【文献】
SAKAKIHARA, S. et al.,A single-molecule enzymatic assay in a directly accessible femtoliter droplet array.,Lab on a Chip,2010年,Vol.10 No.24,pages 3355-3362
【文献】
KAN, C.W. et al.,Isolation and detection of single molecules on paramagnetic beads using sequential fluid flows in mi,Lab on a Chip,2012年,Vol.12 No.5,pages 977-985
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
解析対象となる試料を流路を通じて供給可能な複数の容器形状部及び前記容器形状部が形成された基体部及び前記基体部の表面であって複数の前記容器形状部の間に位置する部位に設けられた疎水性の面を有し、酵素反応を行うための反応容器と、
前記反応容器に供給可能であって前記酵素反応に使用される試薬と、
を有し、
前記試薬は、
酵素と、前記酵素が前記複数の容器形状部の間の領域に吸着されるのを低減するための界面活性剤と、を含有する分析試薬と、
前記酵素反応が行われる複数の前記容器形状部を個別に封止して各容器形状部において独立して酵素反応を可能とするための疎水性の油性封止液と、を含み、
前記反応容器内において前記酵素反応が行われたときに、前記酵素反応によるシグナルを検出するように構成されている生体分子解析キット。
解析対象となる前記試料が、DNA、RNA、miRNA、mRNA、タンパク質のいずれか1つを含み、解析対象物質がDNA、RNA、miRNA、mRNA、タンパク質のいずれか1つである請求項1に記載の生体分子解析キット。
【背景技術】
【0002】
生体分子を解析することによって疾患や体質診断を行うことが知られている。たとえば、一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)解析による体質診断、体細胞変異解析による抗がん剤の投与判断、ウイルスのタンパク質やDNAの解析による感染症対策などがある。
【0003】
近時、世界的なヒトゲノム解析により、その約31億個の塩基対の配列が明らかにされ、ヒトの遺伝子の数が約3〜4万個であることが明らかとなった。ヒトには、個体間で塩基配列の違いが存在し、特定の集団人口の1%以上の頻度で存在する塩基配列の違いを遺伝子多型と呼んでいる。その中でも、SNPは、種々の疾患と関連性があることが示唆されている。
例えば、ヒトの遺伝子病は、一つの遺伝子中のSNPが病気の原因となると考えられている。また、生活習慣病やガンなどは、複数の遺伝子におけるSNPが影響していると考えられている。したがって、SNPの解析は、創薬ターゲットの探索または副作用の予見などの医薬品の開発において、極めて有効であると考えられる。このため、SNPの解析は世界的な巨大プロジェクトとして押し進められている。
【0004】
薬物の効果や副作用の程度に個人差があることの原因の一つとして、個々人の薬物代謝に関わる酵素群の違いが挙げられる。その違いも、SNPなど遺伝子上のわずかな違いによることが最近明らかにされつつある。
近年、あらかじめ患者の遺伝子を解析することによって、最適な薬剤を選択し患者に投与する方法が考えられている。さらに、単一遺伝子疾患のみならず多因子疾患についても、遺伝子診断の意義が急速に高まりつつある。また、病原細菌やウイルスを標的とした薬物の効果は、同一種であっても、個体毎に異なることがあり、これらは個体毎の遺伝子の微細な違いによることが多い。このような外来因子である病原細菌やウイルスの遺伝子診断も、今後は検査対象が確実に増加することが予想される。
このように、ポストゲノム時代の医療においては、ヒトや病原微生物の遺伝子の微細な違い、とりわけSNPを解析できることは重要であり、今後もその重要性が増すと予想される。
【0005】
従来、塩基配列における微細な違い、とりわけSNPを解析する方法が種々検討されている(非特許文献1〜2参照)。実用レベルでの解析を行うためには、低コスト、方法の簡便性、シグナル検出時間の短さ、検出結果の正確さなどの点がいずれも優れていることが要求される。しかしながら、現在までのところ、上記要求をすべて満たす方法は知られていない。
SNPを解析する場合、目的とする遺伝子断片は試料中にわずかしか含まれていないのが一般的である。この場合、目的とする遺伝子を、何らかの方法によって予め増幅させておくことが必要となる。PCR(Polymerase Chain Reaction)法は、迅速かつ再現性の高い遺伝子増幅法として従来からよく知られている。
【0006】
一般的に、目的の遺伝子の一塩基の違いを検出するためには、PCR法などを使った遺伝子増幅の段階と、増幅させた遺伝子の一塩基の違いを調べる段階との二段階の工程を必要とする(非特許文献3参照)。しかしながら、二段階の工程を必要とする方法は、工程が複数あるため、処理が煩雑となる。さらに、PCR法には、温度昇降を行うことが必要であるため、装置が大型化し、耐熱性の反応容器および反応液が蒸発しない工夫が必要となる。
二段階反応を必要としないSNP検出方法として、インベーダー法がある。インベーダー法はPCRの増幅を必要とせず、等温で反応を進めることができるため、装置が小型化できる。しかし、インベーダー法では、遺伝子の増幅工程を含まないので、シグナル増幅が遅く、検出判定を行うためには数時間の反応時間を要する。インベーダー法は、酵素反応を用いた検出方法である。その中でも、酵素を用いたシグナル増幅において、シグナルの濃度が飽和する時間を短縮する方法として、微小空間内で反応させる方法が考えられる。
