(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するものであり、有機高分子材料に無機微粒子を分散させた多孔質絶縁層(セラミックパレータ)を備えた非水電解質電池であって、短絡不良の発生を抑制しつつ、低抵抗を実現することが可能な非水電解質電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の非水電解質電池は、
正極と、
負極と、
イオン伝導性非水電解質と、
前記正極および前記負極のうち少なくとも一方の表面に形成され、絶縁性の無機微粒子と結着剤とを含む材料からなり、前記正極と前記負極の間に介在するように配設された多孔質絶縁層と
を備えた非水電解質電池であって、
前記多孔質絶縁層の、前記正極または前記負極の表面と接する接合面とは逆側の、前記多孔質絶縁層の外表面およびその近傍領域のPVCが、該多孔質絶縁層を構成する他の領域のPVCよりも低
く、かつ、
前記多孔質絶縁層の、前記近傍領域と前記他の領域に含まれる前記結着剤が、同一の結着剤であること
を特徴としている。
【0011】
本発明の非水電解質電池において、「多孔質絶縁層の外表面およびその近傍領域のPVCが、該多孔質絶縁層を構成する他の領域のPVCよりも低い」とは、多孔質絶縁層のPVCが、接合面側から表面側に向かって、連続的に低くなっている状態や、段階的に低下している状態、あるいは、多孔質絶縁層が複数の層から形成されていて、最も表面側の層のPVCが、他の層のPVCよりも低い場合などを含む概念である(但し、最も表面側の層のPVCが0%の場合を除く。)。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の他の非水電解質電池は、
正極と、
負極と、
イオン伝導性非水電解質と、
前記正極および前記負極のうち少なくとも一方の表面に形成され、絶縁性の無機微粒子と結着剤とを含む材料からなり、前記正極と前記負極の間に介在するように配設された多孔質絶縁層と
を備えた非水電解質電池であって、
前記多孔質絶縁層が複数の層からなり、かつ、
前記多孔質絶縁層を構成する前記複数の層のうち、前記正極または前記負極の表面と接する接合層とは逆側の、前記多孔質絶縁層の最も外側に位置する表面層のPVCが、該多孔質絶縁層を構成する他の層のPVCよりも低
く、かつ、
前記多孔質絶縁層を構成する、前記表面層と前記他の層
に含まれる前記結着剤が、同一の結着剤であること
を特徴としている。
【0013】
また、本発明の非水電解質電池においては、前記多孔質絶縁層の前記外表面または前記表面層の外表面から、前記多孔質絶縁層の全膜厚の10%までの深さの領域におけるPVCの平均値が70%以下、40%以上であることが好ましい。
【0014】
上記構成とした場合、より確実に短絡不良の発生を抑制しつつ、低抵抗を実現することが可能になる。ただし前記多孔質絶縁層の前記外表面または前記表面層のPVCが40%未満の場合、抵抗増大が大きくなり十分な効果が得られなくなる。
【0015】
また、前記多孔質絶縁層の前記接合面または前記接合層の前記正極または前記負極の表面と接する接合層の接合面から、該多孔質絶縁層の全膜厚の50%までの深さの領域におけるPVCの平均値が70%以上、95%未満であることが好ましい。
【0016】
上記構成とすることにより、さらに確実に短絡不良の発生を抑制しつつ、低抵抗を実現することが可能になる。ただし接合面側のPVCが95%以上となると、微弱な力でも割れなどの欠陥が生じ、短絡を十分に抑制することができなくなり好ましくない。
【0017】
また、本発明の非水電解質電池においては、前記多孔質絶縁層を構成する前記表面層のPVCが70%以下、40%以上であることが好ましい。
【0018】
上記構成とすることにより、さらに確実に短絡不良の発生を抑制しつつ、低抵抗を実現することが可能になる。ただし前記多孔質絶縁層を構成する前記表面層のPVCが40%未満の場合、抵抗増大が大きくなり十分な効果が得られなくなる。
【0019】
また、前記多孔質絶縁層を構成する前記接合層のPVCが70%以上、90%以下であることが好ましい。
【0020】
上記構成とすることにより、確実に短絡不良の発生を抑制しつつ、低抵抗を実現することが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。ただし前記多孔質絶縁層を構成する前記接合層のPVCが95%以上となると、微弱な力でも割れなどの欠陥が生じ、短絡を十分に抑制することができなくなり好ましくない。
