(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
D−乳酸生産菌のための培地は、その複雑な栄養要求性から、比較的多数の成分を含んで構成される。またバイオマスを原料として乳酸の発酵生産を行う場合、発酵液には様々な成分が含まれる。特に金属塩の夾雑により、最終的に得られる乳酸の光学純度が下がる場合がある。したがって、D−乳酸の精製は、L−乳酸の場合に比較して困難である。また、中和剤として炭酸カルシウムを用いる方法は取り扱い性が容易であるという利点があるが、発酵液に硫酸を添加して、石膏を沈殿させることによって乳酸を遊離させる工程を経る。特に木質バイオマスを原料として用いた場合、発酵液に残存するキシロース等のC5糖から、酸の存在下で加熱することによりフルフラールが副生する。フルフラールは乳酸エステルと沸点が近いため、副生成してしまうと分離が難しい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を達成するために鋭意検討した結果、D−乳酸の発酵生産において得られる酸性の発酵液を中和処理した後にエステル化することで、収率よく、かつ光学純度の高いD−乳酸が得られることを見出した。またこの中和処理により、蒸留後の残渣からも効率的に乳酸を遊離できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。本発明は以下を提供する。
【0008】
[1] 第一の塩基を含む培地でD−乳酸生産菌を培養してD−乳酸を発酵生産し、発酵液を得る発酵工程;
発酵液に硫酸を添加し、乳酸溶液を得る前処理工程;
乳酸溶液に第二の塩基を添加して中和し、中和処理液を得る中和工程;
中和処理液に低級アルコールを添加してエステル化反応を行い、乳酸エステルを含む液を得るエステル化工程;
乳酸エステルを含む液を蒸留し、純度を高めた乳酸エステルを含む蒸留液を得る蒸留工程;および
蒸留液に含まれる乳酸エステルを加水分解し、D−乳酸を得る加水分解工程
を含む、D-乳酸の製造方法。
[2] 中和工程が、第二の塩基を添加してpH3〜8の中和処理液を得るものである、[1]に記載の製造方法。
[3] 蒸留工程の蒸留残分から固形の残渣を得て、残渣を加水分解してD−乳酸を得る残渣の加水分解工程をさらに含む、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 残渣の加水分解を酸の添加により行う、[3]に記載の製造方法。
[5] 第一の塩基が、炭酸カルシウムである、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の製造方法。
【0009】
[6] 培地が、バイオマス原料を含む、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の製造方法。
[7] バイオマス原料が木質バイオマスを含む、[6]に記載の製造方法。
[8] 蒸留工程における蒸留が、二段階の条件で実施される、[1]〜[7]のいずれか1項に記載の製造方法。
[9] 発酵工程が、バイオマスの糖化および発酵を併行して行うものである、[1]〜[8]のいずれか1項に記載の方法。
[10] 中和工程が、第二の塩基を添加して中性の中和処理液を得るものである、[1]〜[9]のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、高い収率で生成されたD−乳酸を得ることができる。また、本発明により、光学純度の高いD−乳酸を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のD−乳酸の製造方法について詳細に説明する。
【0012】
〔発酵工程〕
本発明は、培地を用い、培地のpHを第一の塩基で調整しながら、D−乳酸生産菌によりD−乳酸を発酵生産し、発酵液を得る発酵工程を含む。
【0013】
本発明において使用される培地は、バイオマス原料を含んでいてもよい。バイオマスを原料として乳酸の発酵生産を行う場合、発酵液には様々な成分が含まれるが、本発明により、そのような場合であっても十分に精製されたD−乳酸を得ることができる。
