特許第6183563号(P6183563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6183563二軸配向ポリプロピレンフィルム、金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6183563
(24)【登録日】2017年8月4日
(45)【発行日】2017年8月23日
(54)【発明の名称】二軸配向ポリプロピレンフィルム、金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/12 20060101AFI20170814BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20170814BHJP
   B32B 15/085 20060101ALI20170814BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20170814BHJP
   H01G 4/18 20060101ALI20170814BHJP
   B29K 23/00 20060101ALN20170814BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20170814BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20170814BHJP
   B29L 31/34 20060101ALN20170814BHJP
【FI】
   B29C55/12
   B32B27/32 Z
   B32B15/085 Z
   C08J5/18CES
   H01G4/24 321C
   B29K23:00
   B29L7:00
   B29L9:00
   B29L31:34
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-558157(P2016-558157)
(86)(22)【出願日】2016年8月5日
(86)【国際出願番号】JP2016073191
【審査請求日】2016年12月2日
(31)【優先権主張番号】特願2015-201800(P2015-201800)
(32)【優先日】2015年10月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 聡一
(72)【発明者】
【氏名】浅野 哲也
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−291284(JP,A)
【文献】 特開平11−123798(JP,A)
【文献】 特開昭63−265933(JP,A)
【文献】 特開2015−166189(JP,A)
【文献】 特開2014−001265(JP,A)
【文献】 特開2014−051657(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/058698(WO,A1)
【文献】 特開2014−011181(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/002123(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/12
B32B 15/085
C08J 5/18
H01G 4/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂を主成分とする二軸配向ポリプロピレンフィルムであって、DSCを用いた融解ピーク測定による1回目の昇温カーブにおいて、最も高温側に存在する第1融解ピークTm1が176〜180℃である二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
前記DSCを用いた融解ピーク測定による1回目の昇温、冷却後に再度融解ピーク測定を行った場合に得られる2回目の昇温カーブにおいて、最も高温側に存在する第2融解ピークTm2と、前記第1融解ピークTm1との温度差(Tm1−Tm2)が3〜15℃である、請求項1に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
光沢度が両面ともに120〜150%である、請求項1または2に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
コンデンサ用誘電体として用いられる、請求項1〜3のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜を形成してなる金属膜積層フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の金属膜積層フィルムを巻回してなるフィルムコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサ用誘電体として用いた場合、高温耐電圧特性に優れる二軸配向ポリプロピレンフィルム、金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサに関する。詳しくは、室温での耐電圧特性のみならず高温条件下でも耐電圧特性に優れ、フィルムコンデンサ用誘電体に好適に用いることができる二軸配向ポリプロピレンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
二軸配向ポリプロピレンフィルムは、透明性、機械特性、電気特性などに優れるため、包装用途、テープ用途、ケーブルラッピングやコンデンサをはじめとする電気用途などの様々な用途に用いられている。
【0003】
この中でもコンデンサ用途は、その優れた耐電圧特性、低損失特性から直流用途、交流用途に限らず高電圧コンデンサ用に特に好ましく用いられている。最近では、各種電気設備がインバーター化されつつあり、それに伴いコンデンサの小型化、大容量化の要求が一層強まってきている。コンデンサの小型化、大容量化等が要求される市場、特に自動車用途(ハイブリッドカー用途含む)や太陽光発電、風力発電用途の要求を受け、二軸配向ポリプロピレンフィルムの耐電圧特性を維持させつつ、フィルムを耐熱化していくことが必須な状況となってきている。
【0004】
耐電圧特性、耐熱性を向上させる手段として、二軸配向ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂組成物の特性を制御することが有効であると考えられている。例えば、延伸性に優れたポリプロピレン樹脂組成物を使用し、二軸配向ポリプロピレンフィルムの耐熱性および耐電圧特性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1では、フィルムの融点は170℃以下であるため耐熱性の効果は限定的であり、現在のコンデンサに求められる105℃を超える高温耐電圧特性を満たすものではなかった。
【0005】
