特許第6183241号(P6183241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183241
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】吸音材付きワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H02G 3/04 20060101AFI20170814BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20170814BHJP
   D04H 1/70 20120101ALN20170814BHJP
   B32B 5/00 20060101ALN20170814BHJP
【FI】
   H02G3/04 081
   B60R16/02 623T
   !D04H1/70
   !B32B5/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-28355(P2014-28355)
(22)【出願日】2014年2月18日
(65)【公開番号】特開2015-154664(P2015-154664A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】高田 裕
【審査官】 石坂 知樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−207873(JP,A)
【文献】 特開2003−201658(JP,A)
【文献】 特開2003−235126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/04
B60R 16/02
B32B 5/00
D04H 1/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目付50〜400g/m、厚み5〜20mmの不織布を有する吸音材と、
少なくとも一部が前記吸音材と一体化されているワイヤーハーネスと、を備え、
前記吸音材は、厚み方向の圧縮率が50%になったときの垂直抗力が10N未満であることを特徴とする吸音材付きワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記ワイヤーハーネスの少なくとも一部が一枚又は複数枚の前記吸音材に挟まれることにより、前記吸音材と前記ワイヤーハーネスとが一体化されていることを特徴とする請求項1に記載の吸音材付きワイヤーハーネス。
【請求項3】
前記不織布の繊維径が4〜100μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の吸音材付きワイヤーハーネス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音材とワイヤーハーネスとが一体化された吸音材付きワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車両室内の静粛性を高めることを目的として、車両内の騒音を発生する装置の近傍には、グラスウール、ロックウール、多孔性セラミック、屑綿など、柔らかな素材からなる遮音材や吸音材が設けられていた。しかし、遮音材や吸音材の施工性、人体への影響、リサイクル性、環境負荷、軽量化等の観点から、現在ではこれら遮音材や吸音材の多くには不織布が用いられるようになっている。
【0003】
また、近年、自動車や電化製品等を中心に高性能、高機能化が急速に進められている。これら自動車や電化製品等の様々なエレクトロニクス設備を正確に作動させるためには、その内部配線に複数の電線が用いられる必要がある。これら複数の電線は一般にワイヤーハーネスの形態で使用される。ワイヤーハーネスとは、複数の電線を予め配線に必要な形態に組み上げておくもので、必要な分岐、端末へのコネクタ付け等を施した上で、テープ状、チューブ状またはシート状等の種々の形状からなるワイヤーハーネス保護材を電線束の外周に被覆することにより形成されるものである。
【0004】
