(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6183561
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】ワックス型射出成型用のクランプ装置及びワックス型の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 7/02 20060101AFI20170814BHJP
B22C 21/08 20060101ALI20170814BHJP
【FI】
B22C7/02 103
B22C21/08 A
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-554707(P2016-554707)
(86)(22)【出願日】2015年8月17日
(86)【国際出願番号】JP2015073015
(87)【国際公開番号】WO2017029699
(87)【国際公開日】20170223
【審査請求日】2016年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】591248809
【氏名又は名称】株式会社エイシン技研
(74)【代理人】
【識別番号】100105131
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 満
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【弁理士】
【氏名又は名称】名塚 聡
(72)【発明者】
【氏名】久保 幾營
【審査官】
川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭63−066540(JP,U)
【文献】
特開2007−237186(JP,A)
【文献】
特開2002−254137(JP,A)
【文献】
特開平05−096342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 7/02,21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム型を載置する載置台、
クランププレート、及び、
前記載置台に対する前記クランププレートの上下方向の位置を変化させるためのクランプ力発生器を有し、
前記載置台と前記クランププレートの間でゴム型をクランプするワックス型射出成型用のクランプ装置であって、
前記載置台に対する前記クランププレートの上下方向の位置を固定するロック機構を更に有することを特徴とするクランプ装置。
【請求項2】
前記クランプ力発生器は、前記クランププレートに連結されたクランプシャフトを有し、
前記ロック機構は、前記クランプシャフトを固定することを特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。
【請求項3】
前記ロック機構は、前記クランプシャフトに当接可能な第1及び第2摩擦部を有し、
前記第1及び第2摩擦部は、前記クランプシャフトの直径よりも小さい距離だけ相互に離間して配置されており、
前記ロック機構は、前記クランプシャフトを前記第1及び第2摩擦部に押し付けることにより前記クランプシャフトを固定することを特徴とする請求項2に記載のクランプ装置。
【請求項4】
前記ロック機構は、
支点の周りで回転可能なロック棒であって、前記クランプシャフトに当接可能な係合部を有する前記ロック棒と、
前記ロック棒の一端を駆動する駆動手段を有し、
前記支点と前記一端の距離が、前記支点と前記係合部の距離よりも大きいことを特徴とする請求項2又は3に記載のクランプ装置。
【請求項5】
ゴム型を載置する載置台、
クランププレート、及び、
前記載置台に対する前記クランププレートの上下方向の位置を変化させるためのクランプ力発生器を有するクランプ装置を用いたワックス型の製造方法であって、
前記載置台と前記クランププレートの間でゴム型をクランプした状態で、前記載置台に対する前記クランププレートの上下方向の位置を固定するステップと、