<バイオマス(原料)、木質バイオマス>
バイオマス(原料)とは、再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものである。発生場所、現在の利用状況及び形態に制限されず、乳酸発酵のための原料として用いることができるあらゆるバイオマス原料を、本発明の製造方法で原料として用いることができる。バイオマス原料には、可食性のもの(食用バイオマス、食糧バイオマス、食料バイオマスということもある。)および非食用のもの(例えば木質バイオマス)が含まれる。本発明の製造方法は、いずれに対しても適用することができる。
【0014】
本発明で原料として使用する木質バイオマスとしては、製紙用樹木、林地残材、間伐材等のチップ又は樹皮、木本性植物の切株から発生した萌芽、製材工場等から発生する鋸屑又はおがくず、街路樹の剪定枝葉、建築廃材等が挙げられる。さらに、木材由来の紙、古紙、パルプ等を原料として利用することができる。これらの木質バイオマスは、単独、あるいは複数を組み合わせて使用することができる。また、木質バイオマスは、乾燥固形物であっても、水分を含んだ固形物であっても、スラリーであっても用いることができる。
【0015】
木質バイオマスの原料としては、ユーカリ(Eucalyptus)属植物、ヤナギ(Salix)属植物、ポプラ属植物、アカシア(Acacia)属植物、スギ(Cryptomeria)属植物等が利用できる。特に、ユーカリ属植物、アカシア属植物、ヤナギ属植物が原料として大量に採取し易いため好ましい。例えば、製紙原料用として一般に用いられるユーカリ(Eucalyptus)属又はアカシア(Acacia)属等の樹種の樹皮は、製紙原料用の製材工場やチップ工場等から安定して大量に入手可能であるため、特に好適に用いられる。
【0016】
本発明においては、バイオマス原料に、糖化処理及び発酵処理に適した前処理を施すことができる。糖化及び発酵処理に適した前処理が施されている木質バイオマスに対しては、リグノセルロース原料を含む懸濁液の調製に使用する前に、殺菌処理を行ってもよい。木質バイオマス原料中に雑菌が混入していると、酵素による糖化を行う際に雑菌が糖を消費して生成物の収量が低下してしまうという問題が発生する。殺菌処理は、酸やアルカリなど、菌の生育困難なpHに原料を晒す方法でも良いが、高温下で処理する方法でも良く、両方を組み合わせても良い。酸、アルカリ処理後の原料については、中性付近、もしくは、糖化・発酵工程に適したpHに調整した後に原料として使用することが好ましい。また、高温殺菌した場合も、室温もしくは糖化・発酵工程に適した温度まで降温させてから原料として使用することが好ましい。このように、温度やpHを調整してから原料を送り出すことで、好適pH、好適温度外に酵素が晒されて、失活することを防ぐことができる。
【0017】
(広葉樹クラフトパルプ)
本発明の特に好ましい態様においては、広葉樹クラフトパルプを、木質バイオマスとして使用することができる。該パルプを製造するための原料として使用する木材チップとしては、ユーカリ、オーク、アカシア、ビーチ、タンオーク、オルダー等の広葉樹材であれば特に限定されない。また、使用する広葉樹材に多少の針葉樹材を含まれていても構わない。上記した木材チップをクラフト蒸解処理に供することによって、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)を得ることができる。次いで、酸素脱リグニン工程により酸素脱リグニンパルプを得ることができる。さらに、酸素脱リグニンパルプを漂白処理に供することによって、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)を得ることができる。
【0018】
(原料バイオマスの量)