【0021】
また、本発明の非水電解質電池の製造方法は、
正極と、
負極と、
イオン伝導性非水電解質と、
前記正極および前記負極のうち少なくとも一方の表面に形成され、絶縁性の無機微粒子と結着剤とを含む材料からなり、前記正極と前記負極の間に介在するように配設された多孔質絶縁層と
を備えた非水電解質電池の製造方法であって、
前記多孔質絶縁層を形成する工程は、
前記正極および前記負極のうち少なくとも一方に、多孔質絶縁層を構成する第1の多孔質絶縁層を形成する第1の工程と、
前記第1の多孔質絶縁層上に、第1の多孔質絶縁層よりもPVCの低い第2の多孔質絶縁層を形成する第2の工程と
を備え
、かつ、
前記第1の多孔質絶縁層と前記第2の多孔質絶縁層に含まれる前記結着剤が、同一の結着剤であること
を特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の非水電解質電池は、上述のように、正極と、負極と、イオン伝導性非水電解質と、正極および負極のうち少なくとも一方の表面に形成され、絶縁性の無機微粒子と結着剤とを含む材料からなり、正極と負極の間に介在するように配設された多孔質絶縁層(セラミックセパレータ)とを備えた非水電解質電池において、多孔質絶縁層の、正極または負極の表面と接する接合面とは逆側の、多孔質絶縁層の外表面およびその近傍領域のPVCが、該多孔質絶縁層を構成する他の領域のPVCよりも低く
、かつ、多孔質絶縁層の、近傍領域と他の領域に含まれる結着剤が、同一の結着剤となるようにしているので、PVCの低い上記外表面およびその近傍領域により短絡が抑制され、かつ、外表面およびその近傍領域以外の、PVCが外表面およびその表面近傍領域より高い領域によって低抵抗が実現される。
その結果、短絡の抑制と、抵抗の低減とを同時に実現することが可能な非水電解質電池を提供することが可能になる。
【0023】
また、本発明の他の非水電解質電池は、上述のように、正極と、負極と、イオン伝導性非水電解質と、正極および負極のうち少なくとも一方の表面に形成され、絶縁性の無機微粒子と結着剤とを含む材料からなり、正極と負極の間に介在するように配設された多孔質絶縁層(セラミックセパレータ)とを備えた非水電解質電池において、多孔質絶縁層を複数の層からなる構成とし、かつ、多孔質絶縁層を構成する複数の層のうち、正極または負極の表面と接する接合層とは逆側の、多孔質絶縁層の最も外側に位置する表面層のPVCが、該多孔質絶縁層を構成する他の層のPVCよりも低く
、かつ、多孔質絶縁層を構成する、表面層と他の層
に含まれる結着剤が、同一の結着剤であるようにしているので、PVCの低い上記表面層により短絡が抑制され、かつ、表面層以外の、PVCが表面近傍領域より高い層によって低抵抗が実現される。
その結果、短絡の抑制と、抵抗の低減とを同時に実現することが可能な非水電解質電池を提供することが可能になる。
【0024】
また、本発明の非水電解質電池の製造方法は、正極と、負極と、イオン伝導性非水電解質と、正極および負極のうち少なくとも一方の表面に形成され、絶縁性の無機微粒子と結着剤とを含む材料からなり、正極と負極の間に介在するように配設された複数の層からなる多孔質絶縁層とを備えた非水電解質電池を製造するにあたって、複数の層を積層することにより多孔質絶縁層を形成するとともに、正極または負極のうち少なくとも一方に、多孔質絶縁層を構成する第1の多孔質絶縁層を形成する第1の工程と、第1の多孔質絶縁層上に、第1の多孔質絶縁層よりもPVCの低い第2の多孔質絶縁層を形成する第2の工程とを備え
、かつ、 第1の多孔質絶縁層と第2の多孔質絶縁層に含まれる結着剤が、同一の結着剤であるようにしているので、短絡不良の発生を抑制しつつ、低抵抗を実現することが可能な非水電解質電池を確実に得ることができる。
【0025】
なお、本発明の非水電解質電池の製造方法において、第1の多孔質絶縁層は、単層構造を有していてもよく、また、複数層構造を有していてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1(a),(b)は、本発明の一実施形態(実施形態1)にかかる非水電解質電池の要部構成(電池素子の構成)を示す図であり、(a)は正極と負極を分離して示す図、(b)は正極と負極が、多孔質絶縁層を介して接合された状態を示す図である。
【0028】
