(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、ねじ軸と、複数の転動体(例えば、ボール)を介して上記ねじ軸に螺合するナットとを有し、上記ねじ軸と上記ナットとが相対的に回転可能とされたボールねじが知られている。このボールねじにおいては、回転時に上記ねじ軸と上記ナットとの間で点接触又は面接触による摩擦熱が生じるため、その摩擦熱を冷却する冷却部が設けられることがあった。
【0003】
従来のボールねじにおける冷却部の設置態様としては、軸心冷却方式とナット冷却方式とが挙げられる。上記軸心冷却方式は、冷却対象を上記ねじ軸として上記ねじ軸に上記冷却部を設ける態様である。この軸心冷却方式の一例としては、上記ねじ軸を中空にして、上記ねじ軸内に冷却媒体を流す構成が挙げられる。また、上記ナット冷却方式は、冷却対象を上記ナットとして上記ナットに上記冷却部を設ける態様である。
【0004】
ここで、上記軸心冷却方式は、大型・長尺のボールねじ装置に採用するにあたって、上記ねじ軸に中空穴を空けるために要するコストが問題となることがあるため、ナット冷却方式が採用されることが多い。
このようなナット冷却方式を採用したボールねじとしては、特許文献1に開示された技術が挙げられる。この特許文献1は、具体的には、軸方向に沿ってナットに設けた流路に冷却媒体を通し、該ナットを冷却する技術である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の大型・長尺のボールねじの主流は、ダブルナット予圧を採用したボールねじであり、このようなボールねじにおいては、複数のナットを効率的な冷却し、かつ分解時、組立時、及びメンテナンス時における冷却媒体の漏洩を抑制することは重要である。
しかしながら、特許文献1に開示されたボールねじを、ダブルナット予圧を採用したボールねじに適用しても、複数のナットの効率的な冷却と、冷却媒体の漏洩の抑制とのバランスがとれたボールねじを提供することは改善の余地があった。
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、冷却効率に優れ、分解・組立更にはメンテナンス時にも冷却媒体の漏洩が抑制され、これらのバランスがとれたボールねじを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のある実施形態のボールねじは、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、
上記螺旋溝に対向する螺旋溝を内周面に有し、該螺旋溝と上記ねじ軸の螺旋溝との間に配置された複数のボールを介して上記ねじ軸に螺合する2つのナットと、
上記ボールに予圧を付与する予圧付与部材とを有し、
上記2つのナットのそれぞれに冷却部が独立して設けられ、
これらの上記冷却部は、上記2つのナット間を基準として対称となるように上記ナットのそれぞれに配設され、
前記冷却部が、冷却媒体を通過させる流路であり、その流路が前記軸方向に沿う軸方向流路、及び前記軸方向に直交して設けられる周方向流路の少なくとも何れかを有し、
前記予圧付与部材が、前記2つのナットと同軸で前記2つのナット間に配置される間座であり、
前記軸方向流路が前記2つのナットのそれぞれを軸方向に貫通して設けられ、
前記2つのナットのそれぞれの端部に設けられ、一方の面が前記軸方向流路及び前記周方向流路を形成し、他方の面が前記間座に接するシール部が前記2つのナットと同軸で設けられる。
【0008】
すなわち、本発明のある実施形態のボールねじは、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、上記螺旋溝に対向する螺旋溝を内周面に有し、該螺旋溝と上記ねじ軸の螺旋溝との間に配置された複数のボールを介して上記ねじ軸に螺合する2つのナットと、上記ボールに予圧を付与する予圧付与部材とを有するボールねじにおいて、
上記2つのナットのそれぞれに冷却部(冷却機構)が独立して設けられ、
これらの上記冷却部は、上記2つのナット間を基準として対称となるように上記ナットのそれぞれに配設される。なお、上記2つのナットは、連結もしくは連接あるいは隣接して組み込まれている。
【0009】
