特許第6183472号(P6183472)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183472
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池およびその組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20170814BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20170814BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20170814BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20170814BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170814BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20170814BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20170814BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/0525
   H01M4/48
   H01M4/525
   H01M4/36 E
   H01M4/485
   H01M4/505
【請求項の数】8
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2015-557745(P2015-557745)
(86)(22)【出願日】2014年12月18日
(86)【国際出願番号】JP2014083596
(87)【国際公開番号】WO2015107832
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2016年7月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-6057(P2014-6057)
(32)【優先日】2014年1月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】澤田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 幸正
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/033595(WO,A1)
【文献】 特開2002−124297(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/168821(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/023501(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/0525
H01M4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極、正極、及び負極と正極との間に介在される非水電解質を備える二次電池であって、
前記負極が、負極活物質としてチタン含有酸化物を含み、
前記正極が、正極活物質として、Li1+xMn2−x−y(0≦x≦0.2、0<y≦0.6、Mは2〜13族でかつ第3〜4周期に属する元素(但し、Mnは除く)からなる群から選択される少なくとも1種)で表されるスピネル型マンガン酸リチウム、並びに、コバルトを含む化合物および/または層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
前記スピネル型マンガン酸リチウムの重量をAとし、前記コバルトを含む化合物および/または層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の重量をBとした場合に0.01≦B/(A+B)≦0.1の関係であり、
非水電解質が、シュウ酸骨格を有する有機化合物、イソシアナト基を有する有機化合物、スルホン酸骨格を有する有機化合物のリチウム塩、および、炭素数3以上の側鎖を有する無水コハク酸化合物からなる群から選択される1種を、非水電解質100重量%において0.01〜5重量%含
前記シュウ酸骨格を有する有機化合物が、下記一般式(1)で表される化合物であり、
【化1】
(式(1)中のXは炭素数2〜6のアルキニル基を示す。)
前記イソシアナト基を有する有機化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であり、
【化2】
(式(2)中、Rは炭素数2〜6のアルケニル基を示す。Yは炭素数1〜6のアルキレン基を示す。)
前記スルホン酸骨格を有する有機化合物のリチウム塩が、下記一般式(3)で表される化合物であり、
【化3】
(式(3)中のRは、炭素数1〜6のアルキル基を示す。MはBFを示す。)
前記炭素数3以上の側鎖を有する無水コハク酸化合物が、下記一般式(4)で表される化合物である、非水電解質二次電池。
【化4】
(式(4)中、Rは水素原子を示す。Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。Rは末端に二重結合を有する炭素数2〜4のアルケニル基を示す。)
【請求項2】
前記Li1+xMn2−x−y(0≦x≦0.2、0<y≦0.6、Mは2〜13族でかつ第3〜4周期に属する元素(但し、Mnは除く)からなる群から選択される少なくとも1種)に含まれるMが、Al、Mg、Zn、Ni、Co、Fe、Ti、CuおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記正極が、正極活物質として、Li1+xMn2−x−y(0≦x≦0.2、0<y≦0.6、Mは2〜13族でかつ第3〜4周期に属する元素(但し、Mnは除く)からなる群から選択される少なくとも1種)で表されるスピネル型マンガン酸リチウム、並びに、層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が、LiNiCoMn(但し、Xは、B、Mg、Al、Si、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Zr、Nb、Mo、InおよびSnから選択される少なくとも1種、0<a≦1.2、0≦b、c、d、e≦1およびb+c+d+e=1)で表される、請求項1〜のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が、LiCoOで表されるコバルト酸リチウムである、請求項1〜のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記コバルトを含む化合物が、Co、Co、CoO、CoOOHおよびCoCOからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記チタン含有酸化物が、チタン酸リチウムおよび/または二酸化チタンである、請求項1〜のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池を複数個接続してなる組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解質二次電池およびその組電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器、ハイブリット自動車、電気自動車、家庭用蓄電用途に非水電解質二次電池の研究開発が盛んに行われている。これらの分野に用いられる非水電解質二次電池は、安全性の高さと大容量化が求められている。
【0003】
その要求を満たすため、負極の集電体に塗工される負極活物質に、チタン酸リチウムや二酸化チタンのようなチタン含有酸化物を用いた非水電解質二次電池が開発されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかし、負極の活物質にチタン含有酸化物を用いた非水電解質二次電池は、充放電サイクル時にガスが発生し、その結果、内圧のため電池が膨らみ、電池特性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3502118号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、サイクル運転時においてガス発生が少なく、優れたサイクル安定性を発現する非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、正極にスピネル型マンガン酸リチウムとコバルト系化合物および/または層状岩塩型構造化合物とを特定割合で併用するとともに、非水電解質に添加する化合物を選定することによって、チタン含有酸化物を負極に用いた二次電池の充放電サイクル時のガス発生を抑止するとともに、充電終止電圧を従来の電圧よりも高くすることが可能であることを見出し、優れたサイクル安定性を有し、充電レート特性が向上した非水電解質二次電池を製造することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、負極、正極、及び負極と正極との間に介在される非水電解質を備える二次電池であって、
前記負極が、負極活物質としてチタン含有酸化物を含み、
前記正極が、正極活物質としてLi1+xyMn2-x-y4(0≦x≦0.2、0<y≦0.6、Mは2〜13族でかつ第3〜4周期に属する元素(但し、Mnは除く)からなる群から選択される少なくとも1種)で表されるスピネル型マンガン酸リチウム、並びに、コバルトを含む化合物および/または層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
前記スピネル型マンガン酸リチウムの重量をAとし、前記コバルトを含む化合物および/または層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の重量をBとした場合に0.01≦B/(A+B)≦0.1の関係であり、
非水電解質が、シュウ酸骨格を有する有機化合物、イソシアナト基を有する有機化合物、スルホン酸骨格を有する有機化合物のリチウム塩、および、炭素数3以上の側鎖を有する無水コハク酸化合物からなる群から選択される1種を、非水電解質100重量%において0.01〜5重量%含む、非水電解質二次電池である。
【0009】
本発明の非水電解質二次電池において、上記シュウ酸骨格を有する有機化合物が、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0010】
【化1】
【0011】
(式(1)中のXは、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、または炭素数2〜6のアルキニル基を示す。)
