(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凝結調整剤が、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムのうちの1つ以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の速硬性モルタル組成物。
速硬性モルタル組成物の全体量に対する凝結調整剤の含有量が0.01質量%以上5質量%以下の範囲となるように、さらに、凝結調整剤が添加されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の速硬性モルタル組成物。
前記凝結調整剤が、無機粉末と、前記無機粉末100質量部に対して50質量部以上300質量部以下の範囲の量の前記凝結調整剤とを含む凝結調整剤高濃度含有混合物として添加されていることを特徴とする請求項7に記載の速硬性モルタル組成物。
さらに、有機短繊維および炭素短繊維のうちの1つ以上からなる短繊維を、速硬性モルタル組成物の全体量に対して0.1質量%以上0.3質量%以下の範囲にて含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の速硬性モルタル組成物。
さらに、再乳化粉末樹脂を、速硬性モルタル組成物の全体量に対して0.5質量%以上30質量%以下の範囲にて含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の速硬性モルタル組成物。
さらに、シリカフュームを、速硬性モルタル組成物の全体量に対して1質量%以上15質量%以下の範囲にて含むことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の速硬性モルタル組成物。
さらに、合成ポリマー系増粘保水剤を、速硬性モルタル組成物の全体量に対して0.1質量%以上0.3質量%以下の範囲にて含むことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の速硬性モルタル組成物。
さらに、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、亜硝酸カルシウムのうちの1つ以上からなる防凍剤を、速硬性モルタル組成物の全体量に対して1質量%以上10質量%以下の範囲にて含むことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の速硬性モルタル組成物。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態である速硬性モルタル組成物は、速硬性混和材とセメントと細骨材を含む。速硬性混和材100質量部に対して、セメントを100質量部以上2000質量部以下の範囲にて含む。速硬性混和材は、カルシウムアルミネートと、そのカルシウムアルミネート100質量部に対して50質量部以上200質量部以下の範囲の量の無機硫酸塩と、そのカルシウムアルミネート100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下の範囲の量の凝結調整剤とを含む組成物である。速硬性混和材中のカルシウムアルミネートの平均粒子径は8μm以上100μm以下の範囲とされ、凝結調整剤の平均粒子径は5μm以下とされている。本実施形態の速硬性モルタル組成物は、さらに、凝結調整剤、短繊維、再乳化粉末樹脂、シリカフューム、合成ポリマー系増粘保水剤、防凍剤などの各混和材を含んでいてもよい。
以下、本実施形態の速硬性モルタル組成物の各成分について説明する。
【0029】
(速硬性混和材)
速硬性混和材は、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩と凝結調整剤を含む組成物である。
カルシウムアルミネートは、速硬性モルタル組成物の使用時において水に接したときにカルシウムイオンとアルミニウムイオンを溶出し、これらと無機硫酸塩から溶出される硫酸イオンとを反応させて、針状結晶のエトリンガイト(3CaO・Al
2O
3・3CaSO
4・32H
2O)あるいはモノサルフェイト(3CaO・Al
2O
3・CaSO
4・12H
2O)などの水和物を生成させることによって、その速硬性モルタル組成物の初期強度発現性を向上させる作用を有する。カルシウムアルミネートからのカルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が小さくなりすぎると、硫酸イオンとの反応性が悪くなり、速硬性モルタル組成物の初期強度発現性が低下するおそれがある。一方、カルシウムアルミネートからのカルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が大きくなりすぎると、硫酸イオンとの反応性が高くなり、速硬性モルタル組成物の凝結始発時間が速くなりすぎて、凝結調整剤を使用しても凝結始発時間を調整しにくく、可使時間を十分に確保することが困難となるおそれがある。
このため、本実施形態では、カルシウムアルミネートの平均粒子径(平均一次粒子径)を8μm以上100μm以下の範囲に設定している。カルシウムアルミネートの平均粒子径を8μm未満であると、カルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が大きくなりすぎて、速硬性モルタル組成物の凝結始発時間を調整しにくくなるおそれがある。一方、カルシウムアルミネートの平均粒子径が100μmを超えるとカルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が小さくなりすぎて、速硬性モルタル組成物の初期強度発現が低下するおそれがある。
【0030】
速硬性モルタル組成物中に含まれるカルシウムアルミネートの平均粒子径は、例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)とEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)とを用いて測定することができる。すなわち、速硬性混和材のSEM画像とEPMAによる元素分析によって検出された元素の結果から、速硬性混和材に含まれているカルシウムアルミネートの粒子を特定し、カルシウムアルミネートとして特定された粒子について、粒子径をSEM画像から計測し、その平均値を求めることによって測定することができる。EPMAによる元素分析によりカルシウムとアルミニウムのみが検出された粒子は、カルシウムアルミネートの粒子として特定できる。
【0031】
カルシウムアルミネートとしては、12CaO・7Al
2O
3、11CaO・7Al
2O
3・CaF
2及びCaO・Al
2O
3からなる群より選択される一つ以上の組成を有し、ガラス化率が80%以上であるものを使用することが好ましい。ガラス化率は、80%以上98%以下であることがより好ましく、90%以上98%以下であることが特に好ましい。上記の組成とガラス化率とを有するカルシウムアルミネートは水と接したときにカルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が大きく、反応性が高くなるので、速硬性モルタル組成物の初期強度発現性を確実に向上させることが可能となる。
【0032】
また、カルシウムアルミネートは、ブレーン比表面積が3000cm
2/g以上5500cm
2/g以下であることが好ましい。ブレーン比表面積が3000cm