発酵工程での培地中のバイオマスの懸濁濃度(初濃度)は、典型的には、1.0質量%以上とすることができ、好ましくは1.5質量%以上とすることができる。より好ましくは3.0質量%以上とすることができ、さらに好ましくは4.5質量%以上とすることができ、さらに好ましくは5.0質量%以上とすることができる。懸濁濃度の上限は、例えば30質量%以下であり、好ましくは25質量%以下とすることができ、より好ましくは20質量%以下とすることができ、さらに好ましくは15質量%以下とすることができ、さらに好ましくは10質量%以下とすることができる。30質量%を超えて高濃度となるにしたがって原料の攪拌が困難になり、生産性が低下するという問題が生じうるからである。
培地には原料バイオマスの他、ポリペプトン、酵母エキス、グルコール、硫酸マグネシウム等を添加してもよい。
【0019】
<乳酸菌>
本発明には、D−乳酸生産菌が用いられる。本発明に用いられるD−乳酸生産菌は、糖類を発酵して、D−乳酸を製造できるものであれば特に限定はされない。D−乳酸生産菌としては、例えば、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、エンテロコッカス属 (Enterococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、リューコノストック属(Leuconostoc)、又はスポロラクトバシラス属(Spololactobacillus属)に属する細菌を挙げることができる。しかしながら、これらに限定されない。具体的には、ラクトバシラス・デルブルキ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバシラス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)などを挙げることができる。しかしながらこれらに限定されない。また、遺伝子組換え技術を用いて作製した遺伝子組換え微生物(細菌等)を用いることもできる。遺伝子組換え微生物としては、六炭糖又は五炭糖を発酵してD−乳酸を生産できる微生物を特に制限なく用いることができる。
【0020】
微生物は固定化して用いても良い。微生物を固定化しておくと、次工程で微生物を分離して再回収するという工程を省くことができるため、少なくとも回収工程に要する負担を軽減することができ、微生物のロスが軽減できるというメリットがある。また、凝集性のある微生物を選択することにより微生物の回収を容易にすることができる。
【0021】
<第一の塩基>
発酵工程においては、第一の塩基により、培地のpHが調整される。乳酸を発酵生産する場合、通常、培養後期には産生された乳酸のために培地のpHが低下するので、乳酸生産を効率的に進めるために、培地に適切な中和剤を添加し、中和する。第一の塩基として使用される好ましい例は、カルシウム塩であり、炭酸カルシウムが特にこのましい。炭酸カルシウムはアンモニアに比較して取り扱い性が容易であるという利点がある。また、炭酸カルシウムは水に対する溶解度が比較的低いので、培養開始時に必要な全量を添加しておくことができる。添加された固形の炭酸カルシウムは、乳酸が産生されるにしたがい徐々に培地に溶解し、中和機能を発揮する。
【0022】
発酵工程での培地への第一の塩基の添加量は、用いるD−乳酸産生菌の指摘pHや発酵効率を考慮して、当業者であれば適宜設計できる。例えば、炭酸カルシウムを用いる場合、1〜20質量%となるように添加することができ、3〜10質量%となるように添加することが好ましく、5〜8質量%となるように添加することがより好ましい。添加は、pHを確認しながら行ってもよい。
【0023】
<糖化処理、及び発酵処理>
本発明の実施態様においては、発酵工程は、酵素による糖化とD−乳酸生産菌を用いた発酵とを順次行ってもよく、また木質バイオマスに酵素及びD−乳酸生産菌を同時に作用させて糖化及び発酵を併行して行ってもよい。なお、本明細書では、本発明の実施態様のうち、糖化及び発酵を併行して行う態様を例に、D−乳酸生産菌による発酵工程を説明することがある。しかしながらその説明は、特に記載した場合を除き、酵素による糖化とD−乳酸生産菌を用いた発酵とを順次行う場合の発酵工程にも当てはまる。
【0024】
〔前処理工程(硫酸添加工程)〕
