(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183554
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】周期外乱自動抑制装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/13 20060101AFI20170814BHJP
【FI】
H02P21/13
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-525718(P2016-525718)
(86)(22)【出願日】2015年3月18日
(86)【国際出願番号】JP2015058087
(87)【国際公開番号】WO2015186406
(87)【国際公開日】20151210
【審査請求日】2016年8月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-117181(P2014-117181)
(32)【優先日】2014年6月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】山口 崇
(72)【発明者】
【氏名】只野 裕吾
【審査官】
森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/024195(WO,A1)
【文献】
特開2013−47868(JP,A)
【文献】
特開平9−322580(JP,A)
【文献】
特開平6−121572(JP,A)
【文献】
特開2015−69439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/00−27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流指令値と、電流センサによる電流検出値から、電流制御部によって電圧指令値を生成し、電圧指令値に基づいて制御装置を介してプラントを制御するものにおいて、
プラントモデル部を設け、プラントモデル部に前記電圧指令値を入力して仮想電流値を生成し、仮想電流値は座標変換部を介して電流誤差補正制御系の周期外乱オブザーバに入力して補償値を算出し、算出された補償値を前記電流検出値に重畳して、電流センサによる電流検出値を補正すると共に、
トルクリプル抑制系の周期外乱オブザーバを設け、この周期外乱オブザーバにプラントの出力トルク及び回転角速度を入力して補償値を算出し、算出された補償値は座標変換部を介して前記電流指令値に加算するよう構成したことを特徴とした周期外乱自動抑制装置。
【請求項2】
前記トルクリプル抑制系の座標変換部を経て出力される補償値と前記プラントモデル部からの仮想電流値の差分を算出して前記電流誤差補正制御系の座標変換部に入力するよう構成したことを特徴とした請求項1に記載の周期外乱自動抑制装置。
【請求項3】
前記電流誤差補正制御系の周期外乱オブザーバの出力側に設けられたスイッチとメモリを有するスイッチ部と、
前記トルクリプル抑制系の周期外乱オブザーバの出力側に設けられたスイッチ部を備え、
電流誤差補正制御系による電流センサ誤差補正時に、前記トルクリプル抑制系のスイッチ部をオフにし、且つ前記電流誤差補正制御系スイッチ部のスイッチをオンにして補償値をメモリに記憶し、メモリに記憶された補償値に基づいて電流センサ誤差補正を行うと共に、
電流センサ誤差補正の終了後に前記トルクリプル抑制系のスイッチ部をオンしてトルクリプルを抑制するよう構成したことを特徴とした請求項1に記載の周期外乱自動抑制装置。
【請求項4】
電流指令値と、電流センサによる電流検出値から、電流制御部によって電圧指令値を生成し、電圧指令値に基づいて制御装置を介してプラントを制御するものにおいて、
前記生成された電圧指令値と前記プラントの回転角速度を電流誤差補正制御系の周期外乱オブザーバに入力して外乱推定値を算出すると共に、
