特許第6183515号(P6183515)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6183515
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】セルロースアシレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 3/06 20060101AFI20170814BHJP
   C08B 1/00 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   C08B3/06
   C08B1/00
【請求項の数】2
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-158602(P2016-158602)
(22)【出願日】2016年8月12日
【審査請求日】2016年12月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士ゼロックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田 民権
(72)【発明者】
【氏名】八百 健二
(72)【発明者】
【氏名】吉沢 久江
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−105816(JP,A)
【文献】 特開2007−308722(JP,A)
【文献】 特開昭62−195395(JP,A)
【文献】 特開平09−188702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均重合度が100以上350以下のセルロースを酢酸の存在下でアシル化する工程を有し、
前記アシル化する工程における前記酢酸の量は、前記セルロースの量1質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であり、
得られるセルロースアシレートが、セルロースモノアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートよりなる群から選ばれた少なくとも1種である
セルロースアシレートの製造方法。
【請求項2】
前記アシル化する工程の前に、塩酸の存在下で、セルロースを解重合し、重合度が100以上350以下のセルロースを得る工程を更に有する請求項1に記載のセルロースアシレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂としては種々のものが提供され、各種用途に使用されている。例えば、家電製品、自動車等の各種部品、事務機器、電子電気機器等の筐体などに、熱可塑性樹脂が使用されている。
近年では、熱可塑性樹脂として植物由来の樹脂が利用されており、従来から知られている植物由来の樹脂の一つにセルロースアシレートがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、「酸性水溶液中加熱して低分子量化したセルロースを分子量が変化しない温和な条件で誘導体化した後、含水もしくは無水有機溶媒中で再沈殿させて分子量の異なる成分を分別することを特徴とする重合度が5乃至400で、重量平均分子量/数平均分子量の比が3以下の分子量分布の狭い低分子量セルロース誘導体の製法。」が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、「セルロース含有量を100重量部とするセルロース原料を酢酸で活性化及び前処理したものと、前記セルロースの乾燥重量に対し0.5〜40重量部の重硫酸リチウム、重硫酸ナトリウム又は重硫酸カリウムから選ばれた重硫酸塩触媒とを、アセチル化に適した温度で反応させる工程を含んで成る酢酸セルロースの製造方法。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−195395号公報
【特許文献2】特開平9−188702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、重合度が350を超えるセルロースを用いた場合に比べ、収率に優れたセルロースアシレートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の手段により解決される。
【0008】
求項に係る発明は、
平均重合度が100以上350以下のセルロースを酢酸の存在下でアシル化する工程を有し、前記アシル化する工程における前記酢酸の量は、前記セルロースの量1質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であり、得られるセルロースアシレートが、セルロースモノアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートよりなる群から選ばれた少なくとも1種であるセルロースアシレートの製造方法である。
【0009】
請求項に係る発明は、
前記アシル化する工程の前に、塩酸の存在下で、セルロースを解重合し、重合度が100以上350以下のセルロースを得る工程を更に有する請求項1に記載のセルロースアシレートの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1又は請求項2に係る発明によれば、重合度が350を超えるセルロースを用いた場合に比べ、収率に優れたセルロースアシレートの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
【0012】
[セルロースアシレートの製造方法]
本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法は、平均重合度が100以上350以下のセルロースを酢酸の存在下でアシル化する工程(以下「アシル化工程」とも称する)を有し、前記アシル化する工程における前記酢酸の量は、前記セルロースの量1質量部に対して、1質量部以上10質量部以下である。
【0013】
本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法では、上記工程を有することで、収率に優れたセルロースアシレートの製造が実現される。その理由は、次の通り推測される。
【0014】
従来、重合度が350を超えるような高分子量セルロースは、活性化(水膨潤及び酢酸置換)しないとトリアセチル化(TAC化)等のトリアシル化が十分進行しない。また、重合度が350を超えるような高分子量セルローストリアシレートの粘度が高いので、撹拌を維持するために多量の溶媒(酢酸)が必須である。通常、1質量部の高分子量セルロースに対して20質量部もの酢酸が利用される。したがって、アシル化には、多くの酢酸が利用され、目標物にも酢酸の残留量が増える。
【0015】
重合度100以上350以下のセルロースを用いることにより、活性化を行わずともトリアシル化又はジアシル化が容易であり、また、重合度100以上350以下のセルロースの粘度は低いので、溶媒(酢酸)量が、1質量部の重合度100以上350以下のセルロースに対して1質量部以上10質量部以下の酢酸で十分である。
また、本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法は、溶媒(酢酸)量が少ないことから、製造方法全体が環境に優しく、また、反応液を濃くすることができるため、反応釜の利用効率が向上し、収率に優れる。また、目標物の製造単価(コスト)も削減される。
更に、本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法であると、得られるセルロースアシレートにおける酢酸の残留量が少なくなる。
【0016】
以上から、本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法では、収率に優れたセルロースアシレートの製造が実現されると推測される。