【0012】
本発明の非水電解質二次電池において、上記イソシアナト基を有する有機化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0013】
【化2】
【0014】
(式(2)中、R1は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜6のアルキルオキシ基、炭素数2〜6のアルケニルオキシ基、炭素数2〜6のイソシアナトアルキルオキシ基、または炭素数6〜12のアリールオキシ基を示す。前記アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、イソシアナトアルキルオキシ基は、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。Yは、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1〜6のアルキレン基、または少なくとも一つのエーテル結合を含む炭素数2〜6の2価の連結基を示す。)
【0015】
本発明の非水電解質二次電池において、上記スルホン酸骨格を有する有機化合物のリチウム塩が、下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【0016】
【化3】
【0017】
(式(3)中のR2は、炭素数1〜6のアルキル基を示す。MはBF3またはPF5を示す。)
【0018】
本発明の非水電解質二次電池において、上記炭素数3以上の側鎖を有する無水コハク酸化合物が、下記一般式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【0019】
【化4】
【0020】
(式(4)中、R3およびR4は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、または少なくとも1つの水素原子がハロゲンで置換されてもよい炭素数1〜6のアルキル基を示す。R5は、末端に二重結合を有する炭素数2〜4のアルケニル基、または末端に三重結合を有する炭素数2〜4のアルキニル基を示す。)
【0021】
本発明の非水電解質二次電池において、上記Li1+xyMn2-x-y4(0≦x≦0.2、0<y≦0.6、Mは2〜13族でかつ第3〜4周期に属する元素(但し、Mnは除く)からなる群から選択される少なくとも1種)に含まれるMが、Al、Mg、Zn、Ni、Co、Fe、Ti、CuおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
本発明の非水電解質二次電池において、上記正極が、正極活物質として、Li1+xyMn2-x-y4(0≦x≦0.2、0<y≦0.6、Mは2〜13族でかつ第3〜4周期に属する元素(但し、Mnは除く)からなる群から選択される少なくとも1種)で表されるスピネル型マンガン酸リチウム、および、層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含むことが好ましい。
【0023】
本発明の非水電解質二次電池において、上記層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が、LiaNibCocMnde2(但し、Xは、B、Mg、Al、Si、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Zr、Nb、Mo、InおよびSnから選択される少なくとも1種、0<a≦1.2、0≦b、c、d、e≦1およびb+c+d+e=1)で表されるものであることが好ましい。
【0024】
本発明の非水電解質二次電池において、上記層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が、LiCoO2で表されるコバルト酸リチウムであることが好ましい。
【0025】
本発明の非水電解質二次電池において、上記コバルトを含む化合物が、Co34、Co23、CoO、CoOOHおよびCoCO3からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0026】
本発明の非水電解質二次電池において、上記チタン含有酸化物が、チタン酸リチウムおよび/または二酸化チタンであることが好ましい。
【0027】
本発明の組電池は、本発明の非水電解質二次電池を複数個接続してなる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の非水電解質二次電池は、充放電サイクル時のガス発生がなく、優れたサイクル安定性、および優れた充電レート特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0030】
本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図されている。
【0031】
本発明の非水電解質二次電池は、負極、正極、セパレータ、および非水電解質で構成される。
【0032】
<1.負極>
本発明の非水電解質二次電池に用いる負極は、集電体上に、少なくとも負極活物質が含まれる負極活物質層が形成されている。この負極活物質層の性能向上のために、導電助剤やバインダーが含まれてもよい。
【0033】
本発明の非水電解質二次電池は、負極活物質としてチタン含有酸化物を含む。チタン含有酸化物としては、チタン酸リチウム、二酸化チタンが好ましい。中でも、材料自身の安定性が高いことから、チタン酸リチウムがより好ましく、リチウムイオンの挿入・脱離の反応における活物質の膨張収縮が小さい点から、スピネル構造のチタン酸リチウムが特に好ましい。チタン酸リチウムには、たとえばNbなどのリチウム、チタン以外の元素が微量含まれていてもよい。
【0034】
また、二酸化チタンとしては、B型二酸化チタン、アナターゼ型二酸化チタン、ラムズデライト型二酸化チタン等が例示されるが、不可逆容量が小さいこと、およびサイクル安定性に優れることから、B型二酸化チタンが好ましい。
【0035】
チタン含有酸化物の表面は、導電性向上、または安定性向上のため、炭素材料、金属酸化物、または高分子等で覆われてもよい。
【0036】
チタン含有酸化物は1種類でもよいし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0037】
本発明の負極には導電助剤を含有してもよい。導電助剤としては、特に限定されないが、金属材料、炭素材料が好ましい。金属材料としては、銅、およびニッケルなど、炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、およびファーネスブラックなどが挙げられる。これら導電助剤は1種類でもよいし、2種類以上用いてもよい。
【0038】
本発明において、負極に含まれる導電助剤の量は、負極活物質100重量部に対して、好ましくは1重量部以上30重量部以下、より好ましくは2重量部以上15重量部以下である。上記範囲であれば、負極の導電性が確保される。また、後述のバインダーとの接着性が維持され、集電体との接着性が十分に得ることができる。
【0039】
本発明の負極には、活物質を集電体に結着させるため、バインダーを使用してもよい。バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム、ポリイミドおよびそれらの誘導体からなる群からえらばれる少なくとも1種を用いることができる。バインダーは負極の作製しやすさから、非水溶媒または水に溶解または分散されていることが好ましい。非水溶媒は、特に限定されないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、およびテトラヒドロフランなどを挙げることができる。これらに分散剤、増粘剤を加えてもよい。
【0040】
本発明において、負極に含まれるバインダーの量は、負極活物質100重量部に対して、好ましくは1重量部以上30重量部以下、より好ましくは2重量部以上15重量部以下である。上記範囲であれば、負極活物質と導電助剤との接着性が維持され、集電体との接着性が十分に得ることができる。
【0041】
本発明の非水電解質二次電池における好ましい負極の一形態としては、負極活物質、導電助剤、およびバインダーの混合物で集電体上に負極活物質層を形成することによって作製されるが、作製方法の容易さから、上記混合物および溶媒でスラリーを作製し、得られたスラリーを集電体上に塗工した後に、溶媒を除去することによって負極を作製する方法が好ましい。
【0042】
本発明の負極に用いることのできる集電体は、銅、SUS、ニッケル、チタン、アルミニウムおよびそれらの合金が好ましい。
【0043】
集電体の厚みは、特に限定されないが、10μm以上100μm以下であることが好ましい。10μm未満では作製の観点から取り扱いが困難となり、100μmより厚い場合は経済的観点から不利になる。
【0044】
なお、集電体は、金属材料(銅、SUS、ニッケル、チタン、およびそれらの合金)の表面に負極の電位で反応しない他の金属を被覆したものも用いることもできる。
【0045】
本発明において、負極活物質層の厚みは、特に限定されないが、10μm以上200μm以下であることが好ましい。10μm未満では、所望の電気容量を得ることが難しい場合があり、200μmより厚い場合は、所望の出力密度を得ることが難しい場合がある。
【0046】
本発明において、負極活物質層の密度は、1.0g/cm3以上3.0g/cm3以下であることが好ましい。1.0g/cm3未満では、負極活物質と導電助剤との接触が不十分となり電子伝導性が低下する場合がある。3.0g/cm3より大きいと、後述の非水電解質が負極内に浸透しにくくなり、リチウムイオン伝導性が低下したり、後述の非水電解質に含まれる化合物が負極全体にいきわたらずガス発生抑止の効果が小さくなる傾向がある。負極活物質と導電助剤との接触が十分にあり、かつ後述の非水電解質が負極内に浸透しやすいことから、負極活物質層の密度は、1.3g/cm3以上、2.7g/cm3以下がさらに好ましく、負極活物質と導電助剤との接触と、非水電解質の負極内への浸透しやすさが最もバランスが取れている、1.5g/cm3以上、2.5g/cm3以下がとくに好ましい。
【0047】
前記負極活物質層の密度は、所望の厚みまで電極を圧縮することによって制御することが出来る。前記圧縮は、特に限定されないが、例えば、ロールプレス、油圧プレス等を用いておこなうことができる。電極の圧縮は、後述の正極を形成する前でも、後でもよい。また、前記負極活物質層の密度は、負極活物質層の厚みおよび重量から算出することが出来る。
【0048】