また、異なる2種類の立体規則性ポリプロピレンを配合し、tanδピーク温度を高温に制御することで耐熱性および耐電圧特性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2では、フィルムの融点は175℃以下であるため耐熱性の効果は限定的であり、現在のコンデンサに求められる105℃を超える高温耐電圧特性を満たすものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−133351号公報
【特許文献2】特開2010−280795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、室温での耐電圧特性のみならず高温下における耐電圧特性にも優れた二軸配向ポリプロピレンフィルム、金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題は、ポリプロピレン樹脂を主成分とする二軸配向ポリプロピレンフィルムであって、DSCを用いて融解ピークを測定した場合の1回目の昇温カーブにおいて最も高温側に存在する第1融解ピークTm1が、176〜180℃である二軸配向ポリプロピレンフィルムによって達成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムをコンデンサ用誘電体として用いた場合、高温下における耐電圧特性に優れるため、コンデンサ用誘電体として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、さらに詳しく本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルム、金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサについて説明する。
【0011】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂を主成分とするポリプロピレン樹脂組成物からなる。なお、「主成分」とは、ポリプロピレン樹脂がポリプロピレン樹脂組成物中に占める割合が80質量%以上であることを意味し、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0012】
ポリプロピレン樹脂としては、主としてプロピレンの単独重合体を使用可能であるが、本発明の目的を損なわない範囲でプロピレンと他の不飽和炭化水素との共重合体などを使用してもよいし、プロピレン単独重合体にプロピレンと他の不飽和炭化水素との共重合体をブレンドしてもよい。このような共重合体を構成する単量体成分として、例えば、エチレン、プロピレン(共重合されたブレンド物の場合)、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチルペンテン−1、3−メチルブテン−1、1−ヘキセン、4−メチルペンテン−1、5−エチルヘキセン−1、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネンなどが挙げられる。他の不飽和炭化水素の共重合量または共重合体のブレンド量は、耐電圧特性、寸法安定性の観点から、プロピレン樹脂中の上記した他の不飽和炭化水素の割合を1mol%未満とするのが好ましい。
【0013】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを構成する上記ポリプロピレン樹脂の冷キシレン可溶部(以下CXSと記載)は4質量%以下であることが好ましい。ここでCXSとは、フィルムを135℃のキシレンで完全溶解せしめた後、20℃で析出させた時に、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分のことをいい、立体規則性が低い、分子量が低いなどの理由により結晶化し難い成分に該当していると考えられる。ポリプロピレン樹脂のCXSは3質量%以下であるとより好ましく、2質量%以下であるとさらに好ましく、1質量%以下であると特に好ましい。CXSが4質量%を超える場合、二軸配向ポリプロピレンフィルムの耐電圧特性や寸法安定性が劣ることがある。ポリプロピレン樹脂のCXSを上記の範囲内とするには、ポリプロピレン樹脂を得る際の触媒活性を高める方法、得られたポリプロピレン樹脂を溶媒あるいはプロピレンモノマー自身で洗浄する方法などがある。
【0014】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルム、および当該フィルムを構成する上記ポリプロピレン樹脂のメソペンタッド分率(mmmm)は、0.950〜0.990の範囲内であることが好ましく、0.960〜0.990であるとより好ましく、0.970〜0.990であるとさらに好ましく、0.970〜0.985であると特に好ましい。メソペンタッド分率は核磁気共鳴法(所謂NMR法)で測定されるポリプロピレン樹脂の結晶相の立体規則性を示す指標であり、該数値が高いものほど結晶化度や融点が高く、室温のみならず高温でも耐電圧特性に優れるため好ましい。二軸配向ポリプロピレンフィルム、およびポリプロピレン樹脂のメソペンタッド分率が0.950未満の場合、耐電圧特性や寸法安定性が劣ることがある。一方、二軸配向ポリプロピレンフィルム、およびポリプロピレン樹脂のメソペンタッド分率が0.990を超える場合、製膜性に劣り安定して二軸配向ポリプロピレンフィルムが得られないことや、結晶性が高くなりすぎて耐電圧特性が低下することがある。二軸配向ポリプロピレンフィルム、およびポリプロピレン樹脂のメソペンタッド分率を上記の範囲内とするためには、n−ヘプタンなどの溶媒で得られたポリプロピレン樹脂パウダーを洗浄する方法や、触媒および/または助触媒の選定、ポリプロピレン樹脂組成物の成分の選定を適宜行う方法などが好ましく採用される。
【0015】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを構成する上記ポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(以下MFRと記載)は、JIS K 7210(1995)の条件M(230℃、2.16kg)に準拠して測定した場合において、0.5〜10g/10分であることが好ましく、1〜8g/10分であるとより好ましく、1.5〜5g/10分であるとさらに好ましく、2〜5g/10分であると特に好ましい。ポリプロピレン樹脂のMFRが0.5g/10分未満の場合、製膜性に劣り安定して二軸配向ポリプロピレンフィルムが得られない場合がある。一方、ポリプロピレン樹脂のMFRが10g/10分を超える場合、耐電圧特性に劣ることがある。ポリプロピレン樹脂のMFRを上記の範囲内とするためには、ポリプロピレン樹脂の平均分子量や分子量分布を制御する方法などが好ましく採用される。
