(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記固体粒子は、銅スラグ、鉄鋼スラグ、フェロニッケルスラグ、再生骨材、焼却灰溶融スラグ、フライアッシュから選ばれる1種以上で形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される複合材料組成物では、接着性を有する高分子化合物を用いてセラミックス粒子とカーボンナノファイバーとが接着されている、すなわち、セラミックス粒子とカーボンナノファイバーとが、その界面において単に接触しているだけである。そのため、特許文献1に開示される複合材料組成物では、セラミックス粒子とカーボンナノファイバーの間の熱抵抗が高く、十分に熱伝導度を向上することができなかった。
【0006】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、効率よく熱を伝導できるゴム成形体及びそのゴム成形体を作製できるゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点は、ゴム母材と、固体粒子と、前記固体粒子と化学結合しているカーボンナノファイバーとを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記固体粒子に化学結合している触媒粒子と化学結合することで、前記触媒粒子を介して前記固体粒子と化学結合しているカーボンナノファイバーを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、前記固体粒子と直接化学結合しているカーボンナノファイバーを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の第4の観点は、第1〜第3のいずれかの観点に基づく発明であって、前記固体粒子が、炭素材料から形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の第5の観点は、第1〜第4のいずれかの観点に基づく発明であって、前記固体粒子の平均アスペクト比が1〜5であることを特徴とする。
【0012】
本発明の第6の観点は、第1〜第5のいずれかの観点に基づく発明であって、前記カーボンナノファイバーの平均層数が20層以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第7の観点は、第1〜第6のいずれかの観点に基づく発明であって、前記固体粒子は、銅スラグ、鉄鋼スラグ、フェロニッケルスラグ、再生骨材、焼却灰溶融スラグ、フライアッシュから選ばれる1種以上で形成されることを特徴とする。
【0014】
本発明の第8の観点は、第1〜第7のいずれかの観点に基づくゴム組成物を用いて作製されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1〜3の観点のゴム組成物は、ゴム母材と、固体粒子と、固体粒子と化学結合しているカーボンナノファイバーとを含むので、固体粒子とカーボンナノファイバーの間の熱抵抗が低い。よって、ゴム組成物は熱伝導度の高いゴム成形体を作製できる。
【0016】
本発明の第4の観点のゴム組成物は、固体粒子が炭素材料から形成されるようにすることで、炭素材料から形成された固体粒子の熱伝導度が高く、より熱伝導度の高いゴム成形体を作製できる。またゴム組成物は、触媒粒子を形成する金属がセラミックスと比較して炭素材料とより強固に化学結合するので、触媒粒子とカーボンナノファイバーの間の熱抵抗がさらに低くなる。さらにゴム組成物は、触媒粒子と固体粒子とがより強固に化学結合し、炭素材料がセラミックよりも熱膨張しにくいので、触媒粒子と触媒粒子に結合したカーボンナノファイバーとが固体粒子から脱落し難く、熱伝導度の低下が抑制される。よって、ゴム組成物は、より熱伝導度の高いゴム成形体を作製できる。
【0017】
本発明の第5の観点のゴム組成物は、固体粒子の平均アスペクト比が1〜5であるので、熱伝導度に異方性が小さいゴム成形体を作製できる。
【0018】
本発明の第6の観点のゴム組成物は、カーボンナノファイバーの平均層数が20層以上であるので、ゴム組成物のムーニー粘度が上昇せず、ゴム成形体を形成し易い。