2/g以上であることにより、カルシウムアルミネートが水と接したときに、カルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が大きくなり、無機硫酸塩から溶出する硫酸イオンとの反応性が高まるので、速硬性モルタル組成物の初期強度発現性をより確実に向上させることが可能となる。一方、ブレーン比表面積が5500cm
2/g以下であるので、カルシウムアルミネートが水と接したときに、カルシウムイオンとアルミニウムイオンの溶出速度が過度に大きくなることが避けられ、硫酸イオンとの反応性が高くなりすぎることが抑えられる。なお、ブレーン比表面積が5500cm
2/g以上になっても、速硬性モルタル組成物の初期強度は、横ばいとなるため、粉砕に要するエネルギーを過度に使用するため経済的に好ましくない。なお、ブレーン比表面積は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に記載のブレーン空気透過装置を用いた比表面積試験で測定するものとする。
【0033】
速硬性混和材に含まれる無機硫酸塩は、速硬性モルタル組成物の使用時において、水と接すると硫酸イオンを溶出し、これとカルシウムアルミネートから溶出するカルシウムイオン、アルミニウムイオンとを反応させて、針状結晶のエトリンガイトあるいはモノサルフェイトなどの水和を生成することによって、速硬性モルタル組成物の初期強度発現性を向上させる作用を有する。
【0034】
無機硫酸塩からの硫酸イオンの溶出速度が遅いと、カルシウムアルミネートから溶出するカルシウムイオン、アルミニウムイオンとの反応性が悪くなり、凝結開始から硬化するまでの時間が長くなり、速硬性モルタル組成物の初期強度発現性が悪くなる。このため、無機硫酸塩は、ブレーン比表面積が8000cm
2/g以上であることが好ましい。上記のブレーン比表面積を有する無機硫酸塩は、硫酸イオンの溶出速度が大きく、カルシウムアルミネートから溶出するカルシウムイオン、アルミニウムイオンとの反応性が高いので、速硬性モルタル組成物の初期強度発現性を確実に向上させることが可能となる。また、無機硫酸塩のブレーン比表面積は12000cm
2/g以下であることが好ましい。ブレーン比表面積が大きくなりすぎると、硫酸イオンの溶出速度が大きくなり過ぎて、カルシウムイオンとアルミニウムイオンとの反応性が過度に高くなるので、凝結開始から硬化するまでの時間が短くなり、凝結調整剤を使用しても可使時間を十分に確保することが困難となるおそれがある。また、水に難溶性の無機硫酸塩の微細な粒子を含むため、所要の流動性を得るために必要な水量が多くなり、速硬性モルタル組成物の硬化体の強度の低下を招くおそれがある。
【0035】
無機硫酸塩は、無水石膏であることが好ましく、特にII型無水石膏であることが好ましい。無水石膏(特にII型無水石膏)は、カルシウムアルミネートとの反応性が高いので、速硬性モルタル組成物の初期強度発現性をより確実に向上させることが可能となる。
【0036】
速硬性混和材に含まれる凝結調整剤は、速硬性モルタル組成物の使用時において、速硬性モルタル組成物に水を加えてから速硬性モルタル組成物の凝結が開始するまでの時間を調整する作用、すなわちモルタルの硬化時間を遅延させる作用を有する。凝結調整剤によって、モルタルの硬化時間が遅延されることによって、速硬性モルタル組成物に水を加えてからモルタルの硬化反応が進行するまでの間の速硬性モルタル組成物の流動性が向上する。
凝結調整剤によるモルタルの硬化時間の遅延作用は、凝結調整剤が水に溶解し、速硬性混和材(カルシウムアルミネート)から溶出したカルシウムイオンやアルミニウムイオンとキレート反応して、速硬性混和材の表面に皮膜を形成することによって、速硬性混和材からのカルシウムイオンやアルミニウムイオンの溶出が一時的に抑制されることにより発現すると考えられる。ただし、速硬性混和材の表面に形成される皮膜は、極めて薄いため、比較的短時間で溶解して消失する。そして、この被膜が消失した後は、速硬性混和材からのカルシウムイオン、アルミニウムイオンの再溶出が始まって、モルタルの硬化反応が進行する。
本実施形態では、速硬性混和材に含まれる凝凝結調整剤は、平均粒子径(平均一次粒子径)が5μm以下の微粒子とされている。このため、比較的に広い温度範囲において、凝結調整剤を水に速やかに溶解させることができる。凝結調整剤の平均粒子径は1μm以上であることが好ましい。平均粒子径が1μm未満であると、凝集粒子を形成し易くなるおそれがある。
【0037】
凝結調整剤は、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムのうちの1つ以上を含む。これらの薬剤は水に溶解しやすいので、凝結調整剤がこれらの薬剤を1つ以上含むことによって、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮され、環境温度による速硬性モルタル組成物の凝結始発時間の変動を確実に小さくすることができる。また、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、凝結始発時間がより安定して長くなるとともに、水を加えた後の流動性がより高くなる。
無機炭酸塩は、アルカリ金属の炭酸塩あるいは炭酸水素塩であることが好ましい。無機炭酸塩の例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸アンモニウムが挙げられる。これらの無機炭酸塩は、1つを単独で使用してもよいし、2つ以上を組合せて使用してもよい。オキシカルボン酸の例としては酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、マレイン酸を挙げられる。これらのオキシカルボン酸は、1つを単独で使用してもよいし、2つ以上を組合せて使用してもよい。
凝結調整剤は、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムのうちの2つ以上を組合せて使用することが好ましい。2つ以上の組合せは、無機炭酸塩、オキシカルボン酸およびアルミン酸ナトリウムの3つの組合せが好ましく、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムの4つの組合せがより好ましい。なお、凝凝結調整剤を2つ以上の組合せとする場合は、少なくとも一つの凝結調整剤の平均粒子径が5μm以下の微粒子とされていればよい。
【0038】
上記の凝結調整剤の中で、硫酸ナトリウムは、水に対する溶解速度が特に速い。このため、硫酸ナトリウムは、水を加えた後の速硬性モルタル組成物の流動性を向上させる効果が高い。また、硫酸ナトリウムは、広い温度範囲で水に溶解し易いので、水を加えた後の速硬性モルタル組成物の凝結始発時間に対する温度依存性を小さくする効果もある。
【0039】
凝結調整剤の微粒子は、一次粒子もしくはそれに近い凝集粒子として速硬性混和材中に分散していることが好ましい。凝結調整剤が一次粒子もしくはそれに近い凝集粒子として分散していると、水への溶解速度が向上して、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、環境温度による凝結始発時間の変動を確実に小さくできる。また、微細な凝結調整剤の粒子は、カルシウムアルミネートの表面に付着していることが好ましい。この場合は、凝結調整剤がカルシウムアルミネートよりも先に水と接触するので溶解し易くなり、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、環境温度による凝結始発時間の変動をさらに確実に小さくできる。
【0040】