【0016】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、DSC(Differential Scanning Calorimetry)を用いた融解ピークの測定による1回目の昇温カーブにおいて、最も高温側に存在する第1融解ピークTm1が176〜180℃である。第1融解ピークTm1は176〜179℃であるとより好ましく、176〜178℃であるとさらに好ましく、177〜178℃であると特に好ましい。なお、当該フィルム中に複数の結晶形態を有する場合や、異なる融点を持つポリマーが混合された場合、DSC測定による1回目の昇温カーブにおいて、融解ピークが複数存在することがあるが、最も高温側に存在する第1融解ピークTm1が上記範囲にあることが高温下における耐電圧特性向上に効果的である。第1融解ピークTm1が176℃未満の場合、フィルムの結晶性、及び耐熱性が不十分であり、高温下での耐電圧特性に劣ることがある。一方、第1融解ピークTm1が180℃を超える場合、フィルムの結晶性が高くなりすぎていることを意味し、それが故にコンデンサ用誘電体として用いた際に局所的に電流が流れ、絶縁破壊を起こしやすくなったり、フィルムを生産する際に延伸が困難となり生産性が低下したりすることがある。上記の通り、第1融解ピークTm1は温度が高すぎても低すぎても高温下での耐電圧特性に劣ることが分かり、本発明では鋭意検討することで二軸配向ポリプロピレンフィルムの第1融解ピークTm1を好ましい温度範囲に制御することを可能とした。第1融解ピークTm1を上記温度内に制御するためには、上述したポリプロピレン樹脂を使用して、後述する通りフィルム製膜時の延伸工程を特定の条件とすればよい。
【0017】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、DSCを用いた融解ピーク測定による1回目の昇温、冷却後に再度融解ピークを測定した場合に得られる2回目の昇温カーブにおいて、最も高温側に存在する第2融解ピークTm2と前記第1融解ピークTm1との温度差(Tm1−Tm2)が3〜15℃であることが好ましい。(Tm1−Tm2)は3〜10℃であるとより好ましく、4〜9℃であるとさらに好ましく、5〜8℃であると特に好ましい。なお、第2融解ピークTm2はフィルムを形成するプロピレン樹脂本来の融解ピークを意味し、フィルム製膜時の延伸における融解ピークの温度シフトをキャンセルした値である。また、第2融解ピークTm2は、フィルム製膜時に押出機内を通ったことによる樹脂劣化などを反映しているため、製膜前の原料樹脂そのものの融解ピークとは異なり、当該原料樹脂の本来の融点より1〜5℃高い値が得られる。つまり、温度差(Tm1−Tm2)は、フィルム製膜時の延伸工程で結晶化が促進されたことに起因する融点の温度シフトの大きさを意味する。温度差(Tm1−Tm2)が3℃未満の場合、延伸工程による結晶化促進が不十分であり、耐電圧特性に劣ることがある。一方、(温度差Tm1−Tm2)が15℃を超える場合、延伸工程において配向が付き過ぎてフィルム破断してしまったり、絶縁破壊を起こしやすくなり耐電圧特性が劣ることがある。温度差(Tm1−Tm2)を上記温度内に制御するためには、上述したポリプロピレン樹脂を使用して、後述する通りフィルム製膜時の押出工程、延伸工程を特定の条件とすればよい。
【0018】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、光沢度が両面ともに120〜150%であることが好ましい。光沢度は両面ともに123〜145%であるとより好ましく、125〜140%であるとさらに好ましく、128〜138%であると特に好ましい。少なくとも片面の光沢度が120%未満の場合、フィルム表面での光散乱の密度が増加する。すなわち、フィルム表面に凹凸が多く存在することを意味し、その凹凸に起因して耐電圧特性が低下することがある。一方、少なくとも片面の光沢度が150%を超える場合、フィルム表面に凹凸が少ないために滑り性に劣り、製膜および加工時のフィルム搬送工程において搬送シワが生じ易く、フィルムロールの巻姿を悪化させたり、場合によってはフィルムが破断してしまうことがある。当該フィルムの光沢度を両面ともに上記の範囲内とするためには、上述したポリプロピレン樹脂を使用して、後述する通りフィルム製膜時のキャスト工程、縦延伸工程を特定の条件とすればよい。
【0019】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、120℃、15分の処理条件における長手方向(フィルム製膜時にフィルムが流れる方向)、および幅方向(長手方向とフィルム平面上で直交する方向)の熱収縮率がともに−1〜5%であることが好ましい。120℃、15分の処理条件における長手方向および幅方向の熱収縮率は、−0.5〜4.5%であるとより好ましく、−0.3〜4%であるとさらに好ましく、−0.2〜3.5%であると特に好ましい。120℃、15分の処理条件における長手方向および幅方向のいずれかの熱収縮率が−1%未満の場合(すなわち熱膨張率が1%を超える場合)、金属蒸着加工時に冷却キャン上で大きくフィルムが熱膨張するため搬送シワが生じ、蒸着斑を引き起こすことがある。また、高温下での耐電圧特性に劣ることもある。一方、120℃、15分の処理条件における長手方向および幅方向のいずれかの熱収縮率が5%を超える場合、上記と同様に金属蒸着加工時に冷却キャン上で大きくフィルムが熱収縮するため搬送シワが生じ、蒸着斑を引き起こすことがある。また、高温下での耐電圧特性に劣ることもある。120℃、15分の処理条件における長手方向および幅方向の熱収縮率をともに上記の範囲内とするためには、上述したポリプロピレン樹脂を使用して、後述する通りフィルム製膜時の縦延伸工程、横延伸工程、熱処理工程を特定の条件とすればよい。
【0020】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、140℃、15分の処理条件における長手方向および幅方向の熱収縮率がともに−1〜10%であることが好ましい。140℃、15分の処理条件における長手方向および幅方向の熱収縮率は、0〜8%であるとより好ましく、0〜7%であるとさらに好ましく、0〜6%であると特に好ましい。140℃、15分の処理条件における長手方向および幅方向のいずれかの熱収縮率が−1%未満の場合(すなわち熱膨張率が1%を超える場合)、金属蒸着加工時に冷却キャン上で大きくフィルムが熱膨張するため搬送シワが生じ、蒸着斑を引き起こすことがある。また、高温下での耐電圧特性に劣ることもある。一方、140℃、15分の処理条件における長手方向および幅方向のいずれかの熱収縮率が10%を超える場合、上記と同様に金属蒸着加工時に冷却キャン上で大きくフィルムが熱収縮するため搬送シワが生じ、蒸着斑を引き起こすことがある。また、高温下での耐電圧特性に劣ることもある。140℃、15分の処理条件における長手方向および幅方向の熱収縮率をともに上記の範囲内とするためには、上述したポリプロピレン樹脂を使用して、後述する通りフィルム製膜時の縦延伸工程、横延伸工程、熱処理工程を特定の条件とすればよい。
【0021】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィルム厚みが1.0〜10μmであることが好ましい。フィルム厚みは1.2〜7μmであるとより好ましく、1.5〜5μmであるとさらに好ましく、1.5〜3μmであると特に好ましい。フィルム厚みが1.0μm未満の場合、機械強度や耐電圧特性に劣ったり、製膜および加工時にフィルム破断が生じたりすることがある。一方、フィルム厚みが10μmを超える場合、コンデンサ用誘電体として用いた際に体積当たりの容量が小さくなることがある。フィルム厚みは、シートを形成する際に樹脂の吐出量を調整したり、ドラフト比を調整することで適宜設定することができるが、フィルム厚みが薄くなればなるほど製膜時のフィルム破断を生じやすくなる。したがって、上述したポリプロピレン樹脂を使用して、後述する通りフィルム製膜時の縦延伸工程、横延伸工程を特定の条件とすることで安定して製膜することが可能となる。
