じて設定されることが望ましい。このような特定のパラメータの一例が、出力電流と、それに関連する指標、例えば指令値Irefである。
【0068】
このように、変更量ΔVは、出力電流の歪、すなわち高調波成分が目標値を下回るように、しかも損失を抑制するように、特定のパラメータによって規定される利用可能な範囲の中でも、小さい値に設定される。
【0069】
図1に戻り、上述のように、第1の切替制御部26および第2の切替制御部27は、直流電圧Vdcと交流電圧の絶対値|Vac|と進角量とに基づいて制御の切替えを実行するように構成されている。第1の切替制御部26は、Vdc>|Vac|からVdc<|Vac|への切り替わりに応答してフィードバック制御から極性制御に切替え、Vdc<|Vac|からVdc>|Vac|への切り替わりに応答して極性制御からフィードバック制御へ切替えるように構成されている。
【0070】
第2の切替制御部は、Vdc>|Vac|からVdc<|Vac|への切り替わりを基本時期として、基本時期から進角量ΔVだけ進角した時期に、直結制御からフィードバック制御へ切替えるように構成されている。詳細には、第2の切替制御部27は、Vcon_st(=Vdc−ΔV)>|Vac|からVcon_st(=Vdc−ΔV)<|Vac|への切り替わりに応答して直結制御からフィードバック制御に切替え、Vdc<|Vac|からVdc>|Vac|への切り替わりに応答してフィードバック制御から直結制御へ切替えるように構成されている。この構成によると、直流電圧Vdcと交流電圧Vacとの比較によってインバータ回路とコンバータ回路との制御を切替えることができる。
【0071】
進角量設定部32は、閾値である直流電圧Vdcを変更する変更量ΔVを設定することにより進角量を設定している。この構成によると、出力電流の歪に影響を与えるパラメータに基づいて進角量が設定される。
【0072】
図6は、上記実施形態の作動例を示す。図中には、上段から、電圧波形、インバータ回路7の制御内容、コンバータ回路8の制御内容、平滑コンデンサCsの電圧、電流IL、スイッチ素子Qaの状態、スイッチ素子Q1、Q4の状態、およびスイッチ素子Q2、Q3の状態が図示されている。
【0073】
図示されるように、インバータ回路7の制御は、ヒステリシス(HYS)制御と、極性制御との間で切替えられている。インバータ回路7の制御は、Vdc>|Vac|からVdc<|Vac|への切り替わりに応答して、すなわち時刻t2においてヒステリシス制御から極性制御に切替えられる。また、インバータ回路7の制御は、Vdc<|Vac|からVdc>|Vac|への切り替わりに応答して、すなわち時刻t3において極性制御からヒステリシス制御に切替えられる。このようなインバータ回路7の制御の切替えは、第1の切替制御部26によって提供されている。
【0074】
コンバータ回路8の制御は、比例積分(PI)制御と、直結制御との間で切替えられている。コンバータ回路8の制御は、Vdc>|Vac|からVdc<|Vac|への切り替わりより前の時刻t1において直結制御から比例積分制御に切替えられる。コンバータ回路8の制御は、Vcon_st(=Vdc−ΔV)>|Vac|からVcon_st(=Vdc−ΔV)<|Vac|への切り替わりに応答して、すなわち時刻t1において直結制御から比例積分制御に切替えられる。また、コンバータ回路8の制御は、Vdc<|Vac|からVdc>|Vac|への切り替わりに応答して、すなわち時刻t3において比例積分制御から直結制御へ切替えられる。このようなコンバータ回路8の制御の切替えは、第2の切替制御部27によって提供されている。
【0075】
コンバータ回路8のフィードバック制御は、交流電圧Vacの絶対値|Vac|と直流電圧Vdcとの交点に対応する時刻t2より早い時刻t1から開始されている。この結果、インバータ回路7のフィードバック制御(ヒステリシス制御(HYS))と、コンバータ回路8のフィードバック制御(PI制御)とが併用される併用期間が生じている。しかも、上記併用期間を設定する変更量ΔVは、出力電流の歪、すなわち高調波成分が目標値を下回るように、しかも損失を抑制するように、変更量ΔVの利用可能な範囲の中でも小さい値に設定されている。このため、出力電流の歪が抑制され、しかも損失が抑制される。
【0076】
以上に述べた実施形態によると、出力電流が変化しても、コンバータ回路8における無駄なスイッチングを抑制しながら、出力電流を歪が小さい正弦波に保つことができる。よって、出力電流および/または入力電圧(直流電圧Vdc)が変化しても、出力電流の歪、すなわち高調波を抑制しながら、スイチング損失を低減できる電力変換器を提供するできる。