この非水電解質電池の構成する電池素子10は、正極集電箔1a上に正極活物質1bを塗布してなる正極1と、負極集電箔2a上に、負極活物質2bを塗布してなる負極2と、正極1および負極2のうち少なくとも一方の表面(この実施形態では負極2の表面)に形成された多孔質絶縁層3とを備えている。
多孔質絶縁層3は、絶縁性の無機微粒子と結着剤とを含む材料からなり、正極1と負極2の間に介在するように配設されている。
【0029】
また、多孔質絶縁層3は、負極2の表面に形成されたPVCの高い材料からなる第1の多孔質絶縁層13と、第1の多孔質絶縁層13上に形成された第1の多孔質絶縁層13よりもPVCの低い第2の多孔質絶縁層23を備えている。
【0030】
ところで、多孔質絶縁層(セラミックセパレータ)3の低抵抗化を図るには、PVCを高くすることが有効である。これは、PVCが高くなるほど、空隙が増えて、電解液を含浸しやすくなること、および、充放電反応時に移動するイオンの経路に障害となるものが減少することによる。
【0031】
一方、PVCが高くなるほど、無機微粒子を保持するバインダ(結着剤)の割合が低下するため、無機微粒子は脱落しやすくなり、短絡不良を引き起こしやすくなる。また、PVCが高くなると、外力によって容易に多孔質絶縁層にひびや割れなどの欠陥が生じ、下地となる電極が露出して、露出箇所が他方の電極に接触することからも、短絡不良を引き起こしやすくなる。そして、このような多孔質絶縁層の欠陥は、製造プロセスでも生じうるし、電池としての使用中にも起こりうる。使用時、特に満充電状態での短絡は、発熱や発煙、発火などにつながり危険である。
【0032】
上述のように、低抵抗にすることと、短絡しにくくすることとはトレードオフの関係にあり、短絡を防止しつつ、セラミックセパレータの抵抗を低下させるには限界がある。
【0033】
これに対し、本発明の非水電解質電池においては、多孔質絶縁層3を構成する複数の層(この実施形態では2つの層)のうち、負極2の表面と接する接合層(第1の多孔質絶縁層)13とは逆側の、多孔質絶縁層3の最も外側に位置する表面層(第2の多孔質絶縁層)23のPVCを、多孔質絶縁層を構成する他の層(この実施形態では接合層13)のPVCよりも低くするようにしている。すなわち、本発明では、上記表面層23のPVCを、多孔質絶縁層3を構成する層のうちで最も低くするようにしている。
【0034】
その結果、PVCの低い表面層23により短絡が抑制され、かつ、表面層23以外の、PVCが高い層(接合層)13によって低抵抗が実現され、低抵抗と短絡の抑制を両立させることができるようになる。
【0035】
具体的には、多孔質絶縁層3の外表面(すなわち、表面層23の外表面)から、多孔質絶縁層3の全膜厚の10%までの深さの領域(例えば、多孔質絶縁層の全膜厚が15μmである場合には表面層23の外表面から1.5μmの領域)における顔料体積濃度PVCの平均値が70%以下、40%以上であることが望ましい。
【0036】
また、本発明では、上述のように、多孔質絶縁層3を構成する表面層23のPVCを下げて、多孔質絶縁層3の外表面の強度を向上させているため、表面層23より下側の層(この実施例では接合層13)では、低抵抗化の実現のためにPVCを高くすることが可能になる。ただし前記多孔質絶縁層の前記外表面または前記表面層のPVCが40%未満の場合、抵抗増大が大きくなり十分な効果が得られなくなる。
【0037】
例えば、負極2の表面に第1の多孔質絶縁層(接合層)13と、その上に形成された第2の多孔質絶縁層(表面層)23の2層からなる、全膜厚が15μmの多孔質絶縁層3を形成した場合、PVCの高い層である接合層13の厚みを13μmとし、PVCの低い層である表面層23の厚みを2μmとすることで、十分な短絡抑制効果を得ることができる。
【0038】
また、PVCの低い表面層(第2の多孔質絶縁層)23の厚みを薄くするほど、相対的に、PVCの高い接合層(第1の多孔質絶縁層)の割合が増加し、多孔質絶縁層全体でのPVCを高くすることが可能になり、より低抵抗化を図ることができる。
【0039】
また、本発明の非水電解質電池に用いられる多孔質絶縁層は、例えば、電極(正極あるいは負極)上に多孔質絶縁層形成用に調製したスラリーを塗工する方法などにより、容易に得ることができる。
【0040】