【0022】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、製膜性を向上させたりフィルム表面形状を制御したりする目的で分岐鎖状ポリプロピレンを含有してもよい。この場合、分岐鎖状ポリプロピレンは、230℃で測定したときの溶融張力(MS)とメルトフローレート(MFR)が、log(MS)>−0.56log(MFR)+0.74なる関係式を満たす分岐鎖状ポリプロピレンであることが好ましい。230℃で測定したときの溶融張力(MS)とメルトフローレート(MFR)が、log(MS)>−0.56log(MFR)+0.74なる関係式を満たす分岐鎖状ポリプロピレンを得るには、高分子量成分を多く含むポリプロピレンをブレンドする方法、分岐構造を持つオリゴマーやポリマーをブレンドする方法、特開昭62−121704号公報に記載されているようにポリプロピレン分子中に長鎖分岐構造を導入する方法、あるいは特許第2869606号公報に記載されているような方法等が好ましく用いられる。具体的には、LyondellBasell社製“Profax(商標) PF−814”、Borealis社製“Daploy HMS−PP”(WB130HMS、WB135HMSなど)が例示されるが、この中でも電子線架橋法により得られる樹脂が該樹脂中のゲル成分が少ないために好ましく用いられる。なお、ここでいう分岐鎖状ポリプロピレンとは、カーボン原子10,000個に対し5箇所以下の内部3置換オレフィンを有するポリプロピレンであり、この内部3置換オレフィンの存在は、H−NMRスペクトルのプロトン比により確認することができる。分岐鎖状ポリプロピレンは、α晶核剤としての作用を有しながら、一定範囲の添加量であれば結晶形態による粗面形成も可能となる。詳しくは、溶融押出した樹脂シートの冷却工程で生成するポリプロピレンの球晶サイズを小さく制御でき、延伸工程で生成する絶縁欠陥の発生を抑制し、耐電圧特性に優れた二軸配向ポリプロピレンフィルムを得ることができる。
【0023】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムに分岐鎖状ポリプロピレンを含有せしめる場合、含有量は0.05〜3質量%であることが好ましく、0.1〜2質量%であるとより好ましく、0.3〜1.5質量%であるとさらに好ましく、0.5〜1質量%であると特に好ましい。分岐鎖状ポリプロピレンの含有量が0.05質量%未満の場合、上記した効果が得られないことがある。一方、分岐鎖状ポリプロピレンの含有量が3質量%を超える場合、二軸配向ポリプロピレンフィルムとしての立体規則性が低下してしまい、耐電圧特性が劣ることがある。
【0024】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば、結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、易滑剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤などを含有せしめることも好ましい。
【0025】
上記した添加剤の中で、酸化防止剤の種類、および含有量の選定は長期耐熱性の観点から重要である。すなわち、酸化防止剤としては、立体障害性を有するフェノール系のもので、そのうち少なくとも1種は分子量500以上の高分子量型のものが好ましい。具体的には、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT:分子量220.4)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えば、BASF社製Irganox(登録商標)1330:分子量775.2)、テトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(例えば、BASF社製Irganox1010:分子量1177.7)などを単独使用、もしくは併用することが好ましい。これら酸化防止剤の総含有量は、ポリプロピレン樹脂組成物全量に対して0.03〜1.0質量%であることが好ましく、0.1〜0.9質量%であるとより好ましく、0.15〜0.8質量%であるとさらに好ましく、0.15〜0.6質量%であると特に好ましい。ポリプロピレン樹脂組成物中の酸化防止剤含有量が0.03質量%未満の場合、酸化防止の効果が得られにくく長期耐熱性に劣ることがある。一方、ポリプロピレン樹脂組成物中の酸化防止剤含有量が1.0質量%を超える場合、高温耐電圧特性が劣ることがある。
【0026】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、灰分が50ppm(質量基準、以下同じ)以下であることが好ましく、40ppm以下であればより好ましく、30ppm以下であればさらに好ましく、20ppm以下であれば特に好ましい。灰分が50ppmを超える場合、二軸配向ポリプロピレンフィルムの耐電圧特性が劣ることがある。灰分を上記の範囲とするためには、触媒残渣の少ない原料を用いることが重要であるが、製膜時の押出系からの汚染を極力低減する方法、例えば製膜を開始する前に未劣化のポリプロピレン樹脂でポリマーが流れる経路を十分洗浄する方法を好ましく採用することができる。
【0027】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、少なくとも片面の表面ぬれ張力が37〜50mN/mであることが好ましく、38〜49mN/mであるとより好ましく、39〜48mN/mであるとさらに好ましく、40〜47mN/mであると特に好ましい。表面ぬれ張力が37mN/m未満の場合、金属蒸着する際に金属との密着が不十分となることがある。一方、表面ぬれ張力が50mN/mを超える場合、耐電圧特性に劣ることがある。なお、二軸配向ポリプロピレンフィルムは通常、表面エネルギーが低く、表面ぬれ張力が30mN/m程度である。表面ぬれ張力を上記の範囲内とするためには、製膜時において、二軸延伸後に表面処理を施す方法が好ましく採用される。具体的には、コロナ放電処理、プラズマ処理、グロー処理、火炎処理などを採用することができる。
【0028】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、上記したポリプロピレン樹脂を主成分としてシートを作成し、二軸延伸されることによって得ることが好ましい。二軸延伸の方法としては、インフレーション同時二軸延伸法、テンター同時二軸延伸法、テンター逐次二軸延伸法のいずれによっても得られるが、製膜安定性、厚み均一性の観点でテンター逐次二軸延伸法を採用することが好ましい。特に長手方向に延伸後、幅方向に延伸することが好ましい。
【0029】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、様々な効果を付与する目的で少なくとも片面に機能層を積層させてもよい。積層構成としては、2層積層でも3層積層でも、また、それ以上の積層数でもいずれでも構わない。積層の方法としては、例えば、共押出によるフィードブロック方式やマルチマニホールド方式でも、ラミネートによるポリプロピレンフィルム同士を貼り合わせる方法でもいずれでも構わない。特に、二軸配向ポリプロピレンフィルムの加工性を向上させる目的で、微細な粒子を均一に配置した易滑層を、耐電圧特性を低下させない範囲で積層することは好ましいことである。