【0017】
更に、重合度100以上350以下のセルロースは反応性が高く、トリアシル化体を経由せずにジアシル化体(セルロースジアシレート、本実施形態においては、置換度2.0以上2.5以下のものとする)を直接合成することが可能である。これは目標物の1つであるセルロースジアシレート(置換度2.0以上2.5以下)の製造コスト削減にも寄与する。
また更に、本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法により、セルロースジアシレート(置換度2.0以上2.5以下)を製造する場合、得られるセルロースジアシレートにおけるテトラヒドロフラン(THF)不溶分が少ない。テトラヒドロフラン(THF)不溶分が少ないと、樹脂成形物における強度に優れる。
【0018】
以下、本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法の詳細について説明する。
【0019】
(アシル化工程)
アシル化工程では、アシル化触媒(硫酸等の酸触媒など)の存在下で、重合度100以上350以下のセルロースをアシル化する。
具体的には、アシル化工程では、例えば、アシル化触媒、アシル化剤、及びアシル化溶媒を含む溶液にセルロースを浸漬又は分散させた状態で、撹拌しながら、セルロースをアシル化する。なお、アシル化触媒(又はアシル化触媒水溶液)、アシル化剤、及びアシル化溶媒を含む溶液にセルロースを浸漬又は分散させてもよいし、アシル化溶媒にセルロースを浸漬又は分散させた溶液に、アシル化触媒(又はアシル化触媒水溶液)及びアシル化剤を添加してもよい。
【0020】
アシル化溶媒としては、酢酸が適用される。アシル化溶媒は、酢酸と水との混合溶媒であってもよい。
アシル化工程における酢酸の量は、セルロースの量1質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であり、収率、及び、樹脂成形体の強度の観点から、3質量部以上10質量部以下であることが好ましく、5質量部以上9質量部以下であることがより好ましい。
【0021】
アシル化の対象となるセルロースは、重合度が100以上350以下のセルロースであり、後述する解重合工程を実施したセルロースであってもよいし、別途、入手したセルロースであってもよい。
【0022】
アシル化触媒としては、硫酸が好適に適用される。アシル化触媒としては、その他、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、エタンスルホン酸などを適用してもよい。
【0023】
アシル化触媒としての硫酸量は、収率の観点から、セルロースに対する質量比で、1質量%以上20質量%以下が好ましく、5質量%以上16質量%以下がより好ましい。
【0024】
アシル化剤としては、アシル基を有する化合物が挙げられる。具体的には、アシル化剤としては、アルキルカルボン酸無水物(例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、及び、無水吉草酸等の直鎖状又は分岐鎖状で炭素数2以上6以下のアルキルカルボン酸無水物)、有機酸ハライド(例えば、酢酸クロライド、プロピオン酸クロライド、及び、酪酸クロライド等)が好適に挙げられる。ただし、通常、アシル化剤としては、アルキルカルボン酸無水物を使用する。
アシル化剤としては、アシル化で得たいセルロースアシレートの種類に応じて選択される。例えば、セルロースアセテートを得る場合は、アシル化剤として無水酢酸を適用する。また、セルロースアセテートプロピオネートを得る場合は、アシル化剤として、無水酢酸および無水プロピオン酸の2種を適用する。
なお、アシル化剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0025】
アシル化剤量は、アシル化で得たいセルロースアシレートの置換度に応じて選択される。例えば、アシル化工程では、置換度3のセルロースアシレート(セルローストリアシレート)を得る場合、アシル化剤量は、セルロースの水酸基に対するモル比で、1倍以上5倍以下が好ましく、1.1倍以上3倍以下がより好ましい。
【0026】
アシル化工程の好適な条件としては、例えば、次の通りである。
温度:例えば、10℃以上45℃以下(好ましくは15℃以上40℃以下)
時間:例えば、0.5時間以上10時間以下(好ましくは1時間以上5時間以下)である。
【0027】
アシル化の対象となる重合度が100以上350以下のセルロースには、活性化処理を施してもよいが、重合度が100以上350以下のセルロースは溶解性及び反応性に優れるため、活性化処理を行わないことが好ましい。活性化処理は、例えば、水を含む活性化剤を用いて、セルロースを処理する方法(活性化剤をセルロースに噴霧する方法、セルロースを活性化剤に浸漬する方法等)である。活性化剤はアシル化溶媒を使用してもよい。具体的には、活性化処理としては、1)セルロースと水とを混合し、セルロースを濾過した後、セルロースとアシル化溶媒とを混合し、セルロースを濾過する方法、2)水及びアシル化溶媒の混合液(例えば水量が0超え50質量%以下の混合液)とセルロースとを混合し、セルロースを濾過する方法等が挙げられる。
【0028】
なお、活性化処理の温度は、例えば、0℃以上100℃以下(好ましくは10℃以上40℃以下)である。
活性化処理の時間(2回処理するときは合計の時間)は、例えば、0.1時間以上20時間以下(好ましくは1時間以上15時間以下)である。
【0029】
また、本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法は、アシル化工程前に、塩酸の存在下で、セルロースを解重合し、重合度が100以上350以下のセルロースを得る工程(以下「解重合工程」とも称する)を更に有してもよい。
【0030】
(解重合工程)
解重合工程は、解重合により高分子量のセルロースを低分子量化し、目的とする分子量のセルロース(重合度が100以上350以下のセルロース)を得る工程である。
具体的には、解重合工程では、例えば、塩酸、溶媒(水、酢酸等の溶媒)を含む溶液に高分子量のセルロースを浸漬又は分散させた状態で、撹拌しながら、高分子量のセルロースを解重合する。なお、塩酸及び溶媒を含む溶液(例えば塩酸水溶液)にセルロースを浸漬又は分散させてもよいし、溶媒を含む溶液にセルロースを浸漬又は分散させた後、塩酸水溶液を添加してもよい。
【0031】
解重合の対象となるセルロースは、高分子量のセルロース(例えば重合度1000以上1万以下のセルロース)である。高分子量のセルロースとしては、例えば、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、コットンリンターパルプ等の種々の原料セルロースを使用する。また、高分子量のセルロースとしては、市販のセルロースを使用してもよい。高分子量のセルロースの市販品としては、例えば、日本製紙社製のKCフロックW50、W100、W200、W300G、W400G、W−100F、W60MG、W−50GK、W−100GK、NDPT、NDPS、LNDP、NSPP−HR等が挙げられる。
なお、アシル化の対象となるセルロースには、通常、原料(パルプ)を由来とするヘミセルロース等の異成分も含むことがある。このため、本願明細書では、用語「セルロース」は、ヘミセルロース等の異成分を含むことも意味する。
【0032】
解重合工程において、塩酸(HCl)量は、分子量制御の観点から、高分子量のセルロースに対する質量比で、1質量%以上100質量%以下が好ましく、5質量%以上55質量%以下がより好ましい。
【0033】
解重合工程の好適な条件としては、得たいセルロースの重合度に応じて選択されるが、例えば、次の通りである。
温度:例えば、50℃以上100℃以下(好ましくは60℃以上95℃以下)