この場合、例えば2層構造の多孔質絶縁層は、電極(正極あるいは負極)上に下層用の多孔質絶縁層用スラリーを塗工、乾燥して下層側の多孔質絶縁層(接合層)を形成した後、下層側の多孔質絶縁層上に表面層用の多孔質絶縁層形成用スラリーを塗工、乾燥して表面側の多孔質絶縁層(表面層)を形成することにより作製することができる。
【0041】
そして、このような製造方法で製造した場合、下層側の多孔質絶縁層(接合層)にピンホールなどの塗膜欠陥が生じた場合にも、表面層の多孔質絶縁層を形成する際に、接合層の塗膜欠陥が補修されるので、全体としての多孔質絶縁層に問題となるような欠陥がないようにすることができる。その結果、より確実に短絡不良の発生を抑制することが可能になる。
【0042】
なお、
図1には、PVCの高い接合層(第1の多孔質絶縁層)13上に、PVCの低い表面層(第2の多孔質絶縁層)23が形成された、2層構造を有する多孔質絶縁層3を示しているが、本発明においては、PVCの高い接合層13と、PVCの低い表面層23とが明確に層分けされた構成を備えている必要はなく、多孔質絶縁層3の外表面とその近傍領域が、PVCの低い材料から形成されていればよい。
【0043】
本発明において重要なのは、多孔質絶縁層の外表面とその近傍領域のPVCを低くして、全体としての多孔質絶縁層に欠陥が生じることを防ぐことであり、また、多孔質絶縁層の外表面とその近傍領域以外の領域ではPVCを高くして低抵抗化を図ることであり、各層が明確に層分けされた状態にある必要はない。
【0044】
したがって、例えば、電極に近い方の一方主面側から他方主面側に向かって、PVCが徐々に低くなる(高PVC→低PVCに移行する)ような、PVC勾配を有する層(移行層)を単層で存在させるようにすることも可能であり、その場合も、同様の効果を得ることができる。
【0045】
なお、明確に層分けされた構成とするか、層内で連続的にPVCが変化するような構成とするかは、例えば、最も表面側の多孔質絶縁層を形成する際における、多孔質絶縁層形成用のスラリーの粘度や、下地となる多孔質絶縁層の空孔率などを適宜選択することにより調整可能である。
【0046】
なお、PVC(Pigment Volume Concentration;顔料体積濃度)は、下記の式(1)により求められる。
PVC=(無機微粒子の体積)/(無機微粒子の体積+有機バインダの体積)×100 ……(1)
無機微粒子の体積=無機微粒子の重量/無機微粒子の密度
有機バインダの体積=有機バインダの重量/有機バインダの密度
【実施例1】
【0047】
以下の手順でリチウムイオン二次電池セル(非水電解質電池)を作製し、短絡不良と抵抗について、その特性を調べた。
【0048】
(工程1)正極活物質用スラリーの作製
リン酸鉄リチウム(D
50=13.2μm)84g、アセチレンブラック
12g、N−メチルピロリドン(以下NMP)100g、
ポリフッ化ビニリデンの10wt%NMP溶液40gを合わせて、プラネタリーミキサーで撹拌することにより、正極活物質用スラリーを作製した。
【0049】
(工程2)負極活物質用スラリーの作製
グラファイト(D
50=11.0μm)85g、
導電助剤15g、NMP100g、
ポリフッ化ビニリデンの10wt%NMP溶液53gを合わせて、プラネタリーミキサーで撹拌することにより、負極活物質用スラリーを作製した。
【0050】
(工程3)正極の作製
工程1で作製した正極活物質用スラリーを、
アルミ箔(厚さ20μm)からなる正極集電箔上にダイコータで塗工し、乾燥後プレスすることにより正極を作製した。
このようにして作製した正極を、4.5cm角の電池反応部分と正極集電箔の露出したタブ取り付け部が得られるようにカットし、さらに正極集電箔の露出したタブ取り付け部にアルミタブを取り付け、引き出し電極を形成した。
【0051】
(工程4)負極の作製
工程2で作製した負極活物質用スラリーを、
圧延銅箔(厚さ10μm)からなる負極集電体箔上にダイコータで塗工し、乾燥後プレスすることにより負極を作製した。
【0052】
(工程5)高PVC多孔質絶縁層(接合層)の形成
500mLのポットに
球状アルミナ粉末(平均粒子径(D
50)0.3μm)100g、溶剤(NMP)80gを投入した。さらに直径5mmのPSZ製粉砕メディアを入れ、転動ボールミルを用いて150rpmで16時間混合し、分散を行った。
その後、
PVDF−HFPのバインダ溶液(20wt%NMP溶液)39.8gを添加し、転動ボールミルを用いて150rpmで4時間混合し、PVC85%の多孔質絶縁層用スラリー(高PVC多孔質絶縁層用スラリー)を作製した。
