(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一組の交流入力線(W)から入力する交流電圧(Vr,Vs,Vt)を整流し、負荷(4)が両者間に接続される一対の直流母線(LH,LL)へと直流電圧(Vdc)を出力する整流回路(2)に対して、前記一組の交流入力線と前記一対の直流母線との間に並列に接続されるアクティブフィルタであって、
第1コンデンサ(C2)と、
前記第1コンデンサの一対の端のそれぞれを前記一対の直流母線のそれぞれと接続し、少なくともその一方が前記直流電圧に対して順方向となる向きで配置されるダイオード(D1)である、一対の電流制限素子(D1,D2,R2)と、
前記一組の交流入力線に接続された一組の交流側端子(51,52,53)と、前記第1コンデンサの両端に接続された一対の直流側端子(54,55)と、前記交流側端子の各々と前記直流側端子の各々とを接続するスイッチング素子の複数と、前記スイッチング素子の各々に逆並列に接続されたダイオードの複数とを有するインバータ(5)と、
前記第1コンデンサ(C2)と前記一対の電流制限素子(D1,D2,R2)との間に設けられ、前記直流電圧(Vdc)に対して逆方向となるクランプ用ダイオードの少なくとも一つ(D3)と、前記一対の電流制限素子の前記一方よりも前記第1コンデンサ側で前記クランプ用ダイオードを介して前記第1コンデンサと並列に接続されるクランプ用コンデンサ(C3)とを有するクランプ回路(8)と
を備え、
前記一対の電流制限素子は前記一対の直流母線の間で前記クランプ用コンデンサと直列に接続され、
前記一対の電流制限素子の前記一方(D1)は前記クランプ用ダイオードを介して前記第1コンデンサの一対の端の一方に接続される、アクティブフィルタ。
前記クランプ回路(8)は、前記第1コンデンサ(C2)の前記一対の端の間で前記クランプ用ダイオード(D3)及び前記クランプ用コンデンサ(C3)と直列に接続されて前記直流電圧(Vdc)に対して逆方向となる他のクランプ用ダイオード(D4)を更に有する、請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載のアクティブフィルタ。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系を示す回路図である。
【
図2】比較例となるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系を示す回路図である。
【
図3】比較例となるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図4】比較例となるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図5】第1の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図6】第1の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図7】第2の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系を示す回路図である。
【
図8】第2の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図9】第2の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図10】第3の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系を示す回路図である。
【
図11】第3の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図12】第3の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図13】第1変形例たるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系を示す回路図である。
【
図14】第2変形例たるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系を示す回路図である。
【
図15】第4の実施の形態にかかるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。
【
図16】第4の実施の形態に対する比較例となるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図17】第4の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図18】第3変形例たるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図19】第4変形例たるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。
【
図20】第4変形例たるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図21】第5の実施の形態にかかるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。
【
図22】第5の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図23】第5変形例たるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。
【
図24】第5変形例たるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図25】第5の実施の形態に対する比較例となるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図26】第
6の実施の形態にかかるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。
【
図27】第
6の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における等価回路を示す回路図である。
【
図28】第
6の実施の形態におけるコモンモード電圧を説明するグラフである。
【
図29】第
6の実施の形態におけるコモンモードノイズを説明するグラフである。
【
図30】第
6の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図31】第6の実施の形態にかかるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。
【
図32】第6の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における等価回路を示す回路図である。
【
