(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。
【0020】
まず、本発明の第1の実施形態に係る振動装置を、利用者に触覚フィードバックを与える触覚提示装置として構成する場合について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る触覚提示装置10を幅方向から視た側面断面図である。
【0021】
触覚提示装置10は、全体としてフラットな形状で構成されている。ここでは、触覚提示装置10は、厚み方向に薄手の板状に構成されている。この触覚提示装置10は、厚み方向の一方主面側から視て(平面視して)、長さ方向と幅方向とを有する正方形状または長方形状である。なお、触覚提示装置10の厚みや平面視した形状は任意に設定することができ、触覚提示装置10の全体形状は板状に限られるものではない。
【0022】
触覚提示装置10は、制御部16、駆動部17、振動部19、および、接触部18を備えている。振動部19と接触部18とは、それぞれ厚み方向に薄手である。振動部19と接触部18とは、互いに厚み方向に積層されている。接触部18は、振動部19に対して一方主面(天面)側に配置されている。制御部16は、接触部18に対して電気的に接続されている。駆動部17は、制御部16と振動部19とに対して電気的に接続されている。
【0023】
図2(A)は、振動部19を幅方向から視た側面断面図である。
図2(B)は振動部19を一方主面(天面)側から視た平面図である。振動部19は、底面側構造体11と振動フィルム12とを備えている。
【0024】
底面側構造体11は、厚み方向に薄手であり、一方主面(天面)と他方主面(底面)とを有している。底面側構造体11は、一方主面(天面)側から視て開口部を有する矩形枠状である。底面側構造体11は、触覚提示装置10を設置する設置台に他方主面(底面)で接触する。底面側構造体11は、アクリル樹脂PMMA、ステンレスや銅などの金属、PET、ポリカーボネイト(PC)、ガラスエポキシ樹脂、ガラス等の材料で構成している。
【0025】
また、底面側構造体11は、辺縁部11A,11B,11C,11Dを備えている。辺縁部11A,11B,11C,11Dは、それぞれ直梁状である。辺縁部11Aは、一方主面(天面)側から視て底面側構造体11の第1辺に沿って延びている。辺縁部11Bは、一方主面(天面)側から視て、底面側構造体11の第1辺に対向する第2辺に沿って延びている。辺縁部11Cは、一方主面(天面)側から視て、底面側構造体11の第1辺及び第2辺に対して直交する第3辺に沿って延びている。辺縁部11Dは、一方主面(天面)側から視て、底面側構造体11の第3辺に対向する第4辺に沿って延びている。そして、辺縁部11A,11B,11C,11Dは、互いに端部同士で連結されている。
【0026】
なお、底面側構造体11の厚み方向の一方主面(天面)側から視た形状は矩形枠状に限られず、少なくとも、互いに対向するように配置された辺縁部11A,11Bを備える形状であれば他の形状であってもよい。例えば、底面側構造体11は、辺縁部11Cまたは辺縁部11Dを省いたコの字型の構成であってもよい。底面側構造体11は、辺縁部11Cおよび辺縁部11Dを省き、辺縁部11Aと辺縁部11Bとを繋ぐ連結部を設けたH字型の構成であってもよい。また、辺縁部11A,11B,11C,11Dは、少なくとも一つ以上が、湾曲した形状であってもよい。また、底面側構造体11の底面側に開口部を覆う底板状の部位を設けてもよい。また、底面側構造体11を構成する辺縁部11A,11B,11C,11Dそれぞれは、角柱状や、丸棒状にすることができる。
【0027】
振動フィルム12は、圧電材料からなるフィルムの両主面に図示しない電極を設けて構成している。ここでは、振動フィルム12は、一方主面(天面)側から視て長方形状である。振動フィルム12の長さ方向の寸法は、底面側構造体11と略等しくしている。振動フィルム12の幅方向の寸法は、底面側構造体11の開口部よりも狭くしている。振動フィルム12は、底面側構造体11の一方主面(天面)側に設けている。これにより、振動フィルム12を設置面から浮かせた状態で支持することができる。また、振動部19をフラットな形状とすることができる。振動フィルム12は、底面側構造体11の辺縁部11Aと辺縁部11Bとの間で長さ方向に架け渡されている。なお、振動フィルム12は、必ずしも長方形である必要は無く、正方形、台形、楕円形、その他のいびつな形状、などであってもよい。振動フィルム12の形状は、底面構造体11の形状に応じて定めるとよい。
【0028】
振動フィルム12の長さ方向の両端それぞれは、辺縁部11Aと辺縁部11Bとに接合されている。これにより、振動フィルム12は、両端間に張力をかけて引っ張った状態としている。辺縁部11A,11Bと振動フィルム12との接合には、粘着テープを用いることができる。その他にも、辺縁部11A,11Bと振動フィルム12との接合には、接着剤、ねじ止め、カシメ等の方法を用いることもできる。