速硬性混和材に含まれる凝結調整剤の平均粒子径は、例えば、SEMとEPMAとを用いて測定することができる。すなわち、速硬性混和材のSEM画像とEPMAによる元素分析によって検出された元素の結果から、速硬性混和材に含まれている凝結調整剤の粒子を特定し、凝結調整剤として特定された粒子について、粒子径をSEM画像から計測し、その平均値を求めることによって測定することができる。例えば、EPMAによる元素分析によりナトリウムのみが検出された粒子は、炭酸ナトリウム(無機炭酸塩)の粒子として特定できる。
【0041】
本実施形態では、速硬性混和材に含まれるカルシウムアルミネートと無機硫酸塩と凝結調整剤の配合量は、カルシウムアルミネート100質量部に対して、無機硫酸塩は50質量部以上200質量部以下の範囲、凝結調整剤は0.1質量部以上10質量部以下の範囲と設定されている。
無機硫酸塩の配合量が少なくなりすぎると、無機硫酸塩とカルシウムアルミネート水和物との反応生成物(エトリンガイト、モノサルフェイト)の生成量が少なくなり、速硬性モルタル組成物の初期強度発現性が低下するおそれがある。一方、無機硫酸塩の配合量が多くなりすぎると、速硬性モルタル組成物の凝結始発時間が速くなり、可使時間を十分に確保することが困難となるおそれがある。また、カルシウムアルミネートから溶出するカルシウムイオン量とアルミニウムイオン量が、硫酸イオンに対して相対的に少なくなることによって、エトリンガイトの生成量が少なくなるため、速硬性モルタル組成物の初期強度発現性が低下するおそれがある。さらに、残存する無機硫酸塩の影響によって硬化後の膨張量が過剰となり、膨張破壊を起こすおそれがある。
また、凝結調整剤の配合量が少なくなりすぎると、凝結調整剤の作用が短時間で終了して速硬性モルタル組成物の凝結始発時間が速くなり、可使時間を十分に確保することが困難となるおそれがある。一方、凝結調整剤の配合量が多くなりすぎると、凝結調整剤の作用が所定の時間以上継続し、速硬性モルタル組成物の初期強度発現性が低下するおそれがある。
【0042】
速硬性混和材は、例えば、カルシウムアルミネートを含むクリンカーと凝結調整剤とを混合粉砕して混合粉砕物を調製する混合粉砕工程と、得られた混合粉砕物と、無機硫酸塩とを混合する混合工程とを備える方法によって製造することができる。
【0043】
上記の速硬性混和材の製造方法において、カルシウムアルミネートの原料として用いるクリンカーは、凝結調整剤と比較して硬度が高い。このため、このカルシウムアルミネートのクリンカーと凝結調整剤とを混合粉砕することによって、凝結調整剤が選択的に微粒子となり、微細な凝結調整剤の粒子が生成する。この凝結調整剤の微粒子は、相対的に粗大なカルシウムアルミネート粒子の表面に付着しやすい。従って、混合粉砕工程では、凝結調整剤の微粒子が一次粒子もしくはそれに近い凝集粒子として、カルシウムアルミネートの表面に付着した状態で分散されている混合粉砕物を得ることができる。混合粉砕装置としては、E型ミル、竪型ミル、チューブミル等の粉砕装置を用いることができるが、これに限定されるものではなく、クリンカーの粉砕装置として通常用いられている各種の粉砕装置を用いることができる。
【0044】
カルシウムアルミネートを含むクリンカーは、クリンカー鉱物であることが好ましい。
粉砕前のカルシウムアルミネートのクリンカーは、平均粒子径が1mm以上30mm以下の範囲にあることが好ましい。また、粉砕前の凝結調整剤は、粒子径が150μm以上500μm以下の範囲にあることが好ましい。
【0045】
混合粉砕工程では、混合粉砕を、混合粉砕物のブレーン比表面積が3000cm
2/g以上5500cm
2/g以下の範囲となるまで行うことが好ましく、3000cm
2/g以上4500cm
2/g以下の範囲になるまで行うことが特に好ましい。ブレーン比表面積が上記の範囲となるまで混合粉砕を行うことによって、カルシウムアルミネートを含むクリンカーと凝結調整剤とが十分に混合粉砕され、凝結調整剤の微粒子が一次粒子もしくはそれに近い凝集粒子として、カルシウムアルミネートの表面に付着した状態で分散されている混合粉砕物を確実に得ることができる。また、混合粉砕物中のカルシウムアルミネートの平均粒子径は、通常、8μm以上100μm以下の範囲に、凝結調整剤の平均粒子径は、通常、5μm以下となる。
【0046】
混合工程において、混合粉砕工程にて得られた混合粉砕物と混合する無機硫酸塩は、ブレーン比表面積が8000cm
2/g以上の無水石膏であることが好ましい。
混合工程において、混合粉砕物と無機硫酸塩との混合は乾式混合により行われる。乾式混合装置としては、V型混合機、リボンミキサー、プロ−シェアミキサー等の混合機を用いることができるが、これに限定されるものではなく、セメント材料の混合装置として通常用いられている各種の混合装置を用いることができる。混合時間は、混合装置の容量や各材料の配合量に合せて適宜調整することができる。
【0047】
(セメント)
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等を用いることができる。セメントは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。セメントはポルトランドセメント、特に普通ポルトランドセメントを用いることが好ましい。
【0048】
セメントの配合量は、一般に、速硬性混和材100質量部に対して、セメントを100質量部以上2000質量部以下の範囲である。セメントの配合量が上記の範囲にあると、速硬性混和材による初期強度の発現性とセメントによる長期強度の発現性とに優れた速硬性モルタル組成物を得ることができる。
【0049】
(細骨材)
細骨材は、速硬性モルタル組成物の硬化に伴う硬化体の収縮(自己収縮)や、硬化後の水分の逸散に伴う収縮(乾燥収縮)を抑える作用がある。細骨材は、砂であることが好ましく、粒子径が150〜3000μmの砂であることがより好ましく、200〜1500μmの砂であることが更に好ましい。また、粒子径が90〜1000μmの砂であってもよく、更に90〜200μmの砂であってもよい。砂の粒子径が小さくなりすぎると、速硬性モルタル組成物と水とを混合して調製したモルタルあるいはセメントミルクの撹拌性能及び硬化体の耐摩耗性が低下するとともにすべり抵抗性が低下するおそれがある。一方、砂の粒子径が大きくなりすぎると、モルタルあるいはセメントミルク中に砂が沈降し易くなるとともに、モルタルあるいはセメントミルクのコンクリート構造物への付着性や舗装体への注入性が低下するおそれがある。
【0050】
細骨材の配合量は、例えば、断面補修材として利用する場合、速硬性混和材100質量部に対する量として、200質量部以上1000質量部以下の範囲である。細骨材の配合量が少なくなりすぎると、硬化体の収縮低減効果が十分に得られないばかりでなく、モルタルの撹拌性能及び耐摩耗性が低下するとともにすべり抵抗性が低下するおそれがある。一方、細骨材の配合量が多くなりすぎると、初期強度発現性が低下するとともに材料分離が発生してブリーディングが発生しやすくなるおそれがある。一方、舗装用注入材として利用する場合、硬性モルタル組成物の全体量に対して10質量%以上67質量%以下の範囲となる量である。細骨材の配合量が少なくなりすぎると、硬化体の収縮低減効果が十分に得られないばかりでなく、セメントミルクの撹拌性能及び耐摩耗性が低下するとともにすべり抵抗性が低下するおそれがある。一方、細骨材の配合量が多くなりすぎると、初期強度の発現性が低下するとともに材料分離が発生してブリーディングが発生しやすくなるおそれがある。
【0051】
(凝結調整剤)