本発明において、負極活物質層の比表面積は、1m2/g以上、100m2/g以下であることが好ましい。本発明に使用するチタン酸リチウム、二酸化チタンに代表されるチタン含有酸化物は、黒鉛化合物やシリコン化合物に代表される従来の負極活物質と比べリチウムイオンの挿入・脱離の反応における活物質の膨張収縮が小さい。そのため、膨張収縮に伴う非水電解質のかき混ぜ効果が小さく、負極全体にリチウムイオンがいきわたりにくい。このことから、本発明に用いる負極は、ある一定以上のリチウムイオンが脱挿入する場所、すなわち比表面積を確保しなければならない。負極活物質層の比表面積が1m2/gより小さい場合、リチウムイオンの脱挿入する場所が少ないため、所望の電池容量を取り出せない可能性がある。一方、100m2/gより大きい場合は、リチウムイオンの脱挿入以外の副反応、例えば非水電解質の分解反応が進行しやすくなり、所望の電池容量を取り出せない可能性がある。
【0049】
所望の容量を発現できるリチウムイオンの脱挿入する場所が確保され、かつリチウムイオンの脱挿入以外の副反応が少ないことから、負極活物質層の比表面積は3m2/g以上、70m2/g以下がさらに好ましい。副反応の進行が最も小さく、かつリチウムイオンの脱挿入する最もバランスが取れている、5m2/g以上、50m2/g以下がとくに好ましい。
【0050】
前記負極活物質層の比表面積は、負極活物質、導電助剤、およびバインダーの種類および配合比で制御することができ、または、所望の厚みまで電極を圧縮することによっても制御することができる。
【0051】
前記負極活物質層の比表面積は、公知の方法、例えば、水銀圧入法、BET法、またはバブルポイント法で測定することができる。
【0052】
本発明において、負極の1cm2あたりの電気容量は、0.5mAh以上6.0mAh以下であることが好ましい。0.5mAh未満である場合は所望する容量の電池の大きさが大きくなる場合があり、一方、6.0mAhより多い場合は所望の出力密度を得ることが難しい場合がある。負極の1cm2あたりの電気容量の算出は、負極作製後、リチウム金属を対極とした半電池を作製した後に、充放電特性を測定することによって算出できる。負極の1cm2あたりの電気容量は、特に限定されないが、集電体単位面積あたりに形成する負極活物質層の重量で制御する方法、例えば、前述の負極活物質層のスラリー塗工時の塗工厚みで制御することができる。
【0053】
<2.正極>
本発明の非水電解質二次電池に用いる正極は、集電体上に、少なくとも正極活物質が含まれる正極活物質層が形成されている。この正極活物質層の性能向上のために、導電助剤やバインダーが含まれてもよい。
【0054】
本発明の非水電解質二次電池においては、正極活物質として、Li1+xyMn2-x-y4(0≦x≦0.2、0<y≦0.6、Mは2〜13族でかつ第3〜4周期に属する元素(但し、Mnは除く)からなる群から選択される少なくとも1種)で表されるスピネル型マンガン酸リチウム(以下、単に「スピネル型マンガン酸リチウム」ともいう。)、並びに、コバルトを含む化合物および/または層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む。
【0055】
(スピネル型マンガン酸リチウム)
前記Li1+xyMn2-x-y4(0≦x≦0.2、0<y≦0.6、Mは2〜13族でかつ第3〜4周期に属する元素(但し、Mnは除く)からなる群から選択される少なくとも1種)で表されるスピネル型マンガン酸リチウムは、正極活物質自身の安定性向上の効果が大きい点から、2〜13族でかつ第3〜4周期に属する元素は、Al、Mg、Zn、Ni、Co、Fe、Ti、CuおよびCrが好ましく、Al、Mg、Zn、Ni、TiおよびCrがより好ましく、正極活物質自身の安定性向上の効果が特に大きいことから、Al、Mg、Zn、TiおよびNiが特に好ましい。
【0056】
前記Li1+xyMn2-x-y4のxは、0≦x≦0.2である。x<0の場合は、正極活物質の容量が減少する傾向があり、一方、x>0.2の場合は炭酸リチウムなどの不純物が多く含まれる恐れがある。
【0057】
前記Li1+xyMn2-x-y4のyは、0<y≦0.6である。y=0の場合は、正極活物質の安定性が低下する傾向があり、一方、y>0.6の場合はMの酸化物などの不純物が多く含まれる恐れがある。
【0058】
これらのスピネル型マンガン酸リチウムの中でも、後述の非水電解質との組み合わせで、ガス発生減少、および充電終止電圧の高電圧化の効果が大きいことから、Li1+xAlyMn2-x-y4(0≦x≦0.1、0<y≦0.1)、Li1+xMgyMn2-x-y4(0≦x≦0.1、0<y≦0.1)、Li1+xZnyMn2-x-y4(0≦x≦0.1、0<y≦0.1)、Li1+xCryMn2-x-y4(0≦x≦0.1、0<y≦0.1)、Li1+xNiyMn2-x-y4(0≦x≦0.05、0.45≦y≦0.5)、Li1+xNiy-zAlzMn2-x-y4(0≦x≦0.05、0.45≦y≦0.5、0.005≦z≦0.03)、およびLi1+xNiy-zTizMn2-x-y4(0≦x≦0.05、0.45≦y≦0.5、0.005≦z≦0.03)から選ばれる1種が好ましく、より大きい効果が得られる、Li1+xAlyMn2-x-y4(0≦x≦0.1、0<y≦0.1)、Li1+xMgyMn2-x-y4(0≦x≦0.1、0<y≦0.1)、Li1+xNiyMn2-x-y4(0≦x≦0.05、0.45≦y≦0.5)、およびLi1+xNiy-zTizMn2-x-y4(0≦x≦0.05、0.45≦y≦0.5、0.005≦z≦0.03)が特に好ましい。
【0059】
(コバルトを含む化合物)
前記コバルトを含む化合物は、上記のようなスピネル型マンガン酸リチウム、並びに、後述の層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物とは異なり、Liを含まないコバルト化合物を意味する。本発明のコバルトを含む化合物、すなわちLiを含まないコバルト化合物としては、コバルト酸化物、コバルト水酸化物、炭酸コバルト、塩化コバルト、硫酸コバルト、コバルト含有有機化合物、およびフッ化コバルトが例示される。これらの中でも、後述の非水電解質との組み合わせで、ガス発生減少、および充電終止電圧の高電圧化の効果が大きいことから、コバルト酸化物、コバルト水酸化物、および炭酸コバルトが好ましく、特に大きい効果が得られる、Co34、Co23、CoO、CoOOHおよびCoCO3は特に好ましい。
【0060】
(層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物)
前記層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物は、LiaNibCocMnde2(但し、Xは、B、Mg、Al、Si、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Zr、Nb、Mo、In、Snからなる群から選択される少なくとも1種、0<a≦1.2、0≦b、c、d、e≦1、およびb+c+d+e=1)で表される化合物が好ましい。これらの中でも、後述の非水電解質との組み合わせで、ガス発生減少、および充電終止電圧の高電圧化の効果が大きいことから、LiNi1/3Co1/3Mn1/32、LiNi0.5Co0.2Mn0.32、LiNi0.5Mn0.52、LiMn0.4Ni0.4Co0.22、LiMn0.1Ni0.1Co0.82、LiNi0.8Co0.16Al0.042、LiNi0.8Co0.15Al0.052、LiNiO2、LiMnO2、およびLiCoO2から選ばれる1種がより好ましく、特に大きい効果が得られる、LiCoO2が特に好ましい。これら層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物には、LiaNibCocMnde2のaが1より大きい、いわゆるリチウムリッチ系もふくまれる。
【0061】
本発明に用いられる正極は、前記スピネル型マンガン酸リチウムの重量をAとし、前記コバルトを含む化合物および/または層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の重量をBとした場合に0.01≦B/(A+B)≦0.1の範囲で、前記スピネル型マンガン酸リチウム、および前記コバルトを含む化合物および/または層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が含まれる。前記範囲の場合、後述の非水電解質との組み合わせで、ガス発生抑止の効果が大きく、さらに充電終止電圧の高電圧化の効果が大きいことがわかった。B/(A+B)が0.01未満の場合は、これら材料と、チタン含有酸化物と、後述の非水電解質に含まれる化合物との組み合わせ効果によるサイクル運転時においてガス発生抑止の効果が発現しない恐れがある。また、充電終止電圧を高電圧化した際、高電圧化に伴うガス発生抑止の効果も小さい恐れがある。一方、B/(A+B)が0.1より大きい場合は、過充電等正極の電位が高くなった際、前記コバルトを含む化合物および/または層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の分解反応が優先的に進行し、酸素放出や発熱反応が暴走し、電池の破裂等がおこるおそれが非常に高くなる。
【0062】
前記B/(A+B)は、後述の非水電解質との組み合わせ効果によるサイクル運転時においてガス発生抑止、および充電終止電圧の高電圧化の効果がさらに大きいことから、前記範囲は、0.02≦B/(A+B)≦0.1が好ましく、前記効果が特に大きいことから前記範囲は、0.02≦B/(A+B)<0.05であることがより好ましい。
【0063】
本発明の非水電解質二次電池において、前記正極が、正極活物質として、スピネル型マンガン酸リチウム、並びに、層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含むことがより好ましい。
【0064】
本発明では、負極活物質としてチタン含有酸化物を含む負極でのガス発生を抑制するために、特定骨格を有することでチタン酸リチウムの活性点に配位し、かつ、重合して負極を被覆する作用を有する化合物を含む非水電解質を用いるが、初期段階では前記重合による負極の被覆が不十分のため、負極において、ある程度のガスは発生する。この初期段階で発生するガスを吸収するために、コバルト酸リチウムなどの層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を正極に添加することが考えられる。しかし、これらリチウム遷移金属複合酸化物は層状構造を有するため、正極に添加した場合、充電状態ではリチウムイオン(Li+)が抜け出して構造を維持できず、層が剥がれて、電池の寿命は短くなる、と推測される。ところが、本発明者らは、コバルト酸リチウムの層中に取り込まれた水素は、充電時に抜け出すリチウムイオン(Li+)とは異なり、コバルト酸リチウムに一旦取り込まれると、その層中に維持され、抜け出すリチウムイオン(Li+)に代わってコバルト酸リチウムの層構造を維持し、結果的に、初期段階で発生する水素ガスを吸収し、かつ安定的に取り込める正極電極が得られることを見出した。これにより、本発明によれば、負極における水素の発生と正極における水素ガスの吸収とのバランスを維持することで、負極活物質としてチタン含有酸化物を含み、初期段階から継続的にガス発生が抑止された、長期に安定な二次電池を提供することができると推察される。