【0029】
また、振動フィルム12は、ここでは、圧電定数d14や圧電定数d31が大きい圧電材料(例えばL型ポリ乳酸やD型ポリ乳酸等のキラル高分子やポリフッ化ビニリデン)で構成している。振動フィルム12がキラル高分子からなる場合、この圧電性は、振動フィルム12を予め主延伸方向に引き延ばす延伸処理を行うことで発現する。そして、振動フィルム12を、主延伸方向に対して45°となるよう方向に張力をかけて辺縁部11Aと辺縁部11Bとの間に架け渡すことで、振動フィルム12は、辺縁部11Aと辺縁部11Bとを結ぶ方向に伸縮が生じる圧電性が得られる。
【0030】
なお、振動フィルム12は、圧電定数d33が大きい圧電材料で構成してもよい。この場合、振動フィルム12は厚みが変動するような圧電性を得ることができる。このような振動フィルム12は、任意の面内方向に張力をかけて辺縁部11Aと辺縁部11Bとの間に架け渡すことができる。
【0031】
また、振動フィルム12の全体を圧電材料で構成する他にも、圧電材料からなるフィルムを別のフィルムに貼り付けて、振動フィルム12をユニモルフ構造やバイモルフ構造として構成するようにしてもよい。例えば、振動フィルム12を、L型ポリ乳酸のフィルムとD型ポリ乳酸のフィルムとを貼り合わせて構成してもよい。この場合、振動フィルム12は撓むように振動(ベンディング振動)し、一方主面(天面)側から視た中心部が厚み方向に変位するような圧電性を得ることができる。また、フィルムの一つを圧電定数d33が大きい圧電材料とすれば、振動フィルム12の全体として振動をより大きくすることができる。また、フィルムの一つを圧電定数d14や圧電定数d31が大きい圧電材料とすれば、振動フィルム12の伸びを抑制するとともに、指等による押圧に対する振動フィルム12の耐性を向上させることができる。
【0032】
また、
図1に示す接触部18は、静電容量式のタッチキーボード等を構成するものである。接触部18は、天面側構造体13と接触フィルム14と複数のセンサ部15とを備えている。
【0033】
天面側構造体13は、ここでは、一方主面(天面)側から視て底面側構造体11と同形状、即ち開口部を有する矩形枠状である。天面側構造体13は、アクリル樹脂PMMA、ステンレスや銅などの金属板、PET、ポリカーボネイト(PC)、ガラスエポキシ樹脂、ガラス等の材料で構成している。天面側構造体13は、振動フィルム12の一方主面(天面)側に設けられている。天面側構造体13は、一方主面(天面)側から視て底面側構造体11と重なり合うように配置している。天面側構造体13は、底面全面を振動フィルム12および底面側構造体11に接合している。
【0034】
接触フィルム14は、ポリエステルフィルムやポリウレタンフィルムなどの伸縮性を有するフィルム材料で構成している。接触フィルム14は、一方主面(天面)側から視て天面側構造体13の開口部を含む全面を覆う矩形状である。そして、接触フィルム14は、天面側構造体13の一方主面(天面)側に設けられている。これにより、天面側構造体13は、接触フィルム14を振動フィルム12との間に間隔を空けて対向する状態で支持することができる。また、接触部18をフラットな形状とすることができる。接触フィルム14は、底面の外周部を天面側構造体13に接合している。接触フィルム14と天面側構造体13との接合にも、粘着テープ、接着剤、ねじ止め、カシメ等の方法を用いることができる。
【0035】
複数のセンサ部15は、接触フィルム14の一方主面(天面)に設けられている。複数のセンサ部15は、それぞれ、キー配列に対応した位置に配されている。各センサ部15は、ユーザのタッチ操作を検出する機能を有している。各センサ部15は、メンブレン方式、静電容量方式、圧電フィルム方式等の様々な方式を用いて構成することができる。
【0036】
図3は、利用者に触覚フィードバックを与える際の状況を例示する触覚提示装置10の側面断面図である。
【0037】
触覚提示装置10では、
図3(A)に示すように利用者の指がセンサ部15に接触すると、センサ部15が、ユーザによるタッチ操作を検出し、検出信号を制御部16に出力する。これにより、制御部16は、接触部18から入力される検出信号に応じた入力処理を行う。また、制御部16は、接触部18から検出信号が入力されるタイミングから殆ど遅れることの無いタイミングで、駆動部17に制御信号を出力する。そして、駆動部17は、制御部16から制御信号が入力されると、振動部19に駆動電圧を印加する。振動フィルム12は、駆動部17から駆動電圧が印加されることで、辺縁部11Aと辺縁部11Bとを結ぶ方向、即ち、長さ方向に伸縮するように振動が生じる。
【0038】
次に、