前記クランププレートの上下方向の位置を固定した状態で、前記ゴム型にワックスを射出するステップを有することを特徴とするワックス型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックス型射出成型用のクランプ装置に関し、特に、ロストワックス精密鋳造におけるワックス型射出成型におけるゴム型の固定に使用されるクランプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
主として貴金属を用いた装飾品・アクセサリー・ジュエリーなどは、小さくて複雑、更に精密な形状をしている。このような製品を大量に生産したいという要望があり、ロストワックス精密鋳造法がこの業界で発達してきた。もちろん、上記以外の精密工業用部品製造においても応用可能である。
【0003】
ジュエリー製造業界におけるロストワックス精密鋳造は、次のような工程を有する。
第一工程は原型を製作する工程。
第二工程は原型と同じ形状の空洞を有するゴム型を製作する工程。
第三工程はゴム型に溶解したワックス射出し、これを取り出すことで原型と同じ形状のワックス型を製造する工程。一般には、第三工程を繰り返して行うことで、多数のワックス型が製造される。
第四工程は第三工程で製造した多数のワックス型をワックス棒周辺にワックス型の湯道端部を溶解しつつ樹状に取り付け、これを筒状の耐熱容器内に装着して石膏を流し込み、石膏型を作成する工程。
第五工程は電気炉又はガス炉その他を用いて、低温で石膏型の内部にあるワックスを溶解流失させ、中温で空洞内部に付着したワックスを完全に燃焼させ、更に温度を上げることで石膏型が貴金属を流し込んだときの衝撃に耐えうる強度を出した後、貴金属を流し込むに適した温度まで下げて待機する焼成工程。
第六工程は原型と同じ空洞を沢山持つ石膏型内部に貴金属を流し込む鋳造工程。
第七工程は、貴金属が固まった時点で、石膏型を急速に水冷することで、ばらばらに石膏を割り、樹状の貴金属を取り出し、余分な部分を切り取り、原型と同じ形状の貴金属を磨く仕上げ工程。
【0004】
図1を参照して第二工程のゴム型の製造方法を説明する。第二工程では、作成したいゴム型3の大きさに応じたサイズの型枠(不図示)と、原型1と、部品2(湯道2aと湯口2b)を使用する。型枠の下をプレートで塞ぎ、下半分にシリコンゴム加硫前の材料を入れ、その上に、原型1に部品2を接着したものを配置し、その後、上半分に加硫前の材料を入れ、枠の上部をプレートで塞ぎ、プレスしながら温度を上げて加硫する。加硫性のゴムの代わりに二液固化型のシリコンゴムを使用しても良い。
【0005】
シリコンゴムが固まってゴム本来の弾性を持つようになったら、ゴム型3を前記の枠から取り出してジグザグの切り込み3cを入れ、原型1とこれに接着した部品2を取り出して、ゴム型を上ゴム型3aと下ゴム型3bに分離する。これにより、内部に原型1及び部品2と同形状の空洞4を有するゴム型3が得られる。このような切り込み3cを分離面全体に入れることにより、上下のゴム型3aと3bを合わせたとき、正確に合わせることができ、内部の空洞形状も正確に再現できる。
【0006】
このような切り込み3cはまた、ゴム型3にワックスを射出してワックス型を作成する際、真空引きと加圧したワックスのシールを容易にする作用も有する。ワックス型をゴム型3から取り出す場合、合わせ面(切り込み)3cから上ゴム型3aを分離した後、下ゴム型3bを変形させながら取り出し作業をすると、複雑な形状のワックス型であっても、壊さずに容易に取り出すことができる。場合によっては、ゴム型内部を幾つかに分割したり、中子を入れることもある。
【0007】
原型は様々な大きさがあるため、ゴム型もそれに合わせて大きさと厚みは様々に変化する。また、ゴム型の耐久性や、ワックス型をゴム型内部から取り出すときの難易度に合わせて、ゴムの硬度も変えることが多い。
【0008】
図2、
図3に、第三工程で使用されるワックス型射出成型機とクランプ装置の概念図を示す。
【0009】
ワックス型射出成型機6は射出ノズル7を有し、基本的に射出ノズル7からゴム型内の空洞4を真空引きする機能と溶解したワックスを加圧して射出する機能を持つ。更に良質なワックス型を歩留まりよく大量に生産するため、溶解ワックスの温度制御と射出ノズルの温度制御、射出圧力の制御、真空引き時間の制御、射出時間の制御等の機能を要求される場合がある。