トルクリプル抑制系の周期外乱オブザーバを設け、この周期外乱オブザーバにプラントの出力トルク及び回転角速度を入力して補償指令値を算出し、算出された補償指令値と前記電流誤差補正制御系の周期外乱オブザーバによって算出された外乱推定値の差分を補償値とし、この補償値と前記電流検出値との差分を前記電流指令値に加算するよう構成したことを特徴とした周期外乱自動抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期外乱自動抑制装置に係わり、特に電流誤差補正を行いつつトルクリプル抑制も行う周期外乱自動抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周期外乱の発生抑制制御としては、受変電設備での電力系統制御、ロボットによる位置決め制御、ダイナモメータシステムの軸トルク共振抑制、モータ筐体の振動抑制(電気自動車、エレベータなどの乗り心地に関連するもの)等が存在し、これら各製品での周期外乱を高精度に抑制することが要望されている。
【0003】
例えば、モータは原理的にトルクリプルを発生し、振動、騒音、乗り心地への悪影響、電気・機械共振等の種々の問題を引き起こす。特に、埋込磁石形のPMモータは、コギングトルクリプルとリラクタンストルクリプルが複合的に発生する。その対策として、トルクリプルを抑制する制御方式として周期外乱オブザーバ補償法が提案されている。
【0004】
図5は、特許文献1及び非特許文献によって公知となっている周期外乱オブザーバのn次トルクリプル周波数成分に関する制御ブロック図を示したものである。
1はトルクリプル補償値演算部で、正弦波/余弦波の制御指令r
n(通常は0)と周期外乱オブザーバ3による推定値dT
A^
n, dT
B^
nとの差分にそれぞれ正弦波/余弦波値を乗算してそれを加算することでトルクリプル補償指令T
C*nを生成し制御対象2に出力される。制御対象2では、周期の外乱(以下周期外乱dT
nという)が発生することがある。例えば、制御対象がモータであればコギングトルクなどによる回転数に同期した外乱であるトルクリプルがこれに相当し、振動や騒音の要因となる。
【0005】
周期外乱オブザーバ3は周期外乱dT
nを抑制するもので、周波数成分毎に複素ベクトルで表現したシステム同定モデルを外乱オブザーバの逆システムモデルを用いることで、制御対象とする周波数の外乱を直接的に推定して補償する。
これにより比較的単純な制御構成でありながら、対象とした周波数に対しては次数に関係なく高い抑制効果が得られる。
【0006】
システム同定モデルP^
nの取得に関して、制御に先立って制御対象のプラントP
n(=P
An+jP
Bn)に対して予めシステム同定を行い、1次元複素ベクトルの形で(1)式として表現する。
P^
n=P^
An+jP^
Bn …(1)
ただし、添字のnはn次成分、変数は何れもX
n=X
An+jX
Bnと表現される複素ベクトルである。
【0007】
例えば、1〜1000Hzまでのシステム同定結果を1Hz毎に複素ベクトルで表現した場合、1000個の1次元複素ベクトルの要素からなるテーブルでシステムを表現できる。または、同定結果を数式化してシステムを表現することも可能である。何れの手法も、特定の周波数成分については簡素な1次元複素ベクトルでシステムモデルの表現は可能となる。
なお、システム同定モデルに限らず文中記載のP^
n,r
n,dT
n,dT^
n,T
nもX
n=X
An+jX
Bnと表現される複素ベクトルである。
【0008】
具体的な制御手法としては、プラント出力に対してフーリエ変換を簡易化した低域通過フィルタG
Fを通すことで、周期外乱の抑制対象とする周波数成分を抽出する。これに上記のシステム同定モデルの逆数P^
n-nで表現される逆システムを乗算し、G
Fを通した制御指令値との差分から周期外乱dT
nを推定しシステム同定モデルd^
nとする。推定した周期外乱dT
nを制御指令値r
nから差し引いて外乱補償値とし、周期外乱dT
nを抑制する。以上の流れが周期外乱オブザーバによる周期外乱を抑制する制御手法である。
【特許文献1】国際公開WO2010/024195A1
【非特許文献1】複素ベクトル表現を用いた周期外乱オブザーバに基づくPMモータのトルクリプル抑制制御法、電気学会論文誌D、Vol.132, No.1.p.84−93(2012)
【発明の開示】
【0009】
インバータ駆動の装置における周期外乱の発生要因は多々あるが、電流センサのオフセットおよびゲイン誤差もその一つである。オフセット誤差は主に同期周波数の1fに、ゲイン誤差は主に2fの周期外乱を発生させる。
【0010】
トルクリプルを発生させる要因はこの電流センサ誤差以外にもモータ自身のコギングトルクなどがある。この時、“トルクリプル抑制“と”電流センサ誤差補正“の2つを同時目的とする場合を考える。
【0011】
従来のトルク検出値を入力としたトルクリプル抑制の周期外乱オブザーバ構成では、トルクリプルは抑制可能であるが電流センサ誤差を補正することは出来ない。これは