自動車に搭載されるワイヤーハーネスは、上記騒音を発生する装置を含む種々の電装品が電気的に接続されるように車両内に配索されるが、このワイヤーハーネスが振動などにより車体や車両内の他の部材等と接触して騒音を発生させることがあり、かかる騒音を抑制するため、車両内にはウレタンシートやPVCシートなどの保護材が備えられることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−235126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ワイヤーハーネスに用いられる上記ウレタンシートやPVCシートなどの保護材は、緩衝機能のみならず消音機能も備えているが、これらは吸音材とは用途や目的が異なるため、吸音材とは別々に車両内に配設される。
【0007】
これら消音機能を有する保護材は、打音特性については非常に良好な性能を示す。しかしながら、ワイヤーハーネスと車体、又はワイヤーハーネスと車両内の他部材とが擦れることにより生ずる擦れ音に関しては、不織布からなる吸音材と比較して消音効果に乏しいという欠点があり、車両内部で発生した擦れ音が車両室内へと侵入することにより、車両室内の静粛性を損なうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る吸音材付きワイヤーハーネスは、目付50〜400g/m、厚み5〜20mmの不織布を有する吸音材と、少なくとも一部が前記吸音材と一体化されているワイヤーハーネスと、を備えることを要旨とする。
【0009】
本発明に係る吸音材付きワイヤーハーネスの吸音材は、目付50〜400g/m、厚み5〜20mmの不織布を備えることにより、吸音材の柔らかさに優れ、また、高い擦れ音抑制効果を発揮する。
【0010】
また、その柔らかさにより吸音材の厚みの自由度が高められることから、車両内へワイヤーハーネスを配索する際に、車体や車両内の部材間の様々な隙間に応じて柔軟に形状を変形させることができ、また、隙間が埋められることによる吸音性能の向上効果も期待される。
【0011】
さらに、上記吸音材がワイヤーハーネスの少なくとも一部と一体化されていることにより、吸音材がワイヤーハーネスの保護材としての機能をも有し、ワイヤーハーネスと車体、又はワイヤーハーネスと車両内の他部材とが接触することにより生ずる擦れ音を効果的に抑制することができる。
【0012】
吸音材とワイヤーハーネスとを一体化する方法としては、一枚又は複数枚の吸音材でワイヤーハーネスを巻装又は挟んだ構成が考えられる。
【0013】
また、吸音材としての吸音性能と耐久性とを両立させるためには、不織布の繊維径を4〜100μmとすることが好ましい。繊維径を細くすることにより吸音材の吸音性能を高めることができるが、細くしすぎた場合は吸音材の耐久性が失われ、また逆に太くしすぎた場合は吸音材の吸音効果が発揮されないためである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る吸音材付きワイヤーハーネスによれば、ワイヤーハーネスと車体、又はワイヤーハーネスと車両内の他部材とが接触することにより生ずる擦れ音を効果的に抑制することができ、車両室内への騒音の侵入が低減され、車両室内の静粛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】吸音材を一枚備える吸音材付きワイヤーハーネスの外観斜視図及び断面図である。
図2】吸音材を一枚備える吸音材付きワイヤーハーネスの他形態の外観斜視図及び断面図である。
図3】二枚の吸音材に挟まれた吸音材付きワイヤーハーネスの形態を示す外観斜視図及び断面図である。
図4】吸音材の柔らかさ測定方法についての説明図である。
図5】吸音材の擦れ音の計測方法についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、吸音材を一枚備える吸音材付きワイヤーハーネスの実施形態を示す外観斜視図及びその断面図である。図1(a)は吸音材付きワイヤーハーネス10の外観斜視図、図1(b)はそのA−A断面図である。
【0018】
吸音材付きワイヤーハーネス10は、芯線の周囲が絶縁体により被覆された電線を複数本束にした電線束からなるワイヤーハーネス2の周囲を一枚の吸音材1により巻装してなるものである。ワイヤーハーネス2は電線束に限定されず、1本の電線のみで構成されても良い。
【0019】
吸音材1の目付及び厚みは、目付50〜400g/m、厚み5〜20mmの範囲内とする。より好ましくは目付200〜300g/m、厚み10〜15mmの範囲内である。吸音材1の柔らかさと擦れ音の抑制効果との両立を図るためである。
【0020】