時間:例えば、0.1時間以上10時間以下(好ましくは0.5時間以上5時間以下)である。
【0034】
解重合工程後、目的とする重合度のセルロースを含む溶液に、析出及び濾過して(必要に応じて、洗浄、乾燥等も実施して)得た、粉末状のセルロースを得る。
【0035】
また、本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法は、アシル化工程後、目的とする置換度に調整するため、脱アシル化工程を有していてもよい。
なお、本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法においては、重合度が100以上350以下のセルロースの反応性が高いため、アシル化剤の量等を調整することにより、目的とする置換度のセルロースアシレートをアシル化工程により直接製造してもよい。
【0036】
(脱アシル化工程)
脱アシル化工程は、脱アシル化(加水分解又はケン化)により、アシル化工程でアシル化したセルロース(以下「一次セルロースアシレート」とも称する)の置換度を調整し、目的とする置換度のセルロースアシレート(以下「二次セルロースアシレート」とも称する)を得る工程である。
【0037】
具体的には、脱アシル工程では、例えば、塩酸、及び脱アシル化溶媒を含む溶液に一次セルロースアシレートを溶解させた状態で、一次セルロースアシレートを脱アシル化する。なお、塩酸、及び脱アシル化溶媒を含む溶液に一次セルロースアシレートを溶解させてもよいし、脱アシル化溶媒に一次セルロースアシレートを溶解させた溶液に、塩酸水溶液を添加してもよい。
【0038】
ここで、一次セルロースアシレートは、アシル化工程を経た溶液(一次セルロースアシレート、アシル化触媒、アシル化剤、及びアシル化溶媒を含む溶液)から、一次セルロースアシレートを析出及び濾過して得た(必要に応じて、洗浄、乾燥等も実施して得た)、粉末状の一次セルロースアシレートを使用する。
【0039】
脱アシル化溶媒としては、酢酸が好ましい。脱アシル化溶媒は、酢酸と水との混合溶媒であってもよい。
【0040】
脱アシル工程において、塩酸(HCl)量は、置換度制御の観点から、一次セルロースアシレート(アシル化工程でアシル化したセルロース)に対する質量比で、0.5質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0041】
脱アシル化溶媒としての酢酸量は、収率の観点から、セルロースに対する質量比で、1倍以上15倍以下が好ましく、1倍以上10倍以下がより好ましい。
【0042】
脱アシル化工程の好適な条件としては、得たい二次セルロースアシレートの置換度に応じて選択されるが、例えば、次の通りである。
温度:例えば、15℃以上45℃以下(好ましくは20℃以上40℃以下)
時間:例えば、1時間以上100時間以下(好ましくは2時間以上48時間以下)である。
【0043】
なお、脱アシル化工程では、例えば、アシル化工程を経た溶液(一次セルロースアシレート、アシル化触媒、アシル化剤、及びアシル化溶媒を含む溶液)に、塩酸水溶液を加えて実施してもよい。
この場合、塩酸水溶液を加える前に、残存したアシル化剤を失活させるため、水、または、水とアシル化溶媒(アルキルカルボン酸)の混合液等の失活剤を溶液に加える。この失活剤は、少なくとも一種の中和剤を含んでもよい。
中和剤としては、アルカリ金属化合物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸塩など)、アルカリ土類金属化合物(水酸化カルシウム等の水酸化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;酢酸カルシウム等の有機酸塩など)などの塩基が挙げられる。
【0044】
脱アシル化工程後、二次セルロースアシレートを含む溶液に水を加え、二次セルロースアシレートを析出、濾過した後、乾燥することで、目的とする粉末状のセルロースアシレートが得られる。
【0045】
なお、濾過した二次セルロースアシレートを中和処理する工程、中和処理した二次セルロースアシレートを水等で洗浄する工程等を実施した後、乾燥して、目的とする粉末状のセルロースアシレートを得ることがよい。
【0046】
以上説明した本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法では、アシル化剤の種類に応じて、セルロースモノアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の種々のセルロースアシレートが得られる。
【0047】
[セルロースアシレート]
以下、本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法で製造されるセルロースアシレート(以下「本実施形態に係るセルロースアシレート」とも称する)の好適な特性について説明する。
【0048】
本実施形態に係るセルロースアシレートは、重合度100以上350以下、及び、置換度2.0以上2.5以下のセルロースアシレート(特に、セルロースジアセテート)であることが好ましい。この特性を持つセルロースアシレート(特に、セルロースジアセテート)は、溶融温度が低く、透明性の高い。そして、特性を持つセルロースアシレートを樹脂成形体に使用すると、成形性が高く(例えば射出成形性が高く)、強度により優れ、かつ着色のより少ない樹脂成形体が得られる。
ただし、本実施形態に係るセルロースアシレートの特性は、上記特性に限られず、セルロースアシレートの使用目的に応じて選択される。
【0049】
本実施形態に係るセルロースアシレートの重合度は、溶融温度の低減(成形性の向上)、得られる樹脂成形体の強度向上の観点から、150以上350以下が好ましく、200以上350以下がより好ましい。
【0050】
ここで、重合度は、以下の手順で重量平均分子量から求める。
まず、セルロースアシレートの重量平均分子量を、ジメチルアセトアミド/塩化リチウム=90/10溶液を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ装置(GPC装置:東ソー(株)製、HLC−8320GPC、カラム:TSKgelα−M)にてポリスチレン換算で測定する。
次いで、セルロースアシレートの構成単位分子量で割ることで、セルロースアシレートの重合度を求める。なお、例えば、セルロースアシレートの置換基がアセチル基の場合、構成単位分子量は、置換度が2.4のとき263、置換度が2.9のとき284となる
【0051】
本実施形態に係るセルロースアシレートの置換度は、溶融温度の低減(成形性の向上)、得られる樹脂成形体の強度向上の観点から、2.1以上2.5以下が好ましく、2.2以上2.5以下がより好ましい。
【0052】
ここで、置換度とは、セルロースが有する水酸基がアシル基により置換されている程度を示す指標である。つまり、置換度は、セルロースアシレートのアシル化の程度を示す指標となる。具体的には、置換度は、セルロースアシレートのD−グルコピラノース単位に3個ある水酸基がアシル基で置換された置換個数の分子内平均を意味する。
そして、置換度は、H−NMR(JMN−ECA/JEOL RESONANCE社製)にて、セルロース由来水素とアシル基由来ピークの積分比から測定する。
【0053】
本実施形態に係るセルロースアシレートは、樹脂成形体形成用の樹脂、フィルター、衣類等に利用される。
【0054】
[樹脂組成物]
以下、本実施形態に係るセルロースアシレートを使用した樹脂組成物(以下「本実施形態に係る樹脂組成物」とも称する)について説明する。
【0055】
本実施形態に係る樹脂組成物は、本実施形態に係るセルロースアシレートを含む。本実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、可塑剤、その他の成分等を含んでもよい。
【0056】
