(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アミノ酸として、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、アルギニン、リジン、アスパラギン、ヒスチジン、メチオニン、トリプトファンから選ばれる少なくとも1種を使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の
タイヤ用ゴム組成物
(以下、「ゴム組成物」と言う。)の製造方法において、メラノイジンを老化防止剤として使用する。メラノイジンは、糖とアミノ化合物を加熱する、所謂メイラード反応により生成する褐色物質である。メイラード反応は、非常に多くの素反応からなる反応である。このため1912年にメイラード反応が発見されたが、その全容は未だ十分には解明されていない。
【0012】
本発明のゴム組成物の製造方法は、糖およびアミノ酸の混合物を加熱しメラノイジンを合成する工程、および得られたメラノイジンをゴム成分に混合する工程からなる。メラノイジンの原料となる糖としては、単糖類を使用することができ、アルドースおよび/またはケトースを使用することができる。これらの単糖類を使用してメラノイジンを合成することにより、短時間でメラノイジンを合成することができる。
【0013】
アルドースとしては、例えばグリセルアルデヒド、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース等を例示することができる。なかでもキシロース、グルコース、アラビノース、グリセルアルデヒド、エリトロースが好ましい。
【0014】
またケトースとしては、例えばジヒドロキシアセトン、エリトルロース、キシルロース、リブロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、セドヘプツロース、コリオース等を例示することができる。なかでもジヒドロキシアセトン、エリトルロース、キシルロース、フルクトースが好ましい。
【0015】
本発明において、アミノ酸としては、α‐アミノ酸を使用することができる。α‐アミノ酸を使用してメラノイジンを合成することにより効率的に窒素原子をメラノイジンに導入することができる。α‐アミノ酸としては、例えばアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンを例示することができる。なかでもグリシン、アラニン、フェニルアラニン、アルギニン、リジン、アスパラギン、ヒスチジン、メチオニン、トリプトファンから選ばれる少なくとも1種を使用するのがよい。
【0016】
上述した糖およびアミノ酸の混合物を加熱することによりメラノイジンを合成する。糖およびアミノ酸の混合物を加熱する方法は、特に制限されるものではないが、例えば糖およびアミノ酸を溶媒に加え溶解させた溶液を加熱することができる。溶媒としては、水、アルコール、THF(テトラヒドロフラン)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、アセトン等を例示することができる。なかでも水、アルコールが好ましい。溶媒の使用量は特に制限されるものではないが、糖およびアミノ酸の混合物の質量に対し、好ましくは0.1〜20質量倍、より好ましくは0.5〜10質量倍であるとよい。溶媒の使用量をこのような範囲内にすることにより、メラノイジンを効率的合成することができる。
【0017】
本発明において、糖およびアミノ酸の割合は、特に制限されるものではないが、糖およびアミノ酸の質量比が、好ましくは[糖]/[アミノ酸]=1/4〜4/1、より好ましくは1/3〜3/1、さらに好ましくは2/3〜3/2であるとよい。[糖]/[アミノ酸]の質量比を、このような範囲内にすることにより、メラノイジンを効率的に合成することができる。
【0018】
糖およびアミノ酸の混合物を加熱する温度は、特に制限されるものではないが、好ましくは50〜250℃、より好ましくは80〜230℃にすることができる。このような温度範囲で糖およびアミノ酸の混合物を加熱することにより、メラノイジン以外の副生成物の量を抑制することができる。
【0019】
糖およびアミノ酸の混合物を加熱する装置は制限されるものではなく、バッチ式、連続式のいずれでもよい。
【0020】
糖およびアミノ酸の混合物を加熱して得られるメラノイジンの特性は、好ましくは下記の特性(1)〜(5)の少なくとも1つを満たすとよい。
(1)メラノイジン中の窒素原子が3〜30質量%であること