本実施形態の速硬性モルタル組成物では、上述のとおり、速硬性混和材の構成成分として凝結調整剤が平均粒子径5μm以下の微粒子として含まれているが、速硬性モルタル組成物の全体量に対する凝結調整剤の含有量が0.01質量%以上5質量%以下の範囲となるように、さらに、凝結調整剤が添加されていてもよい。ここで、速硬性モルタル組成物の全体量に対する凝結調整剤の含有量は、速硬性混和材中に含まれている凝結調整剤と、速硬性混和材とは別に添加された凝結調整剤との合計量である。この場合は、速硬性混和材中に含まれている凝結調整剤と、速硬性混和材とは別に添加された凝結調整剤とによって凝結時間を調整できるので、環境温度および長期間の保存による速硬性モルタル組成物の凝結始発時間の変動をさらに確実に小さくすることができる。また、凝結調整剤を別に添加することによって、速硬性モルタル組成物の凝結始発時間を所要の時間に調整することができる。また、本実施形態の速硬性モルタル組成物では、速硬性混和材中に含まれている凝結調整剤は微粒子で水に溶解しやすく、通常は可使時間を十分に確保できるので、別に添加する凝結調整剤の量は少なくできる。
速硬性モルタル組成物の全体量に対する凝結調整剤の含有量が0.01質量%未満であると、凝結時間を調整する作用が不十分となるおそれがある。一方、速硬性モルタル組成物の全体量に対する凝結調整剤の含有量が5質量%を超えると、モルタルによる長期強度の発現性が低下するおそれがある。
【0052】
速硬性混和材とは別に添加する凝結調整剤は、単独で速硬性モルタル組成物に添加してもよいが、無機粉末と凝結調整剤を予め混合した混合物として添加することが好ましい。無機粉末と凝結調整剤の混合物は、無機粉末100質量部に対して凝結調整剤を50質量部以上300質量部以下の範囲で含有する凝結調整剤高濃度含有混合物であることが好ましい。凝結調整剤を凝結調整剤高濃度含有混合物として速硬性モルタル組成物に添加することによって、凝結調整剤を速硬性モルタル組成物中に均一に分散させ易くなる。無機粉末としては、セメント(特に、ポルトランドセメント)、石灰石粉末、珪石粉末、高炉スラグ粉末、石炭灰、フライアッシュ、粘土鉱物、カルシウムアルミネート粉末、無機硫酸塩粉末を用いることができる。無機粉末は、ブレーン比表面積が2500cm
2/g以上5000cm
2/g以下の範囲にある微粉末であることが好ましい。ブレーン比表面積が、上記の範囲にある無機粉末は分散性が高いため、この無機粉末を用いた凝結調整剤高濃度含有混合物は、速硬性モルタル組成物に均一に分散させ易くなる。凝結調整剤高濃度含有混合物に含まれている凝結調整剤の粒子径は、1μm以上500μm以下の範囲にあることが好ましい。粒子径が上記の範囲にある凝結調整剤は、無機粉末への分散性が高く、組成が均一な凝結調整剤高濃度含有混合物を調製しやすくなる。
【0053】
(短繊維)
短繊維は補強材として作用する。このため、短繊維を含む速硬性モルタル組成物を硬化させた硬化体はひび割れ抵抗性が向上して、疲労に対する耐久性が優れたものとなる。
短繊維としては、有機短繊維および炭素短繊維を用いることができる。有機短繊維の例としては、PVA短繊維(ポリビニルアルコール短繊維)、ポリアミド短繊維、アラミド短繊維、ポリプロピレン短繊維、レーヨン短繊維等が挙げられる。これらの短繊維は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
短繊維は、繊維長が1mm以上10mm以下の範囲にあることが好ましい。1mmより短いと十分な繊維補強効果が得られないおそれがある。一方、10mmを超えると繊維の抵抗により流動性が損なわれ、狭隘部や半たわみ性舗装への注入性が低下する等、施工性が阻害されるおそれがある。繊維径は、通常、5μm以上100μm以下の範囲である。
【0054】
短繊維の配合量は、一般に、速硬性モルタル組成物の全体量に対する量として、0.1質量%以上0.3質量%以下の範囲である。短繊維の配合量が少なくなりすぎると、硬化体のひび割れ抵抗性が向上して、疲労に対する耐久性を向上させる作用が不十分となるおそれがある。一方、短繊維の配合量が多くなりすぎると、速硬性モルタル組成物と水の混合物の流動性が低下するおそれがある。
【0055】
(再乳化粉末樹脂)
再乳化粉末樹脂は吸水性および透水性が低い樹脂であり、速硬性モルタル組成物を硬化させた硬化体に対して水を浸透しにくくする作用がある。また、再乳化粉末樹脂は、コンクリート構造物に対する速硬性モルタル組成物の付着力を向上させる作用がある。このため、再乳化粉末樹脂を含む速硬性モルタル組成物は、水に浸漬させた後の凍結融解抵抗性に優れ、コンクリート構造物に対する付着力が向上する。
再乳化粉末樹脂の例としては、酢酸ビニル/ベオバ/アクリル酸エステル共重合樹脂、酢酸ビニル共重合樹脂、酢酸ビニル/エチレン共重合、酢酸ビニル/アクリル共重合樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。これらの再乳化粉末樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0056】
再乳化粉末樹脂の配合量は、一般に、速硬性モルタル組成物の全体量に対する量として、0.5質量%以上30質量%以下の範囲である。再乳化粉末樹脂の配合量が少なくなりすぎると、速硬性モルタル組成物の硬化体の凍結融解抵抗性を向上させる作用やが不十分となるおそれがある。一方、再乳化粉末樹脂の配合量が多くなりすぎると、速硬性モルタル組成物と水の混合物の流動性が低下するおそれがある。
【0057】
(シリカフューム)
シリカフュームはポラゾン作用を有する。このため、シリカフュームを含む速硬性モルタル組成物は長期強度発現性が向上し、さらにこれを硬化させた硬化体は緻密化して、総細孔量が小さくなり、中性化の進行や塩化物イオンの拡散の進行が抑制される。
【0058】
シリカフュームの配合量は、速硬性モルタル組成物の全体量に対する量として、0.5質量%以上30質量%以下の範囲であることが好ましい。シリカフュームの配合量が少なくなりすぎると、ポゾラン反応による長期強度発現性や、速硬性モルタル組成物の硬化体組織の緻密化に拠る中性化抑制効果や塩化物イオンの浸透を抑制する効果が十分ではなくなるおそれがある。一方、シリカフュームの配合量が多くなりすぎると、速硬性モルタル組成物中の速硬性混和材の分量が相対的に少なくなり、初期強度発現性が悪くなるおそれがある。
【0059】
(合成ポリマー系増粘保水剤)
合成ポリマー系増粘保水剤は、水と接すると微細な気泡を発生する作用がある。このため、合成ポリマー系増粘保水剤を含む速硬性モルタル組成物を硬化させた硬化体は、疑似的にエントレインドエアが導入されて、凍結融解抵抗性が向上する。
【0060】
合成ポリマー系増粘保水剤の配合量は、速硬性モルタル組成物の全体量に対する量として、0.1質量%以上0.3質量%以下の範囲であることが好ましい。合成ポリマー系増粘保水剤の配合量が少なくなりすぎると、速硬性モルタル組成物の硬化体の凍結融解抵抗性を向上させる作用が不十分となるおそれがある。一方、合成ポリマー系増粘保水剤の配合量が多くなりすぎると、速硬性モルタル組成物と水の混合物の流動性が低下するばかりでなく、過剰な気泡が入り強度を低下させるおそれがある。
【0061】
(防凍剤)
酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、亜硝酸カルシウムは水と反応して発熱して、水が凍結するような極低温の温度環境下において、速硬性モルタル組成物と水の混合物の凍結を防止する防凍剤として作用する。このため、防凍剤を含む速硬性モルタル組成物は、極低温の温度環境下においても、水と混練した速硬性モルタル組成物の凍結を抑制することができ、初期強度発現性が高くなる。
防凍剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0062】