【0065】
前記のようなコバルト酸リチウムなどの層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物でなく、Liを含まないコバルト化合物でも、活物質としてチタン含有酸化物を含む負極での水素ガスの発生を抑制する一定の効果はある。しかし、完全にガス発生を抑えるまでには至らず、また、酸化コバルトの場合、上記コバルト酸リチウムと異なり、一旦吸収した水素も、充放電の状態によっては、一定程度放出される。そのように、微妙に系中に放出される水素ガスであっても、結果的に二次電池の容量等を低下させる原因となりうる。
【0066】
したがって、正極活物質としてスピネル型マンガン酸リチウムとともに含まれる物質としては、ガス発生抑止効果の観点から、コバルトを含む化合物(Liを含まないコバルト化合物)よりも、コバルト酸リチウムのような層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物がより好ましい。
【0067】
本発明に用いられる正極活物質の表面は、導電性向上、または安定性向上のため、炭素材料、金属酸化物、または高分子等で覆われてもよい。
【0068】
本発明の正極には導電助剤を含有させてもよい。導電助剤としては、特に限定されないが、炭素材料が好ましい。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、およびファーネスブラックなどが挙げられる。これら炭素材料は1種類でもよいし、2種類以上用いてもよい。
【0069】
本発明の正極に含まれる導電助剤の量は、正極活物質100重量部に対して、好ましくは1重量部以上30重量部以下、より好ましくは2重量部以上15重量部以下である。上記範囲であれば、正極の導電性が確保される。また、後述のバインダーとの接着性が維持され、集電体との接着性が十分に得ることができる。
【0070】
本発明の正極にはバインダーを含有させてもよい。バインダーは、特に限定されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム、ポリイミド、およびそれらの誘導体からなる群からえらばれる少なくとも1種を用いることができる。バインダーは正極の作製しやすさから、非水溶媒または水に溶解または分散されていることが好ましい。非水溶媒は、特に限定されないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、およびテトラヒドロフランなどを挙げることができる。これらに分散剤、増粘剤を加えてもよい。
【0071】
本発明の正極に含まれるバインダーの量は、正極活物質100重量部に対して、好ましくは1重量部以上30重量部以下、より好ましくは2重量部以上15重量部以下である。上記範囲であれば、正極活物質と導電助剤との接着性が維持され、集電体との接着性が十分に得ることができる。
【0072】
本発明の正極の作製方法としては、前記スピネル型マンガン酸リチウムと、前記コバルトを含む化合物および/または層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物とを混合した後に、導電助剤、およびバインダーとを混合した混合物を集電体上に塗工することによって作製する方法、前記スピネル型マンガン酸リチウムと、前記コバルトを含む化合物および/または層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物と、導電助剤と、バインダーとを一緒に混合した混合物を集電体上に塗工することによって作製する方法などが挙げられる。これらの中でも、作製方法の容易さから、前記混合物および溶媒でスラリーを作製し、得られたスラリーを集電体上に塗工した後に、溶媒を除去することによって正極を作製する方法が好ましい。
【0073】
本発明の正極に用いる集電体は、アルミニウムおよびその合金であることが好ましい。前記アルミニウムは、正極反応雰囲気下で安定であることから、特に限定されないが、JIS規格1030、1050、1085、1N90、1N99等に代表される高純度アルミニウムであることが好ましい。
【0074】
集電体の厚みは、特に限定されないが、10μm以上100μm以下であることが好ましい。10μm未満では作製の観点から取り扱いが困難となり、100μmより厚い場合は経済的観点から不利になる。
【0075】
なお、集電体は、アルミニウム以外の金属(銅、SUS、ニッケル、チタン、およびそれらの合金)の表面にアルミニウムを被覆したものも用いることもできる。
【0076】
本発明の正極活物質層の厚みは、特に限定されないが、10μm以上200μm以下であることが好ましい。10μm未満では所望の容量を得ることが難しい場合があり、一方、200μmより厚い場合は所望の出力密度を得ることが難しい場合がある。
【0077】
本発明の正極活物質層の密度は、1.0g/cm3以上4.0g/cm3以下であることが好ましい。1.0g/cm3未満であると、正極活物質と導電助剤との接触が不十分となり電子伝導性が低下する場合がある。一方、4.0g/cm3より大きいと、電解液が正極内に浸透しにくくなり、リチウム伝導性が低下する場合がある。正極活物質と導電助剤との接触が十分にあり、かつ後述の非水電解質が正極内に浸透しやすいことから、正極の密度は、1.5g/cm3以上、3.5g/cm3以下がさらに好ましく、正極活物質と導電助剤との接触と、非水電解質の正極内への浸透しやすさが最もバランスが取れている、2.0g/cm3以上、3.0g/cm3以下が特に好ましい。
【0078】
前記正極活物質層の密度は、所望の厚みまで電極を圧縮することによって制御することが出来る。前記圧縮は、特に限定されないが、例えば、ロールプレス、油圧プレス等を用いておこなうことができる。電極の圧縮は、前述の負極を形成する前でも、後でもよい。なお、前記正極活物質層の密度は、正極活物質層の厚みおよび重量から算出することが出来る。
【0079】
本発明において、正極活物質層の比表面積は、1m2/g以上、100m2/g以下であることが好ましい。本発明に使用するスピネル型マンガン酸リチウムは、LiCoO2に代表される従来の正極活物質と比べリチウムイオンの挿入・脱離の反応における活物質の膨張収縮が小さい。本発明では、前記スピネル型マンガン酸リチウムの重量をAとし、前記コバルトを含む化合物および/または層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の重量をBとした場合に0.01≦B/(A+B)≦0.1の範囲で含まれているが、LiCoO2に代表される従来の正極活物質を100%使用したものと比べ、正極全体の膨張収縮に伴う非水電解質のかき混ぜ効果が小さく、正極全体にリチウムイオンがいきわたりにくい。このことから、本発明の正極活物質層には、ある一定以上のリチウムイオンの脱挿入する場所、すなわち正極活物質層の比表面積を確保しなければならない。1m2/gより小さい場合、リチウムイオンの脱挿入する場所が少ないため、所望の電池容量を取り出せない可能性がある。一方、100m2/gより大きい場合は、リチウムイオンの脱挿入以外の副反応、例えば非水電解質の分解反応が進行しやすくなり、本発明の組み合わせでガス発生を抑止することができない恐れがある。
【0080】
所望の容量を発現できるリチウムイオンの脱挿入する場所が確保され、かつリチウムイオンの脱挿入以外の副反応が少ないことから、3m2/g以上、70m2/g以下がさらに好ましい。副反応の進行が最も小さく、かつリチウムイオンの脱挿入する場所の確保のバランスが最も良好である、5m2/g以上、50m2/g以下がとくに好ましい。
【0081】
前記正極活物質層の比表面積は、正極活物質、導電助剤、およびバインダーの種類および配合比で制御することができ、または、所望の厚みまで電極を圧縮することによっても制御することができる。
【0082】
前記正極活物質層の比表面積は、公知の方法、例えば、水銀圧入法、BET法、またはバブルポイント法で測定することができる。
【0083】
本発明の正極は、正極1cm2あたりの電気容量が0.5mAh以上5.0mAh以下であることが好ましい。0.5mAh未満である場合は所望する容量の電池の大きさが大きくなる傾向があり、5.0mAhより多い場合は所望の出力密度を得ることが難しくなる傾向がある。正極1cm2あたりの電気容量の算出は、正極作製後、リチウム金属を対極とした半電池を作製した後に、充放電特性を測定することによって算出してもよい。
【0084】
前記正極1cm2あたりの電気容量は、特に限定されないが、集電体単位面積あたりに形成させる正極活物質層の重量で制御する方法、例えば、前述の正極活物質層のスラリー塗工時の塗工厚みで制御することができる。
【0085】
<3.セパレータ>
本発明の非水電解質二次電池に用いるセパレータは、前述の正極と負極との間に設置され、絶縁性で、かつ後述の非水電解質を含むことが出来る構造であればよく、例えば、ナイロン、セルロース、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタラート、及びそれらを2種類以上複合したものの、織布、不織布、微多孔膜などが挙げられる。サイクル特性の安定性が優れることから、ナイロン、セルロース、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリポロピレン、ポリブテン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタラート、及びそれらを2種類以上複合したものの不織布であることが好ましい。
【0086】
セパレータには、各種可塑剤、酸化防止剤、難燃剤が含まれてもよいし、金属酸化物等が被覆されていてもよい。
【0087】
セパレータの厚みは、特に限定されないが、10μm以上100μm以下であることが好ましい。10μm未満の場合、正極と負極とが接触してショートする場合があり、100μmより厚い場合は電池の抵抗が高くなる場合がある。経済性、取り扱いの観点から、15μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。
【0088】
前記セパレータの空隙率は、30%以上、90%以下であることが好ましい。30%未満であると、リチウムイオンの拡散性が低下するためサイクル特性が著しく低下し、一方、90%より高い場合は、電極の凹凸がセパレータを貫通しショートする恐れが非常に高くなる。リチウムイオンの拡散性の確保、およびショートの防止のバランスの観点から、35%以上、85%以下がより好ましく、前記バランスが特に優れていることから、40%以上、80%以下が特に好ましい。
前記空隙率は、公知の方法、例えば、水銀圧入法、またはバブルポイント法で測定することができる。