図33】第6の実施の形態におけるコモンモードノイズを説明するグラフである。
【
図34】第6の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図35】第6変形例たるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。
【
図36】第7変形例たるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。
【
図37】第8変形例たるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。
【
図38】第9変形例たるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。
【
図39】第
7変形例にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図40】第
8変形例にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図41】第
9変形例にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【
図42】第10変形例たるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。
【
図43】第
10変形例にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
第1の実施の形態.
図1は第1の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系を示す回路図である。
【0025】
当該モータ駆動系では、整流回路2が三相交流の電圧Vr,Vs,Vtを整流し、一対の直流母線LH,LLへと直流電圧Vdcを出力する。一対の直流母線LH,LL間には負荷4が接続される。電圧Vr,Vs,Vtは、一組の交流入力線Wを介して交流電源1から与えられる。
【0026】
そして、当該アクティブフィルタは、一組の交流入力線Wと一対の直流母線LH,LLとの間で、整流回路2に対して並列に接続される、いわゆる並列形アクティブフィルタである。
【0027】
当該アクティブフィルタは、インバータ5と、コンデンサC2と、一対の電流制限素子とを備える。一対の電流制限素子の内のいずれか一方はダイオードであり、第1の実施の形態では一対の電流制限素子は一対のダイオードである場合を例示する。
【0028】
一対のダイオードはそれぞれダイオードD1,D2である。これらはいずれもコンデンサC2の一対の端のそれぞれを一対の直流母線LH,LLのそれぞれと接続する。そしてダイオードD1,D2のいずれも、直流電圧Vdcに対して順方向となる向きで配置される。
【0029】
具体的には、直流母線LHの電位は直流母線LLの電位よりも高い。ダイオードD1のアノードは直流母線LHに、ダイオードD2のカソードは直流母線LLに、それぞれ接続される。ダイオードD1のカソードはコンデンサC2の高電位側の端に、ダイオードD2のアノードはコンデンサC2の低電位側の端に、それぞれ接続される。
【0030】
インバータ5は一組の交流入力線Wに連系リアクトル6を介して接続された一組の交流側端子51,52,53と、コンデンサC2の両端に接続された一対の直流側端子54,55とを有する。更にインバータ5は、交流側端子51,52,53との各々と直流側端子54,55の各々とを接続するスイッチング素子を複数有する。
図1ではこれらのスイッチング素子をIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)として示した。インバータ5は更に、これらのスイッチング素子の各々に逆並列に接続されたダイオードの複数も有する。
【0031】
かかるインバータ5の構成及びその動作自体は公知であるので、ここではその詳細を省略する。
【0032】
整流回路2は、ダイオードブリッジ21と、ローパスフィルタ22とを有する。ローパスフィルタ22はダイオードブリッジ21と一対の直流母線LH,LLとの間に設けられる。ダイオードブリッジ21は一組の交流入力線Wとローパスフィルタ22との間に設けられる。
【0033】
ローパスフィルタ22は、インバータ5のスイッチングによる高調波成分を抑制する観点で設けられることが望ましい。但し、負荷4に起因する高調波電流をアクティブフィルタが補償する機能において必須では無い。
【0034】
ローパスフィルタ22は、直流母線LHとダイオードブリッジ21との間に設けられるリアクトルDCL1と、一対の直流母線LH,LLの間に設けられるコンデンサC1とを有している。リアクトルDCL1は、直流母線LLとダイオードブリッジ21との間に設けられてもよい。
【0035】
負荷4は直流負荷であるが、高調波電流が流れる。例えば負荷4はインバータ41とモータ42とを有する。インバータ41は直流電圧Vdcを交流電圧に変換してモータ42に供給する。モータ42は例えば冷媒を圧縮する圧縮機を駆動する交流モータである。
【0036】
第1の実施の形態にかかるアクティブフィルタの効果を説明するため、比較例を導入して説明する。
【0037】
図2は第1の実施の形態に対する比較例となるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系を示す回路図である。
図2に示されるアクティブフィルタは、
図1に示されるアクティブフィルタのダイオードD2を短絡除去した構造に相当する。
【0038】
即ち、当該比較例では、コンデンサC1,C2のそれぞれの低電位側の端は、直流母線LLに共通に接続されている。
【0039】
このため、第1の実施の形態にかかる構成では流れなかった直流母線LLから直流側端子55へ向かう電流が、比較例にかかる構成では流れることになる。以下、詳細を説明する。
【0040】
交流電源1から整流回路2を介して負荷4へ流れる電流I7、交流電源1から連系リアクトル6を介してアクティブフィルタ(より具体的にはインバータ5)へ流れる電流I5を導入すると、交流電源1から流れ出す電流I0(これは交流入力線Wに流れる電流でもある)は電流I7と電流I5との和となる。また、直流母線LHから直流側端子54に流れる電流I1、直流側端子54から直流母線LLに流れる電流I2を導入する。
【0041】
但し、第1の実施の形態にかかる構成ではI2≧0であるのに対し、比較例ではI2<0となり得る。
【0042】
以下、R相の電圧VrよりもS相の電圧Vsが高い場合を想定して説明する。
図2を参照して、電流I5のうち、S相からR相へと流れる成分は、インバータ5のS相に対応した上アーム側ダイオードDsuと、R相に対応して導通中の上アーム側スイッチング素子Qruを通って流れる。電流I7のうち、S相からR相へと流れる成分は、ダイオードブリッジ21のS相に対応した上アーム側ダイオードRsuと、リアクトルDCL1と、ダイオードD1とを流れる。そしてその一部はコンデンサC2に流れ、他の一部は上アーム側スイッチング素子Qruを通る。これらの電流についての説明は、第1の実施の形態にかかる構成でも、比較例にかかる構成でも同様である。