そして、作製した高PVC多孔質絶縁層用スラリーを工程4で作製した負極上にバーコーターで塗工した後、乾燥させて膜厚13μmの高PVC多孔質絶縁層(接合層)を形成した。なお、この高PVC多孔質絶縁層(接合層)は本発明における第1の多孔質絶縁層に相当する。
【0053】
(工程6)低PVC多孔質絶縁層(表面層)の形成
500mLのポットに
球状アルミナ粉末(平均粒子径(D
50)0.3μm)100gと、溶剤としてNMP80gを投入した。さらに直径5mmのPSZ製粉砕メディアを入れ、転動ボールミルを用いて150rpmで16時間混合し、分散を行った。
その後、
PVDF−HFPのバインダ溶液(20wt%NMP溶液)151gを入れ、転動ボールミルを用いて150rpmで4時間混合し、PVC60%の多孔質絶縁層用スラリー(低PVC多孔質絶縁層用スラリー)を作製した。
それから、作製した低PVC多孔質絶縁層用スラリーを、工程5で負極上に形成した高PVC多孔質絶縁層(接合層)上に、バーコーターで塗工した後、乾燥させて膜厚2μmの低PVC多孔質絶縁層(表面層)を形成した。なお、この低PVC多孔質絶縁層(表面層)は本発明における第2の多孔質絶縁層に相当する。
【0054】
(工程7)多孔質絶縁層を形成した負極のカット
膜厚13μmの高PVC多孔質絶縁層(接合層)と、膜厚2μmの低PVC多孔質絶縁層(表面層)からなる多孔質絶縁層を有する、工程6で得た負極を、4.8cm角の電池反応部分と、負極集電箔の露出したタブ取り付け部が得られるようにカットし、さらに負極集電箔の露出したタブ取り付け部にニッケルタブを取り付け、引き出し電極を形成した。
【0055】
(工程8)リチウムイオン二次電池セルの作製
工程3で作製した正極1枚と、工程7で作製した接合層と表面層からなる2層構造の多孔質絶縁層を有する負極とを対向させ(
図1(a)参照)、2層構造の多孔質絶縁層3を介して正極と負極を接合することにより、
図1(b)に示すように、正極1と負極2が、多孔質絶縁層(セラミックセパレータ)3を介して接合された構造を有する電池素子10を得た。
それから、形成した電池素子10を2枚のラミネートシートで挟み、3辺をインパルスシーラーにより熱圧着することで、一辺側が開口したラミネートパッケージを作製した。
次にラミネートパッケージの開口部から電解液(イオン伝導性非水電解質)を注液した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の体積比3:7混合溶媒に1Mになるように六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を溶解させた電解液を使用した。
その後、ラミネートパッケージの開口部分を真空シールすることにより、リチウムイオン二次電池セル(非水電解質電池)を得た。
【0056】
<短絡不良の確認>
上述のようにして作製したリチウムイオン二次電池セル(非水電解質電池)の特性を評価するため、10個のリチウムイオン二次電池セル(試料)について、短絡不良の発生の有無を調べた。短絡不良の発生の有無は、以下に説明する方法で調べた。
【0057】
まず、リチウムイオン二次電池セルを、3.5Vまで充電し、1週間常温で放置した。
それから、リチウムイオン二次電池セルの電圧を測定して、電圧が3.4V以上のリチウムイオン二次電池セルを短絡不良の発生していない試料(良品)、3.4V未満のリチウムイオン二次電池セルを短絡不良が発生した試料(不良品)とした。その結果(短絡不良の発生割合)を表1に示す。
【0058】
また、比較のため、多孔質絶縁層を単層とした以外は上記実施例の場合とまったく同様の方法でリチウムイオン二次電池セル(比較例1および2の試料)を作製した。なお、比較例の試料としては、単層の多孔質絶縁層として、PVCが85%のものと、70%のものを作製した。なお、多孔質絶縁層の厚みはいずれも15μmとした。
そして、比較例1および2のリチウムイオン二次電池セルについても、上述の実施例の場合と同様の方法で評価を行った。その結果を表1に併せて示す。
【0059】
【表1】
【0060】
<抵抗の測定>
各リチウムイオン二次電池セルの抵抗を評価するため、上述のようにして作製した実施例としてのリチウムイオン二次電池セル(試料)と、比較例1および2のリチウムイオン二次電池セル(試料)について、入力DCRと出力DCRを測定した。なお、DCRの測定は、表2に示した充放電プロファイルで行った。
【0061】
【表2】