【0089】
<4.非水電解質>
本発明の非水電解質二次電池に用いる非水電解質としては、特に限定されないが、非水溶媒に溶質を溶解させた非水電解液を用いることができる。前記非水電解質としての非水電解液は、これを高分子に含浸させたゲル電解質として用いることもできる。
【0090】
非水溶媒としては、環状の非プロトン性溶媒及び/又は鎖状の非プロトン性溶媒を含むことが好ましい。環状の非プロトン性溶媒としては、環状カーボネート、環状エステル、環状スルホン及び環状エーテルなどが例示される。鎖状の非プロトン性溶媒としては、鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル、鎖状エーテル、及びアセトニトリルなどの一般的に非水電解質の溶媒として用いられる溶媒を用いても良い。より具体的には、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、1,2−ジメトキシエタン、スルホラン、ジオキソラン、プロピオン酸メチルなどを用いることができる。これら溶媒は1種類で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよいが、後述の溶質を溶解させやすさ、リチウムイオンの伝導性の高さから、2種類以上混合した溶媒を用いることが好ましい。
【0091】
2種類以上の溶媒を混合する場合、高温時の安定性が高く、且つ低温時のリチウム伝導性が高いことから、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、およびメチルプロピルカーボネートに例示される鎖状カーボネートのうち1種類以上、と、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチルラクトンに例示される環状化合物のうち1種類以上との混合が好ましく、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、およびジエチルカーボネートに例示される鎖状カーボネートのうち1種類以上と、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートに例示される環状カーボネートのうち1種類以上との混合が特に好ましい。
【0092】
前記鎖状カーボネートと、前記環状カーボネートとの混合比は、前記鎖状カーボネート:前記環状カーボネート=5体積%:95体積%〜95体積%:5体積%の範囲であることが好ましい。鎖状カーボネートが5体積%未満、かつ環状カーボネートが95体積%より多い場合は、非水溶媒の粘度が高すぎるため所望の電池特性、とくにレート特性が得られない恐れがある。一方、鎖状カーボネートが95体積%より多く、かつ環状カーボネート5が体積%未満の場合は、後述の溶質を所望の量を溶解させることが困難となる。所望の粘度と溶質量とのバランスが良好であることから、前記混合比は、前記鎖状カーボネート:前記環状カーボネート=10体積%:90体積%〜90体積%:10体積%の範囲であることがより好ましく、前記バランスが特に良好であることから、前記鎖状カーボネート:前記環状カーボネート=20体積%:80体積%〜80体積%:20体積%の範囲であることが特に好ましい。
【0093】
前記溶質は、特に限定されないが、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiCF3SO3、LiBOB(Lithium Bis (Oxalato) Borate)、LiN(SO2CF32などは溶媒に溶解しやすいことから好ましい。電解液に含まれる溶質の濃度は、0.5mol/L以上2.0mol/L以下であることが好ましい。0.5mol/L未満では所望のリチウムイオン伝導性が発現しない場合があり、一方、2.0mol/Lより高いと、溶質がそれ以上溶解しない場合がある。
【0094】
本発明の非水電解質には、シュウ酸骨格を有する有機化合物、イソシアナト基を有する有機化合物、スルホン酸骨格を有する有機化合物のリチウム塩、および、炭素数3以上の側鎖を有する無水コハク酸化合物からなる群から選択される1種が、非水電解質100重量%において0.01〜5重量%含まれる。
【0095】
前記シュウ酸骨格を有する有機化合物は、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0096】
【化5】
【0097】
式(1)中のXは、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、または炭素数2〜6のアルキニル基を示す。
【0098】
一般式(1)の炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。これらの中から、サイクル安定性の向上、及びガス発生抑止の効果の観点から、好ましくは炭素数1〜5であり、より好ましく炭素数1〜4である。
【0099】
一般式(1)の炭素数2〜6のアルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、1−プロペン−1−イル基、2−ブテン−1−イル基、3−ブテン−1−イル基、4−ペンテン−1−イル基、5−ヘキセン−1−イル基、1−プロペン−2−イル基、3−メチル−2−ブテン−1−イル基が挙げられる。これらの中から、サイクル安定性の向上、及びガス発生抑止の効果の観点から、好ましくは炭素数2〜5であり、より好ましく炭素数2〜4である。
【0100】
一般式(1)の炭素数2〜6のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、2−プロピニル基、3−ブチニル基、1−メチル−2−プロピニル基が挙げられる。これらの中から、サイクル安定性の向上、及びガス発生抑止の効果の観点から、好ましくは炭素数2〜5であり、より好ましく炭素数3〜5である。
【0101】
これらの中でも、本発明の非水電解質二次電池に用いられる一般式(1)で表される化合物としては、チタン含有酸化物を負極活物質として含む負極、およびスピネル型マンガン酸リチウム、並びに、コバルトを含む化合物および/または層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極との組み合わせにより、ガス発生抑止の効果、さらに、充電終止電圧を従来の電圧よりも高くできる効果が特に大きいことから、ジ(2−プロピニル)オギザレート、ジ(1−メチル−2−プロピニル)オギザレート、ジ(2−ブチニル)オギザレート、ジ(3−ブチニル)オギザレート、ジ(1−メチル−2−ブチニル)オギザレート、ジ(1,1−ジメチル−2−プロピニル)オギザレート、ジ(1,1−ジメチル−2−ブチニル)オギザレートであることが特に好ましい。
【0102】
シュウ酸骨格を有する有機化合物として、これらの化合物を一種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0103】
前記イソシアナト基を有する有機化合物は、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0104】
【化6】
【0105】
一般式(2)中、R1は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜6のアルキルオキシ基、炭素数2〜6のアルケニルオキシ基、炭素数2〜6のイソシアナトアルキルオキシ基、または、炭素数6〜12のアリールオキシ基である。ここでいうアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、およびイソシアナトアルキルオキシ基は、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0106】
炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜6のアルキルオキシ基、炭素数2〜6のアルケニルオキシ基、および、炭素数2〜6のイソシアナトアルキルオキシ基の具体的な構造は次のとおりである。
【0107】
炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、iso−プロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。
【0108】
炭素数2〜6のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1−プロペン−1−イル基、2−ブテン−1−イル基、3−ブテン−1−イル基、4−ペンテン−1−イル基、5−ヘキセン−1−イル基、1−プロペン−2−イル基、3−メチル−2−ブテン−1−イル基などが挙げられる。
【0109】
炭素数6〜12のアリール基としては、例えば、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、2,6−ジフルオロフェニル基、3,4−ジフルオロフェニル基、2,4,6−トリフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基などが挙げられる。
【0110】
炭素数1〜6のアルキルオキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
【0111】
炭素数2〜6のアルケニルオキシ基としては、ビニルオキシ基、アリルオキシ基などが挙げられる。
【0112】
炭素数2〜6のイソシアナトアルキルオキシ基としては、イソシアナトエチルオキシ基などが挙げられる。
【0113】
炭素数6〜12のアリールオキシ基としては、フェニルオキシ基などが挙げられる。
【0114】
これらの中でも、ガス発生抑止およびサイクル安定性向上の効果が特に良好であることから、一般式(2)中のR1としては、ビニル基、1−プロペン−1−イル基、または1−プロペン−2−イル基が好ましい。
【0115】
一般式(2)中、Yは、少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子に置換されてもよい炭素数1〜6のアルキレン基、もしくは、少なくとも一つのエーテル結合を含む炭素数2〜6の2価の連結基である。
【0116】
炭素数1〜6のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−ヘキシレン基などが上げられる。
【0117】
少なくとも一つのエーテル結合を含む炭素数2〜6の2価の連結基としては、−(CH22−O−、−(CH23−O−、−(CH24−O−、−(CH25−O−、−(CH26−O−、−CH2−O−CH2−、−CH2−O−(CH22−、−CH2−O−(CH23−、−CH2−O−(CH24−、−CH2−O−(CH25−、−(CH22−O−(CH22−、−(CH22−O−(CH23−、−(CH23−O−(CH23−などが例示される。
【0118】