【0019】
本発明の第7の観点のゴム組成物は、前記固体粒子は、銅スラグ、鉄鋼スラグ、フェロニッケルスラグ、再生骨材、焼却灰溶融スラグ、フライアッシュから選ばれる1種以上で形成されるので、固体粒子に触媒粒子を担持させる工程を省略できる。
【0020】
本発明の第8の観点のゴム成形体は、第1〜第7のいずれかの観点に基づくゴム組成物を用いて作製されているので、熱伝導度が高い。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.第1実施形態
(i)ゴム組成物の構成
ゴム組成物は、ゴム母材と、固体粒子と、固体粒子と化学結合しているカーボンナノファイバーとを含んでいる。ゴム組成物は、その他に加硫促進剤、硫黄等を含んでいてもよい。
【0022】
ゴム母材は、ゴム組成物の母材となるゴムである。ゴム母材としては、シリコーン、ニトリルゴム(以下、NBRという。)、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、ウレタンゴム等を用いることができる。
【0023】
固体粒子は、黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維等の炭素材料及び金属酸化物、窒化物、炭化物、ホウ化物等のセラミックから選ばれる1種以上で形成されている。固体粒子の形状は特に限定されないが、固体粒子の長辺の長さを短辺の長さで割った値で表されるアスペクト比の平均値(以下、平均アスペクト比という。)が1〜5であることが望ましい。さらには固体粒子が球形であることが特に望ましい。平均アスペクト比が5より大きくなると、ゴム成形体を射出成型により作製した場合に、ゴム成形体では、固体粒子の長軸方向がゴム成形体の射出方向と平行な方向(以下、平行方向という。)に揃い易くなる。固体粒子の長軸方向が平行方向に揃うことで、ゴム成形体では、固体粒子間の距離がゴム成形体の射出方向と垂直な方向(以下、垂直方向という。)よりも平行方向の方が短くなる。平行方向では、平均アスペクト比が大きくなるほど固体粒子間の距離が短くなり、固体粒子を熱が伝導する割合が増え、より熱が伝導し易くなる。その結果として、平行方向の熱伝導度は、垂直方向の熱伝導度より高くなる。したがって、ゴム成形体は熱伝導度に異方性が生じる。一方で、固体粒子が球形の場合、固体粒子の形状が等方性を有しているので、熱が固体粒子を伝導する割合が各方向で等しく、固体粒子は熱伝導度に異方性が生じにくい。
【0024】
固体粒子は、カーボンナノファイバーを合成する時に用いられる触媒元素、例えば、Fe、Co、Ni、Ag、Au、Cu及びMoから選ばれる1種以上を含む触媒粒子を担持している。固体粒子は触媒粒子と化学結合することで触媒粒子を担持している。
【0025】
カーボンナノファイバーの一部は、一端が固体粒子の触媒粒子と化学結合することで、触媒粒子を介して固体粒子に結合している。また、それ以外のカーボンナノファイバーの一部は、一端が固体粒子と直接化学結合しており、当該カーボンナノファイバーの他端に触媒粒子が化学結合している。さらに、カーボンナノファイバーの一部は、固体粒子と化学結合していない。
【0026】
固体粒子と触媒粒子、触媒粒子とカーボンナノファイバー、及び固体粒子とカーボンナノファイバーの化学結合は、イオン結合、共有結合、金属結合から選ばれる1種以上である。また化学結合か物理結合かどうかはTEM観察によって界面を観察することで確認できる。
【0027】
上記の様に固体粒子は、カーボンナノファイバーと化学結合しており、当該カーボンナノファイバーによって表面が覆われている。
【0028】
カーボンナノファイバーは、平均層数が20層以上の多層カーボナノファイバーであることが望ましい。平均層数が20層未満になると、ゴム母材とカーボナノファイバーが化学結合している固体粒子とを混合するときに、カーボンナノファイバーが破損して細切れとなり易く、細切れとなったカーボンナノファイバーによりゴム組成物の流動性が低下する。そのため、ゴム組成物のムーニー粘度が上昇してゴム成形体を作製し難くなるからである。
【0029】
