特許第6183217号(P6183217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6183217感熱転写記録媒体、その製造方法及び感熱転写記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183217
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】感熱転写記録媒体、その製造方法及び感熱転写記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/44 20060101AFI20170814BHJP
   B41M 5/40 20060101ALI20170814BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   B41M5/44 410
   B41M5/40 440
   B41M5/52 400
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-557405(P2013-557405)
(86)(22)【出願日】2013年1月29日
(86)【国際出願番号】JP2013000464
(87)【国際公開番号】WO2013118459
(87)【国際公開日】20130815
【審査請求日】2015年12月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-27378(P2012-27378)
(32)【優先日】2012年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-72321(P2012-72321)
(32)【優先日】2012年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-72467(P2012-72467)
(32)【優先日】2012年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-74341(P2012-74341)
(32)【優先日】2012年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(72)【発明者】
【氏名】福永 悟大
(72)【発明者】
【氏名】大和 丈仁
(72)【発明者】
【氏名】杉下 康雄
(72)【発明者】
【氏名】平井 瑶子
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−035122(JP,A)
【文献】 特開平05−131760(JP,A)
【文献】 特開2011−168013(JP,A)
【文献】 特開2011−194732(JP,A)
【文献】 特開2000−177256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M5/382−5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、当該基材の一方の面に形成した耐熱滑性層と、前記基材の他方の面に形成した下引き層と、当該下引き層のうち前記基材と対向する面と反対側の面に形成した染料層と、を備える感熱転写記録媒体において、
前記下引き層は、水溶性高分子を主成分として含み、温度23℃且つ湿度50%の条件下における平衡吸湿率が15%以下であり、
前記耐熱滑性層の二乗平均平方根偏差である表面粗さSqの平均値αが0.05〜0.40μmであり、かつ、150℃、10分間の条件で静置した後の当該耐熱滑性層の二乗平均平方根偏差である表面粗さSqの平均値βが0.00〜0.70μmであり、前記平均値αと前記平均値βとの差が0.00〜0.30μmであり、
前記耐熱滑性層は、アクリルポリオール樹脂と2,6−トリレンジイソシアネートプレポリマーを含み、さらに、粒径1.0〜2.5μmと2.5超〜3.5μmの2種のタルクを含む、ことを特徴とする感熱転写記録媒体。
【請求項2】
前記下引き層の平衡吸湿率が温度23℃、湿度50%の条件下で13%以下であることを特徴とする請求項1に記載の感熱転写記録媒体。
【請求項3】
前記下引き層の乾燥後の塗布量が0.05〜0.30g/mであることを特徴とする請求項1または2に記載の感熱転写記録媒体。
【請求項4】
写体の転写される側の少なくとも一層は、水系の塗布液により形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の感熱転写記録媒体。
【請求項5】
被転写体の転写される側の少なくとも一層が、水系の塗布液により形成される被転写体に使用し、
フィルム状またはシート状に形成されたベースと、該ベースの両面のうち一方のベース面上に形成された耐熱滑性層と、該耐熱滑性層と反対側のベース面上に形成された下引き層と、該下引き層の上に形成された染料層とを備えた感熱転写記録媒体の製造方法であって、前記耐熱滑性層と反対側のベース面上に水溶性高分子を主成分として含む下引き層形成液を塗布した後、前記下引き層の平衡吸湿率が温度23℃、湿度50%の条件下で15%以下となり、前記耐熱滑性層の二乗平均平方根偏差である表面粗さSqの平均値αが0.05〜0.40μmであり、かつ、150℃、10分間の条件で静置した後の当該耐熱滑性層の二乗平均平方根偏差である表面粗さSqの平均値βが0.00〜0.70μmであり、前記平均値αと前記平均値βとの差が0.00〜0.30μmとなるように前記下引き層形成液を乾燥処理する感熱転写記録媒体の製造方法であって、