本発明の方法は、発酵液に硫酸を添加し、乳酸溶液を得る前処理工程を含む。発酵工程の終了時の発酵液のpHは、典型的には、3.5付近である。発酵液は、硫酸を加える前に、必要に応じ滅菌処理し、発酵残渣および乳酸菌体を除去することができる。発酵液に硫酸を加えることにより、発酵液のpHは0近くにまで下がり、発酵液がカルシウム分を含む場合は硫酸カルシウム(石膏)として沈殿させて容易に除去することができる。沈殿物は洗浄し、洗浄液を乳酸溶液に加えてもよい。
【0025】
発酵液への硫酸の添加量は、培地に添加した第一の塩基の量等を考慮して、当業者であれば適宜設計できる。例えば、98%硫酸を用いる場合、発酵液に対して1〜30質量%となるように添加することができ、3〜20質量%となるように添加することが好ましく、5〜15質量%となるように添加することがより好ましい。
【0026】
〔中和工程〕
本発明は、前処理工程(硫酸添加工程)から得られた乳酸溶液に第二の塩基を添加して中和し、中和処理液を得る中和工程を含む。前処理工程(硫酸添加工程)で得られる乳酸溶液のpHは、典型的には、0〜1付近である。前処理工程(硫酸添加工程)から得られた乳酸溶液は、中和の前に、減圧濃縮等の手段により脱水してもよい。本中和工程は、従来のバイオマスからのD-乳酸の製造方法においては用いられていない。中和工程はD−乳酸の精製において不利に働くと考えられるカチオンを除くという技術的意義がある。
【0027】
本発明において中和は、酸と塩基が塩を形成する化学反応を指す。pHが7になることを指すのではない。本発明者らの検討によると、中和工程では、得られる中和処理液がpH2〜9、好ましくはpH3〜8、より好ましくは4〜8、さらに好ましくは中性付近(例えば、pH6.8〜7.2)となるようにするとよい。本発明者らの検討によると、pH11の中和処理液では、高い収率や高い光学純度のD−乳酸を得るとの目的が達成できなかった。なお、本発明でpH値を示すときは、特に記載した場合を除き、25℃における値である。
【0028】
中和工程で用いる第二の塩基は、硫酸でpHが低下している乳酸溶液を中和し、必要に応じ所望のpHに調節できるものであれば特に限定されないが、水溶性の強塩基であることが好ましい。このような例として、アルカリ金属の水酸化物、およびアルカリ土類金属の水酸化物を挙げることができる。より具体的な例は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。塩基は、予め水に溶解しておき、乳酸溶液へ添加することができる。
【0029】
乳酸溶液への第二の塩基の添加量は、中和度やpHを考慮して、当業者であれば適宜設計できる。
【0030】
〔エステル化工程〕
本発明は、中和工程から得られた中和処理液に低級アルコールを添加してエステル化反応を行い、乳酸エステルを含む液を得るエステル化工程を含む。エステル化工程に用いる低級アルコールとしては、炭素数4〜6のアルコールが好ましい。炭素数が6を越えるアルコールでは、生成する乳酸エステルが高沸点のため、蒸留による精製が困難となる場合があるからである。また、炭素数が1〜3のアルコールでは、水との相分離が不十分であるために効率のよい運転ができない場合があるからである。好ましいアルコールの具体例は、n−ブタノール(ノルマルブタノール、n−ブチルアルコール、1−ブタノールということもある。)、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、sec−アミルアルコール、t−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−イソアミルアルコール、活性アミルアルコール、ジエチルカルビノール、t−ブチルカルビノール、n−ペンチルアルコールである。特に好ましい例は、n−ブタノールである。n−ブタノールは水と共沸するので、共沸組成物として冷却捕集した後に水と相分離させ、再使用できるからである。
【0031】
中和処理液へのアルコールの添加量は、存在する乳酸のモル数等を考慮して、当業者であれば適宜設計できる。例えば、乳酸の1〜30当量のアルコールを添加することができ、3〜20当量となるように添加することが好ましく、5〜15当量となるように添加することがより好ましい。