【0010】
クランプ装置5は、ゴム型3を載置台9とクランプ力発生器11で駆動されるクランププレート10で挟み込んでクランプ力(クランプ力F1、クランプ反力F2)を作用させ、射出ノズル7と湯口4aを上下左右で位置合わせし、ゴム型3を押しつけ力F3で射出ノズル7に押しつけてシールする。その状態で、射出ノズル7からゴム型3の空洞4内にワックスが注入される。
【0011】
原型1の体積や形状は様々であり、従って原型から製作したゴム型3、3’の上から見たときの縦横の長さと横から見たときの厚みもまた様々なものになる。そこで、これに対応して、溶解したワックスを適切にゴム型内の空洞4へ射出し、所定のワックス型を製作するためには、
図2の基本的な機能に追加して更に必要な機能が発生する。
【0012】
ゴム型3は必ずしも厚さが一定とは限らず、またクランププレート10と載置台9は完全な平行ではないため、クランプ力発生器11とクランププレート10は球面軸受部によりクランププレート10を揺動可能に支持するフローティング機構12で結合するのが一般的である。
【0013】
ゴム型3をクランプし適切にシールする上で、ゴム型合わせ面3cに均一な面圧を加える必要がある。そのためゴム型の全面に平均して力を加えてクランプすることが望ましい。ゴム型3,3’は大きさがいろいろであるため、クランプ力F1の作用点(クランプ力発生器11)をある範囲R1内で移動させる必要がある。
【0014】
上下移動機構5bは、異なる厚さを有するゴム型3,3’の湯口4aを射出ノズル7の高さに合わせることができるように、載置台9の高さをある範囲R2で調整するためものである。
【0015】
前後移動機構5cは、載置台9を前後方向に移動させるためのものである。前後移動機構5cにより、ゴム型3,3’の湯口4aを射出ノズル7方向へ移動して押しつけ力F3を発生させることにより、第三工程におけるゴム型3内部の空洞4の真空引きと内部へワックスを射出する際の圧力のシールを行うことができる。
【0016】
また、空洞4の形状やワックスの性質に合わせて射出ノズル7からのワックスの射出圧力を変更するために、及び/又は、ワックスの射出圧力に負けないように、クランプ力F1や押しつけ力F3を調整する必要がある。ただし、クランプ力F1や押しつけ力F3が過大になると、ゴム型3が変形するため、原型に近いワックス型を取ることができなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2013/038448号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
図4は、クランプ装置5でゴム型3をクランプしてワックスを射出するときの力バランスを示す。
【0019】
クランププレート10の力点にクランプ力F1を加えるクランプ力発生器11は、単動のエアシリンダーを用いるのが一般的であり、エアの供給によりピストンを前進させて押圧し、その復帰はエアの排気と復帰バネの作用による。その理由は、ピストンとシリンダー壁その他の摩擦を少なくすることができ、供給圧力を制御することで押圧力を自在に変えられるからである。
【0020】
ゴム型3を載置台9とクランププレート10の間にクランプしたとき、クランプ力F1によりゴム型3はたわみ(圧縮)D1を生じ、空洞4の容積、形状も変化する(4→4’)。このとき、ゴム型3の弾性係数をKとすると、ゴム型3には、Fr=K×D1の弾性力Frが発生する。F1とFrは大きさが等しく方向が反対で、力がバランスする。クランプ力F1は空洞4’の断面積Sには作用せず、ゴム型合わせ面3cの面積Aに作用する。従って、F1/A=K×D1/Aの値が、ゴム型3のシール圧力を意味する。
【0021】
ゴム型3を前進させて射出ノズル7に押しつけ、真空引き後、ノズル7からワックスをある圧力Pで射出してゴム型3の内部にワックスを充満させる。このとき、空洞4には、断面積Sと射出圧力Pを乗じた力Fpが発生し、クランプ力F1とFr+Fpの合力がバランスするので、ゴム型3の弾性力Frは、F1からF1−Fpに減少し、シール圧力は、(F1−Fp)/Aに減少する。これに伴い、ゴム型3のたわみは、D1からD2(D2<D1)に減少し、空洞4の容積及び形状が変化する(4’→4’’)。