前記耐熱滑性層は、アクリルポリオール樹脂と2,6−トリレンジイソシアネートプレポリマーを含み、さらに、粒径1.0〜2.5μmと2.5超〜3.5μmの2種のタルクを含む、感熱転写記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記下引き層の平衡吸湿率が温度23℃、湿度50%の条件下で13%以下となるように前記下引き層形成液を乾燥処理することを特徴とする請求項5に記載の感熱転写記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記耐熱滑性層と反対側のベース面上に水溶性高分子を主成分として含む下引き層形成液を該下引き層形成液の乾燥後の塗布量が0.05g/m2以上0.30g/m2以下となるように塗布した後、前記下引き層形成液を乾燥処理することを特徴とする請求項5又は6に記載の感熱転写記録媒体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の感熱転写記録媒体を用意しておき、前記染料層に含まれる染料を熱により昇華させて被転写体に転写することを特徴とする感熱転写記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱転写方式のプリンタに使用される感熱転写記録媒体、その製造方法及び感熱転写記録方法に関するもので、基材の一方の面に耐熱滑性層を設け、該基材の他方の面に下引き層、染料層を順次形成した感熱転写記録媒体、その製造方法及び感熱転写記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、感熱転写記録媒体は、サーマルリボンと呼ばれ、感熱転写方式のプリンタに使用されるインクリボンのことであり、基材の一方の面に感熱転写層、その基材の他方の面に耐熱滑性層(バックコート層)を設けたものである。ここで感熱転写層は、インクの層であって、プリンタのサーマルヘッドに発生する熱によって、そのインクを昇華(昇華転写方式)あるいは溶融(溶融転写方式)させ、被転写体側に転写するものである。
【0003】
現在、感熱転写方式の中でも昇華転写方式は、プリンタの高機能化と併せて各種画像を簡便にフルカラー形成できるため、デジタルカメラのセルフプリント、身分証明書などのカード類、アミューズメント用出力物等、広く利用されている。そういった用途の多様化と共に、小型化、高速化、低コスト化、また得られる印画物への耐久性を求める声も大きくなり、近年では基材シートの同じ側に印画物への耐久性を付与する保護層等を重ならないように設けられた複数の感熱転写層をもつ感熱転写記録媒体がかなり普及してきている。
【0004】
そのような状況の中、用途の多様化と普及拡大に伴い、よりプリンタの印画速度の高速化が進むに従って、従来の感熱転写記録媒体では十分な印画濃度が得られないという問題が生じてきた。そこで転写感度を上げるべく、感熱転写記録媒体の薄膜化により印画における転写感度の向上を試みることが行われてきたが、感熱転写記録媒体の製造時や印画の際に熱や圧力等によりシワが発生したり、場合によっては破断が発生したりするという問題を抱えている。
【0005】
また、感熱転写記録媒体の染料層における染料/樹脂(Dye/Binder)の比率を大きくして、印画濃度や印画における転写感度の向上を試みることが行われているが、染料を増やすことでコストアップとなるばかりではなく、製造工程における巻き取り状態時に感熱転写記録媒体の耐熱滑性層へ染料の一部が移行し(裏移り)、その後の巻き返し時に、その移行した染料が他の色の染料層、あるいは保護層に再転移し(裏裏移り)、この汚染された層を被転写体へ熱転写すると、指定された色と異なる色相になったり、いわゆる地汚れが生じたりする。
【0006】
また、感熱転写記録媒体側ではなく、プリンタ側で画像形成時のエネルギーをアップする試みも行われているが、消費電力が増えるばかりではなく、プリンタのサーマルヘッドの寿命を短くする他、染料層と被転写体が融着する、いわゆる異常転写が生じやすくなる。それに対して異常転写を防止するために、染料層あるいは被転写体に多量の離型剤を添加すると、画像のにじみや地汚れが生じたりする。
【0007】
このような要望を解決するために、例えば、特許文献1では、基材と染料層との間にポリビニルピロリドン樹脂と変性ポリビニルピロリドン樹脂を含有する接着層(下引き層)を有する熱転写シートが提案されている。
また、特許文献2には、転写感度不足の課題だけでなく、印画物表面が部分的にマット化する課題を解決するために、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体樹脂とコロイド状無機顔料超微粒子からなる下引き層を有する熱転写シートが提案されている。
【0008】
このように転写感度が向上するに伴い、染料層のさらなる薄膜化が可能となり、染料の総量が減少し、コストダウンにも繋がる一方で、感熱転写記録媒体の印画の際に熱や圧力等によりシワによる印画不良が発生したり、場合によっては破断が発生したりするという問題を抱えている。
【0009】
感熱転写記録媒体の印画時に発生するシワは、耐熱滑性層の滑性が不十分である場合に、基材とサーマルヘッドの貼り付きを原因として発生する場合がある。また、耐熱滑性層の滑性が低エネルギー印画時と高エネルギー印画時で大きく異なる場合、例えば、同一画像上に印画部と非印画部が共に存在する場合等に、両者間でのサーマルヘッドと耐熱滑性層の摩擦に差を原因として発生することがあり、染料層の薄膜化に伴い、特に強い耐熱性が、感熱転写記録媒体に求められる。
【0010】
このような問題を解決するために特許文献3では、耐熱滑性層にシリコーン変性樹脂と共に金属石鹸及びフィラーを添加することにより、高エネルギー印画時の滑性を向上させて、印画時のシワの発生を防ぐ方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−231354号公報
【特許文献2】特開2008−155612号公報
【特許文献3】特開2006−306017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に提案されている感熱転写記録媒体にて昨今の昇華転写方式の高速プリンタにて印画を行ったところ、異常転写は確認されないものの、印画における転写感度が低く、充分なレベルまで至らず、さらには接着層を導入することにより、黒画像を形成した時の黒色の高濃度部に関して印画物表面が部分的にマット化する、画質不良が発生した。
【0013】
特許文献2に提案されている感熱転写記録媒体にて同じく印画を行ったところ、印画における転写感度は高く、充分なレベルに至っているものの、依然として画質不良は確認された。
このように、昨今の昇華転写方式の高速プリンタを用いた場合、従来技術では下引き層導入により印画における転写感度が得られるが、黒画像を形成した時の黒色の高濃度部に関して印画物表面が部分的にマット化する現象を十分に改善した感熱転写記録媒体が見出されていないのが状況である。
【0014】
また、一方で特許文献3に提案されている感熱転写記録媒体と、特許文献1,2に提案されている感熱転写記録媒体に記載の耐熱滑性層を組み合わせた場合、特許文献1,2に提案されている感熱転写記録媒体を単独で印画した場合と比較して印画時に発生するシワによる印画不良はやや良化したものの、充分に防ぐ事は出来なかった。