(2)メラノイジンを600℃の窒素雰囲気で1時間加熱したとき5質量%以上の炭化物が残ること
(3)メラノイジンが、ピラジン、ピロロピロール、ピロロピラジンから選ばれる少なくとも1つの化合物の構造を含むこと
(4)メラノイジンのDPPH法により測定された抗酸化力が10000trolox(mg/100g)以上であること
(5)メラノイジンが水溶性であること
【0021】
本発明の製造方法で得られるメラノイジンは、窒素原子の含有量が好ましくは3〜30質量%、より好ましくは3〜25質量%、さらに好ましくは5〜25質量%であるとよい。窒素原子の含有量をこのような範囲内にすることにより高い効果を有する老化防止剤になる。本明細書において、メラノイジン中の窒素原子の含有量は、元素分析装置を使用して完全燃焼した際に生成する窒素酸化物を測定する方法により求めるものとする。
【0022】
本発明の製造方法で得られるメラノイジンは、600℃の窒素雰囲気で1時間加熱したときに残る炭化物が、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10〜30質量%であるとよい。600℃に加熱したときの炭化物の量をこのような範囲内にすることにより高い効果を有する老化防止剤になる。本明細書において、メラノイジンを600℃の窒素雰囲気で1時間加熱する測定は、窒素雰囲気下で熱重量分析を使用して加熱後の重量を測定する方法により求めるものとする。
【0023】
メラノイジンとしては、ピラジン、ピロロピロール、ピロロピラジンから選ばれる少なくとも1つの化合物の構造を含むことが好ましい。メラノイジンの構造中にピラジン、ピロロピロール、ピロロピラジンから選ばれる構造を含むことにより、高い効果を有する老化防止剤になる。メラノイジンの化学構造は、GC−MSにより測定することができる。
【0024】
メラノイジンは、DPPH法により測定された抗酸化力が、好ましくは10000trolox(mg/100g)以上、より好ましくは50000〜500000trolox(mg/100g)であるとよい。メラノイジンがこのような範囲内の抗酸化力を有することは、化石系資源から合成された老化防止剤と同等レベル以上の抗酸化力であることを意味する。本明細書においてDPPH法に基づく抗酸化力の測定は、例えば、駒沢女子短期大学研究紀要 第37号、第17〜22頁、(2004)に記載されているように安定ラジカルが有する色が消失する量に換算することにより数値化し、測定を行うものとする。
【0025】
本発明の製造方法で得られるメラノイジンは、好ましくは水溶性であるとよい。メラノイジンが水溶性であることにより一度ゴム組成物内部に入った後、移行性が少なく、老化防止性能を長期に渡り持続できるようになる。
【0026】
本発明のゴム組成物の製造方法は、得られたメラノイジンをゴム成分に混合する工程を含む。ゴム成分としては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、スチレン−イソプレン共重合ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合ゴム、溶液重合ランダムスチレン−ブタジエン−イソプレン共重合ゴム、乳化重合ランダムスチレン−ブタジエン−イソプレン共重合ゴム、乳化重合スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等を挙げることができる。なかでも天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ハロゲン化ブチルゴムがよい。これらのゴム成分は、単独あるいは複数を組合わせて使用することができる。
【0027】
メラノイジンの配合量は、ゴム成分100質量部に対し、好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは1〜20質量部であるとよい。メラノイジンの配合量をこのような範囲内にすることにより、ゴム組成物の老化防止性能を効率的に改良することができる。
【0028】
ゴム組成物は、補強性充填剤を含むことができる。補強性充填剤としては、例えばカーボンブラック、シリカ、クレイ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、タルク、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸バリウム等の無機フィラーや、セルロース、レシチン、リグニン、デンドリマー等の有機フィラーを例示することができる。なかでもカーボンブラック、シリカから選ばれる少なくとも1種を配合することが好ましい。これら補強性充填剤は、単独でまたは複数を組合わせて配合することができる。