固体粒子は、カーボンナノファイバーと化学結合しており、表面が当該カーボンナノファイバーで覆われている。そのためゴム組成物中において、カーボンナノファイバー同士が接触し、固体粒子同士はカーボンナノファイバーを介して接続される。よってゴム組成物には、カーボンナノファイバーのネットワークとカーボンナノファイバーを介した固体粒子のネットワークとが形成されている。カーボンナノファイバーのネットワークは、例えば、一の固体粒子の表面を覆っているカーボンナノファイバーから、他の固体粒子の表面を覆い、当該カーボンナノファイバーと接触している他のカーボンナノファイバーへと熱が伝わる熱の伝導経路を形成する。カーボンナノファイバーを介した固体粒子のネットワークは、例えば、一の固体粒子から、当該一の固体粒子と化学結合し、一の固体粒子の表面を覆っているカーボンナノファイバー及び当該カーボンナノファイバーと接触している他のカーボンナノファイバーを介して、当該他のカーボンナノファイバーと化学結合し、他のカーボンナノファイバーにより表面が覆われている他の固体粒子へと熱が伝わる熱の伝導経路を形成する。またゴム組成物では、固体粒子の表面がカーボンナノファイバーで覆われているため、固体粒子がゴム組成物中に均一に分散されていれば、カーボンナノファイバーも均一に分散されている。そのためゴム組成物では、カーボンナノファイバーのネットワークがパーコレートし易い。すなわち、カーボンナノファイバーのネットワークがゴム組成物全体に広がり易い。よって、上記2つの熱の伝導経路がゴム組成物全体に形成される。
【0030】
(ii)ゴム組成物の製造方法
ゴム組成物の製造方法は(1)カーボンナノファイバーが化学結合している固体粒子を作製する工程、(2)カーボンナノファイバーが化学結合している固体粒子とゴム母材とを混合する工程からなる。
【0031】
(1)カーボンナノファイバーが化学結合している固体粒子を作製する工程を説明する。当該工程は(A)固体粒子に触媒粒子を担持させる工程、(B)触媒粒子を活性化させる工程、(C)カーボンナノファイバーを合成する工程からなる。
【0032】
(A)固体粒子に触媒粒子を担持させる工程では、所定量のCo(NO
3)
2・6H
2OとFe(NO
3)
3・9H
2Oと所定の平均粒径の固体粒子とをメタノールに投入し、超音波分散させる。その後に、固体粒子を分散させたメタノールを、所定温度で所定時間、乾燥させて、触媒元素としてCo及びFeを含む触媒粒子を担持した固体粒子を得る。本実施形態では、Co及びFeを含む触媒粒子を固体粒子に担持させたが、Ni、Ag、Au、Cu及びMoの硝酸塩を用いることで、触媒元素としてNi、Ag、Au、Cu及びMoを含む触媒粒子を固体粒子に担持させてもよい。また、粒子の表面にも成膜可能なスパッタリング手法であるバレルスパッタ等の方法により、固体粒子の表面に触媒元素でなる薄膜を堆積することで、固体粒子に触媒粒子を担持させてもよい。
【0033】
(B)触媒粒子を活性化させる工程では、触媒粒子を担持した固体粒子をセラミック容器等に入れ、炉内に配置する。その後、H
2を含む還元性ガス雰囲気中において、セラミック容器等に収容された触媒粒子を担持した固体粒子を所定温度に加熱して所定時間還元処理し、触媒粒子中の触媒元素を活性化させる。ここで活性化とは、触媒粒子に含まれている触媒元素の酸化物を還元することを指す。触媒粒子中の触媒元素を活性化することで、触媒として機能する触媒元素が増加する。
【0034】
(C)カーボンナノファイバーを合成する工程では、触媒粒子を担持した固体粒子をカーボンナノファイバー合成用触媒として用い、所定温度で、セラミック容器等に収容された活性化後の固体粒子に、CO、CH
4、C
2H
4、C
2H
2、CH
3OH、C
2H
5OH等のカーボンナノファイバーの原料となるガスを1種類以上含む所定のガスを所定時間供給してカーボンナノファイバーを合成する。カーボンナノファイバーは、固体粒子に担持された触媒粒子から成長し、触媒粒子を介してもしくは直接固体粒子と化学結合している。
【0035】
合成工程において、合成されたカーボンナノファイバーの一部は、触媒粒子がカーボンナノファイバーの先端に結合し、そこから成長が進むいわゆるTip growthモードによる成長をする。Tip growthモードにより成長したカーボンナノファイバーは、先端に触媒粒子が化学結合し、根元となる他端で固体粒子と直接化学結合している。
