特許第6183358号(P6183358)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許61833583−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法
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  • 特許6183358-3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183358
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/00 20060101AFI20170814BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C12P13/00
   C12N15/00 AZNA
【請求項の数】13
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2014-518304(P2014-518304)
(86)(22)【出願日】2013年3月5日
(86)【国際出願番号】JP2013056025
(87)【国際公開番号】WO2013179711
(87)【国際公開日】20131205
【審査請求日】2015年9月30日
(31)【優先権主張番号】特願2012-122388(P2012-122388)
(32)【優先日】2012年5月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100113103
【弁理士】
【氏名又は名称】香島 拓也
(72)【発明者】
【氏名】正瑞 文
(72)【発明者】
【氏名】田島 義教
(72)【発明者】
【氏名】横山 敬一
【審査官】 鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−283163(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/005099(WO,A1)
【文献】 特開2008−029325(JP,A)
【文献】 J. Biol. Chem., 2006, Vol.281, No.48, pp.36944-36951
【文献】 Biochim. Biophys. Acta, 2000, Vol.1475, pp.10-16
【文献】 J. Bacteriol., 2007, Vol.189, No.5, pp.2155-2159
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 13/00−13/24
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジヒドロキシアセトンリン酸とアスパラギン酸セミアルデヒドから3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を生成する活性が非改変株と比較して増大するように改変された3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸産生能を有する微生物であって、N−ヒドロキシアリールアミン O−アセチルトランスフェラーゼ(NhoA)活性が非改変株と比較して増大するように改変された微生物を培養して、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を生成することを含む、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法。
【請求項2】
前記N−ヒドロキシアリールアミン O−アセチルトランスフェラーゼ活性の増大が、NhoAをコードするDNAを組み込んだ組換えベクターで形質転換されることにより付与された、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記NhoAが、下記(I)〜(III)のいずれか一つに記載のタンパク質である、請求項2に記載の方法:
(I)配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(II)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、N−ヒドロキシアリールアミン O−アセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質;あるいは
(III)配列番号2に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、N−ヒドロキシアリールアミン O−アセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項4】
前記NhoAをコードするDNAが、下記(i)または(ii)に記載のDNAである、請求項2に記載の方法:
(i)配列番号3に示す塩基配列を含むDNA;あるいは
(ii)配列番号3に示す塩基配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、N−ヒドロキシアリールアミン O−アセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項5】
微生物がエシェリヒア属、パントエア属、またはコリネバクテリウム属に属する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
微生物が、エシェリヒア・コリ、パントエア・アナナティス、またはコリネバクテリウム・グルタミカムに属する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸産生能が、ジヒドロキシアセトンリン酸とアスパラギン酸セミアルデヒドから3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を生成する活性を有するタンパク質をコードするDNAを組み込んだ組換えベクターで形質転換されることにより付与された、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を生成する活性を有するタンパク質が、GriIおよびGriHである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記GriIが、下記(A)〜(C)のいずれか一つに記載のタンパク質であり、かつ、前記GriHが、下記(D)〜(F)のいずれか一つに記載のタンパク質である、請求項8に記載の方法:
(A)配列番号9に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(B)上記(A)に示すアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質;
(C)上記(A)に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質;
(D)配列番号11に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(E)上記(D)に示すアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸シンターゼ活性を有するタンパク質;
(F)上記(D)に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸シンターゼ活性を有するタンパク質。
【請求項10】
前記3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を生成する活性を有するタンパク質をコードするDNAがgriI遺伝子およびgriH遺伝子であり、griI遺伝子が、下記(a)または(b)に記載のDNAであり、かつ、griH遺伝子が、下記(c)または(d)に記載のDNAである、請求項7に記載の方法:
(a)配列番号10の塩基配列を含むDNA;
(b)上記(a)に示す塩基配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、アルドラーゼ活性を有するDNA;
(c)配列番号12の塩基配列を含むDNA;
(d)上記(c)に示す塩基配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸シンターゼ活性を有するDNA。
【請求項11】
以下(1)および(2)を含む、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法:
(1)請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法により3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を生成すること;および
(2)3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を脱アセチル化して、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を生成すること。
【請求項12】
以下(1’)および(2’)を含む、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を構成単位として含むポリマーの製造方法:
(1’)請求項11に記載の方法により3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を生成すること;および
(2’)3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類をポリマー化して、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を構成単位として含むポリマーを得ること。
【請求項13】
前記ポリマーが、ポリベンゾオキサゾールポリマーである、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
アミノヒドロキシ安息香酸類は、染料、農薬、医薬品その他有機合成品の中間体や、高性能耐熱性高分子ポリベンゾオキサゾールのモノマーとして有用である。3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸(3,4−AHBA)は、ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)とアスパラギン酸セミアルデヒド(ASA)を基質として、アミノ基を持ったC4化合物とC3あるいはC4化合物との炭素−炭素結合反応を触媒する酵素であるGriI、ならびにC7化合物の環化あるいはC8化合物の脱炭酸を伴った環化を触媒する酵素であるGriHの双方によって2段階で生合成される。
【0003】
【化1】
【0004】
ところで、3,4−AHBAは不安定であり、容易に酸化されて2−アミノフェノキサジン−3−オン−8−カルボン酸(APOC)を生じる(下記参照)。特許文献1には、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸(3,4−AcAHBA)の製造において、副生成物として生じた3,4−AHBAが培養液中において経時的にAPOCに変換されることが記載されている。一方、3,4−AcAHBAは、3,4−AHBAに比し安定である。この理由は、アセチル化により安定化され、上述の酸化が回避できるためである。3,4−AcAHBAは、酸や塩基などで処理することにより、3,4−AHBAに容易に変換できる。3,4−AcAHBAは、酸化されてAPOCを生じる不安定な3,4−AHBAよりも、取り扱い易い。したがって、3,4−AcAHBAの優れた製造方法の開発が求められている。
【0005】
【化2】
【0006】
本発明に関連する先行技術としては、以下がある。
特許文献1には、3,4−AcAHBAの製造において、副生成物として生じた3,4−AHBAが培養液中において経時的にAPOCに変換されることが記載されている。特許文献1はまた、3,4−AcAHBAを脱アセチル化処理して3,4−AHBAを生成することを開示している。
特許文献2には、griIおよびgriHを導入したコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)を用いることにより3,4−AHBAが生成されることが開示されている。
非特許文献1には、griIおよびgriHのエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)への導入により3,4−AHBAおよび3,4−AcAHBAが生成されることが開示されている。
非特許文献2には、ストレプトマイセス・グリセウスにおいてアリールアミン N−アセチルトランスフェラーゼ遺伝子(natA)を欠失させると、培養中に3,4−AcAHBAが生成されなくなることが開示されている。
非特許文献3には、エシェリヒア・コリ由来のN−ヒドロキシアリールアミン O−アセチルトランスフェラーゼ遺伝子(nhoA)の機能として、芳香族アミノ基に対するアセチル化を触媒することが開示されている。一方、非特許文献4には、E.coli BAP1株が3,5−AHBA(3,4−AHBAの構造異性体)の副生物としてN−アセチル化体(3,5−AcAHBA)を生成すること、ならびにE.coli BAP1のnhoA遺伝子欠損株(MAR1株)においても、3,5−AcAHBAが副生するため、NhoAが3,5−AHBAのN−アセチル化の主要な要因ではないと考えられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−283163号公報
【特許文献2】国際公開第2010/005099号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Biol.Chem.281(2006),36944−36951
【非特許文献2】J.Bacteriol.189(2007),2155−2159
【非特許文献3】Biochim.Biophys.Acta.1475(2000),10−16
【非特許文献4】J.Antibiot.,vol.59(2006),p.464
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、安定な化合物である3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を、微生物を用いたプロセスにより、簡便かつ効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、エシェリヒア・コリにおける3,4−AHBAからの3,4−AcAHBAの副生にはnhoAが関与することを見出した。本発明者らはまた、NhoA活性が増大するように改変された微生物の使用により、AHBAの副生を伴わず、AcAHBAを生成できること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕ジヒドロキシアセトンリン酸とアスパラギン酸セミアルデヒドから3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を生成する活性が増大するように改変された3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸産生能を有する微生物であって、N−ヒドロキシアリールアミン O−アセチルトランスフェラーゼ(NhoA)活性が増大するように改変された微生物。