【0077】
(第2実施形態)
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。上記実施形態では、コンバータ回路8を電流ILに基づいて制御した。これに代えて、この実施形態では、
図7に図示されるように、直流電源4から電力変換装置1への入力電流Idcに基づいてコンバータ回路8がフィードバック制御される。このように、インバータ回路7のフィードバック制御および/またはコンバータ回路8のフィードバック制御は、ノーマルコイルLnに流れる電流ILに基づいて出力電流の位相を系統(交流電源)3の交流電圧Vacの位相に一致させるように実行することができる。
【0078】
(第3実施形態)
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、上記実施形態の構成に加えて、
図8に図示されるように、直流電源4からインバータ回路7への直接的な給電を可能とするダイオードD2が設けられている。この構成によると、コンバータ回路8による電力変換からインバータ回路7による電力変換に切り替わった際に、リアクトルLrとダイオードD1での損失を低減できる。また、ダイオードD2に代えて、IGBT、MOSFET等のスイッチ素子を設けてもよい。
【0079】
(第4実施形態)
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。上記実施形態では、コンバータ回路8のハイサイドには、ダイオードD1が用いられている。これに代えて、この実施形態では、
図9に図示されるように、コンバータ回路8のハイサイドにスイッチ素子Qbが用いられる。コンバータ回路8は、放電時に昇圧型コンバータとして機能し、充電時に降圧型コンバータとして機能することが可能となる。これにより、系統3から直流電源4への充電駆動が可能となる。
【0080】
インバータ回路7は、交流端5から供給される交流電圧Vacを直流に変換してコンバータ回路8に供給する。インバータ回路7は、系統3から交流電力を受け、全波整流された直流電力を出力する。インバータ回路7は、交流端5から供給された交流電力を直流電力に変換する交直変換機能を提供する。
【0081】
この場合、コンバータ回路8は、演算処理によって求められたディーティ比dutyでスイッチ素子Qbを制御することによって動作させられる。電力変換装置1は、系統3から電力供給を受けることにより直流電源4を充電する機能を提供する。この結果、充電と放電との双方向動作が可能となる。
【0082】
(第5実施形態)
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。上記実施形態では、出力電流を示す指令値Irefに応じて変更量ΔVを設定した。これに加えて、または代えて、電力変換装置1の作動状態において予測される歪率を算出する歪率算出部33を設け、算出された歪率に応じて変更量ΔVを設定してもよい。
【0083】
図10はこの実施形態の電力変換装置1を示す。歪率算出部33は、出力電流、または出力電流に相当する電流ILを検出する。歪率算出部33は、電流ILから歪率を算出し、変更量設定部32に出力する。この場合、変更量設定部32は、歪率がある一定値を上回ると、予め用意しておいた変更量ΔV、および最小値duty_minを出力する。さらに、変更量設定部32は、歪率算出部33から与えられる歪率に応じて予め決められた変更量ΔVを出力する。例えば、歪率が増加するにつれて、変更量ΔVを累進的に増加させる。
【0084】
(第6実施形態)
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。上記実施形態では、コンバータ回路8のフィードバック制御のためのスイッチング駆動の開始タイミングだけを進角させた。これに代えて、
図11に図示されるように、コンバータ回路8のフィードバック制御のためのスイッチング駆動の終了タイミングも遅角させてもよい。
【0085】