【0043】
さて比較例にかかる構成では上述のように電流I2は負となり得るので、直流母線LLからコンデンサC2を介して上アーム側スイッチング素子Qruに電流I2が流れ得る。これにより、コンデンサC2が保持する電圧Vdc2は、コンデンサC
1が保持する直流電圧Vdcとほぼ等しくなってしまう。コンデンサC2を充電する電流は、ほぼ電流I1,I2の和であるので、電流I2の値が小さいほど(負であればその絶対値が大きいほど)、コンデンサC2は充電されにくくなるからである。
【0044】
このように電圧Vdc2が直流電圧Vdcとほぼ等しくなっていると、高調波電流を補償するための電流I5を適切に流すことができない。これは特許文献3について既に指摘した問題点である。
【0045】
図3は、比較例となる構成における各部の電流、電圧を示すグラフである。第2段のグラフに示された電流I2の波形は、電流I2が負となる期間が長い。これにより第3段のグラフに示されるように、電圧Vdc2は直流電圧Vdcをわずかに越えるに留まっている。
【0046】
また、第1段のグラフで示されるように、電流I2が流れることにより電流I7も大きく乱れ、電流I5による高調波電流の補償は十分ではなく、結局、電流I0は正弦波から大きく外れた波形を呈することとなる。なお、電流I0,I5,I7の波形については、一つの相、例えばR相についての波形を示した。他図も同様である。
【0047】
電圧Vdc2を直流電圧Vdcよりも大きくする対策としては、コンデンサC1の静電容量を大きくし、直流電圧Vdcの脈動を抑制することが挙げられる。
【0048】
図4は、比較例となる構成における各部の電流、電圧を示すグラフである。但しコンデンサC1の静電容量は、
図3で示された場合(数十μF)と比較して、
図4で示された場合(数千μF)の方が大きく選定されている。
【0049】
図3と
図4とを比較してみれば、コンデンサC1の静電容量を大きくすることにより、電流I2が負となる期間が減ることがわかる。しかしながら、直流電圧Vdcと電圧Vdc2とが一致する期間は存在し、また直流電圧Vdcに対する電圧Vdc2の増分も不十分である。このため、電流I0の波形は、正弦波から大きく外れている。
【0050】
図5は第1の実施の形態にかかる構成における各部の電流、電圧を示すグラフである。但し、
図3で示された場合と、コンデンサC1の静電容量を揃えた。
【0051】
第2段、第3段のグラフを参照して理解されるように、電流I2は正であり、よってコンデンサC2を充電する電流は、比較例よりも第1の実施の形態にかかる構成の方が大きくなる。よって電圧Vdc2も直流電圧Vdcよりも顕著に高くなり、電流I5による電流I7の高調波成分の補償も十分に行える。これにより、電流I0の波形もほぼ正弦波状となっている。
【0052】
図6は第1の実施の形態にかかる構成における各部の電流、電圧を示すグラフである。但し、
図4で示された場合と、コンデンサC1の静電容量を揃えた。
【0053】
図5で示された場合と比較して、
図6で示された場合は、直流電圧Vdcの脈動を抑制することで、電圧Vdc2は更に増大している(
図5及び
図6のいずれでも直流電圧Vdcのピーク値は280V程度であるが、
図5では電圧Vdc2が320V程度であるのに対し、
図6では電圧Vdc2が340V程度である)。
【0054】
電流I7は、コンデンサC1の静電容量が大きい方(
図6)が乱れやすくなっているが、電流I5がこの乱れをよく補償しており、電流I0の波形もほぼ正弦波状となっている。
【0055】
以上のことから、第1の実施の形態による効果は、コンデンサC1の静電容量の大きさに拘わらず、発揮されることがわかる。つまり、直流電圧Vdcの脈動を平滑できる程度に大きな、例えば電解コンデンサをコンデンサC1に並列に接続することもできる。
【0056】
このように、第1の実施の形態によれば、アクティブフィルタが通常備えるコンデンサC2を、一対のダイオードD1,D2を介して一対の直流母線LH,LLに接続するという簡単な構成により、直流電圧Vdcよりも高い電圧Vdc2を得て、高調波電流の抑制を行うことができる。これは特許文献1に示されたような昇圧チョッパや、特許文献2に示されたような変圧器を必要としない点で、有利である。
【0057】
第2の実施の形態.
図7は第2の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系を示す回路図である。第2の実施の形態にかかるアクティブフィルタは、第1の実施の形態にかかるアクティブフィルタ(
図1参照)に対し、ダイオードD2を抵抗R2に置換して得られる。
【0058】
つまり、第2の実施の形態にかかるアクティブフィルタは、上述の一対の電流制限素子とを備える点で第1の実施の形態にかかるアクティブフィルタと共通するものの、一対の電流制限素子の内の一方がダイオードD1であり、他方は抵抗R2である点で相違する。
【0059】
抵抗R2は電流I2を制限し、電流I2の絶対値を小さくする。見方を変えれば、電流I2は抵抗R2において電圧降下を発生させる。よって電圧Vdc2を直流電圧Vdcよりも大きく保持することができる。
【0060】
図8は第2の実施の形態にかかる構成における各部の電流、電圧を示すグラフである。但し、
図3で示された場合と、コンデンサC1の静電容量を揃えた。
【0061】
第2の実施の形態の電流I2は、第1の実施の形態の電流I2とは異なり、また比較例の電流I2と類似して、負となる期間がある。しかし第2の実施の形態での電流I2の絶対値の最大値は、比較例の電流I2の絶対値の最大値の半分以下となっている。これにより、第2の実施の形態でも電圧Vdc2は310V程度が得られている。
【0062】
図9は第2の実施の形態にかかる構成における各部の電流、電圧を示すグラフである。但し、
図4で示された場合と、コンデンサC1の静電容量を揃えた。
【0063】
図8で示された場合と比較して、
図9で示された場合は、直流電圧Vdcの脈動を抑制することで、電圧Vdc2は更に増大している(図
8及び図
9のいずれでも直流電圧Vdcのピーク値は280V程度であるが、図
8では電圧Vdc2が310V程度であるのに対し、図
9では電圧Vdc2が310〜320V程度である)。
【0064】
電流I7は、コンデンサC1の静電容量が大きい方(
図9)が乱れやすくなっているが、電流I5がこの乱れをよく補償しており、電流I0の波形もほぼ正弦波状となっている。
【0065】
以上のことから、第2の実施の形態による効果は、コンデンサC1の静電容量の大きさに拘わらず、発揮されることがわかる。
【0066】
また、第2の実施の形態によれば、アクティブフィルタが通常備えるコンデンサC2を、少なくとも一つのダイオードD1と、電流制限素子たる抵抗R2を介して一対の直流母線LH,LLに接続するという簡単な構成により、第1の実施の形態による効果と同様の効果が得られる。
【0067】
第3の実施の形態.