〔2〕前記N−ヒドロキシアリールアミン O−アセチルトランスフェラーゼ活性の増大が、NhoAをコードするDNAを組み込んだ組換えベクターで形質転換されることにより付与された、〔1〕の微生物。
〔3〕前記NhoAが、下記(I)〜(III)のいずれか一つに記載のタンパク質である、〔2〕の微生物:
(I)配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(II)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、N−ヒドロキシアリールアミン O−アセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質;あるいは
(III)配列番号2に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、N−ヒドロキシアリールアミン O−アセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
〔4〕前記NhoAをコードするDNAが、下記(i)〜(iii)のいずれか一つに記載のDNAである、〔2〕の微生物:
(i)配列番号3に示す塩基配列を含むDNA;
(ii)配列番号3に示す塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、N−ヒドロキシアリールアミン O−アセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;あるいは
(iii)配列番号3に示す塩基配列に対して70%以上の同一性を有し、かつ、N−ヒドロキシアリールアミン O−アセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
〔5〕微生物がエシェリヒア属、パントエア属、またはコリネバクテリウム属に属する、〔1〕〜〔4〕のいずれかの微生物。
〔6〕微生物が、エシェリヒア・コリ、パントエア・アナナティス、またはコリネバクテリウム・グルタミカムに属する、〔1〕〜〔5〕のいずれかの微生物。
〔7〕前記3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸産生能が、ジヒドロキシアセトンリン酸とアスパラギン酸セミアルデヒドから3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を生成する活性を有するタンパク質をコードするDNAを組み込んだ組換えベクターで形質転換されることにより付与された、〔1〕〜〔6〕のいずれかの微生物。
〔8〕前記3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を生成する活性を有するタンパク質が、GriIおよびGriHである、〔7〕の微生物。
〔9〕前記GriIが、下記(A)〜(C)のいずれか一つに記載のタンパク質であり、かつ、前記GriHが、下記(D)〜(F)のいずれか一つに記載のタンパク質である、〔8〕の微生物:
(A)配列番号9または配列番号18に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(B)上記(A)に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質;
(C)上記(A)に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質;
(D)配列番号11または配列番号20に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(E)上記(D)に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸シンターゼ活性を有するタンパク質;
(F)上記(D)に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸シンターゼ活性を有するタンパク質。
〔10〕前記3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を生成する活性を有するタンパク質をコードするDNAが、下記(a)〜(c)のいずれか一つに記載のDNAであり、かつ、griH遺伝子が、下記(d)〜(f)のいずれか一つに記載のDNAである、〔7〕の微生物:
(a)配列番号10または配列番号19の塩基配列を含むDNA;
(b)上記(a)に示す塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c)上記(a)に示す塩基配列に対して70%以上の同一性を有し、かつ、アルドラーゼ活性を有するDNA;
(d)配列番号12または配列番号21の塩基配列を含むDNA;
(e)上記(d)に示す塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸シンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(f)上記(d)に示す塩基配列に対して70%以上の同一性を有し、かつ、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸シンターゼ活性を有するDNA。
〔11〕〔1〕〜〔10〕のいずれかの微生物を培養して、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を生成することを含む、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法。
〔12〕以下(1)および(2)を含む、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法:
(1)〔11〕の方法により3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を生成すること;および
(2)3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を脱アセチル化して、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を生成すること。
〔13〕以下(1’)および(2’)を含む、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を構成単位として含むポリマーの製造方法:
(1’)〔12〕の方法により3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を生成すること;および
(2’)3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類をポリマー化して、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を構成単位として含むポリマーを得ること。
〔14〕前記ポリマーが、ポリベンゾオキサゾールポリマーである、〔13〕の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安定な化合物である3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を、簡便かつ効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、逆相カラムクロマトグラフィーによる、(a)エシェリヒア・コリBW25113/pSTV28−EcGri/pUC19株の培養上清液、(b)エシェリヒア・コリBW25113/pSTV28−EcGri/pUC19−NhoA株の培養上清液、および(c)3,4−AHBA標準品の分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸産生能を有する微生物を提供する。本発明の微生物を用いると、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸(3,4−AcAHBA)の生成が促進され、その結果、培養液中において、非アセチル化体である3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸(3,4−AHBA)の蓄積が抑制され得る。
【0015】
<1>N−ヒドロキシアリールアミン O−アセチルトランスフェラーゼ(NhoA)の活性を増大させる改変
本発明の微生物は、N−ヒドロキシアリールアミン O−アセチルトランスフェラーゼ(NhoA)活性を増大させるように改変することにより、3,4−AcAHBAの生成を促進し、その結果、培養液中において3,4−AHBAの蓄積が抑制され得る。NhoA活性とは、N−ヒドロキシアリールアミン O−アセチルトランスフェラーゼ活性であり、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸(3,4−AHBA)との関係では、3,4−AHBAから3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸(3,4−AcAHBA)を生成する活性をいう。
【0016】
「NhoA活性が増大するように改変された」とは、NhoA活性が、非改変株、例えば、野生株の微生物の比活性よりも高くなったことをいう。NhoA活性は、非改変株と比較して、菌体当たり150%以上、好ましくは180%以上、さらに望ましくは菌体当たり200%以上に増大されていることが好ましい。本発明の微生物は、野生株又は非改変株よりNhoA活性が増加していればよいが、さらにこれらの株に比べて3,4−AcAHBAの蓄積が向上していることがより望ましい。また、「NhoA活性が増大するように改変された」とは、例えば、細胞あたりのNhoAの分子数が増加した場合や、分子あたりのNhoA活性が増加した場合等が該当する。具体的には、NhoA活性を増加させるための改変は、通常の変異誘発処理又は遺伝子工学的な処理により導入されてもよい。変異誘発処理の例としては、X線又は紫外線照射、変異誘発剤、例えばN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジンによる処理等が挙げられる。このような改変の例としては、NhoA活性が非変異株と比較して増大するよう、染色体上のnhoA遺伝子(発現調節領域を含む)に変異を導入することが挙げられる。好ましくは、このような改変は、NhoA活性を有するタンパク質をコードするDNAを組み込んだ組換えベクターで所望の微生物を形質転換することにより達成できる。
【0017】
標的酵素の活性及び活性の増大の程度は、候補菌株から得られる細胞抽出物又はその精製分画を用いて酵素活性を測定し、それを野生株又は非改変株の活性と比較することにより確認され得る。例えば、NhoA活性は、Biochim.Biophys.Acta.1475(2000),10−16に記載の方法により測定され得る。
【0018】
NhoA活性が増大するように改変される微生物としては、3,4−AHBA産生能を固有に有する微生物、および3,4−AHBA産生能を固有に有しないものの、3,4−AHBA産生能が付与された微生物が挙げられる。3,4−AHBA産生能の付与は、後述する方法により行うことができる。本発明で用いられる微生物としては、例えば、細菌、放線菌、菌類が挙げられるが、これに限定されない。微生物は、好ましくは、エシェリヒア属に属する細菌、パントエア属に属する細菌、またはコリネ型細菌である。
【0019】
本発明において使用することができるエシェリヒア属に属する細菌は、特に制限されないが、例えば、ナイトハルトらの著書(Neidhardt, F. C. Ed. 1996. Escherichia coliand Salmonella: Cellular and Molecular Biology/Second Edition pp. 2477−2483. Table 1. American Society for Microbiology Press, Washington, D.C.)に記述されている系統のものが含まれる。エシェリヒア・コリとしては、例えば、K12株(ATCC10798)またはその亜株(例、BW25113(CGSC7630)、DH1(ATCC33747)、MG1655(ATCC700926)、W3110(ATCC27325))、B株またはその亜株(例、BL21(ATCC BAA−1025)、REL606(CGSC12149))などが挙げられる。上記菌株のうち、CGSC番号が記載されているものは、The Coli Genetic Stock Center(http://cgsc.biology.yale.edu/)から分譲を受けることができる。また、上記菌株のうち、ATCC番号が記載されているものは、American Type Culture Collection(http://www.atcc.org/)から分譲を受けることができる。
【0020】
パントエア属に属する細菌とは、当該細菌が微生物学の専門家に知られている分類により、パントエア属に分類されていることを意味する。エンテロバクター・アグロメランスのある種のものは、最近、16S rRNAの塩基配列分析等に基づき、パントエア・アグロメランス、パントエア・アナナティス、パントエア・ステワルティイその他に再分類された(Int. J. Syst. Bacteriol. 1993. 43: 162−173)。本発明において、パントエア属に属する細菌には、このようにパントエア属に再分類された細菌も含まれる。パントエア属細菌の代表的な菌株として、パントエア・アナナティス、パントエア・スチューアルティ、パントエア・アグロメランス、パントエア・シトレアが挙げられる。具体的には、パントエア・アナナティスAJ13355株(FERM BP−6614)(欧州特許出願公開第0952221号明細書)、パントエア・アナナティスAJ13356株(FERM BP−6615)(欧州特許出願公開第0952221号明細書)などが挙げられる。尚、これらの菌株は、欧州特許出願公開第0952221号明細書にはエンテロバクター・アグロメランスとして記載されているが、現在では、上記のとおり、16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アナナティスに再分類されている。
【0021】
コリネ型細菌は、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが現在コリネバクテリウム属に統合された細菌を含み(Int.J.Syst.Bacteriol.,41,255(1991))、またコリネバクテリウム属と非常に近縁なブレビバクテリウム属細菌を含み、具体的には以下のものが例示される(国際公開第2010/005099号)。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム
コリネバクテリウム・アルカノリティカム
コリネバクテリウム・カルナエ
コリネバクテリウム・グルタミカム
コリネバクテリウム・リリウム(コリネバクテリウム・グルタミカム)
コリネバクテリウム・メラセコーラ
コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス
コリネバクテリウム・ハーキュリス
ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)
ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカム)
ブレビバクテリウム・インマリオフィラム
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)