微小空間においてインベーダー反応を行うと、1ウェルに含まれる解析対象の分子が1つ以下になるようにでき、解析対象分子が見かけ上濃縮された状態になるため、シグナルが飽和する時間を短縮することができる。また、1ウェルに入る検出分子を1つ以下にしているため、シグナルが得られたウェルをカウントすることで、検出分子の濃度を正確に調べることが可能である。
たとえば特許文献1では、1pl以下の容積を有する微小空間内で酵素反応を行うことで遺伝子検査が可能であることが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態に係る生体分子解析キット及び生体分子解析方法を、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る生体分子解析方法を適用可能な生体分子解析キットの断面図である。本実施形態に係る生体分子解析キットでは、解析する生体分子として、DNA、RNA、miRNA、mRNA(以下、RNA類と言うことがある。)、タンパク質のいずれかが選ばれる。
【0018】
図1に示すように、生体分子解析キット100は、反応容器10を構成する軟性平板12及びガラス基板14と、反応容器10を密封可能なカバーガラス13と、を備える。
反応容器10は、一端が開口された有底円柱形状の微小空間11(容器形状部)を有するように成形された基体部2と、基体部2の表面に配された低吸着構造部3と、を有する。
ポリジメチルシロキサン(PDMS(polydimethylsiloxane))製の軟性平板12に対してインプリントにより微小空間11が作製されることによって、反応容器10が形成される。
【0019】
反応容器10を構成する微小空間11は、一端に開口部を有する有底円柱形状の空間である。微小空間11は、例えば、5μmの直径L1、及び5μmの深さL2を有する。たとえば、微小空間11の容量は約100フェムトリットル(fl)である。反応容器10には、複数の微小空間11のアレイが形成されている。すなわち、微小空間11は、反応容器10において整列配置されている。
たとえば、微小空間11は、軟性平板12において縦横5mmの長方形を有する表面に対して、その各辺に沿った格子状に配列される。各微小空間11の間の隙間の大きさは、各微小空間11において独立してシグナル検出ができる分解能に応じて設定される。
微小空間11の容積は適宜設定されてよいが、微小空間11の容積が小さい方がシグナル検出可能となるまでの反応時間を短縮可能である。一例として、微小空間11の容積は、100ピコリットル(pl)またはそれ以下である。
【0020】
具体的には、シグナルを飽和させて十分なシグナルを発生させるのにかかる時間を短縮する目的がある場合には、解析対象の分子が1ウェルに1つ以下となる液量に基づいて、微小空間11の容積が設定される。
【0021】
軟性平板12は、たとえばガラス基板14上に形成される。ガラス基板14の厚さは、軟性平板12を材料としてインプリントによって複数の微小空間11を形成する過程で十分な強度を有する点を考慮して適宜設定される。
【0022】
本実施形態において、低吸着構造部3は、たとえば以下の構成を有する。
(構成例1)
低吸着構造部3は、基体部2の表面のうち反応容器10の微小空間11の内面に位置する領域が疎水性を有する。たとえば、低吸着構造部3は、基体部2の表面が疎水性となるように改質することで形成される改質部4を有する。
(構成例2)
低吸着構造部3は、基体部2の表面のうち反応容器10の内面に位置する領域に低吸着物質層4Aを有する。低吸着物質層4Aは、本実施形態の生体分子解析キット100を用いた解析の対象となる試料あるいはその解析試薬の吸着率が低い材料から形成される。たとえば、低吸着物質層4Aは、疎水性の被膜である。
また、低吸着物質層4Aの他の例として、蛍光物質が透過不能な分子構造を有する高分子被膜を挙げることができる。この高分子被膜は、上記のPDMSと比較して密な分子構造を有することが好ましく、蛍光物質の透過を抑制することによってシグナル強度の低下を防止する効果を奏する。なお、PDMS以外に対しても、基体部2の材料となる物質の分子構造に基づいて、試薬の透過を防止可能な分子構造を有する高分子被膜が選択されてもよい。これらの高分子被膜はシグナル強度の低下を抑制する。
なお、低吸着構造部3における高分子被膜は、蛍光物質の透過を抑制する被膜に限られず、酵素反応に関わる物質の透過を抑制する被膜が、使用される試薬に応じて適宜選択されてよい。
【0023】
次に、本実施形態に係る生体分子解析キット100に好適に適用可能な試薬の組成について説明する。
本実施形態では、各試薬に吸着防止剤が含まれていることで、生体分子解析キット100の反応容器10の内面に対して試薬の構成成分が吸着されるのを防止することができる。
吸着防止剤の組成は、たとえば、界面活性剤、リン酸脂質、その他の高分子化合物のうちの少なくとも1種を含んだ組成であり、任意の材料を混合して用いても良い。例を挙げると、界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、Tweenやglycerоl、Triton−X100等が挙げられる。また、高分子化合物としては、Pоlyethyleneglycоl(PEG),DNA,蛋白質が挙げられる。
また、2種以上の材料が混合された吸着防止剤として、例えば、リン酸脂質とPEGとを混合した吸着防止剤が挙げられる。