図3(B)に示すように、センサ部15に接触した利用者の指が接触フィルム14を押し込むと、接触フィルム14と振動フィルム12とが接触する。この際、利用者の指に接触フィルム14を介して振動フィルム12の振動が伝わる。また、利用者の指が接触フィルム14を介して振動フィルム12を押し込む際の抵抗が、振動フィルム12の張力の変化によって変動する。これにより、利用者に触覚フィードバックを感じさせられる。
【0039】
また、接触フィルム14と振動フィルム12との間には間隔があいているため、利用者の指が接触フィルム14に触れるタイミングよりも後のタイミングで、利用者の指に振動が伝わる。このため、利用者にタッチ操作に対するキーストロークを感じさせられる。
【0040】
また、一般にフィルム材料は指等の皮膚に比べて摩擦係数が小さいという特性を有している。そして、振動フィルム12が振動する際に、利用者の指は接触フィルム14を介して間接的にしか、振動フィルム12に接触することができない。このため、振動フィルム12の振動が、摩擦抵抗によって阻害されることを抑制できる。また、一般に動摩擦係数は静摩擦係数よりも小さい傾向を有している。したがって、振動フィルム12は、振動を開始する際に摩擦抵抗の影響で振動し難くなる傾向を有している。しかしながら、振動フィルム12は、接触フィルム14との間に間隔が空いているので、接触フィルム14が接触するよりも前の段階で振動を開始する。したがって、振動フィルム12は、摩擦抵抗の無い(小さい)状態で振動を開始することができる。このことによっても、振動フィルム12の振動が、摩擦抵抗によって阻害されることを抑制できる。
【0041】
なお、振動フィルム12を圧電定数d33が大きい圧電材料で構成する場合や、振動フィルム12をユニモルフ構造やバイモルフ構造とする場合には、振動フィルム12に厚み方向の振動が生じるので、やはり、振動フィルム12の振動を接触フィルム14を介して利用者に伝えることができる。そして、振動フィルム12が厚み方向に振動する場合にも、利用者の指が接触フィルム14を介して振動フィルム12を押し込む際の抵抗が変動する。したがって、やはり、利用者に触覚フィードバックを感じさせられる。このように振動フィルム12に厚み方向の振動が生じる場合には、利用者にとってより大きな触覚フィードバックを感じとらせることができる。
【0042】
以上に説明したように、本発明の第1の実施形態に係る触覚提示装置は、薄くフラットに構成することができ、また、押圧を受けた状態からでも、触覚提示装置を容易に振動させて、利用者に大きな触覚フィードバックを与えることができる。
【0043】
次に、本発明の第2の実施形態に係る振動装置について説明する。この実施形態でも振動装置を触覚提示装置として構成する。
図4は、本発明の第2の実施形態に係る触覚提示装置20の幅方向から視た側面断面図である。
【0044】
触覚提示装置20は、制御部26、駆動部27、振動部29、および、接触部28を備えている。制御部26、駆動部27、および接触部28は、第1の実施形態と同様の構成である。一方、振動部29は、第1の実施形態と相違する構成である。
【0045】
振動部29は、底面側構造体21と振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとを備えている。底面側構造体21は、辺縁部21Aと辺縁部21Bと辺縁部21C(不図示)と辺縁部21D(不図示)とを備えている。辺縁部21Aと辺縁部21Bとは、それぞれ幅方向に延び、互いに長さ方向に対向している。辺縁部21C(不図示)と辺縁部21D(不図示)とは、それぞれ長さ方向に延び、互いに幅方向に対向している。
【0046】
振動フィルム22Aは、底面側構造体21の一方主面(天面)側に設けている。振動フィルム22Bは、底面側構造体21の他方主面(底面)側に設けている。振動フィルム22A,22Bは、それぞれ圧電材料からなるフィルムの両主面に図示しない電極を設けて構成している。振動フィルム22A,22Bは、それぞれ張力をかけて引っ張った状態で、底面側構造体21の辺縁部21Aと辺縁部21Bとの間で長さ方向に架け渡されている。
【0047】
ここでは、底面側構造体21の両主面に振動フィルム22A,22Bを設けているので、振動フィルム22A,22Bの非駆動時に振動フィルム22A,22Bから底面側構造体21にかかる力が、厚さ方向に均一化する。これにより、底面側構造体21に側面視した形状を変形させるような不要な応力がかからず、底面側構造体21の形状安定性が向上する。これにより、底面側構造体21の長期信頼性が改善する。
【0048】
このような構成の触覚提示装置20においても、利用者の指がセンサ部25に接触することで、駆動部17から振動部29の振動フィルム22Aに駆動電圧V1が印加され、振動部29の振動フィルム22Bに駆動電圧V2が印加される。これにより、振動部29の振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとのそれぞれに振動が生じる。
【0049】