ブレビバクテリウム・ロゼウム
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス
ブレビバクテリウム・アルバム
ブレビバクテリウム・セリヌム
ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム
【0022】
NhoAとしては、配列番号2のアミノ酸配列に対して、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、特に好ましくは98%または99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、NhoA活性を有するタンパク質が挙げられる。また、nhoA遺伝子としては、配列番号3の塩基配列に対して、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、特に好ましくは98%または99%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつ、NhoA活性を有するタンパク質をコードするものが挙げられる。
【0023】
アミノ酸配列およびヌクレオチド配列の相同性(例、同一性または類似性)は、例えばKarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Pro.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873(1993))、PearsonによるFASTA(MethodsEnzymol.,183,63(1990))を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTP、BLASTNとよばれるプログラムが開発されているので(http://www.ncbi.nlm.nih.gov参照)、これらのプログラムをデフォルト設定で用いて、アミノ酸配列およびヌクレオチド配列の相同性を計算してもよい。また、アミノ酸配列の相同性としては、例えば、Lipman−Pearson法を採用している株式会社ゼネティックスのソフトウェアGENETYX Ver7.0.9を使用し、ORFにコードされるポリペプチド部分全長を用いて、Unit Size to Compare=2の設定でpercentage計算させた際の数値を用いてもよい。アミノ酸配列およびヌクレオチド配列の相同性として、これらの計算で導き出される値のうち、最も低い値を採用してもよい。
【0024】
微生物の株によってnhoA遺伝子の塩基配列に差異が存在することがある。例えば、nhoA遺伝子をコードするタンパク質としては、配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加等を含むアミノ酸配列を含み、かつNhoA活性を有するタンパク質が挙げられる。ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、好ましくは1から100個、より好ましくは1〜50個、さらにより好ましくは1から30個、最も好ましくは1〜20個または1〜10個(例、1、2、3、4または5個)である。また、このようなアミノ酸の置換、欠失、挿入または付加等には、nhoA遺伝子を保持する微生物の個体差に基づき天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
【0025】
上記置換は、機能的に変化しない中性変異である保存的置換であってもよい。保存的変異とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、phe,trp,tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、leu,ile,val間で、極性アミノ酸である場合には、gln,asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、lys,arg,his間で、酸性アミノ酸である場合には、asp,glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、ser,thr間でお互いに置換する変異である。より具体的には、保存的置換としては、alaからser又はthrへの置換、argからgln、his又はlysへの置換、asnからglu、gln、lys、his又はaspへの置換、aspからasn、glu又はglnへの置換、cysからser又はalaへの置換、glnからasn、glu、lys、his、asp又はargへの置換、gluからgly、asn、gln、lys又はaspへの置換、glyからproへの置換、hisからasn、lys、gln、arg又はtyrへの置換、ileからleu、met、val又はpheへの置換、leuからile、met、val又はpheへの置換、lysからasn、glu、gln、his又はargへの置換、metからile、leu、val又はpheへの置換、pheからtrp、tyr、met、ile又はleuへの置換、serからthr又はalaへの置換、thrからser又はalaへの置換、trpからphe又はtyrへの置換、tyrからhis、phe又はtrpへの置換、及び、valからmet、ile又はleuへの置換などが挙げられる。
【0026】
nhoA遺伝子はまた、配列番号3の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、NhoA活性を有するタンパク質をコードするDNAであり得る。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性(例、同一性または類似性)が高いポリヌクレオチド同士、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%、特に好ましくは98%以上の相同性を有するポリヌクレオチド同士がハイブリダイズし、それより低い相同性を示すポリヌクレオチド同士がハイブリダイズしない条件である。具体的には、このような条件としては、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)中、約45℃でのハイブリダイゼーション、続いて、0.2×SSC、0.1%SDS中、50〜65℃での1または2回以上の洗浄が挙げられる。
【0027】
<2>ジヒドロキシアセトンリン酸とアスパラギン酸セミアルデヒドから3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を生成する活性を増大させる改変
本発明の微生物は、ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)とアスパラギン酸セミアルデヒド(ASA)から3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸(3,4−AHBA)を生成する活性が増大するように改変されたものであってもよい。このような改変は、例えば、DHAPとASAから3,4−AHBAを生成する活性を有するタンパク質をコードするDNAを組み込んだ組換えベクターで所望の微生物を形質転換することにより達成できる。DHAPとASAから3,4−AHBAを生成する活性を有するタンパク質は、DHAPおよびASAからの3,4−AHBAの生成に資するものである限り特に限定されず、例えば、DHAPとASAの炭素−炭素結合形成を触媒する酵素活性(以下、アルドラーゼ活性と略することがある)を有するタンパク質、およびDHAPとASAの炭素−炭素結合を形成させることによって得られたC7化合物の環化を触媒する酵素活性(以下、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸シンターゼ活性と略することがある)を有するタンパク質が含まれる。以下、両活性を併せて、3,4−AHBA生合成能ということがある。
【0028】
DHAPとASAの炭素−炭素結合形成を触媒する酵素活性を有する蛋白質をコードする遺伝子としては、ストレプトマイセス・グリセウス由来のgriI遺伝子、又は、griI遺伝子ホモログ(griI遺伝子およびgriI遺伝子ホモログを併せて、単にgriI遺伝子ということがある)が挙げられる。griI遺伝子ホモログとは、他の微生物に由来し、上記ストレプトマイセス・グリセウス由来の遺伝子と高い相同性を示し、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子をいう。そのような遺伝子は、Blast検索を行うことにより、探索することができる。例えば、ストレプトマイセス・ムラヤマエンシス由来のnspI遺伝子(配列番号18、19)、フランキア・エスピー由来のFructose−bisphosphate aldolase (Accession no. YP_483282)、同Fructose−bisphosphate aldolase(Accession no.YP_481172)、ストレプトマイセス・スカビエス由来のFructose−bisphosphate aldolase(http://www.sanger.ac.uk/cgi−bin/blast/submitblast/s_scabies)、バークホルデリア・エスピー383由来のfructose−bisphosphate aldolase(Accession no.Q39NQ9)、Methanococcus jannaschii由来のfructose−bisphosphate aldolase(Accession no.NP_247374)、エシェリヒア・コリ由来のdhnA遺伝子(Accession no.NC_000913)などが挙げられる(Journal of Biochemistry vol.281,NO.48,pp.36944−36951,supplementary data)。
【0029】
DHAPとASAの炭素−炭素結合を形成させることによって得られたC7化合物の環化を触媒する酵素活性を有する蛋白質をコードする遺伝子としては、ストレプトマイセス・グリセウス由来のgriH遺伝子、又は、griH遺伝子ホモログ(griH遺伝子およびgriH遺伝子ホモログを併せて、単にgriH遺伝子ということがある)が挙げられる。griH遺伝子ホモログとは、他の微生物に由来し、上記ストレプトマイセス・グリセウス由来の遺伝子と高い相同性を示し、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸シンターゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子をいう。そのような遺伝子は、Blast検索を行うことにより、探索することができる。例えば、ストレプトマイセス・ムラヤマエンシス由来のnspH遺伝子(配列番号20、21)、フランキア・エスピー由来の3−dehydroquinate synthase(Accession no.YP_483283)、同3−dehydroquinate synthase(Accession no.YP_481171)、バークホルデリア・エスピー383由来の3−dehydroquinate synthase(Accession no. YP_366552)、同3−dehydroquinate synthase(Accession no.YP_366553)、ストレプトマイセス・スカビエス由来の3−dehydroquinate synthase(〈http://www.sanger.ac.uk/cgi−bin/blast/submitblast/s_scabies〉)、Methanococcus jannaschii由来の3−dehydroquinate synthase(Accession no.NP_248244)などが挙げられる(Journal of Biochemistry vol.281,NO.48,pp.36944−36951, supplementary data)。
【0030】
本発明で用いられるGriIおよびGriH、またはgriI遺伝子およびgriH遺伝子は、任意の生物に由来するものを用いることができる。例えば、上述したような細菌または放線菌等の微生物に由来するものであってもよく、好ましくは、放線菌に由来するものであってもよい。放線菌としては、例えば、ストレプトマイセス属の微生物が挙げられる。ストレプトマイセス属に属する微生物としては、例えば、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)、ストレプトマイセス・ムラヤマエンシス(Streptomyces murayamaensis)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトマイセス・スカビエス(Streptomyces scabies)が挙げられる。GriIおよびGriH、またはgriI遺伝子およびgriH遺伝子は、同一の微生物に由来していてもよいし、異なる微生物に由来していてもよい。
【0031】
GriIホモログとしては、上記griI遺伝子をコードするタンパク質のアミノ酸配列である配列番号9または18に対して、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、特に好ましくは98%または99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質が望ましい。例えば、国際公開第2010/005099号の配列番号9、11、13、15、17、19および21が挙げられる。また、griI遺伝子ホモログとしては、上記griI遺伝子の塩基配列である配列番号10または19に対して、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、特に好ましくは98%または99%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものが望ましい。例えば、国際公開第2010/005099号の配列番号8、10、12、14、16、18または20が挙げられる。
【0032】
GriHホモログとしては、上記griH遺伝子をコードするタンパク質のアミノ酸配列である配列番号11または20に対して、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、特に好ましくは98%または99%以上の同一性を有し、かつ、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸シンターゼ活性を有するタンパク質が望ましい。例えば、国際公開第2010/005099号の配列番号23、25、27、29、31、33および35が挙げられる。また、griH遺伝子ホモログとしては、上記griH遺伝子の塩基配列である配列番号12または21に対して、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、特に好ましくは98%または99%以上の同一性を有し、かつ、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸シンターゼ活性を有するタンパク質をコードするものが望ましい。例えば、国際公開第2010/005099号の配列番号22、24、26、28、30、32または34が挙げられる。
【0033】