【0062】
実施例の試料および比較例1および2の試料について行った入力DCRと出力DCRの測定の結果を表3に示す。なお、表3に示す入力DCRと出力DCRの値は、短絡していないリチウムイオン二次電池セル(試料)について測定して得た値の平均値である。
【0063】
【表3】
【0064】
表1に示すように、セラミックセパレータとして単層構造の多孔質絶縁層を用いた比較例1および2のリチウムイオン二次電池セル(試料)の場合、比較例1のように、PVCを85%まで増加させると無機微粒子の脱落やひび割れなどにより、短絡不良が発生することが確認された。
【0065】
また、短絡を抑制することができるように、単層構造の多孔質絶縁層のPVCを低く設計した試料(PVC70%とした試料)でも、短絡不良の発生をなくすことはできなかった。
【0066】
一方、多孔質絶縁層を2層構造とし、表面側に低PVCの表面層が位置するようにした実施例の試料の場合、短絡不良が発生しないことが確認された。
これは、多孔質絶縁層の外表面の強度向上による短絡抑制の効果と、2層塗工により下層側の多孔質絶縁層(接合層)の欠陥が補修される効果により、短絡不良の発生を防止することが可能になったものと考えられる。
【0067】
また、表3に示すように、多孔質絶縁層を2層構造とし、表面に低PVCの表面層を形成した実施例の試料の場合、表面に低PVCの表面層を形成することによる抵抗の増加率、すなわち、実施例の試料の抵抗の、比較例1の試料の抵抗に対する増加率は3%未満と、わずかな増加率に止まることが確認された。
【0068】
また、短絡不良を抑制するために単層構造の多孔質絶縁層のPVCを低く設計した比較例2の試料(PVC70%)と、多孔質絶縁層を2層構造とし、表面に低PVCの表面層を形成した実施例の試料の抵抗を比較すると、実施例の試料では、抵抗が約30%低下することが確認された。
【0069】
この結果から、多孔質絶縁層を2層構造とし、表面に低PVCの表面層を形成した実施例の試料の場合、単層の多孔質絶縁層(セラミックセパレータ)を用いた場合には実現できない、低抵抗で、短絡不良のないリチウムイオン二次電池セル(非水電解質電池)が得られることがわかる。
【0070】
<変形例1>
実施例1では、負極に2層構造の多孔質絶縁層を形成するようにしているが、
図2に示すように、正極1上にPVCの高い第1の多孔質絶縁層(接合層)13を形成し、さらに、第1の多孔質絶縁層(接合層)13上に、PVCの低い第2の多孔質絶縁層(表面層)23を形成して、2層構造の多孔質絶縁層3を形成するようにしてもよい。なお、
図2において、
図1(a),(b)と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示す。
【0071】
<変形例2>
また、実施例1では、負極に2層構造の多孔質絶縁層を形成するようにしているが、
図3に示すように、
(a)PVCの高い第1の多孔質絶縁層(接合層)13と、
(b)第1の多孔質絶縁層(接合層)13上に形成された、PVCが第1の多孔質絶縁層より低い第3の多孔質絶縁層(中間層)33と、
(c)第3の多孔質絶縁層(中間層)33上に形成された、PVCが第1および第3の多孔質絶縁層より低い第2の多孔質絶縁層(表面層)23と
を備えた、3層構造の多孔質絶縁層3を形成するようにしてもよい。
なお、
図3において、
図1(a),(b)と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示す。
また、多孔質絶縁層3は、PVCが段階的に異なる4層以上の層から形成することも可能である。
【実施例2】
【0072】
図4(a),(b)は、本発明の他の実施例(実施例2)にかかる非水電解質電池の要部構成(電池素子の構成)を示す図であり、(a)は正極と負極を分離して示す図、(b)は正極と負極が、多孔質絶縁層を介して接合された状態を示す図である。
【0073】
この実施例2では、以下の手順でリチウムイオン二次電池セル(非水電解質電池)を作製し、短絡不良と抵抗ついて、その特性を調べた。
【0074】
(工程1)正極活物質用スラリーの作製
リン酸鉄リチウム(D
50=13.2μm)84g、アセチレンブラック
12g、N−メチルピロリドン(以下NMP)100g、ポリフッ化
ビニリデンの10wt%NMP溶液40gを合わせて、プラネタリーミキサーで撹拌することにより、正極活物質用スラリーを作製した。
【0075】