この場合、第2の切替制御部は、Vdc>|Vac|からVdc<|Vac|への切り替わりを基本時期として、基本時期から進角量ΔVだけ進角した時期に、直結制御からフィードバック制御へ切替え、基本時期から進角量ΔVだけ遅角した時期に、フィードバック制御から直結制御へ切替えるように構成される。詳細には、第2の切替制御部27は、Vcon_st(=Vdc−ΔV)>|Vac|からVcon_st(=Vdc−ΔV)<|Vac|への切り替わりに応答して直結制御からフィードバック制御に切替え、Vcon_st(=Vdc−ΔV)<|Vac|からVcon_st(=Vdc−ΔV)>|Vac|への切り替わりに応答してフィードバック制御から直結制御へ切替えるように構成される。
【0086】
この場合、コンバータ回路8の制御をフィードバック制御から直結制御へ切換えるための閾値として、コンバータ開始電圧Vcon_stだけを用いることができる。このため、切換制御部27における判定処理を簡単化することができる。
【0087】
(他の実施形態)
上記実施形態では、スイッチ素子としてIGBT素子を例示した。これに代えて、MOSFET素子など種々の電力制御用のスイッチ素子を利用してもよい。
【0088】
上記実施形態では変更量設定部32において変更量ΔV、および最小値duty_minを演算により求めた。これに代えて、ひとつまたは複数のパラメータに対して予め求めた変更量ΔVおよび/または最小値duty_minをマップに設定し、マップをパラメータによって検索することによって変更量ΔVおよび/または最小値duty_minを設定してもよい。例えば、電力変換装置1における直流電圧Vdcの変動範囲、および出力電流の変動範囲を予め想定することにより、それらの変動範囲における変更量ΔVおよび最小値duty_minをマップに設定し、電力変換装置1の運転状態を示す直流電圧Vdcおよび出力電流に応じてマップを検索し、得られる値を切替制御部27に出力しても良い。この構成では、進角量設定部32は、予め用意されたマップによってパラメータに応じた進角量を設定する。また、進角量設定部32は、予め用意されたマップによってパラメータに応じた最小のデューティ比を設定する。また、最小のデューティ比は、電力変換装置1の運転状態に依存しない固定の値としてもよい。
【0089】
上記実施形態では、可変の進角量を調節するために、進角量を規定する閾値を変化させる可変の変更量ΔVを調節した。これに代えて、進角量に相当する時間、電気角など種々の指標によって進角量を調節してもよい。また、上記実施形態では、直流電圧Vdcを変更量ΔVだけ変更することによって進角量を調節した。これに代えて、交流電圧の絶対値|Vac|を変更してもよい。また、直流電圧Vdcと絶対値|Vac|との両方を変更してもよい。このように、進角量設定部32は、直流電圧Vdcおよび/または交流電圧の絶対値|Vac|を変更する変更量ΔVを設定することにより進角量を設定するように構成することができる。
【0090】
上記実施形態では、指令値Irefに応じて変更量ΔVを調節した。これに代えて、電力変換装置1の運転状態を示すパラメータであって、歪と損失とに影響を与える種々のパラメータに応じて変更量ΔVを調節することができる。例えば、出力電流である検出された電流IL、入力電圧である直流電圧Vdc、入力電流Idc、入力電力、および出力電力、ならびにそれらに関連する指標、ならびにそれらに基づいて求められる歪率および損失をパラメータとして利用することができる。交流端6への出力電流、および直流端5からの入力電流Idc、ならびにそれらに関連する指標Irefの少なくともひとつをパラメータとして、変更量(進角量)ΔVを設定することが望ましい。この構成によると、出力電流の歪に影響を与えるパラメータに基づいて変更量(進角量)ΔVが設定される。
【0091】
ここに開示される発明は、その発明を実施するための実施形態に何ら制限されることなく、種々変形して実施することが可能である。開示される発明は、実施形態において示された組み合わせに限定されることなく、種々の組み合わせによって実施可能である。実施形態は追加的な部分をもつことができる。実施形態の部分は、省略される場合がある。実施形態の部分は、他の実施形態の部分と置き換え、または組み合わせることも可能である。実施形態の構造、作用、効果は、あくまで例示である。開示される発明の技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示される発明のいくつかの技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0092】
例えば、制御装置が提供する手段と機能は、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、制御装置をアナログ回路によって構成してもよい。