なお、可塑剤の含有量は、樹脂組成物全体に占めるセルロースアシレートの比率が前述の範囲となる量とすることが好ましい。より具体的には、樹脂組成物全体に占める可塑剤の比率は15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。可塑剤の比率が上記範囲であることにより、弾性率がより高くなり、耐熱性もより高くなる。また、可塑剤のブリードも抑制される。
【0057】
<可塑剤>
可塑剤としては、例えば、アジピン酸エステル含有化合物、ポリエーテルエステル化合物、セバシン酸エステル化合物、グリコールエステル化合物、酢酸エステル、二塩基酸エステル化合物、リン酸エステル化合物、フタル酸エステル化合物、樟脳、クエン酸エステル、ステアリン酸エステル、金属石鹸、ポリオール、ポリアルキレンオキサイド等が挙げられる。
これらの中でも、アジピン酸エステル含有化合物、ポリエーテルエステル化合物が好ましく、アジピン酸エステル含有化合物がより好ましい。
【0058】
−アジピン酸エステル含有化合物−
アジピン酸エステル含有化合物(アジピン酸エステルを含む化合物)とは、アジピン酸エステル単独の化合物、又は、アジピン酸エステルとアジピン酸エステル以外の成分(アジピン酸エステルとは異なる化合物)との混合物であることを示す。但し、アジピン酸エステル含有化合物は、アジピン酸エステルを全成分に対して50質量%以上で含むことがよい。
【0059】
アジピン酸エステルとしては、例えば、アジピン酸ジエステル、アジピン酸ポリエステルが挙げられる。具体的には、下記一般式(AE−1)で示されるアジピン酸ジエステル、及び下記一般式(AE−2)で示されるアジピン酸ポリエステル等が挙げられる。
【0060】
【化1】
【0061】
一般式(AE−1)及び(AE−2)中、RAE1及びRAE2は、それぞれ独立に、アルキル基、又はポリオキシアルキル基[−(C2X−O)−RA1](但し、RA1はアルキル基を、xは1以上10以下の整数を、yは1以上10以下の整数を、表す。)を表す。
AE3は、アルキレン基を表す。
m1は、1以上20以下の整数を表す。
m2は、1以上10以下の整数を表す。
【0062】
一般式(AE−1)及び(AE−2)中、RAE1及びRAE2が表すアルキル基は、炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基がより好ましい。RAE1及びRAE2が表すアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
一般式(AE−1)及び(AE−2)中、RAE1及びRAE2が表すポリオキシアルキル基[−(C2X−O)−RA1]において、RA1が表すアルキル基は、炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基がより好ましい。RA1が表すアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
【0063】
一般式(AE−2)中、RAE3が表すアルキレン基は、炭素数1以上6以下のアルキレン基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキレン基がより好ましい。アルキレン基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
【0064】
一般式(AE−1)及び(AE−2)中、各符号が表す基は、置換基で置換されていてもよい。置換基としては、アルキル基、アリール基、ヒドロキシル基等が挙げられる。
【0065】
アジピン酸エステルの分子量(又は重量平均分子量)は、200以上5000以下が好ましく、300以上2000以下がより好ましい。なお、重量平均分子量は、前述のセルロースアシレートの重量平均分子量の測定方法に準拠して測定された値である。
【0066】
以下、アジピン酸エステル含有化合物の具体例を示すが、これに限られるわけではない。
【0067】
【化2】
【0068】
−ポリエーテルエステル化合物−
ポリエーテルエステル化合物として具体的には、例えば、一般式(EE)で表されるポリエーテルエステル化合物が挙げられる。
【0069】
【化3】
【0070】
一般式(EE)中、REE1及びREE2はそれぞれ独立に、炭素数2以上10以下のアルキレン基を表す。AEE1及びAEE2はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は、炭素数7以上18以下のアラルキル基を表す。mは、1以上の整数を表す。
【0071】
一般式(EE)中、REE1が表すアルキレン基としては、炭素数3以上10以下のアルキレン基が好ましく、炭素数3以上6以下のアルキレン基がより好ましい。REE1が表すアルキレン基は、直鎖状、分岐状、及び環式のいずれであってもよいが、直鎖状が好ましい。
EE1が表すアルキレン基の炭素数を3以上にすると、樹脂組成物の流動性の低下が抑制され、熱可塑性が発現しやすくなる。REE1が表すアルキレン基の炭素数を10以下又はREE1が表すアルキレン基を直鎖状にすると、セルロースアシレートとの親和性が高まりやすくなる。このため、REE1が表すアルキレン基を直鎖状とし、且つ炭素数を上記範囲とすると、樹脂組成物の成形性が向上する。
これら観点から、特に、REE1が表すアルキレン基は、n−ヘキシレン基(−(CH−)が好ましい。つまり、ポリエーテルエステル化合物は、REE1としてn−ヘキシレン基(−(CH−)を表す化合物であることが好ましい。
【0072】
一般式(EE)中、REE2が表すアルキレン基としては、炭素数3以上10以下のアルキレン基が好ましく、炭素数3以上6以下のアルキレン基がより好ましい。REE2が表すアルキレン基は、直鎖状、分岐状、及び環式のいずれであってもよいが、直鎖状が好ましい。
EE2が表すアルキレン基の炭素数を3以上にすると、樹脂組成物の流動性の低下が抑制され、熱可塑性が発現しやすくなる。REE2が表すアルキレン基の炭素数を10以下又はREE2が表すアルキレン基を直鎖状にすると、セルロースアシレートとの親和性が高まりやすくなる。このため、REE2が表すアルキレン基を直鎖状とし、且つ炭素数を上記範囲とすると、樹脂組成物の成形性が向上する。
これら観点から、特に、REE2が表すアルキレン基は、n−ブチレン基(−(CH−)が好ましい。つまり、ポリエーテルエステル化合物は、REE2としてn−ブチレン基(−(CH−)を表す化合物であることが好ましい。
【0073】
一般式(EE)中、AEE1、及びAEE2が表すアルキル基は、炭素数1以上6以下のアルキル基であり、炭素数2以上4以下のアルキル基がより好ましい。AEE1、及びAEE2が表すアルキル基は、直鎖状、分岐状、及び環式のいずれであってもよいが、分岐状が好ましい。
EE1、及びAEE2が表すアリール基は、炭素数6以上12以下のアリール基であり、フェニル基、ナフチル基等の無置換アリール基、又はt−ブチルフェニル基、ヒドロキシフェニル基等の置換フェニル基が挙げられる。
EE1、及びAEE2が表すアラルキル基としては、−R−Phで示される基である。Rは、直鎖状又は分岐状の炭素数1以上6以下(好ましくは炭素数2以上4以下)のアルキレン基を表す。Phは、無置換フェニル基、又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数1以上6以下(好ましくは炭素数2以上6以下)のアルキル基で置換された置換フェニル基を表す。アラルキル基として具体的には、例えば、ベンジル基、フェニルメチル基(フェネチル基)、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等の無置換アラルキル基、又はメチルベンジル基、ジメチルベンジル基、メチルフェネチル基等の置換アラルキル基が挙げられる。
【0074】
EE1、及びAEE2の少なくとも一方は、アリール基又はアラルキル基を表すことが好ましい。つまり、ポリエーテルエステル化合物は、AEE1、及びAEE2の少なくとも一方としてアリール基(好ましくはフェニル基)又はアラルキル基を表す化合物であることが好ましく、AEE1、及びAEE2の双方としてアリール基(好ましくはフェニル基)又はアラルキル基を表す化合物であることが好ましい。