【0032】
エステル化条件としては、用いるアルコールによっても異なるが、例えば100〜180℃、好ましくは150〜170℃の範囲で行うことができる。温度が高すぎると、乳酸が一部ラセミ化したり、エーテルを生じるなどの副反応が生じることがある。
【0033】
乳酸アンモニウムとn−ブタノールとのエステル化では、温度は145〜175℃、好ましくは150〜170℃、より好ましくは155〜165℃である。この範囲であれば、エステル化率が高いからである。
【0034】
エステル化反応は、脱水剤を共存させ、または水を系外へ除去することで平衡をエステル側へ偏らせるように行うことができ、また水が除去できなくなれば、反応終了と判断することができる。反応時間は、温度にもよるが、数時間、例えば1〜10時間、好ましくは2〜8時間、より好ましくは3〜6時間とすることができる。
【0035】
〔蒸留工程〕
本発明は、エステル化工程より得られた乳酸エステルを含む液を蒸留し、純度を高めた乳酸エステルを含む蒸留液を得る蒸留工程を含む。蒸留工程は、二段階の条件で実施することが好ましい。一段階目は、n−ブタノール除去上有効な条件、例えば減圧下(100mmHg等)、40〜60℃で行うことができる。二段階目は、乳酸ブチル分取上有効な条件、例えば減圧下(20mmHg等)、80〜110℃で行うことができる。
【0036】
〔加水分解工程〕
本発明は、蒸留工程より得られた蒸留液に含まれる乳酸エステルを加水分解し、D−乳酸を得る加水分解工程を含む。この工程は、中和工程を行わない従来技術の条件を適用して実施することができる。
【0037】
〔残渣の加水分解工程〕
本発明は、蒸留工程の蒸留残分から固形の残渣を得て、残渣を加水分解してD−乳酸を得る残渣の加水分解工程をさらに含んでもよい。この加水分解工程は、例えば、硫酸、塩酸等の酸の添加により行うことが好ましい。このような残渣の加水分解工程は、従来のバイオマスからのD-乳酸の製造方法においては用いられていない。
【0038】
〔本発明の製造方法の利点〕
本発明の製造方法によれば、高い光学純度でD−乳酸を産生することができる。中和工程を経ることにより、精製に邪魔なカチオンが適切に除かれるために、中和工程を経ない従来技術のD−乳酸の製造方法に比較して、高い光学純度のD−乳酸を得ることができると考えられる。具体的には本発明の製造方法によれば、D−乳酸を96%ee以上の光学純度、好ましくは97%ee以上の光学純度で製造することができる。D−乳酸の光学純度は、本技術分野で知られた種々の手段を用いることができる。本発明でD−乳酸の光学純度をいうときは、特に示した場合を除き、実施例の項中の式により算出した値をいう。
【0039】
本発明の製造方法によれば、D−乳酸の収率を高めることができる。具体的には本発明の好ましい態様によれば、培地中のD−乳酸量の約40%を回収することができる。これは、中和工程を行わない従来技術による収率の2倍に該当する。本発明においてまた残渣の加水分解工程を実施することにより、さらに回収率を高めることができる。D−乳酸の収率は、本技術分野で知られた種々の手段を用いることができる。
【0040】
本発明の製造方法によれば、木質バイオマスからD−乳酸を発酵生産する場合に副生することがあるフルフラールの生成を低減またはなくすことができる。木質バイオマスを原料としてD−乳酸を発酵生産しようとする場合、発酵液に残存するキシロース等のC5糖からフルフラールが副生することがある。しかしながら、中和工程を含む本発明の製造方法によりフルフラールの副生が抑制され、より不純物の少ないD−乳酸が得られうる。
【0041】
本発明の方法を用いて産生したD−乳酸は、例えば、ポリD−乳酸や、ポリL−乳酸とポリD−乳酸とのステレオコンプレックスを製造するための原料として使用することができる。ポリL−乳酸とポリD−乳酸とのステレオコンプレックスは、耐熱性が高い生分解性プラスチックとなり得る。D−乳酸には、農業中間体としての用途もあることが知られている。
【実施例】
【0042】