防凍剤の配合量は、一般に、速硬性モルタル組成物の全体量に対する量として、1質量%以上10質量%以下の範囲である。防凍剤の配合量が少なくなりすぎると、防凍剤としての作用が不十分となり、速硬性モルタル組成物が凍結してしまい強度が全く出なくなるおそれがある。一方、防凍剤の配合量が多くなりすぎると、速硬性モルタル組成物と水の混合物において塩析作用が生じ、流動性が低下するおそれがある。
【0063】
以上のような構成とされた本実施形態の速硬性モルタル組成物において用いる速硬性混和材は、カルシウムアルミネートの平均粒子径が8μm以上100μm以下の範囲とされ、凝結調整剤の平均粒子径が5μm以下とされていて、凝結調整剤がカルシウムアルミネートと比較して、微細であるため水に溶解しやすい。このため、本実施形態の速硬性モルタル組成物に水を加えると、広い温度範囲において安定して凝結調整剤が水に速やかに溶解して、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、環境温度による凝結始発時間の変動が小さくなる。また、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、凝結始発時間が安定して長くなり、水を加えた後の流動性が高くなる。さらに、凝結調整剤による凝結調整作用が終了した後は、カルシウムアルミネートと無機硫酸塩とによるセメントの硬化促進作用が発揮されるので、速硬性モルタル組成物の初期強度発現性を向上させることができる。さらにまた、凝結調整剤は微細な粒子として、速硬性モルタル組成物中に分散されているので、本発明の速硬性モルタル組成物は、長期間保存しても、凝結調整剤が偏析して、凝結調整剤の含有量が不均一となることが起こりにくい。このため、長期間保存しても凝結始発時間の変動が小さく、かつ初期強度発現性に優れたものとなる。
【0064】
上記のように、本実施形態の速硬性モルタル組成物は、環境温度による凝結開始時間の変動が小さく、初期強度発現性に優れるので、左官工法、吹付け工法、充填工法、プレパックト工法などの工法により施工されるコンクリート構造物の補修工事で使用されるモルタルの原料(断面修復材)として好適に使用することができる。また、主として屋外で使用されるPC舗装やRC舗装で使用される裏込めグラウト材および半たわみ性舗装で使用されるセメントミルク等の原料(舗装用注入材)として好適に使用することができる。特に、本実施形態の速硬性モルタル組成物は、初期発生強度が高いので、例えば、2時間で交通開放できる実用強度を有する舗装を形成することができる。
【0065】
本実施形態の速硬性モルタル組成物においては、速硬性混和材100質量部に対して、細骨材を200質量部以上1000質量部以下の範囲にて含有している場合は、初期強度発現性に優れたものとなると共に、速硬性モルタル組成物の硬化に伴う硬化体の収縮や、硬化後の水分の逸散に伴う収縮が抑えられる。このため、硬化体のひび割れの発生を抑制することができ、硬化体の強度が高くなる。従って、この速硬性モルタル組成物は、断面修復材として特に有用である。
【0066】
一方、本実施形態の速硬性モルタル組成物においては、細骨材を、速硬性舗装用注入材の全体量に対して10質量%以上67質量%以下の範囲にて含有していてもよい場合は、初期強度発現性に優れたものとなると共に、水を加えた特の細骨材の流動性が向上する。このため、半たわみ性舗装における開粒度アスファルト混合物の空隙のように微細な空間内に対しても、細骨材が媒体となるので、良好に充填することができる。
【0067】
また、本実施形態の速硬性モルタル組成物は、凝結調整剤が、無機炭酸塩、オキシカルボン酸、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムのうちの1つ以上を含むので、環境温度による速硬性モルタル組成物の凝結始発時間の変動を確実に小さくすることができる。また、凝結調整剤による凝結調整作用が早期に発揮されるので、凝結始発時間がより安定して長くなるとともに、水を加えた後の流動性がより高くなる。硫酸ナトリウムは、水に対する溶解速度が特に速いため、水を加えた後の速硬性モルタル組成物の流動性を向上させる効果が高い。
【0068】
また、短繊維を含む速硬性モルタル組成物の硬化体は、ひび割れ抵抗性や強度が向上して、疲労に対する耐久性に優れたものとなる。このため、この短繊維含有速硬性モルタル組成物は、コンクリート床版や橋梁の桁のように繰返し疲労荷重が作用するような部位の断面修復用として好適に使用できる。また、大きな負荷がかかる空港の滑走路のPC舗装やRC舗装で使用される裏込めグラウト材の材料として好適に使用できる。
【0069】
また、再乳化粉末樹脂を含む速硬性モルタル組成物は、水に浸漬させた後の凍結融解抵抗性に優れ、コンクリート構造物に対する付着力が向上する。このため、再乳化粉末樹脂含有速硬性断面修復材は、各種のコンクリート構造物、例えば桟橋、橋梁、トンネル、コンクリート舗装の断面修復用として好適に使用できる。また、寒冷地での舗装用注入材として好適に使用できる。
【0070】
また、シリカフュームを含む速硬性モルタル組成物の硬化体は、中性化の進行や塩化物イオンの拡散の進行が抑制される。このため、シリカフューム含有速硬性モルタル組成物は、塩害によって損傷したコンクリート構造物の修復用として好適に使用できる。
【0071】
また、合成ポリマー系増粘保水剤を含む速硬性モルタル組成物の硬化体は、凍結融解抵抗性が向上する。このため、合成ポリマー系増粘保水剤含有速硬性断面修復材は、寒冷地でのコンクリート構造物の修復用として好適に使用できる。
【0072】
また、防凍剤を含む速硬性モルタル組成物は、極低温の温度環境下においても、初期強度発現性が高い硬化体を得ることができる。このため、この防凍剤を含有速硬性モルタル組成物は、寒冷地での舗装用注入材として好適に使用できる。
【0073】
以上、本発明の実施形態である速硬性モルタル組成物について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、速硬性モルタル組成物は、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、防水剤、起泡剤、発泡剤、消泡剤、鉄筋コンクリート用防錆剤、水中不分離性混和剤、保水剤、乾燥収縮低減剤、分離低減剤(増粘剤)、防凍・耐寒剤などを含んでいてもよい。
【実施例】
【0074】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0075】
[使用材料]
本実施例および比較例にて使用した使用材料の種類、組成及び略号を、下記の表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
[速硬性混和材(SA−1)の調製]
カルシウムアルミネートクリンカー(CA−CL)を100質量部、凝結調整剤として、炭酸ナトリウム(Na−3)を1.0質量部、アルミン酸ナトリウム(Al−3)を0.5質量部、酒石酸(Ta−3)を0.5質量部となる割合にて、混合粉砕機に投入し、ブレーン比表面積が4500cm
2/gになるまで混合粉砕した。得られた混合粉砕物に含まれているカルシウムアルミネートの平均粒子径は15μmであり、炭酸ナトリウムの平均粒子径は3.0μmであった。炭酸ナトリウムの平均粒子径は、下記の方法を用いて測定した。
【0078】
(炭酸ナトリウムの平均粒子径の測定方法)
先ず、初めに、得られた混合粉砕物の粒子形状を、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察した。
図1に、混合粉砕物のSEM画像を示す。
図1の(A)は装置倍率1000倍のSEM画像で、(B)は装置倍率3000倍のSEM画像である。