【0075】
次に、ポリエーテルエステル化合物の特性について説明する。
【0076】
ポリエーテルエステル化合物の重量平均分子量(Mw)は、450以上650以下が好ましく、500以上600以下がより好ましい。
重量平均分子量(Mw)を450以上にすると、ブリード(析出する現象)し難くなる。重量平均分子量(Mw)を650以下にすると、セルロースアシレートとの親和性が高まりやすくなる。このため、重量平均分子量(Mw)を上記範囲にすると、樹脂組成物の成形性が向上する。
なお、ポリエーテルエステル化合物の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定される値である。具体的には、GPCによる分子量測定は、測定装置として東ソー(株)製、HPLC1100を用い、東ソー(株)製カラム・TSKgel GMHHR−M+TSKgel GMHHR−M(7.8mmI.D.30cm)を使用し、クロロホルム溶媒で行う。そして、重量平均分子量は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線を使用して算出する。
【0077】
ポリエーテルエステル化合物の25℃における粘度は、35mPa・s以上50mPa・s以下が好ましく、40mPa・s以上45mPa・s以下がより好ましい。
粘度を35mPa・s以上にすると、セルロースアシレートへの分散性が向上しやすくなる。粘度を50mPa・s以下にすると、ポリエーテルエステル化合物の分散の異方性が出現し難くなる。このため、粘度を上記範囲にすると、樹脂組成物の成形性が向上する。
なお、粘度は、E型粘度計により測定される値である。
【0078】
ポリエーテルエステル化合物の溶解度パラメータ(SP値)が、9.5以上9.9以下が好ましく、9.6以上9.8以下がより好ましい。
溶解度パラメータ(SP値)を9.5以上9.9以下にすると、セルロースアシレートへの分散性が向上しやすくなる。
溶解度パラメータ(SP値)は、Fedorの方法により算出された値である、具体的には、溶解度パラメータ(SP値)は、例えば、Polym.Eng.Sci.,vol.14,p.147(1974)の記載に準拠し、下記式によりSP値を算出する。
式:SP値=√(Ev/v)=√(ΣΔei/ΣΔvi)
(式中、Ev:蒸発エネルギー(cal/mol)、v:モル体積(cm/mol)、Δei:それぞれの原子又は原子団の蒸発エネルギー、Δvi:それぞれの原子又は原子団のモル体積)
なお、溶解度パラメータ(SP値)は、単位として(cal/cm1/2を採用するが、慣行に従い単位を省略し、無次元で表記する。
【0079】
以下、ポリエーテルエステル化合物の具体例を示すが、これに限られるわけではない。
【0080】
【化4】
【0081】
(その他の成分)
その他の成分としては、例えば、難燃剤、相溶化剤、酸化防止剤、離型剤、耐光剤、耐候剤、着色剤、顔料、改質剤、ドリップ防止剤、帯電防止剤、加水分解防止剤、充填剤、補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド等)などが挙げられる。これらの成分の含有量は、樹脂組成物全体に対してそれぞれ、0質量%以上5質量%以下であることが好ましい。ここで、「0質量%」とはその他の成分を含まないことを意味する。
【0082】
(他の樹脂)
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記セルロースアシレート以外の他の樹脂を含有していてもよい。但し、他の樹脂は、樹脂組成物全体に占めるセルロースアシレートの比率が前述の範囲となる量とすることが好ましい。
他の樹脂としては、例えば、従来公知の熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、ポリカーボネート樹脂;ポリプロピレン樹脂;ポリエステル樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアリーレン樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリビニルアセタール樹脂;ポリケトン樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリアリールケトン樹脂;ポリエーテルニトリル樹脂;液晶樹脂;ポリベンズイミダゾール樹脂;ポリパラバン酸樹脂;芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、及びシアン化ビニル化合物よりなる群から選ばれる1種以上のビニル単量体を、重合若しくは共重合させて得られるビニル系重合体若しくは共重合体樹脂;ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂;シアン化ビニル−ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂;芳香族アルケニル化合物−ジエン−シアン化ビニル−N−フェニルマレイミド共重合体樹脂;シアン化ビニル−(エチレン−ジエン−プロピレン(EPDM))−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂;塩化ビニル樹脂;塩素化塩化ビニル樹脂;などが挙げられる。これら樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0083】
[樹脂組成物の製造方法]
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、本実施形態のセルロースアシレートの製造方法により得られたセルロースアシレートを含む樹脂組成物を調製する工程を有する。
本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、セルロースアシレートと、必要に応じて、可塑剤、その他の成分等と、を少なくとも含む混合物を溶融混練することにより製造される。他に、本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、上記成分を溶剤に溶解することによっても製造される。
溶融混練の手段としては公知の手段が挙げられ、具体的には例えば、二軸押出機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等が挙げられる。
なお、混練の際の温度は、使用するセルロースアシレートの溶融温度に応じて決定すればよいが、熱分解と流動性の点から、例えば、140℃以上240℃以下が好ましく、160℃以上200℃以下がより好ましい。
【0084】
[樹脂成形体及びその製造方法]
以下、本実施形態に係る樹脂組成物を使用した樹脂成形体(以下「本実施形態に係る樹脂成形体」とも称する)について説明する。
【0085】
本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物を含む。つまり、本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物と同じ組成で構成されている。
本実施形態に係る樹脂成形体の製造方法は、本実施形態の樹脂組成物の製造方法により得られた樹脂組成物を成形する工程を有する。
具体的には、本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物を成形して得られる。成形方法は、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーティング成形、キャスト成形、ディッピング成形、真空成形、トランスファ成形などを適用してよい。
【0086】