【0036】
(2)カーボンナノファイバーが化学結合している固体粒子とゴム母材とを混合する工程を説明する。当該工程ではまず、ゴム母材を所定温度、所定回転数で所定時間、素練りする。素練りしたゴム母材にカーボンナノファイバーが化学結合している固体粒子を所定量投入し、所定温度、所定回転数で所定時間、混合する。当該混合物を冷却した後、所定量の加硫促進剤及び硫黄を混合物に投入し、混合物を所定温度、所定回転数で所定時間、混合する。以上の工程を経て、ゴム組成物を得る。
【0037】
(iii)ゴム組成物の用途
ゴム組成物は、ゴム成形体の原料として用いることができる。ゴム成形体は、ゴム組成物を所定形状に成形し、所定温度で所定時間、加硫することで作製できる。
【0038】
ゴム組成物は、カーボンナノファイバーを介した熱の伝導経路と、カーボンナノファイバーと固体粒子とを介した熱の伝導経路との2つの熱の伝導経路が形成され易い。よってゴム組成物では、カーボンナノファイバーからカーボンナノファイバーへと熱が伝導し、さらに一の固体粒子からカーボンナノファイバーを介して他の固体粒子へと熱が伝導してゴム組成物全体に熱が伝わる。このようにゴム組成物は、2つの伝導経路を介して熱が伝導するので、高い熱伝導度が発現される。また、熱の伝導経路がゴム組成物全体に形成されているので、ゴム組成物は全体に熱が伝わり易い。さらに固体粒子とカーボンナノファイバーとが化学結合しているので、固体粒子とカーボンナノファイバーの間の熱抵抗が低く、ゴム組成物はさらに熱が伝わり易い。それゆえに、ゴム組成物を用いて作製したゴム成形体は熱伝導度が高い。
【0039】
(iv)作用及び効果
ゴム組成物は、ゴム母材と、固体粒子と、固体粒子と化学結合しているカーボンナノファイバーとを含むように構成したので、パーコレートしたカーボンナノファイバーのネットワークが形成されやすく、また固体粒子とカーボンナノファイバーの間の熱抵抗が低い。よって、ゴム組成物は、熱伝導度が高いゴム成形体を作製できる。
【0040】
また、ゴム組成物は、固体粒子が熱伝導度の高い炭素材料から形成されるようにすることで、固体粒子の熱伝導度がより高くなる。ゴム組成物は、触媒粒子を形成する金属がセラミックスと比較して炭素材料とより強固に化学結合するので、触媒粒子とカーボンナノファイバーの間の熱抵抗がさらに低くなる。ゴム組成物は、触媒粒子と固体粒子とがより強固に化学結合し、さらに炭素材料がセラミックよりも熱膨張しにくいので、触媒粒子と触媒粒子に結合したカーボンナノファイバーとが固体粒子から脱落し難く、熱伝導度の低下が抑制される。よって、ゴム組成物は、より熱伝導度の高いゴム成形体を作製できる。
【0041】
2.第2実施形態
(i)ゴム組成物の構成
第2実施形態のゴム組成物は、上記第1実施形態に対し、固体粒子が異なる。第1実施形態と同様の構成は説明を省略する。
【0042】
固体粒子は、カーボンナノファイバーを合成する時に用いられる触媒元素、例えば、Fe、Co、Ni、Ag、Au、Cu及びMoから選ばれる1種以上の元素を含んでいる。触媒元素は、固体粒子の内部や表面に触媒粒子として存在している。当該触媒粒子は固体粒子と化学結合している。固体粒子は、上記触媒元素を含んでいる物質を粉砕処理して形成される。例えば固体粒子は、廃棄物である銅スラグ、鉄鋼スラグ、フェロニッケルスラグ、再生骨材、焼却灰溶融スラグ、フライアッシュから選ばれる1種以上を粉砕処理して形成される。
【0043】
(ii)ゴム組成物の製造方法
第2実施形態のゴム組成物の製造方法は、上記第1実施形態に対し、カーボンナノファイバーが化学結合している固体粒子を作製する工程が異なる。第1実施形態と同様の構成は説明を省略する。
【0044】
(1)カーボンナノファイバーが化学結合している固体粒子を作製する工程を説明する。当該工程は(A)触媒粒子を活性化させる工程、(B)カーボンナノファイバーを合成する工程からなる。
【0045】
(A)触媒粒子を活性化させる工程では、まず銅スラグ等の固体粒子の原料となる物質を所定粒径に粉砕処理して固体粒子を形成する。粉砕処理した固体粒子をセラミック容器等に入れ、炉内に配置する。その後、セラミック容器等に収容された固体粒子を、例えばH