吸音材1はその全体が均一な目付及び厚みである必要はなく、目付50〜400g/m、厚み5〜20mmの範囲内であれば部位により異なっていても良い。
【0021】
吸音材1の製法としては、ニードルパンチ法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法等を用いることができる。
【0022】
吸音材1を構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルのほか、ポリオレフィン、ナイロン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、レーヨン、アクリロニトリル、セルロース、ケナフ、ガラス等を使用することができる。
【0023】
上記繊維の断面形状は特に限定されず、芯鞘型、円筒型、中空型、サイドバイサイド型や、通常の繊維とは形状の異なる異型断面繊維を使用しても良い。
【0024】
上記繊維の繊維径は4〜100μmの範囲内であることが好ましい。吸音材1の吸音性能と耐久性との両立を図るためである。
【0025】
吸音材1の柔らかさは、φ60mmの吸音材1の不織布を二枚重ねたものをφ60mmの円柱板で圧縮し、圧縮率が50%となった時点での垂直抗力が10N未満であることが好ましい。より好ましくは5N未満である。
【0026】
吸音材付きワイヤーハーネス10は、吸音材1とワイヤーハーネス2とが一体化されていることにより、吸音材1を車体や車両内の部材間の様々な隙間に応じて柔軟に形状を変形させてワイヤーハーネス2を配索することができ、車両の走行中に生じる振動等でワイヤーハーネス2が車体や車両内の他部材と接触することによる擦れ音を効果的に抑制することができるとともに、吸音材1がワイヤーハーネス2の保護材としても機能している。さらに、隙間が埋められることによる吸音性能の向上効果も期待される。
【0027】
吸音材1をワイヤーハーネス2に固定して一体化する手段としては、吸音材1を接着剤やステープラ等で貼り合わせる方法が挙げられる。その他、図示しない別体の取付部材を用いて固定しても良い。
【0028】
図2は、吸音材1を一枚備える吸音材付きワイヤーハーネスの他の実施形態を示す外観斜視図及びその断面図である。図2(a)は吸音材付きワイヤーハーネス11の外観斜視図、図2(b)はそのB−B断面図である。
【0029】
吸音材付きワイヤーハーネス11は、ワイヤーハーネス2の外周に一枚の吸音材1が巻装されている点では吸音材付きワイヤーハーネス10と同じであるが、吸音材付きワイヤーハーネス11に巻装された吸音材1には、その軸方向に沿って周方向の対称位置から径方向外側に延出した耳部3が二条形成されている。耳部3は、同吸音材1の周方向の余剰部を接着剤またはステープラ等で貼り合わせたもので、耳部3の一方は同吸音材1の周方向端部を貼り合わせたものであり、他方はその対称位置の余剰部を折り曲げて貼り合わせたものである。吸音材1が耳部3を有することにより、車両内のより大きな隙間を埋め、吸音性能を向上させることができる。
【0030】
図3は、二枚の吸音材に挟まれた吸音材付きワイヤーハーネスの実施形態を示す外観斜視図及びその断面図である。図3(a)は吸音材付きワイヤーハーネス12の外観斜視図、図3(b)はそのC−C断面図である。
【0031】
吸音材付きワイヤーハーネス12は、ワイヤーハーネス2を被覆する吸音材が、二枚の吸音材1からなる点を除いて、吸音材付きワイヤーハーネス11と同様の構成及び効果を有する。かかる二枚の吸音材1は同一の目付及び厚みである必要はなく、目付50〜400g/m、厚み5〜20mmの範囲内であれば異なっていても良い。
【実施例】
【0032】
以下に本発明の吸音材付きワイヤーハーネスに係る吸音材の実施例及び比較例を示す。本実施例及び比較例の吸音材は、ニードルパンチで製造された不織布を二枚重ねたものを使用した。また、吸音材の不織布にはポリエステル繊維を使用し、繊維径は14μmとした。
【0033】
各実施例及び比較例の吸音材の目付及び厚みは、実施例1は目付50g/m、厚み5mm、実施例2は目付200g/m、厚み10mm、実施例3は目付300g/m、厚み15mm、実施例4は目付400g/m、厚み20mm、比較例1は目付10g/m、厚み2mm、比較例は目付500g/m、厚み25mmとした。
【0034】
[柔らかさ測定]
実施例1〜4、比較例1、2の吸音材について、図4の方法により柔らかさの測定を行った。以下にその詳細な測定方法を説明する。