界面活性剤として非イオン性界面活性剤を用いる場合、試薬に含まれる非イオン性界面活性剤の濃度は5%以下であることが好ましい。Tween20を用いる場合、試薬に含まれるTween20の濃度は0.0005%以上5%以下の範囲であることが好ましく、0.001%以上0.5%以下の範囲であることが特に好ましい。Tween20の濃度が0.0005%以上であると、複数の微小空間11における反応を独立して検出することができ、微小空間11の蛍光を正しく計測できる。Tween20の濃度が5%以下であると、十分な酵素反応が得られる。
【0024】
これらの吸着防止剤は、反応容器10における微小空間11の内面に吸着される物質でも構わない。吸着防止剤が含まれた試薬が反応容器10内に供給されることにより、吸着防止剤が反応容器10の内面に吸着される。その結果、反応容器10の内面は、吸着防止剤が含まれていない場合と比較して、酵素反応に用いられる酵素、解析対象となる核酸やタンパク質、及びシグナル検出に利用される標識物質等が吸着されにくい状態となる。
また、微小空間11にオイルを入れる場合、オイルに上記の吸着防止剤を入れて用いても良い。
【0025】
酵素反応に用いられる酵素、解析対象となる核酸やタンパク質、及びシグナル検出に利用される標識物質等のうちの少なくとも1つが最初に反応容器10の内部に供給される前から、シグナル検出が終了するまでの間に反応容器10の内部に接する試薬の少なくともいずれか1つに吸着防止剤が含まれていることが好ましい。たとえば、吸着防止剤は、試薬を所定濃度に希釈するための緩衝液等の溶媒に混合されていてもよい。
酵素反応に用いられる酵素、解析対象となる核酸やタンパク質、及びシグナル検出に利用される標識物質等のうちの少なくとも1つが最初に反応容器10の内部に供給される前から、シグナル検出が終了するまでの間に反応容器10の内部に接する試薬のすべてに吸着剤が含まれていても良い。
【0026】
なお、吸着防止剤は、酵素反応やシグナル増幅反応を阻害しない物質であることが好ましい。
【0027】
次に、本実施形態に係る生体分子解析キット100を用いた生体分子解析方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る生体分子解析方法を示すフローチャートである。
【0028】
まず、反応容器10の微小空間11に、解析対象となる物質(本実施形態ではたとえばDNA)を含んだ試薬が滴下される(
図2に示すステップS101)。具体的には、本実施形態において滴下される試薬は、インベーダー反応試薬(1μM アレルプローブ、0.4μM インベーダーオリゴ、1μM FAM標識アーム、20mM MOPS pH7.5、15mM NaCl、6.25mM MgCl
2、50U/μL クリベース)及びDNAを含んでいる。
【0029】
反応容器10の微小空間11に滴下される試薬の液量は、微小空間11の数に応じて適宜設定されてよい。また、反応容器10の微小空間11に滴下される試薬の液量及びその濃度は、1つの微小空間11に1つのDNAが入るように調整される。たとえば、本実施形態では、反応容器10の微小空間11に滴下される試薬の液量は、全体で0.5μLであり、0.5μLの液体が複数の微小空間11に配分される。
【0030】
続いて、反応容器10の微小空間11がカバーガラス13によって覆われる(
図2に示すステップS102)。これにより、各微小空間11は、インベーダー反応試薬及びDNAが封入された独立した反応室となる。
【0031】
そして、インベーダー反応試薬及びDNAが微小空間11に封入された反応容器10が、例えば、62℃のオーブンにてインキュベートされる(
図2に示すステップS103)。このインキュベートによって、インベーダー反応において等温で行われるシグナル増幅が好適に進行する。
【0032】
続いて、インベーダー反応試薬及びDNAが各微小空間11に封入された反応容器10が、あらかじめ定められた時間の後に取り出され、蛍光を有するウェル数およびその蛍光量が計測される(
図2に示すステップS104)。
【0033】
なお、本実施形態において、蛍光の検出以外に、可視光の発光、発色、pHの変化、電位変化などをシグナルとして検出する検出系を適用してもよい。また、タンパク質を解析するために本実施形態の構成を適用することも可能である。
(第二実施形態)
【0034】
以下、本発明の第二実施形態に係る生体分子解析キット及び生体分子解析方法を、
図6を参照しながら説明する。本実施形態に係る生体分子解析キット100Aは、核酸定量用アレイデバイス20と試薬と油性封止液とを含む。
図6は本実施形態に係る核酸定量用アレイデバイス20の断面図である。本実施形態に係る生体分子解析キットでは、解析する生体分子として、DNA、RNA、miRNA、mRNA(以下、RNA類と言うことがある。)、及びタンパク質のいずれかが選ばれる。
【0035】
図6に示すように、核酸定量用アレイデバイス20は、反応容器30と、カバー部27と、注入口部(不図示)と、排出口部(不図示)と、を備える。反応容器30は、基体部23と流路31とを有する。基体部23には、複数のウェル(容器形状部)26と、基板24と、微小孔アレイ層25と、が形成される。
微小孔アレイは、基板24に直接形成されていてもよいし、微小孔アレイが形成された部材が基板24に、接着、溶着等の手段で固定して設けられてもよい。
【0036】
基板24は、実質的に透明な材料からなる板状部材である。基板24の材質は、たとえば樹脂やガラスである。具体的には、基板24は、ポリスチレンやポリプロピレンから形成されていてもよい。基板24は、核酸定量用アレイデバイス20を搬送する装置や作業者の手作業による取扱い時に破損しない程度の剛性を持ったものであればよい。
【0037】
微小孔アレイ層25は、複数の貫通孔25aが並べて形成された層である。微小孔アレイ層25の層厚は3μmで、微小孔アレイ層25とカバー部27との間には100μmの間隔が空けられている。貫通孔25aは、一端に開口部を有する有底円柱形状の空間である。貫通孔25aは、直径が5μm、中心線方向の長さが3μmの円柱形状である)。たとえば、貫通孔25aの容積は約60フェムトリットル(fl)である。