したがって、昨今の昇華転写方式の高速プリンタを用いた場合、従来技術では、下引き層導入により印画における転写感度が得られるが、黒画像を形成した時の黒色の高濃度部に関して印画物表面が部分的にマット化する現象を十分に改善した感熱転写記録媒体が見出されておらず、また、印画時に発生するシワによる印画不良も充分に防ぐ事が出来なかった。
【0015】
そこで、本発明は、上記の問題点に鑑み、高速印画時における転写感度が高く、かつ、高濃度部で発生する画質不良すなわち印画物表面が部分的にマット化する現象を少なくすることができ、印画時に発生するシワによる印画不良を防ぐことができる感熱転写記録媒体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記の課題を解決するために、以下の構成を有することを特徴とする。
(1)基材と、当該基材の一方の面に形成した耐熱滑性層と、前記基材の他方の面に形成した下引き層と、当該下引き層のうち前記基材と対向する面と反対側の面に形成した染料層と、を備える感熱転写記録媒体において、前記下引き層は、水溶性高分子を主成分として含み、温度23℃且つ湿度50%の条件下における平衡吸湿率が15%以下であることを特徴とする感熱転写記録媒体。
【0017】
(2)前記下引き層の平衡吸湿率が温度23℃、湿度50%の条件下で13%以下であることを特徴とする上記(1)に記載の感熱転写記録媒体。
(3)前記耐熱滑性層の表面粗さ(二乗平均平方根偏差Sq)の平均値αが0.05〜0.40μmであり、かつ、150℃、10分間の条件で静置した後の当該耐熱滑性層の表面粗さ(二乗平均平方根偏差Sq)の平均値βが0.00〜0.70μmであり、前記平均値αと前記平均値βとの差が0.00〜0.30μmであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の感熱転写記録媒体。
【0018】
(4)前記下引き層の乾燥後の塗布量が0.05〜0.30g/mであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の感熱転写記録媒体。
(5)前記被写体の転写される側の少なくとも一層は、水系の塗布液により形成されることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の感熱転写記録媒体。
【0019】
(6)被転写体の転写される側の少なくとも一層が、水系の塗布液により形成される被転写体に使用し、フィルム状またはシート状に形成されたベースと、該ベースの両面のうち一方のベース面上に形成された耐熱滑性層と、該耐熱滑性層と反対側のベース面上に形成された下引き層と、該下引き層の上に形成された染料層とを備えた感熱転写記録媒体の製造方法であって、前記耐熱滑性層と反対側のベース面上に水溶性高分子を主成分として含む下引き層形成液を塗布した後、前記下引き層の平衡吸湿率が温度23℃、湿度50%の条件下で15%以下となるように前記下引き層形成液を乾燥処理することを特徴とする感熱転写記録媒体の製造方法。
【0020】
(7)前記下引き層の平衡吸湿率が温度23℃、湿度50%の条件下で13%以下となるように前記下引き層形成液を乾燥処理することを特徴とする上記(6)に記載の感熱転写記録媒体の製造方法。
(8)前記耐熱滑性層と反対側のベース面上に水溶性高分子を主成分として含む下引き層形成液を該下引き層形成液の乾燥後の塗布量が0.05g/m2以上0.30g/m2以下となるように塗布した後、前記下引き層形成液を乾燥処理することを特徴とする上記(6)又は(7)に記載の感熱転写記録媒体の製造方法。
(9)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の感熱転写記録媒体を用意しておき、前記染料層に含まれる染料を熱により昇華させて被転写体に転写することを特徴とする感熱転写記録方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の感熱転写記録媒体は、水溶性高分子を主成分として含む前記該下引き層の23℃/50%における平衡吸湿率を15%以下、好ましくは13%以下、また、さらに好ましくは、前記耐熱滑性層の表面粗さ(二乗平均平方根偏差Sq)の平均値αが0.05〜0.40μmであり、かつ、150℃、10分間の条件で静置した後の当該耐熱滑性層の表面粗さ(二乗平均平方根偏差Sq)の平均値βが0.00〜0.70μmであり、前記平均値αと前記平均値βとの差が0.00〜0.30μmとすることにより、昨今の昇華転写方式の高速プリンタを用いた場合でも、高速印画時における転写感度が高く、また、印画物表面が部分的にマット化する現象および印画時に発生するシワによる印画不良を防止する印画物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に基づく実施形態に係る感熱転写記録媒体の側断面図である。
図2】本発明に基づく実施形態に係る被転写体の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施例の感熱転写記録媒体は、図1に示すように、基材(10)の一方の面にサーマルヘッドとの滑り性を付与する耐熱滑性層(40)を設け、基材(10)の他方の面に、下引き層(20)、染料層(30)を順次形成した構成である。
基材(10)としては、熱転写における熱圧で軟化変形しない耐熱性と強度が要求されるので、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、セロファン、アセテート、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、芳香族ポリアミド、アラミド、ポリスチレン等の合成樹脂のフィルム、およびコンデンサー紙、パラフィン紙などの紙類等を単独で又は組み合わされた複合体として使用可能である。中でも、物性面、加工性、コスト面などを考慮するとポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0024】
また、基材(10)の厚さは、操作性、加工性を考慮し、2μm以上50μm以下の範囲のものが使用可能であるが、転写適性や加工性等のハンドリング性を考慮すると、2μm以上9μm以下程度のものが好ましい。