これらの中でも、ガス発生抑止およびサイクル安定性向上の効果が特に良好であることから、一般式(2)中のYとしては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基が好ましい。
【0119】
これらの中でも、本発明の非水電解質二次電池に用いられる一般式(2)で表される化合物としては、チタン含有酸化物を負極活物質として含む負極と、スピネル型マンガン酸リチウム、並びに、コバルトを含む化合物および/または層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極との組み合わせにより、ガス発生抑止の効果、さらに、充電終止電圧を従来の電圧よりも高くできる効果が特に大きいことから、2−イソシアナトエチルアクリレート、2−イソシアナトエチルメタクリレート、2−イソシアナトエチルクロトネート、2−(2−イソシアナトエトキシ)エチルアクリレート、2−(2−イソシアナトエトキシ)メタクリレート、2−(2−イソシアナトエトキシ)エチルクロトネート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネートが好ましい。
【0120】
イソシアナト基を有する有機化合物として、これらの化合物を一種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0121】
前記スルホン酸骨格を有する有機化合物は、下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【0122】
【化7】
【0123】
一般式(3)中、R2は、炭素数1〜6のアルキル基である。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられ、好ましくは、炭素数1〜5のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。
【0124】
一般式(3)中、Mは、BF3またはPF5である。
【0125】
これらの中でも、本発明の非水電解質二次電池に用いられる一般式(3)で表される化合物としては、チタン含有酸化物を負極活物質として含む負極と、スピネル型マンガン酸リチウム、並びに、コバルトを含む化合物および/または層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極との組み合わせにより、ガス発生抑止の効果、さらに、充電終止電圧を従来の電圧よりも高くできる効果が特に大きいことから、R2は、メチル基、エチル基、プロピル基からなる群から選ばれる少なくとも1種、かつMは、BF3であることが好ましい。
【0126】
スルホン酸骨格を有する有機化合物として、これらの化合物を一種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0127】
前記炭素数3以上の側鎖を有する無水コハク酸化合物は、下記一般式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【0128】
【化8】
【0129】
一般式(4)中、R3およびR4は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、または少なくとも1つの水素原子がハロゲンで置換されてもよい炭素数1〜6のアルキル基を示す。R5は、末端に二重結合を有する炭素数2〜4のアルケニル基、または末端に三重結合を有する炭素数2〜4のアルキニル基を示す。
【0130】
ガス発生抑止およびサイクル安定性向上の効果が良好であることから、R3およびR4は、水素原子のみ、または水素原子と炭素数1〜6のアルキル基との組み合わせが好ましく、水素原子のみ、または水素原子と炭素数1〜3のアルキル基との組み合わせがより好ましい。
【0131】
このとき、R5は、末端に二重結合を有する炭素数2〜4のアルケニル基、または末端に三重結合を有する炭素数2〜4のアルキニル基のいずれでも良い。前記R3およびR4との組み合わせの効果が大きいことから、R5は、末端に二重結合を有する炭素数2〜4のアルケニル基であることが好ましい。
【0132】
5の具体的な構造としては、アリル基、3−メチルアリル基、3,3−ジメチルアリル基、2−メチルアリル基、2,3−ジメチルアリル基、2,3,3−トリメチルアリル基、2−プロピン−1−イル基、1−メチル−2−プロピン−1−イル基、1,2−ジメチル−2−プロピン−1−イル基などが挙げられる。
【0133】
一般式(4)で表される具体的な化合物としては、例えば、3−アリルジヒドロフラン−2,5−ジオン、3−(3−メチルアリル)ジヒドロフラン−2,5−ジオン、3−(3,3−ジメチルアリル)ジヒドロフラン−2,5−ジオン、3−(2−メチルアリル)ジヒドロフラン−2,5−ジオン、3−(2,3−ジメチルアリル)ジヒドロフラン−2,5−ジオン、3−(2,3,3−トリメチルアリル)ジヒドロフラン−2,5−ジオン、3−(2−プロピン−1−イル)ジヒドロフラン−2,5−ジオン、3−(1−メチル−2−プロピン−1−イル)ジヒドロフラン−2,5−ジオン、及び3−(1,2−ジメチル−2−プロピン−1−イル)ジヒドロフラン−2,5−ジオンが好ましい。
【0134】
これら化合物の中でも、本発明の非水電解質二次電池に用いられる一般式(4)で表される化合物としては、チタン含有酸化物を負極活物質として含む負極と、スピネル型マンガン酸リチウム、並びに、コバルトを含む化合物および/または層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極との組み合わせにより、ガス発生抑止の効果、さらに、充電終止電圧を従来の電圧よりも高くできる効果が特に大きいことから、3−アリルジヒドロフラン−2,5−ジオン、3−(3−メチルアリル)ジヒドロフラン−2,5−ジオン、3−(3,3−ジメチルアリル)ジヒドロフラン−2,5−ジオン、3−(2−メチルアリル)ジヒドロフラン−2,5−ジオン、3−(2,3−ジメチルアリル)ジヒドロフラン−2,5−ジオン、3−(2,3,3−トリメチルアリル)ジヒドロフラン−2,5−ジオンがより好ましい。
【0135】
炭素数3以上の側鎖を有する無水コハク酸化合物として、これらの化合物を1種のみを使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0136】
シュウ酸骨格を有する有機化合物、イソシアナト基を有する有機化合物、スルホン酸骨格を有する有機化合物のリチウム塩、および、炭素数3以上の側鎖を有する無水コハク酸化合物からなる群から選択される1種は、非水電解質100重量%において0.01〜5重量%含まれる。5重量%を超える場合、非水電解質自身の粘度上昇によりリチウムイオン伝導度が低下し、それに伴い電池性能、とくにレート特性が低下する恐れがある。一方、0.01重量%よりも少ない場合は、負極側に十分な被膜が形成されず、電解液と負極との副反応、または正極側で生成した分解物と負極との反応によるガス発生を抑止することが出来ない恐れがある。非水電解質自身の粘度上昇が小さく、かつ負極側に十分な被膜が形成されるバランスがより優れることから、0.02〜4重量%が好ましく、0.05〜3重量%がより好ましい。
【0137】
また、前記非水電解質は、高分子に非水電解液を含浸させたゲル状電解質としても用いることができる。
【0138】
<5.非水電解質二次電池>
本発明の非水電解質二次電池の正極および負極は、集電体の両面に同じ電極を形成させた形態であってもよく、集電体の片面に正極、他方の面に負極を形成させた形態、すなわち、バイポーラ電極であってもよい。
【0139】
本発明の非水電解質二次電池は、正極側と負極側との間にセパレータを配置したものを倦回したものであってもよいし、積層したものであってもよい。正極、負極、およびセパレータには、リチウムイオン伝導を担う非水電解質が含まれている。
【0140】
本発明の非水電解質二次電池における正極の電気容量と負極の電気容量との比は、下記式(5)を満たすことが好ましい。
1≦D/C≦1.2 (5)
(但し、式(5)中、Cは正極1cm2あたりの電気容量を示し、Dは負極1cm2あたりの電気容量を示す。)
【0141】
D/Cが1未満である場合は、過充電時に負極の電位がリチウムの析出電位になる場合があるため、電池がショートする危険性が生じる。一方、D/Cが1.2より大きい場合は電池反応に関与しない負極活物質が多いために過剰の副反応が進行し、本発明の構成でもガス発生を抑止できない場合がある。
【0142】
本発明の非水電解質二次電池における正極と負極との面積比は、特に限定されないが、下記式(6)を満たすことが好ましい。
1≦F/E≦1.2 (6)
(但し、式(6)中、Eは正極の面積、Fは負極の面積を示す。)
【0143】
F/Eが1未満である場合は、例えば先述のD/C=1の場合、負極の容量が正極よりも小さくなるため、過充電時に負極の電位がリチウムの析出電位となり、電池がショートする危険性が生じる。一方、F/Eが1.2より大きい場合は、正極と相対していない部分の負極が大きいため、電池反応に関与しない負極活物質が多いため過剰な副反応が進行し、本発明の構成でもガス発生を抑止できない場合がある。正極および負極の面積の制御は特に限定されないが、例えば、各極活物質層のスラリー塗工の際、塗工幅を制御することによって行うことができる。
【0144】
本発明の非水電解質二次電池に用いるセパレータと負極との面積比は特に限定されないが、下記式(7)を満たすことが好ましい。
1≦H/G≦1.5 (7)
(但し、式(7)中、Gは負極の面積、Hはセパレータの面積を示す。)
【0145】
H/Gが1未満である場合は、正極と負極とが接触してショートし、電池として機能しなくなる場合がある。一方、H/Gが1.5より大きい場合は外装に要する体積が大きくなり、電池の出力密度が低下する場合がある。
【0146】
本発明の非水電解質二次電池に用いる非水電解質の量は、特に限定されないが、電池容量1Ahあたり、0.1mL以上であることが好ましい。0.1mL未満の場合、電極反応に伴うリチウムイオンの伝導が追いつかず、所望の電池性能が発現しない場合がある。
【0147】
非水電解質は、あらかじめ正極、負極およびセパレータに含ませてもよいし、正極側と負極側との間にセパレータを配置したものを倦回、または積層した後に添加してもよい。
【0148】
本発明の非水電解質二次電池は、上記積層体を倦回、または複数積層した後にラミネートフィルムで外装してもよいし、角形、楕円形、円筒形、コイン形、ボタン形、シート形の金属缶で外装してもよい。外装には発生したガスを放出するための機構が備わっていてもよい。積層体の積層数は、所望の電圧値、電池容量を発現するまで積層させることができる。
【0149】
本発明の非水電解質二次電池は、複数接続することによって組電池とすることができる。本発明の組電池は、所望の大きさ、容量、電圧によって適宜直列、並列に接続することによって作製することができる。また、各電池の充電状態の確認、安全性向上のため、前記組電池に制御回路が付属されていることが好ましい。