各貫通孔25aの容積は適宜設定されてよいが、貫通孔25aの容積が小さい方がシグナル検出可能となるまでの反応時間を短縮可能である。
一例としては、各貫通孔25aの容積は、100ピコリットルまたはそれ以下である。
なお、本実施形態において、蛍光の検出以外に、可視光の発光、発色、pHの変化、電位変化などをシグナルとして検出する検出系を適用してもよい。また、タンパク質を解析するために本実施形態の構成を適用することも可能である。
【0038】
各貫通孔25a同士の中心線間の距離(ピッチ)は、各貫通孔25aの直径よりも大きければよい。
各貫通孔25aの間隔(隙間)の大きさは、各貫通孔25aにおいて独立してシグナル検出ができる分解能に応じて設定される。
各貫通孔25aは微小孔アレイ層25に対して三角格子状をなして配列されている。
なお、各貫通孔25aの配列のされ方は特に限定されない。微小孔アレイ層25に形成された貫通孔25aと、基板24の表面24aとによって、基板24を底面部26aとする有底筒状の微小なウェル26(容器形状部)が基体部23には形成されている。
【0039】
具体的には、シグナルを飽和させて十分なシグナルを発生させるのにかかる時間を短縮する目的がある場合には、解析対象の分子が1ウェルに1つ以下となる液量に基づいて、ウェル26の容積が設定される。
【0040】
微小孔アレイ層25の材質は、樹脂やガラス等であってよい。微小孔アレイ層25の材質は、基板24の材質と同じでもよいし基板24の材質と異なっていてもよい。また、微小孔アレイ層25は基板24と同じ材料で一体化されていてもよい。また、微小孔アレイ層25は基板24と同じ材料で一体成型されていてもよい。樹脂からなる微小孔アレイ層25の材質の例としては、シクロオレフィンポリマーや、シリコン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、フッ素樹脂、アモルファスフッ素樹脂などが挙げられる。なお、微小孔アレイ層25の例として示されたこれらの材質はあくまでも例であり、微小孔アレイ層25の材質はこれらには限られない。
【0041】
また、微小孔アレイ層25は着色されていてもよい。微小孔アレイ層25が着色されていると、ウェル26内で蛍光、発光、吸光度等の光の測定をする場合に、測定対象となるウェル26に近接する他のウェル26からの光の影響が軽減される。
微小孔アレイ層25は、基板24上に積層された疎水性膜のベタパターンに対してエッチング,エンボス形成,あるいは切削等の加工が施されることによって貫通孔25aが形成される。また、微小孔アレイ層25が基板24と一体成型される場合は、基板24にエッチング,エンボス形成、あるいは切削等の加工が施されることによって、微小孔アレイ層25の貫通孔25aに相当する部分が形成される。これによって、疎水部及び親水部を有するパターンを基板に形成することができる。
【0042】
カバー部27は、基体部23との間に隙間を有して複数のウェル26の開口部分を覆うように基体部23に重ねられている。基体部23とカバー部27との間は、各種の液体が流れる流路31となる。本実施形態では、基体部23とカバー部27との間を、注入口部から排出口部へ向かって各種の液体が流れる。
【0043】
次に、本実施形態に係る生体分子解析キット100Aに好適に適用可能な試薬の組成について説明する。
図7及び
図8に示すように、検出反応試薬21は、基体部23とカバー部27との間に注入口部から送液可能な溶液である。検出反応試薬21は、解析対象物質に対する酵素反応などの生化学的反応を行うための試薬である。
解析対象物質に対する生化学的反応は、たとえば、DNA(核酸)が解析対象物質の場合、核酸が存在する条件下でシグナル増幅が起こるような反応である。検出反応試薬21は、たとえば核酸を検出可能な方法に応じて選択される。たとえば、インベーダー(登録商標)法や、LAMP法(商標登録)、TaqMan(登録商標)法または、蛍光プローブ法やその他の方法に使用される試薬が本実施形態の検出反応試薬21に含まれる。
本実施形態では、解析対象物質が核酸のときに、従来のようなPCR法での核酸の増幅工程を行わずに検出可能であるが、必要に応じてPCR法等を使って解析対象核酸を増幅したものをサンプルとして用いても良い。
また、解析対象物質が核酸以外でも、本実施形態に適用できるように、必要な前処理を適宜行ってから本実施形態を適用することができる。
【0044】
本実施形態では、各試薬の少なくとも1つに吸着防止剤が含まれていることで、生体分子解析キット100Aのウェル26の内面に対して試薬の構成成分が吸着されるのを防止することができる。各試薬全てに吸着防止剤が含まれていても良い。
試薬の例としては、バッファー、検出反応試薬、サンプル(解析対象物:DNA、RNA類、タンパク質等)溶液、封止液、試薬やサンプルの希釈用溶媒が挙げられる。
吸着防止剤の組成は、たとえば、界面活性剤、リン酸脂質、その他の高分子化合物のうちの少なくとも1種を含んだ組成であり、任意の材料を混合して用いても良い。例を挙げると、界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、Tweenやglycerоl、Triton−X100等が挙げられる。また、高分子化合物としては、Pоlyethyleneglycоl(PEG)や,DNA, 蛋白質が挙げられる。
また、2種以上の材料が混合された吸着防止剤として、例えば、リン酸脂質とPEGとを混合した吸着防止剤が挙げられる。
