特許第6183556号(P6183556)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183556
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】冷却器一体型半導体モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20170814BHJP
   H01L 23/473 20060101ALI20170814BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
   H01L23/36 D
   H01L23/46 Z
   H01L21/56 T
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-529166(P2016-529166)
(86)(22)【出願日】2015年5月11日
(86)【国際出願番号】JP2015063442
(87)【国際公開番号】WO2015198724
(87)【国際公開日】20151230
【審査請求日】2016年7月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-128333(P2014-128333)
(32)【優先日】2014年6月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】山田 教文
【審査官】 秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/118478(WO,A1)
【文献】 特開2007−184315(JP,A)
【文献】 特開2007−329362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H01L 21/56
H01L 23/467
H01L 23/473
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板のおもて面に設けられた回路層と、
前記回路層と電気的に接続された半導体素子と、
前記絶縁基板の裏面に設けられた金属層と、
前記絶縁基板、前記回路層、前記半導体素子、および前記金属層の一部を覆う封止樹脂と、
前記金属層の下面側に配置された冷却器と、
少なくとも前記封止樹脂の前記冷却器と対向する面に配置されためっき層と、
前記めっき層と前記冷却器とを接続する接合部材と、
を備えることを特徴とする冷却器一体型半導体モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却器一体型半導体モジュールにおいて、
前記封止樹脂の前記めっき層との界面の粗さは、算術平均粗さ5μm以上であることを特徴とする冷却器一体型半導体モジュール。
【請求項3】
請求項2に記載の冷却器一体型半導体モジュールにおいて、
少なくとも前記封止樹脂の前記冷却器と対向する面が、化学的エッチング、機械的切削、サンドブラスト法、レーザ処理から選ばれるいずれかの方法で粗面化された面、または、トランスファーモールド用金型に予め形成された粗面により成形された面であることを特徴とする冷却器一体型半導体モジュール。
【請求項4】
請求項1に記載の冷却器一体型半導体モジュールにおいて、
前記接合部材の厚さは、250μm以下であることを特徴とする冷却器一体型半導体モジュール。
【請求項5】
請求項1に記載の冷却器一体型半導体モジュールにおいて、
前記接合部材は、Sn8%Sb3%Ag組成のはんだであることを特徴とする冷却器一体型半導体モジュール。
【請求項6】
請求項1に記載の冷却器一体型半導体モジュールにおいて、
前記めっき層は、1μm以上5μm以下の厚さであって、銅、ニッケル、金、銀から選択される少なくとも1種類以上の金属を含有することを特徴とする冷却器一体型半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流、高電圧を制御する電力変換装置などに用いられる電力用半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車等に代表される、モータを使用する機器では、省エネルギーに優れた電力変換装置が要望されている。この電力変換装置には、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の電力用(以降パワーともいう)パワー半導体素子を搭載したパワー半導体モジュールが広く用いられている。