【実施例】
【0150】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0151】
(正極の製造例1)
製造例1の正極に用いる正極活物質として、スピネル型のマンガン酸リチウム(Li1.1Al0.1Mn1.84)、と、コバルト酸リチウム(LiCoO2)とを用いた。
スピネル型のマンガン酸リチウム(Li1.1Al0.1Mn1.84)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、導電助剤(アセチレンブラック)、およびバインダー(PVdF)を、それぞれ固形分濃度で99重量部、1重量部、5重量部、および5重量部の割合で混合した混合物のスラリーを作製した。このときB/(A+B)=0.01となる。なお、バインダーは固形分濃度5wt%のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液に調整したものを使用し、後述の塗工をしやすいように、さらにNMPを加えて粘度調整した。
【0152】
このスラリーをアルミニウム箔(20μm)に塗工した後に、120℃のオーブンで乾燥させた後、さらに170℃で真空乾燥することによって正極(50cm2)を作製した。
【0153】
正極の容量は次の充放電試験で測定した。
前述と同様にアルミニウム箔の片面に塗工した電極を16mmΦに打ち抜き動作極とし、Li金属を16mmΦに打ち抜き対極とした。これらの電極を用いて、動作極(片面塗工)/セパレータ/Li金属の順に試験セル(HSセル、宝泉株式会社製)内に積層し、非水電解質(エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート=30/70vol%、LiPF6 1mol/L)を0.15mL入れ、半電池を作製した。この半電池を25℃で一日放置した後、充放電試験装置(HJ1005SD8、北斗電工株式会社製)に接続した。この半電池を25℃、0.4mAで定電流充電(終止電圧:4.5V)および定電流放電(終止電圧:3.5V)を5回繰り返し、5回目の結果を正極の容量とした。その結果、正極の容量は、1.0mAh/cm2であった。
【0154】
(正極の製造例2)
製造例2の正極は、スピネル型のマンガン酸リチウム(Li1.1Al0.1Mn1.84)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、導電助剤(アセチレンブラック)、およびバインダー(PVdF)を、それぞれ固形分濃度で96重量部、4重量部、5重量部、および5重量部の割合で混合して混合物を作製したこと以外は、製造例1と同様に作製した。その結果、正極の容量は、1.0mAh/cm2であった。このときB/(A+B)=0.04となる。
【0155】
(正極の製造例3)
製造例3の正極は、スピネル型のマンガン酸リチウム(Li1.1Al0.1Mn1.84)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、導電助剤(アセチレンブラック)、およびバインダー(PVdF)を、それぞれ固形分濃度で90重量部、10重量部、5重量部、および5重量部の割合で混合して混合物を作製したこと以外は、製造例1と同様に作製した。その結果、正極の容量は、1.0mAh/cm2であった。このときB/(A+B)=0.10となる。
【0156】
(正極の製造例4)
製造例4の正極は、スピネル型のマンガン酸リチウム(Li1.1Al0.1Mn1.84)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、導電助剤(アセチレンブラック)、およびバインダー(PVdF)を、それぞれ固形分濃度で85重量部、15重量部、5重量部、および5重量部の割合で混合して混合物を作製したこと以外は、製造例1と同様に作製した。その結果、正極の容量は、1.0mAh/cm2であった。このときB/(A+B)=0.15となる。
【0157】
(正極の製造例5)
製造例5の正極は、コバルト酸リチウムの代わりに、コバルト酸化物(Co34)を用いたこと以外は製造例1と同様に作製した。その結果、正極の容量は、1.0mAh/cm2であった。このときB/(A+B)=0.01となる。
【0158】
(正極の製造例6)
製造例6の正極は、コバルト酸リチウムの代わりに、コバルト酸化物(Co34)を用いたこと以外は製造例2と同様に作製した。その結果、正極の容量は、1.0mAh/cm2であった。このときB/(A+B)=0.04となる。
【0159】
(正極の製造例7)
製造例7の正極は、コバルト酸リチウムの代わりに、コバルト酸化物(Co34)を用いたこと以外は製造例3と同様に作製した。その結果、正極の容量は、1.0mAh/cm2であった。このときB/(A+B)=0.10となる。
【0160】
(正極の製造例8)
製造例8の正極は、コバルト酸リチウムの代わりに、コバルト酸化物(Co34)を用いたこと以外は製造例4と同様に作製した。その結果、正極の容量は、1.0mAh/cm2であった。このときB/(A+B)=0.15となる。
【0161】
(正極の製造例9)
製造例9の正極は、スピネル型のマンガン酸リチウム(Li1.1Al0.1Mn1.84)、導電助剤(アセチレンブラック)、およびバインダー(PVdF)を、それぞれ固形分濃度で100重量部、5重量部、および5重量部の割合で混合して混合物を作製したこと以外は、製造例1と同様に作製した。その結果、正極の容量は、1.0mAh/cm2であった。このときB/(A+B)=0となる。
【0162】
(正極の製造例10)
製造例10の正極は、スピネル型のマンガン酸リチウム(Li1.1Al0.1Mn1.84)の代わりに、スピネル型のマンガン酸リチウム(LiNi1/2Mn3/24)を用いたこと、および定電流充電の終止電圧を5.0Vにしたこと以外は製造例5と同様に正極を製造した。その結果、正極の容量は、1.0mAh/cm2であった。このときB/(A+B)=0.01となる。
【0163】
(正極の製造例11)
製造例11の正極は、スピネル型のマンガン酸リチウム(Li1.1Al0.1Mn1.84)の代わりに、スピネル型のマンガン酸リチウム(LiNi1/2Mn3/24)を用いたこと、および定電流充電の終止電圧を5.0Vにしたこと以外は製造例6と同様に正極を製造した。その結果、正極の容量は、1.0mAh/cm2であった。このときB/(A+B)=0.04となる。
【0164】
(正極の製造例12)
製造例12の正極は、スピネル型のマンガン酸リチウム(Li1.1Al0.1Mn1.84)の代わりに、スピネル型のマンガン酸リチウム(LiNi1/2Mn3/24)を用いたこと、および定電流充電の終止電圧を5.0Vにしたこと以外は製造例7と同様に正極を製造した。その結果、正極の容量は、1.0mAh/cm2であった。このときB/(A+B)=0.10となる。
【0165】
(正極の製造例13)
製造例13の正極は、スピネル型のマンガン酸リチウム(Li1.1Al0.1Mn1.84)の代わりに、スピネル型のマンガン酸リチウム(LiNi1/2Mn3/24)を用いたこと、および定電流充電の終止電圧を5.0Vにしたこと以外は製造例8と同様に正極を製造した。その結果、正極の容量は、1.0mAh/cm2であった。このときB/(A+B)=0.15となる。
【0166】
(正極の製造例14)
製造例14の正極は、スピネル型のマンガン酸リチウム(Li1.1Al0.1Mn1.84)の代わりに、スピネル型のマンガン酸リチウム(LiNi1/2Mn3/24)を用いたこと、および定電流充電の終止電圧を5.0Vにしたこと以外は製造例9と同様に正極を製造した。その結果、正極の容量は、1.0mAh/cm2であった。このときB/(A+B)=0となる。
【0167】
(負極の製造例)
負極活物質として、スピネル型のチタン酸リチウム(Li4/3Ti5/34)を用いた。この負極活物質、導電助剤(アセチレンブラック)、およびバインダー(PVdF)を、それぞれ固形分濃度で100重量部、5重量部、および5重量部の割合で混合した混合物のスラリーを作製した。なお、バインダーは固形分濃度5wt%のNMP溶液に調製したものを使用し、後述の塗工をしやすいように、さらにNMPを加えて粘度調整した。このスラリーをアルミニウム箔(20μm)に塗工した後に、120℃のオーブンで乾燥させた後、さらに170℃で真空乾燥することによって負極(50cm2)を作製した。
【0168】
負極の容量は次の充放電試験で測定した。
前述と同様の条件でアルミニウム箔の片面に電極を塗工し、16mmΦに打ち抜き動作極を作製した。Li金属を16mmΦに打ち抜き対極とした。これらの電極を用いて、動作極(片面塗工)/セパレータ/Li金属の順に試験セル(HSセル、宝泉株式会社製)内に積層し、非水電解質(エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート=30/70vol%、LiPF6 1mol/L)を0.15mL入れ、半電池を作製した。この半電池を25℃で一日放置した後、充放電試験装置(HJ1005SD8、北斗電工株式会社製)に接続した。この半電池を25℃、0.4mAで定電流放電(終止電圧:1.0V)および定電流充電(終止電圧:2.0V)を5回繰り返し、5回目の結果を負極の容量とした。その結果、負極の容量は、1.2mAh/cm2であった。
【0169】
(実施例1〜108、比較例1〜69)
非水電解質二次電池は次のとおりに作製した。
【0170】
電極は、前述の製造例と同様にして作製した、片面塗工の正極、および片面塗工の負極を用いた。セパレータは、セルロース系不職布(25μm、55cm2)を用いた。最初に、前記作製した正極(片面塗工)、負極(片面塗工)、およびセパレータを、正極(片面塗工)/セパレータ/負極(片面塗工)の順に積層した。次に、両端の正極および負極にアルミニウムタブを振動溶着させた後に、袋状のアルミラミネートシートに入れた。
【0171】
非水電解質(エチレンカーボネート/プロピレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=15/15/70vol%、LiPF6 1mol/L)に、表1に記載の化合物のいずれか一種類を加え、非水電解質を得た。表1記載に示すとおり、シュウ酸骨格を有する有機化合物として化合物1−1、化合物1−2または化合物1−3を使用し、イソシアナト基を有する有機化合物として化合物2−1、化合物2−2または化合物2−3を使用し、スルホン酸骨格を有する有機化合物として化合物3−1、化合物3−2または化合物3−3を使用し、炭素数3以上の側鎖を有する無水コハク酸化合物として化合物4−1、化合物4−2または化合物4−3を使用した。各化合物の含有量は、化合物1−1、化合物1−2および化合物1−3は0.1重量%、化合物2−1、化合物2−2および化合物2−3は0.5重量%、化合物3−1、化合物3−2および化合物3−3は1.0重量%、化合物4−1、化合物4−2および化合物4−3は1.0重量%、となるように調製した。