界面活性剤として非イオン性界面活性剤を用いる場合、試薬に含まれる非イオン性界面活性剤の濃度は5%以下であることが好ましい。Tween20を用いる場合、試薬に含まれるTween20の濃度は0.0005%以上5%以下の範囲であることが好ましく、0.001%以上0.5%以下の範囲であることが特に好ましい。Tween20の濃度が0.0005%以上であると、複数のウェル26における反応を独立して検出することができウェル26の蛍光を正しく計測できる。Tween20の濃度が5%以下であると、十分な酵素反応が得られる。
界面活性剤は非イオン性に限られない。界面活性剤として、イオン性界面活性剤(陰イオン、陽イオン、両性イオン)が用いられても良い。イオン性界面活性剤同士の混合物や、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤との混合物を用いても良い。
また、界面活性剤と高分子化合物との混合物を、吸着防止剤として使用することも可能である。
【0045】
次に、本実施形態に係る生体分子解析キット100Aに好適に適用可能な油性封止液22の組成について説明する。
本実施形態では、生体分子解析キット100Aのウェル26の内面に対して試薬の構成成分が吸着されるのを防止する目的で、油性封止液22に吸着防止剤が含まれていていてもよい。
油性封止液22(
図8参照)は、基体部23とカバー部27との間に注入口部から送液可能な溶液である。油性封止液22は、解析対象物質を含む試料と混合しない材料から選ぶことができる。油性封止液22としてはミネラルオイルやフッ素系液体のFC40等を用いることができる。
また、本実施形態では、生体分子解析キット100Aのウェル26の内面に対して試薬の構成成分が吸着されるのを防止する目的で、試薬を送液する前にウェル洗浄用のバッファーを送液してもよい。バッファーには吸着防止剤が含まれていてもよい。
【0046】
これらの吸着防止剤は、反応容器30におけるウェル26の内面に吸着される物質でも構わない。吸着防止剤が含まれた試薬が反応容器30内に供給されることにより、吸着防止剤が反応容器30の内面に吸着される。その結果、反応容器30の内面は、吸着防止剤が含まれていない場合と比較して、酵素反応に用いられる酵素、解析対象となる核酸やタンパク質、及びシグナル検出に利用される標識物質等が吸着されにくい状態となる。
【0047】
洗浄用のバッファーに含まれる吸着防止剤は非イオン性界面活性剤であってもよい。非イオン性界面活性剤としては、Tweenやglycerоl、Triton−X100等が挙げられる。また、洗浄用のバッファーが試薬の一部を構成していてもよい。
【0048】
酵素反応に用いられる酵素、解析対象となる核酸やタンパク質、及びシグナル検出に利用される標識物質等のうちの少なくとも1つが最初に反応容器30の内部に供給される前から、シグナル検出が終了するまでの間に反応容器30の内部に接する試薬の少なくとも1つに吸着防止剤が含まれていることが好ましい。たとえば、吸着防止剤は、試薬を所定濃度に希釈するための緩衝液等の溶媒に混合されていてもよい。
また、酵素反応に用いられる酵素、解析対象となる核酸やタンパク質、及びシグナル検出に利用される標識物質等のうちの少なくとも1つが最初に反応容器10の内部に供給される前から、シグナル検出が終了するまでの間に反応容器10の内部に接する試薬のすべてに吸着剤が含まれていても良い。
【0049】
なお、吸着防止剤は、酵素反応やシグナル増幅反応を阻害しない物質であることが好ましい。
【0050】
次に、本実施形態に係る生体分子解析キット100Aを用いた生体分子解析方法について説明する。
図9は、本実施形態に係る生体分子解析方法を示すフローチャートである。
【0051】
まず、不図示の注入口部及び排出口部が開放され、吸着防止剤を含む洗浄用のバッファー33が注入口部を通じて基体部23とカバー部27との間の隙間へと、たとえば分注ピペット等によって送液される(
図9に示すステップS201)。バッファー33は、複数のウェル26の全てを覆うように、基体部23とカバー部27との間の隙間内で広がる(
図6参照)。これによって、基体部23の表面のうち貫通孔25aの内面に位置する領域及び隣り合うウェルの間に位置する領域34に低吸着物質層35を有する低吸着構造部32が形成される。
バッファー33を送液するのではなく、反応容器30中にバッファー33が予め満たされていてもよい。この場合、注入口部、排出口部をフィルムなどで封止してバッファー33を反応容器30中に封止しておいてもよい。
【0052】
次に、解析対象となる物質(本実施形態ではたとえばDNA)を含んだ試薬が注入口部を通じて基体部23とカバー部27との間の隙間へと、たとえば分注ピペット等によって送液される(
図9に示すステップS202)。具体的には、本実施形態において充填される試薬は、インベーダー反応試薬(検出反応試薬21)(1μM アレルプローブ、1μM インベーダーオリゴ、1μM FAM標識アーム、10mM MOPS pH7.5、6.25mM MgCl
2、50U/μL クリベース、Tween 20)及び解析対象物質であるDNAを含んでいる。試薬は、複数のウェル26の全てを覆うように、基体部23とカバー部27との間の隙間内で広がる(
図7参照)。また、試薬が基体部23とカバー部27との間の隙間に送液されることにより、バッファー33は排出口部から排出される。なお、このとき、試薬がバッファー33と異なる色であると、試薬が基体部23とカバー部27との間のどの部分に送液されたかを容易に把握できる。
【0053】
図6に示すように、基体部23とカバー部27とによって形成される流路31には、基板24と微小孔アレイ層25とによって形成された複数のウェル26が配置されている。複数のウェル26内に満たされたバッファー33は、試薬を流し入れることで順次ウェル内でバッファー33から試薬に置き換わっていく。