図5は、振動部29の振動態様を例示する振動部29の側面断面図である。
【0050】
ここで、振動フィルム22A,22Bに長さ方向の振動が生じる場合、即ち、振動フィルム22A,22Bが圧電定数d14または圧電定数d31が大きい圧電材料からなる場合であって、且つ、振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとが対称的に振動する場合の振動態様について、
図5(A)を参照して説明する。
【0051】
駆動電圧V1と駆動電圧V2とが同じ周波数あり、且つ、互いの対向面の電位を基準電位として同相である場合、振動部29の振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとのそれぞれに、同じ周波数、且つ、同相で長さ方向に伸縮するような振動が対称的に生じる。即ち、振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとの一方が伸びる際に他方も伸び、一方が縮む際に他方も縮むような振動が生じる。すると、振動部29の振動時に、振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとから底面側構造体21にかかる力が、常に厚さ方向に均一化する。したがって、振動フィルム22A,22Bの駆動時に、底面側構造体21に側面視した形状を変形させるような不要な応力がかからず、底面側構造体21の形状安定性が向上する。これにより、底面側構造体21の長期信頼性が改善する。
【0052】
次に、振動フィルム22A,22Bに長さ方向の振動が生じる場合であって、且つ、振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとが非対称的に振動する場合の振動態様について、
図5(B)を参照して説明する。
【0053】
駆動電圧V1と駆動電圧V2とが同じ周波数あり、且つ、互いの対向面の電位を基準電位として逆相である場合、振動部29の振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとのそれぞれに、同じ周波数、且つ、逆相で長さ方向に伸縮するような振動が非対称的に生じる。即ち、振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとの一方が伸びる際に他方が縮み、一方が縮む際に他方が伸びるような振動が生じる。すると、振動部29の振動時に、振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとから底面側構造体21にかかる力が、厚さ方向に不均一になる。これにより、振動フィルム22A,22Bの駆動時に、底面側構造体21の側面視した形状を変形させるような応力が生じる。この応力により、底面側構造体21の長さ方向に延びる辺縁部21C(不図示)と辺縁部21D(不図示)とが厚み方向に撓むように変形する。また、底面側構造体21の幅方向に延びる辺縁部21Aと辺縁部21Bとが互いに逆の回転方向で回転するように変形する。これにより、底面側構造体21に生じる厚み方向の振動が、振動フィルム22Aを介して利用者の指等に伝わるようになり、利用者により大きな触覚フィードバックを感じさせられるようになる。また、振動フィルム22A,22Bにおける張力の変動が大きくなり、このことによっても、利用者により大きな触覚フィードバックを感じさせられるようになる。
【0054】
次に、振動フィルム22A,22Bに厚み方向の振動が生じる場合、即ち、振動フィルム22A,22Bが圧電定数d33を有する場合や、ユニモルフ構造やバイモルフ構造である場合であって、且つ、振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとが対称的に振動する場合の振動態様について、
図5(C)を参照して説明する。
【0055】
駆動電圧V1と駆動電圧V2とが同じ周波数あり、且つ、互いの対向面の電位を基準電位として同相である場合、振動部29の振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとのそれぞれに、同じ周波数、且つ、同相で厚み方向の振動が対称的に生じる。この振動に伴って、振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとのそれぞれの長さ方向の張力にも変動が生じる。そして、振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとで張力が変動する周波数および位相が一致し、振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとから底面側構造体21にかかる力が厚さ方向に均一化する。したがって、底面側構造体21に側面視した形状を変形させるような不要な応力がかからず、底面側構造体21の形状安定性が向上する。これにより、底面側構造体21の長期信頼性が改善する。