図10は第3の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系を示す回路図である。第3の実施の形態にかかるアクティブフィルタは、第1の実施の形態にかかるアクティブフィルタ(
図1参照)に対し、ローパスフィルタ22においてリアクトルDCL2を追加して得られる。第1の実施の形態ではローパスフィルタ22は必須では無かったが、第3の実施の形態ではローパスフィルタ22は必須となる。
【0068】
第3の実施の形態にかかるローパスフィルタ22は、直流母線LHとダイオードブリッジ21との間に設けられるリアクトルDCL1と、直流母線LLとダイオードブリッジ21との間に設けられるリアクトルDCL2と、直流母線LH,LLの間に設けられるコンデンサC1とを有する、と把握される。
【0069】
ローパスフィルタ22では、ダイオードブリッジ21の出力側の一対の端子の間で、リアクトルDCL1,DCL2がコンデンサC1を挟んで直列に接続されている、と見ることもできる。
【0070】
図11は、第
3の実施の形態にかかる構成における各部の電流、電圧を示すグラフであって、
図5と同内容を示す。但し、
図5で示されたグラフのうち、電流I1,I2の縦軸を拡大して示すグラフである。
図11からは、電流I1,I2の波形が大きく異なっていることが理解される。これは、電流I1,I2が流れる経路における非平衡が原因である。そして当該非平衡を原因として、電流I0,I5,I7のいずれについても、電流I7が負となる区間において波形が太く示されている。この波形が太く見えているのは、ローパスフィルタ22が採用されているにもかかわらず、インバータ5のスイッチングを制御することに採用されるキャリア信号が重畳していることが現れている。
【0071】
以下、
図10を参照して、第3の実施の形態においてこの非平衡が低減される様子を説明する。
【0072】
Vr<Vsとなっているとき、電流I5のうちS相からR相へ向かう成分は二つの経路を有している。第1の経路は、インバータ5のS相に対応した上アーム側ダイオードDsu、R相に対応して導通中の上アーム側スイッチング素子Qruをこの順に通る経路である。第2の経路は電流I1として流れる経路であって、ダイオードブリッジ21のS相に対応した上アーム側ダイオードRsu、リアクトルDCL1、直流母線LH、ダイオードD1、上アーム側スイッチング素子Qruをこの順に通る経路である。
図1に示された第1の実施の形態にかかる構成でも第2の経路においてリアクトルDCL1が存在する。
【0073】
Vr>Vsとなっているとき、電流I5のうちR相からS相へ向かう成分は二つの経路を有している。第1の経路は、R相に対応して導通中の下アーム側スイッチング素子Qrd、インバータ5のS相に対応した下アーム側ダイオードDsdをこの順に通る経路である。第2の経路は電流I2として流れる経路であって、下アーム側スイッチング素子Qrd、ダイオードD2、直流母線LL、ダイオードブリッジ21のS相に対応した下アーム側ダイオードRsdを通る経路である。
図1に示された第1の実施の形態にかかる構成では第2の経路においてリアクトルDCL2はないが、
図10に示された第3の実施の形態にかかる構成では第2の経路においてリアクトルDCL2が存在する。
【0074】
このように第3の実施の形態では電流I1,I2が流れる経路においてそれぞれリアクトルDCL1,D
CL2が存在する。これにより、電流I1,I2の非平衡は緩和される。
【0075】
図12は第3の実施の形態にかかる構成における各部の電流、電圧を示すグラフであって、
図11と対応した内容を示す。
図11に示された場合と比較して、
図12に示された場合は、電流I1,I2の波形が類似しており、電流I0,I5,I7の波形でのキャリア信号の重畳が低減していることが見て取れる。
【0076】
このように第3の実施の形態では、ローパスフィルタ22の構成において、一対のリアクトルDCL1,DCL2がコンデンサC1を挟みつつ、これらの三者がダイオードブリッジ21の出力側において直列に接続されている。これにより電流I1,I2の非平衡が緩和され、以てインバータ5の制御に用いられるキャリア成分が電流I0において低減する。
【0077】
第1変形例.
図13は、第1変形例たるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系を示す回路図である。第1の実施の形態で示された構成(
図1参照)において、ダイオードD1を抵抗R1に置換した構成を有している。かかる構成は第2の実施の形態で示された構成(
図7参照)と同様にして、抵抗R1が電流制限素子として機能し、同様の効果を得ることができる。
【0078】
第2変形例.
図14は、第2変形例たるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系を示す回路図である。第3の実施の形態で示された構成(
図10参照)において、ダイオードD2を抵抗R2に置換した構成を有している。かかる構成によれば、第2の実施の形態で説明された内容に鑑みて、第3の実施の形態と同様の効果を得ることができる。但し、電流I1がダイオードD1を流れ、電流I2が抵抗R2を流れるので、電流I1,I2の非平衡が緩和される効果は、第3の実施の形態の方が期待される。
【0079】
このように、第1の実施の形態、第2の実施の形態、第3の実施の形態、あるいは変形は、互いにそれぞれの作用効果を滅却しない限りにおいて、相互に組み合わせて変形を
創出できる。
【0080】
第4の実施の形態.