しかしバッファー33がウェル26の内面に保持された状態で維持されるウェル26も存在する。この場合、試薬は複数のウェル26内に満たされたバッファー33と置き換わることなく、バッファー33に試薬が重層された状態となる。しかしながら、バッファー33と試薬とは互いに容易に混合されるので、バッファー33に試薬が重層された状態となった後、試薬中の溶質はバッファー33へと拡散する。このため、バッファーと試薬が置き換わったウェルと、バッファー33と試薬とが重層されたウェルでの反応は実質的に同じである。
【0054】
ウェル26に充填される液量は、貫通孔25aの数に応じて適宜設定されてよい。また、ウェル26に滴下される液量及びその濃度は、1つのウェル26に1つのDNAが入るように調整される。たとえば、本実施形態では、ウェル26に充填される液量は、反応容器全体で0.5μLであり、0.5μLの液体が複数のウェル26に配分される。
【0055】
次に、
図8に示すように、基体部23とカバー部27とによって形成される流路31内に、注入口部から油性封止液22を送液する。油性封止液22は、試薬がバッファーに拡散した状態で複数のウェル26内の液体を封止することにより、複数のウェル26を複数の独立した反応室(核酸検出反応容器)36とする。すなわち、本実施形態では、油性封止剤22が各ウェル26を覆うことによって、第一実施形態に開示された微小空間と同様に、各ウェル26が独立した状態となる。また、油性封止液22は、基体部23とカバー部27との間の隙間内で複数のウェル26の外部にある液体を排出口部から押し出す(
図9に示すステップS203)。
【0056】
そして、インベーダー反応試薬及びDNAが各ウェル26に充填されたアレイデバイス20が、例えば、62℃のオーブンにてインキュベートされる(
図9に示すステップS204)。このインキュベートによって、インベーダー反応において等温で行われるシグナル増幅が好適に進行する。
【0057】
続いて、インベーダー反応試薬及びDNAが各ウェル26に充填されたアレイデバイス20が、あらかじめ定められた時間の後に取り出され、蛍光を有するウェル数およびその蛍光量が計測される(
図9に示すステップS205)。
【0058】
つまり、本実施形態に係る生体分子解析キット100Aを用いた生体分子解析方法は、流路及び複数の容器形状部を有する反応容器において、流路に試薬を送液し、複数のウェルに試薬を充填する工程(試薬送液工程)と、試薬送液工程の後に、油性封止液を流路に送液し、複数のウェル内の試薬を油性封止液により封止することにより複数のウェルを複数の独立した核酸検出反応容器とする工程(封止工程)と、を有する。
【0059】
なお、本実施形態において、蛍光の検出以外に、可視光の発光、発色、pHの変化、電位変化などをシグナルとして検出する検出系を適用してもよい。また、タンパク質を解析するために本実施形態の構成を適用することも可能である。
【0060】
なお、本実施形態において、各試薬に吸着防止剤が含まれていることで、生体分子解析キット100Aの反応容器30の内面に対して試薬の構成成分が吸着されるのを防止することができる。吸着防止剤は、全ての試薬に含まれていてもよいし、試薬の一部に含まれていてもよい。
また、このような吸着防止剤に代えて、試薬の構成成分の表面張力を低下させる物質を試薬が含んでいてもよい。例えば界面活性剤は試薬の表面張力を低下させる。そのため、各ウェルへ試薬を充填するためにも、試薬に界面活性剤を含むことは有効である。
【実施例】
【0061】
(第一実施例)
次に、本発明の第一実施形態に係る生体分子解析方法の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
図3は、本実施例における蛍光量測定試験の結果を示す蛍光画像図である。
図4は、本実施例における蛍光強度測定試験の結果を示すグラフである。なお、
図4における横軸は反応時間を示し、
図4における縦軸は蛍光強度を示している。
図5は、本実施例における反応時間測定試験の結果を示す表である。なお、
図5において、「良」は定量性が良好であることを示し、「劣」は定量性において本実施例に劣ることを示す。
【0062】
<蛍光を発するウェル数の計測試験>
まず、反応容器10の微小空間11内に、インベーダー反応試薬とともに、3種類の人工合成DNAを封入した。ここで、それぞれの人工合成DNAの濃度は、1ウェルに1分子が入る30pMと、1ウェルに1666分子が入る50nMと、1ウェルに1分子も入らない0Mと、に設定した。
【0063】
そして、反応容器10を、62℃のオーブンにてそれぞれインキュベートし、0分(0min)、10分(10min)、15分(15min)後の状態を確認した。
図3に示すように、DNA濃度が30pM以上であれば、0Mである場合のバックグラウンドに対してほぼすべての微小空間11において蛍光量に差が生じ、DNAが存在していることがわかる。
【0064】
<蛍光強度の計測試験>
次に、上述の設定の人工合成DNAが封入された反応容器10を、62℃のオーブンにてインキュベートし、0分、10分、15分後の状態を確認するため、DNA濃度ごとに5ウェルの画像を選び、各画像における21ピクセルの蛍光量の平均値を求めた。ここでは、反応後のウェルは、蛍光顕微鏡(ツァイス社、AX10)、対物レンズ(EC Plan−Neofluar 40× oil NA1.3)、光源(LEJ社、FluoArc001.26A Usable with HBO 10)、センサー(浜松ホトニクス社、EM−CCD C9100)、フィルター(オリンパス社、U−MNIBA2)、及び解析ソフト(浜松ホトニクス社、AQUACOSMOS 2.6:露光時間 64.3ms、EMゲイン 180、オフセット 0、ビニング ×1)を用いて計測された。
【0065】