アミノ酸配列において変異により活性に影響を与えないアミノ酸残基の位置は、当業者に明らかであるが、配列アライメントをさらに参考にして、タンパク質変異体を作製してもよい。具体的には、当業者は、1)複数のホモログタンパク質のアミノ酸配列を比較し、2)相対的に保存されている領域、および相対的に保存されていない領域を明らかにし、次いで、3)相対的に保存されている領域および相対的に保存されていない領域から、それぞれ、機能に重要な役割を果たし得る領域および機能に重要な役割を果たし得ない領域を予測できるので、構造・機能の相関性を認識できる。なお、国際公開第2010/005099号は、上記griI遺伝子ホモログのアミノ酸配列のアラインメント(国際公開第2010/005099号の図1及び図2)、上記griH遺伝子ホモログのアミノ酸配列のアラインメント(国際公開第2010/005099号の図3及び図4)、これらのコンセンサス(共通)配列(国際公開第2010/005099号の配列番号36、37)を開示している。前記griI遺伝子ホモログには、国際公開第2010/005099号の配列番号36のアミノ酸配列をコードする遺伝子、griH遺伝子ホモログには、国際公開第2010/005099号の配列番号37のアミノ酸配列をコードする遺伝子が含まれる。
【0034】
アミノ酸配列およびヌクレオチド配列の相同性(例、同一性または類似性)は、上述したように決定することができる。
【0035】
微生物の種類および株によってgriI遺伝子やgriH遺伝子の塩基配列に差異が存在することがあるため、griI遺伝子およびgriH遺伝子は、エシェリヒア・コリ内で発現することにより、例えば、発現を増強することにより、エシェリヒア・コリの3,4−AHBAの生産能を向上させることができるものであればよい。例えば、griI遺伝子をコードするタンパク質としては、griI遺伝子をコードするタンパク質のアミノ酸配列(例、配列番号9または18)において、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加等を含むアミノ酸配列を含み、かつアルドラーゼ活性を有するタンパク質が望ましい。例えば、国際公開第2010/005099号の配列番号9、11、13、15、17、19および21が挙げられる。griH遺伝子をコードするタンパク質としては、griH遺伝子をコードするタンパク質のアミノ酸配列(例、配列番号11または20)において、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加等を含むアミノ酸配列を含み、かつ3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸シンターゼ活性を有するタンパク質が望ましい。例えば、国際公開第2010/005099号の配列番号23、25、27、29、31、33および35が挙げられる。ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、好ましくは1から50個、さらに好ましくは1から20個、より好ましくは1から10個、特に好ましくは1から5個である。また、このようなアミノ酸の置換、欠失、挿入または付加等には、griI遺伝子もしくはgriH遺伝子を保持する微生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。置換は機能的に変化しない中性変異である保存的置換が好ましい。保存的置換は、上述したとおりである。
【0036】
さらに、griI遺伝子およびgriH遺伝子は、それぞれ導入する宿主により、遺伝子の縮重性が異なるので、所望の微生物で使用しやすいコドンに置換したものでもよい。同様にgriI遺伝子およびgriH遺伝子は、微生物の3,4−AHBA生産能を向上させる機能を有する限り、N末端側、C末端側が延長したタンパク質、あるいは削られているタンパク質をコードする遺伝子でもよい。例えば延長・削除する長さは、アミノ酸残基で50以下、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、特に好ましくは5以下である。より具体的には、N末端側50アミノ酸から5アミノ酸、又はC末端側50アミノ酸から5アミノ酸が延長又は削除されたタンパク質をコードする遺伝子でもよい。
【0037】
このようなgriI遺伝子およびgriH遺伝子と相同な遺伝子は、例えば、部位特異的変異法によって、コードされるタンパク質の特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入または付加を含むようにそのアミノ酸配列をコードする遺伝子を改変することによって取得することができる。また、以下のような従来知られている変異処理によっても取得され得る。変異処理としては、griI遺伝子もしくはgriH遺伝子をヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、および該遺伝子を保持する微生物を、紫外線またはN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくはエチルメタンスルフォネート(EMS)等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理する方法、エラ−プローンPCR(Cadwell,R.C.PCR Meth.Appl.2,28(1992))、DNA shuffling(Stemmer,W.P.Nature 370,389(1994))、StEP−PCR(Zhao,H.Nature Biotechnol.16,258(1998))によって、遺伝子組換えにより人工的にgriI遺伝子もしくはgriH遺伝子に変異を導入して活性の高い酵素をコードする遺伝子を取得することが出来る。
【0038】
griI遺伝子はまた、griI遺伝子またはそのホモログ遺伝子の塩基配列(例、配列番号10または19、あるいは国際公開第2010/005099号の配列番号8、10、12、14、16、18または20)に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAであり得る。griH遺伝子はまた、griH遺伝子またはそのホモログ遺伝子の塩基配列(例、配列番号12または21、あるいは国際公開第2010/005099号の配列番号22、24、26、28、30、32または34)に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸シンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAであり得る。「ストリンジェントな条件」は、上述したものと同様である。
【0039】
上記遺伝子ホモログ及び保存的置換に関する記載は、本明細書に記載された他の遺伝子についても同様に適用される。
【0040】
これらのgriI遺伝子およびgriH遺伝子ならびにそれらのホモログ遺伝子が発現することにより3,4−AHBA生産能を向上させるタンパク質をコードしているか否かは、これらの遺伝子を、フィードバック阻害を解除した変異型アスパルトキナーゼをコードする遺伝子を有する細菌等に導入し、3,4−AHBA生成活性が向上するかどうかを調べることにより、確かめることができる。その場合、例えば鈴木らの方法[J.Bio.Chem.,281,823−833(2006)]に従い、3,4−AHBAを逆相クロマトグラフィーにより定量することでより明確に効果を検証することができる。
【0041】
<3>組換えベクター
所望の遺伝子を発現ベクターに導入することによって、本発明に用いられ得る組換えベクターを得ることができる。例えば、nhoA、griIおよびgriHのすべてが用いられる場合、それぞれ発現可能な状態で形質転換体に含まれる限り、それぞれ別の組換えベクターに搭載して形質転換に用いても良いし、nhoA、griIおよびgriHを適当なスペーサーにより連結して、同一の組換えベクターに搭載し、形質転換に用いても良い。また、griIとgriHは同一の微生物に由来する遺伝子であってもよいし、異種微生物に由来する遺伝子であってもよい。同一の微生物に由来する遺伝子であり、griIおよびgriHは染色体上の近接した位置に存在する場合は、griIおよびgriHの双方を含む部位においてDNAを切り出し、ベクターに搭載しても良い。
【0042】
本発明に使用する組換えベクターは、一般にプロモーター、前述の本発明のDNA、例えばnhoA、griIおよびgriH、および組換え微生物中で該遺伝子を発現させるために必要な制御領域(オペレーターやターミネーター)を、それらが機能し得るように適切な位置に有するものである。
【0043】
組換えベクターとして使用できる発現ベクターは特に制限されず、所望の微生物中で機能し得るベクターであればよく、プラスミドのように染色体外で自立増殖するものであっても細菌染色体に組み込まれるものであってもよい。具体的には、発現ベクターとしては、エシェリヒア属またはパントエア属に導入する場合には、腸内細菌群に属する細菌の中で自律複製可能なプラスミド、例えば、pBR322、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398、pSTV28、pSTV29(pHSG、pSTVはタカラバイオ社より入手可)、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218(pMWはニッポンジーン社より入手可)等が挙げられる。なお、プラスミドの代わりにファージDNAをベクターとして用いてもよい。コリネバクテリウム属に導入する場合には、コリネバクテリウム属に属する細菌の中で自律複製可能なプラスミド、例えば、pCRY30(特開平3−210184号公報に記載)、pCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE及びpCRY3KX(特開平2−72876号公報及び米国特許第5185262号明細書に記載)、pCRY2およびpCRY3(特開平1−191686号公報に記載)、pAM330(特開昭58−67679号公報に記載)、pHM1519(特開昭58−77895号公報に記載)、pAJ655、pAJ611及びpAJ1844(特開昭58−192900号公報に記載)、pCG1(特開昭57−134500号公報に記載)、pCG2(特開昭58−35197号公報に記載)、pCG4およびpCG11(特開昭57−183799号公報に記載)、pVC7(特開平9−070291号公報に記載)、pVK7(特開平10−215883号公報に記載)およびその誘導体が挙げられる。
【0044】
本発明に使用できるプロモーターは特に限定されず、所望の微生物における異種タンパク質生産に通常用いられるプロモーターを使用することができる。例えば、エシェリヒア属またはパントエア属では、T7プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージのPRプロモーター、PLプロモーター、T5プロモーターなどが知られている。また、コリネバクテリウム属においては、コリネバクテリウム属由来の細胞表層タンパク質であるPS1及びPS2をコードする遺伝子のプロモーター(特表平6−502548に記載)、及びコリネバクテリウム属由来の細胞表層タンパク質であるSlpAをコードする遺伝子のプロモーター(特開平10−108675)などの強力なプロモーターが挙げられる。
【0045】
<4>形質転換体
本発明の微生物は、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸産生能を有し、かつ、N−ヒドロキシアリールアミン O−アセチルトランスフェラーゼ(NhoA)の活性が増大するように改変されている微生物である限り特に限定されないが、好ましくは形質転換体である。本発明の形質転換体は、ジヒドロキシアセトンリン酸とアスパラギン酸セミアルデヒドから3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を生成する活性を有するタンパク質をコードするDNAを組み込んだ組換えベクターで形質転換されることが好ましい。
【0046】
宿主として用いられる微生物は、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生合成の基質となるジヒドロキシアセトンリン酸、アスパラギン酸セミアルデヒドおよびアセチル基ドナー(例、アセチルCoA)を効率的に供給できる微生物であることが好ましい。微生物のアスパルトキナーゼ(AK)は、本来、リジン等のアミノ酸による協奏的フィードバック阻害を受ける。例えば、エシェリヒア・コリは、非共役酵素であり、単独で機能するアスパルトキナーゼIII(AKIII)を有する。エシェリヒア・コリのAKIIIは、本来、リジンによるフィードバック阻害を受ける。一方、コリネ型細菌のAKは、αサブユニットとβサブユニットからなるヘテロ蛋白質であり、αサブユニットとβサブユニットの遺伝子上のコード領域は一部重複していることが知られている。コリネ型細菌のAKは、本来、リジンとスレオニンによる協奏的フィードバック阻害を受ける。微生物としては、フィードバック阻害を実質的に解除する変異を持ったAK遺伝子を有する微生物が特に好ましい。
【0047】
リジン等のアミノ酸によるフィードバック阻害を解除し得る変異は、エシェリヒア・コリ、コリネバクテリウム・グルタミカム、セラチア・マルセッセンス等の種々の微生物由来のアスパルトキナーゼについて報告されている。エシェリヒア・コリのAKIIIについて、リジンによるフィードバック阻害を解除し得る変異としては、例えば、250位のグルタミン酸のリジンへの変異(E250K)、318位のメチオニンのイソロイシンへの変異(M318I)、344位のスレオニンのメチオニンへの変異(T344M)、345位のセリンのロイシンへの変異(S345L)、352位のスレオニンのイソロイシンへの変異(T352I)が報告されている(例、Kikuchi et al.,FEMS Microbiology Letters 173,211−215(1999)、およびFalco et al.,BioTechnology 13,577−582(1995)を参照)。また、コリネ型細菌のAKについて、フィードバック阻害を解除し得る変異について、コリネバクテリウム・グルタミカム(ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム)ATCC13869由来の野生型AKのαサブユニット(例、国際公開第2010/005099号の配列番号38を参照)を例に挙げて説明する。AKのフィードバック阻害を解除するには、αサブユニット上の位置で表すと、N末端から279番目のアラニン残基がスレオニン残基に、あるいはN末端から311番目のスレオニン残基がイソロイシン残基に、あるいはN末端から301番目のセリン残基がチロシン残基に、あるいはN末端から380番目のスレオニン残基がイソロイシン残基に、あるいはN末端から308番目のスレオニン残基がイソロイシン残基に、あるいはN末端から320番目のアルギニン残基がグリシン残基に、あるいはN末端から345番目のグリシン残基がアスパラギン酸残基に、それぞれ置換するような変異を導入することにより達成される(国際公開第94/25605号、国際公開第00/63388号、米国特許6844176号公報、国際公開第01/049854号等)。なお、AKは、野生型であってもその由来するコリネ型細菌の種類や株によって、国際公開第2010/005099号の配列番号38に示した配列と比較して数個のアミノ酸残基の相違があるものがあり、このようなアレル変異体であってもよい。このような変異の定義は、前述のgriIおよびgriHについて述べたものと同義である。
【0048】