次に、EPMA(電子プローブマイクロアナライザー)を用いてSEM画像に写された粒子の元素分析を行った。
図2にその結果を示す。
図2の(A)は、
図1(B)の丸で囲まれた領域を拡大したSEM画像であり、(B)は、そのSEM画像に写された粒子を、EPMAを用いて元素分析して得た元素のマッピング画像である。
図2の(B)において、白色部分はナトリウムを表す。この
図2の(A)のSEM画像と(B)のマッピング画像から、炭酸ナトリウムの粒子を特定し、その炭酸ナトリウムとして特定された粒子の最長径を
図1(B)のSEM画像を用いて計測した。この操作を繰り返して、100個の炭酸ナトリウムの粒子径を計測し、その平均値を算出した。
【0079】
上記のようにして得られた混合粉砕物100質量部に対して、無機硫酸塩として無水石膏(CS)を120質量部の割合で混合機に投入して、混合した。得られた混合物を速硬性混和材(SA−1)とした。
【0080】
[速硬性混和材(SA−2)の調製]
カルシウムアルミネートクリンカー(CA−CL)を混合粉砕機に投入し、ブレーン比表面積が4500cm
2/gになるまで粉砕して、カルシウムアルミネート粉末を得た。得られたカルシウムアルミネート粉末100質量部に対して、無水石膏(CS)を120質量部の割合にて混合機に投入して、混合した。得られた混合物を速硬性混和材(SA−2)とした。
【0081】
[速硬性混和材(SA−3)の調製]
カルシウムアルミネートクリンカー(CA−CL)を100質量部、凝結調整剤として、炭酸ナトリウム(Na−3)を1.0質量部、アルミン酸ナトリウム(Al−3)を0.5質量部、酒石酸(Ta−3)を0.5質量部、硫酸ナトリウム(NS−3)を1.0質量部となる割合にて、混合粉砕機に投入し、ブレーン比表面積が4560cm
2/gになるまで混合粉砕した。得られた混合粉砕物に含まれているカルシウムアルミネートの平均粒子径は14.2μmであり、炭酸ナトリウムの平均粒子径は2.8μmであった。
【0082】
上記のようにして得られた粉砕混合物100質量部に対して、無水石膏(CS)を120質量部の割合で混合機に投入して、混合した。得られた混合物を速硬性混和材(SA−3)とした。
【0083】
[凝結調整剤高濃度含有混合物(Set−1)の調製]
炭酸ナトリウム(Na−1)、炭酸ナトリウム(Na−2)、炭酸ナトリウム(Na−3)、アルミン酸ナトリウム(Al−1)、アルミン酸ナトリウム(Al−2)、アルミン酸ナトリウム(Al−3)、酒石酸(Ta−1)、酒石酸(Ta−2)、酒石酸(Ta−3)、そして無機粉末として普通ポルトランドセメントNを、質量比で3:6:3:1:2:1:1:2:1:20(=Na−1:Na−2:Na−3:Al−1:Al−2:Al−3:Ta−1:Ta−2:Ta−3:N)の割合にて混合機に投入して、乾式混合した。得られた混合物を凝結調整剤高濃度含有混合物(Set−1)とした。
【0084】
[凝結調整剤混合物(Set−2)の調製]
炭酸ナトリウム(Na−1)、炭酸ナトリウム(Na−2)、炭酸ナトリウム(Na−3)、アルミン酸ナトリウム(Al−1)、アルミン酸ナトリウム(Al−2)、アルミン酸ナトリウム(Al−3)、酒石酸(Ta−1)、酒石酸(Ta−2)、そして酒石酸(Ta−3)を、質量比で3:6:3:1:2:1:1:2:1(=Na−1:Na−2:Na−3:Al−1:Al−2:Al−3:Ta−1:Ta−2:Ta−3)の割合にて混合機に投入して、乾式混合した。得られた混合物を凝結調整剤混合物(Set−2)とした。
【0085】
[凝結調整剤高濃度含有混合物(Set−3)の調製]
炭酸ナトリウム(Na−1)、炭酸ナトリウム(Na−2)、炭酸ナトリウム(Na−3)、アルミン酸ナトリウム(Al−1)、アルミン酸ナトリウム(Al−2)、アルミン酸ナトリウム(Al−3)、酒石酸(Ta−1)、酒石酸(Ta−2)、酒石酸(Ta−3)、硫酸ナトリウム(NS−3)そして無機粉末として普通ポルトランドセメント(N)を、質量比で3:6:3:1:2:1:1:2:1:12:32(=Na−1:Na−2:Na−3:Al−1:Al−2:Al−3:Ta−1:Ta−2:Ta−3:NS−3:N)の割合にて混合機に投入して、乾式混合した。得られた混合物を凝結調整剤高濃度含有混合物(Set−3)とした。
【0086】
[実施例1、2および比較例1]
速硬性混和材(SA−1、SA−2、SA−3)、普通ポルトランドセメント(N)、凝結調整剤高濃度含有混合物(Set−1、Set−3)、凝結調整剤混合物(Set−2)、細骨材(S3−6)、減水材(MX)および消泡剤(14HP)を下記の表2に示す割合(質量部)にて混合機に投入し、乾式混合して、速硬性モルタル組成物(充填工法用速硬性断面修復材)を製造した。
【0087】
【表2】
【0088】
得られた速硬性モルタル組成物100質量部に水を15質量部加え、強制練りコンクリートミキサーで2分間練り混ぜてモルタルを調製した。調製したモルタルを用いて、JIS静置フロー、凝結時間、圧縮強度の各物性を測定した。
JIS静置フローは、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠して、テーブルフローによる落下運動を加えずにフロー値を測定した。
凝結開始時間は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠して測定した。
圧縮強度は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠して測定した。
【0089】
速硬性モルタル組成物の温度特性を確認するために、JIS静置フロー、凝結時間、圧縮強度の各物性の測定を5℃、20℃、35℃の環境温度下で行った。その結果を表3に示す。
また、速硬性モルタル組成物の保存特性を確認するために、速硬性モルタル組成物をビニール袋(容量:12L)に梱包し、ビニール袋の角部の4カ所にピンホール(孔径:0.5mm)を開け、温度30℃、湿度80%RHの室内に、3ヶ月、6ヶ月それぞれ保存した。そして、保存後の速硬性モルタル組成物について、モルタルを調製し、JIS静置フロー、凝結時間、圧縮強度の各物性を測定した。このときの各物性の測定は20℃の環境温度下で行った。その結果を表4に示す。
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
表3の結果から、実施例1、2の速硬性モルタル組成物は、比較例1の速硬性モルタル組成物と比較して、環境温度によるJIS静置フロー、凝結時間、圧縮強度の変動が小さく、温度安定性に優れていることが確認された。特に、硫酸ナトリウムを含む実施例2の速硬性モルタル組成物は、JIS静置フローが大きく、流動性が優れていることが確認された。
また、表4の結果から、実施例1、2の速硬性モルタル組成物は、比較例1の速硬性モルタル組成物と比較して、保存によるJIS静置フロー、凝結時間、圧縮強度の変動が小さく、保存安定性に優れていることが確認された。
【0093】
[実施例3、4および比較例2]
速硬性混和材(SA−1、SA−2、SA−3)、早強ポルトランドセメント(H)、凝結調整剤高濃度含有混合物(Set−1、Set−3)、凝結調整剤混合物(Set−2)、細骨材(S3−6)および消泡剤(14HP)を下記の表5に記載の質量部にて、混合機に投入し、乾式混合して、速硬性モルタル組成物(吹付工法用速硬性断面修復材)を製造した。
【0094】
【表5】
【0095】
得られた速硬性モルタル組成物100質量部に水を13質量部加え、強制練りコンクリートミキサーで2分間練り混ぜてモルタルを調製した。調製したモルタルを用いて、JIS15打フロー、凝結時間、圧縮強度の各物性を測定した。