2を含む還元性ガス雰囲気中において所定温度に加熱して所定の時間還元処理し、固体粒子中の触媒元素を活性化させる。ここで活性化とは、固体粒子中の触媒元素の酸化物を還元することを指す。固体粒子中の触媒元素を活性化することで、固体粒子中に触媒粒子が形成される。
【0046】
第2実施形態では、固体粒子が触媒元素を含み、触媒粒子を活性化させる工程で固体粒子中に触媒粒子が形成される。よって、第2実施形態では、固体粒子をそのままカーボンナノファイバー合成用触媒として用いることができ、固体粒子に触媒粒子を担持させる必要がない。以下の工程は、第1実施形態と同様なので説明を省略する。
【0047】
(iii)作用及び効果
第2実施形態のゴム組成物は、第1実施形態と同様に、ゴム母材と、固体粒子と、固体粒子と化学結合しているカーボンナノファイバーとを含むように構成したので、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0048】
またゴム組成物は、固体粒子が銅スラグ、鉄鋼スラグ、フェロニッケルスラグ、再生骨材、焼却灰溶融スラグ、フライアッシュから選ばれる1種以上で形成されるように構成することで、固体粒子に触媒粒子を担持させる工程を省略できる。よって、ゴム組成物は熱伝導度が高いゴム成形体を容易に作製できる。
【0049】
3.実施例
(i)ゴム成形体の作製
実施例1〜8のシート状のゴム成形体を射出成型により作製した。Co(NO
3)
2・6H
2Oを2wt%、Fe(NO
3)
3・9H
2Oを2wt%含む10mLのメタノールに、固体粒子としてHNO
3とH
2SO
4とを1:3の割合で混合した液によって12時間室温で酸処理した球状化黒鉛(日本黒鉛社製、平均粒径Dv50=20μm)を10g投入し、超音波分散させた。その後に、室温で24時間、球状化黒鉛を分散させたメタノールを乾燥させて、触媒粒子としてCo及びFeを担持した球状化黒鉛を得た。
【0050】
次に、触媒粒子を担持した球状化黒鉛をセラミック容器に入れ、炉内に配置した。その後、H
2ガス雰囲気中において、セラミック容器に収容された球状化黒鉛を540℃に加熱して30分還元処理し、触媒粒子中のCo及びFeを活性化させた。
【0051】
次いで、セラミック容器に収容された球状化黒鉛に、C
2H
2ガスを650℃で10分間供給してカーボンナノファイバーを合成し、球状化黒鉛に担持された触媒粒子からカーボンナノファイバーを成長させた。
【0052】
続いて、ゴム母材としてのシリコーン(信越シリコーン社製)100質量部を、オープンロール機(関西ロール社製、製品名:テスト用ロール機)を用いてロール幅0.5μmで、50℃、30rpmで30秒間素練りした。素練りしたシリコーンに、カーボンナノファイバーが化学結合している球状化黒鉛を、固体粒子の混合割合が40wt%となるように投入し、50℃、30rpmで5分間混合した。当該混合物を冷却した後、加硫促進剤(信越化学社製、製品名:t−ブチルパーオキシヘキサン)1質量部と硫黄1.5質量部とを混合物に投入し、混合物を50℃、30rpmで20分混合して実施例1のゴム組成物を得た。
【0053】
最後に、実施例1のゴム組成物を射出成型によりシート状に成形し、当該シート状のゴム組成物を、高圧プレス機(太田製作所社製)を用いて150℃で15分間加硫して、厚さ2mmの実施例1のゴム成形体を作製した。
【0054】
実施例2のゴム成形体は、固体粒子をアルミナ(新日鉄住金マテリアルズ社製、平均粒径Dv50=20μm)にかえた点以外実施例1と同じ条件で作製した。
【0055】
実施例3のゴム成形体は、ゴム母材をNBR(JSR社製)、加硫促進剤をパーヘキサ3M(日本油脂社製、純度90%品)にかえた点以外実施例1と同じ条件で作製した。
【0056】
実施例4のゴム成形体は、固体粒子の混合割合が60wt%となるように球状化黒鉛とシリコーンとを混合した点以外実施例1と同じ条件で作製した。
【0057】