図15は、第4の実施の形態にかかるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。第4の実施の形態にかかるアクティブフィルタは、第1の実施の形態にかかるアクティブフィルタ(
図1参照)に対し、クランプ回路8を追加して得られる。
【0081】
このようなクランプ回路8を設けることは、特にコンデンサC1,C2の静電容量を低減する場合に好適である。コンデンサC1の静電容量を小さくし、いわゆる電解コンデンサレスインバータ(例えば特許文献4、特許文献5を参照)が採用される場合、コンデンサC2の静電容量も小さくすることができる。コンデンサC1,C2の静電容量が低いと、整流回路2やインバータ5から出力されるサージ電流が直流電圧Vdcや電圧Vdc2(第1の実施の形態参照)に与える影響が大きい。そこでクランプ回路8を設けることによって、かかる影響を小さくする。
【0082】
換言すれば、クランプ回路8を設けることにより、コンデンサC1,C2の静電容量が低くても、それぞれの電圧たる直流電圧Vdc、電圧Vdc2の変動が抑制される。
【0083】
具体的には、第4の実施の形態においてクランプ回路8は、クランプ用ダイオードD3と、クランプ用コンデンサC3とを有する。クランプ用ダイオードD3は、コンデンサC2と電流制限素子たるダイオードD1との間に設けられ、直流電圧Vdcに対して逆方向となる。より具体的にはクランプ用ダイオードD3は、そのアノードがコンデンサC2に接続され、そのカソードがダイオードD1のカソードに接続される。
【0084】
一対の電流制限素子たるダイオードD1,D2は、直流母線LH,LLの間でクランプ用コンデンサC3と直列に接続される。ダイオードD1はクランプ用ダイオードD3を介してコンデンサC1の一端に接続される。よって具体的には、クランプ用コンデンサC3は、ダイオードD1のカソードと、ダイオードD2のアノードとの間に接続される。見方を変えれば、クランプ用コンデンサC3は、ダイオードD1よりもコンデンサC2側でクランプ用ダイオードD3を介してコンデンサC2と並列に接続される。
【0085】
図16は、第4の実施の形態に対する比較例となるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。具体的には、当該比較例は、
図15に示されたダイオードD2を短絡除去した構成を有する。つまり第4の実施の形態に対する当該比較例の関係は、第1の実施の形態に対する(第1の実施の形態における)比較例の関係と同じである。
【0086】
図17は、第4の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。
図16及び
図17において電流I0,I5,I7は第1の実施の形態で説明したものであり、
図1に図示される。
【0087】
図16と
図17を比較して明白なように、第4の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用された場合は、その比較例たるアクティブフィルタが採用された場合よりも、電圧Vdc2と直流電圧Vdcとの差が大きく、電流I0が正弦波に近い。
【0088】
つまり、クランプ回路8を設けた構成においても、第1の実施の形態と同様に、コンデンサC2を、一対のダイオードD1,D2を介して一対の直流母線LH,LLに接続するという簡単な構成により、直流電圧Vdcよりも高い電圧Vdc2を得て、高調波電流の抑制を行うことができる。
【0089】
図18は、第4の実施の形態の変形たる第3変形例のアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。第3変形例は第4の実施の形態に対し、ローパスフィルタ22として、第3の実施の形態で採用された構成、即ちダイオードブリッジ21の出力側の一対の端子の間で、リアクトルDCL1,DCL2がコンデンサC1を挟んで直列に接続されている構成を採用したものである。
【0090】
つまり、第4の実施の形態に対する第3変形例の関係は、第1の実施の形態に対する第3実施の形態の関係と同じである。
【0091】
図17に示された電流I0,I5,I7の波形は、電流I7が負となる区間において波形が太く示されている。この波形が太く見えているのは、第3の実施の形態で説明したように、第1の実施の形態ではローパスフィルタ22が採用されているにもかかわらず、インバータ5のスイッチングを制御することに採用されるキャリア信号が重畳していることが現れている。これは電流I1,I2が流れる経路における非平衡が原因である。
【0092】
よって第3の実施の形態と同様に、リアクトルDCL1,DCL2を採用することにより、
図18に示されるように電流I0,I5,I7の波形もそれぞれの平衡が反映されている。
【0093】
よって第3変形例でも第3の実施の形態と同様に、電流I1,I2の非平衡が緩和され、以てインバータ5の制御に用いられるキャリア成分が電流I0において低減する。
【0094】
図19は、第4の実施の形態の変形たる第4変形例のアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。第4変形例は第4の実施の形態に対し、電流制限素子としてダイオードD2に代えて抵抗R2を採用したものである。つまり、第4の実施の形態に対する第4変形例の関係は、第1の実施の形態に対する第2の実施の形態の関係と同じである。
【0095】
図20は第4変形例たるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。第2の実施の形態と同様に電流I2は負となる期間が多く存在するが、電圧Vdc2は直流電圧Vdcよりも明らかに高い。このようにして第4変形例でも第2の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0096】
第5の実施の形態.
図21は第5の実施の形態にかかるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。第5の実施の形態ではクランプ回路8が、第4の実施の形態で示されたクランプ回路8に対してクランプ用ダイオードD4が追加された構成を有している。
【0097】
具体的にはクランプ用ダイオードD4は、コンデンサC2の一対の端の間でクランプ用ダイオードD3及びクランプ用コンデンサC3と直列に接続される。クランプ用ダイオードD4は直流電圧Vdcに対して逆方向となる。更に具体的には、クランプ用ダイオードD4はそのアノードがダイオードD2のアノードに、そのカソードがコンデンサC2に、それぞれ接続される。
【0098】
インバータ5から直流母線LH,LL側を見て、クランプ用ダイオードD4とダイオードD2とは直列に接続され、かつそれらの順方向は相互に逆向きとなって配置されている。従ってダイオードD1,D2及びクランプ用ダイオードD3,D4を流れる電流は必ずクランプ用コンデンサC3を充電することになる。よってクランプ用ダイオードD3に要求される電流容量は、クランプ用ダイオードD4を設けることにより小さくすることができる。しかもクランプ用ダイオードD4に要求される電流容量も、クランプ用ダイオードD3に要求される電流容量と同程度で足りる。従ってまた、ダイオードD1,D2に要求される電流容量も低減することができる。
【0099】
図22は、第5の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。第5の実施の形態における電流I1,I2は、第4の実施の形態における電流I1,I2(
図17参照)よりも小さい。これは上述のダイオードD1,D2及びクランプ用ダイオードD3,D4に要求される電流容量の低減を根拠づけるものとなっている。
【0100】
しかも本実施の形態では電流I1,I2の平衡も改善されるので、電流I0,I5,I7におけるキャリア成分は、第4の実施の形態と比較して低減される。
【0101】
図23は第5変形例たるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。第5変形例は第5の実施の形態に対し、電流制限素子としてダイオードD2に代えて抵抗R2を採用したものである。つまり、第5の実施の形態に対する第5変形例の関係は、第1の実施の形態に対する第2の実施の形態の関係と同じである。
【0102】
図24は第5変形例たるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。第2の実施の形態と同様に電流I2は負となる期間が多く存在するが、電圧Vdc2は直流電圧Vdcよりも明らかに高い。このようにして第5変形例でも第2の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0103】
なお、第5変形例においてはダイオードD2の逆方向電流ほどにはキャリア成分を阻止できない。よって電流I0における波形の改善度は、クランプ用ダイオードD4が無い場合(第4変形例:
図20参照)と同程度である。換言すれば、電流制限素子としてダイオードD2ではなく抵抗R2を採用した場合には、クランプ用ダイオードD4の有無は効果に与える影響が小さいといえる。
【0104】
図25は、第5実施の形態に対する比較例となるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。具体的には、当該比較例は、
図21に示されたダイオードD2を短絡除去した構成を有する。つまり第5の実施の形態に対する当該比較例の関係は、第1の実施の形態に対する(第1の実施の形態における)比較例の関係と同じである。
【0105】
図22及び
図24と、
図25の比較から、電流制限素子たるダイオードD2あるいは抵抗R2が果たす、電流I0,I5,I7の波形を改善する機能が看取できる。
【0106】
第6の実施の形態.