【0030】
次に本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの製造方法を以下に説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0031】
まず、上述した好ましいポリプロピレン樹脂を含むポリプロピレン樹脂組成物を単軸の溶融押出機に供給し、ポリマー劣化抑制の観点で200〜220℃にて溶融押出を行う。次に、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて、異物や変性ポリマーなどを除去した後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、未延伸シートを得る。なお、押出の際、Tダイでのせん断速度を100〜1,000sec−1とすることがポリマーの劣化を抑制する観点で好ましい。より好ましくは150〜800sec−1であり、さらに好ましくは200〜700sec−1、特に好ましくは300〜600sec−1である。Tダイでのせん断速度は式(1)で表される。Tダイでのせん断速度が100sec−1未満の場合、せん断が十分にかからず未延伸シート中の結晶配列が不十分となるため、その後の延伸工程において均一延伸が困難となり結晶性が均一な二軸配向ポリプロピレンフィルムが得られないことがある。一方、Tダイでのせん断速度が1,000sec−1を超える場合、過剰にせん断がかかってしまい、ポリマー劣化が生じ、耐電圧特性が劣ることがある。
せん断速度(sec−1)=6Q/ρWt ・・・(1)
Q:流量(kg/sec)
ρ:比重(kg/cm
W:Tダイの溝幅(cm)
t:Tダイの溝間隙(cm)
【0032】
Tダイでのせん断速度が上述した範囲となるようにポリプロピレン樹脂組成物流量、Tダイの溝幅、および溝間隙を適宜調整する。ポリプロピレン樹脂組成物の流量は押出安定性の観点から150〜500kg/hrの範囲が好ましい。Tダイの溝幅は生産性の観点から500〜1,000mmの範囲が好ましい。Tダイの溝間隙は押出系内の内圧やキャスト精度の観点から0.8〜2mmの範囲が好ましい。
【0033】
また、キャストドラムは、光沢度を適切な範囲に制御できる観点から、表面温度が60〜100℃であることが好ましい。キャストドラムの表面温度は、70〜98℃であるとより好ましく、80〜96℃であるとさらに好ましく、85〜95℃であると特に好ましい。Tダイから吐出された溶融シートがキャストドラムに着地し、キャストドラムに密着している時間としては、溶融シートを固化させ結晶成長を促す、すなわち長手方向の厚み斑を発生させない観点から、1秒以上であることが好ましく、1.5秒であればより好ましく、2秒以上であればさらに好ましく、2.5秒以上であれば特に好ましい。
【0034】
キャストドラムへシートを密着させる方法としては、静電印加法、エアーナイフ法、ニップロール法、水中キャスト法などの手法を採用することができるが、厚み斑抑制や高速製膜化の観点でエアーナイフ法が好ましい。
【0035】
上記未延伸シートは、後述する延伸工程において、均一、かつ結晶化促進可能な延伸とすることができるため、当該二軸配向ポリプロピレンフィルムの第1融解ピークTm1や温度差(Tm1−Tm2)を好ましい範囲に抑制することができる。具体的な延伸条件としては、まず、未延伸シートを長手方向に延伸する温度を制御する。温度制御の方法は、温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。長手方向に延伸する際のフィルム温度としては、フィルムの結晶化の促進、および安定製膜の観点から100〜125℃であると好ましく、より好ましくは105〜123℃、さらに好ましくは110〜120℃、特に好ましくは110〜115℃である。延伸倍率としては、フィルムの結晶化の促進、および安定製膜の観点から5.7〜6.5倍であると好ましく、より好ましくは5.8〜6.4倍、さらに好ましくは5.9〜6.3倍、特に好ましくは6.0〜6.2倍である。延伸倍率を高くするほどフィルム中の結晶性は促進され、高温下での耐電圧特性に優れるが、6.5倍を超えて延伸すると、縦延伸工程でのフィルム破断や次の横延伸工程でフィルム破れが起きやすくなってしまうことがある。
【0036】
長手方向の延伸速度は、フィルムの結晶化の促進、および安定製膜の観点から3,550,000〜5,500,000%/分であることが好ましく、3,600,000〜5,400,000%/分であるとより好ましく、3,700,000〜5,200,000%/分であるとさらに好ましく、3,800,000〜5,000,000%/分であると特に好ましい。長手方向の延伸速度を制御することで、当該二軸配向ポリプロピレンフィルムの配向、さらには結晶性を制御することが可能であり、上記した好ましい範囲で延伸することで第1溶融ピークTm1を制御することが可能である。長手方向の延伸速度が3,550,000%/分未満の場合、第1溶融ピークTm1が好ましい範囲を下回ってしまい、高温下における耐電圧特性に劣ることがある。一方、長手方向の延伸速度が5,500,000%/分を超える場合、第1溶融ピークTm1が好ましい範囲を上回ってしまい、高温下における耐電圧特性に劣ることがある。また、フィルム破断が起きることがある。長手方向の延伸速度の計算方法は、式(2)で表される。なお、回転ロール方式で延伸する際の延伸区間は、周速差のあるロール間の接線距離とし、延伸速度は延伸区間内で均一であると仮定する。
延伸速度(%/分)=(MDX−1)×100/(L/V) ・・・(2)
MDX:長手方向の延伸倍率(倍)
L:延伸区間(m)
V:延伸後の製膜速度(m/分)
【0037】
上記のような高倍率、高速延伸をフィルム破断なく達成するためにラジエーションヒーターにより延伸直前のフィルムに局所的に熱量を与え、延伸を補助する機構を導入することが好ましい。特に高倍率延伸する場合には、配向が強くかかるため上記したラジエーションヒーターを用いて延伸直前にフィルムの少なくとも片面に熱量を与えることがフィルムの延伸性を向上させる観点、および上記高倍率、高速延伸を達成させる上でより好ましいことである。ラジエーションヒーターによる加熱は、非接触方式であるためフィルムのロールへの粘着を抑制し、瞬間的に熱量を与えることでフィルムを均一に加熱することができるためフィルムの安定製膜に効果的である。ラジエーションヒーターとフィルムとの距離は10〜50mmであることが好ましい。ラジエーションヒーターとフィルムとの距離が10mm未満の場合、フィルムに過剰に熱量を与えてしまい、結晶性の促進が不十分となることがある。一方、ラジエーションヒーターとフィルムとの距離が50mmを超える場合、フィルムに与える熱量が不十分となり、フィルム破断することがある。ラジエーションヒーターの表面温度は500〜1,200℃であることが好ましく、550〜1,000℃であるとより好ましく、600〜900℃であるとさらに好ましく、700〜800℃であると特に好ましい。ラジエーションヒーターの表面温度が500℃未満の場合、延伸直前のフィルム温度が上記した温度範囲まで上がらず、フィルム破断が起きることがある。一方、ラジエーションヒーターの表面温度が1,200℃を超える場合、延伸直前のフィルム温度が上記した温度を超えてしまい、結晶性の促進が不十分となることがある。