本実施形態に係る樹脂成形体の製造方法は、形状の自由度が高い点で、射出成形を行うが好ましい。射出成形については、樹脂組成物を加熱溶融し、金型に流し込み、固化させることで成形体が得られる。射出圧縮成形によって成形してもよい。
射出成形のシリンダ温度は、例えば140℃以上240℃以下であり、好ましくは150℃以上220℃以下であり、より好ましくは160℃以上200℃以下である。射出成形の金型温度は、例えば30℃以上120℃以下であり、40℃以上80℃以下がより好ましい。射出成形は、例えば、日精樹脂工業製NEX500、日精樹脂工業製NEX150、日精樹脂工業製NEX70000、東芝機械製SE50D等の市販の装置を用いて行ってもよい。
【0087】
本実施形態に係る樹脂成形体は、電子・電気機器、事務機器、家電製品、自動車内装材、エンジンカバー、車体、容器などの用途に好適に用いられる。より具体的には、電子・電気機器や家電製品の筐体;電子・電気機器や家電製品の各種部品;自動車の内装部品;CD−ROMやDVD等の収納ケース;食器;飲料ボトル;食品トレイ;ラップ材;フィルム;シート;などである。
【実施例】
【0088】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特に断りのない限り「部」は「質量部」を表す。
【0089】
(実施例1)
<解重合>
ナス形フラスコに50部の粉末セルロース(日本製紙(株)製、KCフロックW−50GK、重合度1,020)、及び1mol/L塩酸(和光純薬工業(株)製)750部を加えた。撹拌機で撹拌(回転速度75rpm)しながら還流まで加熱し、2時間還流反応させた。反応混合物を放冷後、沈殿物を吸引ろ過し、600部の蒸留水で洗浄した。得られたろ過物を40℃にて真空乾燥し、47部のセルロース(白色固体)を得た(収率94%)。
得られたセルロースの重量平均分子量Mwは、2.5万であった。
なお、分子量については、ジメチルアセトアミド/塩化リチウム=90/10溶液を用い、GPC装置(東ソー(株)製、HLC−8320GPC、カラム:TSKgelα−M)にて測定した。
【0090】
<トリアセチル化及び脱アセチル化>
得られたセルロース100部に氷酢酸400部を加えた。次いで、氷酢酸(99.5質量%)400部と硫酸(96質量%)8.1部との混合液を加え、撹拌機で室温(24℃、以下同様)にて1時間撹拌した。なお、この工程において前記セルロース(1)に対する前記硫酸の割合は7.8質量%に相当する。
反応混合物を冷水(13℃)で冷却し、撹拌しながら無水酢酸(特級、97質量%)500部を滴下した。なお、内温は35℃以下に調整した。冷浴を撤去し室温(24℃)にて4時間撹拌し、半透明の白色液体を得た。
撹拌後、反応液を冷水(10℃)で冷却し、撹拌しながら酢酸175.5部と蒸留水75部の混合液を30分間で滴下し(内温は35℃以下に調整した)、室温(24℃)にて30分間撹拌した。
この溶液に2.54質量%の塩酸水溶液251部を30分間で添加し、24℃にて48時間撹拌した。反応液中の沈殿をデカンテーション法で除去し、反応液の上澄み分を8,000部の蒸留水(撹拌)に再沈し、20分間撹拌してから減圧ろ過した。こうして、白色沈殿を得た。
この白色沈澱を8,000部の蒸留水に分散し、15分間撹拌した後減圧ろ過した。この洗浄工程を4回繰り返した。なお、最終の洗浄工程でのろ液はpHが6、電気伝導度が26μS/cmであった。
凍結乾燥により乾燥し、白色粉末(セルロースジアセテート粉末)を143部得た(収率88%)。
H−NMR測定(DMSO−d、40℃)の結果、前記セルロースジアセテート粉末の置換度は2.36で、重合度は153であり、重量平均分子量Mwは4.0万であった。
【0091】
<テトラヒドロフラン(THF)への不溶分の測定>
前記セルロースジアセテート粉末1.000gに10.0gのTHFを加えた。溶液を密閉して25℃にて24時間撹拌してから、更に24時間静置した。上澄みの溶液を分離してから、残りの沈殿部に10.0gのTHFを加えた。沈殿部の溶液を密閉して25℃にて24時間撹拌してから、更に24時間静置した。THFに溶けない沈殿部を濾取し、10.0gのTHFで洗浄した後、真空乾燥した。
収量、つまりTHF不溶分の量は20mgであり、質量比:2質量%であった。
また、H−NMR測定(DMSO−d)の結果、THF不溶分の置換度は2.56であった。
【0092】
(実施例2)
<解重合>
実施例1と同様な方法でセルロースの解重合を行った。
【0093】
<アセチル化>
解重合を行ったセルロース100部(水酸基のモル数:1.852モル当量)に氷酢酸400部を加えた。次いで、氷酢酸(99.5質量%)400部と硫酸(96質量%)8.1部との混合液を加え、撹拌機で室温(24℃)にて1時間撹拌した。なお、この工程において前記セルロースに対する前記硫酸の割合は7.8質量%に相当する。
反応混合物を冷水(13℃)で冷却し、撹拌しながら無水酢酸(特級、97質量%)156部(1.528モル当量)を90分間でゆっくり滴下した。なお、内温は35℃以下に調整した。冷浴を撤去し室温(24℃)にて4時間撹拌し、半透明の白色液体を得た。
撹拌反応液を冷水(10℃)で冷却し、撹拌しながら酢酸175.5部と蒸留水75部の混合液を30分間で滴下し(内温は35℃以下に調整した)、室温(24℃)にて30分間撹拌した。
反応液中の沈殿をデカンテーション法で除去し、反応液の上澄み分を8,000部の蒸留水(撹拌)に再沈し、20分間撹拌してから減圧ろ過した。こうして、白色沈殿を得た。
この白色沈澱を8,000部の蒸留水に分散し、15分間撹拌した後減圧ろ過した。この洗浄工程を4回繰り返した。なお、最終の洗浄工程でのろ液はpHが6、電気伝導度が25μS/cmであった。
凍結乾燥により乾燥し、白色粉末(セルロースジアセテート粉末)を146部得た(収率90%)。
H−NMR測定(DMSO−d、40℃)の結果、前記セルロースジアセテート粉末の置換度は2.42で、重合度は159であり、重量平均分子量Mwは4.2万であった。
【0094】
<テトラヒドロフラン(THF)への不溶分の測定>
前記ジアセテートセルロース粉末1.000部に10.0部のTHFを加えた。溶液を密閉して25℃にて24時間撹拌してから、更に24時間静置した。上澄みの溶液を分離してから、残りの沈殿部に10.0部のTHFを加えた。沈殿部の溶液を密閉して25℃にて24時間撹拌してから、更に24時間静置した。THFに溶けない沈殿部を濾取し、10.0部のTHFで洗浄した後、真空乾燥した。
収量、つまりTHF不溶分の量は45mgであり、質量比:4.5質量%であった。
また、H−NMR測定(DMSO−d)の結果、THF不溶分の置換度は2.76であった。
【0095】
(実施例3)
<解重合>
実施例1と同様な方法でセルロースの解重合を行った。
【0096】
<トリアセチル化>
解重合を行ったセルロース100部に氷酢酸400部を加えた。次いで、氷酢酸(99.5質量%)400部と硫酸(96質量%)8.1部との混合液を加え、撹拌機で室温(24℃)にて1時間撹拌した。なお、この工程において前記セルロースに対する前記硫酸の割合は7.8質量%に相当する。
反応混合物を冷水(13℃)で冷却し、撹拌しながら無水酢酸(特級、97質量%)500部を滴下した。なお、内温は35℃以下に調整した。冷浴を撤去し室温(24℃)にて4時間撹拌し、半透明の白色液体を得た。
撹拌後、反応液を冷水(10℃)で冷却し、撹拌しながら酢酸175.5部と蒸留水75部の混合液を30分間で滴下し(内温は35℃以下に調整した)、室温(24℃)にて30分間撹拌した。
反応液中の沈殿をデカンテーション法で除去し、反応液の上澄み分を8,000部の蒸留水(撹拌)に再沈し、20分間撹拌してから減圧ろ過した。こうして、白色沈殿を得た。
この白色沈澱を8,000部の蒸留水に分散し、15分間撹拌した後減圧ろ過した。この洗浄工程を4回繰り返した。なお、最終の洗浄工程でのろ液はpHが6、電気伝導度が26μS/cmであった。
凍結乾燥により乾燥し、白色粉末を167部得た(収率94%)。