【0022】
弾性力Frの減少は、ワックス射出時のゴム型合わせ面3cからのワックス滲み出しの原因となり、後工程でバリ取り等の必要を生じさせる。これを防ぐために過剰にクランプ力F1を大きくすると、ゴム型3への負担が大きくなることに加え、ワックス射出時の空洞の容積、形状(4’’)が当初の容積、形状(4)から大きく変化してしまう。空洞の変形は、原型1と異なる製品形状となることを意味するので問題である。製品が工業用精密部品である場合にこの問題が重大であることは明らかである。空洞容積の変化は、製品の金属使用量が安定しない原因となる。特に、製品が貴金属である場合、わずかな使用量の増大であっても、製品を大量に生産するため、製造業者の利益管理に多大な影響を与える。
【0023】
そのため、ゴム型3の種類と射出圧力Pに応じて適切なクランプ力F1を決めなくてはならない。しかし、ゴム型3の大きさや硬度は多種多様であり、射出圧力Pもワックスの種類や空洞4の大きさ・形状等に応じて変化させる必要があることから、適切なクランプ力F1は、ゴム型3毎に試行錯誤で決定するほか無いのが現状である。
【0024】
製造業者は、多数のゴム型3毎にこのような試行錯誤を行い、更には、それにより決定した射出圧力Pやクランプ力F1等の製造条件をゴム型3毎に装置に入力し、記憶させる作業を強いられている。また、試行錯誤であるから、最適な製造条件を決定するには作業者の熟練が必要であり、品質の良い製品を製造することの困難性を増大させている。試行錯誤で決定されることから製造条件にバラツキがあり、それにより、製品の容積、形状にバラツキを生じさせていた。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本出願には、下記の発明が開示される。
【0026】
型を載置する載置台、
クランププレート、及び、
前記載置台に対する前記クランププレートの上下方向の位置を変化させるためのクランプ力発生器を有し、
前記載置台と前記クランププレートの間でゴム型をクランプするワックス型射出成型用のクランプ装置であって、
前記載置台に対する前記クランププレートの上下方向の位置を固定するロック機構を更に有することを特徴とするクランプ装置。
【0027】
前記クランプ力発生器は、前記クランププレートに連結されたクランプシャフトを有し、
前記ロック機構は、前記クランプシャフトを固定することが好ましい。
【0028】
前記ロック機構は、前記クランプシャフトに当接可能な第1及び第2摩擦部を有し、
前記第1及び第2摩擦部は、前記クランプシャフトの直径よりも小さい距離だけ相互に離間して配置されており、
前記ロック機構は、前記クランプシャフトを前記第1及び第2摩擦部に押し付けることにより前記クランプシャフトを固定することが好ましい。
【0029】
前記ロック機構は、
支点の周りで回転可能なロック棒であって、前記クランプシャフトに当接可能な係合部を有する前記ロック棒と、
前記ロック棒の一端を駆動する駆動手段を有し、
前記支点と前記一端の距離が、前記支点と前記係合部の距離よりも大きいことを特徴とすることが好ましい。
【0030】
ゴム型を載置する載置台、
クランププレート、及び、
前記載置台に対する前記クランププレートの上下方向の位置を変化させるためのクランプ力発生器を有するクランプ装置を用いたワックス型の製造方法であって、
前記載置台と前記クランププレートの間で前記ゴム型をクランプした状態で、前記載置台に対する前記クランププレートの上下方向の位置を固定するステップと、
前記クランププレートの上下方向の位置を固定した状態で、前記ゴム型にワックスを射出するステップを有することを特徴とするワックス型の製造方法。
【0031】
本願では、上下、前後、左右は、相互に垂直な方向を意味する。ただし、この定義は、厳密なものではなく、発明の効果が達成できる範囲で柔軟に解釈されるべきである。また、上下方向は、必ずしも鉛直方向を意味しない。例えば、下記実施形態におけるクランプ装置を横置きで使用するような形態では、上下方向は、水平面内の方向であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図2】