【0035】
フォースゲージ20にφ60mmの円柱板である押込み板21を装着し、押込み板21で吸音材23を圧縮した際の垂直抗力を測定した。圧縮速度は1mm/minとし、押込み板21と同じくφ60mmの不織布22が二枚重ねられた吸音材23の厚みに対して、圧縮率が50%となった時点でのフォースゲージ20の値を取得した。この方法により測定された値が10N未満の場合は、本発明の吸音材に期待する効果を得るに十分な柔らかさがあるものとして「○」と判定し、10N以上の場合は「×」と判定した。その結果を表1に示す。
【0036】
表1に示されるように、目付50g/m、厚み5mmから、目付400g/m、厚み20mmまでの吸音材(実施例1〜4、比較例1)では10N未満の柔らかさが保たれており、特に目付300g/m、厚み15mm以下の吸音材の柔らかさは5N未満となっている(実施例1〜3、比較例1)。目付500g/m、厚み25mmの吸音材(比較例2)では垂直抗力は21.5Nまで上昇し、柔らかさが大幅に失われている。
【0037】
[擦れ音測定]
SAE J2192「Recommended Testing Methods for Physical Protection of Wiring Harnesses」に準拠し、実施例1〜4、比較例1、2の各吸音材について擦れ音の抑制性能を評価した。各実施例及び比較例の吸音材の寸法は200mm×50mmとした。騒音計の計測条件はLAmax特性にて3秒間とし、算出されたオーバーオール値(O.A.値)を数値比較した。また、周囲の騒音を拾わない様、遮音箱を設置し、遮音箱内において測定を実施した。
【0038】
図5(a)は擦れ音測定の具体的な実施方法を示す図であり、図5(b)は図5(a)のD−D断面図である。以下にその詳細な測定方法を説明する。
【0039】
遮音箱30の内壁には吸音材31(本発明における吸音材とは別の吸音材)が貼付されており、遮音箱30内の床部には、厚さ1.6mm、面積300mm×500mmの鉄板32が、その四隅を脚部33により支持されて配置されている。鉄板32の上面には、実施例1〜4、比較例1、2の各吸音材とワイヤーハーネスとを一体化したφ15mmの試験体34が、鉄板32の長手方向に沿って短手方向中央に載置されている。鉄板32から上方へ150mm離れた位置には擦れ音を集音するマイクロホン35が配置されている。試験体34の一端部には、防音材36で減音された加振機37から延出する治具38が結合されており、また同端部には加速度センサ39が取り付けられている。
【0040】
かかる環境下において、加振機37により試験体34を軸方向に両振幅5mm、9Hzで加振した。暗騒音は26dBで測定し、試験体34の生じる擦れ音が、日東電工製「エプトシーラー」No.685のウレタンシート保護材が生じる擦れ音である38dBより小さくなった場合を「○」、38dB以上であった場合を「×」と判定した。その結果を表1に示す。
【0041】
表1に示されるように、目付50g/m、厚み5mmから、目付500g/m、厚み25mmまでの吸音材(実施例1〜4、比較例2)では38dB未満の擦れ音が保たれており、特に目付200g/m、厚み10mm以上の吸音材の擦れ音は30dB未満となっている(実施例2〜4、比較例2)。実施例1よりも薄く粗い吸音材(比較例1)では45.8dBと、大幅に擦れ音が増加している。
【0042】
【表1】
【0043】
上記、実施例1〜4、比較例1、2についての[柔らかさ測定]及び[擦れ音測定]の結果を統合すると、吸音材を構成する不織布の目付及び厚さを、目付50〜400g/m、厚み5〜20mmの範囲内とすることにより、吸音材の柔らかさと、擦れ音の抑制効果との両立を図ることが可能であることが分かる。特に、目付200〜300g/m、厚み10〜15mmの範囲内ではその両立効果が顕著である。
【0044】
以上、本発明の実施例及び比較例について詳細に説明したが、本発明は、上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 吸音材
2 ワイヤーハーネス
3 吸音材1の耳部
10、11 一枚の吸音材1で被覆された吸音材付きワイヤーハーネスの実施形態
12 二枚の吸音材1で被覆された吸音材付きワイヤーハーネスの実施形態
20〜23 柔らかさの測定試験に用いる設備
30〜39 擦れ音の測定試験に用いる設備

図1
図2
図3
図4
図5