また、基材(10)においては、耐熱滑性層(40)または/および下引き層(20)を形成する面に、接着処理を施すことも可能である。接着処理としては、コロナ処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、プラズマ処理、プライマー処理等の公知の技術を適用することができ、それらの処理を二種以上併用することもできる。本発明では、基材と下引き層との接着性を高めることが有効であり、コスト面からもプライマー処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることが好ましい。
【0025】
次に、耐熱滑性層(40)は、耐熱滑性層40の表面粗さ(二乗平均平方根偏差Sq)の平均値αが0.05〜0.40μmであり、かつ、150℃、10分間の条件で静置した後の当該耐熱滑性層の表面粗さ(二乗平均平方根偏差Sq)の平均値βが0.00〜0.70μmであり、前記平均値αと前記平均値βとの差が0.00〜0.30μmの範囲である必要がある。
【0026】
二乗平均平方根偏差Sqに関しては、各種の方法で測定する事が出来るが、下地の影響を受け難く、微細形状の測定が可能となる、非接触形式の測定方法であるレーザー顕微鏡による測定を用いた。
装置としては、走査型共焦点レーザー顕微鏡OLS4000(オリンパス株式会社製)を用いた。レーザー顕微鏡による測定の場合、分解能が対物レンズの開口数に依存する。一方で、ばらつきを緩和する為、測定範囲は広く取る方が好ましい、最も開口数と測定範囲のバランスとして良好である50倍の対物レンズを選択し、10点を無作為に測定した。情報処理として傾きのみ補正を行い、カットオフなしの条件で得られたSqの値を平均して、耐熱滑性層40のSq値とした。
【0027】
なお、耐熱滑性層40の表面粗さは、二乗平均平方根うねりWqにより評価することができる。二乗平均平方根うねりWqの平均値αが0.05〜0.90μm(即ち、0.05μm以上、0.90μm以下の範囲内)であり、かつ、温度が150℃、10分間の条件で静置した後の当該耐熱滑性層の表面粗さ(二乗平均平方根うねりWq)の平均値βが0.00〜1.40μm(即ち、0.00μm以上、1.40μm以下の範囲内)であり、前記平均値αと前記平均値βとの差が0.00〜0.50μm(即ち、0.00μm以上、1.40μm以下の範囲内)であるとよい。
【0028】
二乗平均平方根うねりWqに関しては、各種の方法で測定することができるが、顕微鏡レーザー変位計を用いて、カットオフ値λf1.25mm、λc0.25mmの輪郭曲線フィルタを用いて得られたうねり曲線の二乗平均平方根うねりを算出し、n=10にて測定し、平均値とした。さらに、150℃10分の環境下に静置した後にも同様の方法で耐熱滑性層40のWq値を算出し、150℃10分の環境下での静置前後での差を求めることができる。
【0029】
更に、150℃10分の環境下に静置した後にも同様の方法で耐熱滑性層40のSq値を算出し、150℃10分の環境下での静置前後での差を求めた。
耐熱滑性層40に一定の凹凸があることにより、耐熱滑性層40とサーマルヘッドとの接触面積は小さくなり、両者の摩擦は低下し滑性が得られ、印画不良を防ぐことができるため、本発明において、耐熱滑性層40の表面粗さ(二乗平均平方根偏差Sq)の平均値αの値は、0.05μm〜0.40μmである。耐熱滑性層40の二乗平均平方根偏差Sqが0.05μm以下であると、平滑に近い状態となりサーマルヘッドとの摩擦が上昇し、印画不良を起こす。一方、印画前の耐熱滑性層40の二乗平均平方根偏差Sqが0.40μm以上になってしまうと、凹凸の程度が大きくなり過ぎ、サーマルヘッドからの熱の伝わり方にムラが生じてしまい、それが印画物にも濃度ムラとなって現れてしまう。
【0030】
また、低エネルギー印画から高エネルギー印画にかけて一定の凹凸を保つことができれば、低エネルギー印画時から高エネルギー印画時まで安定した滑性が得られ、同一画像上に印画部と非印画部が存在したとしても、両者で滑性に差が出ることはなく、シワの発生を抑制できる。したがって、耐熱滑性層を150℃の環境で10分静置した際の前後における二乗平均平方根偏差Sqの平均値の差が0.00〜0.30μmの範囲であると、低エネルギー印画時と高エネルギー印画時で表面の凹凸に大きな差は生じず、シワの発生を防止できる。
【0031】
上記表面粗さの範囲を満たすには、耐熱滑性層(40)の凹凸を調整する必要がある。
耐熱滑性層40は、例えば、バインダーとなる樹脂、離型性や滑り性を付与する機能性添加剤、充填剤、硬化剤、溶剤などを必要に応じて配合して耐熱滑性層を形成するための(形成用の)塗布液を調製し、塗布、乾燥して形成することができる。
この耐熱滑性層(40)の乾燥後の塗布量は、0.1g/m以上2.0g/m以下程度が適当である。ここで、耐熱滑性層(40)の乾燥後の塗布量とは、耐熱滑性層形成用の塗布液を塗布、乾燥した後に残った固形分量のことをいい、後述する下引き層(20)の乾燥後の塗布量および染料層(30)の乾燥後の塗布量も、同様に、塗布液を塗布、乾燥した後に残った固形分量のことを指す。
【0032】
耐熱滑性層の一例を挙げると、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエーテル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリルポリオール、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ニトロセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等を用いることが可能である。
【0033】
同様に、機能性添加剤としては、動物系ワックス、植物系ワックス等の天然ワックス、合成炭化水素系ワックス、脂肪族アルコールと酸系ワックス、脂肪酸エステルとグリセライト系ワックス、合成ケトン系ワックス、アミン及びアマイド系ワックス、塩素化炭化水素系ワックス、アルファーオレフィン系ワックス等の合成ワックス、ステアリン酸ブチル、オレイン酸エチル等の高級脂肪酸エステル、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸マグネシウム等の高級脂肪酸金属塩、長鎖アルキルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルリン酸エステル又は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル等のリン酸エステル等の界面活性剤等を用いることが可能である。
【0034】