本発明では、上述したような変異が導入されたAK遺伝子を有する微生物を用いることができる。なお、AKについては、野生型であってもその由来する微生物の種類および株によって数個のアミノ酸残基の相違があるものがあり、このようなアレル変異体を用いてもよい。アレル変異体について前記フィードバック阻害を解除するための改変部位は、当業者にとって公知の配列アラインメントを実施することにより対応する箇所を特定することができる。AKのフィードバック阻害を解除するための改変は、当業者にとって公知の方法、例えば、2−アミノエチルシステイン等のリジンアナログに耐性を有する変異株の取得や相同組換えを利用した遺伝子置換による部位特異的変異導入によって達成できる。また、フィードバック阻害を解除した変異型AK遺伝子を含むプラスミドを用いて微生物を形質転換することによっても、フィードバック阻害を解除した変異型AKの活性を強化した微生物を得ることができる。
【0049】
また、フィードバック阻害を解除した変異型AK遺伝子を有する微生物は、さらにピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子の発現を強化したものであってもよい。
【0050】
ジヒドロキシアセトンリン酸とアスパラギン酸セミアルデヒドから3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を生成する活性を有するタンパク質をコードするDNAを組み込んだ組換えベクターによる微生物の形質転換は、当該技術分野で公知の方法に従って行うことができる。例えば、プロトプラスト法(Gene,39,281−286(1985))、エレクトロポレーション法(Bio/Technology,7,1067−1070(1989))等を使用することができる。AKのフィードバック阻害を解除するための形質転換を行う場合、3,4−AHBA生成活性を付与するための形質転換とAKのフィードバック阻害を解除するための形質転換のいずれを先に行っても良い。
【0051】
<5>3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法、ならびに当該製造方法を利用する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類およびそれを構成単位として含むポリマーの製造方法
<5−1>3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法
本発明は、本発明の微生物を培養して、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を生成することを含む、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法を提供する。3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類は、ジヒドロキシアセトンリン酸、アスパラギン酸セミアルデヒドおよびアセチル基ドナー(例、アセチルCoA)から生合成され得る。したがって、微生物は、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生合成の基質となるジヒドロキシアセトンリン酸、アスパラギン酸セミアルデヒドおよびアセチル基ドナー(例、アセチルCoA)を効率的に供給できる微生物であることが好ましい。また、ジヒドロキシアセトンリン酸、アスパラギン酸セミアルデヒドおよびアセチル基ドナーを多量に含有する培地中で、微生物を培養してもよい。
【0052】
本発明における3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類には、以下の構造を有する3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸(「3,4−AcAHBA」と略すことがある)並びにその誘導体およびその塩が含まれる。
【0053】
【化3】
【0054】
3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の誘導体は、(1)1位のカルボキシル基、3位のアセチルアミノ基および4位のヒドロキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基が誘導体化されているか、または(2)1位のカルボキシル基、3位のアセチルアミノ基および4位のヒドロキシル基を保持し、かつ2位、5位および6位の炭素原子からなる群より選ばれる少なくとも1つの炭素原子上の水素原子が他の原子または基により置換されているか、あるいは(3)上記(1)および(2)の組合せによるものである。上記(2)における他の原子または基としては、例えば、ハロゲン原子(例、フッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(例、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等の炭素原子数1〜6個のアルキル基)、ヒドロキシル基、アルキルオキシ基(アルキル部分は、上記と同様)、アミノ基、モノまたはジアルキルアミノ基(アルキル部分は、上記と同様)、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、カルボキシル基が挙げられる。具体的には、上記(1)の誘導体としては、例えば、1位のカルボキシル基が誘導体化された誘導体(例、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸のカルボキシル基がアルデヒド化された3−アミノ−4−ヒドロキシベンズアルデヒド)、3位のアセチルアミノ基の水素原子が上記アルキル基等の基で誘導体化された誘導体(例、3−アセチルアルキルアミノ誘導体)、および4位のヒドロキシ基が上記アルキル基等の基で誘導体化された誘導体(例、4−アルキルオキシ誘導体)が挙げられる。
塩としては、カルボン酸のアルカリ金属(例、ナトリウム、カリウム、リチウム)塩、アルカリ土類金属(例、カルシウム、マグネシウム)塩などの塩基塩および塩酸塩、硫酸塩、硝酸鉛、リン酸塩などの酸付加塩が例示される。
【0055】
本発明の微生物を培養し、培地中で生産される3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を回収することによって、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を製造することができる。
【0056】
本発明の微生物を培養するための培地は、所望の微生物が生育する培地であれば特に制限はなく、当該技術分野で公知の方法に従って培養することができる。例えば、炭素源、窒素源、無機イオンを含有する通常の培地で培養することができる。さらに高い増殖を得るために、ビタミン、アミノ酸等の有機微量栄養素を必要に応じて添加することもできる。培養温度は、通常、25℃〜42℃であり、pHは5〜8に制御することが望ましい。培養時間は、通常、20時間〜90時間である。
【0057】
本発明の微生物の培養は、酸素供給律速条件下で行うことが望ましい。具体的には菌体生育が対数増殖期に移行した段階で2.0ppm以下に保持されることが望ましい。
【0058】
該培養液から3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を回収・精製する工程で用いる回収方法は、公知の方法から適宜選択すればよい。例えば、該培養液を3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の溶解性の高い酸性pHに調整してから、菌体を遠心分離や膜ろ過等の方法により除去した培養液上清から回収することが好ましい。菌体を除去した培養液上清からからの3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の回収方法としては、多孔性吸着剤による精製、晶析、沈殿化などが挙げられる。
【0059】
本発明において使用される多孔性吸着剤とは、表面積の大きな多孔質の固型吸着剤であり、具体的には、シリカゲル、アルミナ、ゼオライト、ボーキサイト、マグネシア、活性白土、アクリル系合成吸着剤等に代表される親水性吸着剤、木炭、骨炭、活性炭、芳香族系合成吸着剤等に代表される疎水性吸着剤が挙げられる。本発明においては、不純物を吸着することよって3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の純度を向上できるものであれば特に限定なく使用できる。ただし、多孔性吸着剤によって吸着される不純物とは、主として生化学的合成の過程において生産される芳香族系化合物が多く含有されるので、本発明においてはこれらの化合物が吸着しやすい活性炭や芳香族系合成吸着剤に代表される疎水性吸着剤が好適に用いられる。これら疎水性吸着剤は単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
活性炭が使用される場合には、その原料としては特に限定はなく、例えば木粉、ヤシ殻などの植物原料、無煙炭、石油ピッチ、コークス等の石炭、石油系原料、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などの合成樹脂系原料などが挙げられる。また活性炭の形状としては粉末状、粒状、繊維状、フィルターやカートリッジ状の二次加工品等があるが特に限定はなく適宜取り扱いやすいものを選択すればよい。
【0061】
一方、芳香族系合成吸着剤が使用される場合には、その原料としては特に限定はないが、例えば1)無置換基型の芳香族系樹脂、2)疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、3)無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂等の多孔性樹脂が使用できる。具体的化合物としては、例えばスチレン‐ジビニルベンゼン系樹脂等が挙げられる。
【0062】
前述したように該培養液中の3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を多孔性吸着剤に接触させる目的は、不純物を多孔性吸着剤に吸着せしめ、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の純度を向上させることにあるが、不純物と同時に目的生成物である3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類も該多孔性吸着剤に少なからず吸着されてしまう場合がある。そこで該培養液中の3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を接触させた後、該多孔性吸着剤に極性有機溶媒を接触させ、該多孔性吸着剤から3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を脱着し、極性有機溶媒中に溶離させることでも3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を単離、回収することが可能である。本発明において使用される極性有機溶媒とは高い誘電率をもつ極性分子からなる有機溶媒のことをいい、上記したように、多孔性吸着剤から3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を脱着し、極性有機溶媒中に3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を溶離させることができるものであれば特に限定されることなく使用できる。極性有機溶媒は単独で使用しても構わないし、2種類以上を所望の配合比で組み合わせて使用しても良い。
【0063】
本発明における晶析または沈殿化とは、目的物質が溶解している溶媒を蒸発させて濃縮したり、あるいは温度を下げたり、あるいは目的物質が溶解している溶媒に貧溶媒を加えたりすることによって、飽和溶解度よりも濃度を高くすることにより結晶または沈殿を生じさせる操作のことを言い、従来公知の方法を含め特に限定されるものではない。また生成した結晶または沈殿は、沈降、濾過、遠心分離などによって分離することができる。
【0064】
<5−2>3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法
本発明はまた、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法を提供する。本方法は、以下(1)および(2)を含む:
(1)上述した方法より3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を生成すること;および
(2)3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を脱アセチル化して、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を生成すること。
【0065】
本発明における3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類には、以下の構造を有する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸(「3,4−AHBA」と略すことがある)並びにその誘導体およびその塩が含まれる。
【0066】
【化4】
【0067】
3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の誘導体は、(1)1位のカルボキシル基、3位のアミノ基および4位のヒドロキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基が誘導体化されているか、または(2)1位のカルボキシル基、3位のアミノ基および4位のヒドロキシル基を保持し、かつ2位、5位および6位の炭素原子からなる群より選ばれる少なくとも1つの炭素原子上の水素原子が他の原子または基により置換されているか、あるいは(3)上記(1)および(2)の組合せによるものである。上記(2)における他の原子または基としては、例えば、ハロゲン原子(例、フッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(例、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等の炭素原子数1〜6個のアルキル基)、ヒドロキシル基、アルキルオキシ基(アルキル部分は、上記と同様)、アミノ基、モノまたはジアルキルアミノ基(アルキル部分は、上記と同様)、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、カルボキシル基が挙げられる。具体的には、上記(1)の誘導体としては、例えば、1位のカルボキシル基が誘導体化された誘導体(例、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸のカルボキシル基がアルデヒド化された3−アミノ−4−ヒドロキシベンズアルデヒド)、3位のアミノ基の水素原子が上記アルキル基等の基で誘導体化された誘導体(例、3−アルキルアミノ誘導体)、および4位のヒドロキシ基が上記アルキル基等の基で誘導体化された誘導体(例、4−アルキルオキシ誘導体)が挙げられる。
塩としては、カルボン酸のアルカリ金属(例、ナトリウム、カリウム、リチウム)塩、アルカリ土類金属(例、カルシウム、マグネシウム)塩などの塩基塩および塩酸塩、硫酸塩、硝酸鉛、リン酸塩などの酸付加塩が例示される。
【0068】
本発明の上記方法における工程(1)は、上述した3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法と同様にして行うことができる。
【0069】