(工程2)負極活物質用スラリーの作製
グラファイト(D
50=11.0μm)85g、
導電助剤15g、NMP100g、
ポリフッ化ビニリデンの10wt%NMP溶液53gを合わせて、プラネタリーミキサーで撹拌することにより、負極活物質用スラリーを作製した。
【0076】
(工程3)正極の作製
工程1で作製した正極活物質用スラリーを、
アルミ箔(厚さ20μm)からなる正極集電体箔上にダイコータで塗工し、乾燥後プレスすることにより正極を作製した。
【0077】
(工程4)負極の作製
工程2で作製した負極活物質用スラリーを、
圧延銅箔(厚さ10μm)からなる負極集電体箔上にダイコータで塗工し、乾燥後プレスすることにより負極を作製した。
【0078】
(工程5)高PVC多孔質絶縁層(接合層)の形成
500mLのポットに
球状アルミナ粉末(平均粒子径(D
50)0.3μm)100g、溶剤(NMP)80gを投入した。さらに直径5mmのPSZ製粉砕メディアを入れ、転動ボールミルを用いて150rpmで16時間混合し、分散を行った。
その後、
PVDF−HFPのバインダ溶液(20wt% NMP溶液)39.8gを添加し、転動ボールミルを用いて150rpmで4時間混合し、PVC85%の多孔質絶縁層用スラリー(高PVC多孔質絶縁層用スラリー)を作製した。
そして、作製した高PVC多孔質絶縁層用スラリーを、工程3で作製した正極、および、工程4で作製した負極の表面に、バーコーターで塗工した後、乾燥させて膜厚6μmの高PVC多孔質絶縁層(接合層)を形成した。なお、この高PVC多孔質絶縁層(接合層)は本発明における第1の多孔質絶縁層に相当する。
【0079】
(工程6)低PVC多孔質絶縁層(表面層)の形成
500mLのポットに
球状アルミナ粉末(平均粒子径(D
50)0.3μm)100gと、溶剤としてNMP80gを投入した。さらに直径5mmのPSZ製粉砕メディアを入れ、転動ボールミルを用いて150rpmで16時間混合し、分散を行った。
その後、
PVDF−HFPのバインダ溶液(20wt%NMP溶液)151gを入れ、転動ボールミルを用いて150rpmで4時間混合し、PVC60%の多孔質絶縁層用スラリー(低PVC多孔質絶縁層用スラリー)を作製した。
それから、作製した低PVC多孔質絶縁層用スラリーを、工程5で、表面に高PVC多孔質絶縁層(接合層)を形成した正極および負極の、それぞれの高PVC多孔質絶縁層上に、バーコーターで塗工した後、乾燥させて膜厚1.5μmの低PVC多孔質絶縁層(表面層)を形成した。なお、この低PVC多孔質絶縁層(表面層)は本発明における第2の多孔質絶縁層に相当する。
【0080】
(工程7)多孔質絶縁層を形成した正極および負極のカット
工程5および6を経て形成した2層構造の多孔質絶縁層を有する負極を、4.8cm角の電池反応部分と負極集電箔の露出したタブ取り付け部が得られるようにカットし、さらに負極集電箔の露出したタブ取り付け部にニッケルタブを取り付け、引き出し電極を作製した。
同様にして、工程5および6を経て形成した、2層構造の多孔質絶縁層を有する正極を、4.5cm角の電池反応部分と正極集電箔の露出したタブ取り付け部が得られるようにカットし、さらに正極集電箔の露出したタブ取り付け部にアルミタブを取り付け、引き出し電極を作製した。
【0081】
(工程8)リチウムイオン二次電池セルの作製
工程7で作製した2層構造の多孔質絶縁層を有する正極1枚と、同じく工程7で作製した2層構造の多孔質絶縁層を有する負極とを、対向させ(
図4(a)参照)、正極と負極の接合することにより、
図4(b)に示すように、1対の電極(正極1と負極2)を備えた電池素子10を形成した。なお、
図4(a),(b)において、
図1(a),(b)と同一符号を付した部分は同一または相当する部分を示す。
それから、形成した電池素子10を2枚のラミネートシートで挟み、3辺をインパルスシーラーにより熱圧着することで、一辺側が開口したラミネートパッケージを作製した。
次にラミネートパッケージの開口部から電解液(イオン伝導性非水電解質)を注液した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の体積比3:7混合溶媒に、1Mになるように六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を溶解させた電解液を使用した。
その後、ラミネートパッケージの開口部分を真空シールすることによりリチウムイオン二次電池セル(非水電解質電池)を得た。