【0038】
フィルムの長手方向への延伸の際には、フィルム幅が減少する所謂ネックダウンと呼ばれる現象が見られるが、厚み斑の観点で、ネックダウン率(延伸後のフィルム幅/延伸前のフィルム幅×100)は90〜99%であれば好ましい。
【0039】
次に、テンター式延伸機にフィルム端部を把持させて導入する。そして、フィルムの結晶化を促進する観点、安定製膜の観点から好ましくは140〜165℃、より好ましくは142〜163℃、さらに好ましくは144〜160℃、特に好ましくは145〜155℃に加熱して幅方向に8〜15倍、より好ましくは9〜14倍、さらに好ましくは10〜13倍、特に好ましくは10〜12倍延伸を行う。なお、このときの横延伸速度としては、フィルムの結晶化の促進、および安定製膜の観点から15,000〜45,000%/分で行うことが好ましく、18,000〜40,000%/分であればより好ましく、20,000〜35,000%/分であればさらに好ましく、25,000〜30,000%/分であれば特に好ましい。
【0040】
ついで、フィルムの熱処理を行う。熱処理は、そのままテンター内で熱処理温度を変えずに行ってもよいが、高温下での耐電圧特性の観点で、熱処理温度は147〜167℃であることが好ましく、150〜165℃であるとより好ましく、152〜163℃であるとさらに好ましく、155〜160℃であると特に好ましい。さらに、熱処理時にはフィルムの長手方向および/もしくは幅方向に弛緩させながら行ってもよく、特に、幅方向の弛緩率を5〜15%、より好ましくは8〜13%、さらに好ましくは9〜12%、特に好ましくは10〜12%とすることが、幅方向の熱寸法安定性の観点から好ましい。
【0041】
最後に、フィルムに蒸着により金属膜を形成する場合は、蒸着金属の密着性を良くする観点で、二軸延伸されたポリプロピレンフィルムの蒸着を施す面に空気中、窒素中、炭酸ガス中、あるいはこれらの混合気体中でコロナ放電処理を行い、金属膜積層フィルムを得ることができる。
【0042】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、コンデンサ用誘電体として好ましく用いられるが、コンデンサのタイプに限定されるものではない。具体的には、電極構成の観点では箔巻コンデンサ、金属蒸着膜コンデンサのいずれであってもよいし、絶縁油を含有させた油浸タイプのコンデンサや絶縁油を全く使用しない乾式コンデンサにも好ましく用いられる。また、形状の観点では、巻回式であっても積層式であっても構わない。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの特性から特に金属蒸着膜コンデンサとして好ましく用いられる。
【0043】
本発明において、上記した二軸配向ポリプロピレンフィルム表面に金属膜を設けて金属膜積層フィルムとすることが好ましい。その方法は特に限定されないが、例えば、当該フィルムの少なくとも片面にアルミニウムを蒸着してフィルムコンデンサの内部電極となるアルミニウム蒸着膜などの金属膜を設ける方法が好ましく用いられる。このとき、アルミニウムと同時あるいは逐次に、例えば、ニッケル、銅、金、銀、クロム、および亜鉛などの他の金属成分を蒸着することもできる。また、蒸着膜上にオイルなどで保護層を設けることもできる。
【0044】
金属膜積層フィルムの金属膜の厚さは、フィルムコンデンサの電気特性とセルフヒール性の観点から20〜100nmであることが好ましい。また、同様の理由により、金属膜の表面抵抗値が1〜20Ω/□であることが好ましい。表面抵抗値は、使用する金属種と膜厚で制御可能である。
【0045】
本発明では、必要により金属膜を形成後、金属膜積層フィルムを特定の温度でエージング処理を行ったり、熱処理を行ったりすることができる。また、絶縁もしくは他の目的で、金属膜積層フィルムの少なくとも片面に、ポリフェニレンオキサイドなどのコーティングを施すこともできる。
【0046】
このようにして得られた金属膜積層フィルムから、種々の方法で積層もしくは巻回してフィルムコンデンサを得ることができる。巻回型コンデンサの好ましい製造方法を次に説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0047】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの片面にアルミニウムを真空蒸着する。その際、フィルムの長手方向に走るストライプ状にアルミニウムを蒸着する。ストライプ状のアルミニウム蒸着部の間は、アルミニウムが蒸着されないマージン部である。次に、表面の各蒸着部の中央と各マージン部の中央に刃を入れてスリットし、表面が一方にマージンを有したテープ状の巻取リールを作製する。左もしくは右にマージンを有するテープ状の巻取リールを左マージン、および右マージンのもの各1本ずつを、幅方向に蒸着部分がマージン部よりはみ出すように2枚重ね合わせて巻回し、巻回体を得る。この巻回体から芯材を抜いてプレスし、両端側にメタリコンを溶射して外部電極とし、ついで、メタリコンにリード線を溶接して巻回型フィルムコンデンサを得ることができる。フィルムコンデンサの用途は、車輌用、家電用(テレビや冷蔵庫など)、一般雑防用、自動車用(ハイブリッドカー、パワーウインドウ、ワイパーなど)、および電源用など多岐に亘っており、本発明のフィルムコンデンサもこれら用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0049】
(1)冷キシレン可溶部(CXS)
ポリプロピレン樹脂試料0.5gを135℃のキシレン100mlに溶解して放冷後、20℃の恒温水槽で1時間再結晶させた後にろ過液に溶解しているポリプロピレン系成分を液体クロマトグラフ法にて定量する(X(g))。試料0.5gの精量値(X(g))を用いて下記式から算出した。
CXS(%)=(X/X)×100
【0050】
(2)メソペンタッド分率(mmmm)
ポリプロピレン樹脂、または二軸配向ポリプロピレンフィルムを試料として溶媒に溶解し、13C−NMRを用いて、以下の条件にてメソペンタッド分率(mmmm)を求めた(参考文献:新版 高分子分析ハンドブック 社団法人日本分析化学会・高分子分析研究懇談会 編 1995年 P609〜611)。
A.測定条件
装置:Bruker社製 DRX−500
測定核:13C核(共鳴周波数:125.8MHz)
測定濃度:10wt%
溶媒:ベンゼン/重オルトジクロロベンゼン=質量比1:3混合溶液
測定温度:130℃
スピン回転数:12Hz
NMR試料管:5mm管
パルス幅:45°(4.5μs)
パルス繰り返し時間:10秒
データポイント:64K
換算回数:10,000回
測定モード:complete decoupling
B.解析条件