本発明の上記方法における工程(2)における脱アセチル化は、当該分野において公知の任意の方法を用いて行うことができる。例えば、脱アセチル化は、酸または塩基を利用した加水分解により行うことができる。酸としては、例えば、Ac−AHBA類の脱アセチル化反応が進行するものであれば特に限定はないが、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの強酸が好ましい。塩基としては、Ac−AHBA類の脱アセチル化反応が進行するものであれば特に限定はないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化リチウムなどの強塩基を用いることが、脱アセチル化の反応性を高めることができるという点で好ましい。得られた3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類は、回収・精製されてもよい。3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の回収・精製は、上述したような3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の回収・精製と同様にして行うことができる。
【0070】
<5−3>3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を構成単位として含むポリマーの製造方法
本発明はまた、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を構成単位として含むポリマーの製造方法を提供する。本方法は、以下(1’)および(2’)を含む:
(1’)上述した方法により3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を生成すること;および
(2’)3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類をポリマー化して、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を構成単位として含むポリマーを得ること。
【0071】
本発明の上記方法における工程(1’)は、上述した3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法と同様にして行うことができる。
【0072】
本発明の上記方法における工程(2’)は、当該分野において公知の任意の方法を用いて行うことができる。例えば、上述した方法によって得られた3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を、高温においてメタンスルフォン酸、もしくは、ポリリン酸のような非酸化溶媒酸中で、重縮合によって重合することによってポリマー化することができる(例、国際公開第91/01304号参照)。本発明のポリマーの製造方法では、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を、他のポリマー構成成分とポリマー化させてもよい。他のポリマー構成成分としては、例えば、テレフタル酸およびビスフェノールA、またはテレフタル酸およびp−フェニレンジアミンが挙げられる。ポリマー化の方法は種々の公知の方法を適用することによって実施可能である(米国特許5142021号公報、米国特許5219981号公報、米国特許5422416号公報、Kricheldorf et. al.,(1992)Makromol. Chem.,193,2467−2476、Marcos−Fernandez et. al.,(2001)Polymer,42,7933−7941)。本発明の方法により製造される、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を構成単位として含むポリマーとしては、例えば、ポリベンゾオキサゾールポリマー、ポリエステル、ポリアミドが挙げられる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。なお、実施例において宿主として用いられた微生物は、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生合成の基質となるジヒドロキシアセトンリン酸、アスパラギン酸セミアルデヒド、およびアセチル基ドナーであるアセチルCoAを効率的に供給できる微生物である。
【0074】
実施例1:エシェリヒア・コリへのストレプトマイセス・グリセウス由来3,4−AHBA合成酵素遺伝子群およびエシェリヒア・コリ由来nhoA遺伝子の導入による3,4−AcAHBA生産菌の構築、および3,4−AcAHBA蓄積量の評価
(1)エシェリヒア・コリのゲノム情報をもとにした3,4−AHBAのN−アセチル化を触媒する酵素の探索
ストレプトマイセス・グリセウスIFO13350株において、アリールアミン N−アセチルトランスフェラーゼ(同意語:NatA;NCBI accession ID:BAF46971.1)が3,4−AHBAのN−アセチル化反応を触媒することが報告されている[Suzuki et. al.,(2007) J.Bacteriol.,189,2155−2159]。NatAのアミノ酸配列を配列番号1に示す。NatAと同様の機能を有する酵素を探索するため、エシェリヒア・コリK−12株のゲノム情報から、NatAと相同性を示す配列を検索した。公開されているデータベース(EcoCyc,http://ecocyc.org/,Keseler et al.,(2005) Nucleic Acids Res.,33,334−337)を利用し、blastpを用いて検索を行った結果、エシェリヒア・コリK−12株のN−ヒドロキシアリルアミン O−アセチルトランスフェラーゼ(同意語:NhoA,EC:2.3.1.118,NCBI accession ID:NP_415980.1)が、ストレプトマイセス・グリセウスIFO13350株由来NatAと49%の相同性を示すことを見出した。NhoAのアミノ酸配列を配列番号2に、NhoAをコードする遺伝子(同意語:nhoA,GenBank accession No.:NC_000913.2、ヌクレオチド1532048〜1532893、GI:947251)の塩基配列を配列番号3に示す。
【0075】
(2)nhoA遺伝子発現用プラスミドの構築
エシェリヒア・コリでnhoA遺伝子を発現させる為の発現用プラスミドは次の手順で構築した。エシェリヒア・コリBW25113株のゲノムを鋳型として、3’末端にHindIIIの制限酵素認識配列を付与した配列番号4に示す合成オリゴヌクレオチド、更には3’末端にEcoRIの制限酵素認識配列を付与した配列番号5に示す合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして、PrimeStarGXLポリメラーゼ(Takara社製)を用いてPCRを行った。反応溶液はキットに添付された組成に従って調製し、98℃にて10秒、55℃にて15秒、68℃にて60秒の反応を30サイクル行った。その結果、nhoA遺伝子のネイティブプロモーターおよびnhoA遺伝子を含む、約1.1kbpのPCR産物を取得した。この断片をEcoRIとHindIIIで消化処理後、同制限酵素で消化処理されたpUC19(Takara社製)にクローニングした。得られたベクターをpUC19−NhoAと名付けた。pUC19−NhoAの全長配列を配列番号6に示す。
【0076】
(3)発現用プラスミドpSTV28−Ptac−Ttrpの構築
エシェリヒア・コリに3,4−AHBAの生産能を付与する為の発現用プラスミドpSTV28−Ptac−Ttrpを構築した。始めに、tacプロモーター(同意語:Ptac)領域(deBoer, et al.,(1983) Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,80,21−25)およびエシェリヒア・コリ由来トリプトファンオペロンのターミネーター(同意語Ttrp)領域(Wu et al.,(1978) Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,75,5442−5446)を含み、5’末端にKpnIサイト、3’末端にBamHIサイトを有するDNA断片を化学合成した(塩基配列を配列番号7に示す)。得られたDNA断片をKpnIおよびBamHIにて消化処理し、PtacおよびTtrpを含むDNA断片を得た。精製したDNA断片と、KpnIおよびBamHIで消化処理したpSTV28(タカラバイオ社製)とを、DNA Ligaseによるライゲーション反応によって連結した。得られたプラスミドをpSTV28−Ptac−Ttrpと名付けた(塩基配列を配列番号8に示す)。本プラスミドのPtac下流に目的遺伝子をクローニングすることで、目的遺伝子の発現増幅が可能となる。
【0077】
(4)エシェリヒア・コリのコドン使用頻度に対応したgriI遺伝子およびgriH遺伝子の化学合成
ストレプトマイセス・グリセウスIFO13350株において、3,4−AHBAの合成はアルドラーゼ(同意語:SGR_4249,GriI)および3,4−AHBAシンターゼ(同意語:SGR_4248, GriH)からなる3,4−AHBA合成酵素群によって触媒される事が既に知られている(Suzuki et. al.,(2006) J.Biol.Chem.,281,36944−36951)。GriIは、griI遺伝子(GenBank accession no.AB259663.1、ヌクレオチド13956〜14780;GI:117676060)によりコードされている。GriIタンパク質のアミノ酸配列およびgriI遺伝子の塩基配列を、配列番号9および配列番号10にそれぞれ示す。また、GriHは、griH遺伝子(GenBank accession no.AB259663.1、ヌクレオチド12690〜13880; GI:117676059)によりコードされている。GriHタンパク質のアミノ酸配列およびgriH遺伝子の塩基配列を配列番号11および配列番号12にそれぞれ示す。
griI遺伝子およびgriH遺伝子をエシェリヒア・コリで効率的に発現させるために、エシェリヒア・コリのコドン使用頻度に対応するようにgriI遺伝子およびgriH遺伝子の配列を変更し、オペロンとして発現するように設計して、これをEcGriIHと名付けた。EcGriIHの5’末端にEcoRI、3’末端にHindIIIの制限酵素認識配列を付加し、化学合成を行った(配列番号13に示す)。両末端に制限酵素認識配列が付与されたEcGriIHは、EcoRIとHindIIIで消化処理後、同制限酵素で消化処理されたpUC57(Genscript社製)にクローニングした。得られたベクターをpUC57−EcGriと名付けた。pUC57−EcGriの全長配列を配列番号14に示す。
【0078】
(5)griI遺伝子およびgriH遺伝子発現用プラスミドの構築
エシェリヒア・コリでgriI遺伝子およびgriH遺伝子を発現させる為の発現用プラスミドは次の手順で構築した。pUC57−EcGriを鋳型として、配列番号15に示す合成オリゴヌクレオチド、更には配列番号16に示す合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして、PrimeStarGXLポリメラーゼ(Takara社製)を用いてPCRを行った。反応溶液はキットに添付された組成に従って調製し、98℃にて10秒、55℃にて15秒、68℃にて150秒の反応を30サイクル行った。その結果、EcGriIH遺伝子断片を含む、約2.1kbpのPCR産物を取得した。その後、精製されたEcGriIH遺伝子断片と、SmaIで消化処理されたpSTV28−Ptac−Ttrpを、In−Fusion HD Cloning Kit(Clontech社製)を用いて連結した。得られたgriIH遺伝子発現用プラスミドをpSTV28−EcGriと名付けた。pSTV28−EcGriの全長配列を配列番号17に示す。
【0079】
(6)3,4−AcAHBA生産菌の構築
エシェリヒア・コリBW25113株のコンピテントセルを調製後、エレクトロポレーションによりpSTV28−EcGriを導入し、30(mg/L)のクロラムフェニコールを含むLBプレートに均一に塗布し、37℃にて18時間培養した。得られたプレートから、クロラムフェニコール耐性を示す形質転換体を取得した。エシェリヒア・コリBW25113株にpSTV28−EcGriが導入された株をBW25113/pSTV28−EcGri株と名付けた。つぎに、BW25113/pSTV28−EcGri株のコンピテントセルを調製後、エレクトロポレーションによりpUC19またはpUC19−NhoAを導入し、30(mg/L)のクロラムフェニコールおよび100(mg/L)のアンピシリンを含むLBプレートに均一に塗布し、37℃にて18時間培養した。得られたプレートから、クロラムフェニコール耐性およびアンピシリン耐性を示す形質転換体を取得した。BW25113/pSTV28−EcGri株にpUC19が導入された株をBW25113/pSTV28−EcGri/pUC19株と名付け、BW25113/pSTV28−EcGri株にpUC19−NhoAが導入された株をBW25113/pSTV28−EcGri/pUC19−NhoA株と名付けた。
【0080】
(7)3,4−AcAHBA生産培養
BW25113/pSTV28−EcGri/pUC19株、およびBW25113/pSTV28−EcGri/pUC19−NhoA株を、30(mg/L)のクロラムフェニコールおよび100(mg/L)のアンピシリンを含むLBプレートに均一に塗布し、37℃にて18時間培養した。得られたプレートから1白金耳分の菌体を、試験管中の、30(mg/L)のクロラムフェニコールおよび100(mg/L)のアンピシリンを含むMSグルコース/Asp培地4mLに接種し、往復振とう培養装置で30℃にて48時間培養した。MSグルコース/Asp培地の組成は以下の表1に記載のとおりである。
【0081】
【表1】
【0082】
KOHでpH7.0に調整し、121℃で20分オートクレーブを行なった。但し、GlucoseとMgSO・7HOは混合し、別殺菌した。CaCOは乾熱滅菌後に添加した。
【0083】
(8)3,4−AHBA変換物(R.T.9.5min.)の分子量の分析
実施例1(7)に記載の、BW25113/pSTV28−EcGri/pUC19株、およびBW25113/pSTV28−EcGri/pUC19−NhoA株の培養上清液、3,4−AHBA標準品(東京化成工業株式会社製,Cat.No.:A0859)に対する逆相カラムクロマトグラフィーのチャートを図1に示した(分析条件はSuzuki et. al.,(2006) J.Biol.Chem.,281,36944−36951に記載)。BW25113/pSTV28−EcGri/pUC19−NhoA株の培養上清液中からは3,4−AHBAが検出されず、溶出時間(R.T.) 9.5min.に検出されるピークの高さが、対照であるBW25113/pSTV28−EcGri/pUC19株と比較して増加した。これにより、過剰発現したNhoAによって、3,4−AHBAがR.T.9.5min.に検出される化合物に変換されていることが示唆された。
BW25113/pSTV28−EcGri/pUC19−NhoA株を培養後の培養上清液中に含まれる3,4−AHBA変換物(R.T.9.5min.)の分子量を、LC/MSで分析した。分析条件は以下のとおりである。
【0084】
カラム:Inertsil ODS−3 2μm 2.1×75mm(GL Science社製)
移動相:A=0.1% ギ酸/H
B=0.1% ギ酸/アセトニトリル
グラジェントプログラム 0 min. A/B=100/0
3 min. A/B=100/0
23 min. A/B=20/80
25 min. A/B=20/80
流速: 0.2(mL/min.)