ここで、上記ボールねじにおいては、上記冷却部が、冷却媒体を通過させる流路であり、その流路が上記軸方向に沿う軸方向流路、及び上記軸方向に直交して設けられる周方向流路の少なくとも何れかを有する。すなわち、この冷却部は、それぞれ独立した経路として冷却媒体を通過させるための流路を有する。これらの流路は、軸方向流路及び周方向流路の少なくとも何れか一方を含む。上記軸方向流路は、上記ナットの内周と上記ナットの外周との間に軸方向に設けられた流路である。また、上記周方向流路は、上記ナットの内周と上記ナットの外周との間に上記ナットの軸と直交方向に設けられた流路である。このように上記冷却部は、上記ナット毎に独立して上記冷却媒体が循環できるように構成されている。
【0010】
また、上記ボールねじは、上記流路に連結され、冷却媒体を流入する流入孔、及び上記流路に連結され、冷却媒体を排出する排出孔が上記ナット毎に設けられることが好ましい。すなわち、各ナットそれぞれが、冷却媒体の流入部である流入孔と流出部である排出孔を少なくとも1組以上有している形態が好ましい。
また、上記ボールねじは、上記予圧付与部材が、上記2つのナットと同軸で上記2つのナット間に配置される間座である。
なお、上記予圧付与部材としては、上記ナット間の位置調整による定位置予圧、ばね等の弾性体による定圧予圧、流体圧や圧電素子等のアクチュエータを用いて所定の予圧荷重を設定する可変制御予圧等を用いた構成が使用できる。より具体的には複数のナット同士が押し合う、もしくは引き合う形態になるよう上記予圧の構成を上記ナット間に配置する構成を使用することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、冷却効率に優れ、分解・組立更にはメンテナンス時にも冷却媒体の漏洩が抑制され、これらのバランスがとれたボールねじを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、ボールねじのある実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、ボールねじのある実施形態における構成を示す側面図である。また、
図2は、ボールねじのある実施形態における構成を示す部分断面図である。また、
図3は、ボールねじのある実施形態における構成を示す側面図であり、流路をハッチングにて強調して示している。
図1に示すように、本実施形態のボールねじ1は、2つのナット(第一ナット100,第二ナット200)と、ねじ軸300と、2つのナットの間に設けられ、前記ボールに予圧を付与する予圧付与部材とを有する。
【0014】
<ナット>
第一ナット100は、ねじ軸300の外径より大きい内径で筒状に形成された本体部100Aと、キャップ110と、チューブ120,121とを有する。キャップ110は、図示しないねじ等で本体部100Aの一方の端部にシール材111を介して取り付けられる。また、チューブ120,121は、本体部100Aの外周面のうちの平面部115に設けられた転動体循環用の部材であり、ねじ123〜125によって第一ナット100に締結された押さえ板122によって固定されている。第一ナット100は、いわゆるフランジの無いタイプのナットである。
【0015】
第二ナット200は、ねじ軸300の外径より大きい内径で筒状に形成された本体部200Aと、その一方の端部に設けられたフランジ部201と、キャップ210と、チューブ220,221とを有する。キャップ210は、図示しないねじ等で本体部200Aの端部にシール材211を介して取り付けられる。また、チューブ220,221は、本体部200Aの外周面のうちの平面部215に設けられた転動体循環用の部材であり、ねじ223〜225によって第二ナット200に締結された押さえ板222によって固定されている。
【0016】
ここで、
図2に示すように、第一ナット100の内周面100aには、ねじ軸300の外周面300aに螺旋状に形成された螺旋溝301に対向するように螺旋溝101が形成されている。また、第二ナット200の内周面200aにも、ねじ軸300の螺旋溝301に対向するように螺旋溝201が形成されている。そして、螺旋溝101と螺旋溝201との間に配設された複数の転動体Bにより、ねじ軸300と、ねじ軸300の軸方向に同軸で配列された第一ナット100及び第二ナット200とが螺合している。このようにして、螺旋溝301と螺旋溝101,201とによって形成された転動路において転動体Bが転動可能とされ、ねじ軸300と第一ナット100及び第二ナット200とが軸方向に相対移動可能とされる。