パワー半導体モジュールは、パワー半導体素子に大電流を通電した時に生じる熱を効率よく放熱させるために、冷却器に接続され、小型で、放熱性能に優れた構造のものが求められている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1に開示されている半導体モジュールは、セラミックス基板の両面に金属層を配置した絶縁回路基板を備える。絶縁回路基板の一方の主面には複数のパワー半導体素子が接合されており、他方の主面には金属製の厚い放熱基板が接合されている。この絶縁回路基板は、樹脂ケースに収納され、ゲル状樹脂が注入されて、パワー半導体モジュールをなしている。そして、この半導体モジュールは、放熱グリースを介して、冷却器にボルトとナットで固定されている。
【0004】
一方、下記の特許文献2には、樹脂封止モジュールと冷却器をはんだ接合した後、はんだ接合部の周囲領域の隙間に封止樹脂を充填した半導体モジュールが開示されている。
【0005】
また、下記の特許文献3には、金属ブロック、該金属ブロック上にはんだ層を介して接合された半導体素子、前記金属ブロックと前記半導体素子をモールドした樹脂モールド部を備え、前記金属ブロック表面のめっき領域と粗面化領域のうち、前記半導体素子はめっき領域に搭載されている半導体モジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−288414号公報
【特許文献2】特開2012−142465号公報
【特許文献3】特開2012−146919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載された半導体モジュールには、はんだ接合部を囲む封止樹脂下面と冷却器との隙間に樹脂を充填する工程が増えるという問題や、冷却器に接合する半導体モジュールが複数個ある場合は隙間に樹脂を確実に充填することは容易ではないという問題がある。
一方、特許文献3に記載された半導体モジュールでは、半導体素子と冷却板との間に、めっき領域と粗面化領域が形成された金属ブロックを介在させていることから、封止樹脂が半導体素子、金属ブロック、はんだ、冷却板と直に接する構造であって、コンパクトな構造とは言えないばかりか、様々な界面において接着性を確保しなければならなという問題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、前述の問題点を考慮して、コンパクトな構造で優れた放熱性能を有し、冷却器とのはんだ接合の信頼性が高く、経済性のよい、冷却器一体型半導体モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決して、その目的を達成するために、本発明の冷却器一体型半導体モジュールは、絶縁基板と、前記絶縁基板のおもて面に設けられた回路層と、前記回路層と電気的に接続された半導体素子と、前記絶縁基板の裏面に設けられた金属層と、前記絶縁基板、前記回路層、前記半導体素子、および前記金属層の一部を覆う封止樹脂と、前記金属層の下面側に配置された冷却器と、少なくとも前記封止樹脂の前記冷却器と対向する面に配置されためっき層と、前記めっき層と前記冷却器とを接続する接合部材と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の冷却器一体型半導体モジュールにおいて、前記封止樹脂の前記めっき層との界面の粗さは、算術平均粗さ5μm以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の冷却器一体型半導体モジュールにおいて、少なくとも前記封止樹脂の前記冷却器と対向する面が、化学的エッチング、機械的切削、サンドブラスト法、レーザ処理から選ばれるいずれかの方法で粗面化された面、または、トランスファーモールド用金型に予め形成された粗面により成形された面であることが好ましい。
【0012】
本発明の冷却器一体型半導体モジュールにおいて、前記接合部材の厚さは、250μm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の冷却器一体型半導体モジュールにおいて、前記接合部材は、Sn8%Sb3%Ag組成のはんだであることが好ましい。
【0014】
本発明の冷却器一体型半導体モジュールにおいて、前記めっき層は、1μm以上5μm以下の厚さであって、銅、ニッケル、金、銀から選択される少なくとも1種類以上の金属を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コンパクトな構造で優れた放熱性能を有し、冷却器とのはんだ接合の信頼性が高く、経済性のよい、冷却器一体型半導体モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る冷却器一体型半導体モジュールの一実施形態を表す断面図である。