H−NMR測定(DMSO−d、40℃)の結果、前記白色粉末の置換度は3.0で、重合度は153であり、重量平均分子量Mwは4.4万であった。
【0097】
(比較例1)
<活性化>
解重合なしの粉末セルロース(日本製紙(株)製、KCフロックW−50GK、重合度681)200部に蒸留水3,200部を加え、2時間撹拌した後、一晩(16時間)浸漬した。減圧ろ過して得たウェットなセルロース433部に氷酢酸(99.5質量%)3,000部を加え、3時間撹拌した。次に減圧ろ過して酢酸により活性化したセルロース476部を得た。
【0098】
<トリアセチル化及び脱アセチル化>
前記酢酸により活性化したセルロース238部(固形分:100部)に氷酢酸400部を加えた。次いで、氷酢酸(99.5質量%)400部と硫酸(96質量%)8.1部との混合液を加え、撹拌機で室温にて1時間撹拌した。なお、この工程において前記セルロース(1)に対する前記硫酸の割合は7.8質量%に相当する。
反応混合物を冷水(13℃)で冷却し、撹拌しながら無水酢酸(特級、97質量%)500部を滴下した。なお、内温は35℃以下に調整した。冷浴を撤去し室温(24℃)にて4時間撹拌し、白濁の液状物を得た。
撹拌後、反応液を冷水(10℃)で冷却し、撹拌しながら酢酸175.5部と蒸留水75部の混合液を30分間で滴下し(内温は35℃以下に調整した)、室温(24℃)にて30分間撹拌した。
この溶液に2.54質量%の塩酸水溶液251部を30分間で添加し、24℃にて48時間撹拌した。
反応液中の沈殿を減圧ろ過により除去し、半透明のろ液を8,000部の蒸留水(撹拌)に再沈し、20分間撹拌してから減圧ろ過した。こうして、白色沈殿を得た。
この白色沈澱を8,000部の蒸留水に分散し、15分間撹拌した後減圧ろ過した。この洗浄工程を4回繰り返した。なお、最終の洗浄工程でのろ液はpHが6、電気伝導度が26μS/cmであった。
凍結乾燥により乾燥し、白色粉末(セルロースジアセテート粉末)を93部得た(収率57%)。
H−NMR測定(DMSO−d、40℃)の結果、前記セルロースジアセテート粉末の置換度は2.46で、重合度は67であり、重量平均分子量Mwは17.9万であった。
【0099】
<テトラヒドロフラン(THF)への不溶分の測定>
前記ジアセテートセルロース粉末1.000gに10.0gのTHFを加えた。溶液を密閉して25℃にて24時間撹拌してから、更に24時間静置した。上澄みの溶液を分離してから、残りの沈殿部に10.0gのTHFを加えた。沈殿部の溶液を密閉して25℃にて24時間撹拌してから、更に24時間静置した。THFに溶けない沈殿部を濾取し、10.0gのTHFで洗浄した後、真空乾燥した。
収量、つまりTHF不溶分の量は100mgであり、質量比:10質量%であった。
また、H−NMR測定(DMSO−d)の結果、THF不溶分の置換度は2.78であった。
【0100】
(比較例2)
<活性化>
比較例1に記載の方法と同様にしてセルロースの活性化を行った。
【0101】
<アセチル化>
活性化を行った酢酸置換のセルロース238部(固形分:100部)に氷酢酸400部を加えた。次いで、氷酢酸(99.5質量%)400部と硫酸(96質量%)8.1部との混合液を加え、撹拌機で室温(24℃)にて1時間撹拌した。なお、この工程において前記セルロース(1)に対する前記硫酸の割合は7.8質量%に相当する。
反応混合物を冷水(13℃)で冷却し、撹拌しながら無水酢酸(特級、97質量%)156部を90分間でゆっくり滴下した。なお、内温は35℃以下に調整した。冷浴を撤去し室温(24℃)にて4時間撹拌し、白濁の液状物を得た。
撹拌後、反応液を冷水(10℃)で冷却し、撹拌しながら酢酸175.5部と蒸留水75部の混合液を30分間で滴下し(内温は35℃以下に調整した)、室温(24℃)にて30分間撹拌した。
反応液中の沈殿を減圧ろ過により除去し、半透明のろ液を8,000部の蒸留水(撹拌)に再沈し、20分間撹拌してから減圧ろ過した。こうして、白色沈殿を得た。
この白色沈澱を8,000部の蒸留水に分散し、15分間撹拌した後減圧ろ過した。この洗浄工程を4回繰り返した。なお、最終の洗浄工程でのろ液はpHが6、電気伝導度が26μS/cmであった。
凍結乾燥により乾燥し、白色粉末(セルロースジアセテート粉末)を81部得た(収率50%)。
H−NMR測定(DMSO−d、40℃)の結果、前記セルロースジアセテート粉末の置換度は2.45で、重合度は672であり、重量平均分子量Mwは17.8万であった。
【0102】
<テトラヒドロフラン(THF)への不溶分の測定>
前記セルロースジアセテート粉末1.000gに10.0gのTHFを加えた。溶液を密閉して25℃にて24時間撹拌してから、更に24時間静置した。上澄みの溶液を分離してから、残りの沈殿部に10.0gのTHFを加えた。沈殿部の溶液を密閉して25℃にて24時間撹拌してから、更に24時間静置した。THFに溶けない沈殿部を濾取し、10.0gのTHFで洗浄した後、真空乾燥した。
収量、つまりTHF不溶分の量は120mgであり、質量比:12質量%であった。
また、H−NMR測定(DMSO−d)の結果、THF不溶分の置換度は2.79であった。
【0103】
(実施例4)
<解重合>
実施例1と同様な方法でセルロースの解重合を行った。
【0104】
<トリアセチル化及び脱アセチル化>
解重合を行ったセルロース100部に氷酢酸200部を加えた。次いで、氷酢酸(99.5質量%)200部と硫酸(96質量%)8.1部との混合液を加え、撹拌機で室温(24℃)にて1時間撹拌した。なお、この工程において前記セルロース(1)に対する前記硫酸の割合は7.8質量%に相当する。
反応混合物を冷水(13℃)で冷却し、撹拌しながら無水酢酸(特級、97質量%)500部を滴下した。なお、内温は35℃以下に調整した。冷浴を撤去し室温(24℃)にて4時間撹拌し、半透明の白色液体を得た。
撹拌後、反応液を冷水(10℃)で冷却し、撹拌しながら酢酸175.5部と蒸留水75部の混合液を30分間で滴下し(内温は35℃以下に調整した)、室温(24℃)にて30分間撹拌した。
この溶液に2.54質量%の塩酸水溶液251部を30分間で添加し、24℃にて48時間撹拌した。反応液中の沈殿をデカンテーション法で除去し、反応液の上澄み分を8,000部の蒸留水(撹拌)に再沈し、20分間撹拌してから減圧ろ過した。こうして、白色沈殿を得た。
この白色沈澱を8,000部の蒸留水に分散し、15分間撹拌した後減圧ろ過した。この洗浄工程を4回繰り返した。なお、最終の洗浄工程でのろ液はpHが6、電気伝導度が26μS/cmであった。
凍結乾燥により乾燥し、白色粉末(セルロースジアセテート粉末)を140部得た(収率86%)。
H−NMR測定(DMSO−d、40℃)の結果、前記セルロースジアセテート粉末の置換度は2.39で、重合度は152であり、重量平均分子量Mwは4.0万であった。
【0105】
<テトラヒドロフラン(THF)への不溶分の測定>
前記セルロースジアセテート粉末1.000gに10.0gのTHFを加えた。溶液を密閉して25℃にて24時間撹拌してから、更に24時間静置した。上澄みの溶液を分離してから、残りの沈殿部に10.0gのTHFを加えた。沈殿部の溶液を密閉して25℃にて24時間撹拌してから、更に24時間静置した。THFに溶けない沈殿部を濾取し、10.0gのTHFで洗浄した後、真空乾燥した。
収量、つまりTHF不溶分の量は32mgであり、質量比:3.2質量%であった。
また、H−NMR測定(DMSO−d)の結果、THF不溶分の平均置換度は2.59であった。
【0106】
(実施例5)
<解重合>
実施例1と同様な方法でセルロースの解重合を行った。
【0107】
<アセチル化>
解重合を行ったセルロース100部(水酸基のモル数:1.852モル当量)に氷酢酸200部を加えた。次いで、氷酢酸(99.5質量%)200部と硫酸(96質量%)8.1部との混合液を加え、撹拌機で室温にて1時間撹拌した。なお、この工程において前記セルロースに対する前記硫酸の割合は7.8質量%に相当する。