図2は、ワックス型射出成型機及びクランプ装置の側面図である。
【
図4】
図4は、クランプ装置でゴム型をクランプしてワックスを射出するときの力バランスを示す。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係るクランプ装置5Aを示す。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係るクランプ装置5Bの正面図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態に係るクランプ装置5Bの側面図である。
【
図10】
図10は、凹部25cを有することによる楔効果を説明する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の一実施形態に係るクランプ装置5Aを示す
図5を用いて本発明の原理を説明する。
【0034】
クランプ装置5Aは、載置台9に対するクランププレート10の上下方向の位置を固定するためのロック機構20Aを有することで、従来の技術の問題を解決する。好ましくは、ロック機構20Aは、クランププレート10によりゴム型3をクランプした状態でクランププレート10の上下方向の位置固定を行う。クランププレート10の位置固定を行うことで、ワックスを射出したときの力Fpによる弾性力Frの減少を防止又は抑制できる。好ましい実施形態では、ワックス型は、クランプによりゴム型3を圧縮した状態で、載置台9に対するクランププレート10の上下方向の位置を固定し、その状態でゴム型9にワックスを射出することにより製造される。
【0035】
例えば、ロック機構20Aによって、クランププレート10の位置を完全に固定できる(クランププレート10の移動をゼロにできる)と仮定すると、クランプ力F1は、ゴム型合わせ面3cからのワックス滲み出しを防止可能な最小限の力とすることができる。最小限のクランプ力F1でクランプしたときのゴム型3のたわみをD0とすると、ワックスを射出しても、たわみD0は変化せず、弾性力Frの減少は生じないから、ワックスの滲み出しは生じない。空洞4の変形も最小にすることができる。よって、原型1により忠実な製品製造が可能となり、精密部品等の品質向上を図り得る。射出圧力Pを考慮せずにクランプ力F1を決めることができるから、クランプ力F1の決定が容易又は一意的になる。よって、製品の金属使用量の安定化を図り得る。クランプ力F1や射出圧力P等の製造条件をゴム型3毎に装置に入力して記憶させる等の必要も解消され得る。
【0036】
物理的に完全な固定は現実にはあり得ないが、ロック機構20Aによってクランププレート10の移動を充分小さくすれば、実質的に上記効果が達成される。本発明における「載置台に対するクランププレートの上下方向の位置を固定する」は、クランププレート10の移動を完全にゼロにする場合だけでなく、ワックスを射出したときの力Fpによる弾性力Frの減少の防止又は抑制効果が得られる程度にクランププレート10の移動を小さくする場合も含む。
【0037】
クランプ装置5Aは、ロック機構20Aを制御する制御部30を有し得る。好ましい実施形態では、制御部30は、クランププレート10によりゴム型3がクランプされているどうかを判断し、クランプしていると判断したときに、ロック機構20Aがクランププレート10の位置を固定するようにロック機構20Aを制御する。この場合、制御部30は、コンピュータであり得る。クランプされているどうかは、例えば、クランプ力F1に基づいて判断し得る。制御部30は、クランプ力F1を計測するためのセンサーを有し得る。例えば、クランプ力F1をエアシリンダー11により発生させる場合には、エアシリンダー11に供給するエアの圧力によりクランプ力F1を計測し得る。配管抵抗等による判断エラーを防止するために、タイマーを使用し、一定以上のクランプ力F1が一定時間以上継続したときにクランプされていると判断することができる。作業者が目で見てゴム型3がクランプされていることを判断し、制御部30を操作してクランププレート10の位置を固定しても良い。
【0038】
図6及び
図7は、本発明の他の実施形態に係るクランプ装置5Bを示す。
図6及び
図7は、