図2】本発明に係る冷却器一体型半導体モジュールの比較例を示す断面図である。
図3】本発明に係る冷却器一体型半導体モジュールの実施例と比較例の塑性ひずみ振幅の比率(%)の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る冷却器一体型半導体モジュールの一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施例の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、実施例で説明される添付図面は、見易くまたは理解し易くするために正確なスケール、寸法比で描かれていない。本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する実施例の記載に限定されるものではない。
【0018】
図1には、本発明に係る冷却器一体型半導体モジュールの一実施形態が断面図によって示されている。冷却器一体型半導体モジュール100は、絶縁配線基板1及び半導体素子3を有する半導体モジュール11と、半導体モジュール11に熱的に接続される冷却器9を備える。絶縁配線基板1は、絶縁基板6、絶縁基板6の一方の主面に配置された回路層5、他方の主面に配置された金属層7を有し、回路層5にははんだ層4を介して半導体素子3が接合されており、これら全体が封止樹脂2よって被覆されている。本発明においては、半導体モジュール11の冷却器9に対向する面にめっき層10が設けられている。
【0019】
半導体素子3の種類は特に限定されない。例えば、IGBTやパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やFWD(Free Wheeling Diode)であってよいし、これらを一つ半導体素子の中で形成されたRB−IGBT(Reverse Blocking−Insulated Gste Bipolar Transistor)やRC−IGBT(Reverse Conducting−Insulated Gate Bipolar Transistor)であってよい。
【0020】
半導体素子3の上面の電極膜(図示せず)には、良電導性の銅、アルミニウム合金などの金属からなり、ピン配線やワイヤー配線、リードフレーム配線などで構成される、回路配線(図示せず)の一方の端部が導電接続されている。また、同回路配線(図示せず)の他方の端部は封止樹脂2から外部に導出される外部接続端子(図示せず)に接続されている。半導体素子3の下面の電極膜(図示せず)は、はんだ層4を介して回路層5の所要の位置に熱的、電気的に良好に接続されている。回路層5は銅などの良電導性金属箔などが絶縁性のセラミックス基板などの絶縁基板上面に予め接合されたものである。はんだ層4のはんだの種類としては、SnSb系、SnSbAg系の鉛フリーはんだなどが用いられる。ただし、このはんだ層4のはんだの融点は後述のはんだ層8の形成時にはんだ層4が再溶融しないようにはんだ層8のはんだの融点より高温であることが好ましい。この回路層5と、絶縁基板6の裏面側に予め接合されている金属層7は、これらの両層間が電気的に確実に絶縁される所定の沿面距離を有するように、それぞれ絶縁基板の外周辺から内側に配置されている。金属層7は良電導性の銅などからなることが好ましい。
【0021】
冷却器9は、内部に複数のフィン9aで区切られる冷媒流路9bを備えている。この冷却器9は、はんだ層8を介して、前記絶縁基板6の下面側の金属層7に直接接合されている。半導体モジュール裏面と冷却器との間に、厚い放熱基板や、熱伝導性に劣る放熱グリースを介在させる従来の接合構造に比べると、本発明に備わる接合構造は、コンパクトサイズで熱抵抗が小さく、冷却効率(放熱性能)を改善できる。
【0022】
なお、図1に示す冷却器一体型半導体モジュール100の断面図では、半導体素子3が1個搭載されているだけであるが、2in1モジュールなど複数の半導体素子を並列接続して定格出力を大きくすることができる。例えば、放熱基板レスの2in1構造の樹脂封止モジュールユニット(以降単にユニット)を冷却器の上面に3個はんだ接合する6in1半導体モジュール構成や、1in1構造の樹脂封止ユニットを6個並べるユニット集合構造のモジュール構成にしてもよい。このように小さく分割したユニットを集合させた構成の放熱基板レス構造のモジュールでは、樹脂体積を減らして応力を低減し、封止樹脂のクラックを抑制することができる。また、本発明においては、めっき層10によって、半導体モジュール11と冷却器9の接合強度を確保しているので、半導体素子数を増やしても、熱膨張係数差に起因する熱応力(反り応力)によるクラック、剥がれなどを防止することができる。