実施例5のゴム成形体は、実施例1と同様の方法でカーボナノファイバーが化学結合している固体粒子を作製後、当該固体粒子を、接着剤であるカルボキシメチルセルロース(ダイセル社製、以下、CMCという。)を0.1wt%の濃度で含んだアルコールと水の混合液(アルコールと水の混合割合1:99)中に投入し、自転・公転ミキサー(シンキー社製、製品名:あわとり練太郎ARE310)で2分間混合した。その後、混合液を80℃で12時間乾燥し、乾燥後に固体粒子をミルによって粉砕処理した。粉砕処理した固体粒子とシリコーンを実施例1と同様の方法で混合し、実施例5のゴム組成物を作製した。当該実施例5のゴム組成物を用いて実施例1と同様の方法で、実施例5のゴム成形体を作製した。
【0058】
実施例6のゴム成形体は、固体粒子を異方性黒鉛(日本黒鉛社製、平均粒径Dv50=19μm)にかえた点以外実施例1と同じ条件で作製した。
【0059】
実施例7、8のゴム成形体は、カーボンナノファイバーが化学結合している固体粒子の作製方法が、実施例1のゴム成形体と異なる。
【0060】
固体粒子としての球状化黒鉛(日本黒鉛社製、平均粒径Dv50=20μm)に、バレルスパッタリング装置(日本ピラー工業社製)により20nmのNi薄膜を堆積することで、触媒粒子としてNiを担持させた。
【0061】
次に、触媒粒子を担持した球状化黒鉛をセラミック容器に入れ、炉内に配置し、H
2ガス雰囲気中において、700℃に加熱して2時間還元処理し、触媒粒子中のNiを活性化させた。
【0062】
次いで、セラミック容器に収容された球状化黒鉛に、C
2H
2ガスを700℃で30分間供給してカーボンナノファイバーを合成した。当該固体粒子を用いて実施例1と同様の方法で、実施例7のゴム成形体を作製した。
【0063】
実施例8のゴム成形体は、球状化黒鉛に1nmのNi薄膜を堆積し、還元処理の温度とカーボナノファイバーの合成温度とを540℃にかえた点以外実施例7と同様の方法でゴム成形体を作製した。
【0064】
(ii)ゴム成形体の評価方法
実施例1〜8までのゴム成形体の熱伝導度を、ホットディスク法熱物性測定装置(京都電子社製、製品名:TPS1500)を用いて測定した。垂直方向と平行方向との2方向の熱伝導度を測定した。本実施例では、ゴム成形体の射出方向と垂直な方向の内、シート状のゴム成形体の表面に垂直な方向の熱伝導度を測定し、垂直方向の熱伝導度とした。
【0065】
固体粒子の平均アスペクト比とゴム成形体の熱伝導度の異方性の関係を調べるために、固体粒子の平均アスペクト比を、粒子画像分析装置(マルバーン社製、製品名:モフォロギG3)を用いて測定した。平均アスペクト比は、触媒粒子を担持させる前の固体粒子を用いて測定した。
【0066】
また、単位添加材当たりの垂直方向の熱伝導度増加量を算出した。単位添加材当たりの垂直方向の熱伝導度増加量は、実施例のゴム成形体において測定した垂直方向の熱伝導度をλ、固体粒子とカーボンナノファイバーを含まないゴム成形体において測定した垂直方向の熱伝導度をλ
0、ゴム100重量部への固体粒子の添加量(重量部)をC
s、ゴム組成物へのカーボナノファイバーの添加量(重量部)をC
fとしたとき、(λ―λ
0)/(C
s+C
f)×100で表される。単位添加材当たりの平行方向の熱伝導度増加量も同様にして算出した。カーボナノファイバーの添加量は、カーボンナノファイバー合成後の固体粒子の重量からカーボンナノファイバー合成前の固体粒子の重量を引くことによって算出したカーボンナノファイバーの合成量とした。
【0067】
カーボンナノファイバーの平均層数とゴム組成物の粘度の関係を調べるために、実施例7、8のゴム成形体の作製に用いたゴム組成物の加硫前のムーニー粘度を、ムーニービスコメータ(島津製作所社製、商品名:SMV−300)を用いて、JIS K 6300−1に従って測定した。ムーニー粘度は、L字型のロータを用い、予熱時間を1分、ロータ回転時間を4分、試験温度を100℃として測定した。カーボンナノファイバーの平均層数は、カーボナノファイバー合成後の固体粒子の透過型電子顕微鏡写真からカーボンナノファイバーの層数を測定し、20箇所で測定した層数の平均値を計算することで算出した。
【0068】
(iii)熱伝導度の評価