図5の制御対象からの検出値をトルク検出値として制御指令値r
nをトルク指令もしくは電流指令とした場合に相当する。出願人は、電流センサ誤差補正を可能とする手法についての特許出願をしているが、この場合は逆にコギングトルクなどによってあらわれるトルクリプルは残留したままになる。単純に、電流センサ誤差補正とトルクリプル抑制を並列駆動させることも考えられるが、センサ誤差要因とモータ側要因のリプルが同次元に発生している場合では、両者の干渉が発生し振動抑制および電流が制御不能に陥る。
【0012】
このため、電流センサ誤差補正を行いつつトルクリプル抑制も達成する制御方式が必要となる。
【0013】
本発明が目的とするところは、電流誤差補正を行いつつトルクリプルの抑制も行う周期外乱自動抑制装置を提供することにある。
本発明は、電流指令値と、電流センサによる電流検出値から、電流制御部によって電圧指令値を生成し、電圧指令値に基づいて制御装置を介してプラントを制御するものにおいて、
プラントモデル部を設け、プラントモデル部に前記電圧指令値を入力して仮想電流値を生成し、仮想電流値は座標変換部を介して電流誤差補正制御系の周期外乱オブザーバに入力して補償値を算出し、算出された補償値を前記電流検出値に重畳して、電流センサによる電流検出値を補正すると共に、
トルクリプル抑制系の周期外乱オブザーバを設け、この周期外乱オブザーバにプラントの出力トルク及び回転角速度を入力して補償値を算出し、算出された補償値は座標変換部を介して前記電流指令値に加算するよう構成したことを特徴としたものである。
【0014】
また、本発明は、トルクリプル抑制系の座標変換部を経て出力される補償値と前記プラントモデル部からの仮想電流値の差分を算出して前記電流誤差補正制御系の座標変換部に入力するよう構成したことを特徴としたものである。
【0015】
更に本発明は、電流誤差補正制御系の周期外乱オブザーバの出力側に設けられたスイッチとメモリを有するスイッチ部と、
前記トルクリプル抑制系の周期外乱オブザーバの出力側に設けられたスイッチ部を備え、電流誤差補正制御系による電流センサ誤差補正時に、前記トルクリプル抑制系のスイッチ部をオフにし、且つ前記電流誤差補正制御系スイッチ部のスイッチをオンにして補償値をメモリに記憶し、メモリに記憶された補償値に基づいて電流センサ誤差補正を行うと共に、
電流センサ誤差補正の終了後に前記トルクリプル抑制系のスイッチ部をオンしてトルクリプルを抑制するよう構成したことを特徴としたものである。
【0016】
また、本発明は、電流指令値と、電流センサによる電流検出値から、電流制御部によって電圧指令値を生成し、電圧指令値に基づいて制御装置を介してプラントを制御するものにおいて、
前記生成された電圧指令値と前記プラントの回転角速度信号を電流誤差補正制御系の周期外乱オブザーバに入力して外乱推定値を算出すると共に、
トルクリプル抑制系の周期外乱オブザーバを設け、この周期外乱オブザーバにプラントの出力トルク及び回転角速度を入力して補償指令値を算出し、算出された補償指令値と前記電流誤差補正制御系の周期外乱オブザーバによって算出された外乱推定値の差分を補償値とし、この補償値と前記電流検出値との差分を補償値として前記電流指令値に加算するよう構成したことを特徴としたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明では、電流センサ誤差による周期外乱の抑制と共に、トルクリプルの抑制も行うもので、以下図に基づいて説明する。なお、電流センサによる振動発生はインバータとモータの組み合わせに限らず、電流センサを用いた制御機器一般に当てはまる問題である。よって、以下で示す各実施形態では、制御装置をインバータとし、制御対象をモータの例としているが、一般的な制御機器に対して適用可能なものである。
【0019】
図1は、本発明の第1の実施形態を示す構成図を示したものである。なお、図における各記号は次の通りである。
[共通変数]
T
*:トルク指令値、i
dq*:i
d,i
q指令値、v
dqref:v
d,v
q指令値、i
uvw:相電流値、T:出力トルク値、θ:回転角、ω:回転角速度、i
dqsense:電流検出i
d,i
q値[電流センサ補正側変数]
i
dq´:補償後i
d,i
q、ic
dqCT:i
d,i
q補償値、i
^dq:仮想i
d,i
q値、I
dqn:n次高調波i
d,i
q値、ic
dqn:n次i
d,i
q補償値、dI
dq*n:n次i
d,i
q補償指令値、dI