【0172】
【表1】
【0173】
実施例1〜108、比較例1〜69の非水電解二次電池の構成は、表2に示す正極、負極、および化合物を添加した非水電解質の組み合わせで作製した。
【0174】
【表2】
【0175】
<非水電解質二次電池のサイクル特性評価>
実施例1〜108、比較例1〜69の非水電解質二次電池を、充放電装置(HJ1005SD8、北斗電工株式会社製)に接続し、エージング工程を経た後にサイクル運転を行いガス発生量と容量維持率を測定し、サイクル特性を評価した。
【0176】
(非水電解質二次電池のガス発生量評価)
実施例1〜108、比較例1〜69の非水電解質二次電池のガス発生量の評価は、アルキメデス法、すなわち非水電解質二次電池の浮力を用いて評価した。評価は下記の通りに行った。
最初に、サイクル運転前の非水電解質二次電池の重量を電子天秤で測定した。次に、比重計(アルファミラージュ株式会社製、品番:MDS−3000)を用いて水中での重量を測定し、これら重量の差をとることによって浮力を算出した。この浮力を水の密度(1.0g/cm)で除することによって、非水電解質二次電池の体積を算出した。後述のサイクル特性(容量維持率)測定前後の体積を比較することによって、サイクル運転により発生したガス発生量を算出した。ガス発生量の評価は、0.2mL未満を良好とし、それ以上のガス発生量は不良とした。
【0177】
(エージング)
エージングは、各非水電解質二次電池を満充電(実施例1〜72および比較例1〜42は2.7V、実施例73〜108および比較例43〜69は3.5V)にしたのちに、60℃で168時間放置した。その後、室温(25℃)まで徐冷したのちに、発生したガスを抜いた後に、再度減圧しながら封止した。
【0178】
(容量維持率)
エージング後に、60℃、25mA定電流充電、50mA定電流放電を500回繰り返した。このときの実施例1〜72および比較例1〜42の充電終止電圧および放電終止電圧はそれぞれ2.7Vおよび2.0Vとし、実施例73〜108および比較例43〜69の充電終止電圧および放電終止電圧はそれぞれ3.4Vおよび2.5Vとした。1回目の放電容量を100としたときの、500回目の放電容量の維持率を評価した。
【0179】
(サイクル特性の安定性)
サイクル特性の安定性は、前記ガス発生量評価と、1回目の放電容量を100としたときの、500回目の放電容量の維持率とで評価した。ガス発生量評価が良好で容量維持率が80%以上を良好、容量維持率が80%未満を不良とした。
【0180】
この結果を表3−1、表3−2、表4−1、表4−2、表5−1および表5−2に記載した。
【0181】
【表3-1】
【0182】
【表3-2】
【0183】
【表4-1】
【0184】
【表4-2】
【0185】
【表5-1】
【0186】
【表5-2】
【0187】
実施例1〜108のセルにはガス発生由来のセルのふくらみ、緩みは確認されず、且つ良好なサイクル安定性が確認された。一方、比較例1〜69では、サイクル安定性が実施例より低いことが示され、さらに、正極がB/(A+B)=0.00の場合や、非水電解質に本発明所定の化合物が含まれない場合はガス発生由来のセルのふくらみ、緩みが確認された。
【0188】
これは、実施例1〜108は、負極でのスピネル型チタン酸リチウムと非水電解質との反応、または正極でのスピネル型マンガン酸リチウムと電解液との反応の双方の反応で発生したガスを、正極に含まれるコバルト酸リチウムまたはコバルト酸化物が吸収したとともに、化合物1−1〜4−3のいずれか1種を用いることによって、負極または正極にそれら化合物由来の被膜が形成され、スピネル型チタン酸リチウムと非水電解質との反応、またはスピネル型マンガン酸リチウムと非水電解質との反応、および、コバルト酸リチウムまたはコバルト酸化物と非水電解質との反応を抑止でき、これらの相乗効果によってガス発生が抑止できたものと推察される。
【0189】
さらに、正極にコバルト酸リチウムを含む実施例1〜36は、正極にコバルト酸化物を含む実施例37〜108に較べてガス発生量がより少ない。これは、コバルト酸リチウムの層中に取り込まれた水素は、充電時に抜け出すリチウムイオン(Li+)とは異なり、コバルト酸リチウムに一旦取り込まれると、その層中に維持され、抜け出すリチウムイオン(Li+)に代わってコバルト酸リチウムの層構造を維持し、そうしている間に負極または正極に被膜が形成されてゆくことで、結果的に、初期段階での水素の発生と吸収のバランスがよく、ガス発生が抑止されるものと推察される。したがって、コバルトを含む化合物(Liを含まないコバルト化合物)よりも、コバルト酸リチウムのような層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を正極に含むほうが、より好ましいことがわかる。
【0190】
比較例1〜12、28〜39、43〜54に関しては、ガス発生抑止の効果は見られたものの、所望のサイクル特性が得られなかった。コバルト酸リチウムおよびコバルト酸化物は、スピネル型マンガン酸リチウムよりも膨潤収縮の変化が大きいため、サイクル経過に伴う劣化が大きい。このことから、正極に、一定量以上コバルト酸リチウムまたはコバルト酸化物が含まれると、これら化合物の影響が大きく現れると推察される。
【0191】
比較例13〜24、55〜66に関しては、ガス発生抑止の効果が見られず、かつサイクル特性の低下も見られた。これは、コバルト酸リチウムまたはコバルト酸化物が正極に含まれないので、サイクル運転時に発生するガス量を吸収できなかったと推察される。
【0192】
比較例25〜27、40〜42、67〜69に関しては、非水電解質に化合物1−1〜4−3のいずれも含まれないために、負極または正極に被膜が形成されず、負極でのスピネル型チタン酸リチウムと非水電解質との反応、または正極でのスピネル型マンガン酸リチウムと非水電解質との反応、および正極に含まれるコバルト酸リチウムまたはコバルト酸化物と非水電解質との反応を抑止できずガスが発生したと推察される。
【0193】
<非水電解質二次電池の充電レート特性評価>
実施例1〜108、比較例1〜69の非水電解質二次電池を、充放電装置(HJ1005SD8、北斗電工株式会社製)に接続し、エージング工程を経た後にレート特性を評価した。
【0194】
(非水電解質二次電池のガス発生量評価)
実施例1〜108、比較例1〜69の非水電解質二次電池のガス発生量の評価は、後述の充電レート特性(容量維持率)測定前後の体積を比較することによって、充電レート特性測定後に発生したガス発生量を、サイクル特性評価の場合と同様にして算出した。このガス発生量は、0.2mL未満を良好とし、それ以上のガス発生量は不良とした。
【0195】
(エージング)
エージングは、各非水電解質二次電池を満充電(実施例1〜72および比較例1〜42は2.7V、実施例73〜108および比較例43〜69は3.5V)にしたのちに、60℃で168時間放置した。その後、室温(25℃)まで徐冷したのちに、発生したガスを抜いた後に、再度減圧しながら封止した。
【0196】
(容量維持率)
エージング後に、低充電レート特性を25℃、25mA定電流充電、25mA定電流放電を5回繰り返すことによって測定し、高充電レート特性を25℃、250mA定電流充電、25mA定電流放電を5回繰り返すことによって測定した。このときの実施例1〜72および比較例1〜42の充電終止電圧および放電終止電圧はそれぞれ3.0Vおよび2.0Vとし、実施例73〜108および比較例43〜69の充電終止電圧および放電終止電圧はそれぞれ3.7Vおよび2.5Vとした。低充電レート特性の5回目の充電容量を100としたときの、高充電レート特性の5回目の充電容量の維持率で評価した。
【0197】
(充電レート特性)
充電レート特性の評価は、ガス発生量の評価が良好で、充電容量維持率60%以上を良好、充電容量維持率60%未満を不良とした。
【0198】
この結果を表6−1、表6−2、表7−1、表7−2、表8−1および表8−2に記載した。
【0199】
【表6-1】
【0200】
【表6-2】
【0201】
【表7-1】
【0202】
【表7-2】
【0203】
【表8-1】
【0204】
【表8-2】
【0205】
実施例1〜108のセルにはガス発生由来のセルのふくらみ、緩みは確認されず、且つ良好な充電レート特性が確認された。一方、比較例1〜69に関しては、低充電レート特性1回目の測定は可能であったが、2回目以降充電容量が著しく低下した。さらに、高充電レート特性測定時には極めて低い電池容量となり、ガス発生も確認された。
【0206】
正極にスピネル型マンガン酸リチウムとともに、コバルト酸リチウムを含む実施例1〜36は、コバルト酸化物を含む実施例37〜108に較べてガス発生量がより少ない。これは、前記サイクル特性評価の場合と同様に、コバルト酸リチウムによる水素の吸収と、被膜の形成とのバランスがよく、結果的に、ガス発生が抑止されるものと推察される。
【0207】
比較例1〜12、28〜39、43〜54に関しては、以下の理由が考えられる。すなわち、コバルト酸リチウムおよびコバルト酸化物は、高電圧にするとそれ自身の分解反応が進行する。そのため、コバルト酸リチウムまたはコバルト酸化物の量が一定以上多いために、これらの分解反応が、本発明の組み合わせによる緩和効果を上まわったと推察される。
【0208】
比較例13〜24、55〜66に関しては、コバルト酸リチウムまたはコバルト酸化物が正極に含まれないので、発生したガスを吸収できなかったと推察される。
【0209】
比較例25〜27、40〜42、67〜69に関しては、化合物1−1〜4−3のいずれも含まれないために、負極または正極に被膜が形成されず、高電圧由来のスピネル型チタン酸リチウムと非水電解質との反応、またはスピネル型マンガン酸リチウムと非水電解質との反応、およびコバルト酸リチウムまたはコバルト酸化物と非水電解質との反応を抑止できずガスが発生したと推察される。
【0210】
以上の結果から、チタン含有酸化物を用いた負極、スピネル型マンガン酸リチウムを用いた正極の構成を有する非水電解質二次電池において、正極にコバルトを含む化合物および/または層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含ませ、非水電解質にシュウ酸骨格を有する有機化合物、イソシアナト基を有する有機化合物、スルホン酸骨格を有する有機化合物のリチウム塩、および、炭素数3以上の側鎖を有する無水コハク酸化合物からなる群から選択される1種、を本発明所定の範囲で含ませることによって、充放電サイクル時のガス発生を抑止するとともに、優れたサイクル安定性を有し、充電レート特性が向上することが明らかとなった。
【0211】
さらに、正極に、コバルトを含む化合物(Liを含まないコバルト化合物)よりも、コバルト酸リチウムのような層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含むほうが、よりガス発生抑止効果に優れ、より好ましいことも明らかとなった。