【0056】
また、振動フィルム22A,22Bに厚み方向の振動が生じる場合であって、且つ、振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとが厚み方向に非対称的に振動する場合の振動態様について、
図5(D)を参照して説明する。
【0057】
駆動電圧V1と駆動電圧V2とが同じ周波数あり、且つ、互いの対向面の電位を基準電位として逆相である場合、振動部29の振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとのそれぞれに、同じ周波数、且つ、逆相で厚み方向の振動が非対称的に生じる。この振動に伴って、振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとのそれぞれの長さ方向の張力にも変動が生じる。そして、振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとで張力が変動する周波数は一致するが、位相は逆となる。このため、振動フィルム22Aと振動フィルム22Bとから底面側構造体21にかかる力は厚さ方向に不均一になる。すると、底面側構造体21に側面視した形状が変形するような応力が生じる。この応力により、底面側構造体21の長さ方向に延びる辺縁部21C(不図示)と辺縁部21D(不図示)とが厚み方向に撓むように変形する。また、底面側構造体21の幅方向に延びる辺縁部21Aと辺縁部21Bとが互いに逆の回転方向で回転するように変形する。これにより、底面側構造体21に生じる厚み方向の振動が、振動フィルム22Aを介して利用者の指等に伝わるようになり、利用者により大きな触覚フィードバックを感じさせられるようになる。また、振動フィルム22A,22Bにおける張力の変動が大きくなり、このことによっても、利用者により大きな触覚フィードバックを感じさせられるようになる。
【0058】
以上の構成により、本発明の第2の実施形態に係る触覚提示装置においても、前述の実施形態と同様に、触覚提示装置を薄くフラットに構成することができ、また、押圧を受けた状態からでも、触覚提示装置を容易に振動させて、利用者に大きな触覚フィードバックを与えることができる。
【0059】
次に、本発明の第3の実施形態に係る振動装置について説明する。この実施形態でも振動装置を触覚提示装置として構成する。
図6(A)は、本発明の第3の実施形態に係る触覚提示装置30(不図示)が備える振動部39を一方主面(天面)側から視た平面図である。
【0060】
触覚提示装置30(不図示)は、制御部36(不図示)、駆動部37(不図示)、振動部39、および、接触部38(不図示)を備えている。制御部36(不図示)、駆動部37(不図示)および接触部38(不図示)は、第2の実施形態と同様の構成である。一方、振動部39は、第2の実施形態と相違する構成である。
【0061】
振動部39は、底面側構造体31と振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとを備えている。底面側構造体31は、第2の実施形態と同様の構成である。底面側構造体31は、辺縁部31Aと辺縁部31Bと辺縁部31Cと辺縁部31Dとを備えている。辺縁部31Aと辺縁部31Bとは、それぞれ幅方向に延び、互いに長さ方向に対向している。辺縁部31Cと辺縁部31Dとは、それぞれ長さ方向に延び、互いに幅方向に対向している。
【0062】
振動フィルム32Aおよび振動フィルム32Bは、いずれも、底面側構造体31の一方主面(天面)側に設けている。振動フィルム32A,32Bは、それぞれ圧電材料からなるフィルムの両主面に図示しない電極を設けて構成している。そして、本実施形態では、振動フィルム32Aは、張力をかけて引っ張った状態で、底面側構造体31の辺縁部31Aと辺縁部31Bとの間で長さ方向に架け渡されている。一方、振動フィルム32Bは、張力をかけて引っ張った状態で、底面側構造体31の辺縁部31Cと辺縁部31Dとの間で幅方向に架け渡されている。振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとは、互いに接合せずに単に重ねあわされた状態で交差している。そして、振動フィルム32A,32Bは圧電定数d14または圧電定数d31が大きい圧電材料からなり、張力が係る方向に振動が生じるようにしている。
【0063】
このような構成の振動部39に対して、駆動部37(不図示)は、振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとに、同じ周波数、且つ、互いの対向面の電位を基準電位として逆相となる駆動電圧を印加する。これにより、振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとが、同じ周波数、且つ、逆の位相で張力がかかる方向に振動することになる。即ち、振動フィルム32Aが長さ方向に収縮する際に、振動フィルム32Bが幅方向に伸長する。また、振動フィルム32Aが長さ方向に伸長する際に、振動フィルム32Bが幅方向に収縮する。