【0017】
<予圧付与部材>
図1及び
図2に示すように、第一ナット100の他方の端部と、第二ナット200の他方の端部との間には、シール材129,130を介して、間座128が第一ナット100及び第二ナット200と同軸で設けられている。また、この間座128及びシール材129,130を介して第一ナット100と第二ナット200とが連結部材127により連結されている。連結部材127は、
図1及び
図2では1つだが、必要に応じて複数の連結部材127で第一ナット100と第二ナット200とを複数個所で連結してもよい。
【0018】
このように、第一ナット100と第二ナット200とを間座128を介して連結部材127で連結することで、間座128及び連結部材127が予圧付与部材として機能し、いわゆる定位置予圧をかけた態様となる。そして、本実施形態のボールねじ1では、引張方向の2点接触予圧を第一ナット100及び第二ナット200に与えることにより、第一ナット100及び第二ナット200を冷却することによる予圧トルクの増大を打ち消し、効率的に第一ナット100及び第二ナット200を冷却することができる。
上記予圧付与部材としては、上述のナット100,200間の位置調整による定位置予圧に限られることなく、ばね等の弾性体による定圧予圧、流体圧や圧電素子等のアクチュエータを用いて所定の予圧荷重を設定する可変制御予圧等を用いた構成を選択することができる。
【0019】
<冷却部>
第一ナット100及び第二ナット200のそれぞれには、独立して各ナット100,200を冷却する冷却部150,250が設けられている。そして、これらの冷却部150,250は、2つのナット100,200間(例えば、間座128の軸方向の中間点を通り、軸方向に直交する面A(
図2参照))を基準として対称となるようにナット100,200のそれぞれに配設される。このように冷却部150,250が設けられることで、ボールねじ装置としての重量バランスが保たれ、スムーズな駆動を妨げることがない。ここで、冷却部150,250の態様は、2つのナット100,200間を基準として対称となるように配設され、第一ナット100及び第二ナット200のそれぞれを独立して冷却すれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。
【0020】
冷却部150,250は、例えば、
図1及び
図2に示すように、第一ナット100及び第二ナット200のそれぞれに穿孔され、冷却媒体を通過可能とした複数の流路152〜154,252〜256である。これら流路は、軸方向に沿う軸方向流路と、軸方向に直交して設けられる周方向流路の少なくとも何れかを有することが好ましい。上記「軸方向流路」は、第一ナット100内で軸方向に沿う軸方向流路152,154と、第二ナット200内で軸方向に沿う軸方向流路253,255とが挙げられる。これら軸方向流路152,154,253,255のうち、軸方向流路152と軸方向流路253とが、2つのナット100,200間で対称に設けられた流路である。また、軸方向流路154と軸方向流路255とが、2つのナット100,200間で対称に設けられた流路である。
【0021】
また、上記「周方向流路」は、第一ナット100内で軸方向に直交して周方向に沿って設けられる周方向流路153と、第二ナット200内で軸方向に直交して周方向に沿って設けられる周方向流路252、254,256が挙げられる。これら周方向流路153,252,254,256のうち、周方向流路153と軸方向流路254とが、2つのナット100,200間で対称に設けられた流路である。このように冷却部150,250は、ナット100,200毎に独立して冷却媒体が循環できるように構成されている。
【0022】
また、本実施形態のボールねじ1は、流路152〜154に連結され、冷却媒体を流入する流入孔151と、冷却媒体を排出する排出孔155が第一ナット100に設けられることが好ましい。また、本実施形態のボールねじ1は、流路252〜256に連結され、冷却媒体を流入する流入孔251と、冷却媒体を排出する排出孔257が第二ナット200に設けられることが好ましい。すなわち、各ナット100,200それぞれが、冷却媒体の流入部である流入孔151,251と排出部である排出孔155,257を少なくとも1組以上有している形態が好ましい。
【0023】
よって、