本発明の効果を以下の実施例と比較例を挙げて具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみであるという制約は受けない。
【0043】
〔実施例1〕
[広葉樹クラフトパルプ(LBKP)の製造]
広葉樹混合木材チップ(ユーカリ70%、アカシア30%)を用い、液比4、硫化度28%、有効アルカリ添加率17%(Na
2Oとして)となるように調製した蒸解白液に木材チップに加えた後、蒸解温度160℃にて2時間クラフト蒸解を行なった。クラフト蒸解終了後、黒液を分離し、得られたチップを解繊後、遠心脱水と水洗浄を3回繰り返し、次いでスクリーンにより未蒸解物を除き、蒸解未漂白パルプ(LUKP)を得た。この未漂白パルプ絶乾質量に対して、NaOHを2.0%添加し、酸素ガスを注入し、100℃で60分間酸素脱リグニン処理を行ない、酸素脱リグニンパルプ(LOKP)を得た。続いて、酸素脱リグニンパルプを、D−E−P−Dの4段漂白処理に供した。漂白時のパルプ濃度は全て10質量%に調製し、最初の二酸化塩素処理(D)は、対絶乾パルプの二酸化塩素添加率1.0質量%、70℃、40分間処理を行ない、イオン交換水にて洗浄、脱水した。次いで、パルプ絶乾質量に対してNaOH添加率を1質量%として、70℃、90分間のアルカリ抽出処理(E)を行ない、イオン交換水にて洗浄、脱水した。次いで、パルプ絶乾質量に対して過酸化水素添加率を0.2%、NaOH添加率を0.5%とし、70℃、120分間の過酸化水素処理(P)を行ない、イオン交換水にて洗浄、脱水した。次いで、パルプ絶乾質量に対して二酸化塩素添加率を0.2%とし、70℃、120分間の二酸化塩素処理(D)を行ない、イオン交換水にて洗浄、脱水後、白色度85%の漂白パルプ(LBKP)を得た。
【0044】
[培養]
<前培養>
−80℃で凍結保存したD−乳酸生産菌であるLactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii NBRC3202株[独立行政法人製品評価技術基盤機構(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)から入手可能]を解凍後、オートクレーブにより滅菌した前培養培地(培地組成は表1参照)10mLに一白金耳接種した。37℃、48-72時間静置培養を行ない、前々培養液を調製した。さらに、滅菌処理した前培養培地30mLに前々培養液を0.9mLを接種後、37℃、72時間静置培養を行ない、前培養液を調製した。前培養培地はオートクレーブ前に70%硫酸でpHを5.5に調整した。
【0045】
【表1】
【0046】
<本培養>
次に、培養容器として250mLの滅菌フィルター付きキャップのプラスチック製三角フラスコを用い、一番下にpH調整剤として炭酸カルシウム6gを、その上にLBKP7.5g(絶乾重量)を添加した。全量が50mLになるように蒸留水で調整後、オートクレーブ滅菌した。次に、表2に示す発酵培地(オートクレーブ滅菌前に硫酸でpH5.5に調整)50mLを添加し、ポリペプトン及び酵母エキスを含んだ窒素源の最終濃度が1質量%、LBKPの最終濃度が7.5質量%になるように調整した。さらに、ジェネンコア社製セルラーゼ製剤をLBKPに万遍なく混ざるように2ml添加し、さらに前培養液を2ml接種した。
【0047】
【表2】
【0048】
フラスコ(培養用)のキャップに取り付けた滅菌フィルター上に切り込みを入れたテープを張り、発酵により生産される乳酸と炭酸カルシウムが反応して発生する炭酸ガスをフラスコ外へ放出させ、外部からの空気流入を遮断した。
【0049】
前記培養セットを50℃で1日間静置培養し、さらに2日間60rpmの回転速度で振とう培養し、発酵液を得た。培養3日目の前記発酵液に含まれるD−乳酸量は79.7g/L、光学純度は99.7%eeであった。
【0050】
尚、下記の方法で発酵液に含まれるグルコース及び乳酸を分析した。上記で得られた発酵液を採取し、遠心分離した。遠心分離後の上清を0.22μmのディスクフィルター(DISMIC 13HP020AN、ADVANTEC社製)でろ過し、脱イオン水で希釈し、グルコース及び乳酸定量用試料とした。
【0051】
<乳酸の定量>