また、充填剤としては、タルク、シリカ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、シリコーン粒子、ポリエチレン樹脂粒子、ポリプロピレン樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリメチルメタクリレート樹脂粒子、ポリウレタン樹脂粒子等を用いることが可能である。
また、硬化剤としては、トリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等のイソシアネート類、及びその誘導体を用いることが可能である。
【0035】
次に、下引き層(20)は、水溶性高分子を主成分として含む塗布液を、塗布、乾燥して形成される。さらに23℃/50%における平衡吸湿率が15%以下であることが必要である。ここで、主成分とは、本発明の効果を損なわない限り、前記水溶性高分子の他に、さらに他の成分が添加されていても良い旨を表し、前記水溶性高分子の合計が下引き層形成時の全体からみて50質量%超で含まれる意味であるが、好ましくは80質量%以上である。
【0036】
下引き層に用いる水溶性高分子の一例を挙げると、ポリビニルアルコールとその変性/共重合体、ポリビニルピロリドンとその変性/共重合体、デンプン、ゼラチン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。
その中でも基材と染料層との接着性が比較的良好で高い印画濃度が得ることができるのはポリビニルアルコールとその変性/共重合体、ポリビニルピロリドンとその変性/共重合体である。
【0037】
本発明ではさらに下引き層の23℃/50%における平衡吸湿率が15%以下、好ましくは13%以下であることが必要である。平衡吸湿率が15%以下、好ましくは13%以下であると、黒画像を形成した時の黒色の高濃度部に関して印画物表面が部分的にマット化する画像不良を抑えることができる。マット化発生のメカニズムは明らかではないが、平衡吸湿率が15%より大きいと下引き層に含まれる水分が印画時に気化ないし膨張し染料層と印画物表面とが部分的に融着することで、部分的に色相の差が生じ、結果、印画物表面が部分的にマット化する、あるいは、気化ないし膨張した水分が印画物表面に微細な凹凸を形成し、光散乱が生じ、部分的にマット化する為であると推察している。
【0038】
なお、23℃/50%における平衡吸湿率の下限値は特に限定されず、本発明の23℃/50%における平衡吸湿率の範囲は、用いられる樹脂などによって取り得る範囲であって、高速印画時に高い印画濃度が得られる範囲であればよい。
23℃/50%における平衡吸湿率はポリビニルアルコールとその変性/共重合体で8〜10%、ポリビニルピロリドンとその変性/共重合体で25〜30%、カルボキシメチルセルロースで30%程度、デンプンで10〜16%となっており、ポリビニルアルコールとその変性/共重合体を用いることが望ましいが、下引き層の平衡吸湿率が15%以下、好ましくは13%以下であればよく、平衡吸湿率が15%以下、好ましくは13%以下になるようにポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンを任意に混合してもよい。
【0039】
なお、本発明でいう平衡吸湿率は、ISO規格に準じた温度23±1℃、湿度50±2%RHにおける試料の吸湿度合いを示す指標であり、以下の方法で測定した。下引き層で使用する材料を、底面の直径が5.3cmのアルミカップに約5gはかりとり、105℃で3時間乾燥させた。これを23℃/50%RHの恒温恒湿機中に恒量になるまで放置し、その質量(W)を測定した後、これを105℃で3時間乾燥させて絶乾質量(W0)を測定し、下記式により平衡吸湿率を求めた。
平衡吸湿率(質量%)={(W−W0)/W0}×100
【0040】
ポリビニルアルコールとしては、例えば、クラレポバールPVA−235(クラレ社製)、クラレポバールPVA−117(クラレ社製)クラレポバールPVA−124(クラレ社製)ゴーセノールKH−20(日本合成化学社製)、ゴーセノールN−300(日本合成化学社製)、等のポリビニルアルコール、アセトアセチル基を有し、反応性に富むアセトアセチル化ポリビニルアルコールであるゴーセファイマーZ−200、Z−320(日本合成化学社製)や、ポリビニルアルコールの一部のアルコール基をアセタール変性した水系ポリビニルアセタールエスレックKXシリーズ(積水化学社製)、エスレックKWシリーズ(積水化学社製)等が挙げられる。
【0041】
ポリビニルピロリドンとしては、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−4−ピロリドン等のビニルピロリドンの単独重合体(ホモポリマー)またはこれらの共重合体が挙げられる。さらには変性ポリビニルピロリドン樹脂などがあげられる。変性ポリビニルピロリドン樹脂は、N−ビニルピロリドン系モノマーと他のモノマーとの共重合体である。なお、共重合形態は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等特に限定されるものではない。上記のN−ビニルピロリドン系モノマーとは、N−ビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−4−ピロリドン等)及びその誘導体を言うものであって、誘導体としては、例えばN−ビニル−3−メチルピロリドン、N−ビニル−5−メチルピロリドン、N−ビニル−3,3,5−トリメチルピロリドン、N−ビニル−3−ベンジルピロリドン等のピロリドン環に置換基を有するものが挙げられる。
【0042】
N−ビニルピロリドン系モノマーと共重合するモノマー成分は、下記のようなビニル重合性モノマーが挙げられる。例えば(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系モノマー、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、塩化ビニリデン、四ふっ化エチレン、ふっ化ビニリデン等が挙げられる。
【0043】
下引き層(20)の乾燥後の塗布量は、一概に限定されるものではないが、0.05g/m以上0.30g/m以下の範囲内であることが好ましい。0.05g/m未満では、染料層積層時の下引き層劣化により、高速印画時における転写感度が不足し、基材あるいは染料層との密着性に問題を抱える不安がある。一方、0.30g/m超では、感熱転写記録媒体自体の感度低下に影響し、高速印画時における転写感度が不足する不安がある。