図26は第
6の実施の形態にかかるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。但し、第6の実施の形態の説明に用いるため、ダイオードブリッジ21が出力する電圧Vdb、クランプ用コンデンサC3に流れる電流I8、クランプ用ダイオードD3,D4にそれぞれ(順方向電流として)流れる電流I3,I4、及びクランプ用コンデンサ
C3に掛る電圧VC3を更に導入している。ここで電圧Vdbは直流母線LLを基準とし、電流I8はダイオードD1及びクランプ用ダイオードD3からダイオードD2及びクランプ用ダイオードD4へと向かう方向を正の方向とし、電圧VC3はダイオードD2とクランプ用ダイオードD4との接続点を基準とした。
【0107】
図27は、第
6の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における等価回路を示す回路図である。但しこの等価回路ではコモンモード電圧に着目して示している。
【0108】
具体的には、ダイオードブリッジ21は電圧Vdbのコモンモード電圧Vdbcを発生し、インバータ5は電圧Vdc2のコモンモード電圧Vfcを発生する。電圧Vdb,VC3の基準を上述の様に採用したことにより、
図27に矢印で示される方向が正の電圧の方向となる。
【0109】
図1を参照して、交流電源1から得られる電圧Vr,Vs,Vtが三相交流
電圧を成すので、コモンモード電圧Vdbcは式(1)で求められる。
【0110】
Vdbc=(Vr+Vs+Vt)/3…(1)
【0111】
また、直流側端子55を基準とした交流側端子51,52,53のそれぞれの電圧Vu,Vv,Vwを導入すると、コモンモード電圧Vfcは式(2)で求められる。
【0112】
Vfc=(Vu+Vv+Vw)/3…(2)
【0113】
図28はコモンモード電圧Vfcを説明するグラフである。インバータ5のスイッチング動作はキャリアCWと信号波Vu*,Vv*,Vw*との比較によって決定される。信号波Vu*,Vv*,Vw*は電圧Vu,Vv,Vwの指令値に対応する。簡単に説明すると、キャリアCWが信号波Vu*以上の値を採る場合に電圧Vuは電圧Vdc2と一致し、それ以外の場合には電圧Vuは0となる。電圧Vv,Vwについても同様である。このような技術は当業者に周知であるので、ここではその詳細を省略する。
【0114】
このようにして電圧Vu,Vv,Vwが決定されるので、コモンモード電圧Vfcは電圧Vdc2の0倍、1/3倍、2/3倍、1倍の4種の値を採るステップ状の波形を呈する。当該波形の基本周波数はキャリアCWの周波数と一致する。
【0115】
ここで、信号波Vu*,Vv*,Vw*を式(3)で表す。但し変調率K及び信号波Vu*,Vv*,Vw*の周期についての位相αを導入した。
【0116】
Vu=K・sin(α),Vv=K・sin(α-2π/3),Vw=K・sin(α+2π/3)…(3)
【0117】
これにより、電圧Vuが電圧Vdc2を採る時間の半値a、電圧Vvが電圧Vdc2を採る時間の半値b、電圧Vwが電圧Vdc2を採る時間の半値cは式(4)で表される。但しキャリアCWの周期Tswを導入した。
【0118】
a=(Tsw/2)/(1/2−K・sin(α)),b=(Tsw/2)/(1/2−K・sin(α-2π/3)),c=(Tsw/2)/(1/2−K・sin(α+2π/3))…(4)
【0119】
図29は、第
6実施の形態におけるコモンモードノイズを説明するグラフである。ここでは電圧Vr,Vs,Vtの実効値が400Vである場合を例示した。直流電圧Vdcはローパスフィルタ22の作用によって平滑された波形を呈している。他方、コモンモード電圧Vdbcは200V近傍で細かな変動を呈している。なお、ダイオードブリッジ21では直列に接続された上アーム側ダイオードと下アーム側ダイオードのいずれか一方が導通するので、コモンモード電圧Vdbcは直流電圧Vdcの1/3程度となる。
【0120】
電圧Vdc2はコモンモード電圧Vfcの上限を結ぶ包絡線を呈する。コモンモード電圧Vcomはコモンモード電圧Vdbc,Vfcの和であり、
図27から理解されるように、電圧VC3のコモンモード電圧に相当する。よって電圧Vdc2のコモンモード電圧Vfcに対する振る舞いと同様に、電圧VC3もコモンモード電圧Vcomのほぼ上限を結ぶ包絡線を呈する。但し電圧VC3は電圧Vdc2よりもVdc/3程度高い。
【0121】
コモンモード電圧Vcomに由来して、電圧VC3は電圧Vdc2と比較して高くなり、電流I8も大きい。これはクランプ用コンデンサC3に対して大きな電力容量を要求することとなり、クランプ回路8の、ひいてはアクティブフィルタ全体を小型に、かつ安価に構成することを阻む。
【0122】
なお、より巨視的な時間軸で見た諸量を
図30に示す。ここには第5実施の形態で既に説明された電流I0,I1,I2,I5,I7並びに直流電圧Vdc及び電圧Vdc2の他、電流I3,I4及び電圧VC3をも示した。但し
図30のグラフでは、
図22のグラフとは、直流電圧Vdcが異なった設定を採用しているので、波形がやや異なっている。
【0123】
図31は、第6の実施の形態にかかるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。