カラム温度:室温(25℃)
検出波長: 254nm(PDA)
MSイオン化モード:ESI
分析機種: Agilent Infinity1290(LC)
Agilent Quadrupole LC/MS 6130(MS)
【0085】
分析の結果、変換物(R.T.9.5min.)のm/z値は195.1であり、3,4−AHBAのアセチル化体の計算上のm/z値(195.1)と一致した。以降、変換物(R.T.9.5min.)を3,4−AcAHBAと呼ぶ。
【0086】
(9)培養液の吸光光度および培養液上清中の3,4−AHBAおよび3,4−AcAHBA蓄積量の定量
実施例1(7)に記載の、BW25113/pSTV28−EcGri/pUC19株、およびBW25113/pSTV28−EcGri/pUC19−NhoA株の培養液の600nmでのOptical density(OD)値を、分光光度計(HITACHI U−2900)によって測定した。また、培養上清液中に蓄積した3,4−AHBA、および3,4−AcAHBAを逆相カラムクロマトグラフィーによって分離し、蓄積量を定量した(Suzuki et. al.,(2006) J.Biol.Chem.,281,36944−36951)。培養液の600nmでのOD値、培養上清液中の3,4−AHBA蓄積量および3,4−AcAHBA蓄積量を表2に示した。BW25113/pSTV28−EcGri/pUC19−NhoA株の培養上清液からは3,4−AHBAが検出されず、対照のBW25113/pSTV28−EcGri/pUC19株の培養上清液と比べて3,4−AcAHBAの蓄積量が増加した。また、BW25113/pSTV28−EcGri/pUC19−NhoA株の培養上清中の3,4−AHBA濃度と3,4−AcAHBA濃度の和は、対照のBW25113/pSTV28−EcGri/pUC19株に対して1.67倍となった。
【0087】
【表2】
【0088】
実施例2:エシェリヒア・コリへのストレプトマイセス・ムラヤマエンシス由来3,4−AHBA合成酵素遺伝子群およびエシェリヒア・コリ由来nhoA遺伝子の導入による3,4−AHBA生産菌の構築、および3,4−AcAHBA蓄積量の評価
(1)エシェリヒア・コリのコドン使用頻度に対応したnspI遺伝子およびnspH遺伝子の化学合成
ストレプトマイセス・ムラヤマエンシスにおいて、3,4−AHBAの合成はアルドラーゼ(同意語:NspI;NCBI accession ID:BAJ08171.1)および3,4−AHBAシンターゼ(同意語:NspH;NCBI accession ID:BAJ08172.1)からなる3,4−AHBA合成酵素群によって触媒される事が既に知られている(Noguchi et. al.,(2010) Nat.Chem.Biol.,6,641−643)。NspIは、nspI遺伝子(GenBank accession no.AB530136、ヌクレオチド8730〜9584;GI:296784943)によりコードされている。NspIタンパク質のアミノ酸配列およびnspI遺伝子の塩基配列を配列番号18および配列番号19にそれぞれ示す。また、NspHは、nspH遺伝子(GenBank accession no.AB530136、ヌクレオチド9599〜10702;GI:296784944)によりコードされている。NspHタンパク質のアミノ酸配列およびnspH遺伝子の塩基配列を配列番号20および配列番号21にそれぞれ示す。
nspI遺伝子およびnspH遺伝子をエシェリヒア・コリで効率的に発現させるために、エシェリヒア・コリのコドン使用頻度に対応するようにnspI遺伝子およびnspH遺伝子の配列を変更し、オペロンとして発現するように設計して、これをEcNspIHと名付けた。EcNspIHの5’末端にEcoRI、3’末端にHindIIIの制限酵素認識配列を付加し、化学合成を行った。両末端に制限酵素認識配列が付与されたEcNspIHは、EcoRIとHindIIIで消化処理後、同制限酵素で消化処理されたpUC57(Genscript社製)にクローニングした
【0089】
(2)nspI遺伝子およびnspH遺伝子発現用プラスミドの構築
エシェリヒア・コリでnspI遺伝子およびnspH遺伝子を発現させる為の発現用プラスミドは次の手順で構築した。pUC57−EcNspを鋳型として、合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして、PrimeStarGXLポリメラーゼ(Takara社製)を用いてPCRを行った。反応溶液はキットに添付された組成に従って調製し、98℃にて10秒、55℃にて15秒、68℃にて150秒の反応を30サイクル行った。その結果、EcNspIH遺伝子断片を含む、約2.1kbpのPCR産物を取得した。その後、精製されたEcNspIH遺伝子断片と、SmaIで消化処理されたpSTV28−Ptac−Ttrp[実施例1(3)に記載]を、In−Fusion HD Cloning Kit(Clontech社製)を用いて連結した。得られたnspIH遺伝子発現用プラスミドをpSTV28−EcNspと名付けた
【0090】
(3)3,4−AcAHBA生産菌の構築
エシェリヒア・コリBW25113株のコンピテントセルを調製後、エレクトロポレーションによりpSTV28−EcNspを導入し、30(mg/L)のクロラムフェニコールを含むLBプレートに均一に塗布し、37℃にて18時間培養した。得られたプレートから、クロラムフェニコール耐性を示す形質転換体を取得した。エシェリヒア・コリBW25113株にpSTV28−EcNspが導入された株をBW25113/pSTV28−EcNsp株と名付けた。つぎに、BW25113/pSTV28−EcNsp株のコンピテントセルを調製後、エレクトロポレーションによりpUC19またはpUC19−NhoA[実施例1(2)に記載]を導入し、30(mg/L)のクロラムフェニコールおよび100(mg/L)のアンピシリンを含むLBプレートに均一に塗布し、37℃にて18時間培養した。得られたプレートから、クロラムフェニコール耐性およびアンピシリン耐性を示す形質転換体を取得した。BW25113/pSTV28−EcNsp株にpUC19が導入された株をBW25113/pSTV28−EcNsp/pUC19株と名付け、BW25113/pSTV28−EcNsp株にpUC19−NhoAが導入された株をBW25113/pSTV28−EcNsp/pUC19−NhoA株と名付けた。
【0091】
(4)3,4−AcAHBA生産培養評価
BW25113/pSTV28−EcNsp/pUC19株、およびBW25113/pSTV28−EcNsp/pUC19−NhoA株を、30(mg/L)のクロラムフェニコールおよび100(mg/L)のアンピシリンを含むLBプレートに均一に塗布し、37℃にて18時間培養した。得られたプレートから、1白金耳分の菌体を、試験管中の30(mg/L)のクロラムフェニコールおよび100(mg/L)のアンピシリンを含むMSグルコース/Asp培地4mLに接種し、往復振とう培養装置で30℃にて48時間培養した。MSグルコース/Asp培地の組成は表1に記載のとおりである。
培養後、培養液の600nmでのOD値を分光光度計(HITACHI U−2900)によって測定した。また、培養上清液中に蓄積した3,4−AHBAおよび3,4−AcAHBAを、実施例1と同様に逆相カラムクロマトグラフィーによって分離し、蓄積量を定量した。培養液の600nmでのOD値、培養上清液中の3,4−AHBA蓄積量および3,4−AcAHBA蓄積量を表3に示した。BW25113/pSTV28−EcNsp/pUC19−NhoA株の培養上清液からは3,4−AHBAが検出されず、対照のBW25113/pSTV28−EcNsp/pUC19株と比べて3,4−AcAHBAの蓄積量が増加した。また、BW25113/pSTV28−EcNsp/pUC19−NhoA株の培養上清中の3,4−AHBA濃度と3,4−AcAHBA濃度の和は、対照のBW25113/pSTV28−EcNsp/pUC19株に対して1.69倍となった。
【0092】
【表3】
【0093】
実施例3:パントエア・アナナティスへのストレプトマイセス・グリセウス由来3,4−AHBA合成酵素遺伝子群およびエシェリヒア・コリ由来nhoA遺伝子の導入による3,4−AcAHBA生産菌の構築、および3,4−AcAHBA蓄積量の評価
(1)nhoA遺伝子発現用プラスミドの構築
パントエア・アナナティスでnhoA遺伝子を発現させる為の発現用プラスミドは次の手順で構築した。エシェリヒア・コリBW25113株のゲノムを鋳型として、3’末端にHindIIIの制限酵素認識配列を付与した配列番号4に示す合成オリゴヌクレオチド、更には3’末端にEcoRIの制限酵素認識配列を付与した配列番号5に示す合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして、PrimeStarGXLポリメラーゼ(Takara社製)を用いてPCRを行った。反応溶液はキットに添付された組成に従って調製し、98℃にて10秒、55℃にて15秒、68℃にて60秒の反応を30サイクル行った。その結果、nhoA遺伝子のネイティブプロモーターおよびnhoA遺伝子断片を含む、約1.1kbpのPCR産物を取得した。この断片をEcoRIとHindIIIで消化処理後、同制限酵素で消化処理されたpMW219(Takara社製)にクローニングした。得られたベクターをpMW219−NhoAと名付けた。pMW219−NhoAの全長配列を配列番号22に示す。
【0094】
(2)3,4−AcAHBA生産菌の構築