【0029】
またゴム組成物には、常法に従って、加硫剤又は架橋剤、加硫促進剤、シランカップリング剤、プロセスオイル、軟化剤、加工助剤、可塑剤、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などゴム組成物に一般的に使用される各種配合剤を配合することができる。これらの配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0030】
ゴム組成物の製造方法において、加硫系配合剤を除く配合剤並びにゴム成分およびメラノイジンをバンバリーミキサー、ニーダー、オープンロールなどのゴム混練機を用いて混練した後、冷却してから加硫系配合剤を混合することにより未加硫のゴム組成物が調製される。得られた未加硫のゴム組成物を、空気入りタイヤ等のゴム製品或いはその部材の形状に合わせて押出し成形し、これを加硫機中で加硫成形することにより加硫したゴム製品が製造される。
【0031】
本発明の製造方法により得られたゴム組成物は、通常のゴム製品、特に空気入りタイヤやコンベアベルトを構成する部材として好適に使用することができる。
【0032】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
以下の実施例、比較例において、メラノイジン、その他の老化防止剤について、以下の方法により、化学構造、窒素含有率、加熱後重量および抗酸化力を測定した。
【0034】
化学構造の解析
メラノイジンの化学構造を、GC−MSを用い以下の方法により解析した。
ガスクロマトグラフ質量分析装置:ヒューレットパッカード、JEOL社製
カラム:アジレントテクノロジー社製DB−5
インジェクション温度:280℃、
初期温度:50℃×3分間保持
昇温速度:10℃/分
到達温度:320℃、320℃×15分間保持
【0035】
窒素含有率の測定
メラノイジン、その他の老化防止剤について、元素分析装置(PerkinElmer社製全自動元素分析装置(CHNS/O))を用いて元素分析を行い、窒素原子の含有率を測定した。
【0036】
加熱後質量%
メラノイジン、その他の老化防止剤について、以下の方法で加熱後質量%を測定した。メラノイジンおよび他の老化防止剤を秤量し、熱分析装置(TA instrumennt社製熱量計測測定装置)にかけ600℃(1時間保持)の加熱後質量%を以下の条件で測定した。
窒素流量:50ml/分
初期温度:50℃×3分間保持
昇温速度:10℃/分
到達温度および保持時間:600℃、600℃×1時間保持
【0037】
抗酸化力
メラノイジン、その他の老化防止剤の抗酸化力を、DPPH(安定ラジカル)法を用いて、以下の条件で測定した。
安定ラジカル1,1−Diphenyl−2−picrylhydrazyl(DPPH)は東京化成工業社製、6−Hydroxy−2,5,7,8−tetramethylchromane−2−carboxylic acid(Trolox)は東京化成工業社製を用いた。
試料溶液200μLに0.1M Tris−HCl緩衝液(pH7.4)800μL、50%エタノールで調整した0.2mM DPPH溶液 1mLを順次転化し、室温で暗所ににて30分間反応させた。その後、517nmの吸光度(As)を測定した。試料溶液のかわりに50%エタノールを添加した際の吸光度をコントロール(Ac)として、試料の阻害率(%)を以下の式で求めた。また、50%阻害を与える試料溶液の濃度をIC
50とした。標準物質として用いたTroloxも同様の方法でIC
50を求めた。
阻害率(%)=(Ac−As)/Ac ×100
100g換算でTrorolを基準として、耐酸化性を指数化した。
【0038】
実施例1〜3
<メラノイジンを合成する工程>
表1に示すメラノイジン1〜3を以下の合成方法により製造した。
表1に示す糖を25質量部、アミノ酸を25質量部を水50質量部に溶解させ混合溶液を調製した。この混合溶液を100℃で24時間攪拌することにより、メラノイジン1〜3を合成した。得られたメラノイジン1〜3を乳鉢で数μ以下の粒径になるように粉砕し、GC−MSを用いて分析した結果、メラノイジン1〜3はいずれもピラジンおよびピロロピラジンの化学構造を有することが認められた。
図1(a)および
図2(a)はメラノイジン1をGC−MSで測定したチャートであり、
図1(b)および