比較のために、比較例1〜3として、カーボンナノファイバーが接着剤によって接着された固体粒子を作製し、熱伝導度を測定した。球状化黒鉛とカーボンナノファイバー(Cheap Tubes社製、繊維径50nm)とを重量比が20:1の割合で、CMCを0.1wt%の濃度で含んだアルコールと水の混合液(アルコールと水の混合割合1:99)に投入し、自転・公転ミキサーで2分間混合した。その後、混合液を80℃で12時間乾燥し、乾燥後に得られた固体粒子の塊をミルによって粉砕処理した。カーボンナノファイバーを接着した球状化黒鉛を用いて、実施例1と同様の方法により、比較例1のゴム成形体を作製した。
【0069】
比較例2のゴム成形体は、固体粒子をアルミナにかえた点以外比較例1と同じ条件で作製した。
【0070】
比較例3のゴム成形体は、カーボンナノファイバーを繊維径が20nmのカーボンナノファイバー(Cheap Tubes社製)にかえた点以外比較例1と同じ条件で作製した。
【0071】
実施例1〜6及び比較例1〜3のゴム成形体の熱伝導度の測定結果を表1に示す。
【0073】
表1に示されているように、実施例1〜6及び比較例1〜3のゴム成形体を比較すると、実施例1〜6のゴム成形体は、比較例1〜3のゴム成形体より、垂直方向及び平行方向の熱伝導度が共に高い。実施例1〜6のゴム成形体は、比較例1〜3のゴム成形体より単位添加材当たりの垂直方向及び平行方向の熱伝導度増加量も共に高い。これは、固体粒子とカーボンナノファイバーとが、その界面において単に接触しているより、触媒粒子を介して又は直接化学結合している方が、ゴム成形体の熱伝導度が高くなることを意味している。以上から、本発明のゴム組成物を用いることで、熱伝導度の高いゴム成形体を作製できることが確認できた。
【0074】
実施例1と実施例2とを比較すると、実施例1のゴム成形体は実施例2のゴム成形体より熱伝導度が高い。以上から、炭素材料から形成された固体粒子を用いることで、より熱伝導度が高いゴム成形体を作製できることが確認できた。
【0075】
実施例1〜5のゴム成形体は、平行方向の熱伝導度/垂直方向の熱伝導度の値が1.0であり、熱伝導度に異方性が生じていないか、異方性が小さい。一方、実施例6のゴム成形体は、平行方向の熱伝導度/垂直方向の熱伝導度の値が1.2であり、実施例1〜5のゴム成形体と比較して熱伝導度の異方性が大きい。また、実施例6のゴム成形体は、実施例1〜5のゴム成形体よりも固体粒子の平均アスペクト比が大きい。よって、ゴム成形体の固体粒子の平均アスペクト比が大きくなると、ゴム成形体の熱伝導度に異方性が生じ、それが大きくなることがわかる。
【0076】
実施例5のゴム成形体は、実施例1のゴム成形体より垂直方向及び平行方向の熱伝導度が共に低い。これは、実施例5のゴム成形体は、接着剤を使用することでカーボンナノファイバーが接着剤で覆われ、カーボンナノファイバー自体の熱伝導率が低下したためであると考えられる。よって、接着剤を使用することで、ゴム成形体は熱伝導度が低下することがわかる。
【0077】
(iv)カーボンナノファイバーの平均層数とゴム組成物の粘度の関係
実施例7、8のゴム成形体の熱伝導度、カーボンナノファイバーの平均層数、及びゴム組成物のムーニー粘度の測定結果を表2に示す。
【0079】
表2に示されている通り、実施例7のゴム成形体は、実施例8のゴム成形体よりもカーボンナノファイバーの平均層数が大きく、ゴム組成物のムーニー粘度が低い。よって、カーボンナノファイバーの平均層数が大きい方が、ゴム組成物のムーニー粘度が低くなることがわかる。これは、カーボンナノファバーの平均層数の小さいと、ゴム母材とカーボナノファイバーが化学結合している固体粒子とを混合するときに、カーボンナノファイバーが破損して細切れとなり易く、細切れとなったカーボンナノファイバーによりゴム組成物の流動性が低下し、ゴム組成物のムーニー粘度が増加するからである。
【0080】
4.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0081】
例えば、固体粒子を形成する炭素材料及びセラミックの種類、カーボンナノファイバーと化学結合している固体粒子の含有割合、平均粒径及び平均アスペクト比、カーボンナノファイバーの含有割合、カーボンナノファイバーの平均層数、触媒元素、ゴム母材及び加硫促進剤の種類等については、適宜変更することが可能である。