パントエア・アナナティスSC17株(特開2006−230202号公報に記載)のコンピテントセルを調製後、エレクトロポレーションによりpSTV28−EcGriを導入し、30(mg/L)のクロラムフェニコールを含むLBプレートに均一に塗布し、30℃にて24時間培養した。得られたプレートから、クロラムフェニコール耐性を示す形質転換体を取得した。パントエア・アナナティスSC17株にpSTV28−EcGriが導入された株をSC17/pSTV28−EcGri株と名付けた。つぎに、SC17/pSTV28−EcGri株のコンピテントセルを調製後、エレクトロポレーションによりpMW219またはpMW219−NhoAを導入し、30(mg/L)のクロラムフェニコールおよび50(mg/L)のカナマイシンを含むLBプレートに均一に塗布し、30℃にて24時間培養した。得られたプレートから、クロラムフェニコール耐性およびカナマイシン耐性を示す形質転換体を取得した。SC17/pSTV28−EcGri株にpMW219が導入された株をSC17/pSTV28−EcGri/pMW219株と名付け、SC17/pSTV28−EcGri株にpMW219−NhoAが導入された株をSC17/pSTV28−EcGri/pMW219−NhoA株と名付けた。
【0095】
(3)3,4−AcAHBA生産培養評価
SC17/pSTV28−EcGri/pMW219株、およびSC17/pSTV28−EcGri/pMW219−NhoA株を、30(mg/L)のクロラムフェニコールおよび50(mg/L)のカナマイシンを含むLBプレートに均一に塗布し、30℃にて24時間培養した。得られたプレートから1白金耳分の菌体を、試験管中の、30(mg/L)のクロラムフェニコールおよび50(mg/L)のカナマイシンを含むMSグルコース/Asp培地4mLに接種し、往復振とう培養装置で30℃にて32時間培養した。MSグルコース/Asp培地の組成は表1に記載のとおりである。
培養後、培養液の600nmでのOD値を分光光度計(HITACHI U−2900)によって測定した。また、培養上清液中に蓄積した3,4−AHBAおよび3,4−AcAHBAを、実施例1(9)と同様に逆相カラムクロマトグラフィーによって分離し、蓄積量を定量した。培養液の600nmでのOD値、培養上清液中の3,4−AHBA蓄積量および3,4−AcAHBA蓄積量を表4に示した。SC17/pSTV28−EcGri/pMW219−NhoA株の培養上清液中からは3,4−AHBAは検出されず、対照のSC17/pSTV28−EcGri/pMW219株と比べ3,4−AcAHBAの蓄積量が増加した。また、SC17/pSTV28−EcGri/pMW219−NhoA株の培養上清中の3,4−AHBA濃度と3,4−AcAHBA濃度の和は、対照のSC17/pSTV28−EcGri/pMW219株に対して2.46倍となった。
【0096】
【表4】
【0097】
実施例4:コリネバクテリウム・グルタミカムへのストレプトマイセス・グリセウス由来3,4−AHBA合成酵素遺伝子群およびエシェリヒア・コリ由来nhoA遺伝子の導入による3,4−AcAHBA生産菌の構築、および3,4−AcAHBA蓄積量の評価
(1)nhoA遺伝子発現用プラスミドの構築
コリネバクテリウム・グルタミカムでnhoA遺伝子を発現させる為の発現用プラスミドは次の手順で構築した。エシェリヒア・コリBW25113株のゲノムを鋳型として、3’末端にHindIIIの制限酵素認識配列を付与した配列番号4に示す合成オリゴヌクレオチド、更には3’末端にEcoRIの制限酵素認識配列を付与した配列番号5に示す合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして、PrimeStarGXLポリメラーゼ(Takara社製)を用いてPCRを行った。反応溶液はキットに添付された組成に従って調製し、98℃にて10秒、55℃にて15秒、68℃にて60秒の反応を30サイクル行った。その結果、nhoA遺伝子のネイティブプロモーターおよびnhoA遺伝子断片を含む、約1.1kbpのPCR産物を取得した。この断片をEcoRIとHindIIIで消化処理後、同制限酵素で消化処理されたpVC7(特開平9−070291号公報に記載)にクローニングした。得られたベクターをpVC7−NhoAと名付けた。pVC7−NhoAの全長配列を配列番号23に示す。
【0098】
(2)3,4−AcAHBA生産菌の構築
コリネバクテリウム・グルタミカムでgriI遺伝子およびgriH遺伝子を発現させるために、特開2010−005099号公報に記載のプラスミドpPK4griIHを用いた。pPK4griIHは、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869株由来細胞表層タンパク質遺伝子のプロモーター配列(Peyret et al.,(1993) Mol.Microbiol.,9,97−109)の下流にgriI遺伝子およびgriH遺伝子を接続した配列を含んでおり、コリネバクテリウム・グルタミカムにおいてgriI遺伝子およびgriH遺伝子を効果的に発現可能なプラスミドである。コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869株のコンピテントセルを調製後、エレクトロポレーションによりpPK4griIHを導入し、25(mg/L)のカナマイシンを含むCMDexプレートに均一に塗布し、30℃にて24時間培養した。CMDexプレートの組成を以下の表5に示す。
【0099】
【表5】
【0100】
得られたプレートから、カナマイシン耐性を示す形質転換体を取得した。コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869株にpPK4griIHが導入された株をATCC13869/pPK4griIH株と名付けた。つぎに、ATCC13869/pPK4griIH株のコンピテントセルを調製後、エレクトロポレーションによりpVC7またはpVC7−NhoAを導入し、20(mg/L)のカナマイシンおよび5(mg/L)のクロラムフェニコールを含むCMDexプレートに均一に塗布し、30℃にて24時間培養した。得られたプレートから、カナマイシン耐性およびクロラムフェニコール耐性を示す形質転換体を取得した。ATCC13869/pPK4griIH株にpVC7が導入された株をATCC13869/pPK4griIH/pVC7株と名付け、ATCC13869/pPK4griIH株にpVC7−NhoAが導入された株をATCC13869/pPK4griIH/pVC7−NhoA株と名付けた。
【0101】
(3)3,4−AcAHBA生産培養評価
ATCC13869/pPK4griIH/pVC7株、およびATCC13869/pPK4griIH/pVC7−NhoA株を、20(mg/L)のカナマイシンおよび5(mg/L)のクロラムフェニコールを含むCMDexプレートに均一に塗布し、30℃にて24時間培養した。得られたプレートから1白金耳分の菌体を、試験管中の、20(mg/L)のカナマイシンおよび5(mg/L)のクロラムフェニコールを含む3,4−AcAHBA生産用培地4mLに接種し、往復振とう培養装置で30℃にて56時間培養した。3,4−AcAHBA生産用培地の組成は以下の表6に記載のとおりである。
【0102】
【表6】
【0103】
KOHでpH7.5に調整し、121℃で20分オートクレーブを行なった。但し、GlucoseとMgSO・7HOは混合し、別殺菌した。CaCOは乾熱滅菌後に添加した。
【0104】
培養後、培養液の600nmでのOD値を分光光度計(HITACHI U−2900)によって測定した。また、培養上清液中に蓄積した3,4−AHBAおよび3,4−AcAHBAを、実施例1(9)と同様に逆相カラムクロマトグラフィーによって分離し、蓄積量を定量した。培養液の600nmでのOD値、培養上清液中の3,4−AHBA蓄積量および3,4−AcAHBA蓄積量を表7に示した。ATCC13869/pPK4griIH/pVC7−NhoA株の培養上清液には3,4−AHBAが蓄積せず、対照であるATCC13869/pPK4griIH/pVC7株と比べ3,4−AcAHBA蓄積量が増加した。
【0105】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によって、染料、農薬、医薬品その他有機合成品の中間体やポリベンゾオキサゾールのモノマーとして有用であるアミノヒドロキシ安息香酸類に容易に変換できるアセチルアミノヒドロキシ安息香酸類を、簡便かつ効率的に製造することができる。よって、例えば、本発明によって得られた3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸に変換し、次いで、変換された3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を重合することでポリベンゾオキサゾール(PBO)が得られ、これにより高強度、高弾性率、高耐熱性を有するPBO繊維やPBOフィルムなどを安価に提供することが可能となる。また、原料である3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類に容易に変換できる安定な化合物である3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を生合成によって製造することが可能であることから、本発明の方法は環境低負荷型のプロセスとなり、地球環境に対して優しい製造方法である。
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]