【0044】
また下引き層あるいは下引き層形成塗布液には、前記性能を損なわない範囲で、コロイド状無機顔料超微粒子、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、分散剤、粘度調整剤、安定化剤等の公知の添加剤を使用することができる。
なお、コロイド状無機顔料超微粒子としては、従来公知のもので例えば、シリカ(コロイダルシリカ)、アルミナ或はアルミナ水和物(アルミナゾル、コロイダルアルミナ、カチオン性アルミニウム酸化物又はその水和物、疑ベーマイト等)、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン等が挙げられる。
【0045】
次に、染料層(30)は、従来公知のもので対応でき、例えば、熱移行性染料、バインダー、溶剤などを配合して染料層形成用の塗布液を調製し、塗布、乾燥することで形成される。染料層(30)の乾燥後の塗布量は、1.0g/m程度が適当である。なお、染料層は、1色の単一層で構成したり、色相の異なる染料を含む複数の染料層を、同一基材の同一面に面順次に、繰り返し形成したりすることもできる。
【0046】
熱移行性染料は熱により、溶融、拡散もしくは昇華移行する染料である。例えば、イエロー成分としては、ソルベントイエロー56,16,30,93,33、ディスパースイエロー201,231,33等を挙げることができる。マゼンタ成分としては、C.I.ディスパースバイオレット31、C.I.ディスパースレッド60、C.I.ディスパースバイオレット26、C.I.ソルベントレッド27、あるいはC.I.ソルベントレッド19等を挙げることができる。シアン成分としては、C.I.ディスパースブルー354、C.I.ソルベントブルー63、C.I.ソルベントブルー36、C.I.ソルベントブルー266、C.I.ディスパースブルー257、あるいはC.I.ディスパースブルー24等を挙げることができる。墨の染料としては、前記の各染料を組み合わせて調色するのが一般的である。
【0047】
染料層(30)に含まれる樹脂は、従来公知の樹脂バインダーがいずれも使用でき、特に限定されるものではないが、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂やポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂やポリエステル樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、フェノキシ樹脂等を挙げることができる。
【0048】
ここで、染料層(30)の染料と樹脂との配合比率は、質量基準で、(染料)/(樹脂)=10/100〜300/100が好ましい。これは、(染料)/(樹脂)の比率が、10/100を下回ると、染料が少な過ぎて発色感度が不十分となり良好な熱転写画像が得られず、また、この比率が300/100を越えると、樹脂に対する染料の溶解性が極端に低下するために、感熱転写記録媒体となった際に、保存安定性が悪くなって、染料が析出し易くなってしまうためである。また、染料層には、性能を損なわない範囲で、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、分散剤、粘度調整剤、安定化剤等の公知の添加剤が含まれていてもよい。
【0049】
なお、耐熱滑性層(40)、下引き層(20)、染料層(30)は、いずれも従来公知の塗布方法にて塗布し、乾燥することで形成可能である。塗布方法の一例を挙げると、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法、スプレーコーティング法、リバースロールコート法を挙げることができる。
【0050】
本発明の感熱転写記録媒体の製造方法は、被転写体の転写される側の少なくとも一層が、水系の塗布液により形成される被転写体に使用し、フィルム状またはシート状に形成されたベースと、該ベースの両面のうち一方のベース面上に形成された耐熱滑性層と、該耐熱滑性層と反対側のベース面上に形成された下引き層と、該下引き層の上に形成された染料層とを備えた感熱転写記録媒体の製造方法であって、前記耐熱滑性層と反対側のベース面上に水溶性高分子を主成分として含む下引き層形成液を塗布した後、前記下引き層の平衡吸湿率が温度23℃、湿度50%の条件下で15%以下、好ましくは13%以下となるように前記下引き層形成液を乾燥処理することを特徴とする。
【0051】
その際、前記耐熱滑性層と反対側のベース面上に水溶性高分子を主成分として含む下引き層形成液を該下引き層形成液の乾燥後の塗布量が0.05g/m2以上0.30g/m2以下となるように塗布した後、前記下引き層の平衡吸湿率が温度23℃、湿度50%の条件下で13%以下となるように前記下引き層形成液を乾燥処理することが好ましい。
本発明の感熱転写記録方法は、上記の感熱転写記録媒体を用意しておき、前記染料層に含まれる染料を熱により昇華させて、図2に示される被転写体に転写することを特徴とする。
【実施例1】
【0052】
以下に、本発明の各実施例および各比較例に用いた材料を示す。なお、文中で「部」とあるのは、特に断りのない限り質量基準であり。また、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0053】
<耐熱滑性層付き基材の作製>
基材として、4.5μmの片面易接着処理付きポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、その非易接着処理面に、下記組成の耐熱滑性層塗布液−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.5g/mになるように塗布し、100℃1分乾燥することで、耐熱滑性層付き基材を得た。
<耐熱滑性層塗布液−1>
シリコンアクリレート (東亜合成(株)US−350) 50.0部
MEK 50.0部
【0054】
(実施例1)
耐熱滑性層付き基材の易接着処理面に、下記組成の下引き層塗布液−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.20g/mになるように塗布し、100℃2分乾燥することで、下引き層を形成した。引き続き、その下引き層の上に、下記組成の染料層塗布液−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.70g/mになるように塗布し、90℃1分乾燥することで、染料層を形成し、実施例1の感熱転写記録媒体を得た。実施例1では、耐熱滑性層40の二乗平均平方根偏差Sqの平均値α及びβは、α=0.057、β=0.072であった。この時の下引き層の23℃/50%における平衡吸湿率は8%であった。