図3におけるクランプ機構部5aのゴム型載置台9より上の部分に対応する。
【0039】
本実施形態のクランプ装置5Bは、クランプ機構部筐体8と、ゴム型3を載置するための実質的に水平な載置面を有する載置台9と、鉛直方向に移動可能なクランププレート10と、クランプ力発生器11と、フローティング機構12と、クランプ力発生器移動機構13と、左右移動機構14と、ロック機構20Bを有する。
【0040】
筐体8は、板金等の金属材料で形成され得る。載置台9は、ゴム型3を装着可能なゴム型位置決め挿入プレート9aを有し、上記載置面は、ゴム型位置決め挿入プレート9a上に形成されている。クランププレート10は、実質的に平板状の金属板等により形成される。
【0041】
クランプ力発生器11は、載置台9に対するクランププレート10の上下方向の位置を変化させ、クランププレート10に対してクランプ力F1を作用させるための装置である。好ましくは、クランプ力発生器11は、圧縮空気により動作するクランプシャフト11aによってクランププレート10を上下に移動させ、クランププレート10に対してクランプ力F1を作用させることが可能な単動式エアシリンダーである。
【0042】
クランプシャフト11aとクランププレート10は、フローティング機構12を介して連結されている。フローティング機構12は、揺動軸受部12aと、移動制限機構12bを有する。
【0043】
揺動軸受部12aは、ボールジョイント等によって、クランププレート10を前後左右に揺動可能にクランプシャフト11aに結合させる。
【0044】
移動制限機構12bは、クランププレート10が上死点にあるときには、クランプシャフト11aの前後方向の移動を許容する一方で、クランププレート10が上死点から下降したときには、クランプシャフト11aのクランププレート10に対する前後方向の位置を固定する。これにより、クランププレート10が上死点にあるときには、ゴム型3の大きさに合わせて、クランププレート10に対するクランプ力F1の作用点を前後方向で調整することが可能であり、クランププレート10の下降過程では、クランプ力F1の作用点がずれてしまうことが防止される。
【0045】
クランププレート10は、左右に突起部10aを有し、クランプ機構部筐体8は、上死点にあるクランププレート10の突起部10aに係合する係合部8aを有する。突起部10aと係合部8aが係合することで、クランプシャフト11aの前後方向への移動の際にクランププレート10が一緒に前後に移動することが防止される。
【0046】
クランプ力発生器移動機構13は、前後方向にクランプ力発生器11を移動させるための機構である。
【0047】
クランプ力発生器移動機構13は、クランプ力発生器11を前後に案内するガイドシャフト13aと、クランプ力発生器11を前後に駆動するためのラック13b及びピニオン13cと、ピニオン13cを回転操作するためのツマミ13dを有する。
【0048】
ガイドシャフト13aはクランプ機構部筐体8に若干の隙間を有して装着されており、クランプ力発生器11が作動しても、大きな反力がガイドシャフト13aに作用せずにクランプ機構部筐体8に直接作用させるためのクランプ反力受け13eがクランプ力発生器移動機構13の移動方向全域においてその左右に取り付けられている。
【0049】
クランプ力発生器11をツマミ13dの回転により移動させるときは、クランプ反力受け13eとクランプ機構部筐体8との間に若干の隙間を設けてあり、自由に移動可能であるが、クランプシャフト11aが下降してゴム型3をクランプしたとき、その反力によってガイドシャフト13aが持ち上がり、クランプ反力受け13eがクランプ機構部筐体8に密着して、大きな反力を受け止める。
【0050】
クランプ力発生器移動機構13の載置台9に対する上下方向の位置は基本的に固定されている。クランププレート10がゴム型3をクランプした状態では、クランプ反力受け13eがクランプ機構部筐体8に密着し、クランプ力発生器移動機構13の載置台9に対する上下方向の位置は、実質的に固定される。
【0051】
左右移動機構14は、クランプ機構部5aに作用する左右方向への力に応じてクランプ機構部5aを左右方向に案内する機構である。
【0052】