図31に示された構成は、
図26に示された(第5の実施の形態にかかる)構成に対し、コモンモードチョーク
L9を追加した点で異なっている。
【0124】
コモンモードチョークL9は、同極性で誘導結合するリアクトルL91,L92を有している。リアクトルL91は直流母線LHとコンデンサC2の端の一方(高電位端)との間でダイオードD1と直列に接続される。リアクトルL92は直流母線LLとコンデンサC2の端の他方(低電位端)との間でダイオードD2と直列に接続される。また、リアクトルL91,L92のいずれもが、クランプ用コンデンサC3に対してコンデンサC2側にあるか、コンデンサC2と反対側にある。
【0125】
図31においては、リアクトルL91がクランプ用ダイオードD3とコンデンサC2の高電位端との間に接続され、リアクトルL92がクランプ用ダイオードD4とコンデンサC2の低電位端との間に接続される場合が例示される。よってリアクトルL91,L92のいずれもが、クランプ用コンデンサC3に対してコンデンサC2と反対側にある。
【0126】
図32は第6の実施の形態にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における等価回路を示す回路図である。
図32は
図27と同様に、コモンモード電圧に着目した等価回路を示している。
【0127】
この等価回路においてコモンモードチョークL9はインバータ5とクランプ用コンデンサC3との間に配置され、電圧VC3と同じ方向に電圧V9が発生する。これにより、コモンモード電圧Vcomは打ち消される。また電流I5,I7に流れるコモンモード電流もキャンセルされ、電流I8も小さくなる。
【0128】
図33は第6の実施の形態におけるコモンモードノイズを説明するグラフであり、
図29と同じ諸量を示す。電流I8は小さくなり、電圧VC3は電圧Vdc2程度となることが分かる。よってクランプ用コンデンサC3に対して要求される電力容量が低減する。
【0129】
図34はより巨視的な時間軸で見た諸量を示し、
図30と同じ諸量を示す。電圧VC3は電圧Vdc2程度となるのみならず、電流I1,I2,I3,I4も小さくなることが看取される。これはダイオードD1,D2やクランプ用ダイオードD3,D4に要求される電力容量を小さくできる観点で有利である。
【0130】
コモンモードチョークL9におけるコイルの巻数Nを導入すると、コモンモードチョークL9に流れる磁束Φcmcは式(5)で表される。但し記号∫と記号dtとは、これら二者によって挟まれた量の時間積分を示す。
【0131】
Φcmc=(1/N)・∫V9・dt…(5)
【0132】
コモンモード電圧Vfcが全てコモンモードチョークL9に印加された場合、そのピーク値Φpeakを検討する。但し簡単のため、
図28に示されたようにc<a<b(<Tsw/2)の場合について説明する。これは-π/6<α<π/6の場合に相当する。この場合、
図28を参照して、ピーク値Φpeakは式(6)で求められる。インバータ5が三相正弦波変調で動作する場合、磁束Φcmcは位相αについてπ/6を周期とする周期関数となる。
図28には磁束Φcmcも併記した。
【0133】
Φpeak=(1/N)・[(Vdc2/2)(c-0)+(Vdc2/3)(a-c)]=(Vdc2/N)・(c/6+a/3)…(6)
【0134】
ピーク値Φpeakが最大となるのは変調率Kが0となるときであって、インバータ5の上アーム側スイッチング素子が全てオンとなって下アーム側スイッチング素子が全てオフとなる場合、もしくは、上アーム側スイッチング素子が全てオフとなって下アーム側スイッチング素子が全てオンとなる場合である。このときにはa=b=c=Tsw/4であり、ピーク値Φpeakは式(7)で表される。
【0135】
Φpeak=(1/N)・(Vdc2/2)・(Tsw/4)=(Vdc2・Tsw)/(8・N)…(7)
【0136】
コモンモードチョークL9がコアを有しているとき、そのコアの飽和磁束が式(7)で示されるピーク値Φpeakよりも大きく選定されることが望まれる。つまり当該コアは、電圧Vdc2が高いほど、キャリアCWの周波数が高い(これはインバータ5のスイッチング周波数が高いことに繋がる)ほど、コモンモードチョークL9のコアに要求される飽和磁束も高まる。
【0137】
図35は第6変形例たるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。第6変形例は第6の実施の形態に対し、クランプ回路8に対するコモンモードチョークL9の位置が異なっている。
【0138】
具体的には、第6変形例におけるコモンモードチョークL9も、同極性で誘導結合するリアクトルL91,L92を有している。そしてリアクトルL91は直流母線LHとコンデンサC2の高電位端との間でダイオードD1と直列に接続され、リアクトルL92は直流母線LLとコンデンサC2の低電位端との間でダイオードD2と直列に接続される。但しリアクトルL91は、クランプ用コンデンサC3よりもコンデンサC2から遠い側で、クランプ用ダイオードD3とダイオードD1との間に設けられる。またリアクトルL92は、クランプ用コンデンサC3よりもコンデンサC2から遠い側で、クランプ用ダイオードD4とダイオードD2との間に設けられる。よってリアクトルL91,L92のいずれもが、クランプ用コンデンサC3に対してコンデンサC2と反対側にある。