dqn:n次i
d,i
q外乱推定値
[トルク補正側変数]
ic
dqtrq:補償i
d,i
q値、T
n:n次高調波i
d,i
q値、Tc
n:n次i
d,i
q補償値、dT
*n:n次トルク補償指令値、dT
n:n次トルク外乱推定値、
図1において、1は制御装置となるインバータ、2は制御対象となるプラント(ここではPMモータ)、3,4は周期外乱オブザーバで、周期外乱オブザーバ3は電流誤差補正制御系となり、周期外乱オブザーバ4はトルクリプル抑制系となる。
【0020】
11は変換部で、トルク指令値T
*をd,q軸の電流指令値i
dq*(i
d,i
q)に変換する。変換された電流指令値i
dq*は加減算部においてi
dq´と減算、またはic
dqtrqと加算演算が行われて電流制御部12に入力される。電流制御部12は、i
dq*とi
dq´との差分、またはi
dq*とic
dqtrqとの加算値に基づいて電圧指令値v
dqrefを算出する。13は変換部で、d,q軸の2相電圧を3相に変換してインバータ1に出力すると共に、電流センサ14により検出された3相電流を2相に変換し、i
d,i
qの電流検出値i
dqsenseとして減算部に出力されてi
d,i
qの補償値ic
dqCTとの差分i
dq´が算出される。
【0021】
15は回転位置センサで、エンコーダ波形abzからのロータ回転角度θと回転角速度ωを検出して変換部13に出力すると共に、係数n倍して座標変換部17及びトルクリプル抑制系の変換部21と座標変換部22にそれぞれ出力される。
また、角速度ωは係数n倍した後、周期外乱オブザーバ3と4に入力される。
16はプラントモデル部(ここではモータモデル部)で電流制御部12の出力であるv
dqref指令を入力してモータの回路方程式により仮想電流値i^
dqを算出し、後述のトルク補償値ic
dqtrqとの差分を振動抑制対象として座標変換部17を介して周期外乱オブザーバ3に出力する。これにより、電流センサ誤差補正を行いなから、同時にトルクリプルの抑制を達成する。
なお、周期外乱オブザーバ3,4におけるG
Fはローパスフィルタである。
【0022】
電流センサに誤差が生じている場合、電流制御部12の応答範囲内においては検出したi
dqsense上の振動を電流制御部12が抑制する。振動分はv
dqref指令に重畳され、これにより出力電流が振動することで周期外乱となって現れる。このためインバータ内部においてi
dqsenseに振動は観測されない。しかし、v
dqref指令をモータモデル部16の回路方程式を通すことで振動状態の仮想電流値i^
dqの観測が可能となる。モータモデル部16における回路方程式は、対象がPMモータである場合は(2)式を用いる。
【0023】
【数1】
【0024】
ここで、R:電気子抵抗、L
d:d軸インダクタンス、L
q:q軸インダクタンス、Φ:磁束鎖交数である。
【0025】
モータモデル部16における回路方程式に用いるパラメータ精度については、高精度なものは必要ではなく周期外乱オブザーバ3のロバスト性範囲内であれば良い。このため設計値などを適用し、周期外乱オブザーバ3の内部のシステムモデルもこれに従い予め計算可能であり、実測などによる正確な取得は必ずしも必要ではない。
【0026】
次に仮想電流値i^
dqの対象周波数成分抽出のために座標変換部17では(3)式の高調波dq変換を行う。
【0027】
【数2】
【0028】
電流i
d,i
qが常に直交することを利用し、周期外乱オブザーバ3で抑制対象とする複素数形式の周波数成分にはi
dn,i
qnをそれぞれ実部、虚部に設定し、
i
dqn=i
dn+ji
qnとして扱う。ここからは通常の周期外乱オブザーバ3の制御則に従い補償値を算出する。
最後に座標変換部17では、補償値を(4)式の座標系逆変換によりdq座標系に変換する。
【0029】
【数3】
【0030】
これにより得られるn次の高調波電流補償値ic
dqnはベクトルの加算部18で加算されて補償値ic
dqCTとなり、このic
dqCTを電流検出値i
dqsenseに逆極性に重畳して補償値i
dq´とし、更にi
dq*との差分を得て電流制御部12に入力する。
したがって、周期外乱オブザーバ3は電流誤差補正制御系となり、電流センサ誤差による周期外乱を低減することで電流検出値を直接補償することが可能となる。
【0031】
次に、トルクリプル抑制系について説明する。