【0064】
なお、上記のような駆動電圧を、振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとのそれぞれに印加するためには、振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとの対向面での電位が一致するように各駆動電圧を設定するとよい。または、振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとの間に、絶縁シートや絶縁膜を設けてもよい。
【0065】
ここで、底面側構造体31の主振動モードでの振動態様について説明する。
図6(B)は、主振動モードでの変形態様を示す底面側構造体31の平面図である。
【0066】
底面側構造体31は、主振動モードでは、長さ方向に対向する辺縁部31Aと辺縁部31Bとが互いに離れるように外側に撓む際に、幅方向に対向する辺縁部31Cと辺縁部31Dとが互いに近づくように内側に撓む。また、底面側構造体31は、主振動モードでは、長さ方向に対向する辺縁部31Aと辺縁部31Bとが互いに近づくように内側に撓む際に、幅方向に対向する辺縁部31Cと辺縁部31Dとが互いに離れるように外側に撓む。このような底面側構造体31の主振動モードは、振動フィルム32Aからの力が底面側構造体31にかかることによって生じる。また、この底面側構造体31の主振動モードは、振動フィルム32Bからの力が底面側構造体31にかかることによっても生じる。したがって、前述のように底面側構造体31に対して振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとを十字状に張り渡し、振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとを同じ周波数で逆の位相となるように振動させることで、振動フィルム32Aから底面側構造体31にかかる力と、振動フィルム32Bから底面側構造体31にかかる力とを足し合わせて、底面側構造体31の主振動モードの振動を増大させることができる。このため、振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとに生じる面内方向の振動も増大させることができる。したがって、触覚提示装置30(不図示)の接触部38に接触する利用者の指等に、より大きな触覚フィードバックを感じさせられるようになる。
【0067】
以上の構成により、本発明の第3の実施形態に係る触覚提示装置においても、前述の実施形態と同様に、触覚提示装置を薄くフラットに構成することができ、また、押圧を受けた状態からでも、触覚提示装置を容易に振動させて、利用者に大きな触覚フィードバックを与えることができる。
【0068】
なお、本実施形態では、振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとに、同じ周波数の駆動電圧を印加する例を示したが、振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとには、異なる周波数の駆動電圧を印加するようにしてもよい。底面側構造体31が矩形(長方形)である場合には、振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとで材料および構成が同一であっても、振動フィルム32A,32Bは異なる共振周波数をもつ。このため、振動フィルム32A,32Bをそれぞれの共振周波数で駆動させることで、振動フィルム32A,32Bに生じる振動の振幅を大きくすることができ、また、振動フィルム32A,32Bを単一の周波数で駆動する場合とは異なる複雑な触感を利用者に提示できる。また、振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとで構成(材料、幅、厚さ等)が異なっていれば、底面側構造体31が正方形である場合にも、両者が異なる共振周波数をもつため、やはり、振動フィルム32A,32Bをそれぞれの共振周波数で駆動させることで、振動フィルム32A,32Bに生じる振動の振幅を大きくすることができ、また、振動フィルム32A,32Bを単一の周波数で駆動する場合とは異なる複雑な触感を利用者に提示できる。また、大きな変位を必要としない場合は共振周波数とは異なる周波数で振動フィルム32A,32Bそれぞれを駆動してもよく、この場合にも、やはり、振動フィルム32A,32Bを異なる周波数で駆動させることで、振動フィルム32A,32Bを単一の周波数で駆動する場合とは異なる複雑な触感を利用者に提示できる。