【0055】
<下引き層塗布液−1>
ポリビニルアルコール 5.00部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
<染料層塗布液>
C.I.ソルベントブルー63 6.0部
ポリビニルアセタール樹脂 4.0部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
【0056】
(実施例2)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層塗布液−2にした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の感熱記録転写媒体を得た。実施例2では、耐熱滑性層40の二乗平均平方根偏差Sqの平均値α及びβは、α=0.058、β=0.068であった。この時の下引き層の23℃/50%における平衡吸湿率は14%であった。
【0057】
<下引き層塗布液−2>
ポリビニルアルコール 3.00部
ポリビニルピロリドン 2.00部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
【0058】
(実施例3)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を乾燥後の塗布量が0.03g/mになるように塗布、乾燥すること以外は、実施例1と同様にして、実施例3の感熱記録転写媒体を得た。実施例3では、耐熱滑性層40の二乗平均平方根偏差Sqの平均値α及びβは、α=0.060、β=0.070であった。
【0059】
(実施例4)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を乾燥後の塗布量が0.35g/mになるように塗布、乾燥すること以外は、実施例1と同様にして、実施例4の感熱記録転写媒体を得た。実施例4では、耐熱滑性層40の二乗平均平方根偏差Sqの平均値α及びβは、α=0.058、β=0.077であった。
【0060】
(実施例5)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体1において、耐熱滑性層40を、耐熱滑性層塗布液−2とした以外は、実施例1と同様にして、実施例5の感熱記録転写媒体を得た。実施例5では、耐熱滑性層40の二乗平均平方根偏差Sqの平均値α及びβは、α=0.175、β=0.265であった。
【0061】
<耐熱滑性層塗布液−2>
アクリルポリオール樹脂(固形分50%) 20部
リン酸エステル 融点15℃ 1.5部
リン酸エステル 融点70℃ 1.5部
ステアリン酸亜鉛 融点115〜125℃ 2部
タルク 粒径1.0μm 1部
タルク 粒径2.5μm 1部
2,6−トリレンジイソシアネートプレポリマー 5部
トルエン 49.5部
メチルエチルケトン 20部
酢酸エチル 5部
【0062】
(実施例6)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体1において、耐熱滑性層40を、耐熱滑性層塗布液−3とした以外は、実施例1と同様にして、実施例6の感熱記録転写媒体を得た。実施例6では、耐熱滑性層40の二乗平均平方根偏差Sqの平均値α及びβは、α=0.386、β=0.673であった。
【0063】
<耐熱滑性層塗布液−3>
アクリルポリオール樹脂(固形分50%) 20部
リン酸エステル 融点15℃ 2部
リン酸エステル 融点70℃ 2部
ステアリン酸亜鉛 融点115〜125℃ 2部
タルク 粒径2.5μm 3部
タルク 粒径3.5μm 5部
2,6−トリレンジイソシアネートプレポリマー 5部
トルエン 46部
メチルエチルケトン 20部
酢酸エチル 5部
【0064】
(比較例1)
耐熱滑性層付き基材の易接着処理面に、下引き層を形成することなく、易接着処理面の上に、実施例1と同様の染料層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.70g/mになるように塗布し、90℃1分乾燥することで、染料層を形成し、比較例1の感熱転写記録媒体を得た。比較例1では、耐熱滑性層40の二乗平均平方根偏差Sqの平均値α及びβは、α=0.063、β=0.078であった。
【0065】
(比較例2)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層塗布液−3にした以外は、実施例1と同様にして、比較例2の感熱記録転写媒体を得た。比較例2では、耐熱滑性層40の二乗平均平方根偏差Sqの平均値α及びβは、α=0.060、β=0.068であった。この時の下引き層の23℃/50%における平衡吸湿率は30%であった。
【0066】
<下引き層塗布液−3>
ポリビニルピロリドン 5.00部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
【0067】
(比較例3)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層塗布液−4にした以外は、実施例1と同様にして、比較例3の感熱記録転写媒体を得た。
比較例3では、耐熱滑性層40の二乗平均平方根偏差Sqの平均値α及びβは、α=0.063、β=0.074であった。この時の下引き層の23℃/50%における平衡吸湿率は20%であった。
【0068】
<下引き層塗布液−4>
ポリビニルアルコール 1.50部
ポリビニルピロリドン 3.50部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
【0069】
(比較例4)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層塗布液−5にした以外は、実施例1と同様にして、比較例4の感熱記録転写媒体を得た。比較例4では、耐熱滑性層40の二乗平均平方根偏差Sqの平均値α及びβは、α=0.062、β=0.075であった。この時の下引き層の23℃/50%における平衡吸湿率は30%であった。
<下引き層塗布液−5>
カルボキシメチルセルロース 5.00部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