PMモータ2の出力トルク値Tは変換部21に入力される。変換部21には、回転位置センサ15により検出されたロータ回転角度θが係数n倍されて入力されており、トルク値Tはこのθに対応してabの2相信号に変換され、周期外乱オブザーバ4に入力される。
【0032】
周期外乱オブザーバ4には係数n倍された角速度ωも入力されて
図5と同様な演算が行われて補償値Tc
nを算出し、座標変換部22に出力される。座標変換部22で、d,q軸の座標に変換された補償値ic
dqtrqは電流指令値i
dq*に加算されて電流制御部12に入力されると共に、補償値ic
dqtrqはモータモデル部16の出力i
^dqと逆極性に重畳されて座標変換部17に入力される。
【0033】
したがって、この実施形態によれば、電流センサ誤差による周期外乱の補正が可能となると共に、トルクリプルの抑制も可能となるものである。
【0034】
図2は第2の実施形態を示すブロック構成図で、
図1で示す第1の実施形態と異なる部分は、スイッチ部19,23を設けたことである。
図1で示す第1の実施形態の場合、モータモデル部16に誤差があると補償値の干渉誤差となる。その場合でも電流誤差補正とトルクリプル抑制を達成することはできるが、補償値ic
dqnに現れて電流センサ誤差補正値とセンサ誤差の真値にずれが生じる。このため一旦取得した補償値ic
dqnから電流センサ誤差を推定し、フィードフォワードで電流センサ誤差補正を行うことで補正誤差が生じる。
【0035】
そこで、
図2ではモータモデル部16の出力i
^dqからトルクリプル抑制系の補償値ic
dqtrqを差引くのを止めてスイッチ部19,23によって制御系の動作を切り替える手法を採ったものである。なお、スイッチ部19には、スイッチ19aとメモリ19bを備えている。
【0036】
抑制制御の手順は以下とする。
(1)スイッチ部19のスイッチ19aをオンにし、スイッチ部23をオフ状態にして電流誤差補正制御系のみを動作させて電流センサ誤差補正を行い、メモリ19bに補償値ic
dqCTを記憶させる。
(2)電流センサ誤差補正が十分に完了した時点でスイッチ19aをメモリ側の端子に切替え、以下の補償値ic
dqCTは、メモリ19bに記憶された補償値を用いて電流センサ誤差補正を行う。この時点ではトルクリプルはまだ十分に抑制されない。
(3)次に、電流センサ誤差補正が十分完了した時点でスイッチ部23をオン状態にし、残留しているトルクリプルの抑制制御を行う。
【0037】
これにより、制御応答が犠牲になるため、可変速運転中などでは適用不可であるが、固定動作点ではモータモデル部16の精度に関係なく、電流センサ誤差補正ic
dqn値を精度よく取得することが可能となる。
【0038】
図3は第3の実施形態を示すブロック構成図で、
図1で示す第1の実施形態と異なる部分は、トルクリプル抑制系の補償値ic
dqtrqとモータモデル部16の出力i
^dqとの差演算がないことである。
【0039】
実施形態1,2では、同次数の抑制を想定して電流誤差補正制御系とトルクリプル抑制系との干渉を防ぐことを目的として構成されているが、異次数の同時抑制であれば両者の干渉を考慮する必要が無い。このため
図3に示す単純な結合で同時抑制を達成することができる。
【0040】
図4は第4の実施形態を示すブロック構成図で、
図1で示す第1の実施形態と異なる部分は、モータモデル部16と座標変換部22を省いたものである。すなわち、周期外乱オブザーバ4の出力Tc
nを補償指令値dI
dq*nとして周期外乱オブザーバ3に入力し、周期外乱オブザーバ3で算出された外乱推定値dI
dqnとの差分が得られる。この差分が補償値Ic
dqnとして座標変換部17に入力される。
【0041】
また、モータモデル部16を省くことで、周期外乱オブザーバ3には予めモータモデル部16に用いていた回路方程式によるパラメータ変更機能を持たせる。例えば、周期外乱オブザーバ3におけるシステム同定モデルP^
nの取得時に、周波数毎にテーブルなどによるモデルを可変する機能をもたせている。
【0042】
この実施形態では、全体の制御基本構成は
図1と同様としながら電流センサ誤差補正側の振動抑制対象をv
dqref指令とし、センサ誤差由来で電圧指令値v
dqrefに発生しているリプルを抑制しながらモータ由来のトルクリプルも抑制して補償指令としてセンサ誤差補正に入力している。これによって、モータ由来とセンサ誤差由来の同次数に発生するリプルを互いに非干渉で抑制することが可能となる。
【0043】
したがって、この実施形態によれば、トルクリプルも抑制しながら電流検出値を正確に補正することができる。