図2(b)に示したピラジンおよびピロロピラジンの標準チャートとよく一致している。メラノイジン1〜3はいずれも水溶性であった。またメラノイジン1〜3の窒素含有率、加熱後重量を測定しその結果を表1に示した。さらにメラノイジン1〜3について、抗酸化力をDPPH(安定ラジカル法)で測定したところ、メラノイジン1,2および3の抗酸化力は、89000Trolox(mg/100g)、58000Trolox(mg/100g)および74000Trolox(mg/100g)であった。
【0039】
<ゴム成分およびメラノイジンを混合する工程>
表2に示す配合剤を共通配合とし、上述したメラノイジン1〜3を配合したゴム組成物について、硫黄および加硫促進剤を除く成分を、1.7Lの密閉式バンバリーミキサーを用いて6分間混合し、150℃でミキサーから放出後、室温まで冷却した。その後、再度1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーを用いて3分間混合し、放出後、オープンロールにて硫黄および加硫促進剤を混合することによりゴム組成物(実施例1〜3)を調製した。得られたゴム組成物を所定のモールドを用いて、160℃で30分間加硫して15cm×15cm×2mmの加硫ゴム試験片を作製した。得られた加硫ゴム試験片を使用し、熱老化処理の有無による引張り特性(100%引張応力)の変化を測定し、老化防止性能を評価した。
【0040】
老化防止性能(熱老化処理の有無による引張応力の変化率)
得られた加硫ゴム試験片を使用し、JIS K6251に準拠して、ダンベルJIS3号形試験片を作製し、熱老化処理(80℃、168時間)を行った試験片と測定環境に静置した試験片を準備した。得られた試験片を用い、室温(20℃)で500mm/分の引張り速度で引張り試験を行い、100%伸長時の100%引張応力を測定した。得られた結果から、熱老化処理を行っていない試験片の100%引張応力をT0、熱老化処理(80℃、168時間)を行った試験片の100%引張応力をT1とし、熱老化処理の有無による引張応力の変化率Δ=(T1−T0)/T0×100[%]を算出し、表1に示した。この引張応力の変化率Δが小さいほど、老化防止性能が優れることを意味する。
【0041】
比較例1〜5
比較例1のゴム組成物では老化防止剤を使用せず、比較例2〜5のゴム組成物は、表1に記載した老化防止剤を配合したことを除き、実施例1〜3と同様にしてゴム組成物を調製し、老化防止性能を評価した。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に記載された化合物は以下の通りである。
−メラノイジン1〜3:上記により合成されたもの
−キシロース:キシダ化学社製D(+)−キシロース
−グルコース:昭和産業社製無水結晶ぶどう糖
−アルギニン:東京化成工業社製L−アルギニン
−グリシン:昭和電工社製グリシン
−6PPD:N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-1,4-フェニレンジアミン、Solutia Euro社製Santoflex 6PPD
−ビタミンC:DSM社製ビタミンC(アスコルビン酸)
−MB:メルカプトベンゾイミダゾール、大内新興化学工業社製ノクラックMB
【0044】
【表2】
【0045】
表2に記載された原材料は以下の通りである。
−天然ゴム:TSR
−カーボンブラック:新日化カーボン社製ニテロン#10S
−メラノイジンまたは老化防止剤;表1記載のもの
−オイル:昭和シェル石油社製エクストラクト4号S
−酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
−ステアリン酸:日油社製ステアリン酸
−硫黄:軽井沢精錬所製油処理硫黄
−加硫促進剤:三新化学社製サンセラーCM−PO(CZ)
【0046】
表1から明らかなように、本発明の製造方法により得られた実施例1〜3のゴム組成物は、化石系資源から合成された老化防止剤(6PPDおよびMB)を配合した比較例2および4のゴム組成物、並びに天然資源(ビタミンCおよびキシロース)を配合した比較例3および5のゴム組成物に対し、同等以上の老化防止性能を有することが認められた。
【0047】
本発明で使用したメラノイジンは、天然物から極めて簡易的な方法により製造することが可能であり、耐酸化性試験で明らかなようにラジカル補足性能を有する。メラノイジンがゴムの老化で発生するラジカルと優先的に反応することで、硫黄架橋の変化を抑制するため、物性変化を小さく出来ると考えられる。