LB(ラインブロードニングファクター)を1.0としてフーリエ変換を行い、mmmmピークを21.86ppmとした。WINFITソフト(Bruker社製)を用いて、ピーク分割を行う。その際に、高磁場側のピークから以下のようにピーク分割を行い、さらに付属ソフトの自動フィッティングを行った。ピーク分割の最適化を行った上で、mmmmのピーク分率の合計を求めた。なお、上記測定を5回行い、その平均値を本試料のメソペンタッド分率(mmmm)とした。
ピーク
(a)mrrm
(b)(c)rrrm(2つのピークとして分割)
(d)rrrr
(e)mrmr
(f)mrmm+rmrr
(g)mmrr
(h)rmmr
(i)mmmr
(j)mmmm
【0051】
(3)メルトフローレート(MFR)
JIS K7210(1995)の条件M(230℃、2.16kg)に準拠して測定した。
【0052】
(4)溶融張力(MS)
JIS K7210(1999)に示されるMFR測定用の装置に準じて測定した。株式会社東洋精機社製メルトテンションテスターを用いて、プロピレン樹脂試料を230℃に加熱し、溶融ポリマーを押出速度15mm/分で吐出しストランドとした。このストランドを6.5m/分の速度で引き取る際の張力を測定し、溶融張力を求めた。
【0053】
(5)第1融解ピークTm1、および第2融解ピークTm2
二軸配向ポリプロピレンフィルム5mgを試料としてアルミニウム製パンに封入し、示差走査熱量計(DSC)(セイコー電子工業株式会社製RDC220)を用いて測定した。窒素雰囲気下で室温から280℃まで40℃/分で1回目の昇温(ファーストラン)を行い、5分間保持した後、30℃まで40℃/分で冷却し、5分間保持した。上記ファーストランで観察された融解ピークを求めた。ついで、同じく窒素雰囲気下で30℃から280℃まで40℃/分で2回目の昇温(セカンドラン)を行い、5分間保持した後、30℃まで40℃/分で冷却した。上記セカンドランで観察された融解ピークを求めた。なお、本測定を3回行い、ファーストランより求められた最も高温側に存在する融解ピークについて3個のデータの平均値を本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの第1融解ピークTm1、セカンドランより求められた最も高温側に存在する融解ピークについて3個のデータの平均値を本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの第2融解ピークTm2とした。
【0054】
(6)光沢度
JIS K7105(1981)に準じ、スガ試験機株式会社製デジタル変角光沢計UGV−5Dを用いて入射角60°、受光角60°の条件で測定した。なお、本測定を5回行い、その平均値を本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの光沢度とした。
【0055】
(7)120℃、140℃熱収縮率
二軸配向ポリプロピレンフィルムの長手方向もしくは幅方向について、測定方向200mm、測定方向と直角の方向10mmとなるように試料を5本切り出し、両端から50mmの位置に印を付けて試長100mmとした。次に、荷重3gを付けて120℃または140℃に保温されたオーブン内に吊し、15分加熱後に取り出して、室温で冷却後、寸法(l)を測定して下記式にて求め、長手方向、幅方向ともにそれぞれ5本の平均値を本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの熱収縮率とした。
熱収縮率={(l−l)/l}×100(%)
【0056】
(8)フィルム厚み
JIS C2330(2001)の7.4.1.1に準じ、マイクロメーター法厚みを測定した。
【0057】
(9)灰分
JIS C2330(1995)に従い、初期質量Wの二軸配向ポリプロピレンフィルムを白金坩堝に入れ、まずガスバーナーで十分に燃焼させた後、750〜800℃の電気炉で1時間処理して完全に灰化し、得られた灰の質量Wを測定し、下記式から算出した。
灰分=(W/W)×1,000,000(ppm)
【0058】
(10)表面ぬれ張力
ホルムアルデヒドとエチレングリコールモノエチルエーテルとの混合液によるJIS K6768(1999)に規定された測定方法に基づいて測定した。
【0059】
(11)金属膜の表面抵抗
金属膜積層フィルムを長手方向に10mm、幅方向に50mmの短冊状にサンプリングしたものを試料とし、4端子法により幅方向30mm間の金属膜の抵抗を測定した。得られた測定値に試料幅(10mm)を乗じて、電極間距離(30mm)を除して、10mm×10mm当たりの表面抵抗値を算出した。なお、表面抵抗値の単位はΩ/□とする。
【0060】
(12)製膜安定性
後述する各実施例、および比較例における二軸配向ポリプロピレンフィルムを製膜する際のフィルム破れ回数を目視で観察し、製膜安定性を評価した。なお、製膜時間1時間中の縦延伸、もしくは横延伸でのフィルム破断回数を観察し、下記判断基準により評価した。
○(優良):フィルム破断なし
△(良好):フィルム破断1回
×(不可):フィルム破断2回以上
【0061】
(13)高温耐電圧特性
JIS C2330(2001)に準じて、125℃に温調した熱風オーブン中に電極を設置し、二軸配向ポリプロピレンフィルムの絶縁破壊電圧を測定した。なお、本測定を5回行い、その平均値を求め、上記(8)項で求めたフィルム厚みで除して1μm当たりの高温絶縁破壊電圧(V/μm)を求めた。高温耐電圧特性は、上記高温絶縁破壊電圧を下記の基準により評価した。
○(優良):450V/μm以上
△(良好):400V/μm以上、450V/μm未満
×(不可):400V/μm未満
【0062】
(実施例1)
A.ポリプロピレン樹脂組成物の製造
無水塩化マグネシウム、デカン、2−エチルヘキシルアルコールを混合し、加熱した溶液に無水フタル酸を添加し、さらに撹拌した。前記溶液を冷却した後、−20℃に冷却した四塩化チタンに滴下した。次いで、前記混合物を昇温し、フタル酸ジイソブチルを加え撹拌した後、ろ過により固体を得た。得られた固体をデカンおよびヘキサンで洗浄し、プロピレン重合に使用するチタン触媒を得た。
上記チタン触媒、および助触媒としてトリエチルアルミニウム、ジシクロペンチルジメトキシシラン、連鎖移動剤として水素を用いてプロピレン重合を行った。得られた生成物は失活した後、プロピレンモノマーで十分に洗浄を行い、ポリプロピレン樹脂を得た。このポリプロピレン樹脂の融点は165℃、MFRは4.0g/10分、メソペンタッド分率(mmmm)は0.980であった。
得られたポリプロピレン樹脂99.7質量%に酸化防止剤としてBHTが0.1質量%、同じく酸化防止剤としてIrganox−1010が0.2質量%となるように添加した後、260℃の温度で混練、ペレット化し、ポリプロピレン樹脂組成物を得た。
【0063】
B.フィルムの製造