JIS15打フローは、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠して、テーブルフローによる落下運動を15回加えたときのフロー値を測定した。
凝結時間および圧縮強度は、上記の方法により測定した。なお、圧縮強度試験用の試験体は、吹付け法により作製した。
【0096】
速硬性モルタル組成物の温度特性を確認するために、JIS15打フロー、凝結時間、圧縮強度の各物性の測定を5℃、20℃、35℃の環境温度下で行った。その結果を表6に示す。
また、速硬性モルタル組成物の保存特性を確認するために、速硬性モルタル組成物を実施例1と同様にして、温度30℃、湿度80%RHの室内に、3ヶ月、6ヶ月それぞれ保存した。そして、保存後の速硬性モルタル組成物について、モルタルを調製し、JIS15打フロー、凝結時間、圧縮強度の各物性を測定した。このときの各物性の測定は20℃の環境温度下で行った。その結果を表7に示す。
【0097】
【表6】
【0098】
【表7】
【0099】
表6の結果から、実施例3、4の速硬性モルタル組成物は、比較例2の速硬性モルタル組成物と比較して、環境温度によるJIS15打フロー、凝結時間、圧縮強度の変動が小さく、温度安定性に優れていることが確認された。特に、硫酸ナトリウムを含む実施例4の速硬性モルタル組成物は、JIS15打フローが大きく、流動性が優れていることが確認された。
また、表7の結果から、実施例3、4の速硬性モルタル組成物は、比較例2の速硬性モルタル組成物と比較して、保存によるJIS15打フロー、凝結時間、圧縮強度の変動が小さく、保存安定性に優れていることが確認された。
【0100】
[実施例5、6および比較例3]
速硬性混和材(SA−1、SA−2、SA−3)、早強ポルトランドセメント(H)、凝結調整剤高濃度含有混合物(Set−1、Set−3)、凝結調整剤混合物(Set−2)、細骨材(S3−6)、減水材(MX)および消泡剤(14HP)を下記の表8に記載の質量部にて、混合機に投入し、乾式混合して、速硬性モルタル組成物(プレパックド工法用速硬性断面修復材)を製造した。
【0101】
【表8】
【0102】
得られた速硬性モルタル組成物100質量部に水を22質量部加え、強制練りコンクリートミキサーで2分間練り混ぜてモルタルを調製した。調製したモルタルを用いて、J
14ロート流下時間、凝結時間、圧縮強度の各物性を測定した。
J
14ロート流下時間は、土木学会規準JSCE−F 541「充てんモルタルの流動性試験方法」に準拠して測定した。
凝結時間および圧縮強度は、上記の方法により測定した。
【0103】
速硬性モルタル組成物の温度特性を確認するために、J
14ロート流下時間、凝結時間、圧縮強度の各物性の測定を5℃、20℃、35℃の環境温度下で行った。その結果を表9に示す。
また、速硬性モルタル組成物の保存特性を確認するために、速硬性モルタル組成物を実施例1と同様にして、温度30℃、湿度80%RHの室内に、3ヶ月、6ヶ月それぞれ保存した。そして、保存後の速硬性モルタル組成物について、モルタルを調製し、J
14ロート流下時間、凝結時間、圧縮強度の各物性を測定した。このときの各物性の測定は20℃の環境温度下で行った。その結果を表10に示す。
【0104】
【表9】
【0105】
【表10】
【0106】
表9の結果から、実施例5、6の速硬性モルタル組成物は、比較例3の速硬性モルタル組成物と比較して、環境温度によるJ
14ロート流下時間、凝結時間、圧縮強度の変動が小さく、温度安定性に優れていることが確認された。特に、硫酸ナトリウムを含む実施例6の速硬性モルタル組成物は、J
14ロート流下時間が短く、流動性が優れていることが確認された。
また、表10の結果から、実施例5、6の速硬性モルタル組成物は、比較例3の速硬性モルタル組成物と比較して、保存によるJ
14ロート流下時間、凝結時間、圧縮強度の変動が小さく、保存安定性に優れていることが確認された。
【0107】
[実施例7〜11]
実施例1の速硬性モルタル組成物に、短繊維としてPVA短繊維(繊維径:26μm、繊維長:3mm)を、速硬性モルタル組成物の全体量に対する含有量がそれぞれ0.05質量%(実施例7)、0.1質量%(実施例8)、0.5質量%(実施例9)、1.0質量%(実施例10)、3.0質量%(実施例11)となる量にてそれぞれ添加し、混合して、実施例7〜11の短繊維含有速硬性モルタル組成物を調製した。
得られた短繊維含有速硬性モルタル組成物100質量部に水15質量部を加え、実施例1と同様にしてモルタルを調製した。得られたモルタルについて、JIS静置フローを測定した。
また、得られたモルタルを用いて作製した供試体に対して、200万回の繰返し疲労試験を行った。疲労試験は、旧JSTM C 7104:1999「繰返し圧縮応力によるコンクリートの疲労試験方法」に準拠した方法により行った。疲労試験の水準は、静的圧縮強度:50N/mm
2、上限応力比:65%、下限応力比:10%、繰返し速度:10Hzとし、供試体の寸法はφ50×100mmとした。その結果を、下記の表11に示す。
【0108】
【表11】
【0109】
表11の結果から、PVA短繊維を含む速硬性モルタル組成物を用いて作製した供試体(硬化体)の圧縮疲労耐久性は、短繊維の添加量が0.05質量%の場合でも大きく向上し、特に短繊維の添加量が0.1質量%以上になると格段に向上して、繰返し回数が200万回でも供試体の状況は健全となることが確認された。
【0110】
[実施例12〜17]
実施例3の速硬性モルタル組成物に、再乳化粉末樹脂(P)を速硬性モルタル組成物の全体量に対する含有量がそれぞれ0.5質量%(実施例12)、1.0質量%(実施例13)、2.0質量%(実施例14)、5.0質量%(実施例15)、10.0質量%(実施例16)、15.0質量%(実施例17)となる量にてそれぞれ添加し、混合して、実施例12〜17の再乳化粉末樹脂含有速硬性モルタル組成物を調製した。
得られた再乳化粉末樹脂含有速硬性モルタル組成物100質量部に水13質量部を加え、実施例3と同様にしてモルタルを調製した。得られたモルタルについて、JIS15打フローを測定した。
また、得られたモルタルを、ウオータジェットで目粗し処理を施したコンクリート平板の表面に、乾式吹き付け工法に塗布した。塗布したモルタルを、材齢28日まで封かん養生して硬化させた。得られたモルタルの硬化体の圧縮強度、および硬化体とコンクリート平板の付着強度を測定した。その結果を、下記の表12に示す。なお、圧縮強度は上記の方法により測定し、付着強度は建研式付着性試験機を用いて測定した。
【0111】
【表12】
【0112】
表12の結果から、再乳化粉末樹脂含有速硬性モルタル組成物を用いて作製した硬化体はコンクリート平板との付着強度が向上し、特に再乳化粉末樹脂の含有量が1.0質量%以上の再乳化粉末樹脂含有速硬性モルタル組成物を用いて作製した硬化体はコンクリート平板との付着強度が1.5N/mm
2以上となることが確認された。
【0113】
[実施例18〜21]
実施例5の速硬性モルタル組成物に、シリカフューム(SF)を速硬性モルタル組成物の全体量に対する含有量がそれぞれ1.0質量%(実施例18)、5.0質量%(実施例19)、10.0質量%(実施例20)、15.0質量%(実施例21)となる量にてそれぞれ添加し、混合して実施例18〜21のシリカフューム含有速硬性モルタル組成物を作製した。
得られたシリカフューム含有速硬性モルタル組成物100質量部に水を22質量部加え、実施例5と同様にしてモルタルを調製した。得られたモルタルを100×100×400mmの型枠に流し込み、試験体を作製した。作製した試験体の中性化深さ、塩化物イオン拡散係数、総細孔量を下記の方法により測定した。その結果を、表13に示す。
【0114】
(中性化深さの測定方法)