上記定量用試料をマイクロバイアルに1ml採取してオートサンプラーにセットし、高速液体クロマトグラフ(alliance・2695/Waters社製)を用い、以下の条件で自動計測した。
○カラム:住友分析センター社製SUMICHIRAL OA-5000(内径4.6mm、カラム長25.0cm)
○温度:30℃
○移動相:2mM CuSO
4・7H
2Oの水−2-プロパノール混液(98:2)溶液
○流速:1.0ml/min
○検出波長:254nm
【0052】
<乳酸ブチルの定量>
上記定量用試料をマイクロバイアルに1ml採取してオートサンプラーにセットし、高速液体クロマトグラフ(1100series, 1260Infinity/Agilent Technologies社製)を用い、以下の条件で自動計測した。
○カラム:関東化学社製Mightysil RP-18GP(内径4.6mm、カラム長15.0cm)
○温度:30℃
○移動相:CH
3CN(30%)/0.1%H
3PO
4aq(60%)混合溶液
○流速:1.0ml/min
○検出:示差屈折率検出器
○検出波長:258nm
【0053】
<光学純度>
D−乳酸の光学純度は次式で算出した。
光学純度(%ee) = (D−L)/(D+L)×100
ここで、DはD−乳酸濃度、LはL−乳酸濃度を表す。
【0054】
[前処理]
前記発酵液をオートクレーブ滅菌した後、発酵残渣及び菌体を遠心分離により除去した。さらに、98%硫酸を該発酵液に対して10%添加して、室温で1時間攪拌後、遠心分離により石膏を除去して乳酸溶液を回収した。さらに沈殿物を少量の純水で洗浄し、遠心分離により得られた上清を前記乳酸溶液に混合して、前処理液(D−乳酸0.062モル含有)を調製した。
【0055】
[中和処理]
次に前処理液を丸底フラスコに移し、エバポレーターを用いて、減圧濃縮により脱水した。減圧濃縮により得られた濃縮液のpHを10N水酸化カリウムでpH7.0に調整した。
【0056】
[エステル化]
前記濃縮液にD−乳酸量の10当量のn−ブタノール(0.622モル)を添加し、ディーン・スターク装置を用いて、常圧、160℃で脱水しながら5時間エステル化反応を行った。その結果、乳酸ブチル(0.049モル)と反応残渣が生成した。
【0057】
[減圧蒸留]
減圧条件下で乳酸ブチルの蒸留を行った。最初に40-60℃(100mmHg)の条件でブタノールを除去し、次に80〜110℃(20mmHg)の条件で乳酸ブチルを分取した。その結果、純度50%の乳酸ブチル(0.037モル)が得られた。蒸留残分を液体分と固形分(残渣)に分離した。
【0058】
[加水分解]
ナス型フラスコに減圧蒸留で得られた乳酸ブチル(0.037モル)と水(0.37モル)を添加し、アンバーライト(オルガノ社製;200CT H)をゆっくり添加し、室温で30分間攪拌後、95℃〜110℃まで加熱した。その結果、反応は定量的に進行し、D−乳酸(0.036モル)が得られた。表3に加水分解処理後のD−乳酸の収率及びD−乳酸の光学純度を示す。
【0059】
〔比較例1〕
実施例1において、中和処理を行わない以外は全て実施例1と同様の方法で試験した。
【0060】
【表3】
【0061】
表3に示すように、中和処理を行った場合(実施例1)では、中和処理を行わない場合(比較例1)と比較して、光学純度の高いD−乳酸が高収率で得られた。また、中和処理を行った場合(実施例1)は得られたD−乳酸中にはフルフラールはほとんど見られなかった。なおフルフラールの定量は乳酸の定量と同じ方法で行った。
【0062】
〔実施例2〕
[残渣の酸加水分解]
実施例1で生成された減圧蒸留後の残渣(理論値ではD−乳酸0.051モル含有)5g(乾燥重量)に1質量%硫酸水溶液を添加し、水溶液の最終容量が50mlになるように調製した。前記残渣を含む水溶液を120℃で6時間加水分解処理した。加水分解後の処理液を固液分離し、液相に含まれるD−乳酸の収率、及びD−乳酸の光学純度を測定した。結果を表4に示す。
【0063】
【表4】
【0064】
表4に示すように、減圧蒸留後の残渣を加水分解処理することによりD−乳酸が回収できることが判明した。