図8は、ロック機構20Bを示す。図示のように、ロック機構20Bは、ロック棒21と、ブロック部材22と、弾性部材23と、エアシリンダー24と、楔受部材25を有する。
【0053】
ロック棒21は、一端に円形孔21aを有し、他端に円形孔21bを有する平板棒状の部材である。円形孔21aは、クランプ力発生器移動機構13の筐体13fに固定された固定軸13gの周りで水平面内で回転自在に支持される。円形孔21bは、エアシリンダー24のピストン24a先端に形成された駆動軸24bの周りで回転自在に支持される。
【0054】
ロック棒21は、円形孔21a,21bの中間位置にクランプシャフト11aに係合可能な係合部21cを有する。係合部21cは、クランプシャフト11aに相補的な形状とすることができる。係合部21cは、円形孔21a,21b間の距離Nが円形孔21aと係合部21cの距離nよりも充分大きくなる位置に設けられる。
【0055】
ブロック部材22は、クランプ力発生器移動機構13の筐体13fに固定されている。ロック棒21の他端側とブロック部材22の間には、バネ等の弾性部材23が介挿されている。
【0056】
エアシリンダー24は、エアSの圧力と弾性部材23の付勢力でピストン24aを水平方向(
図8(a)の左右)に駆動する。エアシリンダー24は、エアSの供給が無いときに、係合部21cとクランプシャフト11aの間に僅かな隙間が形成されるように位置決めされている。
【0057】
図9は、楔受部材25を示す。
図9(a)は、斜視図であり、
図9(b)は、
図8(b)のC−C断面である。楔受部材25は、突起部25aを有する概略円筒状の外形を有する部材である。楔受部材25には、クランプシャフト11aを案内するためのクランプシャフト11aと概略同径の案内穴25bと、案内穴25bに開口する凹部25cが形成されている。案内穴25b及び凹部25cは、楔受部材25を上下方向に貫通している。好ましい実施形態では、凹部25cは、案内穴25bの偏心位置に形成された案内穴25bより小径の円弧状の断面形状を有する。案内穴25bと凹部25cの接続部位は、クランプシャフト11aとの間で摩擦を発生させる摩擦部25d,25eを構成する。摩擦部25d,25eの間の距離r1は、案内穴25b(クランプシャフト11a)の径r2よりも小さい。
【0058】
楔受部材25の側面には、ロック棒21を水平面内で案内するためのロック棒21の厚みと概略同幅の切込部25fが形成されている。楔受部材25は、例えば、円筒状のロッドを加工することにより形成した一体物の部材であることが、コスト、強度の面から好ましい。凹部25cはエンドミル等により、切込部25fはフライス等により加工できる。楔受部材25は、突起部25aを筐体13fの係合穴13hに挿入した状態で筐体13fに固定される。図中25gは、固定ピン13gの受け孔である。
【0059】
ロック機構20Bの動作を説明する。
エアシリンダー24へのエアS未供給時には、係合部21cとクランプシャフト11aの間、及び、クランプシャフト11aと摩擦部25d,25eの間に隙間が有り、クランプシャフト11aは上下方向に自由に移動可能である。
【0060】
エアシリンダー24にエアSが供給されると、ピストン24aがロック棒21を固定軸13gの周りで回転させ、係合部21cによりクランプシャフト11aが凹部25c側に押し付けられる。この押付力により、クランプシャフト11aと摩擦部25d,25eの間に摩擦が生じ、クランプシャフト11aの載置台9に対する上下方向の位置が固定される。
【0061】
このとき、距離Nが距離nよりも充分大きいため、クランプシャフト11aから楔受部材25への押付力を大きくすることができる。また、クランプシャフト11aの押付力が2点(摩擦部25d,25e)に作用することにより、楔効果で大きい反力が発生し、クランプシャフト11aの上下方向の位置固定が強固にできる。
【0062】
図10は、凹部25cを有することによる楔効果を説明する。凹部25cが無い場合、楔受部材25の一箇所でしか抗力が発生せず、その抗力の大きさはクランプシャフト11aの押付力Fに等しい。しかし、本実施形態では、凹部25cがあることで、2箇所の摩擦部25d,25eで抗力Fa,Fbが発生する。摩擦部25d,25eの距離r1を大きくしていくと(ただし、r1<r2)、抗力Fa,Fbを、Fa2,Fb2のように増大させることができる。