JIS A 1153「コンクリートの促進中性化試験方法」に準拠し、CO
2濃度5%の促進試験を実施して測定した。
(塩化物イオン拡散係数の測定方法)
土木学会規準 JSCE−G 572「浸漬によるコンクリート中の塩化物イオンの見掛けの拡散係数試験方法」に準拠して測定した。
(総細孔量の測定方法)
水銀圧入式ポロシメーターにより測定した。
【0115】
【表13】
【0116】
表13の結果から、シリカフューム含有速硬性モルタル組成物を用いて作製した試験体(硬化体)は総細孔量が減少し、これにより中性化の進行や塩化物イオンの拡散の進行が抑制されることが確認された。
【0117】
[実施例22、23]
実施例1の速硬性モルタル組成物に、合成ポリマー系増粘保水剤(Ad)を速硬性断面修復材の全体量に対する含有量がそれぞれ0.1質量%(実施例22)、0.3質量%(実施例23)となる量にてそれぞれ添加し、混合して実施例22、23の増粘保水剤含有速硬性モルタル組成物を作製した。
得られた合成ポリマー系増粘保水剤含有速硬性モルタル組成物100質量部に水を15質量部加え、実施例1と同様にしてモルタルを調製した。得られたモルタルを用いて、凍結融解試験を実施した。試験方法は、JIS A 1145 「コンクリートの凍結融解試験方法」に準拠して300サイクルまで行い、相対動弾性係数を測定した。その結果を、
図3に示す。
【0118】
図3の結果から、合成ポリマー系増粘保水剤含有速硬性モルタル組成物を用いて作製したコンクリートは、その増粘保水剤の添加量が0.1質量%〜0.3質量%と少量であっても凍結融解抵抗性が格段に向上し、300サイクル凍結融解の繰返した後でも、相対動弾性係数80%以上を維持することが確認された。
【0119】
[実施例24、25および比較例4]
速硬性混和材(SA−1、SA−2、SA−3)、普通ポルトランドセメント(N)、凝結調整剤高濃度含有混合物(Set−1、Set−3)、凝結調整剤混合物(Set−2)、細骨材(S)、再乳化粉末樹脂(P)および消泡剤(14HP)を下記の表14に示す割合(質量部)にて混合機に投入し、乾式混合して、速硬性モルタル組成物を製造した。
【0120】
【表14】
【0121】
得られた速硬性モルタル組成物100質量部に水50質量部を加え、ハンドミキサーで2分間練り混ぜて、セメントミルクを調製した。調製したセメントミルクを用いて、Pロート流下時間、凝結時間、圧縮強度の各物性を測定した。なお、Pロート流下時間の測定は次のようにして行った。凝結時間および圧縮強度は、上記の方法により測定した。
Pロート流下時間は、土木学会規準JSCE−F 521「プレパックドコンクリートの注入モルタルの流動性試験方法(P漏斗による方法)」に準拠して測定した。
【0122】
速硬性モルタル組成物の温度特性を確認するために、Pロート流下時間、凝結時間、圧縮強度の各物性の測定を5℃、20℃、35℃の環境温度下で行った。その結果を表15に示す。
また、速硬性モルタル組成物の保存特性を確認するために、速硬性モルタル組成物を実施例1と同様にして、温度30℃、湿度80%RHの室内に、3ヶ月、6ヶ月それぞれ保存した。そして、保存後の速硬性モルタル組成物について、セメントミルクを調製し、Pロート流下時間、凝結時間、圧縮強度の各物性を測定した。なお、このときの各物性の測定は20℃の環境温度下で行った。その結果を表16に示す。
【0123】
【表15】
【0124】
【表16】
【0125】
表15の結果から、実施例24、25の速硬性モルタル組成物は、比較例4の速硬性モルタル組成物と比較して、環境温度によるPロート流下時間、凝結時間、圧縮強度の変動が小さく、温度安定性に優れていることが確認された。特に、硫酸ナトリウムを含む実施例25の速硬性モルタル組成物は、Pロート流下時間が短く、流動性が優れていることが確認された。
また、表16の結果から、実施例24、25の速硬性モルタル組成物は、比較例2の速硬性モルタル組成物と比較して、保存によるPロート流下時間、凝結時間、圧縮強度の変動が小さく、保存安定性に優れていることが確認された。
【0126】
[実施例26〜31]
実施例24の速硬性モルタル組成物に、再乳化粉末樹脂(P)を、速硬性モルタル組成物の全体量に対する含有量がそれぞれ0.5質量%(実施例26)、1.0質量%(実施例27)、2.0質量%(実施例28)、5.0質量%(実施例29)、10.0質量%(実施例30)、30.0質量%(実施例31)となる量にてそれぞれ添加し、混合して、再乳化粉末樹脂含有速硬性モルタル組成物を製造した。
【0127】
得られた再乳化粉末樹脂含有速硬性モルタル組成物100質量部に水45質量部を加え、ハンドミキサーで2分間練り混ぜて、セメントミルクを調製した。調製したセメントミルクを用いて、Pロート流下時間、材齢7日の圧縮強度を測定した。その結果を、表17に示す。
また、調製したセメントミルクを空隙率22%の開粒度アスファルト母体(100×200×厚さ100mm)に注入し、20℃の温度で7日間養生して半たわみ性舗装体を作成した。得られた半たわみ舗装体を水に浸漬し、−20℃×6時間と+20℃×6時間の凍結融解サイクルを200サイクル繰返し、舗装体の外観を観察した。その結果を、表17に示す。
【0128】
【表17】
【0129】
表17の結果から、再乳化粉末樹脂の添加量が0.5質量%に満たない試験体は、凍結融解繰返しにより硬化体がスケーリングにより脱落する現象が認められた。一方、再乳化粉末樹脂添加量が2.0質量%以上では硬化体の脱落は認められず、再乳化粉末樹脂の添加により硬化体の凍結融解抵抗性が向上することが確認された。
【0130】
[実施例32〜36]
実施例24の速硬性モルタル組成物に、防凍剤(CN)を速硬性モルタル組成物の全体量に対する含有量がそれぞれ1.0質量%(実施例32)、2.0質量%(実施例33)、3.0質量%(実施例34)、5.0質量%(実施例35)、10.0質量%(実施例36)となる量にてそれぞれ添加し、混合して、防凍剤含有速硬性モルタル組成物を製造した。
【0131】
得られた防凍剤含有速硬性モルタル組成物100質量部に、水温5℃の水45質量部を加え、−5℃の温度環境下で、ハンドミキサーで2分間練り混ぜて、グラウトを調製した。
得られたグラウトを、3個の円筒状容器(内径φ50×高さ100mm)にそれぞれ注入した。この円筒状容器3個を、内寸200mm150×150mmの発泡スチロール製の断熱容器に入れ、−5℃の温度環境下で3時間養生して硬化体を作製した。得られた材齢3時間の硬化体3個の圧縮強度をそれぞれ測定し、その平均を求めた。その結果を表18に示す。
【0132】
【表18】
【0133】
表18の結果から、防凍剤含有速硬性モルタル組成物は、−5℃の温度環境下においても硬化体の生成が可能となることが確認された。
【課題】環境温度による凝結始発時間の変動が小さく、長期間保存しても凝結始発時間の変動が小さく、水を加えてから硬化反応が進行するまでの間の流動性が高く、かつ初期強度発現性に優れる速硬性モルタル組成物を提供する。
【解決手段】速硬性混和材とセメントと細骨材を含み、前記速硬性混和材100質量部に対して、前記セメントを100質量部以上2000質量部以下の範囲の量にて含有し、前記速硬性混和材が、カルシウムアルミネートと、前記カルシウムアルミネート100質量部に対して50質量部以上200質量部以下の範囲の量の無機硫酸塩と、前記カルシウムアルミネート100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下の範囲の量の凝結調整剤とを含む組成物であって、前記カルシウムアルミネートの平均粒子径が8μm以上100μm以下の範囲にあり、前記凝結調整剤の平均粒子径が5μm以下である速硬性モルタル組成物。