図4に示すように、1つの微小空間11に1分子が収容される濃度である30pMにおいて、0Mの場合と比較して区別可能な強度の蛍光が検出された。
【0066】
<反応時間測定試験>
続いて、従来の解析方法と本発明の解析方法とにおける反応時間の比較をした。反応時間の測定試験には、本発明との比較対象として、1ナノリットル(nl)×多ウェルの試薬量でデジタルPCR反応を行う方法(比較例1)、20マイクロリットル(μl)の試薬量でPCR反応を行う方法(比較例2)、20μlの試薬量でPCR+インベーダー反応を行う方法(比較例3)、20μlの試薬量でインベーダー反応を行う方法(比較例4)、及び100フェムトリットル(fl)×多ウェルの試薬量でデジタルELISA反応を行う方法(比較例5)を採用した。
【0067】
図5に示すように、反応時間の測定試験により明らかなように、1nl×多ウェルの試薬量でデジタルPCR反応を行った比較例1では、60分の反応時間を必要とし、温調が変温であり、定量性は良好であった。20μlの試薬量でPCR反応を行った比較例2では、60分の反応時間を必要とし、温調が変温であり、定量性は良好ではなかった。20μlの試薬量でPCR+インベーダー反応を行った比較例3では、60分の反応時間を必要とし、温調が変温であり、定量性は良好ではなかった。
【0068】
20μlの試薬量でインベーダー反応を行った比較例4では、120分の反応時間を必要とし、温調が等温であるものの、定量性は良好ではなかった。100fl×多ウェルの試薬量でデジタルELISA反応を行った比較例5では、15分の反応時間を必要とし、温調が等温であり、定量性は良好であった。
【0069】
これらに対し、100fl×多ウェルの試薬量でデジタルインベーダー反応を行った本実施例では、10分の反応時間だけであり、温調が等温であり、定量性は良好であった。これによって、本実施例が、100fl×多ウェルの試薬量でデジタルインベーダー反応を行ったからであることが判明する。
【0070】
(第二実施例)
次に、本発明の第二実施形態に係る生体分子解析方法の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
図10は、本実施例におけるウェルを示す蛍光画像図である。
図11Aから
図11Mは、本実施例における蛍光量測定試験の結果を示す蛍光画像図である。
図12は、本実施例における蛍光強度測定試験の結果を示すグラフである。なお、
図12における横軸はTween20の濃度を示し、
図12における縦軸は蛍光強度を示している。
【0071】
<核酸定量用アレイデバイスの作製>
0.5mm厚のガラス製の基板にCYTOP(登録商標)(旭硝子製)をスピンコートした後、180℃で1時間ベークした。形成されたCYTOPの厚みは3μmだった。CYTOPを基板にスピンコートによってコートした後、ポジティブフォトレジストをコートし、フォトマスクを用いてパターンを形成した。その後、O
2プラズマによってCYTOPをドライエッチングした。表面に残ったフォトレジストを除去するためにアセトンとエタノールにより表面を洗浄、リンスした。
図10に示すようにCYTOPによって形成されたウェル(微小空間)の直径は5μmであり、インベーダー反応によるシグナル検出が数分で可能な体積を有する。1つの基体部には100ブロックのウェルアレイが設けられた。また、各々のブロックは10,000個のウェルを有した。そのため、合計100万個のウェルが形成された。
図6に示すように、送液ポート(注入口部:不図示)を有するガラス製の板と基体部とを、50μmの厚みを有し流路形状に加工された両面テープを用いて接着した。
【0072】
<試料と検出反応試薬との混合液の送液>
界面活性剤であるTween20の濃度による液滴の形成しやすさを確かめた。
まず、界面活性剤を含む洗浄バッファーを送液ポートを通じて核酸定量用アレイデバイスに送液した。その後、インベーダー反応試薬(検出反応試薬21:1μM アレルプローブ、1μM インベーダーオリゴ、1μM FAM標識アーム、10mM MOPS pH7.5、6.25mM MgCl
2、50U/μL クリベース、Tween 20)22μl及び解析対象物質であるDNAを送液ポートを通じて核酸定量用アレイデバイスに送液した。
その後、フッ素系液体であるFC40(油性封止液22)を送液ポートを通じて80μl送液することで各ウェル内に試薬を分割して封入した。これを63のホットプレート上で加熱し、インベーダー反応を実施した。
次に、蛍光顕微鏡(オリンパス製)を使用し、63℃10分、20分経過時の各ウェルの蛍光を検出した。露光時間は、明視野:100msec、NIBA :2000msec、mCherry:2000msecとした。
10分加熱後の各ウェルを顕微鏡で観察した結果を
図11Aから
図11Gに示す。20分加熱後の各ウェルを顕微鏡で観察した結果を
図11Hから
図11Mに示す。
【0073】
Tween20の濃度が0%のときは、隣り合うウェルの間に位置する領域でも蛍光が検出されたため正しくデジタル計測ができなかった。この理由として、隣り合うウェルの反応溶液の液滴同士が結合しているため、隣り合うウェルの間に位置する領域で試料が反応したと考えられる。その他に、隣り合うウェルの反応溶液の液滴同士は結合していないが、隣り合うウェルの間に位置する基体部の表面に残存した試料が反応したと考えられる。一方、Tween20が0.0005%以上含まれていれば、反応溶液の液滴が個々に分離していることが確かめられた。
【0074】
また、20分加熱後のウェルにおいて、Tween20が0.001%以上含まれていれば、反応溶液の液滴が個々に分離していることが確かめられた。つまり、長時間加熱した場合、Tween20が0.001%以上含まれていれば、短時間加熱した場合よりも再現性が高くなると考えられる。