図1〜3に示すように、第一ナット100の冷却部150は、キャップ110の端部に軸方向に設けられた流入部151、軸方向流路152、周方向流路153、軸方向流路154、キャップ110の端部に軸方向に設けられた排出部155で構成されている。すなわち、第一ナット100に対して1系統の独立の流路が形成されている。なお流路は、ナット100,200毎に独立であれば2系統以上あってもよい。
【0024】
また、
図1〜3に示すように、第二ナット200の冷却部250は、フランジ部201の外周に軸と直交方向に設けられた流入部251と、周方向流路252、軸方向流路253、周方向流路254、軸方向流路255、周方向流路256、及びフランジ部201の外周に軸と直交方向に設けられた流出部257で構成されている。すなわち、第二ナット200に対して1系統の独立の流路が形成されている。なお流路は、ナット100,200毎に独立であれば2系統以上あってもよい。
ここで、流入部151,251、及び排出部155,257には、配管締結用の管用テーパねじが設けられており、これらに配管を接続して冷却媒体を供給及び排出することができる。
【0025】
<冷却媒体>
上記冷却媒体としては、流体として各種の気体、液体が使用できる。気体としては、空気あるいは圧縮空気の他、窒素、不活性ガス(アルゴン等)、炭化水素(ブタン、イソブタン等)、ヘリウム、アンモニア、二酸化炭素等、更にはこれらの混合物が使用できる。液体としては、水の他、水に防錆剤を加えたクーラント、水に各種添加剤を加えたクーラント、もしくは冷却媒体油として各種の油も使用できる。具体的には鉱油、動植物油、合成油が使用できる。これらは使用環境等に応じて適宜選択すれば良い。更に、冷却媒体は温度管理されており、流量も管理されていることが好ましい。特に、冷却媒体を乱流状態で使用するのが好ましい。
また、本実施形態では、ナット毎に独立して温度管理を行い、例えば予圧の制御を行うことも可能である。
さらに、流入部、排出部の位置、大きさ、各流路の断面形状、断面積等は使用条件に応じて適宜調整することができる。
【0026】
本実施形態のボールねじによれば、予圧荷重を大きくすることができるため、いわゆる大型(概ねねじ軸300の外径寸法が80mm以上)のボールねじへの適用が好適に行える。
本実施形態のボールねじによれば、ナット毎に独立して冷却媒体が循環できるようにしたため冷却効率が良い。この冷却効率の良さにより、先ずナットが冷却され、冷却の効果はナット内周の螺旋溝から転動体であるボールに伝達され、更にはねじ軸の螺旋溝に伝達されねじ軸をも冷却し、発熱による予圧変化や潤滑の悪化を抑制すると考えられる。この冷却の効果は、ある程度予圧荷重が高く、螺旋溝と転動体、螺旋溝と転動体との接触状態が保たれる場合により一層効果を発揮する。そのため、本発明のボールねじは比較的大型のボールねじに好適である。
【0027】
なお、本実施形態のボールねじによれば、いわゆる軸心冷却方式の採用が困難な長尺(概ね4m以上)のボールねじ軸であっても、軸心冷却なしで適用できるが、必要であれば軸心冷却を併用することも可能である。
また、本実施形態のボールねじによれば、冷却のための冷却媒体の流路がナット毎に独立して設けられているため、例えば複数のナットのうちのいくつかのナットを交換する必要がある等のメンテナンス時にも、それぞれの冷却媒体流路への配管を遮断すれば、メンテナンス時の冷却媒体の漏洩も効果的に抑制できる。
そのため、本実施形態のボールねじは、加工精度を特に要し、いわゆるメンテナンスも行われることのある大型の工作機械の直動部分に用いられるボールねじとして好適に使用できる。
【0028】
また、本実施形態のボールねじは冷却効率に優れるため、予圧荷重の変化や、ねじ軸の長さの変化が少なく、過度の発熱にいたることも抑制されるため潤滑剤の劣化も少ないため、ボールねじの発熱による直動部分の位置決め精度の悪化が少なく、いわゆるトルク変動の少ない安定した稼動が長期に渡り維持でき、長尺のねじ軸であってもその効果を発揮できるため、大型の精密加工用の工作機械の直動部分に用いられるボールねじとして、特に好適である。なお、軸心冷却と併用することも可能である。
【0029】
本実施形態のボールねじは、大型の精密加工用の工作機械の直動部分に用いられるボールねじとして好適である。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに、種々の変更、改良を行うことができる。