前記ポリプロピレン樹脂組成物100質量%を単軸の溶融押出機に供給し、220℃で溶融押出を行い、25μmカットの焼結フィルターで異物除去を行った。なお、押出の際のTダイでかかるせん断速度は500sec−1であった。Tダイから吐出された溶融シートを90℃に表面温度を制御したキャストドラム上に密着させ、ドラムに3秒間接するようにキャストして未延伸シートを得た。溶融シートをキャストドラム上に密着させるためにエアーナイフおよび端部スポットエアーを用いた。ついで、加熱したセラミックロールを用いて未延伸シートを予熱し、表面温度800℃に加熱したラジエーションヒーターをフィルムとの距離15mmで接近させ、フィルム温度が115℃になるように加熱した後、長手方向に6.2倍延伸を行った。この際の長手方向の延伸速度は3,800,000%/分であり、ネックダウン率は98%であった。次に端部をクリップで把持して145℃で幅方向に延伸速度27,000%/分で10倍延伸した。さらに、155℃で6秒間の熱処理を行い、幅方向に10%の弛緩を行った。その後、室温まで除冷した後にフィルムの片面に25W・min/mの処理強度でコロナ放電処理を施し、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去した。なお、表面処理した面をA面、もう片方の未処理面をB面と呼ぶこととした。端部を除去したフィルムを巻取機で巻取り、厚み2.5μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。なお、1時間製膜した際のフィルム破断はなかった。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0064】
(実施例2)
縦延伸工程の延伸速度を3,550,000%/分とした以外は実施例1と同様に作製し、厚み2.5μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。なお、1時間製膜した際のフィルム破断はなかった。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0065】
(実施例3)
ポリプロピレン樹脂製造時の助触媒であるトリエチルアルミニウム添加量を調整し、ポリプロピレン樹脂のメソペンタッド分率(mmmm)が0.950となるように変更した以外は実施例1と同様に作製し、厚み2.5μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。なお、1時間製膜した際のフィルム破断はなかった。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0066】
(実施例4)
縦延伸工程のラジエーションヒーターの表面温度を500℃とした以外は実施例1と同様に作製し、厚み2.5μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。なお、1時間製膜した際にフィルム破断が1回発生した。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0067】
(実施例5)
縦延伸工程の延伸速度を5,000,000%/分とした以外は実施例1と同様に作製し、厚み2.5μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。なお、1時間製膜した際のフィルム破断はなかった。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0068】
(実施例6)
縦延伸工程の延伸速度を5,200,000%/分とした以外は実施例1と同様に作製し、厚み2.5μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。なお、1時間製膜した際のフィルム破断が1回発生した。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0069】
(実施例7)
縦延伸工程の延伸速度を5,400,000%/分とした以外は実施例1と同様に作製し、厚み2.5μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。なお、1時間製膜した際にフィルム破断が1回発生した。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0070】
(実施例8)
縦延伸工程の延伸速度を5,500,000%/分とした以外は実施例1と同様に作製し、厚み2.5μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。なお、1時間製膜した際にフィルム破断が1回発生した。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0071】
(比較例1)
縦延伸工程の延伸速度を5,600,000%/分とした以外は実施例1と同様に作製し、厚み2.5μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。なお、1時間製膜した際にフィルム破断が3回発生した。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0072】
(比較例2)
縦延伸工程の延伸速度を3,300,000%/分とした以外は実施例1と同様に作製し、厚み2.5μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。なお、1時間製膜した際のフィルム破断はなかった。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0073】
(比較例3)
ポリプロピレン樹脂製造時の水素添加量を調整し、ポリプロピレン樹脂のメソペンタッド分率(mmmm)が0.940となるように変更した以外は実施例1と同様に作製し、厚み2.5μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。なお、1時間製膜した際のフィルム破断はなかった。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0074】
(比較例4)
縦延伸工程のラジエーションヒーターの表面温度を450℃とした以外は実施例1と同様に作製した。結果、フィルム破断が多発し、二軸配向ポリプロピレンフィルムを得ることができなかった。
【0075】
(比較例5)
ポリプロピレン樹脂製造時の水素添加量を調整し、ポリプロピレン樹脂のメソペンタッド分率(mmmm)が0.920となるように変更するとともに、縦延伸工程の延伸速度を5,800,000%/分とした以外は実施例1と同様に作製し、厚み2.5μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。なお、1時間製膜した際にフィルム破断が3回発生した。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0076】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、コンデンサ用誘電体として用いた場合、フィルムの融解ピークが制御されているため高温条件下での耐電圧特性に優れる二軸配向ポリプロピレンフィルムとして提供することができる。
【要約】
室温および高温耐電圧特性に優れる二軸配向ポリプロピレンフィルム、金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサを提供すること。本発明は、ポリプロピレン樹脂を主成分とする二軸配向ポリプロピレンフィルムであって、DSCを用いて融解ピークを測定した場合の1回目の昇温カーブにおいて最も高温側に存在する第1融解ピークTm1が、176〜180℃である二軸配向ポリプロピレンフィルムである。