これにより、例えばメカニカルスイッチをクリックしたときに近い触感を利用者に提示するようなことが可能になる。また、第1の振動フィルムと第2の振動フィルムとのそれぞれを振動させる周波数を、利用者毎に変更したり、利用者の設定に応じたものにしたりすることで、利用者それぞれの嗜好に合ったクリック感を実現するようなことも可能になる。なお、このように、振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとを異なる周波数で駆動するためには、振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとの間で絶縁を取る必要があるため、振動フィルム32Aと振動フィルム32Bとの間に、振動フィルム32A,32Bの動きを大きく阻害しないような絶縁シートや絶縁膜を設けることが好ましい。
【0069】
次に、本発明の第4の実施形態に係る振動装置について説明する。この実施形態でも振動装置を触覚提示装置として構成する。
【0070】
図7(A)は、本発明の第4の実施形態に係る触覚提示装置40(不図示)が備える振動部49を一方主面(天面)側から視た平面図である。
図7(B)は、振動部49を他方主面(底面)側から視た平面図である。
【0071】
触覚提示装置40(不図示)は、制御部46(不図示)、駆動部47(不図示)、振動部49、および、接触部48(不図示)を備えている。制御部46(不図示)、駆動部47(不図示)および接触部48(不図示)は、第3の実施形態と同様の構成である。一方、振動部49は、第3の実施形態と相違する構成である。
【0072】
振動部49は、底面側構造体41と振動フィルム42Aと振動フィルム42Bとを備えている。底面側構造体41は、第3の実施形態と同様の構成である。底面側構造体41は、辺縁部41Aと辺縁部41Bと辺縁部41Cと辺縁部41Dとを備えている。辺縁部41Aと辺縁部41Bとは、それぞれ幅方向に延び、互いに長さ方向に対向している。辺縁部41Cと辺縁部41Dとは、それぞれ長さ方向に延び、互いに幅方向に対向している。
【0073】
振動フィルム42Aは、底面側構造体21の一方主面(天面)側に設けている。一方、振動フィルム42Bは、底面側構造体21の他方主面(底面)側に設けている。したがって、振動フィルム42Aと振動フィルム42Bとが底面側構造体41を間に挟んで厚み方向に間隔を空けて配置されている。このようにすれば、振動フィルム42Aと振動フィルム42Bとの絶縁を容易に取ることができ、振動フィルム42Aと振動フィルム42Bとの間に、絶縁シートや絶縁膜を配置しなくても、振動フィルム42A,42Bを異なる周波数で容易に駆動することができる。
【0074】
振動フィルム42A,42Bは、それぞれ圧電材料からなるフィルムの両主面に図示しない電極を設けて構成している。そして、本実施形態では、振動フィルム42Aは、張力をかけて引っ張った状態で、底面側構造体41の辺縁部41Aと辺縁部41Bとの間で長さ方向に架け渡されている。一方、振動フィルム42Bは、張力をかけて引っ張った状態で、底面側構造体41の辺縁部41Cと辺縁部41Dとの間で、振動フィルム42Aに交差するように幅方向に架け渡されている。振動フィルム42A,42Bは圧電定数d14または圧電定数d31が大きい圧電材料からなり、張力が係る方向に振動が生じるようにしている。
【0075】
以上の構成により、本発明の第4の実施形態に係る触覚提示装置においても、前述の実施形態と同様に、触覚提示装置を薄くフラットに構成することができ、また、押圧を受けた状態からでも、触覚提示装置を容易に振動させて、利用者に大きな触覚フィードバックを与えることができる。
【0076】
次に、本発明の第5の実施形態に係る振動装置について説明する。この実施形態でも振動装置を触覚提示装置として構成する。
図8は、本発明の第5の実施形態に係る触覚提示装置50の幅方向から視た側面断面図である。
【0077】
触覚提示装置50は、制御部56、駆動部57、振動部59、および、接触部58を備えている。制御部56および駆動部57は、第1の実施形態と同様の構成である。一方、振動部59および接触部58は、第1の実施形態と相違する構成である。
【0078】
接触部58は、天面側構造体53と接触フィルム54と複数のセンサ部55とを備えている。振動部59は、底面側構造体51と振動フィルム52とを備えている。そして、天面側構造体53と底面側構造体51とは分離して構成されている。天面側構造体53および底面側構造体51は、それぞれ、一方主面(天面)側から視て開口部を有する矩形枠状であるが、天面側構造体53のほうが底面側構造体51よりも大きい外形寸法および開口寸法を有している。そして、天面側構造体53は、触覚提示装置10を設置する設置台に他方主面(底面)で接触し、開口部の内側に振動部59を収容している。また、天面側構造体53は、底面側構造体51よりも大きい厚み寸法を有している。これにより、天面側構造体53は、接触フィルム54を振動フィルム52との間に間隔を空けて対向する状態で支持している。