【0023】
また、複数の半導体素子3の種類をそれぞれ異なる種類の半導体素子に代えてもよい。例えば、IGBTとFWDを二つ並べてはんだ接続した上、逆並列接続となるように配線接続する構造としてもよい。
【0024】
さらに、図1で、回路層5の上面または金属層7の下面に銅などの良熱伝導性の金属ブロック(図示せず)を挿入してはんだ接合してもよい。この金属ブロックの挿入により半導体素子3で発生する熱を即時に熱容量が大きくて熱抵抗がはんだよりは小さい金属ブロックに広げることができ、熱抵抗をより低減することができる。加えて、金属層7の下部に金属ブロックを設置する構造では、冷却器9にはんだ接合する際に生じる熱応力(反り応力)を抑制でき、厚さの薄い絶縁基板6への悪影響も低減することができるので好ましい。前記悪影響を低減することができる理由は、絶縁基板6と冷却器9との間の熱膨張係数差に起因する熱応力が、間に挟まれる金属ブロックによって抑えられるためである。
【0025】
本発明の冷却器一体型半導体モジュールにおいて、半導体モジュール11を覆う封止樹脂2は、金属層7の裏面が露出するように形成されている。この封止樹脂2は、所定の絶縁性能があり、成型性の良いものであれば、特にその樹脂材料は限定されず、例えばエポキシ樹脂などが好適に用いられる。
【0026】
本発明の冷却器一体型半導体モジュールにおいて、半導体モジュール11の下面に露出する金属層7およびこの金属層7の周囲の封止樹脂2の下面にめっき層10が形成されている。半導体モジュール11の下面の全面にめっき層10を設けると、はんだ接合後に生じる、前述の熱膨張係数差に起因する反りを抑制することができる。
【0027】
めっき層10は、特に限定されず、例えば銅、ニッケル、金、銀などの金属の単層膜、又はそれらの金属膜を含む積層膜、又はそれらの金属の内少なくとも1種類以上の金属を含有する合金膜を好適に用いることができる。また、めっき層10の厚さは1μm以上、5μm以下の範囲が好ましい。めっき層10の厚さが1μm未満では薄すぎるために、冷却器9とのはんだ接合の際に、めっき層10がはんだに食われて消失し、反りを抑える機能が弱くなって、はんだクラック、はんだ割れの問題が発生する。一方、5μmを超える厚さはコストアップになる。
【0028】
このめっき層10が被着される封止樹脂2の下面は、粗面化されていると、めっき層10の封止樹脂2への密着性が向上するので、特に望ましい。樹脂下面を粗面化する方法としては、例えば化学的エッチング、機械的切削、サンドブラスト、レーザ処理、または成型金型の表面を粗面化しておくなどの方法を用いることができる。特に、粗面化の程度が、JIS規格B0601に定める算術平均粗さで5μm以上であると、めっき層10の密着強度が高くなるので好ましい。これに対して、表面粗さ5μm未満では密着強度が低くめっき層が樹脂下面から剥がれ易くなる。例えば、めっき層10が、はんだ接合時またはその後のヒートサイクル後に封止樹脂の下面から剥がれると、熱応力によって絶縁配線基板に反りが生じるので好ましくない。めっき層10の形成前に封止樹脂2の下面を粗面化してめっき層10と封止樹脂2との密着強度を高めると、めっき層10の剥離を防止して反りを防ぐことができる。
【0029】
本発明の冷却器一体型半導体モジュールにおいては、半導体モジュール11の下面に形成されためっき層10が、はんだ層8を介して、冷却器9に接合される。なお、半導体モジュール11と冷却器9を接合する工程は、半導体モジュール11の製造工程のうちの、樹脂封止工程の後であるため、半導体モジュール11と冷却器9との接合の際のはんだ付け温度が高いと、封止樹脂2の収縮応力により半導体素子3が破壊する問題が生じる。そのため、はんだ層8は融点が低く高強度であるSnSbAg系であることが望ましい。特に、本発明では、封止樹脂2の下面の全面にめっき層10を被着して、半導体モジュール11の下面の全面を冷却器9とはんだ接合する。その結果、たとえ、はんだ接合工程で、はんだにクラックが入ったとしても、はんだの接合面積が大きいため、はんだ層の端部から入るはんだクラックの許容長を長くとることができ、信頼性の向上が期待できる。また、半導体モジュール11の封止樹脂下面全体を冷却器に固定できるため、温度サイクルでの半導体モジュール11の変形を抑制し、はんだ層8の信頼性を向上(例えばクラックの抑制)させ、樹脂割れなどの不良を防止することができる。