【0063】
クランプシャフト11aに作用する摩擦力は抗力Fa,Fbと摩擦係数の積で作用するため、上記楔効果により摩擦力を効果的に高めることができる。摩擦係数はクランプシャフト11aの外壁と凹部25cの内壁の材質と表面粗さよって決まるため、適切な材質の選択と適正な表面粗さ仕上げにより、又は、クランプシャフト11a及び/又は凹部25cに螺旋溝などを施すことで、摩擦係数を高めることが可能である。
【0064】
ピストン24aが直線運動をするのに対してロック棒21は回転運動をするが、円形孔21bの径を駆動軸24bより少し大きくしておけば上記動作に問題は生じない。クランプシャフト11aを凹部25cに向けて押し付ける際に、クランプシャフト11aの駆動方向に直角方向の力が作用するが、クランプシャフト11aと案内穴25bの径差を充分小さくしておけば、クランプ力発生器11の機能、動作に悪影響は生じない。
【0065】
本実施形態では、特に好ましい態様として、突起部25aや案内穴25b、切込部25f等を有する楔受部材25を示したが、摩擦部25d,25eさえ有れば上記楔効果によるクランプシャフト11aの固定が可能であり、その他の構成は、省略することも可能である。
【0066】
上記実施形態におけるロック機構20Bには、種々の変形形態が考えられる。
【0067】
図11は、ロック機構の第1の変形形態20Cを示す。
図10のロック機構20Cでは、割26aを入れたテーパ26b付きスリーブ26と、テーパ26bに相補的なテーパ27aを有するスリーブ27がクランプシャフト11aに嵌挿されている。エアシリンダー28のピストン28a等でスリーブ27をスリーブ26に押し付ければ、スリーブ26の締め付けによりクランプシャフト11aの位置を固定することができる。
【0068】
図12は、ロック機構の第2の変形形態20Dを示す。
図11のロック機構20Dは、クランプシャフト11aに係合するテーパ29aを有する一対のブロック又は板29を有する。ブロック又は板29の一端を回転可能に支持し、他端に押付力を作用させ、クランプシャフト11aをテーパ29aで挟み込むことによって、クランプシャフト11aの位置を固定することができる。
【0069】
更に他の形態として、クランプシャフト11aの外壁に上下方向にラックを形成し、当該ラックにピニオンを係合させ、ピニオンを固定することにより、クランプシャフト11aの位置を固定することもできる。
【0070】
クランプ装置5Bは、クランプ装置5Aと同様の制御部30を有し得る。
【0071】
以上、好ましい実施形態を説明したが、上記実施形態は例であり、本発明は、請求の範囲において種々の変更が可能である。
【0072】
例えば、上記実施形態では、クランプシャフト11aの位置を固定する場合を説明したが、載置台9に対するクランププレート10の上下方向の位置を固定すれば、本発明の効果は達成されるのであり、固定の対象物は、クランプシャフト11aには限られない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、宝飾品、アクセサリ等の小物や工業製品等の製造のためのワックス型射出成型の際のゴム型の固定に使用されるクランプ装置及びワックス型の製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1・・・原型
2・・・部品
3,3’・・・ゴム型
4,4’,4’’・・・空洞
5,5A,5B・・・クランプ装置
5a・・・クランプ機構部
5b・・・上下移動機構
5c・・・前後移動機構
6・・・ワックス型射出成型機
7・・・射出ノズル
8・・・クランプ機構部筐体
9・・・ゴム型載置台
10・・・クランププレート
11・・・クランプ力発生器
11a・・・クランプシャフト
12・・・フローティング機構
13・・・クランプ力発生器移動機構
13f・・・クランプ力発生器移動機構筐体
13g・・・固定軸
14・・・左右移動機構
20A〜20D・・・ロック機構
21・・・ロック棒
21c・・・係合部
24・・・エアシリンダー
24b・・・駆動軸
25・・・楔受部材
25d,25e・・・摩擦部
30・・・制御部