【0079】
このような構成の触覚提示装置50においても、接触フィルム54と振動フィルム52との間に間隔が空くので、利用者の指が接触フィルム54に接触してから接触フィルム54をわずかに押し込むことで、触覚フィードバックを得ることができ、利用者にキーストロークを感じさせることができる。
【0080】
また、振動フィルム52が振動する際に、利用者の指は接触フィルム54を介して間接的にしか、振動フィルム52に接触することができない。また、振動フィルム52は、接触フィルム54との間に間隔が空いているので、接触フィルム54が接触するよりも前の段階で振動を開始する。これらのことにより、振動フィルム52の振動が、摩擦抵抗によって阻害されることを抑制できる。
【0081】
また、このような構成の触覚提示装置50は、一方主面(天面)側から視た外形寸法が、第1の実施形態よりも大きくなる傾向を持つことになるが、振動部59と接触部58とが分離して構成されているために、接触部58の影響で振動部59の振動が阻害されることを最大限に避けることができる。なお、接触部58と振動部59とは連結部等によって部分的に連結して構成することもできる。
【0082】
以上の各実施形態に示したように本発明は実施することができるが、本発明は特許請求の範囲に該当する構成であれば、適宜構成を変更して実施することもできる。例えば、接触部と振動部の間の間隙に、振動を阻害しにくいシリコーンや発泡体などの充填剤を充填するようにしてもよい。また、本発明の振動装置は、触覚フィードバックを利用者に与えるタッチ式キーボードのような触覚提示装置として構成する他、駆動部が出力する駆動信号を可聴音域の周波数を有する放音信号とすることで、利用者に音響フィードバックを与えるように構成することもできる。
【0083】
ここで、本発明の第6の実施形態に係る振動装置として、音響フィードバックを利用者に与える音響提示装置を構成する場合について説明する。
図9は、本発明の第6の実施形態に係る音響提示装置60の模式図である。
【0084】
音響提示装置60は、制御部66、駆動部67、振動部69、および、接触部68を備えている。制御部66、振動部69、および、接触部68は、第1の実施形態と同様の構成である。一方、駆動部67は、第1の実施形態と相違する構成である。
【0085】
駆動部67は、放音信号発生器70と、アンプ71とを備えている。この音響提示装置60では、利用者の指が接触部68のセンサ部65に接触すると、センサ部65が、ユーザによるタッチ操作を検出し、検出信号を制御部66に出力する。これにより、制御部66は、接触部68から入力される検出信号に応じた入力処理を行う。また、制御部66は、接触部68から検出信号が入力されるタイミングから殆ど遅れることの無いタイミングで、駆動部67に制御信号を出力する。そして、駆動部67は、制御部66から制御信号が入力されると、放音信号発生器70から可聴音域の周波数を有する放音信号(例えばブザー音信号)を出力する。放音信号発生器70から出力された放音信号は、アンプ71で増幅され、振動部69に駆動電圧として印加される。振動部69の振動フィルム62は、この放音信号(駆動電圧)が印加されることで振動し、ブザー音等を放音する。
【0086】
以上の構成のように、本発明の第6の実施形態に係る音響提示装置は構成することができ、この音響提示装置においても前述の実施形態の触覚提示装置と同様に、装置全体を薄くフラットに構成することができる。そして、この音響提示装置では、振動フィルム62の振動を用いて、利用者に音響フィードバックを与えることができる。
【0087】
なお、本実施形態においては、駆動部および振動フィルムが音響フィードバックのみを出力する振動装置について説明したが、振動装置の駆動部および振動フィルムを一般的な平面スピーカを兼ねるように構成することもできる。すなわち、利用者が接触部にタッチする際以外にも、駆動部および振動フィルムが音楽や音声などの放音信号を出力するように構成することもできる。
【0088】
また、振動フィルムを利用して放音する場合には、振動フィルムの裏面側に、逆位相の音を吸収するための吸音材を張り付けたり配置することが好ましい。
【0089】
また、振動フィルムを利用して放音する場合には、振動フィルムの剛性が低く、振動フィルムの共振周波数が通常は非可聴音域(具体的には200Hz以下)になる。このため、この振動フィルムの可聴音域における音声特性は、周波数に対して単調減少に近い特性となりやすく、この振動フィルムを平面スピーカとして利用する場合には、フラットな音を良好に発生させることができる。そして、この振動フィルムを利用する平面スピーカは、非常に薄型になるので、薄型テレビやデジタルサイネージなどに用いることも好適である。