【0070】
(比較例5)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層塗布液−6にした以外は、実施例1と同様にして、比較例5の感熱記録転写媒体を得た。比較例5では、下引き層20の温度23℃且つ湿度50%の条件下における平衡吸湿率は、3%であった。この時の下引き層の23℃/50%における平衡吸湿率は3%であった。
<下引き層塗布液−6>
ポリアミドエラストマー 5.00部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
【0071】
(比較例6)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体1において、耐熱滑性層40を、耐熱滑性層塗布液−4とした以外は、実施例1と同様にして、比較例6の感熱記録転写媒体を得た。比較例6では、耐熱滑性層40の二乗平均平方根偏差Sqの平均値α及びβは、α=0.462、β=0.544であった。
【0072】
<耐熱滑性層塗布液−4>
アクリルポリオール樹脂(固形分50%) 20部
リン酸エステル 融点15℃ 2部
リン酸エステル 融点70℃ 2部
ステアリン酸亜鉛 融点115〜125℃ 2部
タルク 粒径3.5μm 2部
タルク 粒径5μm 3.5部
2,6−トリレンジイソシアネートプレポリマー 5部
トルエン 46部
メチルエチルケトン 20部
酢酸エチル 5部
【0073】
(比較例7)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体1において、耐熱滑性層40を、耐熱滑性層塗布液−5とした以外は、実施例1と同様にして、比較例7の感熱記録転写媒体を得た。比較例7では、耐熱滑性層40の二乗平均平方根偏差Sqの平均値α及びβは、α=0.033、β=0.045であった。
<耐熱滑性層塗布液−5>
シリコンアクリレート 30.0部
MEK 70.0部
【0074】
(比較例8)
実施例1で作製した感熱転写記録媒体1において、耐熱滑性層40を、耐熱滑性層塗布液−6とした以外は、実施例1と同様にして、比較例8の感熱記録転写媒体を得た。比較例8では、耐熱滑性層40の二乗平均平方根偏差Sqの平均値α及びβは、α=0.164、β=0.513であった。
【0075】
<耐熱滑性層塗布液−6>
ポリエチレン樹脂(固形分50%) 15部
リン酸エステル 融点15℃ 1.5部
リン酸エステル 融点70℃ 1.5部
ステアリン酸亜鉛 融点115〜125℃ 2部
タルク 粒径1.0μm 1部
タルク 粒径2.5μm 1部
トルエン 49.5部
メチルエチルケトン 20部
酢酸エチル 5部
【0076】
<被転写体の作製>
基材として、188μmの白色発泡ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、その一方の面に下記組成の受像層塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が5.0g/mになるように塗布、乾燥することで、感熱転写用の被転写体を作製した。
<受像層塗布液>
塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体 19.5部
アミノ変性シリコーンオイル 0.5部
トルエン 40.0部
メチルエチルケトン 40.0部
【0077】
<印画評価>
実施例1〜6、比較例1〜8の感熱転写記録媒体を使用し、サーマルシミュレーターにて印画を行い、低濃度部および最高反射濃度を評価した結果を、表1示す。なお最高反射濃度は、印画物表面のマット化が確認されない印画部を、X−Rite528にて測定した値である。低濃度部は最高反射濃度である255階調を11分割した内の、23〜46階調における反射濃度を測定した結果である。なお反射濃度は、X−Rite528にて測定した値である。
なお、印画条件は以下の通りである。
印画環境:23℃/50%RH
ライン周期:0.7msec
印画密度:主走査300dpi 副走査300dpi
【0078】
<異常転写評価>
異常転写の評価は、以下の基準にて行った。△○以上が実用上問題ないレベルである。
○ :被転写体への異常転写が、認められない
△○:被転写体への異常転写が、ごく僅かに認められる
△ :被転写体への異常転写が、僅かに認められる
× :被転写体への異常転写が、全面で認められる
【0079】
<印画物表面評価>
また、印画物表面のマット化評価は、以下の基準にて行った。
○:マット化が、認められない
△:マット化が、部分的に認められる
×:マット化が、はっきりと認められる
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示す結果から、水溶性高分子を主成分として含む下引き層が設けられた実施例1〜6、比較例2〜4および6〜8の感熱転写記録媒体は、下引き層が設けられていない比較例1や水溶性高分子を主成分として含まない比較例5の感熱転写記録媒体と比較して、高速印画時における転写感度が高いことがわかった。さらに、実施例1および比較例2,4の最高反射濃度から、水溶性高分子は、ポリビニルアルコールがより好ましいことが解る。
【0082】
また、23℃/50%における平衡吸湿率が15%以下である、実施例1〜6、比較例4〜8では印画物表面が部分的にマット化する現象は確認されなかったが、23℃/50%における平衡吸湿率が15%以上である比較例2〜4では確認された。
また、実施例3の感熱転写記録媒体は、実施例1の感熱転写記録媒体と比較すると、下引き層の塗布量が0.10g/m未満であるため、低階調部の転写感度は向上したが幾分密着性が低下することがわかった。また、実施例4の感熱転写記録媒体は、同じく実施例1の感熱転写記録媒体と比較すると、下引き層の塗布量が0.30g/m超であるため、低濃度部の転写感度が低下していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明により得られる感熱転写記録媒体は、昇華転写方式のプリンタに使用することができ、プリンタの高速・高機能化と併せて、各種画像を簡便にフルカラー形成できるため、デジタルカメラのセルフプリント、身分証明書などのカード類、アミューズメント用出力物等に広く利用できる。
【符号の説明】
【0084】
10 基材
20 下引き層
30 染料層
40 耐熱滑性層
100 基材
200 断熱層
300 受容層
図1
図2