反応混合物を冷水(13℃)で冷却し、撹拌しながら無水酢酸(特級、97質量%)156部(1.528モル当量)を90分間でゆっくり滴下した。なお、内温は35℃以下に調整した。冷浴を撤去し室温(24℃)にて4時間撹拌し、半透明の白色液体を得た。
撹拌反応液を冷水(10℃)で冷却し、撹拌しながら酢酸175.5部と蒸留水75部の混合液を30分間で滴下し(内温は35℃以下に調整した)、室温(24℃)にて30分間撹拌した。
反応液中の沈殿をデカンテーション法で除去し、反応液の上澄み分を8,000部の蒸留水(撹拌)に再沈し、20分間撹拌してから減圧ろ過した。こうして、白色沈殿を得た。
この白色沈澱を8,000部の蒸留水に分散し、15分間撹拌した後減圧ろ過した。この洗浄工程を4回繰り返した。なお、最終の洗浄工程でのろ液はpHが6、電気伝導度が25μS/cmであった。
凍結乾燥により乾燥し、白色粉末(セルロースジアセテート粉末)を139部得た(収率85%)。
H−NMR測定(DMSO−d、40℃)の結果、前記セルロースジアセテート粉末の平均置換度は2.45で、重合度は155であり、重量平均分子量Mwは4.1万であった。
【0108】
<テトラヒドロフラン(THF)への不溶分の測定>
前記ジアセテートセルロース粉末1.000部に10.0部のTHFを加えた。溶液を密閉して25℃にて24時間撹拌してから、更に24時間静置した。上澄みの溶液を分離してから、残りの沈殿部に10.0部のTHFを加えた。沈殿部の溶液を密閉して25℃にて24時間撹拌してから、更に24時間静置した。THFに溶けない沈殿部を濾取し、10.0部のTHFで洗浄した後、真空乾燥した。
収量、つまりTHF不溶分の量は46mgであり、質量比:4.6質量%であった。
また、H−NMR測定(DMSO−d)の結果、THF不溶分の平均置換度は2.78であった。
【0109】
(実施例6)
<解重合>
実施例1と同様な方法でセルロースの解重合を行った。
【0110】
<トリアセチル化>
解重合を行ったセルロース100部に氷酢酸200部を加えた。次いで、氷酢酸(99.5質量%)200部と硫酸(96質量%)8.1部との混合液を加え、撹拌機で室温(24℃)にて1時間撹拌した。なお、この工程において前記セルロースに対する前記硫酸の割合は7.8質量%に相当する。
反応混合物を冷水(13℃)で冷却し、撹拌しながら無水酢酸(特級、97質量%)500部を滴下した。なお、内温は35℃以下に調整した。冷浴を撤去し室温(24℃)にて4時間撹拌し、半透明の白色液体を得た。
撹拌後、反応液を冷水(10℃)で冷却し、撹拌しながら酢酸175.5部と蒸留水75部の混合液を30分間で滴下し(内温は35℃以下に調整した)、室温(24℃)にて30分間撹拌した。
反応液中の沈殿をデカンテーション法で除去し、反応液の上澄み分を8,000部の蒸留水(撹拌)に再沈し、20分間撹拌してから減圧ろ過した。こうして、白色沈殿を得た。
この白色沈澱を8,000部の蒸留水に分散し、15分間撹拌した後減圧ろ過した。この洗浄工程を4回繰り返した。なお、最終の洗浄工程でのろ液はpHが6、電気伝導度が26μS/cmであった。
凍結乾燥により乾燥し、白色粉末を165部得た(収率93%)。
H−NMR測定(DMSO−d、40℃)の結果、前記白色粉末の平均置換度は3.0で、重合度は153であり、重量平均分子量Mwは4.4万であった。
【0111】
(実施例7)
<解重合>
実施例1と同様な方法でセルロースの解重合を行った。
【0112】
<トリアセチル化>
解重合を行ったセルロース100部に氷酢酸400部を加えた。次いで、氷酢酸(99.5質量%)400部と硫酸(96質量%)8.1部との混合液を加え、撹拌機で室温(24℃)にて1時間撹拌した。なお、この工程において前記セルロースに対する前記硫酸の割合は7.8質量%に相当する。
反応混合物を冷水(13℃)で冷却し、撹拌しながら無水プロピオン酸(特級、97質量%)637部を滴下した。なお、内温は35℃以下に調整した。冷浴を撤去し室温(24℃)にて4時間撹拌し、半透明の白色液体を得た。
撹拌後、反応液を冷水(10℃)で冷却し、撹拌しながら酢酸175.5部と蒸留水75部の混合液を30分間で滴下し(内温は35℃以下に調整した)、室温(24℃)にて30分間撹拌した。
反応液中の沈殿をデカンテーション法で除去し、反応液の上澄み分を8,000部の蒸留水(撹拌)に再沈し、20分間撹拌してから減圧ろ過した。こうして、白色沈殿を得た。
この白色沈澱を8,000部の蒸留水に分散し、15分間撹拌した後減圧ろ過した。この洗浄工程を4回繰り返した。なお、最終の洗浄工程でのろ液はpHが6、電気伝導度が26μS/cmであった。
凍結乾燥により乾燥し、白色粉末を190部得た(収率93%)。
H−NMR測定(DMSO−d、40℃)の結果、前記白色粉末の置換度は3.0で、重合度は152であり、重量平均分子量Mwは5.0万であった。
【0113】
(比較例3)
<活性化>
比較例1に記載の方法と同様にしてセルロースの活性化を行った。
【0114】
<アセチル化>
活性化を行った酢酸置換のセルロース238部(固形分:100部)に氷酢酸1,000部を加えた。次いで、氷酢酸(99.5質量%)1,000部と硫酸(96質量%)8.1部との混合液を加え、撹拌機で室温(24℃)にて1時間撹拌した。なお、この工程において前記セルロース(1)に対する前記硫酸の割合は7.8質量%に相当する。
反応混合物を冷水(13℃)で冷却し、撹拌しながら無水酢酸(特級、97質量%)156部を90分間でゆっくり滴下した。なお、内温は35℃以下に調整した。冷浴を撤去し室温(24℃)にて4時間撹拌し、白濁の液状物を得た。
撹拌後、反応液を冷水(10℃)で冷却し、撹拌しながら酢酸175.5部と蒸留水75部の混合液を30分間で滴下し(内温は35℃以下に調整した)、室温(24℃)にて30分間撹拌した。
反応液中の沈殿を減圧ろ過により除去し、半透明のろ液を8,000部の蒸留水(撹拌)に再沈し、20分間撹拌してから減圧ろ過した。こうして、白色沈殿を得た。
この白色沈澱を8,000部の蒸留水に分散し、15分間撹拌した後減圧ろ過した。この洗浄工程を4回繰り返した。なお、最終の洗浄工程でのろ液はpHが6、電気伝導度が26μS/cmであった。
凍結乾燥により乾燥し、白色粉末(セルロースジアセテート粉末)を95部得た(収率58%)。
H−NMR測定(DMSO−d、40℃)の結果、前記セルロースジアセテート粉末の置換度は2.44で、重合度は677であり、重量平均分子量Mwは17.9万であった。
【0115】
<テトラヒドロフラン(THF)への不溶分の測定>
前記セルロースジアセテート粉末1.000gに10.0gのTHFを加えた。溶液を密閉して25℃にて24時間撹拌してから、更に24時間静置した。上澄みの溶液を分離してから、残りの沈殿部に10.0gのTHFを加えた。沈殿部の溶液を密閉して25℃にて24時間撹拌してから、更に24時間静置した。THFに溶けない沈殿部を濾取し、10.0gのTHFで洗浄した後、真空乾燥した。
収量、つまりTHF不溶分の量は110mgであり、質量比:11質量%であった。
また、H−NMR測定(DMSO−d)の結果、THF不溶分の置換度は2.78であった。
【0116】
上記結果から、本実施例では、比較例に比べ、収率に優れることがわかる。
また、上記結果から、置換度が2.0以上2.5以下のセルロースアシレートを製造した本実施例では、比較例に比べ、得られるセルロースアシレートにおけるテトラヒドロフラン(THF)不溶分が少ないことがわかる。
【要約】
【課題】収率に優れたセルロースアシレートの製造方法の提供。
【解決手段】平均重合度が100以上350以下のセルロースを酢酸の存在下でアシル化する工程を有し、前記アシル化する工程における前記酢酸の量は、前記セルロースの量1質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であるセルロースアシレートの製造方法。
【選択図】なし