【0030】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、冷却器一体型半導体モジュール100の信頼性を向上させることができる。
【0031】
本発明の実施形態を採用しなかった場合には、次のような問題が生じると予想される。図2に示されている冷却器一体化半導体モジュール200では、はんだ層18の周囲の封止樹脂2と、冷却器9との間に隙間ができている。絶縁配線基板1と冷却器9との線熱膨張係数には差があるので、その差に起因する熱応力の影響が、厚みが薄く機械的強度の低い絶縁配線基板1に現れ易くなる。その結果、絶縁配線基板1に変形が生じ易くなり、はんだ18の信頼性が問題となる虞がある。また、放熱基板レス構造の半導体モジュール20をインサート成型により樹脂封止する場合、モジュール20内に搭載されるパワー半導体素子3の個数が増えてくると、樹脂体積が大きくなり過ぎて樹脂にクラックが入り易くなる。

【実施例】
【0032】
以下、冷却器一体型半導体モジュールの温度サイクル(−40℃〜105℃)に係る信頼性を、熱応力シミュレーションによって予測した実施例について説明する。
【0033】
[実施例]
図1には、実施例の計算に用いた、冷却器一体型半導体モジュール100の断面が示されている。半導体モジュール11の絶縁配線基板1は、厚さ0.32mmの窒化ケイ素を主成分とするセラミックス製の絶縁基板6と、絶縁基板6の一方の主面に配置された厚さ0.4mmの銅合金からなる回路層5と、絶縁基板6の他方の主面に配置された厚さ0.4mmの銅合金からなる金属層7とを備える。回路層5の上には1個のIGBT構造の半導体素子3がSnSb系はんだ層4によって接合されている。絶縁配線基板1と半導体素子3を被覆する封止樹脂2は、エポキシ樹脂のインサート成型によって形成されている。そして、半導体モジュール11の裏面の全面には、厚さ5μmのニッケルめっき層10が配置されている。一方、冷却器9は、アルミニウム合金(A6063)の押し出し成型にて形成される厚さ1mmの外殻と、厚さ0.8mmのフィンを備える。半導体モジュール11は、厚さ0.25mmのSn8%Sb3%Agはんだ層8を介して、冷却器9に接続されている。金属組成比率は、質量パーセントで表している。すなわち、Snを89%、Sbを8%、Agを3%含む。ただし、各組成比率には、はんだの生産工程における不可避的な微量の不純物を含んでもよい。
【0034】
[比較例]
図2には、比較例の計算に用いた、冷却器一体型半導体モジュール200の断面が示されている。半導体モジュール20の裏面にはニッケルめっき層10が形成されておらず、はんだ層18の周辺領域では、封止樹脂2の下面と冷却器9との間に隙間ができている。ただし、それ以外の構成は実施例と同じである。
【0035】
[熱応力シミュレーション]
熱応力シミュレーションでは、半導体モジュール全体の温度を−40℃から105℃まで変化させた時に、はんだ層8に発生する塑性ひずみ振幅(%)を計算し、計算結果を図3に示した。
【0036】
一般に、はんだの低サイクル疲労寿命は、下記(1)式のマンソン−コフィン則に従うとされる。
ΔεpNfb=C ・・・(1)
(Δεp:塑性ひずみ振幅、Nf:疲労寿命、b、C:材料による定数)
【0037】
図3によれば、本発明の冷却器一体型半導体モジュールの塑性ひずみ振幅比率が比較例のものを100%とすると、本発明では20%と、5分の1に低減されている。よって、マンソン−コフィン則にしたがえば、塑性ひずみ振幅の小さい本発明の冷却器一体型半導体モジュールの方が長寿命になる。
【0038】
以上説明した本発明にかかる実施例によれば、半導体モジュールをボルトナットで冷却器に固定するために必要な従来の放熱基板がなく、さらに放熱グリースを必要としないので、外形がコンパクトで放熱性能が高くなる。半導体モジュールを直接冷却器にはんだ接合させる際に、はんだ接合部が半導体モジュール下面のめっき層全体に広がるので、めっき層の無い従来半導体モジュールに比べて、はんだ接合部の良品率が高くなり信頼性が向上する。
【符号の説明】
【0039】
1:絶縁配線基板
2:封止樹脂
3:半導体素子
4:はんだ層
5:回路層
6:絶縁基板、セラミックス基板
7:金属層
8,18:はんだ層
9:冷却器、フィンベース
9a:フィン
9b:冷媒流路
10:めっき層
11,20:半導体モジュール
100,200:冷却器一体型半導体モジュール
図1
図2
図3