【0139】
このような構成においてもコモンモードチョークL9が第6の実施の形態と同様に機能し、同様の作用効果を果たすことは明らかである。その理由は:第6変形例の等価回路は、
図32に示された等価回路においてクランプ用コンデンサC3の位置とコモンモードチョークL9の位置を入れ替えたものであること;クランプ用コンデンサC3とコモンモードチョークL9とは互いに直列接続された関係にあること;直列接続された二つの素子を入れ替えてもその直列接続された構成が当該直列接続の外部に対して果たす作用効果は異ならないこと;である。
【0140】
図36、
図37、
図38は、それぞれ第7変形例、第8変形例、第9変形例たるアクティブフィルタの構成を部分的に示す回路図である。第7乃至第9変形例は第6の実施の形態に対し、クランプ回路8に対するコモンモードチョークL9の位置が異なっている。
【0141】
具体的には、第7乃至第9変形例におけるコモンモードチョークL9も、同極性で誘導結合するリアクトルL91,L92を有している。そしてリアクトルL91は直流母線LHとコンデンサC2の高電位端との間でダイオードD1と直列に接続され、リアクトルL92は直流母線LLとコンデンサC2の低電位端との間でダイオードD2と直列に接続される。
【0142】
但し第7変形例では、リアクトルL91は、クランプ用コンデンサC3よりもコンデンサC2に近い側で、クランプ用ダイオードD3とダイオードD1との間に設けられる。またリアクトルL92は、クランプ用コンデンサC3よりもコンデンサC2に近い側で、クランプ用ダイオードD4とダイオードD2との間に設けられる。よってリアクトルL91,L92のいずれもが、クランプ用コンデンサC3に対してコンデンサC2側にある。
【0143】
第8変形例では、リアクトルL91は、直流母線LHとダイオードD1との間に設けられる。またリアクトルL92は直流母線LLとダイオードD2との間に設けられる。よってリアクトルL91,L92のいずれもが、クランプ用コンデンサC3に対してコンデンサC2と反対側にある。
【0144】
第9変形例では、リアクトルL91は、クランプ用コンデンサC3よりもコンデンサC2から遠い側で、クランプ用ダイオードD3とダイオードD1との間に設けられる。またリアクトルL92は、直流母線LLとダイオードD2との間に設けられる。よってリアクトルL91,L92のいずれもが、クランプ用コンデンサC3に対してコンデンサC2と反対側にある。
【0145】
あるいはリアクトルL91が直流母線LHとダイオードD1との間に設けられ、リアクトルL92がクランプ用コンデンサC3よりもコンデンサC2から遠い側で、クランプ用ダイオードD4とダイオードD2との間に設けられてもよい。
【0146】
図39、
図40、
図41は、それぞれ第7変形例、第8変形例、第9変形例にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を示すグラフである。具体的には電流I0,I8及び電圧Vdc,Vdc2,VC3を示す。これらの変形例においても第6の実施の形態(
図34参照)と同様に、電圧VC3は電圧Vdc2程度に抑えられている。
【0147】
第6実施の形態及び第6乃至第9変形例では、第5の実施の形態に対してコモンモードチョークL9を追加した構成が示された。しかしコモンモードチョークL9を第4の実施の形態に対して追加してもよい。換言すれば、第6実施の形態及び第6乃至第9変形例からクランプ用ダイオードD4を省略してもよい。
【0148】
図42は、第6変形例においてクランプ用ダイオードD4を短絡除去して得られる、第10変形例の構成を部分的に示す回路図である。
図43は第10変形例にかかるアクティブフィルタが採用されたモータ駆動系における各部の電流、電圧を、具体的には電流I0,I8及び電圧Vdc,Vdc2,VC3を示すグラフである。
【0149】
第10変形例において、クランプ用ダイオードD4がないために電流I8が高くなる時間領域があるものの、第6変形例と同様に電圧VC3を電圧Vdc2程度に抑える効果が得られる。
【0150】
なるほど、コモンモード電圧を低減するためには、例えば電流I5が流れる三相の経路、あるいは電流I7が流れる三相の経路において、三相のコモンモードチョークを設けることも考えられる。
【0151】
しかしながらそのような場合と比較して、第6の実施の形態あるいは第6変形例では電流容量が小さい単相のコモンモードチョークL9で足りる。これは、アクティブフィルタ全体の、ひいては当該アクティブフィルタを採用するモータ駆動系を小型に、かつ安価に構成できる観点で有利である。
【0152】
なお、第6の実施の形態及び第6乃至第10変形例ではダイオードD2を採用しているが、第5変形例の第5の実施の形態に対する変形と同様に、これに代えて抵抗R2を採用してもよい。
【0153】
上述の第5の実施の形態、第6の実施の形態及び第6乃至第10変形例のいずれにおいても、電流I8が急峻に変動しないように、クランプ用コンデンサC3に対して直列に抵抗を接続してもよい。
【0154】
上述のアクティブフィルタと整流回路2を含めた構成を、交直変換装置として把握することができる。