【0082】
<短絡不良の確認>
上述のようにして作製したリチウムイオン二次電池セル(非水電解質電池)の特性を評価するため、10個のリチウムイオン二次電池セル(試料)について、短絡不良の発生の有無を調べた。
短絡不良の発生の有無は、上記実施例1の場合と同様に、まず、リチウムイオン二次電池セルを、3.5Vまで充電し、1週間常温で放置した。それから、リチウムイオン二次電池セルの電圧を測定して、電圧が3.4V以上のリチウムイオン二次電池セルを短絡不良の発生していない試料(良品)、3.4V未満のリチウムイオン二次電池セルを短絡不良が発生した試料(不良品)とした。その結果(短絡不良の発生割合)を表4に示す。
また、比較のため、上記実施例1で作製した比較例1および2の試料と同じ試料について、同様の方法で評価を行った。その結果を表4に併せて示す。
【0083】
【表4】
【0084】
<抵抗の測定>
各リチウムイオン二次電池セルの抵抗を評価するため、上述のようにして作製した実施例としてのリチウムイオン二次電池セル(試料)と、比較例1および2のリチウムイオン二次電池セル(試料)について、入力DCRと出力DCRを測定した。なお、DCRの測定は、表2に示した充放電プロファイルで行った。
なお、DCRの測定は、実施例1の場合と同様に、表2に示した充放電プロファイルで行った。
【0085】
入力DCRと出力DCRの測定結果を表5に示す。なお、表5に示す入力DCRと出力DCRの値は、短絡していないリチウムイオン二次電池セルについて測定して得た値の平均値である。
【0086】
【表5】
【0087】
表4および5に示すように、正極と負極のそれぞれに、低PVC多孔質絶縁層と、高PVC多孔質絶縁層の2層構造の多孔質絶縁層(セラミックセパレータ)を形成するとともに、間に上述のような2層構造の多孔質絶縁層が2層介在するような態様で正極と負極とを接合して電池素子を形成した実施例2のリチウムイオン二次電池セル(
図4(a),(b)参照)の場合も、上述の実施例1のリチウムイオン二次電池セル、すなわち、低PVC多孔質絶縁層および高PVC多孔質絶縁層の2層の多孔質絶縁層を形成した負極と、多孔質絶縁層を形成していない正極とを組み合わせて作製したリチウムイオン二次電池セル(
図1(a),(b)参照)の場合と同様の効果が得られることが確認された。
【実施例3】
【0088】
図5(a),(b)は、本発明の他の実施例(実施例3)にかかる非水電解質電池の要部構成(電池素子の構成)を示す図であり、(a)は正極と負極を分離して示す図、(b)は正極と負極が、多孔質絶縁層を介して接合された状態を示す図である。
なお、
図5において、
図1と同一符号を付した部分は、同一または相当する部分を示す。
【0089】
この実施例3では、正極1と負極2の間に配設される多孔質絶縁層(セラミックセパレータ)3として、PVCが、負極2との接合面側から、接合面とは逆側の表面側に向かって、連続的に低下するように構成された単層構造の多孔質絶縁層を用いている。
【0090】
上記実施例1および2では、複数層構造(2層構造)を有する多孔質絶縁層をセラミックセパレータとするリチウムイオン二次電池セルを示したが、この実施例3のように、上述のように、正極1と負極2の間に配設される多孔質絶縁層3として、複数層構造を有する多孔質絶縁層3を用いることをせずに、PVCが、接合面側から表面側に向かって、連続的に低下する単層構造の多孔質絶縁層3を用いるようにした場合にも、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。
【0091】
なお、この実施例3のように、PVCが、接合面側から表面側に向かって、連続的に低下するような単層構造の多孔質絶縁層を用いた場合、PVCの低い外表面およびその近傍領域には欠陥が少ないため、該表面近傍領域より短絡が抑制され、かつ、表面近傍領域以外の、PVCが表面近傍領域より高い領域によって低抵抗が実現される。
その結果、短絡の抑制と、抵抗の低減とを同時に実現することが可能になる。
【0092】
なお、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではなく、正極や負極、正極活物質や負極活物質などの具体的な構成材料や形成方法、イオン伝導性非水電解質の種類などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。