図12はTeeen20の濃度に応じた蛍光強度の値を示すグラフである。Teeen20の濃度が高くなるにつれ、蛍光強度が弱くなった。すなわち、Tween20の濃度が増えることで反応を阻害している挙動が確認された。そのため、Tween20の最適な濃度は5%程度までと推察される。また、コストの観点から、Tween20の濃度は0.5%以下がより好ましいと考えられる。
また、同様の試薬10μlを96ウェルプレートに分注し、10μlの体積での反応性をライトサイクラーLC480(ロシュ製)を用いて検出した。ライトサイクラーの温調条件は、63℃一定とした。ライトサイクラーで同様の組成で反応を確かめた結果、Tween20の濃度によらずインベーダー反応の蛍光シグナル増加は一定であった。このことから界面活性剤は酵素の反応性を高めるためではなく液滴の安定性に寄与していることが分かった。
界面活性剤は、試薬に含まれる検出対象物質がCYTOPやガラスなどに吸着するのを防ぐことができる濃度を添加すればよい。Triron−X100などのほかの界面活性剤の場合には最適な濃度が異なっていてもよいが、Tween20の例を考慮できる。
【0075】
(第三実施例)
次に、本発明の第二実施形態に係る生体分子解析方法の作用効果を確認するために行ったさらなる実施例について説明する。
図13は、本発明の第二実施形態に係る生体分子解析方法の作用効果を説明するための図である。
図14Aから
図14Fは本実施例における蛍光量測定試験の結果を示す蛍光画像図である。
図13において、反応性の欄の「良」とは、反応性が良好であったことを示す。
図13において、液滴の欄の「○」とは、は隣り合う2つのウェルの間に蛍光が観察されなかったことを示す。
図13において、液滴の欄の「△」とは、は隣り合う2つのウェルの間に蛍光が観察されたが、濃度測定には影響がない程度であったことを示す。
図13において、液滴の欄の「×」とは、隣り合う2つのウェルの間に蛍光が観察されたことにより、隣り合う2つのウェルの間の領域を用いたときは正しくデジタル計測ができない場合があったことを示す。
【0076】
本実施例では第二実施例で用いられたインベーダー反応試薬及びDNAを用いて、
図13に示すように、洗浄の有無、洗浄用バッファーへの界面活性剤の添加の有無、及び反応試薬への界面活性剤の添加の有無について条件を変えて反応を行い、得られた蛍光画像から液滴の状態及び反応性を確認した。界面活性剤として、0.05%のTween20を洗浄用バッファー又は反応試薬に添加した。その他の条件については第二実施例と同様である。
【0077】
サンプル1及びサンプル2に対しては洗浄用のバッファーに界面活性剤を添加して洗浄を行った。サンプル3及びサンプル4に対しては洗浄用のバッファーに界面活性剤を添加せずに洗浄を行った。サンプル5及び6に対しては洗浄を行わなかった。さらに、サンプル1、3、及び5の反応試薬には界面活性剤を添加した。一方、サンプル2、4、及び6の反応試薬には界面活性剤を添加しなかった。いずれのサンプルにおいても反応性は良好であった。さらに、サンプル2が示すように、反応試薬に界面活性剤が含まれていない場合でも、洗浄用のバッファーに界面活性剤が含まれていれば、液滴が良好に形成され、反応性も良好であることがわかった。
【0078】
以上説明したように、本発明の第一実施形態に係る生体分子解析方法及び生体分子解析キット100,及び第二実施形態に係る生体分子解析方法及び生体分子解析キット100Aによれば、微小空間11又はウェル26内で酵素反応を行うことで、迅速に、かつ、定量的な生体分子の解析を行うことができる。
【0079】
また、本発明の第一実施形態に係る生体分子解析方法及び生体分子解析キット100,及び第二実施形態に係る生体分子解析方法及び生体分子解析キット100Aによれば、酵素反応としてインベーダー法を用いることにより、PCR増幅を必要とせずに、等温反応が可能なために、機器構成および解析手順を単純化できる。
【0080】
また、本発明の第一実施形態に係る生体分子解析方法及び生体分子解析キット100,及び第二実施形態に係る生体分子解析方法及び生体分子解析キット100Aによれば、解析対象1分子が収容される大きさの微小空間11内又はウェル26内で反応をさせるため、シグナルが飽和するまでにかかる時間を短縮できる。
【0081】
また、本発明の第一実施形態に係る生体分子解析方法及び生体分子解析キット100,及び第二実施形態に係る生体分子解析方法及び生体分子解析キット100Aによれば、従来に比して反応時間が短くSN比が高い。
【0082】
また、本発明の第一実施形態に係る生体分子解析方法及び生体分子解析キット100,及び第二実施形態に係る生体分子解析方法及び生体分子解析キット100Aによれば、酵素反応が、等温反応であるために、変温反応と比べて、安定した酵素反応を得ることができ、再現性が高い。
【0083】
また、本発明の第一実施形態に係る生体分子解析方法及び生体分子解析キット100,及び第二実施形態に係る生体分子解析方法及び生体分子解析キット100Aによれば、酵素反応が、インベーダー反応であるために、PCRを要する手順と比較してシグナルの検出判定を行うための時間を短縮することができる。
【0084】
また、本発明の第一実施形態に係る生体分子解析方法及び生体分子解析キット100,及び第二実施形態に係る生体分子解析方法及び生体分子解析キット100Aによれば、微小空間11又はウェル26が、100ピコリットル以下であるために、解析のために消費される試薬の量を削減できる。
【0085】
なお、上記実施形態では、低吸着構造部と吸着防止剤とが併用される例が開示されている。しかしながら、低吸着構造部と吸着防止剤との少なくともいずれかが採用されていれば、低吸着構造部と吸着防止剤とのいずれも採用されていない場合と比較して迅速に、かつ、定量的に解析をすることができる。